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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F |
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管理番号 | 1358227 |
審判番号 | 不服2018-16220 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-12-05 |
確定日 | 2019-12-19 |
事件の表示 | 特願2017-142688「調光フィルム及び合わせガラス」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開、特開2017-187810〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年10月27日(優先権主張 平成27年11月13日)に出願した特願平2016-210662号(以下「原出願」という。)の一部を平成29年7月24日に新たな特許出願としたもので、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 平成30年 4月16日付け:拒絶理由通知書 平成30年 6月21日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 9月 5日付け:拒絶査定(原査定) 平成30年12月 5日 :審判請求書の提出 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成30年6月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 配向層が設けられた第1の積層体と、 配向層が設けられた第2の積層体と、 前記第1の積層体及び前記第2の積層体により挟持されるとともに液晶分子を含む液晶層と、 前記液晶層に配置された、前記液晶層の厚みを保持するスペーサーと、 前記第1の積層体及び又は前記第2の積層体に設けられた電極とを備え、 前記電極による駆動により前記液晶分子の配向を制御して、入射した光を透過する透過状態と遮光する遮光状態とに切り替え、2枚の板ガラス間に隙間なく挟持される合わせガラス用の調光フィルムにおいて、 前記スペーサーが透明部材のビーズスペーサーであり、 前記液晶層の調光可能領域における、前記調光フィルムを正面視した場合の単位面積当たりの前記スペーサーの占有面積の割合が、0.1%以上10%以下であり、 前記液晶層は、二色性色素を含むゲストホスト型液晶層である 調光フィルム。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の下記の請求項に係る発明は、原出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、原出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 ●理由2(特許法第29条第2項)について ・請求項1,3,4 引用文献1,3,4 ・請求項2 引用文献1-4 <引用文献等一覧> 1.特開平6-273727号公報 2.特開平4-51221号公報 3.国際公開第2014/081653号 4.特開2004-333567号公報 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献の記載 原査定の拒絶の理由で引用された原出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平6-273727号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。 「【請求項1】少なくとも一方の表面に電極層を形成した、一定の距離に配置された一対の基板間に液晶層を挟持してなる液晶素子において、上記液晶層が、液晶性高分子、低分子の液晶材料および電解質を含有し、かつ素子の使用温度領域でネマチック性を示す混合膜であることを特徴とする液晶素子。」 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、TV画面や一般OA機器用、自動車等の表示パネル用、車載ナビゲーション用等のディスプレイ画面、あるいは調光ガラス、自動車等のサンルーフ等に使用される液晶素子と、その製造方法に関するものである。」 「【0011】したがって上記混合膜を用いた本発明の液晶素子は、特別な機構を必要とせずにより簡単な構成で、しかも確実なフェイルセイフ機能を発揮するので、前述した車載用の調光リヤウインドウやフロントウインドウへの表示用素子として、好適に使用できるという利点がある。また本発明の液晶素子は、透明状態では全く電力を消費しないので、使用時間の大部分が透明状態である車載用の防眩ミラーや、あるいは調光窓、室内の間仕切りガラス等にも、経済性の点で好適に使用することができる。また車載用の防眩ミラーは、調光リヤウインドウ等と同様にフェイルセイフ機能が要求されるので、安全性の観点からも、本発明の液晶素子が好適に使用される。」 「【0025】上記各成分からなる混合膜には、表示をカラー化するために、従来公知の各種2色性色素を配合することもできる。また混合膜には、その特性を損なわない範囲で、各種添加物や非液晶性化合物等を混合して特性を調整することもできる。また、後述する本発明の第1および第2の製造方法により素子を製造する場合、混合膜には、当該混合膜を挟持する一対の基板間の間隔を一定に保つべく、スペーサが混入、分散される。スペーサとしてはシリカ製、ガラスファイバー製または樹脂製で、かつ粒状のものが好適に使用される。針状のスペーサは、そのエッジにより透明電極を傷つける等の悪影響を及ぼすおそれがあるので望ましくない。 【0026】スペーサの粒径は、所望する基板間の距離(すなわち混合膜の膜厚)に合わせて設定される。スペーサの混合割合は、これに限定されるものではないが、液晶面積1mm^(2) 当り10?300個程度であるのが望ましい。後述する本発明の製造方法を実施する際に、混合膜の材料として使用される混合物は、液晶性高分子を含有しているので比較的粘度が高く、このため、液晶の流動によってスペーサが局在化するおそれがない。したがってスペーサは混合膜中に均一に分散され、基板の間隔を一定に保つために十分に作用する。 【0027】混合膜の膜厚は、本発明ではとくに限定されないが、1?30μmの範囲内であるのが、素子のコントラストや駆動電圧等の点で好ましい。上記混合膜を挟着する一対の基板としては、ガラス板等の、液晶素子の基板として従来より使用されている種々の基板が使用可能であるが、重くかつ割れやすいというガラス板の欠点を解消して、軽量でしかも丈夫な素子を得るには、プラスチックフィルムやプラスチック板が、基板として好適に使用される。 【0028】プラスチックフィルムとしては、たとえば耐熱性、実用的強度、光学的均一性などにすぐれたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやポリエーテルスルホン(PES)フィルム等があげられる。プラスチックフィルムの厚みは、これに限定されるものではないが、50?500μm程度が好ましい。プラスチック板としては、たとえば各種アクリル樹脂板、ポリカーボネート板、ポリスチレン板等の、光学的特性にすぐれたプラスチック板が好適に使用される。プラスチック板の厚みは、これに限定されるものではないが0.5?3mm程度が好ましい。 【0029】一対の基板のうち少なくとも一方の表面には、混合膜に電場を印加するための電極層が形成される。透過型の素子の場合、電極層としては、ITO(インジウム-チン-オキサイド)やSnO_(2 )等の透明導電材料からなる透明導電膜が好適に使用される。透明導電膜は、真空蒸着法や反応性スパッタリング法により形成される他、上記透明導電材料を含むインクを基板上に塗布あるいは印刷して形成することもできる。また本発明の液晶素子をデータ等の表示に用いる場合、上記電極層には、エッチング等によって所定の表示パターンを形成することもできる。 【0030】本発明の液晶素子では、配向処理は必須の要件ではないが、上記基板の、混合膜と接する最表面(電極層を有する基板の場合は当該電極層の表面、電極を有さない基板の場合は基板自身の表面)には、液晶の配向を制御する配向処理を施すこともできる。前述したように混合膜の透明化は液晶の配向により発生するため、当該混合膜が白濁状態から透明状態へ変化する速度や、透明状態での光透過率、透明状態での液晶の安定性等の特性には基板の表面状態が大きく影響しており、混合膜と接する基板の最表面に配向処理を施して、液晶の配向を制御すると、上記の特性を向上できる可能性がある。」 「【0047】で表される繰り返し単位を有する液晶性高分子(PLC、重量平均分子量Mw =9600)と、低分子の液晶材料(メルクジャパン社製、LC、誘電率異方性Δε=50.5、複屈折率Δn=0.1991)とを、重量比でPLC:LC=4:6の割合で混合するとともに、当該両液晶材料の総量に対して0.05重量%の電解質(テトラエチルアンモニウムブロマイド:Et_(4) N_(Br))と、0.05重量%のシリカ製スペーサ(粒径10μm)とを配合し、攪拌混合して混合物を製造した。 【0048】この混合物を、表面にITO膜が形成されたPESフィルム(住友ベークライト社製)の、当該ITO膜上に載置し、その上にもう1枚のITO膜付きPESフィルムを、ITO膜が先のPESフィルムのITO膜と向き合うように重ねた。そして、図1(a) ?(c) に示すように、一対のラミネートロールR,Rを用いてラミネート処理して、液晶素子を作製した。」 「【0051】実施例6 表面にITO膜が形成されたPESフィルム(住友ベークライト社製)の、当該ITO膜上に、ポリイミド系配向膜用塗布液(日本合成ゴム社製の品番AL1051)をスピンコート法で塗布し、乾燥させた後、180℃で2時間、加熱硬化させて、高分子膜を形成した。つぎにこの高分子膜の表面を、ラビング布(吉川化工社製の品番YA20R)を用いて1方向にラビング処理して、液晶配向膜を形成した。そしてこのPESフィルムを用いて、前記実施例1と同様にして液晶素子を作製した。」 2 引用発明 したがって、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「液晶素子が使用された車載用の調光リヤウインドウ、調光窓、調光ガラスであって、前記液晶素子は、 電極層として表面にITO膜が形成され、当該ITO膜上に液晶配向膜を形成したPESフィルム等の基板と、 電極層として表面にITO膜が形成され、当該ITO膜上に液晶配向膜を形成したもう1枚のPESフィルム等の基板とを用い、 一定の距離に配置された一対の基板間に、液晶性高分子とシリカ製スペーサ(粒径10μm)とを混合した混合膜である液晶層を挟持してなる液晶素子において、 混合膜と接する基板の最表面に配向処理を施して、液晶の配向を制御し、 スペーサとしてはシリカ製、かつ粒状のものが使用され、 スペーサの混合割合は、液晶面積1mm^(2) 当り10?300個程度であり、 混合膜を挟持する一対の基板間の間隔を一定に保つべく、スペーサが混入、分散され、 混合膜の膜厚は、1?30μmの範囲内であり、 混合膜は、2色性色素が配合されたものである、 車載用の調光リヤウインドウ、調光窓、調光ガラス。」 第5 対比 本願発明と引用発明を対比する。 1 引用発明の「液晶配向膜を形成したPESフィルム等の基板」は、本願発明の「配向層が設けられた第1の積層体」に、 引用発明の「液晶配向膜を形成したもう1枚のPESフィルム等の基板」は、本願発明の「配向層が設けられた第2の積層体」に、 引用発明の「『一定の距離に配置された一対の基板間に、』『挟持してなる』『液晶性高分子』『を混合した混合膜である液晶層』」は、本願発明の「前記第1の積層体及び前記第2の積層体により挟持されるとともに液晶分子を含む液晶層」に、 引用発明の「『混合膜である液晶層』に『シリカ製スペーサ(粒径10μm)とを混合し』、『混合膜を挟持する一対の基板間の間隔を一定に保つ』『、スペーサ』」は、本願発明の「前記液晶層に配置された、前記液晶層の厚みを保持するスペーサー」に、 引用発明の「『PESフィルム等の基板』、『もう1枚のPESフィルム等の基板』に『電極層として』『形成され』た『ITO膜』」は、本願発明の「前記第1の積層体及び又は前記第2の積層体に設けられた電極」に、 引用発明の「『車載用の調光リヤウインドウ、調光窓、調光ガラス』の『液晶素子』」は、本願発明の「調光フィルム」に、 それぞれ相当する。 2 引用発明は「『液晶性高分子』『を混合した混合膜であ』り、『混合膜は、2色性色素が配合されたものである』、『液晶層』」と特定されていることから、引用発明の液晶層は、ゲストが2色性色素、ホストが液晶性高分子である2色性色素を含むゲストホスト型液晶層であることは明らかである。 そうすると、引用発明の「『液晶性高分子』『を混合した混合膜であ』り、『混合膜には、2色性色素を配合する』、『混合膜である液晶層』」は、本願発明の「前記液晶層は、二色性色素を含むゲストホスト型液晶層」に、相当する。 3 以上のことから、本願発明と引用発明に係る液晶素子との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「配向層が設けられた第1の積層体と、 配向層が設けられた第2の積層体と、 前記第1の積層体及び前記第2の積層体により挟持されるとともに液晶分子を含む液晶層と、 前記液晶層に配置された、前記液晶層の厚みを保持するスペーサーと、 前記第1の積層体及び又は前記第2の積層体に設けられた電極とを備え、 前記液晶層は、二色性色素を含むゲストホスト型液晶層である 調光フィルム。」 【相違点1】 調光フィルムにおいて、本願発明は「前記電極による駆動により前記液晶分子の配向を制御して、入射した光を透過する透過状態と遮光する遮光状態とに切り替え」るのに対し、引用発明はそのようなものか明らかでない点。 【相違点2】 スペーサーについて、本願発明は「透明部材のビーズスペーサーであり、前記液晶層の調光可能領域における、前記調光フィルムを正面視した場合の単位面積当たりの前記スペーサーの占有面積の割合が、0.1%以上10%以下であ」るのに対し、引用発明は「シリカ製、かつ粒状のものが使用され、スペーサの混合割合は、液晶面積1mm^(2) 当り10?300個程度であ」る点。 【相違点3】 調光フィルムが、本願発明は「2枚の板ガラス間に隙間なく挟持される合わせガラス用」であるのに対し、引用発明はそのような用途に用いるものか明らかではない点。 第6 判断 1 相違点1について (1)ゲストホスト型の液晶素子に関する技術において、電極による駆動により液晶分子の配向を制御して、入射した光を透過する透過状態と遮光する遮光状態とに切り替える技術は、原出願の優先日前に周知技術(必要ならば、特開2013-7935号公報(特に、【0017】、図2(a)、図2(b)参照。)、特開2003-29302号公報(特に、【0009】?【0014】、図16、図18参照。)、特開2010-208861号公報(特に、【0017】?【0019】参照。)を参照されたい。)である。 そして、調光フィルムの技術分野において、光を透過する透過状態と遮光する遮光状態の間で切り替えるものと、光を透過する透過状態と散乱する散乱状態との間で切り替えるものはいずれも、原出願の優先日前に周知である。 (2)そうすると、引用発明もゲストホスト型の液晶素子に関する技術なので、引用発明において、上記周知技術を採用し、本願発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。 2 相違点2について (1)まず、本願発明の「スペーサーが透明部材のビーズスペーサーであり」の特定のビーズスペーサーは、材質、形状については特段限定されていない。 なお、本願明細書を参酌すると、【0061】に「スペーサーとして、いわゆるビーズスペーサー224が用いられる。本実施形態のビーズスペーサー224は球状で、直径は1μm?20μm、好ましくは3μm?15μmの範囲が好ましい。」、【0062】に「ビーズスペーサー224は、シリカ等による無機材料による構成、有機材料による構成、これらを組み合わせたコアシェル構造の構成等を広く適用することができる。」、【0063】に「本実施形態のビーズスペーサー224は球状であるがまた球状による構成の他、円柱形状、角柱形状等によるロッド形状により構成してもよい。」と、ビーズスペーサーは、シリカ等の各種材質、球状等の各種形状である旨記載されている。 (2)そして、引用発明は「スペーサとしてはシリカ製、かつ粒状のものが使用され」と特定されており、一般にシリカすなわちSiO_(2)は透明であって、粒状のスペーサはビーズスペーサーといえるから、引用発明の「『シリカ製、かつ粒状のものが使用され』る『スペーサ』」は、透明部材のビーズスペーサーと解される。 (3)次に、引用発明は「シリカ製スペーサ(粒径10μm)とを混合した混合膜である液晶層」、「混合膜の膜厚は、1?30μmの範囲内であり」、「混合膜を挟持する一対の基板間の間隔を一定に保つべく、スペーサが混入、分散され」と特定されていることから、引用発明のスペーサの粒径、混合膜の膜厚、及びスペーサにより混合膜を挟持する一対の基板間の間隔を一定に保つことを考慮すると、液晶層の調光可能領域において、車載用の調光リヤウインドウ、調光窓、調光ガラスの液晶素子を正面視した場合には、引用発明のスペーサは通常重なって配置されていないものと解される。 (4)そして、引用発明は「『スペーサとしては』『粒状のものが使用され』」と特定されているので、通常、スペーサは球状のものと解され、また、引用発明は「『シリカ製スペーサ(粒径10μm)』、『スペーサの混合割合は、液晶面積1mm^(2) 当り10?300個程度であり』」と特定されている。 (5)そうすると、車載用の調光リヤウインドウ、調光窓、調光ガラスの液晶素子を正面視した場合には、スペーサは通常重なって配置されておらず、スペーサは粒径10μmで球状で正面視した場合円であり、スペーサの混合割合は、液晶面積1mm^(2) 当り10?300個程度として、車載用の調光リヤウインドウ、調光窓、調光ガラスの液晶素子を正面視した場合の液晶面積1mm^(2) 当りのスペーサの占有面積の割合を計算すると、下記のように、0.0785%以上2.355%以下となる。 0.005(mm)×0.005(mm)×3.14×10(個)×100=0.0785% 0.005(mm)×0.005(mm)×3.14×300(個)×100=2.355% (6)したがって、引用発明において、液晶層の調光可能領域における、車載用の調光リヤウインドウ、調光窓、調光ガラスの液晶素子を正面視した場合の液晶面積1mm^(2) 当りのスペーサの占有面積の割合として、0.1%以上2.355%以下のものを選択するようになすことは、当業者が容易に想到する事項にすぎない。 3 相違点3について (1)本願発明は「2枚の板ガラス間に隙間なく挟持される合わせガラス用」と用途限定を付した発明である。 そこで、当該用途限定が、本願発明の「調光フィルム」を特定する上でどのような意味を有するかについて検討する。 (2)本願明細書には「【0007】 本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、合わせガラスの中間材に利用する場合等においても、外観品位の低下を有効に回避して十分に安定に駆動することができ、また透過率の低下、液晶の配向性の低下を有効に回避して回折光が見て取られたりすることが無いようにすることを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、単位面積当たりのスペーサーの面積を最適化する、との着想に至り、本発明を完成するに至った。」と記載されていることから、合わせガラスの中間材に利用する場合 の特に適した構造とは、単位面積当たりのスペーサーの面積を最適化することと解される。 (3)「単位面積当たりの前記スペーサーの占有面積の割合」については、本願発明において既に特定されており、そうすると、本願発明の上記用途限定は、単に、合わせガラスに用いるということにすぎず、本願発明の「調光フィルム」を特定する上で意味を有するとは認められない。 そうすると、相違点3は実質的な相違点ではない。 (4)仮に、上記用途限定が本願発明の「調光フィルム」を特定する上で、実質的な意味を有するものとして検討する。 ア 車載用の調光リヤウインドウ、調光窓、調光ガラスの調光素子に関する技術において、2枚の板ガラス間に隙間なく挟持される合わせガラス用の調光素子は、原出願の優先日前に周知技術(必要ならば、特開2010-208861号公報(特に、【0010】、【0040】、【0048】、【0056】、図1参照。)、特開2009-36967号公報(特に、【0009】、【0010】、【0049】、【0056】、【0057】、図1参照。)、特開2012-32715号公報(特に、【0139】?【0141】、【0153】、【0154】、【0166】、図5参照。)、国際公開第2014/081653号(図5に関する記載を参照すれば、ガラスパネル400とガラス窓406との間に間隔部材410a、410b、接着剤404を介して、当該間隔部材410a、410bの位置では、薄膜100a、100bは隙間なく挟持されている。)を参照されたい。)である。 イ そうすると、引用発明は「車載用の調光リヤウインドウ、調光窓、調光ガラス」と特定されるところ、車載用の調光リヤウインドウは、車載用なので一定の強度が必要であり、調光窓、調光ガラスは、何らかのガラスを用いていると解されること、また、引用発明と上記周知技術は同一技術分野であることから、引用発明において、上記周知技術を勘案し、「2枚の板ガラス間に隙間なく挟持される合わせガラス用」に調製し、本願発明の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。 4 効果について そして、これら相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 5 まとめ したがって、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明することができたものである。 6 審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書において「引用文献1の発明は、第1及び第2の積層体、液晶層、スペーサー、電極に対応する構成を有した液晶素子が記載されておりますが、入射した光を透過する透過状態と遮光する遮光状態に切り替えていない点と、液晶層の調光可能領域における、単位面積当たりのスペーサーの占有面積の割合が不明である点と、液晶素子が合わせガラスに用いられることが前提となっていない点とで、本願請求項1及び本願請求項2の発明とは相違します。」旨主張している。 しかしながら、上記第6の1ないし3に記載したとおり、主張された相違点は容易想到である又は実質的な相違点ではない。 したがって、審判請求人の主張は採用することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、原出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-10-16 |
結審通知日 | 2019-10-23 |
審決日 | 2019-11-06 |
出願番号 | 特願2017-142688(P2017-142688) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 右田 昌士、廣田 かおり |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 野村 伸雄 |
発明の名称 | 調光フィルム及び合わせガラス |
代理人 | 芝 哲央 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 林 一好 |