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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1357713
異議申立番号 異議2019-700719  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-10 
確定日 2019-12-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6484295号発明「プリプレグ、その製造方法、及び複合材料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6484295号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6484295号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成25年5月9日に出願した特願2013-98941号の一部を新たな出願としたものであって、平成31年2月22日にその特許権の設定登録がされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年9月10日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
強化繊維からなるシートに熱可塑性樹脂が含浸している複数の樹脂含浸繊維層の層間に熱可塑性樹脂からなる強化繊維を含まない中間樹脂層を有する強化繊維樹脂層と、前記強化繊維樹脂層の少なくとも一面に形成される強化繊維を含まない表面樹脂層とからなるプリプレグであって、前記プリプレグは強化繊維樹脂層に含有する熱可塑性樹脂の目付[A]と、表面樹脂層の樹脂目付[B]との割合が
0.15 < [B]/[A] < 0.50
であり、
前記表面樹脂層の厚さが15?30μmであるプリプレグ。
【請求項2】
熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度が、150℃以上の結晶性又は非晶性の熱可塑性樹脂である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドなる群から選ばれた1種若しくは2種以上の樹脂である請求項1又は2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のプリプレグを、複数枚積層して成形されてなる複合材料の製造方法。」


第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として特開2012-246442号公報(以下、「甲第1号証」という。)、特表2013-505859号公報(以下、「甲第2号証」という。)、化学便覧 応用化学編 第6版、第817頁、社団法人日本化学会編、丸善株式会社(以下、「甲第3号証」という。)、化学便覧 基礎編 改訂5版、第I-716頁、公益社団法人日本化学会編、丸善株式会社(以下、「甲第4号証」という。)を提出し、本件特許の請求項1ないし請求項4に係る特許は、次のとおり、特許法第29条第1項第3号に該当する発明、あるいは、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張する。

・特許法第29条第1項第3号の理由
請求項1ないし請求項3に対して、甲第1号証を根拠とする理由
請求項1ないし請求項4に対して、甲第2号証を根拠とする理由

・特許法第29条第2項の理由
請求項1ないし請求項4に対して、甲第1号証を根拠とする理由
請求項1ないし請求項4に対して、甲第2号証を根拠とする理由


第4 甲第1号証ないし甲第4号証の記載

1 甲第1号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明

(1)甲第1号証に記載された事項

本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第1号証には、次の記載(以下、総称して「甲第1号証に記載された事項」という。)がある。なお、下線は当審で付したものであり、他の甲号証についても同様である。

ア 「【請求項1】
複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられた補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材において、前記マトリックス樹脂は、少なくとも一部に特性の異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域が形成されているプリプレグシート材。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された複数の補強繊維シート層を熱可塑性樹脂材料からなるマトリックス樹脂により一体形成したプリプレグシート材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維補強複合材料は、繊維材料とマトリックス材料を組み合せたもので、軽量で剛性が高く多様な機能設計が可能な材料であり、航空宇宙分野、輸送分野、土木建築分野、運動器具分野等の幅広い分野で用いられている。現在、炭素繊維又はガラス繊維といった補強繊維材料を熱硬化性樹脂材料と組み合せた繊維強化プラスチック(FRP)が主流となっている。しかし、リサイクル性、短時間成型性、成型品の耐衝撃特性の向上等の利点から、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂材料を用いた成型品開発が今後増加すると考えられている。
【0003】
補強繊維材料と熱可塑性樹脂材料と組み合わせたシート材については、例えば、特許文献1では、熱可塑性樹脂シート及び炭素繊維からなる強化繊維束を交互に積層するように搬送し、積層されたシートを加熱及び加圧してプリプレグシート材を製造する点が記載されている。また、特許文献2では、複数の補強繊維が所定方向に引き揃えられてシート状に形成された補強繊維シート材及び補強繊維シート材の片面に付着した熱可塑性樹脂シート材により構成されている熱可塑性樹脂補強シート材を積層して形成された熱可塑性樹脂多層補強シート材を用いて熱可塑性樹脂多層補強成形品を製造する点が記載されている。
【0004】
また、特許文献3では、複数の補強繊維を集束した補強繊維束を幅方向に複数本引き揃えシート状とした補強繊維シート材の片面に、熱可塑性樹脂シート材を、当該熱可塑性樹脂シート材の溶融温度より低い温度で溶融又は軟化する接着用熱可塑性樹脂材によって付着させて熱可塑性樹脂補強シート材を構成し、熱可塑性樹脂補強シート材を積層して接着用熱可塑性樹脂材により各層の熱可塑性樹脂補強シート材を接着一体化させて熱可塑性樹脂多層補強シート材を製造する点が記載されている。
【0005】
また、特許文献4では、開繊糸シートの片面又は両面に、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が付着した樹脂付着離型シートを密着させて加熱加圧することで、開繊糸シートに樹脂を付着又は含浸させた繊維補強シートを製造する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-181832号公報
【特許文献2】特開2008-149708号公報
【特許文献3】特表2008-221833号公報
【特許文献4】特開2010?270420号公報」

ウ 「【0015】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0016】
図1A?図1Cは、本発明に係るプリプレグシート材の断面に関する模式図である。図1Aは、補強繊維シート層の間に樹脂のみからなる層が形成されたプリプレグシート材に関する断面図である。この例では、プリプレグシート材は、炭素繊維、ガラス繊維等の補強繊維を引き揃えシート状に形成した補強繊維シート層1A?1Cが層状に配列され、これらの補強繊維シート層を一体形成するマトリックス樹脂を備えている。マトリックス樹脂は、異なる熱可塑性樹脂材料からなる2つ樹脂領域2及び3を備え、樹脂領域3が樹脂領域2の両側から挟むように層状に形成されている。そして、補強繊維シート層1A及び1B並びに補強繊維シート層1B及び1Cの層間に樹脂領域2の樹脂樹脂層2a及び2bが形成され、補強繊維シート層1A及び1Cの外側に樹脂領域3の樹脂層3a及び3bが形成されている。
【0017】
そして、樹脂層2a及び2bが両側に配置された補強繊維シート層1Bでは、両側から内部に向かって樹脂領域2の樹脂が補強繊維の間に一部入り込んだ状態となっている。また、樹脂層2aが内側に配置され外側に樹脂層3aが配置された補強繊維シート層1A及び樹脂層2bが内側に配置され外側に樹脂層3bが配置された補強繊維シート層1Cでは、内側から樹脂領域2の樹脂が補強繊維の間に一部入り込んだ状態となり、外側から樹脂領域3の樹脂が補強繊維の間に一部入り込んだ状態となっている。そのため、樹脂領域2及び3の間の補強繊維シート層1A及び1Cの内部では、補強繊維の間で2つの異なる熱可塑性樹脂材料が互いに入り乱れるように混在して一体化した境界部分が形成されている。
【0018】
図1B及び図1Cは、補強繊維シート層の内部に樹脂が入り込んで含浸状態となっているプリプレグシート材に関する断面図である。図1Bでは、補強繊維シート層1A?1Cの間に樹脂層がほとんど見られず、マトリクス樹脂が補強繊維シート層全体に満遍なく入り込んで含浸した状態となっている。マトリクス樹脂は、異なる熱可塑性樹脂材料からなる2つの樹脂領域2及び3を備え、樹脂領域3が樹脂領域2の両側から挟むように層状に形成されており、各領域の間の境界部分が補強繊維シート層の内部に入り込んでいる。また、図1Cでは、補強繊維シート層1A及び1Bの2つの層を備え、補強繊維シート層の間には樹脂層がほとんど見られない状態となっている。そして、異なる熱可塑性樹脂材料からなる2つの樹脂領域2及び3が層状に形成されて、各領域の間の境界部分が補強繊維シート層の内部に入り込んでいる。
【0019】
このように、複数の補強繊維シート層を積層しその厚み方向に異なる熱可塑性樹脂材料からなる複数の樹脂領域を配置して熱可塑性樹脂材料を補強繊維シート層の内部に一部入り込んだ状態で一体化しているので、補強繊維シート層に一部入り込んだ樹脂のアンカー効果により補強繊維シート層及び樹脂領域の間の剥離強度が向上してプリプレグシート材の強度を高めることができる。また、補強繊維シート層に入り込んだ樹脂が補強繊維シート層全体に満遍なく含浸せずに一部空隙を残した半含浸状態にすることで、プリプレグシート材としてのドレープ性を確保することができ、剥離しにくくドレープ性の良好な高品質のプリプレグシート材を得ることができる。」

エ 「【0025】
マトリックス樹脂に用いる熱可塑性樹脂材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12など)、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂材料を2種類以上混合して、ポリマーアロイにして使用してもよい。」

オ 「【0047】
[実施例1]
以下の材料を用いて、プリプレグシート材を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S-15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂フィルム(厚さ15μm)
市販のPPS樹脂ペレットを押出成形によりフィルム状にしたものを用いた。
ポリアミド6(PA6)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ20μm)
【0048】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
図5に示す製造装置を用いて、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。まず、元幅約6mmの炭素繊維束を48mm間隔で7本配列して開繊処理した。最初の開繊部では、繊維束1本が24mmの幅まで開繊するように開繊幅を設定し、次の開繊部では24mmに開繊した開繊糸が48mmの幅まで開繊するように開繊幅を設定した。炭素繊維束に付与される初期張力を150gに設定し、炭素繊維束を搬送速度5m/分で搬送した。開繊部における吸引気流の流速(炭素繊維束のない開放状態)は20m/秒で、開繊される炭素繊維に吹き付けられる熱風の吹き出し温度は120℃とした。縦振動付与部は、振動回数600rpmで、炭素繊維束を押圧するロールのストローク量は10mmに設定した。横振動付与部は、振動回数が450rpmで、開繊糸を幅方向に振動させるストローク量は5mmに設定した。なお、縦振動付与部のロールの直径は10mm、横振動付与部のロールの直径は25mmで、それぞれ表面は梨地加工を施している。
【0049】
以上のように設定した開繊機構に炭素繊維束を搬送して、シート幅約340mmの補強繊維シート材を連続形成した。補強繊維シート材は、炭素繊維が幅方向に均一に分散されて隙間が生じておらず、その目付け量は約21g/m^(2)であった。
【0050】
連続形成される補強繊維シート材をそのまま連続搬送しながらPPS樹脂フィルムを離型シートにとともに重ね合わせて挟み込み、加熱加圧ロール及び冷却加圧ロールの間を通過させた。離型シートとして、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)を使用した。加熱加圧ロールの温度は250℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分である。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0051】
以上説明した製造方法と同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。次に、製造した熱可塑性樹脂補強シート材を熱可塑性樹脂シート材の代わりに用いて、同様の製造方法で補強繊維シート材を貼り合わせ、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。いずれの製造方法においても、加熱加圧ロールの温度は220℃に、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。こうして、PA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け21g/m^(2)(片面の目付け、両面の合計42g/m^(2))の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0052】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、図4に示すように重ね合わせて図6に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。図6に示す製造装置では、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部の各ブロック部を幅1000mm、シート材の搬送方向長さ350mmに設定した。上下ブロック部及びシート材の間には、加圧部材として厚さ2mmのC/Cコンポジット(株式会社アクロス製)をそれぞれセットして、さらに、上下ブロック部とC/Cコンポジットとの間には膨張黒鉛シート(PERMA?FOIL、厚み0.5mm、東洋炭素株式会社製)をクッション部材としてセットした。
【0053】
4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PPS樹脂フィルム(下側がPPS樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせ、加圧部材であるC/Cコンポジットの間に挟み込むように送給し、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部を順次通過させた。予備加熱加圧部では加熱温度150℃及び加圧力0.1MPaに設定し、成形加熱加圧部では温度320℃及び加圧力2MPaに設定し、冷却加圧部では水冷による冷却及び加圧力0.1MPaとした。加工処理では、停止時間つまり加圧時間を約4秒に設定し、加圧時間以外におけるシート材の移動速度は約2秒間で約340mm移動するように設定して、1分間で約3.4m製造する加工速度とした。冷却加圧部から搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、加工されたプリプレグシート材を得た。」

カ 「【0060】
[実施例3]
以下の材料を用いて、プリプレグシート材を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S-15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム;ビクトレックス株式会社製(厚さ16μm)
ポリエーテルイミド(PEI)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ15μm)」

キ 「【0064】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の製造装置を用いて製造した。実施例1と同様に、炭素繊維束を開繊して補強繊維シート材を形成し、熱可塑性樹脂シート材としてPEEK樹脂フィルムと重ね合わせて離型シートに挟み込み加熱加圧ロールに供給した。離型シートとして、熱硬化性ポリイミド樹脂フィルム(製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)を使用した。加熱加圧ロールの温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。冷却加圧ロールから搬出した後上下両側の離型シートを巻き取り、目付け約21g/m^(2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEEK樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0065】
以上説明した製造方法と同様の方法で、炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面にPEI樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。次に、製造した熱可塑性樹脂補強シート材を熱可塑性樹脂シート材の代わりに用いて、同様の製造方法で補強繊維シート材を貼り合わせ、熱可塑性樹脂シート材の両面に補強繊維シート材を貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。いずれの製造方法においても、加熱加圧ロールの温度は300℃に、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。こうして、PEI樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け約21g/m^(2)(片面の目付け、両面の合計42g/m^(2))の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材を得た。
【0066】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、図4に示すように重ね合わせて実施例1と同様にプリプレグシート材を製造した。
【0067】
4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PEEK樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPEEK樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PEI樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PEEK樹脂フィルム(下側がPEEK樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせ、加圧部材であるC/Cコンポジットの間に挟み込むように送給し、予備加熱加圧部、成形加熱加圧部及び冷却加圧部を順次通過させた。予備加熱加圧部では加熱温度250℃及び加圧力0.1MPaに設定し、成形加熱加圧部では温度380℃及び加圧力2MPaに設定し、冷却加圧部では水冷による冷却及び加圧力0.1MPaとした。加工処理では、停止時間つまり加圧時間を約4秒に設定し、加圧時間以外におけるシート材の移動速度は約2秒間で約340mm移動するように設定して、1分間で約3.4m製造する加工速度とした。冷却加圧部から搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、加工されたプリプレグシート材を得た。」

ク 「【0070】
[実施例4]
<使用材料>
補強繊維シート材及び熱可塑性樹脂シート材は、実施例3と同じものを用いた。
【0071】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例3と同様の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0072】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を2枚ずつ用いて、実施例2の場合と同様に重ね合わせ、図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。4枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PEEK樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPEEK樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PEI樹脂フィルム/炭素繊維シートを2枚、炭素繊維シート/PEEK樹脂フィルム(下側がPEEK樹脂フィルム側)となるように重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0073】
加熱加圧ロールの加熱温度は340℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。」

ケ 「【0076】
[実施例5]
実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層して図8に示す加熱加圧成型工程を行い、熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。実施例4において得られた半含浸状態のプリプレグシート材を用いて、繊維方向を0度として、[45度/0度/-45度/90度]2Sの構成となるようにプリプレグシート材を積層し、300mm×300mmのサイズの積層材を製造した。製造した積層材を平板状の成形型体の間にセットした。成形型体の表面には離型剤を塗布した。
【0077】
ここで、[45度/0度/-45度/90度]2Sという表記法は、積層材の構成を表わすもので、45度、0度、-45度、90度は繊維方向を示し、[ ]2Sは[ ]内の積層構造を2回繰り返し、厚さ方向に対称(Symmetry)となるように積層することを示している。例えば、[0度/90度]2Sは、0度、90度、0度、90度、90度、0度、90度、0度の構成で8枚のプリプレグシート材を積層した構造となる。
【0078】
シート片をセットした成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度370℃、圧力2MPaで15分間の加熱プレス成形を行った。その後、成形型体を冷却プレス装置に設置して、圧力2MPaで空気冷却した。約20分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。」

コ 「【0080】
[実施例6]
実施例5と同様に、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層した後、図8に示す加熱加圧成形工程を行い熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。実施例5と加熱加圧成形の条件を変えることで、層間に樹脂層が形成された積層板を得た。まず、実施例5と同様の方法により、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を積層し、図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度350℃及び圧力4MPaで15分間加熱加圧成形を行った。実施例5に比べて低温高圧で加熱加圧成形しているため、低温にすることでシート片の表層のPEEK樹脂を流動性の低い状態に設定し、かつ、高圧にすることでPEEK樹脂及びPEI樹脂とも炭素繊維の間への含浸が促進されるように設定した。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで空気冷却した。約20分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0081】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、-45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図12は、積層板の断面を撮影した写真である。写真を見ると、各層間にPEEK樹脂からなる樹脂層が形成されたことが確認された。さらに、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、層内には大きなボイドもなく、積層板として品質の良いものが成形できた。なお、積層板全体の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚み及び炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。」

サ 「【0082】
[実施例7]
実施例5と同様に、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を複数枚積層した後、図8に示す加熱加圧成形工程を行い熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。この例では、実施例5に比べて加熱加圧成形時間の条件を変えて成形を行った。まず、実施例5と同様な方法により、実施例4により得られた半含浸状態のプリプレグシート材を積層し、図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度370℃及び圧力4MPaで3分間加熱加圧成形を行った。実施例5に比べて、高圧で短時間の成形時間に設定した。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで水冷冷却を行った。実施例5及び6に比べて、水冷冷却にすることで短時間で冷却するようにした。約5分間室温まで冷却されたところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0083】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、-45度の方向に繊維補強された擬似等方で、厚さ約2.2mmの熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図13は、積層板の断面を撮影した写真である。この例では、熱可塑性樹脂材料の含浸時間を短時間に設定しても十分な含浸が行われることを確認できた。これは、補強繊維シート材の厚さを薄くすることで、厚み方向に配列される補強繊維の数が減少し、樹脂の含浸距離が短くなったことによる効果と考えられる。なお、積層板の繊維体積含有率は、得られた積層板の厚みと炭素繊維の目付け量に基づいて計算すると、約53%であった。」

シ 「【0084】
[実施例8]
半含浸状態のプリプレグシート材及び熱可塑性樹脂補強シート材を複数枚積層した後、図8に示す加熱加圧成型を行い、熱可塑性樹脂繊維補強積層板を製造した。
<使用材料>
(補強繊維シート材)
炭素繊維束;三菱レイヨン株式会社製(パイロフィルTR50S-15K、繊維直径約7μm、繊維本数15000本)
(熱可塑性樹脂シート材)
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂フィルム(厚さ50μm)
市販のPPS樹脂ペレットを押出成形によりフィルム状にしたものを用いた。
ポリアミド6(PA6)樹脂フィルム;三菱樹脂株式会社製(厚さ20μm)
【0085】
<製造方法>
(1)熱可塑性樹脂補強シート材の製造
実施例1と同様の方法により、厚さ50μmのPPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が目付け21g/m^(2)の炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面に熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材、及び、厚さ20μmのPA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に目付け21g/m^(2)(片面の目付け、両面の合計42g/m^(2))の炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材、の2種類の熱可塑性樹脂補強シート材を製造した。
【0086】
(2)プリプレグシート材の製造
得られた2種類の熱可塑性樹脂補強シート材をそれぞれ1枚ずつ用いて重ね合わせ、図7に示す製造装置によりプリプレグシート材を製造した。2枚の熱可塑性樹脂補強シート材は、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)、炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを重ね合わせて送給した。そして、その上下両面に離型シート(熱硬化性ポリイミドシート、製品名;ユーピレックスS、厚み;25μm、宇部興産株式会社製)をさらに重ね合わせて、加熱加圧ロールに供給した。
【0087】
加熱加圧ロールの加熱温度は320℃に設定し、冷却加圧ロールは水冷とし、加熱加圧ロールの線圧は5kgf/cmに設定した。加工速度は5m/分に設定した。冷却加圧ロールから搬出後上下両側の離型シートを巻き取り、プリプレグシート材を得た。得られたプリプレグシート材は、実施例2と同様に、層間に樹脂の未含浸部分が拡がって樹脂が半含浸状態となっていた。
【0088】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の製造>
実施例5と同様に、製造された半含浸状態のプリプレグシート材から、繊維方向を0度方向として、45度方向に繊維が配列した300mm×300mmのシート片を複数枚切り出した。また、PA6樹脂フィルムの両面に炭素繊維シートを貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材から、繊維方向を0度方向として、0度方向、90度方向、-45度方向に繊維が配列した300mm×300mmのシート片をそれぞれ複数枚切り出した。
【0089】
熱可塑性樹脂補強シート材から切り出したシート片を、[0度/-45度/90度]Sの構成で積層し、その両表層にプリプレグシート材から切り出したシート片を配置して、成形型体の間にセットした。この場合、セットされたシート片の積層構成は、[45度/0度/-45度/90度]Sとなっている。
【0090】
図8に示すように、積層シート片がセットされた成形型体を加熱プレス装置に設置して、加熱温度280℃及び圧力4MPaで15分間加熱加圧成形を行った。その後、冷却プレス装置に成形型体を設置し、圧力2MPaで空気冷却した。約15分間室温まで冷却したところで、成形型体を取り出し、成形された熱可塑性樹脂繊維補強積層板を得た。
【0091】
<熱可塑性樹脂繊維補強積層板の評価>
0度、90度、45度、-45度の方向に繊維補強された擬似等方の熱可塑性樹脂繊維補強積層板が歪み無く成形できた。図14は、積層板の-45度方向と直角方向に切断した断面を撮影した写真である。写真を見ると、両側表層にPPS樹脂からなる樹脂層が形成されたことが確認された。そして、PPS樹脂は、炭素繊維に沿って含浸してPA6樹脂に入り込んだ状態となっていることが確認された。また、半含浸状態のプリプレグシート材を用いて成形したが、層内に大きなボイドは生じておらず、成形板として品質の良いものが成形できたことが確認された。」

ス 「



セ 「



ソ 「



タ 「



(2)甲第1号証に記載された発明

請求項1、段落【0080】ないし【0091】、及び【図14】の記載から見て、甲第1号証には、
「PPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材が炭素繊維からなる補強繊維シート材の片面に熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材、及び、PA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材の両面に炭素繊維からなる補強繊維シート材が熱融着した熱可塑性樹脂補強シート材をそれぞれ1枚ずつ、上から順に、PPS樹脂フィルム/炭素繊維シート(上側がPPS樹脂フィルム側)/炭素繊維シート/PA6樹脂フィルム/炭素繊維シートを重ね合わせて加熱加圧し得られたものであって、層間に樹脂の未含浸部分が拡がって樹脂が半含浸状態となっている、プリプレグシート材。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

なお、異議申立人は、甲1発明として、「中間樹脂層として強化繊維を含まないPA6樹脂からなる層が設けられ、その両面に、炭素繊維シートを貼り合わせた熱可塑性樹脂補強シート材を積層し、そのさらに両側表層にPPS樹脂からなる樹脂層が形成された積層板。」が認定でき、この積層板が本件発明の「プリプレグ」に相当する旨主張しているが、異議申立人のいう「積層板」は、「プリプレグシート材」を積層し、加熱加圧を経ることで得られたものであって、「プリプレグ」にはあたらない(プリプレグを複数枚積層して形成されてなる「複合材料」に相当する)ことは明らかである。

2 甲第2号証に記載された事項及び甲第2号証に記載された発明

(1)甲第2号証に記載された事項

本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第2号証には、次の記載(以下、総称して「甲第2号証に記載された事項」という。)がある。

ア 「【請求項1】
a)繊維状基質および1種もしくはそれ以上の高性能重合体を含んでなる芯複合体層、並びに
b)非晶質性重合体、ゆっくり結晶化する半結晶性重合体、およびそれらの混合物から選択される表面層重合体
を含んでなる熱可塑性組成物であって、表面層重合体が該芯複合体層の少なくとも1つの表面上に適用されて該芯複合体層の高性能重合体と配合された重合体を形成し、そして表面層重合体のTmおよびTprocessが芯複合体層の高性能重合体のTmおよびTprocessより少なくとも10℃低い熱可塑性組成物。
【請求項2】
繊維状基質が炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、およびそれらの混合物から選択されそして全複合体重量の50?80重量%を構成する、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
高性能重合体がポリアリールエーテルケトン類(PAEK)、PAEK配合物、ポリイミド類、およびポリフェニレンスルフィド類(PPS)から選択される、前記請求項のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
表面層重合体がポリエーテルイミド(PEI);ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド、およびそれらの混合物と配合されたポリアリールエーテルケトン重合体;ポリアリールエーテルケトン類;ポリイミド類;並びにそれらの混合物から選択される、前記請求項のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
PAEK重合体配合物がPEEKまたはPEKKおよびジフェニルスルホンを含んでなる、請求項4に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
表面層重合体層が1?20ミクロン厚さである、前記請求項のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
表面層重合体が該芯複合体層の2つの表面上に適用される、前記請求項のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
表面層重合体が金属コーティング、微細粒子、およびナノ粒子から選択される多機能剤をさらに含んでなる、前記請求項のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
多機能剤が該基質の複合体特徴を増進させ、該複合体特徴が電気伝導性、靭性、酸素透過性、結晶化速度、および溶媒耐性の1つもしくはそれ以上から選択される、請求項8に記載の熱可塑性組成物。
【請求項10】
高性能重合体が表面層重合体より急速な速度で結晶化する、前記請求項のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項11】
高性能重合体が核生成しそして表面層重合体の結晶化速度を促進させる、前記請求項のいずれかに記載の熱可塑性組成物。
【請求項12】
高性能重合体の樹脂含有量が全樹脂含有量の26重量%?90重量%である、前記請求項のいずれかに記載の熱可塑性組成物。」

イ 「【0017】
図面の簡単な記述
【図1】本発明に従う熱可塑性複合体の態様: (A)二層複合体; (B)三層複合体。芯マトリックス20の急速に結晶化する高融点高性能重合体と相溶性および/または混和性である表面重合体10としてのゆっくり結晶化する低融点熱可塑性重合体または非晶質性重合体。
【図2】示差走査熱量計(DSC)曲線 - CYPEK(登録商標) PEKK DS-E フィルム(A); APC-2 PEEK/IM7 テープ(B); (C)組み合わせテープ - CYPEK(登録商標) PEKK DS-EフィルムとのラミネートAPC-2 PEEK/IM-7(G)はテープ表面上の6ミクロンCYPEK(登録商標) PEKK DS-E重合体層に指定できるDSC曲線の早期部分において強い信号を示す。この重合体は約300℃の溶融溶解ピークを有しそしてこれは第一の熱曲線で見ることができる。10℃およびそれより高い冷却速度を有するCYPEK(登録商標) PEKK DS-E重合体は冷却時に結晶化ピークを有さないであろう。PEKK (CYPEK(登録商標) PEKK DS-E)と積層されたAPC-2/IM-7は309℃におけるベースAPC-2 PEEK/IM-7テープと同様なピーク結晶化温度を有しており、それによりCYPEK(登録商標) PEKK DS-Eの表面層は積層された材料の結晶化速度に悪影響を有していなかったことを示唆しており、CYPEK(登録商標) PEKK DS-EとのラミネートAPC-2/IM-7(C)は非晶質状態にあるCYPEK(登録商標) PEKK DS-Eで起きるかもしれない冷却結晶化ピークを有していないベーステープAPC-2 PEEK/IM-7材料とさらに似て行動する曲線を示している。曲線は、CYPEK(登録商標) PEKK DS-Eよりはるかに急速に結晶化するベーステープAPC-2 PEEK/IM7が核生成性でありそしてCYPEL(登録商標) PEKK DS-E表面層重合体の結晶化速度を促進させることを示している。
【図3】インシトゥATP下置きの超音波走査 - (A) ベースAPC-2 PEEK/IM7単一方向テープ; (B) 三層CYPEK(登録商標) PEKK DS-E//APC-2 PEEK/IM7//CYPEK(登録商標) PEKK DS-E単一方向テープ。赤色は低空間複合体(好ましい)を示す信号伝達を示すが、青色はラミネート中の高い多孔性による高い信号損失を示す。
【図4】熱可塑性組成物の顕微鏡断面: (A) PEKK DS-M AS-4ラミネート対照; (B) 0.25 mm PEKK DS-Eを有するPEKK DS-M AS-4。PEKK DS-Eフィルム(4B)はプライ間の空間を増加させるプライ間スペーサーとして作用するが、対照(4A)はプライ間のほとんどのフィラメント-フィラメント接触を有する。」

ウ 「【0021】
高性能重合体
より低い処理温度を有しながら依然として高性能重合体に既知である性能目標を維持する熱可塑性複合体テープおよび/またはリボンを得ることが本発明の目的である。従って、芯複合体層の均一に分布された熱可塑性樹脂は表面層重合体のものより高い溶融温度およびより急速な結晶化速度を有する高性能重合体である。ここで使用される際には、用語「高性能重合体」は280℃より高いかもしくはそれと同等な溶融温度(Tm)および310℃より高いかもしくはそれと同等な工程温度(Tprocess)を有するいずれかの熱可塑性重合体をさす。ある種の態様では、芯複合体層のより高性能の重合体はポリアリールエーテルケトン類(PAEK)、PAEK配合物、ポリイミド類、およびポリフェニレンスルフィド類(PPS)から選択される。これらの重合体は全て熱可塑性技術の専門家に既知でありそして容易に且つ商業的に入手可能である。」

エ 「【0023】
テレフタロイル(「T」)対イソフタロイル(「I」)比(「T:I比」)を調節することによりPEKKの融点および結晶化速度を変更しうることは既知である。PEKKの最近の合成では、「T」および「I」はブロック共重合体を製造するための塩化テレフタロイルおよび塩化イソフタロイルの相対量により調節される。理論により拘束しようとは望まないが、「I」断片の量の増加が重合体骨格中により多い「キンク」を入れ、それにより連鎖回転に関する速度および活性化エネルギーを遅らせて結晶構造に関する最少エネルギーを得ることが信じられている。これがより低い溶融温度およびより遅い結晶化速度を生ずる。しかしながら、本発明に従う熱可塑性組成物の性能目的を達成するためには、高性能重合体は工程の時間枠内で結晶化することが必要である。それ故、芯複合体層中の高性能重合体は急速結晶性(すなわち、約7秒以内)でなければならない。この理由のために、ある種の態様では高性能重合体が20%より高い結晶化度を有する半結晶性状態で存在する(すなわち、高結晶性複合体を有する)ことが好ましい。従って、高性能重合体がポリエーテルケトンケトン(PEKK)から選択される時には、それは70:30?100:0のT:I比を有する。例えば、態様の2つは70:30?100:0の範囲内のT:I比を有するCYPEK(登録商標) HTおよびCYPEK(登録商標) FCを包含する。70:30より低いT:I比を有するPEKK-タイプ重合体を使用できるが、核生成剤も使用して重合体が結晶化する速度に高めるために70:30 - 100:0のT:I比を有する重合体のものに到達させなければならない。カーボンブラックがそのような核生成剤の一例である。55:45のT:I比を有する重合体中へのより高いT:I比(例えば、90:10)を有する重合体の配合も結晶化の速度を高めうる。本発明での使用に適する他の核生成剤も複合体技術の専門家に既知でありそして本発明での使用も意図される。」

オ 「【0027】
表面層重合体
従って、表面層重合体は芯複合体層の1つまたは2つの表面上に適用される。表面層重合体が芯複合体層の1つだけの表面上に適用される時には、二層複合体が形成される。それが芯複合体層の2つの表面上に適用される時には、生ずる複合体構造を三層と称する。芯複合体マトリックスの高性能重合体および表面層重合体の間の相溶性および/または混和性配合物が所望されるため、表面層重合体はそれが高性能重合体より低い融点および処理温度を有するように選択される。ある種の態様では、表面層重合体の溶融および/または処理温度は高性能重合体の溶融および/または処理温度より少なくとも10?20℃(例えば、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、または20℃)低い。」

カ 「【0035】
本発明の熱可塑性複合体は、硬くなった翼および胴体表面用のインシトゥでの熱可塑性テープ/トウ配置、硬化剤製作用の連続的な圧縮成型(CCM)およびロール成形方法、固められた平らなパネルおよび航空機床パネルを製造するための二重ベルトプレス、インシトゥのフィラメント巻き円筒構造体、並びに複合体組み立て品の溶融結合および溶接を包含するがそれらに限定されない急速な積層および成形方法を用いて種々の製品に成形することができる。」

キ 「【実施例3】
【0044】
Cypek(登録商標) PEKK DS-Eプライ間試験
32プライの単一方向APC-PEKK-DS-M/AS-4熱可塑性テープを試験対照製品として固め用に製造する。ここに詳細に記述されているような本発明に従う別のラミネートを製造し、そしてそれはAPC-PEKK-DS-M/AS-4熱可塑性2テープの各プライ間に.25 mmの名目厚さの2(2)シートのCypek(登録商標) PEKK DS-E等級重合体フィルムを含んでいる。(図4 A-B)。Cypek(登録商標) PEKK DS-EはAPC-PEKK DS-M/AS4熱可塑性テープ中の樹脂マトリックスとして使用されるCypek(登録商標) PEKK DS-Mの同じ化学的骨格を有するが、50%高い重量平均分子量を有する。両方のパネルを真空下でオートクレーブ中で100 psiのN_(2)気体の圧力において391℃の温度で20分間にわたり処理する。連続するラミネートを超音波走査(C-走査)にかけてラミネートの性質を確認する。ラミネートを次に1500インチ-ポンドの衝撃事象にかけそして次に機械的試験にかけて各ラミネートの衝撃後圧縮(CAI)性能を測定する。プライ間PEKK DS-Eフィルムを有するラミネートのCAI性能(55.1 KSI平均)は対照(53.6 KSI平均)のものを超えることが見出されている。」

ク 「



ケ 「



コ 「



(2)甲第2号証に記載された発明

請求項1、6、7、段落【0017】、【0044】の記載、及び、図1B、図4A、図4Bからみて、甲第2号証には、
「表面層重合体が、繊維状基質に高性能重合体が含まれた芯複合体層表面上に適用された熱可塑性テープと、その層間に挟まれたCypek PEKK DS-E等級重合フィルムからなるプライ間スペーサーを設けられたラミネート。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

3 甲第3号証に記載された事項

本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第3号証には、次の記載がある。




(表16.7 第817頁)

4 甲第4号証に記載された事項

本件特許の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲第4号証には、次の記載がある。




(表5.27 第I-716頁)


第5 対比・判断

1 甲1発明を主引用発明とする場合

(1)本件発明1について

ア 本件発明1と甲1発明との対比

甲1発明の「プリプレグシート材」は、本件発明1の「プリプレグ」に相当する。そして、甲1発明のプリプレグシート材における「炭素繊維シート」、「PA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材」、「PPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材」はそれぞれ、本件発明1のプリプレグにおける「強化繊維からなるシート」、「中間樹脂層」、「表面樹脂層」に相当する。また、甲1発明のプリプレグシート材は、層間に樹脂のみ含浸部分が拡がって樹脂が半含浸状態となっているものであるから、プリプレグシート材の「炭素繊維シート」には熱可塑性樹脂が含浸しているもの、すなわち、本件発明1の「強化繊維からなるシートに熱可塑性樹脂が含浸している複数の樹脂含浸繊維層」に相当するものであり、また、「PA6樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材」、「PPS樹脂フィルムからなる熱可塑性樹脂シート材」はそれぞれ、樹脂の未含浸部分を有するもの、すなわち、本件発明1の「熱可塑性樹脂からなる強化繊維を含まない中間樹脂層」、「強化繊維を含まない表面樹脂層」を有するものといえる。

以上の点をふまえ、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、
「強化繊維からなるシートに熱可塑性樹脂が含浸している複数の樹脂含浸繊維層の層間に熱可塑性樹脂からなる強化繊維を含まない中間樹脂層を有する強化繊維樹脂層と、前記強化繊維樹脂層の少なくとも一面に形成される強化繊維を含まない表面樹脂層とからなるプリプレグ」
で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本件発明1のプリプレグは、「強化繊維樹脂層に含有する熱可塑性樹脂の目付[A]と、表面樹脂層の樹脂目付[B]との割合が0.15 < [B]/[A] < 0.50」であるのに対して、甲1発明はそのような特定を有しない点。

・相違点2
本件発明1のプリプレグは、表面樹脂層の厚さが「15?30μm」であるのに対して、甲1発明はそのような特定を有しない点。

イ 各相違点についての検討

まず、相違点1について検討する。
甲1発明には、強化繊維樹脂層に含有する熱可塑性樹脂の目付[A]と、表面樹脂層の樹脂目付[B]との割合について何ら記載されていないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
また、甲第1号証の明細書、特許請求の範囲及び図面全体の記載を通じてみても、各層の樹脂の目付量についての具体的な言及はなく、ましてや、「強化繊維樹脂層に含有する熱可塑性樹脂の目付[A]と、表面樹脂層の樹脂目付[B]との割合」を特定の範囲とする技術思想もない。
してみれば、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、本件発明1は甲第1号証に記載された発明(甲1発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(1)のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2ないし4もまた、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 甲2発明を主引用発明とする場合

(1)本件発明1について

ア 本件発明1と甲2発明との対比

甲2発明のプライ間スペーサーを層間に挟んだ2枚の「繊維状基質に高性能重合体が含まれた芯複合体層」、「Cypek PEKK DS-E等級重合フィルムからなるプライ間スペーサー」、「表面層重合体」はそれぞれ、本件発明1の「強化繊維からなるシートに熱可塑性樹脂が含浸している複数の樹脂含浸繊維層」、「熱可塑性樹脂からなる強化繊維を含まない中間樹脂層」、「表面樹脂層」に相当する。
また、甲2発明の「ラミネート」は、甲第2号証の段落【0035】の記載から見て、いわゆる「プリプレグ」にあたることも明らかであるから、本件発明1の「プリプレグ」に相当する。

以上の点をふまえ、本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、

「強化繊維からなるシートに熱可塑性樹脂が含浸している複数の樹脂含浸繊維層の層間に熱可塑性樹脂からなる強化繊維を含まない中間樹脂層を有する強化繊維樹脂層と、前記強化繊維樹脂層の少なくとも一面に形成される表面樹脂層とからなるプリプレグ。」
で一致し、次の点で相違する。

・相違点3
本件発明1の表面樹脂層は、「強化繊維を含まない」ものであるのに対して、甲2発明の表面層重合体はそのような特定がない点。

・相違点4
本件発明のプリプレグは、「強化繊維樹脂層に含有する熱可塑性樹脂の目付[A]と、表面樹脂層の樹脂目付[B]との割合が0.15 < [B]/[A] < 0.50」であるのに対して、甲2発明はそのような特定を有しない点。

・相違点5
本件発明のプリプレグは、表面樹脂層の厚さが「15?30μm」であるのに対して、甲2発明はそのような特定を有しない点。

事案に鑑み、まず、相違点4について検討する。
甲2発明には、強化繊維樹脂層に含有する熱可塑性樹脂の目付[A]と、表面樹脂層の樹脂目付[B]との割合について何ら記載されていないから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。
また、甲第2号証の明細書、特許請求の範囲及び図面全体の記載を通じてみても、各層の樹脂の目付量についての具体的な言及はなく、ましてや、「強化繊維樹脂層に含有する熱可塑性樹脂の目付[A]と、表面樹脂層の樹脂目付[B]との割合」を特定の範囲とする技術思想もない。
してみれば、相違点3、5については検討するまでもなく、本件発明1は甲第2号証に記載された発明(甲2発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(1)のとおり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明(甲2発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2ないし4もまた、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 結論
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-06 
出願番号 特願2017-130008(P2017-130008)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 113- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大島 祥吾
植前 充司
登録日 2019-02-22 
登録番号 特許第6484295号(P6484295)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 プリプレグ、その製造方法、及び複合材料の製造方法  
代理人 木村 嘉弘  

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