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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61M
審判 全部無効 特29条特許要件(新規)  A61M
審判 全部無効 2項進歩性  A61M
管理番号 1358470
審判番号 無効2017-800070  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-05-22 
確定日 2020-01-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第6018822号発明「アクセスポートおよびその識別方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6018822号の請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6018822号に係る発明についての出願は、平成18年3月6日(優先権主張 平成17年3月4日(以下、「優先日」という。))を国際出願日とする特願2007-558331号の一部を平成24年7月12日に新たな特許出願(特願2012-156976号、以下、本件特許出願という。)としたものであって、平成28年10月7日に特許権の設定登録がなされた。

その後、平成29年5月22日付けで、請求人 ビー・ブラウンエースクラップ株式会社、及び、請求人 ビー・ブラウン・メディカル・エスエーエス(以下、「請求人ら」という。)により、被請求人をシー・アール・バード・インコーポレーテッドとして無効審判の請求がなされた。
そして、無効審判請求に係る手続の経緯は、以下のとおりである。

平成29年 5月22日 本件無効審判請求
平成29年 9月25日 審判事件答弁書提出
平成29年12月21日 請求人らより口頭審理陳述要領書提出
平成30年 1月15日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成30年 1月23日 口頭審理
平成30年 1月30日 請求人らより上申書提出
平成30年 2月13日 被請求人より上申書提出
平成30年 4月 5日 審決の予告
被請求人からは、審決の予告に対して、何ら応答がなかった。

なお、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、本件特許の請求項1?6に係る発明を、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。)

「【請求項1】
コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられる、患者への皮下アクセスを提供するための自動注入可能なアクセスポートであって、
隔膜を保持するよう構成される本体と、
皮下埋め込み後、前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される、前記アクセスポートの少なくとも1つの、前記自動注入可能なアクセスポートの、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の、識別可能な特徴とを具え、
前記自動注入可能なアクセスポートは、機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができ、
前記隔膜は、前記本体内に画定された空洞内に、前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である自動注入可能なアクセスポート。
【請求項2】
前記本体は、ハウジングを備え、
前記ハウジングは、吐出ポートと当該ハウジングに固定可能なキャップとを有し、
前記キャップは、前記本体内で前記隔膜を保持する、請求項1に記載の自動注入可能なアクセスポート。
【請求項3】
前記ハウジングは、少なくとも1つの容器を画定する、ハウジングのベースを備える、請求項2に記載の自動注入可能なアクセスポート。
【請求項4】
前記本体は、前記隔膜と共に空洞を画定するハウジングを具え、
前記空洞は、吐出ステムの内腔と流体連通している、請求項1に記載の自動注入可能なアクセスポート。
【請求項5】
前記吐出ステムは、カテーテルと連結するように構成された、請求項4に記載の自動注入可能なアクセスポート。
【請求項6】
前記本体は、縫合開口を具える、請求項1に記載の自動注入可能なアクセスポート。」

第3 請求人らの主張
請求人らの主張する請求の趣旨は、本件特許発明1?6についての特許を無効とする、との審決を求めるものである。
また、その請求の要旨は、審判請求書、平成29年12月21日付け口頭審理陳述要領書、平成30年1月30日付け上申書の記載からみて、以下のとおりである。

1 無効理由
(1) 無効理由1
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許に係る出願の発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(2) 無効理由2
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(3) 無効理由4
(3-1)本件特許発明1
(A)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第9号証、甲第10-1号証、甲第11号証、甲第12号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(B)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第9号証、甲第10-1号証、甲第11号証、甲第12号証、甲第14号証、甲第15号証、甲第17号証、甲第18号証に記載された発明又は技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(C)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第8号証、甲第11号証、甲第12号証、甲第15号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(D)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第8号証、甲第9号証、甲第11号証、甲第12号証、甲第14号証、甲第15号証、甲第17号証、甲第18号証に記載された発明又は技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3-2)本件特許発明2ないし特許発明5
本件特許の請求項2ないし5に係る発明は、上記1. (A)ないし(D)の無効理由において引用した証拠に記載された発明又は技術的事項に加え、甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3-3)本件特許発明6
本件特許の請求項6に係る発明は、上記1.(A)ないし(D)の無効理由において引用した証拠に記載された発明又は技術的事項に加え、甲第8号証、甲第10-1号証、甲第11号証、甲第19号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(4) 無効理由5
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、自然法則を利用したものでないから、特許法第2条第1項の「発明」に該当せず、その特許は同法第29条第1項柱書の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

なお、無効理由3は、口頭審理において、取り下げられた。

2 証拠方法
請求人らは、審判請求書に添付して甲第1号証?甲第19号証を提出し、口頭審理陳述要領書に添付して甲第20号証?甲第22号証を提出した。

甲第1号証:特許第6018822号公報(本件特許公報)
甲第2号証:特開2012-236040号公報
甲第3号証:本件特許出願の平成25年10月28日付け手続補正書
甲第4号証:本件特許出願の平成28年3月3日付け手続補正書
甲第5号証:本件特許出願の平成28年3月3日付け意見書
甲第6号証:本件特許出願の平成28年7月13日付け手続補正書
甲第7号証:本件特許出願の平成25年8月20日付け拒絶理由通知書
甲第8号証:特開2004-350937号公報
甲第9号証:武内周平・齋藤博哉・平松一秀・鉾立博文・高邑明夫・張大鎮「中心静脈リサーバーからの自動注入器を用いた造影CTにおける耐圧試験」IVR INTERVENTIONAL RADIOLOGY、通巻63号27-30頁、メディカル教育研究社、2005年1月1日、及び抄訳
甲第10-1号証:P-Uセルサイトポートの添付文書 東レ株式会社 東レ・メディカル株式会社2002年7月1日作成(新様式第1版)
甲第10-2号証:P-Uセルサイトポートの添付文書 東レ株式会社 東レ・メディカル株式会社2002年8月1日改訂(第2版)
甲第10-3号証:P-Uセルサイトポートの添付文書 東レ株式会社 東レ・メディカル株式会社 2003年3月1日改訂(第3版)
甲第10-4号証:P-Uセルサイトポートの添付文書 東レ株式会社 東レ・メディカル株式会社 2004年2月1日改訂(第4版)
甲第10-5号証:P-Uセルサイトポートの添付文書 東レ株式会社 東レ・メディカル株式会社 2004年6月23日改訂(第5版)
甲第10-6号証:P-Uセルサイトポートの添付文書 東レ株式会社 東レ・メディカル株式会社 2005年7月1日改訂(第6版)
甲第11号証:米国特許第5851221号明細書及び抄訳
甲第12号証:IsoMedの説明書及び抄訳
甲第13号証:Hank LaForceによる宣誓書及び全訳
甲第14号証:米国特許第4863470号明細書及び抄訳
甲第15号証:国際公開第2004/012787号明細書及び抄訳
甲第16号証:特表2006-500087号公報
甲第17号証:貞岡俊一「IVR特集 これからのリザーバーを考える」Rad Fan 第1巻第3号40-43頁、(有)メディカルアイ、2003年7月25日
甲第18号証:川崎竜太・森田荘二郎・久修明・辻晃仁・野田能宏「前腕部留置の埋没式中心静脈カテーテル法(IVHリザーバー)389例の検討」癌と化学療法 第26巻第13号2055-2060頁、出版法人 癌と化学療法社、平成11年11月16日
甲第19号証:特表2003-510136号公報
甲第20号証:特許・実用新案審査基準「第II部 明細書及び特許請求の範囲」「第2章第3節 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)」第1頁
甲第21号証:知財高判平成27年1月22日(平成26年(行ケ)第10101号)判決
甲第22号証:特許・実用新案審査基準「第III部 特許要件」「第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性(特許法第29条第1項柱書)」第1?4頁

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判請求は成り立たない、審判費用は請求人らの負担とする、との審決を求め、審判事件答弁書に添付して乙第1号証?乙第2号証を提出した。

乙第1号証:広辞苑第六版第2刷 くべつ【区別】の項、新村出、株式会社岩波書店、2011年1月11日
乙第2号証:特許・実用新案審査基準「第III部 特許要件」「第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性(特許法第29条第1項柱書)」第1?3頁

第5 無効理由2(明確性)についての当審の判断
事案にかんがみ、無効理由2から検討することとする。
請求人らは、請求項1における「皮下埋め込み後、前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される、前記アクセスポートの少なくとも1つの、前記自動注入可能なアクセスポートの、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の、識別可能な特徴とを具え、」(以下、請求人らの陳述要領書5頁に倣い「構成要件1C-1」という。)は、次の(ア)?(ウ)の点で不明確であると主張している(審判請求書12?21頁、口頭審理陳述要領書5?6、8?18頁、上申書2?4頁)。

(ア)構成要件1C-1の記載について
「前記アクセスポートの少なくとも1つの、前記自動注入可能なアクセスポートの、」との記載は、(1)最初に記載されている「前記アクセスポート」は、自動注入可能なアクセスポートを意味するのか否かが不明であり、また、(2)最初に記載されている「前記アクセスポート」が自動注入可能なアクセスポートを意味するものであるとすると、「前記アクセスポートの少なくとも1つの、」に加えて、「前記自動注入可能なアクセスポートの、」が記載されている理由が不明である。
したがって、構成要件1C-1は日本語として理解できない(陳述要領書5?6頁)。

(イ)「区別」について
構成要件1C-1を、(1)「識別可能な特徴が、自動注入可能なアクセスポートを自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がある」ことを意味するものと解釈できないから「区別」の意義は不明確であり、また、(2)上記のとおりのものを意味すると解釈し、さらに「区別」が主観的事実に基づく場合と客観的事実に基づく場合とに分けてみてもその意義は不明確である(審判請求書12?17頁、口頭審理陳述要領書6、8?13頁、上申書6?7頁)。

(ウ)「自動注入可能」について
(ウ-1)本件明細書の記載から「自動注入可能なアクセスポート」は、自動注入器の注入圧力に耐える耐圧を有するアクセスポートであり、「自動注入可能に定格されていないアクセスポート」は、自動注入器の注入圧力に耐える耐圧を有さないアクセスポートであると理解できるが、技術常識を考慮しても、自動注入器の注入圧力に耐える耐圧がどの程度の圧力に耐えることを意味するのか不明であるから、「自動注入可能なアクセスポート」及び「自動注入可能に定格されていないアクセスポート」の意義は不明確である(審判請求書17?21頁)。
(ウ-2)被請求人は、「どのようなアクセスポートを自動注入可能と位置付けるかは、任意である」、及び、「「自動注入可能」か否かは、あらゆるアクセスポートに共通する耐圧などによって特定される特性ではなく、あるアクセスポートがある条件の下で自動注入に耐え得るかという観点から決定される相対的特性である」と主張するが、本件明細書等からこれらのことは読み取れない(口頭審理陳述要領書13?14頁)。
一方、仮に、被請求人の主張するとおり、どのようなアクセスポートを自動注入可能と位置付けるかが任意であれば、ある具体的な物(アクセスポート)が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できず、また、自動注入可能か否かは、あるアクセスポートがある条件の下で自動注入に耐え得るかという観点から決定される相対的特性であると解釈すれば、「ある条件」に、どのような条件が含まれるのか、不明である(口頭審理陳述要領書14?15頁)。
(ウ-3)
被請求人は、型番や耐圧は、「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がある」ものではないと主張する。しかし、X線を介して型番を観察した者は、得られた型番からそのアクセスポートの説明書を確認し、説明書の記載からアクセスポートが自動注入可能か否かを識別することができる。また、アクセスポートの耐圧は、自動注入可能か否かを判断するための主要な要素であり、「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がある」ものである(口頭審理陳述要領書16?17頁)。
そして、被請求人は、「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がある」ことがどのようなことであるかを全く示していない。したがって、被請求人の主張を採用しても、「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がある」識別可能な特徴は、どのようなものであるのか具体的に想起できず、不明確である(口頭審理陳述要領書17?18頁)。

そこで、これら(ア)?(ウ)について明確であるか否かについて検討する。


1 (ア)構成要件1C-1の記載について
(1) 請求項1の「前記アクセスポート」以前の記載をみると、「自動注入可能なアクセスポート」以外のアクセスポートは記載されていないから、「前記アクセスポート」は、「自動注入可能なアクセスポート」を意味することは明らかである。
(2) 本件特許明細書の段落【0015】の「本開示は、前記アクセスポートを識別するための、少なくとも1つの知覚可能または識別可能な特徴を有するアクセスポートに関するものであり、」、及び「アクセスポートの少なくとも1つの識別可能な特徴は、自動注射可能である前記アクセスポートと相関関係を有することができる。この方法では、アクセスポートの少なくとも1つの識別可能な特徴が、ひとたび観察され、または別の方法で決定されると、アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達成することができ、そして、前記アクセスポートに関連する情報を得ることができる。」との記載から、発明の詳細な説明には、「アクセスポートに関連する情報を得る」ための、「自動注射可能である前記アクセスポートと相関関係を有」する「少なくとも1つの知覚可能または識別可能な特徴」を具える「自動注射可能であるアクセスポート」が記載されている。
したがって、発明の詳細な説明には、(1)自動注入可能であるアクセスポートが識別可能な特徴を具えることと、(2)自動注入可能であるアクセスポートの識別可能な特徴は、自動注入可能であるアクセスポートの情報と相関関係を有することが記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、構成要件1C-1における、「前記アクセスポートの少なくとも1つの、」は、「識別可能な特徴」に係り、一方、「前記自動注入可能なアクセスポートの、」は、「情報」に係るものと認められる。そして、最初に記載されている「前記アクセスポート」は自動注入可能なアクセスポートを意味するものであるから、「前記アクセスポートの少なくとも1つの、」に加えて、「前記自動注入可能なアクセスポートの、」が記載されている理由は不明確であるといえない。
したがって、構成要件1C-1は日本語として不明確であるといえない。

2 (イ)「区別」について
(1) 一般的に、「区別」とは、「違いによって分けること。」(乙1参照。)を意味するから、「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」の意味は文言上理解できる。
(2) 「前記自動注入可能なアクセスポートの、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の、識別可能な特徴」との記載の「区別」も、その後に記載される「X線で可視の」をみれば、識別可能な特徴をX線を介して見る者がいることを前提として、その者が、識別可能な特徴から、自動注入可能なアクセスポートと自動注入可能に定格されていないアクセスポートとを「区別」するという意味であることは、理解できる。
したがって、「区別」の意義は明確である。

3 (ウ)「自動注入可能」について
(1) 本件特許明細書の段落【0013】の「・・・前記アクセスポートは、(例えば、針を含む注射器を介して)手で注入されることができ、または、機械的補助(、例えば、いわゆる自動注入可能ポート)によって注入され、かつ加圧されることができる。」、及び段落【0014】の「自動注入可能ポートは、他のプロセスの中でも、例えば、コンピュータ断層撮影(「CT」)走査プロセスにおいて使用することができる。より具体的には、いわゆる「自動注入器」システムは、末梢的に挿入された静脈(IV)ラインに造影剤を注入するために使用することができる。・・・」との記載から、コンピュータ断層撮影走査プロセスにおいて使用される自動注入可能ポートは、機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができると理解できる。
そして、請求項1には、「コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられる、患者への皮下アクセスを提供するための自動注入可能なアクセスポートであって、・・・、前記自動注入可能なアクセスポートは、機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができ、」と記載されている。
そうすると、上記本件特許明細書及び請求項1の記載から、「自動注入可能」との文言は、せいぜいコンピュータ断層撮影走査プロセスにおいて用いられるアクセスポートにおいて、「機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができる」ことを意味するのであって、注入圧力に耐える耐圧等までを特定するものではないと認められる。
(2) 請求人らの主張は、「自動注入可能」なアクセスポートについて、耐圧がどの程度の圧力であるか不明であることを前提とするものであるから、その前提において理由がない。

よって、請求人らの主張する1?3は理由がないから、本件特許発明1が明確でないとすることはできない。

第6 無効理由1(サポート要件)についての当審の判断
請求人らは、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。(審判請求書7頁1行?12頁15行)

1 明細書のサポート要件
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

そこで、以下検討する。

2 特許請求の範囲の記載について
本件特許発明1に係る特許請求の範囲の請求項1には、「コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられる、患者への皮下アクセスを提供するための自動注入可能なアクセスポートであって」、「皮下埋め込み後、前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される、前記アクセスポートの少なくとも1つの、前記自動注入可能なアクセスポートの、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の、識別可能な特徴とを具え」、「前記自動注入可能なアクセスポートは、機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができ」ることが記載されている。

3 発明の詳細な説明の記載について
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
ア「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、異なる製造業者または型式の従来のアクセスポートは、典型的に、互いに対して区別することができない実質的に同様の外形を示すことができる。従って、一度アクセスポートが埋め込まれると、前記アクセスポートの型式、様式またはデザインを見つけ出すのが難しくなるかもしれない。特に、前記埋め込まれたアクセスポートの識別が、別の方法で見つけ出すのが難しい場合には、そのような不確実性は、他の理由の中で、少なくとも交換タイミングの目的にとって好ましくないかもしれない。
【0008】
このようにして、前記アクセスポートの皮下埋め込み後に検知され、または、他の方法で見つけ出すことができる少なくとも1つの識別可能な特徴を設けたアクセスポートを提供することは有利であるだろう。」
イ「【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示によって想定される一の態様は、患者への皮下アクセスを提供するためのアクセスポートに関するものである。本発明の一の態様による自動注入可能なアクセスポートは、コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられ、隔膜を保持するよう構成される本体と、皮下埋め込み後、前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される、前記アクセスポートの少なくとも1つの、前記自動注入可能なアクセスポートの、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の、識別可能な特徴とを具え、前記自動注入可能なアクセスポートは、機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができ、前記隔膜は、前記本体内に画定された空洞内に、前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である。
【0010】
本開示によって想定される他の態様は、皮下に埋め込まれたアクセスポートの識別方法に関するものである。より具体的には、皮下に埋め込まれたアクセスポートは設けられることができ、かつ、前記皮下に埋め込まれたアクセスポートの少なくとも1つの特徴は感知されることができる。さらに、前記皮下に埋め込まれたアクセスポートは、前記少なくとも1つの特徴を感知することに応じて、識別することができる。」
ウ「【0013】
本開示は、概して、皮下アクセスに関するものであり、より具体的には、皮下アクセスに関連する方法および装置に関するものである。一般に、本開示は、皮下埋め込み用アクセスポートに関するものである。一の実施形態では、アクセスポートは、医師または他の医療関係者が、患者の身体の内部に対して長期にわたる皮下アクセスを得ることを可能にすることができる。皮下アクセス用アクセスポートを使用することは、患者の肌や外部環境からの、(患者の身体の内部へ拡がる)流体接続を抑制することによって、感染の機会を減少させることができる。前記アクセス装置は、肌に刺すための針を必要とすることなく、患者の内部へのアクセスを可能にする。さらに、カテーテルやバルブのような内部構成部品は、外科的処置なしで交換することができる。本開示の種々の特徴または態様は、限定されることなく、患者への皮下アクセス用のそのようなあらゆるポートに適用することができる。前記アクセスポートは、(例えば、針を含む注射器を介して)手で注入されることができ、または、機械的補助(、例えば、いわゆる自動注入可能ポート)によって注入され、かつ加圧されることができる。
【0014】
自動注入可能ポートは、他のプロセスの中でも、例えば、コンピュータ断層撮影(「CT」)走査プロセスにおいて使用することができる。より具体的には、いわゆる「自動注入器」システムは、末梢的に挿入された静脈(IV)ラインに造影剤を注入するために使用することができる。例えば、このような自動注入器または注入システムは、Medrad社(Schering AG, Germanyの子会社)から市販されており、また、STELLANT(登録商標)という名称で販売されている。輸液処置は、多くの場合、造影剤の所望の流速に関して限定されるので、そのような自動注入システムは、一般に、所望の流速を選択することによって制御可能である。」
エ「【0015】
より具体的には、本開示は、前記アクセスポートを識別するための、少なくとも1つの知覚可能または識別可能な特徴を有するアクセスポートに関するものであり、識別可能な特徴は、前記アクセスポートが患者の中に埋め込まれた後に知覚可能である。例えば、本開示によって想定されるアクセスポートの少なくとも1つ、またはことによると複数の識別可能な特徴は、前記アクセスポートに関連する情報(、例えば製造業者の型式またはデザイン)と相関関係を有することができる。このように、特定型式のアクセスポートからの識別可能な特徴は、異なる型式またはデザインの、別のアクセスポートの他の識別可能な特徴の、すべてではないにしても大部分に関して唯一のものである。もちろん、本開示によって想定されるアクセスポートの少なくとも1つの識別可能な特徴は、さらに、ポートの型式、カテーテルの型式、製造年月日、材料ロット、部品番号、などのようなに関心のあるいずれかの情報と相関関係を有することができる。1つの実施例では、アクセスポートの少なくとも1つの識別可能な特徴は、自動注射可能である前記アクセスポートと相関関係を有することができる。この方法では、アクセスポートの少なくとも1つの識別可能な特徴が、ひとたび観察され、または別の方法で決定されると、アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達成することができ、そして、前記アクセスポートに関連する情報を得ることができる。
【0016】
一実施形態では、少なくとも1つの特徴は、触診(、すなわち触ることによって診察すること)によって、他の物理的相互作用を経由して、または、目視観察によって知覚することができる。したがって、関係者は、前記アクセスポートの少なくとも1つの識別する特性を知覚するため、肌を通して、前記アクセスポートに触れるか、または感じることができる。別の実施形態では、少なくとも1つの識別可能な特徴は、X線または超音波の画像化を通じて知覚することができる。さらなる実施形態では、少なくとも1つの識別可能な特徴は、磁気エネルギー、光エネルギーまたは電波エネルギーを通じて、前記アクセスポートとの相互作用または通信を知覚することができる。」
オ「【0020】
本開示によると、アクセスポート10は、少なくとも1つの識別可能な特徴を示す本体20を具えることができる。より詳細には、図1Aに示すように、本体20が、部分的な略ピラミッド状の形状(すなわち、別名、切頭体として知られる、共通の頂点へ向かって延びる多角形の各サイドに対する表面を有する多角形のベース部)を示すことができる。一般に、アクセスポート10の本体20は、基準面11に位置決めされる略四辺形形状の下側ベースと、基準面9に位置決めされる略四辺形形状の上側ベースとの間で延在する、部分的なピラミッド状の形状を示すことができる。明確さのため、基準面9および基準面11は、図2?図21には示さないであろう。しかしながら、ここで用いられるように、図2?図21に関する基準面9または基準面11への言及は、図1Aおよび図1Bに示されるように、基準面9および基準面11に類似する対応基準面のことを指すであろう。
【0021】
図1Aに示されるように、アクセスポート10の外面は、複数の丸角部(radiuses)32によって互いに接続される、実質上平面的な4つの側面50によって、実質的に画定される。加えて、アクセスポート10の上側外形部61は、面取り部46Aおよび46Bと結合している上面60によって画定され、かつ、隔膜18の上面によってさらに画定される。さらに説明すると、上側外形部61の外周は、4つのサイド領域54によって形成され、かつ、これらサイド領域54に隣接する4つの丸くしたコーナー領域30を有する、略四辺形の外面として描写することができる。そのような形態は、触診によって知覚されることができる少なくとも1つの特徴を有するアクセスポートを提供することができる。」
カ「【0024】
別の実施形態において、本開示によって想定される別の態様では、アクセスポートの少なくとも1つの特徴を知覚するためにテンプレートを使用することができる。例えば、前記アクセスポートが前記テンプレートの形状と一致するか、または実質的に対応するかどうかを決定するように、相補的形状のテンプレートは、本開示によって想定されるアクセスポートの上方に位置決めされ、かつ、このアクセスポートに衝合させることができる。そのようなプロセスは、本開示によって想定されるアクセスポートの少なくとも1つの特徴を確実に表示するかまたは知覚することができる。もちろん、種々の型式のアクセスポートに対応する複数のテンプレートは、その少なくとも1つの特徴を知覚するようにするため知られていないアクセスポートに順次係合することができる。そのようなプロセスは、本開示によって想定されるアクセスポートの(、例えば、型式または製造業者の)識別を可能にすることができる。」
キ「【0046】
本開示によって想定されるアクセスポートの少なくとも1つの特徴が、視覚的にまたは触診によって観察することができず、むしろ、それ以外の方法で観察することが可能であることもまた本開示に含まれる。たとえば、本開示は、アクセスポートの少なくとも1つの特徴が、X線または超音波のような撮像技術との相互作用を通じて観察されることが可能であることは、本開示に含まれる。たとえば、一実施形態において、金属的な特徴(例えば、プレートまたは他の金属形状)は、本開示によって想定されるアクセスポートによって含まれることができる。理解できるように、そのような金属的な特徴は、X線感光フィルムを、前記アクセスポートを通過するX線エネルギーに曝すと同時に、X線エネルギーへの前記アクセスポートの露出によって生じるX線で示されることができる。さらに、本開示は、アクセスポートの金属的な特徴のサイズ、形状、またはサイズと形状の両方が、アクセスポートの識別を向上させるために構成されることを含める。例えば、金属的な特徴が金属プレートを有すると仮定すると、サイズ、形状、またはこれらの両方がアクセスポートの識別のため選択的に調整される。同様に、本開示によって想定されるアクセスポートの特徴は、超音波相互作用を介して検知のために調整されることができる。そのような特徴は、外面形状的特徴を具えることができる。他の実施形態では、そのような特徴は、超音波撮像によって識別されうる境界表面を形成する複数の材料を含む複合構造を具えることができる。」

(1)発明の課題について
上記記載ア、エには、従来、一度アクセスポートが埋め込まれると、当該埋め込まれたアクセスポートの型式等の識別が難しく、埋め込まれたアクセスポートの型式等を識別できないことは、交換タイミングや他の理由により好ましくなかったところ、アクセスポートの皮下埋め込み後に、触診、目視観察、X線または超音波の画像化等を通じて知覚できる識別可能な特徴を備えるアクセスポートを提供することは有利であることが記載されている。
さらに、上記記載ウ、エには、機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができるアクセスポート、すなわち自動注入可能ポートは、コンピュータ断層撮影走査プロセスにおいて、自動注入器システムを使用して静脈ラインに造影剤を注入するために使用することができる旨が記載され、本件特許に係るアクセスポートは、少なくとも1つの識別可能な特徴が、自動注射可能であるアクセスポートと相関関係を有することが記載されている。ここで、「自動注射可能」と「自動注入可能」は、【0009】【0013】【0014】の記載をみると同義であると認められる。

したがって、発明の詳細な説明の記載に基づけば、本件発明の解決しようとする課題の一つは、一度アクセスポートが皮下に埋め込まれると型式等の識別が難しかったところ、機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができ、コンピュータ断層撮影走査プロセスにおいて、自動注入器システムを使用して静脈ラインに造影剤を注入するために使用することができる、自動注入可能なアクセスポートについて、自動注入可能なアクセスポートと相関関係を有し、皮下埋め込み後に知覚できる識別可能な特徴を具えることにより、皮下埋め込み後に自動注入可能であることを識別できるアクセスポートを提供することであると認められる。

(2)課題解決手段について
上記記載イには、本件発明の課題解決手段は、「本発明の一の態様による自動注入可能なアクセスポートは、コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられ、隔膜を保持するよう構成される本体と、皮下埋め込み後、前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される、前記アクセスポートの少なくとも1つの、前記自動注入可能なアクセスポートの、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の、識別可能な特徴とを具え、前記自動注入可能なアクセスポートは、機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができ、前記隔膜は、前記本体内に画定された空洞内に、前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である。」
と記載されている。

4.検討
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比すると、上記2及び3(2)から、本件特許発明1は、形式的には発明の詳細な説明に記載された発明である、とすることはできる。
次に、本件特許発明1が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
そもそもアクセスポートは、「医師または他の医療関係者が、患者の身体の内部に対して長期にわたる皮下アクセスを得ることを可能にすることができる」(上記記載ウ)ものであり、コンピュータ断層撮影走査プロセスにおいて、アクセスポートが自動注入可能であるか否かを識別する者が「医師または他の医療関係者」(以下、医師等という。)であることは明らかである。そして、本件特許発明1は、医師等が皮下に埋め込まれたアクセスポートが自動注入可能であることを識別できるようにするために、皮下埋め込み後に知覚できる特徴として、X線で可視の識別可能な特徴を具えるようにしたものである。
したがって、本件特許発明1が当該発明の課題を解決できると認識できるためには、X線で可視の識別可能な特徴を知覚した医師等が、その特徴から、当該特徴を有するアクセスポートが自動注入可能であることを識別できる必要がある。
この点、触診または目視観察によって知覚できる特徴(上記記載オ)については、上記記載カに、アクセスポートがテンプレートの形状に一致するかどうかにより、アクセスポートの識別を可能にすることができる旨が記載されている。
一方、X線で可視の識別可能な特徴については、関連する記載(上記記載ウ、エ、キ)を参照しても、X線の画像化を通じて知覚した特徴からアクセスポートを識別することについて、明示的な記載はない。しかし、触診または目視観察によって知覚できる特徴と同様に、X線の画像化を通じて知覚した特徴が、テンプレートの形状と一致するかどうかにより、アクセスポートの識別を可能にすることができることは技術常識であるから、当業者であれば十分想定できる。
しかしながら、X線の画像化を通じて知覚した特徴とテンプレートの形状の照合により識別されたアクセスポートは、当該知覚した特徴それ自体が自動注入可能であることを示すものではない。すなわち、X線の画像化を通じて知覚した特徴がテンプレートの形状に合うからといって、医師等は、直ちにそのアクセスポートが自動注入可能であると識別することはできない。

被請求人は、この点について、「「自動注入可能」か否かは、・・・あるアクセスポートが所与の使用条件の下で自動注入に耐え得るかという観点から決定される相対的特性である。なお、ここでの所与の使用条件とは、例えば、個々のアクセスポートについて、当該アクセスポートと共に使用する付属器具(例えばカテーテルや針等)の使用に関する条件や許容注入圧力として、・・・アクセスポートの製造者が適宜に設定し、販売時に添付する添付文書に規定されているもの等である。」(口頭陳述要領書5頁)、「アクセスポートは医療機器であり、アクセスポートの製造者は、添付文書(・・・)を同封して販売する。添付文書は、・・・医療機器を販売する際に添付することが法により義務づけられた文書である。・・・
そして、アクセスポートの製造者は、自社製品の中で、どのアクセスポートが自動注入可能であるかを、それぞれのアクセスポートの仕様とその使用に際しての制限条件とに応じて、適宜に設定することができる。つまり、アクセスポートの製造者は、添付文書に記載の使用条件を満たす範囲において自動注入が可能なアクセスポートを「自動注入可能なアクセスポート」と位置付けることができる。このことは、本件特許の明細書には記載されていないが、アクセスポートという医療器具の仕様に関して、アクセスポートの提供者が付属器具や使用条件になんらの制限も付さないことは考えられず、当業者にとっては自明の事項である。」(同5?6頁)、「添付文書にマークの意味が記載されていれば、施術者は、マークの意味を添付文書で特定することができる・・・。・・・本発明の課題解決という観点からは、どのようなマークを区別の基準とするかは「生産」「譲渡」を行う各社が実施段階で任意に設定し、「使用」を行う施術者が添付文書でその意味を確認できれば十分である。」(同8頁)と主張している。

しかしながら、アクセスポートの使用に際して使用条件を付すこと、及び添付文書に記載の使用条件を満たす範囲において自動注入可能であることが自明であり、添付文書に識別可能な特徴の意味が自動注入可能なアクセスポートであることと記載されていたとしても、医師等の施術者は添付文書を確認しなければ自動注入可能であるか識別することはできない。したがって、X線の画像化を通じて知覚された特徴から直ちに自動注入可能であると識別できることが自明であるとはいえない。
また、本件明細書には、アクセスポートの添付文書についての記載も示唆もない。
よって、被請求人の主張は理由がない。

したがって、本件特許発明1は、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。また、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を、添付文書の存在しないものにまで拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。

第7 無効理由4(進歩性)についての当審の判断
始めに
上記第6で述べたように、本件特許発明1はサポート要件を満たすものではない。
しかしながら、事案にかんがみ、本件特許発明1は、「添付文書が付され、当該添付文書には製造業者が適宜設定した、使用条件の範囲内において自動注入可能なアクセスポートであることを施術者が特定できる記載があり、さらに、アクセスポートのX線で可視の識別可能な特徴は、当該アクセスポートとその添付文書の記載とを関連付けるもの」として、そのような本件特許発明1は進歩性を有するものであるかどうかについてさらに検討を進めることとする。
具体的には、甲10-1号証は、後述する甲第9号証の「TORAY製のP-UCELSITE PORT」の添付文書として検討する。

第7-1 無効理由4-A
1 各甲号証について
(1)甲第9号証
(1-1)甲第9号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア「目的
在宅での抗癌剤療法・中心静脈栄養目的に,埋没型中心静脈カテーテル法(CVリザーバー)が広く普及している^(1,2))。静脈確保の目的で留置されることもあり,これらの症例では造影CTに際し,CVリサーバーからの造影剤注入を行わざるを得ない場合も経験される。
しかし,ポート単独やカテーテル単独の耐圧能は,各社の添付文書に記載されているものの,カテーテルとポートを一体としたシステムとしての評価はほとんど検討されていない^(3))。そこで,今回われわれは,鎖骨下静脈に留置されたCVリザーバーが,造影剤投与経路として破損を来さず使用可能か,耐圧能に関しての検討を行ったので報告する。」(27頁左下欄1行?右下欄3行)
イ「方法
使用器材は,自動注入器(オートエンハンスA-50 ;根本杏林堂),エクステンションチューブ(インジェクター用エクステンションチューブLX1 1OOcm ;TOP),注射針(コアレスニードル側管なし20G・22G;ニプロ)であった。また,実験に使用したポート,カテーテルをTable1に示す。
実験系としては,生理的食塩水を満たした容器に,長さ20cmのカテーテル先端を浸し(Fig.1),その状態で自動注人器を用いてヨード濃度300mgI/mlのイオパミドール(イオパミロン300シリンジ;日本シェーリング)を,実際の造影と同じ条件(1.5ml/sec,3.0ml/sec,5.0ml/sec)で注入した。
それぞれの注入速度での注人圧は,自動注人器の圧モニタ上で圧が一定になったところで測定し,3回の計測の平均値を用いた,観察項目としては,カテーテル破損・ボート破損・カテーテル逸脱とした。
さらに,穿刺針の太さ,カテーテルの長さを変化させて同様に注入圧を測定した。圧リミツトは,通常イオパミロンシリンジ添付文書推奨の実測注入圧10kg/cm^(2)以下に設定してあるが,今回の実験では15 kg/cm^(2)以下に設定した。」(27頁右下欄4行?28頁左上欄9行)


ウ「結果
各注入速度と注入圧,システムの状況をTable2に示す。
1.注入速度1.5ml/sec
22Gのヒューバー針およびエクステンションチューブを用いた場合,注入圧は6.3±1.83kg/cm^(2)(平均6.3kg/cm^(2)),20Gのヒューバー針を用いた場合,注入圧は4.7士1.45(平均4.7kg/cm^(2))であった,いずれもシステムの破損は認められなかった。」(28頁左上欄10行?右上欄3行)
エ「考察
CVリサーバーの普及に伴い,末梢静脈確保が困難な症例にも適応が拡大されるようになってきた。しかし,このような症例で造影CTを行う場合には,留置反対側末梢静脈を確保して行ってきた経緯がある。CVリザーバーからの投与ができれば,患者QOL向上に寄与すると与えられるが,システム破損を来すおそれがぬぐい去れず,使用してこなかったのが現状であろう。ポート単独やカテーテル単独の耐圧能は,各社の添付文書に記載されているが,CVリサーバーシステムとしての評価は,ポートとカテーテルのマッチングも含めて,いまだ確立されていない。そこで今回,鎖骨下静脈に留置されたCVリサーバーが,造影剤投与経路としてシステムの破損を起こすことなく使用可能かどうか,複数の造影条件で注入実測圧を測定するとともに,システム破損の可能性についても評価を行った。」(29頁左欄13?28行)
オ「今回の実験回路では,・・・日常診療の場での簡便なモニタリングとしてインジェクターの圧モニタを用いた。また,静脈系を想定した場合,・・・カテーテル先端を開放系のまま生理食塩水内に浸すことで生理的状態に近くなると考えた。」(29頁左欄36行?右欄7行)
カ「今回の実験回路では,完全な生理的な条件とは異なり,かつポートも劣化の全くない状態での評価であった。したがって,臨床例に完全に適応できる結果かどうかは,今後の症例の積み重ねが必要であるが,CVリザーバーからの造影の一つの目安として,注入量1.5ml/sec程度であればシステムの破損を来すことなく安全に行え,20Gを用いることで3.0ml/secで注入することも可能であると考えられた。」(29頁右欄下から2行?30頁左欄6行)
キ「まとめ
鎖骨下静脈に留置されたCVリザーバーが,造影剤投与経路として破損を来さず使用可能か,耐圧能に関しての検討を行った。21G穿刺針を用いた場合には注入量1.5ml/sec,20G穿刺針を用いると3.0ml/secの注入程度であれば,CVリザーバーからの造影はシステムの破損を来すことなく安全に行えるものと考えられた。・・・」(30頁左欄7?13行)

ク 上記摘記事項アの「在宅での抗癌剤療法・中心静脈栄養目的に,埋没型中心静脈カテーテル法(CVリザーバー)が広く普及している^(1,2))。静脈確保の目的で留置されることもあり,これらの症例では造影CTに際し,CVリサーバーからの造影剤注入を行わざるを得ない場合も経験される。・・・今回われわれは,鎖骨下静脈に留置されたCVリザーバーが,造影剤投与経路として破損を来さず使用可能か,耐圧能に関しての検討を行ったので報告する。」、上記摘記事項イの「使用器材は,自動注入器(オートエンハンスA-50 ;根本杏林堂),エクステンションチューブ(インジェクター用エクステンションチューブLX1 1OOcm ;TOP),注射針(コアレスニードル側管なし20G・22G;ニプロ)であった。また,実験に使用したポート,カテーテルをTable1に示す。実験系としては,生理的食塩水を満たした容器に,長さ20cmのカテーテル先端を浸し(Fig.1),その状態で自動注入器を用いてヨード濃度300mgI/mlのイオパミドール(イオパミロン300シリンジ;日本シェーリング)を,実際の造影と同じ条件(1.5ml/sec,3.0ml/sec,5.0ml/sec)で注入した。」、及びTable1の抄訳である表1の「カテーテルを具える埋め込みポート・・・P-UCELSITE PORT(P-U)・・・製造者・・・TORAY」、上記摘記事項オの「静脈系を想定した場合,・・・カテーテル先端を開放系のまま生理食塩水内に浸すことで生理的状態に近くなると考えた。」との記載から、TORAY製のP-UCELSITE PORTを造影CTの造影剤投与経路として静脈系を想定した生理食塩水内へ浸し、自動注入器を用いて、実際の造影と同じ条件で造影剤としてイオパミドールを注入する実験を行ったことが記載されていることが理解できる。
ケ 上記認定事項ク及び上記摘記事項ウの記載から、上記認定事項クに係る実験において、注入速度1.5ml/secでは、TORAY製のP-UCELSITE PORT を用いたシステムの破損は認められなかったことが理解できる。
コ 上記認定事項ク及びケから、TORAY製のP-UCELSITE PORTが、造影CTの造影剤投与経路として、自動注入器によって造影剤を注入されることができることが理解できる。

上記摘記事項ア?キ及び上記認定事項ク?コを技術常識をふまえて整理すると、甲第9号証には、
「造影CTに用いられる、静脈確保の目的で患者に留置される自動注入器によって造影剤イオパミドールを注入することができるTORAY製のP-UCELSITE PORT」
が記載されているといえる。

(1-2)甲第10-1号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第10-1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「器具器械 74 医薬品注入器 植込み型医薬品注入器 P-U セルサイトポート(単品タイプ)」(1/3頁)
イ「【警告】
本品は、アンスロン@P-Uカテーテル専用に設計されています。アンスロン@P-Uカテーテルと接続して下さい。これら以外に接続する場合、ポートとカテーテルが確実に接続されなくなり、カテーテルが外れる等の不具合が生じる場合が有ります。」(1/3頁)
ウ「【禁忌・禁止】
下記の禁忌・禁止事項を遵守すること。・・・
2)後述する最大注入圧力以上の加圧はしないこと。・・・」(1/3頁)
エ「【併用禁忌】
ボート穿刺にあたっては、ノンコアリング二-ドル以外は、使用しないこと。ノンコアリングニードル以外の穿刺針を使用すると、セブタムの耐久性を著しく低下させる恐れがある。」(1/3頁)
オ「■製品スペック


」(1/3頁)
カ「【性能、使用目的、効能又は効果】
本品は、皮下埋込型カテーテルアクセスシステムとして、体内に設置され、経皮的に血管内に薬液を投与することを目的とする。」(1/3頁)
キ「【製造業者の名称及び住所等】
‘TORAY’」(3/3頁)
ク 以下の図が記載されている。(2/3頁)


ケ 上記摘記事項ア及びキから、甲第10号証がTORAY製P-Uセルサイトポートの添付文書であることが理解できる。
コ 上記摘記事項カから、TORAY製P-Uセルサイトポートが、皮下埋込型カテーテルアクセスシステムであって、体内に設置され、経皮的に血管内に薬液を投与するためのもの、すなわち患者への皮下アクセスを提供するためのアクセスポートであることが理解できる。
サ 図示内容クには、技術常識を踏まえれば、以下のように、針、隔膜、本体、空洞が示されているものと認められる。また、本体が隔膜を保持していること、及び、隔膜は本体に画定された空洞内に、隔膜を通じて針を挿入するためのものであることが看取できる。



シ 上記摘記事項イないしオから、P-Uセルサイトポートは、アンスロン@P-Uカテーテル及びノンコアリングニードルを用い、製品スペックに示される最大注入圧力以上の加圧をしないように使用されることが理解できる。
ス 上記摘記事項オの穿刺耐用回数及び図示内容サから、隔膜は、針を繰り返し挿入するためのものであることが理解できる。

上記摘記事項キ、図示内容ク、及び認定事項ケ?スを技術常識をふまえて整理すると、甲第10-1号証には、以下の発明が記載されている。
「患者への皮下アクセスを提供するためのアクセスポートであって、
隔膜を保持するよう構成される本体を具え、
前記アクセスポートは、製品スペックに示される最大注入圧力以上の加圧をしないように使用され、
隔膜は、本体内に画定された空洞内に、前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜であるアクセスポート」(以下、甲10発明という。)

また、上記摘記事項ア?オから、以下のことがいえる。
「甲10-1号証には、最大注入圧力等の使用条件が記載されていること」(以下、甲10事項という。)

(1-3)甲9発明
甲第9号証に記載されたTORAY製のP-UCELSITE PORTは甲10発明であるから、甲10発明の構成を有する。
したがって、甲第9号証には以下の発明が記載されている(以下、甲9発明という。)。
「造影CTに用いられる、患者への皮下アクセスを提供するための、自動注入器によって造影剤を注入されることができるアクセスポートであって、
隔膜を保持するよう構成される本体を具え、
前記アクセスポートは、製品スペックに示される最大注入圧力以上の加圧をしないように使用され、
隔膜は、本体内に画定された空洞内に、前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜であるアクセスポート。」

(2)甲第11号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、訳は請求人らの抄訳に準じ、抄訳のない部分は当審が作成した(以下同様。)。

ア「FIELD OF THE INVENTION
The present invention generally relates to implantable medical devices and particularly to the attachment of a pre-formed header module, e.g. a lead or catheter connector header module or an electrode bearing header module, etc., to a hermetically sealed enclosure of the implantable medical device, typically including electronic integrated circuits, batteries, electromechanical pumps, or the like.」(第1欄16?23行)
(本発明は、一般に埋め込み可能な医療装置に関し、特に、電子集積回路、バッテリー、電気機械ポンプ等の埋め込み可能な医療装置の密閉された筐体に取り付けられる予め形成されたヘッダー部、例えばリード線やカテーテルコネクターを有するヘッダー部、または電極を有するヘッダー部に関するものである。)
イ「The preferred embodiments relate to use of the mechanism and method summarized above to attach a pre-formed header module attachment surface with a hermetically sealed enclosure attachment surface in the manufacture of an implantable medical device. Such implantable medical devices include implantable drug dispensers, IPGs (including cardiac pacemakers, pacemaker-cardioverterdefibrillators, nerve, muscle and neurological stimulators, cardiomyostimulators, etc.), implantable cardiac signal monitors and recorders and the like. Virtually all MEDTRONIC.RTM. electronic implantable medical devices that require attachment of a hermetically sealed power supply and circuitry with an interchangeable catheter or electrical lead or the like employ such a general configuration of a hermetically sealed enclosure and a pre-formed header module thereto.」(第6欄36?51行)
(本件の好ましい実施形態は、埋め込み型医療機器の製造において、予め形成されたヘッダモジュ?ル取付面を気密封止筐体の取付面に取り付けるための、上記に要約した機構の使用および方法に関する。このような埋め込み型医療機器には、埋め込み可能な薬剤供給装置、IPG(心臓ペースメーカ、ペースメーカー心臓除細動器、神経、筋肉および神経刺激器、心筋刺激器など)、埋め込み型心臓信号モニタおよびレコーダなどが含まれる。気密封止電源と回路を、交換可能なカテーテル又は電気リード等へ接続する必要のあるほとんど全てのMEDTRONIC(登録商標)社製の電子埋め込み型医療装置では、気密封止筐体とそれに接続される予め形成されたヘッダモジュールからなるこのような一般的な構成が採用される。)
ウ「The attachment method and mechanism may also be used to attach an implantable drug pump catheter connector, header module to the hermetically sealed enclosure for the pump mechanism, battery and ICs controlling the pumping operation. However, those of skill in the art will be readily able to adapt the teachings found herein to other implantable medical devices.」(第6欄63行?第7欄5行)
(取付方法及び機構は、埋め込み可能な薬物ポンプカテーテルコネクター、ヘッダー部をポンプ機構、バッテリー、及びポンプの動作を制御するICのための密閉された筐体に取り付けるために用いることができる。しかし、当業者であれば、他の埋め込み可能な医療装置に本明細書に見出される教示を適用することができるであろう。)
エ「The header module 12 is molded of a rigid thermoplastic, e.g., a medical grade polyurethane, housing 20 having an exposed module surface 26 and a number of receptacles and channels shown in greater detail in FIGS. 6-9. Components including a header electrode 70 and radiopaque ID plate 60 fitted within respective electrode channel 28 and plate channel 50 of the housing 20 are shown in FIGS. 2, 5 and 10. FIGS. 10-14 show how the header module 12 is attached to the hermetically sealed enclosure 14 employing the upstanding tabs 52 and 54 and show a mass of adhesive 76 filling the space between the respective attachment surfaces and the channels leading thereto in the final assembly step.」(第8欄23?34行)
(ヘッダモジュール12は、硬質の熱可塑性材料、例えば、医療グレードのポリウレタンからなり、露出されたモジュール表面2 6と、図6から図9に更に詳細に示されている複数のレセプタクルおよびチャネルとを有するハウジング20で成型されている。ハウジング20の電極チャネル28およびプレートチャネル50内にそれぞれ取り付けられているヘッダ電極70およびX線不透過性のIDプレート60を含む構成要素は、図2、図5及び図10に示されている。図10から図14は、直立タブ52、54を用いてヘッダモジュール12が気密封止筐体14にどのように取り付けられているかを示しており、最終の組立工程において、各取付面とそれに通じるチャネルとの間の空間を充填する塊状の接着剤76を示す。)
オ「The header module housing 20 is molded to have a pair of transversely extending suture bores or holes 22 and 24 extending across the width thereof through which sutures are passed into adjacent subcutaneous tissue when the cardiac signal monitor 10 is implanted as shown in FIG. 1. The suture holes 22 and 24 allow the electrodes 70 and 30 of the cardiac signal monitor 10 to be oriented at any desired angle to the heart.」(第8欄35?42行)
(ヘッダモジュールハウジング20は、横方向に、ヘッダモジュールハウジング20の幅に渡って延びる一対の縫合孔(または穴)22,24を有するように成型され、図1に示すように、心臓信号モニタ1 0が埋め込まれるときは、縫合糸が、その縫合孔22,24を介して隣接する皮下組織に通される。縫合孔22,24により、心臓信号モニタ10の電極70および30は、心臓に対して任意の所望の角度に配向される。)
カ「FIGS. 11-14 depict the manufacturing steps of attaching the pre-formed header module 12 to the enclosure attachment surface 38 of the hermetically sealed enclosure 14. The depicted attachment steps follow the assembly and welding of the hermetically sealed enclosure 12 to its lid and the attachment of the tab base 56 to the lid to form the enclosure attachment surface 38 as described above. Moreover, the radiopaque ID plate 60 is fitted into the plate channel 50, and the header electrode 70 is fitted into the position 70' of the electrode channel 28. The illustrated attachment steps can either follow or precede the attachment of the terminus of the feedthrough pin 40 to the interior surface of the header electrode 70.」(第9欄41?53行)
(また、図11から図14は、予め形成されたヘッダモジュール12を気密筐体14の筐体取付面38に取り付ける製造工程を示している。図示された取り付け工程は、気密筐体12(当審注:1 4の間違いと思われる)のその蓋への組立及び溶接と、タブベース56のその蓋への取付けに続いて行われ、上述したように、筐体取付面38を形成する。さらに、X線不透過性のIDプレート60をプレートチャネル50に嵌合させ、ヘッダ電極70を電極チャネル28の位置70’に嵌合させる。図示された取り付け工程は、フィードスルーピン40の終端をヘッダ電極70の内面に取り付ける工程の前に実行しても後に実行してもよい。)

キ 上記摘記事項エ、カの「X線不透過性のIDプレート」は、IDをX線で可視なように示すものである。そして、IDは、通常、装置を識別するための符号を意味し、型番と言い換えることができる。したがって、「X線不透過性のIDプレート」は、当該プレートが具えられる装置の型番を示す情報を表す、X線で可視の特徴ということができる。

上記摘記事項アないしエ、カ及び認定事項キを技術常識をふまえて整理すると、甲第11号証には、次の事項が記載されているといえる。(以下、甲11-1事項という。)
「埋め込み可能な医療装置に、当該装置の型番を示す情報を表す、X線で可視の特徴を具えること」

また、上記摘記事項オを技術常識をふまえて整理すると、甲第11号証には、次の事項が記載されているといえる。(以下、甲11-2事項という。)
「埋め込み可能な医療装置に、縫合孔を設けること」

(3)甲第12号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「Medtronic IsoMed Constant-Flow Infusion System
Clinical Reference Guide for Hepatic Arterial Infusion Therapy」(第1葉)
(メドトロニック IsoMed定量注入システム 肝動脈の注入治療のための臨床のリファレンスガイド)

イ「




」(2-2頁(10葉))

(IsoMed定量注入システム
IsoMed注入システムを化学療法用薬剤の肝動脈注入に使用する場合、システムはIsoMed定量ポンプとメドトロニック血管カテーテルを含む。
当該システムを組み立てて植込むため、まず、カテーテルをポンプに接続する。ポンプは、腹部の皮下腔に配置し、腹部筋膜に固定する。その後、カテーテルを腹壁内にくぐらせる。カテーテルの端部は、胃十二指腸動脈、または肝臓へ化学療法を実施するのに適した他の動脈に配置する(図2-1)。)

ウ「



」(2-3頁(11葉))
(ポンプの構成部品
IsoMedポンプの構成部品を示す詳細図については、図2-3を参照のこと。以下に、各構成部品の説明を記す。
ポンプは、以下の構成部品を有している。
・チタン製リザーバ(20ml、35ml、または60ml )
・高圧ガスチャンバ、ポンプドライブ
・セルフシール隔膜を有するセンターリザーパフィルポート
・細菌保持フィルタ
・X線識別タグ(図2-4)
・チタン製スクリーンおよびセルフシーリング隔膜を有するカテーテルアクセスポート
・毛細管
・カテーテルポート
・チタン製縫合用ループ
・チタン製ハウジング


)

エ「



」(2-4頁(12葉))
(X線識別タグ
メドトロニック識別子、ポンプの型番、リザーバの体積、および流量は、ポンプハウジングの内部にある小さなX線タグに記録されている。このタグは、標準的なX線検査で、目視できる。X線写真上では、図2-4に示すサンプルのように見える。

)

オ 上記摘記事項イによれば、IsoMed定量注入システムは人体内に埋め込まれて使用される医療装置である。
カ 上記摘記事項ウによれば、IsoMed定量注入システムはX線識別タグを有する。
キ 上記摘記事項エによれば、X線識別タグには、型番が示されている。また、この型番を表すX線識別タグがX線で可視の特徴であることは明らかである。

上記摘記事項アないしエ及び認定事項オないしキを技術常識をふまえて整理すると、甲第12号証には、次の事項が記載されているといえる。(以下、甲12事項という。)
「埋め込み可能な医療装置が、当該装置の型番を表す、X線で可視の特徴を具えること」

(4)甲第8号証
本件特許の優先日前に公開された甲第8号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、薬液を患者の体内に注入する器具である薬液注入装置に係り、詳しくは化学療法等の治療に際して用いる皮下埋め込み型の薬液注入装置に関するものである。」
イ「【0013】
図1?図3に示すように、薬液注入装置11は、ハウジング本体12と、穿刺部材13と、筒状のコネクタ14(図2参照)とを備えている。・・・
【0014】
図2に示すように、ハウジング本体12は、液溜凹部20aを有すると共に略有底筒状をなす液溜部20と、収納凹部18を有するカバー部21を備えている。
【0015】
液溜部20は、一側面に液溜凹部20aが形成されることによりその一側面に開口部19が形成されている。その開口部19を塞ぐように穿刺部材13が配置されている。カバー部21の一側面には、収納凹部18が形成されている。カバー部21の収納凹部18に前記穿刺部材13と、液溜部20とが収納され、カバー部21と液溜部20とが互いに固定されている。カバー部21における収納凹部18が形成された側面とは反対側の側面には、前記穿刺部材13の上面中央部分を露出可能な露出孔21aが形成され、その露出孔21aにより穿刺部材13の上面中央部分が露出されている。穿刺部材13はカバー部21にて離脱不能とされている。液溜凹部20aを有する液溜部20と穿刺部材13との間には液溜まり空間Sが形成されている。」
ウ「【0017】
図4に示すように、前記コネクタ14の軸方向中央部分の外周(コネクタ14の先端側の一部)には、抜止突部14aが形成されている。前記抜止突部14aは先端側から基端側へ向かうにつれて拡径するテーパ状とされている。前記コネクタ14における抜止突部14aよりも先端側の部位は先端部14bとされている。このため、小径のカテーテルC1と、そのカテーテルC1を内部に備えた大径のカテーテルC2とをコネクタ14に接続する際に、カテーテルC1の先端は抜止突部14aを乗り越えることなく、抜止突部14aと先端部14bとの境界付近まで挿入可能とされている。また、カテーテルC2の先端は抜止突部14aを乗り越えてコネクタ14の基端側まで挿入可能とされている。このカテーテルC2及びカテーテルC2内に配置されたカテーテルC1は、基端側でそれぞれ分岐して使用されるものである。
エ「【0018】
次に、薬液注入装置11における特徴的な部分について説明する。
図2の拡大円に示すように、前記液溜部20の上端部には略リング状をなす係止突条25が形成されている。前記係止突条25の先端部外周には係止爪25aが形成されている。図2に示すように、前記穿刺部材13はこの係止突条25内に配置されている。前記液溜部20の上端部でかつ係止突条25の内側には、断面尖鋭状の食込み突条26が形成されている。前記食込み突条26は抜出防止手段及び食込み手段に相当する。そして、前記食込み突条26が穿刺部材13の外周部13aにおける下端部に対して食い込んでいる。」
オ「【0019】
前記係止突条25とカバー部21との間には、略逆冠状をなす穿刺可能部教示部材としての縁取リング28が配置されている。前記縁取リング28は切れ目がない円形をなすリング状とされている。本実施形態では、縁取リング28はX線不透過性材料及び非磁性体金属としてのチタン(Ti)にて形成されている。
【0020】
縁取リング28は、ハウジング本体12における液溜まり空間Sを基準とした穿刺部材13側の部位に配置されている。前記縁取リング28は、前記係止突条25の外周に位置する第1リング部28aと、前記穿刺部材13の外周部13aに当接する第2リング部28bと、その第1リング部28aと第2リング部28bを連結する第3リング部28cを備えている。図2の拡大円に示すように、前記第1リング部28aには前記係止突条25の係止爪25aと係合する係止爪29が形成されており、前記係止爪25aと前記係止爪29とが係止している。」
カ「【0022】
前記第2リング部28bの下面には、断面尖鋭状の食込み突条30が形成されている。前記食込み突条30は抜出防止機構及び食込み機構に相当する。そして、前記食込み突条30が前記穿刺部材13の外周部13aにおける上端部に対して食い込んでいる。即ち、前記係止爪25aと前記係止爪29とが係止することにより、穿刺部材13の外周部13aにおける上下両側に対して食込み突条26,30が食い込んだ状態となり、穿刺部材13をハウジング本体12の露出孔21aから抜け出さないように固定している。」
キ 図2から、ハウジング本体12はコネクタ14を有することが看取できる。
ク 図2から、空間Sはコネクタ14の内腔と流体連通していることが看取できる。
ケ 図2から、第2リング部28b、係止突条25、及び液溜部20の上端部が穿刺部材13の外周部13aを保持していることが看取できる。

コ 上記摘記事項エ、上記摘記事項オの「前記縁取リング28は、前記係止突条25の外周に位置する第1リング部28aと、前記穿刺部材13の外周部13aに当接する第2リング部28bと、その第1リング部28aと第2リング部28bを連結する第3リング部28cを備えている。図2の拡大円に示すように、前記第1リング部28aには前記係止突条25の係止爪25aと係合する係止爪29が形成されており、前記係止爪25aと前記係止爪29とが係止している。」との記載、上記摘記事項カ、及び上記図示内容ケから、穿刺部材13は、液溜部20の係止爪25aと縁取リング28の係止爪29とが係止することにより、液溜部20の食込み突条26と縁取リング28の食込み突条30が穿刺部材13を保持しているといえる。すなわち、縁取リング28は穿刺部材13を保持するものである。
サ 上記摘記事項イ、エ、上記図示内容キ、及び上記認定事項コから、薬液注入装置11は、ハウジング本体12を備え、ハウジング本体12はコネクタ14とハウジング本体12に配置される縁取リング28とを有し、縁取リング28は薬液注入装置11内で穿刺部剤を保持するものということができる。
シ 上記摘記事項イの「図2に示すように、ハウジング本体12は、液溜凹部20aを有すると共に略有底筒状をなす液溜部20と、収納凹部18を有するカバー部21を備えている。」「液溜部20と穿刺部材13との間には、液溜まり空間Sが形成されている。」との記載、及び上記図示内容クから、ハウジング本体12は、液溜部20を備え、液溜部20は穿刺部剤13と共に空間Sを画定し、空間Sはコネクタの内腔と流体連通していることが理解できる。
ス 上記摘記事項ウから、コネクタ14はカテーテルと接続するように構成されていることが理解できる。

上記摘記事項アないしカ、図示内容キないしケ、及び認定事項コないしスを技術常識をふまえて整理すると、甲第8号証には、次の事項が記載されているといえる。
「皮下埋め込み型の薬液注入装置において、ハウジング本体12を備え、前記ハウジング本体12は、コネクタ14と当該ハウジング本体12に配置される縁取リング28とを有し、前記縁取リング28は、薬液注入装置内で穿刺部材13を保持すること」(以下、甲8-1事項という。)
「皮下埋め込み型の薬液注入装置において、ハウジング本体12は、液溜部20を備えること」(以下、甲8-2事項という。)
「皮下埋め込み型の薬液注入装置が、穿刺部剤13と共に空間Sを画定する液溜部20を備え、空間Sはコネクタの内腔と流体連通していること」(以下、甲8-3事項という。)
「皮下埋め込み型の薬液注入装置において、コネクタ14はカテーテルと接続するように構成されていること」(以下、甲8-4事項という。)

2 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲9発明とを技術常識を踏まえて対比すると、甲9発明の「造影CTに用いられる」は、本件特許発明1の「コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられる」に相当する。
また、甲9発明の「自動注入器によって造影剤を注入されることができる」は、自動注入器なる機械によって造影剤を注入されることができることと同義であり、また、甲9発明の「前記アクセスポートは、製品スペックに示される最大注入圧力以上の加圧をしないように使用され、」は、最大注入圧力未満の範囲で加圧されることができることを示唆するから、本件特許発明1と甲9発明は「機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができ」る点で少なくとも一致する。

したがって、本件特許発明1と甲9発明は、以下の点で一致する。
<一致点>
「コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられる、患者への皮下アクセスを提供するためのアクセスポートであって、
隔膜を保持するよう構成される本体を具え、
前記アクセスポートは、機械的補助によって注入され、かつ加圧されることができ、
前記隔膜は、前記本体内に画定された空洞内に、前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜であるアクセスポート」

そして、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、皮下埋め込み後、前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される、前記アクセスポートの少なくとも1つの、前記自動注入可能なアクセスポートの、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の、識別可能な特徴とを具えるのに対し、甲9発明にはそのような特徴が具えられているか不明な点。

上記相違点1について検討する。
甲11-1事項及び甲12事項に示されるように、人体に埋め込まれて使用される医療装置において、装置の型番を表す、X線で可視な特徴を、当該装置に具えることは周知技術である。(以下、周知技術Aという。)
したがって、同じ人体に埋め込まれて使用される医療機器であるアクセスポートに、周知技術Aを適用することは、当業者にとって容易である。
周知技術Aを適用した甲9発明は、X線で可視の型番という識別可能な特徴を具え、甲第10-1号証の添付文書を有するものである。当該添付文書には、甲10事項のとおり、最大注入圧力等の使用条件が記載されており、当該使用条件から、医師等は、製造業者が適宜設定した、使用条件の範囲内において自動注入可能であることを特定できる。また、型番をX線で知覚した医師等は、当該型番に対応した添付文書の記載を確認できるから、X線で可視の型番はアクセスポートと添付文書の記載を関連付けている。
したがって、周知技術Aを適用した甲9発明は、添付文書が付され、当該添付文書には製造業者が適宜設定した、使用条件の範囲内において自動注入可能なアクセスポートであることを施術者が特定できる記載があり、さらに、アクセスポートのX線で可視の識別可能な特徴は、当該アクセスポートとその添付文書の記載とを関連付けるものであるから、上記「始めに」において前提とした本件特許発明1の態様の1つである。
そして、上記相違点1において、添付文書に記載された使用条件は、「前記自動注入可能なアクセスポートの、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」に相当し、X線で可視の型番は、「前記自動注入可能なアクセスポートの、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の、識別可能な特徴」に相当する。
よって、本件特許発明1は、甲9発明に周知技術Aを適用することにより、当業者が容易になし得たものである。

3 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1において、さらに「前記本体は、ハウジングを備え、前記ハウジングは、吐出ポートと当該ハウジングに固定可能なキャップとを有し、 前記キャップは、前記本体内で前記隔膜を保持する」ことを発明特定事項としたものである。
したがって、本件特許発明2と甲9発明とを対比すると、両者は上記相違点1に加えて、次の点で相違する。
<相違点2>
本件特許発明2の本体は、ハウジングを備え、前記ハウジングは、吐出ポートと当該ハウジングに固定可能なキャップとを有し、 前記キャップは、前記本体内で前記隔膜を保持するのに対し、甲9発明はそのようなものか不明な点。

上記相違点2について検討する。
甲9発明のアクセスポートに同じ技術分野の甲8-1事項を適用することは当業者が容易になし得たことである。
よって、本件特許発明2は、甲9発明に甲8-1事項、及び周知技術Aを適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明2において、さらに「前記ハウジングは、少なくとも1つの容器を画定する、ハウジングのベースを備える」ことを発明特定事項としたものである。
したがって、本件特許発明3と甲9発明とを対比すると、両者は上記相違点1、2に加えて、次の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明3のハウジングは、少なくとも1つの容器を画定する、ハウジングのベースを備えるのに対し、甲9発明はそのようなものか不明な点。

上記相違点3について検討する。
甲9発明のアクセスポートに同じ技術分野の甲8-2事項を適用することは当業者が容易になし得たことである。
よって、本件特許発明3は、甲9発明に甲8-1事項、甲8-2事項、及び周知技術Aを適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1において、さらに「前記本体は、前記隔膜と共に空洞を画定するハウジングを具え、前記空洞は、吐出ステムの内腔と流体連通している」ことを発明特定事項としたものである。
したがって、本件特許発明4と甲9発明とを対比すると、両者は上記相違点1に加えて、次の点で相違する。
<相違点4>
本件特許発明4の本体は、前記隔膜と共に空洞を画定するハウジングを具え、前記空洞は、吐出ステムの内腔と流体連通しているのに対し、甲9発明はそのようなものか不明な点。

上記相違点4について検討する。
甲9発明のアクセスポートに同じ技術分野の甲8-3事項を適用することは当業者が容易になし得たことである。
よって、本件特許発明4は、甲9発明に甲8-3事項、及び周知技術Aを適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明4において、さらに「前記吐出ステムは、カテーテルと連結するように構成された」ことを発明特定事項としたものである。
したがって、本件特許発明4と甲9発明とを対比すると、両者は上記相違点1、4に加えて、次の点で相違する。
<相違点5>
本件特許発明5の吐出ステムは、カテーテルと連結するように構成されているのに対し、甲9発明はそのようなものか不明な点。

上記相違点5について検討する。
甲9発明のアクセスポートに同じ技術分野の甲8-4事項を適用することは当業者が容易になし得たことである。
よって、本件特許発明5は、甲9発明に甲8-3事項、甲8-4事項、及び周知技術Aを適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明1において、さらに「前記本体は、縫合開口を具える」ことを発明特定事項としたものである。
したがって、本件特許発明6と甲9発明とを対比すると、両者は上記相違点1に加えて、次の点で相違する。
<相違点6>
本件特許発明6の本体は、縫合開口を具えるのに対し、甲9発明はそのようなものか不明な点。

上記相違点6について検討する。
皮下埋め込み型の医療機器に、縫合開口を具えることは周知技術である(甲11-2事項参照。以下周知技術Bという。)から、甲9発明に縫合開口を具えることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、本件特許発明6は、甲9発明に周知技術A及び周知技術Bを適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

8 小括
したがって、本件特許発明1?6は、甲9発明、甲8-1?8-4事項、周知技術A及び周知技術Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、無効理由4-Aによって無効とすべきものである。

第7-2 無効理由4-B?D
第7-1で述べたとおり、本件特許発明1?6は、甲9発明、甲8-1?8-4事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第8 無効理由5(発明該当性)
請求人らは、本件特許発明1の本質は「特定の識別可能な特徴が自動注入可能であることを意味すると取り決める」という部分であるから、本件特許発明1は、人為的な取決めにすぎず、全体として自然法則を利用していない旨主張している(審判請求書46頁24行?48頁10行)

そこで、本件特許発明1が全体として自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するか否かについて検討する。

本件特許発明1が前提とする技術的課題は、本件特許明細書の【0007】【0008】【0013】?【0016】によれば、一度アクセスポートが埋め込まれると、前記アクセスポートの型式等を見つけ出すのが難しかったところ、皮下埋め込み後に、埋め込まれたアクセスポートが自動注入可能なアクセスポートであることをX線を介して識別可能とすることである。
そして、その課題を解決するための技術的手段の構成は、自動注入可能なアクセスポートの、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の、識別可能な特徴を備えることであり、当該構成は、皮下埋め込み後に、埋め込まれたアクセスポートが自動注入可能なアクセスポートであることが識別できるという効果を奏する。
したがって、本件特許発明1の技術的意義は、皮下に埋め込まれるアクセスポートに、自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の、識別可能な特徴を設けることにあるといえるから、本件特許発明1は、人為的取り決めとはいえず、全体として自然法則を利用した技術的思想の創作に該当する。

第9 むすび
以上のとおり、本件特許に係る出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当する。
また、仮に本件特許に係る出願が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるとしてみても、本件特許発明1?6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当する。
したがって、本件特許発明1?6についての特許は無効理由1及び4により、無効とすべきものである。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-19 
結審通知日 2018-07-23 
審決日 2018-08-08 
出願番号 特願2012-156976(P2012-156976)
審決分類 P 1 113・ 1- Z (A61M)
P 1 113・ 537- Z (A61M)
P 1 113・ 121- Z (A61M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 洋昭  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 高木 彰
熊倉 強
登録日 2016-10-07 
登録番号 特許第6018822号(P6018822)
発明の名称 アクセスポートおよびその識別方法  
復代理人 吉田 昌司  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  
代理人 飯島 歩  
代理人 大塚 千秋  
代理人 川上 桂子  

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