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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61C
管理番号 1358295
審判番号 不服2018-7015  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-23 
確定日 2019-12-24 
事件の表示 特願2015-533715「蛍光フィルタスペクトル補償」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月10日国際公開、WO2014/053916、平成27年12月17日国内公表、特表2015-535708〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,2013年(平成25年)9月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年10月1日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成29年7月14日付けの拒絶の理由の通知に対し,平成29年10月19日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,平成30年1月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成30年5月23日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ,同年9月10日に上申書及び手続補足書が提出されたものである。

第2 平成30年5月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年5月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
平成30年5月23日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成29年10月19日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1及び2についての以下の補正を含むものである。

ア 補正前
[請求項1]
「口腔構造体を視覚的に観察するときにユーザを支援するための装置(10)であって,
エネルギーを与えられたときに,組織による自己蛍光を誘起するように適合された第1のスペクトルによって特徴付けられる光を放出する第1の光源(24)と,
前記組織とユーザの目との間の光学経路内の第1のフィルタ(22)であって,健康な組織によって放出される光は,前記第1のフィルタ(22)を通過したときに,健康でない組織によって放出される光とより視覚的に区別することができる,第1のフィルタ(22)と,
エネルギーを与えられたときに第2のスペクトル(66)によって特徴付けられる光を放出する第2の光源(28)であって,前記第2のスペクトル(66)によって特徴付けられる光は,前記第1のフィルタ(22)を通過したときに実質的に白色のスペクトルを有する,第2の光源(28)と
を備える,装置。」

[請求項2]
「前記第1のフィルタ(22)から前記ユーザの目への前記光学経路内に,像を取り込み表示するための要素をさらに備え,前記要素は,前記取り込まれた像を前記ユーザの目に表示するように構成されている,請求項1に記載の装置。」

イ 補正後
[請求項1]
「口腔構造体を視覚的に観察するときにユーザを支援するための装置(10)であって,
エネルギーを与えられたときに,組織による自己蛍光を誘起するように適合された第1のスペクトルによって特徴付けられる青色光を放出する第1の光源(24)と,
前記組織とユーザの目との間の光学経路内の第1のフィルタ(22)であって,健康な組織によって放出される光は,前記第1のフィルタ(22)を通過したときに,健康でない組織によって放出される光とより視覚的に区別することができる,第1のフィルタ(22)と,
エネルギーを与えられたときに第2のスペクトル(66)によって特徴付けられる光を放出する第2の光源(28)であって,前記第2のスペクトル(66)によって特徴付けられる光は,前記第1のフィルタ(22)を通過したときに実質的に白色のスペクトルを有する,第2の光源(28)と
を備える,装置。」

[請求項2]
「前記第1のフィルタ(22)から前記ユーザの目への前記光学経路内に,像を取り込み表示するための要素をさらに備え,前記要素は,前記取り込まれた像を前記ユーザの目に表示するように構成されている,請求項1に記載の装置。」

2 本件補正の適否
本件補正は,補正前の請求項1及び2に係る発明を特定するために必要な事項である,組織による自己蛍光を誘起するように適合された第1のスペクトルによって特徴付けられる光に関し,「青色光」であると特定するものであるから,特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。そして,本件補正は,同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。
そこで,本件補正後の請求項2に係る発明(以下,「補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち同条第6項において準用する同法第126条第7項に規定される特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件に適合するものであるかについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は,特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,上記1 イに示す,補正後の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

(2)引用文献の記載及び引用発明
(2-1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された,本件出願の優先日前に頒布された特開2009-165831号公報(平成21年7月30日出願公開。以下,「引用文献1」という。)には,「診療審美兼用口中撮像装置」に関して,図面とともに以下の事項が記載されている。

A 「【0002】
本発明は歯牙撮像装置及び方法,とりわけ齲蝕(うしょく;虫歯)検知機能とシェードマッチング(色調整合)機能とを併有する口中撮像装置に関する。」

B 「【課題を解決するための手段】
【0010】
歯科用の撮像装置及び方法の改良なる目的を達成するため,本発明の一実施形態に係る歯牙撮像装置は,光路沿いに配置された1個又は複数個のイメージセンサと,反射光撮像に使用される1個又は複数個の広帯域照明装置と,蛍光撮像に使用される狭帯域紫外照明装置と,鏡面反射光を排除すべく光路沿いに配置された1個又は複数個の偏光素子と,狭帯域紫外光を遮断すべく光路沿いに配置されたフィルタと,反射光撮像及び蛍光撮像を併用する診療撮像モード並びに反射光撮像を使用する審美撮像モードのうちいずれかを動作モードとして選択するためのスイッチと,を備える。なお,審美撮像モードで歯牙透過光を使用してもよい。歯牙の咬合面又は舌面を照明して透過像を撮るアタッチメントを設けることや,そのアタッチメントに光導波路,光源,ビーム整形素子等を組み込むことや,そのアタッチメントの光源を近赤外光源にすることもできる。広帯域照明装置には,400?700nmのスペクトル域で発光する1個又は複数個の光源,歯牙透明度計測用の反射光像を撮るための近赤外光源,歯面肌理計測用の反射光像を撮るための青色又は紫外光源等を設けるとよい。広帯域照明装置にビーム整形素子を1個又は複数個設けてもよい。
狭帯域紫外照明装置には,375?425nmのスペクトル域で発光する1個又は複数個の狭帯域紫外光源を設けてもよいし,狭帯域紫外光源のスペクトル組成を浄化するバンドパスフィルタを設けてもよい。・・・」

C 「【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,診療撮像と審美撮像とに同一の光学系を共用するので,多様な歯科撮像を単体の撮像装置で実施可能となる。」

D 「【0017】
図1に,本発明の一実施形態に係る診療審美兼用口中撮像装置(歯牙撮像装置)150の基本構成部材を模式的なブロック図により示す。この装置150では,歯牙20の診療撮像にも審美撮像にも撮像プローブ100を用いる。制御論理プロセッサ140は,そのプローブ100から画像データを受信し処理した画像をディスプレイ142の画面上に表示させる。」

E 「【0022】
これらの照明装置12a?12dは,後に詳述する通り様々な形態で配置することができる。また,各装置12a?12dの光源21は,その装置が使用される撮像モードに適した波長で発光する。本実施形態では,一例として装置12a,12c及び12dを反射光撮像用広帯域照明装置,装置12bを蛍光撮像用狭帯域紫外照明装置として構成する。更に,偏向反射光撮像を行えるよう装置12a内光源21を400?700nmのスペクトル域で発光する広帯域可視光源とし,歯牙蛍光を励起できるよう装置12b内光源21を375?425nmのスペクトル域で発光する狭帯域紫外光源とし,歯牙透明度を計測できるよう装置12c内光源21を近赤外光源とし,歯面肌理を計測できるよう装置12d内光源21を青色又は紫外光源とする。装置12a内光源21は,例えば別々のスペクトル域で発光する複数個の光源(赤,緑及び青各色のLED等)を組み合わせ,或いは他種光源例えば模擬昼光源を用いることで,実現するとよい。歯面肌理計測用の光源21も複数個設けうる。
【0023】
[診療撮像モード]
図4及び図5に撮像プローブ100の診療撮像時形態を模式的に示す。ハンドル32と共にこのプローブ100を構成しているプローブエクステンション40は口中に差し込める形態であり,診療,審美いずれの撮像モードでも使用することができる。また,照明装置12aに発する白色光をその面前の偏光素子42aで偏向させているので,歯面を偏向白色光で均一照明し偏向反射光撮像を行うことができる。更に,照明装置12bに発する紫外光を歯牙20に照射しているので,その歯牙20の蛍光を励起することができる。装置12bと歯牙20の間にあるバンドパスフィルタ46は必須なものではないが,装置12b内光源21の出射光即ち励起光のスペクトル純度を高める(スペクトル組成を浄化する)上で有用である。
【0024】
歯牙20による反射光は,照明装置12a?12dで囲まれた中央開口を抜けた後,検光器44,1個又は複数個のレンズ66並びにスペクトルフィルタ56を通り光軸O上にあるイメージセンサ68に達する。そのうちフィルタ56はロングパスフィルタであり,狙いとする波長域内の蛍光は通過させるが装置12bに発する励起光は遮断するよう構成されている。歯牙20から得られる蛍光像は可視域内で割合に広いスペクトル分布を呈するが,装置12bに発する励起光の波長はその波長域外であり,フィルタ56で割合容易に除去することができる。また,歯牙20が発する蛍光は例えば約450?600nmのスペクトル域に属し,そのピーク波長は緑色域(おおよそ510?550nm)内に現れるで,蛍光像はセンサ68の緑色用プレーン上に形成される。得られた蛍光像データは,図1を参照して前述した制御論理プロセッサ140に送られ,処理及び表示に供される。なお,信号たる蛍光が弱い場合は検光器44を光軸O上から外して蛍光撮像を行えばよい。他の可視域内波長を用いて励起し緑色以外の蛍光を発生させてもよい。」

F 「【0025】
更に,図4及び図5に示す形態にて偏向反射光像データも得ることができる。それに使用する光学部品の多くは蛍光像データ取得用のそれと兼用である。偏向反射光像を得るには,照明装置12aに発する広帯域照明光(例えば白色可視光)を偏光板等の偏光素子42a経由で歯牙20に照射し,偏光素子42aの光透過軸と直交する向きの光透過軸を有する検光器44によって鏡面反射光を排除し,残った光をスペクトルフィルタ56経由でイメージセンサ68に送る,という手順で,センサ68上に反射光像を形成すればよい。なお,この反射光撮像にて色合いの正しい反射光像が得られるよう,フィルタ56のカットオフ波長は,装置12bに発する励起光は遮っても装置12aに発する照明光(特に青色成分)は遮らないよう設定しておく。・・・」

G 「【0030】
そして,図1に示した口中撮像装置150では,画像処理によって反射光像と蛍光像を結合させ,齲蝕部分が強調されたコントラスト強調画像を特許文献1の記載に倣って表示させる。・・・」

H 「【0052】
[口中撮像装置150の動作]
次に,口中撮像装置150を用いた歯牙透明度,歯面肌理及び歯牙色調計測並びに齲蝕検知用画像取得の手順について説明する。図14に,この装置150による診療撮像及び審美撮像の手順をフローチャートにより示す。図示の手順は歯冠修復等の際に実行されるものであり,モードスイッチ36の操作等による動作モード選択から始まっている(ステップ70)。診療撮像モードが選択された場合,論理制御プロセッサ140は,まず歯牙20を選定できるよう照明装置12a又は12b内光源21をオンさせる(ステップ72)。オペレータは撮像したい歯牙20に撮像プローブ100でアクセスし,次いでシャッタ押下等で撮像を指令する。この指令を受けたら,照明装置12a及び12b内光源21を順繰りにオンオフさせつつイメージセンサ68で偏向反射光像及び蛍光像を撮る(ステップ73)。そして,画像処理ソフトウェアによりそれらの画像を処理して解析結果データを作成する(ステップ76)。この処理に適したソフトウェアは,前掲の米国特許出願第11/623804号(譲受人:本願出願人,この参照を以てその内容を本願中に繰り入れる)の記載に基づき作成することができる。・・・
【0054】
図15に,図14の手順で得た歯牙色調,歯牙透明度等のデータに基づきシェードマッチングを実施する際制御論理プロセッサ140が実行する処理の手順を,そのフローチャートにより示す。図示の通り,ステップ82における歯牙色調,歯牙透明度及び歯面肌理の計算が済んだら,画像処理ソフトウェアによってディスプレイ142(図1参照)の画面に患者査閲用模擬歯牙画像を表示させ(ステップ84),表示されている色調計算結果に納得がいくか否か患者に対して確認を求める(ステップ86)。納得いくとの確認が得られたら,そのデータを処理担当者例えば歯科技工士やその在所に送り或いは保存する(ステップ88)。納得が得られなかった場合は,その画像処理ソフトウェアによって感歯の望みに従い模擬歯牙画像を修正し(ステップ90),患者の確認を求めるべく修正後の画像を再表示させる。」

a 摘記事項E及びHにおいて,歯牙からの光を「スペクトルフィルタ56」を通して「イメージセンサ68」で撮り,該撮った画像を「ディスプレイ142」に表示することが記載されている。そして,当該表示画像は,当然オペレータの目にも表示されると認められるので,当該「スペクトルフィルタ56」,「イメージセンサ68」及び「ディスプレイ142」は,この順で歯牙からオペレータの目にいたる経路にあると認められる。

引用文献1の摘記事項A?H,認定事項aを,図面を参照しつつ技術常識をふまえて整理すると,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「口中撮像装置であって,
オンされると,歯牙蛍光を励起できるよう375?425nmのスペクトル域の励起光を発光する装置12b内光源21と,
歯牙とオペレータの目との間の経路にあるスペクトルフィルタ56であって,歯牙から得られる蛍光は通過するが装置12bが発する励起光は遮断するスペクトルフィルタ56と,
オンされると,広帯域照明光(例えば白色可視光)を発光する装置12a内光源21であって,広帯域照明光(例えば白色可視光)は,ロングパスフィルタであるスペクトルフィルタ56を経由したときに,色合いの正しい反射光像が得られるように,特に青色成分が遮られない,装置12a内光源21と,
スペクトルフィルタ56からオペレータの目への経路内に,イメージセンサ68が撮った画像を表示するディスプレイ142とをさらに備え,イメージセンサ68及びディスプレイ142は撮った画像をオペレータの目に表示する,齲蝕検知機能を有する口中撮像装置。」

(3)対比及び判断
ア 対比
補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「オンされると」という態様は,その文言の意味,機能又は構成等からみて,補正発明の「エネルギーを与えられたときに」という態様に相当する。以下同様に,「歯牙」は「組織」に,「歯牙蛍光を励起できる」という態様は「組織による自己蛍光を誘起するように適合された」という態様に,「375?425nmのスペクトル域の励起光」は「第1のスペクトルによって特徴付けられる青色光」に,「発光する」という態様は「放出する」という態様に,それぞれ相当し,よって,引用発明の「装置12b内光源21」は補正発明の「第1の光源」に相当する。
引用発明の「オペレータの目」は補正発明の「ユーザの目」に相当し,同様に「経路」は「光学経路」に相当する。よって,引用発明の「歯牙とオペレータの目との間の経路にあるスペクトルフィルタ56であって,歯牙から得られる蛍光は通過するが装置12bが発する励起光は遮断するスペクトルフィルタ56」と補正発明の「組織とユーザの目との間の光学経路内の第1のフィルタであって,健康な組織によって放出される光は,前記第1のフィルタを通過したときに,健康でない組織によって放出される光とより視覚的に区別することができる,第1のフィルタ」とは,「組織とユーザの目との間の光学経路内のフィルタ」という概念で共通する。
さらに,引用発明の「広帯域照明光(例えば白色可視光)」は補正発明の「第2のスペクトルによって特徴付けられる光」に相当する。そして,引用発明の「広帯域照明光(例えば白色可視光)は,ロングパスフィルタであるスペクトルフィルタ56を経由したときに,色合いの正しい反射光像が得られるように,特に青色成分が遮られない」という態様と補正発明の「第2のスペクトルによって特徴付けられる光は,前記第1のフィルタを通過したときに実質的に白色のスペクトルを有する」という態様とは,「第2のスペクトルによって特徴付けられる光は,前記フィルタを通過したときに実質的に白色のスペクトルを有する」という概念で共通する。よって,引用発明の「装置12a内光源21」は補正発明の「第2の光源」に相当する。
そして,引用発明の「イメージセンサ68」及び「ディスプレイ142」は補正発明の「像を取り込み表示するための要素」に相当し,同様に「撮った画像」は「取り込まれた像」に相当する。
したがって,引用発明の「口中撮像装置」は,補正発明の「口腔構造体を視覚的に観察するときにユーザを支援するための装置」に相当する。

してみると,補正発明と引用発明とは,以下の点において一致する。
「口腔構造体を視覚的に観察するときにユーザを支援するための装置であって,
エネルギーを与えられたときに,組織による自己蛍光を誘起するように適合された第1のスペクトルによって特徴付けられる青色光を放出する第1の光源と,
前記組織とユーザの目との間の光学経路内のフィルタと,
エネルギーを与えられたときに第2のスペクトルによって特徴付けられる光を放出する第2の光源であって,前記第2のスペクトルによって特徴付けられる光は,前記フィルタを通過したときに実質的に白色のスペクトルを有する,第2の光源と
を備え,
前記フィルタから前記ユーザの目への前記光学経路内に,像を取り込み表示するための要素をさらに備え,前記要素は,前記取り込まれた像を前記ユーザの目に表示するように構成されている,装置。」

そして,補正発明と引用発明とは,以下の点において一応相違する。
[相違点]
フィルタに関し,補正発明は,健康な組織によって放出される光を,フィルタを通過したときに,健康でない組織によって放出される光とより視覚的に区別することができる「第1のフィルタ」であるのに対し,引用発明は,そのようなものであるのか不明である点。

イ 判断
上記相違点について,以下検討する。
引用発明は,上記のとおり「齲蝕検知機能を有する口中撮像装置」であり,齲蝕部分を有する歯牙に375?425nmのスペクトル域の励起光を照射し,当該励起光を遮断するスペクトルフィルタ56を介してオペレータの目で観察するものである。しかしながら,引用発明において,どのような機能,作用によって齲蝕検知が可能であるのか,引用文献1には明確には記載されていない。
これに対し,原査定の拒絶の理由に引用された,本件出願の優先日前に頒布された特開2007-151782号公報には,
「【0020】
・・・前記特許文献に記載されているように,歯石,歯垢或いはう蝕部分(病変部)がある歯牙に,波長が400±30nmの励起光を照射すると,この病変部からはオレンジ色乃至橙色の蛍光が発せられる。また,病変部以外の健全部では蛍光が発せられず,照射した励起光がそのまま反射する。
【0021】
術者Oは観察窓部1bより歯列tの状態を自らの目で直接観察するが,上記病変部からの蛍光はフィルタ3を透過するも,その他の健全部で反射した励起光はフィルタ3でカットされるので,蛍光画像は励起光に埋没されず,クローズアップされて鮮明に視認される。・・・」
と記載されている。
同じく原査定の拒絶の理由に引用された,本件出願の優先日前に頒布された特開2004-237081号公報には,
「【0070】
歯石,歯垢或いはう蝕部分(病変部)がある歯牙に,波長が400nmの励起光を照射し,430nm以上の波長の光のみを通す受光用フィルタを撮像手段の受光部に装着して撮影すると,診断画像におけるこれら病変部はオレンジ色乃至橙色に視覚される。図6に,診断用撮影器Aで撮影された歯14のプリントアウト画像を示す。励起光による照射であれば,白色光による照射ほどではないが,歯全体は観察でき,その画像内で病変部(蛍光を発する部位)がオレンジ色乃至橙色に視覚される。・・・
【0083】
・・・LED2の照射光(励起光を含む)が診断対象である歯14に照射されると,それによって歯14から発生する蛍光を受光して所定の診断画像を撮影するのであるが,健康な歯の場合とう蝕された歯の場合とでは,蛍光の波長が異なっている。即ち,図11に示すように,波長406nmの照射光の場合,健康な歯の場合には蛍光の波長増加に伴って放射線強度Iは次第に低下する傾向を示しているが,う蝕された歯の場合には,蛍光の波長に対する放射線強度Iは3箇所(636nm,673nm,700nm)にピークが出る蛍光スペクトルを呈する。また,実験によればこれ以外にもオレンジ色乃至橙色の蛍光も発することが確認されている。・・・
【0084】
そこで,それらピークの波長による蛍光像部分だけを表示すれば,う蝕されたエナメル質像の部位が特定できる。また,蛍光像をその蛍光強度に応じて表示すれば,歯全体が写っている中で,う蝕部分だけを表示可能になる。・・・
【0085】
実際には,照射手段2から波長が406nmの光(励起光)を歯牙(診断対象部)に照射するようにし,撮像手段3の受光部には波長が406nmの光を通さない(430nm以上の波長の光のみを通す)受光用フィルタ12を取り付け,撮像手段3ではう蝕されたエナメル質から発する上記蛍光による画像を撮像するようにすれば,影響の強い照射手段2からの励起光が撮像手段3に入光することがなく,極めて鮮明なう蝕に基づく蛍光画像が得られる。歯石や歯垢が付着している部位も同様にして検出することができる。」
と記載されており,さらに図11から,健康な歯とう蝕された歯との蛍光スペクトルが明確に異なっていることが看て取れる。
これらの記載等により,齲蝕部分を有する歯牙に400nm前後の励起光を照射し,当該励起光を遮断するフィルタを介して観察することで,健康な部分による反射光及び/または蛍光は,励起光を遮断するフィルタによって励起光の直接光及び反射光が遮断されることにより,齲蝕された部分による蛍光と,より視覚的に異なって検知できることは技術常識と認められる。
そして,引用発明も,上記のように,齲蝕部分を有する歯牙に375?425nmのスペクトル域の励起光を照射し,当該励起光を遮断するスペクトルフィルタ56を介してオペレータの目で観察するものであるので,上記技術常識と同様に,健康な部分による反射光及び/または蛍光(補正発明の「健康な組織によって放出される光」に相当。以下同様。)は,励起光を遮断するスペクトルフィルタ56によって励起光の直接光及び反射光が遮断されることにより(「第1のフィルタを通過したときに」に相当。),齲蝕された部分による蛍光(「健康でない組織によって放出される光」に相当。)と,より視覚的に異なって検知できる(「とより視覚的に区別することができる」に相当。)ものである。
よって,引用発明の「スペクトルフィルタ56」と補正発明の「第1のフィルタ」とは,その構成,機能,作用に差異はなく,「スペクトルフィルタ56」は「第1のフィルタ」に相当するので,上記相違点は,実質的な相違点ではない。

なお,審判請求人は,平成30年9月10日付け上申書及び手続補足書において,白色光が引用発明の「スペクトルフィルタ56」を通過した後実質的に白色のスペクトルを有していないことを,試験に基づいて主張している。しかしながら,当該試験に用いられたフィルタは,「本願の図2に示される透過スペクトル(すなわち,425nmを下回る波長範囲で透過量が大幅に減衰する透過スペクトル)を有して」いるものである。そして,本件出願の図2及び[0024]を参酌すると,この試験に用いられたフィルタは,450nm以下の波長をほとんど透過せず,また,470nm?600nmの波長で比較的低い透過率を有するものである。これに対し,引用発明の「スペクトルフィルタ56」は,375?425nmの励起光を遮断するロングパスフィルタであり,425nm近傍以上の光をほぼ均等に透過するものと認められ,「本願の図2に示される透過スペクトル」を有するフィルタとは全く異なる透過スペクトルを有するものである。
よって,異なる透過スペクトルを有するフィルタで行った試験は,根拠となり得ず,審判請求人の主張は根拠を有するものではない。

したがって,補正発明は,引用発明であるので,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。

(4)本件補正についての結び
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反している。よって,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,本件補正は却下すべきものである。
よって,上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
本件補正が上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?9に係る発明は,平成29年10月19日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項2に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記第2 1 アに示すとおりのものであると認める。

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち本願発明に対する理由は,「この出願の請求項2に係る発明は,優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない」,というものである。

第5 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項並びに引用発明は,上記第2 2(2)に示したとおりである。

第6 対比及び判断
本願発明は,補正発明から「青色」という発明特定事項を削除したものに相当する。すなわち,補正発明は,本願発明の発明特定事項の全てを含んでいる。
そうすると,補正発明が上記第2 2(3)に示したように,引用発明と差異がないものであるから,本願発明も同様に,引用発明と差異がない。

第7 結び
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-31 
結審通知日 2019-08-01 
審決日 2019-08-14 
出願番号 特願2015-533715(P2015-533715)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61C)
P 1 8・ 113- Z (A61C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増山 慎也  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 倉橋 紀夫
関谷 一夫
発明の名称 蛍光フィルタスペクトル補償  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 健策  
代理人 石川 大輔  

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