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審決分類 審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 B42D
管理番号 1358485
審判番号 不服2018-15070  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-13 
確定日 2020-01-09 
事件の表示 特願2018-74999号「シート状物、及び信託契約書のセット」拒絶査定不服審判事件〔令和1年10月24日出願公開、特開2019-181792号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年4月9日の出願であって、平成30年4月27日付けで拒絶の理由が通知され、平成30年7月13日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成30年8月6日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成30年11月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、上記の平成30年7月13日付け手続補正による補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「受託者を特定する情報を表示する受託者表示部と、信託財産を特定する情報を表示する信託財産表示部とを備える受託者証を表示するシート状物、
受益者を特定する情報を表示する受益者表示部と、信託財産を特定する情報を表示する信託財産表示部とを備える受益者証を表示するシート状物、及び
信託契約書のセット。」(以下「本願発明」という。)

第3 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由である、平成30年4月27日付け拒絶理由通知の理由1の本願発明に係るものは、概略、次のとおりのものである。

本願発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作には該当しないから、特許法第2条第1項に規定する「発明」とはいえず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

第4 当審の判断
(1)特許法第2条第1項所定の「発明」の意義について
特許制度は、新しい技術である発明を公開した者に対し、その代償として一定の期間、一定の条件の下に特許権という独占的な権利を付与し、他方、第三者に対してはこの公開された発明を利用する機会を与えるものであり、特許法は、このような発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする(特許法第1条)。また、特許の対象となる「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」であり(同法第2条第1項)、一定の技術的課題の設定、その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものである。
そうすると、請求項に記載された特許を受けようとする発明が、同法第2条第1項に規定する「発明」といえるか否かは、前提とする技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし、全体として考察した結果、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するといえるか否かによって判断すべきものである。
そして、「発明」は、上記のとおり、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるところ、単なる人の精神活動、意思決定、抽象的な概念や人為的な取決めそれ自体は、自然法則とはいえず、また、自然法則を利用するものでもないから、直ちには「自然法則を利用した」ものということはできない。
したがって、請求項に記載された特許を受けようとする発明が、そこに何らかの技術的思想が提示されているとしても、上記のとおり、その技術的意義に照らし、全体として考察した結果、その課題解決に当たって、専ら、人の精神活動、意思決定、抽象的な概念や人為的な取決めそれ自体に向けられ、自然法則を利用したものといえない場合には、特許法2条1項所定の「発明」に該当するとはいえない。
以上の観点から、本願発明の発明該当性について、以下、検討する。

(2)本願明細書の記載
本願の明細書には、次の記載がある(下線は当審で付与した)。

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
信託は委託者、受託者、受益者の三つの役割によって構成されているが、同一人がこの役割を兼任することも可能であり、契約内容は多種多様である。そのうち特に民事信託において、信託契約後の時間の経過や相続等の発生に伴って当事者の間で各人の役割が分からなくなり、財産が十分に活用されなくなる事態が生じていた。信託契約における各人の役割を確認するには信託契約書の内容を確認すれば良いが、信託契約書の内容は複雑であるため各人が自己の役割を直ちに理解することは困難であった。」

「【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は信託契約の内容を容易に確認できる手段を提供することにある。」

「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば上記構成により、信託契約の内容を簡易に確認できる手段を提供することができる。その結果、通常の日常生活においては信託に馴染みの無い人、例えば家族間で行う民事信託の利用を促進することができ、経済活動の活発化が期待される。例えば、民事信託によれば、親を委託者とし、子を受託者とし、孫を受益者として、親(委託者)から移転された信託財産を子(受託者)が一定の目的に従って管理、運用、処分等を行い、信託財産やそれから生じる利益を孫(受益者)に与えることができる。即ち、親の生前でも自由な財産管理が可能であり、財産の管理処分権を信頼できる子等に託して、発生した利益を所望の孫等に与えることが可能である。また民事信託により相続の詳細を決定することができ、2代先まで財産の承継先を決定することもでき、更に高齢者や痴呆症患者等の財産管理が困難な人のために財産管理を行うことも可能である。このような民事信託によれば、財産を管理、運用、処分、相続等を円滑に行うことができるため、民事信託の普及により経済活動の活発化が期待される。」

「【0012】
〈受託者証を表示する表示物〉
図1は、本発明の受託者証を表示する表示物の表面を示す図である。図1に示す通り、本発明の受託者証1を表示する表示物10(以下、単に受託者証表示物10と呼ぶ場合がある)は、受託者を特定する情報を表示する受託者表示部11と、信託財産を特定する情報を表示する信託財産表示部12とを備えるものである。」
【0013】
受託者表示部11は、受託者を特定する情報が表示されていれば特に限定されないが、例えば、受託者の氏名又は名称、及び住所又は居所が表示されていることが好ましい。これにより受託者を特定し易くすることができる。
【0014】
信託財産表示部12は、信託財産を特定する情報が表示される部分である。信託財産表示部12により、信託財産の内容を把握し易くすることができる。信託財産として、例えば株式、債券等の有価証券、不動産、金銭、知的財産等が挙げられる。
【0015】
受託者証1として、受託者表示部11に記載の者が受託者であることを証明する受託者証明書や、受託者表示部11に記載の者が受託者であることを確認する受託者確認書が挙げられる。」

「【0018】
受託者証表示物10がシート状物である場合、シート状物の表面10Aに当該シート状物が受託者証1であることを示す受託者証標題部13と、受託者表示部11と、信託財産表示部12とを備えることが好ましい。また、図2に示すようにシート状物の裏面10Bに信託契約の一部抜粋事項が記載されていることが好ましい。」

「【0020】
シート状物の表面10Aに受託者証標題部13と、受託者表示部11と、信託財産表示部12とを備えることにより、一見して受託者、及び信託財産の内容を確認し易くすることができる。更にシート状物の裏面10Bに信託契約の受託権に関する事項等を一部抜粋して記載されていることにより、複雑な信託契約書を読み解くことなく受託者が自己の役割に関連する情報を確認し易くすることができる。」

「【0025】
〈受益者証を表示する表示物〉
図3は、本発明の受益者証を表示する表示物の表面を示す図である。図3に示す通り、本発明の受益者証2を表示する表示物20(以下、単に受益者証表示物20と呼ぶ場合がある)は、受益者を特定する情報を表示する受益者表示部21と、信託財産を特定する情報を表示する信託財産表示部22とを備えるものである。
【0026】
受益者表示部21は、受益者を特定する情報が表示されていれば特に限定されないが、例えば、受益者の氏名又は名称、及び住所又は居所が表示されていることが好ましい。これにより受益者を特定し易くすることができる。
【0027】
信託財産表示部22は、信託財産を特定する情報が表示される部分である。信託財産表示部22により、信託財産の内容を把握し易くすることができる。信託財産として、例えば株式、債券等の有価証券、不動産、金銭、知的財産等が挙げられる。
【0028】
受益者証2として、受益者表示部21に記載の者が受益者であることを証明する受益者証明書や、受益者表示部21に記載の者が受益者であることを確認する受益者確認書が挙げられる。」

「【0031】
受益者証表示物20がシート状物である場合、シート状物の表面20Aに当該シート状物が受益者証2であることを示す受益者証標題部23と、受益者表示部21と、信託財産表示部22とを備えることが好ましい。また、図4に示すようにシート状物の裏面20Bに信託契約の一部抜粋事項が記載されていることが好ましい。」

「【0033】
シート状物の表面20Aに受益者証標題部23と、受益者表示部21と、信託財産表示部22とを備えることにより、一見して受益者、及び信託財産の内容を確認し易くすることができる。更にシート状物の裏面20Bに信託契約の受益権に関する事項を一部抜粋して記載されていることにより、複雑な信託契約書を読み解くことなく受益者が自己の役割に関連する情報を確認し易くすることができる。」

「【0039】
〈受託者証表示物と受益者証表示物と信託契約書のセット〉
本発明には、受託者証表示物10と受益者証表示物20と信託契約書のセットも含まれる。受託者証表示物10と受益者証表示物20と信託契約書をまとめて保管しておくことにより、受託者証表示物10や受益者証表示物20に記載していない内容を信託契約書で確認することができる。信託契約書は原本である必要はなく、信託契約書の写しであってもよい。」

(3)本願発明の技術的意義について
ア 前記(2)で摘記した本願明細書の記載によれば、信託契約における各人の役割を確認するには信託契約書の内容を確認すれば良いが、信託契約書の内容は複雑であるため各人が自己の役割を直ちに理解することは困難であることが、本件発明の「前提とする技術的課題」であると認められる(【0004】)。

そこで、本件発明は、前記「前提とする技術的課題」を解決し、信託契約の内容を容易に確認できる手段を提供するために(【0006】)、「受託者を特定する情報を表示する受託者表示部と、信託財産を特定する情報を表示する信託財産表示部とを備える受託者証を表示するシート状物、受益者を特定する情報を表示する受益者表示部と、信託財産を特定する情報を表示する信託財産表示部とを備える受益者証を表示するシート状物、及び信託契約書のセット」という構成を「課題を解決するための技術的手段の構成」として採用した(請求項1、【0012】、【0018】、【0025】、【0031】)。

そして、本件発明は、前記「課題を解決するための技術的手段の構成」中の「受託者証を表示するシート状物」が「受託者を特定する情報を表示する受託者表示部と、信託財産を特定する情報を表示する信託財産表示部とを備える」ことにより、一見して受託者、及び信託財産の内容を確認し易くすることができるという「技術的手段の構成から導かれる効果」を奏し(【0020】)、前記「課題を解決するための技術的手段の構成」中「受益者証を表示するシート状物」が「受益者を特定する情報を表示する受益者表示部と、信託財産を特定する情報を表示する信託財産表示部とを備える」ことにより、一見して受益者、及び信託財産の内容を確認し易くすることができるという「技術的手段の構成から導かれる効果」を奏し(【0033】)、前記「課題を解決するための技術的手段の構成」中「受託者証を表示するシート状物」、「受益者証を表示するシート状物、及び「信託契約書」を「セット」とすることにより、受託者証を表示するシート状物や受益者証を表示するシート状物に記載していない内容を信託契約書で確認することができるという「技術的手段の構成から導かれる効果」を奏する(【0039】)ものと認められる。

イ そうすると、本願発明の技術的意義は、以下の(ア)?(ウ)であるものと認められる。
(ア)「受託者証を表示するシート状物」という媒体に表示された、文字として認識される「受託者を特定する情報」と「信託財産を特定する情報」を利用者である人に提示することによって、当該人が、信託契約の内容を容易に把握するという、人の心理学的法則(認知メカニズム)を利用したものであり、専ら人の精神活動そのものに向けられたものである。仮に、「受託者を特定する情報」と「信託財産を特定する情報」という選択された情報に特徴があるとしても、それは信託契約という人為的取り決めに基づく選択にすぎないから、それをもって、技術的意義が自然法則を用いたものに向けられているということはできない。

(イ)「受益者証を表示するシート状物」という媒体に表示された、文字として認識される「受益者を特定する情報」と「信託財産を特定する情報」を利用者である人に提示することによって、当該人が、信託契約の内容を容易に把握するという、人の心理学的法則(認知メカニズム)を利用したものであり、専ら人の精神活動そのものに向けられたものである。仮に、「受益者を特定する情報」と「信託財産を特定する情報」という選択された情報に特徴があるとしても、それは信託契約という人為的取り決めに基づく選択にすぎないから、それをもって、技術的意義が自然法則を用いたものに向けられているということはできない。

(ウ)「受託者証を表示するシート状物」と「受益者証を表示するシート状物」と「信託契約書」を「セット」にして、それぞれの媒体に表示された、文字として認識される情報を利用者である人に提示することによって、当該人が、受託者証を表示するシート状物と受益者証を表示するシート状物に記載していない信託契約の内容を信託契約書によって確認するという、人の心理学的法則(認知メカニズム)を利用したものであり、専ら人の精神活動そのものに向けられたものである。
ここで、「受託者証を表示するシート状物」と「受益者証を表示するシート状物」と「信託契約書」という文字として認識される情報が表示された3つの媒体を「セット」とすることは、それらの媒体同士が何らかの物理的作用を奏するものではなく、受託者証を表示するシート状物と受益者証を表示するシート状物に記載していない信託契約の内容を信託契約書によって確認できるという作用効果を考慮しても、この作用効果は、それぞれの媒体に表示された、文字として認識される情報を利用者である人に提示することによってなされる、人の心理学的法則(認知メカニズム)を利用したものであり、専ら人の精神活動そのものに向けられたものという他はない。

そうすると、上記(ア)?(ウ)を技術的意義とする本願発明は、上記(ア)?(ウ)のいずれも専ら人の精神活動そのものに向けられたものであり、自然法則、あるいは、これを利用するものとはいえないから、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」には該当しない。
以上によれば、本願発明は、特許法2条1項に規定する「発明」に該当しない。

(4)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、本願発明の本質は、信託契約書とは別個に作成されている受託者証を表示するシート状物と、受益者証を表示するシート状物という物理的な技術的手段にあり、当該物理的な技術的手段によって受託者等の信託契約の内容の確認を容易にすることができるという効果が発揮されるのであるから、本願発明の本質は、人の精神活動を支援するか、又はこれに置き換わる技術的手段を提供するものであって、本願発明は、自然法則を利用したものであり、特許法第2条第1項に規定する「発明」に該当する旨、主張する。
しかし、上記(3)で検討したように、「受託者証を表示するシート状物」と「受益者証を表示するシート状物」と「信託契約書」という文字として認識される情報が表示された3つの媒体を「セット」とすることは、それらの媒体同士が何らかの物理的作用を奏するものではなく、受託者証を表示するシート状物と受益者証を表示するシート状物に記載していない信託契約の内容を信託契約書によって確認できるという作用効果を考慮しても、この作用効果は、それぞれの媒体に表示された、文字として認識される情報を利用者である人に提示することによってなされる、人の心理学的法則(認知メカニズム)を利用したものであり、専ら人の精神活動そのものに向けられたものであり、自然法則、あるいは、これを利用するものとはいえないから、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」には該当しない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項柱書きに規定される「産業上利用することができる発明」に該当しないから、同項の規定により特許をすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-30 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-11-26 
出願番号 特願2018-74999(P2018-74999)
審決分類 P 1 8・ 1- Z (B42D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷垣 圭二  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
藤田 年彦
発明の名称 シート状物、及び信託契約書のセット  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アスフィ国際特許事務所  

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