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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1357693 |
異議申立番号 | 異議2019-700669 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-08-26 |
確定日 | 2019-12-06 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6474961号発明「麺類用小麦粉及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6474961号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6474961号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成26年2月27日の出願であって、平成31年2月8日に特許権の設定登録がされ、同年同月27日にその特許公報が発行され、その後、令和1年8月26日に、特許異議申立人 鈴木 淑子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 特許請求の範囲の記載 本件特許請求の範囲の記載は以下のとおりであり、請求項1?5に係る特許発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明5」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。 【請求項1】 軟質小麦を原料とし、平均粒径20μm以上35μm以下且つ損傷澱粉量3.8質量%以下であり、うどん製造用の小麦粉であり、 前記軟質小麦が、アメリカ産のウエスタンホワイトである、麺類用小麦粉。 【請求項2】 平均粒径30μm以下且つ損傷澱粉量3.5質量%以下である請求項1に記載の麺類用小麦粉。 【請求項3】 前記軟質小麦を粉砕し、その粉砕物の一部又は全部を再び粉砕して得られる請求項1又は2に記載の麺類用小麦粉。 【請求項4】 請求項1?3の何れか一項に記載の麺類用小麦粉を20質量%以上含む原料を用いて得られたうどん。 【請求項5】 請求項1?3の何れか1項に記載の麺類用小麦粉の製造方法であって、 軟質小麦を粉砕し、平均粒径50μm以上の大粒子画分とそれ以外の他の画分とに分級し、該大粒子画分を採取する第1工程と、 前記大粒子画分を粉砕し、その粉砕物と前記他の画分とを混合し、その混合物から平均粒径35μm以下の微粒子画分を採取する第2工程とを有する、麺類用小麦粉の製造方法。 第3 特許異議申立人が申し立てた申立理由 特許異議申立人が申し立てた申立理由の概要は以下のとおりである。 理由1 請求項1?4に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、請求項5に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証?甲第7号証、甲第9号証、甲第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 理由2 請求項4に係る特許は、麺類用小麦粉の原料として、アメリカ産ウエスタンホワイトのみを用いた麺類用小麦粉を100%用いてうどんを製造した例しか記載されていないのでブレンドしてうどんを製造した場合に同等の効果が得られるか不明であり、実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由3 請求項4に係る特許は、麺類用小麦粉の原料として、アメリカ産ウエスタンホワイトのみを用いた麺類用小麦粉を100%用いてうどんを製造した例しか記載されていないのでブレンドしてうどんを製造した場合に同等の効果が得られるか不明であり、出願時の技術常識に照らしても本件特許発明の課題が解決できると認識できないから、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由4 請求項3,4に係る特許は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当し、不可能・非実際的事情があるとは判断できないので、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 甲第1号証:N.H.OH 外3名,CEREAL CHEMISTRY Vol.62,No.6,1985年,p.441-446 甲第2号証:インターネット<URL:http://web.archive.org./web/20151103081436/http://www.microtrac-bel.com/tech/particle/theory04.html>,2015年11月3日 甲第3号証:R.J.Henry 外1名編,Cereal Grain Quality,1989年,p.21-29 甲第4号証:特開2005-328790号公報 甲第5号証:Gary G.Hou編,Asian Noodles:Science,Technology,and Processing,2010年,p.57-73 甲第6号証:A.Desmond O'Rourke編,Understanding the Japanese Food and Agrimarket A MultiFaceted Opportunity,1994年,p.91-113 甲第7号証:The Japanese White Wheat Marketing System,1981年5月,p.1-19頁 甲第8号証:小田聞多著「新訂 めんの本」,2003年12月25日改訂版,株式会社食品産業新聞社,6頁 甲第9号証:特開2007-61813号公報 甲第10号証:特表2007-514443号公報 第4 当審の判断 当審は、請求項1?5に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 理由は以下のとおりである。 1 理由1 特許法第29条第2項(進歩性)について (1)甲号証の記載 (1-1)甲第1号証 本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第1号証には以下の記載がある。 訳文にて示す。 (1a)「抄録 オリエンタルドライヌードルの最適調理時間は蛋白質含量と共に直線的に増加した。高蛋白ヌードルは、低蛋白ヌードルよりも濃く、強く、内部で調理した場合に硬かった。しかし、蛋白質含量は表面硬度と相関しなかった。穀物抽出の割合が高いと、ヌードルの色は暗くなったが、調理ヌードルの内部硬度は変化しなかった。 ヌードル生地の最適吸収は、デンプン損傷および顆粒化の微細度と共に増加した。デンプン損傷の増加は、調理したヌードルの内部および表面の両方の堅さを減少させ;粒径の減少は、未調理のヌードルの強度を改善したが、ヌードルの色または調理したヌードルの堅さに影響しなかった。」(441頁抄録) (1b)「 本研究の目的は、乾燥ヌードルの品質に対する穀粉タンパク質、抽出速度、デンプン損傷、および穀粉顆粒化の効果を決定することであった。」(441頁左欄材料および方法の上3?1行) (1c)「デンプン損傷の異なる顆粒化およびデンプン損傷の量を持つ小麦粉 デンプン損傷および小麦顆粒化のヌードルの質に与える効果の調査のために、2つの硬質小麦、Arkan およびOK 80268、ならびに2つの軟質小麦、OasisおよびOH185を使用した。」(441頁右欄表1上9?6行) (1d)「小麦粉のボールミル粉砕およびピンミル粉砕がヌードル品質に及ぼす影響 小麦粉の長期ボールミル粉砕は、デンプン損傷を増加させ(表VII)、硬質小麦粉および軟質小麦粉の両方について粒径を減少させた(表VIII)。ピンミル粉砕は、両方のタイプの小麦粉について粒径を減少させた(表IX)。しかしながら、デンプンの損傷のレベルは、2つの柔らかい小麦についてはほんのわずかに増加したが、2つの硬い小麦についてははるかに増加した(表X)。」(441頁左欄下から18?12行)。 (1e)「 ![]() 」(445頁表IX) (1f)「 ![]() 」(445頁表X) (1-2)甲第2号証 本件出願日前に電子通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的情報であると認められる甲第2号証には以下の記載がある。 (2a)「粒子計測ゼミナール:粒子径分布測定の一般論 粒子径分布 粉体、つまり集合体としての粒子の大きさは、多数個の測定結 果を大きさ(粒子径)毎の存在比率の分布として表すのが一般 的です。これを粒子径分布といいます。 ・・・ 存在比率の基準としては*体積基準(体積分布)、個数基準( 個数分布)等があります。 ・・・ dは各粒径チャンネルの代表値、nはチャンネルごとの個数基 準のパーセント、vはチャンネルごとの体積基準のパーセント です。 平均径の名称 記号 個数基準の式 体積基準の式 ・・・ 体積平均径 MV Σ(nd4)/Σ(nd3) Σ(vd )/Σv」(「粒子計測ゼミナール:粒子径分布測定の一般論」の項目) (1-3)甲第3号証 本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第3号証には以下の記載がある。 訳文にて示す。 (3a)「特に、日本では、西オーストラリアのASWは伝統的にうどんに最適な小麦と考えられており、アメリカ産のウエスタンホワイトや国産小麦、ソフトレッドウインターとブレンドされています。澱粉の損傷が少なく、粒子が細かく軟質小麦に関連するグルテン強度が弱いことが好ましい。」(23頁下から5?1行) (1-4)甲第4号証 本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第4号証には以下の記載がある。 (4a)「 【請求項1】 原料を軟質小麦とし、粒径が45μm未満の大きさの粒が80質量%以上で、かつ10μm以上45μm未満の大きさの粒が60質量%以上である麺用小麦粉。 【請求項2】 麺がうどんである請求項1記載の麺用小麦粉。」 (1-5)甲第5号証 本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第5号証には以下の記載がある。 (5a)「 ![]() 」(61頁表3.1) (1-6)甲第6号証 本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第6号証には以下の記載がある。 (6a)「 ![]() 」(105頁表10.3、106頁表10.4) (1-7)甲第7号証 本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第7号証には以下の記載がある。 訳文にて示す。 (7a)「オーストラリア産の軟質小麦、アメリカ産のウエスタンホワイト、アメリカ産のソフトレッドウインター、および日本産の軟質小麦は、パスタ、クラッカー、および日本の麺を作るための小麦に使用されています。」(14頁15?17行) (7b)「したがって、1ブッシェルのウエスタンホワイトから20.6kgの乾燥うどんを作ることができます。」(17頁25?27行) (1-8)甲第8号証 本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第8号証には以下の記載がある。 (8a)「一昔前、オストラリアの小麦が不作で、国内のASWが逼迫したことがあった。この特は止むなく、WWを主原料としためん用粉が出回った結果、茹でめんが硬い、茹で時間が長くなる等のクレームが多発したものである。」(6頁右欄3?7行) (1-9)甲第9号証 本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第9号証には以下の記載がある。 (9a)「【請求項1】 下記工程(1)?(5)を含むことを特徴とする、小麦全粒粉の製造方法。 (1)原料小麦を粗粉砕する工程 (2)工程(1)で得られた粗粉砕物を、平均粒径150?200μm未満の微粉画分と、平均粒径150?200μm以上の粗粉画分(但し、この粗粉画分の平均粒径は、前者の微粉画分の平均粒径よりも大きい)に分離する工程 (3)工程(2)で得られた粗粉画分を衝撃式微粉砕に供して微粉砕する工程 (4)工程(3)で得られた微粉砕物から平均粒径が150?200μm未満の微粉画分を分取する工程 (5)工程(2)で得られた平均粒径150?200μm未満の微粉画分と、工程(4)で得られた平均粒径150?200μm未満の微粉画分とを混合する工程 【請求項2】 工程(1)の粗粉砕が、ロール式粉砕と衝撃式粉砕の組合せである、請求項1記載の小麦全粒粉の製造方法。」 (9b)「 ![]() 」(【図2】) (1-10)甲第10号証 本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第10号証には以下の記載がある。 (10a)「【請求項1】 超微粉加工全粒小麦粉を作り出す連続流グレイン製粉プロセスにおいて、 (a)ある量の精選され、かつ、調整された小麦粒を提供する工程と、 (b)該小麦粒を胚乳から成る細粒分と、ふすまおよび胚芽から成る粗粒分と、に分離する工程と、 (c)粗粒分を、精白小麦粉を下回るかまたはそれに等しい粒度分布に粉砕して、超微粉加工粗粒分を形成する工程と、 (d)超微粉加工粗粒分と細粒分とを混合して、超微粉加工全粒小麦粉を形成する工程と、 を含むグレイン製粉プロセス。 【請求項2】 粗粒分を超微粉加工粗粒分に粉砕するのに、ギャップミルを用いる請求項1のグレイン製粉プロセス。 【請求項3】 超微粉加工粗粒分は、約150μmを下回るかまたはそれに等しい粒度分布を有している請求項1のグレイン製粉プロセス。 【請求項4】 該量の小麦粒の約97パーセント乃至約100パーセントを用いて超微粉加工全粒小麦粉を形成する請求項1のグレイン製粉プロセス。 【請求項5】 粉砕された粗粒分を篩別して、約150μmを下回るかまたはそれに等しい粒度分布を有する超微粉粉砕粗粒分を収集する工程と、150μmを上回る粒度分布を有する粉砕された粗粒分を保留する工程と、保留された粉砕粗粒分を粉砕して、150μmを下回るかまたはそれに等しい粒度分布を有する粉砕された粗粒分を形成する工程と、粉砕された粗粒分と超微粉粉砕粗粒分とを混合して、約150μmを下回るかまたはそれに等しい粒度分布を有する超微粉加工粗粒分を形成し、次いで、超微粉加工粗粒分と細粒分とを混合する工程とをさらに含む請求項1のグレイン製粉プロセス。」 (10b)「 ![]() 」(【図4】) (2)甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証は、「乾燥ヌードルの品質に対する穀粉タンパク質、抽出速度、デンプン損傷、および穀粉顆粒化の効果を決定すること」を目的とする文献であって(摘記事項(1b))、摘記(1c)には、デンプン損傷および小麦顆粒化のヌードルの質に与える効果の調査のために、2つの軟質小麦、OasisおよびOH185を使用したことが記載されている。 そして、摘記(1d)には、小麦粉のボールミル粉砕およびピンミル粉砕がヌードル品質に及ぼす影響として、ピンミル粉砕は、硬質小麦、軟質小麦の両方のタイプの小麦粉について粒径を減少させた(表9)が、デンプンの損傷のレベルは、2つの柔らかい小麦についてはほんのわずかに増加したが、2つの硬い小麦についてははるかに増加した(表10)ことが記載され、摘記(1e)の表9には、ピンミルド粉試料の粒度分布(重量%)に関して、OasisのFineとして、粒子径(μm)が<15(%),15-20(%),23-38(%),28-53(%)がそれぞれ、5.0,53.0,37.5,4.5であり、OH185として、粒子径(μm)が<15(%),15-20(%),23-38(%),28-53(%)がそれぞれ、6.3,42.7,45.5,5.5であることが示され、摘記(1f)の表10には、ピンミリングがヌードル特性に及ぼす影響に関して、Oasis(SRW)のFineのデンプンの損傷として、3.9%、OH185(SRW)のFineのデンプンの損傷として、3.9%であることが示されている。 したがって、甲第1号証には、「ピンミルド粉試料の粒度分布(重量%)として、OasisのFineとして、粒子径(μm)が<15(%),15-20(%),23-38(%),28-53(%)がそれぞれ、5.0,53.0,37.5,4.5であり、ピンミリングがヌードル特性に及ぼす影響に関して、Oasis(SRW)のFineのデンプンの損傷として、3.9%である小麦粉」(以下、「引用発明1」という。)および「ピンミルド粉試料の粒度分布(重量%)として、OH185として、粒子径(μm)が<15(%),15-20(%),23-38(%),28-53(%)がそれぞれ、6.3,42.7,45.5,5.5であり、ピンミリングがヌードル特性に及ぼす影響に関して、OH185(SRW)のFineのデンプンの損傷が3.9%である小麦粉」(以下、「引用発明2」という。)が開示されているといえる。 また、甲第1号証には、以下の発明も記載されているといえる。 「ピンミル粉砕をして、ピンミルド粉試料の粒度分布(重量%)として、OasisのFineとして、粒子径(μm)が<15(%),15-20(%),23-38(%),28-53(%)がそれぞれ、5.0,53.0,37.5,4.5であり、ピンミリングがヌードル特性に及ぼす影響に関して、Oasis(SRW)のFineのデンプンの損傷として、3.9%である小麦粉を得る製造方法」(以下、「引用製造方法発明1」という。) 「ピンミル粉砕をして、ピンミルド粉試料の粒度分布(重量%)として、OH185として、粒子径(μm)が<15(%),15-20(%),23-38(%),28-53(%)がそれぞれ、6.3,42.7,45.5,5.5であり、ピンミリングがヌードル特性に及ぼす影響に関して、OH185(SRW)のFineのデンプンの損傷が3.9%である小麦粉を得る製造方法」(以下、「引用製造方法発明2」という。) (3)対比・判断 (3-1)本件特許発明1について ア-1 引用発明1との対比 本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、 引用発明1の「OasisのFine」および「Oasis(SRW)のFine」は、軟質小麦であるソフトレッドウインターのOasisのFineであることは明らかであるから本件特許発明1の「軟質小麦を原料とした」「小麦粉」に該当する。 したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、「軟質小麦を原料とした小麦粉」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:粒径に関して、本件特許発明1は、平均粒径20μm以上35μm以下であると特定されているのに対して、引用発明1は、ピンミルド粉試料の粒度分布(重量%)として、粒子径(μm)が<15(%),15-20(%),23-38(%),28-53(%)がそれぞれ、5.0,53.0,37.5,4.5であると特定されている点 相違点2:本件特許発明1は、損失澱粉量3.8質量%以下であると特定されているのに対して、引用発明1は、ピンミリングがヌードル特性に及ぼす影響に関して、デンプンの損傷として、3.9%であると特定されている点 相違点3:本件特許発明1は、うどん製造用の麺類用の小麦粉であると特定されているのに対して、引用発明1は、小麦粉の用途が特定されていない点 相違点4:本件特許発明1は、軟質小麦がアメリカ産のウエスタンホワイトであると特定されているのに対して、引用発明1は、軟質小麦がOasis(SRW)であると特定されている点 イ-1 相違点1の判断 甲第1号証には、粒径に関して、粒径の減少は、未調理のヌードルの強度を改善したが、ヌードルの色または調理したヌードルの堅さに影響しなかったことが記載されているものの(摘記(1a))、平均粒径が20μm以上35μm以下であることの記載はなく、重量%で示したピンミルド粉試料の粒度分布が示されているだけである。 そして、甲第2号証には、粒子径分布測定の一般論が示されているだけで、各種個数、長さ、面積、体積平均径の個数基準式や体積基準式が示される中、どのように、引用発明1の重量%で示された粒子径(μm)が<15(%),15-20(%),23-38(%),28-53(%)がそれぞれ、5.0,53.0,37.5,4.5であるピンミルド粉試料の粒度分布(重量%)から平均粒子径を求めれば良いかを特定して示す記載はない。 したがって、引用発明1において、甲第2号証を考慮しても、相違点1が実質的相違点でないことを示す記載や、平均粒径が20μm以上35μm以下とすることを示唆する記載も存在しない。 特許異議申立人は、特許異議申立書9?10頁において、甲第1号証の表8に記載のチャンネルの中間値を代表値として(「<15」「>106」の代表値は、それぞれ15、106)体積平均径「Σ(vd)/Σv」を算出したところ、OasisのFineの平均粒子径は、22.9μm、OH185のFineの平均粒子径は、24.1μmと算出され、平均粒子径が20μm以上35μm以下である蓋然性が高い旨主張しているが、そもそも長期ボールミル粉砕した小麦粉の粒径分布の値を平均粒子径に換算する場合に、どのように代表値を仮定するのか、「<15」「>106」の代表値は、それぞれ15、106としてよいのか、甲第1号証に何ら算出の示唆がないのに甲第2号証の体積平均径の体積基準の式に当てはめて計算するとの仮定はどのように成り立つのか不明である。 したがって、多くの仮定の上の値を前提とする上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。 ウ-1 相違点2の判断 引用発明1は、ピンミリングがヌードル特性に及ぼす影響に関して、Oasis(SRW)のFineのデンプンの損傷として、3.9%であることが結果として示され特定されているもので、その損傷澱粉量を3.8質量%以下と変更するには、粒径分布等の他の条件も影響を受けることになるのであるから、引用発明1において、損傷澱粉量を3.8質量%以下と変更することは当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。 特許異議申立人は、特許異議申立書11?13頁において、甲第3号証の小麦の種類や澱粉損傷の少ないとの記載(摘記(3a))を周知技術と指摘し、また本件明細書【0027】の【表1】の損傷澱粉量4.0%の小麦を用いた実施例2の結果と損傷澱粉量3.5%の小麦を用いた実施例3、損傷澱粉量3.8%の小麦を用いた実施例1の結果とが食感と製麺特性で同程度に優れていることをもって、損傷澱粉量3.8%以下とすることは設計事項である旨主張している。 しかしながら、甲第3号証の同指摘箇所では、西オーストラリアのASWがうどんに最適な小麦とされているのであって、該西オーストラリアのASWにブレンドする小麦の一例にアメリカ産のウエスタンホワイトが挙げられているからといって、変更する動機付けにはならないし、本願明細書の結果の記載から引用発明1から損傷澱粉量を3.8質量%以下と変更することが動機付けられるわけでもなく、設計事項であるといえる理由はない。 したがって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。 エ-1 相違点3、4の判断 引用発明1において、甲第1号証は、オリエンタルドライヌードルの品質特性に関する文献であり、軟質小麦の用途としてうどん用であることの記載も示唆もなく、軟質小麦の種類もOasisのソフトレッドウインター(SRW)であることを前提としており、アメリカ産のウエスタンホワイトであることの記載も示唆もなされていない。 甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証にうどん用という小麦の用途とアメリカ産のウエスタンホワイトという小麦の種類が他の用途や種類とともに一つの例として挙げられているからといって、引用発明1のオリエンタルドライヌードルの品質特性に関する小麦粉の発明において、うどん製造用の麺類用の小麦粉であって、その種類をアメリカ産のウエスタンホワイトとすることは動機付けられるわけではないし、甲第8号証の記載をみるとむしろアメリカ産のウエスタンホワイトをうどん用として用いることが当業者が容易に想起できる技術的事項であったともいえない。 また、引用発明1において、小麦粉の用途や原料の種類を変更する場合、平均粒径や損傷澱粉量が変化するのは、当然であり、相違点1,2に係る構成との関係においても、当業者が容易に想起できる技術的事項であったともいえない。 そして、本件特許発明1は、軟質小麦原料としてアメリカ産のウエスタンホワイトを用い、平均粒径20μm以上35μm以下且つ損傷澱粉量3.8質量%以下という特定の条件を両立したものを、うどん製造用に用いた小麦粉という構成を採用することで、【0025】?【0026】の評価結果に基づき、[表1]に示した実施例1,3の結果を得て、製麺適正や食感の両特性を向上したという顕著な効果を奏している。 上述のとおり、相違点1に係る軟質小麦粉の平均粒径と相違点2に係る軟質小麦粉の損傷澱粉量、相違点3に係る軟質小麦粉の用途、相違点4の軟質小麦粉の原料の種類は、相互に有機的に関係しており、個々の相違点だけを個別に変更することは通常考えられず、動機付けもない。 したがって、引用発明1において、軟質小麦原料の種類をアメリカ産のウエスタンホワイトに変更した上で、平均粒径を特定の範囲に特定し且つ澱粉損傷量を特定範囲以下として、用途をうどん製造用と変更することは、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 ア-2 引用発明2との対比 本件特許発明1と引用発明2とを対比すると、 引用発明1との対比と同様に、以下の 「軟質小麦を原料とした小麦粉」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1’:粒径に関して、本件特許発明1は、平均粒径20μm以上35μm以下であると特定されているのに対して、引用発明2は、ピンミルド粉試料の粒度分布(重量%)として、粒子径(μm)が<15(%),15-20(%),23-38(%),28-53(%)がそれぞれ、6.3,42.7,45.5,5.5であると特定されている点 相違点2:本件特許発明1は、3.8質量%以下であると特定されているのに対して、引用発明2は、ピンミリングがヌードル特性に及ぼす影響に関して、デンプンの損傷として、3.9%であると特定されている点 相違点3:本件特許発明1は、うどん製造用の麺類用の小麦粉であると特定されているのに対して、引用発明2は、小麦粉の用途特定されていない点 相違点4’:本件特許発明1は、軟質小麦がアメリカ産のウエスタンホワイトであると特定されているのに対して、引用発明2は、軟質小麦がOH185(SRW)であると特定されている点 イ-2 相違点の判断 ア-1?エ-1で検討したのと同様に、引用発明2において、軟質小麦原料の種類をアメリカ産のウエスタンホワイトに変更した上で、平均粒径を特定の範囲に特定し且つ澱粉損傷量を特定範囲以下として、用途をうどん製造用と変更することは、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 ウ 小括 本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 (3-2)本件特許発明2,3について ア 本件特許発明2について 本件特許発明2は、本件特許発明1において、前記第2のとおり、「平均粒径30μm以下且つ損傷澱粉量3.5質量%以下である」ことをさらに技術的に限定した発明であり、引用発明1、引用発明2いずれとの対比・判断においても、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 イ 本件特許発明3について 本件特許発明3は、前記第2のとおり、それぞれ本件特許発明1,2を「軟質小麦を粉砕し、その粉砕物の一部又は全部を再び粉砕して得られる」ことをさらに技術的に限定したものであり、本件特許発明1,2について検討したのと同様に、引用発明1、引用発明2いずれとの対比・判断においても、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 ウ 本件特許発明4について ウ-1 本件特許発明4と引用発明1(又は引用発明2)との対比 本件特許発明4は、前記第2のとおり、それぞれ 本件特許発明1?3の製麺用小麦粉を「20質量%以上含む原料を用いて得られたうどん」の発明であるが、本件特許発明4と引用発明1(又は引用発明2)との対比において、前記本件特許発明1?4に関して検討した相違点1?4(又は相違点1’?4’)に加えて、以下の相違点5を有する。 相違点5:本件特許発明4においては、「麺類用小麦粉を20質量%以上含む原料を用いて得られたうどん」との特定があるのに対して、引用発明1(又は引用発明2)は、軟質小麦粉であって、うどんではないし、?類用小麦粉の原料における質量割合の特定もない点 ウ-2 相違点5の判断 刊行物1には、引用発明1(又は引用発明2)の軟質小麦の用途として、うどんが記載も示唆もされていないし、前記本件特許発明1?4に関して検討した相違点1?4(又は相違点1’?4’)が当業者が容易になし得る技術的事項でないことは上述のとおりである。 したがって、甲第6号証にウエスタンホワイトを小麦粉原料中に30%、45%、55%用いて製造されたうどんに関する記載があるからといって、本件特許発明1?3について検討したのと同様に、引用発明1(又は引用発明2)から甲第2?7号証を参酌しても、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 エ 小括 本件特許発明2?4は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 オ 本件特許発明5について 本件特許発明5は、それぞれ本件特許発明1?3の麺類用小麦粉をその製造方法として特定した上で、さらに「軟質小麦を粉砕し、平均粒径50μm以上の大粒子画分とそれ以外の他の画分とに分級し、該大粒子画分を採取する第1工程と、 前記大粒子画分を粉砕し、その粉砕物と前記他の画分とを混合し、その混合物から平均粒径35μm以下の微粒子画分を採取する第2工程とを有する」との方法に関する特定をしたものである。 甲第9号証及び甲第10号証に二段階粉砕方法が記載されているからといって、本件特許発明1?3について検討したのと同様に、本件特許発明1?3の麺類用小麦粉を得ることが容易でない以上、甲第9号証及び甲第10号証と本件特許発明5の二段階粉砕方法の内容自体異なる上に、その方法を実行することによって本件特許発明1?3の麺類用小麦粉が形成できることは、甲第1号証?甲第10号証のいずれの文献にも示されていないのであるから、引用製造方法発明1(又は引用製造方法発明2)において、「軟質小麦を粉砕し、平均粒径50μm以上の大粒子画分とそれ以外の他の画分とに分級し、該大粒子画分を採取する第1工程と、 前記大粒子画分を粉砕し、その粉砕物と前記他の画分とを混合し、その混合物から平均粒径35μm以下の微粒子画分を採取する第2工程とを有する」製造方法に変更することには、動機付けもなく、結果として本件特許発明1?3の麺類用小麦粉が形成できるともいえない。 むしろ、製造方法を変更した場合は、結果として得られる軟質小麦粉の平均粒径や損傷澱粉量が変化してしまうといえる。 したがって、本件特許発明5の構成は、引用製造方法発明1(又は引用製造方法発明2)において、甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証、甲第10号証の記載を参酌しても、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証、甲第10号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 (4)以上のとおり、特許異議申立人の特許法第29条第2項(進歩性)の特許異議申立理由には理由がない。 2 理由2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (1)発明の詳細な説明の記載 請求項4に係る発明に関する記載として、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (1-1)発明の課題、課題を解決するための手段、発明の効果について 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の課題は、製麺適性に優れ、食感が良好な麺類を提供し得る麺類用小麦粉に関する。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は、軟質小麦を原料とし、平均粒径35μm以下且つ損傷澱粉量5質量%以下である麺類用小麦粉である。 また本発明は、前記麺類用小麦粉を20質量%以上含む原料を用いて得られた麺類である。 【0007】 また本発明は、前記麺類用小麦粉の製造方法であって、軟質小麦を粉砕し、平均粒径50μm以上の大粒子画分とそれ以外の他の画分とに分級し、該大粒子画分を採取する第1工程と、前記大粒子画分を粉砕し、その粉砕物と前記他の画分とを混合し、その混合物から平均粒径35μm以下の微粒子画分を採取する第2工程とを有する、麺類用小麦粉の製造方法である。 【発明の効果】 【0008】 本発明の麺類用小麦粉によれば、製麺適性に優れ、食感が良好な麺類を提供することができる。本発明の麺類用小麦粉は、特にうどんの原料として好適であり、該麺類用小麦粉を用いて得られたうどんは、良好なモチモチ感を有する。」 (1-2)軟質小麦の含有量について 「【0009】 本発明の麺類用小麦粉は、軟質小麦を原料とする。即ち、軟質小麦の含有量は、本発明の麺類用小麦粉中100質量%である。本発明で用いる軟質小麦としては、例えばソフトレッドホイート及びソフトホワイトホイート等が挙げられる。ソフトレッドホイートの例としては、日本産の普通小麦、アメリカ産のソフトレッドウインター(SRW)等がある。ソフトホワイトホイートの例としては、アメリカ産のウエスタンホワイト(WW)、ソフトホワイト、ホワイトクラブ、オーストラリア産のオーストラリアスタンダードホイート(ASW)等がある。本発明においては、軟質小麦として1種類を単独で用いても良く、2種類以上を組み合わせて用いても良い。特に、アメリカ産のウエスタンホワイト、ソフトホワイト、ホワイトクラブ、及びソフトレッドウインターは、本発明において製麺適性及び麺類としたときの食感に関して、一層の向上がみられる。」 (1-3)麺類用小麦粉の平均粒径と損傷澱粉量について 「【0010】 本発明の麺類用小麦粉は、平均粒径が35μm以下である。本明細書において「平均粒径」は、特に断らない限り、日機装株式会社製「マイクロトラック粒度分布測定装置9200FRA」を用いて乾式で測定した平均粒径を意味する。麺類用小麦粉の平均粒径が35μmを超えると、食感の粘りや表面のなめらかさが低下するおそれがある。麺類用小麦粉の平均粒径は、好ましくは20?35μm、更に好ましくは25?30μmである。 【0011】 本発明の麺類用小麦粉は、損傷澱粉量が5質量%以下である。「損傷澱粉」は、小麦粉に含まれる澱粉の一部が機械的な損傷を受けて澱粉粒が破壊された状態のものであり、特に原料小麦の粉砕工程(粗粉砕工程)あるいはその粉砕物の粉砕工程(リダクション工程)において、滑面ロール(smooth roller)のロール間隔を狭めて粉砕すると損傷を受けやすくなり、その量が増加する。この損傷澱粉は、澱粉粒の水透過性や酵素との結合性と関係するため、吸水や発酵力として数値化されることがある。損傷澱粉量は、典型的にはAACC Method 76-31に従って、試料中に含まれている損傷澱粉のみをカビ由来α-アミラーゼでマルトサッカライドと限界デキストリンに分解し、次いでアミログルコシダーゼでグルコースにまで分解し、生成されたグルコースを定量することにより測定することができるが、市販のキット(例えばMegaZyme製,Starch Damage Assay Kit)を用いても良い。本発明において損傷澱粉量は、市販のキット(MegaZyme製,Starch Damage Assay Kit)を用いて測定した。 【0012】 一般に、小麦粉は原料小麦を製粉して得られるところ、その製粉過程で小麦中に澱粉粒が損傷を受けるため、製粉過程を経て得られた小麦粉には、通常、損傷澱粉が含まれる。本発明者らの知見によれば、小麦粉中の損傷澱粉の割合が多い(即ち損傷澱粉量の数値が大きい)と、その小麦粉を用いて得られる麺類の食感(うどんであればモチモチ感)が低下する傾向がある。本発明の麺類用小麦粉は、損傷澱粉量が5質量%以下であって損傷澱粉の含有率が比較的低いため、平均粒径が35μm以下であることと相俟って、食感に優れる。本発明の麺類用小麦粉の損傷澱粉量は、好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3.5質量%以下である。」 (1-4)粉砕方法と麺類用小麦粉の製造方法について 「【0014】 本発明者らは、原料小麦(軟質小麦)を粉砕し、その粉砕物の一部又は全部を再び粉砕する方法により、平均粒径及び損傷澱粉量が何れも低い値に抑えられた小麦粉が得られることを知見した。即ち、本発明の麺類用小麦粉は、原料小麦を粉砕し、その粉砕物の一部又は全部を再び粉砕する方法により得られたものであっても良い。 【0015】 本発明の麺類用小麦粉の製造方法において、原料小麦の粉砕方法は特に制限されず、公知の粉砕方法を適宜用いることができ、例えば、ロール式粉砕、衝撃式粉砕、気流式粉砕等が挙げられる。本発明ではこれらの1つを単独で又は2つ以上を組み合わせて用いることができ、例えば、ロール式粉砕と衝撃式粉砕とを組み合わせ、両者をこの順で実施することができる。 【0016】 本発明の麺類用小麦粉の製造方法において、原料小麦を粉砕して得られた粉砕物は、その一部又は全部が再粉砕される。粉砕物の一部を再粉砕する場合、該粉砕物から再粉砕の対象となる画分を分級により選別するところ、この分級は、篩、空気分級機等の公知の分級手段を用いて行うことができ、また、分級の回数は1回でも良く、複数回でも良い。 【0017】 本発明の麺類用小麦粉の製造方法の一例として、下記第1工程及び第2工程をこの順で有する製造方法が挙げられる。第2工程で採取された微粒子画分が、本発明の麺類用小麦粉である。第2工程において、大粒子画分の粉砕、及び、その粉砕物と第1工程で得られた他の画分との混合物から平均粒径35μm以下の微粒子画分を採取する方法は、何れも公知の方法に従って行うことができる。 第1工程:軟質小麦を粉砕し、平均粒径50μm以上の大粒子画分とそれ以外の他の画分(平均粒径50μm未満の画分)とに分級し、該大粒子画分を採取する。 第2工程:第1工程で採取された大粒子画分を粉砕し、その粉砕物と前記他の画分とを混合し、その混合物から平均粒径35μm以下の微粒子画分を採取する。」 (1-5)麺類用小麦粉の用途および含有量について 「【0018】 本発明の麺類用小麦粉は、うどん、中華麺、そば、パスタ等の麺類の原料として用いることができ、特に、うどんの原料として好適である。本発明の麺類用小麦粉の特長を十分に活かし、製麺適性及び食感に優れた麺類を確実に得る観点から、本発明の麺類用小麦粉の含有量は、麺類の全原料中、好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30?50質量%である。」 (1-6)具体例について 「【実施例】 【0019】 以下に、本発明を更に具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は斯かる実施例によって制限されるものではない。なお、実施例2は、参考例である。 【0020】 〔実施例1?3〕 原料小麦として、軟質小麦であるアメリカ産のウエスタンホワイト(WW)のみを用い、原料小麦を粉砕し、その粉砕物の一部を再び粉砕して、目的とする麺類用小麦粉を得た。より具体的には、先ず、原料小麦をロール式粉砕により粉砕し、その粉砕物を分級して、平均粒径50μm以上の大粒子画分とそれ以外の他の画分(平均粒径50μm未満の画分)とに分け、該大粒子画分を採取する(第1工程)。次に、この大粒子画分を衝撃式粉砕により粉砕し、その粉砕物を前記他の画分に混合し、その混合物を分級して、平均粒径が下記表1に示す数値である微粒子画分と、該微粒子画分よりも平均粒径が大きい画分(不要画分)とに分け、該微粒子画分のみを採取して、目的とする麺類用小麦粉を得た(第2工程)。麺類用小麦粉の損傷澱粉量の調整は、前記第2工程において大粒子画分の衝撃式粉砕の粉砕条件を適宜変更することで実施した。 【0021】 〔比較例1〕 損傷澱粉量の増加を目的として、前記第1工程のロール式粉砕において、滑面ロール(smooth roller)のロール間隔を狭めて粉砕し、また、前記第2工程の衝撃式粉砕の粉砕能力を高めた。それ以外は、実施例1と同様にして麺類用小麦粉を得た。 【0022】 〔比較例2〕 前記第1工程においてロール式粉砕により得られた粉砕物をそのまま麺類用小麦粉とし て用いた。 【0023】 各実施例及び比較例で得られた麺類用小麦粉を用いて、下記の製法によりうどんを製造し、下記の評価方法により、麺類用小麦粉の製麺適性と、得られたうどんの食感とを評価した。それらの結果を下記表1に示す。 【0024】 〔うどんの製法〕 小麦粉100質量部に食塩4質量部及び水37質量部を加え、減圧下(-600mmHg)で高速で3分間、低速で7分間混捏した後、30分間熟成させて生地を得る。得られた生地を常法により圧延し、最終麺帯厚を3.0mmとした後、切刃(♯9角)で麺線に切出し、生うどんを得る。 【0025】 <小麦粉の製麺適性の評価方法> 前記〔うどんの製法〕によりうどんを製造する際の製麺適性について、下記評価基準に基づいて10名のパネラーに採点させ、その平均値を算出し、評価得点とした。 5点:吸水及び生地伸展性が良く、べとつきもない。 4点:吸水及び生地伸展性がやや良く、べとつきも少ない。 3点:吸水及び生地伸展性、べとつき共に普通。 2点:吸水及び生地伸展性がやや劣り、多少べとつきがある。 1点:吸水及び生地伸展性が劣り、べとつきが多い。 【0026】 <うどんの食感の評価方法> 評価対象の生うどんを20分間茹でて茹うどんを得た。得られた茹うどんの食感について、下記評価基準に基づいて10名のパネラーに採点させ、その平均値を算出し、評価得点とした。 5点:かなりモチモチした良好な食感である。 4点:モチモチした良好な食感である。 3点:ややモチモチしたまあまあ良好な食感である。 2点:モチモチした食感にやや欠ける。 1点:モチモチした食感に欠ける。 【0027】 ![]() 【0028】 表1に示す通り、各実施例の麺類用小麦粉は各比較例の麺類用小麦粉に比して、うどんの原料として使用した場合の製麺適性及び食感に優れていた。比較例1の麺類用小麦粉は、平均粒径は実施例と同レベルであるものの、損傷澱粉量が多いため、モチモチした食感に欠ける結果となった。比較例2の麺類用小麦粉は、損傷澱粉量は少ないものの、平均粒径が大きいため、製麺適性及び食感の両特性に劣る結果となった。以上のことから、麺類用小麦粉の製麺適性及び食感の両特性を向上させるためには、麺類用小麦粉の平均粒径を20?30μmに調整し、且つ損傷澱粉量を5質量%以下、特に3.5?4質量%の範囲に調整することが有効であることがわかる。」 (2)判断 ア 上記(1-2)には、軟質小麦の含有量や種類について、【0009】に、本発明の麺類用小麦粉は、軟質小麦を原料とし、軟質小麦の含有量は、本発明の麺類用小麦粉中100質量%であること、本発明で用いる軟質小麦として種類として種々の例が挙げられ、アメリカ産のウエスタンホワイト(WW)がソフトホワイトホイートの一例として挙げられ、軟質小麦としてこれらの1種類を単独で用いても良く、2種類以上を組み合わせて用いても良いことや、特に、アメリカ産のウエスタンホワイト、ソフトホワイト、ホワイトクラブ、及びソフトレッドウインターは、本発明において製麺適性及び麺類としたときの食感に関して、一層の向上がみられることが記載されている。 また、上記(1-3)においては、麺類用小麦粉の平均粒径や損傷澱粉量の範囲特定の技術的意義の記載があり、上記(1-4)においては、原料小麦(軟質小麦)を粉砕し、その粉砕物の一部又は全部を再び粉砕する方法により、平均粒径及び損傷澱粉量が何れも低い値に抑えられた小麦粉が得られることを知見したこと(【0014】)や具体的粉砕と分級を組み合わせた製造方法(【0016】【0017】)の記載がある。 そして、上記(1-5)においては、請求項4に係る発明と対応して、麺類用小麦粉の用途としてうどんが特に適していることと、含有量について20質量%以上が好ましいことが記載されている。 イ さらに、上記(1-6)には、具体例として、実施例1,3において、軟質小麦としてアメリカ産のウエスタンホワイト(WW)のみを用い、先ず、原料小麦をロール式粉砕により粉砕し、その粉砕物を分級して、平均粒径50μm以上の大粒子画分とそれ以外の他の画分(平均粒径50μm未満の画分)とに分け、該大粒子画分を採取し(第1工程)、次に、この大粒子画分を衝撃式粉砕により粉砕し、その粉砕物を前記他の画分に混合し、その混合物を分級して、平均粒径が表1に示す数値である微粒子画分と、該微粒子画分よりも平均粒径が大きい画分(不要画分)とに分け、該微粒子画分のみを採取して、目的とする麺類用小麦粉を得た(第2工程)こと、麺類用小麦粉の損傷澱粉量の調整は、前記第2工程において大粒子画分の衝撃式粉砕の粉砕条件を適宜変更することが記載され、表1の結果において、実施例1,3、参考例2と比較例1,2との平均粒径、損傷澱粉量と製麺適性、食感の評価が異なっていることが示されている。 ウ 上記アのとおり、軟質小麦としてこれらの1種類を単独で用いても良く、2種類以上を組み合わせて用いても良いことが示され、麺類用小麦粉の用途と含有量について請求項4に係る発明と対応してうどんを用途として、20質量%以上が好ましいことが記載されており、上記(1-3)の特定の製造方法により、軟質小麦を原料とした麺類用小麦粉平均粒径と損傷澱粉量を特定範囲に両立して製麺適性と食感の評価を高めたことが技術的意義とともに示されているのであるから、実施例において、アメリカ産のウエスタンホワイト(WW)を100%用いた例が記載されているからといって、2種類以上を組み合わせて用いた場合においても、当業者の過度な試行錯誤は必要なく、組成に応じて一定の効果が期待できるといえる。 したがって、本件特許発明4に関して、発明の詳細な説明の記載が当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 エ 特許異議申立人は、特許異議申立書24頁において、ブレンドしてうどんを作った場合に同様の効果を奏するか不明である旨主張しているが、上記(1-3)の特定の製造方法により、軟質小麦を原料とした麺類用小麦粉平均粒径と損傷澱粉量を特定範囲に両立して製麺適性と食感の評価を高めたことが示されているのであるから、他の原料をブレンドした場合にも一定の効果が期待できるのは、上述のとおりであり、特許異議申立人の主張は採用できない。 (3)以上のとおり、特許異議申立人の特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)の特許異議申立理由には理由がない。 3 理由3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提 特許請求の範囲の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)特許請求の範囲の記載 請求項1には、「うどん製造用の小麦粉であ」る「麺類用小麦粉」として、「軟質小麦を原料とし、平均粒径20μm以上35μm以下且つ損傷澱粉量3.8質量%以下であり」こと、「軟質小麦が、アメリカ産のウエスタンホワイトである」ことを特定した物の発明が記載されている。 また、請求項2には、請求項1において、「平均粒径30μm以下且つ損傷澱粉量3.5質量%以下である」ことをさらに特定した物の発明が記載されている。 さらに、請求項3には、請求項1?2において、「軟質小麦を粉砕し、その粉砕物の一部又は全部を再び粉砕して得られる」との特定を有する物の発明が記載されている。 そして、請求項4には、請求項1?3の「麺類用小麦粉を20質量%以上含む原料を用いて得られたうどん」の発明が、それぞれ記載されている。 (3)発明の詳細な説明の記載 本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項にかかる発明に関する記載として、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除いて前記2(1)に記載されたとおりの記載がある。 (4)対比・判断 (4-1)本件特許発明の課題について 前記2(1)(1-1)【0005】の記載及び本件特許明細書全体を参酌して、本件特許発明1?3の課題は、製麺適性に優れ、食感が良好な麺類を提供し得るうどん製造用の麺類用小麦粉の提供することであり、本件特許発明4の課題は、製麺適性に優れ、食感が良好なうどんの提供であると認められる。 (4-2)判断 ア 前記理由2の(2)の判断に記載のように、本件特許発明4に関して、発明の詳細な説明には、軟質小麦として多くの例示と好ましい例が記載され、これらの1種類を単独で用いても良く、2種類以上を組み合わせて用いても良いことが示され、麺類用小麦粉の用途と含有量について請求項4に係る発明と対応してうどんを用途として、20質量%以上が好ましいことが記載されており、前記2(1)(1-3)の特定の製造方法により、軟質小麦を原料とした麺類用小麦粉平均粒径と損傷澱粉量を特定範囲に両立して製麺適性と食感の評価を高めたことが技術的意義とともに示されているのであるから、実施例において、アメリカ産のウエスタンホワイト(WW)を100%用いた例が記載されているからといって、2種類以上を組み合わせて用いた場合においても、上記本件特許発明4の課題が解決できることを当業者であれば認識できるといえる。 したがって、本件特許発明4は、発明の詳細な説明の記載に記載された発明であるといえる。 エ 特許異議申立人は、特許異議申立書24頁において、ブレンドしてうどんを作った場合に同様の効果を奏するか不明である旨主張しているが、理由2に関して示したように、前記2(1)(1-3)の特定の製造方法により、軟質小麦を原料とした麺類用小麦粉平均粒径と損傷澱粉量を特定範囲に両立して製麺適性と食感の評価を高めたことが示されているのであるから、他の原料をブレンドした場合にも一定の効果が期待できるのは、上述のとおりであり、特許異議申立人の主張は採用できない。 (5)以上のとおり、特許異議申立人の特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の特許異議申立理由には理由がない。 4 理由4 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について 請求項3には、前記第2のとおり「前記軟質小麦を粉砕し、その粉砕物の一部又は全部を再び粉砕して得られる請求項1又は2に記載の麺類用小麦粉。」との記載があり、「軟質小麦を粉砕し、その粉砕物の一部又は全部を再び粉砕して得られる」との特定事項が存在しているが、請求項3は、請求項1又は2に記載の麺類用小麦粉を引用しており、請求項1又は2に記載の麺類用小麦粉は、「【請求項1】 軟質小麦を原料とし、平均粒径20μm以上35μm以下且つ損傷澱粉量3.8質量%以下であり、うどん製造用の小麦粉であり、 前記軟質小麦が、アメリカ産のウエスタンホワイトである、麺類用小麦粉。 【請求項2】 平均粒径30μm以下且つ損傷澱粉量3.5質量%以下である請求項1に記載の麺類用小麦粉。」との特定から明らかなように、最終的な麺類用小麦粉としての物の発明が、軟質小麦原料の種類、軟質小麦の平均粒径、損傷澱粉量等で最終物の物性や形状が十分に特定されているものであり、請求項3の上記特定は、結局粉砕を繰り返すことによって麺類用小麦粉が作成されたことを単に特定しているものにすぎないので、第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確であるとはいえない。 また、請求項4には、前記第2のとおり「請求項1?3の何れか一項に記載の麺類用小麦粉を20質量%以上含む原料を用いて得られたうどん。」との記載があり、「請求項1?3の何れか一項に記載の麺類用小麦粉を20質量%以上含む原料を用いて得られた」との特定事項が存在しているが、請求項3に関して述べたように、請求項4は、請求項1又は2に記載の麺類用小麦粉を引用しており、請求項1又は2に記載の麺類用小麦粉は、「【請求項1】 軟質小麦を原料とし、平均粒径20μm以上35μm以下且つ損傷澱粉量3.8質量%以下であり、うどん製造用の小麦粉であり、 前記軟質小麦が、アメリカ産のウエスタンホワイトである、麺類用小麦粉。 【請求項2】 平均粒径30μm以下且つ損傷澱粉量3.5質量%以下である請求項1に記載の麺類用小麦粉。」との特定から明らかなように、最終的な麺類用小麦粉としての物の発明が、軟質小麦原料の種類、軟質小麦の平均粒径、損傷澱粉量等で最終物の物性や形状が十分に特定されているものであり、請求項4の上記特定は、結局請求項1?3の麺類用小麦粉を一定量用いてうどんが得られたことを単に特定しているものにすぎないので、第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確であるとはいえない。 エ 特許異議申立人は、特許異議申立書23頁、25頁において、請求項3、4はプロダクト・バイ・プロセスクレームであり、不可能・非実際的事情があるともいえない旨主張しているが、上述のとおり、請求項3,4の記載は、第三者に不測の不利益を与えるほどに不明確であるとはいえず、特許異議申立人の主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおり、本件請求項1?5に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた特許異議申立理由によっては、取り消されるべきものとはいえない。 また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-11-27 |
出願番号 | 特願2014-36857(P2014-36857) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L) P 1 651・ 536- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 飯室 里美、北村 悠美子、松岡 徹、堂畑 厚志 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
瀬良 聡機 中島 芳人 |
登録日 | 2019-02-08 |
登録番号 | 特許第6474961号(P6474961) |
権利者 | 日清製粉株式会社 |
発明の名称 | 麺類用小麦粉及びその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人翔和国際特許事務所 |