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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G08G
管理番号 1358126
審判番号 不服2017-5896  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-24 
確定日 2019-12-17 
事件の表示 特願2014-501275「運転者覚醒度判定システム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月 4日国際公開、WO2012/135018、平成26年 7月 3日国内公表、特表2014-515847〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2012年(平成24年)3月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年3月25日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月26日付けの拒絶理由の通知に対し、平成28年9月2日付けで意見書が提出されたが、平成28年12月22日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成28年12月27日)、これに対して平成29年4月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に誤訳訂正がなされ、その後、当審において、平成30年6月5日付けで拒絶理由が通知され、平成30年11月5日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成30年12月28日付けで最後の拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和元年6月5日付けで意見書が提出されるとともに手続補正(以下、「手続補正1」という。)がなされ、更に同日付けで上申書が提出されるともに手続補正(以下、「手続補正2」という。)がなされたものである。

第2 令和元年6月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定
1.令和元年6月5日にされた手続補正1についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月5日にされた手続補正1(以下、「本件補正1」という。)を却下する。

[理由]
1-1.本件補正1について(補正の内容)
(1)本件補正1後の特許請求の範囲の記載
本件補正1により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
運転者の頭部が検出され得る範囲である車両の車両区画の領域を結像するように構成される結像ユニットと、
前記結像ユニットから画像を受信し前記運転者の頭部及び目の位置を測定するように構成され、前記運転者の覚醒状態を分類するために分類トレーニングプロセスを使用するように構成される画像処理ユニットと、
前記画像処理ユニットによる出力である前記運転者の測定された頭部及び目の位置に基づいて、前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定し、前記運転者が非覚醒状態であると判定された時に前記運転者に警告を出力するように構成される警告ユニットと、を備え、
前記分類トレーニングプロセスは、車両内の複数の所定位置の各々について、当該所定位置を見ている運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を当該所定位置と関連づけて保存し、その上で、前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出し、該検出された点間距離から、前記複数の所定位置の各々と関連づけて保存されている複数の前記点間距離の行列を用いて、前記運転者の顔の方向を判定するよう構成されており、
前記画像処理ユニットは、前記運転者の測定された頭部の位置が前記車両区画内の所定の運転者頭部領域内に無いと判定された時、又は、前記運転者の目が前記車両の前方の領域を見ていない範囲の角度であると判定された時、前記運転者が非覚醒状態であると判定し、
前記運転者の覚醒状態に基づいて、前記運転者の注意が少し逸れている状態であると判断された場合は軽度の警告が前記運転者に提供され、また、前記運転者の注意が完全に逸れた状態であると判定された場合は重度の警告が前記運転者に提供されることによって、前記運転手に適切な警告が提供される、
ことを特徴とする運転者覚醒度検出システム。」
(2)本件補正1前の特許請求の範囲
本件補正1前の、平成30年11月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
運転者の頭部が検出され得る範囲である車両の車両区画の領域を結像するように構成される結像ユニットと、
前記結像ユニットから画像を受信し前記運転者の頭部及び目の位置を測定するように構成され、前記運転者の覚醒状態を分類するために前記車両内の複数の所定位置における前記運転者の頭部位置及び目のベクトルを登録する分類トレーニングプロセスを使用するように構成される画像処理ユニットと、
前記画像処理ユニットによる出力である前記運転者の測定された頭部及び目の位置に基づいて、前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定し、前記運転者が非覚醒状態であると判定された時に前記運転者に警告を出力するように構成される警告ユニットと、を備え、
前記画像処理ユニットは、前記運転者の測定された頭部の位置が前記車両区画内の所定の運転者頭部領域内に無いと判定された時、又は、前記運転者の目が前記車両の前方の領域を見ていない範囲の角度であると判定された時、前記運転者が非覚醒状態であると判定し、
前記運転者の覚醒状態に基づいて、前記運転者の注意が少し逸れている状態であると判断された場合は軽度の警告が前記運転者に提供され、また、前記運転者の注意が完全に逸れた状態であると判定された場合は重度の警告が前記運転者に提供されることによって、前記運転手に適切な警告が提供される、
ことを特徴とする運転者覚醒度検出システム。」

1-2.補正の適否
本件補正1前後の特許請求の範囲は、いずれも、請求項の数が19であり、請求項1が「運転者覚醒度検出システム」についての物の発明に係る独立形式の請求項であり、請求項2?9が請求項1を引用し、更に発明特定事項を付加する引用形式の請求項であり、請求項10が「運転者覚醒度検出方法」についての方法の発明に係る独立形式の請求項であり、請求項11?18が請求項1を引用し、更に発明特定事項を付加する引用形式の請求項であり、請求項19が「非一次的な記録媒体」についての物の発明に係る、請求項10?18を引用する引用形式の請求項である。そして、本件補正1前後で請求項2?9の記載に変更はないから、本件補正1後の請求項1は、本件補正1前の請求項1に対応するものである。
そして、本件補正1は、本件補正1前の請求項1に記載された「前記車両内の複数の所定位置における前記運転者の頭部位置及び目のベクトルを登録する分類トレーニングプロセス」という事項を「分類トレーニングプロセス」、「前記分類トレーニングプロセスは、車両内の複数の所定位置の各々について、当該所定位置を見ている運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を当該所定位置と関連づけて保存し、その上で、前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出し、該検出された点間距離から、前記複数の所定位置の各々と関連づけて保存されている複数の前記点間距離の行列を用いて、前記運転者の顔の方向を判定するよう構成されており、」に限定する補正を含むものであって、本件補正1前の請求項1に記載された発明と本件補正1後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正1は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正1後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正1発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下検討する。
(1)本件補正1発明
本件補正1発明は、前記「1-1(1)」に記載した、本件補正1後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(2)引用例の記載事項
ア.引用例1
(ア)当審拒絶理由で引用された本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2005-62911号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。
ア-a.「【0041】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1である車両制御装置の概要構成を示す概要構成図である。」
ア-b.「【0054】
つぎに、車両制御装置1によるよそ見や居眠りの認識、および警告、覚醒について説明する。室内カメラ103は、元来、車両内への不審者の進入検知を行うために用いられるものであり、車両制御装置1では、この室内カメラ103を運転手のよそ見や居眠りの検知に利用している。
【0055】
具体的には、室内カメラ103は、図2に示すように運転手20の近傍に配設され、室内カメラ103の撮影範囲103aは、運転手20の頭部を撮影可能である。室内カメラ103は、撮影した運転手の画像を画像認識ECU203に送信する。」
ア-c.「【0056】
画像認識ECU203は、室内カメラ103が取得した画像に対する画像認識処理を行い、運転手の視線方向、顔の向き、および頭の位置を認識する。より具体的には、運転手の頭部の画像を基準画像と比較し、頭部がどれだけ傾いているか、あるいはどれだけ横方向に振り向いているか等、運転の動作情報を取得し、オブジェクトデータとして予測判断ECU301に送信する。」
ア-d.「【0057】
予測判断ECU301は、その内部に警告覚醒処理選択部301aおよび記憶部301bを有する。警告覚醒処理選択部301aは、画像認識ECU203から受信したオブジェクトデータをもとに、運転手20の状態を判定し、記憶部301bから実行すべき処理の内容を選択する。
【0058】
運転手20の状態の判定では、例えば、視線方向や顔の向きから運転手が一定時間以上前方を見ていない場合には、脇見や居眠りなどをしており、正常な運転状態にないと判定する。また運転手の頭が、一定時間以上正規の位置にない場合も運転手が正常な運転状態にないと判定する。」
ア-e.「【0060】
記憶部301bは、その内部に警告・覚醒処理データベースを記憶している。図3は、警告・覚醒処理データベースの具体例を説明する説明図である。図3に示すように、警告・覚醒処理データベースは、運転手の状態が「脇見」である場合と、「居眠り」である場合とのそれぞれに対して実行する動作を設定している。
【0061】
より具体的には、運転手の状態が「脇見」である場合に実行する動作は「警告音」である。しかし、運転手の状態が「居眠り」である場合に実行する動作は「警告音」、「送風」、「シート振動」および「ウインドウ開放」である。
【0062】
すなわち、運転手が脇見をしている状態であれば、音声による警告で十分に警告を与えることができ、運転手が前を見ることが期待できる。しかし、運転手が居眠りをしている状態であれば、音声による警告のみでは運転手の目を覚まさせることができない可能性がある。特に、スピーカから音楽などが出力されている状態では、音声による警告を行ったとしても運転手が目を覚まさない可能性が高い。
【0063】
このように、運転手が居眠りをしている場合であれば、音声による警告のみならず、他の手段を用いることが効果的である。例えば、車両に設けた空調設備を用いて運転手に対して送風する、運転席側のウインドウを空けて運転手に外気を当てるなどは、目を覚まさせる方法として特に効果がある。また、運転手のシートに設置した振動手段によって運転手に振動を伝えることでも、効果的に運転手の覚醒を促すことができる。
【0064】
警告覚醒処理選択部301aは、この警告・覚醒処理データベースを参照して実行する処理を選択し、車載サーバ401内の警告・表示ロジックや車体制御ECU206など、選択した処理を実行する処理部にオブジェクトデータとして送信する。選択する処理は、運転手の状態に対応したいずれか一つの処理であってもよいし、複数の処理を組み合わせて用いても良い。たとえば、警告音を表示させるとともにシートを振動させ、さらにウインドウを開けるようにしてもよい。」
ア-f.「【0068】
つぎに、警告・覚醒処理選択部301aの具体的な処理内容について説明する。図4は、警告・覚醒処理選択部301aの処理を説明するフローチャートである。同図に示すように、警告・覚醒処理選択部301aは、画像認識ECU203から運転手の状態を取得したならば(ステップS101)、まず、運転手が前を見ているか否かを判定する(ステップS102)。
【0069】
運転手が前を見ていない、すなわち運転手が正常な運転状態に無い場合(ステップS102,No)、警告・覚醒処理選択部301aは、運転手が脇見をしているか否かを判定する(ステップS103)。運転手が脇見をしているならば(ステップS103,Yes)、警告・覚醒処理選択部301aは、警告・覚醒処理データベースを参照して警告音の出力を決定し、スピーカ504から警告音を出力させる(ステップS104)。
【0070】
ステップS104の終了後、警告・覚醒処理選択部301aは、運転手が前を見たか否かを判定し(ステップS105)、運転手が前を見ていなければ(ステップS105,No)、すなわち運転手の状態が正常に戻っていなければ、再度警告音を出力する(ステップS104)。ここで、警告音の種類は一種類に限らず、複数の警告音から選択したり、警告音の音量を徐々に大きくするようにしても良い。
【0071】
一方、運転手が脇見をしていると確定できない場合(ステップS103,No)、警告・覚醒処理選択部301aは、警告・覚醒処理データベースを参照して覚醒手段を選択し(ステップS106)、選択した覚醒手段を実行する(ステップS107)。
【0072】
ステップS107による覚醒手段の実行の結果、運転手が目を覚ましていないならば(ステップS108,No)、警告・覚醒処理部301aは、使用する覚醒手段を変更し(ステップS109)、再度覚醒手段を実行する(ステップS107)。
【0073】
運転手が正常に前を向いている場合(ステップS102,Yes)、警告音によって運転手が前を見た場合(ステップS105,Yes)、もしくは覚醒手段によって運転手が目を覚ました場合(ステップS108,Yes)、警告・覚醒処理部301aは処理を終了する。
【0074】
なお、図4に示したフローチャートでは、運転手が脇見をしていると判定した場合は音声による警告を行い、脇見をしていると判定できない場合、正常な運転状態に無いが脇見か居眠りかの判定がつかない場合には「居眠り状態」として覚醒手段を実行するようにしている。」
ア-g.「【0079】
上述してきたように、本実施の形態1では、室内カメラ103が撮影した運転手の画像に基づいて運転手の脇見や居眠りを検出し、運転手の状態に対応した処理を警告・覚醒処理データベースから読み出して実行することで、運転手に注意や覚醒を促し、自動車事故を防止することができる。
【0080】
さらに、スピーカ504による音声の出力に加え、送風器116からの送風や、シート振動制御部111による運転席の振動、さらにウインドウ制御部110による窓の開放などを用いることで、居眠り状態にある運転手を効果的に覚醒させることができる。」
そして、記載事項ア-b及びア-cのとおり、室内カメラ103は、撮影した運転手20の画像を画像認識ECU203に送信し、画像認識ECU203は、室内カメラ103が取得した画像に対する画像認識処理を行うことからみて、引用例1には次の事項が開示されていると理解できる。
ア-h.画像認識ECU203は、室内カメラ103から画像を受信する。
記載事項ア-c及びア-d並びに図4からみて、引用例1には次の事項が開示されていると理解できる。
ア-i.画像認識ECU203は、運転手20の顔の向き及び頭の位置を予測判断ECU301に送信し、
予測判断ECU301は、画像認識ECU203から受信した運転手20の顔の向き及び頭の位置をもとに、運転手20が正常な運転状態にないか否かを判定するものであって、運転手20の顔の向きから運転手が一定時間以上前方を見ていない場合又は運転手20の頭が一定時間以上正規の位置にない場合、運転手20が正常な運転状態にないと判定する。
記載事項ア-dないしア-f並びに図4からみて、引用例1には次の事項が開示されていると理解できる。
ア-j.予測判断ECU301は、運転手20が正常な運転状態にないと判定した場合に音声による警告又は覚醒手段を実行するものであって、更に運転手20が脇見をしているか否かを判定し、運転手20が脇見をしていると判定した場合は音声による警告を行い、脇見をしていると判定できない場合は「居眠り状態」として覚醒手段を実行する。
(イ)そうすると、これらの事項からみて、本件補正1後の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「撮影範囲103aが運転手20の頭部を撮影可能である室内カメラ103と、
室内カメラ103から画像を受信し、運転手20の顔の向きおよび頭の位置を認識する画像認識ECU203と、
画像認識ECU203から受信した運転手20の顔の向き及び頭の位置をもとに、運転手20が正常な運転状態にないか否かを判定し、運転手20が正常な運転状態にないと判定した場合に音声による警告又は覚醒手段を実行する予測判断ECU301と、を備え、
予測判断ECU301は、運転手20の顔の向きから運転手が一定時間以上前方を見ていない場合又は運転手20の頭が一定時間以上正規の位置にない場合、運転手20が正常な運転状態にないと判定し、
予測判断ECU301は、運転手20が正常な運転状態にないと判定した場合に更に運転手20が脇見をしているか否かを判定し、運転手20が脇見をしていると判定した場合は音声による警告を行い、運転手20が正常な運転状態にないと判定した場合であって脇見をしていると判定できない場合は「居眠り状態」として覚醒手段を実行する、
車両制御装置。」
イ.引用例2
(ア)当審拒絶理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2007-219578号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。
イ-a.「【0002】
近年、ドライバが安全に運転できるように支援する技術の開発が盛んであり、その中の一つに、ドライバの顔の向きを推定し、推定結果に基づいて、ドライバの脇見を検出する装置がある(例えば、特許文献1参照)。」
イ-b.「【0039】
顔向き推定装置12は、ドライバの顔の向きを推定する装置である。顔向き推定装置12は、カメラ31、および、顔向き推定部32を含むように構成される。
【0040】
カメラ31は、ドライバの顔を撮影できる位置に設置され、ドライバの顔を撮影する。カメラ31は、撮影した画像(以下、入力画像と称する)を顔向き推定部32に供給する。
【0041】
顔向き推定部32は、入力画像に基づいて、ドライバの顔の向きを推定する。顔向き推定部32は、トラッキング部41、および、推定部42を含むように構成される。
【0042】
トラッキング部41は、所定の手法を用いて、入力画像におけるドライバの顔をトラッキングする(ドライバの顔および顔の特徴(例えば、顔および顔の各器官の位置、形状など)を検出する)。トラッキング部41は、トラッキング結果を示す情報を推定部42、および、異常検出装置13の信頼度検出部51に供給する。なお、トラッキング部41が顔をトラッキングする手法は、特定の手法に限定されるものではなく、より迅速かつ正確に顔をトラッキングできる手法が望ましい。
【0043】
推定部42は、所定の手法を用いて、トラッキング部41によるトラッキング結果に基づいて、ドライバの顔の向きを推定する。推定部42は、推定結果を示す情報を、車両制御装置11の車両制御部22、並びに、異常検出装置13の信頼度検出部51および異常診断部52に供給する。また、推定部42は、顔向き推定装置12の動作モードの設定を行う。」
イ-c.「【0064】
次に、図3のフローチャートを参照して、図2のステップS3の顔向き推定処理の詳細を説明する。
【0065】
ステップS21において、トラッキング部41は、カメラ31により撮影された入力画像を取得する。
【0066】
ステップS22において、トラッキング部41は、所定の手法を用いて、ドライバの顔をトラッキングする。トラッキング部41は、入力画像におけるドライバの顔をトラッキングすることにより、例えば、ドライバの顔の位置および形状、並びに、顔の各器官の位置および形状などを検出する。さらに、トラッキング部41は、ドライバの顔の特徴点、例えば、目頭、目尻、目の上端および下端、鼻先、鼻翼、口角、人中の両端、下唇の傾きが大きく変化する点などを検出する。トラッキング部41は、トラッキング結果を示す情報を推定部42に供給する。」
イ-d.「【0067】
ステップS23において、推定部42は、ドライバの顔の向きを推定する。例えば、推定部42は、検出されたドライバの顔の特徴点の位置と、予め学習処理により学習されている、顔の向きを検出するために用いる学習モデルにおける特徴点の位置とを比較することにより(あるいは、特徴点を結ぶことにより形成される図形の形状を比較することにより)、ドライバの顔の向きを検出する。
【0068】
図4および図5は、学習モデルの例を示している。図4は、ドライバの顔が右に向いている場合の学習モデルの例を示し、図5は、ドライバの顔が左を向いている場合の学習モデルの例を示す。また、図4および図5内の円形の印は、学習モデルにおける特徴点を示し、図4および図5においては、目頭、目尻、目の上端および下端、鼻先、鼻翼、口角、人中の両端、下唇の傾きが大きく変化する点の両端を特徴点とする場合の例を示している。
【0069】
例えば、推定部42は、パターンマッチングなどの手法を用いて、複数の顔の向き(角度)に対応する学習モデルの中から、特徴点の位置がトラッキング部41により検出されたドライバの顔の特徴点の位置が最も近い学習モデルを検出し、その学習モデルに対応する顔の向きを、ドライバの顔の向きとする。あるいは、例えば、推定部42は、各学習モデルにおける特徴点の位置、および、トラッキング部41により検出された顔の特徴点の位置に基づいて、ドライバの顔の向きを算出することにより、ドライバの顔の向きを推定する。」
イ-e.「【0070】
ステップS24において、車両制御部22は、推定結果に基づいて、車両を制御する。具体的には、推定部42は、ドライバの顔の向きの推定結果を示す情報を、車両制御部22に供給する。車両制御部22は、取得した推定結果および車両状態検出部21により検出される車両の状態に基づいて、車両を制御する。例えば、ドライバの脇見が検出された場合、車両制御部22は、車速が所定の速度未満になるように指示する情報を制御装置2に供給することにより、車両の速度を減速させたり、ドライバの注意を喚起するように指示する情報を制御装置2に供給することにより、ドライバの注意を喚起する音声メッセージや警告音を出力させたりする。」
そして、図4及び5には、学習モデルにおける特徴点を結ぶことにより形成される図形の形状が記載されているから、記載事項イ-d並びに図4及び5の記載からみて、引用例2には次の事項が開示されていると理解できる。
イ-f.推定部42は、複数の顔の向きの各々について、当該向きに対応する、ドライバの顔の特徴点を結ぶことにより形成される図形の形状を予め学習しており、トラッキング部41により検出されたドライバの顔の特徴点を結ぶことにより形成される図形の形状と、予め学習した複数の前記形状とを比較することにより、ドライバの顔の向きを推定する。
(イ)そうすると、これらの事項からみて、本件補正1後の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例2には次の技術が記載されていると認められる。
「ドライバの顔を撮影するカメラ31と、
カメラ31が撮影した画像(以下、入力画像と称する)を取得し、入力画像に基づいて、ドライバの顔の向きを推定する顔向き推定部32と、を含み、
顔向き推定部32は、
複数の顔の向きの各々について、当該向きに対応する、ドライバの顔の特徴点を結ぶことにより形成される図形の形状を予め学習しており、
入力画像におけるドライバの顔の特徴点、例えば、目頭、目尻、目の上端および下端などを検出し、
検出されたドライバの顔の特徴点を結ぶことにより形成される図形の形状と、予め学習した複数の前記図形の形状とを比較することにより、ドライバの顔の向きを推定し、
推定したドライバの顔の向きを、車両制御装置11の車両制御部22に供給する。」
(3)対比
本件補正1発明と引用発明を対比する。
a.引用発明の「運転手20」及び「室内カメラ103」は、それぞれ、本件補正1発明の「運転者」及び「結像ユニット」に相当する。そして、引用例1、特に記載事項ア-bに記載されているように、室内カメラ103は、元来、車両内を撮影するものであって、その撮影範囲103aが運転手20の頭部を撮影可能であり、室内カメラ103から受信した画像から運転手20の顔の向き及び頭の位置が認識されているから、引用発明の「撮影範囲103aが運転手20の頭部を撮影可能である室内カメラ103」は、本件補正1発明の「運転者の頭部が検出され得る範囲である車両の車両区画の領域を結像するように構成される結像ユニット」に相当する。
b.引用発明の「運転手20の」「頭の位置」は、本件補正1発明の「前記運転者の頭部」「の位置」に相当し、引用発明の「画像認識ECU203」は、室内カメラ103から受信した画像に対する画像認識処理を行っているから、本件補正1発明の「画像処理ユニット」に相当する。
そして、本件補正1発明は、前記画像処理ユニットが分類トレーニングプロセスを使用するように構成されており、前記分類トレーニングプロセスが、前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出し、該検出された点間距離から前記運転者の顔の方向を判定するよう構成されているから、本件補正1発明は、前記画像処理ユニットが測定した目の位置の位置から前記運転者の顔の向きを判定するものである。そうすると、引用発明の「運転手20の顔の向きを認識する」ことは、本件補正1発明の「前記運転者の」「目の位置を測定するように構成され、前記運転者の覚醒状態を分類するために分類トレーニングプロセスを使用するように構成され」、「前記分類トレーニングプロセスは、車両内の複数の所定位置の各々について、当該所定位置を見ている運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を当該所定位置と関連づけて保存し、その上で、前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出し、該検出された点間距離から、前記複数の所定位置の各々と関連づけて保存されている複数の前記点間距離の行列を用いて、前記運転者の顔の方向を判定するよう構成されて」いることと、「運転者の顔の方向を判定する」点で一致する。
してみれば、引用発明の「室内カメラ103から画像を受信し、運転手20の顔の向きおよび頭の位置を認識する画像認識ECU203」は、本件補正1発明の「前記結像ユニットから画像を受信し前記運転者の頭部及び目の位置を測定するように構成され、前記運転者の覚醒状態を分類するために分類トレーニングプロセスを使用するように構成される画像処理ユニット」「を備え」、「前記分類トレーニングプロセスは、車両内の複数の所定位置の各々について、当該所定位置を見ている運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を当該所定位置と関連づけて保存し、その上で、前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出し、該検出された点間距離から、前記複数の所定位置の各々と関連づけて保存されている複数の前記点間距離の行列を用いて、前記運転者の顔の方向を判定するよう構成されて」いることと、「前記結像ユニットから画像を受信し前記運転者の頭部の位置を測定し、顔の方向を判定するように構成される画像処理ユニットを備え」る点で一致する。
c.引用発明は、運転手20が正常な運転状態にないと判定した場合に更に運転手20が脇見をしているか否かを判定し、運転手20が脇見をしている判定できない場合は「居眠り状態」としている。すなわち、引用発明の「運転手20が正常な運転状態にない」ことは、運転手20が脇見をしているか、居眠り状態であることであるから、本件補正1発明の「前記運転者が非覚醒状態である」ことに相当し、引用発明の「音声による警告又は覚醒手段を実行する」ことは、本件補正1発明の「前記運転者に警告を出力する」ことに相当する。そうすると、引用発明の「予測判断ECU301」は、その機能からみて、本件補正1発明の「警告ユニット」に相当する。
引用発明の「運転手20の頭が一定時間以上正規の位置にない場合、運転手20が正常な運転状態にないと判定」することは、本件補正1発明の「前記運転者の測定された頭部の位置が前記車両区画内の所定の運転者頭部領域内に無いと判定された時、」「前記運転者が非覚醒状態であると判定」することに相当する。
また、本件補正1発明は、画像処理ユニットが、「前記結像ユニットから画像を受信し前記運転者の」「目の位置を測定するように構成され、前記運転者の覚醒状態を分類するために分類トレーニングプロセスを使用するように構成され」、前記分類トレーニングプロセスが、「前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出し、該検出された点間距離から、」「前記運転者の顔の方向を判定するよう構成されて」いることを併せ考慮すれば、本件補正1発明の「前記運転者の目が前記車両の前方の領域を見ていない範囲の角度であると判定された時」とは、前記運転者の顔の方向が前記車両の前方の領域を見ていない範囲の角度であると判定された時であるといえる。そうすると、引用発明の「運転手20の顔の向きから運転手が一定時間以上前方を見ていない場合」「、運転手20が正常な運転状態にないと判定」することは、本件補正1発明の「前記運転者の目が前記車両の前方の領域を見ていない範囲の角度であると判定された時、前記運転者が非覚醒状態であると判定」することに相当する。
更に、前記「b」で検討したとおり、本件補正1発明において、目の位置の位置から前記運転者の顔の方向を判定しているのは前記画像処理ユニットであるから、引用発明の「画像認識ECU203から受信した運転手20の顔の向き及び頭の位置をもとに、運転手20が正常な運転状態にないか否かを判定」することは、本件補正1発明の「前記画像処理ユニットによる出力である前記運転者の測定された頭部及び目の位置に基づいて、前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定」することと、「前記画像処理ユニットによる出力である前記運転者の測定された頭部の位置及び判定された顔の方向に基づいて、前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定」する点で一致する。
してみると、引用発明の「画像認識ECU203から受信した運転手20の顔の向き及び頭の位置をもとに、運転手20が正常な運転状態にないか否かを判定し、運転手20が正常な運転状態にないと判定した場合に音声による警告又は覚醒手段を実行する予測判断ECU301」は、本件補正1発明の「前記画像処理ユニットによる出力である前記運転者の測定された頭部及び目の位置に基づいて、前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定し、前記運転者が非覚醒状態であると判定された時に前記運転者に警告を出力するように構成される警告ユニット」と、「前記画像処理ユニットによる出力である前記運転者の測定された頭部の位置及び判定された顔の方向に基づいて、前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定し、前記運転者が非覚醒状態であると判定された時に前記運転者に警告を出力するように構成される警告ユニット」である点で一致する。
d.引用発明の「運転手20が脇見をしている」状態及び「居眠り状態」は、それぞれ、本件補正1発明の「前記運転者の注意が少し逸れている状態」及び「前記運転者の注意が完全に逸れた状態」に相当するから、引用発明の「運転手20が脇見をしていると判定した場合」及び「脇見をしていると判定できない場合は「居眠り状態」と」することは、それぞれ、本件補正1発明の「前記運転者の注意が少し逸れている状態であると判断された場合」及び「前記運転者の注意が完全に逸れた状態であると判定された場合」に相当する。
そして、引用発明の「音声による警告」及び「覚醒手段」は、それぞれ、本件補正1発明の「軽度の警告」及び「重度の警告」に相当する。
そうすると、引用発明の「予測判断ECU301は、運転手20が正常な運転状態にないと判定した場合に更に運転手20が脇見をしているか否かを判定し、運転手20が脇見をしていると判定した場合は音声による警告を行い、脇見をしていると判定できない場合は「居眠り状態」として覚醒手段を実行する」ことは、本件補正1発明の「前記運転者の覚醒状態に基づいて、前記運転者の注意が少し逸れている状態であると判断された場合は軽度の警告が前記運転者に提供され、また、前記運転者の注意が完全に逸れた状態であると判定された場合は重度の警告が前記運転者に提供されることによって、前記運転手に適切な警告が提供される」ことに相当する。
e.引用発明の「車両制御装置」は、本件補正1発明の「運転者覚醒度検出システム」に相当する。
f.以上のことから、本件補正1発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「運転者の頭部が検出され得る範囲である車両の車両区画の領域を結像するように構成される結像ユニットと、
前記結像ユニットから画像を受信し前記運転者の頭部の位置を測定し、顔の方向を判定するように構成される画像処理ユニットと、
前記画像処理ユニットによる出力である前記運転者の測定された頭部の位置及び判定された顔の方向に基づいて、前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定し、前記運転者が非覚醒状態であると判定された時に前記運転者に警告を出力するように構成される警告ユニットと、を備え、
前記画像処理ユニットは、前記運転者の測定された頭部の位置が前記車両区画内の所定の運転者頭部領域内に無いと判定された時、又は、前記運転者の目が前記車両の前方の領域を見ていない範囲の角度であると判定された時、前記運転者が非覚醒状態であると判定し、
前記運転者の覚醒状態に基づいて、前記運転者の注意が少し逸れている状態であると判断された場合は軽度の警告が前記運転者に提供され、また、前記運転者の注意が完全に逸れた状態であると判定された場合は重度の警告が前記運転者に提供されることによって、前記運転手に適切な警告が提供される、
運転者覚醒度検出システム。」
【相違点1】
前記画像処理ユニットが、前記結像ユニットから画像を受信し前記運転者の顔の方向を判定するように構成され、警告ユニットが、前記画像処理ユニットによる出力である前記運転者の判定された顔の方向に基づいて、前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定することに関し、
本件補正1発明は、前記画像処理ユニットが、前記運転者の目の位置を測定するように構成され、前記運転者の覚醒状態を分類するために分類トレーニングプロセスを使用するように構成され、前記測定された目の位置を出力し、前記分類トレーニングプロセスが、車両内の複数の所定位置の各々について、当該所定位置を見ている運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を当該所定位置と関連づけて保存し、その上で、前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出し、該検出された点間距離から、前記複数の所定位置の各々と関連づけて保存されている複数の前記点間距離の行列を用いて、前記運転者の顔の方向を判定するよう構成されているのに対し、
引用発明は、前記画像処理ユニット(画像認識ECU203)がどのように運転者(運転手20)の顔の方向(顔の向き)を判定するのか明らかではない点。
【相違点2】
本件補正1発明は、警告ユニットが、前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定するように構成され、かつ前記画像処理ユニットが、前記運転者の測定された頭部の位置が前記車両区画内の所定の運転者頭部領域内に無いと判定された時、又は、前記運転者の目が前記車両の前方の領域を見ていない範囲の角度であると判定された時、前記運転者が非覚醒状態であると判定するのに対し、
引用発明は、警告ユニット(予測判断ECU301)が、前記運転者の測定された頭部の位置が前記車両区画内の所定の運転者頭部領域内に無いと判定された時、又は、前記運転者の目が前記車両の前方の領域を見ていない範囲の角度であると判定された時、前記運転者が非覚醒状態であると判定(運転手20の顔の向きから運転手が一定時間以上前方を見ていない場合又は運転手20の頭が一定時間以上正規の位置にない場合、運転手20が正常な運転状態にないと判定)することにより、前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定(運転手20が正常な運転状態にないか否かを判定)するように構成される点。
(4)判断
ア.相違点1について検討する。
a.引用例2に記載された技術の「カメラ31」は、本件補正1発明の「結像ユニット」に相当するから、引用例2に記載された技術の「カメラ31が撮影した画像(以下、入力画像と称する)」は、本件補正1発明の「画像」に相当し、引用例2に記載された技術の「カメラ31が撮影した画像(以下、入力画像と称する)を取得し」は、本件補正1発明の「前記結像ユニットから画像を受信し」に相当する。
b.引用例2に記載された技術の「複数の顔の向き」は、本件補正1発明の「車室内の複数の所定位置の各々について、当該所定位置を見ている」と、「運転者の複数の顔の方向」である点で一致する。引用例2に記載された技術の「ドライバ」は、本件補正1発明の「運転者」に相当し、引用例2に記載された技術の「ドライバの顔の特徴点」は、本件補正1発明の「運転者の顔面の制御点」に相当する。そして、前記「a」で検討したことからみて、引用例2に記載された技術の「入力画像」は、本件補正1発明の「前記結像ユニットから受信した画像」に相当する。
引用例2に記載された技術において、ドライバの顔の特徴点を結ぶことにより形成される図形の形状を把握するためには、当該特徴点間の相対位置を把握する必要があるから、引用例2に記載された技術が、前記特徴点間の相対位置を把握していることは、明らかである。
一方、本願の発明の詳細な説明に「ステップ1070において、顔面の制御点は、前向き方向に対する運転者の顔の方向を判定するために点間距離を使用して分析される。点間距離又は制御点の関係は、制御点間を結ぶ一連のベクトル(例えば、瞳孔、鼻孔、口角又は他の適切な制御点の任意の組み合わせを結ぶベクトル)を含んでいてもよい。」と記載されていることからみて、本件補正1発明の「運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を」「保存」することは、前記点間距離に加えて、前記制御点間を結ぶ線分の方向をも保存することをも包含し、これは、前記制御点間の相対位置を保存していることにほかならない。
そうすると、引用例2に記載された技術の「複数の顔の向きの各々について、当該向きに対応する、ドライバの顔の特徴点を結ぶことにより形成される図形の形状を予め学習して」いることは、本件補正1発明の「車両内の複数の所定位置の各々について、当該所定位置を見ている運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を当該所定位置と関連づけて保存」することと、「運転者の複数の顔の方向の各々について、当該顔の方向の運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を当該顔の方向と関連づけて保存」する点で一致し、
引用例2に記載された技術の「入力画像におけるドライバの顔の特徴点、例えば、目頭、目尻、目の上端および下端などを検出」することは、本件補正1発明の「前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出」することに相当し、
引用例2に記載された技術の「検出されたドライバの顔の特徴点を結ぶことにより形成される図形の形状と、予め学習した複数の前記図形の形状とを比較することにより、ドライバの顔の向きを推定」することは、本件補正1発明の「該検出された点間距離から、前記複数の所定位置の各々と関連づけて保存されている複数の前記点間距離の行列を用いて、前記運転者の顔の方向を判定する」ことと、「該検出された点間距離から、前記複数の顔の方向の各々と関連づけて保存されている複数の前記点間距離の行列を用いて、前記運転者の顔の方向を判定する」点で一致する。
c.引用例2に記載された技術の「顔向き推定部32」は、入力画像におけるドライバの顔の特徴点、例えば、目頭、目尻、目の上端および下端などを検出しているから、前記ドライバの目の位置を検出しているといえる。更に、前記「b」で検討したことからみて、引用例2に記載された技術の「顔向き推定部32」は、運転者の顔の方向を判定するために、本件補正1発明の「分類トレーニングプロセス」に相当するものを使用しているといえる。
そして、本件補正1発明の「分類トレーニングプロセス」は、「前記運転者の顔の方向を判定するように構成されている」ことからみて、本件補正1発明の「画像処理ユニット」も,運転者の覚醒状態を分類する前提として、前記運転者の顔の方向を判定するために前記分類トレーニングプロセスを使用しているといえる。
更に、引用例2に記載された技術の「顔向き推定部32」は、その機能からみて、本件補正1発明の「画像処理ユニット」に相当する。
そうすると、引用例2に記載された技術の「カメラ31が撮影した画像(以下、入力画像と称する)を取得し、入力画像に基づいて、ドライバの顔の向きを推定する顔向き推定部32」は、本件補正1発明の「前記結像ユニットから画像を受信し前記運転者の頭部及び目の位置を測定するように構成され、前記運転者の覚醒状態を分類するために分類トレーニングプロセスを使用するように構成される画像処理ユニット」と、少なくとも「前記結像ユニットから画像を受信し前記運転者の目の位置を測定するように構成され、前記運転者の顔の方向を判定するために分類トレーニングプロセスを使用するように構成される画像処理ユニット」である点で一致する。
d.以上を踏まえると、引用例2に記載された技術は、
「結像ユニットから画像を受信し運転者の顔の方向を判定する画像処理ユニットにおいて、
目の位置を測定するように構成し、前記運転者の顔の方向を判定するために分類トレーニングプロセスを使用するように構成し、
前記分類トレーニングプロセスは、前記運転者の複数の顔の方向の各々について、当該顔の方向の運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を当該当該顔の方向と関連づけて保存し、その上で、前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出し、該検出された点間距離から、前記複数の顔の方向の各々と関連づけて保存されている複数の前記点間距離の行列を用いて、前記運転者の顔の方向を判定するよう構成されている」ということを示唆するものであるといえる。
e.引用例2の記載、特に記載事項イ-a(前記「(2)イ(ア)」参照)を参照すると、引用発明と引用例2に記載された技術は、少なくとも「運転者の顔の方向を判定し、前記運転者の判定された顔の方向に基づいて前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定する」ものである点において、技術分野及び運転者の顔の方向を判定する目的を一にするものであるから、引用例2に記載された技術を引用発明に適用し、引用発明において、運転者の顔の方向を判定する手法として引用例2に記載された技術を採用することは、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易になし得る事項である。そして、引用発明は、前記のとおり、前記運転者の判定された顔の方向に基づいて前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定するものであるから、引用例2に記載された技術を引用発明に適用すれば、前記分類トレーニングプロセスは、おのずと、前記運転者の覚醒状態を分類するために使用されることとなる。
更に、運転者の複数の顔の方向の各々について、当該顔の方向の運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を当該顔の方向と関連づけて保存し、その上で、前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出し、該検出された点間距離から、前記複数の顔の方向の各々と関連づけて保存されている複数の前記点間距離の行列を用いて、前記運転者の顔の方向を判定するにあたり、当該判定をする範囲をあまねく網羅するように、前記点間距離の行列を関連づけて保存する前記複数の顔の方向を選定する(例えば、上下左右それぞれ所定角度にわたる範囲について前記顔の方向を判定する場合、前記範囲の中央付近や前記範囲の上下左右それぞれの周辺付近に対応する方向をあまねく網羅するように前記複数の顔の方向を選定する)ことは、判定の精度を向上させるために当業者が当然に考慮する事項であって、引用例2に記載された技術を引用発明に適用するにあたり、運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を関連づけて保存する、複数の運転者の顔の方向を具体的にどのように選択するかは、当業者が通常発揮する創作能力の範囲内のものである。
してみれば、引用発明において、相違点1に係る本件補正1発明を特定する事項を備えるようにすることは、引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
イ.相違点2について検討する。
本件補正1発明と引用発明は、運転者覚醒度検出システムが、運転者の頭部が検出され得る範囲である車両の車両区画の領域の画像を結像し、当該結像した画像に基づいて前記運転者の頭部の位置を測定し顔の向きを判定し、前記測定された頭部の位置及び前記推定された顔の向きに基づいて前記運転者が覚醒状態であるか非覚醒状態であるかを判定し、非覚醒状態であると判定された時に前記運転者に警告を出力する、という一連のプロセスを実行するものである点において、共通する。そして、一連の制御を実行する制御系において、各プロセスを前記制御系を構成する複数のサブユニットのいずれに実行させるかは、当業者が適宜選択し得る事項である。
してみれば、引用発明において、相違点2に係る本件補正1発明を特定する事項を採用することは、当業者が容易に想到し得る事項である。
ウ.そして、本件補正1発明を特定する事項を総合してみても、本件補正1発明の奏する効果に、引用例1及び引用例2に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
エ.請求人は、令和元年6月5日付けの意見書において、「引用例1には、運転者の頭部の位置及び目の位置の両方に基づいて、「運転者の注意が少し逸れている状態」と「運転者の注意が完全に逸れた状態」についても判定し、覚醒度(軽度又は重度)に応じた警告を提供することは開示も示唆もなされていない」(「●理由Bについて(3)本願発明と引用例との対比説明」参照)と主張している。
しかしながら、前記「(3)」で検討したとおり、引用例1には、運転者の頭部の位置及び顔の方向の両方に基づいて、運転者の注意が少し逸れている状態と運転者の注意が完全に逸れた状態について判定し、覚醒度(軽度又は重度)に応じた警告を提供することが開示されており、更に、引用発明において、前記顔の方向を判定するために、前記運転者の目の位置を測定し、当該目の位置に基づいて前記顔の方向を判定するようにすることは、引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
したがって、請求人が主張する前記効果も引用例1及び引用例2に記載された事項並びに前記周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものではない。
(5)小括
以上のとおり、本件補正1発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

1-3.本件補正1についてのむすび
以上のとおり、本件補正1発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

2.令和元年6月5日にされた手続補正2についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月5日にされた手続補正2(以下、「本件補正2」という。)を却下する。

[理由]
請求人が令和元年6月5日付けの上申書により上申しているように、本件補正2の補正の内容は、補正により記載を変更した箇所を示す下線の有無を除いて、本件補正1の補正の内容と変わりはなく、その請求項1の記載も、前記「1[理由]1-1(1)」に記載した、本件補正1後の請求項1の記載と変わりはない。
そして、本件補正1は、前記のとおり却下されたので、本件補正2前の適法に補正された特許請求の範囲は、平成30年11月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲であり、その請求項1の記載は、前記「1[理由]1-1(2)」に記載したとおりである。
そうすると、本件補正2は、本件補正1について前記「1[理由]1-2」で検討した理由と同様の理由により、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
しかしながら、前記のとおり、本件補正2後の請求項1の記載は、本件補正1後の請求項1の記載と同じであるから、本件補正2後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本件補正2発明」という。)は、本件補正1発明について前記「1[理由]1-2(3)?(5)」で検討した理由と同様の理由から、引用発明及び引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正2発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正2は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1.本願発明
本件補正1及び本件補正2は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2 1[理由]1-1(2)」に記載した、平成30年11月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりものである

2.拒絶の理由
本願発明に係る当審拒絶理由の理由Bの概要は、次のとおりである。
本願発明は、その優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明並びに引用例2,3及び9に記載された技術に基いて、また下記の引用例1に記載された発明、引用例2及び3に記載された技術並びに例えば引用例9ないし11に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1.特開2005-62911号公報(本審決における「引用例1
」)
引用例2.Qiang Ji,外1名,“Real-Time Eye, Gaze, and Face Pose
Tracking for Monitoring Driver Vigilance”,Real-Time
Imaging,2002年10月, Volume 8,Issue 5,Elsevier
Science Ltd.,p.357-377
引用例3.特開2005-108033号公報
引用例9.特開2007-219578号公報(本審決における「引用例
2」)
引用例10.特開2001-250121号公報
引用例11.特開2008-186247号公報

3.引用例
当審拒絶理由通知で引用された引用例1,9、すなわち本審決における引用例1,2の記載事項は、前記「第2 1[理由]1-2(2)」に記載したとおりである。

4.対比・判断
前記「第2 1[理由]1-2」で検討したとおり、却下された本件補正1は、請求項1について.本件補正1前の「前記車両内の複数の所定位置における前記運転者の頭部位置及び目のベクトルを登録する分類トレーニングプロセス」という事項を「分類トレーニングプロセス」、「前記分類トレーニングプロセスは、車両内の複数の所定位置の各々について、当該所定位置を見ている運転者の顔面の制御点の点間距離の行例を当該所定位置と関連づけて保存し、その上で、前記結像ユニットから受信した画像から前記運転者の顔面の制御点の点間距離を検出し、該検出された点間距離から、前記複数の所定位置の各々と関連づけて保存されている複数の前記点間距離の行列を用いて、前記運転者の顔の方向を判定するよう構成されており、」に限定するものであるから、本件補正1発明は、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の事項を付加したものに相当する。
そうすると、本件補正1発明が、前記「第2 1[理由]1-2(3)?(5)」に記載したとおり、引用発明並びに引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明並びに引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-23 
結審通知日 2019-07-25 
審決日 2019-08-06 
出願番号 特願2014-501275(P2014-501275)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高田 基史  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 久保 竜一
長馬 望
発明の名称 運転者覚醒度判定システム及び方法  
代理人 越前 昌弘  

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