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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1357679
異議申立番号 異議2018-700347  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-25 
確定日 2019-11-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6219836号発明「耐酸性ツーピースハードカプセル用の耐酸性バンディング溶液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6219836号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?9]について訂正することを認める。 特許第6210584号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6219836号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成24年11月8日(パリ条約による優先権主張 2011年 11月9日 (US)アメリカ合衆国、2011年 12月19日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成29年10月6日にその特許権の設定登録がされ、平成29年10月25日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 4月26日受付(平成30年4月25日付け):特許異議申立人水野智之による特許異議の申立
平成30年 9月26日付け:取消理由通知
平成30年12月27日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年 2月22日:特許異議申立人水野智之による意見書の提出
平成31年 4月 5日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 1年 7月 9日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年 9月 9日:特許異議申立人水野智之による意見書の提出


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和1年7月9日になされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の訂正事項(1)?(5)のとおりである。
(1)[請求項1?9に対して] 請求項1に係る「ポリビニル誘導体」及び「耐酸性ヒドロキシプロピルメチロース(HPMC)ハードカプセル」を、「ポリビニルアセテートフタレート」及び「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」に訂正する。
(2)請求項7に係る「耐酸性ハードカプセル」を、「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」に訂正する。
(3)[請求項8?9に対して] 請求項8に係る「耐酸性ハードカプセル」を、「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」に訂正する。
(4)明細書段落【0037】の記載を削除する。
(5)明細書段落【0047】の
「以下の非限定的な実施例は、本開示を明らかにするために提供するのであって、本特許請求の範囲を限定しようとするものではない。バンディングの実施例に用いた耐酸性カプセルは、CAPSUGEL^((R))からの自然の透明な(N.T.)サイズ0のDRcaps^(TM)カプセル(HPMC)であるが、どのような耐酸性カプセルを用いてもよい。本開示によるバンディング溶液および方法は、あらゆるサイズのDRcaps^(TM)カプセルまたはあらゆるサイズの他の耐酸性ツーピースカプセルに適用することができる。本開示のバンディング溶液は、耐酸性の性能を有するあらゆるツーピースハードカプセルに適用することができ、例えば、限定されるわけではないが、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)から、または酢酸フタル酸セルロースCAP)から作った腸溶カプセルを、本開示によるバンディング溶液および方法を用いてバンディングしてもよい。」という記載を、
「以下の非限定的な実施例は、本開示を明らかにするために提供するのであって、本特許請求の範囲を限定しようとするものではない。バンディングの実施例に用いた耐酸性カプセルは、CAPSUGEL^((R))からの自然の透明な(N.T.)サイズ0のDRcaps^(TM)カプセル(HPMC)である。本開示によるバンディング溶液および方法は、あらゆるサイズのDRcaps^(TM)カプセルに適用することができる。」に訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1?9〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1?9〕について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項(1)について
ア 請求項1に係る「ポリビニル誘導体」は「ポリビニルアセテートフタレート」の上位概念であり、「ポリビニル誘導体」を「ポリビニルアセテートフタレート」に変更する訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
次に、本件特許出願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0025】には、「特に明記しない限り、『ポリビニル誘導体』には、PVAPとも呼ばれているポリビニルアセテートフタレート(polyvinyl acetate phthalate)が含まれるが、これに限定されるわけではない。」と記載されており、「ポリビニル誘導体」の具体例として「ポリビニルアセテートフタレート」が挙げられている。
このように、「ポリビニル誘導体」として「ポリビニルアセテートフタレート」を用いてなる発明は、明細書に記載されていることから、(1)の訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ また、「耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)ハードカプセル」は「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」の上位概念であるから、「耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)ハードカプセル」を「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」に変更する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
次に、明細書等の発明の詳細な説明の段落【0008】には、「最近になって、本質的に耐酸性HPMCハードカプセルが開発され、CAPSUGEL^((R))によるDRCAPS^(TM)カプセルの名称で販売されている。このカプセルは、耐酸性HPMC方式で作られる。その結果、カプセルシェル自体が耐酸性であり、耐酸性を達成するための充填後処理を必要としない。」と記載されていることから、当該訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項(2)及び(3)について
上記(1)イと同様の理由から、「耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)ハードカプセル」を「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」に訂正することは、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項(4)及び(5)について
発明の詳細な説明の段落【0037】の記載、及び、段落【0047】の「どのような耐酸性カプセルを用いてもよい」等のCAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル以外のカプセルに関する記載の削除は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、請求項1?9は特許異議の申立てがされた請求項であるから、その訂正に特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。
なお、平成30年12月27日にされた訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?9に係る発明(以下、「本件発明1?9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ツーピースハードカプセルのカプセル部分の間に耐酸性シールを提供するためにハードカプセルをバンディングする方法であって、該方法はバンディング組成物を前記カプセル部分上にバンドとして適用することを含み、
ここで該バンディング組成物が、少なくとも1つの耐酸性ポリマー、少なくとも1つのアルカリ化合物および水を含み、ここにおいて、該耐酸性ポリマーが、メタクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸トリメリト酸セルロース(CAT)、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、ポリビニルアセテートフタレート、およびそれらの混合物からなる群から選択され;かつ、該少なくとも1つのアルカリ化合物が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化アンモニウム、アンモニア、およびそれらの混合物からなる群から選択され、
ここで前記カプセルが、ディップ成形または射出成形された、CAPSUGEL^((R))によるDRcapsTMカプセルからなり、
さらにここで、バンディング組成物を室温でカプセルに適用することを特徴とする上記方法。
【請求項2】
前記組成物が、室温で50cPから10,000まで、好ましくは100cPから5000cPまで、より好ましくは1500cPから3100cPまでの粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの耐酸性ポリマーがフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)であり、かつ前記少なくとも1つのアルカリ化合物がアンモニアである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの耐酸性ポリマーが酢酸フタル酸セルロース(CAP)であり、かつ前記少なくとも1つのアルカリ化合物がアンモニアである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの耐酸性ポリマーが酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)であり、かつ前記少なくとも1つのアルカリ化合物がアンモニアである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記バンディング組成物が少なくとも1つの薬学的に許容されるまたは食品に許容される可塑剤および/または着色剤を更に含む、前記請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ヒトまたは動物への少なくとも1つの医薬、獣医製品、食品および栄養補助食品の経口投与に使用するための請求項1?6のいずれか1項で定義されるバンディング組成物の耐酸性バンドを含むCAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル。
【請求項8】
望ましいバンディング組成物量を決定すること;
必要なバンディング組成物を測定すること;およびバンディング組成物をCAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセルに適用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記バンディング組成物が少なくとも1つの薬学的に許容されるまたは食品に許容される可塑剤および/または着色剤を更に含む、請求項8に記載の方法。」


第4 取消理由(決定の予告)の概要
訂正前の請求項1?9に係る特許に対して、当審が平成31年4月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

取消理由1 請求項1?9に係る発明は、引用文献3に記載された発明及び周知技術(甲第7号証及び引用文献4参照)に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。
よって、請求項1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

取消理由2 請求項1?9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記(c)の点で同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(c)請求項1の「耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)ハードカプセル」とはいかなるものか不明なため、本件発明1?9は明確でない。

引 用 文 献 等 一 覧
引用文献3:特開2010-202550(原審の拒絶理由で引用文献3として引用されたもの、甲第9号証)
甲第7号証:繊維と工業 vol.52 no.11 p.452-455 (1996)(周知技術を示すための文献)
引用文献4:特開平8-245423号公報(周知技術を示すための文献)


第5 当審の判断
当審は、上記取消理由について、以下のとおり判断する。
1 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)本件発明1?9について
訂正により、本件発明1において、耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)ハードカプセルが「CAPSUGEL^((R))によるDRCAPS^(TM)カプセル」であることが特定された。
「CAPSUGEL^((R))によるDRCAPS^(TM)カプセル」について、本件特許明細書の段落【0008】及び【0013】?【0014】には、以下の記載がなされている。
「【0008】
最近になって、本質的に耐酸性HPMCハードカプセルが開発され、CAPSUGEL^((R))によるDRCAPS^(TM)カプセルの名称で販売されている。このカプセルは、耐酸性HPMC方式で作られる。その結果、カプセルシェル自体が耐酸性であり、耐酸性を達成するための充填後処理を必要としない。」
「【0013】
さらにまた、耐酸性カプセル、および例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)DRCAPS^(TM)(CAPSUGEL^((R)))カプセルのようなヒプロメロースカプセルの開発には、バンディングされたカプセルの耐酸性を保証するためにバンディング溶液の組成物をポリマーの性質に適合させる必要性が生じる。例えば、特許文献19;特許文献20を参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
(中略)
【特許文献19】WO2007/020529
【特許文献20】WO2011/036601」

特許権者は、令和1年7月9日提出の意見書において、「CAPSUGEL^((R))によるDRCAPS^(TM)カプセル」は、同カプセルについて説明する本件明細書の段落【0013】において参照される特許文献20であるWO2011/036601(甲第6号証(特許第5777625号公報)に対応する国際公開)に開示されたカプセル(表1参照)であり、セルロース誘導体としては「ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)」だけを含むものであり、このことは異議申立人が提示した甲第4号証(LWT-Food Science and Technology 60 p.544-551 (2015))及び甲第5号証(http://www.jigsawhealth.com/content/dr-capsules-from-capsugel-presentation.pdf)からも明らかであると主張する。

甲第6号証の表1には、ジェランガム、HPMC及び脱イオン水からなる医薬用硬カプセルシェルが記載されている。また、甲第4号証及び甲第5号証は、本件特許の出願後に公開された文献ではあるが、甲第4号証のp.549左欄第2?4行に「DRcaps^(TM)はヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)とゲル化剤からなり、消化管中の酸に感受性のある成分を保護する効果が高いことが知られてきた」(訳は、特許異議申立人によるもの)と記載され、甲第5号証にも「DRcapsとは? 定義:カプスゲル社のVcapsRカプセルと類似のものであり、pH1.2と定性的組成の下で、硬質HPMCカプセルの崩壊を遅らせるように設計されたもの。DRcapsは以下の成分で調合される:
・HPMC(ヒプロメロース-ヒドロキシプロピルメチルセルロース)
・ゲル化剤(ジェランガム)
・水」(訳は、特許異議申立人によるもの)と記載されている。

これらの主張および記載からみて、「CAPSUGEL^((R))によるDRCAPS^(TM)カプセル」は、ジェランガム、HPMC及び脱イオン水からなる耐酸性カプセルであると認められ、本件請求項1?9に係る特許は明確である。

2 取消理由1(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献3(特開2010-202550(原審の拒絶理由で引用文献3として引用されたもの、甲第9号証)の記載及び引用発明3
引用文献3には、以下の記載がなされている。
ア 「【請求項1】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびジェランガムを含有するフィルムからなる腸溶性カプセルであって、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部あたりヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またヒドロキシプロピルセルロースの割合が55重量部より少なく20重量部より多く、且つヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0より多く11重量部より少ないことを特徴とする腸溶性カプセル。
(中略)
【請求項5】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびジェランガムを含むカプセル調製液であって、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部あたりヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またヒドロキシプロピルセルロースの割合が55重量部より少なく20重量部より多く、且つヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0より多く11重量部より少ないカプセル調製液に、カプセル成型用ピンを浸漬して引き上げ、当該成型用ピンに付着した上記カプセル調製液を乾燥固化し、これを成型ピンから脱離回収する工程を有する、請求項1乃至4のいずれかに記載する腸溶性カプセルの調製方法。」

イ 「【0013】
本発明の腸溶性カプセルは、耐酸性を備え胃液と同等の酸性溶液中では難溶性である一方で、腸環境と同等の中性?弱アルカリ性溶液中では易溶性である。また当該腸溶性カプセルの調製液であるカプセル調製液は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびジェランガムを特定の割合で含有することにより、従来の浸漬法を用いて、簡便にゲル化成形性よく硬質カプセルを調製することができる。」

ウ 「【0060】
II.腸溶性カプセル製剤およびその調製方法
斯くして調製される硬質カプセルのボディ部とキャップ部は、前述する内容物をボディ部に充填したのち、該ボディ部にキャップ部を被覆して両者を嵌合させることによりボディ部とキャップ部を接合させることによって硬質カプセル剤として提供することができる。」

エ 「【0061】
なお本発明の硬質カプセル剤には、上記で調製された硬質カプセルのボディ部とキャップ部の嵌合部に、バンドシールを付したものも含まれる。かかる硬質カプセル剤は、上記ボディ部とキャップ部を接合させた後、キャップ部の端縁部を中心として、それを跨ぐように一定幅でボディ部の表面とキャップ部の表面に、その円周方向に、バンドシール調製液を1回?複数回、好ましくは1?2回塗布して嵌合部を封緘することによって、調製することができる。
【0062】
硬質カプセルのボディ部とキャップ部の両者を嵌合させる際に、ボディ部の外周とキャップ部の内周とが重なっている嵌合巾はカプセルの軸線方向の距離で、3号カプセルについては約4.5?6.5mm、4号カプセルについては約4?6mmが一般的に好ましい。また、封緘(シール)巾は、3号カプセルで約1.5?3mm、4号カプセルで約1.5?2.8mmが一般的に好ましい。
【0063】
本発明の硬質カプセル剤のバンドシール形成には、腸溶性を有するフィルムを形成する溶液であれば制限はされないが、前述する腸溶性カプセルの調製に使用するカプセル調製液と同様の組成からなるバンドシール調製液を用いることができる。」

オ 「【0068】
カプセル封緘時、バンドシール調製液は、一般に室温あるいは加温下で使用することができる。硬質カプセルの液漏れ防止という観点から、好ましくは約23?45℃、さらに好ましくは約23?35℃、最も好ましくは約25?35℃の温度範囲内にあるシール調製液を用いることが望ましい。なお、シール調製液の温度調節は、パネルヒーター、温水ヒーター等のそれ自体公知の方法で実施することができるが、例えば循環式温水ヒーターあるいは前記一体型カプセル充填シール機のシールパンユニットを循環式温水ヒーター型に改造したもの等で調節するのが、温度幅が微妙に調節できるので好ましい。」

上記ウの記載からみて、アに記載のカプセルは、ボディ部とキャップ部を有する硬質カプセルであると認められ、上記ア及びエより、引用文献3には、
「ヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部あたりヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またヒドロキシプロピルセルロースの割合が55重量部より少なく20重量部より多く、且つヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0より多く11重量部より少ないカプセル調製液に、カプセル成型用ピンを浸漬して引き上げ、当該成型用ピンに付着した上記カプセル調製液を乾燥固化し、これを成型ピンから脱離回収することにより調製された腸溶性カプセルであって、ボディ部とキャップ部を有する硬質カプセルであり、ボディ部とキャップ部の嵌合部に、バンドシール調製液を1回?複数回、好ましくは1?2回塗布して嵌合部を封緘することによってバンドシールを付す方法。」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認める。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と引用発明3との対比
本件発明1と引用発明3を対比すると、引用発明3の「ボディ部とキャップ部を有する硬質カプセル」、「ボディ部とキャップ部の嵌合部に、バンドシール調製液を1回?複数回、好ましくは1?2回塗布して嵌合部を封緘することによってバンドシールを付す」及び「浸漬」は、それぞれ、本件発明1の「ツーピースハードカプセル」、「カプセル部分の間にシールを提供するためにハードカプセルをバンディングする方法であって、該方法はバンディング組成物を前記カプセル部分上にバンドとして適用することを含み」及び「ディップ」に相当し、両者は「ツーピースハードカプセルのカプセル部分の間にシールを提供するためにハードカプセルをバンディングする方法であって、該方法はバンディング組成物を前記カプセル部分上にバンドとして適用することを含み、
ここで前記カプセルが、ディップ成形または射出成形されたカプセルからなる方法」の点で一致するものであり、
相違点1 本件発明1は、バンディングする方法が、少なくとも1つの耐酸性ポリマー、少なくとも1つのアルカリ化合物および水を含み、ここにおいて、該耐酸性ポリマーが、メタクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸トリメリト酸セルロース(CAT)、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、ポリビニルアセテートフタレート、およびそれらの混合物からなる群から選択され;かつ、該少なくとも1つのアルカリ化合物が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化アンモニウム、アンモニア、およびそれらの混合物からなる群から選択されるバンディング組成物を室温でカプセルに適用する工程を含んでおり、提供されるシールが耐酸性であることが特定されているのに対して、引用発明3ではそのような特定はなされていない点、及び、
相違点2 カプセルが、本件発明1では「CAPSUGEL^((R))によるDRCAPS^(TM)カプセル」であるのに対して、引用発明3では「ヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部あたりヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またヒドロキシプロピルセルロースの割合が55重量部より少なく20重量部より多く、且つヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0より多く11重量部より少ないカプセル調製液に、カプセル成型用ピンを浸漬して引き上げ、当該成型用ピンに付着した上記カプセル調製液を乾燥固化し、これを成型ピンから脱離回収することにより調製された腸溶性カプセル」である点
で相違するものである。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用文献3には、上記第5 2(1)エに記載のとおり、硬質カプセル剤のバンドシール形成に、腸溶性を有するフィルムを形成する溶液を用いること、及び、上記オに記載のとおり、バンドシール調製液は、一般に室温あるいは加温下で使用できることが記載されている。
「腸溶性」の物質が「耐酸性」を有することは、上記第5 2(1)イにもあるように、当該分野における技術常識である。
ここで、腸溶性を有するフィルムすなわち薄膜を形成する溶液として、セルロースアセテートフタレート(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)等の腸溶性被覆剤を、アルカリ水に溶解したものや、アンモニアを含む水に溶解して用いることは、当該分野における周知技術であり(要すれば、甲第7号証(繊維と工業 vol.52 no.11 p.452-455 (1996))の表1、第454頁左欄「4.水系コーティング技術の開発」参照)、甲第7号証には溶液を加熱する工程の記載がないように、そのような溶液を室温下で用いることもまた、当該分野における周知技術である(要すれば、引用文献4(特開平8-245423号公報)の実施例1等参照)。
してみれば、引用発明3において、バンドシール調製液として、上記周知の腸溶性を有するフィルムすなわち薄膜を形成する溶液を用いて、室温下でバンディングし、シールを腸溶性すなわち耐酸性とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(イ)相違点2について
引用発明3の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部あたりヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またヒドロキシプロピルセルロースの割合が55重量部より少なく20重量部より多く、且つヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0より多く11重量部より少ないカプセル調製液に、カプセル成型用ピンを浸漬して引き上げ、当該成型用ピンに付着した上記カプセル調製液を乾燥固化し、これを成型ピンから脱離回収することにより調製された腸溶性カプセル」にかえて、「CAPSUGEL^((R))によるDRCAPS^(TM)カプセル」を用いることは、いずれの文献においても記載も示唆もされておらず、当業者が容易に想到しえるものとはいえない。

ウ 小括
以上、ア及びイに示したとおり、本件発明1は、引用発明3、引用文献3の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1のすべての発明特定事項を含み、さらに組成物が、室温で50cPから10,000まで、好ましくは100cPから5000cPまで、より好ましくは1500cPから3100cPまでの粘度を有することを発明特定事項として加えたものである。
したがって、(2)ア及びイに示したとおり、少なくとも相違点2について当業者が容易に想到するものとはいえない以上、本件発明2は、当業者が引用発明3、引用文献3の記載及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明3?5について
本件発明3、4または5は、本件発明1のすべての発明特定事項を含み、さらに、少なくとも1つのアルカリ化合物がアンモニアであり、少なくとも1つの耐酸性ポリマーが、それぞれ、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、セルロースアセテートフタレート(CAP)またはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)であることを特定したものである。
したがって、(2)ア及びイに示したとおり、少なくとも相違点2について当業者が容易に想到するものとはいえない以上、本件発明3?5は、当業者が引用発明3、引用文献3の記載及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1のすべての発明特定事項を含み、さらにバンディング組成物が少なくとも1つの薬学的に許容されるまたは食品に許容される可塑剤および/または着色剤を更に含むことを発明特定事項として加えたものである。
したがって、(2)ア及びイに示したとおり、少なくとも相違点2について当業者が容易に想到するものとはいえない以上、本件発明6は、当業者が引用発明3、引用文献3の記載及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明7について
本件発明7は、ヒトまたは動物の少なくとも1つの医薬、獣医製品、食品および栄養補助食品の傾向投与に使用するための請求項1?6のいずれか1項で定義されるバンディング組成物の耐酸性バンドを含むCAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセルに係る発明である。
本件発明7と引用発明3を対比すると、両者は、「ディップ成形または射出成形されたツーピースハードカプセルのカプセル部分の間にシールが提供されたことを特徴とする、バンディングされたハードカプセル」の点で一致するものであり、
本件発明7はカプセルが「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」であるのに対して、引用発明3は「ヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部あたりヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またヒドロキシプロピルセルロースの割合が55重量部より少なく20重量部より多く、且つヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0より多く11重量部より少ないカプセル調製液に、カプセル成型用ピンを浸漬して引き上げ、当該成型用ピンに付着した上記カプセル調製液を乾燥固化し、これを成型ピンから脱離回収することにより調製された腸溶性カプセル」であるという点で少なくとも相違するものである。
すると、少なくとも(2)ア及びイ(イ)と同様の理由から、本件発明7は、当業者が引用発明3、引用文献3の記載及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものではない。

(7)本件発明8及び9について
本件発明8は、本件発明1のすべての発明特定事項を含み、さらに、望ましいバンディング組成物量を決定すること、必要なバンディング組成物を測定すること、及び、バンディング組成物をCAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセルに適用することを発明特定事項として加えたものである。本件発明9は、本件発明8のすべての発明特定事項を含み、さらにバンディング組成物が少なくとも1つの薬学的に許容されるまたは食品に許容される可塑剤および/または着色剤を更に含むことを特定したものである。
したがって、(2)ア及びイに示したとおり、少なくとも相違点2について当業者が容易に想到するものとはいえない以上、本件発明8及び9は、当業者が引用発明3、引用文献3の記載及び周知技術に基いて、容易に発明をすることができたものではない。


第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった、特許異議申立書において異議申立人により主張された特許異議申立理由は、以下のとおりである。

1 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び請求の範囲の記載が、特許法第184の4第1項の外国語特許出願に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内にない(特許法第49条第6号違反)。
(1)本件の対応国際出願の明細書の写しである甲第1号証の段落[0027]の「?said capsules comprise telescopically engaged capsule parts?」との記載に対応する本件特許明細書の段落[0030]の「?上記カプセルが、伸縮自在に係合したカプセル部分を含み」との翻訳は、国際出願明細書に記載された範囲を超えるものである。
(2)本件の対応国際出願の明細書の写しである甲第1号証の段落[0029]の「?between the capsule parts?」との記載に対応する本件特許明細書の段落[0032]の「カプセル部分の間に」との翻訳は、国際出願明細書に記載された範囲を超えるものである。
(3)「耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)ハードカプセル」との記載は、翻訳文新規事項である。

2 特許法第36条第6項第2号違反
(1)請求項1の「ツーピースハードカプセルのカプセル部分の間」とは、どこを示しているか、当業者であっても理解できない。
(2)請求項1の「耐酸性」とは、具体的にどの程度か不明である。
(3)請求項6及び9の「可塑剤」とはいかなるものか不明である。
(4)請求項1の「ポリビニル誘導体」はいかなるものか不明である。
(5)請求項8と請求項1に記載のカプセルの関係が不明瞭である。
(6)請求項1の「耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)ハードカプセル」とは、いかなるものか不明である。

3 特許法第36条第6項第1号違反
(1)本件特許明細書実施例では、DRcaps^(TM)についてのみ検討が行われているため、本件特許明細書実施例は、本件特許発明1?9をサポートするものではない。
(2)本件特許発明が解決しようとする課題は、DRcaps^(TM)カプセルのようなヒプロメロースカプセルに適した前記カプセルの本体とキャップとの分離及び隙間を通した拡散を防止するためのバンディング方法の提供であるところ、HP-55(HPMCP)またはHPMCASをバンディングポリマーとして使用した場合、USP崩壊方法のpH1.2の媒体中に1時間浸漬したカプセルから漏出が認められており、甲第8号証及び第9号証にて記載されている耐酸性の基準を満たさない場合があるから、請求項1?9に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。
(3)実施例である程度の酸に対する耐性が示されているのは、HP-55(HPMCP)、CAP及びHPMCASを一定量以上のバンディング量で供した場合のみであり、それ以外の耐酸性ポリマーについて実施例がないから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(4)実施例で使用されるアルカリ化合物はアンモニアのみであるから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(5)明細書及び実施例には可塑剤が記載されていないため、請求項6及び9は発明の詳細な説明に記載したものでない。

4 特許法第36条第4項第1号違反
(1)「耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロース」は、いかなるものか不明なため、当業者が「耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロースハードカプセル」を入手できず、本件発明1を実施できない。

5 特許法第29条第2項(進歩性欠如)
本件発明1?9は、甲第10号証、甲第11号証、甲第12号証及び甲第7号証を組み合わせることにより、又は甲第12号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第7号証、甲第10号証を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

甲第 7号証:繊維と工業 vol.52 no.11 p.452-455 (1996)
甲第10号証:特開2006-016372号公報
甲第11号証:Pharmaceutical Capsules, SECOND EDITION, Edited by Fridrun Podczeck and Brian E Jones, Pharmaceutical Press 2004, p.182-184 (2004)
甲第12号証:特表2002-525314号公報
甲第13号証:International Journal of Pharmaceutics 231 p.83-95 (2002)

異議決定において採用しなかった各主張についての当審の判断を、以下に示す。
6 特許法第49条第6号について
(1)英語のengageには、日本語の「係合する」との意味もあることから、明細書段落[0030]の記載は、翻訳文新規事項ではない。
(2)甲第1号証の段落[0029]の「?a method for banding two piece capsules which provides an acid resistant seal between the capsule parts?」との記載に技術常識を照らし合わせれば、明細書の段落[0032]の「カプセル部分の間に」との記載は、翻訳文新規事項ではない。
(3)「耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)ハードカプセル」は「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」に訂正されたため、(3)の指摘事項は解消している。

7 特許法第36条第6項第2号について
(1)請求項1の「ツーピースハードカプセルのカプセル部分の間」がどの部分であるかは技術常識からみて明らかであるから、請求項1に係る発明は明確である。
(2)請求項1の「耐酸性」とは、本件特許明細書段落【0013】の記載や当該分野における技術常識からみて胃で溶けにくい性質を表すことは明らかであるから、請求項1に係る発明は明確である。
(3)請求項6及び9の「可塑剤」について、本件特許明細書に具体的な化合物の名称や実施例の記載がなくとも、可塑剤がいかなるものか出願時の技術常識からみて当業者にとって不明確とはいえない。
(4)「ポリビニル誘導体」は「ポリビニルアセテートフタレート」に訂正されたため、(4)の指摘事項は解消している。
(5)請求項1及び8のカプセルはいずれも「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」と訂正されたため、(5)の指摘事項は解消している。
(6)請求項1の「耐酸性ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)ハードカプセル」は「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」に訂正されたため、(6)の指摘事項は解消している。

8 特許法第36条第6項第1号について
(1)訂正により請求項1のカプセルがDRcaps^(TM)であることが特定されたため、(1)の指摘は解消している。
(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明の【表4】には、HP-55、CAPまたはHPMCASでバンディングされたカプセル全てが、バンディングなしの密閉カプセルと比較して大きな耐酸性を示したことが記載されていることからみて、請求項1?9に係る発明は本件特許発明の課題を解決するものである。
(3)実施例に記載のないHP-55(HPMCP)、CAP及びHPMCAS以外の耐酸性ポリマーについても、技術常識に照らし合わせれば本件特許発明の課題を解決するものと認められるから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものである。
(4)アンモニア以外の列挙されるアルカリ性化合物を用いた際にも、技術常識に照らし合わせれば本件特許発明の課題を解決するものと認められるから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものである。
(5)可塑剤を用いることは当該分野における周知技術であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に可塑剤に関する具体的な実施例の記載がないことをもって、請求項6及び9に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。

9 特許法第36条第4項第1号違反について
(1)請求項1においてカプセルは「CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル」であることが特定されたため、(1)の指摘は解消している。

10 進歩性欠如の主張について
甲第10号証には、HPMCPを含む腸溶性硬カプセル(以下、「引用発明10」という。)が記載され、腸溶性硬カプセルはディッピング法(浸漬成型法)に準じて製造するか、射出成形法で製造してもよいこと、及び、必要に応じてキャップ部の端縁部を中心とした一定幅でボディ部の表面とキャップ部にボディ部とキャップ部との円周方向にシールを1回?複数回、好ましくは1?2回塗布することにより嵌合部を封緘して腸溶性カプセルとすることができることも、記載されている。
すると、本件発明1と引用発明10とは、少なくとも、以下の点で相違するものである。
相違点1 本件発明1は、甲第10号証のシールに相当するバンディング組成物が、メタクリル酸コポリマー、CAP、・・から選択されるものであるのに対して、引用発明10にはそのような特定がなされていない点、及び、
相違点2 本件発明1はカプセルがCAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセルであるのに対して、引用発明10はHPMCPを含むものである点、
で相違するものである。
相違点1について、甲第10号証の段落[0042]の[図1]の説明では、「工程(4)は、嵌合された硬カプセルをシール剤で封緘する」と記載されるように、引用発明10のシール剤は封緘を目的とするものであるから、引用発明10において、シール剤として甲第12号証に記載されるような腸溶性のコーティング剤を用いることを当業者が容易に想到したとはいえない。
また、相違点2についても、甲第7号証、甲第10?13号証のいずれにも、CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセルは記載も示唆もされておらず、本件発明1は、甲第10号証、甲第11号証、甲第12号証及び甲第7号証を組み合わせることにより当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

また、甲第12号証には、「HPMCカプセルは、カプセル本体とキャップとの重複領域に充填されたのち、一般に公知のシール技術、たとえばバンド化するか、シール液及び/又は熱をカプセル本体とキャップとの間の隙間に適用することによってシールされる。・・コーティング前のこのようなシールは、カプセル内容物の胃への望ましくない早期漏出を招くおそれのある、たとえば隙間部のコーティングの不均一又は応力条件下の貯蔵中の割れ目の発生に伴う問題を予防する。」と記載されている(下線は合議体によるもの)。このように甲第12号証は、シール後に腸溶コーティングを行うものであるから、甲第12号証において、シール液を腸溶性の耐酸性ポリマーとする動機付けはない。
また、甲第12号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第7号証、甲第10号証のいずれにも、CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセルは記載も示唆もされておらず、この点からも、本件発明1は甲第12号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第7号証、甲第10号証を組み合わせることにより、容易に想到し得たものとはいえない。

上記第5 2で検討したとおり、本件発明2?6、8、9は、本件発明1の発明特定事項を含むものであり、また、本件発明7は本件発明1で定義されるバンディング組成物を含むCAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル自体に係る発明であるから、本件発明1と同様の理由から、本件発明2?9も、甲第10号証、甲第11号証、甲第12号証及び甲第7号証、又は、甲第12号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第7号証、甲第10号証を組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

以上6?10に説示したとおり、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての特許異議申立人の主張は、採用することができない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?9に係る特許を取り消すことはできず、他に本件発明1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
耐酸性ツーピースハードカプセル用の耐酸性バンディング溶液
【技術分野】
【0001】
本願は、2011年11月9日に出願の特許文献1および2011年12月19日に出願の特許文献2に対する優先権を主張する。
【0002】
本開示は、耐酸性ツーピースハードカプセル(two piece hard capsules)をバンディングするための耐酸性バンディング溶液(banding solutions)、ならびに、例えばヒトまたは動物に少なくとも1つの医薬、獣医製品、食品および栄養補助食品を経口投与するためのこのようなカプセルの使用に関する。
【0003】
ツーピースハードカプセルは、患者によって好まれる経口剤形であり、1世紀を超える間、慣用的にゼラチンから作られてきた。過去20年にわたって、代替原料、主にヒプロメロースおよびプルランを用いて、新たなタイプのハードカプセルが開発されてきた。これらのカプセルはすべて速放性であるか、または投与後に胃の中でその内容物を急速に放出するように設計されている。
【0004】
ハードカプセルに特定の機能を付与する努力が為された。最も成功した例は、遅延放出または腸内放出により、内容物を酸性条件から保護することができる胃耐性(gastric resistant)ハードカプセルである。一般に、このようなカプセルは、医薬および食品産業で利用されており、薬剤、ビタミン剤のような薬学的活性物質ならびに固形および液体の両方の他の食物を保持し、かつ胃の中の酸性条件からそれらを保護している。
【0005】
胃の酸性条件に耐性がある遅延放出カプセルは、ホルムアルデヒド処理によるゼラチン不溶化を用いて早くから開発された。例えば、非特許文献1を参照のこと。
【0006】
カプセルコーティング技術の発展により、腸溶ハードカプセル(「腸溶カプセル」)は、医薬市場においてより普及するようになった。例えば、非特許文献2を参照のこと。
【0007】
上のいずれの場合も、カプセル自体は、即放性であり、その耐酸性は、製薬会社の現場で、一般にカプセルを充填した後、カプセル剤の製造後処理によって達成される。
【0008】
最近になって、本質的に耐酸性HPMCハードカプセルが開発され、CAPSUGEL^((R))によるDRCAPS^(TM)カプセルの名称で販売されている。このカプセルは、耐酸性HPMC方式で作られる。その結果、カプセルシェル自体が耐酸性であり、耐酸性を達成するための充填後処理を必要としない。
【0009】
DRCAPS^(TM)カプセルのさらなる評価は、カプセルの2つの部分について、いくつかの条件下、例えば、in vitro溶解試験の機械的ストレス下、特に酸性条件下のin vitro崩壊試験中に本体とキャップとが分離するリスクが残ることを示している。同様に、本体とキャップとの間の隙間を通して溶解媒体が密閉カプセル中へ拡散する、かつ/または内容物がカプセルから拡散するというリスクが残る。
【0010】
その結果、in vitro溶解試験中に本体-キャップ分離および隙間を通した拡散を効果的に防止し、したがって最終的な剤形のin vivo耐酸性の性能を改善する方法を開発する必要がある。
【0011】
本体-キャップの隙間を通した漏出を低下させる多くの溶液が開発されている。例えば、ゼラチンバンディング溶液を用いてバンディングする硬ゼラチンカプセルは、貯蔵中の内容物の漏出を防止するために一般に用いられる。
【0012】
漏出を低下させる別の方法は、「シーリング液(sealing fluid)」によってカプセルのキャップと本体とを互いに直接密封することである。例えば、特許文献3;特許文献4;特許文献5、特許文献6;特許文献7;特許文献8;特許文献9;および特許文献10を参照のこと。ツーピースハードカプセルをバンディングする方法、およびバンディング用の装置は、例えば、特許文献11;特許文献12;特許文献13;特許文献14;特許文献15;特許文献16;特許文献17および特許文献18に開示されており、これらは、すべて参照により本明細書に組み込まれている。
【0013】
さらにまた、耐酸性カプセル、および例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)DRCAPS^(TM)(CAPSUGEL^((R)))カプセルのようなヒプロメロースカプセルの開発には、バンディングされたカプセルの耐酸性を保証するためにバンディング溶液の組成物をポリマーの性質に適合させる必要性が生じる。例えば、特許文献19;特許文献20を参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国仮出願第61/557,623号
【特許文献2】米国仮出願第61/577,127号
【特許文献3】U.S.3,071,513
【特許文献4】U.S.2,924,920
【特許文献5】FR2,118,883
【特許文献6】EP0152517
【特許文献7】U.S.4,756,902
【特許文献8】FR2118883
【特許文献9】EP0152517
【特許文献10】U.S.4,756,902
【特許文献11】米国特許第8,181,425号
【特許文献12】米国特許第7,229,639号
【特許文献13】米国特許第7,094,425号
【特許文献14】米国特許第5,054,208号
【特許文献15】米国特許第4,940,499号
【特許文献16】米国特許第4,922,682号
【特許文献17】米国特許第4,761,932号
【特許文献18】米国特許第4,734,149号
【特許文献19】WO2007/020529
【特許文献20】WO2011/036601
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Ridgway et al.,Hard Capsule Development & Technology,The Pharmaceutical Press,1978,p.11
【非特許文献2】Ridgway et al.,Hard Capsule Development & Technology,The Pharmaceutical Press,1978,pp.229-232
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
以前から知られているバンディングの方法は、どれも適当な耐酸性を示さず、そのためin vitro試験中に酸性媒体に溶解し、また胃の酸性条件中でも溶解する。したがって、本体とキャップとの分離および隙間を通した拡散を防止する耐酸性カプセルに使用するための安全かつ有効な方法を開発する必要がある。
【0017】
定義
本明細書に用いるように、以下の用語、成句および記号は、それらを用いる文脈が、特に明記する場合を除き、一般に、以下に記載する意味を有するものとする。
【0018】
「場合による」または「場合により」という用語は、その後に記述する事象、成分または状況が、存在してもよい、または存在しなくてもよく、かつ、この説明には、これらの事象、成分または状況が存在する場合と、存在しない場合とが包含されることを意味する。
【0019】
「約」という用語は、およそ、ほぼ、だいたい、またはその付近を意味するものとする。「約」という用語を数値範囲に関連して用いるとき、それは、記載された数値の上および下に境界を拡張することによってその範囲を変更している。特に明記しない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載された数値的パラメータは近似値であることを理解すべきである。数値的パラメータは、少なくとも、かつ特許請求の範囲と同等の原則の適用を限定しようとするものではなく、報告された有意な桁数および通常の丸め技術の適用を考慮して読みとらなければならない。
【0020】
特に明記しない限り、「酢酸フタル酸セルロース」は、CAPとも呼ばれており、ポリマーの分野では以下の別の名称により一般に知られている:CAS登録番号9004-38-0;化学一般の同義語、例えば:アセチルフタリルセルロース(acetyl phthalyl cellulose)、酢酸水素1,2-ベンゼンジカルボン酸セルロース(cellulose acetate hydrogen 1,2-benzene dicarboxylate)、酢酸水素フタル酸セルロース(cellulose acetate hydrogen phthalate)、酢酸モノフタル酸セルロース(cellulose acetate monophthalate)、アセトフタル酸セルロース(cellulose acetophthalate)、およびアセチルフタル酸セルロース(cellulose acetyl phthalate);ならびに非商標名、例えば:セラセフェート(cellacephate)(イギリス薬局方)、酢酸フタル酸セルロース(cellulose acetate phthalate)(日本薬局方)、酢酸フタル酸セルロース(cellulosi acetas phthalas)(欧州薬局方)、およびセラセフェート(cellacefate)(米国薬局方)。
【0021】
特に明記しない限り、「酢酸トリメリト酸セルロース(cellulose acetate trimellitate)」は、CATとも呼ばれている。
【0022】
特に明記しない限り、「酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropylmethylcellulose acetate succinate)」は、HPMCASとも呼ばれている。
【0023】
特に明記しない限り、「フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methylcellulose phthalate)」は、HPMCPとも呼ばれている。
【0024】
特に明記しない限り、「カルボキシメチルエチルセルロース(carboxy methyl ethyl cellulose)」は、CMECとも呼ばれている。
【0025】
特に明記しない限り、「ポリビニル誘導体」には、PVAPとも呼ばれているポリビニルアセテートフタレート(polyvinyl acetate phthalate)が含まれるが、これに限定されるわけではない。
【0026】
特に明記しない限り、「室温」という用語は、18℃?約28℃、より詳しくは約20℃?約24℃(22℃±2℃)を意味する。
【0027】
特に明記しない限り、「耐酸性ツーピースハードカプセル」という用語は、耐酸性と記述された、もしくは耐酸性配合物(acid resistant formulas)から製造された、またはカプセル製造後の適当な処理によって得られたツーピースハードカプセルのことであり、WO2011/030952、EP22236851および/またはU.S.2010/113620A1に記述されたカプセルを含むが、これらに限定されるわけではない。
【0028】
ここで、本明細書に組み込まれ、かつその一部を構成する添付の図面は、本開示の実施態様を説明しており、そして上記の一般的な説明と共に、下記の実施態様の詳細な説明は、本開示の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】pH1.2の崩壊試験である。
【図2】時間の関数としての溶解試験である。
【0030】
詳細な説明
したがって、本開示の一態様は、耐酸性ツーピースハードカプセルをバンディングするための耐酸性バンディング溶液であって、上記カプセルが、伸縮自在に係合したカプセル部分を含み、かつ密閉されているがバンディングされてないこのようなカプセルと比較して改善された耐酸性の性質が与えられている耐酸性バンディング溶液を提供する。
【0031】
別の態様において、本開示は、耐酸性ポリマー、アルカリ化合物のような少なくとも1つの中和化合物、および溶媒として水を含む耐酸性バンディング組成物を提供する。
【0032】
別の態様において、本開示は、カプセル部品の間に耐酸性シールを施し、増加したin vitro耐酸性を達成する、ツーピースカプセルをバンディングする方法を提供する。
【0033】
さらなる態様において、本開示は、耐酸性カプセル用のバンディング溶液、および耐酸性バンディング溶液を用いて耐酸性カプセルをバンディングする方法に関し、これは有機溶媒を用いることなく、かつ従来のバンディング技術および装置を利用して達成することができる。例えば、F.Podczeck and B.Jones,Pharmaceutical Capsules,2nd Ed.,Pharmaceutical Press(2004),pp.182-183を参照のこと。
【0034】
一実施態様において、少なくとも1つの耐酸性ポリマー、少なくとも1つのアルカリ化合物および水を含む、耐酸性ハードカプセルをバンディングするためのバンディング組成物および方法が提供される。
【0035】
別の実施態様において、ハードカプセル用のバンディング組成物中の少なくとも1つの耐酸性ポリマーは、メタクリル酸コポリマー(メタクリル酸とメタクリル酸メチルまたはアクリル酸エチルとのコポリマー、例えばポリ(メタクリル酸-コ-アクリル酸エチル)1:1);酢酸フタル酸セルロース(CAP);酢酸トリメリト酸セルロース(CAT);酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS);フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP);カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC);ポリビニル誘導体(例えば、ポリビニルアセテートフタレート)、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0036】
別の実施態様において、バンディング組成物の少なくとも1つのアルカリ化合物は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化アンモニウム、アンモニアおよびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。
【0037】
(削除)
【0038】
一実施態様において、バンディング組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容されるまたは食品に許容される可塑剤を場合により更に含む。
【0039】
さらなる実施態様において、本開示によるバンディング組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容されるまたは食品に許容される着色剤を更に含んでもよい。
【0040】
また、本開示は、少なくとも1つの耐酸性ポリマーを混合下で水中に分散すること;および少なくとも1つの耐酸性ポリマーが溶解するまで、穏やかな撹拌下で少なくとも1つのアルカリ化合物を徐々に加えることを含む耐酸性バンディング溶液を製造する方法を提供する。
【0041】
別の実施態様において、本開示による方法は、室温で実施するバンディング溶液の製造を提供する。別の実施態様において、本開示による方法は、室温で実施されるハードカプセルのバンディングによるバンディング溶液の使用を提供する。バンディング方法には、自動化された方法および手作業による方法がある。例えば、Capsule Filling by D.K.Lightfoot,Tablets and Capsules Magazine,CSC Publishing(January 2007)を参照のこと。
【0042】
さらなる実施態様において、耐酸性バンディング溶液を製造する方法は、粘度をハードカプセルバンディング方法に適したレベルに調整することを更に含む。耐酸性ハードカプセルバンディング溶液および方法に適した粘度の非限定的な例は、例えば、室温で約50cPから約10,000cPまで;約100cPから約5000cPまで;そして約1500cPから約3100cPまでの粘度である。望ましい粘度は、溶液の濃度を調整することによって(すなわち、水の量および/またはポリマーの量を変えることによって)得られる。
【0043】
別の実施態様において、耐酸性バンディング溶液を製造する方法は、少なくとも1つの薬学的に許容されるまたは食品に許容される可塑剤および/または少なくとも1つの薬学的に許容されるまたは食品に許容される着色剤を溶液に加えることを更に含む。
【0044】
薬学的に許容されるまたは食品に許容される着色剤の例としては、タルトラジンE102、FD&Cイエロー5D&Cイエロー10;サンセットイエローE110、FD&Cイエロー6;D&CレッドNo.22;D&CレッドNo.28;D&CレッドNo.33(酸性フシン(Acid Fushine));アルラレッドE129、FD&Cレッド40;インジゴカルミンE132、FD&Cブルー2;ブリリアントブルーFCF E133、FD&Cブルー1;カラメル、USP E150c;FD&Cグリーン3;FD&Cレッド3/エリトロシン;アゾルビン;ブリリアントブラック;銅クロロフィリン錯体または銅クロロフィリンナトリウム;ポンソー4R;パテントブルーV;キノロンイエロー;クルクミン、赤キャベツ;およびそれらの混合物を含む可溶性の染料が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。薬学的に許容されるまたは食品に許容される着色剤の他の例としては、二酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、カンドリン銀微粉(Candurinsilver fine)、およびそれらの混合物を含む顔料が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0045】
また、本開示は、少なくとも1つの耐酸性ポリマー、少なくとも1つのアルカリ化合物および水を含む耐酸性バンディング組成物を用いる、本明細書に記述された耐酸性ハードカプセルをバンディングする方法を提供する。この方法は、所望のバンディング組成物量を決定すること、必要なバンディング組成物を測定すること、およびバンディング組成物を酸抵抗性のカプセルに適用することを含む。
【0046】
また、本開示は、バンド厚または質量が低くても、例えば10mg未満、または5mg未満でも有効な耐酸性ハードカプセルの耐酸性バンディングを提供する。これらの値は、バンディング溶液の量、沈着物および濃度ならびにサイズ0のカプセルの乾燥バンド質量に対する得られる結果に基づいて計算され、より小さなカプセルでは比例することになる。バンド質量は、カプセルサイズの関数として適合させる。
【0047】
以下の非限定的な実施例は、本開示を明らかにするために提供するのであって、本特許請求の範囲を限定しようとするものではない。バンディングの実施例に用いた耐酸性カプセルは、CAPSUGEL^((R))からの自然の透明な(N.T.)サイズ0のDRcaps^(TM)カプセル(HPMC)である。本開示によるバンディング溶液および方法は、あらゆるサイズのDRcaps^(TM)カプセルに適用することができる。
【0048】
実施例
バンディング溶液の3つの試料を、耐酸性ポリマーとして、それぞれHPMCP(HP-55)、CAPまたはHPMCASを用いて調製した。使用したアルカリ化合物は、NH_(3)濃度35%のアンモニア水溶液(Fisher Scientificからのアンモニア溶液0.88S.G.(35%NH_(3)))であった。最初に、ポリマー粉末の質量による適当な量を、室温、撹拌下で水中に分散させて所望の質量比を得た(表1を参照のこと)。次いで、ポリマー粒子がすべて溶解するまで指示量のアンモニア溶液を穏やかな撹拌下で徐々に分散液に加えた。パテントブルーV-C.I.フードブルー5E131の0.1%溶液(ポリマー質量に基づく)を加えてバンディングの目視を補助した。表1は、得られたバンディング溶液の組成物および特徴を示す。
【0049】
【表1】

【0050】
DRcaps^(TM)カプセル、サイズ0を、これらのバンディング試験に用いた。最初に、目視崩壊試験(visual disintegration testing)または溶解用量試験(dissolution dosage testing)のため、それぞれラクトースおよびFD&Cブルー2またはアセチルパラミノフェノール(APAP)の混合物をカプセルに充填した。
【0051】
有効な耐酸性バンディングを提供するために必要なバンドの厚さまたは量を、カプセル上に適用したバンディング溶液量のスクリーニングによって決定した。カプセル上に適用するバンディング溶液の量は、バンディング処置の前および直後にカプセルを計量し、得られた質量を比較することによって決定した。バンディングは、MG2からの実験室規模のバンディング装置(モデルSL/M)において室温条件下で乾燥しながら実施した。
【0052】
バンディングしたカプセルを、米国薬局方(United States Pharmacopeia)(「USP」)崩壊方法(第701章)を用いてpH1.2の媒体中で試験し、目視手法によって評価した。したがって、試料カプセルに、ラクトースおよびFD&Cブルー2の混合物を充填した。表2に、サイズ0のカプセルに関する試験の目視結果をまとめる。
【0053】
【表2】

【0054】
HP-55バンディング溶液は、サイズ0カプセルについて約20mgまたはそれより多いバンディング溶液質量で有効であった。CAPバンディング溶液は、サイズ0カプセルについて試験したすべての質量、すなわち、約10mgまたはそれより多いバンディング溶液質量で有効であった。HPMCASポリマーバンディング溶液は、約15mgまたはそれより多いバンディング溶液質量で有効であった。バンディング溶液質量がカプセルサイズ(すなわち、直径)に比例するため、より小さなカプセルでは、より少ない質量のバンディング溶液が必要となるので、サイズ0カプセル(直径約0.3インチの)についてのこれらの結果からより小さなカプセルを推定してもよい。
【0055】
APAPを充填してバインディングしたカプセルを、USP崩壊方法を用いてpH1.2の媒体中で試験し、用量手法によって評価し、この手法ではpH1.2で1時間崩壊試験後に溶解したAPAPの%を測定する。表3および図1に、試験の結果をまとめる。
【0056】
【表3】

【0057】
表4および図2は、USP溶解試験(第711章)および日本薬局方溶解試験(第9.41章)方法によって、最大240分の期間にわたって溶解したAPAPの%を決定するために、用量方法アッセイ(溶解媒体中のAPAP(アセトアミノフェン)濃度を300nmの波長でUV分光光度計により測定し、既知濃度標準と比較した)によって、APAPを充填してバンディングしたカプセルを用いて得られた結果を示す。各データポイントについて6つのカプセルを試験した。
【0058】
【表4】

【0059】
試験したすべてのバンディング溶液は、ツーピースHPMCハードカプセルの耐酸性を保持する点で有効であり、試験したバンディング溶液を用いたカプセルは、バンディングなしの密閉カプセルと比較してin vitro試験においてより大きな耐酸性を有した。
【0060】
DRCAP^(TM)カプセルに加えて、腸溶カプセル(例えばHPMCASからまたはCAPから作ったもの)も、また、実施例による方法により、およびバンディング試験(例えば本明細書に記述したUSP崩壊方法)において用いることができる。
【0061】
さらなる利点および変更は、当業者にとって容易に実施されることになる。したがって、そのより広い態様における本開示は、本明細書に示され、かつ記述された具体的な詳細および代表的な実施態様に限定されるわけではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびそれと同等のものによって定義されるような本発明の普遍的な概念の精神または範囲を逸脱することなくさまざまな変更を行うことができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツーピースハードカプセルのカプセル部分の間に耐酸性シールを提供するためにハードカプセルをバンディングする方法であって、該方法はバンディング組成物を前記カプセル部分上にバンドとして適用することを含み、
ここで該バンディング組成物が、少なくとも1つの耐酸性ポリマー、少なくとも1つのアルカリ化合物および水を含み、ここにおいて、該耐酸性ポリマーが、メタクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸トリメリト酸セルロース(CAT)、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、ポリビニルアセテートフタレート、およびそれらの混合物からなる群から選択され;かつ、該少なくとも1つのアルカリ化合物が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化アンモニウム、アンモニア、およびそれらの混合物からなる群から選択され、
ここで前記カプセルが、ディップ成形または射出成形された、CAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセルからなり、
さらにここで、バンディング組成物を室温でカプセルに適用することを特徴とする上記方法。
【請求項2】
前記組成物が、室温で50cPから10,000まで、好ましくは100cPから5000cPまで、より好ましくは1500cPから3100cPまでの粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの耐酸性ポリマーがフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)であり、かつ前記少なくとも1つのアルカリ化合物がアンモニアである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの耐酸性ポリマーが酢酸フタル酸セルロース(CAP)であり、かつ前記少なくとも1つのアルカリ化合物がアンモニアである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの耐酸性ポリマーが酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)であり、かつ前記少なくとも1つのアルカリ化合物がアンモニアである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記バンディング組成物が少なくとも1つの薬学的に許容されるまたは食品に許容される可塑剤および/または着色剤を更に含む、前記請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ヒトまたは動物への少なくとも1つの医薬、獣医製品、食品および栄養補助食品の経口投与に使用するための請求項1?6のいずれか1項で定義されるバンディング組成物の耐酸性バンドを含むCAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセル。
【請求項8】
望ましいバンディング組成物量を決定すること;
必要なバンディング組成物を測定すること;およびバンディング組成物をCAPSUGEL^((R))によるDRcaps^(TM)カプセルに適用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記バンディング組成物が少なくとも1つの薬学的に許容されるまたは食品に許容される可塑剤および/または着色剤を更に含む、請求項8に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-30 
出願番号 特願2014-540574(P2014-540574)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山村 祥子  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 光本 美奈子
前田 佳与子
登録日 2017-10-06 
登録番号 特許第6219836号(P6219836)
権利者 キャプシュゲル・ベルジウム・エヌ・ヴィ
発明の名称 耐酸性ツーピースハードカプセル用の耐酸性バンディング溶液  
代理人 竹林 則幸  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  
代理人 結田 純次  

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