• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1358484
審判番号 不服2018-15008  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-09 
確定日 2020-01-09 
事件の表示 特願2013-140204号「スロットマシン」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月22日出願公開、特開2015- 12932号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
1 手続の経緯
本願は、平成25年7月3日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。

平成29年 5月11日:拒絶理由通知
平成29年 7月21日:意見書、手続補正書の提出
平成29年12月20日:拒絶理由通知(最後)
平成30年 3月 9日:意見書、手続補正書の提出
平成30年 8月 8日:補正の却下の決定(平成30年3月9日付け手続補正書による補正)、拒絶査定
平成30年11月 9日:審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年 5月 8日:拒絶理由通知(以下、通知された拒絶の理由を「当審拒絶理由1」という。)
令和 1年 7月11日:意見書、手続補正書(以下、該手続補正書による補正を「本件補正」という。)の提出
令和 1年 7月25日:拒絶理由通知(最後)(以下、通知された拒絶の理由を「当審拒絶理由2」という。当審拒絶理由1及び2を総称して単に「当審拒絶理由」という。)

そして、当審拒絶理由2を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もない。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものであると認める。
「A 各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示部を備え、
B 前記可変表示部を変動表示した後、前記可変表示部の変動表示を停止することで表示結果を導出し、該表示結果に応じて入賞が発生可能なスロットマシンにおいて、
C 表示結果を導出させるために操作される導出操作手段と、
D 演出を実行する演出実行手段と、
E 特別遊技状態への移行を伴う特別入賞の発生を許容する特別決定がなされたゲームにおいて該特別入賞が発生せずに、該特別決定が持ち越されている状態でありかつ設計値に基づく遊技用価値の増減率が担保された適正状態、および前記特別決定が持ち越されていない状態でありかつ設計値に基づく遊技用価値の増減率が担保されない非適正状態、を含む複数の状態のうちいずれかに制御する状態制御手段とを備え、
F 前記適正状態においては遊技者にとって有利な前記導出操作手段の操作態様を特定可能な情報を報知する報知状態に制御され、前記非適正状態においては前記報知状態に制御されず、
G 前記適正状態においては前記報知状態に制御するか否かを報知する特定演出が実行され、
H 前記特定演出を含む前記適正状態においてのみ実行される全ての演出は、前記非適正状態においては実行されず、
I 前記非適正状態から前記適正状態に復帰したときに、遊技場の店員に対して前記適正状態に復帰したことを報知するための復帰報知を実行する、 J スロットマシン。」(以下「本願発明」という。なお、AないしJは、分説するため合議体が付した。)

第2 当審拒絶理由についての判断
1 当審拒絶理由の概要
(1)当審拒絶理由1
当審拒絶理由1は、以下の理由を含むものである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1
・引用例
引用例1.特開2011-67357号公報
引用例2.特開2007-252554号公報
引用例3.特開2009-219720号公報
引用例4.特開2006-6706号公報

(2)当審拒絶理由2
当審拒絶理由2は、以下の理由を含むものである。
(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

・請求項1
ア 令和1年7月11日に提出された手続補正書により補正された請求項1には、「前記特定演出を含む前記適正状態においてのみ実行される全ての演出は、前記非適正状態においては実行されず、前記非適正状態から前記適正状態に復帰したときに、遊技場の店員に対して前記適正状態に復帰したことを報知するための復帰報知を実行する」と記載されているが、当該記載では、「前記適正状態においてのみ実行される全ての演出」(以下単に「全ての演出」という。)と「復帰報知」との違いが把握できず不明である。
イ また、前述の記載中、「復帰」は、単なる状態の移行と異なるのか否かの区別ができず不明である。
ウ さらに、前述の記載中、「遊技場の店員に対して・・・報知する」とあるが、遊技場の店員のみに対して報知し、遊技者が報知内容を認識できないという意味なのか否か不明である。

上記ア及びイについて、具体的には、「全ての演出」は、「適正状態においてのみ実行される」ものであるから、適正状態であることを実質的に「報知」しているものであり、非適正状態から適正状態に移行(復帰)した場合に「報知」として実行されるものと解される。一方、「復帰報知」は、非適正状態から適正状態に復帰(移行)した場合に実行されるものである。
そうすると、「全ての演出」と「復帰報知」とは、その実行条件(例えば、明細書【0454】の設定値の設定変更状態が終了)、実行時期及び実行態様等が特定されない限り、相互に区別をすることができない。

よって、請求項1に係る発明は明確でない。

2 当審拒絶理由2(特許法第36条第6項第2号)について
事案に鑑み、当審理由2から検討する。
(1)本願の明細書及び図面の記載
本願の明細書及び図面には、以下のとおり記載されている。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のスロットマシンのように、演出制御手段が遊技者にとって有利な情報を報知するか否かを独自に決定し、遊技者にとって有利な状況に制御するものにおいては、これらの決定について遊技制御手段側の状態を考慮せずに決定されることから、遊技制御手段側で有利度を変更する設定値の変更が行われた場合や、遊技に関するデータが初期化された場合など、遊技制御手段側の状態が、遊技用価値の増減率が予め定められた設計値に基づく増減率となる状態とは異なる状態に変更されることがあり、このような場合に予め定められた設計値に基づく遊技用価値の増減率を担保できなくなってしまう虞がある。また、設計値に基づく遊技用価値の増減率を担保できない状態において遊技者にとって期待度の高い演出を実行した場合、遊技者は期待するほど遊技用価値が増加しないので演出を実行しなかったときよりも遊技者の落胆が大きく遊技の興趣が低下する虞がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、遊技の興趣の低下を防止できるスロットマシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するため、本発明に係るスロットマシンは、
遊技用価値を用いて1ゲームに対して所定数の賭数を設定することによりゲームが開始可能となるとともに、各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示装置(例えば、リール2L、2C、2R)に表示結果が導出されることにより1ゲームが終了し、該可変表示装置に導出された表示結果に応じて入賞が発生可能とされたスロットマシン(例えば、スロットマシン1)であって、
遊技の制御を行う遊技制御手段(例えば、メイン制御部41)と、
前記遊技制御手段から送信された制御情報に基づいて演出の制御を行う演出制御手段(例えば、サブ制御部91)とを備え、
前記遊技制御手段と前記演出制御手段とは、当該遊技制御手段から当該演出制御手段への一方向通信のみ可能に接続されており、
前記遊技制御手段は、
前記遊技用価値の増減率(例えば、メダル払出率)が予め定められた設計値に基づく増減率が担保される適正状態(例えば、内部中)であるか前記適正状態ではない非適正状態(例えば、通常遊技状態、CB)であるかを特定可能な状態特定情報(例えば、遊技状態コマンド、内部当選コマンド、設定終了時に送信される設定コマンド)を前記制御情報として前記演出制御手段に対して送信する状態特定情報送信手段(例えば、メイン制御部41がサブ制御部91に対して遊技状態コマンド、内部当選コマンド、設定終了時に送信される設定コマンドを送信する処理)を備え、
前記演出制御手段は、
遊技者にとって有利な有利状態(例えば、AT)に制御する有利状態制御手段(例えば、サブ制御部91が実行するステップSb9?Sb23の処理)と、
前記有利状態制御手段によって前記有利状態に制御するか否かを煽る煽り演出(例えば、ATやAT継続に当選したか否かを煽る煽り演出)を含む複数種類の演出(例えば、一般役当選示唆演出、通常演出、ナビ演出やAT開始演出やAT終了演出を含むAT中演出、適正復帰報知演出、導入演出やAT確定報知や煽り演出を含む内部中演出)のうちから選択した演出を実行する演出実行手段(例えば、サブ制御部91が実行するステップSa4、Sb5、Sb7、Sb9、Sb16、Sb23、Sc1?Sc4の処理)とを備え、
前記有利状態制御手段は、受信した前記状態特定情報から前記非適正状態である旨が特定されたときに、前記適正状態において制御可能な前記有利状態に制御することを許容せず(例えば、サブ制御部91が実行するステップSb2の処理)、
前記演出実行手段は、受信した前記状態特定情報から前記非適正状態である旨が特定されたときに、前記適正状態において選択可能な前記煽り演出を実行することを許容しない(例えば、サブ制御部91が実行するステップSc2の処理)
ことを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、遊技制御手段側が非適正状態のときに、非適正状態において制御されることのない有利状態に制御するか否かを煽る煽り演出の実行を防止でき、遊技者に対して非適正状態において遊技用価値の増加への過度の期待を抱かせることを防止できるので、遊技の興趣の低下を防止できる。また、適正状態においてのみ煽り演出を実行可能とすることで、非適正状態でも煽り演出が実行可能な構成よりも遊技者や遊技場の店員に対して遊技制御手段側が適正状態であることを認識させ易くすることができる。
なお、遊技者にとって有利な有利状態とは、例えば、遊技者にとって有利な表示結果を導出させるための操作態様の情報、現在の遊技状態の有利度を示唆する情報、遊技者にとって有利な特典の付与を受けるために必要な情報などを報知する状態等が該当する。
【0009】
(2)上記(1)のスロットマシンにおいて、
前記演出実行手段は、受信した前記状態特定情報から前記非適正状態である旨が特定されたときに、前記適正状態においてのみ選択可能な全ての演出(例えば、内部中用演出)を実行することを許容しなくてもよい(例えば、サブ制御部91が実行するステップSc2の処理)。
【0010】
このような構成によれば、遊技制御手段側が非適正状態のときに、非適正状態において実行されることのない全ての演出の実行を防止でき、非適正状態でも全ての演出が実行可能な構成よりも遊技者や遊技場の店員に対して遊技制御手段側が適正状態であることを更に認識させ易くすることができる。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)のスロットマシンにおいて、
前記遊技制御手段は、
前記可変表示装置に表示結果が導出される前に、前記入賞の発生を許容するか否かを決定する事前決定手段(例えば、メイン制御部41が内部抽選を実行する処理)を更に備え、
前記状態特定情報は、前記事前決定手段の決定結果を含んでもよい(例えば、状態特定情報を内部当選コマンドとしてもよい)。
【0012】
このような構成によれば、演出制御手段は、事前決定手段の決定結果を含む状態特定情報から遊技制御手段側が適正状態であるか非適正状態であるかを特定することができる。このため、例えば、事前決定手段が入賞の発生を許容するか否かを決定する度に状態特定情報を送信すれば、演出制御手段は、状態特定情報を受信する度に適正状態であるか非適正状態であるかを確実に特定できる。
【0013】
(4)上記(1)?(3)のスロットマシンにおいて、
前記演出実行手段は、前記非適正状態である旨が特定された後であって、前記適正状態である旨が特定可能な前記状態特定情報を受信したときに、前記非適正状態から前記適正状態になったことを報知する報知演出(例えば、適正復帰報知演出)を実行してもよい(例えば、サブ制御部91が実行するステップSa1、Sa2、Sa4の処理)。
【0014】
このような構成によれば、報知演出が実行されたときに、遊技者や遊技場の店員に対して遊技制御手段側が非適正状態から適正状態になったことを確実に認識させることができる。」

イ 「【0454】
本実施形態では、図23に示すように、電源投入時に設定キースイッチ37がONの状態である場合に、メイン制御部41は、設定変更状態に移行し、設定値、すなわち遊技者にとっての有利度の設定を変更可能となる。そして、設定変更状態が終了して遊技を可能な状態に移行する際に、現在の遊技状態を特定可能な設定コマンドをサブ制御部91に対して送信する。
【0455】
サブ制御部91は、現在の遊技状態が内部中である旨を示す設定コマンドを受信した場合には、図23(a)に示すように、遊技状態が内部中でない旨を示す遊技状態異常フラグは設定せず、遊技状態が内部中でない旨を報知する遊技状態異常報知も実行しない。
【0456】
一方、サブ制御部91は、現在の遊技状態が通常遊技状態またはCB中である旨を示す設定終了コマンドを受信した場合には、図23(b)に示すように、遊技状態が内部中でない旨、すなわちメダルの払出率が設計通りの払出率と乖離してしまう可能性のある遊技状態である旨を示す遊技状態異常フラグをRAM91cに設定するとともに、遊技状態が内部中でない旨を報知する遊技状態異常報知を実行するようになっている。
【0457】
次に、サブ制御部91が実行する適正復帰処理を図22のフローチャートに基づいて説明する。
【0458】
図22に示すように、サブ制御部91は、遊技状態異常フラグがオンに設定されたか否かを判定する(ステップSa1)。遊技状態異常フラグがオフに設定されている場合には(ステップSa1;No)、サブ制御部91は、ステップ1の処理を繰り返し、遊技状態異常フラグがオンに設定された場合には(ステップSa1;Yes)、サブ制御部91は、内部中を示す設定コマンドを受信したか否かを判定する(ステップSa2)。
【0459】
ここで、内部中を示す設定コマンドとは、設定変更状態の終了に伴って送信される設定コマンドのうち、遊技状態が内部中に移行したことを示す設定コマンドである。この場合、遊技状態異常フラグがオンに設定されてから内部中に移行後、再度、設定変更状態に移行して終了時に送信される設定コマンドである。
内部中を示す設定コマンドを受信していない場合には(ステップSa2;No)、サブ制御部91は、ステップ2の処理を繰り返し、内部中を示す設定コマンドを受信した場合には(ステップSa2;Yes)、サブ制御部91は、遊技状態異常フラグをオフに設定し(ステップSa3)、適正復帰報知演出を実行して処理を終了する(ステップSa4)。
ここで、適正復帰報知演出とは、遊技状態異常フラグがオンからオフに設定されたことを報知する報知演出の一例である。本実施形態の適正復帰報知演出は、演出用LED52を点灯させると共に、スピーカ53、54から「通常の状態に戻ったよ!」との音声を出力させる演出である。
【0460】
よって、本実施形態では、一度遊技状態異常フラグが設定され、遊技状態異常報知が実行された場合には、その後遊技状態が内部中に移行した場合にも、遊技状態異常フラグは維持され、遊技状態異常報知も継続するようになっており、遊技状態が内部中に移行した後、再度、設定変更状態に移行し、当該設定変更状態の終了に伴って送信される内部中を示す設定コマンドを受信することで、遊技状態異常フラグをクリアし、遊技状態異常報知を停止すると共に、適正復帰報知演出を実行するようになっている。」

ウ 「【0533】
また、本実施形態では、CBや通常遊技状態を示す遊技状態コマンドを受信した場合には、煽り演出だけでなく、全ての内部中用演出が選択できないようになっている。
このようにすることで、内部中でないときに実行されることのない全ての演出の実行を防止でき、CB中や通常遊技状態でも全ての演出が実行可能なスロットマシンよりも遊技者や遊技場の店員に対して内部中であることを更に認識させ易くすることができる。
なお、本実施形態では、CBや通常遊技状態を示す遊技状態コマンドを受信した場合にのみ全ての内部中用演出を選択不可としたが、例えば、遊技状態異常フラグがオンに設定されているときにも全ての内部中用演出を選択不可としてもよい。
【0534】
また、本実施形態では、サブ制御部91は、遊技状態異常フラグがオンからオフに設定されたときには適正復帰報知演出を実行する。
このようにすることで、本実施形態のスロットマシン1は、適正復帰報知演出が実行されたときに、遊技者や遊技場の店員に対してメイン制御部41が適正な遊技状態に戻ったことを確実に認識させることができる。
【0535】
なお、本実施形態では、遊技状態異常フラグがオンに設定されてから内部中に移行後、再度、設定変更状態に移行して終了時にメイン制御部41から送信される内部中を示す設定コマンドを受信したときに、サブ制御部91が適正復帰報知演出を実行したが、適正復帰報知演出を実行するタイミングはこれに限定されず、例えば、遊技状態異常フラグの設定に関わらず通常遊技状態においてCBに内部当選したゲームの終了後に適正復帰報知演出を実行してもよい。
このようにすることで、適正復帰報知演出が実行されたときに、遊技者や遊技場の店員に対してメイン制御部41が内部中でない遊技状態(CBや通常遊技状態)から内部中に戻ったことを確実に認識させることができる。」

(2)判断
ア 上記1「(2)当審拒絶理由2」のア及びイについて
発明の詳細な説明(明細書の特に段落【0013】、【0014】、【0535】)を参酌すると、請求項1において、「非適正状態」から「適正状態」への「復帰」は、「非適正状態」から「適正状態」へ状態が移行したことを意味し、当該移行は、設定変更状態を経るか否か等、その実行条件、実行時期及び実行態様等を問わないものと解される。
そして、請求項1における「前記適正状態においてのみ実行される全ての演出」(以下単に「全ての演出」という。)は、「非適正状態」では実行されず、「適正状態においてのみ実行される」ものであるから、適正状態であることを実質的に「報知」しているものであり、非適正状態から適正状態に移行(復帰)した場合に「報知」として実行されるものと解される。一方、「復帰報知」は、「全ての演出」と同様に、「非適正状態」では実行されず、「適正状態においてのみ実行される」ものであり、非適正状態から適正状態に復帰(移行)した場合に実行されるものである。
してみると、「全ての演出」と「復帰報知」とは、その実行条件、実行時期及び実行態様等が特定されない限り、相互に区別をすることができない。

イ 上記1「(2)当審拒絶理由2」のウについて
発明の詳細な説明(明細書の特に段落【0533】ないし【0535】)を参酌すると、遊技場の店員に対しての報知は、遊技者が認識することを許容するものであるものと解される。
そうすると、請求項1の「遊技場の店員に対して前記適正状態に復帰したことを報知するための復帰報知を実行する」との特定事項は、復帰報知が、遊技場の店員のみに対してなされ、店員以外の遊技者等に対してはなされない、あるいは、遊技者や遊技場の店員に対してなされる等という特定がないから、報知する対象範囲が不明である。

ウ 以上のとおり、請求項1に係る発明は、明確でない。

3 当審拒絶理由1(特許法第29条第2項)について
(1)引用例の記載事項
ア 引用例1
当審拒絶理由1で引用例1として引用され、本願の出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011-67357号公報(以下同様に「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は合議体が付した。以下同様。)。
(ア)「【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面等を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態によるスロットマシン10の制御の概略を示すブロック図である。スロットマシン10の遊技制御手段60は、スロットマシン10の全体を制御する手段であり、役の抽選、リール31の駆動制御、入賞時の払出し、及び演出の出力等を制御するものである。遊技制御手段60は、制御基板(図示せず)上に設けられており、演算等を行うCPU、遊技の進行等や演出の出力に必要なプログラム等を記憶しておくROM、CPUが各種の制御を行うときに取り込んだデータ等を一時的に記憶しておくRAM等を備える。
・・・略・・・
【0020】
リール31は、リング状のものであって、その外周面には複数種類の図柄(役に対応する図柄の組合せを構成している図柄)を印刷したリールテープを貼付したものである。図2は、本実施形態におけるリール31の図柄配列を示す図である。図2では、図柄番号を併せて図示している。図2に示すように、本実施形態では、各リール31ごとに、21個の図柄が等間隔で配置されている。」
(イ)「【0039】
なお、RBに当選していない遊技中(RBの当選が持ち越されていない遊技中)を、「非内部中」という。また、当該遊技以前の遊技においてRBに当選しているが、当選したRBに対応する図柄の組合せが有効ラインに停止していない(入賞していない)遊技中(RBの当選が持ち越されている遊技中)を「内部中」という。
【0040】
遊技の開始時には、遊技者は、ベットスイッチ40を操作して予め貯留されたメダルを投入するか、又はメダル投入口43からメダルを投入し、スタートスイッチ41を操作(オン)する。スタートスイッチ41が操作されると、そのときに発生する信号が遊技制御手段60に入力される。遊技制御手段60(具体的には、後述するリール制御手段64)は、この信号を受信すると、すべてのモータ32を駆動制御して、すべてのリール31を回転させるように制御する。このようにしてリール31がモータ32によって回転されることで、リール31上の図柄は、所定の速度で表示窓11内で上下方向に移動表示される。
【0041】
そして、遊技者は、ストップスイッチ42を押すことで、そのストップスイッチ42に対応するリール31(例えば、左ストップスイッチ42に対応する左リール31)の回転を停止させる。ストップスイッチ42が操作されると、そのときに発生する信号が遊技制御手段60に入力される。遊技制御手段60(具体的には、後述するリール制御手段64)は、この信号を受信すると、そのストップスイッチ42に対応するモータ32を駆動制御して、そのモータ32に係るリール31の停止制御を行う。そして、すべてのリール31の停止時に、いずれかの役に対応する図柄の組合せが有効ラインに停止したとき(その役の入賞となったとき)は、入賞した役に対応するメダルの払出し等が行われる。
【0042】
図1に示すように、遊技制御手段60は、以下の役抽選手段61等を備える。なお、本実施形態における以下の各手段は例示であり、遊技制御手段60は、本実施形態で示した手段に限定されるものではない。」
(ウ)「【0110】
通常遊技の非内部中においてRBに当選すると、次遊技から、内部中遊技となる。なお、RB当選時は、小役1又は小役3が必ず入賞するので、当該遊技でRBが入賞する場合はない。また、内部中遊技でRBが入賞すると、上述のRB遊技に移行する。ただし、RBの内部中は、1/65536の確率でしか非当選にならない(RBの入賞機会がない)ので、RBが入賞することは極めて稀である。
また、RB遊技が終了すると、通常遊技の非内部中に移行する。そして、通常遊技の非内部中でRBに当選すると、再度、次遊技から内部中遊技となる。
なお、図6で示したように、通常遊技の非内部中でRBが当選する確率は1/50であるので、50?100遊技消化すれば、大抵はRBに当選するので、比較的早期に内部中遊技に移行する。
【0111】
さらに、本実施形態では、RBの内部中であることを条件として、後述するAT遊技を実行する。なお、これに限らず、非内部中においてもAT遊技を実行するようにしてもよい。
本実施形態では、非内部中はAT遊技を実行するか否かの抽選を受けることができないので、内部中に滞在している方が遊技者にとって有利となる。このため、RBの内部中となっても、RBを入賞させない方が遊技者にとって有利となる。RBが入賞してしまうと、RB遊技の終了後、通常遊技の非内部中に移行し、再度、RBに当選するまで待つ必要があるからである。
【0112】
演出制御手段69は、上述したランプ21、スピーカ22、及び画像表示装置23からの演出の出力を制御するものである。
演出制御手段69は、遊技ごとに、役抽選手段61による役の抽選結果に基づいて、演出パターンを選択する。特に本実施形態では、複数種類の演出パターンが予め設けられている。そして、演出制御手段69は、遊技の開始時等に、役抽選手段61による役の抽選が行われた後、ソフトウェア乱数を用いた抽選によっていずれか1つの演出パターンを選択する。
・・・略・・・
【0119】
また、AT遊技を実行するか否かの抽選に当選したとき、及びAT遊技を実行するか否かの抽選に当選していないときであって所定の条件を満たしたとき(特定の演出の出力抽選に当選したとき)は、AT遊技が実行されるか否かを演出により出力する。例えば、画像表示装置23によって、主人公キャラクタと敵キャラクタとが対決し、いずれかが勝利する演出を出力するように制御する。ここで、AT遊技を実行するか否かの抽選に当選しているときは主人公キャラクタが勝利する演出(AT遊技が実行されることを意味する演出)を出力し、上記抽選に非当選であるときは敵キャラクタが勝利する演出(AT遊技が実行されないことを意味する演出)を出力するように制御する。」
(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、引用例1には、実施形態として、次の発明が記載されているものと認められる(なお、引用箇所の段落番号等を併記した。)。
「a 21個の図柄が等間隔で配置され、回転されることによって該図柄を所定の速度で表示窓11内で上下方向に移動表示させるリール31(【0020】、【0040】)を備え、
b 回転しているリール31の停止時に、いずれかの役に対応する図柄の組合せが有効ラインに停止し、その役の入賞となったとき、入賞した役に対応するメダルの払出し等が行われる(【0041】)、スロットマシン10(【0015】)であって、
c リール31の回転を停止させるストップスイッチ42(【0041】)と、
d 演出の出力を制御する演出制御手段69(【0112】)と、
e RBの当選が持ち越されていない非内部中と、RBの当選が持ち越されている内部中(【0039】)とに制御可能な遊技制御手段60(【0042】)と、
をさらに備え、
f RBの内部中であることを条件として、AT遊技を実行し、非内部中はAT遊技を実行するか否かの抽選を受けることができず(【0111】)、
g、h AT遊技を実行するか否かの抽選に当選したとき、及びAT遊技を実行するか否かの抽選に当選していないときであって、特定の演出の出力抽選に当選したときは、AT遊技が実行されるか否かを演出により出力するものであり、具体的には、画像表示装置23によって、主人公キャラクタと敵キャラクタとが対決し、いずれかが勝利する演出を出力するように制御し、ここで、AT遊技を実行するか否かの抽選に当選しているときは主人公キャラクタが勝利する演出、すなわち、AT遊技が実行されることを意味する演出を出力するようにした(【0119】)、
i スロットマシン10(【0015】)。」(以下「引用発明」という。)

イ 引用例2
当審拒絶理由1で引用例2として引用され、本願の出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2007-252554号公報には、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、遊技者が遊技媒体を投入して、図柄が表示されたリールを回転させて停止させ、停止時における図柄の組合せによって遊技結果を定めるスロットマシンに関し、特に、遊技を遊技者にとって有利に進行させる当たり遊技や、遊技媒体を投入せずに遊技ができる再遊技が実施可能なスロットマシンに関する。」
(イ)「【0114】
ここで、所定のリールの図柄配置をすることにより、再遊技役が当選したときに再遊技役が常に入賞するように設定することもできる。この場合には、再遊技役が繰り返し行なわれるようになるので、BBnフラグが設定されたときにRT1作動状態となるようにすれば、再遊技が繰り返し行なわれることによって、遊技者に、BBnフラグが設定された内部中状態であることを報知することができる。更に、後述するように、RT1作動状態では、再遊技を行なうときに、複数の遊技に渡って連続する内容を有するリプレイ演出画像を表示することによって、内部中状態であることを遊技者に更に強く認識させることができる。」
(ウ)「【0179】
また、BBnフラグが設定された内部中状態であることを遊技者に報知する内容を、このリプレイ演出画像に含めることもできる。更に、複数のBBnフラグ(本実施形態では、BB1?BB3フラグ)のうち、どのBBnフラグが設定されているかに関する情報を、このリプレイ演出画像に含めることもできる。遊技者にこのような情報を報知する態様としては、遊技者に明示的に報知することも可能であるし、遊技者に暗示的に報知することも可能である。また、リプレイ演出画像の具体的な内容としては、連続した内容を有する演出画像であれば、キャラクタを用いた演出画像を始めとするあらゆる演出画像を用いることができる。」

ウ 引用例3
当審拒絶理由1で引用例3として引用され、本願の出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2009-219720号公報には、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「【0013】
本発明を実施するための最良の形態を、遊技機としてスロットマシンを例に、第一及び第二の実施の形態に分けて、図面に基づき説明する。
(第一の実施の形態)
(図面の説明)
図1乃至図8は、本発明の第一の実施の形態を示すものである。
図1はスロットマシンの正面図、図2及び図3は上部装飾体を示す図、図4は回転灯ユニットの分解斜視図、図5は回転灯ユニットの作動を表す図である。また、図6乃至図8は、第一の実施の形態の変形例を示す図である。」
(イ)「【0029】
また、特定の遊技状態(当選判定の抽選による当選役の当選、演出実行抽選の当選を含む)では、電球65を消灯し回転反射板64を停止させた状態で回転灯ユニット60全体を回転させ、他の特定の遊技状態では、電球65を点灯させ回転反射板64も回転させた状態で回転灯ユニット60全体を回転させることができる。例えば、左回りでBB内部中、右回りでRB内部中を報知するようにして、点灯状態の方がいわゆる信頼度が高い(当たっている可能性が大きい)ようにすることができる。
回転態様としては、ただ一方向にぐるぐる回すだけでなく、途中で回転方向を変えたり、途中で回転停止したり、回転速度を変化させたりすることにより、遊技者の期待感を高めることができる。例えば、回転灯ユニット60全体が一回転すれば当選確定、回転速度が遅い場合には確率50%、一回転する途中で停止したり元の位置に戻ったりした場合にはハズレ、のように設定することができる。」

エ 引用例4
当審拒絶理由1で引用例4として引用され、本願の出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2006-6706号公報には、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、メダル、コイン、遊技球等を遊技媒体として使用するスロットマシン等の遊技機に関するものである。」
(イ)「【0147】
一方、ステップ410で肯定判定となった場合は、ボーナス情報報知期間における最後の遊技であるものと判断し、ステップ424に移行してBB内部中か否かを判定し、当該判定が肯定判定となった場合はステップ426に移行してボーナス種の報知としてBB内部中であることを報知する。また、ステップ424で否定判定となった場合はステップ428に移行して、ボーナス種の報知としてRB内部中であることを報知し、その後に本ボーナス情報報知演出処理を終了する。」

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比する。なお、以下の見出し(a)ないし(j)は、本願発明のAないしJに対応させている。
(a)引用発明の「21個の図柄」は、本願発明の「複数種類の識別情報」に相当する。そして、引用発明の「表示窓11」は、21個の図柄(複数種類の識別情報)が等間隔で配置されたリール31を回転させることによって、該図柄を所定の速度で上下方向に移動表示するものであるから、本願発明の「A 各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示部」に相当する。

(b)(j)引用発明の「入賞」及び「スロットマシン10」は、それぞれ本願発明の「入賞」及び「スロットマシン」に相当する。また、引用発明は、回転しているリール31の停止時に、いずれかの役に対応する図柄の組合せが有効ラインに停止し、その役の入賞となったとき、入賞した役に対応するメダルの払出し等が行われるのであるから、引用発明は、本願発明の「B 前記可変表示部を変動表示した後、前記可変表示部の変動表示を停止することで表示結果を導出し、該表示結果に応じて入賞が発生可能」を備える。

(c)引用発明「c リール31の回転を停止させるストップスイッチ42」は、本願発明の「C 表示結果を導出させるために操作される導出操作手段」に相当する。

(d)引用発明の「演出制御手段69」は、演出の出力を制御するものであり、演出を実行しているといえるから、本願発明の「D 演出を実行する演出実行手段」に相当する。

(e)引用発明の「内部中」及び「非内部中」は、それぞれ本願発明の「特別遊技状態への移行を伴う特別入賞の発生を許容する特別決定がなされたゲームにおいて該特別決定が持ち越されている状態」及び「特別決定が持ち越されていない状態」に相当する。そして、引用発明は、非内部中と内部中とに制御可能な遊技制御手段60を備えるから、引用発明のeと、本願発明のEとは、「E’特別遊技状態への移行を伴う特別入賞の発生を許容する特別決定がなされたゲームにおいて該特別入賞が発生せずに、該特別決定が持ち越されている状態、および前記特別決定が持ち越されていない状態、を含む複数の状態のうちいずれかに制御する状態制御手段」で一致する。

(f)引用発明の「AT遊技」は、技術常識からみて、本願発明の「遊技者にとって有利な前記導出操作手段の操作態様を特定可能な情報を報知する報知状態」に相当することは明らかである。そして、引用発明は、RBの内部中(特別決定が持ち越されている状態)であることを条件として、AT遊技(報知状態)を実行し、非内部中(特別決定が持ち越されていない状態)はAT遊技(報知状態)を実行するか否かの抽選を受けることができないから、引用発明のfと、本願発明のFとは、「F’前記特別決定が持ち越されている状態においては遊技者にとって有利な前記導出操作手段の操作態様を特定可能な情報を報知する報知状態に制御され、前記特別決定が持ち越されていない状態においては前記報知状態に制御されず、」で一致する。

(g)引用発明は、RBの内部中(特別決定が持ち越されている状態)であることを条件として抽選されるAT遊技に関し、AT遊技を実行するか否かの抽選に当選したとき、及びAT遊技を実行するか否かの抽選に当選していないときであって、特定の演出の出力抽選に当選したときは、AT遊技が実行されるか否かを演出により出力するものであるから、引用発明のg、hと、本願発明のGとは、「G’前記特別決定が持ち越されている状態においては前記報知状態に制御するか否かを報知する特定演出が実行され」で一致する。

してみると、本願発明と引用発明とは、
「A 各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示部を備え、
B 前記可変表示部を変動表示した後、前記可変表示部の変動表示を停止することで表示結果を導出し、該表示結果に応じて入賞が発生可能なスロットマシンにおいて、
C 表示結果を導出させるために操作される導出操作手段と、
D 演出を実行する演出実行手段と、
E’特別遊技状態への移行を伴う特別入賞の発生を許容する特別決定がなされたゲームにおいて該特別入賞が発生せずに、該特別決定が持ち越されている状態、および前記特別決定が持ち越されていない状態、を含む複数の状態のうちいずれかに制御する状態制御手段とを備え、
F’前記特別決定が持ち越されている状態においては遊技者にとって有利な前記導出操作手段の操作態様を特定可能な情報を報知する報知状態に制御され、前記特別決定が持ち越されていない状態においては前記報知状態に制御されず、
G’前記適正状態においては前記報知状態に制御するか否かを報知する特定演出が実行される、
J スロットマシン。」の点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1(特定事項E、F、G)
「特別決定が持ち越されている状態」及び「特別決定が持ち越されていない状態」が、
本願発明では、それぞれ「設計値に基づく遊技用価値の増減率が担保された適正状態」及び「設計値に基づく遊技用価値の増減率が担保されない非適正状態」とされているのに対し、
引用発明では、そのような特定がない点。

・相違点2(特定事項H)
演出に関し、
本願発明では、「前記特定演出を含む前記適正状態においてのみ実行される全ての演出は、前記非適正状態においては実行されず」としているのに対し、
引用発明では、そのような特定がない点。

・相違点3(特定事項I)
復帰報知に関し、
本願発明では、「前記非適正状態から前記適正状態に復帰したときに、遊技場の店員に対して前記適正状態に復帰したことを報知するための復帰報知を実行する」のに対し、
引用発明では、そのような特定がない点。

(3)判断
ア 相違点1について
引用例1の例えば【0110】に記載されているように、非内部中では、比較的早期に、RBに当選して内部中に移行しやすく、内部中では、RBが入賞することは極めて稀であるから、当業者であれば、遊技の大部分が内部中であることを把握することが可能である。そうすると、引用発明のスロットマシンにおいて、遊技の大部分を占める内部中を基準に基準値となる設計値を設定し、内部中については当該設計値に基づく遊技用価値の増減率を担保された適正状態と称し、非内部中については前記増減率を担保されない非適正状態と称することは、取り決めた基準となる設計値を基に定義付けしたにすぎないことであり、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

イ 相違点2について
(ア)引用発明において、「主人公キャラクタと敵キャラクタとが対決し、いずれかが勝利する演出」のうち、結果を報知する「勝利する演出」部分が本願発明の「特定演出」に相当し、前記「勝利する演出」(特定演出)を含む「主人公キャラクタと敵キャラクタとが対決」する演出が本願発明の「全ての演出」に相当するともいえる。
引用発明において、非内部中はAT遊技を実行するか否かの抽選を受けることができず、内部中におけるAT遊技を実行するか否かの抽選に当選したとき、及びAT遊技を実行するか否かの抽選に当選していないときであって、特定の演出の出力抽選に当選したときは、AT遊技が実行されるか否かを演出により出力するものであるから、AT遊技が実行されるか否かの演出は、内部中に実行され、非内部中には実行されないと解するのが当業者に自明である。
そうすると、引用発明において、「主人公キャラクタと敵キャラクタとが対決」する演出(全ての演出)は、非内部中(非適正状態)においては実行されないから、上記相違点2のうち、「全ての演出」が特別決定が持ち越されていない状態「においては実行されない」との事項は引用例1に記載されているといえる。
(イ)仮に、「全ての演出」が特別決定が持ち越されていない状態「においては実行されない」との事項が引用例1に記載されていないとして、以下検討する。
スロットマシンにおいて、内部中であることを報知するための演出を実行し、非内部中には前記演出を実行しないことは周知(以下「周知技術」という。例.上記引用例2ないし4)である。引用発明と周知技術とは、いずれも内部中及び非内部中の遊技状態となすことが可能なスロットマシンで共通するから、周知技術を引用発明に適用して、「主人公キャラクタと敵キャラクタとが対決」する演出(全ての演出)が特別決定が持ち越されていない状態においては実行されないようになすことは当業者が適宜なし得たことである。
(ウ)上記(ア)のとおり、上記相違点2は実質的な相違点ではない。また、上記(イ)のとおり、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の特定事項のようになすことは当業者が周知技術に基づいて適宜なし得たことである。

ウ 相違点3について
(ア)上記相違点3について検討するに際して、上記2(2)で示したように、本願発明の「非適正状態」から「適正状態」への「復帰」との特定事項は、「非適正状態」から「適正状態」へ状態が移行したものと相互に区別をすることなく、実質的に同じものとして判断する。また、同じく上記2(2)で示したように、本願発明の「遊技場の店員に対して前記適正状態に復帰したことを報知するための復帰報知を実行する」との特定事項は、遊技場の店員のみに対して特定の報知をするのか、遊技者や遊技場の店員に対して特定の報知をするのかが不明であるが、ここでは、遊技場の店員及び遊技者等に対して特定の報知をするものと解釈して判断する。
(イ)上記イ(イ)で示したように、スロットマシンにおいて、内部中であることを報知するための演出を実行し、非内部中には前記演出を実行しないことは周知技術であり、内部中であることを報知するために実行されるのは「演出」であり、遊技者に対して報知するものであることは自明であるとともに、遊技者に対して報知するのであれば、当該スロットマシンの前に居る店員に対しても報知していることは明らかである。そして、上記イ(イ)でも示したように、引用発明と周知技術とは、いずれも内部中及び非内部中の遊技状態となすことが可能なスロットマシンで共通するから、周知技術を引用発明に適用して、非適正状態から適正状態に復帰したときに、遊技場の店員及び遊技者等に対して前記適正状態に復帰したことを報知するための復帰報知を実行することは当業者が適宜なし得たことである。
(ウ)以上のとおり、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明の特定事項のようになすことは当業者が周知技術に基づいて適宜なし得たことである。

ウ 本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

エ したがって、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

オ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は、令和1年7月11日提出の意見書の「第3 本願発明が特許されるべき理由」の「(2) 本願発明と引用例に記載された発明との対比」において、概略、以下のとおり主張している。
a 主張1
「これに対して、引用例1には、内部中においてAT遊技を実行するか否かの抽選が行われ、抽選に当選していないときに所定の条件を満たしていればAT遊技が実行されるか否かの演出を出力している構成が記載されていますが、非内部中においてAT遊技を実行するか否かの抽選が行われていないときにAT遊技が実行されるか否かの演出が出力されるか否かについては記載されていません。よって、例えば、非内部中においてAT遊技を実行するか否かの抽選が行われていなくても内部中においてAT遊技を実行するか否かの抽選が行われたときと同様に所定の条件を満たしていればAT遊技が実行されるか否かの演出を出力する構成となる可能性も考えられます。よって、引用例1には、特定演出が非適正状態において実行されない旨の構成について記載も示唆も一切ありません。
また、引用例1には、内部中において実行されるAT遊技が実行されるか否かの演出とは異なる演出が非内部中において実行されるか否かについても記載されていません。よって、引用例1には、特定演出以外の適正状態においてのみ実行される演出が非適正状態においては実行されない旨の構成についても記載も示唆も一切ありません。
さらに、引用例2?4についても引用例1と同様に、特定演出が非適正状態において実行されない旨の構成や、特定演出以外の適正状態においてのみ実行される演出が非適正状態においては実行されない旨の構成について記載も示唆も一切ありません。
これらの結果、引用例1?4には、特定演出を含む適正状態においてのみ実行される全ての演出が非適正状態においては実行されない旨の本願発明の特徴的な構成について記載も示唆も一切ありません。」
b 主張2
「また、引用例1には、RBの内部中においてRBが入賞することは極めて稀であり、通常遊技の非内部中から50?100遊技程度で内部中に移行する構成が記載されていますが、内部中が「設計値に基づく遊技用価値の増減率が担保された」状態である一方で非内部中が「設計値に基づく遊技用価値の増減率が担保されない」状態である旨の構成について記載も示唆も一切されていません。よって、引用例1における内部中及び非内部中は、本願発明における適正状態及び非適正状態とは異なります。」
c 主張3
「また、引用例1には、非内部中から内部中に移行したことを報知する旨の構成について記載も示唆も一切なく、引用例1における内部中及び非内部中が本願発明における適正状態及び非適正状態とは異なる以上、遊技店の店員に対して「設計値に基づく遊技用価値の増減率が担保されない」適正ではない状態(非適正状態)から「設計値に基づく遊技用価値の増減率が担保された」適正な状態(適正状態)に復帰した旨の復帰報知を実行する構成について記載も示唆も一切されていません。
さらに、引用例2?4についても引用例1と同様に、引用例2?4における内部中及び非内部中が本願発明における適正状態及び非適正状態とは異なるため、遊技店の店員に対して「設計値に基づく遊技用価値の増減率が担保されない」適正ではない状態(非適正状態)から「設計値に基づく遊技用価値の増減率が担保された」適正な状態(適正状態)に復帰した旨の復帰報知を実行する構成について記載も示唆も一切されていません。
よって、引用例1?4には、非適正状態から適正状態に復帰したときに、遊技場の店員に対して適正状態に復帰したことを報知するための復帰報知を実行する旨の本願発明の特徴的な構成について記載も示唆も一切ありません。」

(イ)審判請求人の主張について検討する。
a 主張1について
上記(3)イで示したように、引用発明において、非内部中はAT遊技を実行するか否かの抽選を受けることができず、内部中におけるAT遊技を実行するか否かの抽選に当選したとき、及びAT遊技を実行するか否かの抽選に当選していないときであって、特定の演出の出力抽選に当選したときは、AT遊技が実行されるか否かを演出により出力するものであるから、AT遊技が実行されるか否かの演出は、内部中に実行され、非内部中には実行されないと解するのが当業者に自明であるから、請求人が主張する、特定演出が非適正状態において実行されない旨の構成や、特定演出以外の適正状態においてのみ実行される演出が非適正状態においては実行されない旨の構成については、引用例1に記載されているに等しい事項である。
b 主張2について
引用発明の内部中及び非内部中が、本願発明の適正状態及び非適正状態に実質的に相当することは、上記(3)アで示したとおりである。
c 主張3について
上記(3)イで示したとおり、引用発明において、結果を報知する「勝利する演出」(特定演出)、及び、「勝利する演出」(特定演出)を含む「主人公キャラクタと敵キャラクタとが対決」する演出(全ての演出)は、内部中(適正状態)に実行され、非内部中(非適正状態)では実行されないのであるから、非内部中(適正状態)から内部中(適正状態)に移行(復帰)した際に、前記「主人公キャラクタと敵キャラクタとが対決」する演出がされるか、又は、周知技術を適用することにより、移行(復帰)が報知されているといえる。
d 以上とおりであるから、審判請求人の主張は、採用することができない。

第3 むすび
本件出願は、特許請求の範囲の特許を受けようとする発明が、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定により特許を受けることができない。
また、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-11 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-11-25 
出願番号 特願2013-140204(P2013-140204)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A63F)
P 1 8・ 121- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森田 真彦  
特許庁審判長 安久 司郎
特許庁審判官 鉄 豊郎
蔵野 いづみ
発明の名称 スロットマシン  
代理人 木村 満  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ