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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  A61K
審判 全部無効 1項1号公知  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1358395
審判番号 無効2014-800208  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-12-16 
確定日 2019-12-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第5102928号発明「新規な葉酸代謝拮抗薬の組み合わせ療法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5102928号に係る発明についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、2001年6月15日(パリ条約による優先権主張 2000年6月30日、2000年9月27日、2001年4月18日、いずれも米国(US))を国際出願日とする出願であり、平成24年10月5日に特許権の設定登録がなされた。
これに対して、ニプロ株式会社(以下、「請求人」という。)は、イーライ リリー アンド カンパニー(以下、「被請求人」という。)を相手どり、平成26年12月16日付け審判請求書によって、本件特許を無効にすることを求める旨の本件特許無効審判を請求した。以後の手続は次のとおりである。
平成29年 6月16日付け 審判請求書の記載事項を補正する手続補正
書(方式)(請求人)
同年10月25日付け 答弁書(被請求人)
平成30年 2月27日付け 審理事項通知書(当審)
同年 4月20日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 4月20日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 5月11日 第1回口頭審理
同年 5月24日付け 上申書(請求人)

第2 本件特許発明

本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明は、同特許の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明7」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)
「【請求項1】
葉酸とビタミンB_(12)との組み合わせを含有するペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤であって、
ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量を、葉酸の約0.1mg?約30mgおよびビタミンB_(12)の約500μg?約1500μgと組み合わせて投与し、該ビタミンB_(12)をペメトレキセート二ナトリウム塩の第1の投与の約1?約3週間前に投与し、そして該ビタミンB_(12)の投与をペメトレキセート二ナトリウム塩の投与の間に約6週間毎?約12週間毎に繰り返すことを特徴とする、該剤。
【請求項2】
約1000μgのビタミンB_(12)を投与する、請求項1記載の剤。
【請求項3】
ビタミンB_(12)が筋肉内注射、経口、非経口の製剤によって投与する、請求項1または2のいずれかに記載の剤。
【請求項4】
ビタミンB_(12)が筋肉内注射によって投与する、請求項3記載の剤。
【請求項5】
ビタミンB_(12)が経口投与する、請求項3記載の剤。
【請求項6】
葉酸とビタミンB_(12)との組み合わせを含有するペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤であって、
ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量を、葉酸の約0.1mg?約30mgおよびビタミンB_(12)の約500μg?約1500μgと組み合わせて投与し、該ビタミンB_(12)を筋肉内注射によって投与し、該ビタミンB_(12)をペメトレキセート二ナトリウム塩の第1の投与の約1?約3週間前に投与し、そして該ビタミンB_(12)の投与をペメトレキセート二ナトリウム塩の投与の間に約6週間毎?約12週間毎に繰り返すことを特徴とする、該剤。
【請求項7】
葉酸とビタミンB_(12)との組み合わせを含有するペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤であって、
ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量を、葉酸の約0.1mg?約30mgおよびビタミンB_(12)の約500μg?約1500μgと組み合わせて投与し、該ビタミンB_(12)を用いる処置は筋肉内注射または経口によって投与し、そしてペメトレキセート二ナトリウム塩を用いる処置を止めるまで、約24時間毎?約1680時間毎に繰り返すことを特徴とする、該剤。」

第3 当事者の主張、及び、提出した証拠方法

1.請求人の主張する無効理由、及び、提出した証拠方法
請求人は、「特許第5102928号の特許請求の範囲に記載された請求項1?7に係る発明についての特許を無効とする。審判の費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として以下の無効理由1及び2を主張し、証拠方法として、甲第1?23号証、甲第5号証の1、甲第21号証の1、甲第22号証の1、甲第24?37号証を提出している。

[無効理由1(進歩性の欠如)の概略]
甲第1号証には、「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤と組合せて投与される、葉酸を活性成分とする毒性緩和剤であって、葉酸の投与量が約0.5mg/日?約30mg/日である、該剤。」の発明が記載されている。
ここで、ペメトレキセート二ナトリウム塩の毒性は治療開始前の血漿ホモシステインの測定で予測可能であることが立証済みであること、及び、血漿ホモシステインはビタミンB_(12)または葉酸の何らかの機能欠如の結果として増加することが、少なくとも甲第5号証により既知であった。治療開始前ホモシステイン値が高いことが、ペメトレキセート二ナトリウム塩の毒性発現の予兆となることは、甲第6号証と甲第7号証にも記載がある。
さらに、葉酸とビタミンB_(12)の補充が血中ホモシステインを下げるのに寄与することについては、甲第8号証?甲第16号証にそれぞれ記載がある。これらの文献は、本薬剤の投与に関連したものではないが、血中ホモシステイン値を下げるためには葉酸とビタミンB_(12)が有効であることを認識するには十分である。
したがって、ペメトレキセート二ナトリウム塩の毒性低下および抗腫瘍活性維持のために葉酸を組み合わせて投与するという引用発明において、毒性発現のマーカーである治療前の血中ホモシステイン値に着目し、その低下をより確実にするために、葉酸に加えてビタミンB_(12)を追加することは、本件特許の優先日当時当業者にとって容易であったとの認定は免れ得ない。
よって、本件特許発明1?7は、甲第1号証と甲第5号証とに基づいて、必要に応じ、その最先の優先日(第1優先日である2000年6月30日)当時の技術水準ないし技術常識を参酌することによって、容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件特許は、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由2(新規性の欠如)の概略]
甲第21号証?甲第23号証で言及されている第II相臨床試験(H3E-MC-JMDR試験)は、本件特許発明の内容をそのまま実施したものである。そして、当該第II相臨床試験は、患者に秘密保持義務を課すものではなかったこと、及び、当該第II相臨床試験は、参加した患者に、試験の目的、試験内容(プロトコール)、その経過および結果に至るまで適切なインフォームドコンセントの下、患者に逐次知らしめ、患者から求めがあれば、担当医師がさらに詳しく説明する状況の下で実施されたものであるところ、オープン・ラベル試験であるから、本件特許発明に係わる内容もすべて患者に知らされる結果となったことから、本件特許発明1?7は、甲第21号証?甲第23号証から明らかなとおり、優先日前に外国において公然知られた発明または公然実施された発明であるから、特許法29条1項1号または2号の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件特許は、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。

[証拠方法]
・甲第1号証:特開平5-97705号公報
・甲第2号証:L Hammond et al.: American Society of Clinical Oncology, Meeting Abstract No.866, 1998
・甲第3号証:John F. Worzalla et al.: Anticancer Research 18: 3235-3240, 1998
・甲第4号証:James J. Rusthoven et al.: Journal of Clinical Oncology, Vol.17, No.4 (April), 1999, pages 1194-1199
・甲第5号証:Hillary Calvert: Seminars in Oncology, Vol.26, No.2, Suppl.6, 1999, pages 3-10
・甲第6号証:Niyikiza et al.: Animals of Oncology, Vol.9, Suppl.4, 1998, pages 126-127, 609P
・甲第7号証:Niyikiza C et al.: Proceedings of ASCO(American Society of Clinical Oncology) Volume 17, 1998, page 558a, No.2139
・甲第8号証:Robert Clarke: BMJ VOLUME 316, 21 MARCH 1998, pages 894-8
・甲第9号証:Hans J Naurath et al.: The Lancet, Vol.346, July 8, 1995, pages 85-89
・甲第10号証:A. Andersson et al.: European Journal of Clinical Investigation (1992) 22, 79-87
・甲第11号証:Sally P. Stabler et al.: Blood, Vol.81, No.12 (June 15), 1993, pages 3404-3413
・甲第12号証:Per M. Ueland et al.: Clinical Chemistry, Vol.39, No.9, 1993, pages 1764-79
・甲第13号証:L. Brattstroem et al.: Journal of Internal Medicine 1994, 236, pages 633-641(当合議体による注:「Brattstroem」の「oe」は原文ではウムラウトで表記されている。)
・甲第14号証:David G. Savage et al.: The American Journal of Medicine, March 1994, Volume 96, pages 239-246
・甲第15号証:Lars Brattstroem: The Journal of Nutrition, Supplement, 1996, pages 1276S-1280S(当合議体による注:「Brattstroem」の「oe」は原文ではウムラウトで表記されている。)
・甲第16号証:Anja Bronstrup et al.: American Journal of Nutrition 1998, 68, pages 1104-1110
・甲第17号証:日比野進監修 血液学、丸善株式会社、昭和60年10月5日発行、表紙、第534?547頁及び奥付
・甲第18号証:新版日本血液学全書刊行委員会編 新版日本血液学全書3、丸善株式会社、昭和55年10月30日発行、表紙、第365?366頁、第412?417頁及び奥付
・甲第19号証:吉成昌郎:改訂医薬品作用の基礎と応用、昭和62年10月25日改訂1刷(株式会社薬業時報社発行)、第427?433頁及び奥付
・甲第20号証:Michael L. Bishop et al.: Clinical Chemistry; Principle, Procedures, correlations, 1996, pages 618-627; Published by J. B. Lippincott
・甲第21号証:Giorgio V. Scagliotti et al.: Journal of Clinical Oncology, Vol.21, No.8 (April 15), 2003: pp 1556-1561
・甲第22号証:Eli Lilly & Co.: Summary ID#3653, 2004
・甲第23号証:Declaration by Dr. Ulrich Gatzemeier (2014年4月10日)
以上、平成26年12月16日付け審判請求書に添付して提出

・甲第5号証の1:甲第5号証の訳文
・甲第21号証の1:甲第21号証の訳文
・甲第22号証の1:甲第22号証の訳文
・甲第24号証:William John et al.: Cancer April 15, 2000 / Vol.88 / No.8, pp.1807-1813、及び抄訳
・甲第25号証:医療用医薬品添付文書(アリムタ 注射用100mg/アリムタ 注射用500mg)、2013年2月改訂
・甲第26号証:平成29年2月2日付知的財産高等裁判所判決(平成27年(行ケ)第10249号、平成28年(行ケ)第10017号及び平成28年(行ケ)第10070号についての判決)
・甲第27号証:国際公開第02/02093号及び抄訳
・甲第28号証:「LY231514(MTA) End of Phase 2 Meeting with the FDA Clinical Issues-Friday, September 25, 1998 at FDA」と題するFDAの議事録(1998)、及び抄訳
・甲第29号証:ヘッダに「01/06/00 15:02 FDA-DODP→913172761652」とあるFDAの書簡、及び抄訳
・甲第30号証:「進行中の中皮腫登録治験で既に開始されたビタミン補充による変更について議論すること」を議題とするFDAの議事録(2000)、及び抄訳
・甲第31号証:本件特許発明に関する第1優先日の優先権書類(APPLICATION NUMBER:60/215,310、FILING DAT:June 30,2000 、PCT APPLICATION NUMBER:PCT/US01/14860)、及び抄訳
・甲第32号証:本件特許発明に関する第2優先日の優先権書類(2000年9月27日)の優先権書類(APPLICATION NUMBER:60/235,859、FILING DAT:September 27,2000 、PCT APPLICATION NUMBER:PCT/US01/14860)、及び抄訳
・甲第33号証:Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 20: 2001 (abstr 300)、及び抄訳(当合議体による注:甲第33号証は、米国臨床腫瘍学会第37年会(the 37th Annual Meeting of the American Society of Clinical Oncology (ASCO))での講演要旨であり、「Vitamin B12 and Folate Reduce Toxicity of AlimtaTM (Pemetrexed Disodium, LY231514, MTA), a Novel Antifolate/Antimetabolite. (ビタミンB12及び葉酸は新規葉酸代謝拮抗薬/代謝拮抗薬Alimta(ペメトレキセート二ナトリウム塩、LY231514、MTA)の毒性を低下させる」と題するものである。)
・甲第34号証:「要旨の公開日」を主題とするKimberley Isbell氏のレター、2014年3月1日、及び和訳
・甲第35号証:2001年4月5日における米国臨床腫瘍学会のウェブページ、及び抄訳
・甲第36号証:ICHハーモナイズド3極ガイドライン(1996年6月10日)、及び抄訳
・甲第37号証:医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9(1997)年3月27日)
以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出

2.被請求人の主張、及び、提出した証拠方法
被請求人は、本件特許には上記無効理由1及び2は存在しないことを主張し、証拠方法として、乙第1?35号証を提出している。
なお、被請求人は、証拠の成立について、甲第23号証は不知とした(第1回口頭審理調書を参照。)

[証拠方法]
・乙第1号証:The New England Journal of Medicine, 238(23), 787-793 (1948)
・乙第2号証:THE WALL STREET JOURNAL, Wednesday, April 21, 2004
・乙第3号証:Chabner氏の宣誓供述書
・乙第4号証:Niyikiza博士の宣誓供述書
・乙第5号証:FDAの議事録 (1998)
・乙第6号証:「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」の改訂について (薬食審査発第1101001号)
・乙第7号証:FDAの書簡
・乙第8号証:FDAの議事録 (2000)
・乙第9号証:MOLECULAR CANCER THERAPEUTICS (2002) 1:545-552
・乙第10号証:平成29年2月2日付知的財産高等裁判所判決(平成27年(行ケ)第10249号、平成28年(行ケ)第10017号及び平成28年(行ケ)第10070号)
・乙第11号証:AMERICAN SOCIETY OF CLINICAL ONCOLOGY (1998) 17: 225a, Abstract 866
・乙第12号証:Cancer Drug Discovery and Development: Antifolate Drugs in Cancer Therapy (1999) pp. 190-198
・乙第13号証:Annals of Oncology, 9: 129, Abstract 620P (1998)
・乙第14号証:AMERICAN SOCIETY OF CLINICAL ONCOLOGY (1996) 15: Abstract 1559
・乙第15号証:最新栄養学 第7版、203-217頁
・乙第16号証:特表平10-502334号
・乙第17号証:Clinical Research, 1991, vol.39, No.3, p.667A
・乙第18号証:ViDAL LE DICTIONAIRE, 21, 30 & 1985-1986, 1999
・乙第19号証:International Journal of Hematology,56(1992)167-177
・乙第20号証:Essential Nutrients in Carcinogenesis, Plenum Press, 1986, pp. 300-302
・乙第21号証:WO96/08515(翻訳として対応日本出願:特表平10-508831)
・乙第22号証:Cancer Research 57, p.4015-4022(1997)
・乙第23号証:Blood vol. 89, no. 1, 1997: 235-242
・乙第24号証:American Journal of Hematology 34:128-131(1990)
・乙第25号証:特開平2-289597号
・乙第26号証:PHYSICIANS' DESK REFERENCE, 53rd Ed. 1999: 1397-1401
・乙第27号証:ABPI COMPEDIUM OF DATA SHEETS AND SUMMARIES OF PRODUCT CHARACTERISTICS, 1998-99: p.1542-45
・乙第28号証:Cancer Chemotherapy and Pharmacology, (1986) 17:114-120
・乙第29号証:Leukemia Research Vol.12, Nos.11/12, p.905-910, 1988
・乙第30号証:Drug Resistance Updates 15 (2012), p.183-210
・乙第31号証:Cancer Drug Discovery and Development: Antifolate Drugs in Cancer Therapy (1999), pp.276-277
・乙第32号証:平成21年1月28日付知的財産高等裁判所判決(平成20年(行ケ)第10096号)
・乙第33号証:Dr. Scagliottiの宣誓書
・乙第34号証:Lilly Deutschland GmbH及びGatzemeierとの間の秘密保持契約書、1999年7-8月
・乙第35号証:Pemetrexed in Malignant Pleural Mesotholioma, Cancer Network (http://cancernetwork.com/review-article/pemetrexed-malignant-pleural-mesothelioma), 2004
以上、答弁書に添付して提出

第4 主要な証拠の記載事項

以下、書証は、その証拠番号により、甲第1号証を「甲1」、乙第1号証を「乙1」などともいう。
なお、原文が外国語である書証及びその抄訳を併せたものを1つの証拠としている場合、その証拠は、原文が外国語である書証の方を意味する。例えば「甲第36号証:ICHハーモナイズド3極ガイドライン(1996年6月10日)、及び抄訳」を引用する場合、「甲36」は、原文が外国語である「ICHハーモナイズド3極ガイドライン(1996年6月10日)」の方を意味する。

〔甲1(特開平5-97705号公報)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある。

(甲1a)「改善された治療薬
・・・・
【請求項1】 葉酸、(6R)-5-メチル-5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸、(6R)-5-ホルミル-5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸、あるいは生理学的に利用可能なそれらの塩またはエステルから選択される葉酸結合タンパク質結合剤を活性成分とする、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または葉酸結合タンパク質と結合するその他のアンチ葉酸剤の毒性緩和剤。
【請求項2】 該結合剤が葉酸もしくは生理学的に利用可能なその塩またはエステルである請求項1の毒性緩和剤。
【請求項3】 該GAR-トランンスホルミラーゼ阻害剤がロメトレキソールである、請求項1または2の毒性緩和剤。
【請求項4】 葉酸もしくは生理学的に利用可能なその塩またはエステルと、ロメトレキソールの組み合わせからなる癌化学治療剤。」((1頁の【発明の名称】?2頁左欄の【特許請求の範囲】)

(甲1b)
「【0001】本発明は、抗腫瘍アンチ葉酸剤の治療効果を維持したままその毒性を減少させるための、葉酸およびその関連化合物の新規用途に関する。
【0002】ロメトレキソール(lometrexol)は5,10-ジデアザテトラヒドロ葉酸の一般名であり、これはDDATHFとも呼ばれている。ロメトレキソールは新種の抗腫瘍剤群の一つであり、プリン生合成の最初の段階に必要な酵素であるグリシンアミドリボヌクレオチド(GAR)トランスホルミラーゼを特異的に阻害することがわかっている。J.Med.Chem.,28,914(1985)を参照のこと。これらのGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の幾つかは、その抗腫瘍剤としての使用と共に、Taylor等による米国特許第4684653号、同第4833145号、同第4902796号、同第4871743号、同第4882334号に記述されている。GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤が、通風、乾癬、菌状息肉腫、自己免疫障害、リウマチ様関節炎および他の炎症障害などの症状、並びに器官移植中および他の免疫抑圧に関連する症状を治療する際に有用であることも知られている。
【0003】ロメトレキソールは臨床的に研究されており、特に結腸直腸、肺、乳房、頭部および首、膵臓の充実性腫瘍に対する強力な抗腫瘍剤であることがわかっている(Young等,Proc.Amer.Assoc.Cancer Research,31,1053(1990))。他の抗腫瘍剤の大半と同様にロメトレキソールも、腫瘍に対するその効果に加えて、望ましくない幾つかの副作用を示す(Muggia等,Proc.Amer.Soc.Clinical Oncology,9,1285(1990))。現在までに観測された典型的な副作用には、食欲不振、体重減少、粘膜炎、白血球減少、貧血、活動低下および脱水が含まれる。
【0004】本発明者らは、ロメトレキソールおよびこれに関連するGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤、並びに葉酸結合タンパク質(FBP)(Kane等,Laboratory Investigation,60,737(1989)などを参照のこと)に結合する他のアンチ葉酸剤の毒性効果が、FBP結合剤の存在によって、その治療的効果に不利な影響を及ぼすことなく有意に減少し得ることを発見した。したがって本発明は、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤および他のアンチ葉酸類を被治療者に対してFBP結合剤と同時投与することによる、該阻害剤および他のアンチ葉酸類の治療的効用を改善する方法を提供する。」(段落【0001】?【0004】)

(甲1c)
「【0005】本発明はその一側面として、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤またはFBPに結合する他のアンチ葉酸の有効量を、毒性緩和有効量のFBP結合剤もしくは生理学的に利用可能なその塩またはエステルと組み合わせて哺乳類に投与することからなる、哺乳類のGAR-トランスホルミラーゼ依存性腫瘍の成長を阻害する方法を提供する。より具体的には、本発明は、毒性緩和有効量のFBP結合剤もしくは生理学的に利用可能なその塩またはエステルを、治療を受けている哺乳類に投与することからなる、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤またはFBPに結合する他のアンチ葉酸の哺乳類に対する毒性を減少させる方法を提供する。具体的には、アンチ葉酸を投与する前にFBPを本質的に遮断しておくのに十分な量の、葉酸、(6R)-5-メチル-5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸、(6R)-5-ホルミル-5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸、もしくは生理学的に利用可能なそれらの塩またはエステルから選択される化合物で哺乳類を予備処置することからなる、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤またはFBPに結合する他のアンチ葉酸の哺乳類における毒性を減少させる方法を提供する。本発明の最も好ましい態様では、充実性腫瘍または他の種類の癌にかかっていて治療を要する患者を葉酸で予備処置した後、この患者にロメトレキソールを投与することによって、ロメトレキソールの良好な抗腫瘍活性を維持したままその毒性効果を減ずる。
【0006】本発明は、FBP結合剤もしくは生理学的に利用可能なその塩またはエステルを前以て投与することによる、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または生物系に存在するFBPに結合する他のアンチ葉酸の毒性を減ずる方法を提供する。GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤およびこれに関連するアンチ葉酸は、グリシンアミドリボヌクレオチドトランスホルミラーゼとして知られている酵素の生理作用を効果的に阻害する化合物である。この酵素は哺乳類におけるプリン生合成(これはDNA合成に関連している)の最初の段階に必要であることがよく知られている。この生合成経路を遮断するとDNA合成が妨害され、その結果細胞が死滅する。GAR-トランスホルミラーゼもしくは他の葉酸要求性酵素を阻害することがわかっている化合物は、すべて本発明の処置の対象となる。」 (段落【0005】?【0006】)

(甲1d)
「【0012】葉酸は血液形成要素(blood-forming element)の適切な再生と機能のために、また1炭素単位が転移する中間代謝過程に関与する補酵素として、哺乳類が必要するビタミンである。これらの反応は種々のアミノ酸の相互変換において、またプリンおよびピリミジン合成において重要である。葉酸は通常ビタミン補足剤によって供給されると共に、肝臓、腎臓、乾燥豆類、アスパラガス、マッシュルーム、ブロッコリー、レタス、乳、ホウレンソウなどの食物源の消費を通してヒトの食事に供給される。正常な成人に通常必要な葉酸の最小量は約0.05mg/日である。本発明では、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または他のアンチ葉酸を投与されているヒトに対するその薬剤の毒性効果を減ずるために、葉酸もしくは生理学的に利用可能なその塩またはエステルを該患者に約0.5mg/日?約30mg/日の投与量で投与する。好ましい態様として、ロメトレキソールなどのGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の通常投与量と共に、葉酸を約1?約5mg/日の量で投与する。」

(甲1e)「【0015】本発明に従って使用されるFBP結合剤は、その遊離酸型でもよいし、あるいは生物系中でその親酸に変換される生理学的に許容される塩またはエステルの形態であってもよい。投与量は一般的にはビタミン補足物の形態で、すなわち経口投与される錠剤として、好ましくは徐放性製剤として、あるいは飲料水に添加する水溶液として、あるいは水性非経口製剤(例えば静脈内用製剤)などとして供給されるであろう。
【0016】このFBP結合剤を、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または他のアンチ葉酸による治療の前に、被検哺乳動物に投与する。適切な量のFBP結合剤による約1?約24時間の予備処置は、通常、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または他のアンチ葉酸の投与に先立って葉酸結合タンパク質に結合しこれを遮断するのに十分である。葉酸結合タンパク質に負荷をかけるためには、FBP結合剤の単一投与で、好ましくは1回の葉酸経口投与で十分なはずであるが、このような予備処置がもたらす利益を最大限にするためには、葉酸結合タンパク質が充分に結合されていることを確実にするために、活性薬で治療する前数週間までの期間にわたって、FBP結合剤の複数投与を行うこともできる。
【0017】特に好ましい本発明の態様として、望ましい治療利益を達成するのに通常必要な量のロメトレキソールを非経口的に投与する約1?24時間前に、約1mg?約5mgの葉酸を哺乳類に経口投与する。葉酸または別のFBP結合剤をより多く、あるいは追加投与することもできるが、通常上記のパラメーターは、上述のロメトレキソール投与時に通常認められる毒性効果を減ずるのに充分な程度に、葉酸結合タンパク質を結合するであろう。
【0018】FBP結合剤が抗腫瘍剤ではなく、またFBP結合剤による哺乳類の予備処置が相乗作用効果または増強効果ではないことに注目すべきである。むしろ、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または他のアンチ葉酸の投与前に、葉酸結合タンパク質をFBP結合剤によって本質的に結合させておくことによって、その次の治療の治療効果が損なわれることなく、その毒性効果が大きく減少するのである。 」

(甲1f)
「【0019】GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤に対する葉酸の効果は、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤自体の抗腫瘍活性および毒性効果を決定するのに通常に使用される標準的な試験によって立証された。このような一試験として、2mmx2mmの腫瘍切片をマウスの腋窩領域中にトロカールで挿入することによって、マウスに哺乳類腺癌のC3H株を移植する。全ての実験において、腫瘍移植の翌日から、ロメトレキソールを1日1回5日間連続して腹腔内投与した。それぞれの投与量レベルについて10匹の動物を使用した。第10日に、副尺カリパスを用いて腫瘍成長の長さと幅を測定することにより、抗腫瘍活性を評価した。
【0020】治療前の2週間と治療中に、葉酸を全く含まない飼料で維持した感染マウスにロメトレキソールを投与すると、ロメトレキソールは極めて低い投与量で中度の抗腫瘍活性を示したが、極めて低い投与量で重度の毒性(マウスの死として測定した)をも引き起こした。これらのデータを次の表3に示す。
【表3】

【0021】試験マウス群を、葉酸欠失飼料で治療前2週間維持した。次に、その動物に0.0003%(w/v)の葉酸を含有する飲料水を与えることによって、治療中に葉酸を投与した。これらの動物は毎日約4mlの水を消費するので、この濃度は約1.75mg-葉酸/m^(2)-体表面積/日に相当する。
0.0003g/100ml x 4ml/日=0.000012g/日=0.012mg/日
マウスの平均サイズは0.00687m^(2)である。
0.012g/日 x 1/0.00687m^(2)=1.75mg/m^(2)/日
被検体が約1.73m^(2)サイズのヒトの場合、これは約3.0mg/日のヒト成人投与量に相当する。ロメトレキソールの活性および毒性に対する前記の葉酸投与量の効果を次の表4に示す。
【表4】

上記の結果が示すように、ロメトレキソール被投与者の飼料中に上述のレベルの葉酸を添加すると、低投与量で、毒性効果が殆どあるいは全くない優れた抗腫瘍活性がもたらされる。
【0022】葉酸投与量の増大は、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の抗腫瘍活性および毒性に対して、さらにより劇的な効果を有すると思われる。例えばロメトレキソールによる治療の前に葉酸欠失飼料でマウスを2週間維持し、次いで0.003%(w/v)の葉酸を含有する水を与えた場合(これは約30mg/日のヒト成人投与量に相当する)、より高い投与レベルにおいてロメトレキソールの良好な抗腫瘍活性が観測される。これらの結果を次の表5に示す。
【表5】

【0023】上記のデータは、ロメトレキソール治療前および治療中に葉酸欠失飼料で維持した腫瘍保持マウスに関して、ロメトレキソールの毒性が極めて大きく(即ちマウスの大半にとって1mg/kg/日が致死量である)、また非毒性の投与量では低い抗腫瘍活性が観測される、ということを立証している。極めて少量の葉酸投与(ヒト成人に対して約1?2mg/日)で、薬剤毒性が部分的に反転し、抗腫瘍活性が改善された。より多量の葉酸投与(ヒト成人に対して約30mg/日まで)は、ロメトレキソールの毒性を劇的に減少させ、その抗腫瘍活性を著しく改善した。したがって、葉酸をGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤と組み合わせて使用すると、抗腫瘍活性に不利な影響を与えることなく、薬剤毒性が著しく減少する。」(段落【0019】?【0023】)

(甲1g)
「【0024】組織学的にあるいは細胞学的に癌の診断を確認された癌患者に関する典型的な臨床的評価として、ロメトレキソールを葉酸と組み合わせて投与する。2週間にわたりロメトレキソールを迅速な静脈内注射によって4回投与し、次いで2週間治療を行わない。投与を2週間のうちの第1、4、8および11日に行う。治療の初期には5mg/m^(2)/投与の投与量で行い、この期間に観測される毒性効果に応じて、次の期間には同じ投与量を用いてもよいし、あるいは6mg/m^(2)に増大させてもよいし、あるいは4mg/m^(2)に減少させてもよい。
【0025】これらの患者には、ロメトレキソール第1期間の前日から経口的に1mg/日の葉酸を投与し、これを該薬剤を投与している間続ける。このような葉酸投与は毎日1回、一般的には朝の間に行われるであろう。
【0026】前記の臨床的研究のための準備として、ヒトにおける試験的な研究によって、ロメトレキソールを投与されている患者に与えられた葉酸が、ロメトレキソールによる副作用の減少を達成することが立証されている。具体的には、0.5?1.0mg/日の葉酸を補足された、鼻咽頭(nasalpharyngeal)癌腫をもつ患者の場合、12カ月までの治療の間ロメトレキソールが十分使用できた。さらに、この患者はこの12カ月の治療後、疾患の臨床的徴候を示さなかった。これらのデータは上に報告した動物実験と一致している。」(段落【0024】?【0026】)

〔甲5(Hillary Calvert: Seminars in Oncology, Vol.26, No.2, Suppl.6, 1999, pages 3-10)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲5には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

(甲5a)「葉酸代謝の概説:葉酸代謝拮抗剤抗腫瘍剤の作用と毒性に関する特徴」(3頁のタイトル)

(甲5b)
「1940年代、Farberら^(1)が、白血病小児患者において葉酸レベルの減少を観察し、それ以来、葉酸代謝と葉酸代謝拮抗剤の働きの研究は、がん治療薬の開発に密接に結び付けられてきた。葉酸は様々な種において、幅広い代謝経路でその役割を果たしている。ヒトにおいては、葉酸は必須ビタミンであり、主として細胞増殖やアミノ酸代謝に関係する代謝経路で機能している。このレビューでは細胞増殖に関連した哺乳類の葉酸代謝の側面に焦点をあてる。なぜなら、それは癌治療における葉酸代謝拮抗剤の用途に最も密接に結びついているからある。R.L.Blakley^(2)による教科書は、全ての葉酸代謝の側面をカバーする包括的な著作物である。」(3頁左欄の要約)

(甲5c)
「 葉酸代謝の特徴
細胞増殖と関連がある葉酸経路
葉酸は主として完全還元体、5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(FH_(4);図1)として機能する。FH_(4)は1つの炭素原子を含む残基を細胞内へ移行させるキャリアとして働く。これらはセリンを含む様々なソースから獲得される。この反応において、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼは、セリンからグリシンに転換すると同時に、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(CH_(2)FH_(4))を生成する(図2)。CH_(2)FH_(4)は、恐らく細胞内で様々な酸化状態にある1炭素原子を運搬する葉酸誘導体に変換される。これらの中の一つ、10-ホルミルテトラヒドロ葉酸は、プリンのデノボ合成に関与する2つの酵素の基質となる。これらは、グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ(GARFT)とアミノイミダゾールカルボキサミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ(AICARFT)である。こうして、プリンの炭素原子の二つが葉酸から派生する。プリン合成の葉酸依存的反応は、10-ホルミルグループの炭素原子を使い、非置換テトラヒドロ葉酸を葉酸生成物としてリリースする。こうして、葉酸分子はもう一つの炭素原子をセリンから獲得し、GARFTとAICARFTを通してサイクルし続けることができる。このことは葉酸を全体にわたって消費することなしにプリン合成を継続することを可能にする。CH_(2)FH_(4)はまた、酵素チミジル酸シンターゼ(TS)の基質である。チミジル酸シンターゼはデオキシウリジン一リン酸塩をチミジン一リン酸塩に転換する。チミジル酸シンターゼはDNA合成に絶対的に必要なチミジル酸のデノボ合成の律速段階を担うので細胞増殖において重要な酵素である。
TSの葉酸生成物はテトラヒドロ葉酸ではなく、酸化体のジヒドロ葉酸(FH_(2))である。この生成物は酵素ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)によってFH_(4)に再変換されるまで、葉酸代謝において機能し続けることはできない。」(3頁左欄17行?同頁右欄10行)

(甲5d)


図1.葉酸の型」(4頁のFig 1.)

(甲5e)


図2.葉酸代謝の代謝経路」(5頁のFig 2.)

(甲5f)
「種々の葉酸代謝拮抗剤の作用
メソトレキセート(図4)は約50年前に紹介されており、最も長い歴史を有する葉酸代謝拮抗剤である。メソトレキセートは主にDHFRを阻害することによって作用する。・・・直接的TS阻害剤(ラルチトレキセドやCB 3717のように)もTSの間接的阻害剤(メソトレキセートのように)も細胞内のデオキシウリジン一リン酸塩のプールの顕著な増加に導く。・・・血漿のデオキシウリジンレベルをモニターすることが可能で、ベースラインからの上昇はin vivoのTSの阻害を示す^(14)。
加えて、デノボプリン合成の経路に関係する最初の葉酸依存性酵素であるGARFTの選択的阻害剤が開発されている。それらの例はロメトレキソールとLY309887である(図4)。これらの化合物は前臨床システムで良好な抗腫瘍活性を示しており、機能していないp53経路を持つ腫瘍細胞において、その活性が保存されていることを示唆している。多くの葉酸代謝拮抗剤の臨床での毒性は、驚くことではないが、患者の葉酸の前処置によって影響を受ける。GARFT阻害剤の場合、葉酸状態の効果が特に顕著であり、葉酸の補充を受けた患者は受けなかった患者に比べて最大耐量が10倍高い^(15)。」(6頁左欄10行?7頁右欄28行)

(甲5g)


図4 種々の葉酸代謝拮抗剤の構造」(6頁のFig 4.)

(甲5h)
「機能的葉酸の状況の臨床測定
葉酸代謝拮抗剤(特にGARFT阻害剤)の毒性を低減させるための葉酸の補充効果は明確であるが、葉酸代謝拮抗剤によって誘導される毒性と葉酸前処理のレベルとを相互に関連付けるのは常に困難であった。考えられるひとつの説明としては、測定時の葉酸レベルは増殖している細胞の中の葉酸の機能を適切に反映していないということである。これまで議論された経路に加えて、葉酸はメチオニン合成におけるその役割の効力によって細胞メチル化反応にも関与している。CH_(2)FH_(4)は5-メチルテトラヒドロ葉酸に還元され得る(図1)。これはホモシステインをメチオニンに変換するためメチル基を使う酵素メチオニンシンターゼの基質である。メチオニンは次に細胞内メチル化反応に参加してホモシステインを再生する。メチオニン合成はB_(12)依存性であるが、また、5-メチルテトラヒドロ葉酸も補助基質として用いる。従って、B_(12)あるいは葉酸の何らかの機能の欠如はメチオニンシンターゼを通した流れを結果として減少させ、ホモシステインの血漿レベルを増加させる^(16)(図8)。処置前の血漿のホモシステインの測定はMTAの毒性を予想する感度の高い方法であることが証明されている^(17)。」(8頁左欄1行?9頁左欄3行)

(甲5i)


図8.5-メチルテトラヒドロ葉酸の役割:機能的な葉酸の低下は血漿のホモシステインレベルを上昇させる。」(9頁のFig 8.)

(甲5j)
「LY231514(MTA)
MTAはイーライリリー(インディアナポリス、イリノイ州)によって、最初はTS阻害剤として開発された。しかしながら、議論された他の葉酸代謝拮抗剤とは異なり、MTAは葉酸代謝にかかわる他の二つの酵素、GARFTとDHFR(本紙、Mendelsohnら参照)を阻害することができることがすぐに明らかになっている。またMTAは前臨床での活性で幅広いスペクトラムを有しており、他の葉酸代謝拮抗剤とは異なるパターンの交差耐性を示し、そして、初期第II相臨床試験で報告されているように有望なレベルの活性を有している^(18)。ひとつ以上の遺伝子座で阻害する能力は、その薬剤に潜在的に感受性のある腫瘍の生化学プロファイルのスペクトラムを増加させることにより、そして薬剤耐性の獲得を妨げることにより、その結果に貢献することが可能である。本稿に続くレポートはこれらの問題を詳細に述べている。」(9頁左欄4行?22行)

(甲5k)
「結論
天然に生じる葉酸は複雑な代謝経路を有し、細胞増殖を含む多くの生命に必須の生化学プロセスに関係している。種々の代謝経路における直接的な役割に加えて、多くの他の現象が天然の葉酸や葉酸代謝拮抗剤として作用するそのアナログの両方の作用に著しく影響を及ぼす。それは、細胞膜輸送であったり、ポリグルタミン酸形成であったり、該当する患者の葉酸前処置状況であったりする。非常に複雑な関連プロセスは、葉酸代謝拮抗剤が正常組織に比べて腫瘍を特異的に選択する利点を有することを可能とする方策を示唆している。臨床で活性のある数種の薬剤が既に開発されている。LY231514(MTA)は重要な薬剤として、そして既存薬を進歩させたものとしてそこに追加されると考えられる。」(9頁左欄23行?同頁右欄6行)

〔甲6(Niyikiza et al.: Animals of Oncology, Vol.9, Suppl.4, 1998, pages 126-127, 609P)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲6には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「MTA(LY231514):ビタミン代謝プロファイル、薬物曝露およびその他患者の特性と毒性との関連性
(中略)
はじめに: MTAは、複数の酵素を阻害する作用を有する新規の多標的葉酸代謝拮抗剤である。第I/II相試験によって多様な腫瘍に対する抗腫瘍活性が示されている。その他の葉酸代謝拮抗剤の過去のデータにより、患者の栄養状態と重度の毒性発現リスクとの間に関連性があることが示唆されている。本試験の目的は、ビタミン代謝、薬物曝露およびその他ベースライン時における既定の患者特性と、MTA投与後に発現した毒性との関連性を検証することであった。
方法:第II相試験に参加した結腸腫瘍、乳房腫瘍、膵腫瘍および食道腫瘍患者139例を対象に、ベースライン時および各サイクルにつき1回、ホモシステイン(Hcys)値、シスタチオニン値およびメチルマロン酸値を測定した。ステップワイズ回帰モデル、多変量分散分析および判別分析を用いて、いずれかの予測因子にMTA治療レジメンの1コース終了後に発現した重度毒性との相関が認められるか検証した。予後因子として考えられたのは、年齢、性別、前治療、ベースライン時のアルブミン値、肝酵素、絶対好中球数(ANC)、血小板数、ビタミン代謝および血中濃度曲線下面積(AUC)であった。
結果:グレード4の好中球減少症(21例)の統計的に有意な予測因子は、アルブミン値(P=0.0006)およびHcys値(P=0.0012)であり、グレード4の血小板減少症(8例)の有意な予測因子はHcys値(P<0.0001)および治療前AST値(P=0.0012)であった。10μM以上のHcys値は、1サイクル目で75%の症例で認められたグレード4の好中球減少症の予測因子であり、70%の症例においてHcys値単独でグレード4の好中球減少症が予測可能であった。MTA投与期間中に、Hcys値およびアルブミン値のベースライン時からの変化はみられなかった。AUCは毒性の予測因子ではないことが判明したが、AUCのわずかな変動が認められた。最大値は第I相試験でみられた血液学的毒性に関連したAUC値よりも低い値であった。
結論:MTA治療により発現した毒性は、治療前ホモシスティン値から予測可能であると考えられる。ベースライン時のホモシスティン値の上昇(≧10μM)は、MTA治療後の重度の血液学的毒性および非血液学的毒性と強い相関を示した。ホモシスティンは、アルブミンと比較し毒性のよりよい予測因子であることが明らかになった。これらの結果はその他の研究対象の腫瘍にもあてはまる。腎機能障害患者または前治療としてシスプラチンを受けた患者において、さらなる研究が進行中である。」(甲6の全文)

〔甲7(Niyikiza C et al.: Proceedings of ASCO(American Society of Clinical Oncology) Volume 17, 1998, page 558a, No.2139)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲7号証には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「LY231514(MTA);ビタミン代謝プロファイルと毒性との関連性
(中略)
LY231514(MTA)は、チミジル酸生成酵素、ジヒドロ葉酸還元酵素およびグリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼの阻害作用を有する新世代の多標的葉酸代謝拮抗剤である。第I相試験でMTA(600mg/m^(2)を21日間ごとに10分間かけて静注)の治療を受けた計246例中、118例のビタミン代謝を測定した。その他の葉酸代謝拮抗剤を用いた初期の試験では、栄養状態が重度の毒性発現リスクに関連のある可能性が示唆されたため、ビタミン代謝物であるホモシステイン、シスタチオニンおよびメチルマロン酸の各値をベースライン時および各サイクルにつき1回測定した。データの多変量統計解析を行い、予め定めた一連の予測因子(クレアチニンクレアランス、アルブミン値、肝酵素レベルおよびビタミン代謝)の中でいずれかの因子に毒性との相関があるかを検証した。ベースライン時のホモシステイン値と試験期間中いずれかの時点でみられた以下の毒性発現との間に強い相関が認められた。CTCに基づくグレード4の好中球減少症(57例、P<0.0001)、グレード4の血小板減少症(13例、P<0.0001)、グレード3または4の粘膜炎(8例、P<0.0003)およびグレード3または4の下痢(8例、P<0.004)である。シスタチオニン値に関しては、血液学的毒性または粘膜炎との相関は示されなかったが、疲労感とは中程度の相関が認められた(P<0.04)。シスタチオニン最大値はMTA治療期間中にベースライン値の2倍に倍増した。毒性(上記に定義するCTCグレード)と残りの予測因子との間に相関は認められなかった。ホモシステイン値が閾値の10μMを上回る患者すべてにおいて毒性が認められた。また、ホモシステイン値、CTCグレード4の好中球減少症、血小板減少症、CTCグレード3または4の粘膜炎との間に経時的な相関関係が認められたが、治療レジメンの最初の2サイクルでのみ認められた。MTA治療期間中、ホモシステイン最大値のベースライン時からの変化は見られなかった。」(甲7の全文)

〔甲8(Robert Clarke: BMJ VOLUME 316, 21 MARCH 1998, pages 894-8)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲8には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「目的:葉酸とビタミンB-12またはB-6との食餌補充により生み出されるホモシステイン濃度の低下の大きさを測定する。
デザイン:血中ホモシステイン濃度に対する、葉酸をベースとした補充療法の効果を評価したランダマイズト・コントロールド・トライアルのメタアナリシス種々の葉酸の投与量、および、追加したビタミンB-12またはB-6の種々の投与量についての、ホモシステイン濃度に対する効果を、多変量回帰分析を使用して、決定した。」(894頁左欄2?12行)
「結論:西洋人において、典型的には、1日当たり、0.5?5mgの葉酸および約0.5mgのビタミンB-12の補充により、血中ホモシステイン濃度が、1/4?1/3減少(例えば、約12μmol/lから8?9μmol/lへ減少)することが期待できるであろう。血中ホモシステイン濃度の低下が血管疾患のリスクを下げるのかどうかを決定するために、このようなレジメンの大規模無作為化試験が現在必要とされている。」(894頁右欄9?17行)
「ホモシステインの血中濃度は、葉酸、ビタミンB-12の血中濃度と逆相関の関係にあるが、ビタミンB-6とはより少ない関係にしかない。」(895頁左欄8?10行)

〔甲9(Hans J Naurath et al.: The Lancet, Vol.346, July 8, 1995, pages 85-89)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲9には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「二重盲検のマルチセンター・プロスペクティブ・スタディにより、高齢者(在宅175人および入院110人)における、メチルマロン酸(MMA)、ホモシステイン(HCYS)、2-メチルクエン酸(2-MCA)およびシスタチオニン(CYSTA)の血漿中濃度への、ビタミンB_(12) 1mg、葉酸1.1mgおよびビタミンB_(6) 5mgを含むビタミン補助剤の筋注による効果を、プラセボと比較した。ビタミン補助剤と疑薬は、3週間に渡り、8回投与した。スタディ終了時点において、全4種の代謝物濃度は、ビタミン補助剤投与群では有意に低下したが、プラセボ投与群ではそうではなかった。この処置における最大の効果は、通常、5?12日までに現れた。当初上昇していた代謝物濃度は、プラセボ投与群に比しビタミン投与群で、より高い割合で正常に戻った:HCYSについて92%vs20%;MMAについて82%vs20%;2-MCAについて62%vs25%;およびCYSTAについて42%vs25%。」(85頁左欄)

〔甲10(A. Andersson et al.: European Journal of Clinical Investigation (1992) 22, 79-87)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲10には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「男性および女性の双方で、空腹時血漿総ホモシステイン値は、血清ビタミンB_(12)濃度と血中葉酸濃度に対し、顕著に負の相関を示していた。」(79頁左欄23?26行)

〔甲11(Sally P. Stabler et al.: Blood, Vol.81, No.12 (June 15), 1993, pages 3404-3413)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲11には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「ホモシステインは、コバラミン(Cbl)と葉酸に依存する酵素、メチオニンシンターゼによって、メチル化され、メチオニンになる;総ホモシステインの血清レベルは、Cblまたは葉酸の欠乏症患者の95%超で、上昇している。」(3404頁左欄1?5行)

〔甲12(Per M. Ueland et al.: Clinical Chemistry, Vol.39, No.9, 1993, pages 1764-79)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲12には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「血漿/血清中の総ホモシステインは、コバラミンまたは葉酸欠乏症の患者において、顕著に増加しており、欠乏しているビタミンで処置された場合にだけ、減少する。したがって、総ホモシステインは、このような欠乏症の診断およびフォローアップに有用であり、従来の研究機関での試験の欠点を補うことができる可能性がある。」(1764頁左欄16?23行)

〔甲13(L. Brattstrom et al.: Journal of Internal Medicine 1994, 236, pages 633-641)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲13には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「システインではなく、ホモシステインの血漿における顕著な増加もまた、葉酸およびビタミンB_(12)欠乏症における典型的な所見である。」(634頁左欄下から3?1行)

〔甲14号証(David G. Savage et al.: The American Journal of Medicine, March 1994, Volume 96, pages 239-246)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲14には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「コバラミン欠乏症の434例のうち、98.4%で血清メチルマロン酸レベルが、95.5%で血清ホモシステインレベルが上昇していた。・・(略)・・葉酸欠乏症の123例では、91%で血清ホモシステインレベルが増加していた。メチルマロン酸は、葉酸欠乏症患者の12.2%で上昇していた。」(239頁左欄32行?右欄4行)

〔甲15(Lars Brattstrom: The Journal of Nutrition, Supplement, 1996, pages 1276S-1280S)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲15には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「今日、中等度のホモシステイン血症は、心血管系疾患に対する確立されたリスク・ファクターと考えられている。血漿ホモシステイン濃度の全範囲と心血管系リスクとの間における、等級化された用量-応答関係は、因果関係を強くサポートするものである。したがって、ホモシステインを低下させるビタミンを用いた介入研究が必要とされている。この短いレビューは、葉酸補充が、上昇した血漿ホモシステイン濃度を顕著に低下させるだけでなく、正常なホモシステイン濃度をも引き下げることを示している。1mg/日未満の用量の葉酸が有効である可能性がある。葉酸とシアノコバラミンとの組み合わせによる補充療法は、十分なホモシステイン低下効果を保証し、治療期間中のビタミンB-12欠乏症の発症を予防する。」(1276S頁左欄の「ABSTRACT」)
「長期間ホモシステインを低下させるため、どのようなビタミンの用量と併用が勧められるべきか。いくつかの理由により、葉酸とシアノコバラミンを併用することが賢明と思われる。第一に、葉酸は、低いホモシステインレベルを除き、ほぼ全てのホモシステインレベルを低下させるようである。第二に、シアノコバラミンは、おそらく完全な葉酸応答を保証する。第三に、ビタミンB-12欠乏においては、葉酸による誤った処置は血液学的異常を治すが、ビタミンB12の神経症を誘発し悪化させるであろう(Chanarin 1994)。従って、治療の開始前に、ビタミンB-12欠乏は除外されなければならず、併用は、たとえ治療中に完全な内因子欠乏が生じたとしてもビタミンB-12欠乏の発生を防止するのに十分な高用量のシアノコバラミンを含まなければならない。経口投与されたシアノコバラミンのうち、約1%だけが受動的に血液に吸収される(Berlinら1968)。ビタミンB-12の正常な1日当たり内因子受容体介在性摂取量は2μg未満であり、これは、少なくとも0.2mgのシアノコバラミンが投与されなければならないということを意味している(Adamsら1971)」(1278S頁左欄24?44行)

〔甲16(Anja Bronstrup et al.: American Journal of Nutrition 1998, 68, pages 1104-1110)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲16には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「健康な若い女性の血漿ホモシステイン濃度に対する、葉酸による、および、葉酸とビタミンB-12との併用による効果」(1104頁の標題)

「この研究では、ビタミンB-12の補充により、葉酸による血漿中総ホモシステイン低下能が増大した。」(1109頁左欄13?14行)
「葉酸とビタミンB-12は、メチオニン合成酵素の補因子として、相乗的な機能を有するので、両者の充足が酵素活性の増加に重要であると思われる。」(1109頁左欄19?21行)

〔甲17(日比野進監修 血液学、丸善株式会社、昭和60年10月5日発行、表紙、第534?547頁および奥付)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲17号証には、以下の記載がある。

「 付.治療の一般基準 悪性貧血(B_(12)欠乏症)の治療は、原則としてB_(12)製剤の非経口投与(筋注)が行われる。B_(12)製剤にはcyanocobalamin (CN-B_(12))、hydroxocobalamin (OH-B_(12))、補酵素型B_(12)などがあり、いずれも有効であるが、注射後の体内貯留率はOH-B_(12)が最も優れており、維持療法においてもOH-B_(12)が用いられることが多い。初めの補充療法には2?3日間隔、6回以上のB_(12)(1回1000μg)投与が行われ、神経症状を有する場合は更に大量が用いられる。維持投与は通常2?3ヵ月毎に1回500?1000μgの投与(筋注)が行われる。B_(12)の経口投与は原則として行われないが、注射ができない時は行う(500?1000μg毎日)。」(547頁左欄3?14行)

〔甲18(新版日本血液学全書刊行委員会編 新版日本血液学全書3、丸善株式会社、昭和55年10月30日発行、表紙、第365?366頁、および第412?417頁奥付)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲18には、以下の記載がある。

「B_(12)投与の原則は、経皮(皮下あるいは筋肉内)注射である。B_(12)の欠乏が吸収障害による場合の多いこと、B_(12)の経口投与での吸収効率が悪いことなどからである。」(412頁26?27行)
「つぎに補充療法に入る。完全寛解に入ったとしても、全くB_(12)が体内に入らない場合、悪性貧血や全胃切除後がこれに相当するわけであるが、1日2.6μgを消費するとして、CN-B_(12) 1000μg注射1回で33日間、OH-B_(12) 1000μg1回注射で119日間のB_(12)の消費をまかなうことができる。その計算基準は先に表23で示した。逆にいえば、維持療法としては、CN-B_(12) 1000μg1本を1ヵ月に1回、OH-B_(12) 1000μgであれば3ヵ月に1回の投与で再発を完全に防ぎ得ることになる。」(415頁2?8行)
「B_(12)の内服を用いるとすれば、吸収効率を考えて、単独で1000μg程度の内服を行わなければならず、それでもせいぜい5?10μgの注射に相当する量が体内に入るにすぎない。またB_(12)の維持療法として、寛解後の投薬上の便利さから用いられる。B_(12)同族体間における吸収効率には多少の差はあるが、治療上特に有効度に差の出る程の相違はないものと考えてよい。」(416頁2?6行)

〔甲19(吉成昌郎:改訂医薬品作用の基礎と応用、昭和62年10月25日改訂1刷(株式会社薬業時報社発行)、第427?433頁および奥付)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲19には、以下の記載がある。

「7.ビタミンB_(12) Vitamine B_(12)
(化学構造式 略)
ビタミンとしての化合物はCyanocobalamin(CN-B_(12))とHydroxocobalamin(OH-B_(12))で、いずれもCobamamide(DBCC)またはAdenosyl cholinoideという補酵素となる。さらに、Mecobalamin別名Methylcholinoideも補酵素といわれている。
両補酵素は種々の転移反応や還元反応に関与しているが、動物では前者がMethylmalonyl-CoAをSuccinyl-CoAに変換させる(異性体化させる)Methylmalonyl-CoA mutaseという酵素の補酵素として、後者はmethyonine synsetaseの補酵素としての機能が知られている。」(429頁3行?430頁下から2行)

〔甲20(Michael L. Bishop et al.: Clinical Chemistry; Principle, Procedures, correlations, 1996, pages 618-627; Published by J. B. Lippincott)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲20には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「B_(12)欠乏症は血清メチルマロン酸とホモシステインの濃度の評価によってなされるかもしれない(表29-20)95,96,168,245,246。メチルマロン酸(MMA)および総ホモシステインレベルの上昇は、コバラミン欠乏症の症例の90%超で検出されている。尿のMMA排泄の測定も診断に有用である。欠乏症の他の臨床的証拠が明らかになる前にこれら代謝物の増加がしばしば発生する。血清のMMAレベルが>950nmol/L(110-950nmol/L)で総ホモシステイン濃度が>29micromoles/L(6-29micromoles/L)であるなら、正常の血液学的パラメーターであっても、B_(12)欠乏症であることを示唆している。」(625頁右欄8?19行)

〔甲第22号証:Eli Lilly & Co.: Summary ID#3653, 2004〕
本件特許出願の出願日(2001年6月15日)より後に頒布された刊行物である甲22には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

(甲22a)
「CTレジストリID番号 3653
概要書ID番号 3653
臨床試験概要書:試験H3E-MC-JMDR」(Page 1の1?3行)
試験の標題:悪性胸膜中皮腫患者において21日毎に静脈内投与を行ったLY231514の第II相治験
治験責任医師等:多施設共同試験である本試験には、10名の治験責任医師等が参加した。
治験実施施設:本試験は世界4ヵ国の10施設で実施した。
試験期間:1年10ヵ月半
最初の患者の登録日:1999年9月1日
最後の患者の試験の終了日:2001年7月14日
開発のフェーズ:第II相」(Page 1の1?10行)

(甲22b)
「目的:主要目的は、ペメトレキセド投与を受けた悪性胸膜中皮腫患者の腫瘍奏効率(応答率)を明らかにすることであった。
副次的目的は
(1)奏効をみた患者での全生存期間、無増悪期間及び奏効持続期間の無イベント期間エンドポイント、並びに治療失敗までの期間を測定すること、
(2)パフォーマンスステータス、患者報告による疼痛強度、鎮痛剤の使用、及び呼吸困難を評価するための臨床ベネフィット応答アルゴリズムを使用して、ペメトレキセド投与後の臨床ベネフィット応答率を明らかにすること、
(3)肺癌症状評価スケール(LCSS)、肺機能検査(PFT)測定値、肺密度測定値の変化を評価すること、
(4)悪性胸膜中皮腫患者に対して21日毎に投与したペメトレキセドの毒性について定量的及び定性的な特性解析を行うこと、及び
(5)患者のビタミン欠乏マーカーの状態を評価することであった。」(Page 1の11?22行)

(甲22c)
「治験のデザイン:本試験は、化学療法未治療の悪性胸膜中皮腫患者で実施した、ペメトレキセドの外来ベースによるオープンラベル、2ステージ、第II相試験であった。1999年12月10日以降はペメトレキセド療法の標準的部分として、本治験の全参加患者に対して葉酸及びビタミンB_(12)の補給を行った。
治験対象患者数:
計画時:61例
登録時:64例、このうち43例がビタミン補給を受け、21例は受けなかった。
診断及び主要な選択基準:主要な選択基準は、一次元的又は二次元的に測定可能な悪性胸膜中皮腫が組織診により診断されている年齢18歳以上の男性又は女性であって、根治的手術の候補ではないことであった。」(Page 1の23?32行)

(甲22d)
「被験薬、用量及び投与方法:全登録患者に対して、21日を1コースとして第1日目に10分間の静脈内注入によりペメトレキセド500 mg/m^(2)を投与した。
発疹の一次予防のために、試験に登録された全患者に対して、各回のペメトレキセド投与の前日、当日及び翌日に、デキサメタゾン4 mg(又はデキサメタゾン4 mg等量のコルチコステロイド)を1日2回経口投与することとした。
ペメトレキセド初回投与の約1?2週前から葉酸350?1000 μgの連日経口投与を開始し、患者への投与中止から1?2週後まで継続することとした。ペメトレキセド初回投与の約1?2週前にビタミンB_(12)注射薬1000 μgを筋肉内投与し、患者への投与を中止するまで約9週毎に継続して投与することとした。
投与期間:ペメトレキセド療法の投与は、複数コースにわたって行えることとした。病勢の進行のエビデンス又は許容できない毒性が認められるまで、或いは患者から治療中止の依頼がなされるまで、治療コースを繰り返すことができることとした。試験治療の投与を継続することが患者の利益にならないと治験責任医師が感じる場合、又はイーライリリー・アンドカンパニーが治験責任医師と相談の上で患者の治療を中止する判断を下した場合にも、患者への試験治療を中止できることとした。
対照治療、用量、投与方法:該当なし。」(Page 1の33行?Page 2の7行)

(甲22e)
「評価項目:
有効性:
・腫瘍奏効率:完全奏効及び部分奏効をみた患者数を解析に適格な患者数で割った数。
・全生存期間:治験への参加から、あらゆる原因による死亡までの期間。
・奏効持続期間:完全奏効又は部分奏効の状態が客観的に評価された時点から、進行又はあらゆる原因による死亡までの期間。
・無増悪期間:治験への参加から、進行が最初に認められた時点又はあらゆる原因による死亡までの期間。
治療失敗までの時間:治験参加から、進行が最初に認められた時点、あらゆる原因による死亡、又は治療の早期中止までの期間。
・臨床ベネフィット応答:パフォーマンスステータスの変化、患者報告による疼痛強度の変化、鎮痛剤の使用、及び呼吸困難。
・横隔膜運動及び胸郭拡張の改善の指標としての肺密度のCTスキャンによる客観的測定。
安全性:
・必要とした輸血単位数
・有害事象発生率
・国立がん研究所共通毒性基準の評価尺度を用いた毒性グレードの評価
・ビタミン欠乏マーカーの測定:ホモシステイン、シスタチオニン、メチルマレイン酸及びメチルクエン酸(合計、I及びII)。
健康アウトカム:
・肺癌症状評価スケール。」(Page 2の8行?最下行)

(甲22f)
「評価方法:
統計学的評価:
本試験はランダム化の必要がない第II相オープンラベル治療試験であった。本臨床試験の主要目的は、悪性胸膜中皮腫患者におけるペメトレキセドの抗腫瘍活性を推定することであった。最大61例までの適格な患者を2ステージ連続試験である本試験に登録することとし、有効性の欠如又は許容できない毒性の場合には、治験を早期に取り止める可能性があるものとした。推定を行う評価項目のすべての信頼区間は、有意性のレベルαを0.05として求めた。
有効性の主要エンドポイントである奏効率は以下の計算式で算出した。奏効率には95%信頼区間を含めた。

有効性の副次的解析には以下の項目を含めた。
患者の全生存期間、治療失敗までの期間及び無増悪期間のKaplan-Meier曲線、並びに各評価項目の四分位数。Kaplan-Meier解析は、Statistical Application Software^((R))(SAS)のPROC LIFETESTを使用して行った。
臨床ベネフィットのベースラインからの変化とは、以下の項目に関する、ベネフィットの解析に適格な患者数に対する臨床ベネフィットのレスポンダー数の比と定義した。
-LCSSの個別項目スコア及び合計スコアのベースラインからの変化。
-肺機能検査のベースラインからの変化。
-肺密度測定値のベースラインからの変化。」(Page 3)

(甲22g)
「要約:
当社は本治験の実施中に、ペメトレキセド療法の標準部分として低用量葉酸及びビタミンB_(12)の補給を必要とする旨の変更をプログラムに基づいて行った。この変更は患者の安全性の向上のために1999年12月10日に実施した。ビタミン補給ありの患者とは、1999年12月10日以降に本治験に登録され、葉酸及びビタミンB_(12)の投与が割り付けられた患者と定義した。ビタミン補給なしの患者とは、(1)1999年12月10日以前に本治験に登録され、1999年12月10日以降に葉酸及びビタミンB_(12)の投与が割り付けられた患者、又は(2)1999年12月10日以前に本治験に登録され、ビタミン補給のための葉酸又はビタミンB_(12)の投与を全く受けなかった患者と定義した。」(Page 4の「Summary」)

(甲22h)
「治験対象患者
70例の患者が本治験に参加し、うち64例の化学療法未治療患者が登録されて少なくとも1回の治験薬投与を受けた。43例の患者がビタミン補給を受け、21例の患者が受けなかった。本治験の患者年齢の中央値は65歳であった。ほとんどの患者が類上皮性中皮腫の診断を受け、登録時にはステージ3又は4の疾患を来していた。
ほとんどの患者が治験登録前に手術又は放射線療法を受けていた。21例の患者が診断のみのための手術を受け、29例の患者が緩和のための手術を受け、1例の患者が根治的な意図による手術を受けていた。最もよく挙げられた投与中止及び治験中止の理由は、有効性の欠如(病勢の進行)であった。」(Page 4の「Patients」)

(甲22i)
「有効性:腫瘍奏効率
本試験の主要目的は、ペメトレキセド投与後の患者の腫瘍奏効率を明らかにすることであった。治験責任医師が判断する腫瘍奏効率及び無イベント期間エンドポイントの解析に、64例の患者が組み入れられた。
表JMDR.1は、ビタミン補給ありの患者、ビタミン補給なしの患者及びすべての登録患者について、治験責任医師の評価による腫瘍奏効率をまとめた要約表である。治験責任医師の評価による全登録患者での腫瘍奏効率は14.1%であった(95%信頼区間[CI]、6.6%?25.0%)。

表2は、独立評価の対象として組み入れたれたビタミン補給あり及びなしの登録患者での腫瘍奏効率の詳細をまとめた要約表である。腫瘍奏効率の独立評価には56例の患者が組み入れられた。8例は、CTスキャンが不完全又は低品質であったので評価されなかった。独立評価による全登録患者での腫瘍奏効率は17.9%(95% CI、8.9%?30.4%)であった。

」(Page 4?5の「Tumor Response Rate」)

(甲22j)
「有効性:無イベント期間エンドポイント
全登録患者(N=64)について、全生存期間、無増悪期間、奏効持続期間及び治療失敗までの期間の中央値とこのときの95%信頼区間、並びに各エンドポイントの期間が6ヵ月間以上持続する確率の推定値の要約を表3に示す。

それぞれビタミン補給あり及びなしの患者での、全生存期間及び無増悪期間の中央値の要約を表4に示す。

」(Page 5の「Time-to-Event Endpoints」)

(甲22k)
「健康アウトカム:臨床ベネフィット応答
臨床ベネフィット応答の解析に56例の患者が組み入れられた。自己報告による呼吸困難、疼痛強度若しくは鎮痛剤使用、又は臨床医の評価によるパフォーマンスステータスに基づく評価にて、14例(25.0%)の患者で臨床ベネフィット応答が達成され、このとき他のいずれの測定項目にもこれと同時の悪化はなかった。これらの患者のうち9例から呼吸困難改善の報告があり、7例から疼痛強度改善の報告があり、3例から鎮痛剤使用改善の報告があった。またこれらの患者のうち2例でパフォーマンスステータスが改善した。
本解析に組み入れられた全患者でLCSSの解析を行ったところ、LCSS患者評価尺度の平均スコアは比較的変化が小さかった。しかし腫瘍応答に従って患者の解析を行ったところ、差が認められた。レスポンダーからは、食欲不振、疲労、呼吸困難、疼痛、症状のジストレス(苦痛度)、活動レベル、総合的な生活の質(QoL)及び合計LCSSスコアの改善が報告された。
LCSS観察者評価尺度の評価から、32%の患者から合計LCSSスコアの改善が報告されたことが示された。すべてのLCSS測定項目が評価されたほとんどの患者では、症状が改善するか安定に保たれていた。
肺密度は解析対象患者数が少なくデータのバラツキが大きかったので、いかなる特定の結論も導くことはできなかった。」(Page 6の「Health Outcomes: Clinical Benefit Response」)

(甲22l)
「安全性
安全性の解析に64例の患者が組み入れられた。これら登録患者は中央値で6コースの試験治療を完了していた。ビタミン補給ありの患者は中央値で6コースの治療を完了し、ビタミン補給なしの患者は中央値で2コースの治療を完了していた。ペメトレキセド用量の減量が7回行われており(全投与の2.1%)、その内訳はビタミン補給ありの患者で3回(全投与の1.2%)、ビタミン補給なしの患者で4回(全投与の4.3%)であった。これら用量減量の原因として最も高頻度に報告された有害事象は、好中球減少症及び発熱性好中球減少症であった。19回の投与延期が行われており、このうち臨床的に重要であったのは6回のみであった。これら6回の投与延期のうち5回はビタミン補給ありの患者で生じたものであり、1回はビタミン補給なしの患者で生じたものであった。ビタミン補給ありの患者での臨床的に重要な投与延期の原因は、帯状疱疹感染(2例)、心筋梗塞、疼痛及び無力症であった。ビタミン補給なしの患者での1回の投与延期の原因は、胸膜障害であった。13回の投与延期の理由は、スケジュール設定の衝突であった。
最も高頻度に報告された臨床検査毒性はグレード3又はグレード4の好中球減少症であり、15例(23.4%)の患者で報告された。ここにはビタミン補給なしの患者21例中11例(52%)が含まれていた。これに対してビタミン補給ありの患者でグレード3又はグレード4の好中球減少症が報告されたのは、43例中4例(9.4%)のみであった。
グレード3の白血球減少症が、ビタミン補給なしの患者21例中6例(28.6%)及びビタミン補給ありの患者43例中4例(9.4%)で報告された。グレード4の白血球減少症が、ビタミン補給なしの患者2例(9.5%)で報告された。ビタミン補給ありの患者でグレード4の白血球減少症が報告された患者はいなかった。
ビタミン補給なしの患者でグレード4の毒性の報告が12件あった。12件の報告の内訳は、好中球減少症8件、白血球減少症2件、血小板減少症1件、及び高ビリルビン血症1件であった。ビタミン補給ありの患者でのグレード4の毒性の報告は2件(好中球減少症)であった。

最も高頻度に報告された臨床的に重要な臨床検査外の毒性は、疲労及び発熱性好中球減少症(各4件の報告)であった。ビタミン補給なしの患者でグレード3の口内炎がより高頻度に報告され、ビタミン補給ありの患者ではグレード3の嘔吐がより高頻度に報告された。ビタミン補給ありの患者2例及びビタミン補給なしの患者1例で悪心が報告された。ビタミン補給なしの患者でグレード4の胸痛の報告が1件あった。ビタミン補給ありの患者にグレード4の毒性の報告はなかった。無力症が最も高頻度に報告された有害事象であった。全体として最も高頻度に報告された試験治療下で発現した有害事象(TEAE)の第1位から第5位は、無力症、悪心、発疹、白血球減少症及び食欲不振であった。白血球減少症が報告された29例中23例の患者では、好中球減少症も報告された。
ビタミン補給ありの患者で最も高頻度に報告されたTEAEの第1位から第5位は、無力症、悪心、発疹、食欲不振及び便秘であった。ビタミン補給なしの患者ではより多くTEAEが報告され、一般にこれらのTEAEはより高い発生率で発生していた。ビタミン補給なしの患者で最も高頻度に報告されたTEAEの第1位から第5位は、無力症、白血球減少症、悪心、発疹及び疼痛であった。
23例(ビタミン補給ありが13例、ビタミン補給なしが10例)の患者から1件以上の重篤な有害事象(SAE)が報告された。ビタミン補給ありの患者で最も高頻度に報告されたSAEは発熱であった。これらビタミン補給ありの患者での6件の発熱の報告の内訳は、発熱4件、発熱性好中球減少症1件、及び好中球減少症の合併のない発熱1件であった。ビタミン補給なしの患者で最も高頻度に報告されたSAEは、発熱(報告3件)及び白血球減少症(報告3件)であった。これら発熱の報告3件の内訳は、発熱性好中球減少症2件及び発熱1件であった。白血球減少症の患者3例は好中球減少症も来していた。
ビタミン補給ありの患者3例及びビタミン補給なしの患者4例の治験薬の投与中止又は治験の中止の理由は、有害事象であった。治験中止の理由となった有害事象の内訳は、ビタミン補給ありの患者がクレアチニン濃度増加、難聴及び関節痛であり、ビタミン補給なしの患者が脳血管発作、呼吸困難、腎機能異常、及び口内炎であった。
治験中に重篤で予測できない要報告事象の報告はなかった。
ビタミン補給ありの患者1例及びビタミン補給なしの患者1例の計2例の患者が本治験の治療期の期間中に死亡し、治験薬の最終投与後30日以内に2例の患者が死亡した。すべての死亡の原因は病勢の進行であった。
本治験の患者のビタミン欠乏マーカーの状態の評価から得られたデータを、ペメトレキセドの他の治験によるデータと統合した。治療前ホモシステイン濃度、低用量葉酸及びビタミンB12の補給と、ペメトレキセド投与患者で認められた血液毒性及び血液以外の毒性との関連性の解析に、これらのデータを用いた。」(Page 6?7の「Safty」)

〔甲23:Declaration by Dr. Ulrich Gatzemeier (2014年4月10日)〕
本件特許出願の後に作成されたDr. Ulrich Gatzemeierの宣誓書である甲23には、以下の事項が記載されている(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「Dr. Ulrich Gatzemeierの宣誓書
私、Dr. Ulrich Gatzemeierは以下のとおり宣誓し言明する:

I. 資格
1. 私はドイツ、ハンブルグにあるハンブルグ大学より1974年に医学士、1975年に医学博士の学位を授与された。1977年、呼吸器学、内科および腫瘍学の専門医となった。

2. 1985年から2010年まで、私はドイツ、グロースハンスドルフにある呼吸器・胸部外科センターの胸部腫瘍部門の医長であった。これまでの経歴において、私は140件の学術研究論文を公表し、胸部腫瘍を扱う多数の臨床治験に治験担当医師および治験責任医師として参加した。私の履歴書を本宣言にAnnex Aとして添付する。

3. 1999年から2001年まで私はペメトレキセド、ビタミンB12、葉酸の併用療法を分析する臨床試験に治験責任医師として関与し、その後この試験は本審判手続きにおいてD5として示す、Scagliotti et al., Journal of Clinical Oncology, Vol 21, No. 8 (April 15), 2003: pp1556-1561として公表された。これは本審判手続きにおける資料D4においてStudy H3E-MC-JMDRとして参照されているのと同じ試験である。

4. 本宣誓のために、本試験の手続きに関するいくつかの問題、特に本治験に参加した患者に関する守秘義務の問題についてコメントするよう求められている。さらに、ペメトレキセドにビタミンB12と葉酸を補給することによる効果に関してもコメントを求められている。私のコメント概要を以下に詳しく述べる。

II. 試験の手続きに関するコメント
5. 上述した試験は1999年9月に開始され、2001年7月に終了した。1999年9月に既に試験に登録されていた患者は、当初はペメトレキセド単独による治療を受けていた。1999年12月以降は、全患者がビタミンB12と葉酸の追加投与を受けた。従って、患者は次の3群に分かれた:
a. ペメトレキセドのみの投与を受けた患者。すなわち、1999年12月よりも前に試験を中止した患者、

b. 最初はペメトレキセドのみの投与を受け、後にビタミンB12と葉酸の追加投与を受けるようになった患者。すなわち、1999年12月よりも前に治療を開始し、1999年12月以降も治療を継続した患者、

c. ペメトレキセドとビタミンB12と葉酸の併用療法のみを受けた患者。すなわち、1999年12月以降に治療を開始した患者。

D4から分かるように(「患者数」参照)、総計64例の患者が試験に登録し、43例が葉酸とビタミンB12の補給ありであり、21例が補給なしであった。

6. 試験プロトコールの変更の理由は、ビタミンB12と葉酸の追加によりペメトレキセドによる副作用が大きく改善することが示されたことであった。このポジティブな効果が明らかになるとすぐに、すなわち1999年12月に、ペメトレキセドの投与をビタミンB12と葉酸を補給せずに継続することは倫理に反することであると考えられたので、試験に参加する全患者がこれらの追加投与を受けることになった。

7. 試験に参加する患者はペメトレキセドの静脈内点滴投与を3週間間隔で受けた。ペメトレキセド初回投与の1?2週間前から、葉酸を毎日経口で服用した。葉酸の服用は試験期間中および治療終了後1?2週間継続した。ビタミンB12 は、ペメトレキセドの初回投与の1?2週間前から筋肉内注射により投与し、ペメトレキセドによる治療が終わるまで約9週間毎に繰り返し投与した。

8. 参加する可能性のある患者に対して、試験参加前に試験の詳細と目的について説明した。試験は非盲検試験であり、患者はペメトレキセド、ビタミンB12および葉酸の併用が行われる事について知らされた。さらに患者には、本試験の目的が、1つは悪性胸膜中皮腫に対するペメトレキセドの有効性を評価することであり、もう1つはビタミンB12と葉酸を同時に補給することでペメトレキセドによる副作用が軽減されるかを評価することであることが知らされた。

9. この情報を得て、患者が試験参加を決意した場合には、患者はいわゆる同意書に署名しなければならなかった。さらに、通常の臨床プラクティスに従い、この同意書は、患者に対して患者の身元が機密保持されることを保証するものであった。しかし、この同意書は患者に機密保持義務を課すものではなかった。すなわち、患者は試験前および試験期間中に得るいかなる情報に関しても、それを秘密にしなければならないということはなかった。

10. 1999年12月における試験プロトコールの変更により、試験参加中に治療が変更となった、すなわち、ビタミンB12と葉酸の補給が追加された患者群(上述の「b群」)ができた。この試験は非盲検試験であったため、我々の通常のプラクティスに則して、我々がこれらの患者に試験プロトコールの変更について詳細に説明したということ、すなわち、1999年12月の時点において以後彼らがビタミンB12と葉酸の補給を受けること、および、この補給はペメトレキセドの毒性を軽減するために追加されるものであることを説明したということを、私は確信している。従って、1999年12月に試験プロトコールが変更されたため、通常の臨床プラクティスに従い、「b群」の患者は、この変更を明示した修正同意書に署名したと思われる。同様に、「c群」の患者は、ペメトレキセドとともにビタミンB12および葉酸を併用するという情報を含む同意書に署名したと思われる。

11. 試験期間中、私(または私の腫瘍チームメンバーの一人)が、腫瘍反応と副作用発現について参加患者を監視した。全般的に、腫瘍反応は、治療開始時とペメトレキセド治療の2クール毎、すなわち6週間毎に、CTスキャンまたは磁気共鳴画像スキャンのいずれかにより分析した。腫瘍反応は確立された基準による次のカテゴリーに分類した:完全寛解、部分寛解、病勢安定または腫瘍進行。これらのカテゴリーへの最終分類は、結果を2回確認した後に行った。副作用発現は、各治療期の前、すなわち3週間毎に分析した。これらの副作用は、臨床検査の副作用と、非臨床検査の副作用とに区別した。分析した臨床検査の副作用は、好中球減少症と白血球減少症を含み、これらの診断は血液検査により行った。非臨床検査の副作用は、疲労、発熱性好中球減少症、悪心、嘔吐および口内炎/咽頭炎であった。これらの副作用は患者自身が経験するものなので、副作用発現は各治療期の前に回収した患者供述に基づいて判定した。臨床検査および非臨床検査の副作用は、責任医師がWHO基準に従って0?4のカテゴリーに分類した。

12. 腫瘍反応の分析時毎に、私(または私の腫瘍チームのメンバーの一人)が参加患者に結果を説明した。従って、患者がペメトレキセド、ビタミンB12および葉酸による治療に反応した場合、例えば部分寛解を示した場合、患者はそのポジティブな治療効果について知った。同様に、各参加患者は、患者自身に起こった臨床検査の副作用を、その発現の評価時毎に知らされた。さらに、非臨床検査の副作用の進行については、患者自身が直接経験するので、患者らはそれらに気づいていた。腫瘍反応の結果と副作用発現はともに、それぞれの発現時、すなわち判定後に、責任医師と議論された。

13. 上述のように、ペメトレキセド単独で治療を開始し、その後にビタミンB12および葉酸の補給を受けた患者群(「b」群)が存在した。上で説明したように、これらの患者は補給の目的についての説明を受けた。すなわちペメトレキセドによる副作用を減らす目的であることの説明を受けた。さらに、「b」群の患者は、ペメトレキセド単独による治療期と1999年12月以降のペメトレキセド、ビタミンB12、葉酸を併用する治療期を直接的に比較できる立場にあった。この補給により副作用が有意に減少したため、これらの患者は、補給によるポジティブな効果についての知識に加えて、ペメトレキセドによる副作用がビタミンB12および葉酸の併用により改善することも直接的に経験した。

14. さらに私は、Study H3E-MC-JMDRにおいて、ペメトレキセド治療に葉酸とビタミンB12を補給することによる唯一の効果は、ペメトレキセドによる副作用の減少であることを特に指摘する。本試験の結果は、ビタミンB12および葉酸の補給がペメトレキセドの効果を増強するということは示さなかった。すなわち、ビタミンB12と葉酸が、ペメトレキセド単独の治療と比較して腫瘍増殖抑制を増強することを示す兆候は認められなかった。この結果は公表され、D5(1560ページの考察)において確かめられた。それは、補給を受けた患者と受けなかった患者の間に腫瘍抑制における差は認められなかったことを明確に述べている。

III. 結論
15. 要約すると、上述の臨床試験に参加した患者は、いかなる種類の機密保持契約にも拘束されていなかった。さらに、投与前に、これらの患者は投与を受ける物質、すなわちペメトレキセド、ビタミンB12および葉酸について十分な説明を受けていた。また投与の目的、すなわち癌治療とペメトレキセドによる副作用の抑制についても説明を受けていた。加えて、試験期間中、参加患者は、自分の疾患がどのように治療に反応したかやその副作用プロファイルについて、詳細な情報を得ていた。従って、患者は、達成された治療効果を知っていた。最後に、1999年12月以降、参加患者のあるサブグループは、ペメトレキセド治療にビタミンB12と葉酸を補給すると副作用が減少することを直接的に経験する立場にあった。さらに、ビタミンB12と葉酸は、腫瘍増殖に対するペメトレキセドの効果を増強するものではない。

謹んで提出致します
(署名)
Dr. Ulrich Gatzemeier
2014年4月10日」

〔甲36:ICHハーモナイズド3極ガイドライン(1996年6月10日)〕
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲36には以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「このガイドラインは、ICHプロセスに従い、適切なICH専門家ワーキンググループによって作成され、規制パーティーでの審議を経たものである。このステップ4の段階では、欧州連合、日本および米国の規制当局に対して、この最終ドラフトの承認を勧告する。」(表紙の一番下の段落)

「1.34 インベスティゲータ
治験場所において、当該臨床治験の実施に対して、責任を負う者。治験が、治験場所において、個人から構成されるチームによって実施される場合、インベスティゲータは、そのチームの責任あるリーダーであり、第一インベスティゲータと呼ばれることもある。サブインベスティゲータを参照。」(5頁下から5行?最下行)

「1.56 サブインベスティゲータ
臨床治験チームを構成するメンバーであり、臨床治験に関する手順を遂行するため、および/または、治験に関する重要な決定を行うため、治療場所のインベスティゲータから指示され監督される者(例えば、アソシエート、レジデント、リサーチフェロー)」(8頁10?14行)

「2.3 治験に参加する被験者の権利、安全、および健康は、最も重要な考慮すべき事柄であって、科学面や社会面の利益に対して優先すべきものである。」(9頁8?9行の2.3)

「3.治験審査委員会/独立倫理委員会(IRB/IEC)
3.1 責任
3.1.1 IRB/IECは、すべての治験対象者の権利、安全、および健康を守ることとする。傷つきやすい患者を含む可能性のある治験に対しては、特別の注意を払うこととする。
3.1.2 IRB/IECは、以下の書面を取得する:

治験プロトコール/その変更、同意書面の書式およびインベスティゲーター(治験実施者)が当該治験での使用を提案する最新の同意書の書式、患者募集手続(例えば、広告物)、患者へ提供される書面情報、IB(Investigator's Brochure)、利用できる状態の安全性情報、患者への報酬および補償についての情報、インベスティゲーターの最新の経歴書および/またはその能力を証する他の書面、およびIRB/IECがその責務を全うするために必要とする可能性のある他の書面

IRB/IECは、合理的な時間内に提案された臨床治験を審査し、当該治験、審査した書面および日付を特定して、以下に対するその見解を書面化する。
-承認/肯定的見解;
-承認に先立ち修正要/肯定的見解;
-不承認/否定的見解;および
-以前の承認の取消/一時中止/肯定的見解」(9?10頁の3?3.1.2)

「4.8 治験患者に対してのインフォームドコンセント
4.8.1 インフォームドコンセントを得て書面化するに際して、インベスティゲーターは、適用される規則の要件に適合することとし、かつ、GCPおよびヘルシンキ宣言に依拠する倫理原則を順守する。治験の開始前においては、インベスティゲーターは、患者に提供される同意書面書式およびその他の書面情報について、IRB/IECの書面同意/肯定的見解を得ておくこととする。
4.8.2 患者に提供される書面同意書式およびその他の書面情報は、患者の同意に関連する可能性のある重要な新情報が利用可能になる毎に改訂される。改訂されたいずれの書面同意書式およびその他の書面情報も、その使用前に、IRB/IECの承認/肯定的見解を得ることとする。患者やその法的に許容される代理人は、治験への参加継続についての患者の意志に関係する可能性のある新情報が利用可能になった場合には、適時に知らされることとする。この情報についてのコミュニケーションは書面化される。」(15頁の4.8?4.8.2)

「4.8.6 書面同意書式を含む、治験についての口頭または書面情報に用いられる文体は、できるだけ専門用語を使わず、被験者、被験者の法的に許容できる代理人、及び公平な立会人に理解可能なものであるべきである。」(15頁下から12行?9行の4.8.6)

「4.8.7 インフォームドコンセントの取得が可能となる前に、インベスティゲーター、またはインベスティゲーターから指示された者は、被験者または被験者の法的に許容できる代理人に、治験の詳細について質問をするための、および、治験に参加するかどうかを決定するための十分な時間と機会を与えるべきである。治験についての質問に対しては全て、被験者または被験者の法的に許容できる代理人が満足するまで、答えられるべきである。」(15頁下から8行?3行の4.8.7」

「4.8.10 患者に提供されるインフォームドコンセントの議論および同意書面の書式並びにその他の書面情報は以下の説明を含むこととする:
(a)治験は研究に伴うものであること
(b)治験の目的
(c)治験における処置の内容、および、各処置についての無作為化割付の確率
(d)すべての侵襲的手順を含む、治験の手順
(e)患者の責務
・・(略)・・
(h)合理的に期待できる利益。患者に臨床上の利益がないと考えられる場合にはその旨を患者に知らせる。
・・(略)・・」(16?17頁の4.8.10)

「5.12 治験薬の情報
5.12.1 スポンサーは、治験を計画する際には、当該投与量・当該投与経路・当該投与期間・当該試験対象群によるヒトへの暴露をサポートするに十分な、安全性と有効性に関する非臨床および/または臨床試験データが、利用可能な状態にあることを保証する。](24頁の5.12?5.12.1)

「6.臨床治験プロトコールおよびプロトコールの変更
治験プロトコールは、通常、以下のトピックスを含む。・・(略)・・。
6.1 概説
6.1.1 プロトコール・タイトル、プロトコール番号、および日付。何らかの変更があった場合には、その修正番号と修正日を記載する。
・・(略)・・
6.3 治験の目標および目的
治験の目標および目的についての詳細な記述
6.4 治験のデザイン
治験からのデータの科学的一貫性および信頼性は、実質的に、治験のデザインに依存する。治験のデザインは以下の点を含むものとする:
6.4.1 治験で評価する、主要評価項目、および必要な場合には副次的評価項目についての明確な記述
6.4.2 実施される治験のタイプ/デザイン(例えば、二重盲検、プラセボコントロール、パラレル・デザイン)についての記述および治験デザイン、手順およびステージについての概要図
6.4.3 以下を含む、バイアスを排除/最小化するための手段についての記載:
(a)ランダム化
(b)盲検化
6.4.4 治験での処置、並びに、治験薬の用量および投与方式についての記述。治験薬の剤形、包装、および効能効果も含む。
・・(略)・・
6.6 患者の処置
6.6.1 製品名、用量、投与スケジュール、投与経路/態様、治療期間を含む実施される処置。・・(略)・・
6.7 有効性の評価
6.7.1 有効性のパラメータについての詳述
6.7.2 有効性のパラメータの評価、記録および解析の時期と方法
6.8 安全性の評価
6.8.1 安全性パラメータについての詳述
6.8.2 安全性のパラメータの評価、記録および解析の時期と方法
・・(略)・・
6.9 統計
・・(略)・・」(30?33頁の6?6.16)

〔乙33:Dr. Scagliottiの宣誓書〕
甲23に対する意見を求められて作成された宣誓書として提出された、本件特許出願の後に作成された乙33には、以下の事項が記載されている(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「Giorgio Scagliotti博士の宣誓書

私、Giorgio V.Scagliottiは、ここに、以下について宣誓する。

諸言
1.私は、これらの手続きが関するイーライリリー・アンド・カンパニーに対して付与された欧州特許第1313508号(以下、「特許」)を、異議申立人によって提出されたGatzemeier博士の宣誓書と共に読んだ。私は、この宣誓書に対する意見を求められた。

個人的な経歴
2.私は、35年超の腫瘍学の治療の経験がある。私は、医学の学位を取得し、トリノ大学の呼吸器内科、内科および腫瘍内科において、大学卒業後の研修を終えた。2007年12月から2012年2月まで、私は、呼吸器内科において大学院の責任者を務めた。

3.過去15年にわたり、私の研究の関心には、翻訳研究を含む肺癌における基礎研究および臨床応用研究に関する実験的研究が含まれる。私は、肺癌の化学療法および標的療法に対するいくつかの欧州および国際臨床試験の試験コーディネーターを務めており、初期の非小細胞肺癌における化学療法の役割を研究するいくつかのイタリアでの研究の重要な研究者である。

4.私は、イタリア呼吸器学会、欧州呼吸器学会、米国臨床腫瘍学会および国際肺癌学会を含む多くの学会のメンバーである。2002年から2005年の間、私は、米国臨床腫瘍学会の国際専門委員会のメンバーであり、2003年から2007年の間、私は、国際肺癌学会の理事であった。

5.私は、米国臨床腫瘍学会の論文委員会(2005年?2008年)およびプログラム委員会(2005年?2007年)の一員であった。私は、Journal of Thoracic Oncologyの共同編集委員およびClinical Lung Cancerの国際編集委員である。私は、「Lung Cancer:Principles and practice」第4版の国際編集者、およびIASLC textbook of multidisciplinary approach to thoracic Oncology(2014)の共同編集者であった。私は、ピアレビュー誌において250を超える論文の著者または共著者である。

6.私は、現在、S.Luigi大学病院、オルバッサーノ(トリノ)の、腫瘍内科部長(2010年から)、呼吸器内科部長(2006年から)、および腫瘍学科長である。

7.1999年から2001年の間、私は、私は悪性胸膜中皮腫の治療におけるペメトレキセドの有効性を評価する第II相臨床試験(Gatzemeier博士の宣誓書の第3段落に示されたものと同じ試験、H3E-MC-JMDR)の治験調整医師であった。私は、これらの手続きにおける文書D5であって、「Phase II Study of Pemetrexed With and Without Folic Acid and Vitamin B12 as Front-Line Therapy in Malignant Pleural Mesothelioma.」(D5)という表題の論文の筆頭著者である。

8.リリーに関して、私は、胸部悪性腫瘍の分野でイーライリリーによって推進された、いくつかの出資臨床試験に関与してきた。私は、スピーカー・ビューローの一員として、および諮問委員会への参加について、イーライリリーから謝礼の支払いを受けている。私は、この宣誓書の作成にあたり費やした時間について、リリーからコンサルタント料を受け取っている。

9.私の履歴書を、添付文書Iとしてここに添付する。

臨床試験
10.上記で説明したように、私は、ペメトレキセドの第II相臨床試験の治験調整医師であり、トリノ大学での治験責任医師であった。私は、治験に関する私の論文を見直すことによって、この治験の詳細に関する私の記憶をよみがえらせた。

11.ペメトレキセドの第II相臨床試験(H3E-MC-JMDR)は、1999年9月に最初の患者登録を行い、最後の患者は、2001年7月に終了した。臨床試験開始から3ヶ月超経過して、臨床試験プロトコールが、患者にビタミンB12の補充を導入するように変更された。第II相試験の過程において、結果は試験施設間で共有されなかった。

統計解析の必要性
12.私は、以下で、治験の個々の治療群を取り上げ、治験中に、治験全体を見ることなく有効性を判断することは不可能である理由を実証する。データは、私とGatzemeier博士の治験の治療群のそれぞれについて集約したとしても、意味のあるいかなる結論も導き出すことはできないであろう。

臨床試験の私の治療群
13.私の治験の治療群は、登録された5人の患者であった。これらの患者の最初の患者は、ビタミンB12の補充を導入するプロトコールの変更後の2000年3月に、治療を開始した。したがって、私の治験の治療群の5人全ての患者は、補充を受けたが、しかしながら、その誰もが奏効者ではなかった。

14.私の試験の治療群では、患者が非常に少数であるため、私は、治験の過程において、ビタミンB12を補充したペメトレキセドの有効性または毒性について、いかなる結論も全く導き出すことができなかった。補充されたペメトレキセドおよび補充されていないペメトレキセドの効果および毒性について、意味のあるいかなる結論を導き出す前にも、治験終了時に統計専門家によって解析された、治験にわたって全ての患者からの照合された結果の完全なセットを保有することが必要であった。

Gatzemeier博士の臨床試験の治療群
15.Gatzemeier博士の治験の治療群は、試験に登録された5人の患者であった。Gatzemeier博士の5人の患者の最後の患者は、ビタミンB12の補充を導入するプロトコールの変更前の1999年11月に試験が中止された。Gatzemeier博士の患者は、博士が「b」または「c」として示す群にはおらず、博士の患者は全て1999年12月前に処置を中止した「a」であった。したがって、Gatzemeier博士の患者は、ビタミンB12の補充を受けておらず、さらに、これらの患者の誰もが奏効者ではなかった。Gatzemeier博士は、自身の記憶において、特に、自身の宣誓書の段落8、10および12に関して、誤りがあると思われる。

16.Gatzemeier博士または博士の患者は、博士の患者の誰もが補充を受けていなかったので、治験中にビタミンB12および葉酸を補充された場合のペメトレキセドの有効性または安全性について、いかなる結論も導くことは全く可能でなかったと、単に思われる。さらに、博士の患者の誰もが奏効者ではなかったので、Gatzemeier博士または博士の患者が、ペメトレキセド単独でプラスの治療効果が示されたと結論付けることさえ可能ではなかったであろう。

17.さらに、Gatzemeier博士は、自身の宣誓書の第13段落において、ペメトレキセド単独で処置を開始され、その後に補充を受け、その腫瘍のサイズが減少した一方で、その副作用が減少した患者は、補充が、薬物の有効性を増強しながら、ペメトレキセドの毒性を低減していたことを、知っていたであろうと示唆している。

18.Gatzemeier博士の患者は誰も補充を受けていなかったことを除いて、私の経験において、患者がその治療からそのような詳細な結論を導き出すということは非常に考えにくい。もし患者が、補充を受けている間に副作用の低下を経験していると感じたとしても、患者は補充がその低下の原因であるという結論を導き出すことはできなかったであろう。さらに、患者は、補充がペメトレキセドの有効性に影響を及ぼしていないか、または向上させているという結論を導き出すことはできなかったであろう。いずれにしても、それぞれの患者は、その自らの結果を知っていただけで、明らかに、たった1人のみで構成された試験群から、関連性のある結論を導き出すことはできない。

19.原則として、1人の患者は、治験の目的および可能性のある危険性について知らされているにもかかわらず、1つの特定の治療(即ち、ビタミン補充)と毒性の変化との間の相関について、患者がいかなる結論も導き出すことを可能にする、データの全ての断片をつなぎ合わせるのに十分な専門知識は持っていない。患者が、薬物の有効性についていかなる結論も導き出すことができると示唆することは、さらに非現実的であろう。患者は、その治療の各サイクルからの詳細なデータを比較することはできないであろうし、サイクルごとの有効性または毒性についていかなる評価も行うのに十分な知識レベルは持っていないであろう。事実、(治験に関与した臨床医を含む)誰もが、治験に関与した全ての患者からの結果に対して、必要な統計解析が行われた治験の終了時点まで、いかなる適切な評価も行うことはできなかった。

20.治験に登録された64人の患者からのデータの統計解析後でさえ、補充がペメトレキセドの腫瘍応答を改善しているか否かについての結論を導き出すことはできない。このことは、Gatzemeier博士によって、自身の宣誓書において、「試験の結果は、ビタミンB12および葉酸の補充がペメトレキセドの有効性を増強することを示さなかった」と認められている(D101、第14段落)。このことは、ビタミン補充が、ペメトレキセド単独による真のさらなる利益を説明するか否かは明確ではなかったことを示す、D5(第2欄、1560頁)によってさらに支持されている。試験を全体として見て結論を導き出すことはできない場合、明らかに、個々の患者または少数の患者群に基づいて結論を導くことはできない。

21.さらに、D5(第1欄、1558頁)は、臨床試験の全ての治療群にわたって、1999年12月の前にペメトレキセドを投与された21人の患者のうち5人だけが、その後補充を受けたことを記述している。これらの5人の患者は、臨床試験の3つの別々の治療群にわたって登録されており、その誰もがGatzemeier博士によって登録されていなかった。上記で説明したように、5人の患者のプールは、いかなる結論の根拠としても、十分な数の対象者ではない。第13段落におけるGatzemeier博士の意見は、いかなるデータも根拠としていない純粋な推測である。臨床的に関連しかつ記録された毒性と非臨床の毒性との間には、著しい相違がある。患者のペメトレキセドの効果または毒性の認識が変化したと単純に言うだけでは十分ではなく;補充前後のこれら5人の患者の中で、有効性および臨床毒性のパターンにおける明確な相違が示されている必要があるであろう。臨床医も患者自身も、ペメトレキセドの毒性または有効性に対する補充の効果についていかなる結論も導き出すことはできなかったであろう。

22.第II相試験の過程において、結果は、他の試験施設と共有されておらず、各試験施設は、それ自身の結果の小さなプールのみを認識していた。したがって、ビタミンB12の補充を受けた患者において毒性が減少したという事実は、第II相試験が終了した後、全ての結果がプールされて完全に分析されたときにのみ、明らかになった。当然ながら、Gatzemeier博士の治療群の患者は誰も、補充を受けてさえいなかった

23.臨床医は、自身の施設からの結果のみを有しており、したがって、ペメトレキセド単独またはビタミンB12および葉酸が補充されたペメトレキセドの安全性または有効性について、いかなる結論も導き出すことはできなかったであろう。はるかに大きな患者の結果のプールが必要であり、いかなる結論も導き出す前に詳細な統計解析を実施しなければならなかった。

24.Gatzemeier博士は、自身の宣誓書の第6段落において、「試験プロトコールの変更は、ビタミンB12および葉酸の補充が、ペメトレキセドが誘発する副作用を大幅に改善することが示されたという事実に起因して生じた。このプラスの効果が明らかになるやいなや、即ち1999年12月に、この試験に参加していた全ての患者は、当該補充なしでペメトレキセドでの患者治療の継続が倫理的に不適当であると思われたので、ビタミンB12および葉酸の補充を受けた。」と述べている。

25.第6段落におけるGatzemeier博士の意見は不正確である。1999年12月に、内部データに基づき、リリーはプロトコールの修正を進めるべきと考えていたが、補充がペメトレキセドの安全性を改善したこと、および有効性を改善したことが全てに明らかになったのは、完了した試験の結果の全てが照合されて分析された後においてのみであった。

26.Gatzemeier博士の宣誓書の最後の文に、「ビタミンB12および葉酸は、腫瘍増殖に対するペメトレキセドの効果を増強しない」と書かれている。この意見は、臨床試験から分かったことを正確に反映していない。上記に指摘したように、患者のサブグループのサンプルサイズが小さいため、「JMDR」治験自体から、腫瘍応答の改善に関して、結論に達することができなかった(ディスカッションのセクション、1560頁、D5)が、Gatzemeier博士が治験責任医師であった並行して行われた臨床試験(H3E-MC-JMCH)において、ビタミン補充と共にペメトレキセド/シスプラチンを投与された患者は、補充なしの患者と比べて、(腫瘍応答を含む)有効性パラメーターにおける大きな改善を示したと結論付けられた(D3、第2欄、2642頁)。

守秘義務
27.臨床試験における治験責任医師として、私は、秘密保持義務によって拘束され、治験に参加した全ての治験責任医師は、秘密保持同意書に署名する必要があった。私の経験では、これは臨床試験における通常の慣行であり、関与する医療従事者は常に秘密保持義務によって拘束される。私は、この守秘義務の履行に一切違反したとは認識していない。

28.臨床試験は、非常に専門的に行われ、私が予想するように、我々およびリリーによって厳重に管理された。例えば、試験の各治療群に対するペメトレキセドの供給は、セキュリティーで保護され、注意深く監視され、全ての未使用のペメトレキセドは、治験の終了時にリリーに返却しなければならなかった。

29.臨床試験に関する情報は、一般公開されていなかった。患者は、組み入れ基準に適合し、参加に同意した場合に臨床試験に登録された。一般人、またはさらに言えば、試験への参加に無関心であった患者は、ペメトレキセドにも臨床試験に関連するいかなる情報にもアクセスできなかったであろう。

30.Gatzemeier博士は、自身の宣誓書において、この試験に参加した患者は、詳細な秘密を保持するいかなる義務も負っていなかったことを示唆している。患者は、(ヘルシンキ宣言の下で必要とされているように)限られた範囲の親族または友人と、治験についての情報を共有することが認められていた。しかしながら、秘密保持義務および臨床試験を取り巻く明確な管理を考慮すると、患者は、試験のいかなる科学的な詳細も秘密とみなされることを、知っていたか、または知っていたはずであったであろう。この試験が、製薬会社によって出資されていたこと、および共有されたことから科学的な詳細を観察または推定することができた範囲まで、情報は機密かつ秘密であったことも、患者には明らかであったであろう。したがって、私の見解では、患者は、試験のいかなる科学的な詳細もさらに広めるべきでないことは、知っていたか、または知っていたはずであり、例えば、患者は、科学的な情報を第三者に売ることができないことは明確に知っていたであろう。

31.(ヒト被験者が関与する医学研究のための倫理原則を定めた)ヘルシンキ宣言の第22段落は、「医学研究の被験者として能力がある個人の参加は自発的でなければならない。家族または地域社会のリーダーに相談することが適切である場合はあるが、能力がある個人を本人の自主的な同意なしに研究試験に参加させてはならない」ことを定めている。この背後にある考え方は、患者が、その後必要に応じて個人を支援できる親族または地域社会のリーダーと臨床試験への参加を話し合うことができるべきということである。このことは、臨床試験がもはや秘密ではないことを意味するものではない

32.患者は、限られた範囲の人とのみ情報を共有することが認められていたが、一般人と治験について自由に情報を共有することはしなかった。患者が、第三者と自由に情報を共有することが認められていたならば、治験を実施する臨床医が秘密保持同意書へ署名することは無意味になるであろう。さらに、ヘルシンキ宣言は、情報が、患者が理解できる形式で共有されることを求めている。したがって、情報は、科学用語ではなく、平易で日常的な用語で共有される。私は、患者が、参加のリスクを理解している(および十分に情報を得ている)と確信しているが、私は、典型的な患者が、情報をさらに広めるのに十分に共有されたいかなる科学的な詳細も理解しているかどうかについて、大きな疑問を抱いている。私の経験では、患者は、家族または友人と、治験に関与しているという基本的な事実を超えたものを一切共有しない傾向があり、理解した程度でさえも、その治療について詳細な技術的情報を、確実に共有しない。患者が、親しい友人または家族以外の誰かと、治験への関与またはその治療について話し合うことを示唆することは非現実的である。

33.当然ながら、患者は、インフォームド・コンセントのために必要とされるように、自身が受けようとしていた治療について知らされていた。しかしながら、個々の患者は、腫瘍学者ではない。患者は、その治療の結果を取得できなかったであろうし、ペメトレキセドならびに/またはビタミンB12および葉酸を補充されたペメトレキセドが、自分自身の個人的な応答(または応答の欠如)に基づいて、有効かつ安全であったかどうかについて、いかなる結論も導き出すことはできなかった。上記で説明したように、統計的に関連するいかなるデータも推定する前に、治験に参加した患者集団全体からの結果を分析しなければならなかった。自分自身で見た個人の結果は、有効的な意味はなく、患者は、自身の治療から、治験の全体的ないかなる印象も導き出すことはできなかった。

34.現実的に、かつ当然ながら、臨床試験に関与する患者は、治療される自身の疾患に単に注目し、正確にいかなる薬剤がいかなる量で投与されているのかについては、注目していない。もし患者が、同意書に署名する前に、薬剤について全ての技術的な詳細を伝えられていたとしても、科学的な詳細を理解するか、または治療が進行するにつれてもそれらの詳細の全てを記憶しているとは、考えにくい。我々は試験に参加した患者に提供される情報を単純化するためにあらゆる努力をしているが、可能性のあるリスクは、患者が記憶している唯一の要素である可能性があり、共有されたいかなる技術的な詳細も失われる可能性が高い。

まとめ
35.ペメトレキセドの第II相臨床試験は、十分に管理されており、この治験に関わった全ての人々は、秘密保持義務を負っており、プロトコールは秘密であり、その結果は、公開が認可および承認されるまで秘密が維持されていた。治験へのアクセスおよび治験薬も厳密に管理され、患者は、治験責任医師および病院のスタッフによって治験に登録された。結果として、治験に関する情報は、一般には公開されていなかったであろう。

36.Gatzemeier博士の患者は誰もビタミンB12の補充を受けておらず、博士の患者は誰も奏効者ではなかった。Gatzemeier博士が参加した1999年の「JMDR」治験における博士の記憶は誤っていると思われる。

37.「JMDR」治験の結果は、治験責任医師としての私、個々の治験責任医師および個々の各患者には、不明であり、知ることはできなかった。適切な統計解析なしに結果を決定することは可能ではなかったであろう。D5の公開まで、この試験の実施について、何も一般には公開されていなかった。」(全文)

〔乙34:秘密保持契約書、1999年7-8月、Lilly Deutschland GmbH及びGatzemeier〕
甲22に記載されている「試験H3E-MC-JMDR」の治験を担当した医師と、リリードイツ社との治験契約書である乙34には、以下の記載がある(原文は外国語であるため、日本語訳で記載する)。

「リリードイツ社(商業登記)
登録
ザールブルク通153 部門BNo.524
リリードイツ社 61343、バート・ホンブルク
・・(略)・・
クリメス
治験契約書

医学博士U.Gatzemeier、グロースハンスドルフ病院、腫瘍学-呼吸器学部門、ヴェーレンダム80、22927グロースハンスドルフ(以下、「医師」という)、及び、リリードイツ社、サールブルク通り153、61350バート・ホンブルク(以下、「会社」という)間の、試験番号:H3E-MC-JMDRの臨床試験「悪性胸膜中皮腫患者における21日毎のMTA静脈内投与の第2相試験」の実施を目的とする治験契約

リリードイツ社は、臨床試験の一環として一緒に仕事することを光栄に思う。円滑な連携を保証するために、以下の治験契約において、医師及び会社が負う義務を定める。

1.医師及び会社は、全ての試験関連要件を詳細に規定した、1999年5月14日付の治験計画(プロトコル)を受諾する。変更または補足は、医師及び会社の間で事前に同意及び協議された対象のみに限られ、そのためには、プロトコルの修正または補遺を最初に準備しなければならない。

医師及び会社の両者は、臨床試験に参加する患者の健康への配慮を、科学的な関心より常に優先させることを認める。この前提において、医師は、自身の施設における治験を個人的に実施またはモニターすることに同意する。
治験は、サマセット・ウェスト1996年版のヘルシンキ宣言の改訂版である「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)のためのICH調和三極ガイドライン」、ならびに臨床試験におけるヒトの保護のためのドイツ医薬品法(AMG)の規定に従って実施する。治験は、1987年12月から適切な臨床試験の原則に従って実施する。さらに、医師及び会社は、他の適用される全ての連邦法及び州法、地域法の規定、ならびに関連するガイドラインに従わなければならない。

2.治験を開始する前に、医師は、上記の適切な臨床試験の原則を考慮して、AMG第40/41条に従って、関与する患者に、治験の種類、意義および結果を説明し、参加への患者の同意を得る義務を負う。

・・(略)・・

6.会社の科学者の責任者は、評価を要約した形式の書面で(治験薬概要書)、薬理学的-毒性試験の結果を医師に通知している。さらに、医師は、追加の必要情報、特に、前臨床試験からの情報を、会社の科学コーディネーター/医師の責任者から受領している。会社は、さらに、臨床試験の過程で知ることになった前臨床及び臨床試験からの全ての重大な知見を、医師に直ちに通知する義務を負う。医師は、会社が医師に提供した、試験物質の使用に関連する可能性のあるリスク及び副作用を含む「治験薬概要書」を読み、理解したことを確認する。
医師は、会社から受領した全ての情報、または治験の実施中に医師自身が得た知識に関して、臨床試験の終結または終了後、少なくとも10年間、秘密を保持する義務を負い、会社が、書面でこちらから医師に公開するか、または適用される法律もしくは法規条項が、倫理委員会、患者、地方承認当局、もしくは米国食品医薬局とデータを共有することを要求しない限り、本治験契約書に規定された以外の全ての他の目的のために本情報を使用しない義務を負う。別の人または組織がデータの開示を必要とする場合、医師は、それを直ちに会社に通知しなければならず、その後、会社が書面でそれを明示的に承認した場合、または会社が、必要な開示を防止もしくは制限するために利用可能な全ての法的可能性が尽きた場合にのみ、情報を共有することができる。本契約書で規定する秘密保持条項及び使用禁止は、本治験及び/または治験プロトコルとの関連において、契約者によって認識される、全ての以前の秘密保持条項及び使用禁止と置き換えなければならない。

・・(略)・・

9.医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)のガイドラインは、治験において収集されたデータを、患者の元データと比較するレビューを要求する。患者から事前に書面で同意が得られると、医師は、秘密保持について宣誓した会社リリーの従業員、リリーによって指定された代表者、契約者(モニター)、または国内外の保健当局の権限保持者が、患者のデータを閲覧する場合があることを、本目的のために同意する。医師は、治験に関連するデータに関する疑問だけでなく治験のさらなる過程について、モニターと議論することを可能にするために、医師自身または指定された従業員が、モニターによる全ての来院時に居ることを保証する義務を負う。

さらに、医師は、管轄権を有する地方長官のオフィスの職員が、モニターする義務の一部として、医師をレビューする権利を有することに同意する。

患者に関連するデータは、匿名の形式でのみ会社と共有する。例外的な場合において、個人的なデータを共有する必要がある場合、患者は、事前に書面による同意を提出しなければならない。

医薬品安全性試験実施基準をモニターするために検査室査察を行うこともできる。

10.本治験のために使用される医薬品は、治験プロトコルに従ってのみ使用することができる。他の目的のために使用することは認めない。治験薬は、保管指示書に従って、安全な場所、即ち第三者がアクセスできない場所に保管しなければならない。未使用の治験薬は、会社がそれを適切に廃棄することができるように、会社に返却しなければならない。
・・(略)・・」(全文)

第5 無効理由1(進歩性の欠如)について、当合議体の判断
当合議体は、本件特許発明1?7は、無効理由1によって無効にすべきものであるとはいえない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。

1.本件特許発明1について

(1)甲1に記載された発明

甲1の特許請求の範囲の請求項1には「葉酸、(6R)-5-メチル-5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸、(6R)-5-ホルミル-5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸、あるいは生理学的に利用可能なそれらの塩またはエステルから選択される葉酸結合タンパク質結合剤を活性成分とする、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または葉酸結合タンパク質と結合するその他のアンチ葉酸剤の毒性緩和剤。」(甲1a)と記載されているところ、上記請求項1に係る発明が解決すべき課題は「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または葉酸結合タンパク質と結合するその他のアンチ葉酸剤」の治療効果を維持したままその毒性を減少させることであり(甲1b)、上記課題を解決するための手段は、「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または葉酸結合タンパク質と結合するその他のアンチ葉酸剤」と、上記請求項1に記載の「葉酸・・・から選択される葉酸結合タンパク質結合剤」とを組み合わせて投与することである(甲1a?甲1e)。
そして、マウスを用いた動物実験(甲1f)では、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤であるロメトレキソールを、葉酸と組み合わせずに投与した場合は、極めて低い投与量で中度の抗腫瘍活性を示したが重度の毒性を引き起こした(甲1fの段落【0020】)のに対し、ロメトレキソールを葉酸と組み合わせて投与した場合は、低投与量のロメトレキソールで毒性がほとんどあるいは全くない優れた抗腫瘍効果がもたらされ(甲1fの段落【0021】)、より高い投与量のロメトレキソールで毒性が劇的に減少し良好な抗腫瘍活性が観測された(甲1fの【0022】、【0023】)という結果が得られ、これらの結果から、「したがって、葉酸をGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤と組み合わせて使用すると、抗腫瘍活性に不利な影響を与えることなく、薬剤毒性が著しく減少する。」(甲1fの段落【0023】)という考察がなされている。さらに、ヒトにおける試験的な研究(甲1g)では、ロメトレキソールを投与されている患者に与えられた葉酸が、ロメトレキソールによる副作用の減少を達成し、上記動物実験と一致したという結果が得られている。
また、甲1には、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または他のアンチ葉酸を投与されているヒトに対するその薬剤の毒性効果を減ずるために、葉酸もしくは生理学的に利用可能なその塩またはエステルを、該患者に約0.5mg/日?約30mg/日の投与量で投与すること(甲1d)が記載されている。
これらの記載からみて、甲1には、請求項1に記載の「葉酸・・・から選択される葉酸結合タンパク質結合剤」の選択肢から「葉酸」を選択し、請求項1に記載の「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤または葉酸結合タンパク質と結合するその他のアンチ葉酸剤」の選択肢から「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤」を選択し、葉酸を上記(甲1d)に記載の投与量で投与するものであるところの、
「葉酸を活性成分とする、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の治療効果を維持したままその毒性を減少させるための毒性緩和剤であって、
GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の有効量を、葉酸の約0.5mg/日?約30mg/日と組み合わせて投与する、該毒性緩和剤。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件特許発明1と甲1発明との対比

本件特許発明1の「ペメトレキセート二ナトリウム塩」は、甲24に「このマルチターゲット型葉酸代謝拮抗薬(ペメトレキセート二ナトリウム塩、アリムタ、LY231514、MTA)は、臨床試験中の新世代の葉酸代謝拮抗薬である。」(1808頁左欄42?44行)と記載されているように、その開発コードを「LY231514」と称し、「MTA」と略称されることもある葉酸代謝拮抗薬である。そこで、以下では、本件特許発明の「ペメトレキセート二ナトリウム塩」を「LY231514(MTA)」と記載することもある。
甲5に「LY231514(MTA) MTAはイーライリリー(インディアナポリス、イリノイ州)によって、最初はTS阻害剤として開発された。しかしながら、議論された他の葉酸代謝拮抗剤とは異なり、MTAは葉酸代謝にかかわる他の二つの酵素、GARFTとDHFR(本紙、Mendelsohnら参照)を阻害することができることがすぐに明らかになっている。」(甲5j)と記載されているように、LY231514(MTA)は、甲5の下記図2(甲5e)で示される、細胞増殖と関連がある葉酸代謝経路で作用するTS、GARFT及びDHFRという三種類の酵素を阻害するマルチターゲット型葉酸代謝拮抗薬である。
そして、LY231514(MTA)が阻害する酵素TS、GARFT及びDHFRは、それぞれ、チミジル酸シンターゼ、グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ及びジヒドロ葉酸リダクターゼの略称であるところ(甲5c)、甲1の「GAR-トランスホルミラーゼ」すなわちグリシンアミドリボヌクレオチド(GAR)トランスホルミラーゼ(甲1bの段落【0002】)は、上記GARFT(グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ)と同義であるから、GARFTを阻害するLY231514(MTA)は、甲1発明の「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤」に該当するといえる。

図2.葉酸代謝の代謝経路」

また、本件特許発明1の「葉酸の約0.1mg?約30mg」という投与量は、本件特許明細書における「この研究の目的のために、患者は、・・・葉酸の毎日の経口投与を開始し、」(段落【0051】)及び「葉酸サプリメントの350?600μgまたはその相当量は、MTA及びシスプラチンの第1投与の約1?3週間前に毎日の投与を開始すべきである。」(段落【0053】)という記載からみて、1日あたりの投与量、すなわち葉酸の約0.1mg/日?約30mg/日という投与量であると解されるから、甲1発明の「葉酸の約0.5mg/日?約30mg/日」に該当するといえる。
さらに、上記(1)で説示したように、甲1に記載のマウスを用いた実験(甲1f)及びヒトにおける試験的な研究(甲1g)では、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤であるロメトレキソールの抗腫瘍活性及び毒性を評価しており、甲1発明で「治療効果を維持」することは「抗腫瘍活性を維持」することを意味すると解されるので、甲1発明の「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の治療効果を維持したままその毒性を減少させるための毒性緩和剤」は、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の投与に関連する毒性を低下し及び抗腫瘍活性を維持するための剤であるといえる。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「葉酸を含有する、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤であって、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の有効量を、葉酸の約0.1mg?約30mgと組み合わせて投与することを特徴する、該剤。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本件特許発明1では、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤として「ペメトレキセート二ナトリウム塩」を用いるのに対し、甲1発明では、「ペメトレキセート二ナトリウム塩」を用いていない点。
[相違点2]
本件特許発明1は、さらにビタミンB_(12)を含有するのに対し、甲1発明は、ビタミンB_(12)を含有しない点。
[相違点3]
本件特許発明1では、ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量を、さらにビタミンB_(12)の約500μg?約1500μgとも組み合わせて投与し、該ビタミンB_(12)をペメトレキセート二ナトリウム塩の第1の投与の約1?約3週間前に投与し、そして該ビタミンB_(12)の投与をペメトレキセート二ナトリウム塩の投与の間に約6週間毎?約12週間毎に繰り返すという特定の用法・用量で組み合わせて投与するのに対し、甲1発明では、ビタミンB_(12)を上記特定の用法・用量で組み合わせて投与していない点。

(3)相違点についての判断

(3-1)相違点1:ペメトレキセート二ナトリウム塩を用いることについて

甲1には、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤としてペメトレキセート二ナトリウム塩を用いることは記載されていないが、「GAR-トランスホルミラーゼもしくは他の葉酸要求性酵素を阻害することがわかっている化合物は、すべて本発明の処置の対象となる」(甲1cの段落【0006】)と記載されているので、甲1発明では、「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤」として、マウスを用いた動物実験(甲1f)及びヒトにおける試験的な研究(甲1g)で用いられたロメトレキソールに限らず、他のGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤も用いることができるといえる。
一方、甲5には、種々の葉酸代謝拮抗剤の構造の具体例として、甲1に記載のロメトレキソール(DDATHF)と共にLY231514(MTA)が併記されており(甲5h)、LY231514(MTA)は初期第II相臨床試験で報告されているように有望なレベルの活性を有すること(甲5j)、及び、LY231514(MTA)は重要な薬剤であり既存薬を進歩させたものであると考えられていること(甲5k)が、記載されている。
そうすると、甲1及び甲5の記載に接した当業者は、甲1発明の「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤」として、甲5において上記のように有望なレベルの活性を有する重要な薬剤として記載されているLY231514(MTA)を用いることを、自然に想起し得たといえる。

(3-2)相違点2:さらにビタミンB_(12)を含有することについて

上記(1)で説示したように、甲1には、甲1発明が解決すべき課題はGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の治療効果を維持したままその毒性を減少させることであり、葉酸をGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤と組み合わせて投与することによって上記課題を解決できることが記載されている(甲1a?甲1e)。
しかし、甲1には、甲1発明に、さらに別の活性成分を含有させることは記載されていない。
そして、甲1には、マウスを用いた動物実験(甲1f)で、葉酸と組み合わせずに投与した場合は、ロメトレキソールの極めて低い投与量である1mg/kgで抗腫瘍活性(阻害率%)が100%かつ毒性(死亡マウス/総マウス)が8/10であった(【表3】)のに対し、葉酸と組み合わせて投与した場合は、ロメトレキソールの高い投与量である50mg/kgで抗腫瘍活性(阻害率%)が96%かつ毒性(死亡マウス/総マウス)が0/10であった(【表5】)という結果が得られたこと、及び、ヒトにおける試験的な研究(甲1g)でも上記動物実験と一致した結果が得られたことが記載されているので、甲1には、葉酸をGAR-トランスホルミラーゼ阻害剤と組み合わせて投与すれば、GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤の抗腫瘍活性に不利な影響を与えることなく薬剤毒性が十分に減少するので、上記課題を十分に解決できることが記載されているといえる。
そうすると、甲1には、上記課題を解決するために、葉酸だけでなく、さらに別の活性成分を含有させることが示唆されているとはいえない。

一方、甲5には、LY231514(MTA)の毒性発現について、以下のような記載がある。
「機能的葉酸の状況の臨床測定
葉酸代謝拮抗剤(特にGARFT阻害剤)の毒性を低減させるための葉酸の補充効果は明確であるが、葉酸代謝拮抗剤によって誘導される毒性と葉酸前処理のレベルとを相互に関連付けるのは常に困難であった。考えられるひとつの説明としては、測定時の葉酸レベルは増殖している細胞の中の葉酸の機能を適切に反映していないということである。これまで議論された経路に加えて、葉酸はメチオニン合成におけるその役割の効力によって細胞メチル化反応にも関与している。CH_(2)FH_(4)は5-メチルテトラヒドロ葉酸に還元され得る(図1)。これはホモシステインをメチオニンに変換するためメチル基を使う酵素メチオニンシンターゼの基質である。メチオニンは次に細胞内メチル化反応に参加してホモシステインを再生する。メチオニン合成はB_(12)依存性であるが、また、5-メチルテトラヒドロ葉酸も補助基質として用いる。従って、B_(12)あるいは葉酸の何らかの機能の欠如はメチオニンシンターゼを通した流れを結果として減少させ、ホモシステインの血漿レベルを増加させる^(16)(図8)。処置前の血漿のホモシステインの測定はMTAの毒性を予想する感度の高い方法であることが証明されている^(17)。」(甲5h)
そこで、上記(甲5h)の記載について検討する。

葉酸は主として完全還元体である5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(FH_(4))として機能し、5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(FH_(4))は、1つの炭素原子を含む残基を細胞内へ移行させるキャリアとして働いている。そして、5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(FH_(4))から5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(CH_(2)FH_(4))が生成され、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(CH_(2)FH_(4))は、さらに様々な葉酸誘導体、例えば10-ホルミルテトラヒドロ葉酸(CHOFH_(4))、5-メチルテトラヒドロ葉酸(CH_(3)FH_(4))等に変換される(甲5c、甲5d)。
ここで、上記(甲5h)に記載されている「これまで議論された経路」は、上記(3-1)で説示した、下記図2(甲5e)で示される、細胞増殖と関連がある葉酸代謝経路であり、上記(甲5h)に記載されている「メチオニン合成」の経路は、下記図8(甲5i)で示される、基質であるホモシステインと補助基質である5-メチルテトラヒドロ葉酸(CH_(3)FH_(4))とから、ビタミンB_(12)依存性であるメチオニンシンターゼを介してメチオニンを合成する経路である(なお、ビタミンB_(12)がメチオニンシンターゼの補酵素であることは甲19に記載されている)。


図2.葉酸代謝の代謝経路」



図8.5-メチルテトラヒドロ葉酸の役割:機能的な葉酸の低下は血漿のホモシステインレベルを上昇させる。」

葉酸が欠乏すると、上記図2の経路では、5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(FH_(4))、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(CH_(2)FH_(4))、10-ホルミルテトラヒドロ葉酸(CHOFH_(4))等の供給不足が生じて、DNA合成及びRNA合成が抑制されることが予測され、上記図8の経路では、5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸(FH_(4))、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(CH_(2)FH_(4))、5-メチルテトラヒドロ葉酸(CH_(3)FH_(4))等の供給不足が生じてメチオニン合成が抑制され、ホモシステインの消費が減少して血漿中ホモシステイン値が上昇することが予測される。
また、ビタミンB_(12)が欠乏すると、上記図8の経路では、ビタミンB_(12)依存性であるメチオニンシンターゼの作用が低下してメチオニン合成が抑制され、ホモシステインの消費が減少して血漿中ホモシステイン値が上昇することが予測される(なお、甲20には、血清中の総ホモシステイン濃度をビタミンB_(12)欠乏症の診断に用い得ることが記載されている)。
そして、上記(甲5h)の「処置前の血漿のホモシステインの測定はMTAの毒性を予想する感度の高い方法であることが証明されている」という記載に加えて、甲6の「結論:MTA治療により発現した毒性は、治療前ホモシスティン値から予測可能であると考えられる。ベースライン時のホモシスティン値の上昇(≧10μM)は、MTA治療後の重度の血液学的毒性および非血液学的毒性と強い相関を示した。ホモシスティンは、アルブミンと比較し毒性のよりよい予測因子であることが明らかになった。」という記載、及び、甲7の「ベースライン時のホモシステイン値と試験期間中いずれかの時点でみられた以下の毒性発現との間に強い相関が認められた。・・・(略)・・・毒性(上記に定義するCTCグレード)と残りの予測因子との間に相関は認められなかった。ホモシステイン値が閾値の10μMを上回る患者すべてにおいて毒性が認められた。」という記載を参酌すると、LY231514(MTA)処置前(いわゆるベースライン時)の血漿中ホモシステイン値が一定値以上(≧10μM)である場合にLY231514(MTA)の毒性発現を非常に高い確率で予測できることは、本件特許出願の優先日当時(以下、略して「優先日当時」ともいう。)の当業者に知られていた事項であるといえる。
しかし、甲5、甲6及び甲7のいずれにも、LY231514(MTA)処置前の血漿中ホモシステイン値が一定値以上であり、LY231514(MTA)の毒性発現が予測されている患者に対して、LY231514(MTA)の毒性発現を減少させるために血漿中ホモシステイン値を低下させる何らかの手段を講じたことは記載されていない。
ここで、例えば甲8?甲16に記載されているように、ビタミンB_(12)を投与すると血漿中ホモシステイン値が低下すること、また、葉酸及びビタミンB_(12)を併用投与すると葉酸の単独投与の場合に比してより一層血漿中ホモシステイン値が低下することは、本件特許出願の優先日当時の技術常識であったといえるが、甲8?甲16には、LY231514(MTA)またはその他の葉酸代謝拮抗剤を投与している患者あるいは投与する予定である患者に対して、LY231514(MTA)またはその他の葉酸代謝拮抗剤の毒性発現を減少させるために、ビタミンB_(12)を投与または葉酸及びビタミンB_(12)を併用投与することについて記載も示唆もされていない。
そして、さらに他の甲号証及び乙号証の記載を参酌しても、LY231514(MTA)またはその他の葉酸代謝拮抗剤を投与している患者あるいは投与する予定である患者に対して、LY231514(MTA)またはその他の葉酸代謝拮抗剤の毒性発現を減少させるために、処置前の血漿中ホモシステイン値に着目して、血漿中ホモシステイン値を低下させる何らかの手段を講じることが、優先日当時の技術常識であるといえる根拠は見当たらない。
そうすると、葉酸あるいはビタミンB_(12)が欠乏すると血漿中ホモシステイン値が上昇することが予測されること、及び、優先日当時の技術常識を参酌しても、上記(甲5h)の「処置前の血漿のホモシステインの測定はMTAの毒性を予想する感度の高い方法であることが証明されている」という記載は、あくまでも、LY231514(MTA)処置前の血漿のホモシステイン値からLY231514(MTA)の毒性発現を予想できるという事実を記載するものにすぎず、LY231514(MTA)の毒性発現を減少させるために、処置前の血漿中ホモシステイン値に着目して、血漿中ホモシステイン値を低下させる手段であるビタミンB_(12)を投与また葉酸及びビタミンB_(12)を併用投与することを示唆する記載ではないといえる。
以上のように、そもそも甲1には、甲1発明にさらに別の活性成分を含有させることについて記載も示唆もされておらず、優先日当時の技術常識を参酌しても、甲5には、LY231514(MTA)の毒性発現を減少させるために、処置前の血漿中ホモシステイン値に着目して、血漿中ホモシステイン値を低下させる手段であるビタミンB_(12)を投与または葉酸及びビタミンB_(12)を併用投与することが示唆されているとはいえないのであるから、甲1及び甲5の記載に加えて優先日当時の技術常識を参酌した当業者が、甲1発明の「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤」として甲5に記載のLY231514(MTA)を用いるにあたって、処置前の血漿中ホモシステイン値に着目して、甲1発明に、血漿中ホモシステイン値を下げる手段であるビタミンB_(12)をさらに含有させることを、容易に想到し得たとはいえない。

(3-3)相違点3:ビタミンB_(12)を特定の用法・用量で投与することについて

優先日当時の技術水準を示す文献である甲17には、悪性貧血(ビタミンB_(12)欠乏症)の治療におけるビタミンB_(12)補充の維持投与として「通常2?3ヵ月毎に1回500?1000μgの投与(筋注)が行われる。」が記載され(甲17の547頁左欄3?14行)、同じく技術水準を示す文献である甲18には、悪性貧血や全胃切除後のビタミンB_(12)補充の維持療法として「CN-B12 1000μg1本を1ヵ月に1回、OH-B12 1000μgであれば3ヵ月に1回」投与することが記載されている(甲18の415頁2?8行)。
これらの記載からみて、本件特許発明1における「ビタミンB_(12)の約500μg?約1500μg」という投与量自体は、優先日当時、ビタミンB_(12)補充の維持療法で通常用いられる程度のものであるといえる。
しかし、上記(3-2)で説示したように、そもそも、甲1、甲5の記載に加えて優先日当時の技術常識を参酌した当業者が、甲1発明に、さらにビタミンB_(12)を含有させることを容易に想到し得たとはいえないのであるから、なおのこと、甲1、甲5の記載に加えて優先日当時の技術水準ないし技術常識を参酌した当業者が、甲1発明に、さらにビタミンB_(12)を特定の用法・用量で組み合わせて投与することを容易に想到し得たとはいえない。

(3-4)以上(3-1)?(3-3)で説示したように、当業者が、甲1、甲5に記載された発明、及び優先日当時の技術水準ないし技術常識から、甲1発明の「GAR-トランスホルミラーゼ阻害剤」として甲5に記載のLY231514(MTA)を用い、さらにビタミンB_(12)を含有させ、ビタミンB_(12)を特定の用法・用量で組み合わせて投与する本件特許発明1を容易に想到することができたとはいえない。

2.本件特許発明2?7について

本件特許発明2?5は、いずれも本件特許発明1を直接または間接的に引用して、本件特許発明1におけるビタミンB_(12)の用法・用量をさらに限定するものであり、甲1発明と対比した場合、いずれも上記「1.(2)」で説示した相違点1及び2、並びにその詳細が相違点3と若干異なるにすぎない相違点(ビタミンB_(12)の特定の用量・用法)を含む点で相違するのであるから、本件特許発明1と同様に、当業者が、甲1、甲5に記載された発明、及び本件特許出願の優先日当時の技術水準ないし技術常識から、本件特許発明2?5を容易に想到することができたとはいえない。
本件特許発明6におけるビタミンB_(12)の用法・用量は、本件特許発明1におけるビタミンB_(12)の用法・用量と若干異なるが、本件特許発明6を甲1発明と対比した場合、上記「1.(2)」で説示した相違点1及び2、並びにその詳細が相違点3と若干異なるにすぎない相違点(ビタミンB_(12)の特定の用量・用法)を含む点で相違するのであるから、本件特許発明1と同様に、当業者が、甲1、甲5に記載された発明、及び本件特許出願の優先日当時の技術水準ないし技術常識から、本件特許発明6を容易に想到することができたとはいえない。
本件特許発明7におけるビタミンB_(12)の用法・用量は、本件特許発明1におけるビタミンB_(12)の用法・用量と若干異なるが、本件特許発明7を甲1発明と対比した場合、上記「1.(2)」で説示した相違点1及び2、並びにその詳細が相違点3と若干異なるにすぎない相違点(ビタミンB_(12)の特定の用量・用法)を含む点で相違するのであるから、本件特許発明1と同様に、当業者が、甲1、甲5に記載された発明、及び本件特許出願の優先日当時の技術水準ないし技術常識から、本件特許発明7を容易に想到することができたとはいえない。

3.本件特許発明による効果について

本件特許明細書には、ヒトMX-1乳癌腫移植雌性ヌードマウスを用いた実験(段落【0036】?【0043】)から「結論として、生理学的な用量を越えているが無毒な用量のビタミン、葉酸およびビタミンB12の投与は、ヌードマウスのヒトMX-1乳癌癌腫異種移植片腫瘍におけるALIMTAの抗腫瘍活性を変化させず、そして動物の体重測定によって決まるALIMTAの毒性を増大させなかった。」(段落【0043】)という結果が得られたこと、乳腺癌腫C3H菌株挿入マウスを用いた実験(段落【0044】?【0047】)から「従って、ビタミンB12を葉酸代謝拮抗薬と組み合わせた使用は薬物の毒性を低下させ、抗腫瘍活性に有害な影響を及ぼさない。ビタミンB12と葉酸との一緒の使用は、薬物毒性を相乗的に低下させる。」(段落【0047】)という結果が得られたことが、記載されている。
さらに、本件特許明細書には、ペメトレキセート二ナトリウム塩と葉酸及びビタミンB_(12)を組み合わせた用法・用量(以下、「本件特許発明のレジメン」ともいう。)を用いた臨床トライアルについて、以下のような記載がある(段落【0050】?【0060】)。

「【0050】
投与方法および服用方法
1.葉酸
葉酸は、以下の選択肢の1つとして与える。選択肢1?選択肢3の順序で好ましい。
1.葉酸の350?600μg。
2.選択肢1を使用できない場合には、350μg?600μgの範囲の葉酸を含有するマルチビタミンが許容され得る。
3.選択肢1または選択肢2のいずれも使用できない場合には、350μg?1000μg用量の葉酸が許容され得る。
【0051】
この研究の目的のために、患者はALIMTAとシスプラチン、またはシスプラチン単独で用いた処置の約1?約3週間前に葉酸の毎日の経口投与を開始し、研究療法を中断するまで毎日続けるべきである。
【0052】
2.ビタミンB12
ビタミンB12を得て、1000μgを筋肉内注射として投与する。ビタミンB12の注射は、ALIMTAを用いた処置の約1?3週間前に投与しなければならず、そのことは患者が研究療法を中断するまで約9週間毎に繰り返すべきである。
【0053】
葉酸サプリメントの350?600μgまたはその相当量は、MTAおよびシスプラチンの第1投与の約1?3週間前に毎日の経口投与を開始すべきである。ビタミンB12(1000μg)の注射は、ALIMTAの第1投与の約1?3週間前に筋肉内投与しなければならず、そしてこのことは患者が研究療法を中断するまで約9週間毎に繰り返すべきである。
【0054】
予め補充したホモシステインレベルおよびメチルマロン酸のレベルを、a)被験薬の第1服用の直前レベル、およびb)被験薬の第2服用の直前レベル(すなわち、補充の完全な周期後)と比較する。ベースラインから補充された患者における最初の7個までの治療周期を与えたある毒性の羅患率を、補充されていない初期の患者(n=246)において観察された羅疾患率(ファーバー(Farber)らによる)と比較する。
【0055】
非補充周期対補充周期の患者(乗り換え(cross-over)患者)における毒性を、比較することができる。
比較するデータは以下の通りである:
1)患者数と、ベースラインから補充された患者のベースライン個体群の統計学的データ;
2)第1の服用前、第2の服用前および研究している癌の種類に応じた各治療サイクル前のホモシステインレベルおよびメチルマロン酸レベルと、ベースラインレベル;
3)これらの十分に補充された患者におけるグレード3と4の血液学的な毒性;
4)これらの十分に補充された患者におけるグレード3と4の非血液学的な毒性。
【0056】
化学療法的な臨床トライアルにおける毒性のグレードは、当該分野の当業者にとってよく知られる。疲労および皮膚発疹のグレードの例を以下に示す。
疲労のグレード
神経運動
0) なしまたは変化なし
1) 主観的な脱力感;客観的な知見なし
2) 機能の有意な障害がない、中位の客観的な脱力感
3) 機能の障害を有する、客観的な脱力感
4) 運動麻痺
【0057】
発疹のグレード
皮膚
0) なしまたは変化なし
1) 無症候性である散らばった黄斑、丘疹の皮疹または紅斑
2) かゆみ症を伴う無症候性の散らばった黄斑、丘疹の皮疹もしくは紅斑、または他の関連する皮疹の症状
3) 全身症候性の黄斑、丘疹または小胞の皮疹
4) 剥脱性の皮膚炎または潰瘍性の皮膚炎
【0058】
以下の研究で使用するビタミン(葉酸およびB12の両方)は、ゼニスゴールドライン社(Zenith Gold Line, Centrum, Folvite)またはインカナダアポ-ホリック社(in Canada Apo-Folic)から得ることができる。シアノコバラミンは、これらの研究においてメチルマロン酸低下薬として使用される。
【0059】
現在および過去の臨床トライアルは、米国特許第5,217,974号に記載されている通り、薬物関連死亡全体の4%、グレード3/4の好中球減少症の50%、グレード4の血小板減少症の7%、およびグレード3/4の下痢および粘膜炎の10%を示す。ALIMTAで補充したビタミンB12は、薬物関連の毒性において中位の効果を示し、薬物関連の死を3%にまで低下させ、且つ激しい毒性を約25%だけ低下させた。ビタミンB12および葉酸とALIMTAとの組み合わせは、処置した480以上において、薬物関連の死を<1%にまで低下させた。ビタミンB12と葉酸との組み合わせは、薬物に関連するグレード3/4の毒性事象を低下させた。このことを、表1に示す。
表1

【0060】
加えて、化学療法処置を必要とする化学的に未処置の62患者を2つの群に分けた。これらのうちの17患者は上記の通り、ALIMTAを与えているが、ビタミンB12または葉酸を与えなかった。残りの患者は、上記の通り、ビタミンB12、葉酸およびALIMTAを与えた。組合わせ処置を与えた患者において、45のうちの8が化学療法に応答した。該組み合わせ療法を与えていないが、ALIMTAを用いた処置だけを与えた患者においては、17のうちの1だけが応答した。」

上記記載における「ALIMTA」とは、本件特許明細書で「そしてペメトレキセート(pemetrexed)二ナトリウム塩(このものは、アリムタ(Alimta, 登録商標)、イーライリリー社製、indianapolis, IN)は、」(段落【0002】)と記載され、上記「1.(2)」で説示した甲24で「このマルチターゲット型葉酸代謝拮抗薬(ペメトレキセート二ナトリウム塩、アリムタ、LY231514、MTA)は、臨床試験中の新世代の葉酸代謝拮抗薬である。」(1808頁左欄42?44行)と記載されているように、ペメトレキセート二ナトリウム塩の商品名(登録商標)である。
ここで、段落【0059】の「ビタミンB12および葉酸とALIMTAとの組み合わせ」による処置、及び、段落【0060】の「ビタミンB12、葉酸およびALIMTAを与えた」という組み合わせによる化学療法処置は、いずれも、臨床トライアルの「投与方法および服用方法」として記載されている段落【0050】?【0053】に記載の用法・用量を用いた「本件特許発明のレジメン」に該当する処置であると解するのが自然である。
そして、臨床トライアルの結果について、段落【0059】には、本件特許発明のレジメンによって薬物関連の死が<1%にまで低下し、薬物に関連するグレード3/4の毒性事象が低下したという結果が得られたことが、毒性事象を具体的な統計データで示す【表1】とともに記載されており、段落【0060】には、ペメトレキセート二ナトリウム塩(ALIMTA)に葉酸及びビタミンB_(12)を併用しない化学療法の応答率が約5.9%(17のうちの1だけが応答)であったのに対し、本件特許発明のレジメンによる化学療法の応答率が約17.8%(45のうちの8が応答)であったという結果が得られたことが記載されている。
そうすると、当業者は、ヒトMX-1乳癌腫移植雌性ヌードマウスを用いた実験で得られた、葉酸およびビタミンB_(12)の投与がALIMTAの抗腫瘍活性を変化させずALIMTAの毒性を増大させなかったという結果(段落【0036】?【0043】)、乳腺癌腫C3H菌株挿入マウスを用いた実験で得られた、ビタミンB_(12)を葉酸代謝拮抗薬と組み合わせた使用は薬物の毒性を低下させ抗腫瘍活性に有害な影響を及ぼさず、ビタミンB_(12)と葉酸との一緒の使用は薬物毒性を相乗的に低下させるという結果(段落【0044】?【0047】)、及び、本件特許発明のレジメンによる臨床トライアルで得られた結果(段落【0059】及び【0060】)を総合して判断することにより、本件特許発明によって、ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性が低下し、かつ、抗腫瘍活性を維持できるという効果が得られたことを理解できるといえる。
これに対し、上記「1.」で説示した甲1、甲5の記載に加えて優先日当時の技術水準ないし技術常識を参酌しても、ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に、葉酸だけでなく、さらにビタミンB_(12)を組み合わせて投与した場合に、ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性発現、及びペメトレキセート二ナトリウム塩の抗腫瘍活性に対して、それぞれどのような影響が生じるのかについて推認できる根拠は見当たらない。
よって、当業者が、甲1、甲5の記載に加えて優先日当時の技術水準ないし技術常識を参酌しても、本件特許発明による効果を予測し得たとはいえない。

4.請求人による主張について

請求人は、(i)甲31(本件特許の第1優先日の優先権書類)の記載及び甲32(本件特許の第2優先日の優先権書類)の記載を引用し、本件特許明細書の段落【0059】以降について、本件特許の第1優先日(2000年6月30日)および第2優先日(2000年9月27日)の優先権書類では、表1以降の記載を欠いているので、段落【0059】以降における本件特許発明の効果に関する記載を参酌する場合は、本件特許発明の優先日は、最先でも第3優先日の2001年4月18日となる、という主旨の主張をしている(口頭陳述要領書37?38頁の「(2-1-7)のア」)。
さらに請求人は、(ii)甲33(Proceedings of the American Society of Clinical Oncology, Vol.20: 2001 (Abstract 300))、甲34(米国臨床腫瘍学会からの電子メール)および甲35(2001年4月5日における米国臨床腫瘍学会のウェブページ)を提示して、本件特許の第3優先日である2001年4月19日前には、「B12及び葉酸プールが、MTAの重篤な副作用と相関する」ことが既知であったのであるから、本件特許発明の効果は、本件特許の第3優先日当時の技術水準から予測できない効果とは認定できない、という主旨の主張をしている(口頭陳述要領書38?39頁の「(2-1-7)のイ及びウ」)。
そこで、上記主張(i)及び(ii)について検討する。

[上記主張(i)について]
本件特許出願はパリ条約による優先権主張を伴う出願であるところ、パリ条約4条Hには優先権について以下のように規定されている。
「優先権は、発明の構成部分で当該優先権の主張に係るものが最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては、否認することができない。ただし、最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る。」
上記規定を本件特許出願にあてはめると、本件特許発明の構成部分が、甲31または甲32の全体により明らかにされているといえる場合は、甲31または甲32を基礎とする優先権主張が認められるといえるのに対し、上記主張(i)は、本件特許明細書の実施例の一部が甲31または甲32に記載されていないことのみを根拠として甲31または甲32を基礎とする優先権主張が認められないことを主張するものであって、そもそも、上記パリ条約4条Hの規定に沿った主張ではないので誤りである。
本件特許発明の構成部分は、甲31(3頁3行?4頁3行、5頁13行?6頁3行、7頁1?14行等)または甲32(2頁25行?4頁13行、6頁5?26行、7頁29行?8頁12行等)に記載され、さらに、本件特許発明の「ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための」という用途は、上記「3.」で説示したヒトMX-1乳癌腫移植雌性ヌードマウスを用いた実験や乳腺癌腫C3H菌株挿入マウスを用いた実験(甲31の7頁16行?9頁29行、甲32の8頁14行?9頁12行)により裏付けられているのであるから、本件特許発明の構成部分は、甲31または甲32の全体により明らかにされているといえる。
以上のように、本件特許発明の構成部分は、いずれも甲31または甲32の全体により明らかにされたものであるので、甲31(第1優先日:2000年6月30日)または甲32(第2優先日:2000年9月27日)を基礎とする優先権主張が認められるといえるのであるから、上記主張(i)は認められない。

[上記主張(ii)について]
上記主張(ii)は、上記主張(i)が認められることを前提とするものであるところ、[上記主張(i)について]で説示したように、上記主張(i)は認められないのであるから、上記主張(ii)は認められない。
なお、請求人が上記主張(ii)で指摘した甲33には、葉酸及びビタミンB_(12)の補充によりAlimta(ペメトレキセート二ナトリウム塩、LY231514、MTA)の毒性が有意に減少したことが記載されているが、葉酸及びビタミンB_(12)を補充した場合にペメトレキセートニナトリウム塩の抗腫瘍活性に何らかの影響が生じるのか否かについては記載も示唆もされていないのであるから、仮に、甲33の記載を参酌したとしても、上記「3.」で説示した本件特許発明による効果を当業者が予測し得たとはいえない。

5.無効理由1についての判断のまとめ
したがって、本件特許発明1?7は、当業者が、甲1、甲5に記載された発明、及び優先日当時の技術水準ないし技術常識に基いて、容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1?7に係る発明は、無効理由1(特許法第29条第2号)によって無効にすべきものであるとはいえない。

第6 無効理由2(新規性の欠如)について、当合議体の判断
当合議体は、本件特許発明1?7は、無効理由2によって無効にすべきものであるとはいえない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。

(1)請求人は、本件特許発明1?7は、甲第21号証?甲第23号証で言及されている第II相臨床試験(H3E-MC-JMDR試験)によって、本件特許出願の優先日前に外国において公然知られた発明または公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第1号または第2号の規定により特許を受けることができないものであると主張している。
そこで、以下では、上記「第II相臨床試験(H3E-MC-JMDR試験)」が実施されたことを根拠として、本件特許発明1?7が、不特定の者に秘密でないものとして知られた発明(公然知られた発明)であるといえるのか否か、あるいは、本件特許発明1?7が、公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施された発明(公然実施された発明)であるといえるのか否かについて、検討する。

(2)甲22に記載の第II相臨床試験(H3E-MC-JMDR試験)における、葉酸及びビタミンB_(12)を補給するペメトレキセド療法

甲22は、本件特許発明の出願日(2001年6月15日)より後に頒布された、「H3E-MC-JMDR」と称される第II相臨床試験の臨床試験概要書であり、以下の(2-1)?(2-5)の事項が記載されている。
なお、以下では、甲22に記載の第II相臨床試験(H3E-MC-JMDR試験)を「H3E-MC-JMDR試験」と略して記載することもある。

(2-1)「H3E-MC-JMDR試験」は悪性胸膜中皮腫患者を対象とする、LY231514のオープンラベル、第II相治験であり、世界4ヵ国の10施設で実施された。試験期間は1年10ヵ月半であり、最初の患者の登録日は1999年9月1日、最後の患者の試験の終了日は2001年7月14日であった(甲22a、甲22c)。

(2-2)本治験の実施中に、ペメトレキセド療法の標準部分として低用量葉酸及びビタミンB_(12)の補給を必要とする旨の変更をプログラムに基づいて行った。この変更は患者の安全性の向上のために1999年12月10日に実施した。
「ビタミン補給ありの患者」とは、1999年12月10日以降に本治験に登録され、葉酸及びビタミンB_(12)の投与が割り付けられた患者と定義した。
「ビタミン補給なしの患者」とは、(1)1999年12月10日以前に本治験に登録され、1999年12月10日以降に葉酸及びビタミンB_(12)の投与が割り付けられた患者、又は(2)1999年12月10日以前に本治験に登録され、ビタミン補給のための葉酸又はビタミンB_(12)の投与を全く受けなかった患者、と定義した。
1999年12月10日以降は、ペメトレキセド療法の標準的部分として、本治験の全参加患者に対して葉酸及びビタミンB_(12)の補給を行った。治験対象患者数は、登録時は64例であり、このうち43例がビタミン補給を受け、21例は受けなかった。
安全性の解析には64例の患者が組み入れられ、これら登録患者は中央値で6コースの試験治療を完了していた。「ビタミン補給ありの患者」は中央値で6コースの治療を完了し、「ビタミン補給なしの患者」は中央値で2コースの治療を完了していた(甲22c、甲22g、甲22h、甲22l)。

(2-3)本治験で1999年12月10日以降に実施された、葉酸及びビタミンB_(12)を補給するペメトレキセド療法は、以下のとおりである。
・全登録患者に対して、21日を1コースとして第1日目に10分間の静脈内注入によりペメトレキセド500 mg/m^(2)を投与した。
・発疹の一次予防のために、試験に登録された全患者に対して、各回のペメトレキセド投与の前日、当日及び翌日に、デキサメタゾン4 mg(又はデキサメタゾン4 mg等量のコルチコステロイド)を1日2回経口投与することとした。
・ペメトレキセド初回投与の約1?2週前から葉酸350?1000 μgの連日経口投与を開始し、患者への投与中止から1?2週後まで継続することとした。
・ペメトレキセド初回投与の約1?2週前にビタミンB_(12)注射薬1000 μgを筋肉内投与し、患者への投与を中止するまで約9週毎に継続して投与することとした。
・ペメトレキセド療法の投与は、病勢の進行のエビデンス又は許容できない毒性が認められるまで、或いは患者から治療中止の依頼がなされるまで、治療コースを繰り返すことができることとした(甲22d)。

(2-4)本治験の主要目的は、ペメトレキセド投与を受けた悪性胸膜中皮腫患者の腫瘍奏効率(応答率)を明らかにすることであり、副次的目的に「悪性胸膜中皮腫患者に対して21日毎に投与したペメトレキセドの毒性について定量的及び定性的な特性解析を行うこと」が含まれていた(甲22b)。

(2-5)有効性に関する評価項目としては、腫瘍奏効率(完全奏効及び部分奏効をみた患者数を解析に適格な患者数で割った数)、全生存期間等があった。悪性胸膜中皮腫患者におけるペメトレキセドの抗腫瘍活性を推定する評価項目のすべての信頼区間は、有意性のレベルαを0.05として求めた(甲22f)。
安全性に関する評価項目としては、有害事象発生率や国立がん研究所共通毒性基準の評価尺度を用いた毒性グレードの評価等があった(甲22e、甲22f、甲22i?l)。

上記「H3E-MC-JMDR試験」で用いられた「ペメトレキセド」は、甲21の「ペメトレキセド(アリムタ;Eli Lilly and Company, Indianapolis, IN)は、幅広い抗腫瘍活性を有する新規葉酸代謝拮抗薬である。」(1556頁右欄第2段落1?2行)という記載からみて、「アリムタ」であると解するのが自然である。そして、さらに本件特許明細書の「そしてペメトレキセート(pemetrexed)二ナトリウム塩(このものは、アリムタ(Alimta, 登録商標)、イーライリリー社製、indianapolis, IN)は、」(段落【0002】)という記載、及び、甲24の「このマルチターゲット型葉酸代謝拮抗薬(ペメトレキセートニナトリウム塩、アリムタ、LY231514、MTA)は、臨床試験中の新世代の葉酸代謝拮抗薬である。」(1808頁左欄42?44行)という記載を参酌すると、「H3E-MC-JMDR試験」で用いられた「ペメトレキセド」は、本件特許発明の「ペメトレキセート二ナトリウム塩」に該当する。
また、「H3E-MC-JMDR試験」では、1999年12月10日以降、43例の患者に対して、葉酸及びビタミンB_(12)を補給するペメトレキセド療法(以下、「ビタミン補給レジメン」ともいう。)が適用されており(上記(2-1)?(2-3))、当該「ビタミン補給レジメン」は、ペメトレキセド、葉酸及びビタミンB_(12)それぞれの用量・用法(上記(2-3))からみて、本件特許発明1におけるペメトレキセド二ナトリウム塩、葉酸及びビタミンB_(12)の用量・用法(以下、「本件特許発明1のレジメン」ともいう。)に該当する。
そして、上記「ビタミン補給レジメン」は21日(3週)を1コースとするものであるところ、1999年12月10日以降に「H3E-MC-JMDR試験」に登録され、葉酸及びビタミンB_(12)の投与が割り付けられた「ビタミン補給ありの患者」は、中央値で6コースの試験治療を完了しているのであるから(上記(2-3))、1999年12月10日から本件特許の第1優先日の前日である2000年6月29日までの203日(29週)の期間中に、治験当初から上記「ビタミン補給レジメン」すなわち本件特許発明1のレジメンを適用された「ビタミン補給ありの患者」が存在したといえる。

(3)「H3E-MC-JMDR試験」に関与した治験担当医師の秘密保持義務、及び、治験に参加した患者の秘密保持義務

乙34は、「H3E-MC-JMDR試験」に関与した治験担当医師である「医学博士U.Gatzemeier、グロースハンスドルフ病院、腫瘍学-呼吸器学部門、ヴェーレンダム80、22927グロースハンスドルフ」と、リリードイツ社、サールブルク通り153、61350バート・ホンブルク(以下、略して「会社」ともいう。)との間の治験契約であり、試験番号:H3E-MC-JMDRの臨床試験「悪性胸膜中皮腫患者における21日毎のMTA静脈内投与の第2相試験」すなわち「H3E-MC-JMDR試験」の実施を目的とする治験契約を記載した書面である。
そして、乙34には、治験担当医師の秘密保持義務について、「6.会社の科学者の責任者は、評価を要約した形式の書面で(治験薬概要書)、薬理学的-毒性試験の結果を医師に通知している。・・(略)・・ 医師は、会社から受領した全ての情報、または治験の実施中に医師自身が得た知識に関して、臨床試験の終結または終了後、少なくとも10年間、秘密を保持する義務を負い、会社が、書面でこちらから医師に公開するか、または適用される法律もしくは法規条項が、倫理委員会、患者、地方承認当局、もしくは米国食品医薬局とデータを共有することを要求しない限り、本治験契約書に規定された以外の全ての他の目的のために本情報を使用しない義務を負う。・・(略)・・本契約書で規定する秘密保持条項および使用禁止は、本治験および/または治験プロトコルとの関連において、契約者によって認識される、全ての以前の秘密保持条項および使用禁止と置き換えなければならない。」と記載されている。
上記治験契約の記載からみて、「H3E-MC-JMDR試験」に関与した治験担当医師は、「H3E-MC-JMDR試験」に関して会社から受領した全ての情報、または本治験の実施中に医師自身が得た知識に関して、臨床試験の終結または終了後、少なくとも10年間、秘密保持義務を負う者であるといえる。
これに対し、「H3E-MC-JMDR試験」に参加した患者に対して、治験担当医師と同様に秘密保持義務を負うことが明文化された治験契約書が存在したのか否かは不明である。
ここで、「秘密保持義務を負う者」とは、法律上又は契約上、明示的に秘密保持義務を負う者に限るものではなく、明示的に秘密保持義務を負う者に加え、「社会通念上又は商慣習上、発明者側の特段の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待される関係にある者」を含むとされている(東京高判平成12年12月25日(同平成11年(行ケ)第368号最高裁判所ウェブサイト、特許判例百選[第4版]22頁))。
しかし、「H3E-MC-JMDR試験」に参加した患者が、「H3E-MC-JMDR試験」への登録時に、会社(リリードイツ社)が「H3E-MC-JMDR試験」で得られた結果を踏まえて特許出願を行うことを知っていたか否かは不明であることを考慮すると、上記患者が「社会通念上又は商慣習上、発明者側の特段の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待される関係にある者」に該当するのか否かは不明であると言わざるをえない。
以上のように、「H3E-MC-JMDR試験」に参加した患者が、「H3E-MC-JMDR試験」に関与した治験担当医師と同様に「秘密保持義務を負う者」であるのか否か、あるいは「社会通念上又は商慣習上、発明者側の特段の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待される関係にある者」であるのか否かは、いずれも不明である。

(4)「ビタミン補給ありの患者」に提供された「ビタミン補給レジメン」の情報

上記(2)で説示した「ビタミン補給ありの患者」は、1999年12月10日以降に「H3E-MC-JMDR試験」に登録され、治験当初から「ビタミン補給レジメン」すなわち「本件特許発明1のレジメン」を適用されているので、「本件特許発明1のレジメンを適用された患者」であるといえる。
そこで、以下では、「ビタミン補給ありの患者」に対して、「ビタミン補給レジメン」の臨床治験プロトコール情報がどの程度提供されたのかについて、検討する。

(4-1)甲36は「ICHハーモナイズド3極ガイドライン GCPガイドライン E6(R1) 最新のステップ4バージョン(1996年6月10日)」と題する書面であるところ、GCPとは、乙34に記載の「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」であり、ICHとは、医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)の略称であり、医薬品規制当局と製薬業界の代表者が協働して、医薬品規制に関するガイドラインを科学的・技術的な観点から作成する国際会議である。そして、ICHの使命は、限られた資源を有効に活用しつつ安全性・有効性及び品質の高い医薬品が確実に開発され上市されるよう、より広範な規制調和を世界的に目指すことである(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構のホームページ(https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0014.html)より)。
ここで、甲36の表紙下部に、「このガイドラインは、ICHプロセスに従い、適切なICH専門家ワーキンググループによって作成され、規制パーティーでの審議を経たものである。このステップ4の段階では、欧州連合、日本および米国の規制当局に対して、この最終ドラフトの承認を勧告する。」(甲36a)と記載されているように、甲36は、1996年6月当時審議中であったGCPガイドラインの最終案(以下、「GCPガイドライン最終案」という。)であり、このGCPガイドライン最終案の内容で日・米・欧の各規制当局が承認するよう求めたものであった。
そして、日本では、平成9年(1999年)3月27日に、上記GCPガイドライン最終案に沿った内容である「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(甲37)が定められていることを考慮すると、米国及び欧州においても、1999年当時の上記GCPガイドライン最終案にしたがって医薬品の臨床試験が実施されていたと解するのが自然であるから、「H3E-MC-JMDR試験」において、「ビタミン補給ありの患者」が「ビタミン補給レジメン」を適用された1999年12月10日から本件特許の第1優先日の前日である2000年6月29日までの203日(29週)の期間中、「H3E-MC-JMDR試験」は、上記GCPガイドライン最終案の内容にしたがって実施されたと解すべきである。

(4-2)甲36の「4.8 治験患者に対してのインフォームドコンセント」における「4.8.2」及び「4.8.10」の規定によると、治験に参加する患者に提供される「インフォームドコンセントの議論および同意書面の書式並びにその他の書面情報」(以下、「インフォームドコンセントの書面」ともいう。)には、「治験における処置の内容」(「4.8.10」の(c))及び「治験の手順」(「4.8.10」の(d))について説明する内容が含まれているが、「4.8.10」の規定では、インフォームドコンセントの書面に全ての「臨床治験プロトコール」を記載することまでは求められていない。
甲36の「6.臨床治験プロトコールおよびプロトコールの変更」の項目では「6.4.4 治験での処置、並びに、治験薬の用量および投与方式についての記述。治験薬の剤形、包装、および効能効果も含む。」と規定されており、「臨床治験プロトコール」には治験薬の用量及び投与方式の情報が含まれているが、甲36の「4.8.6 書面同意書式を含む、治験についての口頭または書面情報に用いられる文体は、できるだけ専門用語を使わず、被験者、被験者の法的に許容できる代理人、及び公平な立会人に理解可能なものであるべきである。」という規定があるように、インフォームドコンセントの書面には、できるだけ専門用語を使わず、被被験者が理解可能な文体が用いられるべきであることを考慮すると、「ビタミン補給ありの患者」に提供されたインフォームドコンセントの書面に、「ビタミン補給レジメン」で用いられた葉酸、ビタミンB_(12)及びペメトレキセドそれぞれの具体的な投与量・投与経路・投与期間等の数値まで含む全ての臨床治験プロトコール情報が記載されていたのか否かは、不明であると言わざるを得ない。

(4-3)一方、甲36には、「2.3 治験に参加する被験者の権利、安全、および健康は、最も重要な考慮すべき事柄であって、科学面や社会面の利益に対して優先すべきものである。」という規定、及び「4.8.7 インフォームドコンセントの取得が可能となる前に、インベスティゲーター、またはインベスティゲーターから指示された者は、被験者または被験者の法的に許容できる代理人に、治験の詳細について質問をするための、および、治験に参加するかどうかを決定するための十分な時間と機会を与えるべきである。治験についての質問に対しては全て、被験者または被験者の法的に許容できる代理人が満足するまで、答えられるべきである。」という規定がある。
これらの規定によると、甲36においては、被験者の権利、安全及び健康は科学面や社会面の利益に対して優先されるべきものであり、インベスティゲーターまたはインベスティゲーターから指示された者には、被験者からの治験についての質問に対して、被験者が満足するまで答えられるべきであることが求められており、上記「インベスティゲーター、またはインベスティゲーターから指示された者」が行う行為は、甲36の「1.34」及び「1.56」の規定からみて「治験担当医師」の行為に相当するといえる。
そして、これらの規定を「H3E-MC-JMDR試験」に当てはめると、「H3E-MC-JMDR試験」に関与した治験担当医師には、患者の権利、安全、および健康を科学面や社会面の利益に対して優先するため、及び、患者が「H3E-MC-JMDR試験」に参加するかどうかを決定するための十分な時間と機会を与えるために、患者から説明を求められた場合は、「ビタミン補給レジメン」で用いられた葉酸、ビタミンB_(12)及びペメトレキセドそれぞれの具体的な投与量・投与経路・投与期間等の数値を含む全ての臨床治験プロトコール情報を、患者に提供することが求められていたと解するのが自然である。

(4-4)以上(4-1)?(4-3)で検討したように、「ビタミン補給ありの患者」に提供されたインフォームドコンセントの書面に、「ビタミン補給レジメン」で用いられた葉酸、ビタミンB_(12)及びペメトレキセドそれぞれの具体的な投与量・投与経路・投与期間等の数値まで含む全ての臨床治験プロトコール情報が記載されていたのか否かは不明である。
しかし、「ビタミン補給ありの患者」は、治験担当医師に説明を求めれば、「ビタミン補給レジメン」で用いられた葉酸、ビタミンB_(12)及びペメトレキセドそれぞれの具体的な投与量・投与経路・投与期間等の数値を含む全ての臨床治験プロトコール情報を知り得る状況にあったといえる。

(5)「ビタミン補給レジメン」が「ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持する」ことを満足し得るレジメンであるという情報について

上記(4)で説示したように「ビタミン補給ありの患者」は、治験担当医師に説明を求めれば、「ビタミン補給レジメン」で用いられた葉酸、ビタミンB_(12)及びペメトレキセドそれぞれの具体的な投与量・投与経路・投与期間等の数値を含む全ての臨床治験プロトコール情報を知り得る状況にあったといえる。
そして、上記(4)で説示した「2.3 治験に参加する被験者の権利、安全、および健康は、最も重要な考慮すべき事柄であって、科学面や社会面の利益に対して優先すべきものである。」という規定からみて、「ビタミン補給ありの患者」は、治験担当医師に説明を求めれば、「ビタミン補給レジメン」の有効性や安全性に関して患者本人から得られた結果を知り得る状況にあったといえる。
ただし、本件特許の第1優先日の前日である2000年6月29日までの時点で、「ビタミン補給ありの患者」が、「ビタミン補給レジメン」の有効性や安全性に関して本人以外の患者から得られた結果を知り得る状況にあったとはいえない。なぜなら、上記(3)で説示したように、「H3E-MC-JMDR試験」に関与した治験担当医師は、「H3E-MC-JMDR試験」に関して会社から受領した全ての情報、または「H3E-MC-JMDR試験」の実施中に医師自身が得た知識に関して、臨床試験の終結または終了後、少なくとも10年間、秘密保持義務を負う者であるので、治験担当医師が、「H3E-MC-JMDR試験」に参加した患者に対して、本人以外の患者から得られた結果を提供することはできないからである。
ここで、「ビタミン補給レジメン」が、本件特許発明1における必須の発明特定事項である「ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持する」ことを満足し得るレジメンであるか否かについては、「H3E-MC-JMDR試験」に参加した個々の患者から得られた結果を集約して統計処理を行って「ビタミン補給レジメン」の有効性や安全性を評価した結果を考察して判断されるものであるといえる(上記(2)の(2-4)及び(2-5))。
そして、治験担当医師あるいは甲36の「5.12.1」に規定される「スポンサー」に該当する会社(リリードイツ社)の担当者は、統計処理により「ビタミン補給レジメン」の有効性や安全性を評価した結果を知り得たかもしれないが、「H3E-MC-JMDR試験」に参加した患者は、本人以外の患者の情報を知り得る状況にはないのであるから、「ビタミン補給ありの患者」が、上記有効性や安全性を評価した結果を知り得る状況にあったとはいえない。
そうすると、「ビタミン補給ありの患者」は、本件特許の第1優先日の前日である2000年6月29日までの時点で、「ビタミン補給レジメン」が、本件特許発明1における必須の発明特定事項である「ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持する」ことを満足し得るレジメンであるという情報について、知り得る状況にあったとはいえない。

(6)本件特許発明1?7が「公然知られた発明」または「公然実施された発明」に該当するのか否かについて

上記(1)で説示したように、「公然知られた発明」とは、不特定の者に秘密でないものとしてその内容が知られた発明であり、「公然実施された発明」とは、その内容が公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施された発明である。
上記(2)及び(3)で説示したように、1999年12月10日から本件特許の第1優先日の前日である2000年6月29日までの203日(29週)の期間中に、治験当初から上記「ビタミン補給レジメン」すなわち本件特許発明1のレジメンを適用された「ビタミン補給ありの患者」が存在したが、当該「ビタミン補給ありの患者」が、「秘密保持義務を負う者」であるのか否か、あるいは「社会通念上又は商慣習上、発明者側の特段の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待される関係にある者」であるのか否かは、いずれも不明である。
そして、上記(4)で説示したように、「ビタミン補給ありの患者」は、治験担当医師に説明を求めれば、「ビタミン補給レジメン」で用いられた葉酸、ビタミンB_(12)及びペメトレキセドそれぞれの具体的な投与量・投与経路・投与期間等の数値を含む全ての臨床治験プロトコール情報を知り得る状況にあったといえる。
しかし、上記(5)で説示したように、「ビタミン補給ありの患者」は、本件特許の第1優先日の前日である2000年6月29日までの時点で、「ビタミン補給レジメン」が、本件特許発明1における必須の発明特定事項である「ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持する」ことを満足し得るレジメンであるという情報について、知り得る状況にあったとはいえない。
以上のように、「ビタミン補給ありの患者」は、本件特許の第1優先日の前日である2000年6月29日までの時点で、「ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持する」という必須の発明特定事項を含む本件特許発明1を知り得る状況にあったとはいえないのであるから、本件特許発明1は、上記(1)で説示した「公然知られた発明」または「公然実施された発明」のいずれにも該当しないといえる。
また、上記「ビタミン補給レジメン」は、ペメトレキセド、葉酸及びビタミンB_(12)それぞれの用量・用法(上記(2-3))からみて、本件特許発明2?4、6、7におけるペメトレキセド二ナトリウム塩、葉酸及びビタミンB_(12)の用量・用法にも該当する一方、本件特許発明5ではビタミンB_(12)を経口投与するのに対し、「ビタミン補給レジメン」ではビタミンB_(12)注射薬を筋肉内投与しているので、「ビタミン補給レジメン」は本件特許発明5におけるペメトレキセド二ナトリウム塩、葉酸及びビタミンB_(12)の用量・用法には該当しない。そして、本件特許発明2?7はいずれも、本件特許発明1と同様に「ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持する」ことを必須の発明特定事項として含むものである。
そうすると、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2?7は、上記(1)で説示した「公然知られた発明」または「公然実施された発明」のいずれにも該当しないといえる。

(7)以上(1)?(6)で検討したように、上記(2)で説示した「H3E-MC-JMDR試験」が実施されたことを根拠として、本件特許発明1?7は本件特許出願の優先日前に外国において公然知られた発明または公然実施された発明であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1?7は、無効理由2(特許法第29条第1項第1号または第2号)によって無効にすべきものであるとはいえない。

(8)被請求人が「甲23は不知」としていることについて

甲23は、上記(2)で説示した「H3E-MC-JMDR試験」の治験責任医師として関与したDr. Ulrich Gatzemeier(以下、「Dr. Gatzemeier」または「Gatzemeier博士」ともいう。)によって、2014年4月10日に作成された宣誓書である。
これに対し、被請求人は、甲23は信用性を欠いているので無効理由2(新規性の欠如)の根拠とならない旨を主張して、「甲23は不知」とした(第1回口頭審理調書)。被請求人が、甲23は信用性を欠いていると主張する理由の概要は以下のとおりである。
「Dr. Gatzemeierは、甲23において、本件第II相臨床試験に参加した患者は、本件第II相臨床試験の最中、MTA、葉酸及びビタミンB_(12)の併用投与による自身の腫瘍反応及び副作用について医師から説明を受けており、加えて、副作用の減少については自分自身で経験していたことから、当該患者は、MTA、葉酸及びビタミンB_(12)の併用投与によりMTA毒性の低下と抗腫瘍活性の維持を図ることができることを理解していた旨供述する。
しかし、Dr. Gatzemeierは、自身が執筆した刊行物(乙35)において、第II相臨床試験の効果を判定することは困難であるため、その効果を判定するためには、治験担当医師による判定のみならず、外部専門家による判定も必要であると述べている。
しかるところ、本件第II相臨床試験についていえば、Dr. Gatzemeierは、これに治験担当医師として関与したのみであり、彼が優先日前に外部専門家による判定結果を受領したとの事実はない(乙33)。
よって、乙35におけるDr. Gatzemeierの記述に従うならば、Dr. Gatzemeier、またいうまでもなく、本件第II相臨床試験に参加した患者も、優先日前に、MTA、葉酸とビタミンB_(12)とを併用投与することでMTA毒性の低下と抗腫瘍活性の維持を図ることができると判断することはできないということになる。
このように、甲23におけるDr. Gatzemeierの供述は、自身が執筆した刊行物(乙35)の記述と矛盾しており、信用性を欠く。
また、本件第II相臨床試験におけるDr. Gatzemeierの担当患者は、いずれも葉酸とビタミンB_(12)の併用投与が開始される前の1999年12月に第II相臨床試験を終了している(乙33)。つまり、Dr. Gatzemeierが、本件第II相臨床試験に参加した患者に対し、葉酸とビタミンB_(12)の併用投与の用法、用量、投与した効果等を伝える場面は存在しなかったのであり、実際に伝えた事実もない。
さらには、本件第II相臨床試験におけるDr. Gatzemeierの担当患者のうち、奏功を示した者は存在しなかった(乙33)。つまり、Dr. Gatzemeierが、本件第II相臨床試験に参加した患者に対し、MTAにより腫瘍増殖が抑制されたことを伝える場面は存在しなかったのであり、実際に伝えた事実もない。
このように、Dr. Gatzemeierの甲23における供述は、彼が執筆した刊行物(乙35)の記述と矛盾しているのみならず、彼が本件第II相臨床試験を通して体験した事実とも適合しておらず、甲23は信用性を欠く。よって、甲23は無効理由2(新規性の欠如)の根拠とならない。」(口頭審理陳述要領書の33頁4行?34頁下から3行)
そこで、被請求人の上記主張について、検討する。

甲23の「III. 結論」の項目には、以下の内容が記載されている。
(8-1)上述の臨床試験に参加した患者は、いかなる種類の機密保持契約にも拘束されていなかった。
(8-2)さらに、投与前に、これらの患者は投与を受ける物質、すなわち、ペメトレキセド、ビタミンB_(12)および葉酸について十分な説明を受けていた。また投与の目的、すなわち癌治療とペメトレキセドによる副作用の抑制についても説明を受けていた。加えて、試験期間中、参加患者は、自分の疾患がどのように治療に反応したかやその副作用プロファイルについて、詳細な情報を得ていた。従って、患者は、達成された治療効果を知っていた。
(8-3)最後に、1999年12月以降、参加患者のうち(b)群の患者は、ペメトレキセド治療にビタミンB_(12)と葉酸を補給すると副作用が減少することを直接的に経験する立場にあった。
(8-4)さらに、ビタミンB_(12)と葉酸は、腫瘍増殖に対するペメトレキセドの効果を増強するものではない。

[上記(8-1)について]
上記(3)で説示したように、患者に対する機密保持契約の有無は不明であるので、上記(8-1)の内容は真偽不明であると言わざるをえないが、上記(8-1)が記載されているからといって、甲23の供述が信用性を欠くとまでは言い切れない。

[上記(8-2)について]
上記(8-2) の内容は、上記(4)で説示した内容と整合している。

[上記(8-3)について]
上記(8-3)における「(b)群の患者」は、「b. 最初はペメトレキセドのみの投与を受け、後にビタミンB12と葉酸の追加投与を受けるようになった患者。すなわち、1999年12月よりも前に治療を開始し、1999年12月以降も治療を継続した患者」であるから、「ペメトレキセド治療にビタミンB_(12)と葉酸を補給すると副作用が減少することを直接的に経験する立場にあった」者であるといえる。
ここで、甲23には、「13. 上述のように、ペメトレキセド単独で治療を開始し、その後にビタミンB12および葉酸の補給を受けた患者群(「b」群)が存在した。・・・さらに、「b」群の患者は、ペメトレキセド単独による治療期と1999年12月以降のペメトレキセド、ビタミンB12、葉酸を併用する治療期を直接的に比較できる立場にあった。この補給により副作用が有意に減少したため、これらの患者は、補給によるポジティブな効果についての知識に加えて、ペメトレキセドによる副作用がビタミンB12および葉酸の併用により改善することも直接的に経験した。」と記載されている。
これに対し、甲23に対する意見を求められて作成された宣誓書として提出された乙33には、「Gatzemeier博士の臨床試験の治療群
15.Gatzemeier博士の治験の治療群は、試験に登録された5人の患者であった。Gatzemeier博士の5人の患者の最後の患者は、ビタミンB12の補充を導入するプロトコールの変更前の1999年11月に試験が中止された。Gatzemeier博士の患者は、博士が「b」または「c」として示す群にはおらず、博士の患者は全て1999年12月前に処置を中止した「a」であった。したがって、Gatzemeier博士の患者は、ビタミンB12の補充を受けておらず、さらに、これらの患者の誰もが奏効者ではなかった。」と記載されている。
そうすると、甲23の作成者であるGatzemeier博士が、ビタミンB_(12)の補充を受けていない「a」群の患者しか担当していなかったにもかかわらず、ビタミンB_(12)の補充を受けた「b」群の患者について、ビタミンB_(12)の補充により「副作用が有意に減少した」ことまで供述している点は、一見すると不自然であるが、甲23が作成された2014年4月10日の時点では、上記(2)で説示した甲22すなわち「H3E-MC-JMDR試験」の臨床試験概要書が頒布されているので、Gatzemeier博士が甲22に記載された内容を踏まえた上で、上記「副作用が有意に減少した」という供述をしたと解すれば、不自然であるとは言い切れない。

[上記(8-4)について]
上記(8-4)の「ビタミンB_(12)と葉酸は、腫瘍増殖に対するペメトレキセドの効果を増強するものではない」という供述は、上記(5)で指摘したように、「H3E-MC-JMDR試験」において1999年12月以降にビタミンB_(12)及び葉酸の補充が開始された後に得られた結果を集約して統計処理を行ってビタミンB_(12)及び葉酸を補充した場合のペメトレキセドの有効性を評価した結果を考察して判断された内容であり、ビタミンB_(12)の補充を受けていない「a」群の患者しか担当していなかったGatzemeier博士の供述としては、一見すると不自然であるが、[上記(8-3)について]と同様に、Gatzemeier博士が甲22に記載された内容を踏まえた上で、上記(8-4)の供述をしたと解すれば、不自然であるとは言い切れない。

以上のように、甲23に記載された内容には、一見すると不自然な点が散在しているが、Gatzemeier博士が、「H3E-MC-JMDR試験」の臨床試験概要書である甲22に記載された内容を踏まえた上で甲23の供述をしたと解すれば不自然であるとは言い切れず、甲23に記載された内容が信用性を欠くとまでは言い切れないのであるから、甲23の成立を疑う理由はない。
ただし、甲23に記載された内容は、あくまでも、Gatzemeier博士が甲23を作成した2014年4月10日までに得た知識を根拠とするものであり、本件特許出願の第1優先日の前日である1999年6月29日までの知識を根拠とするものではないから、甲23に記載された内容を参酌しても、上記(2)で説示した「H3E-MC-JMDR試験」が実施されたことを根拠として、本件特許発明1?7は本件特許出願の優先日前に外国において公然知られた発明または公然実施された発明であるとはいえない、という上記(7)で説示した判断に変わりはない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本件特許発明1?7に係る特許は、無効理由1及び2によって無効にすべきものであるとはいえない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とするものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-20 
結審通知日 2018-06-22 
審決日 2018-07-04 
出願番号 特願2002-506715(P2002-506715)
審決分類 P 1 113・ 111- Y (A61K)
P 1 113・ 121- Y (A61K)
P 1 113・ 112- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 淺野 美奈
前田 佳与子
登録日 2012-10-05 
登録番号 特許第5102928号(P5102928)
発明の名称 新規な葉酸代謝拮抗薬の組み合わせ療法  
代理人 小林 浩  
代理人 北原 潤一  
代理人 日野 真美  
代理人 西澤 恵美子  
代理人 米山 朋宏  
代理人 佐志原 将吾  
代理人 今里 崇之  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  

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