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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1358265 |
審判番号 | 不服2018-13983 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-10-22 |
確定日 | 2019-12-26 |
事件の表示 | 特願2015- 15406「気密封止用蓋材および電子部品収容パッケージ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 4日出願公開、特開2016-139758〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年 1月29日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年 8月 9日付け:拒絶理由通知書 平成29年10月 3日 :意見書、手続補正書の提出 平成29年12月13日付け:拒絶理由通知書 平成30年 2月 8日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 5月 7日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書 平成30年 6月13日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 7月17日 :平成30年6月13日付けの手続補正につ いての補正の却下の決定、拒絶査定 平成30年10月22日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 平成30年10月22日になされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年10月22日にされた手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 平成30年10月22日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1については、 「 【請求項1】 電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収容パッケージに用いられる気密封止用蓋材であって、 4質量%以上6質量%未満のCrを含有するNi-Cr-Fe合金により形成された基材層と、 前記基材層の前記電子部品収納部材側の表面上に対して直接的に接触した状態で接合された銀ろう層とを備えるクラッド材により形成され、 30℃?500℃の温度範囲における前記基材層の平均熱膨張係数が11×10^(-6)/K以下である、気密封止用蓋材。」 とあったものが、 「 【請求項1】 電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収容パッケージに用いられる気密封止用蓋材であって、 4質量%以上6質量%未満のCrを含有するNi-Cr-Fe合金により形成された基材層と、 前記基材層の前記電子部品収納部材側の表面上に対して直接的に接触した状態で接合されたAg?Sn-Cu合金からなる銀ろう層とを備えるとともに接合面が外周端部を含む全域にわたって平坦面である2層構造のクラッド材により形成され、 30℃?500℃の温度範囲における前記基材層の平均熱膨張係数が10.5×10^(-6)/K以上11.1×10^(-6)/K未満である、気密封止用蓋材。」 と補正された。 上記補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項のうち、 ア.「銀ろう層」について、Ag?Sn-Cu合金からなるものであることを限定し、 イ.「クラッド材」について、接合面が外周端部を含む全域にわたって平坦面である2層構造のものであることを限定し、 ウ.「30℃?500℃の温度範囲における前記基材層の平均熱膨張係数」について、本件補正前に有効数字2桁で11×10^(-6)/K以下であったところ、本件補正により有効数字3桁で10.5×10^(-6)/K以上11.1×10^(-6)/K未満として、その数値範囲を限定したとみることができるものである。 そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 2.引用文献の記載事項 (1)引用文献1について 本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2014/148457号(2014年(平成26年)9月25日国際公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。なお、下線は当審で付与したものである。 ア.「[0022] 本実施の形態に係るセラミックパッケージ10は、図1に示すように、底部12aと側壁12bとを有する上面開口のセラミック製の容器12と、該容器12の開口を閉塞する金属製の蓋体14とが銀ろう等の高温封止材16を用いて気密封止されて構成されている。 [0023] このセラミックパッケージ10の容器12の底部12a、側壁12b及び蓋体14で区画される収容空間18に、例えば水晶振動子、抵抗体、フィルタ、コンデンサ、半導体素子のうち、少なくとも1種以上の素子20が実装され、封止されることで、本実施の形態に係る電子部品22が構成される。 ・・・(中略)・・・ [0026] ここで、各部材について以下に説明する。 [0027] 先ず、容器12は、セラミック素地にて構成されている。セラミック素地は、Al_( 2 )O_( 3 )を主結晶相とし、その他、MnTiO_( 3 )結晶相のみ、あるいは、MnTiO_( 3 )結晶相及びMnAl_( 2 )O_( 4 )結晶相を含む。 ・・・(中略)・・・ [0032] 一方、蓋体14は、厚みが0.05?0.20mmの平板状に形成され、鉄-ニッケル合金板あるいは鉄-ニッケル-コバルト合金板にて構成されている。この蓋体14の下面(全面あるいは側壁12bに対応した部分)には、高温封止材16である銀-銅共晶ろう等のろう材が形成されている。厚みは5?20μm程度である。 [0033] 具体的には、蓋体14は、鉄-ニッケル合金板あるいは鉄-ニッケル-コバルト合金板の下面に銀-銅ろう等のろう材箔を重ねて圧延して構成される複合板を打ち抜き金型で所定の形状に打ち抜くことによって作製される。 [0034] 高温封止材16としては、具体的には、・・・(中略)・・・、ろう材3(67Ag-29Cu-4Sn)のいずれかを使用することができる。」 イ.「[0043] 次に、セラミックパッケージ10の製造方法の一例を図2を参照しながら説明する。 ・・・(中略)・・・ [0061] ステップS14において、積層原板に一体的に形成されている各容器12の収容空間18にそれぞれ素子20を実装する。 [0062] ステップS15において、積層原板の状態で各素子20の特性を検査し、その後、ステップS16において、積層原板を複数に分割して、それぞれ収容空間18に素子20が実装された容器12とする。 [0063] そして、ステップS17において、裏面に高温封止材16が形成された蓋体14を、高温封止材16と容器12の側壁12b(接合層24)側とを対向させて、容器12上に被せる。その後、蓋体14の相対向する外周縁にシーム溶接機の一対のローラー電極を接触させながら転動させると共に、このローラー電極間に電流を流すことで、高温封止材16の一部を溶融させることにより、容器12の側壁12b上に蓋体14を気密封止する。封止時の雰囲気は、N_( 2 )ガス又は真空中で行われる。これにより、容器12内に素子20を収容したセラミックパッケージ10、すなわち、容器12の側壁12bの上端面と高温封止材16との間に、メタライズ層26と応力緩和層28が介在され、応力緩和層28が、少なくとも膜硬度(ビッカース硬さ)が50以上500未満の無電解めっき層にて構成されたセラミックパッケージ10が完成する。」 ・段落[0032]及び[0063]によれば、引用文献1には、下面全面に高温封止材16が形成された蓋体14が記載されている。 ・段落[0032]及び[0033]によれば、蓋体14は、平板状に形成され、鉄-ニッケル合金板あるいは鉄-ニッケル-コバルト合金板にて構成され、下面に高温封止材16であるろう材箔を重ねて圧延して構成される複合板を打ち抜き金型で所定の形状に打ち抜くことによって作製される。 ・段落[0022]によれば、金属製の蓋体14は、これと上面開口のセラミック製の容器12とが高温封止材16を用いて気密封止されているセラミックパッケージ10を構成している。また、段落[0027]によれば、容器12はAl_( 2 )O_( 3 )を主結晶相とするセラミックである。 ・段落[0023]及び[0061]によれば、容器12の収容空間18に、水晶振動子、抵抗体、フィルタ、コンデンサ、半導体素子のうち、少なくとも1種以上の素子20が実装される。 ・段落[0034]によれば、高温封止材16として、67Ag-29Cu-4Snが使用される。 上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「下面全面に高温封止材16が形成された蓋体14であって、 当該蓋材14は、平板状に形成され、鉄-ニッケル合金板あるいは鉄-ニッケル-コバルト合金板にて構成され、下面に前記高温封止材16であるろう材箔を重ねて圧延して構成される複合板を打ち抜き金型で所定の形状に打ち抜くことによって作製され、 前記蓋体14は、当該蓋体14と上面開口でAl_( 2 )O_( 3 )を主結晶相とするセラミック製の容器12とが高温封止材16を用いて気密封止されているセラミックパッケージ10を構成し、 前記容器12の収容空間18に、水晶振動子、抵抗体、フィルタ、コンデンサ、半導体素子のうち、少なくとも1種以上の素子20が実装され、 前記高温封止材16として、67Ag-29Cu-4Snが使用された、 蓋体14。」 (2)引用文献2について 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特許第5632563号公報(平成26年11月26日公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 ア.「【0012】 この発明の第1の局面による気密封止用蓋材は、電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収納用パッケージに用いられる気密封止用蓋材であって、Niと、1質量%以上10質量%以下のCrと、Feとを含有するNi-Cr-Fe合金により構成された基材層と、基材層の電子部品収納部材側の一方表面に少なくとも接合され、Ni、または、Ni合金により構成された表面層とを備えるクラッド材により構成されている。」 イ.「【0014】 また、第1の局面による気密封止用蓋材では、基材層をNi-Cr-Fe合金により構成することによって、主にCr_(2)O_(3)からなる不動態膜が基材層の表面上に形成されるので、基材層がコバール(29Ni-16Co-Fe合金)により構成されている場合よりも、基材層の耐食性を向上させることができる。これにより、Ni、または、Ni合金により構成された表面層に覆われていない部分から、基材層が腐食するのを抑制することができるので、気密封止用蓋材の耐食性が低くなるのを抑制することができる。また、基材層は、1質量%以上10質量%以下のCrを含有するNi-Cr-Fe合金により構成されている。このように構成すれば、基材層のCrの含有率を1質量%以上にすることにより、主にCr_(2)O_(3)からなる不動態膜が基材層の表面上に確実に形成されるので、基材層の耐食性をより向上させることができる。また、基材層のCrの含有率を10質量%以下にすることにより、基材層の熱膨張係数が大きくなるのを抑制することができるので、たとえばセラミックスにより構成された電子部品収納部材と、気密封止用蓋材との熱膨張差が大きくなるのを抑制することができる。これにより、気密封止用蓋材と電子部品収納部材との間に発生する熱応力を小さくすることができるので、熱応力に起因して電子部品収納用パッケージが破損するのを抑制することができる。」 ウ.「【0047】 電子部品収納部材30は、セラミックスであるアルミナ(Al_(2)O_(3))により構成された箱型形状の基台31と、基台31にろう付け接合されたリング状のシールリング32と、シールリング32を覆う保護めっき層33とを含んでいる。」 エ.「【0069】 また、実施例2では、実施例1と異なり、42質量%のNiと4質量%のCrとFeとを含有する42Ni-4Cr-Fe合金により構成された基材層10を備える気密封止用蓋材1(30Ni-Cu/42Ni-4Cr-Fe/30Ni-Cu)を用いた。つまり、実施例2の基材層10では、実施例1の基材層10よりもCrの含有率を小さくした。」 オ.「【0122】 (熱膨張特性に基づく基材層の組成の検討) 最後に、気密封止用蓋材1に用いられる基材層10を構成するNi-Cr-Fe合金およびNi-Cr-Co-Fe合金の熱膨張係数に基づいて、本発明の基材層に適した合金の組成について検討した。なお、封止における溶接対象(基台31)を構成するアルミナ(Al_(2)O_(3))の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有するNi-Cr-Fe合金およびNi-Cr-Co-Fe合金が、基材層として適していると考えられる。なお、図15では、温度変化に対する熱膨張係数の変化をグラフにするとともに、図16では、所定の温度範囲(30℃から300℃まで、30℃から400℃までおよび30℃から500℃まで)における平均熱膨張係数を示す。」 カ.「【図16】 」 上記ア.ないしカ.によれば、引用文献2には、電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収納用パッケージに用いられる気密封止用蓋材を、基材層と表面層とを備えるクラッド材により形成したものにおいて、「基材層を42Ni-4Cr-Fe合金により構成し、Crの含有率を1質量%以上にすることにより主にCr_(2)O_(3)からなる不動態膜が基材層の表面上に確実に形成することで基材層の耐食性をより向上させ、Crの含有率を10質量%以下にすることにより基材層の熱膨張係数が大きくなるのを抑制することでセラミックスのアルミナ(Al_(2)O_(3))により構成された電子部品収納部材と気密封止用蓋材との熱膨張差が大きくなるのを抑制する」技術事項が記載されていると認められる。 3.対比 そこで、本件補正発明と引用発明1とを対比する。 (1)引用発明1の「水晶振動子、抵抗体、フィルタ、コンデンサ、半導体素子のうち、少なくとも1種以上の素子20」は、本件補正発明の「電子部品」に相当する。 (2)引用発明1の「容器12」は、その収容空間18に、水晶振動子、抵抗体、フィルタ、コンデンサ、半導体素子のうち、少なくとも1種以上の素子20(「電子部品」)が実装されるものであるから、本件補正発明の「電子部品を収納するための電子部品収納部材」に相当する。 (3)引用発明1の「セラミックパッケージ10」は、容器12(「電子部品を収納するための電子部品収納部材」)と蓋体14及び高温封止材16とでできているから、本件補正発明の「電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収容パッケージ」に相当する。 (4)引用発明1において、蓋体14と容器12とが高温封止材16を用いて気密封止されていることから、引用発明1の「下面全面に高温封止材16が形成された蓋体14」は、本件補正発明の「電子部品収容パッケージに用いられる気密封止用蓋材」に相当する。 (5)引用発明1の「蓋体14」は本件補正発明の「基材層」に相当する。 (6)引用発明1において、蓋体14は、下面に前記高温封止材16であるろう材箔を重ねて圧延して構成される複合板を打ち抜くことによって作製され、また、高温封止材16には67Ag-29Cu-4Snが使用されているから、引用発明1の「高温封止材16」は本件補正発明の「銀ろう層」に相当し、さらに、引用発明1は、蓋体14と容器12とが高温封止材16を用いて気密封止されているから、蓋体14の高温封止部材16が接触する面は、容器12(「電子部品収納部材」)側である。 したがって、引用発明1と本件補正発明とは、「基材層と、前記基材層の前記電子部品収納部材側の表面上に対して直接的に接触した状態で接合されたAg?Sn-Cu合金からなる銀ろう層とを備える」点で一致する。 (7)引用発明1において、蓋体14は、下面に前記高温封止材16であるろう材箔を重ねて圧延して構成される複合板を打ち抜くことによって作製されたものであるから、蓋体14とろう材箔である高温封止材16とが2層構造のクラット材の形態で、「下面全面に高温封止材16が形成された蓋体14」として形成される。 さらに、引用発明1の蓋体14は平板状に形成されているから、蓋体14と高温封止部材16との接合面は外周端部を含む全域にわたって平坦面になっていると認められる。 したがって、引用発明1の「裏面に高温封止材16が形成された蓋体14」と本件補正発明の「気密封止用蓋材」とは、「接合面が外周端部を含む全域にわたって平坦面である2層構造のクラッド材により形成される」点で一致する。 そうすると、本件補正発明と引用発明1とは 「電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収容パッケージに用いられる気密封止用蓋材であって、 基材層と、 前記基材層の前記電子部品収納部材側の表面上に対して直接的に接触した状態で接合されたAg?Sn-Cu合金からなる銀ろう層とを備えるとともに接合面が外周端部を含む全域にわたって平坦面である2層構造のクラッド材により形成される、気密封止用蓋材。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 基材層について、本件補正発明では、4質量%以上6質量%未満のCrを含有するNi-Cr-Fe合金により形成された旨特定されているのに対し、引用発明1では、鉄-ニッケル合金板あるいは鉄-ニッケル-コバルト合金板である点。 [相違点2] 30℃?500℃の温度範囲における基材層の平均熱膨張係数について、本件補正発明では、10.5×10^(-6)/K以上11.1×10^(-6)/K未満である旨特定されているのに対し、引用発明1では、そのような特定がない点。 4.当審の判断 (1)相違点1について 前記第2の[理由]2.(2)に記載のとおり上記引用文献2には、電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収納用パッケージに用いられる気密封止用蓋材を、基材層と表面層とを備えるクラッド材により形成したものにおいて、基材層を42Ni-4Cr-Fe合金により構成し、Crの含有率を1質量%以上にすることにより主にCr_(2)O_(3)からなる不動態膜が基材層の表面上に確実に形成することで基材層の耐食性をより向上させ、Crの含有率を10質量%以下にすることにより基材層の熱膨張係数が大きくなるのを抑制することでセラミックスのアルミナ(Al_(2)O_(3))により構成された電子部品収納部材と気密封止用蓋材との熱膨張差が大きくなるのを抑制する技術事項が記載されている。 そして、引用発明1と引用文献2に記載された技術事項とは、電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収納用パッケージに用いられる気密封止用蓋材という同一の技術分野に属するものである。また、引用文献2に記載された技術事項における耐食性の向上という課題や、引用発明1における容器12はAl_(2)O_(3)を主結晶相とするセラミックにて形成されるものであるとともに、引用文献2に記載された電子部品収納部材もセラミックスであるアルミナ(Al_(2)O_(3))により構成されているところ、引用文献2に記載された技術事項における気密封止用蓋材の材料選択による熱膨張差抑制という課題は、引用発明1にも内在する自明な課題である。 したがって、引用発明1において、蓋材14について、引用文献2に記載されている技術事項の42Ni-4Cr-Fe合金を採用することは、当業者であれば容易に想到できたことである。 (2)相違点2について 本願明細書の図7によれば、42Ni-4Cr-Feの基材層において、30℃?500℃の温度範囲における平均熱膨張係数として10.5×10^(-6)/Kが得られるところ、引用文献2に記載された技術事項における基材層も42Ni-4Cr-Feを用いている。また、上記第2の[理由]2.(2)カ.に摘示した通り、引用文献2の図16には、42Ni-4Cr-Feの基材層の30℃?500℃における平均熱膨張係数こそ示されていないが、その他の組成のNi-Cr-Feの基材層における平均熱膨張係数が示され、その値は本願の図7に示された同じ組成のNi-Cr-Feにおける平均熱膨張係数と一致している。 したがって、引用文献2に記載された技術事項における42Ni-4Cr-Feの基材層の30℃?500℃における平均熱膨張係数は10.5×10^(-6)/Kになる蓋然性が高い。 そうすると、相違点2に係る構成は、引用発明1において、引用文献2に記載された技術事項を採用することで必然的に得られる構成にすぎない。 そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本件補正発明は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができたものでない。 5.本件補正についてのむすび よって、本件補正は、本件補正後の請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成30年10月22日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成30年2月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「 【請求項1】 電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収容パッケージに用いられる気密封止用蓋材であって、 4質量%以上6質量%未満のCrを含有するNi-Cr-Fe合金により形成された基材層と、 前記基材層の前記電子部品収納部材側の表面上に対して直接的に接触した状態で接合された銀ろう層とを備えるクラッド材により形成され、 30℃?500℃の温度範囲における前記基材層の平均熱膨張係数が11×10^(-6)/K以下である、気密封止用蓋材。」 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献3に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献2:特許第5632463号公報 引用文献3:特開2005-142329号公報 3.引用文献の記載事項 (1)引用文献3について ア.「【0007】 本発明の請求項2による電子部品用パッケージは、電子部品素子を収納し、上面外周端部にメタライズ層が形成されたセラミックのベースと、当該ベースのメタライズ層の上部に搭載される金属製のキャップとをろう接して気密封止してなる電子部品用パッケージであって、前記キャップは、金属母材とろう材層の少なくとも2層がクラッド化されてなり、前記金属母材の一部が前記キャップの外周端部でろう材層側へ張り出す堤部を具備してなることを特徴とする。」 イ.「【0017】 本発明による第1の実施形態を表面実装型の水晶振動子を例にとり図面とともに説明する。図1は第1の実施形態を示す表面実装型水晶振動子の断面図であり、図2は図1のキャップ部分の拡大図であり、図3は第1の実施形態を示す表面実装型水晶振動子の封止状態を示した断面図である。表面実装型水晶振動子は、上部が開口した凹部を有する平面矩形状のベース1と、当該ベースの中に収納される圧電振動板である水晶振動板3と、ベースの開口部に接合されるキャップ2とからなる。 【0018】 ベース1は、例えばアルミナセラミック材料からなり、矩形平板形状のベース基体1aと、中央部分が大きく穿設されるとともに外形サイズが上記ベース基体1aとほぼ等しい枠体1b、1c、1dとからなり、さらに上記枠体1dの上面にはタングステンやモリブデンなどからなるメタライズ層11dが形成され、これら各層が積層されて一体的に焼成されている。上記焼成成形後、枠体1dのメタライズの上面には、図示していないが、例えばニッケルメッキを形成し、その上部に金メッキを形成している。つまり、ベース1は、断面でみて凹形の電子素子収納部10を有した形態となっており、凹形周囲の堤部11上に周状のメタライズ層11dが形成されている。このベース外周の4角には、図示していないが、上下にキャスタレーションと連結電極が形成されており、当該連結電極は、枠体1bの上面に形成された電極パッド12,13(13については図示せず)、およびベース底面に形成された端子電極(図示せず)へとそれぞれ電気的に延出されている。なお、これらの端子電極、連結電極、電極パッドは、上記メタライズ層11dと同様に、ダングステン、モリブデン等のメタライズ層を、ベースと一体的に焼成して形成し、当該メタライズ層の上部にニッケルメッキを形成し、その上部に金メッキを形成して構成されている。 ・・・(中略)・・・ 【0020】 ベースを気密封止する金属製のキャップ2は平板形状であり、コバールからなる金属母材2aに対してより軟質の銀ろうなどのろう材層2bが圧延などの手法によりクラッド化しており、かつ上記金属母材2a側からろう材層2b側に向かってプレス打ち抜きすることで形成している。このため、図2に示すように、上記キャップの外周端部で金属母材2aの一部がろう材層2b側へ張り出すバリ21aが形成され、当該バリ21aが上記金属母材とろう材層に密着した状態で外周端部から隔てる堤部として構成される。なお、上記バリ21aは、図4に示すように、上記ろう材層2bの厚みとほぼ同じ高さに張り出させてもよく、このように構成することで、ろう材がキャップの側面から噴出することが一切なくなるのでより好ましい形態となる。」 ・段落【0020】によれば、引用文献3には、ベースを気密封止する金属製のキャップであって、コバールからなる金属母材2aに対して銀ろうなどのろう材層が圧延などの手法によりクラッド化されたものが記載されている。また、段落【0007】によれば、金属製のキャップは、金属母材とろう材層の少なくとも2層がクラッド化されてなるものであるから、引用文献3には、金属製のキャップを金属母材とろう材層の2層がクラッド化されてなるものとすることが記載されている。 したがって、段落【0007】及び【0020】によれば、引用文献3には、ベースを気密封止する金属製のキャップであって、コバールからなる金属母材と銀ろうなどのろう材層の2層がクラッド化されたものが記載されているといえる。 ・段落【0018】によれば、ベースは、アルミナセラミックス材料からなる。また、段落【0007】によれば、金属製のキャップは、電子部品素子を収納し、上面外周端部にメタライズ層が形成されたセラミックのベースと、当該ベースのメタライズ層の上部に搭載される金属製のキャップとをろう接して気密封止してなる電子部品用パッケージにおいて用いられる。 したがって、段落【0007】及び【0018】によれば、金属製のキャップは、電子部品素子を収納し、上面外周端部にメタライズ層が形成されたアルミナセラミックのベースと、当該ベースのメタライズ層の上部に搭載される金属製のキャップとをろう接して気密封止してなる電子部品用パッケージにおいて用いられる。 上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「ベースを気密封止する金属製のキャップであって、 コバールからなる金属母材と銀ろうなどのろう材層の2層がクラッド化され、 電子部品素子を収納し、上面外周端部にメタライズ層が形成されたアルミナセラミックのベースと、当該ベースのメタライズ層の上部に搭載される金属製のキャップとをろう接して気密封止してなる電子部品用パッケージにおいて用いられる、 金属製のキャップ。」 (2)引用文献2について 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2.(2)に記載したとおりである。 4.対比 そこで、本願発明と引用発明2とを対比する。 (1)引用発明2の「電子部品素子」は、本願発明の「電子部品」に相当する。 (2)引用発明2の「ベース」は、電子部品素子を収納するから、本願発明の「電子部品を収納するための電子部品収納部材」に相当する。 (3)引用発明2の「電子部品用パッケージ」は、ベース(「電子部品を収納するための電子部品収納部材」)と金属製のキャップとでできているから、「電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収容パッケージ」に相当する。 (4)引用発明2の「金属製のキャップ」は、電子部品用パッケージにおいて用いられるものであり、ベースを気密封止するものであるから、本願発明の「電子部品収容パッケージに用いられる気密封止用蓋材」に相当する。 (5)引用発明2の「金属母材」は、本願発明の「基材層」に相当する。 (6)引用発明2において、金属製のキャップは、ベースとろう接され、また、金属母材(「基材層」)と「銀ろうなどのろう材層」とが2層でクラッド化されてなるものであることから、引用発明2の「銀ろうなどのろう材層」は、金属母材(「基材層」)のベース(「電子部品収納部材」)側の表面上に直接的に接触した状態で接合されていると認められ、引用発明2の「金属製のキャップ」は、金属母材とろう材層の2層がクラッド化されていることから、引用発明2の「金属製のキャップ」と本願発明の「気密封止用蓋材」とは、「基材層と、前記基材層の前記電子部品収納部材側の表面上に対して直接的に接触した状態で接合された銀ろう層とを備えるクラッド材により形成され」ている点で一致する。 そうすると、本願発明と引用発明2とは 「電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収容パッケージに用いられる気密封止用蓋材であって、 基材層と、 前記基材層の前記電子部品収納部材側の表面上に対して直接的に接触した状態で接合された銀ろう層とを備えるクラッド材により形成される、 気密封止用蓋材。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 基材層について、本願発明では、4質量%以上6質量%未満のCrを含有するNi-Cr-Fe合金により形成されている旨特定されているのに対し、引用発明2ではコバールにより形成されている点。 [相違点2] 30℃?500℃の温度範囲における基材層(金属母材)の平均熱膨張係数について、本願発明では、11×10^(-6)/K以下である旨特定されているのに対し、引用発明2ではそのような特定がない点。 5.当審の判断 (1)相違点1について 前記第2[理由]2.(2)に記載のとおり上記引用文献2には、電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収納用パッケージに用いられる気密封止用蓋材を、基材層と表面層とを備えるクラッド材により形成したものにおいて、基材層を42Ni-4Cr-Fe合金により構成し、Crの含有率を1質量%以上にすることにより主にCr_(2)O_(3)からなる不動態膜が基材層の表面上に確実に形成することで基材層の耐食性をより向上させ、Crの含有率を10質量%以下にすることにより基材層の熱膨張係数が大きくなるのを抑制することでセラミックスのアルミナ(Al_(2)O_(3))により構成された電子部品収納部材と気密封止用蓋材との熱膨張差が大きくなるのを抑制する技術事項が記載されている。 そして、引用発明2と引用文献2に記載された技術事項とは、電子部品を収納するための電子部品収納部材を含む電子部品収納用パッケージに用いられる気密封止用蓋材という同一の技術分野に属するものである。また、引用文献2に記載された技術事項における耐食性の向上という課題や、引用発明2におけるベースはアルミナセラミックにて形成されるものであるとともに、引用文献2に記載された電子部品収納部材もセラミックスであるアルミナ(Al_(2)O_(3))により構成されているところ、引用文献2に記載された技術事項における気密封止用蓋材の材料選択による熱膨張差抑制という課題は、引用発明2にも内在する自明な課題である。 したがって、引用発明2において、金属母材について、引用文献2に記載されている技術事項の42Ni-4Cr-Fe合金を採用することは、当業者であれば容易に想到できたことである。 (2)相違点2について 本願明細書の図7によれば、42Ni-4Cr-Feの基材層において、30℃?500℃の温度範囲における平均熱膨張係数として10.5×10^(-6)/Kが得られるところ、引用文献2に記載された技術事項における基材層も42Ni-4Cr-Feを用いている。また、前記第2[理由]2.(2)カ.に摘示した通り、引用文献2の図16には、42Ni-4Cr-Feの基材層の30℃?500℃における平均熱膨張係数こそ示されていないが、その他の組成のNi-Cr-Feの基材層における平均熱膨張係数が示され、その値は本願の図7に示された同じ組成のNi-Cr-Feにおける平均熱膨張係数と一致している。 したがって、引用文献2に記載された技術事項における42Ni-4Cr-Feの基材層の30℃?500℃における平均熱膨張係数は10.5×10^(-6)/Kになる蓋然性が高い。 そうすると、相違点2に係る構成は、引用発明2において、引用文献2に記載された技術事項を採用することで必然的に得られる構成に過ぎない。 そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本願発明は、引用発明2及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-10-17 |
結審通知日 | 2019-10-29 |
審決日 | 2019-11-11 |
出願番号 | 特願2015-15406(P2015-15406) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 豊島 洋介 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
石坂 博明 五十嵐 努 |
発明の名称 | 気密封止用蓋材および電子部品収容パッケージ |
代理人 | 宮園 博一 |