• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1357976
審判番号 不服2018-13385  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-05 
確定日 2019-12-18 
事件の表示 特願2016-560709「2×1光スイッチのオフ状態モニタリングのための、統合されたフォトダイオードを有する2×1MMIのための装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 8日国際公開、WO2015/149722、平成29年 6月 1日国内公表、特表2017-514166〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)4月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年4月4日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年9月21日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成29年12月26日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成30年5月30日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は同年6月5日に請求人に発送された。これに対して、同年10月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年10月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年10月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のように補正された(下線は当審で付与。以下同じ。)。
「相互に平行な2つの入力導波路と、
前記2つの入力導波路に結合された出力導波路と、
前記2つの入力導波路のうちの第1の導波路に結合され、前記出力導波路の隣に位置決めされた光検出器と、
前記出力導波路の光伝搬方向とは異なる方向に前記第1の導波路から前記光検出器へ延びる分岐導波路とを備え、
前記異なる方向は、前記分岐導波路の分岐の起点からの方向であり、
前記分岐導波路は、光チップの平面視で、光伝搬方向に垂直な方向に沿って前記第1の導波路と前記光検出器との結合部と隣接して位置し、
前記光検出器の幅は、前記平面視で、前記結合部の幅よりも広くなるように設定される
ことを特徴とする光チップ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
上記(1)の本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に対応する、本件補正前の、平成29年12月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項5の記載は次のとおりである。
「相互に平行な2つの入力導波路と、
前記2つの入力導波路に結合された出力導波路と、
前記2つの入力導波路のうちの第1の導波路に結合され、前記出力導波路の隣に位置決めされた光検出器と、
前記出力導波路の光伝搬方向とは異なる方向に前記第1の導波路から前記光検出器へ延びる分岐導波路と
を備えることを特徴とする光チップ。」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加について
本件補正により追加された「前記異なる方向は、前記分岐導波路の分岐の起点からの方向であり、前記分岐導波路は、光チップの平面視で、光伝搬方向に垂直な方向に沿って前記第1の導波路と前記光検出器との結合部と隣接して位置し、前記光検出器の幅は、前記平面視で、前記結合部の幅よりも広くなるように設定される」(以下「本件補正事項」という。)について、新規事項の追加か否か検討する。
本願の願書に最初に添付された(以下「当初」という。)明細書には、分岐導波路、(第1の)導波路、光検出器について、「【請求項10】相互に平行な2つの入力導波路と、前記2つの入力導波路に結合された出力導波路と、前記2つの入力導波路のうちの第1の導波路に結合され、前記出力導波路の隣に位置決めされた光検出器と、前記第1の導波路から前記光検出器中に延びる分岐導波路とを備えることを特徴とする光チップ。」、「【0005】別の実施形態によれば、光チップは、相互に平行な2つの入力導波路と、2つの入力導波路に結合された出力導波路とを備える。光チップはさらに、2つの入力導波路のうちの第1の導波路に結合され、出力導波路の隣に位置決めされた光検出器と、第1の導波路から光検出器へ延びる分岐導波路とを備える。」、「【0017】図7は、統合された検出器を有する改良型2×1MMIカプラ700の別の実施形態を示す。この設計は、1つまたは2つの検出器730(例えばゲルマニウム光検出器)を、カプラ接合部またはボックス715の端部において、2×1MMIカプラ700に統合することを含む。ボックス715の横方向の寸法(光伝搬方向に対して)は、出力導波路720の横方向の寸法よりもかなり広くすることができる。検出器730は、出力導波路720が位置するボックス715の中心からずれている。この設計は、パス状態でフォトダイオード要素または検出器430が光の透過に対して最小限の摂動を及ぼすように行うことができる。具体的には、先細の導波路コンポーネント722が、出力導波路720からの角度で、各検出器730の内部でボックス715から外に分岐される。検出器730の内部で統合された先細の幾何形状は、後方反射を低減することにより、ボックス715から検出器730中への光の円滑な結合を提供する。角度は、それぞれの入力導波路710から検出器730への結合効率を改善するように選択することができる。検出器730と、分岐する先細の導波路コンポーネント722とを含めた、2×1MMIカプラ700の種々のコンポーネントは、同じ製作プロセス(例えばリソグラフィプロセス)において製作および統合されて、カプラ700の最終設計を単一チップ上で得る。2つの検出器730がボックス715の両側に示されているが、別の実施形態では、1つの検出器730のみがボックス715の片側で使用することができ、または、1つの先細の導波路コンポーネント722のみが、2つの検出器730のうちの一方の中で統合することができる。しかし、2つの検出器730中への2つの先細の導波路コンポーネント722の使用は、さらに損失を低減し検出を改善することができる。」、「【0020】図10は、カプラ400または700など、統合された検出器を有する改良型2×1MMIカプラを作製するための、実施形態方法1000のフローチャートである。ステップ1010で、露光、付着およびエッチングを含むリソグラフィプロセスを使用して、2×1MMIカプラが基板上に形成される。ステップ1020で、同じまたは追加のリソグラフィプロセスの一部として、1つまたは2つの光検出器が同じ基板上に形成される。光検出器は、カプラ導波路に隣接するゲルマニウム導波路として形成することができる。あるいは、各検出器は、カプラと同じ平面におけるシリコン層の上にゲルマニウムを成長させることにより形成することができる。したがって、シリコン層は、カプラからの光の一部のための導波路としての働きをし、シリコン層の上のゲルマニウム層は、このシリコン層のためのクラッディングとしての働きをする。ゲルマニウムクラッディングは、エバネッセント波結合からの光を吸収する。カプラは、例えばカプラ400におけるように、カプラの出力導波路の両側で、入力導波路との境界面に配置される。実施形態では、カプラ700におけるように、出力導波路の両側で、先細の導波路コンポーネントが、各検出器の内部の2つの導波路との境界面から外に分岐される。」との記載がある。
そして、当初明細書には「隣接」や「第1の導波路と前記光検出器との結合部」について、何ら特別な説明又は定義づけはないことから、「隣接」、「結合」とは、それぞれ通常の「となりあってつづくこと。近隣関係にあること。」、「結び合うこと。結び合せて一つにすること。」(広辞苑第四版)、」の意味で用いられているものと解される。
しかしながら、上記語句の通常の解釈、及び上記当初明細書の記載並びに図7等を参酌しても、「分岐導波路」は、「第1の導波路から前記光検出器中に延びる」以外の態様は示されておらず、そもそも「第1の導波路と前記光検出器との結合部」とはどの部分であるのか、当初明細書の記載からは明らかでなく、また、仮に、「第1の導波路と前記光検出器との結合部」が、本件明細書の【0017】における「カプラ接合部」または「ボックス715」であると解したとしても、本件補正事項における「前記分岐導波路は、光チップの平面視で、光伝搬方向に垂直な方向に沿って前記第1の導波路と前記光検出器との結合部と隣接して位置し」ているとの特定とはどのように対応するのか把握できないほど相互の位置関係が異なる構成となっている。したがって、本件補正事項における「前記分岐導波路は、光チップの平面視で、光伝搬方向に垂直な方向に沿って前記第1の導波路と前記光検出器との結合部と隣接して位置し」ていることは、当初明細書や図面に開示されているとはいえず、また、技術常識から自明であるともいえないから、記載されているに等しい事項であるということもできない。
これらのことから、本件補正後の特許請求の範囲の「前記分岐導波路は、光チップの平面視で、光伝搬方向に垂直な方向に沿って前記第1の導波路と前記光検出器との結合部と隣接して位置し」との記載は当初明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)には記載がなく、当初明細書等の記載から自明でもないから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
請求人は、審判請求書において、「3.補正の説明・・・この補正事項は、出願当初の明細書の段落0017および図7等の記載に基づいており、新たな技術的事項を導入するものではありません」と主張するが、上述したように、「前記分岐導波路は、光チップの平面視で、光伝搬方向に垂直な方向に沿って前記第1の導波路と前記光検出器との結合部と隣接して位置し」との記載は当初明細書等の記載から導き出せるものではない。
よって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
以下、仮に、本件補正が新規事項の追加にあたらないとして、引き続き、本件補正について検討する。

(2)独立特許要件について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「分岐導波路」、「光検出器」について、本件補正事項のとおりの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア 特許法第29条第2項について
(ア)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(イ)引用文献1の記載事項
a 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開2013-156352号公報(平成25年8月15日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器及び光送信モジュールに関する。」

(b)「【0027】
第1実施形態に係る光送信モジュール200には、n型InP基板上に1.55μm帯の波長可変SG-DBRレーザ109とMZ変調器が集積されている。第1実施形態に係る光変調器に含まれる合波器106は2×1MMIであり、信号光が出力可能な光導波路を任意に設定可能である。また、モニタ用光検出器117は、信号光が出力可能な光導波路として設定される出力光導波路107の光軸上から離して配置されている。
【0028】
第1実施形態に係るSG-DBRレーザ集積MZ変調器100は、左端の無反射コーティング132と右端の無反射コーティング133との間に挟まれた半導体積層体で構成されている。そして、左端から、DBR領域の電極113、位相調整領域の電極114、ゲイン領域の電極115、DBR領域の電極116が配置されているSG-DBRレーザ109と、中継光導波路102と、この1本の中継光導波路102が入力で2本の中継光導波路が出力である1×2MMI導波路で構成された分波器103と、分波器103の出力である2本の中継光導波路中にあるMZ光導波路104及びMZ光導波路105と、2本の中継光導波路(MZ光導波路104の後、及び、MZ光導波路105の後の中継光導波路)が入力で、1本の中継光導波路が出力である2×1MMIの合波器106と、合波器106の出力である1本の中継光導波路が接続された出力光導波路107、及び、出力光導波路107の光軸上から離して、出力光107の光軸の垂直上方向に配置された光検出器117、が並べられている。1本の出力光導波路107は、2×1MMIの合波器106と、2×1MMIの合波器106の縦方向についての中央付近(2×1MMIの合波器106の光の進行方向に沿った略中心軸上)で接続している。光検出器117は、出力光導波路107の光軸から1.5μm離れて配置されている。また、光検出器117は、2×1MMI合波器106の右端から1.5μm離れて配置されている。1×2MMI分波器103、2×1MMI合波器106は、略直方体形状であり、光の進行方向に沿った長さ(以下、長さLと呼ぶ。)と、光の進行方向に対する略垂直方向の長さ(以下、幅Wと呼ぶ。)との関係は、L[μm]=n×W[μm]^2/λ[μm]/2との数式で表される。なお、当該数式における、λは入出力される光の波長を表し、nは光導波路の屈折率を表している。第1実施形態に係る1×2MMI分波器103、2×1MMI合波器106については、具体的には、例えば、長さLが40μmであり、幅Wが6μmである。1×2MMI分波器103や2×1MMIの合波器106に関して、光の進行方向に沿った中心軸(合波器106に接続される光導波路の光軸方向に沿った中心軸)から、2×1MMI合波器106に接続されるMZ光導波路104の中心軸までの距離も、2×1MMI合波器106に接続されるMZ光導波路105の中心軸までの距離も、(1/4)×Wである。」

(c)「【0038】
[第2実施形態]
以下、本発明の別の一実施形態である第2実施形態について、図4A、図4B、図4C、図4D、図5A、図5B、図5C、図5D、及び、図5Eを用いて説明する。なお、第2実施形態の構成は、以下に説明する点を除いて、第1実施形態の構成と共通する。
【0039】
図4Aは、第2実施形態に係る光変調器(SG-DBRレーザ集積MZ変調器100)の概略的な構成を示す概略平面図である。図4Bは、図4Aに示す4B-4B線を切断面とするSG-DBRレーザ集積MZ変調器100の概略拡大断面図である。図4Cは、第2実施形態に係るSG-DBRレーザ集積MZ変調器100の2×1MMI合波器106付近の部分拡大図、図4Dは第2実施形態に係るSG-DBRレーザ集積MZ変調器100の変形例における2×1MMI合波器106付近の部分拡大図である。
【0040】
第2実施形態に係る光送信モジュール200でも、1.55μm帯の波長可変SG-DBRレーザ109とMZ変調器が集積されている。
【0041】
第1実施形態では、モニタ用光検出器と2×1MMI合波器とが、導波路で接続していなかったが、第2実施形態では、モニタ用光検出器と2×1MMI合波器とが、出力光導波路107の上側に設けられた導波路で接続されている。すなわち、略直方体形状である合波器106における、出力光導波路107が接続されている面に、導波路が接続されており、この導波路で導波される光の強度を光検出器117が検出することとなる。これによりモニタ用光検出器の光電流がより大きくなり、精度よく光出力を制御することができる。
【0042】
図4Aに示すように、第2実施形態では、2×1MMI合波器106にモニタ光導波路301が接続している。出力光導波路は、2×1MMIの合波器106と、2×1MMIの合波器106の縦方向の中央付近(2×1MMIの合波器106の光の進行方向に沿った略中心軸上)で接続している。図4Bに示すように、光検出器117は、共通電極148が裏面全面にあるInP基板101上に、低損失導波路コア層146、光吸収層InGaAs162、p型InPクラッド147、p型InGaAsコンタクト層144、光検出器電極112が順に積層されている。InP基板101の表面側に電極が無い部分は、SiO2パッシベーション膜150に覆われている。光検出器117は、光吸収層InGaAs162で吸収された光強度を電流により検出している。
【0043】
図4Cに示されている2×1MMI合波器106は、第1実施形態に係る合波器106と同様の仕様であり、幅Wが6μm、長さLが40μmである。出力光導波路107の、光の進行方向に対する略垂直方向の長さは1.5μm、モニタ光導波路301の、光の進行方向に対する略垂直方向の長さは1.5μmであり、モニタ光導波路301の左端と2×1MMI合波器106の右端は略一致している。図4Cの例では、出力光導波路107とモニタ光導波路301との間隔d2は0.75μmである。ここで、2つの光導波路の間隔d2が狭いと、導波路形成時にエッチングができない可能性がある。そこで図4Dに示すように、出力光導波路107とモニタ光導波路301との間隔d2を広げると(例えば1.5μm)、安定して導波路が形成可能になる。このとき、モニタ光導波路301の一部が2×1MMI合波器106からはみ出てしまうが、2×1MMI合波器106の右端からの距離がd3である位置(例えば、2×1MMI合波器106の右端からの距離が5μmである位置)から徐々に2×1MMI合波器106の幅Wを広げることにより、滑らかに導波路は接続される。ここで、距離d3は、後に図5B、図5Cで詳細に示すが、2×1MMI合波器106での干渉に影響が無い距離(例えば、5μm以下)に設定すれば、出力光に影響が無いこととなる。
【0044】
ここで、光検出器117での光強度のモニタについて、図5A、図5B、図5C、図5D、及び、図5Eを用いて示す。
【0045】
図5Aは、第2実施形態に係る光検出器117での光強度のモニタに関する計算モデルを示す平面図である。図5Aでは、中継光導波路102(図5Aにおける入力光導波路)、1×2MMI分波器103、MZ光導波路104、105、2×1MMI合波器106、出力光導波路107が接続されている。モニタ光導波路301は、出力光導波路107の光軸から垂直上方向に1.5μm離れている。ある位相条件では、光はすべて出力光導波路107に伝播する(図5B)。また、別のある位相条件では、光は出力光導波路107に伝播せず、その両側に光出力のピークができ、その一部がモニタ光導波路301に結合する(図5C)。
【0046】
図5D、及び、図5Eに、出力光導波路107、及び、モニタ光導波路301に結合する光強度の位相変化依存性を示す。第2実施形態では、モニタ光導波路301に結合する、ピークにおける光の強さを表す値は、出力光導波路107に結合する、ピークにおける光の強さを表す値に所定の比率(0以上1未満)を乗じた値よりも小さい。第2実施形態では、具体的には、例えば、出力光導波路107に結合する光の1/20程度の強度の光がモニタ光導波路301に結合する。図5D、及び、図5Eでは、横軸がMZ光導波路104及びMZ光導波路105から出力される光の位相差、縦軸が出力光導波路107及びモニタ光導波路301に結合する光の強度を表している。出力光導波路107、及び、モニタ光導波路301に結合する光強度は、相補的に変化するため、モニタ光導波路301に結合する平均光強度は出力光導波路107の平均光強度に比例する。このため、光検出器電極112で検出される光強度をモニタすることにより、外部に出力される光の強度がモニタできることになる。
【0047】
第2実施形態に係る光送信モジュール200の構成は、以上説明した点を除いては、図2と同様である。実際に光送信モジュール200を作製したところ、光出力が+1dBmのときの初期のモニタ電流は0.15mAであり、モニタ電流を一定に保つことにより、動作時間中の光出力を一定に保つことができた。」

b 上記記載及び図面から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(a) 図4Aから、「2本の中継光導波路」は、相互に平行であることが看て取れる。

(b) 図4A、4Cから、「光検出器117」は、合波器106における、上側の中継光導波路側に結合され、出力光導波路107の隣に位置決めされていることが看て取れる。

(c) 図4A、4Cから、「モニタ光導波路301」は、合波器106における、上側の中継光導波路側から光検出器117へ延びており、始めに出力光導波路107の光伝播方向と概ね同じ方向に延びた後、前記光伝播方向とは異なる方向に延びていることが看て取れる。

c 上記a、bから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「相互に平行である、2本の中継光導波路が入力で、1本の中継光導波路が出力である2×1MMIの合波器106と、合波器106の出力である1本の中継光導波路が接続された出力光導波路107を有し、
モニタ用光検出器117と合波器106とが、出力光導波路107の上側に設けられたモニタ光導波路301で接続されており、
略直方体形状である合波器106における、出力光導波路107が接続されている面に、モニタ光導波路301が接続されており、このモニタ光導波路301で導波される光の強度を光検出器117が検出することとなり、
出力光導波路107は、合波器106と、合波器106の縦方向の中央付近(合波器106の光の進行方向に沿った略中心軸上)で接続しており、
出力光導波路107とモニタ光導波路301との間隔d2は0.75μmであり、
光検出器117は、合波器106における、上側の中継光導波路側に結合され、出力光導波路107の隣に位置決めされており、
モニタ光導波路301は、合波器106における、上側の中継光導波路側から光検出器117へ延びており、始めに出力光導波路107の光伝播方向と概ね同じ方向に延びた後、前記光伝播方向とは異なる方向に延びている、
光送信モジュール。」

(ウ)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
a 引用発明の「相互に平行である、2本の中継光導波路」、「出力光導波路107」、「光検出器117」は、それぞれ本件補正発明の「相互に平行な2つの入力導波路」、「出力導波路」、「光検出器」に相当する。

b 引用発明において「光検出器117は、合波器106における、上側の中継光導波路側に結合されて」いるから、上側の中継光導波路に結合されているということができる。したがって、引用発明の「光検出器117は、合波器106における、上側の中継光導波路側に結合され、出力光導波路107の隣に位置決めされており」は、本件補正発明の「前記2つの入力導波路のうちの第1の導波路に結合され、前記出力導波路の隣に位置決めされた光検出器」を有することに相当する。

c 引用発明において、「モニタ光導波路301は、合波器106における、上側の中継光導波路側から光検出器117へ延びており、始めに出力光導波路107の光伝播方向と概ね同じ方向に延びた後、前記光伝播方向とは異なる方向に延びている」ので、引用発明の「モニタ光導波路301」は、本件補正発明の「分岐導波路」に相当し、引用発明の上記構成は、本件補正発明の「前記出力導波路の光伝搬方向とは異なる方向に前記第1の導波路から前記光検出器へ延びる分岐導波路とを備え」ることと、「前記第1の導波路から前記光検出器へ延びる分岐導波路とを備え」る点で共通する。

d 引用発明の「光送信モジュール」は、「光チップ」の態様を有していることは明らかであるから、本件補正発明の「光チップ」に相当する。

e 上記a?dから、本件補正発明と引用発明は、 以下の点で一致し、相違点1?3で相違する。
<一致点>
「相互に平行な2つの入力導波路と、
前記2つの入力導波路に結合された出力導波路と、
前記2つの入力導波路のうちの第1の導波路に結合され、前記出力導波路の隣に位置決めされた光検出器と、
前記第1の導波路から前記光検出器へ延びる分岐導波路とを備える、
光チップ。」

<相違点1>
分岐導波路について、本件補正発明が「前記出力導波路の光伝搬方向とは異なる方向に」延び、「前記異なる方向は、前記分岐導波路の分岐の起点からの方向であ」るのに対し、引用発明が「始めに出力光導波路107の光伝播方向と概ね同じ方向に延びた後、前記光伝播方向とは異なる方向に延びている」点。

<相違点2>
分岐導波路について、本件補正発明が「光チップの平面視で、光伝搬方向に垂直な方向に沿って前記第1の導波路と前記光検出器との結合部と隣接して位置し」ているのに対し、引用発明がそのような構成を有しているか不明である点。

<相違点3>
光検出器について、本件補正発明が「前記光検出器の幅は、前記平面視で、前記結合部の幅よりも広くなるように設定される」のに対し、引用発明がそのような構成を有しているか不明である点。

(エ)判断
a 相違点1について
引用発明においても、「モニタ光導波路301」は、出力光導波路107の光伝播方向とは異なる方向に延びている部分もあることから、異なる方向とすることは想定されているといえ、引用発明において、本件補正発明のように「分岐導波路の分岐の起点から」「前記出力導波路の光伝搬方向とは異なる方向に」延びるようにすることは、当業者が必要に応じて適宜設定しうる設計事項にすぎない。
また、本件明細書等には、相違点1に係る本件補正発明のようにすることによる効果は記載されておらず、当該作用効果は、当業者が予測し得る程度のものであり、格別なものとはいえない。

b 相違点2について
本件補正発明における「分岐導波路は、光チップの平面視で、光伝搬方向に垂直な方向に沿って前記第1の導波路と前記光検出器との結合部と隣接して位置し」ているとの記載は、上記(1)でも説示したように本件明細書等の記載と対応が取れておらず、本件明細書等の記載との関係でどのような構成を意図しているものか不明であるが、「分岐導波路」に関する構成であることは明らかであるから、「分岐導波路」の実施形態に係る本件図7に示された構成に関するものであると解される。
本件図7における「第1の導波路」、「光検出器」、「分岐導波路」の相対的な位置関係と、引用文献1の図4A、図4Cにおける「上側の中継光導波路」、「光検出器117」、「モニタ光導波路301」の相対的な位置関係は似通っていることから、引用発明においても同様の構成を有していると解することができる。よって、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
請求人は、審判請求書において、「(2)本願発明と引用文献に記載された発明との対比・・・上記(ii)の構成に関し、引用文献1は、分岐導波路、および2つの入力導波路の結合部を隣接して配置するという概念がありません。実際に、引用文献1には、出力導波路107とモニタ光導波路301との間隔d2が記載され(図4D)、出力導波路107とモニタ光導波路301とを隣接するものではないと思料します。むしろ、引用文献1では、出力導波路107とモニタ光導波路301との間隔d2を広げると(例えば1.5μm)、安定的して導波路が形成可能になると記載されています(段落0043)。したがって、引用文献1には、上記(ii)の構成は記載されていません。」と主張するが、上記したように相違点2は実質的な相違点とはいえず、また、請求人が主張する引用文献1における「間隔d2」は出力導波路107とモニタ光導波路301の間隔であって、相違点2における第1の導波路、光検出器、分岐導波路の間隔を意味するものではないので、「間隔d2」の存在により、引用発明において相違点2に係る本件補正発明の構成を有しないということにはならない。
付言すると、引用文献1の【0055】の記載や、【図3B】、【図3C】、【図5B】、【図5C】、【図7B】、【図7C】、【図10B】、【図10C】から見ても、2×1MMI合波器において、位相条件に応じてどのように光が伝搬するのかは、入力光導波路、合波器のサイズ、形状、材質(屈折率)等に依存することが技術常識である。
そうすると、入力光導波路と合波器の形状等に応じて、分岐導波路と出力導波路の配置を最適化・好適化することは、当業者の通常の創作能力に過ぎないというべきであって、この点から見ても審判請求人の主張に理由はない。

c 相違点3について
本件明細書等において、「第1の導波路と前記光検出器との結合部」について、定義や具体的な態様に関する記載はない。そして、当該結合部は、図7におけるボックス715周辺のことを意味していると推測はできるものの、ボックス715は、本件明細書において、「「ボックス」とも呼ばれる接合部115で1つの出力導波路120に合体する2つの入力導波路110を備える。」(【0011】)と記載されているように、「第1の導波路、第2の導波路及び出力導波路の結合部」というべきものであるから、「第1の導波路と前記光検出器との結合部」とは合致せず、「第1の導波路と前記光検出器との結合部」が、本件補正発明において厳密にどの部分を意味しているのか不明である。
しかしながら、光強度をモニタするに際し、光検出器をどのように接続するかは当業者が適宜選択しうる事項にすぎず、その幅が入力導波路と光検出器の結合部の幅よりも大きい光検出器を使用することは、当業者が必要に応じて適宜設定しうる設計事項にすぎない。
また、本件明細書等には、相違点3に係る本件補正発明のようにすることによる効果は記載されておらず、当該作用効果は、当業者が予測し得る程度のものであり、格別なものとはいえない。
請求人は、審判請求書において、「(2)本願発明と引用文献に記載された発明との対比・・・上記(iii)の構成に関し、引用文献1は、2つの入力導波路の結合部の幅よりも広くなるように光検出器の幅を広くするようにする概念がありません。引用文献1では、光検出器117の幅が合波器106の幅よりも狭くなっており(図4D)、それとは逆に、光検出器117の幅を合波器106の幅よりも広くすることについて、記載されておらず、示唆もされていません。」と主張するが、上記したように、どの程度の幅の光検出器を用いるかは当業者が必要に応じて適宜設定しうる設計事項にすぎない。

(オ)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

イ 特許法第36条第6項第2号について
本件補正発明における「前記分岐導波路は、光チップの平面視で、光伝搬方向に垂直な方向に沿って前記第1の導波路と前記光検出器との結合部と隣接して位置し」ていることについて、本件明細書には、関連する説明や具体的な態様について何ら記載されていない。
また、当該記載は分岐導波路に関するものであるから、分岐導波路722が記載された図7を参酌しても、当該記載の構成は看て取れず、当該記載が本件明細書等におけるどのような構成を意味しているのか把握することができない。
したがって、本件補正発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年10月5日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項5に係る発明は、平成29年12月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項5に記載された事項により特定される、上記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
この出願の請求項5に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
というものである。

3 進歩性について
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)ア(イ)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記異なる方向は、前記分岐導波路の分岐の起点からの方向であり、前記分岐導波路は、光チップの平面視で、光伝搬方向に垂直な方向に沿って前記第1の導波路と前記光検出器との結合部と隣接して位置し、前記光検出器の幅は、前記平面視で、前記結合部の幅よりも広くなるように設定される」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-18 
結審通知日 2019-07-23 
審決日 2019-08-07 
出願番号 特願2016-560709(P2016-560709)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 561- Z (G02F)
P 1 8・ 121- Z (G02F)
P 1 8・ 537- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 宙子  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
井上 博之
発明の名称 2×1光スイッチのオフ状態モニタリングのための、統合されたフォトダイオードを有する2×1MMIのための装置および方法  
代理人 窪田 郁大  
代理人 赤澤 克豪  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ