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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1358531
審判番号 不服2018-12464  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-18 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 特願2014- 84914「インクジェット印刷装置およびインクジェット印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月16日出願公開,特開2015-202687〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年4月16日に出願された出願であって,平成27年2月25日に手続補正書が提出され,平成29年10月31日付けで拒絶理由が通知され,平成30年1月9日に意見書及び手続補正書が提出され,同年3月19日付けで拒絶理由が通知され,同年5月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年6月8日付けで同年5月28日の手続補正が却下されるとともに,同日付けで拒絶査定がされ,それに対して,同年9月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,その後,当審において,令和1年6月24日付けで拒絶理由が通知され,同年8月26日に意見書(以下,「本件意見書」という。)及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1ないし3に係る発明は,令和1年8月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
プラテン上に載置された記録媒体に対して,光の照射を受けることで硬化するインクを吐出するヘッドと,
上記記録媒体上の上記インクに光を照射する第1照射手段と,
上記記録媒体を,上記第1照射手段と対向する位置から搬送する搬送手段と,
上記搬送手段による上記記録媒体の搬送方向の上記第1照射手段の下流側に位置し,上記記録媒体上の上記インクに光を照射する第2照射手段とを備え,
上記第1照射手段は,上記記録媒体上に吐出された上記インクに対して上記第2照射手段よりも長波長の光を,上記インクが上記記録媒体に対して十分に接着する程度に照射し,
上記搬送手段は,駆動ローラ,及び,上記駆動ローラによる上記記録媒体の搬送を補助するための従動ローラを備え,上記駆動ローラが駆動することにより,従動ローラが従動回転して,記録媒体を搬送するものであり,
上記プラテンは,プリントプラテンと,上記記録媒体の搬送方向において上記プリントプラテンの下流側に位置するアフタープラテンとを備え,
上記プリントプラテンにおいて,上記ヘッドは上記インクを吐出し,上記第1照射手段は上記光を照射して,上記記録媒体上の前記インクの内部硬化を進行させると共に,上記インクを所望の硬度まで硬化させない仮硬化を行い,
上記アフタープラテンにおいて,上記第2照射手段は上記光を照射して,上記記録媒体上の上記インクを上記所望の硬度まで硬化させる本硬化を行い,
上記第1照射手段は,385nmの波長の光を照射し,
上記第2照射手段は,365nmの波長の光を照射し,
上記第1照射手段と,上記第2照射手段とは,上記搬送方向に離隔して設けられ,
上記第2照射手段は,上記アフタープラテンにおける斜め上方に膨出した曲面に載置された上記記録媒体に対向して配置されていると共に,斜め下方に向けて上記光を照射することを特徴とするインクジェット印刷装置。」

第3 当審における拒絶理由の概要
当審において通知された令和1年6月24日付け拒絶理由は,平成30年9月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は,本願の出願前に頒布された以下の引用文献1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないという理由を含むものである。

引用文献1:特開2008-100493号公報
引用文献2:特開2009-12289号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明について
1 引用文献1について
(1) 引用文献1の記載事項
引用文献1には,以下の記載がある(なお,下線は認定に用いた箇所を強調するために付した。以下,同様。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,インクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける印刷方法に関し,さらに詳細には,印刷対象物たる記録紙などの媒体上に,インクジェット方式により紫外線を照射すると硬化するインク(本明細書においては,「紫外線を照射すると硬化するインク」を単に「紫外線硬化インク」と適宜に称する。)を吐出して印刷を行うインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタにおける印刷方法に関する。」

イ 「【0007】
しかしながら,紫外線硬化インクを用いた従来のインクジェットプリンタにおいては,印刷対象物たる媒体に紫外線硬化インクを吐出した直後に,紫外線照射ランプにより当該紫外線硬化インクを硬化するのに十分な強度を有する紫外線を照射するようにしていたため,媒体上に吐出された紫外線硬化インクが均一に広がる前に硬化してしまい,印刷面に紫外線硬化インクの凹凸が残ったままの状態で当該紫外線硬化インクが硬化するようになって,筋が現れたり粒子感があるなどの状態(本明細書においては,「印刷面に筋が現れたり粒子感があるなどの状態」を「マット」と適宜に称する。)で印刷面が仕上がってしまい,印刷面が滑らかな状態(本明細書においては,「印刷面が滑らかな状態」を「グロス」と適宜に称する。)に仕上がらないという問題点があった。」

ウ 「【0025】
このインクジェットプリンタ10は,所謂,ペーパームーブタイプのインクジェットプリンタであり,基台部材12に支持され主走査方向に延長して配置された固定系のベース部材14と,ベース部材14の左右両端でベース部材14に直交して配設された側方部材16L,16Rと,側方部材16R側に配設された側方ユニット18と,左右2つの側方部材16L,16Rを連結する中央壁20と,中央壁20の壁面に主走査方向に延長して配設されたガイドレール22と,中央壁20の壁面に平行して主走査方向に移動自在に配設されたワイヤー24と,ワイヤー24に固定的に配設されるとともにガイドレール22に摺動自在に装着されたホルダー26と,ベース部材14上の記録紙28と対向するようにしてホルダー26に配設されるとともに媒体たる記録紙28上に紫外線硬化インクを吐出するインクヘッド30とを有して構成されている。
【0026】
即ち,このインクジェットプリンタ10においては,インクヘッド30から吐出される紫外線硬化インクにより印刷される媒体として記録紙28を用いるものとする。この記録紙28は,給紙装置(図示せず)によってベース部材14上に供給され,幅方向たる主走査方向において所定の長さを有するとともに,主走査方向と直交する方向即ち,記録紙の方向の長手方向に搬送されるようになされている。なお,主走査方向と直交する方向(即ち,記録紙の搬送方向かつ記録紙28の長手方向)を,以下,「副走査方向」と称する。
【0027】
そして,インクジェットプリンタ10に配設されたインクヘッド30の近傍,具体的には,インクヘッド30の主走査方向における両側面には,記録紙28の印刷面に対して紫外線を照射可能な第1の紫外線照射手段として紫外線発光ダイオード(LED)30a,30bが搭載されている。この紫外線発光ダイオード30a,30bの紫外線は,熱エネルギーをもたない。
【0028】
また,このインクジェットプリンタ10においては,副走査方向(図2を参照する。)における記録紙28の搬送方向に沿って,印刷を終了した記録紙28が搬出される搬出口34が設けられている。
【0029】
こうした搬出口34上部には,主走査方向において搬出口34と同程度の幅を有し,搬出口34から搬出された記録紙28の印刷面に対して紫外線を照射可能な第2の紫外線照射手段として紫外線照射ランプ36が配設されている。即ち,紫外線照射ランプ36は,紫外線発光ダイオード30a,30bに対して,記録紙28の搬送方向における下流側に配置されている。
【0030】
ここで,紫外線発光ダイオード30a,30bの紫外線照射強度は低く,紫外線照射ランプ36の紫外線照射強度は高い。
【0031】
また,波長に関しては,例えば,発光ダイオード30a,30bは紫外光の波長が360乃至420nmの範囲にピークを有し,紫外線強度が1乃至2W/cm^(2)のものを用いることができ,紫外線照射ランプ36としては,複数の波長を有するが,本実施例においては,240乃至280nmと360nm乃至420nmであるものを用いることができる。
【0032】
なお,こうした紫外線波長が240乃至280nmおよび360nm乃至420nmの範囲にピークを有する紫外線の一例としては,100W/cmのメタルハライドランプなどがあげられる。
【0033】
なお,この紫外光照射ランプ36は,搬出口34の一方の端部と紫外光照射ランプ36の一方の端部とを連結する支持部34aおよび搬出口34の他方の端部と紫外光照射ランプ36の他方の端部とを連結する支持部34bを介して,ベース部材14に対して固定的に配置されている。
【0034】
さらに,搬出口34下部には,搬出口34より搬出された後の記録紙28の搬送経路となるガイド38が配設されている。」

エ 「【0040】
まず,双方向印刷を行う場合には,はじめに,2つの紫外線発光ダイオード30a,30bおよび紫外線照射ランプ36をいずれも点灯させた状態にしておく。
【0041】
そして,印刷が開始されると,インクヘッド30は,側方部16R側端部に設置されているインクヘッド30の待機位置(図示せず。)より主走査方向の行き方向へ移動するとともに,吐出口より紫外線硬化インクの吐出を開始し,記録紙28上に印刷を行う。
【0042】
このとき,紫外線発光ダイオード30aは点灯状態であるため,記録紙28上に吐出された紫外線硬化インクに対して紫外線発光ダイオード30aから紫外線が照射される。
【0043】
そして,インクヘッド30が側方部16L側の端部まで到達すると,主走査方向の帰り方向への移動を開始し,往路で行われた動作と同様に,インクヘッド30より記録紙28上に紫外線硬化インクが吐出され,当該紫外線硬化インクに対して紫外線発光ダイオード30bより紫外線が照射されることになる。
【0044】
上記した往路および復路における一連の動作が,双方向印刷における紫外線照射の第1段階の処理となる。
【0045】
こうした双方向印刷が進むにつれて,記録紙28は当該記録紙28の搬送方向(図2を参照する。)へ徐々に搬送されて行く。そして,印刷が終了して搬出口34より搬出された記録紙28は,搬出口34上部に設置された紫外線照射ランプ36の下部を通過する際に,紫外線を照射されながらガイド38上を搬送されていくものである。
【0046】
上記した紫外線照射ランプ36による紫外線の照射が,双方向印刷における紫外線照射の第2段階の処理となる。」

オ 「【0056】
ここで,インクヘッド30の両側面に配置された紫外線発光ダイオード30a,30bは,紫外線照射ランプ36が有する紫外線照射強度よりも小さな紫外線照射強度の紫外線を照射するため,記録紙28上に吐出された紫外線硬化インクは,紫外線照射の第1段階の処理では,増粘するのみで,全体が完全に硬化されることはない。即ち,紫外線照射の第1段階の処理においては,記録紙28上に吐出された紫外線硬化インクは,増粘の状態で多少の流動性を残したまま搬送されることになる(図4(a)(b)を参照する。)。
【0057】
より詳細には,図4(b)に示した増粘の状態のインクの内部は,図4(c)に図示したような状態であり,インクの内層と外層とでは状態が異なるものである。
【0058】
さらに詳細に説明すると,吐出された紫外線硬化インクは,発光ダイオード30a,30bにより紫外線照射されることにより,波長360乃至420nmの紫外線に反応する光重合開始剤によりインクの内側から徐々に硬化していく。そして,紫外線硬化インクの内層のみが外層よりも先に記録紙28と固着するものである。即ち,光重合開始剤によりインク成分の重合が内層より始まるが,外層は完全に固化しておらず,増粘の状態のままである。こうした増粘状態のままの外層は流動性を残しているため,外層の表面は徐々に均一に広がり,平らになるものである。
【0059】
そして,記録紙28上の増粘の状態で流動性を残したままの紫外線硬化インクは,紫外線照射の第2段階の処理により紫外線照射ランプ36の下部を通過することにより,紫外線照射ランプ36からは紫外線発光ダイオード30a,30bよりも大きな強度で,波長が240乃至280nmおよび360乃至420nmである紫外線が照射されるため,記録紙28上の増粘状態の紫外線硬化インクは,ここで完全に硬化されることとなる(図4(d)(e)を参照する。)。
【0060】
従って,紫外線発光ダイオード30a,30bと紫外線照射ランプ36という紫外線照射強度の異なる2種類の紫外線照射手段を用いて2段階の紫外線照射処理を行うことにより,記録紙28は滑らかなグロス状の印刷面を有するものになる。
【0061】
なお,紫外線照射の第1段階の処理において,紫外線硬化インクが増粘されることになるので,紫外線硬化インクのにじみが防止され,ムラの無い印刷を提供することもできるようになる。
【0062】
ただし,紫外線発光ダイオード30a,30bの周波数域にて内部を半硬化させ,その後,紫外線ランプ36にて外部を完全硬化させると同時に紫外線ランプの360乃至420nmにて内部を完全硬化させることも可能である。」

カ 上記エで摘記した段落【0031】及び【0032】の記載から,紫外線照射ランプ36として,240乃至280nmおよび360乃至420nmの範囲にピークを有するものを用いることができるものと認められる。

(2) 引用発明1について
上記(1)のアないしカの事項から,引用文献1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「基台部材12に支持され主走査方向に延長して配置された固定系のベース部材14と,主走査方向に延長して配設されたガイドレール22と,ガイドレール22に摺動自在に装着されたホルダー26と,ベース部材14上の記録紙28と対向するようにホルダー26に配設されるとともに記録紙28上に紫外線硬化インクを吐出するインクヘッド30とを有して構成されるペーパームーブタイプのインクジェットプリンタ10であって,
インクヘッド30の主走査方向における両側面には,記録紙28の印刷面に対して紫外線を照射可能な第1の紫外線照射手段としての紫外線発光ダイオード30a,30bが搭載され,
第2の紫外線照射手段としての紫外線照射ランプ36が,紫外線発光ダイオード30a,30bに対して,記録紙28の搬送方向における下流側に配置され,
発光ダイオード30a,30bは紫外光の波長が360乃至420nmの範囲にピークを有するものを用いることができ,紫外線照射ランプ36としては,240乃至280nmおよび360乃至420nmの範囲にピークを有するものを用いることができ,
印刷が開始されると,インクヘッド30は,側方部16R側端部に設置されているインクヘッド30の待機位置より主走査方向の行き方向へ移動するとともに,吐出口より紫外線硬化インクの吐出を開始し,記録紙28上に印刷を行い,
このとき,記録紙28上に吐出された紫外線硬化インクに対して紫外線発光ダイオード30aから紫外線が照射され,
そして,インクヘッド30が側方部16L側の端部まで到達すると,主走査方向の帰り方向への移動を開始し,往路で行われた動作と同様に,インクヘッド30より記録紙28上に紫外線硬化インクが吐出され,当該紫外線硬化インクに対して紫外線発光ダイオード30bより紫外線が照射されることになり,
吐出された紫外線硬化インクは,発光ダイオード30a,30bにより紫外線照射されることにより,波長360乃至420nmの紫外線に反応する光重合開始剤によりインクの内側から徐々に硬化していき,紫外線硬化インクの内層のみが外層よりも先に記録紙28と固着するものであり,光重合開始剤によりインク成分の重合が内層より始まるが,外層は完全に固化しておらず,増粘の状態のままであり,
記録紙28上に吐出された紫外線硬化インクは,増粘の状態で多少の流動性を残したまま搬送されることになり,
記録紙28上の増粘の状態で流動性を残したままの紫外線硬化インクは,紫外線照射ランプ36の下部を通過することにより,紫外線照射ランプ36からは紫外線発光ダイオード30a,30bよりも大きな強度で,波長が240乃至280nmおよび360乃至420nmである紫外線が照射されるため,記録紙28上の増粘状態の紫外線硬化インクは,ここで完全に硬化されることとなる,
インクジェットプリンタ10。」

2 引用文献2について
(1) 引用文献2の記載事項
引用文献2には,以下の記載がある。
ア 「【0013】
このインクジェットプリンタ100は,平面部を有するとともに,同平面部の両端部がインクジェットプリンタ100の前後方向に向かってそれぞれ湾曲したプラテン101を備えている。プラテン101は,前記平面部上に記録メディアWKを載置する載置台であり,図示左右方向に延びて形成されている。プラテン101の中央部には,図示左右方向に沿って円筒状のグリッドローラ102がその上面部を露出させた状態で設けられている。このグリッドローラ102は,後述するコントローラ120によって作動が制御されるX軸方向フィードモータ121によって回転駆動される。
【0014】
プラテン101の上方には,プラテン101と平行な状態で長尺状のガイドレール103が設けられている。ガイドレール103の下部には,グリッドローラ102に対向した状態で円筒部を有する2つのピンチローラ104a,104bがガイドレール103に沿って変位可能な状態でそれぞれ設けられている。これらのグリッドローラ102およびピンチローラ104a,104bは,シート状の記録メディアWKを図示上下方向から挟持しながら図示前後方向に搬送する。すなわち,これらのグリッドローラ102およびピンチローラ104a,104bは,本発明に係る記録メディア搬送手段に相当する。ここで,記録メディアWKを搬送する図示前後方向をX軸方向,同X軸方向に直交する図示左右方向をY軸方向とする。」

イ 「【0016】
記録ヘッドユニット107は,記録ヘッド108と第1紫外線照射装置109とから構成されている。これらのうち記録ヘッド108は,互い異なる4つの色の紫外線硬化型インクを貯留した図示しないインクタンクから各紫外線硬化型インクをそれぞれ導入して,同各紫外線硬化型インクの液滴を記録メディアWKに向けて出射する。第1紫外線照射装置109は,垂直方向に延びる箱型に形成されており,その内部に紫外線硬化型インクを硬化させる波長の紫外線を発光する光源(図示せず)を備えている。第1紫外線照射装置109は,直下のプラテン101に紫外線を照射する向きで記録ヘッド108の両側にそれぞれ配置されており,プラテン101上に位置する記録メディアWK上に前記紫外線を照射(図2において破線で示す)して同記録メディアWKの表面に付着した紫外線硬化型インクの硬化を促進させる。すなわち,この第1紫外線照射装置109は,本発明に係る第1硬化促進手段に相当する。
【0017】
記録ヘッドユニット107の背面上部には,図示Y軸方向に沿って架設された駆動ベルト110の一部が固定されている。駆動ベルト110は,コントローラ120によって作動が制御されるY軸方向スキャンモータ122の回転駆動によって図示Y軸方向に変位する。すなわち,記録ヘッドユニット107は,駆動ベルト110を介してY軸方向スキャンモータ122により直動レール105上を図示Y軸方向に変位する。なお,本実施形態においては,記録ヘッドユニット107の図示Y軸方向における変位可能な範囲は1400mmである。
【0018】
インクジェットプリンタ100の前側には,プラテン101の前側の湾曲部と対向した状態で第2紫外線照射装置111が設けられている。第2紫外線照射装置111は,水平方向に延びる箱型に形成されており,その内部に前記第1紫外線照射装置109に内蔵されている光源と同様な紫外線,すなわち,紫外線硬化型インクを硬化させる波長の紫外線を発光する光源(図示せず)を備えている。この第2紫外線照射装置111は,プラテン101の前側の湾曲部に紫外線を照射する向きで支持ガイド112によって支持されており,コントローラ120による制御により同湾曲部上に位置する記録メディアWK上に紫外線を照射(図2において破線で示す)して同記録メディアWKの表面に付着した紫外線硬化型インクの硬化を促進させる。この場合,第2紫外線照射装置111から照射される紫外線の照射範囲は,図示X軸方向に約100mm,図示Y軸方向に約50mmの略方形状である。すなわち,この第2紫外線照射装置111は,本発明に係る第2硬化促進手段に相当する。」

ウ 「【図2】



エ 上記アで摘記した段落【0013】の記載,及びウの【図2】から,記録ヘッドユニット107は,プラテン101の平面部の上方に位置し,第1紫外線照射装置109は,プラテン101の平面部上に位置する記録メディアWK上に前記紫外線を照射するものと認められる。

オ 上記イで摘記した段落【0018】の記載,及びウの【図2】から,第2紫外線照射装置111は,プラテン101の前側の湾曲部上に位置する記録メディアWK上に紫外線を,斜め下方に照射するものと認められる。

(2) 引用発明2について
上記(1)アないしオの事項から,引用文献2には,以下の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「平面部を有するとともに,同平面部の両端部がインクジェットプリンタ100の前後方向に向かってそれぞれ湾曲したプラテン101を備え,プラテン101は,前記平面部上に記録メディアWKを載置し,
記録ヘッドユニット107が,記録ヘッド108と第1紫外線照射装置109とから構成され,プラテン101の平面部の上方に位置し,
記録ヘッド108は,紫外線硬化型インクの液滴を記録メディアWKに向けて出射し,
第1紫外線照射装置109は,直下のプラテン101に紫外線を照射する向きで記録ヘッド108の両側にそれぞれ配置されており,プラテン101の平面部上に位置する記録メディアWK上に前記紫外線を照射して同記録メディアWKの表面に付着した紫外線硬化型インクの硬化を促進させるインクジェットプリンタ100であって,
インクジェットプリンタ100の前側には,プラテン101の前側の湾曲部と対向した状態で第2紫外線照射装置111が設けられ,
この第2紫外線照射装置111は,プラテン101の前側の湾曲部に紫外線を照射する向きで支持ガイド112によって支持されており,コントローラ120による制御により同湾曲部上に位置する記録メディアWK上に紫外線を,斜め下方に照射して同記録メディアWKの表面に付着した紫外線硬化型インクの硬化を促進させるインクジェットプリンタ100。」

第4 対比
(1) 本願発明の「第1照射手段は」「第2照射手段よりも長波長の光を」「照射」するという発明特定事項(以下,「第1発明特定事項」という。)については,多義的に解釈できるが,請求人の主張や本願明細書の記載を参酌すると,以下のとおりである。

ア 本件明細書において,本願発明の「上記第1照射手段は,385nmの波長の光を照射し,上記第2照射手段は,365nmの波長の光を照射し」という発明特定事項に関して,請求人は,「当該波長に関する記載は,その他の波長の光を全く含まないことを前提とするものではなく,光源が発する光のピーク波長を示すものです。」と主張しているところ,当該主張は,単一の波長のみを発する光源が,現実には存在しないという技術常識とも整合することから,妥当なものと認められる。そうすると,前記発明特定事項と同様の表現が用いられている本願発明の第1発明特定事項については,第1照射手段が,第2照射手段が発する光のピーク波長よりも長波長のピーク波長を有する光を発することを意味していると解するのが自然である。

イ ここで,光源には,単一のピーク波長を有する光を発する光源と,複数のピーク波長を有する光を発する光源とが存在するところ,本願発明には,ピーク波長の数を特定する発明特定事項が存在しないことから,本願発明の第1照射手段や第2照射手段には,複数のピーク波長を有する光を発する光源が包含されることは明らかである。しかし,光源についてのこのような解釈を前提とすると,第2照射手段が複数のピーク波長を有する光を発する光源である場合に,第1発明特定事項が,「第1照射手段が発する光のピーク波長が第2照射手段が発する光の全てのピーク波長よりも長波長である」ことを指すのか,それとも,「第1照射手段が発する光のピーク波長が,第2照射手段が発する光のピーク波長のうちの少なくとも一つよりも長波長である」こと(言い換えると,第2照射手段が発する光のピーク波長のうちの少なくとも一つは,第1照射手段が発する光のピーク波長よりも短波長であること)を指すのかが,明らかでない。

ウ そこで,本願発明最初の記載を参酌すると,段落【0023】には,第1照射手段について,「長波長の紫外線を照射可能なものであれば様々な
光源を採用できるが,LED光源であることが好ましい。」と記載され,段落【0025】には,第2照射手段について,「短波長の紫外線を照射可能なものであれば様々な光源を採用できるが,メタルハライドランプまたはUVランプ等のLED光源以外の光源であることが好ましい。」と記載されている。ここで,LED光源が,非常に狭い波長領域の光であって,単一のピーク波長を有する光を発する光源であり,メタルハライドランプが,紫外線領域から可視光領域にわたる非常に広い波長領域に,多数のピーク波長を有する光を発する光源であることは,当業者における技術常識である(例えば,特開2011-68121号公報の段落【0044】,【0055】,【図5】及び【図6】を参照のこと。なお,当該文献において,【図5】と【図6】の示す図面が入れ替わっていることは,当該文献の記載から明らかである。)。そうすると,LED光源が発する光のピーク波長である385nmが,メタルハライドランプが発する光の全てのピーク波長(その一つは365nmである。)より長波長になることは,技術常識からはおよそあり得ない。

エ 以上によれば,第1発明特定事項は,第1照射手段が単一のピーク波長を有する光を発する光源であり,第2照射手段が複数のピーク波長を有する光を発する光源である場合には,第1照射手段が発する光のピーク波長が,第2照射手段が発する光のピーク波長のうちの少なくとも一つよりも長波長であることを指していると解するのが相当である。
以下,当該解釈を前提として,本願発明と引用発明1とを対比する。

(2) 本願発明と,引用発明1とを対比すると,以下のことがいえる。

ア 引用発明1の「記録紙28」は,本願発明の「記録媒体」に相当する。

イ 引用発明1においては,記録紙28上に紫外線硬化インクを吐出するインクヘッド30は,ベース部材14上の記録紙28と対向するようにホルダー26に配設されることから,ベース部材14上の記録紙28は,インクヘッド30に対向している。
したがって,本願発明の「プラテン」と,引用発明1の「ベース部材14」とは,「上に」「記録媒体」が「載置され」る「プラテン」である点で共通する。

ウ 引用発明1の「紫外線硬化インク」は,「紫外線」の照射を受けることで硬化するインクであり,本願明細書の段落[0020]の「例えば,当該光を紫外線として」等の記載に照らせば,本願発明の「光」が「紫外線」を含むことは明らかであるから,引用発明1の「紫外線硬化インク」は,本願発明の「光の照射を受けることで硬化するインク」に相当する。

エ 上記アないしウで検討したことを踏まえると,引用発明1の「ベース部材14上の記録紙28と対向するようにホルダー26に配設されるとともに記録紙28上に紫外線硬化インクを吐出するインクヘッド30」は,本願発明の「プラテン上に載置された記録媒体に対して,光の照射を受けることで硬化するインクを吐出するヘッド」に相当する。

オ 引用発明1においては, 側方部16R側端部に設置されているインクヘッド30の待機位置より主走査方向の行き方向へ移動するとともに,吐出口より紫外線硬化インクの吐出を開始し,記録紙28上に印刷を行い,このとき,記録紙28上に吐出された紫外線硬化インクに対して紫外線発光ダイオード30aから紫外線が照射され,インクヘッド30が側方部16L側の端部まで到達すると,主走査方向の帰り方向への移動を開始し,往路で行われた動作と同様に,インクヘッド30より記録紙28上に紫外線硬化インクが吐出され,当該紫外線硬化インクに対して紫外線発光ダイオード30bより紫外線が照射されることから,引用発明1の「紫外線発光ダイオード30a,30b」は,記録紙28上の紫外線硬化インクに対して紫外線を照射していることは明らかである。
したがって,引用発明1の「記録紙28の印刷面に対して紫外線を照射可能な第1の紫外線照射手段としての紫外線発光ダイオード30a,30b」は,本願発明の「上記記録媒体上の上記インクに光を照射する第1照射手段」に相当する。

カ 引用発明1は,「ペーパームーブタイプ」のインクジェットプリンタ10であるから,引用発明1が,本願発明の「上記記録媒体を,上記第1照射手段と対向する位置から搬送する搬送手段」に相当する手段を備えることは自明である。

キ 引用発明1の「紫外線照射ランプ36」は,紫外線発光ダイオード30a,30bに対して,記録紙28の搬送方向における下流側に配置され,記録紙28上の増粘の状態で流動性を残したままの紫外線硬化インクに紫外線を照射する。
したがって,引用発明1の「第2の紫外線照射手段としての紫外線照射ランプ36が,紫外線発光ダイオード30a,30bに対して,記録紙28の搬送方向における下流側に配置され」ることは,本願発明の「上記搬送手段による上記記録媒体の搬送方向の上記第1照射手段の下流側に位置し,上記記録媒体上の上記インクに光を照射する第2照射手段」を備え,「上記第1照射手段と,上記第2照射手段とは,上記搬送方向に離隔して設けられ」ることに相当する。

ク 引用発明1の「発光ダイオード30a,30b」は,紫外光の波長が360乃至420nmの範囲にピークを有し,「紫外線照射ランプ36」としては,240乃至280nmと360乃至420nmの範囲にピークを有するものを用いることができることから,引用発明1において,「発光ダイオード30a,30b」の,波長が360乃至420nmの範囲にあるピークの波長と,「紫外線照射ランプ36」の,波長が240乃至280nmの範囲にあるピークの波長とを比較すると,「発光ダイオード30a,30b」のピークの波長の方が,長波長側にある。
したがって,上記(1)の検討を踏まえると,本願発明の「第1照射手段」と,引用発明の「紫外線発光ダイオード30a,30b」は,「上記記録媒体上に吐出された上記インクに対して上記第2照射手段よりも長波長の光を,上記インクが上記記録媒体に対して」「照射」する点で共通する。

ケ 引用発明1においては,吐出され,発光ダイオード30a,30bにより紫外線照射された紫外線硬化インクは,波長360乃至420nmの紫外線に反応する光重合開始剤によりインクの内側から徐々に硬化していき,紫外線硬化インクの内層のみが外層よりも先に記録紙28と固着する。
そして,引用発明1において,紫外線硬化インクの内層のみが外層よりも先に記録紙28と固着すれば,紫外線硬化インクは,記録紙28に十分に接着された状態になるものといえる。
したがって,本願発明の「第1照射手段」と,引用発明の「紫外線発光ダイオード30a,30b」は,「上記記録媒体に吐出された上記インクに対して」「光を,上記インクが上記記録媒体に対して十分に接着する程度に照射」する点でも共通する。

コ 引用発明1においては,インクヘッド30は,主走査方向の行き方向へ移動するとともに,吐出口より紫外線硬化インクの吐出を開始し,記録紙28上に印刷を行い,このとき,記録紙28上に吐出された紫外線硬化インクに対して紫外線発光ダイオード30aから紫外線が照射され,その後,インクヘッド30が主走査方向の帰り方向への移動を開始し,往路で行われた動作と同様に,インクヘッド30より記録紙28上に紫外線硬化インクが吐出され,当該紫外線硬化インクに対して紫外線発光ダイオード30bより紫外線が照射され,上記エで検討したとおり,引用発明1の「インクヘッド30」は,ベース部材14上の記録紙28と対向するようにホルダー26に配設されるとともに媒体たる記録紙28上に紫外線硬化インクを吐出することから,本願発明1の「プラテン」と,「上に」「記録媒体」が「載置され」る点で共通する,引用文献1の「ベース部材14」は,本願発明1の「プリントプラテン」に相当する部分を備えるものといえる。
また,引用発明1においては,吐出された紫外線硬化インクは,発光ダイオード30a,30bにより紫外線照射されることにより,波長360乃至420nmの紫外線に反応する光重合開始剤によりインクの内側から徐々に硬化していき,紫外線硬化インクの内層のみが外層よりも先に記録紙28と固着するものであり,光重合開始剤によりインク成分の重合が内層より始まるが,外層は完全に固化しておらず,増粘の状態のままである。
したがって,本願発明と引用発明1とは,「プリントプラテンにおいて,上記ヘッドは上記インクを吐出し,上記第1照射手段は上記光を照射し,上記記録媒体上の前記インクの内部硬化を進行させると共に,上記インクを所望の硬度まで硬化させない仮硬化を行」う点で共通する。

サ 引用発明1においては,記録紙28上の増粘の状態で流動性を残したままの紫外線硬化インクは,紫外線照射ランプ36の下部を通過することにより,紫外線照射ランプ36からは紫外線発光ダイオード30a,30bよりも大きな強度で,波長が240乃至280nmおよび360乃至420nmである紫外線が照射されるため,記録紙28上の増粘状態の紫外線硬化インクは,ここで完全に硬化されることとなる。
したがって,本願発明と引用発明1とは,「上記第2照射手段は上記光を照射して,上記記録媒体上の上記インクを上記所望の硬度まで硬化させる本硬化を行」う点で共通する。

シ 引用発明1の「インクジェットプリンタ10」は,本願発明の「インクジェット印刷装置」に相当する。

ス 上記アないしシから,本願発明と引用発明1とは,以下の点で一致する。

[一致点]
「プラテン上に載置された記録媒体に対して,光の照射を受けることで硬化するインクを吐出するヘッドと,
上記記録媒体上の上記インクに光を照射する第1照射手段と,
上記記録媒体を,上記第1照射手段と対向する位置から搬送する搬送手段と,
上記搬送手段による上記記録媒体の搬送方向の上記第1照射手段の下流側に位置し,上記記録媒体上の上記インクに光を照射する第2照射手段とを備え,
上記第1照射手段は,上記記録媒体上に吐出された上記インクに対して上記第2照射手段よりも長波長の光を,上記インクが上記記録媒体に対して十分に接着する程度に照射し,
上記プラテンは,プリントプラテンを備え,
上記プリントプラテンにおいて,上記ヘッドは上記インクを吐出し,上記第1照射手段は上記光を照射して,上記記録媒体上の前記インクの内部硬化を進行させると共に,上記インクを所望の硬度まで硬化させない仮硬化を行い,
上記第2照射手段は上記光を照射して,上記記録媒体上の上記インクを上記所望の硬度まで硬化させる本硬化を行い,
上記第1照射手段と,上記第2照射手段とは,上記搬送方向に離隔して設けられる,
インクジェット印刷装置。」

セ そして,本願発明と引用発明1とは,以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明の「搬送手段」は,「駆動ローラ,及び,上記駆動ローラによる上記記録媒体の搬送を補助するための従動ローラを備え,上記駆動ローラが駆動することにより,従動ローラが従動回転して,記録媒体を搬送するものであ」るのに対して,引用発明1の「搬送手段」に相当する手段は,具体的な構成が特定されていない点。

[相違点2]
本願発明の「プラテン」は,「プリントプラテンと,上記記録媒体の搬送方向において上記プリントプラテンの下流側に位置するアフタープラテンとを備え」るのに対して,引用発明1の「ベース部材14」は,上記ケで検討したとおり,本願発明の「プリントプラテン」に相当する部分は備えるものの,「アフタープラテン」を備えることは特定されていない点。

[相違点3]
本願発明の「第2照射手段」は,「アフタープラテンにおける斜め上方に膨出した曲面に載置された上記記録媒体に対向して配置され」,「上記アフタープラテンにおいて,」「上記光を照射」するのに対して,引用発明1においては,「ベース部材14」が,「アフタープラテン」を備えることが特定されていないため,「アフタープラテン」と「第2照射手段」との配置関係も,特定されていない点。

[相違点4]
本願発明の「第2照射手段」は,「斜め下方に向けて上記光を照射する」のに対して,引用発明1の「紫外線照射ランプ36」は,どのような向きに紫外線を照射するのか,特定されていない点。

[相違点5]
本願発明の「第1照射手段」は,385nmがピーク波長である光を照射するのに対して,引用発明1の「紫外線発光ダイオード30a,30b」は,紫外光の波長が360乃至420nmの範囲にピークを有するものではあるが,そのピークが,385nmにあるとは特定されていない点。

[相違点6]
本願発明の「第2照射手段」は,365nmがピーク波長である光を照射するのに対して,引用発明1の「紫外線照射ランプ36と」は,360乃至420nmの範囲にピークを有するものではあるが,そのピークが,365nmにあるとは特定されていない点。

第5 相違点に対する判断
(1) 相違点1について
ア インクジェット印刷装置の記録媒体を搬送する搬送手段の構成として,「駆動ローラ,及び,上記駆動ローラによる上記記録媒体の搬送を補助するための従動ローラを備え,上記駆動ローラが駆動することにより,従動ローラが従動回転して,記録媒体を搬送するもの」は,例えば,引用文献2の段落【0014】に記載されるように,本願出願前の周知技術(以下,「周知技術1」という。)であると認められる。
インクジェット記録装置の技術分野において,記録媒体を搬送するための機構は,搬送する記録媒体に応じて,当業者が適宜設計すれば足りる事項であって,上記周知技術1を,引用発明1に適用し,本願発明の相違点1に係る発明特定事項をなすことは,当業者が適宜なし得ることである。

イ なお,請求人は本件意見書において,引用発明1の「インクジェットプリンタ10」は,ロールtoロール方式であるのに対して,上記周知技術は枚葉方式であるから,引用発明1に対して,上記周知技術1を適用しようとは思わない旨主張するので,検討する。
まず,引用文献1には,インクジェットプリンタ10が,記録紙28をロールtoロール方式で搬送する旨の記載はないから,引用発明1がロールtoロール方式のものである旨の請求人の主張には根拠がない。
また,仮に,引用発明1が,ロールtoロール方式のものであるとしても,そもそも,駆動ローラ,及び当該駆動ローラに従動する従動ローラを用いて記録媒体を搬送する上記周知技術1は,ロールtoロール方式のものにも用いられる技術であって(例えば,特開2013-240985号公報の段落【0022】,【0029】等の記載を参照。),引用発明1がロールtoロール方式であることが,上記周知技術1を採用することを阻害することはない。
よって,請求人の主張を採用することはできない。

(2) 相違点2ないし4について
ア 本願発明と引用発明2とを対比すると,以下のことがいえる。

(ア) 引用発明2においては,プラテン101の平面部の上方に記録ヘッドユニット107は位置し,記録ヘッドユニット107が,記録ヘッド108と第1紫外線照射装置109とから構成されるので,引用発明2の「プラテン101の平面部」は,本願発明の「プリントプラテン」に相当する。

(イ) 引用発明2の「インクジェットプリンタ100の前側」は,記録メディアWKの搬送方向であることは明らかであるから,上記(ア)で説示した事項を踏まえると,引用発明2の「プラテン101の前側の湾曲部」は,本願発明1の「上記記録媒体の搬送方向において上記プリントプラテンの下流側に位置するアフタープラテン」に相当する。
したがって,本願発明の「プラテン」と,引用発明2の「プラテン101」とは,「プリントプラテンと,上記記録媒体の搬送方向において上記プリントプラテンの下流側に位置するアフタープラテンとを備え」る点で共通する。

(ウ) 引用発明2の「第2紫外線照射装置111」は,インクジェットプリンタ100の前側に,プラテン101の前側の湾曲部と対向した状態で設けられるので,本願発明の「第2照射手段」と,引用発明2の「第2紫外線照射装置111」とは, 「上記アフタープラテンにおいて,」「光を照射」する点,及び「上記アフタープラテンにおける斜め上方に膨出した曲面に載置された上記記録媒体に対向して配置されている」点で共通する。

(エ) 引用発明2の「第2紫外線照射装置111」は,プラテン101の湾曲部上に位置する記録メディアWK上に紫外線を,斜め下方に照射するので,本願発明の「第2照射手段」と,引用発明2の「第2紫外線照射装置111」とは,「斜め下方に向けて前記光を照射する」点で共通する。

(オ) 上記(ア)ないし(エ)から,引用文献2には,本願発明の上記相違点2ないし4に係る発明特定事項が開示されているものと認められる。

イ 引用発明1及び2は,共に紫外線硬化インクを吐出するインクジェットプリンタである点で技術分野が共通し,ヘッドに設けた第1紫外線照射装置と,前記第1紫外線照射装置よりも搬送方向下流側に設けた第2紫外線照射装置により,インクを硬化させる点で作用・機能が共通するので,引用発明1に対して,引用発明2を適用し,本願発明の上記相違点2ないし4に係る発明特定事項をなすことは当業者にとって容易である。

ウ なお,請求人は本件意見書において,引用発明1に対して,引用発明2を組み合わせることについて,以下のとおり主張する。

「更に引用文献1は,印刷面の状態をグロス状等に制御することを目的としています。この目的のため,紫外線照射ランプ36をインクヘッド30から離隔すると共に,光軸を下方に向けて紫外線を照射しています。これにより,インクヘッド30から紫外線照射ランプ36まで搬送される際に,余分な紫外線が照射されることが防がれて,インクの硬化状態を厳密に制御して所望の印刷面の状態を得ることを目的としています。
それに対し,引用文献2では,第2紫外線照射装置111の光軸の方向が本体100側に向けられていることで,搬送中に余分な紫外線が照射される恐れが大きくなります。例え紫外線が直接照射されなかったとしても,紫外線硬化型インクを用いた印刷においては,「迷光」の問題が長年に亘る課題とされており,印刷面の状態を厳密に制御しようとする当業者が,余分な紫外線の照射される構成を選択する動機は存在しません。
このように,引用文献1と引用文献2との間には,上述の様な組み合せを阻害する決定的な要因が存在します。このため,2つの引用文献から本願発明を想到し得るとの審判官殿のご見解は,本願発明を参照したことによって初めて導かれたものであると考えます。」

請求人の主張について検討すると,引用文献1には,紫外線照射ランプ36の光軸が「下方」に向いていることが看取できる図4は存在するものの,当該光軸の方向が,「迷光」を制御するために設定されたものであることは,記載も示唆もされていない。
また,引用文献2では,第2紫外線照射装置111が,プラテン101の湾曲部上に位置する記録メディアWK上に紫外線を,「斜め下方」に照射しているところ,このような引用発明2の構成による紫外線照射と,引用文献1の図4に示された構成による紫外線照射とで,印刷位置から紫外線の照射位置までの記録媒体に到達する「迷光」の量に差があることは,引用文献1及び2のいずれにも記載も示唆もされておらず,かつ,そのようなことが当業者における技術常識であったことを示す証拠もない。
したがって,引用発明1では,インクの硬化状態を厳密に制御するために,紫外線照射ランプ36の光軸が「下方」に向けて設定されている旨の請求人の主張や,引用発明2の構成による紫外線照射における「迷光」の量が,引用発明1の構成による紫外線照射における「迷光」の量よりも多いことを前提として,引用発明1において引用発明2の構成を採用することに阻害要因がある旨の請求人の主張には,根拠がない。
よって,請求人の主張を採用することはできない。

(3) 相違点5及び6について
引用発明1において,「発光ダイオード30a,30b」と「紫外線照射ランプ36」が照射する紫外線の波長は,インクに含まれる光重合開始剤が感度を有する波長に合わせて,当業者が適宜設定すべき事項にすぎない。
したがって,引用発明1において,「発光ダイオード30a,30b」の360乃至420nmの範囲にあるピーク波長と,「紫外線照射ランプ36」の360乃至420nmの範囲にあるピーク波長を設定し,前者を385nm,後者を365nmとし,本願発明の相違点3に係る発明特定事項をなすことは,当業者が適宜なし得ることである。

(4) 効果について
上記相違点1ないし6によって本願発明が奏する効果は,引用文献1及び2の記載並びに周知技術に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明1及び2並びに上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本願は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-30 
結審通知日 2019-11-05 
審決日 2019-11-18 
出願番号 特願2014-84914(P2014-84914)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藏田 敦之長田 守夫島▲崎▼ 純一小宮山 文男  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 清水 康司
塚本 丈二
発明の名称 インクジェット印刷装置およびインクジェット印刷方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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