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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1358545
審判番号 不服2018-15247  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-16 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 特願2017-230192「求人マッチングシステム、求人マッチング方法及び該方法を実行することが可能なコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月24日出願公開、特開2019-101617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年11月30日の出願であって、平成30年5月10日付けの拒絶理由が通知され、平成30年6月19日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年9月14日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して、平成30年11月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年11月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成30年11月16日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成30年11月16日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成30年6月19日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された

(1-1)「 【請求項1】
雇用側企業の求人に関する条件を示す情報と、求人に応募する応募者の求める条件を示す情報とをマッチングする求人マッチングシステムにおいて、
雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する求人情報記憶手段と、
前記複数の特徴項目から一又は複数の特徴項目の選択を受け付ける特徴項目選択受付手段と、
選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する抽出手段と、
抽出された雇用側企業を表示する結果表示手段と
を備えることを特徴とする求人マッチングシステム。
【請求項2】
前記雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報は、少なくとも子育て率、飲み会の回数、再入社した社員数を含む他の従業員との人間関係構築に関
連する情報であることを特徴とする請求項1に記載の求人マッチングシステム。
【請求項3】
前記求人情報記憶手段では、特徴項目ごとに特徴値の合致範囲を記憶しておき、
選択を受け付けた一又は複数の特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付ける特徴値受付手段を備え、
前記抽出手段は、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、すべて記憶されている合致範囲内である雇用側企業を抽出することを特徴とする請求項1又は2に記載の求人マッチングシステム。
【請求項4】
前記特徴値受付手段は、選択を受け付けた一又は複数の特徴項目のみを表示し、表示された特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付けることを特徴とする請求項3に記載の求人マッチングシステム。
【請求項5】
前記抽出手段は、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、すべて記憶されている合致範囲内である雇用側企業だけでなく、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、記憶されている合致範囲内である特徴項目の割合が高い順に一定の割合の雇用側企業まで抽出することを特徴とする請求項4に記載の求人マッチングシステム。
【請求項6】
雇用側企業の求人に関する条件を示す情報と、求人に応募する応募者の求める条件を示す情報とをマッチングするコンピュータで実行することが可能な求人マッチング方法において、
前記コンピュータは、
雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する第一の工程と、
前記複数の特徴項目から一又は複数の特徴項目の選択を受け付ける第二の工程と、
選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する第三の工程と、
抽出された雇用側企業を表示する第四の工程と
を含むことを特徴とする求人マッチング方法。
【請求項7】
前記雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報は、少なくとも子育て率、飲み会の回数、再入社した社員数を含む他の従業員との人間関係構築に関連する情報であることを特徴とする請求項6に記載の求人マッチング方法。
【請求項8】
前記第一の工程では、特徴項目ごとに特徴値の合致範囲を記憶し、
前記コンピュータは、
選択を受け付けた一又は複数の特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付ける第五の工程を含み、
前記第三の工程は、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、すべて記憶されている合致範囲内である雇用側企業を抽出することを特徴とする請求項6又は7に記載の求人マッチング方法。
【請求項9】
前記第五の工程は、選択を受け付けた一又は複数の特徴項目のみを表示し、表示された特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付けることを特徴とする請求項8に記載の求人マッチング方法。
【請求項10】
前記第三の工程は、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、すべて記憶されている合致範囲内である雇用側企業だけでなく、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、記憶されている合致範囲内である特徴項目の割合が高い順に一定の割合の雇用側企業まで抽出することを特徴とする請求項9に記載の求人マッチング方法。
【請求項11】
雇用側企業の求人に関する条件を示す情報と、求人に応募する応募者の求める条件を示す情報とをマッチングするコンピュータで実行することが可能なコンピュータプログラムにおいて、
前記コンピュータを、
雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する求人情報記憶手段、
前記複数の特徴項目から一又は複数の特徴項目の選択を受け付ける特徴項目選択受付手段、
選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する抽出手段、及び 抽出された雇用側企業を表示する結果表示手段
として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項12】
前記雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報は、少なくとも子育て率、飲み会の回数、再入社した社員数を含む他の従業員との人間関係構築に関連する情報であることを特徴とする請求項11に記載のコンピュータプログラム。
【請求項13】
前記求人情報記憶手段では、特徴項目ごとに特徴値の合致範囲を記憶しておき、
前記コンピュータを、選択を受け付けた一又は複数の特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付ける特徴値受付手段として機能させ、
前記抽出手段を、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、すべて記憶されている合致範囲内である雇用側企業を抽出する手段として機能させることを特徴とする請求項11又は12に記載のコンピュータプログラム。
【請求項14】
前記特徴値受付手段を、選択を受け付けた一又は複数の特徴項目のみを表示し、表示された特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付ける手段として機能させることを特徴とする請求項13に記載のコンピュータプログラム。
【請求項15】
前記抽出手段を、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、すべて記憶されている合致範囲内である雇用側企業だけでなく、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、記憶されている合致範囲内である特徴項目の割合が高い順に一定の割合の雇用側企業まで抽出する手段として機能させることを特徴とする請求項14に記載のコンピュータプログラム。」
とあったものを

(1-2)「 【請求項1】
雇用側企業の求人に関する条件を示す情報と、求人に応募する応募者の求める条件を示す情報とをマッチングする求人マッチングシステムにおいて、
雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する求人情報記憶手段と、
前記複数の特徴項目から一又は複数の特徴項目の選択を受け付ける特徴項目選択受付手段と、
選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する抽出手段と、
抽出された雇用側企業を表示する結果表示手段と
を備え、
合致しない特徴項目が存在する場合、合致しない特徴項目の数が合致する特徴項目の数より少ないときには、前記抽出手段は、合致する特徴項目のみに基づいて雇用側企業を抽出することを特徴とする求人マッチングシステム。
【請求項2】
前記結果表示手段は、抽出された雇用側企業とともに、合致しない特徴項目を表示することを特徴とする請求項1に記載の求人マッチングシステム。
【請求項3】
前記雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報は、少なくとも子育て率、飲み会の回数、再入社した社員数を含む他の従業員との人間関係構築に関連する情報であることを特徴とする請求項1又は2に記載の求人マッチングシステム。
【請求項4】
前記求人情報記憶手段では、特徴項目ごとに特徴値の合致範囲を記憶しておき、
選択を受け付けた一又は複数の特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付ける特徴値受付手段を備え、
前記抽出手段は、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が前記合致範囲に含まれない特徴項目の数が、前記合致範囲に含まれる特徴項目の数より少ないときには、前記合致範囲に含まれる特徴項目のみに基づいて雇用側企業を抽出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の求人マッチングシステム。
【請求項5】
前記特徴値受付手段は、選択を受け付けた一又は複数の特徴項目のみを表示し、表示された特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付けることを特徴とする請求項4に記載の求人マッチングシステム。
【請求項6】
前記抽出手段は、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、記憶されている前記合致範囲にすべて含まれる雇用側企業だけでなく、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、記憶されている前記合致範囲に含まれている特徴項目の割合が高い順に一定の割合の雇用側企業まで抽出することを特徴とする請求項5に記載の求人マッチングシステム。
【請求項7】
雇用側企業の求人に関する条件を示す情報と、求人に応募する応募者の求める条件を示す情報とをマッチングするコンピュータで実行することが可能な求人マッチング方法において、
前記コンピュータは、
雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する第一の工程と、
前記複数の特徴項目から一又は複数の特徴項目の選択を受け付ける第二の工程と、
選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する第三の工程と、
抽出された雇用側企業を表示する第四の工程と
を含み、
合致しない特徴項目が存在する場合、合致しない特徴項目の数が合致する特徴項目の数より少ないときには、前記第三の工程では、合致する特徴項目のみに基づいて雇用側企業を抽出することを特徴とする求人マッチング方法。
【請求項8】
前記第四の工程では、抽出された雇用側企業とともに、合致しない特徴項目を表示することを特徴とする請求項7に記載の求人マッチング方法。
【請求項9】
前記雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報は、少なくとも子育て率、飲み会の回数、再入社した社員数を含む他の従業員との人間関係構築に関連する情報であることを特徴とする請求項7又は8に記載の求人マッチング方法。
【請求項10】
前記第一の工程では、特徴項目ごとに特徴値の合致範囲を記憶し、
前記コンピュータは、
選択を受け付けた一又は複数の特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付ける第五の工程を含み、
前記第三の工程では、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が前記合致範囲に含まれない特徴項目の数が、前記合致範囲に含まれる特徴項目の数より少ないときには、前記合致範囲に含まれる特徴項目のみに基づいて雇用側企業を抽出することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載の求人マッチング方法。
【請求項11】
前記第五の工程は、選択を受け付けた一又は複数の特徴項目のみを表示し、表示された特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付けることを特徴とする請求項10に記載の求人マッチング方法。
【請求項12】
前記第三の工程は、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、記憶されている前記合致範囲にすべて含まれる雇用側企業だけでなく、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、記憶されている前記合致範囲に含まれている特徴項目の割合が高い順に一定の割合の雇用側企業まで抽出することを特徴とする請求項11に記載の求人マッチング方法。
【請求項13】
雇用側企業の求人に関する条件を示す情報と、求人に応募する応募者の求める条件を示す情報とをマッチングするコンピュータで実行することが可能なコンピュータプログラムにおいて、
前記コンピュータを、
雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する求人情報記憶手段、
前記複数の特徴項目から一又は複数の特徴項目の選択を受け付ける特徴項目選択受付手段、
選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する抽出手段、及び
抽出された雇用側企業を表示する結果表示手段
として機能させ、
合致しない特徴項目が存在する場合、合致しない特徴項目の数が合致する特徴項目の数より少ないときには、前記抽出手段を、合致する特徴項目のみに基づいて雇用側企業を抽出する手段として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項14】
前記結果表示手段を、抽出された雇用側企業とともに、合致しない特徴項目を表示する手段として機能させることを特徴とする請求項13に記載のコンピュータプログラム。
【請求項15】
前記雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報は、少なくとも子育て率、飲み会の回数、再入社した社員数を含む他の従業員との人間関係構築に関連する情報であることを特徴とする請求項13又は14に記載のコンピュータプログラム。
【請求項16】
前記求人情報記憶手段では、特徴項目ごとに特徴値の合致範囲を記憶しておき、
前記コンピュータを、選択を受け付けた一又は複数の特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付ける特徴値受付手段として機能させ、
前記抽出手段を、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が前記合致範囲に含まれない特徴項目の数が、前記合致範囲に含まれる特徴項目の数より少ないときには、前記合致範囲に含まれる特徴項目のみに基づいて雇用側企業を抽出する手段として機能させることを特徴とする請求項13乃至15のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項17】
前記特徴値受付手段を、選択を受け付けた一又は複数の特徴項目のみを表示し、表示された特徴項目それぞれについて、特徴値の入力を受け付ける手段として機能させることを特徴とする請求項16に記載のコンピュータプログラム。
【請求項18】
前記抽出手段を、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、記憶されている前記合致範囲にすべて含まれる雇用側企業だけでなく、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、記憶されている前記合致範囲に含まれている特徴項目の割合が高い順に一定の割合の雇用側企業まで抽出する手段として機能させることを特徴とする請求項17に記載のコンピュータプログラム。」
と補正しようとするものである。

(2)本件補正についての当審の判断
ア 新規事項追加禁止要件について
(ア) 本件補正は、請求項1において「選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する抽出手段」について、「合致しない特徴項目が存在する場合」であっても「合致しない特徴項目の数が合致する特徴項目の数より少ないとき」には、「合致する特徴項目のみに基づいて雇用側企業を抽出する」旨を追加する一方で、「抽出された雇用側企業を表示する結果表示手段」について、「抽出された雇用側企業とともに、合致しない特徴項目を表示する」ものである旨を発明特定事項としないという補正事項を含むものである。(「結果表示手段」については、請求項2において、「抽出された雇用側企業とともに、合致しない特徴項目を表示する」ものである旨を追加する一方で、請求項1においては、この旨を追加しないものである。)
同様に、補正前の請求項6に対応する補正後の請求項7、補正前の請求項11に対応する請求項13についても、上記に対応する補正事項がある。

(イ) これに対し、当初明細書の段落【0081】ないし【0083】には、次の記載がある。
「【0081】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内であれば多種の変更、改良等が可能である。例えば上述した実施の形態1及び2では、端末装置4を介して応募者が入力した特徴項目(及び特徴値)をキー情報として、すべて一致している雇用側企業のみ抽出しているが、特にそれに限定されるものではない。
【0082】
例えば、応募者が特徴項目を5個選択したと仮定して、4個の特徴項目については一致するものの1個だけ一致しない場合には、当該雇用側企業は抽出されない。しかし、そもそも雇用側企業の抽出数が極端に少ないときには、今一度初めから選択を繰り返す必要がある。
【0083】
かかる手順の煩雑さを少しでも解消するべく、4個の特徴項目については一致するものの1個だけ一致しない場合にも、当該雇用側企業を抽出し、どの特徴項目が一致していないかを表示する。これにより、一致していない特徴項目が妥協できる範囲であれば、表示されている雇用側企業の中から応募先を特定することができ、求人マッチングを再度実行する必要がなくなる。」
ここでは、応募者が入力した特徴項目すべてが一致する雇用側企業を抽出する実施例では、例えば、5個の特徴項目を選択した場合にそのうち1個でも一致しない企業は抽出されないため、「雇用側企業の抽出数が極端に少ないときには、今一度初めから選択を繰り返す必要があ」る旨が記載され、その上で、「かかる手順の煩雑さを少しでも解消する」ための他の実施例として、4個について一致し1個について一致しない雇用側企業を抽出し、「どの特徴項目が一致していないかを表示」し、「一致していない特徴項目が妥協できる範囲」であるか否かを含めた検討を可能とする実施例が記載されている。これらの記載によれば、選択された5個の特徴項目のうち4個について一致し1個について一致しない雇用側企業を抽出するにあたっては、応募者において、「一致していない特徴項目が妥協できる範囲」であるか否かを含めた検討が可能でなければならないから、一致しない特徴項目を応募者に対して表示しないことはあり得ない。さらに、「1個だけ一致しない」との記載ぶりからみても、応募者が企業を抽出するために選択した特徴項目であるにもかかわらずその一部の特徴項目について「妥協」する可能性を想定して抽出に用いないのであるから、「合致しない特徴項目の数が合致する特徴項目の数より少ないとき」には、「合致する特徴項目のみに基づいて雇用側企業を抽出する」といった、応募者が選択した特徴項目の半数近くが一致しない雇用側企業が抽出対象となり得るような一般化が可能であるということはできない。

また、当初明細書の段落【0084】には、次の記載がある。
「【0084】
もちろん、入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、記憶されている合致範囲内である特徴項目の割合が高い順に抽出された雇用側企業を表示することが好ましい。妥協するべき就労環境が少ない順に応募を検討することができるからである。」
ここでは、上記の段落【0081】ないし【0083】の内容を受けて、応募を検討するにあたって、「妥協するべき就労環境」を検討するにあたって、それが「少ない順」に検討することを可能とするために、「合致範囲内である特徴項目の割合が高い順」に雇用側企業を表示するのが好ましい旨が記載されている。(段落【0029】や出願当初特許請求の範囲の【請求項5】、【請求項10】、【請求項15】においても、「記憶されている合致範囲である特徴項目の割合が高い順に一定の割合の雇用側企業まで抽出する」旨が記載されているものの、これらは、段落【0084】の記載に対応する内容を示すものである。)
ここでも、「妥協するべき就労環境」の検討のためには、選択された特徴項目のうち一致しない特徴項目を応募者に対して表示することが必要であって、これを表示しないことはあり得ないといわざるを得ない。さらに、「合致範囲内である特徴項目の割合が高い順」に雇用側企業を表示するにあたって、「合致範囲内」である特徴項目の数がそうでない特徴項目の数より多い企業のみを抽出して表示する必要はなく、これらの記載を考慮しても「合致しない特徴項目の数が合致する特徴項目の数より少ないとき」に「合致する特徴項目のみに基づいて雇用側企業を抽出する」という一般化された技術的事項を導くことはできない。
してみると、当初明細書段落【0081】ないし【0084】、【0029】、当初特許請求の範囲の【請求項5】、【請求項10】、【請求項15】は、応募者が選択した特徴項目すべてが一致する雇用側企業を抽出して表示するにあたって、その例外として、応募者に対して妥協が可能であるか否かを検討させるべく一致していない特徴項目を表示することを前提として、ほとんどの特徴項目が一致する雇用側企業を含めて抽出表示するやその際一致していない特徴項目が少ない順に妥協が可能であるか否かの検討が可能な順に雇用側企業を表示することが記載されているということはできるが、それにとどまる。そして、これらの記載は、応募者における検討のために表示される企業の抽出にあたって、応募者が企業を抽出するために選択した特徴項目について「合致しない特徴項目の数が合致する特徴項目の数より少ない」という条件で抽出することを示すものでない。
さらに、当初明細書のその他の記載をみても、応募者における検討のために表示される企業の抽出にあたって、応募者が企業を抽出するために選択した特徴項目について「合致しない特徴項目の数が合致する特徴項目の数より少ない」という条件で抽出することを示す記載は見当たらない。また、上述したように、当初明細書の段落【0081】乃至【0083】に記載された「1個だけ一致しない」場合の例を、一致した項目の数と一致しない項目の数とを比較して後者が前者より少ない雇用側企業を抽出するものとして一般化することや一致しない特徴項目がある企業を抽出するにあたって一致しない特徴項目を表示しない場合を含むように一般化することが自明であるともいえない。
(ウ) してみると、「抽出された雇用側企業を表示する結果表示手段」が「抽出された雇用側企業とともに、合致しない特徴項目を表示する」ことを発明特定事項とすることなく、「選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する抽出手段」が「合致しない特徴項目が存在する場合」であっても「合致しない特徴項目の数が合致する特徴項目の数より少ないとき」に「合致する特徴項目のみに基づいて雇用側企業を抽出する」ことは、当初明細書等のすべての記載を総合して導かれる技術的事項との関係において、当初明細書等に記載されていない新たな技術的事項を導入するものと認められるから、本件補正は、当初明細書の記載の範囲内においてしたものということができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものでない。

イ 目的要件について
(ア) 本件補正は、請求項数が15であったものを18にするものであり、いわゆる増項補正であって、本件補正の後の請求項が本件補正の前の請求項に対応する関係となっていない。
この点、本件補正は、「発明特定事項が択一的なものとして記載された一つの請求項について、その択一的な発明特定事項をそれぞれ限定して複数の請求項に変更する補正」(審査基準の第IV部第4章2.1.1(2)の(vi)にも該当しない。すなわち、「求人マッチングシステム」を記載した補正前の請求項1ないし5と補正後の請求項1ないし6との対応関係をみると、補正後の請求項1,3ないし6が補正前の請求項1ないし5に対応するようにみえ、補正後の請求項2に対応する補正前の請求項が見当たらない。補正前の請求項1は、「結果表示手段」についての択一的発明特定事項を含んでいないので、補正後の請求項1及び2の両方が補正前の請求項1に対応するものであるということができない。
同様に、補正前において、補正後の請求項8、請求項14に対応する請求項が見当たらない。これらについても、補正前の請求項6、請求項11は、それぞれ「・・表示する第4の工程」、「結果表示手段」についての択一的発明特定事項を含んでいないので、補正後の請求項7及び8、請求項13及び14がそれぞれ補正前の請求項6、11に対応するものであるということもできない。
これらの点において、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮(いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮)を目的としたものであるということはできない。

(イ) 補正後の請求項4は、補正前の請求項3に対応するところ、両者における「抽出手段」についての限定事項は、異なる内容のものである。(補正後の請求項10及び16と補正前の請求項8及び13との限定事項についても、同様に異なる内容のものである。)
補正前の請求項3の「抽出手段」は、「入力を受け付けた特徴項目の特徴値が、すべて記憶されている合致範囲内である雇用側企業を抽出する」ものであり、「入力を受け付けた特徴項目の特徴値」の「すべて」に基づく判断を行うのに対し、補正後の請求項4の「抽出手段」は、「入力を受け付けた特徴項目の特徴値が前記合致範囲に含まれない特徴項目の数が、前記合致範囲に含まれる特徴項目の数より少ないとき」には「すべて」の特徴項目ではなく「合致範囲の含まれる特徴項目のみ」という一部の特徴項目に基づく判断を行うものである。
よって、本件補正のうち、この点の補正は、条件を示す発明特定事項に他の条件を直列的に付加するものとなっておらず、発明特定事項が示す条件をより緩和された内容の他の条件に変更するものとなっており、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正に該当しない。

(ウ) 上記(ア)、(イ)に照らせば、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とする補正に該当しない。また、(ア)で上述したとおり、本件補正は増項補正であって、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれ目的とするものともいえず、同項第1号、第3号及び第4号のいずれに掲げる事項を目的とする補正にも該当しない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号ないし第4号のいずれを目的とするものにも該当しないから、同項に規定する要件に適合しない。

(3) 補正却下の決定のまとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び同条第5項に規定する要件に適合せず、これらの規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成30年11月16日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明は、平成30年6月19日付け手続補正書の特許請求の範囲請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)であって、前記第2 (1)の(1-1)に記載したとおりのものである。

2.原査定の理由
本願の請求項1、6及び11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願の請求項1ないし15は、下記の引用文献に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献:特開2003-256551号公報

3.引用文献
(1)引用文献には、次の記載がある。

a.「【0019】この再雇用支援システム1は、求職者端末2、2′、2″、・・および求人者端末3、3′、・・からインターネットなどの通信回線を介して入力される登録要求や照会などに応じて求職および求人の登録、雇用紹介を行う。雇用紹介には、最初に、求職者の求職データの登録、求人者の求人データの登録を必要とするので、まず、本発明における求職者の求職データの登録について説明する。
【0020】図2は、本発明における求職者の求職データの新規登録を説明するためのブロック図であり、同図にはこの登録に必要な構成部分のみを示している」
b.「【0024】図3は、以上のようにして登録された求職データの具体例を示す図であり、この求職データは、「評定」、「専門性」、「語学」、「希望待遇」および「自己PR」の各項目を有し、これら項目のうち「評定」?「語学」は、会社人材DB7の経歴DB8から抽出して読み出されたものであり、「希望待遇」および「自己PR」は、求職者側末9を用いて求職者により入力されたものである。なお、求職データは、同図右上欄に示すように、氏名などの求職者個人を特定する項目も含んでいる。
【0025】次に、本発明における求人者の求人データの登録について説明する。図4は、本発明における求人者の求人データの新規登録を説明するためのブロック図であり、同図にはこの登録に必要な構成部分のみを示している。
【0026】求人者が、求人者端末3から再雇用支援システム1に雇用側の待遇条件を入力する(S5)と、再雇用支援システム1は、その待遇条件を求人DB9の待遇DB10に蓄積する(S6)。
【0027】同時に、再雇用支援システム1は、求人者により入力された部署などを基に、会社環境DB12内の職場環境DB13にアクセスし(S7)、該部署の職場環境データを抽出して読み出し、求人DB9の職場環境DB11に蓄積する(S8)。
【0028】職場環境データは、例えば、該部署の人数、平均年齢、残業時間などの人的環境を含んでおり、待遇DB10に蓄積された雇用側の待遇条件と共に、全体として、雇用データを構成する。なお、職場環境データは、求人者が登録の都度、各項目について適宜入力、あるいは修正することができるようにしてもよい。
【0029】職場環境DB11には、待遇DB10に蓄積された雇用側の待遇条件との対応関係が分かるように、例えばリンク情報を持たせて職場環境データが蓄積される。したがって、求人DB9には、全体として、雇用側の待遇条件に雇用側の雇用配属先の職場環境データが付加された形態で求人データが蓄積されることになる。なお、DB10、11も、ハード的に別個のものである必要はなく、1つの記憶手段の記憶領域を分けたものでものでもかまわない。また、求職DB4とハード的に1つのものでもかまわない。
【0030】図5は、以上のようにして登録された求人データの具体例を示す図であり、この求人データは、「評定」、「求人内容」、「語学」、「待遇」および「求人キーワード」の各項目を有する待遇条件と職場環境データとをリンクしたものである。職場環境データは、この例では、「人数」、「男女比」、「平均年齢」、「平均残業時間」、「有休取得率」、「PC普及率」、「過去10年業務災害履歴」および「喫煙環境」の各項目からなっている。なお、待遇条件と職場環境データとは、同図右上欄に示すような、「部署」に基づいてリンクさせることができる。
【0031】次に、上記のようにして登録された求職データと求人データの照合について図6を参照して説明する。
【0032】雇用紹介に際しては、求職者や求人者からの照会により、再雇用支援システム1は、求職DB4の退職者DB5および経歴DB6に蓄積されたデータと求人DB9の待遇DB10に蓄積されたデータとの間で照合を行う。
【0033】求職者への雇用紹介は、求職DB4に該求職者の求職データが登録してない場合は求職者が待遇希望条件を新たに登録して照会したとき、求職DB4に求職データが既に登録してある場合は求職者により自分の氏名やID識別記号などが入力されて照会されたときなどに行うようにすることができ、求人者への雇用紹介は、求人DB9に該求人者の雇用データが登録してない場合は求人者が待遇条件を新たに登録して照会したとき、雇用データが既に登録してある場合は求人者によりID識別記号などが入力されて照会されたときなどに行うようにすることができる。
【0034】求職者への雇用紹介の場合(S9)、再雇用支援システム1は、退職者DB5と経歴DB6に蓄積されている該求職者の求職データを読み出し(S10)、さらに、待遇DB10に蓄積されている各部署の待遇条件を順次読み出して(S11)各項目毎に照合し、合致(マッチング)するか否かを判断する。
【0035】また、求人者への雇用紹介の場合には(S9)、再雇用支援システム1は、待遇DB10に蓄積されている該求人者の待遇条件を読み出し(S11)、退職者DB5と経歴DB6に蓄積されている各求職者の求職データを順次読み出して(S10)各項目毎に照合し、合致するか否かを判断する。
【0036】この照合の合致の判断は、厳密な一致でなくてもよく、その判断基準は、各項目毎に適宜定めるようにすることもできる。例えば、求職者や求人者が考える重要度に応じた重み付けを各項目毎にし、大きな重み付けがなされた項目については照合の判断基準を高くするなどして、実際的な、より適切な雇用紹介が行えるようにすることもできる。
【0037】照合により一定以上の合致が得られた求職データおよび待遇条件が見出されると、求職者に対しては待遇DB10の待遇条件が読み出されて求職側端末2に提示される(S12)。また、求人者に対しては求職DB4の求職データ、すなわち、退職者DB5の待遇希望条件および経歴DB6の人事データが読み出されて求人者端末3に提示される(S12)。
【0038】求職者への提示に際しては、職場環境DB11に蓄積されている雇用配属先の職場環境データが同時に提示され、これにより求職者は紹介された雇用先の環境を事前にある程度把握することができる。」
c.「【0044】さらに、求職者や求人者が忌避項目を入力することにより、合致するデータの提示に際して、人事データや職場環境データから忌避項目、例えば、役職関係や労働災害関係を提示するようにすることもでき、また、忌避項目を有する雇用を初めから提示しないようにすることもできる。なお、喫煙や禁煙などの職場環境の希望についても忌避項目とすることが有効である。」
(下線は、当審による。)

(2)(1)の記載からみて、引用文献には、以下のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「求職者端末および求人者端末からインターネットなどの通信回線を介して入力される登録要求や照会などに応じて求職および求人の登録、雇用紹介を行うものであり、(【0019】)
求職者により入力される、自分の氏名などの個人を特定する項目や待遇希望条件のデータを求職DBの退職者DBに蓄積するものであり(【0020】、【0024】)、
求人者により入力される、待遇条件を求人DBの待遇DBに蓄積し(【0026】)、また、求人者により入力される部署などを基に会社環境DB内の職場環境DBから抽出された該部署の職場環境データを求人DBの職場環境DBに蓄積するものであり(【0027】、ここで、この職場環境データは、該部署の人数、平均年齢、残業時間などの人的環境を含むものであって待遇DBに蓄積された雇用側の待遇条件と共に全体として雇用データを構成するものであり(【0028】)、
例えば、求人データは、「評定」、「求人内容」、「語学」、「待遇」および「求人キーワード」の各項目を有する待遇条件と、「人数」、「男女比」、「平均年齢」、「平均残業時間」、「有休取得率」、「PC普及率」、「過去10年業務災害履歴」および「喫煙環境」の各項目からなる職場環境データとをリンクしたものであり、(【0030】)、
求職者への雇用紹介の場合(S9)、再雇用支援システムは、退職者DB5と経歴DB6に蓄積されている該求職者の求職データを読み出し(S10)、さらに、待遇DB10に蓄積されている各部署の待遇条件を順次読み出して(S11)各項目毎に照合し、合致(マッチング)するか否かを判断し(【0034】)、
この照合の合致の判断は、厳密な一致でなくてもよく、各項目毎に判断基準を定めるようにすることもでき(【0036】)、
照合により一定以上の合致が得られた求職データおよび待遇条件が見出されると、求職者に対しては待遇DB10の待遇条件が読み出されて求職側端末2に提示され(【0037】)、求職者への提示に際して職場環境DB11に蓄積されている雇用配属先の職場環境データが同時に提示され(【0038】)、
求職者等が忌避項目を入力することにより、合致するデータの提示に際して、人事データや職場環境データから忌避項目を提示したり、忌避項目を有する雇用を初めから提示しないようにすることができ、喫煙や禁煙などの職場環境の希望についても忌避項目とすることが有効である、(【0044】)
再雇用支援システム。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)「雇用側企業の求人に関する条件を示す情報と、求人に応募する応募者の求める条件を示す情報とをマッチングする求人マッチングシステム」について
引用発明の「求人者」は、本願発明の「雇用側企業」に相当し、引用発明の「待遇条件」と「職場環境データ」は、いずれも雇用側企業の入力に基づいて求人DBに蓄積されて雇用側企業の求人に関する条件を示すものであるから、本願発明の「雇用側企業の求人に関する条件を示す情報」に相当する。
また、引用発明の「求職者」は、本願発明の「求人に応募する応募者」に相当し、引用発明の「待遇希望条件」は、求職者の入力に基づいて求職DBに蓄積されて求人に応募する応募者の求める条件を示すものであるから、本願発明の「求人に応募する応募者の求める条件を示す情報」に相当する。
そして、引用発明の「再雇用支援システム」は、求職者からの照会に応じた雇用紹介を行うにあたって、各部署の「雇用側企業の求人に関する条件を示す情報」を順次読み出して、これを、読み出された「求人に応募する応募者の求める条件を示す情報」と照合してマッチングするかを判断するシステムであるから、「雇用側企業の求人に関する条件を示す情報と、求人に応募する応募者の求める条件を示す情報とをマッチング」する「求人マッチングシステム」である点で、本願発明と共通するものである。

(2)「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する求人情報記憶手段」について
引用発明の雇用側企業の求人に関する条件を示す情報のうち「職場環境データ」は、「雇用側企業職場における就労環境の特徴に関する情報」が「職場における人間関係を含む就労環境の特徴」に関するものであるか否かが明らかでないものの、本願発明の「雇用側企業の職場における就労環境の特徴に関する情報」に対応するものである。
そして、引用発明の「求人DB」の「職場環境DB」は、雇用側企業の職場における就労環境の特徴に関する情報として、「人数」、「男女比」、「平均年齢」、「平均残業時間」、「有休取得率」、「喫煙環境」等の「複数」の「特徴項目」を記憶するものであるから、「雇用側企業の職場における就労環境の特徴に関する情報」として「職場における人間関係を含む就労環境」の特徴に関するものを記憶するか否かが明らかでないことを除けば、本願発明の「雇用側企業の職場における就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する求人情報記憶手段」に対応するものといえる。

(3)「前記複数の特徴項目から一又は複数の特徴項目の選択を受け付ける特徴項目選択受付手段」、「選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する抽出手段」及び「抽出された雇用側企業を表示する結果表示手段」について
引用発明は、喫煙や禁煙などの職場環境の希望を忌避項目とし、求職者が忌避項目を入力することによって求職者からの照会に応じた雇用紹介にあたって、忌避項目を有する雇用を提示しないようにすることができるものであり、いうなれば、「雇用側企業の職場における就労環境の特徴に関する情報」である職場環境データの「特徴項目」のうち「忌避項目」の選択を受け付け可能なものについて、「求人に応募する応募者の求める条件を示す情報」(待遇希望条件)としての「忌避項目」の選択を受け付け、「雇用側企業の求人に関する条件を示す情報」と「求人に応募する応募者の求める条件を示す情報」との照合による「マッチング」した雇用として、選択された忌避項目を有する雇用を除いた雇用を提示すべきものとして抽出するから、本願発明の「前記複数の特徴項目から一又は複数の特徴項目の選択を受け付ける特徴項目選択受付手段」、「選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する抽出手段」及び「抽出された雇用側企業を表示する結果表示手段」に相当する構成を備えているものといえる。

(4)したがって、本願発明と引用発明との一致点は、以下のとおりである。

<一致点>
雇用側企業の求人に関する条件を示す情報と、求人に応募する応募者の求める条件を示す情報とをマッチングする求人マッチングシステムにおいて、
雇用側企業の職場における就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する求人情報記憶手段と、
前記複数の特徴項目から一又は複数の特徴項目の選択を受け付ける特徴項目選択受付手段と、
選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出する抽出手段と、
抽出された雇用側企業を表示する結果表示手段と
を備えることを特徴とする求人マッチングシステム。

また、一応の相違点は以下の通りである。

<相違点>
求人情報記憶手段が記憶する雇用側企業の職場における就労環境の特徴に関する情報が、本願発明では、「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報」であるのに対し、引用発明では、「職場における人間関係を含む就労環境の特徴」に関するものであるか否かが明らかでない点

5.相違点の判断
(1)本願発明の示す技術事項について(以下、下線は当審で付与した。)
(ア)請求項の「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する求人情報記憶手段」について検討すると、文言上「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報」がどのような情報であるか具体的な定義はないものの、他方で、「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報」を「複数の特徴項目として記憶」するのであるから、「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報」は「複数の特徴項目」に含まれるものであって、「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴」に関する「情報」である。
(イ)そして、発明の詳細な説明の【0057】には「図5に示すように、特徴項目(フィーリング項目)ごとに固有のアイコンが一覧表示されている。」と記載されているから、図5のフィーリング項目のうち、「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴」に関連する項目であることが理解できる。さらに、平成30年6月19日付け手続補正書で補正された発明の詳細な説明には「第1発明、第6発明及び第11発明では、雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶しておき、複数の特徴項目から一又は複数の特徴項目の選択を受け付ける。選択を受け付けた特徴項目に基づいて、合致する雇用側企業を抽出して、抽出された雇用側企業を表示する。これにより、従来は給与や勤務時間、職種等の一般的な労働条件で雇用側企業と応募者とをマッチングしていたのを、実際に就労している環境に直結した特徴項目でマッチングするので、自分が働くときに妥協できない就労環境を維持することが可能な雇用側企業のみが抽出され、就労してからの退職理由の大半を占める周囲の人との価値観のズレを最小限に抑制することができ、早期退職の可能性を低減することが可能となる。」(【0025】)、「第2発明、第7発明及び第12発明では、雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報は、少なくとも子育て率、飲み会の回数、再入社した社員数を含む他の従業員との人間関係構築に関連する情報であるので、就労してからの退職理由の大半を占める周囲の人との価値観のズレを最小限に抑制することができ、早期退職の可能性を低減することが可能となる。」(【0026】)と記載されている。
(ウ)この点、審判請求人は「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関連する項目」について、平成30年6月19日付け手続補正書と同時に提出された意見書において、以下のとおり述べている。

「本願の補正後請求項1に係る発明では、「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目として記憶する」求人情報記憶手段を備えることにより、自分が就職したと仮定した場合に、前向きに考えることができる人間関係に関する情報を優先的に選択することが可能な雇用側企業の中から就職先を選択することができ、就労してからの退職理由の大半を占める周囲の人との価値観のズレや人間関係の軋轢等の発生を最小限に抑制することができ、早期退職の可能性を低減することができます。」

(エ)以上を踏まえ、当審としても、次のとおりと考える。すなわち「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報」は、「周囲の人との価値観のズレの発生を抑制する」ための情報、すなわち、自身の価値観と(ある職場に勤務する)周囲の人との価値観のズレの発生を抑制するための情報であるといえ、自身の価値観は自身で把握しているのであるから、結局、(ある職場に勤務する)周囲の人の価値観を表す情報であるといえる。
そして、この観点から、図5のフィーリング項目を見れば、例えば、
a)「平均年齢」を見ることにより、自身の年齢と平均年齢の相違に基づいて、年齢という観点から価値観の相違について判断することができる。
b)「男女比率」を見ることにより、自身と同じ性別の人の多少によって、性差という観点から価値観の相違について判断することができる、
c)「喫煙率」を見ることにより、自身の喫煙習慣と比較することにより、喫煙という観点から価値観の相違について判断することができる、
といった効果が期待できることは明らかである。
してみると、本願発明の「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報を複数の特徴項目」は、「平均年齢」、「男女比率」、「喫煙率」の項目を含むということができる。
(2)一方で、引用発明においても『「男女比」、「平均年齢」、「平均残業時間」、「有休取得率」、「PC普及率」、「過去10年業務災害履歴」および「喫煙環境」の各項目からなる職場環境データ』を含むのであるから、この点で、引用発明と本願発明とは相違がないものということができる。
(3)審判請求人は、上記意見書において『引用文献1の職場環境データは、段落(0028)に例示されているように、部署の人数、平均年齢、残業時間等であり、既に就職している労働者に関する客観的な数値の一部ではあるものの、労働者間の人間関係を直接左右するような人間関係に関する情報とは言えない情報のみが開示されています。これをもって、広く人的環境とは言えないだけでなく、人間関係そのものに関する情報である「人間関係に関する情報」を記憶することについても開示も示唆もされていません。』と述べているが、(1)に示した内容に照らせば、本願発明の「雇用側企業の職場における人間関係を含む就労環境の特徴に関する情報」は、「労働者間の人間関係を直接左右するような人間関係に関する情報」に限られないから、上記主張は採用することができない。
(4)してみると、上記相違点は実質的な相違点ということはできず、本願発明は引用発明と相違がない。

第4 むすび

以上のとおり、したがって,本願発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定により,特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-29 
結審通知日 2019-11-06 
審決日 2019-11-19 
出願番号 特願2017-230192(P2017-230192)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G06Q)
P 1 8・ 121- Z (G06Q)
P 1 8・ 561- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 緑川 隆上田 威  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 相崎 裕恒
石川 正二
発明の名称 求人マッチングシステム、求人マッチング方法及び該方法を実行することが可能なコンピュータプログラム  
代理人 福永 正也  

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