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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B66B
管理番号 1357698
異議申立番号 異議2019-700744  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-18 
確定日 2019-12-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6494701号発明「エレベータ用点検装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6494701号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6494701号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年8月5日に出願した特願2013-162708号の一部を新たな特許出願として、平成29年7月27日に出願され、平成31年3月15日にその特許権の設定登録がされ、平成31年4月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和1年9月18日に特許異議申立人丸本昭典(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6494701号の請求項1の特許に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
エレベータの乗りかごを停止させた状態で昇降路内におけるエレベータ機器を点検するエレベータ用点検装置であって、
前記昇降路に設置された前記エレベータ機器を含む障害物となる対象物の接近を検出する物体検出センサを搭載し、前記障害物となる対象物を前記物体検出センサで検出して自体を水平方向へ移動させて前記障害物となる対象物との接触を回避して前記昇降路内の空中を上昇又は下降して飛行する機能を持つ飛行手段と、前記飛行手段に取り付けられて前記昇降路に設置された前記エレベータ機器を撮像する機能を持つ撮像手段とを備えたことを特徴とするエレベータ用点検装置。」

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証(特開2011-98806号公報)、従たる証拠として甲第2号証(特開2004-211995号公報)及び甲第3号証(特許第4475632号公報)を提出し、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4 甲号証の記載
1 甲第1号証
甲第1号証には、図面とともに、次の記載がある。
(1)「【0031】
図1に示すエレベータ10に適用可能な点検装置30は、かご12を停止させた状態で昇降路11に沿って移動しながら昇降路11内を撮像して、簡便且つ迅速に昇降路11の全長に亘って点検を実施する機能を有する。点検装置30は、特に、強い地震が発生した後の復旧点検作業時において、昇降路11内の被害状況を確認する場合に好適である。」

(2)「【0033】
図2に示すように、点検装置30は、撮像部31と、撮像部31をガイドレール22に沿って移動させる駆動部32と、を備え、撮像部31及び駆動部32が結合した一体構造を有している。故に、点検装置30の撮像部31及び駆動部32は、かごガイドレール22に沿って一緒に移動する。
【0034】
撮像部31は、昇降路11内を撮像するカメラ33を含む装置である。撮像部31は、カメラ33、カメラ33を支持するブラケット34、及びカメラ33により撮像された昇降路11内の画像のデータをモニター装置に無線送信する送信機等を含む。なお、取得された画像のデータを、撮像部31のメモリに記憶し撮像部31を回収してから画像を確認する構成を採用することもできるが、送信機を備えてデータを無線送信する構成とすれば、画像を見ながら撮像部31等を操作することが可能になるため、点検の精度や簡便性向上の観点から好ましい。」

したがって、これらの記載を総合し、本件発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「エレベータ10のかご12を停止させた状態で昇降路11内において点検するエレベータ10の点検装置30であって、
ガイドレール22に沿って移動する駆動部32と、駆動部32に取り付けられて昇降路11内を撮像する機能を持つ撮像部31とを備えたエレベータ10の点検装置30。」

2 甲第2号証
甲第2号証には、図面とともに、次の記載がある。
(1)「【0002】
【従来の技術】
図7は従来のボイラ火炉内検査方法を示す説明図である。同図に示すように、従来、火力プラントのボイラ火炉1内を検査する際には、ボイラ火炉1の運転を停止させてボイラ火炉1内を人間が入れる温度になるまで冷却した後、ボイラ火炉1内に足場材2を搬入して足場3を人手により組み上げる。そして、検査士4が、ボイラ火炉1の火炉壁5の下部に設けたメンテナンスホール(図示せず)からボイラ火炉1内に入って足場3に登り、ボイラ火炉1内の各検査対象部まで移動して、各検査対象部の不具合(変形や損傷など)を検査する。検査対象部は火炉壁5の各部などである。」

(2)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図7に示す従来の検査方法では、足場3の組み立てに長時間を要するとともに、その解体作業も付帯作業として発生するため、検査に時間がかかり、検査効率が非常に悪かった。このため、ボイラ火炉を停止している時間が長くなり、ボイラの稼働効率が悪かった。」

(3)「【0018】
図1に示すように、本実施の形態1の検査システムでは火力プラントのボイラ火炉11内の検査を行う。なお、図1ではボイラ火炉11の一部を破断してボイラ火炉11の内部も図示している。ボイラ火炉11は一般的な構成のものであり、多数の水管12aを配列してなる火炉壁12によって四方が囲まれた密閉空間となっている。火炉壁12の下部にはメンテナンスホール13が形成され、ボイラ火炉12内の上部には多数の管からなる過熱器14などが設けられている。
【0019】
そして、検査時には飛行体としての飛行船15が、メンテナンスホール13からボイラ火炉11内に搬入され、ボイラ火炉11内を図示のように飛行しながら、ボイラ火炉11内の検査対象部(火炉壁12の各部など)を検査する。このときの検査の様子を図4に例示している。」

(4)「【0021】
図2及び図3に示すように、飛行船本体21の下部22には、複数の方向推進手段として複数の方向推進器機(例えばプロペラなど)23が装備がされている。なお、図示例に限らず、推進器23の個数や配置は適宜設定できる。また、飛行船本体21の下部22には、位置情報取得手段としての位置認識器機24及び距離計(例えばレーザ距離計など)26、物理量検査手段としての検査器機25、無線通信手段としての無線器機27などが装備されている。
【0022】
位置認識器機24では、ボイラ火炉11内を飛行する飛行船15の三次元の現在位置を認識する。かかる位置認識器機24としては、例えば人工衛星を用いたGPS(Global Positioning System )の技術を用いて三次元位置を計測するものや、或いは、ボイラ火炉11内の複数個所(例えば四隅)に配置した送信機からの送信信号(音波や電波など)を受信することによって三次元位置を計測するものなどを適宜用いることができる。距離計26では、距離計26(飛行船15)から検査対象部までの距離を計測する。
【0023】
検査器機25としては、具体的には、外観画像手段としての外観画像器(カメラ)25A、熱感知手段としての熱感知器(赤外線カメラ)25B、音響感知手段としての音響感知器(マイクロホン)25C、三次元形状計測手段としての形状計測器25D、風速計測手段としての風速計26Eを備えている。外観画像器25Aでは、検査対象部を撮影して検査対象部の外観画像を得る。……。
【0024】
一方、図2及び図3に示すようにボイラ火炉11外の地上には、遠隔操作手段としての遠隔操作ユニット31、モニタ手段としてのモニタ器機32、診断評価手段としての診断評価ユニット33、ハードディスクなどの記憶器機34、無線通信手段としての無線器機36などが一箇所に集約して配置されており、モニタ器機32の前に検査士33が座るようになっている。
【0025】
遠隔操作ユニット31では、無線器機27,36の無線通信により、位置認識器機24及び距離計26で取得した飛行船15の位置情報を受信し、この飛行体15の位置情報に基づいて飛行船15を自動又は手動で遠隔操作する。……。」

(5)「【0039】
(4-1)例えば図4に示すように外観画像器25Aによって、検査対象部(火炉壁12の一部)40の外観画像を撮影し、この外観画像データを無線通信で地上のモニタ器機32へ送信してモニタする。……。」

(6)「【0047】
以上のように、本実施の形態1の検査システムによれば、ボイラ火炉11内を飛行する飛行船15と、飛行船15に備えた検査機器25と、飛行船15に備えた位置認識器機24及び距離計26と、地上に配置した遠隔操作ユニット31と、地上に配置したモニタ器機32と、飛行船15と地上とに配置した無線器機27,36とを備えており、位置認識器機24及び距離計26で取得した飛行船15の位置情報を無線器機27,36で遠隔操作ユニット31に送信し、この飛行船15の位置情報に基づいて遠隔操作ユニット31により飛行船15を無線器機27,36を介して自動又は手動で遠隔操作しながら、検査機器25によってボイラ火炉11内の検査対象部の物理量を検出し、この物理量を無線器機27,36でモニタ器機32に送信してモニタ器機32でモニタすることを特徴とするため、従来のように足場を組んだり解体するなどの面倒な作業を要せず、短時間で効率的にボイラ火炉11内の検査を行うことができ、その結果、検査費用のコストダウンが図られ、また、ボイラ運休時間が短縮されてボイラ稼働率が向上する。」

(7)「【0064】
(1)不具合の発生によりボイラ火炉11の運転が停止されたとき、ボイラ火炉11内の温度がある程度まで下がった状態で、飛行船15をメンテナンスホール13からボイラ火炉11内へ搬入する。このとき、従来のように人間がボイラ火炉11内に入れる温度(数10度程度)にまでボイラ火炉11内が冷えるのを待つ必要はなく、耐熱性の飛行船15が耐えられる温度(例えば200?300℃)まで冷えた時点で飛行船15をボイラ火炉11内へ搬入して、迅速に不具合部位置の検出作業が開始される。なお、飛行船15に備えた電子器機などの耐熱性が不十分な場合には、これらに断熱材を適宜設けて耐熱性を確保すればよい。」

3 甲第3号証
甲第3号証には、図面とともに、次の記載がある。
(1)「【0013】
以下、本発明の無人飛行体を用いた送電線点検システムの実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施例による無人飛行体を用いた送電線点検システムを示す概略全体構成図である。図2はラジコンヘリ10の構成を示す図である。
本実施例による送電線点検システム1は、図1に示すように、無人飛行体としてのラジオコントロールヘリコプター10(以下、「ラジコンヘリ10」と称する。)と、ラジコンヘリ10の飛行などを制御および管理するとともにラジコンヘリ10からの映像情報などを用いて送電線の点検を行うホストコンピュータ53を備える管制センター50とから構成される。
ここで、ラジコンヘリ10は、図2に示すように、管制センター50との無線通信により各種情報を送受する通信アンテナ11と、ラジコンヘリ10の位置を検出するためにGPS(Global Positioning System)人工衛星100(図1参照)からの信号を受信するGPSアンテナ12と、周囲の状況を監視するために前方および左右側方の3方向を撮影する3式の周囲監視カメラ13と、所望の点検対象を撮影する情報収集用カメラ14と、所望の点検対象との距離を測定する距離センサー15と、情報収集用カメラ14および距離センサー15を収納する収納ケース16aを水平方向および垂直方向の2軸で回転させて情報収集用カメラ14および距離センサー15を向ける方向を操作する方向操作装置16と、収納ケース16aの下部に固設されて環境測定をする観測センサー17と、緊急時に起動してパラシュートを拡開させることによりラジコンヘリ10本体の降下速度を緩和するパラシュート装置(安全装置)18と、ラジコンヘリ10本体とともに通信アンテナ11,GPSアンテナ12,監視用カメラ13,情報収集用カメラ14,距離センサー15,方向操作装置16,観測センサー17およびパラシュート装置18を統括制御するコンピュータ21(図3参照)などが収納された制御ボックス19とを備える。
【0014】
図3はラジコンヘリ10の飛行制御系20の構成を示す図である。
ラジコンヘリ10はまた、図3に示すように、飛行制御系20として、コンピュータ21と、コンピュータ21に接続されたGPS部26,距離センサー15,制御用センサー27,赤外センサー28およびスイッチ機構24(以下、「SW/Mixer部24」と称する。)と、SW/Mixer部24に接続されたモデム23およびサーボ制御部25と、モデム23に接続されたデータ送受信機22と、周囲監視カメラ13と、周囲監視カメラ13に接続された画像送信機29とを備えて、自律飛行しつつ所望の位置まで自動飛行することができるようになっている。……。
【0015】
図4はラジコンヘリ10の情報収集系30の構成を示す図である。
ラジコンヘリ10はまた、図4に示すように、情報収集系30として、情報収集用カメラ14と、情報収集用カメラ14で撮影した画像を録画するためのVTR(Video Tape Recorder)31と、有毒ガスなどの濃度センサーなどのラジコンヘリ10の周囲における環境測定をするための観測センサー17と、VTR31への録画・録音と並行して情報収集用カメラ14からの撮影画像などを符号化および圧縮化するための高圧縮・並行処理部32と、高圧縮・並行処理部32で圧縮された撮影画像および観測センサー17による測定データを管制センター50に送信するための画像送信機29と、データ送受信機22を介して管制センター50から受信した制御信号などに基づいて方向操作装置16を動作させるサーボモータの駆動を制御するためのサーボ制御部36とを備える。……。」

(2)「【0018】
(接近樹木点検動作)
図7は送電線点検システム1の接近樹木点検動作を説明するための図である。
次に、送電線に樹木が接近していないか否かを点検するときの送電線点検システム1の動作(接近樹木点検動作)について、図7を参照して説明する。
ナビゲーションシステム63などを用いて予め設定されている制御プログラムに基づいてラジコンヘリ10の完全自動を指示する制御信号を管制センター50からラジコンヘリ10に送信してラジコンヘリ10の飛行制御系20を動作させることにより、接近樹木の点検箇所までラジコンヘリ10を送電線に沿って自動飛行させる。このとき、たとえば赤外センサー28で障害物を検知し、距離センサー15およびコンピュータ21で飛行方向を修正しながらラジコンヘリ10を自動飛行させる。
接近樹木点検動作を行う場合には、情報収集用カメラ14として2台の小型カメラを使用するとともに、距離センサー15としてレーザー距離計を使用する。……。」

第5 当審の判断
1 対比
本件発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「点検装置30」、「撮像部31」は、本件発明の「点検装置」、「撮像手段」にそれぞれ相当する。
また、引用発明における「ガイドレール22に沿って移動する駆動部32」は、昇降路内を上昇又は下降する機能を持つという限りにおいて、本件発明の「飛行手段」に相当する。
そして、技術常識から見て、引用発明の「点検装置30」は、エレベータ機器を点検するものであり、引用発明の「撮像部31」は、昇降路11内に設置されたエレベータ機器を撮像していると認められる。

したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「エレベータの乗りかごを停止させた状態で昇降路内におけるエレベータ機器を点検するエレベータ用点検装置であって、前記昇降路内を上昇又は下降する機能を持つ手段と、前記手段に取り付けられて前記昇降路に設置された前記エレベータ機器を撮像する機能を持つ撮像手段を備えたエレベータ用点検装置。」

<相違点>
昇降路内を上昇又は下降する機能を持つ手段に関し、本件発明は、「前記昇降路に設置された前記エレベータ機器を含む障害物となる対象物の接近を検出する物体検出センサを搭載し、前記障害物となる対象物を前記物体検出センサで検出して自体を水平方向へ移動させて前記障害物となる対象物との接触を回避して前記昇降路内の空中を上昇又は下降して飛行する機能を持つ飛行手段」であるのに対し、
引用発明では、「ガイドレール22に沿って移動する駆動部32」であって、上記物体検出センサを搭載しておらず、上記物体検出センサで検出して自体を水平方向へ移動させて障害物となる対象物との接触を回避して昇降路内の空中を上昇又は下降して飛行する機能も有していない点。

2 判断
(1)本件発明について
本件特許明細書の段落【0006】、【0010】の記載によれば、従来技術(引用発明)は、基本機能上で昇降路内に立設されたガイドレールを車輪で挟んで移動する駆動装置を採用しているため、地震の強い揺れでガイドレール自体に外れや傾き等の支障が発生すると、それに該当する箇所で駆動装置が動かなくなって該当箇所以降の点検を行うことができず、目的とする昇降路の全長に亘っての点検を継続して実施することができなくなる事態が起こり得るという課題を見出し、本件発明は、それを解決すべくなされたものであり、上記相違点に係る構成を採用することにより、ガイドレール自体に支障があっても対応できるようにしたという効果を発揮していることが認められる。
すなわち、本件発明は、ガイドレールを用いずに昇降路内を上昇又は下降する飛行手段を備えた点検装置とし、その上で、飛行手段としたことに伴って生じる、空中でのエレベータ機器を含む障害物となる対象物との接触という問題を回避するために、当該対象物の接近を検出する物体検出センサを搭載したことで、上記課題を解決することができたものであるから、本件発明の上記相違点に係る構成は、一体不可分のものとして本件発明を成り立たせているものであると認められる。

(2)上記相違点について
上記(1)を踏まえて、上記相違点について検討する。
ア 上記第4の2によれば、甲第2号証には、
「ボイラ火炉11等の密閉空間内を飛行する飛行船15と、飛行船15に備えた検査器機25と、飛行船15に備えた位置情報取得手段としての位置認識器機24及び距離計26と、地上に配置した遠隔操作ユニット31と、飛行船15に配置した無線器機27とを備えており、
位置認識器機24及び距離計26で取得した飛行船15の位置情報を無線器機27で遠隔操作ユニット31に送信し、飛行船15の位置情報に基づいて遠隔操作ユニット31により飛行船15を無線器機27を介して自動又は手動で遠隔操作しながら、検査器機25の外観画像器(カメラ)25Aによって密閉空間内の検査対象部40(例えば、火炉壁12の一部)の外観画像を得る密閉空間内検査システム。」
の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
しかしながら、甲第2号証には、密閉空間をエレベータの昇降路とすることや、飛行船15が、「エレベータ機器を含む障害物となる対象物の接近を検出する物体検出センサを搭載し、障害物となる対象物を物体検出センサで検出して自体を水平方向へ移動させて障害物となる対象物との接触を回避して昇降路内の空中を上昇又は下降して飛行する機能を持つ」ことについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲第2号証には、本件発明の上記相違点に係る構成の一部分が開示されているとはいい得るものの、本件発明の上記相違点に係る構成全体は記載されていない。

イ また、上記第4の3によれば、甲第3号証には、
「自律飛行しつつ送電線の点検箇所まで飛行するための飛行制御系20および点検箇所の画像を含む各種情報を収集するための情報収集系30を備えるラジコンヘリ10を用いた送電線点検システム1であって、
飛行制御系20は、コンピュータ21と、コンピュータ21に接続された距離センサー15、赤外センサー28とを備え、
情報収集系30は、情報収集用カメラ14を備え、
ラジコンヘリ10を点検箇所まで送電線に沿って自動飛行させるときは、飛行制御系20を動作させることにより、赤外センサー28で障害物を検知し、距離センサー15およびコンピュータ21で飛行方向を修正しながら自動飛行させ、点検動作を行うときは、情報収集系30の情報収集用カメラ14を使用する送電線点検システム1。」
の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
しかしながら、甲第3号証には、ラジコンヘリ10が、昇降路に設置されたエレベータ機器を点検することや、赤外センサー28が、該エレベータ機器を含む障害物となる対象物を検出して、ラジコンヘリ10を水平方向へ移動させて障害物となる対象物との接触を回避して昇降路内の空中を上昇又は下降して飛行させることについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲第3号証には、本件発明の上記相違点に係る構成の一部分が開示されているとはいい得るものの、本件発明の上記相違点に係る構成全体は記載されていない。

ウ 以上のとおり、甲第1号証?甲第3号証の各甲号証のいずれにも、本件発明の上記相違点に係る構成全体は記載も示唆もされていない。したがって、本件発明は、甲第1号証?甲第3号証の記載に基いて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(3)引用発明への甲2発明の適用について
上記第4の2によれば、甲第2号証には、従来、火力プラントのボイラ火炉1内を検査する際には、ボイラ火炉1の運転を停止させてボイラ火炉1内を人間が入れる温度になるまで冷却した後、ボイラ火炉1内に足場材2を搬入して足場3を人手により組み上げ、検査士4がボイラ火炉1内に入って足場3に登り、ボイラ火炉1内の各検査対象部まで移動して、火炉壁5の各部などの各検査対象部の不具合を検査していたが、足場3の組み立てに長時間を要するとともに、その解体作業も付帯作業として発生するため、検査に時間がかかり、検査効率が非常に悪く、このため、ボイラ火炉を停止している時間が長くなり、ボイラの稼働効率が悪かったことを課題とし、甲2発明の構成を採用することにより、従来のように人間がボイラ火炉11内に入れる温度(数10度程度)にまでボイラ火炉11内が冷えるのを待つ必要はなく、耐熱性の飛行船15が耐えられる温度(例えば200?300℃)まで冷えた時点で飛行船15をボイラ火炉11内へ搬入して、迅速に不具合部位置の検出作業が開始されるので、上記課題を解決することができる旨が記載されている。
確かに、甲2発明の「飛行船15」は、引用発明の「点検装置30」と、密閉空間内を検査する装置である点で一見共通しているが、甲2発明の課題から見て、甲2発明でいう密閉空間とは、ボイラ火炉のように加熱され、人間が入るためには冷えるのを待つ必要がある空間であって、引用発明におけるエレベータの昇降路はそのような空間でないことは明らかである。そうすると、当業者が引用発明に甲2発明を適用することに想到するとはいい難い。
また、甲第1号証には、点検装置30の駆動部32はガイドレール22に取り付けられ、駆動部32をガイドレール22に沿って移動させることしか記載されておらず、駆動部32をガイドレール22に取り付けないことを窺わせるような記載はない。そして、引用発明に甲2発明を適用して、駆動部32を、ガイドレール22に取り付けることに換えて、ガイドレール22から離れて水平方向へも移動可能な飛行船15とする動機が何ら見当たらない。
したがって、引用発明に、甲第2号証に記載された技術的事項を適用する動機付けが存在するとは認められない。

(4)引用発明への甲3発明の適用について
上記(3)のとおり、甲第1号証には、点検装置30の駆動部32をガイドレール22に取り付けないことを窺わせるような記載はなく、引用発明に甲3発明を適用して、駆動部32を、ガイドレール22に取り付けることに換えて、ガイドレール22から離れて水平方向へも移動可能なラジコンヘリ10とする動機が何ら見当たらない。
したがって、引用発明に、甲第3号証に記載された技術的事項を適用する動機付けが存在するとは認められない。

(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、概ね、密閉空間内を飛行手段により検査することは甲第2号証に記載されており、飛行手段において自動で障害物を回避する構成は甲第3号証に記載されているから、引用発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項を組み合わせることで、当業者は上記相違点に容易に想到することができる旨を主張している。
しかしながら、引用発明に甲第2号証に記載された技術的事項を適用する動機付けが存在しないことは、上記(3)のとおりである。また、仮に、引用発明に、甲第2号証に記載された技術的事項を適用することが容易であるとしても、駆動部32を、ガイドレール22に沿って移動させることに換えて、昇降路11内の空中を上昇又は下降して飛行する飛行船15とする構成に至るにとどまり、当該構成に対して、飛行船15に自動で障害物を回避する機能を設ける必要があるとの課題を認識して、甲第3号証に記載された技術的事項を適用することが容易であるというのは、いわゆる「容易の容易」に当たるから、本件発明の上記相違点に係る構成の容易想到性を認めることはできない。
したがって、上記主張は採用することができない。

3 小括
以上のとおり、請求項1に係る発明は、引用発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-05 
出願番号 特願2017-145266(P2017-145266)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B66B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 須山 直紀  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 小関 峰夫
井上 信
登録日 2019-03-15 
登録番号 特許第6494701号(P6494701)
権利者 株式会社日立ビルシステム
発明の名称 エレベータ用点検装置  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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