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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20189244 審決 特許
異議2021700519 審決 特許
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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A61L
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61L
管理番号 1357703
異議申立番号 異議2019-700446  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-03 
確定日 2019-12-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6434624号発明「細胞構造体及び細胞構造体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6434624号の請求項1?9、13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6434624号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成28年7月8日(優先権主張2015年7月10日、日本国)を国際出願日として特許出願され、平成30年11月16日にその特許権の設定登録がされ、同年12月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、特許異議申立人 松永健太郎により特許異議の申立てがされ、当審において令和1年9月10日付けで取消理由を通知し、令和1年11月12日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許第6434624号の請求項1?13に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」?「本件発明13」といい、まとめて、「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、次のとおりのものである。
なお、以下において、請求項1?4、6?13は本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4、6?13に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項5の「cm3」は「cm^(3)」の誤記であることが明らかであるので、請求項5は以下のとおり合議体が認定した。

「【請求項1】
生体親和性高分子ブロックと、2種類以上の細胞とを含み、複数個の前記細胞間の隙間に複数個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている、細胞構造体の製造方法であって、
前記2種類以上の細胞が、血管内皮細胞、心筋細胞、膵島細胞、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞、神経細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、角膜上皮細胞及び網膜色素上皮細胞からなる群から選択される少なくとも一種の第一の細胞と、間葉系細胞、間質細胞、線維芽細胞、平滑筋細胞、筋芽細胞、間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞及び臍帯由来幹細胞からなる群から選択される少なくとも一種の第二の細胞とを含み、
生体親和性高分子を含有する水溶液を凍結乾燥することを含む生体親和性高分子ブロックの製造工程と、前記生体親和性高分子ブロックと、前記2種類以上の細胞を含有する培養液との混合物をインキュベートすることとを含む、
前記細胞構造体の製造方法。
【請求項2】
前記第一の細胞と前記第二の細胞との細胞数の比率が9:1?1:99である、請求項1に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項3】
前記生体親和性高分子ブロックの大きさが10μm以上300μm以下である、請求項1又は2に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項4】
厚さ又は直径が400μm以上3cm以下である、請求項1から3の何れか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項5】
前記生体親和性高分子ブロックのタップ密度が10mg/cm^(3)以上500mg/cm^(3)以下である、請求項1から4の何れか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項6】
前記生体親和性高分子ブロックにおいて、生体親和性高分子が架橋されている、請求項1から5の何れか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項7】
前記生体親和性高分子ブロックの架橋度が2以上であり、かつ前記生体親和性高分子ブロックの吸水率が300%以上である、請求項6に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項8】
前記生体親和性高分子ブロックが、生体親和性高分子を含有する固形物を粉砕することにより得られる生体親和性高分子ブロックである、請求項1から7の何れか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項9】
細胞1個当り0.0000001μg以上1μg以下の生体親和性高分子ブロックを含む、請求項1から8の何れか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項10】
生体親和性高分子が、リコンビナントゼラチンである、請求項1から9の何れか一項に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項11】
リコンビナントゼラチンが、下記式で示される、請求項10に記載の細胞構造体の製造方法。
式:A-[(Gly-X-Y)n]m-B
式中、Aは任意のアミノ酸又はアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸又はアミノ酸配列を示し、n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、nは3?100の整数を示し、mは2?10の整数を示す。
なお、n個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【請求項12】
リコンビナントゼラチンが、
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;
配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;又は
配列番号1に記載のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;
の何れかである、請求項10又は11に記載の細胞構造体の製造方法。
【請求項13】
前記第一の細胞が、血管内皮細胞又は肝細胞であり、前記第二の細胞が、線維芽細胞、平滑筋細胞又は間葉系幹細胞である、請求項1から12の何れか一項に記載の細胞構造体の製造方法。」

第3 取消理由の概要及び当審の判断
3-1 取消理由の概要
令和1年9月10日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1?9、13に係る発明は、引用文献1に記載された発明、又は引用文献1に記載された発明及び引用文献4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?9、13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

引用文献1:特開2014-12114号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証)
引用文献4:国際公開第2014/133081号(特許異議申立人が提出した甲第1号証)

3-2 各引用文献の記載
(1)引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1には、次のとおりの記載がある。
(i)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体親和性を有する高分子ブロックと、少なくとも一種類の細胞と、を含み、該複数個の細胞間の隙間に複数個の該高分子ブロックが配置されている、細胞移植用細胞構造体。
【請求項2】
該高分子ブロックの大きさが1μm以上700μm以下である、請求項1に記載の細胞移植用細胞構造体。
【請求項3】
該高分子ブロックの大きさが10μm以上300μm以下である請求項2に記載の細胞移植用細胞構造体。
【請求項4】
厚さ又は直径が400μm以上3cm以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載の細胞移植用細胞構造体。
【請求項5】
厚さ又は直径が720μm以上1cm以下である、請求項4に記載の細胞移植用細胞構造体。
【請求項6】
前記高分子ブロックと前記細胞との比率が、細胞1個当り0.0000001μg以上1μg以下である請求項1?5のいずれか一項に記載の細胞移植用細胞構造体。
・・・
【請求項19】
前記細胞が、万能細胞、体性幹細胞、前駆細胞および成熟細胞からなる群から選択される細胞である請求項1から18の何れか1項に記載の細胞移植用細胞構造体。
【請求項20】
前記細胞が、非血管系の細胞を含む請求項19に記載の細胞移植用細胞構造体。
【請求項21】
前記細胞が、非血管系の細胞のみである請求項20に記載の細胞移植用細胞構造体。
【請求項22】
前記細胞が二種類以上であり、非血管系の細胞および血管系の細胞の両方を含む請求項20に記載の細胞移植用細胞構造体。」

(ii)「【0013】
前述したように、従来の技術では、細胞移植に適した十分な厚み、移植した細胞の壊死の抑制、血管形成に対し、十分に要求を満たした生体材料は提供されておらず、これらの要求を満たす、細胞移植用生体材料が望まれていた。
そこで、本発明は、細胞移植のために適した厚みを有することが可能であり、移植された細胞が壊死することを抑制し、移植後、移植部位に、血管を形成し得る細胞移植用細胞構造体を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、細胞移植に利用する細胞移植用細胞構造体として、生体親和性を有する高分子ブロック(生体親和性を有した高分子材料を含有する塊)と細胞とを特定の配置としたものを用いることにより、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明の細胞移植用細胞構造体は、生体親和性を有する高分子ブロックと、少なくとも一種類の細胞と、を含み、該複数個の細胞間の隙間に複数個の該高分子ブロックが配置されていることを特徴とするものである。
・・・
【発明の効果】
【0020】
本発明の細胞移植用細胞構造体は、細胞移植のために適した厚みを有することが可能であり、かつ、生体親和性を有する高分子ブロック(生体親和性を有した高分子材料を含有する塊)と細胞とがモザイク状に3次元配置されることにより、構造体中で細胞が均一に存在する細胞3次元構造体を形成され、外部から細胞3次元構造体の内部への栄養送達を可能となる。これにより、本発明の細胞移植用細胞構造体を用いて、細胞移植を行うと、移植された細胞の壊死を抑制し、移植が可能となる。更に、使用する細胞種として、血管系の細胞を使用しない場合であっても、移植後、移植部位に、血管を形成し得る。また、本発明の細胞移植用細胞集合体は、移植後、移植部位に、血管を形成し得る。」

(iii)「【0059】
本発明の細胞移植用細胞構造体は、非血管系の細胞を含むものも好適に使用することができる。また、本発明の細胞移植用細胞構造体を構成する細胞が、非血管系の細胞のみであるものも好適に使用することができ、非血管系の細胞のみである、本発明の細胞移植用細胞構造体により、移植後、移植部位に、血管を形成することができる。更に、本発明の細胞移植用細胞構造体を構成する細胞が二種類以上であり、非血管系の細胞および血管系の細胞の両方を含む場合には、非血管系の細胞のみで構成されている場合と比較して、より血管形成することが可能となり、より好ましい。
・・・
【0065】
なお、本明細書において、血管系の細胞とは、血管形成に関連する細胞を意味し、血管および血液を構成する細胞、およびその細胞に分化することができる前駆細胞、体性幹細胞である。ここで、血管系の細胞には、ES細胞、GS細胞、又はiPS細胞等の万能細胞や、間葉系幹細胞(MSC)のような、血管および血液を構成する細胞に、自然には分化しないものは含まれない。血管系の細胞として、好ましくは血管を構成する細胞である。脊椎動物由来細胞(特に、ヒト由来細胞)では、血管を構成する細胞は、血管内皮細胞および血管平滑筋細胞を好適に挙げることができる。血管内皮細胞は、静脈内皮細胞および動脈内皮細胞どちらも含む。血管内皮細胞の前駆細胞としては、血管内皮前駆細胞を使用することができる。好ましくは血管内皮細胞および血管内皮前駆細胞である。血液を構成する細胞は、血球細胞が使用でき、リンパ球や好中球などの白血球細胞、単球細胞、それらの幹細胞である造血幹細胞を使用できる。また、本明細書において、非血管系の細胞とは、上記の血管系以外の細胞を意味する。例えば、ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞(MSC)、心筋幹細胞、心筋細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、肝細胞または神経細胞を使用することができる。好ましくは、間葉系幹細胞(MSC)、軟骨細胞、筋芽細胞、心筋幹細胞、心筋細胞、肝細胞またはiPS細胞を使用することができる。より好ましくは、間葉系幹細胞(MSC)、心筋幹細胞、心筋細胞または筋芽細胞である。」

(iv)「【0071】
(4)細胞構造体の製造方法
本発明の細胞構造体は、生体親和性を有した高分子材料からなる塊(「ブロック」)と、細胞とを交互に配置することにより製造できる。製造方法は特に限定されないが、好ましくは高分子ブロックを形成したのち、細胞を播種する方法である。具体的には、生体親和性を有する高分子ブロックと細胞含有培養液との混合物をインキュベートすることによって、本発明の細胞構造体を製造することができる。
・・・
【0084】
非血管系の細胞および血管系の細胞の両方を含む場合の細胞構造体の製造方法として、例えば、下記(1)?(3)の製造方法を好適に挙げることができる。
(1)は非血管系の細胞を用いて前述の方法で細胞構造体を形成した後、血管系の細胞および高分子ブロックを加える工程を有する製造方法である。ここで、「血管系の細胞および高分子ブロック工程」とは、前述した、調整したモザイク状細胞塊同士を融合させる方法、および、分化培地又は増殖培地下でボリュームアップさせる方法、いずれも含むものである。この方法により、(i)細胞構造体の中心部では、血管系の細胞と比較して、非血管系の細胞の面積が多く、周辺部では、非血管系の細胞と比較して、血管系の細胞の面積が多い細胞構造体、(ii)細胞構造体の、中心部の非血管系の細胞の面積が、周辺部の非血管系の細胞の面積より多い細胞移植用細胞構造体、(iii) 細胞構造体の、中心部の血管系の細胞の面積が、周辺部の血管系の細胞の面積より少ない細胞移植用細胞構造体、を製造することが可能となる。
(2)は血管系の細胞を用いて前述の方法で細胞構造体を形成した後、非血管系の細胞および高分子ブロックを加える工程を有する製造方法である。ここで、「非血管系の細胞および高分子ブロック工程」とは、前述した、調整したモザイク状細胞塊同士を融合させる方法、および、分化培地又は増殖培地下でボリュームアップさせる方法、いずれも含むものである。この方法により、(i)細胞構造体の中心部では、非血管系の細胞と比較して、管系の細胞の面積が多く、周辺部では、血管系の細胞と比較して、非血管系の細胞の面積が多い細胞構造体、(ii)細胞構造体の、中心部の血管系の細胞の面積が、周辺部の血管系の細胞の面積より多い細胞移植用細胞構造体、(iii) 細胞構造体の、中心部の非血管系の細胞の面積が、周辺部の非血管系の細胞の面積より少ない細胞移植用細胞構造体、を製造することが可能となる。
(3)は、非血管系の細胞および血管系の細胞を実質的に同時に使用し、前述の方法で細胞構造体を形成させる製造方法である。この方法では、細胞構造体のいずれの部位も、非血管系の細胞および血管系の細胞のいずれかが、大きく偏在することのない細胞構造体を製造することが可能となる。」

(v)「【実施例】
【0093】
実施例1:リコンビナントペプチド
リコンビナントペプチド(リコンビナントペプチド)として以下記載のCBE3を用意した(WO2008-103041に記載)。
CBE3
分子量:51.6kD
構造: GAP[(GXY)63]3G
アミノ酸数:571個
RGD配列:12個
イミノ酸含量:33%
ほぼ100%のアミノ酸がGXYの繰り返し構造である。CBE3のアミノ酸配列には、セリン、スレオニン、アスパラギン、チロシン及びシステインは含まれていない。CBE3はERGD配列を有している。
等電点:9.34、GRAVY値:-0.682、1/IOB値:0.323
【0094】
アミノ酸配列(配列表の配列番号1)(WO2008/103041号公報の配列番号3と同じ。但し末尾のXは「P」に修正)
GAP(GAPGLQGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPIGPPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPIGPPGPAGAPGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPP)3G
【0095】
実施例2:リコンビナントペプチドμブロックの作製
基材ブロックとして、リコンビナントペプチドCBE3を用いて、不定形のμブロックを作製した。1000mgのリコンビナントペプチドを9448μLの超純水に溶解し、1N HClを152μL添加後、終濃度1.0%となるように、25%グルタルアルデヒドを400μL添加し、50℃で3時間反応させ、架橋ゼラチンゲルを作製した。この架橋ゼラチンゲルを、1Lの0.2Mグリシン溶液へ浸漬し、40℃2時間振とうさせた。その後、架橋ゼラチンゲルを、5Lの超純水中で1時間振とう洗浄、超純水を新しい物へ置換し、再び洗浄1時間、を繰り返し、計6回洗浄した。洗浄後の架橋ゼラチンゲルを、-80℃で5時間凍結させた後、凍結乾燥機(EYELA、FDU-1000)で凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥体を、ニューパワーミル(大阪ケミカル、ニューパワーミルPM-2005)で粉砕した。粉砕は、最大回転数で1分間×5回、計5分間の粉砕で行った。得られた粉砕物について、ステンレス製ふるいでサイズ分けし、25?53μm及び53?106μmのリコンビナントペプチドμブロックを得た。」

(vi)「【0127】
実施例20:リコンビナントペプチドμブロックを用いたモザイク細胞塊の作製(hMSC+hECFC)
実施例20-(1):ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)を増殖培地(タカラバイオ:MSCGM BulletKitTM)にて10万cells/mLに調整し、実施例2で作製したリコンビナントペプチドμブロックを0.1mg/mLとなるように加えた後、200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心(600g、5分)し、24時間静置し、直径1mm程度の球状の、リコンビナントペプチドμブロックとhMSC細胞からなるモザイク細胞塊を作製した。その後、培地を除去し、ヒト血管内皮前駆細胞(hECFC)を増殖培地(Lonza:EGM-2+ECFC serum supplement)にて10万cells/mLに調整し、実施例2で作製したリコンビナントペプチドμブロックを0.025mg/mLとなるように加えた後、hMSC細胞のモザイク細胞塊のある200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心(600g、5分)し、24時間静置し、直径1mm程度の球状の、リコンビナントペプチドμブロックとhMSC細胞からなるモザイク細胞塊の周辺部にhECFCとリコンビナントペプチドμブロックの層ができているモザイク細胞塊を作製した。なお、U字型のプレート中で作製したため、本モザイク細胞塊は、球状であった。
【0128】
実施例20-(2):ヒト血管内皮前駆細胞(hECFC)を増殖培地(Lonza:EGM-2+ECFC serum supplement)にて10万cells/mLに調整し、実施例2で作製したリコンビナントペプチドμブロックを0.05mg/mLとなるように加えた後、200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心(600g、5分)し、24時間静置し、扁平状のECFCとリコンビナントペプチドμブロックからなるモザイク細胞塊を作製した。その後、培地を除去し、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)を増殖培地(タカラバイオ:MSCGM BulletKitTM)にて10万cells/mLに調整し、実施例2で作製したリコンビナントペプチドμブロックを0.1mg/mLとなるように加えた後、hECFCモザイク細胞塊がある200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心(600g、5分)し、24時間静置し、直径1mm程度の球状の、ECFCとリコンビナントペプチドμブロックからなるモザイク細胞塊を含む、リコンビナントペプチドμブロックとhMSC細胞からなるモザイク細胞塊を作製した。なお、U字型のプレート中で作製したため、本モザイク細胞塊は、球状であった(ここで得られたモザイク細胞塊をAとする)。さらに、ヒト血管内皮前駆細胞(hECFC)を20万cells/mLでリコンビナントペプチドμブロックを0.1mg/mLに、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)を20万cells/mLでリコンビナントペプチドμブロックを0.2mg/mLとした場合でも、厚さ1mm程度、直径1.5mm程度のモザイク細胞塊を作製できた(ここで得られたモザイク細胞塊をBとする)。
【0129】
実施例20-(3):ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)を増殖培地(タカラバイオ:MSCGM BulletKitTM)にて10万cells/mLに調整し、ヒト血管内皮前駆細胞(hECFC)を増殖培地(Lonza:EGM-2+ECFC serum supplement)にて10万cells/mLに調整し、実施例2で作製したリコンビナントペプチドμブロックを0.15mg/mLとなるように加えた後、200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心(600g、5分)し、48時間静置し、直径1mm程度の球状の、リコンビナントペプチドμブロックとhMSCとhECFCからなるモザイク細胞塊を作製した。なお、U字型のプレート中で作製したため、本モザイク細胞塊は、球状であった。」

イ 上記アに摘示した引用文献1の記載(特に、摘示事項(vi)の実施例20-(3))によれば、引用文献1には、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)、ヒト血管内皮前駆細胞(hECFC)、及び実施例2で作製したリコンビナントペプチドμブロックからなるモザイク細胞塊の製造方法が記載されていることから、摘示事項(v)の実施例2に記載のリコンビナントペプチドμブロックの製造方法も合わせると、引用文献1には、次の発明が記載されているものと認める。

「リコンビナントペプチドμブロックと、2種の細胞とを含む、直径1mm程度の球状のモザイク細胞塊である細胞移植用細胞構造体の製造方法であって、
前記2種の細胞が、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)及びヒト血管内皮前駆細胞(hECFC)であり、
前記リコンビナントペプチドμブロックは、リコンビナントペプチドCBE3をグルタルアルデヒドで架橋することにより作製された架橋ゼラチンゲルを超純水で洗浄した後に凍結乾燥する工程、及び、凍結乾燥体を粉砕し、25?53μm及び53?106μmにサイズ分けする工程により製造され、かつ、
前記hMSCを増殖培地にて10万cells/mLに調整し、前記hECFCを増殖培地にて10万cells/mLに調整し、前記リコンビナントペプチドμブロックを0.15mg/mLとなるように加えた後、200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心し、48時間静置することを含む、
細胞移植用細胞構造体の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)

(2)引用文献4の記載事項
ア 引用文献4には、次のとおりの記載がある。
(i)「請求の範囲
[請求項1] グルタルアルデヒドを含まない生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種類の細胞とを含み、複数個の細胞間の隙間に複数個の生体親和性高分子ブロックが配置されている、細胞移植用細胞構造体であって、前記生体親和性高分子ブロックのタップ密度が10mg/cm^(3)以上500mg/cm^(3)以下であるか、又は前記高分子ブロックの二次元断面像における断面積の平方根÷周囲長の値が0.01以上0.13以下である、細胞移植用細胞構造体。
[請求項2] 前記生体親和性高分子ブロック一つの大きさが20μm以上200μm以下である、請求項1に記載の細胞移植用細胞構造体。
[請求項3] 前記生体親和性高分子ブロック一つの大きさが50μm以上120μm以下である、請求項1又は2に記載の細胞移植用細胞構造体。
[請求項4] 前記生体親和性高分子ブロックにおいて、生体親和性高分子が熱、紫外線又は酵素により架橋されている、請求項1から3の何れか1項に記載の細胞移植用細胞構造体。
[請求項5] 前記生体親和性高分子ブロックの架橋度が6以上であり、かつ前記生体親和性高分子ブロックの吸水率が300%以上である、請求項4に記載の細胞移植用細胞構造体。
[請求項6] 前記生体親和性高分子ブロックが、生体親和性高分子の多孔質体を粉砕することにより得られる生体親和性高分子ブロックである、請求項1から5の何れか1項に記載の細胞移植用細胞構造体。
[請求項7] 前記生体親和性高分子の多孔質体が、
(a)生体親和性高分子の溶液を、溶液内で最も液温の高い部分の液温(内部最高液温)が未凍結状態で「溶媒融点-3℃」以下となる凍結処理により凍結する工程;及び
(b)前記工程(a)で得られた凍結した生体親和性高分子を凍結乾燥する工程:
を含む方法により製造されたものである、請求項6に記載の細胞移植用細胞構造体。
・・・
[請求項19] 前記細胞が、非血管系の細胞および血管系の細胞の両方を含む、請求項1から17の何れか1項に記載の細胞移植用細胞構造体。
・・・
[請求項39] 請求項24から37の何れか1項に記載の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種類の細胞とを混合することを含む、請求項1から23の何れか1項に記載の細胞移植用細胞構造体を製造する方法。」

(ii)「[0085] また本明細書中後述する通り、本発明においては、血管系の細胞を使用することもできる。・・・血管系の細胞として、好ましくは血管を構成する細胞である。脊椎動物由来細胞(特に、ヒト由来細胞)では、血管を構成する細胞は、血管内皮細胞および血管平滑筋細胞を好適に挙げることができる。血管内皮細胞は、静脈内皮細胞および動脈内皮細胞どちらも含む。血管内皮細胞の前駆細胞としては、血管内皮前駆細胞を使用することができる。・・・
[0086] 本明細書において、非血管系の細胞とは、上記の血管系以外の細胞を意味する。例えば、ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞(MSC)、心筋幹細胞、心筋細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、肝細胞または神経細胞を使用することができる。・・・」

(iii)「[0097] 本発明の細胞移植用細胞構造体は、非血管系の細胞を含むものも好適に使用することができる。また、本発明の細胞移植用細胞構造体を構成する細胞が、非血管系の細胞のみであるものも好適に使用することができる。細胞として非血管系の細胞のみを含む本発明の細胞移植用細胞構造体により、移植後、移植部位に、血管を形成することができる。また、本発明の細胞移植用細胞構造体を構成する細胞が二種類以上であり、非血管系の細胞および血管系の細胞の両方を含む場合には、非血管系の細胞のみで構成されている場合と比較して、より血管形成することが可能となり、好ましい。」

(iv)「[0116] 非血管系の細胞および血管系の細胞の両方を含む場合の細胞構造体の製造方法として、例えば、下記(a)?(c)の製造方法を好適に挙げることができる。・・・
(c)は、非血管系の細胞および血管系の細胞を実質的に同時に使用し、前述の方法で細胞構造体を形成させる製造方法である。この方法では、細胞構造体のいずれの部位も、非血管系の細胞および血管系の細胞のいずれかが、大きく偏在することのない細胞構造体を製造することが可能となる。」

(v)「[0123] [実施例2] リコンビナントペプチド多孔質体(高分子多孔質体)の作製 厚さ1mm、直径47mmのアルミ製円筒カップ状容器を用意した。円筒カップは曲面を側面としたとき、側面は1mmのアルミで閉鎖されており、底面(平板の円形状)も1mmのアルミで閉鎖されている。一方、上面は開放された形をしている。また、側面の内部にのみ、肉厚1mmのテフロン(登録商標)を均一に敷き詰め、結果として円筒カップの内径は45mmになっている。以後、この容器のことを円筒形容器と呼称する。
[0124] CBE3水溶液を調製し、このCBE3水溶液を円筒形容器に流し込んだ。冷凍庫内で冷却棚板を用いて底面からCBE3水溶液を冷却した。この際、冷却棚板の温度、及び棚板と円筒形容器の間に挟む断熱板(硝子板)の厚さ、入れるCBE3水溶液の最終濃度、及び水溶液量を以下に記載の通り用意した。
「ア」 棚板温度-40℃、硝子板の厚さ2.2mm、CBE3水溶液の最終濃度12%、水溶液量4mL。
「イ」 棚板温度-60℃、硝子板の厚さ2.2mm、CBE3水溶液の最終濃度7.5%、水溶液量4mL。
「ウ」 棚板温度-40℃、硝子板の厚さ2.2mm、CBE3水溶液の最終濃度4.0%、水溶液量4mL。
[0125] このようにして得た凍結CBE3ブロックを凍結乾燥して、CBE3多孔質体を得た。」

(vi)「[0131] [実施例5] リコンビナントペプチドブロックの作製(多孔質体の粉砕と架橋)
実施例2で得られた「ア」、「イ」、「ウ」のCBE3多孔質体をニューパワーミル(大阪ケミカル、ニューパワーミルPM-2005)で粉砕した。粉砕は、最大回転数で1分間×5回、計5分間の粉砕で行った。得られた粉砕物について、ステンレス製ふるいでサイズ分けし、25?53μm、53?106μm、106μm?180μmのCBE3ブロックを得た。 その後、減圧下160℃で熱架橋(架橋時間は24時間、48時間、56時間、60時間、72時間、84時間、96時間、120時間、288時間の9種類を実施した)を施して、試料を得た。以下、「ア」の53?106μmを「12%中」、「イ」の25?53μmを「7.5%小」、「イ」の53?106μmを「7.5%中」、「イ」の106?180μmを「7.5%大」、「ウ」の53?106μmを「4%中」と呼ぶ。」

(vii)「[0150] [実施例11] リコンビナントペプチドブロックを用いたモザイク細胞塊の作製(hMSC+hECFC) ヒト血管内皮前駆細胞(hECFC)を増殖培地(Lonza:EGM-2+ECFC serum supplement)にて10万cells/mLに調整し、実施例5で作製したCBE3ブロックを0.05mg/mLとなるように加えた後、200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心(600g、5分)し、24時間静置し、扁平状の、ECFCとCBE3ブロックからなるモザイク細胞塊を作製した。その後、培地を除去し、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)を増殖培地(タカラバイオ:MSCGM BulletKit TM )にて10万cells/mLに調整し、実施例5で作製したCBE3ブロックを0.1mg/mLとなるように加えた後、hECFCモザイク細胞塊がある200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心(600g、5分)し、24時間静置し、直径1mm程度の球状の、hMSCとhECFCとCBE3ブロックからなるモザイク細胞塊を作製した。また、これは「12%中」、「7.5%小」、「7.5%中」、「7.5%大」、「4%中」のいずれも上記と同様に作成できた。」

3-3 本件明細書記載の本件発明の技術的意義について
(1)本件発明の課題、課題を解決するための手段及び効果
ア 本件明細書には、本件発明の課題、課題を解決するための手段及び効果について、次の記載がある。
(i)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1から3に記載の細胞構造体を製造するに際して、使用する細胞の種類によっては、所望の大きさの細胞構造体を構築する時間をより短縮することが望まれる場合や、より大きな立体状の細胞構造体を形成することが望まれる場合があった。本発明は、短時間で製造することができ、かつ所定以上の大きさを有する細胞構造体を提供することを課題とした。更に本発明は、上記細胞構造体の製造方法を提供することを解決すべき課題とした。」

(ii)「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、生体親和性高分子ブロックと細胞とを含み、複数個の細胞間の隙間に複数個の生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体において、上記の細胞として、細胞構造体の形成に比較的時間がかかる第一の細胞と、基材への接着力が強くかつ細胞塊を形成しやすい第二の細胞とを組み合わせて使用することによって、所定以上の大きさを有する細胞構造体を短時間で製造することに成功した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。」

(iii)「【発明の効果】
【0011】
本発明の細胞構造体は、短時間で製造することができ、かつ所定以上の大きさを有する。また、本発明の細胞構造体の製造方法によれば、所定以上の大きさを有する細胞構造体を短時間で製造することができる。」

(iv)「【0015】
「所定以上の大きさを有する細胞構造体を短時間で製造できる」とは、第一の細胞に対して第二の細胞を組み合わせて使用することによって、第一の細胞のみを使用して細胞構造体を製造した場合と比較して、所定以上の大きさを有する細胞構造体を短時間で製造できることを意味し、「所定以上の大きさ」及び「短時間」については具体的には限定されるものではない。「所定以上の大きさを有する細胞構造体を短時間で製造できる」ことの一例としては、2×10^(4)個の細胞と0.02mgの生体親和性高分子ブロックを用いて直径1mm程度の球体を細胞非接着性U字底96ウエルプレートの1ウエル内で製造する際に、1日(24時間)以内に上部から見て直径1.5mm以内の大きさの細胞構造体を形成できる程度を意味するが、上記の実験条件は一例であり、本発明の範囲は、この条件に限定されるものではない。
【0016】
上記した通りの第一の細胞と第二の細胞とを組み合わせて使用することによって、第一の細胞のみを使用して細胞構造体を製造した場合と比較して、所定以上の大きさを有する細胞構造体を短時間で製造することが可能になることは本発明により初めて見出された知見であり、従来からは全く予想できない意外なことである。
本発明の結果から考察するに、細胞-細胞間の相互作用の強さと、細胞-基材間の相互作用の強さ、加えて、細胞-細胞間の相互作用においても積層化しやすい細胞であるか、等の要因によって、この第一の細胞と第二の細胞は分類され得ると考えられた。おそらく第二の細胞として分類される細胞群は、上記3つの観点において、全てに優れていることから、第一の細胞が細胞構造体を形成する上で、第一の細胞同士の間、また第一の細胞と基材の間、における接着剤の役割を果たしていると考えられた。即ち、第二の細胞が強い糊の役割を果たし、細胞構造体形成に必要な接着力を増強することで、集合体としての細胞構造体形成を加速させることに成功しているのだと考えられる。」

(v)「【0072】
本発明において、血管内皮細胞、心筋細胞、膵島細胞、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞、神経細胞、胚性幹(ES)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、角膜上皮細胞及び網膜色素上皮細胞からなる群から選択される少なくとも一種の第一の細胞は、細胞構造体の形成に時間を要する細胞である。間葉系細胞、間質細胞、線維芽細胞、平滑筋細胞、筋芽細胞、間葉系幹(MSC)細胞、脂肪由来幹細胞及び臍帯由来幹細胞からなる群から選択される少なくとも一種の第二の細胞は、細胞構造体を高速度で形成できる細胞である。本発明においては、上記第一の細胞と上記第二の細胞とを組み合わせて使用することによって、所定以上の大きさを有する細胞構造体を短時間で製造することが可能になった。」

イ 上記アに摘示した本件明細書の記載によれば、本件発明は、短時間で製造することができ、かつ所定以上の大きさを有する細胞移植用細胞構造体の製造方法を提供することを課題とし、生体親和性高分子ブロックと細胞とを含み、複数個の細胞間の隙間に複数個の生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体において、細胞構造体の形成に比較的時間がかかる請求項1記載の第一の細胞と、基材への接着力が強くかつ細胞塊を形成しやすい請求項1記載の第二の細胞とを組み合わせて使用することによって、上記課題を達成し、前記第一の細胞のみを使用した場合と比べて、所定以上の大きさを有する細胞構造体を短時間で製造できるという効果を奏するものであると理解することができる。

3-4 本件発明1について
(1)本件発明1と引用発明との対比
引用発明の「モザイク細胞塊である細胞移植用細胞構造体」、「ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)」は、それぞれ、本件発明1の「細胞構造体」、「間葉系幹細胞」に相当する。また、本件発明1と引用発明とは、2種類の細胞を含む点で重複する。
また、引用発明の「リコンビナントペプチドμブロック」は、リコンビナントペプチドCBE3を架橋した架橋ゼラチンゲルを凍結乾燥後に粉砕したものであり、本件明細書段落【0017】の「生体性親和性とは、・・・生分解性高分子高分子であることが好ましい。・・・・生分解性材料としては、具体的にはリコンビナントペプチド又は化学合成ペプチドなどのポリペプチド(例えば、以下に説明するゼラチン等)」との記載、及び、本件明細書段落【0056】の「生体親和性高分子ブロックの製造方法は、特に限定されないが、例えば、生体親和性高分子を含有する固形物(生体親和性高分子の多孔質体など)を、粉砕機(ニューパワーミルなど)を用いて粉砕することにより、生体親和性高分子ブロックを得ることができる。生体親和性高分子を含有する固形物(多孔質体など)は、例えば、生体親和性高分子を含有する水溶液を凍結乾燥して得ることができる。」との記載からみると、引用発明の「リコンビナントペプチドμブロック」は、本件発明1の「生体親和性高分子ブロック」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
生体親和性高分子ブロックと、2種類の細胞とを含む、細胞構造体の製造方法であって、
前記2種類の細胞が、第一の細胞と、間葉系幹細胞である第二の細胞を含む、
前記細胞構造体の製造方法。

<相違点1>
本件発明1の細胞構造体は、「複数個の前記細胞間の隙間に複数個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている」のに対し、引用発明の「モザイク細胞塊である細胞移植用細胞構造体」は、当該構造を有するか否か不明である点。

<相違点2>
第一の細胞について、本件発明1においては、「血管内皮細胞、心筋細胞、膵島細胞、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞、神経細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、角膜上皮細胞及び網膜色素上皮細胞からなる群から選択される少なくとも一種」であると規定されているのに対し、引用発明においては、「ヒト血管内皮前駆細胞(hECFC)」である点。

<相違点3>
本件発明1の生体親和性高分子ブロックの製造工程は、「生体親和性高分子を含有する水溶液を凍結乾燥すること」を含むのに対し、引用発明のリコンビナントペプチドμブロックの製造工程は、「リコンビナントペプチドCBE3をグルタルアルデヒドで架橋することにより作製された架橋ゼラチンゲルを超純水で洗浄した後に凍結乾燥する工程、及び、凍結乾燥体を粉砕し、25?53μm及び53?106μmにサイズ分けする工程」である点。

<相違点4>
本件発明1は、「前記生体親和性高分子ブロックと、前記2種類以上の細胞を含有する培養液との混合物をインキュベートすること」を含むのに対し、引用発明は、「前記hMSCを増殖培地にて10万cells/mLに調整し、前記hECFCを増殖培地にて10万cells/mLに調整し、前記リコンビナントペプチドμブロックを0.15mg/mLとなるように加えた後、200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心し、48時間静置すること」を含む点。

(2)判断
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
ア 相違点2について
前記3-2(1)ア適示事項(ii)の【0013】の記載によれば、従来の技術では、細胞移植に適した十分な厚み、移植した細胞の壊死の抑制、血管形成に対し、十分に要求を満たした生体材料は提供されていないという状況下、これらの要求を満たす、細胞移植用生体材料が望まれていたところ、細胞移植のために適した厚みを有することが可能であり、移植された細胞が壊死することを抑制し、移植後、移植部位に、血管を形成し得る細胞移植用細胞構造体を提供することを課題として、引用文献1記載の発明がなされたことが理解される。
そして、引用文献1には、細胞移植用細胞構造体が、「非血管系の細胞および血管系の細胞の両方を含む場合には、血管系の細胞のみで構成されている場合と比較して、より血管形成することが可能となり、より好ましい」との記載がある(前記3-2(1)ア摘示事項(iii)の【0059】)。さらに、血管系の細胞が血管形成に関連する細胞を意味すること、血管および血液を構成する細胞、およびその細胞に分化することができる前駆細胞、体性幹細胞などであることが記載されている。そして、血管を構成する細胞として、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、血管内皮前駆細胞などを、また、血液を構成する細胞として、リンパ球や好中球などの白血球細胞、単球細胞、それらの幹細胞である造血幹細胞を使用できることが記載されている(前記3-2(1)ア摘示事項(iii)の【0065】)。
引用文献1の上記記載から、引用発明の血管内皮前駆細胞は、非血管系の細胞であるヒト間葉系幹細胞とともに細胞構造体を構成する血管系の細胞であって、移植後、移植部位に、より血管形成を可能とするためのものであると理解される。そして、上記摘示事項(iii)の【0065】に挙げられている血管内皮前駆細胞以外の細胞もまた、血管系の細胞として血管内皮前駆細胞と同様の作用を奏することが期待される細胞として記載されているものと認める。
そうすると、一見すると、血管系の細胞として、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、血管内皮前駆細胞などが挙げられている引用文献1の記載(前記3-2(1)ア摘示事項(iii)の【0065】)に接した当業者が、血管系の細胞の観点から、引用発明の血管内皮前駆細胞に換えて、血管系の細胞として例示されている血管内皮細胞を使用するとの構成に至ることについて、引用文献1に一応の示唆があるかのように見える。
しかしながら、上記のとおり、引用発明は、非血管系の細胞、血管系の細胞を使用して、細胞移植のために適した厚みを有することが可能であり、移植された細胞が壊死することを抑制し、移植後、移植部位に、血管を形成し得る細胞移植用細胞構造体を提供するというものである。
これに対して、本件発明1は、短時間で製造することができ、かつ所定以上の大きさを有する細胞移植用細胞構造体の製造方法を提供することを課題とし、細胞構造体の形成に比較的時間がかかる請求項1記載の第一の細胞と、基材への接着力が強くかつ細胞塊を形成しやすい請求項1記載の第二の細胞とを組み合わせて使用することによって、上記課題を達成し得たものと理解できることは前記3-3(1)イにおいて説示のとおりである。そして、本件明細書には、第一の細胞:第二の細胞として、各々、HepG2(ヒト肝癌由来細胞):hMSC(ヒト骨髄由来間葉系幹細胞)、HepG2:NHDF(正常ヒト皮膚線維芽細胞)、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞):hMSC、HUVEC:NHDF、HUVEC:BdSMC(正常ヒト膀胱平滑筋細胞)を使用したモザイク細胞塊の作製例が実施例7に記載されており、該作製例において、上記の第一の細胞と第二の細胞を組み合わせて使用した場合に、たとえば、第二の細胞を10%または20%混ぜることによって第一の細胞であるHepG2又はHUVECのみを使用した場合と比べて、モザイク細胞塊の形成の加速が観察されたことを、本件明細書の段落【0122】?【0133】の記載及び図5?図12から確認することができる。よって、本件発明1は、当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものと認められる。
引用文献1には、血管系の細胞として、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、血管内皮前駆細胞などが記載されているものの(前記3-2(1)ア摘示事項(iii)の【0065】)、該記載は、あくまで、血管内皮細胞と血管内皮前駆細胞とが、血管系の細胞として置き換え可能であるというにすぎず、前記3-3(1)イに説示した本件発明の細胞構造体の形成を加速するという課題の解決において、両細胞が置き換え可能であることを示唆するものではない。

そうすると、引用文献1の記載(特に、前記3-2(1)ア摘示事項(iii)の【0065】)に接した当業者が、引用発明の血管内皮前駆細胞に換えて、血管系の細胞として種々例示されている細胞の一つである血管内皮細胞を使用するとの構成に至ることについて、引用文献1に一応の示唆があるように見えるとしても、上記のとおり、本件発明1が、血管内皮細胞のみを使用した場合と比べて、所定以上の大きさの細胞構造体を短時間で製造できるという、当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものであることに照らせば、相違点2に係る発明特定事項を当業者が格別の創意を要することなくなし得たこととはいえない。

そして、引用文献4には、細胞構造体を構成する速度が速い細胞と遅い細胞という二種類の細胞を組み合わせて使用する点に関連する記載はなく、生体親和性高分子を含有する水溶液を凍結乾燥することにより生体親和性高分子ブロックを製造する方法が記載されているにすぎないから、引用文献4の記載事項を参酌しても上記判断は変わらない。

以上のとおり、相違点2について当業者が格別の創意を要することなくなし得たこととはいえないから、その他の相違点1、3及び4についてその容易想到性を論ずる余地はない。

イ その他
本件明細書段落【0122】?【0133】及び図5?図12には、前記アに説示したとおりの記載がある。
そして、本件発明において、血管内皮細胞は、細胞構造体の形成に比較的時間がかかる第一の細胞と位置付けられており、このことは、たとえば、HUVEC-8のみからなる細胞構造体の形成に時間がかかることを示す図9の丸付き数字4から確認することができる。一方、引用発明の血管内皮前駆細胞のみから製造された24時間後の細胞構造体について、細胞構造体の形成に要する時間についての本件明細書の段落0015の記載に従い測定されたその直径は、1.23mmであり、第一の細胞であるHUVECの直径1.8mmよりはるかに小さく、第二の細胞であるhMSCやNHDFの直径と略同じであることが確認されているところ(令和1年11月12日付け意見書のp5の表)、本件明細書記載の上記評価基準に基づけば、血管内皮前駆細胞は、本件発明1でいう第二の細胞に該当するものであるといえる。

そうすると、引用発明において使用されている細胞はいずれも、本件発明1の第二の細胞に該当するものであって、細胞構造体の形成に比較的時間がかかる細胞は含まれていないから、本件発明1のように、それら細胞構造体の形成に比較的時間がかかる請求項1記載の第一の細胞が含まれている場合であっても、所定以上の大きさを有する細胞構造体を短時間で製造できるという効果が引用発明から当業者に予測可能であったとはいえない。

(3)小括
したがって、本件発明1は、上記説示した理由により、甲2に記載された発明、又は、甲2に記載された発明及び引用文献4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3-5 本件発明2?9、13について
本件発明2?9、13は、本件発明1を引用しさらに限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、引用文献1に記載された発明、又は、引用文献1に記載された発明及び引用文献4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第4 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由の概要及び当審の判断
4-1 特許異議申立理由の概要
(申立理由1)
請求項1?9、13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。
したがって、本件請求項1?9、13に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、本件請求項1?9、13に係る発明についての特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

(申立理由2)
請求項1?9、13に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。
したがって、本件請求項1?9、13に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、本件請求項1?9、13に係る発明についての特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

(申立理由3)
本件請求項1?9、13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件請求項1?9、13に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件請求項1?9、13に係る発明についての特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

(申立理由4)
本件請求項1?9、13に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証及び甲第3?11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件請求項1?9、13に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件請求項1?9、13に係る発明についての特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである。

特許異議申立人は、甲第1号証?甲第11号証(以下、「甲1」?「甲11」という場合がある。)を証拠方法として提出した。
甲第1号証:国際公開第2014/133081号(取消理由通知の引用文献4に相当)
甲第2号証:特開2014-12114号公報(取消理由通知の引用文献1に相当)
甲第3号証:特表2013-504303公報
甲第4号証:国際公開第2013/047639号
甲第5号証:国際公開第2015/012158号
甲第6号証:特開2010-22366号公報
甲第7号証:国際公開第2004/101774号
甲第8号証:特開2012-115254号公報
甲第9号証:Hypertens Res,Vol.31,No.11,pp2085-2096(2008)
甲第10号証:特開平5-168470号公報
甲第11号証:国際公開第2010/067904号

4-2 申立理由1について
(1)本件発明1について
ア 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
甲1の記載、特に、請求項39、実施例11、実施例5及び実施例2の記載によれば、甲1には、次の発明が記載されているものと認める。

「リコンビナントペプチドブロックと、2種の細胞とを含む、直径1mm程度の球状のモザイク細胞塊である細胞移植用細胞構造体の製造方法であって、
前記2種の細胞が、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)及びヒト血管内皮前駆細胞(hECFC)であり、
前記リコンビナントペプチドブロックは、12%、7.5%及び4.0%の最終濃度のリコンビナントペプチドCBE3水溶液を冷却することにより作製された凍結CBE3ブロックを凍結乾燥してCBE3多孔質体を得る工程、該多孔質体を粉砕し、25?53μm、53?106μm、106μm?180μmにサイズ分けした後、減圧下160℃で熱架橋する工程により製造され、かつ、
前記hECFCを増殖培地にて10万cells/mLに調整し、前記CBE3多孔質体を0.05mg/mLとなるように加えた後、200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心し、48時間静置し、扁平状の、ECFCとCBE3多孔質体からなるモザイク細胞塊を作製し、その後培地を除去し、
前記hMSCを増殖培地にて10万cells/mLに調整し、前記CBE3多孔質体を0.15mg/mLとなるように加えた後、前記モザイク細胞塊がある200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心し、24時間静置することを含む、
細胞移植用細胞構造体の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「モザイク細胞塊である細胞移植用細胞構造体」、「ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)」は、それぞれ、本件発明1の「細胞構造体」、「間葉系幹細胞」に相当する。また、本件発明1と甲1発明とは、2種類の細胞を含む点で重複する。
また、甲1発明の「リコンビナントペプチドブロック」は、リコンビナントペプチドCBE3水溶液を冷却することにより作製された凍結CBE3ブロックを凍結乾燥後得られたCBE3多孔質体を粉砕し、サイズ分けした後、減圧下160℃で熱架橋したものであり、本件明細書段落【0017】の「生体性親和性とは、・・・生分解性高分子高分子であることが好ましい。・・・・生分解性材料としては、具体的にはリコンビナントペプチド又は化学合成ペプチドなどのポリペプチド(例えば、以下に説明するゼラチン等)」との記載、及び、本件明細書段落【0056】の「生体親和性高分子ブロックの製造方法は、特に限定されないが、例えば、生体親和性高分子を含有する固形物(生体親和性高分子の多孔質体など)を、粉砕機(ニューパワーミルなど)を用いて粉砕することにより、生体親和性高分子ブロックを得ることができる。生体親和性高分子を含有する固形物(多孔質体など)は、例えば、生体親和性高分子を含有する水溶液を凍結乾燥して得ることができる。」との記載からみると、甲1発明の「リコンビナントペプチドブロック」は、本件発明1の「生体親和性高分子ブロック」に相当する。そうすると、甲1発明の生体親和性高分子ブロックの製造工程は、リコンビナントペプチドCBE3水溶液を冷却することにより作製された凍結CBE3ブロックを凍結乾燥してCBE3多孔質体を得る工程を含むものであるから、本件発明1と甲1発明とは、生体親和性高分子ブロックの製造工程の点で重複する。
したがって、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
生体親和性高分子ブロックと、2種類の細胞とを含む、細胞構造体の製造方法であって、
前記2種類の細胞が、第一の細胞と、間葉系幹細胞である第二の細胞である、
生体親和性高分子を含有する水溶液を凍結乾燥することを含む生体親和性高分子ブロックの製造工程を含む、
前記細胞構造体の製造方法。

<相違点1>
本件発明1の細胞構造体は、「複数個の前記細胞間の隙間に複数個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている」のに対し、甲1発明の「モザイク細胞塊である細胞移植用細胞構造体」は、当該構造を有するか否か不明である点。

<相違点2>
第一の細胞について、本件発明1においては、「血管内皮細胞、心筋細胞、膵島細胞、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞、神経細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、角膜上皮細胞及び網膜色素上皮細胞からなる群から選択される少なくとも一種」であると規定されているのに対し、引用発明においては、「ヒト血管内皮前駆細胞(hECFC)」である点。

<相違点5>
本件発明1は、「前記生体親和性高分子ブロックと、前記2種類以上の細胞を含有する培養液との混合物をインキュベートすること」を含むのに対し、甲1発明は、「前記hECFCを増殖培地にて10万cells/mLに調整し、前記CBE3多孔質体を0.05mg/mLとなるように加えた後、200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心し、24時間静置し、扁平状の、ECFCとCBE3多孔質体からなるモザイク細胞塊を作製し、その後培地を除去し、
前記hMSCを増殖培地にて10万cells/mLに調整し、前記CBE3多孔質体を0.15mg/mLとなるように加えた後、前記モザイク細胞塊がある200μLをスミロンセルタイトX96Uプレートに播種し、卓上プレート遠心機で遠心し、24時間静置すること」を含む点。

ウ 判断
甲1には、下記オに説示のとおり、特許異議申立人が主張する発明が記載されていると認めることはできず、前記アに説示のとおり、甲1発明が記載されていると認められるところ、本件発明1は、甲1発明とは上記相違点1、及び5の点で相違する。
そして、上記相違点のうち、相違点2は、前記第3 3-4(1)の相違点2と同じであり、甲1の記載事項をみても、前記第3 3-4(2)アに説示したのと同様の理由により実質的な相違点である。
また、甲1発明は、まず、hECFCとCBE3多孔質体からなるモザイク細胞塊を作製し、その後、hMSCとCBE3多孔質対を加えて細胞構造体を製造しているから、本件発明1の「2種類以上の細胞を含有する培養液」を用いるものではない。したがって、相違点5も実質的な相違点である。

エ 小括
よって、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。

オ 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲1には、以下の発明が記載されていると主張する。

「生体親和性高分子ブロックと、第一の細胞としての血管内皮細胞、第二の細胞としての間葉系幹細胞(MSC)または繊維芽細胞とを含み、
生体親和性高分子の溶液を凍結乾燥する工程と、
生体親和性高分子ブロックと、第一の細胞及び第二の細胞を含有する培養液とを同時に使用することとを含む、
複数個の細胞間の隙間に複数個の生体親和性高分子ブロックが配置されている、細胞移植用細胞構造体であって、前記生体親和性高分子ブロックのタップ密度が10mg/cm^(3)以上500mg/cm^(3)以下である、細胞移植用細胞構造体を製造する方法」

甲1の段落【0116】には、非血管系の細胞及び血管系の細胞を実質的に同時に使用し、細胞構造体を形成させる製造方法についての記載があり、また、段落【0085】には、血管系の細胞として血管内皮細胞が、また段落【0086】には、非血管系の細胞として間葉系幹細胞や繊維芽細胞が、例示的に記載されているものの、特許異議申立人が甲1に記載されていると主張する、第一の細胞としての血管内皮細胞と第二の細胞としての間葉系幹細胞(MSC)または繊維芽細胞とを組み合わせる点並びに第一の細胞及び第二の細胞を含有する培養液を使用する点については、記載も示唆もないから、特許異議申立人が主張する発明が甲1に記載されていると認めることはできない。

(2)本件発明2?9、13について
本件発明2?9、13は、本件発明1を引用しさらに限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1に記載された発明ではない。

4-3 申立理由2について
(1)本件発明1について
ア 甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
甲2は引用文献1に相当する。よって、甲2には、前記第3 3-2(1)に説示のとおり、引用発明が記載されているものと認める。また、本件発明1と引用発明との一致点、相違点は前記第3 3-4(1)に説示のとおりである。そして、上記相違点のうち、相違点2は、前記第3 3-4(2)で検討したように実質的な相違点である。
よって、本件発明1は甲2に記載された発明ではない。

イ 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲2には、以下の発明が記載されていると主張する。

「凍結乾燥する工程を経て生体親和性を有する高分子ブロックを製造したのちに、生体親和性を有する高分子ブロック、第一の細胞含有培養液および第二の細胞含有培養液との混合物を遠心分離し静置する工程を含む、生体親和性を有する高分子ブロックと、第一の細胞としての血管内皮細胞または血管内皮前駆細胞、第二の細胞としての間葉系幹細胞(MSC)または繊維芽細胞とを含む、該複数個の細胞間の隙間に複数個の該高分子ブロックが配置されている、細胞移植用細胞構造体を製造する方法」

甲2の段落【0084】には、非血管系の細胞及び血管系の細胞を実質的に同時に使用し、細胞構造体を形成させる製造方法についての記載があり、また、段落【0065】には、血管系の細胞として血管内皮細胞が、また、非血管系の細胞として間葉系幹細胞(MSC)や繊維芽細胞が例示的に記載されており、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞とヒト血管内皮前駆細胞とを組み合わせて使用したモザイク細胞塊を作製したことが実施例20-(3)として記載されているものの、特許異議申立人が甲2に記載されていると主張する、第一の細胞としての血管内皮細胞と第二の細胞としての間葉系幹細胞(MSC)または繊維芽細胞とを組み合わせ、かつ混合物として使用する点については、記載も示唆もない。

(2)本件発明2?9、13について
本件発明2?9、13は、本件発明1を引用しさらに限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲2に記載された発明ではない。

4-4 申立理由3について
(1)本件発明1について
ア 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明(甲1発明)、本件発明1と甲1発明との対比は、前記4-2(1)ア、イに説示のとおりである。
まず、相違点2について検討する。相違点2は、前記第3 3-4(1)の相違点2と同じである。そして、相違点2に係る発明特定事項について、引用文献1、すなわち甲2の記載事項を参酌しても当業者が格別の創意を要することなくなし得たといえないことは前記第3 3-4(2)アに説示のとおりである。
そこで、さらに甲3?11(特に、甲3(請求項1、3、9、段落0132?0133、段落0231?0232、実施例5)、甲4(請求項1、4、5、6、段落0009?0013、段落0041?0044、実施例1、段落0045?0048、実施例2)、甲5(請求項1、段落0010?0011、段落0045、実施例4)、甲6(請求項1、5、段落0026?0027、段落0042、段落0049)、甲7(請求の範囲、実施例2)、甲8(請求項1、14、15)、甲9(要約4、5行、2086ページ右欄4、5行)、甲10(請求項2、段落0004?0005)、甲11(請求の範囲、実施例1)の記載をみるに、異なる細胞を共培養することによる三次元構造体の製造に関する発明が記載されており、上記異なる細胞として、本件発明1の第一の細胞と第二の細胞に該当する細胞である場合も含まれている。しかし、生体親和性高分子ブロックと細胞とを含む細胞構造体において、短時間で製造することができ、かつ所定以上の大きさを有する細胞移植用細胞構造体の製造方法の提供を課題として、細胞構造体の形成に比較的時間がかかる細胞と形成しやすい細胞という、細胞構造体形成速度の異なる2種類以上の細胞を組み合わせる点については上記甲各号証のいずれにも記載も示唆もない。したがって、甲3?11の記載事項を参酌しても、上記相違点2に係る発明特定事項を当業者が格別の創意を要することなくなし得たということはできない。
よって、本件発明1は、上記説示した理由により、甲1に記載された発明及び甲2?甲11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?9、13について
本件発明2?9、13は、本件発明1を引用しさらに限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲2?11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4-5 申立理由4について
(1)本件発明1について
ア 甲2(引用文献4に相当)の記載事項及び甲2に記載された発明(引用発明に相当)、本件発明1と引用発明との対比は、前記第3 3-4(1)に説示のとおりである。
まず、相違点2について検討する。相違点2は、4-2(1)の相違点2と同じである。そして、甲1には、引用文献1、すなわち甲2と同様に、血管系の細胞として、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、血管内皮前駆細胞などが記載されているものの(前記第3 3-2(2)ア摘示事項(ii)の[0086])、該記載は、あくまで、血管内皮細胞と血管内皮前駆細胞とが、血管系の細胞として置き換え可能であるというにすぎず、前記3-3(1)イに説示した本件発明の細胞構造体の形成を加速するという課題の解決において、両細胞が置き換え可能であることを示唆するものではない。したがって、甲1の記載事項をみても、前記第3 3-4(2)アに説示したのと同様の理由により、相違点2に係る発明特定事項を当業者が格別の創意を要することなくなし得たこととはいえない。
さらに、甲3?11の記載は前記4-4(1)アに指摘のとおりであり、生体親和性高分子ブロックと細胞とを含む細胞構造体において、短時間で製造することができ、かつ所定以上の大きさ有する細胞移植用細胞構造体の製造方法の提供を課題として、細胞構造体の形成に比較的時間がかかる細胞と形成しやすい細胞という、細胞構造体形成速度の異なる2種類以上の細胞を組み合わせる点については上記甲各号証のいずれにも記載がないことも前記4-4(1)アに説示のとおりである。したがって、甲1、3?11に記載された事項を参酌しても、上記相違点2に係る発明特定事項を当業者が格別の創意を要することなくなし得たということはできない。
よって、本件発明1は、上記説示した理由により、甲2に記載された発明、甲1、3?11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2?9、13について
本件発明2?9、13は、本件発明1を引用しさらに限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲2に記載された発明、甲1及び甲3?11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立人 松永健太郎が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?9、13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?9、13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-02 
出願番号 特願2017-528652(P2017-528652)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (A61L)
P 1 652・ 121- Y (A61L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横山 敏志  
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 渕野 留香
穴吹 智子
登録日 2018-11-16 
登録番号 特許第6434624号(P6434624)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 細胞構造体及び細胞構造体の製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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