• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 一部申し立て 特29条の2  C04B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1357687
異議申立番号 異議2019-700715  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-06 
確定日 2019-12-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6482144号発明「接合基板および接合基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6482144号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6482144号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)12月22日(優先権主張 平成27年12月28日 日本国(JP))を国際出願日とする特許出願であって、平成31年2月22日に特許権の設定登録がされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行され、その後、それらの特許のうちの請求項1?3に係る特許に対し、令和1年9月6日付けで特許異議申立人 茂木早苗(以下「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
本件特許における請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」ということがあり、また、これらを、まとめて、「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
窒化物セラミックス基板の一方もしくは両方の主面に銅板が接合されてなる接合基板であって、
TiNからなる接合層が前記窒化物セラミックス基板と前記銅板との間に介在するとともに少なくとも前記銅板と直接に接しており、
前記銅板内に、Ag原子が拡散してなり、前記Ag原子の存在比率が15at%以下であるAg拡散領域が存在する、
ことを特徴とする接合基板。
【請求項2】
請求項1に記載の接合基板であって、
前記接合層と前記銅板との界面に、Agの存在比率が60at%を超え100at%以下である、AgリッチなAg-Cu合金相またはAg金属相であるAgリッチ相が、離散的に存在する、
ことを特徴とする接合基板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接合基板であって、
前記Ag拡散領域が、前記銅板内において少なくとも前記接合層との界面近傍に存在する、
ことを特徴とする接合基板。」


第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠として、特許異議申立書に添付して下記甲第1号証?甲第2号証を提出し、以下の申立理由1?3によって、本件発明1?3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1. 申立理由1
本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2. 申立理由2
本件発明1、3は、その優先日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第2号証に係る特許出願(以下、「他の出願」という)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明に係る出願の発明者が、前記他の出願に係る発明をした者と同一ではなく、また、本件発明に係る出願の時において、その出願人が、前記他の出願の出願人と同一でもないので、本件発明1、3に係る本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

3. 申立理由3
本件発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2011/108498号
甲第2号証:特開2016-58706号公報

なお、甲第1号証、甲第2号証を、以下では、それぞれ、「甲1」、「甲2」ということがある。


第4 甲各号証の記載事項(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、 同じ。)、及び、甲1?2発明
1. 甲1の記載事項、及び、甲1発明
1ア 「本発明は、半導体素子を搭載するためのメタライズド基板の製造方法に関する。」([0001])

1イ 「 <メタライズド基板100の製造方法>
図1にメタライズド基板100の製造方法の概略を示したように、まず、窒化物セラミックス焼結体基板10上に、第一ペースト層20が形成され、その上に、第二ぺースト層30が形成され、第二積層体110が形成される。第二積層体110は、焼成され、窒化物セラミックス焼結体基板10上に窒化チタン層60および金属層50を備えたメタライズド基板100が製造される。」([0024])

1ウ 「 (窒化物セラミックス焼結体基板10)
窒化物セラミックス焼結体基板10は、所定形状の窒化物セラミックスグリーンシートあるいは窒化物セラミックス顆粒を加圧成形した加圧成形体を焼成する公知の方法により作製することができる。その形状、厚み等は特に制限されない。焼結体原料には、通常用いられる焼結助剤、例えば、希土類酸化物を含む焼結助剤を含んでいてもよい。窒化物セラミックス焼結体基板10の表面は、必要に応じて研磨して表面を平滑にしてもよい。窒化物セラミックスとしては、例えば、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、窒化ジルコニウム、窒化チタン、窒化タンタル、窒化ニオブ等が挙げられる。…」([0025])

1エ 「 (第一ペースト層20および第二ペースト層30)
本発明のメタライズド基板100の製造方法においては、まず、窒化物セラミックス焼結体基板10上に、銅粉および水素化チタン粉を含む第一ペースト層20を積層し第一積層体を形成する。その後、該第一積層体の第一ペースト層20上に、合金粉を含む第二ペースト層30を積層し第二積層体110を形成する。第一および第二ペースト層20、30は、配線パターンを形成したい箇所に、以下において説明するペースト組成物を塗布することにより形成される。…

第一ペースト層20の厚さは、好ましくは3μm以上150μm以下、より好ましくは5μm以上70μm以下である。第二ペースト層30の厚さは、好ましくは3μm以上150μm以下、より好ましくは5μm以上70μm以下である。第一ペースト層20と第二ペースト層30の厚さの比は、好ましくは0.1以上10.0以下(第一ぺースト層/第二ペースト層)、より好ましくは0.2以上5.0以下である。」([0026]?[0033])

1オ 「 (第一及び第二ペースト組成物)
第一ペースト層20を形成するための第一ペースト組成物は、金属成分として銅粉および水素化チタン粉(水素化チタンそのものは金属ではないが、焼成時に分解してチタンとなることから金属成分として取り扱う。)を含む。…

第二ペースト組成物は、金属成分として、「銀と銅との合金粉」を含んでなる。なお、本発明において、「銀と銅との合金」とは、銀と銅とを含む固溶体、共晶または金属間化合物を意味し、「銀と銅との合金粉」とは粉末を構成する粒子が上記合金の粒子である粉末を意味する。…このような銀-銅合金としては、例えば、銅成分の含有割合が20質量%?35質量%であるものが挙げられる。…」([0035]?[0050])

1カ 「 (第三ペースト層40)
図2(a)、(b)に示すように、本発明のメタライズド基板100の製造方法は、第一ペースト層20と第二ペースト層30との間(図2(a))、あるいは、第二ペースト層30上に(図2(b))、銅粉を含む第三ペースト層40を積層する工程を含んでいてもよい。…
…第三ペースト層40は、第一ペースト層20と第二ペースト層30との間、あるいは、第二ペースト層30の上、いずれも、水素化チタン粉を含む第一ペースト層20の上に形成するのであるが、この銅粉を含んでなる第三ペースト層40が存在していることにより、第一ペースト層中の水素化チタン粉由来の凹凸を低減できる。
金属層の表面をより効果的に平滑化する観点、および、金属層におけるボイド発生抑制効果を阻害せずに維持する観点から、第三ペースト層40の厚みは、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは5μm以上50μm以下、さらに好ましくは8μm以上30μm以下である。

また、第三ペースト層40を形成する場合、第一ペースト層20、第二ペースト層30、および第三ペースト層40を併せた全ペースト層中の銅成分と銀成分の合計質量を100質量部として、第一ペースト層20に含まれる水素化チタン粉を1質量部以上10質量部以下とすることが好ましい。…」([0054]?[0058])

1キ 「 (焼成工程)
焼成工程においては、上記で作製した積層体110、すなわち、窒化物セラミックス焼結体基板10、第一ペースト層20、および、第二ペースト層30を有する積層体110を焼成する。これにより、窒化物セラミックス焼結体基板10上に窒化チタン層60および金属層50が形成される。なお、第三ペースト層40を形成した積層体についても焼成条件は特に変わるところは無い…本発明においては、非酸化性雰囲気下、耐熱性容器内で積層体110を焼成することが好ましい。

焼成は、銅の融点(1083℃)以下の温度で実施することができる。ただし、高い精度の精密配線パターンを形成するためには、800℃以上950℃以下の温度で実施することが好ましい。なお、該焼成温度範囲の中で焼成温度を高くすれば、金属層50中のボイドがより減少するという効果が得られる。また、焼成時間は、配線パターン、膜厚等に応じて適宜決定すればよいが、通常は、上記温度範囲で数十秒以上1時間以下保持すれば問題なく焼成することができる。」([0059]?[0064])

1ク 「 (窒化チタン層60)
窒化チタン層60は、第一ペースト層20中のチタン成分と、窒化物セラミックス焼結体基板10中の窒素成分とが反応することにより、窒化物セラミックス焼結体基板10と金属層50との界面において形成される。…」([0065])

1ケ 「 (金属層50)
窒化物セラミック焼結体基板10上に第一ペースト層20を積層し、さらに、該第一ペースト層20上に第二ペースト層30を積層し(場合によっては、第三ペースト層40をも積層し)、得られた第二積層体110を焼成することにより、窒化チタン層60上に、金属層50が形成される。
金属層50は、銅100質量部に対して、銀を15質量部以上80質量部以下、好ましくは20質量部以上60質量部以下含み、チタンを5質量部以下、好ましくは3質量部以下含んで構成されることが望ましい。
なお、上記した金属層50の構成成分の質量比は、製造されたメタライズド基板100を分析して算出した値に基づいている。具体的には、焼成後に得られたメタライズド基板100について酸等によるエッチング処理を施し、金属層50(窒化チタン層の部分を除く。)のみを溶解させ、得られた溶液を分析することにより上記質量比を決定することができる。」([0067])

1コ 「



1サ 上記1アによれば、甲1には、半導体素子を搭載するためのメタライズド基板の製造方法に関する発明が記載されていると認められる。

1シ 上記1イ?1コによれば、1サに示したメタライズド基板は、窒化物セラミックス焼結体基板10上に、銅粉および水素化チタン粉を含む第一ペースト層20を形成し、その上に、銀と銅との合金粉を含む第二ぺースト層30を形成し、前記第一ペースト層20と前記第二ペースト層30との間(図2(a))、あるいは、前記第二ペースト層30上に(図2(b))、銅粉を含む第三ペースト層40を積層して、全ペースト層中の銅成分と銀成分の合計質量を100質量部として、第一ペースト層20に含まれる水素化チタン粉が1質量部以上10質量部以下である積層体110を形成し、その積層体110を焼成することによって製造された、前記窒化物セラミックス焼結体基板10と金属層50との界面に窒化チタン層60が形成された、半導体素子を搭載するためのメタライズド基板100であって、前記金属層50は、銅100質量部に対して、銀を15質量部以上80質量部以下含み、チタンを5質量部以下含んで構成されるメタライズド基板110であるとされている。

1ス 上記1サ?1シの検討によれば、甲1には、半導体素子を搭載するためのメタライズド基板に注目すると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「窒化物セラミックス焼結体基板と金属層との界面に窒化チタン層が形成された、半導体素子を搭載するためのメタライズド基板であって、前記金属層は、銅100質量部に対して、銀を15質量部以上80質量部以下含み、チタンを5質量部以下含んで構成されるメタライズド基板。」


2. 甲2の記載事項、及び、甲2発明
2ア 「この発明は、窒化アルミニウム基板の少なくとも一方の表面側に、銅又は銅合金からなる導体層を積層してなる金属セラミック接合基板…に関するものであり、特には、微細な回路パターンの形成を可能にするとともに、パワーモジュール用基板として用いる場合に導体層上に搭載され得る半導体素子から生じる熱を有効に放散させることのできる技術を提案するものである。」(【0001】)

2イ 「…この発明の金属セラミック接合基板1は、図1に概略的に示すように、窒化アルミニウム基板2の少なくとも一方の表面側に、銅又は銅合金からなる導体層3を積層して構成されるものであって、前記窒化アルミニウム基板2と導体層3との間に、窒化チタン、窒化ジルコニウム及び窒化ハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む接合層4が介在し、かかる接合層4の介在下で、前記窒化アルミニウム基板2と導体層3とが接合されたものである。
なお、図示の実施形態では、窒化アルミニウム基板2の一方の表面だけに、導体層3を積層させているが、図示は省略するが、窒化アルミニウム基板の両面のそれぞれに導体層を積層させたものとすることも可能である。
ここで、上記の導体層3は、回路パターンが形成され得るものであって、純銅又は銅合金からなるものである。
導体層3を純銅で構成する場合、タフピッチ銅、脱酸銅又は、無酸素銅等を用いることができる。
一方、導体層3を銅合金からなるものとする場合、この銅合金は、銅の他、銀、錫及びジルコニウムから選択される少なくとも一種を、二種以上の場合は合計で0.05重量%以上かつ0.3重量%以下で含有するものとすることができる。好ましくは、上記の銅合金はCu-0.1重量%Zr合金またはCu-0.12重量%Sn合金とする。

…この発明の金属セラミック接合基板1では、窒化アルミニウム基板2と導体層3との間に、窒化チタン、窒化ジルコニウム及び窒化ハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む接合層4を介在させることとし、この接合層4が、窒化アルミニウム基板2と導体層3とを強固に接合するべく機能する。」(【0020】?【0023】)

2ウ 「図2に、この発明の金属セラミック接合基板の一例の各元素の含有量の、厚み方向の分布を例示する。
この図2は、厚み0.635mmの窒化アルミニウム基板2と、タフピッチ銅からなる厚み33μmの導体層3との間に、窒化チタンを含む厚み500nmの接合層4を介在させた金属セラミック接合基板1で、その厚み方向に沿う断面で、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyser)を用いて、各元素の厚み方向の相対的な量の大小を調べ、厚み方向に沿う各元素の存在プロファイルを示したものであり、ここでは、横軸に厚み方向の位置を示し、縦軸に各元素のEPMAでのカウント数を示している。
また、本発明において、製造された金属セラミック接合基板中の不純物濃度の定量分析は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて行われた。
この発明では、後述するような製造方法等によって金属セラミック接合基板1を製造することで、図2に示す金属セラミック接合基板1のように、導体層3に含まれる銅が、図2の二本の破線の間に挟まれる接合層4の領域に拡散しているしていることが好ましい。
この場合、接合層4の銅が存在する領域では、チタン等と銅との化合物が形成されていると解され、これが、窒化アルミニウム基板2と導体層3との接合に有効に寄与すると考えられる。」(【0024】?【0026】)

2エ 「…
なお、回路パターンの形成方法は特に限定されるものではないが、たとえば、フォトレジスト工程を利用し、マスクパターンを形成して、不要金属箔部分をエッチングで除去して作製すること等により、回路パターンを形成することが可能である。」(【0043】)

2オ 「



2カ 上記2アによれば、甲2には、窒化アルミニウム基板の少なくとも一方の表面側に、銅又は銅合金からなる導体層を積層してなる金属セラミック接合基板であって、微細な回路パターンの形成を可能にするとともに、パワーモジュール用基板として用いる場合に導体層上に搭載され得る半導体素子から生じる熱を有効に放散させることのできる、金属セラミック接合基板に係る発明が記載されていると認められる。

2キ 上記2イと上記2エ?2オによれば、上記2カに示した金属セラミック接合基板は、窒化チタン、窒化ジルコニウム及び窒化ハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む接合層4の介在下で、窒化アルミニウム基板2と導体層3とが接合された金属セラミック接合基板であって、前記導体層は純銅又は銅合金からなり、回路パターンが形成され得る箔であると認められる。

2ク 上記2カ?2キの検討によれば、甲2には、微細な回路パターンの形成を可能にするとともに、パワーモジュール用基板として用いることのできる、金属セラミック接合基板に注目すると、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「微細な回路パターンの形成を可能にするとともに、パワーモジュール用基板として用いることのできる、金属セラミック接合基板であって、窒化チタン、窒化ジルコニウム及び窒化ハフニウムからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む接合層の介在下で、窒化アルミニウム基板と導体層とが接合されており、前記導体層は純銅又は銅合金からなる箔である金属セラミック接合基板。」


第5 当審の判断
1. 申立理由1について
上記第3に示した、本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明である旨の申立理由につき、以下に順次検討する。
(1) 本件発明1と甲1発明との対比・検討
ア. 本件発明1と上記第4の1.1スに示した甲1発明とを対比する。
甲1発明における「窒化物セラミックス焼結体基板」、「窒化チタン」は、それぞれ、本件発明1における「窒化物セラミックス基板」、「TiN」に相当し、また、甲1発明における「半導体素子を搭載するためのメタライズド基板」は、本件発明1における「接合基板」とは、「基板」の点で共通し、そして、甲1発明における「金属層は、銅100質量部に対して、銀を15質量部以上80質量部以下含み、チタンを5質量部以下含んで構成される」ことは、本件発明1における「銅板」とは、「銅を主成分とする金属層」の点で共通することから、甲1発明における「窒化物セラミックス焼結体基板と金属層との界面に窒化チタン層が形成された、半導体素子を搭載するためのメタライズド基板」は、本件特許発明1における「TiNからなる接合層が前記窒化物セラミックス基板と前記銅板との間に介在する」こととは、「TiNからなる接合層が窒化物セラミックス基板と銅を主成分とする金属層との間に介在する」点で共通する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
「TiNからなる接合層が窒化物セラミックス基板と銅を主成分とする金属層との間に介在する基板」である点。

<相違点>
相違点1-1: 銅を主成分とする金属層について、本件特許発明1では「銅板」という発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点1-2: 基板について、本件発明1では「窒化物セラミックス基板の一方もしくは両方の主面に銅板が接合されてなる接合基板」という発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点1-3: TiNからなる接合層が窒化物セラミックス基板と銅を主成分とする金属層との間に介在することについて、本件発明1では「TiNからなる接合層」が「少なくとも前記銅板と直接に接しており、 前記銅板内に、Ag原子が拡散してなり、前記Ag原子の存在比率が15at%以下であるAg拡散領域が存在する」という発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明では、前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

イ. そこで、まず、上記相違点1-1について検討するに、甲1発明における「金属層」に関し、甲1には、上記第4の1.1ケに示したとおり、窒化物セラミック焼結体基板10上に第一ペースト層20を積層し、さらに、該第一ペースト層20上に第二ペースト層30を積層し、第三ペースト層40をも積層し、得られた第二積層体110を焼成することにより、窒化チタン層60上に、金属層50が形成されるところ、その金属層50は、銅100質量部に対して、銀を15質量部以上80質量部以下、好ましくは20質量部以上60質量部以下含み、チタンを5質量部以下含んで構成される旨の記載があり、その焼成条件については、上記第4の1.1キに示したとおり、高い精度の精密配線パターンを形成するために、銅の融点(1083℃)未満である、800℃以上950℃以下の温度範囲で数十秒以上1時間以下で実施する旨の記載がある。甲1のこれらの記載からすると、甲1発明における「金属層」は、その組成からして銅層とはいえないものであるし、また、銅を溶融させずに形成されるものであるから、銅板とは異なるものであることは明らかである。
なお、異議申立人は、甲1発明における「金属層」に関し、特許異議申立書において、厚み200μmの金属層50が甲1の段落[0072]に開示されているのに対し、本件発明では、厚み0.3mmの銅板が開示されており、いずれも、薄く平たく広がり、板状でもあり、層状でもあり、甲1発明における「金属層」と本件発明における「銅板」との間において、物としての実質的な差異はない旨主張している(第11頁下から2行?第12頁第9行)が、甲1発明における「金属層」と本件発明における「銅板」とが、物としての区別が付かないことを裏付け得る、客観的かつ具体的な証拠は見当たらないし、前記の検討によれば、甲1発明における「金属層」と本件発明1における「銅板」とは、物としての区別がつくことは明らかであるから、異議申立人の当該主張は妥当性を欠いている。
してみると、上記相違点1-1は実質的な相違点である。

ウ. 次に、上記相違点1-2について検討してみるに、甲1発明は、上記第4の1.1スに示したとおり、「半導体素子を搭載するためのメタライズド基板」であるところ、メタライズド基板は、その放熱特性等によって、パワーモジュール用基板として用いることはできず、接合基板とは区別されるとの技術常識に照らし、本件発明1の「窒化物セラミックス基板の一方もしくは両方の主面に銅板が接合されてなる接合基板」とは異なる基板であることは明らかである。
なお、異議申立人は、甲1発明における「半導体素子を搭載するためのメタライズド基板」に関し、特許異議申立書において、本件発明1の「窒化物セラミックス基板の一方もしくは両方の主面に銅板が接合されてなる接合基板」である旨主張している(第6頁第5行?第9頁第21行)が、甲1発明における「半導体素子を搭載するためのメタライズド基板」と本件発明1の「窒化物セラミックス基板の一方もしくは両方の主面に銅板が接合されてなる接合基板」とが、物としての区別が付かないことを裏付け得る、客観的かつ具体的な証拠は見当たらないし、前記の検討によれば、それらの基板が、互いに、異なる基板であることは明らかであるから、異議申立人の当該主張は妥当性を欠いている。
してみると、上記相違点1-2も実質的な相違点である。

エ. 上記イ.?ウ.の検討から、上記相違点1-1?1-2以外の他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲第1号証に記載された発明でないことは明らかである。

(2) 本件発明2?3と甲1発明との対比・検討
本件発明2?3は、本件発明1の全ての発明特定事項を備えたものであるから、上記(1)ア.?エ.での検討と同様にして、甲第1号証に記載された発明でないことは明らかである。


2. 申立理由2について
上記第3に示した、本件発明1?3は、甲第2号証に記載された発明と同一である旨の申立理由につき、以下に順次検討する。
(1) 本件発明1と甲2発明との対比・検討
ア. 本件発明1と上記第4の2.2クに示した甲2発明とを対比する。
甲2発明における「金属セラミック接合基板」、「窒化チタン」、「窒化アルミニウム基板」、「純銅からなる箔」は、それぞれ、本件発明1における「接合基板」、「TiN」、「窒化物セラミックス基板」、「銅板」に相当し、そして、甲2発明における「窒化アルミニウム基板と導体層とが接合されて」いる「金属セラミック接合基板」は、前記導体層が純銅からなる箔である場合、本件発明1における「窒化物セラミックス基板の一方もしくは両方の主面に銅板が接合されてなる接合基板」に相当し、また、甲2発明における「窒化チタン」「を含む接合層」は、TiNを含む点で、本件発明1における「接合層」と共通する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
「窒化物セラミックス基板の一方もしくは両方の主面に銅板が接合されてなる接合基板であって、TiNを含む接合層が前記窒化物セラミックス基板と前記銅板との間に介在する接合基板」である点。

<相違点>
相違点2-1: TiNを含む接合層について、本件発明1では「TiNからなる」という発明特定事項と、「少なくとも前記銅板と直接に接して」いるという発明特定事項とを備えているのに対し、甲2発明では、それらの発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点2-2: 銅板について、本件発明1では「Ag原子が拡散してなり、前記Ag原子の存在比率が15at%以下であるAg拡散領域が存在する」という発明特定事項とを備えているのに対し、甲2発明では、それらの発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

イ. 事案に鑑み、まず、上記相違点2-2について検討するに、甲2発明の金属セラミック接合基板における導体層が純銅からなる箔である場合の接合基板に関し、甲2には、上記第4の2.2ウと2オとによれば、当該接合基板には、Agは含有されないとされていることから、上記相違点2-2に係る本件発明1の発明特定事項を備え得ないことは明らかである。

ウ. なお、異議申立人は、甲2発明の金属セラミック接合基板に関し、その接合基板における導体層は、銅の他、銀、錫及びジルコニウムから選択される少なくとも一種を、二種以上の場合は合計で0.05重量%以上かつ0.3重量%以下で含有するものとすることができるので、甲2発明の金属セラミック接合基板における銅板内には、Ag原子が拡散してなり、前記Ag原子の存在比率が15at%以下であるAg拡散領域が存在する旨主張している(第14頁第19行?第15頁第5行)。
しかし、甲2発明の金属セラミック接合基板の導体層に関し、銅の他、銀、錫及びジルコニウムから選択される少なくとも一種を、二種以上の場合は合計で0.05重量%以上かつ0.3重量%以下で含有するものとすることができるとの記載は、上記第4の2.2イと2オとによれば、当該導体層が銅と銀、錫及びジルコニウムから選択される少なくとも一種の金属との合金(以下、この合金を、単に「銅合金」という。)からなる場合の記載であるところ、本件の明細書の【0040】に記載されるように、本件発明1の接合基板の銅板は、結晶格子のマトリックスはCu原子によって構成されることから、結晶格子のマトリックスが合金組成に応じて構成される銅合金とは異なることに照らし、銅合金の板を包含しないものである。
すなわち、甲2発明の金属セラミック接合基板の導体層が銅合金からなる場合の当該導体層は、銅板に相当しないとの実質的な相違点を備えることとなるから、異議申立人の前記の主張は、本件の明細書の記載を正解しないものであって、妥当性を欠いている。

エ. 上記イ.?ウ.の検討によれば、上記相違点2-2は実質的な相違点である。
してみると、上記相違点2-2以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲第2号証に記載された発明と同一でないことは明らかである。

(2) 本件発明2?3と甲2発明との対比・検討
本件発明2?3は、本件発明1の全ての発明特定事項を備えたものであるから、上記(1)ア.?エ.での検討と同様にして、甲第2号証に記載された発明と同一でないことは明らかである。


3. 申立理由3について
(1) 異議申立人の主張
上記第3に示した、本件発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨の申立理由について、異議申立人は、特許異議申立書(第15頁第17行?第17頁第25行)において、次の(1-1)?(1-4)の主張をしている。

(1-1) 本件発明1に記載される「TiNからなる接合層が…前記銅板と直接に接しており」との事項に関し、本件明細書の【0038】の記載からは、接合基板20におけるAg-Cu層6が、Cuが80?96%で残部がAgというAg-Cu合金である、Cuリッチ相のみから成りうる場合があることが分かるが、その場合のAg-Cu層6は、Ag原子の存在比率が15at%以下であり、各Cuリッチ相内にAg原子が拡散した構造となり、そして、例えば実際の接合基板の断面写真では、Cuリッチ相と銅板との間には境界が存在せず、Cuリッチ相と銅板との区別は困難であるので、Ag-Cu層6は、銅板の一部ともいえる状態となり、接合層は銅板と直接に接することとなる、すなわち、本件発明1は、Cuリッチ相のみから成るAg-Cu層6が存在する従来の接合基板を含むものであり、どのような接合基板まで本件発明1の範囲に入るのかを理解できない。

(1-2) 本件発明1に記載される「前記銅板内に、Ag原子が拡散してなり、前記Ag原子の存在比率が15at%以下であるAg拡散領域が存在する」との事項に関し、本件明細書の【0038】の記載によれば、Cuリッチ相は、Cuが80?96%で残部がAgというAg-Cu合金であり、「Ag原子が拡散してなり、前記Ag原子の存在比率が15at%以下であるAg拡散領域」といえるため、Cuリッチ相と本件発明1の「Ag拡散領域」との違いを、当業者が把握できない。

(1-3) 本件発明2に記載される「Agの存在比率が60at%を超え100at%以下である、AgリッチなAg-Cu合金相またはAg金属相であるAgリッチ相が、離散的に存在する」との事項に関し、本件明細書の【0038】の記載によれば、Agリッチ相は、Agが80%以上で残部がCuというAg-Cu合金であり、「Agの存在比率が60at%を超え100at%以下である、AgリッチなAg-Cu合金相またはAg金属相であるAgリッチ相」といえ、Ag-Cu層6がAgリッチ相及びCuリッチ相の両方を含む場合、Agリッチ相は、Cuリッチ相が存在することで、離散的に存在することとなるし、Cuリッチ相は、上記(1-1)の主張のとおり、銅板との間には境界が存在せず、Cuリッチ相も銅板の一部と解することができるため、どのような接合基板まで本件発明2の範囲に入るのかを理解できない。

(1-4) 本件発明3に記載される「前記Ag拡散領域が、前記銅板内において少なくとも前記接合層との界面近傍に存在する」との事項に関し、上記(1-1)の主張のとおり、Cuリッチ相は、「Ag拡散領域」といえ、銅板と接合層との界面に存在しており、また、実際の接合基板において、銅板の一部ともいえる状態にあるため、どのような接合基板まで本件発明3の範囲に入るのかを理解できない。

(2) 検討
ア. そこで、本件発明の明確性につき検討するに、本件発明1の「接合基板」は、本件明細書の【0029】?【0040】で説明されているとおり、その接合基板の断面を対象にした組成分布の分析をEPMAにて実施することによって、「接合層が…銅板と直接に接しており、前記銅板内にAg原子が拡散してなり、前記Ag原子の存在比率が15at%以下であるAg拡散領域が存在する」との発明特定事項を備えていることが確認できる物であって、当該物として明確である。さらに、本件発明2?3の「接合基板」も、本件明細書の【0029】?【0040】で説明されているとおり、その接合基板の断面を対象にした組成分布の分析をEPMAにて実施することによって、各々の発明特定事項を備えていることが確認できる物であって、当該物として明確である。
このような本件発明の「接合基板」に対して、本件明細書の【0038】には、本件発明の「接合基板」には包含されない態様の接合基板20について、接合層2と銅板3とが直接に界面を構成せず、接合層2と銅板3との間に、Agリッチ相とCuリッチ相の両方、もしくはどちらか1つから成る、Ag-Cu層6が介在している点で、本件発明の接合基板と相違するという説明が記載されており、そして、本件明細書の【0039】には、Ag-Cu層6の存在も、EPMAにて接合基板20の断面を対象に組成分布を分析することによって確認できるとの説明も記載されている。
これらの説明によれば、実際の接合基板の断面を対象にEPMAにて組成分布を分析することによって、接合層2と銅板3との間に、Agリッチ相とCuリッチ相の両方、もしくはどちらか1つから成る、Ag-Cu層6が介在していることが確認された場合には、その接合基板は、本件発明の接合基板には包含されないし、また、逆に、Ag-Cu層6の介在が確認できない場合、その接合基板は、接合層2と銅板3とが直接に界面を構成していることになるから、本件発明の接合基板に係る「接合層が…銅板と直接に接して」いるとの特定事項を備えたものであることは明らかである。

イ. 上記ア.の検討を踏まえて、異議申立人の主張を検討するに、Cuリッチ相から成るAg-Cu層6とは、実際の接合基板の断面を対象にEPMAにて組成分布を分析することによって確認されるAg-Cu層6を意味しているから、Cuリッチ相と本件発明における「銅板」とが区別できないことを前提とする上記(1-1)、(1-3)の主張、及び、Cuリッチ相と本件発明における「Ag拡散領域」とが区別できないことを前提とする上記(1-2)、(1-4)の主張は、いずれも、裏付けをなす具体的かつ客観的な証拠を伴った主張ではなく、また、本件明細書の【0038】の記載内容を正解しないことに基づく主張であるから、妥当性を欠いている。
また、Agリッチ相とCuリッチ相の両方から成るAg-Cu層6とは、実際の接合基板の断面を対象にEPMAにて組成分布を分析することによって確認されるAg-Cu層6が、Agリッチ相から成るAg-Cu層とCuリッチ相から成るAg-Cu層とを備えていることを意味しているから、そのようなAg-Cu層6が、本件発明1における「Ag拡散領域」と区別できないことを前提とする、上記(1-3)の主張も、採用することはできない。


第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-11-26 
出願番号 特願2017-535855(P2017-535855)
審決分類 P 1 652・ 537- Y (C04B)
P 1 652・ 113- Y (C04B)
P 1 652・ 16- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 宮澤 尚之
小川 進
登録日 2019-02-22 
登録番号 特許第6482144号(P6482144)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 接合基板および接合基板の製造方法  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ