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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1358541
審判番号 不服2018-14802  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-07 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 特願2014-139057「超音波診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 1日出願公開、特開2016- 16022〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月4日の出願であって、平成30年1月16日付けの拒絶理由が通知され、同年3月23日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、さらに、同年4月6日付けの拒絶理由が通知され、同年6月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年7月19日付けで拒絶査定がなされたのに対し、同年11月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、その後、当審において令和元年6月21日付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」)が通知され、同年8月26日に意見書(以下「意見書」という。)提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明は、令和元年8月26日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
超音波を互いに直交するスキャン方向および揺動方向に向けてスキャンを行うように前記超音波の送受波を行う超音波プローブと、
撮影時の条件となるパラメータを基に、前記スキャン方向の走査線密度であるラスタ密度および前記揺動方向の走査線密度であるプレーン密度を求める演算部と、
前記演算部によって求めた前記各々の走査線密度が互いに所定の比率となるように設定され、設定された前記各々の走査線密度に基づくラスタ数とプレーン枚数とを用いて前記超音波の送受信を行う超音波送受信部と、
前記超音波送受信部が受信した前記超音波を基に医用画像を生成する医用画像生成部と、を備え、
前記演算部は、
前記ラスタ密度と前記プレーン密度とを算出する密度算出部と、
算出された前記ラスタ密度と前記プレーン密度との比率を確認する判断部と、
前記判断部による確認の結果が前記ラスタ密度と前記プレーン密度とが前記所定の比率である場合に、前記ラスタ密度と前記プレーン密度を用いて、ラスタ数及びプレーン枚数を算出し、前記ラスタ密度と前記プレーン密度とが前記所定の比率ではない場合には、前記パラメータを修正して前記密度算出部に改めて前記ラスタ密度と前記プレーン密度とを算出させる算出部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。」

第3 当審拒絶理由について
令和元年6月21日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
4.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由1(実施可能要件)について
・請求項1?10
請求項1に「撮影時の条件となるパラメータを基に、前記第1の方向および前記第2の方向の各々の走査線密度を求める演算部」及び「ラスタ密度とプレーン密度とを算出する密度算出部」と、すなわち「撮影時の条件となるパラメータを基に」「ラスタ密度とプレーン密度とを算出する」と記載されているが、発明の詳細な説明には、「撮影時の条件となるパラメータを基に」どのように「ラスタ密度とプレーン密度とを算出する」記載されていない。
発明の詳細な説明(下線は当審において付与した。以下同様。)には、
「【0003】
ボリュームスキャンを行うには、例えば、スキャン角度や揺動角度、或いは、ボリュームレートといったスキャン条件や、例えば、スキャン深さ、フォーカス、パルス繰り返し周波数(prf : pulse repetition frequency)送信周波数、或いは、音場設定といった送受信条件等、様々なパラメータを設定する必要がある。」
「【0034】
図3は、超音波診断装置1において、ラスタ数とプレーン枚数とを算出し医用画像を生成する流れを示すフローチャートである。なおここで使用する超音波プローブPは、メカニカル4Dプローブであることを前提とする。
【0035】
超音波診断装置1を利用する医療従事者は、被検体のスキャンを行う前にスキャンを行うためのスキャン条件や送受信条件等の各種条件(パラメータ)の入力を行い、超音波診断装置1は、入力されたこれらパラメータに関する情報の内容を把握する(ST1)。」
「【0038】
演算部10では、入力、確定されたパラメータを受信し、当該パラメータを基にスキャン方向の密度と揺動方向の密度を算出する(ST2)。このスキャン方向の密度がラスタ密度であり、揺動方向の密度がプレーン密度である。」と記載され、その図3として、以下の図面が記載されている。
【図3】

技術常識を考慮すると、ラスタ密度とは、何かを分母とするラスタ(走査線)の数、プレーン密度とは、何かを分母とするプレーン(断層画像)の数と理解されるが、それらは上記「様々なパラメータ」のうちどのパラメータを用い、それに対するどのような計算を行うかによって異なる値となることから、発明の詳細な説明を参照しても、「撮影時の条件となるパラメータを基に」「ラスタ密度とプレーン密度とを算出する」ことについて当業者が実施できるように明確に記載されているとはいえない。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1及びそれらを引用する請求項2?10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないことから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

●理由2(明確性)について
(略)
●理由3(サポート要件)について
(略)

●理由4(進歩性)について
・請求項1?10
・引用文献1:特開2006-204621号公報
・備考
「・・・。すなわち、本願発明では、ラスタ密度とプレーン密度の値に着目して、それらの比率、絶対値と基準値との比較、上限値及び下限値との比較を行っているが、それらの適切なラスタ密度とプレーン密度の値とするための変更は、結局は、撮影時の条件となるパラメータを修正することによって行われるものであるから、引用文献1の揺動方向の走査線密度と電子スキャン方向の走査線密度の等しさの程度を示す等方性が所望の等方性となるようにスキャン条件を設定することと同じ処理を行っているものといえる。
よって、本願請求項1?10に係る発明は、引用文献1に記載された発明、又は、引用文献1に記載された発明及び周知技術から当業者が容易になし得たものである。」

第4 当審の判断
1 理由1(実施可能要件)について
(1)請求人の主張
請求人は、上記第3で記載した理由1について、意見書で、
「ここで、本願の新請求項1に係る発明(以下、このような発明を適宜「本願発明」といいます。)においては、例えば、段落「0038」にも記載されています通り、様々なパラメータを用いて密度を求めています。そしてこれら各々のパラメータについては、パラメータごとに密度との相関関係があります。例えば、パラメータの1つとして送信周波数を例に挙げると、一般的に送信周波数が高帯域である場合、被検体に対する透過率は下がる一方、内部の浅い部分における分解能は上がります。そのためこのような場合における送信周波数と密度との関係からすれば、浅い部分におけるラスタ密度をたとえ疎としても画質を大きく損なうことはありません。そこで、本願発明では、このようなパラメータごとの密度との関係性を前提として、密度を求めることとしています。当該関係性については当業者にとって自明であり、その意味でここでの密度の算出について、本願発明における記載から当業者が実施できない、ということはないものと考えます。」と説明している。

(2)請求人の主張に対する判断
請求人が指摘している【0038】は、上記第3の理由1で摘記したとおりであり、様々なパラメータを用いて密度を求める方法について記載されておらず、パラメータを用いて具体的に密度を求めた例も記載されていない。
また、送信周波数が高帯域である場合についての説明をしているが、超音波の送信周波数が高周波の場合、被検体の深い部分には入って行かないが、内部の浅い部分の分解能は上がるという、超音波の送信周波数の一般的な事項を説明したにすぎず、「送信周波数」(パラメータ)から「スキャン方向の走査線密度であるラスタ密度」および「揺動方向の走査線密度であるプレーン密度」の具体的な値を求めておらず、上記請求人の説明によっては、上記第3で記載した理由1は解消されない。
なお、この点、当審から請求人に上記判断の方向を伝えた上で、さらなる説明の意思があるか尋ねたが、その意思はないとのことである(初回応対令和元年10月23日の応対記録参照。以下「応対記録」という。)

(3)小括
よって、発明の詳細な説明は、依然として、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないことから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 理由4(進歩性)について
(1)引用文献の記載及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
(1ア)「【請求項1】
電子スキャン方向と異なる方向に機械的に揺動させることが可能な超音波プローブを備えた超音波画像診断装置において、
前記超音波プローブを用いたメカニカルスキャンにより前記超音波プローブの揺動方向における走査線密度および前記電子スキャン方向における走査線密度間の等しさの程度を示す等方性が所望の等方性となるようにスキャン条件を設定するスキャン方式計算部と、
前記スキャン方式計算部により設定された前記スキャン条件から前記超音波プローブの制御信号を生成するハードウェア制御方式計算部と、
を備えたことを特徴とする超音波画像診断装置。
【請求項2】
前記スキャン方式計算部は、前記揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とが互いにより等しくなるように前記スキャン条件を設定するように構成されることを特徴とする請求項1記載の超音波画像診断装置。」

(1イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る超音波画像診断装置および超音波画像診断装置の制御プログラムの実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0014】
図1は本発明に係る超音波画像診断装置の実施の形態を示す構成図である。
【0015】
超音波画像診断装置1は、超音波プローブ2、メカプローブ制御回路3、送受信回路4、DSC(Digital Scan Converter)回路5、画像表示回路6、イメージメモリ7、シーケンサ(Sequencer)回路8、表示装置の一例としてのCRT(Cathode-Ray Tube)9、デバイスドライバ(Device Driver)10、コンピュータ11を備えている。
【0016】
コンピュータ11には、入力装置の一例としての操作パネル12、外部記憶装置13およびシステムメモリ14が接続される。また、コンピュータ11に制御プログラム等の各種プログラムが読み込まれることにより、コンピュータ11は、スキャン制御システム15、3次元画像構築部16およびGUI(Graphical User Interface)表示処理部17の他、臨床計測機能等の図示しない各種アプリケーション機能を備えたシステムとして機能する。
・・・
【0020】
送受信回路4は、コンピュータ11からデバイスドライバ10およびバス18を介して受信した制御信号に従って、メカプローブ制御回路3から受けた超音波プローブ2の位置情報を参照しつつ、所要の遅延時間を伴う送信パルスを超音波プローブ2に与えることにより、図示しない被検体に超音波を送信させる機能と、超音波プローブ2から受けた受信データに各種処理を施すことにより画像データを生成し、生成した画像データをDSC回路5に与える機能とを有する。尚、送信パルスの遅延時間等のスキャン条件設定により、超音波プローブ2による電子スキャン方向の走査線を決定することができる。スキャン条件は、コンピュータ11からデバイスドライバ10およびバス18を介して制御信号として送受信回路4に与えられる。」
・・・
【0027】
コンピュータ11のスキャン制御システム15は、デバイスドライバ10およびバス18を介してDSC回路5から画像データを取得して3次元画像構築部16に与える機能と、操作パネル12から受け取った指示に従って、所望の等方性を有する画像が得られるようなスキャン条件を計算し、得られたスキャン条件に合致する超音波プローブ2の制御信号を生成してメカプローブ制御回路3および送受信回路4に与える機能とを有する。すなわち、スキャン制御システム15は、超音波プローブ2を制御するメカプローブ制御回路3および送受信回路4に所要の制御信号を与えることにより画像の等方性を制御する機能を有する。
【0028】
また、スキャン制御システム15には、スキャン条件から定まる等方性情報をGUI表示処理部17に与える機能が備えられる。
【0029】
ここで、スキャン条件の計算方法および等方性の制御方法について説明する。そのために、まず座標系およびパラメータについて定義する。
【0030】
図2は、図1に示す超音波画像診断装置1において、超音波プローブ2による電子スキャンによって形成されるスキャン面と座標系の設定方法を説明する図である。
【0031】
図2に示すように、2次元的に最大画角αmaxの範囲内において電子スキャン方向Aに一定の速度でスキャン角α単位で変化させて電子スキャンを行うことにより一定のラスタピッチPrで離れた走査線を含む(当審注:「む」は「ん」の誤記である)でスキャン面Bが形成される。このとき被検体の深さ方向にY軸を、スキャン面Bに平行でY軸に垂直な方向にX軸をそれぞれ設定する。
【0032】
図3は、図1に示す超音波画像診断装置1において、超音波プローブ2を用いたメカニカルスキャンを行う場合のスキャン面を示す図である。
【0033】
超音波プローブ2には、メカ4Dプローブが用いられる。そして、図3に示すようにメカニカルスキャンによりXY平面上の電子スキャン方向Aに対して垂直な方向を揺動方向Cとして、一定の揺動ピッチPmで超音波プローブ2を揺動させることができる。換言すれば、揺動面上において、超音波プローブ2を2次元的に振角度β1単位で揺動させて揺動角度βだけ振ることができる。このため、電子スキャンにより形成される複数のスキャン面Bが、互いに一定の角度で隣接することとなる。このとき、超音波プローブ2の揺動方向CにZ軸を設定する。
【0034】
図3に示された幾何学的な関係から、超音波プローブ2にメカ4Dプローブを用いた場合には、超音波プローブ2の揺動面上におけるスキャン密度およびスキャン面上におけるスキャン密度は、揺動のための機械制御の精度、電子スキャンのラスタ密度並びにフレームレートに依存して変化することが分かる。
・・・
【0053】
また、必ずしも揺動ピッチと電子スキャン面におけるラスタピッチとがより等しくなるように、つまり揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とがより等しくなるように等方性を設定する必要はなく、故意に揺動ピッチと電子スキャン面におけるラスタピッチとが異なるように等方性を設定し、重視する一方側のスキャン密度を他方側のスキャン密度より向上させて、重視する側の走査線密度が他方側の走査線密度よりも大きくなるようにしてもよい。例えば、2Dスキャンを行う場合に、電子スキャン面におけるスキャン密度が向上されるように等方性を設定することができる。
【0054】
ハードウェア制御方式計算部25は、スキャン方式計算部22から受けたスキャン条件に従ってスキャンが実行されるように制御信号を生成し、デバイスドライバ10を介してメカプローブ制御回路3および送受信回路4に与える機能を有する。
【0055】
画像データ転送部26は、DSC回路5からバス18およびデバイスドライバ10を介して画像データを取得して3次元画像構築部16に与える機能を有する。
【0056】
3次元画像構築部16は、スキャン制御システム15の画像データ転送部26から受けた画像データを元データとして画像再構成処理を実行することにより、所望の3D画像データを再構成する機能と、得られた3D画像データをGUI表示処理部17に与える機能とを有する。また、必要に応じて得られた3D画像データを外部記憶装置13やシステムメモリ14に書き込んで保存し、あるいは外部記憶装置13やシステムメモリ14から所望の3D画像データを読み込んで取得できるように構成される。」

(1ウ)図2及び図3として、以下の図面が記載されている。
【図2】

【図3】



イ 引用発明について
(ア)記載事項の整理
上記摘記(1イ)の【0053】に「揺動ピッチと電子スキャン面におけるラスタピッチとがより等しくなるように、つまり揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とがより等しくなるように」と記載されているとおり、引用文献1においては、「揺動ピッチ(Pm)」と「揺動方向における走査線密度」、「ラスタピッチ(Pr)と「電子スキャン方向における走査線密度」は同じものであるから、以下の引用発明の認定においては、「揺動方向における走査線密度」、「電子スキャン方向における走査線密度」と記載することとする。

(イ)引用発明
上記アの摘記事項(特に下線参照)及び(ア)の記載事項の整理を踏まえれば、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「電子スキャン方向と異なる方向に機械的に揺動させることが可能な超音波プローブを備えた超音波画像診断装置において、前記超音波プローブを用いたメカニカルスキャンにより前記揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とが互いにより等しくなるように前記スキャン条件を設定するスキャン方式計算部と、前記スキャン方式計算部により設定された前記スキャン条件から前記超音波プローブの制御信号を生成するハードウェア制御方式計算部と、を備えた超音波画像診断装置であって、
前記超音波プローブは、2次元的に最大画角αmaxの範囲内において電子スキャン方向Aに一定の速度でスキャン角α単位で変化させて電子スキャンを行うことにより一定の電子スキャン方向における走査線密度で離れた走査線を含んでスキャン面Bが形成され、電子スキャン方向Aに対して垂直な方向を揺動方向Cとして、一定の揺動方向における走査線密度で超音波プローブを揺動させることができ、揺動面上において、超音波プローブを2次元的に振角度β1単位で揺動させて揺動角度βだけ振ることができ、電子スキャンにより形成される複数のスキャン面Bが、互いに一定の角度で隣接することとなり、
前記ハードウェア制御方式計算部は、スキャン方式計算部から受けたスキャン条件に従ってスキャンが実行されるように制御信号を生成し、デバイスドライバを介してメカプローブ制御回路および送受信回路に与え、
該送受信回路は、前記超音波プローブから受けた受信データに各種処理を施すことにより画像データを生成し、生成した画像データをDSC回路5に与え、DSC回路5から取得された画像データは3次元画像構築部に与えられる、
超音波画像診断装置。」

(2)対比
ア 本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。
(ア)超音波プローブについて
引用発明の「電子スキャン方向Aに一定の速度でスキャン角α単位で変化させて」「電子スキャン方向Aに対して垂直な方向を揺動方向Cとして」「電子スキャンを行う」「超音波プローブ」は、本願発明の「超音波を互いに直交するスキャン方向および揺動方向に向けてスキャンを行うように前記超音波の送受波を行う超音波プローブ」に相当する。

(イ)演算部について
a 引用発明の「電子スキャン方向における走査線密度」及び「揺動方向における走査線密度」は、本願発明の「スキャン方向の走査線密度であるラスタ密度」及び「揺動方向の走査線密度であるプレーン密度」に相当する。

b そして、引用発明の「前記揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とが互いにより等しくなるように前記スキャン条件を設定する」とは、揺動方向における走査線密度と電子スキャン方向における走査線密度を求め(算出し)、それらが互いにより等しくなるように、スキャン条件を設定することであるといえる。

c してみれば、引用発明の「前記揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とが互いにより等しくなるように前記スキャン条件を設定するスキャン方式計算部」と、本願発明の「撮影時の条件となるパラメータを基に、前記スキャン方向の走査線密度であるラスタ密度および前記揺動方向の走査線密度であるプレーン密度を求める演算部」であり、「前記演算部は、前記ラスタ密度と前記プレーン密度とを算出する密度算出部と、算出された前記ラスタ密度と前記プレーン密度との比率を確認する判断部と、前記判断部による確認の結果が前記ラスタ密度と前記プレーン密度とが前記所定の比率である場合に、前記ラスタ密度と前記プレーン密度を用いて、ラスタ数及びプレーン枚数を算出し、前記ラスタ密度と前記プレーン密度とが前記所定の比率ではない場合には、前記パラメータを修正して前記密度算出部に改めて前記ラスタ密度と前記プレーン密度とを算出させる算出部と、を備える」ものとは、「前記スキャン方向の走査線密度であるラスタ密度および前記揺動方向の走査線密度であるプレーン密度を求める演算部」であり、「前記ラスタ密度と前記プレーン密度とを算出する密度算出部と、を備える」ものであることで共通するといえる。

(ウ)超音波送受信部について
引用発明の「前記ハードウェア制御方式計算部」が「スキャン方式計算部から受けたスキャン条件に従ってスキャンが実行されるように」「生成し」た「制御信号を」「デバイスドライバを介して」「与え」られる「超音波」「送受信回路」において、「スキャン条件」は「前記超音波プローブを用いたメカニカルスキャンにより前記揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とが互いにより等しくなるように」「スキャン方式計算部」が「設定」したものであるから、引用発明の「前記ハードウェア制御方式計算部」が「スキャン方式計算部から受けたスキャン条件に従ってスキャンが実行されるように」「生成し」た「制御信号を」「デバイスドライバを介して」「与え」られる「超音波」「送受信回路」と、本願発明の「前記演算部によって求めた前記各々の走査線密度が互いに所定の比率となるように設定され、設定された前記各々の走査線密度に基づくラスタ数とプレーン枚数とを用いて前記超音波の送受信を行う超音波送受信部」とは、「前記演算部によって求めた前記各々の走査線密度が互いに所定の比率となるように設定され、設定された制御信号を用いて前記超音波の送受信を行う超音波送受信部」の点で共通する。

(エ)医用画像生成部について
引用発明の「該送受信回路」が「前記超音波プローブから受けた受信データに各種処理を施すことにより画像データを生成し、生成した画像データをDSC回路5に与え、DSC回路5から取得された画像データ」が「与えられる」「3次元画像構築部」は、本願発明の「前記超音波送受信部が受信した前記超音波を基に医用画像を生成する医用画像生成部」に相当する。

(オ)引用発明の「超音波画像診断装置」は、本願発明の「超音波診断装置」に相当する。

イ 一致点・相違点
上記アを踏まえれば、本願発明と引用発明とは、
(一致点)
「超音波を互いに直交するスキャン方向および揺動方向に向けてスキャンを行うように前記超音波の送受波を行う超音波プローブと、
前記スキャン方向の走査線密度であるラスタ密度および前記揺動方向の走査線密度であるプレーン密度を求める演算部と、
前記演算部によって求めた前記各々の走査線密度が互いに所定の比率となるように設定され、設定された制御信号を用いて前記超音波の送受信を行う超音波送受信部と、
前記超音波送受信部が受信した前記超音波を基に医用画像を生成する医用画像生成部と、を備え、
前記演算部は、
前記ラスタ密度と前記プレーン密度とを算出する密度算出部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
スキャン方向の走査線密度であるラスタ密度および揺動方向の走査線密度であるプレーン密度を求める際に、本願発明では「撮影時の条件となるパラメータを基に」求めるのに対し、引用発明では、揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とが互いにより等しくなるようにスキャン条件を設定するものの、それらが「撮影時の条件となるパラメータを基に」求めるものかどうか不明である点。

(相違点2)
超音波の送受信を行う制御信号が、本願発明では、「各々の走査線密度に基づくラスタ数とプレーン枚数」であるのに対し、引用発明では「2次元的に最大画角αmaxの範囲内において電子スキャン方向Aに一定の速度でスキャン角α単位で変化させて電子スキャンを行うことにより一定の電子スキャン方向における走査線密度で離れた走査線を含んでスキャン面Bが形成され、電子スキャン方向Aに対して垂直な方向を揺動方向Cとして、一定の揺動方向における走査線密度で超音波プローブを揺動させることができ、揺動面上において、超音波プローブを2次元的に振角度β1単位で揺動させて揺動角度βだけ振ることができ、電子スキャンにより形成される複数のスキャン面Bが、互いに一定の角度で隣接すること」と記載されているように、各々の走査線密度と角度である点。

(相違点3)
演算部が、本願発明では「算出された前記ラスタ密度と前記プレーン密度との比率を確認する判断部と、前記判断部による確認の結果が前記ラスタ密度と前記プレーン密度とが前記所定の比率である場合に、前記ラスタ密度と前記プレーン密度を用いて、ラスタ数及びプレーン枚数を算出し、前記ラスタ密度と前記プレーン密度とが前記所定の比率ではない場合には、前記パラメータを修正して前記密度算出部に改めて前記ラスタ密度と前記プレーン密度とを算出させる算出部」を備えるのに対し、引用発明の「スキャン方式計算部」がそのようなものを備えるかどうか不明である点。

(3)判断
ア 相違点1に対する判断
上記理由1で述べたように、本願明細書の発明の詳細な説明は「撮影時の条件となるパラメータを基に」どのようにして「ラスタ密度とプレーン密度とを算出する」のかに関し、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえないところではあるが、本願発明の「パラメータ」とは、上記第3の理由1で摘記した本願明細書の【0035】に「スキャン条件や送受信条件等の各種条件(パラメータ)」と記載されているとおり、「スキャン条件」含むものである。
引用発明では、「揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とが互いにより等しくなるようにスキャン条件を設定する」ものであるが、スキャン条件を基に各々の密度を求めることにより、そのスキャン条件における両者の密度の対比が即座にでき、各々の密度が互いにより等しくなるようなスキャン条件が容易に設定できることから、揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度を「撮影時の条件となるパラメータを基に」求めることは当業者が容易に想起し得たことである。

イ 相違点2に対する判断
引用発明では「2次元的に最大画角αmaxの範囲内において電子スキャン方向Aに一定の速度でスキャン角α単位で変化させて電子スキャンを行うことにより一定の電子スキャン方向における走査線密度で離れた走査線を含んでスキャン面Bが形成され、電子スキャン方向Aに対して垂直な方向を揺動方向Cとして、一定の揺動方向における走査線密度で超音波プローブを揺動させることができ、揺動面上において、超音波プローブを2次元的に振角度β1単位で揺動させて揺動角度βだけ振ることができ、電子スキャンにより形成される複数のスキャン面Bが、互いに一定の角度で隣接すること」と記載されているように、各々の走査線密度と角度によって超音波の送受信を制御しているといえるところ、上記(1)アで摘記した引用文献1の図2及び図3を参照しても明らかなとおり、最大画角αmax及び揺動角度βを、各々電子スキャン方向における走査線密度(ラスタピッチPr)及び揺動方向における走査線密度(揺動ピッチPm)で割ったものが、各々ラスタ数及びプレーン枚数となることから、超音波の送受信を行う制御信号を「各々の走査線密度に基づくラスタ数とプレーン枚数」で制御を行う信号とすることは当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3に対する判断
引用発明の「スキャン方式計算部」は「前記揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とが互いにより等しくなるように前記スキャン条件を設定する」ものであり、両者が「互いにより等しくなる」と判断することを、両者の比率を確認する(本願請求項2では比率として「1:1」が記載されている)ことで行い、その結果、両者の比率が等しい場合には、そのスキャン条件で超音波プローブの制御信号を生成し、また、両者の比率が等しくない場合には、スキャン条件を変更して改めて両者を算出することは、当業者が容易になし得たことである。そして、両者の比率が等しい場合のスキャン条件から生成される制御信号は、上記イに鑑みれば「各々の走査線密度に基づくラスタ数とプレーン枚数」となることから、「ラスタ数及びプレーン枚数を算出」することになる。
してみれば、引用発明の「前記揺動方向における走査線密度と前記電子スキャン方向における走査線密度とが互いにより等しくなるように前記スキャン条件を設定するスキャン方式計算部」に、上記相違点3に係る「算出された前記ラスタ密度と前記プレーン密度との比率を確認する判断部と、前記判断部による確認の結果が前記ラスタ密度と前記プレーン密度とが前記所定の比率である場合に、前記ラスタ密度と前記プレーン密度を用いて、ラスタ数及びプレーン枚数を算出し、前記ラスタ密度と前記プレーン密度とが前記所定の比率ではない場合には、前記パラメータを修正して前記密度算出部に改めて前記ラスタ密度と前記プレーン密度とを算出させる算出部」を備えさせることは当業者が容易になし得たことである。

エ 効果について
本願発明の効果は、引用文献1の記載から予期し得る範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。

オ 請求人の主張について
請求人は、意見書で「引用発明1においては、本願発明のようなラスタ密度とプレーン密度に基づくラスタ数とプレーン枚数とを求める処理は行われません。そのため上述した本願発明の内容については開示されておらず、示唆すらされていません。」と主張しているが、上記イで説示したように、「ラスタ密度とプレーン密度に基づくラスタ数とプレーン枚」とは、結局、最大画角αmax及び揺動角度βを、各々電子スキャン方向における走査線密度(ラスタピッチPr)及び揺動方向における走査線密度(揺動ピッチPm)で割ったものに他ならないことから、「ラスタ数とプレーン枚数とを求める処理」を行うことに進歩性があるとはいえない。
なお、上記請求人の主張により、本願発明に進歩性を認めることにならないことから、さらなる検討の機会を請求人に与えるべく問い合わせたが、検討する意思はないとのことである(上記「応対記録」参照)。

(4)小括
よって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないことから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、そして、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2019-10-30 
結審通知日 2019-11-05 
審決日 2019-11-19 
出願番号 特願2014-139057(P2014-139057)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
P 1 8・ 536- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 正治  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 三崎 仁
信田 昌男
発明の名称 超音波診断装置  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  

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