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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01P
管理番号 1358305
審判番号 不服2018-12435  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-18 
確定日 2019-12-25 
事件の表示 特願2016-559162「調整可能な位相反転結合ループ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 1日国際公開、WO2015/144063、平成29年 6月 8日国内公表、特表2017-515347〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年(2015年)3月26日(パリ条約による優先権主張2014年3月26日、米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年10月31日付けで拒絶理由が通知され、平成30年5月2日に意見書の提出とともに手続補正がされたが、同年5月11日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成30年5月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
第1の空洞共振器内の第1の磁場方向と実質的に直交する面内に第1の領域を画成する第1の部分と、
第2の空洞共振器内の第2の磁場方向に実質的に直交する面内に第2の領域を画成する第2の部分と、
を有し、
その結果、前記第1の部分で生成された誘導電流が前記第2の部分の電流と実質的に同じ方向に流れる導体を備え、
前記第1の領域および前記第2の領域が、前記第1の空洞共振器および前記第2の空洞共振器内の電磁場間の結合定数を決定し、
前記導体は、軸周りで回転自在に調整可能であり、
前記第1の空洞共振器及び前記第2の空洞共振器は、TE-101モード共振器として動作する、
装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶理由の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、引用文献2及び引用文献5に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2000-77909号公報
引用文献2:特開昭55-134502号公報
引用文献5:小西良弘 著、「マイクロ波回路の基礎とその応用」(総合電子出版社、1992年2月1日発行、第2版)の第164-167頁

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載及び引用発明
原査定の拒絶理由で引用された特開2000-77909号公報(引用文献1)には、以下の事項が記載されている。
(1)従来の技術として以下の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】図33は、矩形導波管におけるTE10モードの電磁界を説明するための断面図であり、同図において、実線は電界(E)を、破線は磁界(H)を表している。矩形導波管1の高さがb、横幅がaであるとき、矩形導波管1の遮断波長(λc)は、下記(1)式のように表される。
【0003】
【数1】
λc=2a ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
図34は、矩形導波管共振器の共振長(L)を説明するための図であり、同図において、1は矩形導波管、12は誘導性絞り(結合アイリス)である。図34に示すように、管内波長をλgとする時、矩形導波管共振器10の共振長(L)は、共振周波数、通過帯域幅、通過帯域の特性等により定まる結合アイリスのサセプタンス等により、L≒λg/2(一般的には、0.95λg/2付近)とされる。」

イ 図33

ウ 図34

(2)実施の形態1として、以下の事項が記載されている。
ア 「【0013】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】なお、実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】[実施の形態1]図1は、本発明の実施の形態1の群遅延時間補償型の矩形導波管共振器型帯域通過フィルタの正面を示す正面図である。また、図2は、図1に示すA-A’切断線で切断した断面を示す要部断面図、図3は、図1に示すB-B’切断線で切断した断面を示す要部断面図である。図1、図2、図3において、1は矩形導波管、3は入力(または出力)端子、4は出力(または入力)端子、5a?5dは周波数調整ネジ、8は入力(または出力)結合ループ、9は出力(または入力)結合ループ、10a?10hは矩形導波管共振器、12a?12gは誘導性絞り、21a,21bは矩形導波管1に形成された容量性結合窓、22aは矩形導波管1に形成された誘導性結合窓である。本実施の形態の群遅延時間補償型の矩形導波管共振器型帯域通過フィルタ(以下、単にBPFと称する。)は、1番目から4番目までの矩形導波管共振器(10a?10d)と、5番目から8番目までの矩形導波管共振器(10e?10h)とを、矩形導波管1内の磁界方向に重ね合わせてコの字状に配置する。また、1番目ないし8番目の矩形導波管共振器(10a?10d)を縦続接続し、各矩形導波管共振器(10a?10h)間を、誘導性絞り(12a?12g)による磁気結合回路で主結合する。また、3番目の矩形導波管共振器(10c)と6番目の矩形導波管共振器(10f)との間を容量性結合窓(21a)による容量結合回路で副結合し、2番目の矩形導波管共振器(10b)と7番目の矩形導波管共振器(10g)との間を容量性結合窓(21b)による容量結合回路で副結合する。さらに、1番目の矩形導波管共振器(10a)と8番目の矩形導波管共振器(10h)との間を、誘導性結合窓(22a)による磁気結合回路で副結合する。なお、誘導性絞り、誘導性結合窓、および後述するU字状のループ素子は、本発明の誘導性結合素子を構成し、容量性結合窓、並びに後述する容量結合板および結合プローブは、本発明の容量性結合素子を構成する。」

イ 「【0018】一方、通過域においては、共振回路(RS2)→磁気結合回路(M_(23))→共振回路(RS3)→磁気結合回路(M_(34))→共振回路(RS4)→磁気結合回路(M_(45))→共振回路(RS5)→磁気結合回路(M_(56))→共振回路(RS6)→磁気結合回路(M_(67))→共振回路(RS7)からなる経路で共振回路(RS7)に生じる電磁界と、共振回路(RS2)→容量結合回路(C_(27))→共振回路(RS7)からなる経路で共振回路(RS7)に生じる電磁界とは、中心周波数の近辺においては、互いに打ち消し合い、通過域のバンドエッジ付近では互いに加わり合う傾向を示し、通過域内の振幅特性の偏差が小さくなる。また、同様に、通過帯域内の群遅延時間(τ)の群遅延時間の偏差も小さくなる。即ち、本実施の形態のBPFは、図6に示すように、その減衰(振幅)特性において、減衰極は二対に限定されるが、図7に示すように、通過帯域内の振幅偏差を小さく、同時に、図8に示すように、通過帯域内の群遅延時間偏差を小さくすることが可能となる。
【0019】この場合に、群遅延時間の補償量は容量結合回路(C_(27))の値により調整可能であり、容量結合回路(C_(27))による群遅延時間の補償量が最適の大きさより小さいと、補償量が少なくなべ底形に近い群遅延時間特性となる。この状態の群遅延時間特性を図9に示す。容量結合回路(C_(27))による群遅延時間の補償量が最適の大きさのときには、群遅延時間特性の平坦部が一番広くなる。この状態の群遅延時間特性を図10に示す。容量結合回路(C_(27))による群遅延時間の補償量が最適の大きさより大きいと、補償量が過補償となる。図8に示すグラフが、この状態の群遅延時間特性を示している。群遅延時間補償型のBPFの通過帯域内において、ある程度の許容リップル的な群遅延時間特性を許容することが可能であれば、過補償形のBPFが最も群遅延時間特性は広くなる。このように、本実施の形態の群遅延時間補償型のBPFによれば、通過帯域内の振幅偏差を小さく、通過帯域内の群遅延時間偏差を小さくすることが可能となる。」

ウ 図1

エ 図2

オ 図3

(3)実施の形態3として以下の事項が記載されている。
ア 「【0024】[実施の形態3]図15、図16、図17は、本発明の実施の形態3の群遅延時間補償型のBPFの概略構成を示す断面図である。なお、図15は、前記図2と同一箇所の要部断面図、図16は、前記図3と同一箇所の要部断面図、図17は、前記図14と同一箇所の要部断面図である。本実施の形態の群遅延時間補償型のBPFは、矩形導波管共振器(10c)と矩形導波管共振器(10f)との間、および矩形導波管共振器(10b)と矩形導波管共振器(10g)との間の副結合回路として、容量性結合窓(21a,21b)に代えて、S字状のループ素子(16a,16b)を使用し、また、矩形導波管共振器(10a)と矩形導波管共振器(10h)との間の副結合回路として、誘導性結合窓(22a)に代えて、U字状のループ素子(6a)を使用した点で、前記実施の形態1の群遅延時間補償型のBPFと相違する。図18は、本実施の形態の群遅延時間補償型のBPFの等価回路を示す回路図であり、図19は、図18に示す等価回路の変換等価回路図である。図18、図19において、磁気結合回路(M_(36))は、第1のS字状のループ素子(16a)による磁気結合回路、磁気結合回路(M_(27))は、第2のS字状のループ素子(16b)による磁気結合回路、磁気結合回路(M_(18))は、U字状のループ素子(6a)による磁気結合回路路であり、それ以外の符号は、前記図4、図5と同じである。共振回路(RS3)と共振回路(RS6)とがS字状のループ素子(16a)で副結合されている場合に、共振回路(RS3)→磁気結合回路(M_(36))→共振回路(RS6)からなる経路で共振回路(RS7)に誘起される電圧の位相は、共振回路(RS3)と共振回路(RS6)とが、例えば、図12に示す容量結合板(7a)で副結合されている場合に、共振回路(RS3)→容量結合回路(C_(36))→共振回路(RS6)からなる経路で共振回路(RS6)に誘起される電圧の位相と同一となる。即ち、副結合回路として使用されるS字状のループ素子は、副結合回路として使用される容量性結合素子と等価になる。したがって、本実施の形態の群遅延時間補償型のBPFにおいても、通過帯域内の振幅偏差を小さく、通過帯域内の群遅延時間偏差を小さくすることが可能となる。なお、本発明では、このS字状のループ素子(16a,16b)とは、図17に示すように、矩形導波管1の上下(あるいは左右)異なる位置で、ループ素子の両端が矩形導波管1に電気的、機械的に接続される構造のループ素子を意味する。一般に、矩形導波管共振器型帯域通過フィルタは大電力を印加することができるので、前記実施の形態1、実施の形態2および本実施の形態の矩形導波管共振器型帯域通過フィルタは、デジタルテレビにおける出力フィルタ、あるいは電力合成器(アンテナ共用器)の反射素子として最適である。」

イ 図15

ウ 図16

エ 図17

引用文献1には、実施の形態3に記載された「矩形導波管共振型帯域通過フィルタ」(以下「BPF」ともいう。)について、以下の事項が記載されていると認められる。ここで、段落【0014】に「実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。」と記載されているから、実施の形態3のうち実施の形態1と同一符号のものは、実施の形態1についての説明を適宜参照する。
a BPFの矩形導波管1は、1番目から4番目までの矩形導波管共振器(10a?10d)と、5番目から8番目までの矩形導波管共振器(10e?10h)とを、矩形導波管1内の磁界方向に重ね合わせてコの字状に配置したものであり、1番目ないし8番目の矩形導波管共振器(10a?10h)を縦続接続し、各矩形導波管共振器(10a?10h)間を、誘導性絞り(12a?12g)による磁気結合回路で主結合(段落【0015】)したものであり、
さらに、3番目の矩形導波管共振器(10c)と6番目の矩形導波管共振器(10f)との間、及び、2番目の矩形導波管共振器(10b)と7番目の矩形導波管共振器(10g)との間の副結合回路として、S字状のループ素子(16a、16b)を使用し、また、矩形導波管共振器(10a)と矩形導波管共振器(10h)との間の副結合回路として、U字状のループ素子(6a)を使用し(段落【0024】)、前記副結合回路として使用されるS字状のループ素子は、副結合回路として使用される容量性結合素子と等価(同【0024】)である。
b また、段落【0002】、【0003】、図33及び図34の従来の技術の記載から、各矩形導波管共振器はTEモードの共振器であると推認できる。そして、図16は、実施の形態1の図3と同一箇所の要部断面図であり(段落【0024】)、その図3には、各矩形導波管共振器内の容量性結合窓(21a、21b)の近傍で、電界を表す「E」とともに、紙面上向き又は下向きの矢印が記載されている。そうすると、実施の形態3の図16においても、S字状ループ素子(16a、16b)の近傍において、電界(E)は紙面上下方向に向き、該電界(E)に直交する磁場(H)は、紙面左右方向に向くこととなり、この磁場(H)の向きは、図15に磁場(磁界)を表す「H」とともに記載された矢印の向きと矛盾しない。したがって、矩形導波管1の他の断面図である図17(a)に着目すると、該図17(a)において、S字状ループ素子(16a)の近傍では、磁場が紙面に垂直な方向を向くといえる。ここで、図17(a)の矩形導波管共振器(12b)内のS字状ループ素子(16a)の近傍の磁場を「第1の磁場」、同じく矩形導波管共振器(12f)内のS字状ループ素子(16a)の近傍の磁場を「第2の磁場」と称することは任意である。
c また、図17(a)のS字状ループ素子(16a)のうち、矩形導波管共振器(12b)内の逆コ字状の部分を「第1の部分」、矩形導波管共振器(12f)内のコ字状の部分を「第2の部分」と称すること、及び、該図17(a)の紙面上で、前記矩形導波管共振器(12b)と前記矩形導波管共振器(12f)との間の隔壁と前記「第1の部分」とで画成する領域を「第1の領域」、前記隔壁と前記「第2の部分」とで画成する領域を「第2の領域」と称することは任意であり、上記bより、図17(a)の紙面は、前記「第1の磁場」及び「第2の磁場」と直交するといえる。
d 上記b、cより、引用文献1には、「矩形導波管共振器(12b)内の第1の磁場方向と直交する面内に第1の領域を画成する第1の部分と、矩形導波管共振器(12f)内の第2の磁場方向と直交する面内に第2の領域を画成する第2の部分を有する」といえる。
この場合、前記S字状ループ素子(16a)の形状からみて、前記第1の部分で生成された誘導電流が紙面上向きであれば前記第2の部分でも上向きに流れ、前記誘導電流が紙面下向きであれば前記第2の部分でも下向きに流れることは明らかであるから、引用文献1には、「前記第1の部分で生成された誘導電流の流れる方向と前記誘導電流が前記第2の部分で流れる方向とが同じであるS字状ループ素子(16a)を備える」といえる。
さらに、上記bより、「前記矩形導波管共振器(12b)及び前記矩形導波管共振器(12f)はTEモード共振器として動作する」といえる。

上記aないしdより、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(引用発明)
「矩形導波管共振器(12b)内の第1の磁場方向と直交する面内に第1の領域を画成する第1の部分と、
矩形導波管共振器(12f)内の第2の磁場方向と直交する面内に第2の領域を画成する第2の部分を有し、
前記第1の部分で生成された誘導電流の流れる方向と前記誘導電流が前記第2の部分で流れる方向とが同じであるS字状ループ素子(16a)を備え、
前記矩形導波管共振器(12b)及び前記矩形導波管共振器(12f)はTEモード共振器として動作する、
矩形導波管共振型帯域通過フィルタ。」

e さらに、引用文献1(段落【0019】)には、実施の形態1において、群遅延時間の補償量は容量結合回路(C_(27))の値により調整可能であり、容量結合回路(C_(27))による群遅延時間の補償量が最適の大きさより小さいと、補償量が少なくなべ底形に近い群遅延時間特性になり、補償量が最適の大きさのときには、群遅延時間特性の平坦部が一番広くなり、補償量を過補償にすると最も群遅延時間特性は広くなる旨記載されている。ここで、最適な補償量に対して補償量が小さい状態は、矩形導波管共振器間の結合が弱い状態、過補償の状態は、矩形導波管共振器間の結合が強い状態といえる。
したがって、引用文献1には、上記引用発明とともに、「群遅延時間の補償量が所望の補償量となるように、矩形導波管共振器間の結合の強さを調整すること。」(以下「引用文献1記載事項」という。)が記載されていると認められる。


2 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶理由で引用された特開昭55-134502号公報(引用文献2)には、それぞれ以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)
(1) 引用文献2の記載事項
ア 「本発明は、複数の共振器を接続したフィルタの段間結合度又は入出力結合度の連続変化を可能とし調整を容易にしたマイクロ波フィルタに関するものである。」(1頁左下欄11-14行)

イ 「本発明の構成は、1個又は複数個接続した共振器からなるマイクロ波フィルタにおいて、磁界結合させる入出力結合部又は段間結合部の両方又はいずれか一方に回転結合ループを配置したことを特徴とするマイクロ波フィルタである。以下本発明について実施例とともに図面を参照して詳細に説明する。
第4図は本発明の第1の実施例を説明するための正面の塞板を取り除いて示した正面図である。第4図において、1は第1の半同軸共振器の内部導体、2は第2の半同軸共振器の内部導体、3は第1,第2の半同軸共振器の外部導体、4は第1の半同軸共振器の周波数調整ポスト、5は第2の半同軸共振器の周波数調整ポスト、6は入出力結合ループ、7は入出力伝送路、12は段間結合部に配置した回転結合ループである。
次にこれの動作を説明する。入出力伝送線路7は入出力結合ループ6を介して第1,第2の半同軸共振器に結合される。第1,第2の半同軸共振器の周波数同調を第1の共振周波数調整ポスト4及び第2の共振周波数調整ポスト5で行う。一方半同軸共振器は共振器の短絡面で磁界が最大となっておりその分布の模様は第5図(a),(b)に示す磁界分布13に示すようになっている。そこでこの短絡面近傍に設けた前記回転結合ループ12を回転させるとこの回転結合ループ12に鎖交する磁力線の数が変化しこの回転結合ループ12に誘起される電流の大きさを変え回転結合ループ12と共振器との相互誘導作用により第1,第2の半同軸共振器間の段間結合度が変化する。」(2頁右上欄13行-右下欄2行)

上記記載からみて、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「複数の共振器を接続したフィルタの段間結合度を調整するために、段間結合部に回転結合ループを配置し、前記回転結合ループを回転させることで、この回転結合ループに鎖交する磁力線の数が変化しこの回転結合ループに誘起される電流の大きさを変え回転結合ループと共振器との相互誘導作用により第1,第2の共振器間の段間結合度を変化させること。」


3 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由で周知文献として引用された「小西良弘 著、『マイクロ波回路の基礎とその応用』(総合電子出版社、1990年8月20日発行)の第164-167頁」(引用文献5)には、矩形空洞共振器のTE-101モードの電磁界について、以下の事項が記載されている。


」(165頁)

第5 当審の判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
引用発明の「矩形導波管共振器(12b)」及び「矩形導波管共振器(12f)」は、それぞれ本願発明の「第1の空洞共振器」及び「第2の空洞共振器」に相当する。
そして、引用発明の矩形導波管共振器(12b)内の「第1の磁場方向と直交する面内に第1の領域を画成する第1の部分」及び矩形導波管共振器(12f)内の「第2の磁場方向と直交する面内に第2の領域を画成する第2の部分」は、磁場の方向を含めて、それぞれ本願発明の第1の空洞共振器内の「第1の磁場方向と実質的に直交する面内に第1の領域を画成する第1の部分」及び第2の空洞共振器内の「第2の磁場方向に実質的に直交する面内に第2の領域を画成する第2の部分」に相当し、引用発明の「S字状ループ素子(16a)」と本願発明の「導体」は、これら「第1の部分」及び「第2の部分」を有する点で共通する。
ここで、本願発明の「その結果、前記第1の部分で生成された誘導電流が前記第2の部分の電流と実質的に同じ方向に流れる導体」について、「前記第2の部分の電流」が「前記第1の部分で生成された誘導電流」に起因して第2の部分に流れる電流であるか、第2の部分で生成された誘導電流であるかが明確でないが、本件明細書の段落【0014】には、「誘導電流は、結合ループ245の上方部分を通って(矢印によって示されるように)下方に流れ、空洞共振器210から空洞共振器215の結合ループ245の下方部分内へと横切り、結合ループ245の下方部分を通って下方に流れることができる。したがって、電流は、結合ループ245の上方部分および下方部分において実質的に同じ方向に流れる。」と記載されていることから、前記記載は、導体において、第1の部分で生成された誘導電流が第2の部分でも同じ方向に流れることを意味するものと解される。したがって、引用発明の「前記第1の部分で生成された誘導電流の流れる方向が、前記第2の部分で流れる電流の方向と同じである」は、本願発明の「その結果、前記第1の部分で生成された誘導電流が前記第2の部分の電流と実質的に同じ方向に流れる」に相当する。
さらに、引用発明の「前記矩形導波管共振器(12b)及び前記矩形導波管共振器(12f)はTEモード共振器として動作する」ことと、本願発明の「前記第1の空洞共振器及び前記第2の空洞共振器は、TE-101モード共振器として動作する」ことは、「前記第1の空洞共振器及び前記第2の空洞共振器は、TEモード共振器として動作する」点で共通する。
引用発明の「矩形導波管共振型帯域通過フィルタ」は、本願発明の「装置」に含まれる。

以上より、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。

(一致点)
「第1の空洞共振器内の第1の磁場方向と実質的に直交する面内に第1の領域を画成する第1の部分と、
第2の空洞共振器内の第2の磁場方向に実質的に直交する面内に第2の領域を画成する第2の部分と、
を有し、
その結果、前記第1の部分で生成された誘導電流が前記第2の部分の電流と実質的に同じ方向に流れる導体を備え、
前記第1の空洞共振器及び前記第2の空洞共振器は、TEモード共振器として動作する、
装置。」

(相違点1)
一致点である「導体」の「第1の部分」が画成する「第1の領域」及び「第2の部分」が画成する「第2の領域」について、本願発明では、「導体が有する前記第1の領域および前記第2の領域が、前記第1の空洞共振器および前記第2の空洞共振器内の電磁場間の結合定数を決定し、」と特定されているのに対し、引用発明では、この点が特定されていない点。

(相違点2)
一致点である「導体」について、本願発明では「軸周りで回転自在に調整可能」であるのに対し、引用発明では「軸周りで回転自在に調整可能」ではない点。

(相違点3)
一致点である「前記第1の空洞共振器及び前記第2の空洞共振器は、TEモード共振器として動作する」について、本願発明では動作するモードが「TE-101モード」であると特定されているのに対し、引用発明ではこの点が特定されていない点。

2 判断
まず、相違点1、2についてまとめて検討する。
引用文献1には、さらに「群遅延時間の補償量が所望の補償量となるように、矩形導波管共振器間の結合の強さを調整すること。」(上記第4の1の「引用文献1記載事項」参照。)が記載されている。
一方、引用文献2には、「複数の共振器を接続したフィルタの段間結合度を調整するために、段間結合部に回転結合ループを配置し、前記回転結合ループを回転させることで、この回転結合ループに鎖交する磁力線の数が変化しこの回転結合ループに誘起される電流の大きさを変え回転結合ループと共振器との相互誘導作用により第1,第2の共振器間の段間結合度を変化させること。」(上記第4の2の「引用文献2記載事項」参照。)が記載されている。
そうすると、引用発明において、群遅延時間の補償量が所望の補償量となるように、S字状ループ素子による矩形導波管共振器間の結合の強さを調整するように構成すること、及び、その具体的な構成として、引用文献2に記載された回転結合ループの構成を採用し、S字状ループを回転調整できるようにすることは、当業者が容易に想到し得るものである。この場合、引用発明において、前記第1の領域及び第2の領域が、矩形導波管共振器(12b)及び矩形導波管共振器(12f)間の結合の強さ、すなわち、両矩形導波管共振器内の電磁場間の結合の強さ(結合定数)を決定することは明らかである。

次に、相違点3について検討する。
引用発明では、矩形導波管共振器がTEモードのうちのどのモードで動作するか特定されていないが、上記第4の1で検討した、引用文献1に記載された引用発明に対応する実施の形態3における電界及び磁場の方向と、引用文献5に記載されたTE-101モード共振器の電界及び磁場の方向とに矛盾はなく、TE-101モード共振器自体も周知技術であるから、引用発明の矩形導波管共振器(12b、12f)がTE-101モード共振器として動作するように構成することは、当業者が適宜になし得たことである。

ここで、審判請求人は、審判請求の理由において、第一の理由及び第二の理由を主張している。
第一の理由について検討すると、上記第4の1で検討したとおり、引用文献1に記載された引用発明に対応する実施の形態3における電界及び磁場の方向と、TE-101モード共振器の電界及び磁場の方向とに矛盾はないから、引用文献1の記載からTE-101モードを特定するまではできないとしても、TE-101モードを排除するものではなく、当該理由は採用できない。
第二の理由について検討すると、通常、電流は磁界の向きに対して垂直方向に流れるから、図15に記載された矩形導波管共振器の隔壁において上下方向に電流が流れるものといえ、空隙を介して電流が流れないのは当然といえる。そのため、請求人が主張する「磁界の値は左の共振器10dから右の共振器10cに向かって当該空隙を介して穏やかに変化するはず」ということは、前記図15の記載に基づかないものであり、採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明と、引用文献1記載事項及び引用文献2記載事項に基づいて、周知技術を勘案することで当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-26 
結審通知日 2019-07-30 
審決日 2019-08-13 
出願番号 特願2016-559162(P2016-559162)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸田 伸太郎  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 衣鳩 文彦
中野 浩昌
発明の名称 調整可能な位相反転結合ループ  
代理人 岡部 讓  
代理人 吉澤 弘司  
代理人 三村 治彦  
代理人 岡部 洋  

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