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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R
管理番号 1358071
審判番号 不服2019-1986  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-13 
確定日 2020-01-07 
事件の表示 特願2014-247223号「車両用アース部材の配索構造及び車両用アース部材」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月20日出願公開、特開2016-107829号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月5日の出願であって、平成30年8月8日付けで拒絶理由が通知され、同年10月5日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月20日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年2月13日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献1?7に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
引用文献1:特開平3-128545号公報
引用文献2:特開平9-275635号公報
引用文献3:特開2009-6773号公報
引用文献4:特開2000-225901号公報
引用文献5:実願平4-19252号(実開平5-71058号)
のCD-ROM
引用文献6:特開平10-84629号公報
引用文献7:特開2009-241809号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成31年2月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
車両に搭載される複数の電装部品とバッテリとを電気的に接続するための車両用アース部材の配索構造であって、
前記車両用アース部材は、車体のフロア上に配置され、
前記車両用アース部材は、導電性の金属板から構成された長尺状の幹線部と、導電性の金属板から構成された枝部と、を有し、
前記幹線部は、その長手方向が前記車両の進行方向に沿って配置されると共に、前記車両の幅方向の両端よりも内側に配置され、
前記枝部は、前記幹線部から前記車両の幅方向の両端部に向かって突出しており、
前記枝部と前記電装部品とがアース線で接続されている
ことを特徴とする車両用アース部材の配索構造。
【請求項2】
前記幹線部は、運転席の幅方向の中心と助手席の幅方向の中心との間に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の車両用アース部材の配索構造。
【請求項3】
前記幹線部は、運転席と助手席との間に配置された
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用アース部材の配索構造。
【請求項4】
長尺状の幹線部と、前記幹線部から突出した枝部と、を有し、
請求項1?3の何れか1項に記載の車両用アース部材の配索構造に用いられる車両用アース部材。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同様である。)
(1a)
「[課題を解決するための手段]
本発明によれば、少なくとも1つの親局と子局間に、これら子局がこの親局に対し各グループの局に共通の対応する交信チャンネルによってグループ内で接続され、その親局がチャンネル間の情報の交換を制御するロジック手段を含む接続システムが提供される。」(3ページ左下欄2?8行)
(1b)
「第1図は本発明による交信システムにより構成される多重結合により親局と接続された子局をそれぞれに備えた動作装置を含む自動車1を示す。この自動車1は、開状態を示す2つの前ドア2および2′および2つの後ドア3および3′を有する。マイクロプロセッサ6から構成される主制御親局5はダシュボード4の近傍に設置され、そこからケーブル7、7′、8、8′、9がそれぞれ引き出され、各ケーブルは第1の電力供給線10、第2の信号伝送線、および第3の接地線から構成されている。」(3ページ右下欄6?16行)
(1c)
「ケーブル7および7′はそれぞれ前ドア2および2′にむかい、ケーブル8および8′はそれぞれ後ドア3および3′にむかう。これらのケーブルのそれぞれは3本の導線の対応する分岐によって、それぞれそれによる制御と操作のために手動制御スイッチ14、外付けバックミラー16、ドア施錠装置17、窓開閉装置18にそれぞれ接続される対応する子局27に接続される。特にこの子局27は、この子局27が搭載されている対応する装置の能動素子(例えば小型直流モータ)に電力を分配するための第1の集積回路と、この素子の操作に関するデータ信号を処理するための第2の集積回路に接続されるプリント回路を含む。この第1および第2の集積回路はロジック要素を形成し、マイクロプロセッサ半導体スイッチ等のための特定のロジック回路を含み、過電圧過電流にたいする保護回路、制御および診断回路を形成するであろう。
手動操作スイッチを有する装置14の場合は、電力操作がないため第1の集積回路はなく、外付けバックミラー16の電子制御のための装置15の場合には1つ以上の能動素子があり、ドアに対するバックミラー筐体の方向を変更するために、バックミラーの反射面の方向を動かす種々の電子要素が制御され、反射面を加熱するために、電源が装備される。」(3ページ右下欄17行?4ページ右上欄2行)
(1d)
「ドア3および3′に対するケーブル8および8′の場合には、外付けのバックミラー16のための電子制御要素は明らかにない。ケーブル8は分岐26を介して装置17と同様に装置28に取り付けられた子局27にトランク30を施錠し開錠するために導かれ、一方ケーブル8′は分岐26′を介して同じく装置17同様に装置28′に取り付けられた子局27′に自動車1の給油口近傍に取り付けられた蓋27を開閉するために導かれる。
それに対しケーブル9は、3本の導線の対応する分岐によってそれぞれ前座席の間の空間34(コンソール)に設置された外付けバックミラー16と窓開閉装置18の電子制御のための手動制御スイッチ32および33に取り付けられた2つの対応する子局27に接続される。」(4ページ右上欄3?17行)
(1e)
「第2図により詳細に描かれているように、電源バッテリ40に接続された主制御親局5は子局27に対して、例えば正の電力を供給する導線10、データ信号を伝送する線11、接地線12からなるケーブル7で接続される。」(4ページ右上欄18行?同ページ左下欄2行)
(1f)
Fig.1及びFig.2は、以下のとおりである。


(2)引用文献1に記載された発明

摘記(1a)の「親局と子局間に」「接続システムが提供される」、摘記(1b)の「親局と接続された子局をそれぞれに備えた動作装置を含む自動車1」及び「主制御親局5」、摘記(1c)の「手動制御スイッチ14」、「ドア施錠装置17、窓開閉装置18にそれぞれ接続される対応する子局27」という記載を総合すると、「自動車1の主制御親局5と複数の子局27との間の接続システム」の構成が認められる。

摘記(1c)の「ケーブル7および7′はそれぞれ前ドア2および2′にむかい、ケーブル8および8′はそれぞれ後ドア3および3′にむかう。」「これらのケーブルのそれぞれは3本の導線の対応する分岐によって、」「手動制御スイッチ14、」「バックミラー16、ドア施錠装置17、窓開閉装置18にそれぞれ接続される対応する子局27に接続される。」という記載、及び、摘記(1d)の「ドア3および3′に対するケーブル8および8′の場合には、外付けのバックミラー16のための電子制御要素は明らかにない。」、「ケーブル8は分岐26を介して」「装置28に取り付けられた子局27に」「導かれ、」「ケーブル8′は分岐26′を介して」「装置28′に取り付けられた子局27′に」「導かれる。」という記載に併せて、Fig.1?2を参照すると、
「ケーブル8および8′」に対応する「3本の導線の対応する分岐」は、「ケーブル8」の「後ろドア3」にむかう後側部分、「ケーブル8′」の「後ろドア3′」にむかう後側部分のそれぞれから分岐したケーブルであること、及び、「分岐26」、「分岐26′」は、いずれもケーブルを構成し、それぞれ、「ケーブル8」と後方の「装置28に取り付けられた子局27」を連結している「分岐」ケーブル「26」、「ケーブル8′」と後方の「装置28′に取り付けられた子局27′」を連結している「分岐」ケーブル「26′」であることが明らかであり、
「ケーブル8及びケーブル8′は、それぞれ、前側が車両前後方向に延び、後側が、後ドア3、後ドア3′にむかい、
ケーブル8の後ろドア3にむかう後側部分、ケーブル8′の後ろドア3′にむかう後側部分が、それぞれ、手動制御スイッチ14、ドア施錠装置17、窓開閉装置18にそれぞれ接続される対応する子局27に、後側部分から分岐したケーブルによって接続され、
ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分、ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分が、それぞれ、車両前後方向に延びる分岐ケーブル26、車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′に、それぞれ接続されることで、ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26、ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′は、それぞれ、前ドア2と前ドア2′の間及び後ドア3と後ドア3′との間を、トランク30まで前後方向に延び、トランクの位置で、装置28に取付けられた子局27、装置28′に取付けられた子局27′に接続される」構成が認められる。

摘記(1b)の「主制御親局5は、ダシュボード4の近傍に設置され、そこからケーブル7、7′、8、8′、9がそれぞれ引き出され、各ケーブルは第1の電力供給線10、第2の信号伝送線、および第3の接地線から構成され」という記載、及び、摘記(1e)の「電源バッテリ40に接続された主制御親局5は子局27に対して、」「正の電力を供給する導線10、データ信号を伝送する線11、接地線12からなるケーブル7で接続される。」という記載から、
「ダシュボード4の近傍に設置され、電源バッテリ40に接続された主制御親局5から、複数の子局27に接続されるケーブル7、ケーブル7′、ケーブル8、ケーブル8′及びケーブル9が、それぞれ引き出され、
各ケーブルは第1の電力供給線10、第2の信号伝送線11、および第3の接地線12から構成され」る構成が認められる。

上記ア?ウ、摘記(1a)?(1e)及びFig.1?2から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「ダシュボード4の近傍に設置され、電源バッテリ40に接続された主制御親局5から、複数の子局27に接続されるケーブル7、ケーブル7′、ケーブル8、ケーブル8′及びケーブル9が、それぞれ引き出され、
各ケーブルは第1の電力供給線10、第2の信号伝送線11、および第3の接地線12から構成され、
ケーブル8及びケーブル8′は、それぞれ、前側が車両前後方向に延び、後側が、後ドア3、後ドア3′にむかい、
ケーブル8の後ろドア3にむかう後側部分、ケーブル8′の後ろドア3′にむかう後側部分が、それぞれ、手動制御スイッチ14、ドア施錠装置17、窓開閉装置18にそれぞれ接続される対応する子局27に、後側部分から分岐したケーブルによって接続され、
ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分、ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分が、それぞれ、車両前後方向に延びる分岐ケーブル26、車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′に、それぞれ接続されることで、ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26、ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′は、それぞれ、前ドア2と前ドア2′の間及び後ドア3と後ドア3′との間を、トランク30まで前後方向に延び、トランクの位置で、装置28に取付けられた子局27、装置28′に取付けられた子局27′に接続される、
自動車1の主制御親局5と複数の子局27との間の接続システム。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(2a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば車両などに適応され、各種電装品負荷などに対して電力の分配供給を制御する電力分配システムに関するものである。」
(2b)
「【0027】さらに、複数の各種電装品負荷に電力分配する電力分配部としての電気接続箱18,19,21?23はそれぞれ、負荷が集中する車両最適部位に配設されており、電気接続箱18は電源部17から電力供給されており、電気接続箱19,21,22はそれぞれ2系統の幹線20を介して電気接続箱18から電力供給可能である。また、上記幹線20は電力供給線およびアース線よりなる電力線に加えて多重通信線よりなる信号線を有している。これらの電力供給線およびアース線は各1本の合計2本で構成されている。さらに、各種電装品負荷への電力供給および他の電気接続箱への制御信号の送信は電気接続箱18,19,21?23からそれぞれ行われている。」
(2c)
「【0031】また、スイッチ手段35a,35bは、電解効果トランジスタや電力用トランジスタなどの半導体スイッチ、その他の電子スイッチまたはリレーなどで構成されており、他の電気接続箱からの電力供給線33およびアース線34よりなる幹線20から、各種電装品負荷としての例えばオーディオや中央演算処理装置(CPU)などのメモリ部42、スイッチ43およびランプ類44などに至る電力供給経路(電力供給線33およびアース線34、分配電力供給線)を導通または遮断(オンオフ)している。このスイッチ手段35aは各種電装品負荷毎の分配電力供給線に設けられており、スイッチ手段35bは幹線20の分岐部に設けられている。このメモリ部42は車両未使用時にも電力供給が必要な電装品負荷である。
・・・
【0035】さらに、エンジンが駆動している車両使用時(システム使用時)において、制御部40は、スイッチ制御部38を介してスイッチ手段35a,35bを導通制御して、電源部17から幹線20を介して各種電装品負荷に電力を分配供給すると共に、補助電源41に対しては充電するようにしている。また、この車両使用時において、制御部40は、幹線20などの幹線部経路上でショートなどの異常を検出部39を介して検出した場合、幹線20での電力供給が危険であると判断し、バッテリー15から幹線20を介した各種電装品負荷への電力供給を停止するようにスイッチ制御部38を介してスイッチ手段35bを制御して電源部17および全幹線20を遮断すると共に、補助電源41から各種電装品負荷としての、乗員の安全確保に必要なシステムのみに電力供給するようにスイッチ制御部38を介してスイッチ手段35aを切り換え制御する。この乗員の安全確保に必要なシステムとしては、エアーバック、ドアロック解除、ハザードランプおよびルームランプ、さらには車両を安全な場所まで移動させるためのエンジン駆動システムなどがある。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(3a)
「【請求項1】
車両内に設けられるワイヤハーネスの配策構造であって、
車両前部から車両後部にかけてパワー系アース線と信号系アース線とを分離して配策したことを特徴とする車両用ワイヤハーネスの配策構造。
【請求項2】
前記パワー系アース線と前記信号系アース線とを共に車載バッテリのマイナス端子に接続させたことを特徴とする請求項1記載の車両用ワイヤハーネスの配策構造。
【請求項3】
前記パワー系アース線と前記信号系アース線とを、車載バッテリのマイナス端子に接続されたアースプレートを介して接続させたことを特徴とする請求項2記載の車両用ワイヤハーネスの配策構造。
【請求項4】
車両前部から車両後部にかけて前記信号系アース線をパワー系電源線と分離して配策したことを特徴とする請求項1乃至3何れか一項記載の車両用ワイヤハーネスの配策構造。
【請求項5】
車両前部から車両後部にかけて筐体アース線を前記信号系アース線と並べて配策したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の車両用ワイヤハーネスの配策構造。
【請求項6】
前記信号系アース線を車両前部から車両後部にかけて車体中央部に配策し、かつ、前記パワー系アース線を車両前部から車両後部にかけて車体側面部に配策したことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項記載の車両用ワイヤハーネスの配策構造。」
(3b)
「【0001】
本発明は、車両用ワイヤハーネスの配策構造に係り、特に、車両内に設けられるパワー系と信号系との車両用ワイヤハーネスの配策構造に関する。」
(3c)
「【0020】
また、車両の各部位には、導電性のあるアースプレート18が取り付けられている。アースプレート18は、車両右前部FR、車両左前部FL、車両右後部RR、及び車両左後部RLそれぞれに配設されている。各アースプレート18は、メインプレート14と同様に、車載バッテリ12のマイナス電位をアース電位として用いるための金属プレートである。各アースプレート18は、電線20を介して上記のメインプレート14に接続されている。メインプレート14及びアースプレート18並びに電線20とは、車両の各部位にアース電位を発生させるアース回路を構成している。尚、アースプレート18にも、電線の接続可能な端子が複数設けられている。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。
(4a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車の配線構造に関し、特に、常時電流が流れているASLラインの短縮を図りながら、他の電線長さが長くなることも抑制し、かつ、側面衝突時に発生しやすいフロアハーネスの損傷発生防止を図るものである。」
(4b)
「【0008】また、運転席側に室内側ジャンクションボックス3を配置した場合とは反対側の自動車の左側面に沿ってフロアハーネスが配索されることとなるため、自動車の側面接触や側面衝突でフロアハーネスがダメージを受け易い問題は解消されていない。
【0009】本発明は上記した問題に鑑みてなされたもので、ASLラインを短くしながら、他の電線の長さも大とせず、しかも、フロアハーネスの安全性を高めることを課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明は、自動車のエンジンルームの左右一方側に搭載するエンジン側ジャンクションボックスと、室内側の幅方向の中央部に搭載する室内側ジャンクションボックスと、上記エンジン側ジャンクションボックスから室内側へと車長方向で直線状に配索され、エンジンルームと室内とを仕切る車体パネルの左右一方側に設けた貫通孔を通して室内側へと引き出した後に屈曲させて室内側中央に搭載する上記室内側ジャンクションボックスに接続するASLライン(生電源線)とを備え、かつ、 上記室内側ジャンクションボックスに自動車の幅方向の中央部を通すフロアハーネスを接続している自動車の配線構造を提供している。
【0011】上記構成とすると、運転席に室内側ジャンクションボックスを配置する場合と比較してASLラインを大幅に短縮でき、ASLラインに対する外部干渉材による干渉を減少でき、かつ、ASLラインへ取り付けるプロテクタを小型化できる。一方、助手席側に室内側ジャンクションボックスを配置した場合と比較すると、ASLラインは若干長くなるが、運転席近くの電装品やスイッチ類への電線長さを大幅に短くできる。特に、運転席から中央部よりの電装品やスイッチ類への電線長さを非常に短くすることができる。
【0012】さらに、中央に室内側ジャンクションボックスを配置しているため、該ジャンクションボックスに接続するフロアハーネスを車幅方向の中央部に沿って配索し、従来のように側面配索でないため、自動車の側面接触や側面衝突によるダメージを殆ど無くすことができる。」
(4c)
「【0017】さらに、上記室内側ジャンクションボックス3に自動車のリア側へと配索されるフロアハーネス8が接続され、該フロアハーネス8は車幅方向の中央部に沿ってリア側へと配索される。このフロアハーネス8には従来と同様にFUELポンプ9への分岐線8aを備え、リヤ側の先端では左右に分岐し、この左右の分岐線8b、8cの先端にそれぞれコンビネーションランプ10を接続している。
【0018】上記構成とすると、ASLライン1が運転席側に室内側ジャンクションボックス3を配置した場合と比較して大幅に短縮できる。このASLライン1には樹脂成型品のプロテクタ(図示せず)を保護材として外装しているため、ASLライン1が短縮できるとプロテクタも小型化される。かつ、助手席側にジャンクションボックス3を配置していた場合と同様な経路で室内Yへ配索できるため、エンジンルームXと室内Yとをしきる車体パネル4に設けた貫通孔5を利用して室内Y側へと引き出すことができ、従来と大幅な変更を施す必要がなくなる。
【0019】さらに、運転席近傍、特に、車幅中央に集中的に配置される多数の電装品へのジャンクションボックス3からの電線を短くでき、配索経路を単純化できると共に電線コストも低下できる。
【0020】さらに、フロアハーネス8を車幅方向の中央部に沿ってリア側へと配索するため、側面接触や側面衝突によるフロアハーネス8の損傷を殆ど無くすことができる。その結果、フロアハーネス8に接続したFUELポンプ8への通電停止による走行停止や、リアランプが消灯する恐れはなく、自動車の安全性を向上させることができる。」

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。
(5a)
「 【0005】
【課題を解決するための手段】
本考案は、電源線、アース線、多重信号線を一体化したケーブルを貼着等の方法により直接ボディーに取り付けて自動車の内部配線を構成し、従来の問題点を解消したものである。」
(5b)
「 【0007】
【実施例】
以下、本考案の実施例を図面により説明する。図1は本考案の一実施例を示す説明図で、図において1はボディー、2はバッテリー、3a・・・3nはボディー1の所定位置に設けられた電気接続箱、4は電源線、アース線、多重信号線を一体化したメーン回路用のケーブルで、該ケーブル4は上記電気接続箱3a・・3n間に配索され、図2に示すように貼着等の方法により直接ボディー1に取り付けられている。5は仕様により電源線、アース線、多重信号線の構成を異ならせた分岐用のケーブルである。6はインストルメントパネル等に設けられた電気接続箱、7は各ドアに設けられたスイッチボックスで、上記分岐用のケーブル5はそれぞれ近傍の電気接続箱3a・・・3n内でメーン回路用のケーブル4と分岐され、インストルメントパネル等に設けられた電気接続箱6、各ドアに設けられたスイッチボックス7に配索され、また、スイッチ等の電気機器に直接接続されている。」

6 引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、図面とともに次の事項が記載されている。
(6a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば車両などに適応され、各種電装品負荷などに対して電力の分配供給を制御する電力分配部を有する電力分配システムに関するものである。」
(6b)
「【0035】このエンジンルーム42には、所定電圧の電力を供給するバッテリー45およびオルタネーター46などの電源部47およびジョイントボックス(J/B)である電気接続箱48,49などが設けられている。これらの電気接続箱48,49間は幹線55で接続可能に構成されており、電気接続箱48には電源部47が接続可能に構成されている。また、これらの電気接続箱48,49はそれぞれ、左右のランプ類などの各種負荷電装品の近傍位置の車体幅方向両端部前方位置にそれぞれ配設されており、電源部47から供給された電力をヘッドランプやテール・クリアランスランプなどの各種負荷電装品に電力供給線およびアース線よりなる支線54を介して分配されている。
・・・
【0039】また、上記幹線55は、図2に示すように、被覆層61の内側に強化(鎧)層62が配設され、この強化(鎧)層62の内側にシース63を介して短絡検知層64が配設され、さらに、この短絡検知層64の内側に各種電線が配設されている。この各種電線とは、電源部47のバッテリー45およびオルタネーター46の出力端にそれぞれ接続されている電力供給線56およびアース線57の合計2本の電源線と、後述するが、操作スイッチなどからのツイスト線などよりなる信号線およびアース線の合計2本の多重信号線65と、ドレーン線66とである。また、この短絡検知層64は、常時、電流を制限した定電圧が印加されており、その定電圧の変化を検知することで短絡検知を行うためのものである。」

7 引用文献7について
(1)引用文献7に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、図面とともに次の事項が記載されている。
(7a)
「【0001】
本発明は車両用のアース配線構造に関し、詳細には、補機の基準電位配線を車両ボディを介さずにバッテリの負極端子に電気的に接続する、いわゆる非ボディアース型のアース配線構造に関する。」
(7b)
「【0030】
図1には、本発明の第1実施形態の車両用アース配線構造が概念的に示されている。この図1に示すように、本実施形態の配線構造は、車両の要部を通過する経路に沿って車両ボディ10に配置された細長い幹線1と、この幹線1に配置される複数のアースプレート(金属部材)5と、を備えている。図1ではアースプレート5は3枚配置されているが、この数は任意に変更することができる。」
(7c)
「【0078】
図11に示す第10実施形態の配線構造では、車両ボディ10に、幹線1の導体としてのバスバー61が設置されている。このバスバー61は細長く形成され、その長手方向中途部に複数のアースポイント部6を適宜の間隔で設けた構成になっている。
【0079】
アースポイント部6は、補機からのアース線7を接続可能に構成されている。また、適宜の位置のアースポイント部6に対しては、バッテリ11の負極端子12から引き出された電線からなる接続線62が接続されている。これにより、バスバー61がバッテリ11の負極端子12に電気的に接続される。」

(2)引用文献7に記載された技術事項
摘記(7c)から、引用文献7には、次の技術事項(以下「引用文献7に記載された技術事項」という。)が記載されていると認められる。

[引用文献7に記載された技術事項]
「車両ボディ10に、幹線1の導体としてのバスバー61が設置され、このバスバー61は細長く形成され、その長手方向中途部に複数のアースポイント部6を適宜の間隔で設け、アースポイント部6は、補機からのアース線7を接続可能に構成されて、適宜の位置のアースポイント部6に対しては、バッテリ11の負極端子12から引き出された電線からなる接続線62が接続され、バスバー61がバッテリ11の負極端子12に電気的に接続される、幹線1の導体としてのバスバー61。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(ア)
引用発明の「各ケーブル」は、「第1の電力供給線10、第2の信号伝送線11、および第3の接地線12から構成され」るから、引用発明の「ケーブル8、ケーブル8′」は、いずれも、「接地線12」を含んでいる。
(イ)
また、引用発明の「ケーブル8、ケーブル8′」の配索に関する構成は、
a:「電源バッテリ40に接続された主制御親局5から、複数の子局27に接続される」「ケーブル8、ケーブル8′」が、「それぞれ引き出され」、
b:「ケーブル8の後ろドア3にむかう後側部分、ケーブル8′の後ろドア3′にむかう後側部分が、それぞれ、手動制御スイッチ14、ドア施錠装置17、窓開閉装置18にそれぞれ接続される対応する子局27に、後側部分から分岐したケーブルによって接続され」、
c:「ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分、ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分が、それぞれ、車両前後方向に延びる分岐ケーブル26、車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′に、それぞれ接続されることで、ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26、ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′は、それぞれ、前ドア2と前ドア2′の間及び後ドア3と後ドア3′との間を、トランク30まで前後方向に延び、トランクの位置で、装置28に取付けられた子局27、装置28′に取付けられた子局27′に接続される」構成(a、b及びcの構成を合わせた構成を、以下「構成A」ともいう。)を含んでいる。
この構成Aから、「分岐ケーブル26」、「分岐ケーブル26′」、「後側部分から分岐したケーブル」も、「ケーブル8、ケーブル8′」と同様に、「接地線12」を含んでいるといえる。
(ウ)
上記(ア)及び(イ)から、引用発明において、「ケーブル8」の「接地線12」、「分岐ケーブル26」の「接地線12」は、それぞれ、「後ろドア3」の「手動制御スイッチ14、ドア施錠装置17、窓開閉装置18」、「トランクの位置」の「装置28」と、「電源バッテリ40′」とを電気的に接続しているといえる。
同様に、「ケーブル8′」の「接地線12」、「分岐ケーブル26′」の「接地線12」は、それぞれ、「後ろドア3′」の「手動制御スイッチ14、ドア施錠装置17、窓開閉装置18」、「トランクの位置」の「装置28′」と、「電源バッテリ40」とを電気的に接続しているといえる。
(エ)
引用発明の「後ろドア3」の「手動制御スイッチ14、ドア施錠装置17、窓開閉装置18」及び「トランクの位置」の「装置28」、「後ろドア3′」の「手動制御スイッチ14、ドア施錠装置17、窓開閉装置18」及び「トランクの位置」の「装置28′」は、いずれも、本願発明1の「車両に搭載される複数の電装部品」に相当する。
引用発明の「電源バッテリ40」は、本願発明1の「バッテリ」に相当する。
引用発明の「ケーブル8」の「接地線12」及び「分岐ケーブル26」の「接地線12」、「ケーブル8′」の「接地線12」及び「分岐ケーブル26′」の「接地線12」は、いずれも、本願発明1の「車両用アース部材」に相当する。
(オ)
引用発明の「各ケーブルは第1の電力供給線10、第2の信号伝送線11、および第3の接地線12から構成され」る構成(上記(ア)参照)を前提とした、引用発明の「構成A」(上記(イ)参照)は、上記(ウ)のとおりであるから、上記(エ)の相当関係を踏まえると、本願発明1の「車両に搭載される複数の電装部品とバッテリとを電気的に接続するための車両用アース部材の配索構造」及び「車両用アース部材の配索構造」に相当する。

(ア)
引用発明の「ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26、ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′」は、「それぞれ、前ドア2と前ドア2′の間及び後ドア3と後ドア3′との間を、トランク30まで前後方向に延び」るから、同様に、引用発明の「ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26」の「接地線12」、「ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′」の「接地線12」(上記ア(ア)及び(イ)参照)も、「それぞれ、前ドア2と前ドア2′の間及び後ドア3と後ドア3′との間を、トランク30まで前後方向に延び」ており、自動車1の車体上に配置されているといえる。
(イ)
上記(ア)及びア(エ)から、引用発明の「ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26」の「接地線12」、「ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′」の「接地線12」が、「それぞれ、前ドア2と前ドア2′の間及び後ドア3と後ドア3′との間を、トランク30まで前後方向に延び」ている構成と、本願発明1の「前記車両用アース部材は、車体のフロア上に配置され」る構成とは、「前記車両用アース部材は、車体に配置され」る構成において共通している。
(ウ)
また、上記(ア)及びア(エ)から、引用発明の、「ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26」の「接地線12」、「ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′」の「接地線12」と、本願発明1の「導電性の金属板から構成された長尺状の幹線部」とは、「長尺状の幹線部」において共通している。
(エ)
上記(ア)、(イ)及び(ウ)から、引用発明の「ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26、ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′」の各「接地線12」が、「それぞれ、前ドア2と前ドア2′の間及び後ドア3と後ドア3′との間を、トランク30まで前後方向に延び」る構成は、「前ドア2」及び「後ドア3」が車両進行方向の一方側(例えば左側、Fig.1参照)のドアであり、「前ドア2′」及び「後ドア3′」が車両進行方向の他方側(例えば、右側、Fig.1参照)のドアであることが明らかであるから、本願発明1の「前記幹線部は、その長手方向が前記車両の進行方向に沿って配置されると共に、前記車両の幅方向の両端よりも内側に配置され」る構成に相当する。

(ア)
上記ア(イ)で述べた「接地線12」に関して、引用発明の「ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分」の「接地線12」及び「車両前後方向に延びる分岐ケーブル26」の「接地線12」、「ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分」の「接地線12」及び「車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′」の「接地線12」は、それぞれ、前後方向に1つの接地部を構成するものといえる。
引用発明の「ケーブル8の後ろドア3にむかう後側部分」の「接地線12」、「ケーブル8′の後ろドア3′にむかう後側部分」の「接地線12」は、それぞれ、上記のとおり、前後方向に1つの接地部を構成するものといえる「ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26」の「接地線12」、前後方向に1つの接地部を構成するものといえる「ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′」の「接地線12」から、幅方向の車両の端部に位置している後ろドア3、後ろドア3に向かって分岐する構造となっているといえるから、引用発明の「ケーブル8の後ろドア3にむかう後側部分」の「接地線12」、「ケーブル8′の後ろドア3′にむかう後側部分」の「接地線12」と、本願発明1の「導電性の金属板から構成された枝部」とは、「枝部」において共通している。
(イ)
上記(ア)及び上記イ(ウ)を踏まえると、引用発明の「ケーブル8の後ろドア3にむかう後側部分」の「接地線12」、「ケーブル8′の後ろドア3′にむかう後側部分」の「接地線12」と、本願発明1の「前記枝部は、前記幹線部から前記車両の幅方向の両端部に向かって突出して」いる構成とは、「前記枝部は、前記幹線部から前記車両の幅方向の端部に向かって突出して」いる構成において共通している。
(ウ)
上記(ア)、(イ)及び上記ア(イ)を踏まえると、引用発明の「ケーブル8の後ろドア3にむかう後側部分」の「接地線12」、「ケーブル8′の後ろドア3′にむかう後側部分」の「接地線12」が、「それぞれ、手動制御スイッチ14、ドア施錠装置17、窓開閉装置18にそれぞれ接続される対応する子局27に、分岐ケーブル」の「接地線12」「によって接続され」構成は、本願発明1の「前記枝部と前記電装部品とがアース線で接続されている」構成に相当する。

以上から、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「車両に搭載される複数の電装部品とバッテリとを電気的に接続するための車両用アース部材の配索構造であって、
前記車両用アース部材は、車体に配置され、
前記車両用アース部材は、長尺状の幹線部と、枝部と、を有し、
前記幹線部は、その長手方向が前記車両の進行方向に沿って配置されると共に、前記車両の幅方向の両端よりも内側に配置され、
前記枝部は、前記幹線部から前記車両の幅方向の端部に向かって突出しており、
前記枝部と前記電装部品とがアース線で接続されている
車両用アース部材の配索構造。」
<相違点>
「車両用アース部材」に関して、本願発明1は、車両用アース部材は、車体「のフロア上」に配置され、「導電性の金属板から構成された」長尺状の幹線部と、「導電性の金属板から構成された」枝部と、を有し、前記枝部は、前記幹線部から前記車両の幅方向の「両」端部に向かって突出している構成を備えるのに対して、引用発明は、「電源バッテリ40に接続された主制御親局5から、複数の子局27に接続される」「ケーブル8、ケーブル8′」が、「それぞれ引き出され」、「ケーブル8の後ろドア3にむかう後側部分、ケーブル8′の後ろドア3′にむかう後側部分が、それぞれ、手動制御スイッチ14、ドア施錠装置17、窓開閉装置18にそれぞれ接続される対応する子局27に、後側部分から分岐したケーブルによって接続され」、「ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分、ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分が、それぞれ、車両前後方向に延びる分岐ケーブル26、車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′に、それぞれ接続されることで、ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26、ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分及び車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′は、それぞれ、前ドア2と前ドア2′の間及び後ドア3と後ドア3′との間を、トランク30まで前後方向に延び、トランクの位置で、装置28に取付けられた子局27、装置28′に取付けられた子局27′に接続される」構成(すなわち「構成A」)を備える点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。

本願発明1の「前記車両用アース部材は、導電性の金属板から構成された長尺状の幹線部と、導電性の金属板から構成された枝部と、を有し」、「前記枝部は、前記幹線部から前記車両の幅方向の両端部に向かって突出して」いる構成は、引用文献2?7のいずれにも記載も示唆もされていない(摘記(2a)?(7b)等参照)。

また、引用発明において、「ケーブル8の後ろドア3にむかう後側部分」、「ケーブル8′の後ろドア3′にむかう後側部分」、「ケーブル8の車両前後方向に延びる前側部分」、「ケーブル8′の車両前後方向に延びる前側部分」、「車両前後方向に延びる分岐ケーブル26」及び「車両前後方向に延びる分岐ケーブル26′」を、それぞれ構成している「第1の電力供給線10、第2の信号伝送線11、および第3の接地線12」のうち、「第3の接地線12」を導電性の金属板にしたとすると、この金属板と2本の線(第1の電力供給線10及び第2の信号伝送線11)とで「ケーブル8」や「ケーブル8′」を構成することになるが、そのように構成するとケーブルとしての態様を維持することができなくなり、ケーブルの態様であるから可能である、「ケーブル8、ケーブル8′」が「主制御親局5から」「それぞれ引き出さ」れる構成を維持することも困難になることから、「第3の接地線12」を導電性の金属板で構成することには、阻害要因が存在するといえる。
さらに、引用発明において、フロアに対応する箇所に限定して、「第3の接地線12」を導電性の金属板にすることは、ケーブルとしての態様を維持することができなくなるという上記の阻害要因が存在するうえに、その箇所に限るための具体的な根拠が無く、当業者が適宜になし得た事項であるとはいえない。

そして、仮に、引用文献7に記載された技術事項の「バスバー(導体)61」が金属板であるといえて、さらに、上記イのような阻害要因が存在するが、仮に、引用発明に引用文献7に記載された技術事項を適用し、引用発明において、「第3の接地線12」だけを導電性の金属板で構成することができたとしても、引用発明の「ケーブル8及びケーブル8′」は、「それぞれ」、「後側が、後ドア3、後ドア3′にむか」うから、本願発明1の枝部に対応する、引用発明の「ケーブル8の後ろドア3にむかう後側部分」の「接地線12」を金属板としたものは、その分岐した金属板が、左側の「後ドア3」に対応して、幅方向の一端である左端にだけ向かい、「ケーブル8′の後ろドア3′にむかう後側部分」の「接地線12」を金属板としたものは、その分岐した金属板が、右側の「後ドア3′」に対応して、幅方向の別の一端である右端にだけ向かうようになるから(Fig.1も参照)、いずれも、枝部が幅方向の一端に向かう構成になるだけであり、枝部が幅方向の両端部にむかう構成にはならない。
したがって、引用発明に引用文献7に記載された技術事項を適用することができたとしても、本願発明1が備える「前記枝部は、前記幹線部から前記車両の幅方向の両端部に向かって突出している」構成にはならないから、当該構成を含んでいる上記相違点に係る本願発明1の構成には至らない。

なお、引用文献3(摘記(3c)等)には、メインプレート14やアースプレート18など、金属板に対応する構成が記載されているが、分岐を有するものではないから、引用発明にこれを適用できたとしても、上記ウと同様に、上記相違点に係る本願発明1の構成には至らないし、引用文献4の図1に記載されている、フロアハーネス8を、主たる引用発明としても、アースについて記載されていない上に、フロアに対応する箇所を導電性の金属板とすることについては具体的な根拠が無く、実質的には、上記ア及びイと同様のことがいえる。

以上のとおりであるから、上記相違点に係る本願発明1の構成を想到することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2?7に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、本願発明1と同様に、引用発明及び引用文献2?7に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1?4は「前記車両用アース部材は、導電性の金属板から構成された長尺状の幹線部と、導電性の金属板から構成された枝部と、を有し」、「前記枝部は、前記幹線部から前記車両の幅方向の両端部に向かって突出して」いる事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用発明及び引用文献2?7に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-12-09 
出願番号 特願2014-247223(P2014-247223)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高島 壮基  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 岡▲さき▼ 潤
出口 昌哉
発明の名称 車両用アース部材の配索構造及び車両用アース部材  
代理人 福田 康弘  
代理人 津田 俊明  
代理人 瀧野 文雄  

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