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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B |
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管理番号 | 1358555 |
審判番号 | 不服2019-7148 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-05-31 |
確定日 | 2020-01-06 |
事件の表示 | 特願2016-523538「薄膜の平坦化方法、平坦化薄膜の形成方法及び薄膜形成用ワニス」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 3日国際公開、WO2015/182667〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)5月27日(優先権主張 2014年(平成26年)5月30日)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。 平成30年8月16日:上申書、手続補正書の提出 平成30年9月5日付け:拒絶理由通知書 平成30年11月6日:意見書、手続補正書の提出 平成31年3月4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 平成31年5月31日:審判請求書の提出 令和元年6月21日付け:拒絶理由通知 令和元年9月20日:意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和元年9月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、次のものである。 「 【請求項1】 電荷輸送性物質であって分子量が200?5,000である有機化合物及び有機溶媒を含む電荷輸送性薄膜形成用ワニスであって、流動活性化エネルギーが28kJ/mol以下である電荷輸送性薄膜形成用ワニス(ただし、電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?5,000の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる電荷輸送性材料と、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒と、を含有し、前記良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃を満たし、25℃での粘度が7.5mPa・s以下、かつ、23℃での表面張力が30.0?40.0mN/mであり、前記電荷輸送性材料が、前記混合溶媒中に溶解または均一に分散している電荷輸送性ワニスを除く。)。」 第3 当審の拒絶理由通知書の概要 令和元年6月21日付け拒絶理由通知書によって当合議体が通知した拒絶の理由は、[A]この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、[B]この出願の請求項1?17に係る発明は、その優先権主張の日(以下、「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、[C] この出願の請求項1?17に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、[D]この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものである。 第4 本願の発明の詳細な説明の記載 本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 1 「発明が解決しようとする課題 [0008] 本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、平坦性の良好な薄膜を与えるための方法、そのような薄膜の形成方法、及びそのような薄膜を与え得るワニスを提供することを目的とする。 ・・・(省略)・・・ 発明を実施するための形態 [0013] 本発明の薄膜の平坦化方法は、有機化合物と有機溶媒とを含む薄膜形成用ワニスを用いて薄膜を形成するにあたって、前記ワニスの流動活性化エネルギーを28kJ/mol以下とすることを特徴とする。 [0014] 流動活性化エネルギーは、アンドレードの式、 η=Aexp(E/RT) におけるE(kJ/mol)で表される。アンドレードの式は、粘度と温度との関係を表す式であって、流動活性化エネルギーが低いほど、粘度の温度依存性が小さいことを意味する。」 2 「実施例 ・・・(省略)・・・ [0085][1]電荷輸送性ワニスの成分の合成 [合成例1] 下記式(2)で表されるアニリン誘導体及び下記式(3)で表されるアリールスルホン酸を、それぞれ国際公開第2013/084664号及び国際公開第2006/025342号記載の方法に従って合成した。 [化5] [0086][2]電荷輸送性ワニスの調製 [実施例1]電荷輸送性ワニスAの調製 式(2)で表されるアニリン誘導体0.137gと式(3)で表されるアリールスルホン酸0.271gとを、窒素雰囲気下で1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン6.0gに溶解させた。得られた溶液に、ジエチレングリコール6.0g及びジエチレングリコールモノメチルエーテル8.0gを順次加えて攪拌し、電荷輸送性ワニスAを調製した。 [0087][実施例2]電荷輸送性ワニスBの調製 溶媒を、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン6.0g、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル9.0g及びヘキシレングリコール5.0gに変えた以外は、実施例1と同様の方法で電荷輸送性ワニスBを調製した。 [0088][実施例3]電荷輸送性ワニスCの調製 溶媒を、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン6.0g、ジエチレングリコール10.0g及びジエチレングリコールモノメチルエーテル4.0gに変えた以外は、実施例1と同様の方法で電荷輸送性ワニスCを調製した。 [0089][実施例4]電荷輸送性ワニスDの調製 溶媒を、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン8.0g、2,3-ブタンジオール9.0g及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート3.0gに変えた以外は、実施例1と同様の方法で電荷輸送性ワニスDを調製した。 [0090][実施例5]電荷輸送性ワニスEの調製 溶媒を、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン6.6g、2,3-ブタンジオール8.0g及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル5.4gに変えた以外は、実施例1と同様の方法で電荷輸送性ワニスEを調製した。 ・・・(省略)・・・ [0092][3]流動活性化エネルギーの算出 レオメーターを用いて電荷輸送性ワニスA?Fの20?100℃の粘度(η)を測定した。そして、アンドレードの式を変形すると以下のように表されることから、得られた測定値を用いて1/Tに対してlnηでプロットし、ワニスの流動活性化エネルギーEを算出した。なお、算出では、最小二乗法を用いた。 lnη=lnA+(E/RT) また、同じ方法で、電荷輸送性ワニスA?Fの調製に用いた溶媒のみの粘度(η)を測定し、溶媒の流動活性化エネルギーE_(s )を算出した。結果を表1に示す。 [0093][4]ピクセル内平坦性評価 ポジ型感応性ポリイミドを用いて作製したピクセル幅(構造物間)50×100μmの構造物付きITO基板に電荷輸送性ワニスA?Fをスピンコートにより塗布し、大気中ホットプレート上で80℃加熱して1分間乾燥し、230℃で15分間の加熱焼成を行い、成膜した。微細形状測定機サーフコーダET-4000にてピクセル部分の膜の最大段差(R_(max))を測定した。結果を表1に併記する。また、ピクセル内の膜プロファイルを図1に示す。 [0094][表1] [0095] 表1に示したように、流動活性化エネルギーの最も小さい電荷輸送性ワニスAから作製した膜の最大段差が最も小さく、流動活性化エネルギーが大きくなるにつれて最大段差が大きくなっていくことから、電荷輸送性ワニスの流動活性化エネルギーを小さくすることで膜の平坦性を高くすることができることがわかった。」 3 「[図1] 」 第5 引用文献の記載 本願出願前の2013年9月6日に、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2013/129249号(以下、「引用文献」という。)は、本願出願前の技術水準が記載された文献と認められるところ、そこには、以下の記載がある。 「発明を実施するための形態 [0010] 以下、本発明について更に詳しく説明する。 本発明に係る電荷輸送性ワニスは、電荷輸送性モノマーまたは数平均分子量200?50万の電荷輸送性オリゴマーもしくはポリマーからなる電荷輸送物質、またはこの電荷輸送物質およびドーパント物質からなる電荷輸送性材料と、少なくとも1種の良溶媒および少なくとも1種の貧溶媒を含んで構成される混合溶媒と、を含有し、良溶媒および貧溶媒の沸点差ΔT℃の絶対値が、|ΔT|<20℃を満たし、25℃での粘度が7.5mPa・s以下、かつ、23℃での表面張力が30.0?40.0mN/mであり、電荷輸送性材料が、混合溶媒中に溶解または均一に分散しているものである。 ・・・(省略)・・・ [0048] 本発明の電荷輸送性ワニスにおいて、良溶媒および貧溶媒の使用量はワニスの粘度および表面張力が上記範囲を満たすよう、用いる溶媒の種類、並びに電荷輸送性物質等の種類および使用量等に応じて変動するものであるため一概には規定できないが、通常、良溶媒の使用量は、溶媒全体に対して1?90質量%(貧溶媒10?99質量%)であり、好ましくは10?90質量%(貧溶媒10?90質量%)、より好ましくは20?90質量%(貧溶媒10?80質量%)、より一層好ましくは30?90質量%(貧溶媒10?70質量%)である。 ・・・(省略)・・・ [0096] 上記各実施例および比較例で調製したワニスを、スリットダイコーターを用いてITOベタ基板(縦120mm×120mm、厚み0.7mm)に塗布した後、大気中、50℃のホットプレート上で5分乾燥し、230℃のホットプレート上で15分焼成して基板上に薄膜を形成した。 なお、ITO基板は、O_(2)プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)を用いて表面上の不純物を除去してから使用し、スリットコーターの塗布条件は、塗布エリアが120mm×120mm、Gapが20μm、塗工待機時間が4sec、塗工速度が10mm/sec、目標膜厚は30nmとした。 [0097] 次いで、得られた薄膜の膜厚分布を評価した。評価は、正方形状に作製した薄膜の四隅と中央付近の計5箇所を測定し、5箇所の膜厚の面内均一性を膜厚分布として数値化して行った。各ワニスの粘度および表面張力、ワニスの調製に使用した良溶媒と貧溶媒の沸点差〔良溶媒の沸点(℃)-貧溶媒の沸点(℃)〕およびその絶対値、並びに膜厚分布の評価結果を表1?4に示す。 なお、表1ではワニスの粘度が膜厚分布に及ぼす影響を評価し易い例を、表2ではワニスの表面張力が膜厚分布に及ぼす影響を評価し易い例を、表3では良溶媒および貧溶媒との沸点差が膜厚分布に及ぼす影響を評価しやすい例を、それぞれ抽出して列挙した。 また、表4では、単一溶媒組成の比較例11,12の結果を示した。 [0098][表1] [0099] 表1に示されるように、ワニスの粘度が7.5mPa・s以下である実施例1?8で調製したワニスを用いて作製した薄膜は、粘度が7.5mPa・s超である比較例1?3で調製したワニスを使用して作製した薄膜に比べ、膜厚のバラツキが小さいことがわかる。 [0100][表2] [0101] 表2に示されるように、ワニスの表面張力が30.0?40.0mN/mの範囲内である実施例で調製したワニスを用いて作製した薄膜は、表面張力が上記範囲外の比較例4,5で調製したワニスを使用して作製した薄膜に比べ、膜厚のバラツキが小さいことがわかる。 [0102][表3] [0103] 表3に示されるように、良溶媒と貧溶媒との沸点差の絶対値|ΔT|<20℃である実施例で調製したワニスを用いて作製した薄膜は、|ΔT|が20℃以上の比較例6?10で調製したワニスを使用して作製した薄膜に比べ、膜厚のバラツキが小さいことがわかる。」 第6 判断 1 本願明細書の段落[0008]の記載によると、本願発明の課題は、「平坦性の良好な薄膜を与える」ことと認められる。そして、発明の詳細な説明には、上記課題を解決するための方法として、段落[0013]に、「電荷輸送性薄膜形成用ワニス」の「流動活性化エネルギー」を「28kJ/mol以下」とすることが記載されている。 しかしながら、本願明細書には、段落[0014]に、「流動活性化エネルギーが低いほど、粘度の温度依存性が小さい」と記載されているものの、ワニスの流動活性化エネルギーと、ワニスから形成される薄膜の平坦性との関係については記載されておらず、出願時の技術常識に照らしても、その関係は明らかではない。 また、例えば、引用文献の段落[0048]に、「良溶媒および貧溶媒の使用量はワニスの粘度および表面張力が上記範囲を満たすよう、用いる溶媒の種類、並びに電荷輸送性物質等の種類および使用量等に応じて変動するものであるため一概には規定できない」と記載され、段落[0097]に「ワニスの粘度が膜厚分布に及ぼす」、「ワニスの表面張力が膜厚分布に及ぼす」及び「良溶媒および貧溶媒との沸点差が膜厚分布に及ぼす」と記載されているとおり、薄膜の平坦性は、流動活性化エネルギーのみで一概に決まるものではなく、ワニスの粘度、表面張力、溶媒の沸点や、これらの指標に影響を及ぼす材料組成に依存するものと認められる。そうしてみると、ワニスの流動活性化エネルギーの好適な上限値は、その材料組成により変化するものと考えられる。 そして、本願明細書には、「流動活性化エネルギーが28kJ/mol以下」である「電荷輸送性薄膜形成用ワニス」として、実施例1?5に記載の電荷輸送性薄膜形成用ワニスが記載されるのみであり、実施例1?5に記載されたもの以外の材料からなる電荷輸送性薄膜形成用ワニスであっても、「流動活性化エネルギー」を「28kJ/mol以下」とすることにより、上記課題を解決できることについて、具体的に確認されているとはいえない(当合議体注:例えば、各実施例における「有機化合物」は、いずれも本件出願の発明の詳細な説明の段落[0085]に記載された、分子量が685程度である「式(2)で表されるアニリン誘導体」にとどまるから、分子量が5000である「有機化合物」や、構造が全く異なる「有機化合物」の場合についてまで、上記課題を解決できることが具体的に確認されているとはいえない。)。 そうしてみると、本願明細書の記載を総合的に勘案しても、材料組成が特定されていない「電荷輸送性薄膜形成用ワニス」について、請求項1に記載の条件を満足すれば課題を解決できるといえる根拠は見いだせない。また、当業者が本願出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるということもできない。 したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。 2 この点につき、出願人は令和元年9月20日に提出した意見書において、「上記補正によって、電荷輸送性物質の分子量の上限を特定した。本願実施例に開示された内容から、当業者であれば、この範囲の分子量を有する電荷輸送性物質を用いる場合は本願発明の効果を奏することは、容易に理解することができる。」と主張している。 しかしながら、前記1で述べたとおり、ワニスの流動活性化エネルギーの好適な上限値は、その材料組成により変化するものと考えられるから、電荷輸送性物質の分子量の上限を請求項1に記載のとおり特定するのみでは、本願発明の課題を解決できるといえる根拠は見いだせない。 したがって、出願人の意見は採用できない。 第7 むすび 以上のことから、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-11-01 |
結審通知日 | 2019-11-05 |
審決日 | 2019-11-19 |
出願番号 | 特願2016-523538(P2016-523538) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 素川 慎司 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
宮澤 浩 高松 大 |
発明の名称 | 薄膜の平坦化方法、平坦化薄膜の形成方法及び薄膜形成用ワニス |
代理人 | 特許業務法人英明国際特許事務所 |