• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1358303
審判番号 不服2018-10347  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-30 
確定日 2019-12-23 
事件の表示 特願2014- 7908「通信装置、通信プログラム、通信システム、および通信方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月30日出願公開、特開2015-138996〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成26年 1月20日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年11月22日付け 拒絶理由通知書
平成30年 1月22日 意見書,手続補正書の提出
平成30年 5月11日付け 拒絶査定
平成30年 7月30日 拒絶査定不服審判の請求
令和 1年 6月24日付け 拒絶理由通知書(当審)
令和 1年 8月 9日 意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は,令和 1年8月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであると認められるところ,その請求項12に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりである。

「【請求項12】
第1通信装置と第2通信装置と第3通信装置とを含む通信システムであって、
前記第1通信装置は、
第1の通信可能距離内に存在する無線LANアクセスポイントとの間で無線通信を行う第1通信手段と、
前記第1の通信可能距離とは異なる第2の通信可能距離内に存在する前記第2通信装置との間で無線通信を行う第2通信手段と、
前記第2通信手段によって受信された前記第2通信装置から送信されたデータを、前記第1通信手段を用いて前記無線LANアクセスポイントへ送信することにより、前記第2通信装置と前記無線LANアクセスポイントとの間の通信を中継する中継手段と、を含み、
前記第2通信手段は、前記第2通信装置との間の無線通信の電波の出力を、前記第1通信手段による前記無線LANアクセスポイントとの間の無線通信の電波の出力よりも高くし、
前記第2通信装置は、
前記第2の通信可能距離内に存在する前記第1通信装置との間で無線通信を行う第3通信手段を含み、
前記第2通信装置の前記第3通信手段は、前記第1通信装置を経由して、前記無線LANアクセスポイントと通信を行い、
前記第3通信装置は、
前記第1の通信可能距離内に存在する無線LANアクセスポイントとの間で無線通信を行う第4通信手段と、
前記第2の通信可能距離内に存在する他の装置との間で無線通信を行う第5通信手段と、
前記第5通信手段によって受信された前記他の装置から送信されたデータを、前記第4通信手段を用いて前記無線LANアクセスポイントへ送信することにより、前記他の装置と前記無線LANアクセスポイントとの間の通信を中継する第2中継手段と、を備え、
前記第2通信手段は、前記第1通信手段が前記無線LANアクセスポイントに接続できない場合に、前記第3通信装置を経由して、当該第3通信装置と接続された無線LANアクセスポイントに対してデータを送信する、通信システム。」

第3 拒絶の理由

令和1年6月24日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は,

(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
というものである。

本願発明は,平成30年1月22日に手続補正された特許請求の範囲の請求項14に同請求項7の事項を加えて補正したものであるところ,サポート要件についての具体的な指摘は次のとおりである。
請求項7の通信装置は、該通信装置が第3の装置に中継を依頼しなくても無線LANアクセスポイントと通信可能である装置においても、第3の装置に対して中継を依頼する発明(発明の詳細な説明におけるクライアントモードとして動作する発明)が含まれる。
一方、発明の詳細な説明の段落【0087】-【0090】には、クライアントモードになり得る装置は、無線LANアクセスポイントに接続可能でないと判定した場合であって、マスター許可の設定がされている装置に限られ、無線LANアクセスポイントと接続可能である装置についても、クライアントモードに設定を行い、他の装置に中継を依頼する発明は、発明の詳細な説明には記載されていない。
したがって、請求項7及びこれらの請求項を引用する各請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。(サポート要件)

また,進歩性については,補正前の請求項14に対して以下の2又は3が引用されている。

2.特開2003-249937号公報
3.特開2005-341300号公報

第4 当審の判断

1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について

(1)本願発明
本願発明の第1通信装置は,第1通信手段及び第2通信手段を含むものであり,「前記第2通信手段によって受信された前記第2通信装置から送信されたデータを、前記第1通信手段を用いて前記無線LANアクセスポイントへ送信することにより、前記第2通信装置と前記無線LANアクセスポイントとの間の通信を中継する中継手段と、を含み、」,「前記第2通信装置の前記第3手段は、前記第1通信装置を経由して、前記無線LANアクセスポイントと通信を行い」との事項から,第1通信装置はマスターとして動作するものであり,そして,第2通信装置はクライアントとして動作するものである。
また,本願発明の「前記第2通信手段は、前記第1通信手段が前記無線LANアクセスポイントに接続できない場合に、前記第3通信装置を経由して、当該第3通信装置と接続された無線LANアクセスポイントに対してデータを送信する」との事項は,第1通信装置が含む第2通信手段が第3通信装置を経由して無線LANアクセスポイントに対してデータを送信するから,第1通信装置がクライアントとして動作するものである。
ここで,本願発明は,第1通信装置及び第2通信装置がクライアントとして動作するための前提条件としてマスター許可に関する事項が特定されていないため,クライアントとして動作する第2通信装置が,マスターとしても動作するマスター許可の設定がされていないことを含むものである。

(2)発明の詳細な説明
ア 本願の発明の詳細な説明の記載

本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。(下線は当審が付与。)

「【0040】
携帯端末10は、マスター又はクライアントとして動作することが可能である。図1に示すように、携帯端末10Aはマスターとして機能し、携帯端末10Bはクライアントとして機能する。
(中略)
【0062】
本実施形態では、携帯端末10をマスターとして機能させる(すなわち、クライアントに対して通信の中継機能を提供する)ことを許可するか、または、マスターとして機能させることを不許可とするかが、設定されてもよい。
【0063】
図6は、携帯端末10をマスターとして機能させるか否かを設定する場合の通信の制御について説明するための図である。例えば、携帯端末10の設定画面において、携帯端末10がマスターとなることを許可するか否かの設定が行われる。ユーザは、携帯端末10をマスターとして機能させてもよい場合(すなわち、他の機器に対して中継機能を提供してもよい場合)は、マスター許可の設定を行い、マスターとして機能させたくない場合(すなわち、他の機器に対して中継機能を提供したくない場合)は、マスター不許可の設定を行う。
【0064】
図6に示すように、携帯端末10Aにおいてマスター許可の設定がされている場合、携帯端末10Aは他の携帯端末10からのデータを無線LANアクセスポイント20に転送する。具体的には、マスター許可の設定が他の携帯端末10Bにおいて行われている場合は、当該携帯端末10Bは、携帯端末10A(マスター)に対して広域無線通信を行うための接続要求を送信可能となり、マスターは当該接続要求を受信することで、携帯端末10B(クライアント)との間の接続を確立する。そして、マスターは、接続が確立したクライアントからのデータを無線LANアクセスポイント20に転送する。
【0065】
一方、マスター許可の設定がされていない携帯端末10Cは、クライアントとなることはできない。すなわち、マスター許可の設定がされていない携帯端末10Cは、マスターに対して接続要求を送信することはできず、マスターとの間で接続を確立することはできない。
【0066】
なお、携帯端末10Cがマスターに対して接続要求を送信し、マスターが当該携帯端末10Cにおいてマスター許可の設定がなされているか否かを判定してもよい。マスターは、携帯端末10Cにおいてマスター許可の設定がされている場合のみ、携帯端末10Cとの間で広域無線通信を行う。
【0067】
携帯端末10がマスターとして機能する場合、すなわち、クライアントと無線LANアクセスポイント20との間の通信の中継機能を当該クライアントに対して提供する場合、マスターは、クライアントと無線LANアクセスポイント20との間のデータを送受信する。このため、マスターの処理負荷が増大したり、マスター自身がインターネットからデータをダウンロードしたりインターネットにデータをアップロードする際のデータ送受信の速度が低下したりする場合がある。このため、通常であれば、携帯端末10のユーザにとって、当該携帯端末10においてマスター許可の設定を行うメリットがない。しかしながら、携帯端末10においてマスター許可の設定を行った場合のみ、当該携帯端末10はクライアントとしても機能するように構成することで、携帯端末10のユーザに、マスター許可の設定を行う動機づけを与えることになる。すなわち、ユーザは、広域無線通信を利用して他人の携帯端末10を経由してインターネットに接続したいと考える場合は、自身の携帯端末10においてマスター許可の設定を行い、他の携帯端末に対して中継機能を提供する代わりに、自身も他の携帯端末により提供される中継機能を享受することができる。
(中略)
【0083】
(処理の詳細)
次に、図10?図12を参照して、携帯端末10において行われる処理の詳細について説明する。図10は、携帯端末10において行われる通信制御処理のフローチャートである。図10?図12に示す処理は、携帯端末10の各部(情報処理部11、無線LAN通信モジュール14、広域無線通信モジュール16)が通信プログラムを実行することによって、また、各部に含まれるASIC等の専用回路によって行われる。また、図10?図12に示す例では、上述のようにユーザによってマスター許可/不許可の設定が行われる場合の処理について説明する。
【0084】
図10に示すように、携帯端末10は、まず、マスター許可/不許可の設定を行う(ステップS10)。例えば、携帯端末10は、最初に起動されたときに又はユーザによって設定指示が行われたときにステップS10の処理を行う。ステップS10において、携帯端末10は、携帯端末10をマスターとして機能させることを許可するか否かの画面を表示部12に表示し、ユーザからの入力に応じて、携帯端末10の設定を行う。
【0085】
続いて、携帯端末10は、無線LANアクセスポイントを探索する(ステップS11)。具体的には、携帯端末10は、自機に設定されたSSIDと一致するSSIDを有する無線LANアクセスポイントを探索する。無線LANアクセスポイントの探索は、携帯端末10が探索パケットを送信して当該探索パケットに対する応答を受信することで行われてもよいし、無線LANアクセスポイントから定期的に送信される管理パケット(ビーコン)を携帯端末10が受信することで行なわれてもよい。携帯端末10は、探索の結果、無線LANアクセスポイントに接続可能か否かを判定し(ステップS12)、接続可能であれば(ステップS12:YES)、当該無線LANアクセスポイントとの間の接続が確立する(ステップS13)。
【0086】
具体的には、ステップS12において、携帯端末10は、探索によって見つかった無線LANアクセスポイントとの間で認証処理を行う。認証処理では、携帯端末10は、自機に記憶したキーを無線LANアクセスポイントに送信し、アクセスポイントからの結果を受信する。認証が正常に終了すると、所定の処理が行われた後で、ステップS13において携帯端末10とアクセスポイントとの間の接続が完了する。なお、携帯端末10は、自機の周辺に存在する無線LANアクセスポイントを探索してそのリストを表示し、表示されたリストの中から何れかのアクセスポイントをユーザが選択することによって、携帯端末10とアクセスポイントとの間の接続が確立されてもよい。
【0087】
一方、携帯端末10は、無線LANアクセスポイントに接続可能でないと判定した場合(ステップS12:NO)、次にステップS17の処理を行う。具体的には、携帯端末10は、第1通信可能距離内に無線LANアクセスポイントが見つからなかった場合、又は、無線LANアクセスポイントが見つかっても当該アクセスポイントに接続できない場合(認証が正常に終了しない場合)、ステップS12においてNOと判定する。
【0088】
アクセスポイントとの間の接続が確立した後、携帯端末10は、マスター許可の設定がされている否かを判定する(ステップS14)。マスター許可の設定がされている場合は(ステップS14:YES)、携帯端末10は、自機をマスターモードに設定する(ステップS15)。そして、携帯端末10は、マスター通信処理を行う(ステップS16)。マスター通信処理の詳細については後述する。マスター許可の設定がされていない場合は(ステップS14:NO)、携帯端末10は、マスターとしてもクライアントとしても動作せず、単独で無線LANアクセスポイントに接続するモード(単独通信モード)に自機を設定し、図10に示す処理を終了する。なお、単独通信モードでは、携帯端末10は、接続が完了した無線LANアクセスポイントとの間で無線LAN通信を行う。
【0089】
一方、ステップS12で無線LANアクセスポイントに接続可能でないと判定した場合(ステップS12:NO)、携帯端末10は、マスター許可の設定がされているか否かを判定する(ステップS17)。マスター許可の設定がされていない場合は(ステップS17:NO)、携帯端末10は、図10に示す処理を終了する。この場合、携帯端末10は、無線LAN通信も広域無線通信もできない状態となる。
【0090】
マスター許可の設定がされている場合(ステップS17:YES)、携帯端末10は、自機をクライアントモードに設定する(ステップS18)。そして、携帯端末10は、クライアント通信処理を行う(ステップS19)。
(中略)
【0111】
また、上記実施形態では、ユーザによって携帯端末10をマスターとして機能させるか否かが設定された。すなわち、上記実施形態では、ユーザがマスター許可の設定を行った場合に、他の任意の携帯端末に対して中継機能を提供したり、ユーザによって他の特定の携帯端末が登録された場合に、当該他の携帯端末に対して中継機能を提供した。他の実施形態では、ユーザの設定によらずに携帯端末10をマスターとして機能させるか否かが設定されてもよい。」





イ 発明の詳細な説明に発明として記載されたもの

上記(ア)の段落【0062】,【0065】,【0067】,図6によれば,マスター許可の設定がされていない携帯端末10Cは、クライアントとなることはできない。そして,段落【0088】-【0090】,図10のS17によれば,マスター許可の設定がされていない場合は,携帯端末は,マスターとしてもクライアントとしても動作しないこと,マスター許可の設定がされている場合,携帯端末は,自機をクライアントモードに設定するものである。
また,上記(1)の段落【0111】によれば,他の実施形態として,「ユーザの設定によらずに携帯端末10をマスターとして機能させるか否かが設定されてもよい。」と記載されているが,マスター許可の「設定」がされていない携帯端末がクライアントとなることとするものは記載されていない。
したがって,本願の発明の詳細な説明に発明として記載されているものは,携帯端末がクライアントとして動作する前提条件としてマスター許可の設定がされることを必要とするものと認められる。

(3)判断
段落【0004】の「自機の周囲にアクセスポイントが無い場合は外部ネットワークに接続することができない。」という課題を解決するためには,携帯端末がマスターとして機能し通信の中継を行うことが必要であるところ,段落【0067】の「携帯端末10がマスターとして機能する場合、クライアントと無線LANアクセスポイント20との間のデータを送受信するため、マスターの処理負荷が増大したり、マスター自身がインターネットからデータをダウンロードしたり、アップロードする際のデータ送受信の速度が低下したりする場合がある。このため、通常であれば、携帯端末10のユーザにとって、当該携帯端末10においてマスター許可の設定を行うメリットがない。しかしながら、携帯端末10においてマスター許可の設定を行った場合のみ、当該携帯端末10はクライアントとしても機能するように構成することで、携帯端末10のユーザに、マスター許可の設定を行う動機づけを与える」との記載からも明らかであるように,マスターとなるメリットがなければ,通信の中継機能を提供する携帯端末が存在しなくなり,本願の課題が解決できないことは明らかである。そうすると,マスターとなる動機づけを与えることは,本願の発明の課題を解決するため上で極めて重要であるから,「マスター許可」を設定することなく携帯端末をクライアントとして動作させることについて想定されていないことは明らかである。
したがって,出願時の技術常識に照らしても,本願発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。よって,本願発明は,発明の詳細な説明に記載されたものでない。

2 特許法第29条第2項(進歩性)について

(1)本願発明

本願発明は,上記「第2」で認定したとおりである。

(2)引用例の記載及び引用発明

当審拒絶理由に引用された,特開2005-341300号公報(以下,「引用例」という。)には以下の事項が記載されている。

ア 「【0002】
近年、2.4GHz帯又は5GHz帯等の高周波数帯を用いた無線LANシステムが普及し、無線ネットワークを手軽に利用することが可能になった。それに伴い、PC(パーソナルコンピュータ)又はPDA(携帯情報端末)等の情報機器においても、無線通信を行うための通信端末機能を備えるものが多くなってきた。さらに、携帯電話やPHSなどの携帯型無線通信端末を利用して、遠隔地まで通話やデータ通信などを行う機会も多くなってきている。
(中略)
【0015】
本発明によれば、通信を行っている無線通信端末が圏外になった場合に、通信を維持することが可能な無線通信システムを提供することが可能になる。例えば、基地局の整備が不完全であるが、基地局以外の携帯電話やパーソナルコンピュータ等の移動可能な無線通信機能を備える端末が存在する状況下においては、通信可能エリアの拡大が可能になり、結果として、通信を行う無線通信端末にとって圏外の状態を少なくすることができるという利点がある。
(中略)
【0021】
図10は、本実施の形態による無線通信システムを構成する基地局AP1又は移動局MN1,MN2のより具体的な構成例を示す機能ブロック図である。図10に示すように、基地局又は端末局は、アンテナ21と、アンテナ共用器22と、RF/IF受信器23と、A/D変換器24と、復調器25と、バス制御部27(例えばPCと関連付け可能になっている)、変調器28と、D/A変換器29と、RF/IF送信器30と、システム制御部31とを有している。システム制御部31は、データベース部(記憶部)31aと、報知部31bと、を有している。尚、基地局AP1と端末局MN1、MN2とのブロック構成は、ほぼ同じ構成を有している。但し、基地局AP1と端末局MN1、2との送受信に関する機能の違いにより、システム制御部31の一部の機能が異なっている。また、報知部31bとデータベース部(記憶部)31aにデータを保存する機能を有していても良い。
【0022】
次に、本実施の形態による無線通信システムの動作について適宜図3も参照しつつ説明を行う。図1(a)は、基地局AP1を介して無線通信端末MN1、無線通信端末MN2が、基地局AP1の通信範囲50内において通信を行っている状況を示す図である。通常の通信状態では、基地局AP1と無線通信端末MN1とが電波強度(RSSI)が良好な状態で通信を行っていると仮定する。図1(b)は、無線通信端末MN1が基地局AP1の通信範囲50外に出かかっている様子を示す図である。図1(b)に示す状態では、無線通信端末MN1に設けられているRF回路は、測定している基地局AP1からの受信電波強度RSSIの値が弱くなっていくため、基地局AP1から通信圏外に移動しようとしていることを知ることができる(例えば、図10の受信器23による受信信号に基づいて判断する)。受信電波強度RSSIの値が弱くなってゆく旨の情報を上位のMAC7及びFirmware6に通知することにより、無線通信端末MN1は、ハンドオーバーの動作に入る。この状況で、周囲に通信が可能な別の基地局を見つけハンドオーバーするが、別の基地局が全く存在しなかい場合には、通信切断を余儀なくされていたが、本実施の形態による無線通信システムでは、図1(c)に示すように、今まで、自端末MN1が通信していた無線端末MN2であって基地局AP1の通信エリア50内にいる無線通信端末MN2に対して、基地局AP1に対するデータの転送(中継)を行って自端末MN1の救済を行ってくれるように依頼する救援信号を発信する。この際、自己の条件を合わせて送っても良い。救済信号は、例えば全方位に向けて発信される報知メッセージであっても良く、この救済信号を無線通信端末MN2が受信すると、無線通信端末MN2は、1対1通信機構を利用して、自端末MN2が無線通信端末MN1と基地局AP1との間のいわゆる中継局になることが可能であれば、その旨の応答メッセージを無線通信端末MN1に対して返す。
【0023】
無線通信端末MN1は、全方位から返信されるこの応答メッセージを自己のデータベースなどの記憶部(図10の31a)に保存し、その中で自己の条件に合う端末(図1(c)では、通信端末MN2)と通信のコネクションを結ぶ。その後、図1(d)に示すように、中継局として機能している無線通信端末MN2を介して無線通信端末MN1が基地局AP1を介して他の端末などとの間でデータ通信を継続できる。
【0024】
以下において、上記の無線通信システムにおける各端末の動きを端末毎に説明する。端末としては、「受信端末」である無線通信端末MN1と、「中継局」として機能することができる無線通信端末MN2と、を含む。加えて、以下においてはユーザーデータを流すためのデータパケットの構成に関しても説明する。
【0025】
まず、移動局の動作について説明する。無線通信端末MN1のハンドオーバーの動作について、図5を参照しつつ説明を行う。適宜、図1、図10及び図2を参照する。図5は、本実施の形態による無線通信システムにおいて、無線通信端末MN1を主体としたハンドオーバー動作の処理の流れを示すフローチャート図である。
【0026】
図5に示すように、無線通信端末MN1は、最初はステップS1に示すように通常の通信状態にある。この状態から、無線通信端末MN1が移動するなどして基地局AP1との間における電波強度RSSIの値が小さくなった旨を検出する(図10の受信器23に基づく)と(ステップS2)、より確かな通信を行うために、まず、無線通信端末MN1の周囲の基地局が発する報知メッセージの受信(ステップS3)を試みる(図10の報知部31b)。この報知メッセージを受信できた場合、周囲にハンドオーバー可能な基地局が存在すると判断し通常のハンドオーバー処理を開始する(ステップS4)。
【0027】
ステップS3において、報知メッセージを受信できなかった場合には、周囲の端末に向かって、端末が保有している中継局機能の発動を促す報知メッセージ(発動要請メッセージ)を送信する(S5)。図1(c)は、中継局機能の発動を促す報知メッセージを送信する様子を記載したものである。
【0028】
報知メッセージを送信した後に、無線通信端末MN1は応答メッセージの返答を特定の時間だけ待つ(ステップS7)。その後、ステップS7に戻ることにより、この待ち時間内に返信されてきたメッセージを、全て無線通信端末MN1内のデータベース(記憶部)31a(図10)に蓄えることができる(ステップS6)。データには、応答する端末における、基地局との電波強度と、基地局のIDと、送信能力と、受信能力と、MACアドレスと、を表す情報が含まれる。MACアドレスの情報を利用することにより、中継局となる端末が不正に盗聴しようとしている端末か否かの判断を下すことができる。
【0029】
次に、タイムアウトになった場合には、ステップS8に進み、データベース31a(図10)内に何らかのデータが存在するか否かの判定を行う。データが存在しない場合には、中継局も存在しないと判断されるため、ステップS9に進み通信切断処理を行う。ステップS8でデータが存在する場合には、ステップS10に進み、データベース31a(図10)に格納されたデータの中から無線通信端末MN1が、自分の中継局として機能してくれる端末を選定する(S10)。この際、選定基準として、例えば、「電波強度RSSI」と「空き帯域」値とから、中継局として適した端末を選択する。例えば、上位3つの中継局候補の端末を選択する。中継局候補の中から実際の中継局を選定をした後に、無線通信端末MN1は自分の中継局として機能してくれる端末に中継局決定通知を送信する(ステップS11)。このメッセージのパラメタとして、基地局の識別子、コネクションを結んでいたサービス識別子、端末識別子ID、IPアドレス、ネットマスクの情報を付帯して渡すのが好ましい。ステップS12において、決定メッセージに対する返答を待ち、返答が無いままタイムアウトした場合(選定した端末がアソシエーションを拒んだ場合など)には、ステップS13に進み、中継局候補中の他の端末があるか否かを判定し、存在する場合にはステップS12に戻る。存在しない場合には、ステップS15に進み、通信切断処理を行う。決定メッセージに対する応答があった場合には、ステップS14に進み、利用する周波数帯域を決定する。この際、今まで使用していた周波数帯域(又はチャネル)とはかち合わないように選定を行う。
【0030】
ステップS11で渡されるメッセージのパラメタは、基地局の識別子、コネクションを結んでいたサービス識別子、端末識別子IDの情報であり、中継局と成る端末が基地局AP1との通信において無線通信端末MN1に成り代わり、無線通信端末MN2がアソシエーションするために必要なパラメタである。IPアドレス、ネットマスクの情報はIP層のコネクションである、ユニキャストやブロードキャストの情報を正しく受信する際に必要となる。これらの情報を得ることで、中継局となる端末は基地局とアソシエーション手順を踏まずに無線通信端末MN1に成り代わりデータの送受信を行うことが可能となる。ステップS16において、IPアドレス、ネットマスクの一時変更を行う。パラメタを決定した後に、1対1の端末間通信を行うためにアソシエーションを選定した端末と行う(ステップS17)。アソシエーションを行った状態において、中継局と成った無線通信端末MN2からデータを受信することにより無線通信端末MN1は継続して無線通信を行うことができる(ステップS18)。図1(d)は、無線通信端末MN1が無線通信端末MN2を中継局として機能させ、基地局AP1からデータを受信している様子を記載したものである。この際、基地局AP1と中継局MN2との間はA Hzの周波数で、中継局MN2と端末局MN1との間は、Aとは異なるB Hzの周波数で通信を行う。以上のような処理により、中継局を介して端末局と基地局との通信を継続することができる。
(中略)
【0032】
図6は、無線通信端末MN2が無線通信端末MN1の中継局として機能するための処理の流れを示すフローチャート図である。図6に示すように、無線通信端末MN2は、定常待機状態にある(ステップT1)。定常待機状態とは通信をしていない状態であるが基地局AP1からの電波の受信を行っている状態を示す。また、この状態において、無線通信端末MN2は、基地局AP1と通信状態にあっても良い。但し、並行して中継局として機能するだけに十分な通信能力を有していることが条件となる。
(中略)
【0034】
また、この際、中継局として機能する機器に、ネットワーク・インターフェースが2つ以上備わっているか否かを無線通信端末MN2が判断する(ステップT4)。2つ以上備わっていない場合には、ステップT1に戻る。2つ以上備わっている場合には、2つのインターフェースのうちのいずれを基地局とし、いずれを中継局として使用するかに関する判定を行う(ステップT5)。
(中略)
【0048】
本発明は、無線LANなどの他、携帯電話などの通信ネットワークに適用することができる。」

上記記載及び当業者の技術常識を考慮すると,引用例には,次の技術的事項が記載されているといえる。

(ア)上記段落【0021】の記載によれば,基地局AP1,移動局MN1,MN2は無線通信システムを構成するものであり,段落【0048】によれば,該通信システムは無線LANなどの通信ネットワークに適用することを前提としているから,基地局AP1が無線LANの基地局APであることを含むといえる。そうすると,引用例には「無線通信端末MN1と無線通信端末MN2と無線LANの基地局APを含む通信システム」が記載されているといえる。

(イ)上記段落【0023】,【0026】-【0030】によれば,無線通信端末MN1が、基地局が発する報知メッセージを受信できなかった場合に、中継局の発動を促す報知メッセージを周囲の端末に向かって送信し,応答メッセージをデータベースに蓄え,データベースに格納されたデータの中から無線通信端末MN1が自分の中継局として機能する端末を選択し、選択した無線通信端末MN2を介して基地局AP1を介して他の端末などとの間でデータ通信を行うものである。この際、中継局MN2と端末局MN1との間は、Aとは異なるB Hzの周波数で通信を行うのであるから、無線通信端末MN1が無線通信端末MN2との間でB Hzの周波数で通信を行う通信手段を有することは自明である。そして,無線通信端末MN1が無線LANの基地局AP1が発する報知メッセージの受信を試みていることは明らかであるから,無線通信端末MN1が基地局AP1とA Hzの周波数で通信する通信手段を有することも自明である。
そうすると,引用例には「無線通信端末MN1は,無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段と,無線通信端末MN2との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段,を含み」,「無線他通信端末MN1の「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」が無線LANの基地局APが発する報知メッセージを受信できなかった場合に,「前記無線通信端末MN1との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」は,中継局として機能する無線通信端末MN2を介して,無線LANの基地局APに対してデータを送信する」ことが記載されているといえる。

(ウ)上記段落【0023】の記載によれば,中継局として機能している無線通信端末MN2を介して無線通信端末MN1が基地局AP1を介して他の端末などとの間でデータ通信を行うものであるから、無線通信端末MN2は「無線通信端末MN1からデータを受信し,受信したデータを基地局AP1へ送信する中継手段」を有することは自明である。また上記段落【0030】の記載によれば,基地局AP1と中継局MN2との間はA Hzの周波数で、中継局MN2と端末局MN1との間はAとは異なるB Hzの周波数で通信を行うから,中継局として機能する無線通信端末MN2が、基地局AP1と無線通信端末MN2との間の通信手段と,無線通信端末MN2と端末局である無線通信端末MN1との間の通信手段を有することは自明である。
そうすると,引用例には「無線通信端末MN2は,無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段と,無線通信端末MN1との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段と,無線通信端末MN1からデータを受信し,受信したデータを無線LANの基地局APへ送信する中継手段」を含むことが記載されているといえる。

したがって,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「 無線通信端末MN1と無線通信端末MN2と無線LANの基地局APを含む通信システムであって,
前記無線通信端末MN1は,
前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段と,
前記無線通信端末MN2との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段,を含み,
前記無線通信端末MN2は,
前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段と,
前記無線通信端末MN1との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段と,
前記無線通信端末MN1からデータを受信し,受信したデータを前記無線LANの基地局APへ送信する中継手段と,を含み,
前記無線他通信端末MN1の前記「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」が前記無線LANの基地局APが発する報知メッセージを受信できなかった場合に,「前記無線通信端末MN1との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」は,前記中継局として機能する無線通信端末MN2を介して,前記無線LANの基地局APに対してデータを送信する,
通信システム。」

(3)引用発明との対比・判断

ア 引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)本願発明の「無線LANアクセスポイント」と引用発明の「無線LANの基地局AP」とは表現が異なるのみであって差違はない。
そして、引用発明は、「前記無線他通信端末MN1の前記「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」が前記無線LANの基地局APが発する報知メッセージを受信できなかった場合に,「前記無線通信端末MN1との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」は,前記中継局として機能する無線通信端末MN2を介して,前記無線LANの基地局APに対してデータを送信する」から、引用発明の「無線通信端末MN1」は他の通信装置に中継して貰う点で本願発明の「第1通信装置」に対応し、引用発明の「無線通信端末MN2」は他の通信装置の通信を中継する点で本願発明の「第3通信装置」に対応する。

(イ)引用発明の「無線通信端末MN1」が含む「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」を、「第1通信手段」と称することは任意である。また、当該通信手段が通信を行う基地局APが、当該通信手段の通信可能距離内に存在することは自明である。したがって、引用発明の「無線通信端末MN1」が含む「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」は、「その通信可能距離内に存在する無線LANアクセスポイントとの間で無線通信を行う第1通信手段」といえる点で、本願発明の「第1通信手段」と共通する。
引用発明の「無線通信端末MN1」が含む「前記無線通信端末MN2との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」を「第2通信手段」と称することは任意である。また、当該通信手段が通信を行う無線通信端末MN2が、当該通信手段の通信可能距離内に存在することは自明である。したがって、引用発明の「無線通信端末MN1」が含む「前記無線通信端末MN2との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」は、「その通信可能距離内に存在する通信装置との間で無線通信を行う第2通信手段」といえる点で、本願発明の「第2通信手段」と共通する。

(ウ)引用発明の「無線通信端末MN2」が含む「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」を、「第4通信手段」と称することは任意である。また、当該通信手段が通信を行う基地局APが、当該通信手段の通信可能距離内に存在することは自明である。したがって、引用発明の「無線通信端末MN2」が含む「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」は、「その通信可能距離内に存在する無線LANアクセスポイントとの間で無線通信を行う第4通信手段」といえる点で、本願発明の「第4通信手段」と共通する。
引用発明の「無線通信端末MN2」が含む「前記無線通信端末MN1との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」を、「第5通信手段」と称することは任意である。また、当該通信手段が通信を行う無線通信端末MN1が、当該通信手段の通信可能距離内に存在することは自明である。したがって、引用発明の「無線通信端末MN2」が含む「前記無線通信端末MN1との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」は、「その通信可能距離内に存在する他の装置との間で無線通信を行う第5通信手段」といえる点で、本願発明の「第5通信手段」と共通する。
引用発明の「無線通信端末MN2」が含む「前記無線通信端末MN1からデータを受信し,受信したデータを前記無線LANの基地局APへ送信する中継手段」は、「無線通信端末MN2」が含む「前記無線通信端末MN1との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」によって受信された無線通信端末MN1から送信されたデータを「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」を用いて無線LANの基地局APへ送信することにより、無線通信端末MN1と無線LANの基地局APとの間に通信を中継することは自明である。したがって、当該中継手段は,本願発明の「前記第5通信手段によって受信された前記他の装置から送信されたデータを、前記第4通信手段を用いて前記無線LANアクセスポイントへ送信することにより、前記他の装置と前記無線LANアクセスポイントとの間の通信を中継する第2中継手段」に相当する。

(エ)本願発明の「前記第2通信手段は、前記第1通信手段が前記無線LANアクセスポイントに接続できない場合に、前記第3通信装置を経由して、当該第3通信装置と接続された無線LANアクセスポイントに対してデータを送信する」と、引用発明の「前記無線他通信端末MN1の前記「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」が前記無線LANの基地局APが発する報知メッセージを受信できなかった場合に,「前記無線通信端末MN1との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」は,前記中継局として機能する無線通信端末MN2を介して,前記無線LANの基地局APに対してデータを送信する」とは、「前記第2通信手段は、前記第1通信手段と前記無線LANアクセスポイントとの間の通信に支障がある場合、前記第3通信装置を経由して、当該第3通信装置と接続された無線LANアクセスポイントに対してデータを送信する」といえる点で共通する。

(オ)本願発明と引用発明とは、少なくとも「第1通信装置と第3通信装置とを含む通信システム」といえる点で共通する。

そうすると,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(一致点)
「第1通信装置と第3通信装置とを含む通信システムであって,
前記第1通信装置は,
その通信可能距離内に存在する無線LANアクセスポイントとの間で無線通信を行う第1通信手段と,
その通信可能距離内に存在する第2通信装置との間で無線通信を行う第2通信手段と,を含み,
前記第3通信装置は,
その通信可能距離内に存在する無線LANアクセスポイントとの間で無線通信を行う第4通信手段と,
その通信可能距離内に存在する他の装置との間で無線通信を行う第5通信手段と,前記第5通信手段によって受信された前記他の装置から送信されたデータを,前記第4通信手段を用いて前記無線LANアクセスポイントへ送信することにより,前記他の装置と前記無線LANアクセスポイントとの間の通信を中継する第2中継手段と,を備え,
前記第2通信手段は、前記第1通信手段と前記無線LANアクセスポイントとの間の通信に支障がある場合、前記第3通信装置を経由して、当該第3通信装置と接続された無線LANアクセスポイントに対してデータを送信する,
通信システム。」

(相違点1)
第1、2、4、5通信手段に関して、本願発明は、その通信可能距離がそれぞれ「第1の通信可能距離」、「前記第1の通信可能距離とは異なる第2の通信可能距離」、「前記第1の通信可能距離」、「前記第2の通信可能距離」であり、また、「前記第2通信手段は、前記第2通信装置との間の無線通信の電波の出力を、前記第1通信手段による前記無線LANアクセスポイントとの間の無線通信の電波の出力よりも高くし」なる発明特定事項を有しているのに対し、引用発明は通信可能距離及び無線通信の電波の出力に関する特定がされていない点。

(相違点2)
本願発明の「第2通信手段」は「前記第1通信手段が前記無線LANアクセスポイントに接続できない場合」に、「前記第3通信装置を経由して、当該第3通信装置と接続された無線LANアクセスポイントに対してデータを送信する」のに対し,引用発明の「前記無線通信端末MN1との間でB Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」は「「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」が前記無線LANの基地局APが発する報知メッセージを受信できなかった場合」に,「前記中継局として機能する無線通信端末MN2を介して,前記無線LANの基地局APに対してデータを送信する」ものであって,「接続できない場合」ではない点。

(相違点3)
本願発明の「第1通信装置」は「前記第2通信手段によって受信された前記第2通信装置から送信されたデータを、前記第1通信手段を用いて前記無線LANアクセスポイントへ送信することにより、前記第2通信装置と前記無線LANアクセスポイントとの間の通信を中継する中継手段」を含み、これに伴い、本願発明は「前記第2通信装置は、前記第2の通信可能距離内に存在する前記第1通信装置との間で無線通信を行う第3通信手段を含み、前記第2通信装置の前記第3通信手段は、前記第1通信装置を経由して、前記無線LANアクセスポイントと通信を行い」との発明特定事項を有するに対し,引用発明の「無線通信端末MN1」は中継手段を含むことが特定されておらず、「無線通信端末MN1」により中継される無線通信端末も明らかにされていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

(相違点1について)
各通信手段の通信可能距離及び無線通信の電波の出力の大きさをどの程度とするかは設計上の選択事項にすぎない。そして,通信可能距離が,採用する周波数及び電波出力によって変化することは技術常識である。
してみれば,相違点1には特段の技術的特徴は見出せず,当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)
引用発明の「前記無線LANの基地局APとの間でA Hzの周波数で無線通信を行う通信手段」が前記無線LANの基地局APが発する報知メッセージを受信できなかった場合とは、無線LANアクセスポイントと接続を行うための前提となる情報が受信できていないことに他ならず、当該前提情報が受信できない場合、無線LANアクセスポイントに対する接続ができないことは当業者において自明である。
してみれば、相違点2における条件を「報知メッセージが受信できなかった場合」から「接続ができなかった場合」とすることは当業者が適宜なし得ることである。

(相違点3について)
引用発明の「通信システム」において無線通信端末が複数存在し得ることは明らかであり,「無線通信端末MN2」が移動し「無線LANの基地局AP」が発する報知メッセージを受信できなくなる場合があり得ることも自明である。そして,引用発明の「無線システム」は,「通信を行っている無線通信端末が圏外になった場合に、通信を維持することが可能な無線通信システムを提供すること」を目的とするものである(上記2 (2) ア 段落【0015】参照)から、他の無線通信端末を中継する中継機能を有する「無線通信端末MN2」自身が「無線LANの基地局AP」の圏外になった場合,通信を維持するために「無線通信端末MN1」と同様に、中継局として機能し得る他の「無線通信端末MN2」によりデータを送信するように構成することは,当業者が容易になし得ることである。
したがって、相違点3は,当業者が容易になし得ることである。

そして,本願発明が奏する効果も,当業者が引用発明から容易に予想できる範囲内のものである。

なお,請求人は,令和1年8月9日に提出された意見書において,「今回の補正では、旧請求項7を請求項1に加える補正を行いました。旧請求項7は、新規性又は進歩性の拒絶理由は示されていません。引用文献2及び3の何れにも、請求項1の各構成を備える通信装置は記載されていません。したがいまして、請求項1に係る発明は、引用文献2又は3に記載の発明と同一ではなく、引用文献2又は3に基づいて当業者が本願出願時に容易に発明をすることができたものでもありません。請求項1と同様の特徴を有する請求項12、15、16に係る発明も同様です。」と主張している。
しかしながら,旧請求項7については,令和1年6月24日付け拒絶理由通知(当審)の理由2において,発明が明確でない旨を通知しており,当審拒絶理由の段階では旧請求項7について発明を特定することができないため特許法第29条第2項の判断を示していないものであり,進歩性を肯定したものではない。そして,旧請求項7を補正によって明確にした発明特定事項を含む請求項12は、上記のとおり,引用例に基づき当業者が容易になし得るものである。
このため,請求人の主張は採用できない。

したがって,本願発明は,引用例に記載された発明に基づき,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,拒絶すべきものである。
また,本願発明は,引用例に記載された発明に基づき,当業者が容易に想到できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-28 
結審通知日 2019-10-29 
審決日 2019-11-12 
出願番号 特願2014-7908(P2014-7908)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H04W)
P 1 8・ 121- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田部井 和彦  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 本郷 彰
井上 弘亘
発明の名称 通信装置、通信プログラム、通信システム、および通信方法  
代理人 石原 盛規  
代理人 小沢 昌弘  
代理人 寺本 亮  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ