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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1358425
審判番号 不服2018-13959  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-22 
確定日 2020-01-21 
事件の表示 特願2014-108836「アルカリ電池用封口ガスケットおよびアルカリ電池」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月14日出願公開、特開2015-225743、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年5月27日の出願であって、平成30年2月9日付けで拒絶理由が通知され、同年4月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され(以下、同年4月10日付けで提出された手続補正書による補正を「手続補正1」という。)、同年7月18日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年10月22日付けで拒絶査定不服審判の請求とともに手続補正書が提出され(以下、同年10月22日付けで提出された手続補正書による補正を「手続補正2」という。)、同年11月13日付けで前置報告がされたものである。

第2 原査定及び前置報告の概要

1 原査定の概要

本願の手続補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項1、2、4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用文献1記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
仮に、上記各発明が、引用文献1に記載された発明ではないとしても、上記各発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
なお、本願の手続補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項3に係る発明については、拒絶の理由を発見しない。

引用文献1:特開2009-87873号公報

2 前置報告の概要

手続補正2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする。
しかし、本願の手続補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用文献2に記載された発明、及び、引用文献3、4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、手続補正2は、同法17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
そして、本願は原査定の理由に示したとおり拒絶されるべきものである。

引用文献2:特開平6-44976号公報(新たに引用された文献)
引用文献3:「最新 電池ハンドブック」、監訳者:高村勉、発行所:株式会社朝倉書店、1996年(平成8年)12月20日 初版第1刷発行、第134?135頁(周知技術を示す文献、新たに引用された文献)
引用文献4:「電池ハンドブック」、編者:電気化学会 電池技術委員会、発行所:株式会社オーム社、平成22年2月10日 第1版第1刷発行、第191?193頁(周知技術を示す文献、新たに引用された文献)

第3 手続補正2について

審判請求時の補正である手続補正2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするから、手続補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、順に「本願発明1」?「本願発明4」といい、これらを総称して「本願発明」という。)は、同法17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないところ、以下の「第5 当審の判断」で説示するとおり、本願発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

第4 本願発明

本願発明1?4は、手続補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
下方を底部として上方が開口する有底円筒状の電池缶内に、環状の正極合剤と、当該正極合剤の内側に配置される有底円筒状のセパレーターと、当該セパレーターの内側に配置される負極ゲルとが発電要素として収納されているとともに、前記電池缶の開口に負極端子板が嵌着されてなるアルカリ電池に組み込まれて前記電池缶の開口と前記負極端子板との間を絶縁するための封口ガスケットであって、当該封口ガスケットは、
一体成形された樹脂材料からなり、円盤状の隔壁部と、当該隔壁部の周縁から上方に立設する外周部と、前記円盤状の隔壁部の中心にて棒状の負極集電子を立設させるために上下方向に中空円筒状に突設されたボス部とを備え、
前記隔壁部には、内周側から外周側に向かって斜め上方に傾斜した後に下方に屈曲する応力緩衝部が形成されているとともに、前記隔壁部の下面において当該応力緩衝部の外周に沿って下方に突出する周回壁面部が形成され、
前記応力緩衝部の下面は、前記アルカリ電池に組み込まれた際に、前記セパレーターの上端に対向する位置となるように形成され、
前記隔壁部において、前記ボス部の外周から前記外周部までの領域では、前記周回壁面部の下端が最も下方の位置にあり、
前記周回壁面部の下端は、前記アルカリ電池に組み込まれた際に、前記正極合剤の上端面に対向するとともに、前記セパレーターの上端よりも下方の位置となるように形成されている、
ことを特徴とするアルカリ電池用封口ガスケット。
【請求項2】
請求項1において、前記アルカリ電池に組み込まれた際に、前記正極合剤の前記上端面と前記周回壁面部の上端までの距離Aと、当該周回壁面部の下端から上端までの高さBとの比B/Aが20%以上80%以下となるように形成されていることを特徴とするアルカリ電池用封口ガスケット。
【請求項3】
請求項1または2において、前記周回壁面部は、円周の長さを100%としたときに、当該円周の方向に0%よりも大きく、15%以下の長さの切欠が形成されていることを特徴とするアルカリ電池用封口ガスケット。
【請求項4】
有底円筒状の電池缶内に、環状の正極合剤と、当該正極合剤の内側に配置される有底円筒状のセパレーターと、当該セパレーターの内側に配置される負極ゲルとが収納されているとともに、前記電池缶の開口に負極端子板が、請求項1?3のいずれかに記載の前記アルカリ電池用封口ガスケットを介して嵌着されてなることを特徴とするアルカリ電池。」

第5 当審の判断

1 引用文献2の記載事項

(1)前置報告で新たに引用された引用文献2には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

「【請求項1】 頂面と底面をもち頂面を底面に接続する開口を備えるデイスク形状の電気的に非伝導性の密封体、および2つの等しい形状の端部を備える細長い電気的に伝導性の集電器、を含む電気化学槽用の集電器組立体の製造方法であって、密封体の表面より上の区域に集電器の小部分を露出させるに十分な距離を置いて集電器の等しい形状の端部の1つを密封体の底面から開口中に挿入することを特徴とする方法。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電気化学槽用の集電器組立体の製造方法およびこの組立体を製造するのに使用する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】円筒形アルカリ電気化学槽は一般に陽極、陰極、セパレータ、電解質、円筒カップ形状金属容器および集電器組立体を含む。集電器組立体は通常、集電器組立体を作るために予め組み立てられる2個以上の部品からなり、次いで容器の開放端部に挿入されて容器内の電気化学的に活性な成分を密封する。集電器組立体は一般に中心配置の開口と電気伝導性集電器を含み、この集電器は密封体の外部から密封体の開口を介して槽の内面に連続して電気を与えるように設計されている。・・・」
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】現在使用されている製造法は多量の集電器組立体を製造するのに成功したけれども、次の特性をもつ集電器を開発する必要がある。(1)挿入前の集電器の配位の必要を無くすことによって製造法を簡単にし、(2)不規則形状の集電器を集電器組立体に組み立てることを可能にし、(3)集電器の最小長さを密封体に挿入して集電器組立体を作るのに必要な時間を最小にすることによって製造コストを減少させ、そして(4)集電器挿入過程中の密封体の開口の内面の損傷の機会を最小にすることによって洩れのリスクを減少させる。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は密封体および2つの同じ形状の端部をもつ細長い集電器を含む集電器組立体の製造方法に関する。密封体は頂面、底面、および頂面を底面に接続する開口をもつ。この組立体は密封体の頂面より上の区域に集電器の小部分を露出させるに十分な距離を置いて集電器の端部の1つを密封体の底面から開口中に挿入することによって製造される。」
「【0010】本発明の方法は、集電器を配位する必要を無くすことによって及び密封体中に集電器の最小長さを挿入することにより組立体時間を減少させることによって、製造者が集電器組立体を有効に組立てることを可能にする。密封体中への集電器の最小長さの挿入は密封体の開口の内面を損傷する機会を最小にすることによって洩れのリスクを減少させる。また、対称形の又は非対称形の集電器は集電器組立体中にくみ入れることができる。
【0011】
【実施例】図面を参照して、更に詳しくは図1を参照して、そこには本発明の方法によって製造した集電器組立体10が示してある。この集電器組立体10は密封体12および棒状の集電器14を含む。密封体はデイスク状の形状を一般にもち、電気的に非伝導性の材料から製造される。この要素は頂面36、底面38および直立壁40をもち、直立壁は密封体の周囲境界を形成している。これらの表面の一方または双方は輪郭をつけることができる。密封体の中心領域近くに配置した開口20は頂面36を底面38に接続する。密封体を製造するのに好適な材料として、たとえばナイロン、ポリプロピレン、充填ポリプロピン、およびポリスルホンがあげられる。好ましい材料はナイロンである。
【0012】集電器14は2つの等しい形状の端部をもつ細長い電気伝導体である。好ましくは、集電器は対称形状のものである。最も好ましくは、集電器は棒のような形状である。・・・」
「【0015】図1に示す内部カバー16は密封体12の頂面36に隣接して配置され、集電器組立体の任意要素である。・・・
【0016】集電器組立体の更に別の任意要素は錠止コネクター44であり、これは密封体の頂面より上にのびる集電器の部分に締着するとき係止部材として役立つ。・・・
【0017】所望ならば、集電器組立体に排気機構をくみ入れることができる。・・・槽の内部圧力が予め定めた圧力を越えるならば、図1に示す歯付ワッシャー孔あけ工具40および皿形ワッシャー42が共同して密封体に孔をあける。・・・
【0018】図2は半組立体21を示す。この半組立体に図1に示す集電器組立体を挿入して図3に示す部分組立バッテリーを製造する。図2を参照して、半組立体は第1の電気化学的に活性な材料30を容器26の開放端部に挿入することによって製造される。好都合には、この材料は二酸化マンガンおよび電気伝導性粉末たとえばグラファイトを含む。この混合物を機械的に成形して電気化学的活性材料を容器の側壁に対して充填し、それによって容器の中心軸にそって円筒状中空を作る。生成電極の内面はセパレータ32で内張りして物理的バリヤーを作る。これはイオン伝導が起こることを可能にする。・・・粉末状亜鉛を含む第2の電気化学的に活性な材料28は、セパレータ32によって形成される中空の空間に注入される。・・・多量の好適な電解質たとえば水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを槽の開放端部中に分配する。粘稠物質56、たとえばアスファルトを容器26の内部頂面に加えて容器表面にそった槽の電解質の「ほふく」に対するバリヤーとして役立てることもできる。
【0019】図3には、半組立体容器26の開放端部24に挿入した集電器組立体を含む部分組立槽が示してある。集電器組立体の密封体12は容器26の開放端部を閉鎖する。・・・錠止部材・・・44は、密封体12の頂面より上にのびる集電器の先導端に押圧嵌合させることができる。・・・第1の外部カバー48は集電器の露出端部に溶接され、それによって槽の負の端子が形成される。
【0020】図4に示すように、容器26のリム40は密封体に向けて内側に曲げられて密なシールを形成する。・・・バッテリーは、第2の外部カバー46を容器26の閉鎖端部42に溶接してバッテリーの正の端子を形成することによって完成させることができる。次いでラベル50を槽の周囲表面に固着させることができる。」






(2)前記(1)の記載によれば、引用文献2には、以下の事項が記載されている。

ア 引用文献2に記載された発明は、電気化学槽用の集電器組立体の製造方法及びこの組立体を製造するのに使用する方法に関する(【0001】)。

イ 従来、円筒形アルカリ電気化学槽は一般に陽極、陰極、セパレータ、電解質、円筒カップ形状金属容器及び集電器組立体を含み、集電器組立体は、あらかじめ組み立てられた2個以上の部品からなり、次いで容器の開放端部に挿入されて容器内の電気化学的に活性な成分を密封するものであり、一般に中心配置の開口と電気伝導性集電器を含み、この集電器は密封体の外部から密封体の開口を介して槽の内面に連続して電気を与えるように設計されていたところ(【0002】)、さらに、次の特性を持つ集電器を開発する必要があった。
すなわち、(1)挿入前の集電器の配位の必要を無くすことによって製造法を簡単にし、(2)不規則形状の集電器を集電器組立体に組み立てることを可能にし、(3)集電器の最小長さを密封体に挿入して集電器組立体を作るのに必要な時間を最小にすることによって製造コストを減少させ、そして(4)集電器挿入過程中の密封体の開口の内面の損傷の機会を最小にすることによって洩れのリスクを減少させることが可能な集電器を開発する必要があった(【0007】)。
以上に鑑み、引用文献2に記載された発明は、上記の各特性を持つ集電器を開発することを発明が解決しようとする課題とする。

ウ 引用文献2に記載された発明は、前記イの課題を解決するものであり、頂面と底面をもち頂面を底面に接続する開口を備えるデイスク形状の電気的に非伝導性の密封体、及び2つの等しい形状の端部を備える細長い電気的に伝導性の集電器、を含む電気化学槽用の集電器組立体の製造方法であって、密封体の表面より上の区域に集電器の小部分を露出させるに十分な距離を置いて集電器の等しい形状の端部の1つを密封体の底面から開口中に挿入することを特徴とする方法である(【請求項1】、【0008】)。
上記の方法は、集電器を配位する必要を無くすことによって及び密封体中に集電器の最小長さを挿入することによって、組立体時間を減少させ、製造者が集電器組立体を有効に組立てることを可能にし、密封体中への集電器の最小長さの挿入は密封体の開口の内面を損傷する機会を最小にすることによって、洩れのリスクを減少させるものであり、対称形の又は非対称形の集電器は集電器組立体中に組み入れることができる(【0010】)。

エ 実施例においては、密封体12と、2つの等しい形状の端部を備える細長い電気的に伝導性の集電器14とを含む集電器組立体10が用いられており、上記密封体12は、頂面36、底面38及び周囲境界を形成する直立壁40を持つデイスク形状で、図1に示された断面形状を持ち、中心領域に配置した開口20は頂面36を底面38に接続し、電気的に非伝導性であるナイロン等の材料によって製造されている(【0011】、【0012】、【図1】)。

オ 前記集電体組立体10では、内部カバー16、錠止コネクター44は、いずれも任意要素であり(【0015】、【0016】、【図1】)、所望であれば、歯付ワッシャー孔あけ工具40及び皿形ワッシャー42からなる排気機構を組み入れることができ、両者は、槽の内部圧力が予め定めた圧力を越えた際に、共同して密封体に孔をあける(【0017】、【図1】)。

カ また、集電器組立体10を挿入してバッテリーを製造するための半組立体21は、容器26の解放端部24から、二酸化マンガン及び電気伝導性粉末を含む混合物を機械的に成形した第1の電気化学的に活性な材料30が前記容器26の内壁に接するように挿入され、前記第1の電気化学的に活性な材料30によって、容器の中心軸に沿って作られた円筒状中空の内面が、セパレータ32によって内張りされ、前記セパレータ32によって形成される中空の空間に、粉末状亜鉛を含む第2の電気化学的に活性な材料28が注入され、前記容器26内に多量の好適な電解質(例えば、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム)が分配される(【0018】、【図2】)。

キ その後、前記容器26の開放端部24には、密封体12と、2つの等しい形状の端部を備える細長い電気的に伝導性の集電器14とを含む集電器組立体10及び負の端子を形成する第1の外部カバー48が挿入され、前記容器26のリム40が、前記密封体12に向けて内側に曲げられて密なシールが形成され、第2の外部カバー46が容器26の閉鎖端部42に溶接されてバッテリーの正の端子を形成し、次いでラベル50を槽の周囲表面に固着させることでバッテリーが完成する(【0018】、【0019】、【図3】、【図4】)。

ク ここで、前記容器26は、閉塞端部42を有し、第1の電気化学的に活性な材料30が挿入された後に容器の中心軸に沿って円筒状中空の内面が形成され、密封体12がデイスク形状(円板形状)でもあることから、その形状が有底円筒状であることは明らかである。
また、セパレータ32は、【図3】によれば底部を有し、上記円筒状中空の内面に内張りされるものであるから、同様に、その形状が有底円筒状であることも明らかである。

(3)前記(2)エ?クによれば、引用文献2には、実施例に基いて認定した以下の「引用発明2」が記載されている。

(引用発明2)
有底円筒状の容器26の解放端部24から、二酸化マンガン及び電気伝導性粉末を含む混合物を機械的に成形した第1の電気化学的に活性な材料30が前記容器26の内壁に接するように挿入され、
前記第1の電気化学的に活性な材料30によって容器の中心軸に沿って作られた円筒状中空の内面が、有底円筒状のセパレータ32によって内張りされ、
前記セパレータ32によって形成される中空の空間に、粉末状亜鉛を含む第2の電気化学的に活性な材料28が注入され、
前記容器26内に多量の好適な電解質(例えば、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム)が分配され、
前記容器26の前記開放端部24には、密封体12と、2つの等しい形状の端部を備える細長い電気的に伝導性の集電器14とを含む集電器組立体10及び負の端子を形成する第1の外部カバー48が挿入され、前記容器26のリム40が、前記密封体12に向けて内側に曲げられて密なシールが形成されたバッテリーに組み込まれる前記密封体12であって、
頂面36、底面38及び周囲境界を形成する直立壁40を持つデイスク形状で、図1に示された断面形状を持ち、中心領域に配置した開口20は頂面36を底面38に接続し、ナイロン等の電気的に非伝導性の材料によって製造されている前記密封体12。

2 引用文献3、4の記載事項

(1)前置報告で周知技術を示す文献として新たに引用された引用文献3には、以下の記載がある。

「10 アルカリ・マンガン電池」(第134頁最上行)
「10.3.2 負極の構成」(第134頁左欄下から第7行)
「亜鉛粉
純亜鉛は商業的には・・・によって、電池に適したサイズの粗粒を製造する.粒の・・・大きさは20?820μm、中央粒径の範囲は155?225μmである.」(第134頁右欄第4?11行)
「負極ゲル
ゲル化剤としては,デンプンあるいはセルロース誘導体,ポリアクリレート,またはエチレン無水マレイン酸共重合体が使われている.負極のキャビティを充填する電池中央の容積部に,完全によく混合された負極合材,または電解液が後で加えられる乾燥成分・・・を満たす.」(第134頁右欄第20?27行)

(2)同様に、前置報告で周知技術を示す文献として新たに引用された引用文献4には、以下の記載がある。
「■4.負極
アルカリ乾電池の負極は,亜鉛の放電反応時の不動態化を抑制するために,亜鉛の表面積が大きくなるように粉末状とし,ゲル化剤として主にカルボキシメチルセルロースやポリアクリル酸ナトリウムをアルカリ電解液に添加したゲル状電解液に,この亜鉛粉末を均一に分散させて使用している.」(第191頁右欄下から第6行?第192頁左欄第1行)

(3)以上によれば、アルカリ・マンガン電池(アルカリ乾電池)の技術分野において、亜鉛粉末からなる負極材料にゲル化剤を添加して負極ゲルにすることは、本願の出願前における当業者の周知技術であったものと認められる。

3 引用文献1の記載事項

原査定で引用された引用文献1には、以下の記載がある。

「【0004】
筒型電池における従来の封口ガスケットには、様々な形状があり、図4に示した電池に採用されている封口ガスケット10dは、ナイロンやポリオレフィンなどの樹脂からなる略円盤状の表面にボス部11と同心円状の凹凸が形成された形状をなしている。・・・図5(A)と(B)は、それぞれ、封口ガスケット10dの上方からの平面図と側断面図であり、図6(A)と(B)は、それぞれ、当該封口ガスケット10dの上方からの斜視図と、下方からの斜視図である。
【0005】
封口ガスケット10dの円盤中心には円筒状をなして上下に突設されるとともに、当該円筒軸方向に棒状集電子6が挿通されるボス部11が形成されている。そして、当該ボス部11の円筒上部周縁12から円盤外周に向けてほぼボス部11の下端の高さまで同心円状に下方に傾斜して略円錐形の側面をなす傾斜側面部20と、当該円錐底面の周縁13に連続して上方に折り返されてほぼボス部11の上端の高さまで立設されて、略円筒の内壁面となる壁面部14とが形成されている。・・・
【0006】
一方、上記円盤の外周縁部は、上方に立設して電池缶2と負極電極板7とに挟持される環状パッキング部15が形成され、この環状パッキン部15の下縁から内周に向かって平坦部16となり、この平坦部16の内側周縁17が逆U字型の断面形状となるように上方に突設したのち逆U字部18の底19を経て下方に反転し、上記壁面部14に連続している。」






4 対比・判断

(1)本願発明1について

ア 本願発明1と引用発明2との対比

(ア)本願発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「解放端部24」を有する「有底円筒状の容器26」及び「有底円筒状のセパレータ32」は、それぞれ、本願発明1の「下方を底部として上方が開口する有底円筒状の電池缶」及び「有底円筒状のセパレーター」に相当する。

(イ)引用発明2の「二酸化マンガン及び電気伝導性粉末を含む混合物を機械的に成形した第1の電気化学的に活性な材料30」は、「有底円筒状の容器26」に接して挿入されるものであるから、その形状が環状であることは明らかである。
したがって、引用発明2の「二酸化マンガン及び電気伝導性粉末を含む混合物を機械的に成形した第1の電気化学的に活性な材料30」は、本願発明1の「環状の正極合剤」に相当する。

(ウ)引用発明2の「粉末状亜鉛を含む第2の電気化学的に活性な材料28」は、「集電器14」を経由して「負の端子を形成する第1の外部カバー48」と電気的に接続されている。
したがって、引用発明2の「粉末状亜鉛を含む第2の電気化学的に活性な材料28」と、本願発明1の「負極ゲル」は、「負極材料」である点で一致する。

(エ)引用発明2の「バッテリー」は、正極材料に「二酸化マンガン及び電気伝導性粉末を含む混合物」、負極材料に「粉末状亜鉛」、電解質に「例えば、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム」が、それぞれ、用いられている。
したがって、引用発明2の「バッテリー」と、本願発明1の「アルカリ電池」は、「アルカリ電池」である点で一致する。

(オ)引用発明2の「負の端子を形成する第1の外部カバー48」は、本願発明1の「負極端子板」に相当し、引用発明2の「2つの等しい形状の端部を備える細長い電気的に伝導性の集電器14」は、本願発明1の「棒状の負極集電子」に相当する。
また、引用発明2では、「前記容器26の前記開放端部24には、密封体12と」「集電器14とを含む集電器組立体10及び負の端子を形成する第1の外部カバー48が挿入され、前記容器26のリム40が、前記密封体12に向けて内側に曲げられて密なシールが形成され」ることで、「密封体12」によって「容器26」の「解放端部24」と「負の端子を形成する第1の外部カバー」との間に密なシールが形成され、また、「密封体12」は「ナイロン等の電気的に非伝導性の材料によって製造されている」から、両者が電気的に絶縁されることは明らかである。
したがって、引用発明2の「容器26」の「解放端部24」と「負の端子を形成する第1の外部カバー」との間に密なシールを形成し、両者を電気的に絶縁する「密封体12」と、本願発明1の「電池缶の開口に負極端子板が嵌着されてなるアルカリ電池に組み込まれて前記電池缶の開口と前記負極端子板との間を絶縁する」「封口ガスケット」とは、「電池缶の開口に負極端子板が嵌着されてなるアルカリ電池に組み込まれて前記電池缶の開口と前記負極端子板との間を絶縁する」「封口ガスケット」である点で一致する。
さらに、引用発明2の「密封体12」が「ナイロン等」「の材料によって製造されている」ことは、本願発明1の「封口ガスケット」が「樹脂材料からな」ることに相当する。

(カ)ここで、引用発明2の「密封体12」の形状と、本願発明1の「封口ガスケット」の形状とを対比するために、引用文献2の【図1】を再掲する。
ただし、下記【図1】では、対比の便宜のために、当審にて「密封体12」並びに「歯付ワッシャー孔あけ工具40及び皿形ワッシャー42からなる排気機構」のみを抽出し、点線で示した各領域に対し、A、B、B1、B2、B3、Cの符号を付した。
「【図1】


上記【図1】によれば、引用発明2の「密封体12」におけるB、C(直立壁40)、Aの各領域は、それぞれ、本願発明1の「封口ガスケット」における「円盤状の隔壁部」、「隔壁部の周縁から上方に立設する外周部」、「隔壁部の中心にて棒状の負極集電子を立設させるために上下方向に中空円筒状に突設されたボス部」に相当する。
また、引用発明2の「密封体12」におけるB1、B3の各領域は、それぞれ、本願発明1の「隔壁部」において「内周側から外周側に向かって斜め上方に傾斜した後に下方に屈曲する応力緩衝部」、「隔壁部の下面において当該応力緩衝部の外周に沿って下方に突出する周回壁面部」に相当する。
さらに、引用発明2の「密封体12」におけるB3の領域の下端は、Bの領域では最も下方の位置にあり、「密封体12」が「バッテリー」に組み込まれた際に、「第1の電気化学的に活性な材料30」の上端面に対向するとともに、「セパレータ32」の上端よりも下方に位置にあるから(【図4】)、引用発明2は、本願発明1の「前記隔壁部において、前記ボス部の外周から前記外周部までの領域では、前記周回壁面部の下端が最も下方の位置にあり、前記周回壁面部の下端は、前記アルカリ電池に組み込まれた際に、前記正極合剤の上端面に対向するとともに、前記セパレーターの上端よりも下方の位置となるように形成されている」ことに相当する事項を有している。
なお、上記【図1】の「密封体12」におけるB2の領域については、その上部に所望であれば、歯付ワッシャー孔あけ工具40及び皿形ワッシャー42からなる排気機構を組み入れることができ、両者は、槽の内部圧力が予め定めた圧力を越えた際に、共同して「密封体12」に孔をあけるものであることを踏まえるならば(前記1(2)エ)、上記B2の領域は、その断面形状が「へ」の字形であっても、「バッテリー」を組み立てる際に生じる縮径方向等の応力緩和を予定しているものとはいえないから、本願発明1の「隔壁部」において「内周側から外周側に向かって斜め上方に傾斜した後に下方に屈曲する応力緩衝部」に相当するとはいえない。

(キ)以上によれば、本願発明1と引用発明2との「一致点」及び「相違点1」?「相違点3」は以下のとおりである。

(一致点)
「下方を底部として上方が開口する有底円筒状の電池缶内に、環状の正極合剤と、当該正極合剤の内側に配置される有底円筒状のセパレーターと、当該セパレーターの内側に配置される負極材料とが発電要素として収納されているとともに、前記電池缶の開口に負極端子板が嵌着されてなるアルカリ電池に組み込まれて前記電池缶の開口と前記負極端子板との間を絶縁するための封口ガスケットであって、当該封口ガスケットは、
樹脂材料からなり、円盤状の隔壁部と、当該隔壁部の周縁から上方に立設する外周部と、前記円盤状の隔壁部の中心にて棒状の負極集電子を立設させるために上下方向に中空円筒状に突設されたボス部とを備え、
前記隔壁部には、内周側から外周側に向かって斜め上方に傾斜した後に下方に屈曲する応力緩衝部が形成されているとともに、前記隔壁部の下面において当該応力緩衝部の外周に沿って下方に突出する周回壁面部が形成され、
前記隔壁部において、前記ボス部の外周から前記外周部までの領域では、前記周回壁面部の下端が最も下方の位置にあり、
前記周回壁面部の下端は、前記アルカリ電池に組み込まれた際に、前記正極合剤の上端面に対向するとともに、前記セパレーターの上端よりも下方の位置となるように形成されている、
アルカリ電池用封口ガスケット。」である点。

(相違点1)
本願発明1の「封口ガスケット」が組み込まれる「アルカリ電池」では、負極材料として「負極ゲル」が用いられているのに対して、
引用発明2の「密封体12」が用いられる「バッテリー」では、負極材料として「粉末状亜鉛を含む第2の電気化学的に活性な材料28」が用いられている点。

(相違点2)
本願発明1の「封口ガスケット」は「一体成形され」ているのに対して、
引用発明2の「密封体12」は、一体成形されているのか否かは不明である点。

(相違点3)
本願発明1の「封口ガスケット」における「応力緩衝部の下面は、」「アルカリ電池に組み込まれた際に、」「セパレーターの上端に対向する位置となるように形成され」ているのに対して、
引用発明2の「密封体12」におけるB1の領域(前記(カ)【図1】)の下面は、「バッテリー」に組み込まれた際に、「セパレータ32」の上端に対向する位置に形成されていない点(【図4】)。

イ 相違点3についての判断

(ア)事案に鑑み、相違点3について検討すると、引用文献2には、「密封体12」におけるB1の領域の下面を「バッテリー」に組み込まれた際に、「セパレータ32」の上端に対向する位置に形成してもよいことは記載も示唆もされていない。

(イ)また、前記ア(キ)で検討したとおり、引用発明2では、「密封体12」におけるB2の領域の上部には、所望であれば、歯付ワッシャー孔あけ工具40及び皿形ワッシャー42からなる排気機構を組み入れることができるようになっているところ、B1の領域を外周側に移動させると、B2の領域が狭くなり、上記排気機構を設けることができる広さを確保することが困難になるから、引用発明2において、「密封体12」におけるB1の領域を外周側に移動させて、その下面が、「バッテリー」に組み込まれた際に「セパレータ32」の上端に対向する位置とすることには、むしろ阻害要因がある。

(ウ)さらに、前置報告で周知技術を示す文献として新たに引用された引用文献3、4の記載(前記2)や、原査定で引用された引用文献1の記載(前記3)を参酌しても、引用発明2において、「密封体12」におけるB1の領域を外周側に移動させて、その下面が、「バッテリー」に組み込まれた際に「セパレータ32」の上端に対向する位置とすることの指針となる記載を見いだすことはできない。

(エ)したがって、引用発明2において、本願発明1の相違点3に係る事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。
そして、本願発明1は、位置合わせ精度が低くてもセパレーターが応力緩衝部から逸脱することがないという格別な効果を有するものである(【0016】、【0020】)。

ウ よって、相違点1、2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献2に記載された発明、及び、引用文献3、4、1に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本願発明2?4について

本願発明2?4は、引用により本願発明1の発明特定事項を全て備えているから、本願発明1と同様の理由により、引用文献2に記載された発明、及び、引用文献3、4、1に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-01-08 
出願番号 特願2014-108836(P2014-108836)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
P 1 8・ 113- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山内 達人  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 井上 猛
亀ヶ谷 明久
発明の名称 アルカリ電池用封口ガスケットおよびアルカリ電池  
代理人 一色国際特許業務法人  

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