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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01H
管理番号 1357979
審判番号 不服2018-15424  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-21 
確定日 2019-12-18 
事件の表示 特願2016-570795「産業用オーディオ騒音監視システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月10日国際公開、WO2015/187264、平成29年 7月20日国内公表、特表2017-519981〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)4月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年6月2日、同年12月31日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年10月24日付けの拒絶理由が通知され、平成30年2月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年7月26日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して同年11月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされ、その後、令和元年6月19日に上申書が提出されたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は、本件補正前の平成30年2月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載である、
「【請求項1】
音響騒音の監視に使用するワイヤレスフィールド装置であって、:
フィールド取付位置で音響騒音を感知するように設定された音響センサと;
感知された音響騒音および作業者騒音暴露基準に基づいて有害な騒音状態を識別するように設定された音響センサに結合された処理回路と;
識別された有害な騒音状態に応じて警告出力を提供するように設定された出力回路とを含み;
ワイヤレスフィールド装置が無線周波数信号を使用してワイヤレスで通信するように設定された、
ワイヤレスフィールド装置。」を、
「【請求項1】
音響騒音の監視に使用するワイヤレスフィールド装置であって、:
前記ワイヤレスフィールド装置に取り付けられ、フィールド取付位置で音響騒音を感知するように設定された音響センサと;
前記音響センサに結合され且つ共に配置され、感知された音響騒音および作業者騒音暴露基準に基づいて有害な騒音状態を識別するように設定された処理回路と;
識別された有害な騒音状態に応じて警告出力を提供するように設定された出力回路とを含み;
ワイヤレスフィールド装置が無線周波数信号を使用してワイヤレスで自己組織化メッシュネットワークを用いて通信するように設定された、
ワイヤレスフィールド装置。」(下線は補正箇所である。)とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)上記請求項1についての補正は、
ア 音響センサについて、「前記ワイヤレスフィールド装置に取り付けられ」た音響センサとし、
イ 音響センサに結合された処理回路について、「前記音響センサに結合され且つ共に配置され」た処理回路とし、
ウ ワイヤレスで通信することについて、「ワイヤレスで自己組織化メッシュネットワークを用いて通信する」とするものであり、
いずれも、いわゆる限定的減縮に該当するものといえることから、請求項1についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(2)引用文献について
ア 引用文献1について
(ア)引用文献1の記載事項
本願の最先の優先日前に頒布され、下記第3の2の原査定の拒絶の理由で主引用例として引用された刊行物である引用文献1(特開2007-232561号公報)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。
(1ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の場所における残響時間等に代表される室内音響測定や屋内外での騒音測定を行うための無線LAN内蔵型騒音計に関する。」

(1イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の騒音監視システムは、電話回線を用いるものであるが、従来の残響時間に代表される室内音響測定や屋内外での騒音測定を行うシステムの場合には、一般的には、図3に示すような測定機器系統が必要となる。図3は、従来の音響測定方法に係る測定機器構成概略を示す図である。
・・・
【0008】
また、屋外での騒音測定などではケーブル52が長距離化することにより信号の劣化が起こったり、ケーブル52にラジオ放送の電波が混入したり、また第三者の不注意によるケーブル52が切断されたり、といった種々の問題がある。」

(1ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る無線LAN内蔵型騒音計1の外観図である。無線LAN内蔵型騒音計1は主として、本体の筐体部1とマイクロフォン3とからなり、筐体部1には、測定結果を示す表示パネル4、無線LAN内蔵型騒音計1の各種設定を行うための操作スイッチ5、無線LANカード6が設けられている。この無線LANカード6は筐体部1のスロットから着脱可能なカード状のもので構成されており、無線LANカード6が不要な場合には、無線LANカード6を外しておいても無線LAN内蔵型騒音計1は単体として騒音計として機能するようになっている。
【0013】
測定時には、無線LAN内蔵型騒音計1のマイクロフォン3によって測定音が電気信号に変換され、この電気信号は筐体部1に内蔵される音圧信号処理回路等からなる電気回路によって処理される。また、この電気回路によって表示パネル4に音圧が表示されたり、無線LANカード6によって無線でデータ伝送ができたり、というように構成される。
【0014】
次に、無線LAN内蔵型騒音計1に内蔵される電気回路の構成の概略について図2のブロック図を参照しつつ説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る無線LAN内蔵型騒音計1のブロック図である。図2において、11はマイクロフォン部、12はアンプ部、13はA/D変換部、14は信号処理部、15は表示部、16は無線LAN部である。マイクロフォン部11から得られる電気信号は極めて微弱なレベルの電気信号であるので、この電気信号をあるレベルまでに増幅するのがアンプ部12である。A/D変換部13は、アンプ部12の出力信号をデジタル信号に変換する回路である。信号処理部14ではデジタル化された信号に対して、周波数重み付け、実効値検波、対数圧縮などのデジタル信号処理を行い、その結果を表示部15へ送り、表示部15の表示パネル4に表示する。無線LAN部16はA/D変換部13から出力されたデジタルデータを所定のプロトコルで無線送信する回路である。」

(1エ)「【0017】
また、本発明の無線LAN内蔵型騒音計1を複数用いることによって、複数の測定ポイントを同時に測定し、それぞれの無線LAN内蔵型騒音計1の測定データを、測定基地に設置したコンピュータに伝送するというような利用方法も可能となる。このような利用方法をとる場合、例えば、無線LAN内蔵型騒音計1の無線LAN部17において、IEEE802.11b規格を採用すれば最大4つの無線LAN内蔵型騒音計1のデータを同時に測定することができるし、また、無線LAN内蔵型騒音計1の無線LAN部17において、IEEE802.11a規格を採用すれば最大8つの無線LAN内蔵型騒音計1のデータを同時に測定することができる。」

(イ)引用発明について
上記摘記(1ア)?(1エ)から、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。なお、図面番号は省略して記載した。
「屋内外での騒音測定を行うための無線LAN内蔵型騒音計であって、
主として、本体の筐体部とマイクロフォンとからなり、筐体部には、測定結果を示す表示パネル、無線LAN内蔵型騒音計の各種設定を行うための操作スイッチ、無線LANカードが設けられており、
該マイクロフォンによって測定音が電気信号に変換され、この電気信号は筐体部に内蔵される音圧信号処理回路等からなる電気回路によって処理され、この電気回路によって表示パネルに音圧が表示されたり、無線LANカードによって無線でデータ伝送ができたり、というように構成される無線LAN内蔵型騒音計であり、
上記無線LAN内蔵型騒音計を複数用いることによって、複数の測定ポイントを同時に測定し、それぞれの無線LAN内蔵型騒音計の測定データを、測定基地に設置したコンピュータに伝送するというような利用方法も可能である、
無線LAN内蔵型騒音計。」

イ 引用文献2について
(ア)引用文献2の記載事項
本願の最先の優先日前に頒布され、下記第3の2の原査定の拒絶の理由で周知技術を示す文献として提示された刊行物である引用文献2(特開2000-9527号公報)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、発生した騒音を測定し、測定結果に応じて報知する騒音監視システムに関する。
【0002】
【従来の技術】日本工業規格(JIS)Z8731には騒音レベル測定方法が定義され、さらに騒音レベルの代表値として、等価騒音レベルLeq、時間率騒音レベルLx等が定義されている。そして、騒音を防止しようとする者は、これらの騒音レベルの代表値が一定の許容基準を満たすか否かを判断して、許容基準を満たさない騒音に関して対策を施す。対策を施すにさいして、騒音を人間の耳で聞き取る作業を行い、要因を解析し、許容基準を満たすような改良を発生源や防音システムに加えるのが一般的である。
【0003】従来、様々な音から騒音を切り分けて警告を発する、次のような騒音監視システムが知られている。
【0004】図8の騒音警報システム100で、マイクロフォン101は採取した音に応じた出力信号を出力する。マイクロフォン101の出力信号は測定装置本体106に入力される。測定装置本体106は監視部102と増幅部104を内蔵し、設定部103を備えている。監視部102は、マイクロフォン101の出力信号が入力されており、一定レベル(閾値)以上の入力信号が入力されると、マイクロフォン101の出力信号を増幅部104に送る。増幅部104は送られた信号を増幅してスピーカー105に出力し、スピーカー105からはマイクロフォン101の採取した音に対応した音が発音される。一定レベル以上の入力がない場合は、マイクロフォン101の出力信号は増幅部104へ入力されないから、スピーカー105は発音しない。設定部103に備えられるダイアルを操作して、閾値、持続時間の設定が可能である。」

(イ)引用文献2からの周知技術
上記引用文献2の記載事項にも記載されているように、騒音を監視するものにおいて、測定(感知)された騒音について、基準に基づいて対策を施さなければならない騒音(有害な騒音状態)を切り分けて(識別して)、その識別された有害な騒音状態に応じて警告を発する(出力する)ようにすることは、本願の最先優先日前に当業者において周知のことであるといえる。

(3)対比
補正発明と引用発明とを対比する。
ア ワイヤレスフィールド装置について
騒音計は、引用発明の先行技術が記載されている摘記(1イ)の【0004】に「騒音測定を行う」ものを「騒音監視」と記載されているように、一般的に騒音を監視しているものといえることから、引用発明の「屋」「外での騒音測定を行うための無線LAN内蔵型騒音計」は、補正発明の「音響騒音の監視に使用するワイヤレスフィールド装置」に相当する。

イ 音響センサについて
補正発明の「音響センサ」は、本願明細書の【0010】に「音響センサ、例えば、マイクロフォン」と記載されているように、具体的にはマイクロフォンのことであり、補正発明の「ワイヤレスフィールド装置に取り付けられ」た「音響センサ」とは、本願明細書の【0003】に「ワイヤレスフィールド装置は、音響騒音を感知するように設定された音響センサを含む。」(「取り付け」は、本件補正で補正された事項であるが、請求人は該【0003】の記載を根拠としていることを主張している。)と記載されているとおり、ワイヤレスフィールド装置に音響センサがあるという程度の意味であると解するのが相当である。
そして、補正発明の「フィールド取付位置で音響騒音を感知する」とは、本願明細書の【0009】に「フィールド取り付け可能なオーディオ騒音モニタ100」【0014】に「複数の騒音モニタ100は、作業または他の区域、例えば・・・およびそれらに類するものに位置付けられることができる。」(「フィールド取付位置で」は、平成30年2月9日の手続補正で補正された事項であるが、請求人は該【0009】及び【0014】の記載を根拠としていることを主張している。)と記載されているとおり、フィールドで取り付けた位置において音響騒音を感知するという意味であると解するのが相当である。
一方、引用発明において、「マイクロフォン」は「無線LAN内蔵型騒音計」にあり、その「無線LAN内蔵型騒音計」は「屋」「外」の「測定ポイント」(フィールド取付位置)で「騒音」を「測定」するものであるから、「マイクロフォン」は、「屋」「外」の「測定ポイント」(フィールド取付位置)で「騒音」を「測定」するものである。
してみれば、引用発明の「無線LAN内蔵型騒音計」にある「マイクロフォン」は、補正発明の「前記ワイヤレスフィールド装置に取り付けられ、フィールド取付位置で音響騒音を感知するように設定された音響センサ」に相当する。

ウ 処理回路について
補正発明の「前記音響センサに結合され且つ共に配置され」た「処理回路」とは、音響センサに電気的に結合され、音響センサと処理回路はワイヤレスフィールド装置に共に配置されているということ(請求人は【0003】、【0010】、【0011】、【図1】及び【図6】の記載を根拠としていることを主張している。)である。
一方、引用発明の「電気回路」は、「マイクロフォンによって測定音が電気信号に変換され、この電気信号」を「処理」するものであるから、マイクロフォンと電気的に結合しているものであり、また、「電気回路」は「無線LAN内蔵型騒音計」の「筐体部1に内蔵される」ものであるから、マイクロフォンと電気回路は無線LAN内蔵型騒音計に共に配置されているものである。
してみれば、補正発明の「マイクロフォンによって測定音が電気信号に変換され、この電気信号」を「処理」する「電気回路」と、補正発明の「前記音響センサに結合され且つ共に配置され、感知された音響騒音および作業者騒音暴露基準に基づいて有害な騒音状態を識別するように設定された処理回路」とは、「前記音響センサに結合され且つ共に配置され、感知された音響騒音を処理する処理回路」の点で共通する。

エ 出力回路について
引用発明の「マイクロフォンによって測定音が電気信号に変換され、この電気信号」を「処理」し、「表示パネルに音圧」を「表示」させる「電気回路」と、補正発明の「識別された有害な騒音状態に応じて警告出力を提供するように設定された出力回路」とは、「出力を提供するように設定された出力回路」の点で共通する。

オ 通信について
引用発明の「無線LAN内蔵型騒音計」は、補正発明の「無線周波数信号を使用してワイヤレスで通信するように設定された、ワイヤレスフィールド装置」に相当する。

カ 一致点及び相違点について
上記ア?オを踏まえると、補正発明と引用発明とは、
(一致点)
「音響騒音の監視に使用するワイヤレスフィールド装置であって、:
前記ワイヤレスフィールド装置に取り付けられ、フィールド取付位置で音響騒音を感知するように設定された音響センサと;
前記音響センサに結合され且つ共に配置され、感知された音響騒音を処理する処理回路と;
出力を提供するように設定された出力回路とを含み;
ワイヤレスフィールド装置が無線周波数信号を使用してワイヤレスで通信するように設定された、
ワイヤレスフィールド装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
処理回路及び出力回路において、補正発明では、「作業者騒音暴露基準に基づいて有害な騒音状態を識別するように」処理され、「識別された有害な騒音状態に応じて警告」を出力するように設定されているのに対し、引用発明の電気回路(処理回路及び出力回路)では、そのように設定されていない点。

(相違点2)
ワイヤレスで通信する際に、補正発明では、「自己組織化メッシュネットワークを用いて」通信するのに対し、引用発明では、それを用いて通信することが特定されていない点。

(4)判断
ア 相違点についての判断
(ア)相違点1について
上記(2)イ(イ)で記載しようように、騒音を監視するものにおいて、感知された騒音について基準に基づいて有害な騒音状態を識別して、その識別された有害な騒音状態に応じて警告を出力するようにすることは、本願の最先優先日前に当業者において周知のことである。ここで、上記引用文献2に記載されている「日本工業規格(JIS)Z8731」(上記(2)イの摘記(ア)の【0002】参照)は、工場等の騒音源が放射する騒音が人(作業者)に及ぼす影響について、各種のレベルをもって定められた規格(基準)であり、補正発明における「作業者騒音暴露基準」に対応するものといえる。
引用発明は、表示パネルに音圧を表示するものであるが、無線LAN内蔵型騒音計を使用する作業者が、単に音圧のみを知ることに加えて、マイクロフォンによって測定された騒音が、JIS等の基準を満たす範囲の騒音であるのかどうかを知りたいという動機は十分にあるから、引用発明の電気回路において、JIS等の基準に対応する作業者騒音暴露基準に基づいて有害な騒音状態を識別し、識別された有害な騒音状態に応じて警告を出力するように設定することは当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
マイクロフォン等のセンサ機器の複数を無線周波数信号を使用してワイヤレスで通信する際の手段として、「自己組織化メッシュネットワークを用いて」通信することは本願の最先優先日前に当業者において周知慣用手段(例えば、特表2013-544473号公報の【0003】及び【0004】、特表2010-505370号公報の【請求項25】及び【0012】、特開2005-184727号公報の【0004】、特開2012-147298号公報の【0004】、等参照)であり、引用発明も「無線LAN内蔵型騒音計を複数用いることによって、複数の測定ポイントを同時に測定し、それぞれの無線LAN内蔵型騒音計の測定データを、測定基地に設置したコンピュータに伝送するというような利用」をするものであるから、上記周知慣用手段に鑑みて、「自己組織化メッシュネットワークを用いて」通信することは当業者が容易になし得たことである。

イ 補正発明の効果について
本願明細書には、補正発明に基づく効果として「システムによって提供される情報は、従業員に災害を及ぼす過度の騒音がある区域をオペレータが識別することを可能にする。この識別に基づいて、オペレータは、効果的な緩和措置、例えば、騒音低減、技術および業務上の管理ならびに適切なパーソナル保護具を具現化することができる。」(【0006】)と記載されているが、上記周知技術を示す引用文献2にも記載されているように、基準に基づいて騒音を識別し、その騒音に対する対策を施すことができるという効果は、当業者が予測し得る程度のものにすぎず、格別とはいえない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、令和元年6月19日に上申書を提出し、以下のことを主張している。
(主張1)
前置報告書に記載された引用文献のうち、前置報告書においてはじめて挙げられた引用文献については、これらに対する応答の機会を与えるべきである。
(主張2)
引用文献1について、審判請求書の主張を引用して、
「本願発明のワイヤレスフィールド装置は、『音響センサ』を備えており、この『音響センサ』は、フィールド取付位置で音響騒音を感知する。ここで、『フィールド取付位置』としては、例えば、石油掘削リグ、海上石油・ガス採掘プラットフォーム、産業プラントなどがある(当初明細書の段落[0014]参照)。これに対して引用発明1の無線LAN内蔵型騒音計1は、測定音を電気信号に変換するマイクロフォン3を有しており、このマイクロフォン3は一見すると本願発明の『音響センサ』に対応する。しかしながら、引用発明1のマイクロフォン3は、本願発明の『音響センサ』のように『フィールド取付位置で音響騒音を感知する』ことを何等示唆しない。」と主張している。

(ア)主張1について
上記相違点1の判断においては、下記の第3の2「原査定の拒絶の理由」で提示された引用文献2に記載されている周知技術を用いており、新たな文献を用いてはいない。
また、相違点2については、周知慣用手段を示す文献を新たに提示はしているものの、相違点2は本件補正によって追加された事項であるから、新たに反論の機会を与える必要はないものである。そして、新たに提示した文献も、センサ機器の複数を自己組織化メッシュネットワークを用いてワイヤレスで通信するという当業者において周知慣用手段であることを示すにとどまるものであり、原査定の論理判断を変更するものでもない。
よって、請求人は新たに反論の機会を与えるように主張しているが、その必要はないものである。

(イ)主張2について
上記(3)イで述べたように、引用発明において、「マイクロフォン」は「無線LAN内蔵型騒音計」にあり、その「無線LAN内蔵型騒音計」は「屋」「外」の「測定ポイント」(フィールド取付位置)で「騒音」を「測定」するものであるから、「マイクロフォン」は、フィールド取付位置で「騒音」を「測定」するものである。
請求人は、「ここで、『フィールド取付位置』としては、例えば、石油掘削リグ、海上石油・ガス採掘プラットフォーム、産業プラントなどがある(当初明細書の段落[0014]参照)。」と主張しているが、補正発明は「フィールド」としか特定されておらず、「フィールド」を「石油掘削リグ、海上石油・ガス採掘プラットフォーム、産業プラント」のように限定解釈することはできない。
仮に、限定解釈したとしても、引用発明の無線LAN内蔵型騒音計を産業プラントのような場所で使えないという理由はなく、無線LAN内蔵型騒音計を産業プラントのような場所に配置して(取り付けて)使用することは当業者が容易になし得たことであるから、補正発明が、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの結論には変わりはない。

(4)小括
よって、補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのまとめ
以上のとおり、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?37に係る発明は、平成30年2月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?37に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1の前者に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
この出願の請求項1?37に係る発明は、その出願前(本願の最先優先日前)に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2007-232561号公報
引用文献2:特開2000-9527号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3?6:(略)

本願発明については、原査定において、上記引用文献1に記載された発明に周知技術(引用文献2)を適用して当業者が容易になし得た発明であると説示している。

3 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び2の記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2で述べたとおり、補正発明から、音響センサについて、「前記ワイヤレスフィールド装置に取り付けられ」たことを削除し、音響センサに結合された処理回路について、「且つ共に配置され」たことを削除し、通信について、「自己組織化メッシュネットワークを用い」ることを削除して、上位概念化したものであるから、本願発明も、補正発明と同様に、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-17 
結審通知日 2019-07-23 
審決日 2019-08-07 
出願番号 特願2016-570795(P2016-570795)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01H)
P 1 8・ 575- Z (G01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 素川 慎司  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
三崎 仁
発明の名称 産業用オーディオ騒音監視システム  
代理人 特許業務法人 津国  

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