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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1358112
審判番号 不服2019-3585  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-15 
確定日 2020-01-14 
事件の表示 特願2015-157979「内燃機関の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月16日出願公開、特開2017-36696、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年8月10日の出願であって、その手続は以下のとおりである。
平成30年6月29日付け(発送日:同年7月10日) :拒絶理由通知書
平成30年8月31日 :手続補正書の提出
平成30年12月7日付け(発送日:同年12月18日):拒絶査定
平成31年3月15日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 原査定の概要
1.原査定の拒絶の概要
原査定(平成30年12月7日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。
「この出願については、平成30年6月29日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶すべきものです。
なお、意見書および手続補正書の内容を検討しましたが、理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
●理由1(特許法第29条第2項)
・請求項1
・引用文献等1?3
本願の請求項1に係る発明は、引用文献1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項4
・引用文献1?5
本願の請求項4に係る発明は、引用文献1ないし5に記載された発明に基
いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

引用文献等一覧
1.特開2015-78637号公報
2.特開2003-148135号公報
3.特開2003-121329号公報
4.特開2003-239811号公報
5.米国特許出願公開第2005/0072411号明細書

2.平成30年6月29日付け拒絶理由通知書の概要
平成30年6月29日付け拒絶理由通知書(発送日:平成30年7月10日)の概要は以下のとおりである。

「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由1(進歩性)について
・請求項1
・引用文献等1?2
請求項1に係る発明は、引用例1?2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項2?3
・引用文献等1?3
請求項2?3に係る発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項4
・引用文献等1?5
請求項4に係る発明は、引用例1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

引用文献等一覧
1.特開2015-78637号公報
2.特開2003-148135号公報
3.特開2003-121329号公報
4.特開2003-239811号公報
5.米国特許出願公開第2005/0072411号明細書」

第3 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、平成31年3月15日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
内燃機関の燃焼室から排気通路へ排出される排気の一部を吸気通路へ流して前記燃焼室へ還流させる排気還流通路と、該排気還流通路における排気流量を調節するための排気還流弁と、前記吸気通路における前記排気還流通路との接続部よりも下流側の湿度を検出する湿度センサと、を備える内燃機関の制御装置であって、
該制御装置は、前記排気還流弁を開弁もしくは閉弁した後の所定期間における前記湿度センサの出力値の平均変化量の絶対値に前記内燃機関の回転数、前記内燃機関の負荷、前記排気還流弁の開度のうちの少なくとも一つを加味して補正した補正値が所定値以下であるとき、前記湿度センサを故障と判定することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、サンプリング時間当たりの前記湿度センサの出力値の変化量の絶対値が診断開始閾値以上になってから診断終了閾値以下になるまでの期間を診断範囲とし、該診断範囲における前記湿度センサの出力値の平均変化量の絶対値が所定値以下であるとき、前記湿度センサを故障と判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記診断開始閾値は、前記診断終了閾値より大きく設定されていることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献1(特開2015-78637号公報)には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面(特に図8を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

(1)引用文献1の記載事項
ア 「【0005】また、高過給のエンジンでは、異常燃焼の発生を回避するために、排気の一部を吸気に戻すEGR(Exhaust Gas Recirculation)システムの導入が進められている。特に、近年では、過給領域においても大量のEGRガスを循環させ得る低圧EGRシステムが着目されている。この低圧EGRシステムは、過給機のタービン下流の排気を過給機のコンプレッサ上流に還流するシステムであり、EGRガスは排気そのものであるため、燃焼によって生成された多くの水蒸気を含んでいる。この低圧EGRシステムでは、一般に空気よりも水蒸気量の多いEGRガスと空気とが混合されて生成された混合気がコンプレッサにより圧縮され、その後にインタークーラで冷却されるため、前述した凝縮水が発生し易いといった問題が生じ得る。また、この凝縮水には、上記したように腐食性のある排気成分の一部が混入するため、インタークーラや吸気管が腐食して破損する可能性があるといった問題も生じ得る。

イ 「【0063】図8は、本発明に係る内燃機関(エンジン)の制御装置の第2実施形態が搭載された低圧EGRシステムを有する自動車用筒内噴射式ガソリンエンジンのシステム構成を示したものである。
【0064】図8に示すエンジン100Aは、図1に示すエンジン100の各構成に加えて、排気管16Aに配設された三元触媒10Aの下流側から吸気管18Aに配設された湿度センサ3Aの下流側且つ過給機4Aのコンプレッサ4aAの上流側に排気の一部を還流させるEGR管40Aを有する低圧EGRシステムを備えている。この過給機4Aのタービン4bAの下流側の排気管16Aと過給機4Aのコンプレッサ4aAの上流側の吸気管18Aとを連結するEGR管40Aの適宜位置には、EGR管40Aを流れるEGRガス(排気)を冷却するためのEGRクーラ42A、EGRガスの流量(EGR流量)を制御するためのEGR弁41A、EGR弁41Aの前後の差圧(EGR弁前後差圧)を検出してEGR流量を計測する差圧センサ(EGR流量検出部)43A、EGRガスの温度(EGR温度)を検出するEGR温度センサ(EGR温度検出部)44Aが取り付けられている。

ウ 「【0068】吸気中のEGRガスの割合を表すEGR率および吸気圧力センサ14Aによって検出される吸気圧力(過給圧力)が高くなるに従って、吸気中の水蒸気分圧は上昇する。そして、その吸気中の水蒸気分圧が飽和水蒸気分圧を超過すると、凝縮水の発生が開始することとなる。ここで、飽和水蒸気圧は、雰囲気温度、すなわちインタークーラ温度の関数として表され、インタークーラ温度が高い場合は、凝縮水発生の限界線が高吸気圧力かつ高EGR率側に遷移し、インタークーラ温度が低い場合は、凝縮水発生の限界線が低吸気圧力かつ低EGR率側に遷移する。
【0069】このように、EGR率が高い、吸気圧力(過給圧力)が高い、あるいはインタークーラ温度が低い場合に、凝縮水が発生し易いことから、この凝縮水の発生を回避もしくは抑制するためには、ECU20Aにより、EGR率を減少させる、吸気圧力(過給圧力)を減少させる、あるいはインタークーラ温度を上昇させるように制御することが有効であると考えられる。そこで、本第2実施形態では、ECU20Aは、吸気湿度(大気湿度)が高くなったり、吸気圧力(過給圧力)が高くなり、吸気中の水蒸気分圧が上昇すると、EGR率を減少させる或いは吸気圧力(過給圧力)を減少させて吸気中の水蒸気分圧を減少させる、あるいは、インタークーラ温度を上昇させて凝縮水発生の限界線を変化させるようにして凝縮水の発生を回避もしくは抑制する。また、ECU20Aは、エンジン回転数を上昇させるようにして吸気圧力(過給圧力)の減少に伴うトルク(出力)低下を抑制する。」

エ 「【0076】湿度センサ3Aから入力される入力信号は診断部56A及び補正部57Aに送信される。診断部56Aは、その入力信号に基づいて湿度センサ3Aの異常もしくは故障を診断し、その診断結果を凝縮水発生判定部54Aの吸気水蒸気分圧演算部51Aに送信する。また、補正部57Aは、雨や霧等といった吸気湿度に影響を及ぼし得る情報やエンジン100Aの燃焼室に導入される吸気流量等から算出される吸気湿度の推定値等に基づいてその入力信号(湿度センサ3Aによって検出される吸気湿度)を補正し、その補正結果を凝縮水発生判定部54Aの吸気水蒸気分圧演算部51Aに送信する。
【0077】ここで、一般にEGRガスに含まれる水蒸気量は大気(湿度センサ3Aを通る吸気)に含まれる水蒸気量よりも多いため、吸気に還流されるEGRガスの流量が多い場合には、補正部57Aは、湿度センサ3Aから入力される入力信号を補正せずに吸気水蒸気分圧演算部51Aに送信してもよい。すなわち、補正部57Aは、EGR管40Aを流れるEGRガスの流量が所定値以下である(EGR管40AにEGRガスが流れていない、もしくは、EGRガスの流量が極めて小さい(例えばEGR率が3%以下である))場合のみに、湿度センサ3Aから入力される入力信号を補正して吸気水蒸気分圧演算部51Aに送信してもよい。
【0078】吸気水蒸気分圧演算部51Aは、補正部57Aから送信される吸気湿度の補正結果と吸気圧力センサ14A、差圧センサ43A、EGR温度センサ44Aから入力される入力信号(吸気圧力、EGR弁前後差圧、EGR温度)に基づいて、吸気中の吸気水蒸気分圧を演算し、その演算結果を比較部53Aに送信する。ここで、吸気水蒸気分圧演算部51Aは、診断部56Aから送信される診断結果に基づき湿度センサ3Aが異常もしくは故障であると判断した場合には、補正部57Aから送信される吸気湿度の補正結果あるいは湿度センサ3Aにより検出される吸気湿度が湿度上限値であるとして、吸気中の吸気水蒸気分圧を演算する。」

オ 「【0105】このように、第2実施形態の制御装置によれば、過給機30Aおよび低圧EGRシステムを備えたエンジン100Aにおいて、吸気管18Aに配設された湿度センサ3Aにより検出された吸気湿度に基づき凝縮水発生の有無を判定し、その判定結果に基づいて過給機30Aの駆動状態やEGR弁41Aの開度等を制御し、吸気圧力(過給圧力)を調整して凝縮水発生回避制御を実施することにより、凝縮水が発生しやすい低圧EGRシステムを備えたエンジン100Aにおいても、例えばインタークーラ内もしくはその下流での凝縮水発生をより効果的に回避することができ、エンジンへのダメージや吸気管の腐食、運転性の悪化を効果的に抑制することができる。」

カ 「【0107】なお、上記する第2実施形態では、EGR管40Aを流れるEGRガスが湿度センサ3Aの下流側且つ過給機4Aのコンプレッサ4aAの上流側に還流される、すなわち、湿度センサ3Aが、EGR管40Aと吸気管18Aとの接続点よりも上流側に配設され、湿度センサ3AによりEGRガスと混合される前の吸気の湿度を検出するため、上記した式(4)等で示すように、湿度センサ3Aと吸気圧力センサ14Aと差圧センサ43AとEGR温度センサ44Aの出力信号等から吸気中の水蒸気分圧P_(H2O)を演算した。一方で、EGRシステムを備えたエンジン100Aにおいて、EGR管40Aを流れるEGRガスが湿度センサ3Aの上流側に還流される、すなわち湿度センサ3Aが、EGR管40Aと吸気管18Aとの接続点よりも下流側に配設され、湿度センサ3AによりEGRガスと混合される後の吸気の湿度を検出する場合には、第1実施形態と同様、上記した式(1)を用いて、湿度センサ3Aと吸気圧力センサ14Aの出力信号等から吸気中の水蒸気分圧P_(H2O)を演算することができる。」

(2)引用発明
上記(1)の記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「内燃機関の燃焼室から排気管16Aへ排出される排気の一部を吸気管18Aへ流して前記燃焼室へ還流させるEGR管40Aと、該EGR管40Aにおける排気流量を調節するためのEGR弁41Aと、吸気管18AにおけるEGR管40Aとの接続部よりも下流側の湿度を検出する湿度センサ3Aと、を備える内燃機関の制御装置であって、湿度センサから入力される入力信号に基づいて診断部56Aが湿度センサ3の故障を診断する内燃機関の制御装置。」

2.引用文献2
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献2(特開2003-148135号公報)には、「湿度センサの状態判定装置」に関して、図面(図1ないし図6を参照。)とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関の排気系に設けられ、排気管内の湿度を検出する湿度センサの状態を判定する湿度センサの状態判定装置に関する。」

イ 「【0025】ECU25は、本実施形態において、運転状態判定手段、変化状態パラメータ算出手段、状態判定手段および判定値設定手段を構成するものである。ECU25は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されている。上述した湿度センサ22などのセンサからの検出信号はそれぞれ、I/OインターフェースでA/D変換や整形がなされた後、CPUに入力される。CPUは、これらの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、エンジン1のインジェクタ2aの燃料噴射時間Toutや切替バルブ駆動装置19、EGR制御弁20を制御するとともに、吸着材16および湿度センサ22の劣化判定を行う。」
【0026】吸着材16の劣化判定は、エンジンの始動後、吸着材16による吸着中に湿度センサ22で検出された相対湿度VHUMDに基づいて行われる。具体的には、例えば前述した特願2000-338375号に記載されているように、相対湿度VHUMDが所定値分だけ上昇するのに要した時間を計測し、この計測時間が所定時間よりも短いときには、相対湿度VHUMDの上昇速度が速く、吸着材16が劣化していると判定される。
【0027】次に、図3?図5を参照しながら、湿度センサ22の劣化判定処理について説明する。図3は、湿度センサ22の劣化判定を実行するか否かを判断する処理を示している。この処理は、エンジン1の始動直後に1回のみ実行される。

ウ 「【0036】一方、ステップ51の答がYESで、C_JUD>NDT2のとき、すなわち相対湿度VHUMDの立上がりの確定後、所定時間Δt2が経過したとき(図6の時刻t3)には、そのときの相対湿度VHUMDと前記ステップ49で設定した基準値VHUMD_REFとの差(=VHUMD-VHUMD_REF)(変化状態パラメータ)が、前記ステップ36で設定した劣化判定値VHUMD_JUD2との和よりも大きいか否かを判別する(ステップ52)。
【0037】このステップ52の答がYESのとき、すなわち相対湿度VHUMDの立上がり後、所定時間Δt2の間において、相対湿度VHUMDが、劣化判定値VHUMD_JUD2を上回って上昇しているときには、相対湿度VHUMDの変化速度が速く、湿度センサ22の応答性が良好に保たれているとして、湿度センサ22が劣化していないと判定し、そのことを表すために、劣化フラグF_SNSDTを「0」にセットする(ステップ53)。
【0038】一方、ステップ52の答がNOのとき、すなわち所定時間Δt2の間における相対湿度VHUMDの上昇量が、劣化判定値VHUMD_JUD2以下のときには、相対湿度VHUMDの変化速度が遅く、湿度センサ22の応答性が低下しているとして、湿度センサ22が劣化していると判定し、劣化フラグF_SNSDTを「1」にセットする(ステップ54)。
【0039】ステップ53または54に続くステップ55では、湿度センサ22の劣化判定が終了したことを受けて、劣化判定許可フラグF_MCNDSNSを「0」にセットし、本プログラムを終了する。
【0040】以上説明したように、本実施形態によれば、エンジン1の始動後、吸着材16による吸着中にその下流側の排気ガスの湿度が上昇している状態で、湿度センサ22により検出された相対湿度VHUMDに基づき、この間の所定時間Δt2における相対湿度VHUMDの上昇量(VHUMD-VHUMD_REF)を、劣化判定値VHUMD_JUD2と比較するので、湿度センサ22の応答性の劣化を含む状態を、適切に精度良く判定することができる。また、その判定結果に応じて、吸着材16の劣化判定を適切に行うことができる。」

エ 図1には、内燃機関の燃焼室から排気管4へ排出される排気の一部を吸気管1aへ流して前記燃焼室へ還流させるEGR通路17と、該EGR通路17における排気流量を調節するためのEGR制御弁20と、排気管内の湿度を検出する湿度センサと、を備える内燃機関の構成が図示されている。

以上から、引用文献2記載事項は以下のとおりといえる。
「内燃機関の燃焼室から排気管4へ排出される排気の一部を吸気管1aへ流して前記燃焼室へ還流させるEGR通路17と、該EGR通路17における排気流量を調節するためのEGR制御弁20と、排気管内の湿度を検出する湿度センサ22と、を備える内燃機関のECU25であって、エンジン始動直後に所定時間Δt2における相対湿度VHUMDの上昇量が、劣化判定値VHUMD_JUD2以下のとき、前記湿度センサ22が劣化していると判定する内燃機関のECU25。」

3.引用文献3
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献3(特開2003-121329号公報)には、「化学センサ」に関して、図面(特に、図2を参照。)とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0027】(化学センサの評価)図2は、上記のようにして得た化学センサを湿度センサとして用いた場合の質量変化応答を示すグラフである。なお、図2においては、環境湿度を12%→90%→12%と変化させた場合について示している。図中(a)は上記実施例で得た化学センサの質量変化応答性を示す。なお、図中(b)、(c)、及び(d)は、それぞれ真空紫外光を照射する以前の高分子-シリカ複合膜が水晶振動子上に形成された化学センサ、スパッタリングシリカ膜を水晶振動子上に形成することにより得た化学センサ、及び水晶振動子のみより構成される化学センサの質量変化応答性を、参考として示したものである。
【0028】図2から明らかなように、本実施例により得た化学センサは、環境湿度の変化に対して高速かつ高感度に応答していることが分かる。一方、高分子-シリカ複合膜を有する化学センサ及びスパッタリングシリカ膜を有する化学センサにおいては、応答速度及び感度ともに劣化していることが分かる。さらに、水晶振動子のみではセンサとして機能しないことが分かる。」

以上から、引用文献3記載事項は以下のとおりといえる。
「環境湿度の変化に対して高速かつ好感度に応答する湿度センサと、応答速度及び感度ともに劣化している湿度センサとの比較。」

4.引用文献4
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献4(特開2003-239811号公報)には、「温度に基づいて排ガス再循環システムを制御する方法」に関して、図面(特に、図2を参照。)とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【請求項9】凝縮監視システムを備えた圧縮点火エンジン用排ガス再循環(EGR)システムであって、湿度センサと、前記湿度センサを含み、前記吸気マニホルド内の状態が凝縮が生じうる状態にある時を判断する制御回路と、を有し、前記吸気マニホルド内の状態が凝縮を生じうる状態にあると判定された時に、前記制御回路が前記ERGシステムを停止させることを特徴とするERGシステム。」

イ 「【請求項11】 前記湿度計は混合器パイプ内に配置され、その混合器パイプ内に、前記EGRシステムが排ガスを供給し、給気冷却器が吸気を提供する請求項9記載のERGシステム。」

ウ 「【0003】【発明の開示】本発明の一つの態様によれば、内燃機関(エンジン)の制御の方法が提供され、ここでは、EGRシステム内の凝縮を低減するためのシステムの動作を制御するために、湿度が使用される。このシステムは、排ガスを吸気と混合させるための排ガス再循環システムを有する。この吸気は吸気マニホルドに提供される。吸気の湿度は、測定され、予め定めた値と比較される。この、EGRシステム内の凝縮を低減するためのシステムは、測定された湿度と予め定めた値の比較に基いて制御される。
【0004】本発明の他の態様によれば、湿度は、エンジンの吸気マニホルド内で測定してもよく、又、吸気マニホルドの上流側にあって排ガスが吸気と混合する混合チャンバの中で測定してもよい。
【0005】本発明の他の態様によれば、吸気の湿度を比較するステップは、吸気の温度が露点より高いかどうかを判定するステップを更に含んでもよい。吸気の露点の判定は、エンジンの与えられた速度及び負荷における種々の環境温度での湿度の種々のレベルの計算に基いてもよい。湿度の種々のレベルの計算は、吸気マニホルドの圧力、EGR流量、及び空気/燃料比を表すデータに基くものでもよい。吸気マニホルド内の混合ガスの温度(IMT)及び混合ガスの露点(IMTc)を比較して、IMTがIMTcよりも低い時にEGRを停止してもよい。」

以上から、引用文献4記載事項は以下のとおりといえる。
「EGRシステムと、混合器パイプ内に配置された湿度計と、を備える内燃機関の制御装置であって、露点の判定に、エンジンの与えられた速度及び負荷を加味した内燃機関の制御装置。」

5.引用文献5
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献5(米国特許出願公開第2005/72411号明細書)には、「内燃機関における湿度センサの故障検出」に関して、図面(特に、Fig1、Fig2を参照。)とともに以下の事項が記載されている。(なお、翻訳は当審による仮訳である。)

ア 「[0032]In this case, the measured humidity variation from a nominal humidity value (NOMHUM) is used as a linear adjustment to a humidity function (FNAFHUM) that is calculated as a function of current engine operating conditions of engine speed and engine load. This function represents, in one example, a change in the desired lean air-fuel ratio over the range of potential humidity experienced in an operating vehicle. Note also that this equation 2 can be modified to include an adjustment to the lean air-fuel ratio based on the deviation of the measured humidity from a nominal humidity value multiplied by a function dependent on variable cam timing position.」
(翻訳:この場合、公称湿度値(NOMHUM)から測定された湿度の変化量はエンジン回転速度やエンジン負荷のエンジン作動状態の関数として算出された湿度関数(FNAFHUM)に調整するように使用される。この機能は、一例では、動作中の車両で経験された潜在的な湿度の範囲にわたって所望のリーン空燃比に変化する。なお、この式(2)は、可変カム・タイミング位置に依存する関数によって乗じられた公称値からの測定された湿度の偏差量に基づいてリーン空燃比への調整を含むように変更することも可能である。)

以上から、引用文献5記載事項は以下のとおりといえる。
「湿度関数は、エンジン回転速度やエンジン負荷のエンジン作動状態の関数として算出されること。」

第5 対比・判断
1.本願発明1
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「排気管16A」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「排気通路」に、「吸気管18A」は「吸気通路」に、「EGR管40A」は「排気還流通路」に、「EGR弁41A」は「排気還流弁」に、「接続部」は「接続部」に、「湿度センサ3A」は「湿度センサ」に、それぞれ相当する。

また、後者の「湿度センサから入力される入力信号に基づいて診断部56Aが湿度センサの故障を診断する」構成と、前者の「前記排気還流弁を開弁もしくは閉弁した後の所定期間における前記湿度センサの出力値の平均変化量の絶対値に前記内燃機関の回転数、前記内燃機関の負荷、前記排気還流弁の開度のうちの少なくとも一つを加味して補正した補正値が所定値以下であるとき、前記湿度センサを故障と判定する」構成とは、「湿度センサを故障と判定する」構成という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「内燃機関の燃焼室から排気通路へ排出される排気の一部を吸気通路へ流して前記燃焼室へ還流させる排気還流通路と、該排気還流通路における排気流量を調節するための排気還流弁と、前記吸気通路における前記排気還流通路との接続部よりも下流側の湿度を検出する湿度センサと、を備える内燃機関の制御装置であって、該制御装置は、湿度センサを故障と判定する内燃機関の制御装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
「湿度センサを故障と判定する」構成に関し、前者は「前記排気還流弁を開弁もしくは閉弁した後の所定期間における前記湿度センサの出力値の平均変化量の絶対値に前記内燃機関の回転数、前記内燃機関の負荷、前記排気還流弁の開度のうちの少なくとも一つを加味して補正した補正値が所定値以下であるとき、前記湿度センサを故障と判定」しているのに対し、後者は「湿度センサから入力される入力信号に基づいて診断部56Aが湿度センサ3の故障を診断」している点。

相違点について検討する。
引用文献2記載事項は、
「内燃機関の燃焼室から排気管4へ排出される排気の一部を吸気管1aへ流して前記燃焼室へ還流させるEGR通路17と、該EGR通路17における排気流量を調節するためのEGR制御弁20と、排気管内の湿度を検出する湿度センサ22と、を備える内燃機関のECU25であって、エンジン始動直後に所定時間Δt2における相対湿度VHUMDの上昇量が、劣化判定値VHUMD_JUD2以下のとき、前記湿度センサ22が劣化していると判定する内燃機関のECU25。」
である。
そして、本願発明1と引用文献2記載事項とを対比すると、後者の「排気管4」は、その機能、構成および技術的意義からみて前者の「排気通路」に相当し、以下同様に、「吸気管1a」は「吸気通路」に、「EGR通路17」は「排気還流通路」に、「EGR制御弁20」は「排気還流弁」に、「湿度センサ22」は「湿度センサ」に、「内燃機関のECU25」は「内燃機関の制御装置」に、「湿度センサ22が劣化していると判定する」は「湿度センサを故障と判定する」に、それぞれ相当する。
さらに、後者の「排気管内の湿度を検出する湿度センサ22」と前者の「前記吸気通路における前記排気還流通路との接続部よりも下流側の湿度を検出する湿度センサ」とは、「湿度センサ」という限りで一致する。

そうすると、引用文献2記載事項は、以下のものということができる。
「内燃機関の燃焼室から排気通路へ排出される排気の一部を吸気通路へ流して前記燃焼室へ還流させる排気還流通路と、該排気還流通路における排気流量を調節するための排気還流弁と、湿度センサと、を備える内燃機関の制御装置であって、
該制御装置は、湿度センサを故障と判定する内燃機関の制御装置。」

してみると、引用文献2記載事項は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項における、「排気還流弁を開弁もしくは閉弁した後の所定期間における湿度センサの出力値の平均変化量の絶対値に前記内燃機関の回転数、前記内燃機関の負荷、前記排気還流弁の開度のうちの少なくとも一つを加味して補正した補正値が所定値以下であるとき」、湿度センサを故障と判定するという事項を備えていない。
そうすると、このような引用文献2の記載事項を引用発明に適用しても、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項にはならない。
また、上記「排気還流弁を開弁もしくは閉弁した後の所定期間における湿度センサの出力値の平均変化量の絶対値に前記内燃機関の回転数、前記内燃機関の負荷、前記排気還流弁の開度のうちの少なくとも一つを加味して補正した補正値が所定値以下であるとき、前記湿度センサを故障と判定」する事項は、当該技術分野における周知技術でもない。
したがって、引用発明及び引用文献2記載事項の技術を総合しても、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を容易になし得ることはできない。

また、引用文献3記載事項ないし引用文献5記載事項についても、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項は記載されておらず、示唆もない。

したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし引用文献5記載事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2及び3について
本願の特許請求の範囲における請求項2及び3は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2及び3は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。

したがって、本願発明2及び本願発明3は、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

したがって、原査定を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし本願発明3は、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献5記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2019-12-27 
出願番号 特願2015-157979(P2015-157979)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 北村 英隆
金澤 俊郎
発明の名称 内燃機関の制御装置  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  

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