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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1358586
異議申立番号 異議2018-701029  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-19 
確定日 2019-10-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6355512号発明「不活化ワクチン製剤、並びに感染症予防方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6355512号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正することを認める。 特許第6355512号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 [第1]主な手続の経緯
特許第6355512号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年4月18日に出願された特願2014-86474号(優先権主張2013年7月19日 日本国)の一部を平成26年10月3日に新たな特許出願として出願され、平成30年6月22日にその特許権の設定登録がされ、同年7月11日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成30年12月19日に特許異議申立人宇佐美貴史(以下「申立人1」ということがある)により、また、平成31年1月11日に特許異議申立人森田裕(以下「申立人2」ということがある)により、特許異議の申立てがされ、平成31年3月4日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月25日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、令和元年6月13日に申立人2より訂正の請求に対し意見書が提出されたものである。
なお、訂正の請求に対し、申立人1にも意見書提出の機会を与えたが、応答がなかった。


[第2]訂正請求について

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正事項の内容は次の(1)及び(2)のとおりである。

(1)訂正事項1:請求項1?4からなる一群の請求項に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1に
「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(学名「Lactococcus garvieae」、以下同じ。LC1301株(受託番号NITE P-01653、以下同じ)を除く。)の不活化菌体を含有する、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤。」
と記載されているのを、
「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(学名「Lactococcus garvieae」、以下同じ。LC1301株(受託番号NITE P-01653、以下同じ)を除く。)の不活化菌体を含有する、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤。
ただし、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」とは、抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさないことを意味する。」
に訂正する。

(2)訂正事項2:請求項5に係る訂正
特許請求の範囲の訂正前の請求項5に
「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(LC1301株を除く。)の菌体を不活化する工程を含む、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤製造方法。」
と記載されているのを、
「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(LC1301株を除く。)の菌体を不活化する工程を含む、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤製造方法。
ただし、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」とは、抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさないことを意味する。」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1において、
1) 「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(学名「Lactococcus garvieae」、以下同じ。LC1301株(受託番号NITE P-01653、以下同じ)を除く。)」並びに「ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」について、本件特許明細書中の実施例2及びその結果を示す図1?2や実施例5及びその結果を示す図7?8における、「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」菌の例であるLC1301株やLC1311株が、魚類のブリやカンパチに対しレンサ球菌症をもたらすことの記載に基づき、「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ・・・」を「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ・・・」に限定し、かつ、「ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」を「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に限定する; と共に、
2) 「ラクトコッカス・ガルビエ」菌の血清学的性質である「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」について、本件特許明細書の【0006】の記載を踏まえると、形式上、次のア)、イ):
ア) 抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず(-)、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさない(-)
イ) 抗KG-抗血清に対しては凝集反応を起こさない(-)、が、抗KG+抗血清に対しては凝集反応を起こす(+)
のどちらも含むと解される(なお、このように解釈される点については、要すれば後述の「【第4】取消理由通知書に記載した取消理由について」の1.(1)を参照のこと)ように記載されているのを、「ただし、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」とは、抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさないことを意味する。」とのただし書を加えることにより、上のア)の血清学的性質を有する態様のみに限定する;
ものであるから、「ラクトコッカス・ガルビエ」菌並びに「魚類レンサ球菌症」のそれぞれを限定するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、これらの訂正は新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項5は、請求項5において、
1) 「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(LC1301株を除く。)」並びに「ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」について、訂正事項1の上記(1)1)と同様にそれぞれ限定する; と共に、
2) 「ラクトコッカス・ガルビエ」菌における「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」について、訂正事項1の上記(1)2)と同様に限定する;
ものであるから、「ラクトコッカス・ガルビエ」菌並びに「魚類レンサ球菌症」のそれぞれを限定するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、これらの訂正は新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、これを認める。


[第3]訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明(以下、順に「訂正発明1」?「訂正発明5」ということがあり、また、これらをまとめて単に「訂正発明」ということがある)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

『 【請求項1】
魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(学名「Lactococcus garvieae」、以下同じ。LC1301株(受託番号NITE P-01653、以下同じ)を除く。)の不活化菌体を含有する、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤。
ただし、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」とは、抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさないことを意味する。
【請求項2】
不活化前の菌体の量が10^(3)?10^(11)CFU/mLであり、一回当たりの投与量が0.05?3.0mLである請求項1記載の不活化ワクチン製剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の不活化ワクチンと、血清型がKG-型又はKG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する不活化ワクチンと、を含有する混合不活化ワクチン製剤。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の不活化ワクチン製剤、又は、請求項3記載の混合不活化ワクチン製剤を投与する、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症の予防方法。
【請求項5】
魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(LC1301株を除く。)の菌体を不活化する工程を含む、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤製造方法。
ただし、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」とは、抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさないことを意味する。 』


[第4]取消理由通知書に記載した取消理由について

1.取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して平成31年3月4日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次の(1)及び(2)のとおりである。(以下、(1)、(2)を取消理由1、取消理由2ということがある。)

(1)(i) 請求項1?4の「ラクトコッカス・ガルビエ(学名「Lactococcus garvieae」、以下同じ。LC1301株(受託番号NITE P-01653、以下同じ)を除く。)」、並びに請求項5の「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(LC1301株を除く。)」における各
「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」
とは、
「血清型が 非「KG-型」であり、かつ、非「KG+型」である」
ことを示す記載となっているところ、本件特許明細書の次の記載:
『【0006】 ラクトコッカス・ガルビエには、KG-型及びKG+型の2つの血清型が知られている。KG-型は、抗KG-抗血清による凝集反応がおこり、抗KG+抗血清による凝集反応がおこらない株であり、夾膜を有し、病原性の高い型である。一方、KG+型は、抗KG-抗血清と抗KG+抗血清の両者による凝集反応がおきる株であり、夾膜がなく、KG-型よりも病原性の低い型である(非特許文献1及び非特許文献2参照)。』(下線は当審による)
によれば、上述の「KG-型」、「KG+型」とは、それぞれ
・「KG-型」:「抗KG-抗血清による凝集反応がおこり、抗KG+抗血清による凝集反応がおこらない」こと
・「KG+型」:「抗KG-抗血清と抗KG+抗血清の両者による凝集反応がおきる」こと
を意味するものと認められるから、ここでいう「KG-型」、「KG+型」は、そのいずれにおいても、「抗KG-抗血清による凝集反応は起こる」ものと認められる。
そうすると、結局、請求項1の
「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」
即ち
「血清型が 非「KG-型」であり、かつ、非「KG+型」 である」
L.ガルビエ(ラクトコッカス・ガルビエ)とは、形式上、血清学的に次のア)のL.ガルビエ菌株のみならず、イ)のL.ガルビエ菌株をも含むものと解されることになる。
ア) 抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず(-)、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさない(-)
イ) 抗KG-抗血清に対しては凝集反応を起こさない(-)、が、抗KG+抗血清に対しては凝集反応を起こす(+)

(ii) しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記ア)の血清学的性質を示すL.ガルビエ菌株については、例えばLC1301株[要すれば、当該LC1301株に関する本件特許明細書【0016】中の次の記載:
『 (22)抗KG-抗血清:-
(23)抗KG+抗血清:- 』
を参照のこと]等の具体的な開示及び裏付けが認められるものの、イ)のL.ガルビエ菌株については、何ら具体的な開示及び裏付けがなされていると認めることはできない。

(iii) よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?5のうち、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」が上記イ)の血清学的性質のものである「ラクトコッカス・ガルビエ」の不活化菌体を含有するワクチン製剤の態様についてまで、当業者が理解かつ実施することができるといえる程度の明確かつ十分な記載がなされているとはいえず、また、本件発明1?5のうち、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」が上記イ)の血清学的性質のものである「ラクトコッカス・ガルビエ」の不活化菌体を含有するワクチン製剤の態様は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるから、本件発明1?5に係る特許は特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号の規定に違反して特許されたものである。

(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?5に係る不活化ワクチン製剤のうち、
・魚類のレンサ球菌症の起因菌とならない任意の「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」L.ガルビエの不活化菌体を含有するワクチン製剤の態様、
又は、
・「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」L.ガルビエ以外の任意のL.ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症を適用対象とするワクチン製剤の態様、
についてまでは、当業者が理解かつ実施することができる程度の明確かつ十分な記載がなされているとはいえず、また、本件発明1?5に係る不活化ワクチン製剤のうち、
・魚類のレンサ球菌症の起因菌とならない任意の「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」L.ガルビエの不活化菌体を含有するワクチン製剤の態様、
又は、
・「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」L.ガルビエ以外の任意のL.ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症を適用対象とするワクチン製剤の態様、
は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるから、本件発明1?5に係る特許は特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号の規定に違反して特許されたものである。

2.合議体の判断(訂正発明における、取消理由1,2を含む実施可能要件違反及びサポート要件違反に関する判断)

訂正発明1?5では、取消理由1に関し、訂正発明1?5の各「「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」ラクトコッカス・ガルビエ」が「「抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさない」ラクトコッカス・ガルビエ」に限定されている。
また、訂正発明1?5では、取消理由2に関し、訂正発明1?5において不活化される各「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」が「魚類のレンサ球菌症の起因菌である」ものに限定され、かつ、訂正発明1?5における各適用対象である「魚類レンサ球菌症」の起因菌である「ラクトコッカス・ガルビエ」が「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」ものに限定されている。

そして、当該限定された訂正後の請求項1?5に係る発明については、上記の取消理由1、2に係る記載不備はもはや存在せず、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載がその他の実施可能要件違反を有するものでもなく、特許請求の範囲の記載がその他のサポート要件違反を有するものでもないことを、以下に示す。

(1)実施可能要件について

(i) 訂正発明1について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしている;
とは、
本件特許明細書の発明の詳細な説明において、当業者が訂正発明1を実施することができる程度の明確かつ十分な記載がなされている;
ということであり、これは、いいかえれば、
当業者が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載に基づいて、訂正発明1に係る不活化ワクチン製剤をつくることができ、かつ使用することができる;
といえることに他ならない。

(ii) そこで、(i)の観点を踏まえつつ検討するに、本件特許明細書及び図面には、以下のような記載がある。(下線は合議体による)

ア)「【背景技術】
【0002】 ・・・。魚類のレンサ球菌症には、主に、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とするα溶血性レンサ球菌症と、ストレプトコッカス・イニエ(学名「Streptococcus iniae」)を起因菌とするβ溶血性レンサ球菌症などがある。
・・・
【0005】 現在、ブリ属魚類を対象としたラクトコッカス・ガルビエに対するワクチン製剤として、例えば、ホルマリンにより不活化した不活化ワクチン、ホルマリンで不活化したものを濃縮した不活化ワクチン、・・・などの単味ワクチン製剤、二種混合ワクチン製剤、三種混合ワクチン製剤などが用いられている。
・・・
【0007】 ラクトコッカス・ガルビエに関する魚類のワクチンとして、・・・。その他、非特許文献3には、2012年9月に魚病検査に持ち込まれたカンパチから、従来のα溶血性レンサ球菌の診断用抗血清による凝集試験では全く凝集しない、ラクトコッカス・ガルビエと同じグループの菌株を分離したことが記載され、既知のものとは異なるレンサ球菌が養殖現場などにおいて散発している可能性が示唆されている。
・・・
【非特許文献3】養殖ビジネス2013.1;p52-55、「魚病OUTLOOK 第76回、カンパチに発生した新しいレンサ球菌症」
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】 本発明は、新規なラクトコッカス・ガルビエを分離・同定するとともに、その菌を起因菌とする疾患に対する有効な予防手段を提供することなどを目的とする。」

イ)「【課題を解決するための手段】
【0009】 本発明者らは、日本国愛媛県の養殖現場において、ラクトコッカス・ガルビエに対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらずαレンサ球菌症の発症が疑われたブリより新規なラクトコッカス・ガルビエの菌株を独自に分離し、その菌株が非KG-型かつ非KG+型の血清型であることを同定することに成功した。そして、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類のレンサ球菌症では、従来のワクチンが有効でないことを実証するとともに、その新型レンサ球菌症に対する不活化ワクチンの開発に成功し、その有効性を実証した。
・・・
【発明の効果】
【0013】 本発明により、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対し、その発生・伝播・蔓延を予防できる。」

ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】 <ラクトコッカス・ガルビエLC1301株について>
本発明者らは、日本国愛媛県の養殖現場において、ラクトコッカス・ガルビエに対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらずαレンサ球菌症の発症が疑われたブリより、新規なラクトコッカス・ガルビエの菌株を独自に分離し、その菌株が非KG-型かつ非KG+型の血清型であることを同定することに成功した。この分離・同定した菌株をラクトコッカス・ガルビエLC1301株(Lactococcus garvieae LC1301)と命名した。
【0015】 LC1301株の形態的性状としては、通常のラクトコッカス・ガルビエの形態と一致し、通性嫌気性のグラム陽性レンサ球菌の形状を示す。運動性、芽胞形成はない。・・・
【0016】 LC1301株の生化学的性状を以下に示す。
(1)グラム染色性:グラム陽性
・・・
(22)抗KG-抗血清:-
(23)抗KG+抗血清:-
【0017】 ラクトコッカス・ガルビエLC1301株の特許微生物寄託を行った(・・・受託番号:NITE P-01653・・・)。
【0018】 なお、本発明は、不活化することにより、血清型が非KG-型かつ非KG+型であるラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする新型のレンサ球菌感染症を有効に予防できるものであればよく、このLC1301株を用いる場合のみに狭く限定されない。」

エ)「【0022】 不活化菌体は、例えば、培養菌液に対し、物理的処理(紫外線照射、X線照射、熱処理、超音波処理など)、化学的処理(ホルマリン・クロロホルムなどによる有機溶媒処理、・・・)などを行うことにより作製できる。
【0023】 例えば、培養菌液にホルマリンを0.001?2.0%、より好適には0.01?1.0%の容量濃度で添加し、培養菌液を4?30℃で、1?3日間感作することにより、ホルマリンによる不活化を行うことができる。・・・」

オ)「【0047】 不活化ワクチン製剤の投与方法として、例えば、注射法、浸漬法、経口法などが挙げられる。
【0048】 注射法の場合、例えば、・・・不活化前の菌体の量が10^(3)?10^(11)CFU/mLであり、一回当たりの投与量が0.05?3.0mLである不活化ワクチン製剤、その用量で筋肉内又は腹腔内に投与する不活化ワクチン製剤は、ラクトコッカス・ガルビエに対する従来の不活化ワクチンでは予防できない新型の魚類レンサ球菌症の予防に有効である。」
カ)「【実施例1】
【0053】 実施例1では、Lactococcus garvieaeに対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらずαレンサ球菌症の発症が疑われたブリより、原因菌の分離・同定を試みた。
【0054】 愛媛県愛南町のブリ養殖場において、2013年4月、分養殖作業の際、L.garvieaeに対する従来の不活化ワクチンを投与した養殖魚群中より、α溶血性レンサ球菌症が疑われる個体5尾を認めた。
・・・
【0056】 罹患個体のうちの1尾(体重:1,950g、体長:44.5cm)の脳を採取し、菌分離を試みた。・・・
【0057】 分離菌の顕微鏡検査を行った結果、既知のL.garvieaeと同様、グラム陽性レンサ球菌の形状を示した。
【0058】 ・・・特異的プライマーを用いて、PCR法による遺伝子検査を行った結果、L.garvieaeに対する特異的プライマーを用いた場合のみ、増幅が認められた。
【0059】 分離菌の溶血性試験を行った。・・・既知のL.garvieaeと同様の不完全溶血環が形成され、α溶血性を示した。
【0060】 グラム陽性球菌同定キット「Rapid ID32 Strep(日本ビオメリュー)」を用いて、分離菌の生化学的性状試験を行った。・・・分離菌は、既知のL.garvieaeの陽性率と全項目で一致した。
・・・
【0063】 上記の通り、L.garvieaeには、KG-型及びKG+型の2つの血清型が知られている。そこで、抗L.garvieae KS-7M株血清(KG-型)、抗L.garvieae YT-3株血清(KG+型)、抗L.garvieae KG7409株血清(KG+型)の三種類の抗血清を用いて、凝集試験を行った。その結果、いずれの血清においても凝集は確認されなかった。
【0064】
以上の結果より、愛媛県愛南町においてL.garvieaeに対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらずαレンサ球菌症の発症が疑われたブリより分離した菌を、血清型が非KG-型かつ非KG+型の新規のLactococcus garvieaeと同定し、Lactococcus garvieae LC1301と命名した。・・・(受託番号:NITE P-01653)。」

カ)「【実施例2】
【0065】 実施例2では、Lactococcus garvieaeに対する従来の不活化ワクチン製剤が、分離菌(L.garvieae LC1301株)に感染した魚類に対して有効かどうかを検証した。
・・・
【0067】 天然種苗のブリ(投与時平均体重95.0g)10尾及び天然種苗のカンパチ(投与時平均体重113.0g)10尾に、ブリ属魚類用混合不活化ワクチン製剤「ピシバック 注 3混 L-9(共立製薬株式会社製、「ピシバック」は登録商標、以下同じ)」を0.1mLずつ腹腔内注射し・・・た。対照群として、ブリ及びカンパチ各10尾にPBSを0.1mLずつ腹腔内注射し・・・た。
【0068】 14日間経過後、調製したLC1301株の培養菌液を・・・各供試魚に腹腔内注射し、攻撃を行った。攻撃菌量は3.4×10^(7)CFU/尾であった。・・・
【0069】 結果を図1及び図2に示す。・・・
【0070】 図1及び図2に示す通り、ブリとカンパチのいずれにおいても、対照群では生存率が0%であったのに対し、ブリ属魚類用不活化ワクチン製剤で免疫した場合でも生存率は10%にとどまった。この結果は、・・・従来のL.garvieaeに対する従来の不活化ワクチン製剤では、この新型レンサ球菌症を有効に予防できないことを示す。」

キ)(図1、図2)



ク)「【実施例3】
【0071】 実施例3では、血清型が非KG-型かつ非KG+型のLactococcus garvieaeに対する不活化ワクチンを作製し、ワクチンとしての効力を調べた。
【0072】 ・・・L.garvieae LC1301株を・・・振盪培養した。これに終濃度0.3vol%となるよう日本薬局方ホルマリンを加え、・・・不活化菌液を調製した。
【0073】 また、アジュバント乳化抗原の調製を以下の通り行った。・・・、2.0×10^(11)CFU/mLの不活化菌体/PSB溶液60gを調整した。・・・、W/O型のアジュバントであるMONTANIDE ISA-763A VG(SEPPIC社製)140gを氷冷条件で撹拌しながら、不活化菌体/PSB溶液60gを添加し、・・・乳化し、アジュバント乳化抗原とした。
【0074】 天然種苗のブリ(投与時平均体重87.1g)45尾を15尾ずつ三群に分け、各群に、それぞれ、不活化菌液(抗原量:1.4×10^(8)CFU/0.1mL)、アジュバント乳化抗原(:1.0×10^(8)CFU/0.1mL)、PBS(陰性対照物質)を0.1mLずつ腹腔内注射し、それぞれ500L容水槽で14日間飼育した。・・・
・・・
【0076】 14日間経過後、実施例2とほぼ同様の手順で調製したLC1301株の培養菌液をPBSで5倍に希釈した後、0.1mLずつ各供試魚に腹腔内注射し、攻撃を行った。・・・
【0077】 結果を図3に示す。・・・
【0078】 図3に示す通り、PBS投与群(陰性対照)では、ブリの生存率が0%であったのに対し、不活化菌液投与群及びアジュバント乳化抗原投与群では、ブリの生存率が100%であった。また、全ての生存魚について、体色、摂餌行動、遊泳行動などに特に異常は認められず、剖検所見からも特に異常は認められなかった。その他、攻撃に用いた菌は生存魚からは分離されなかった。
【0079】 これらの結果は、血清型が非KG-型かつ非KG+型のL.garvieaeの不活化菌体を含有する不活化ワクチンでブリ属魚類を免疫することにより、従来のワクチンが有効でない新型レンサ球菌症を有効に予防できることを示唆する。」
・・・
【実施例4】
【0081】 実施例4では、血清型が非KG-型かつ非KG+型のL.garvieaeを用いて作製した不活化ワクチンが、既知のL.garvieaeによるレンサ球菌症の予防にも有効かどうか、検討した。
【0082】 実施例3と同様の手順で、不活化菌液及びアジュバント乳化抗原を調製した。実施例3と同様、天然種苗のブリ(投与時平均体重87.1g)45尾を15尾ずつ三群に分け、各群に、それぞれ、不活化菌液(抗原量:1.4×10^(8)CFU/0.1mL)、アジュバント乳化抗原(:1.0×10^(8)CFU/0.1mL)、PBS(陰性対照物質)を0.1mLずつ腹腔内注射し・・・た。
【0083】 実施例2などと同様の手順で、既知のLactococcus garvieae株であるKS-7C株(1997年に静岡県で分離されたブリ由来の株、KG-型)・・・の培養菌液をPBSで5倍に希釈した後、0.1mLずつ各供試魚に腹腔内注射し、攻撃を行った。・・・
【0084】 結果を図4に示す。・・・
【0085】 図4に示す通り、・・・、L.garvieae LC1301株を用いて作製した不活化ワクチンには、死亡の遅延をもたらすものの、既知のL.garvieaeによるレンサ球菌症に対するワクチンとしての効力は認められなかった。」
・・・

ケ)(図3、図4)




コ)「【実施例5】
【0086】 実施例5では、二価混合不活化ワクチンを作製し、ワクチンとしての効力を調べた。
【0087】 L.garvieae LC1301株の不活化菌液の調製を以下の通り行った。・・・LC1301株を・・・振盪培養した。これに終濃度0.2vol%となるよう日本薬局方ホルマリンを加え、・・・、不活化菌液を調製した。・・・、不活化前生菌数は2.7×10^(8)CFU/mLであった。この不活化菌液を遠心分離して上清を除去した後、ホルマリン0.1vol%添加PBSで2倍濃縮し、L.garvieae LC1301株の不活化抗原とした。
【0088】 従来の血清型(KG-型)であるL.garvieae KS-7M株の不活化菌液の調製を以下の通り行った。・・・KS-7M株を・・・培養した。これに終濃度0.3vol%となるよう日本薬局方ホルマリンを加え・・・、不活化菌液を調製した。・・・、不活化前生菌数は1.8×10^(9)CFU/mLであった。この不活化菌液を遠心分離して上清を除去した後、ホルマリン0.1vol%添加PBSで2倍濃縮し、L.garvieae KS-7M株の不活化抗原とした。
【0089】 新血清型であるL.garvieae LC1301株の不活化抗原と、従来血清型であるL.garvieae KS-7M株の不活化抗原を等量混合し、二価ワクチンとした。
【0090】 天然種苗のブリ・・・30尾及び天然種苗のカンパチ・・・27尾に、本実施例で調製した二価ワクチンを0.1mLずつ腹腔内注射し・・・た。対照群として、ブリ29尾及びカンパチ25尾にPBSを0.1mLずつ腹腔内注射し・・・た。・・・
・・・
【0092】 続いて、従来の血清型(KG-型)の攻撃株用として、L.garvieae KS-7C株の培養菌液を調製した。・・・、それぞれ、そのKS-7C株の培養菌液を・・・各供試魚に腹腔内注射し、攻撃を行った。・・・
【0093】
また、新血清型(非KG-型かつ非KG+型)の攻撃株用として、L.garvieae LC1311株の培養菌液を調製した。そして、KS-7C株の場合と同様、・・・、それぞれ、そのLC1311株の培養菌液を・・各供試魚に腹腔内注射し、攻撃を行った。・・・
【0094】 結果を図5?図8に示す。・・・
・・・
【0097】 以上の結果は、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対するこの二価不活化ワクチンが、従来の血清型の魚類レンサ球菌症と新血清型(非KG-型かつ非KG+型)の魚類レンサ球菌症のいずれの防除にも有効であることを示す。従って、本結果は、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とするブリ・カンパチなどの魚類のレンサ球菌症に関して、従来血清型と新血清型の二価不活化混合ワクチンが、新血清型を含む広範な魚類レンサ球菌症の野外での防除に有効であることを示唆する。」

サ)(図5?8)




(iii)ア) (ii)ア)の技術背景を踏まえた(ii)イ)?サ)の摘記事項によれば、本件特許明細書には、次のiii-1)?iii-2)の一連の作業:
iii-1) 例えば、本件特許明細書に例示された、LC1301株の単離及び血清学的・疫病学的性質の同定のために採用された方法・手順((ii)カ)?サ))に基づいて、従来のL.ガルビエ不活化菌体ワクチンを投与したにもかかわらずαレンサ球菌症の発症が疑われる養魚場において、当該症状を示す魚個体から細菌を単離し、当該単離した細菌株群の中から、LC1301株と同様の、ラクトコッカス・ガルビエとしての分類学的性質を示しつつ、次の2つの性質1)、2):
1) 「血清型が非KG-型かつ非KG+型」であって、
2) 従来のL.ガルビエ不活化菌体ワクチンでは予防し得ないあらたなレンサ球菌症の起因菌となる
を併せ有する菌株を同定すること;
iii-2) そのようにして同定された、上記1)及び2)の性質を併せ持つL.ガルビエ菌株を不活化してワクチン成分とし、養魚場のブリやカンパチに投与することにより、それら養魚場において発生し得る、上述のような従来のL.ガルビエ不活化菌体ワクチンでは予防し得なかった「血清型が非KG-型かつ非KG+型」のL.ガルビエを起因菌とするあらたなレンサ球菌症に対し、優れた防護効果がもたらされることを確認すること;
を行うことが、当業者にとり理解かつ実施できるように具体的に記載されているものといえる。

イ) そして、本件特許明細書には、寄託されている上述のLC1301株のみならず、当該LC1301と同様に上記ア)iii-1)の1)、2)の性質を併せ持つものと認められる別のL.ガルビエ菌株であるLC1311株についても併せて記載されていることから、当該LC1311株に係る記載を含む本件特許明細書によれば、上記iii-1)?iii-2)の作業手順を行う過程で、LC1301株以外にもLC1301株と同様の性質を有する他の任意のL.ガルビエ菌株をスクリーニングし単離・取得することは、当業者にとり過度な試行錯誤等を伴うことなくなし得る範囲の事項であると推認される。
( なお、実際に、特許権者が本件特許出願の審査係属時に提出した平成30年4月27日付けの物件提出書に添付された実験成績証明書A,B(申立人2が提出した甲第10号証中でも引用されている)には、(LC1301株が単離された愛媛県以外の)他県の養魚場から、上記LC1301株やLC1311株以外であって「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」である5菌株を単離し得たこと、並びに、それら5菌株をそれぞれ不活化しワクチン製剤として投与することで、上記LC1311株による攻撃(即ち「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」)を有効に予防し得たことが、具体的な試験データと共に示されている。)

(iv) してみれば、「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」であって「LC1301株」以外の任意のL.ガルビエ菌株を取得し、当該菌株を不活化処理して有効成分とする不活化ワクチン製剤を調製すること、並びに、これを「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する」予防のために使用することは、当業者が本件特許明細書の発明の詳細な説明に基づいて行い得たことといえる。

(v) したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が訂正発明1を実施することができる程度の明確かつ十分な記載がなされているといえるから、訂正発明1について本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすものである。
実質的に訂正発明1に係る不活化ワクチン製剤の製造方法と認められる訂正発明5についても同様である。また、訂正発明2に係る「不活化前の菌体の量」を「10^(3)?10^(11)CFU/mL」とし、かつ「一回当たりの投与量」を「0.05?3.0mL」とすることや、訂正発明3?4の「血清型がKG-型又はKG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する不活化ワクチン」との「混合不活化ワクチン製剤」とすることについても、特に(ii)オ)、ク)や(ii)コ)の記載に基づいて当業者が理解しかつ実施することができたといえるから、訂正発明2?4についても本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしているといえる。

(2)サポート要件について

(i) 特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(ii) (i)の点を踏まえつつ、以下検討するに、本件特許明細書の【0002】?【0008】((1)(ii)ア))、特に【0008】の記載からみて、訂正発明により解決しようとする技術課題は、
新規なラクトコッカス・ガルビエの分離・同定、並びに、その菌を起因菌とする魚の疾患に対し有効な予防手段を提供すること
であるといえる。

一方、(1)(ii)?(v)での検討結果を踏まえれば、訂正発明1について、
・LC1301株と同様の、
1) 「血清型が非KG-型かつ非KG+型」であって、
2) 従来のL.ガルビエ不活化菌体ワクチンでは予防し得ないあらたなレンサ球菌症の起因菌となる
L.ガルビエ菌株を同定し、当該取得した菌株を不活化してワクチン成分として投与することで、上述のような従来のL.ガルビエ不活化菌体ワクチンでは予防し得なかった「血清型が非KG-型かつ非KG+型」のL.ガルビエを起因菌とするあらたなレンサ球菌症に対し、優れた防護効果がかもたらされることを確認し得ること;
と共に、
・その過程で、LC1301株以外の、当該LC1301株と同様の性質を有する他のL.ガルビエを過度な試行錯誤等を伴うことなくスクリーニングし単離・取得し得ること;
は、いずれも、本件特許明細書中で裏付けられていることといえる。

そして、このような本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみた当業者であれば、訂正発明1?5に係るあらたな「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」並びに当該菌の不活化菌体を含む不活化ワクチン製剤の提供により、あらたな「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対する予防手段の提供という、上の技術課題が解決されるものと認識することができる。

(iii) したがって、訂正発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、訂正発明1の記載はサポート要件を満たすものである。訂正発明2?5についても同様である。


[第5]特許異議申立書の異議申立理由について

[5-1]申立人1による異議申立理由
1.申立理由の概要
申立人1は、以下の甲第1?7号証を提出し、
本件特許発明1?5は、甲第1号証の記載事項及び甲第2、3、4、5、6、7号証の記載事項に基づいて、もしくは、甲第5号証記載の発明及び甲第1、2号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、これら本件特許発明1?5に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(以下、申立理由1ということがある);
と主張する。

[証拠方法]
・甲第1号証:「養殖ビジネス1月号」、第50巻第1号(通巻625号)・(株)緑書房、平成25年1月1日発行、表紙、52?55頁
・甲第2号証:魚病研究 Fish Pathology,(2015.6) 50(2) P.37-43
・甲第3号証:特開2009-148242号公報
・甲第4号証:魚病研究 Fish Pathology,(2016.6) 51(2) P.44-48
・甲第5号証:特開2007-326794号公報
・甲第6号証:特開2001-103961号公報
・甲第7号証:ぶりα溶血性レンサ球菌症不活化ワクチン(注射型)「Mバック レンサ注」(松研薬品工業株式会社製造)の使用説明書、承認指令書番号:21動薬第2769号、2017年9月改訂(第2版)

以下、上の申立人1による「甲第1号証」?「甲第7号証」を順に「01甲1」?「01甲7」ということがある。

2.01甲1?01甲7の記載事項
原文が英語のものは、申立人1が提出した抄訳を(01甲2については、申立人2が提出した後述の02甲2(01甲2と同一の証拠である)の抄訳をも併せて)考慮しつつ合議体で作成した日本語文で示す。下線は合議体による。
(1)01甲1
・a)52頁 標題、著者
「カンパチに発生した新しいレンサ球菌症
近年は気象の異常を感じる出来事は多く、漁場の水温も上昇傾向にある。そうした中、これまでとは異なった疾病が見られるようになっている。
●水野芳嗣[八幡浜漁業協同組合三瓶支所魚病研究室]」

・b)53頁1段目3?15行
「 2.ブリ類の魚病診断状況
・・・
図1に、昨年度(12年4月?11月)の八幡浜管内におけるブリ類の月別診断状況を示した。診断件数は4月に多く・・・秋(9月、10月)に入ると再び増加している。」

・c)53頁4段目11行?54頁3段目27行
「3.新しいレンサ球菌症
(丸数字1)症状
9月・・・。11日(水温27.1℃)、カンパチの3年魚が魚病検査に持ち込まれた。検体数は2尾で・・・
・・・
(丸数字3)病原体の検出
・・・
壊死した尾柄部患部と腎臓から、細菌分離を行った。・・・。2種類の細菌が分離された。」

・d)54頁3段目28行?55頁2段目31行
「 4.分離菌の性状と薬剤感受性
・・・。それぞれのコロニーを、グラム染色し、顕微鏡で観察すると、どちらも連鎖状の球菌であった。一方の菌体が、少し小さい。明らかに異なる連鎖球菌だ。
表2に、分離菌の培養結果を示した。大きい菌体の細菌は、ラクトコッカス・ガルビエだった。・・・検体1の腎臓からは、不明菌が中程度(++)・・・検体1の体表患部からは、不明菌がたくさん(+++)・・・検体2の腎臓からは、不明菌(+)のみ、検体2の体表患部は、不明菌(++)・・・であった。
連鎖球菌の診断用抗血清を用いて、不明菌のスライド凝集試験を行った・・・。有している連鎖球菌の診断用項血清は、次の4種類だ。α溶血性レンサ球菌(L・ガルビエ)、β溶血性レンサ球菌(ストレプトコッカス・イニエ)、ヒラメの新型レンサ球菌(ストレプトコッカス・パラウベリス)のI型とII型。
・・・。4種類の診断用抗血清には全く凝集せず、白濁している(・・・)。表3に、試験を行ったすべての菌株の結果を示した。分離菌(不明菌)4株は、4つの診断用抗血清にいずれも凝集を示さなかった。すなわち、不明菌は既知の連鎖球菌とは異なるという可能性が示唆された。
・・・
不明菌の薬剤感受性結果を、表4に示した。4株とも、EM(エリスロマイシン)とOTC(塩酸オキシテトラサイクリン)には、完全に耐性であった。・・・」

・e)55頁3段目5?26行
「5.不明菌の同定と予後
9月19日、B大学に菌株を分与し、不明菌の遺伝子学的分類をお願いした。・・・
10月24日、検査結果がメールで届いた。『ブリのα溶血性レンサ球菌症の原因菌L・ガルビエと同じグループの、ラクトコッカス属の細菌』という回答であった。現在、詳細な遺伝子の検査中とも、将来的には病原性も調べるとも、書き添えてあった。ワクチンの効果に関与するのではないか、という懸念もあるようだ。
現在、ブリ類養殖生産地の一部で、既知の魚病細菌ではない連鎖球菌が散発しているようだ。・・・昨年11月に開催された魚病の全国会議でも発生報告があった。八幡浜管内だけの事象ではないらしい。」

・f)54頁表2、55頁表3・表4




・g)55頁3段目32行?4段目8行
「 新しいレンサ球菌症による被害は、今のところたまげるほど大きくはない。・・・病原性は、今のところそれほど強いものではないのかもしれない。」

(2)01甲2
・a)標題
「抗KG^(-)型ウサギ抗血清で凝集を示さないラクトコッカス・ガルビエの単離」

・b)要約
「 要約 - L.ガルビエの莢膜を有する細胞(KG^(-)型細胞)に対するウサギ抗血清に対し凝集しないラクトコッカス ガルビエ様の細菌が、病気のブリから2012年に単離された。当該非凝集性L.ガルビエ様細菌は・・・。当該非凝集性株は参照L.ガルビエ株と同様の形態学的及び生物化学的特徴を示した。これらの結果は、当該非凝集性株がL.ガルビエであることを確認する。・・・」

・c)37頁右欄1?3行
「・・・。2012年及び2013年に、日本の様々な養魚場において、L.ガルビエ様の細菌が以前にワクチン接種された及びされていないブリから単離された。」

・d)38頁左欄1?18行
「 材料及び方法
細菌株
表1に本研究で用いられた株を掲載する。非凝集性L.ガルビエ様株は各々大分県並びに愛媛県の一養魚場から単離された。これらの株は病気のブリの脳又は腎臓組織から単離された。・・・
スライド凝集試験
ブリから単離されたL.ガルビエ株でKG^(-)型ウサギ抗血清に対し凝集し及び凝集しない株は、それぞれ、凝集性及び凝集性L.ガルビエ株として分類した。KG^(-)並びにKG^(+)型細胞に対する抗血清はYoshidaら(1996)により示されたようにして得られた。代表的な非凝集性L.ガルビエ株(121836)に対する抗血清は抗体製造会社(Eurofins Genomics)から得られた。」

・e)表1




・f)40頁右欄16?20行
「・・・非凝集性株は抗KG^(-)又は抗KG^(+)型ウサギ抗血清に対し凝集しなかったが抗121836ウサギ血清に対しては凝集した。」

・g)42頁右欄29?33行
「・・・。新たに出現した非凝集性L.ガルビエを原因とする感染は2014年には多くの養魚場に広がっている。詳細な疫学的調査が養魚場におけるこれら非凝集性L.ガルビエを原因とする感染の解明のために必要である。」

(3)01甲3
・a)10頁34?49行
「 市販のブロッコリスプラウトとカイワレダイコンからラクトコッカス・ガルビエが分離され、それらを東京農業大学応用生物科学部菌株保存室(NRIC)にそれぞれNRIC0607およびNRIC0611として寄託されている。これら野菜からラクトコッカス・ガルビエ分離されることは特別なことではなく、ラクトコッカス・ガルビエは新鮮な野菜に常在し、それをヒトが普通に生食していると示唆される。カワニシらは、公衆衛生の観点から、これらの菌株が莢膜をもたないことを、抗KG(-)ウサギ抗血清と抗KG(+)ウサギ抗血清による凝集反応によって証明している(M. Kawanishi, et al., L. Appl. Microbiol., 2007, 44:481-487(以下「参考文献2」という))。KG(-)抗体は、鹿児島県沖で分離されたラクトコッカス・ガルビエ KG9502株の生菌でウサギを免疫した際に得られた抗体で、ラクトコッカス・ガルビエの莢膜を認識する。一方、KG(+)抗体は、継代によってKG9502株から莢膜をもたない変異株NSS9310株を分離し、その株の生菌でウサギを免疫した際に得られた抗体で、莢膜のないラクトコッカス・ガルビエに対して反応する(非特許文献3)。すなわち、莢膜が存在し、病原性があるラクトコッカス・ガルビエは必ず血清型が抗KG(-)であり、莢膜が存在せず病原性のないラクトコッカス・ガルビエは必ず血清型が抗KG(+)である(上記非特許文献3)。・・・」

(4)01甲4
・a)44頁右欄22行?45頁左欄9行
「・・・。この莢膜が欠失した菌株(KG7409株;鹿児島由来株)を用いて診断用抗血清を作成していたために、莢膜を保有する菌株は抗血清に凝集を示さなかった。KG7409株で作成した抗血清に凝集する株をKG^(+)型、凝集しない菌株をKG^(-)型と呼称した。しかし、KG^(-)型株(莢膜保有株)で作成した抗血清はKG^(-)型株およびKG^(+)型株(莢膜欠失株)の両株を凝集することができた(北尾、1982)。その後KG^(-)株は、電子顕微鏡観察から莢膜を保有していることが証明され、莢膜が無莢膜株(KG^(+)型株)で作成した抗血清の凝集作用を阻止することが判明した。」

(5)01甲5
・a)特許請求の範囲
「【請求項1】 不活化した魚類ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae)を抗原として含有するストレプトコッカス・ディスガラクティエ感染症予防ワクチン。
・・・
【請求項3】 魚類ストレプトコッカス・ディスガラクティエ(Streptococcus dysgalactiae)、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)、およびビブリオ・アングイラルム(Vibrio anguillarum)を抗原として含有する感染症予防ワクチン。
・・・ 」

・b)【0013】
「【0013】 さらに、本発明の別の感染症予防ワクチンは、魚類S. dysgalactiae感染症、L. garvieae感染症、およびV. anguillarum感染症に対して十分な防御免疫を同時賦与できる魚類S. dysgalactiae、L. garvieae、およびV. anguillarumを抗原とする多価の不活化ワクチンであることを特徴とする。・・・」

・c)【0034】
「【0034】 本発明の3種混合不活化ワクチンの抗原とする魚類S. dysgalactiae株、L. garvieae株、およびV. anguillarum株としては、それぞれSD3M株、KS-7M株およびKT-5株を用いることができるが、これらの株に限定されるものではなく、魚類S. dysgalactiae感染症、L. garvieae感染症、およびV. anguillarum感染症の予防に十分な免疫をブリ属魚類の魚に賦与できる抗原性を示す菌株であればSD3M株やKS-7M株やKT-5株以外の菌株でも良い。」

・d)【0041】?【0043】
「【0041】 (4)魚類S. dysgalactiae、L. garvieae、およびV. anguillarumを抗原とした3種混合不活化ワクチンの製造方法
魚類S. dysgalactiae SD3M株、L. garvieae KS-7M株、およびV. anguillarum KT-5株をそれぞれ・・・増殖させた。次いで、増殖させた各菌株に終濃度0.2?0.3 vol%のホルマリンを添加し、25℃で24?48時間攪拌しながら各菌株を不活化した。次に、不活化した各菌液を連続遠心機で遠心して沈査とした後、・・・滅菌精製水を加えて懸濁した。最後に、各菌体懸濁液を混合し(体積比90:5:5)、混合した菌体懸濁液を200mlずつ小分け分注した。
・・・L. garvieae KS-7M株およびV. anguillarum KT-5株の小分け製造品における実質的な菌濃度は、それぞれ2×10^(9)CFU/mlと2×10^(9)CFU/mlとなった。
・・・
本3種混合不活化ワクチンの製造用菌株として用いたL. garvieae KS-7M株およびV. anguillarum KT-5株は、共に市販されているブリ用2種混合ワクチン(ピシバック注ビブリオ+レンサ、共立製薬株式会社製)の製造用株として使用されている。
・・・
【0042】 (5)魚類S. dysgalactiae、L. garvieae、およびV. anguillarumを抗原とした3種混合不活化ワクチンの有効性試験方法
上記のように製造した魚類S. dysgalactiae、L. garvieae、およびV. anguillarumを抗原とした3種混合不活化ワクチンを、1群10?27尾とした3群のカンパチ(平均体重約20?31g)にそれぞれ0.1mlずつ腹腔内注射し、その後2週間飼育観察して供試魚における本ワクチンの安全性を判定した。その後、各群の供試魚に対して、魚類S. dysgalactiaeの攻撃株(04K01株)、L. garvieaeの攻撃株(KS-7C株)、およびV. anguillarumの攻撃株(OK-0301株)のいずれかをそれぞれ1x10^(8) CFU/0.1ml/尾、1x10^(6) CFU/0.1ml/尾および1x10^(6) CFU/0.1ml/尾で腹腔内接種した。このようにして攻撃した3群の供試魚を2週間飼育観察し、供試ワクチンの魚類S. dysgalactiae感染症、L. garvieae感染症、およびV. anguillarum感染症に対する予防効果を判定した。・・・
【0043】 (6)魚類S. dysgalactiae、L. garvieae、およびV. anguillarumを抗原とした3種混合不活化ワクチンの有効性試験結果
・・・
L. garvieae画分の有効性試験においては、L. garvieae攻撃株KS-7C株で攻撃した後2週間が経過するまでに対照群の供試魚は23尾のうち22尾が死亡し、その生残率は4%であった。一方、供試ワクチンを注射した群における生残率は100% (23/23尾)であり、対照群での生残率に比べて高く、対照群での生残率と供試ワクチンを注射した群での生残率の間で統計学的有意差が認められた(p<0.05、Fisherの直接確率計算法)。
・・・ 」

(6)01甲6
01甲6には、
・a)「継代培養しても莢膜が消失しないエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する連鎖球菌」(請求項1)及び当該連鎖球菌の例として「新菌株エンテロコッカス・セリオリシダKG9408(FERM BP-6749)」(請求項3)、並びに、当該KG9408株を含む魚類のレンサ球菌症ワクチン(請求項4?7); が記載されており、
・b)魚類の連鎖球菌症の原因菌として知られた4種類のうちの1種であるα溶血性のエンテロコッカス・セリオリシダ(Enterococcus seriolicida)は、1996年には、ラクトコッカス・ガルビアエ(Lactococcus garvieae)のシノニム(Synonym)とするという報告がなされたものであること(【0002】?【0003】); 当該菌にはKG抗原との反応性によって、2つの抗原型があることが知られており、莢膜がなくKG抗原が細菌細胞の表面に露出しているものをKG+型細菌(KG+)といい、莢膜を有しKG抗原が露出していないものをKG-型(KG-)細菌ということ、野生のものは通常KG-タイプであるが、人工培地で継代することによって、一代?十数代の間に莢膜が消失しKG+に変化すること、KG-タイプの株は莢膜を保有しており、この莢膜が毒性に関与しているとの報告があること(【0004】); が記載されており、
・c)新菌株エンテロコッカス・セリオリシダKG9408は、継代を重ねることにより莢膜が消失する従来公知の連鎖球菌と異なり、60代継代を重ねても莢膜を消失せず、さらに病原性に関与する考えられる繊毛を有していること(【0008】、実施例1);と共に、
・d)エンテロコッカス・セリオリシダKG9408株の2×10^(5)CFU/mlを加えて25℃で24時間培養した培養菌液に対し、0.3%ホルマリンを加え、25℃で48時間不活化した後、遠心・集菌し、得られた菌体を約1×10^(9)CFU/mlに相当するように調整してリン酸緩衝食塩液(pH7.2)に再浮遊した懸濁液を調製し(実施例5)、カンパチに対し1尾当たりこのワクチン液を0.2ml、若しくはブリに対し1尾当たりこのワクチン、その2倍希釈物又は又は4倍希釈物を0.1ml、それぞれ腹腔内注射すると、ワクチン注射しなかったカンパチ/ブリに比してその後のKG9408株チャレンジによるへい死率を低下させる高いワクチン効果をもたらすこと(試験例1?3);
が記載されている。

(7)01甲7
・a)1頁 標題?【用法及び用量】
「 ・・・
動物用生物学的製剤
劇薬 指定医薬品
Mバック レンサ注
(一般的名称:ぶりα溶血性レンサ球菌症不活化ワクチン(注射型))

【本質の説明又は製造方法】
このワクチンはα溶血性レンサ球菌症を呈したブリから分離したラクトコッカス・ガルビエ(KG-型)を製造用培地で培養し、不活化した後、遠心・濃縮して得た菌体をリン酸緩衝食塩液に懸濁し、小分け分注したものです。
・・・
【成分及び分量】
液状不活化ワクチン 1バイアル500mL(5,000尾)中[※合議体注:以下罫線省略]
成 分 分量
主剤 不活化ラクトコッカス・ガルビエ 5×10^(11)CFU以上
F1Y株 不活化前菌数
・・・
【効能又は効果】
ブリ属魚類のα溶血性レンサ球菌症の予防。
【用法及び用量】
・・・麻酔をかけたブリ属魚類・・・の腹腔内・・・に連続注射器を用い、0.1mLを注射する。 」

3.合議体の判断

(1)訂正発明1について

(1-1)01甲1を主引例とした場合の進歩性について

(i)01甲1に記載された発明
上の摘記01甲1a?gによれば、01甲1には、次の発明:
「2012年9月に八幡浜管内で採取された魚病カンパチから単離された、α溶血性レンサ球菌(L.ガルビエ)の診断用抗血清に対し凝集を示さない、ブリのα溶血性レンサ球菌症の原因菌L・ガルビエと同じグループの、ラクトコッカス属の細菌である、「K1」、「B1」、「K2」、「B2」と名付けられた4細菌株」
(以下、「引用発明01-1」ということがある)が記載されているものと認められる。

(ii)対比・判断
(ii-1) 訂正発明1と引用発明01-1を対比するに、両者は
「溶血性レンサ球菌症の起因菌であるラクトコッカス・ガルビエと同じグループのラクトコッカス属の細菌」
の点で一致するが、次の1)、2)の点:
1) 「ラクトコッカス属の細菌」が、訂正発明1では、次の要件A)及びB):
A)「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」(LC1301株を除く)であり
B)「魚類のレンサ球菌症の起因菌である」
を共に満たすものであるのに対し、引用発明01-1では「α溶血性レンサ球菌(L.ガルビエ)の診断用抗血清に対し凝集を示さない」「ブリのα溶血性レンサ球菌症の原因菌L・ラクトコッカス・ガルビエと同じグループの、ラクトコッカス属細菌」と規定されているのみであって、上の要件A)及びB)の要件のいずれも満たさないものである; 加えて
2) 訂正発明1は、上の1)のA)及びB)の要件を満たすL.ガルビエ菌の不活化菌体を含有する「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤」であるのに対し、引用発明01-1はそのような不活化ワクチン製剤に係るものではない;
(以下、1)、2)を順に「相違点1」、「相違点2」ということがある)において、相違する。

(ii-2) 以下、上記相違点1、2についてまとめて検討する。
ア) 01甲1では、引用発明01-1に係る4菌体の血清学的診断に用いた抗「α溶血性レンサ球菌(L・ガルビエ)」血清(摘記01甲1d)が、KG-型であったのかKG+型であったのかについて明示はなく、また、引用発明01-1の4菌株自体、「ブリのα溶血性レンサ球菌症の原因菌L・ガルビエと同じグループの、ラクトコッカス属の細菌」とされているのみである(摘記01甲1e)ことから、当該4菌株のいずれかが上の相違点1A)の要件を満たす、即ち「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」である、ということが、具体的に記載乃至示唆されているとはいえない。しかも、01甲1では、これら4菌株については、それらの病原性等の詳細な疫学的調査が未だ行われていないこと(摘記01甲1e中に「将来的には病原性も調べる・・・」と記載されている)からみて、「魚類のレンサ球菌症の起因菌である」か否かについても明らかにされているとはいえないから、01甲1は、当該4菌株が、上の相違点1B)の要件、即ち「魚類のレンサ球菌症の起因菌である」こと、を満たすものであることを予期させるものでもない。
そうすると、これら4菌株に係る01甲1の記載に基づいても、ラクトコッカス・ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該菌が魚類レンサ球菌症の起因菌となること、並びに、当該菌体の不活化処理物が、当該魚類レンサ球菌症に対するワクチンとして有用な免疫原性を維持し、以て、当該不活化処理物をワクチンの有効成分として用いることで当該「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対し有効な防御効果をもたらしめることは、当業者といえども予測し得なかったという他はない。

イ) また、
・イ1) 01甲2には、2012年に大分県の養魚場における病気のブリから抗L.ガルビエ(KG-型)ウサギ抗血清に対し凝集を示さないL.ガルビエ様の細菌が単離されたことが記載されたこと(摘記01甲2b?d)、並びに、当該単離された細菌として、L.ガルビエに属し、KG-型ウサギ抗血清にもKG+型ウサギ抗血清にも凝集を示さない、即ち「血清型が非KG-型かつ非KG+型」である、「121836」、「122061」と名付けられた2菌株があったことが記載されている(摘記01甲2e)。
しかしながら、01甲2は2015年に頒布された刊行物であって、当該2株がL.ガルビエに属し、かつその血清型が「非KG-型かつ非KG+型」であることまでが、上記2菌株を単離したとされる2012年の時点で公知であったということはできないから、当該01甲2の記載のうち本件特許出願の優先日前に公知の技術事項として把握できる技術事項は、高々、
「2012年に大分県の養魚場において病気のブリから単離された、「121836」株及び「122061」株と名付けられたL.ガルビエ様の2細菌株」
でしかない。しかも、これら2株については、魚類に対する病原性等の詳細な疫学的性質が本件特許出願の優先日の時点で明らかにされていたとも認められない(このことは、02甲2中でも、当該02甲2の頒布年である2015年の時点で未だ「詳細な疫学的調査が養魚場におけるこれら非凝集性L.ガルビエを原因とする感染の解明のために必要である。」(摘記01甲2g)とされていることからも理解できる)から、本件特許出願の優先日前において、これら2菌株が魚類レンサ球菌症の起因菌であることもまた、明らかであったとはいえない。
・イ2) 01甲3には、L.ガルビエが莢膜を持たないことを抗KG(-)ウサギ抗血清及び抗KG(+)ウサギ抗血清による凝集反応によって証明できることが記載されている(摘記01甲3a)だけで、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌であることについて、何ら記載乃至示唆するものではない。
・イ3) 01甲4は、それ自体は2016年に頒布されたものであって、莢膜が欠失したL.ガルビエKG7409株を用いて作成した診断用抗血清を用いると莢膜を保有する菌株は凝集を示さず、KG7409株で作成した抗血清に凝集する株をKG^(+)型、凝集しない菌株をKG^(-)型と呼称していること、KG^(-)型株(莢膜保有株)で作成した抗血清はKG^(-)型株およびKG^(+)型株(莢膜欠失株)の両株を凝集することができたことが、先行文献「北尾、1982」を引用して記載されているのみで、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌であることについて、何ら記載乃至示唆するものではない。
・イ4) 01甲5には、その摘記01甲5aの請求項3、及びその実施例である摘記01甲5dからみて、
「魚類ストレプトコッカス・ディスガラクティエSD3M株、L.ガルビエ KS-7M株、及びビブリオ・アングイラルムKT-5株の各不活化菌体を抗原として併せて含有し、魚類におけるストレプトコッカス・ディスガラクティエ04K01株、L.ガルビエKS-7C株又はビブリオ・アングイラルムOK-0301株による攻撃に対し有効な防護作用をもたらす、3種混合感染症予防ワクチン」
について記載されているものと認められるが、ここでいうL.ガルビエ KS-7M株、同KS-7C株はいずれもKG-型であって(なお、この点については、要すれば本件特許明細書中の「【0063】 ・・・抗L.garvieaeKS-7M血清(KG-型)・・・」、「【0083】 ・・・既知のLactococcus garvieae株であるKS-7C株(・・・、KG-型)・・・」との記載を参照のこと)、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌であることについて、何ら記載乃至示唆するものではない。
・イ5) 01甲6には、継代培養しても莢膜が消失しないエンテロコッカス・セリオリシダKG9408株、及びその不活化菌体のワクチンとしての投与が当該菌株のカンパチ/ブリへの攻撃に対し死亡率低下作用をもたらすこと等が記載されている(摘記01甲6a?d)が、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌であることについては、記載も示唆もされていない。
・イ6) 01甲7には、KG-型であるL.ガルビエF1Y株の不活化菌体を有効成分とするぶりα溶血性レンサ球菌症ワクチン「Mバック レンサ注」について記載されている(摘記01甲7a)が、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌であることについては、記載も示唆もされていない。

そうすると、01甲2から把握され得る本件特許出願の優先日前に公知の技術事項、及び01甲3?01甲7のいずれからも、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該菌が魚類レンサ球菌症の起因菌となること、並びに、当該菌体の不活化処理物が、当該魚類レンサ球菌症に対するワクチンとして有用な免疫原性を維持し、以て、当該不活化処理物をワクチンの有効成分として用いることで当該「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対し有効な防御効果をもたらしめることは、当業者といえども予測し得なかったという他はない。

ウ) してみれば、01甲1?01甲7の記載を併せ考慮しても、引用発明01-1に基づき、非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を、非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤の有効成分とすることが、当業者にとり容易に想到し得たということはできない。

エ)(訂正発明のあらたな効果について)
そして、本件特許明細書は、訂正発明1に係る「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のL.ガルビエ」の不活化菌体を有効成分とする不活化ワクチン製剤を使用することにより、従来のKG-型L.ガルビエ不活化菌体ワクチン等では予防し得ないあらたな魚類レンサ球菌症の起因菌による攻撃、即ち「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対し、本件特許明細書の実施例3及び図3や実施例5及び図7,8に示されるような予想外の優れた防御効果がもたらされることを、初めて明らかにしたものである。

(ii-3) 以上の検討のとおりであるから、訂正発明1は、01甲1の記載事項及び01甲2?01甲7の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(1-2)01甲5を主引例とした場合の進歩性について

(i)01甲5に記載された発明
上の摘記01甲5aの請求項3、及びその例である摘記01甲5dの3種混合ワクチンの記載からみて、01甲5には、次の発明:
「魚類ストレプトコッカス・ディスガラクティエSD3M株、ラクトコッカス・ガルビエ KS-7M株、及びビブリオ・アングイラルムKT-5株の各不活化菌体を抗原として併せて含有し、魚類におけるストレプトコッカス・ディスガラクティエ04K01株、ラクトコッカス・ガルビエKS-7C株又はビブリオ・アングイラルムOK-0301株による攻撃に対し有効な防護作用をもたらす、3種混合感染症予防ワクチン」
(以下、「引用発明01-5」)が記載されているものと認められる。

(ii)対比・判断
(ii-1) 訂正発明1と引用発明01-5を対比するに、引用発明01-5において不活化する「ラクトコッカス・ガルビエ KS-7M株」及び攻撃菌である「ラクトコッカス・ガルビエKS-7C株」は、いずれも血清型がKG-型であることは周知である(なお、この点については、本件特許明細書中にも「【0063】 ・・・抗L.garvieaeKS-7M血清(KG-型)・・・」、「【0083】 ・・・既知のLactococcus garvieae株であるKS-7C株(・・・、KG-型)・・・」と記載されている)ことを踏まえると、両者は
「魚類レンサ球菌症の起因菌であるラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤」
の点で一致するが、次の3)、4)の点:
3)不活化菌体とする「ラクトコッカス・ガルビエ」が、訂正発明1では「「血清型が非KG-型かつ非KG+型」のラクトコッカス・ガルビエ(LC1301株を除く)」であるのに対し、引用発明01-5では「KG-型」のラクトコッカス・ガルビエである;
4)ワクチン製剤の適用対象である「「魚類レンサ球菌症」の起因菌である「ラクトコッカス・ガルビエ」」が、訂正発明1では「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」ものであるのに対し、引用発明01-5では「KG-型の」ものである;
(以下、3)、4)を順に「相違点3」、「相違点4」ということがある)において、相違する。

(ii-2) 以下、上記相違点3、4についてまとめて検討する。
ア) 01甲5には、引用発明01-5に係るKG-型のラクトコッカス・ガルビエ KS-7M株にかえて、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」L.ガルビエを用いることの記載乃至示唆はなく、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」L.ガルビエ菌自体、記載も示唆もされていない。そして、そうであれば、当該「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌となること、並びに、当該菌の不活化処理物が当該魚類レンサ球菌症に対するワクチンとして有用な免疫原性を維持し、以て、当該不活化処理物をワクチンの有効成分として用いることで当該「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対する有効な防御効果がもたらされることもまた、01甲5に記載乃至示唆されているとはいえない。

イ) また、01甲1については(1-1)(i)?(ii-2)ア)で述べたとおりであり、01甲2については(1-1)(ii-2)イ1)で述べたとおりであって、これら01甲1の記載及び01甲2から把握され得る本件特許出願の優先日前に公知の技術事項のいずれからも、「血清型が非KG-型かつ非KG+型」のL.ガルビエ菌、及び当該菌が魚類レンサ球菌症の起因菌となることと共に、当該菌の不活化菌体ワクチンが「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対して有効な防御効果を実際にもたらしめることについて、予期させる記載乃至示唆を認めることはできない。

ウ) してみれば、01甲1及び01甲2の記載を併せ考慮しても、引用発明01-5に基づき、非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を、非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤の有効成分とすることが、当業者にとり容易に想到し得たということはできない。

エ) そして、(1-1)(ii-2)エ)で述べたとおり、本件特許明細書は、訂正発明1に係る「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のL.ガルビエ」の不活化菌体を有効成分とする不活化ワクチン製剤を使用することにより、従来のKG-型L.ガルビエ不活化菌体ワクチン等では予防し得ないあらたな魚類レンサ球菌症の起因菌による攻撃、即ち「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対し、本件特許明細書の実施例3及び図3や実施例5及び図7,8に示されるような予想外の優れた防御効果がもたらされることを、初めて明らかにしたものである。

(ii-3) 以上の検討のとおりであるから、訂正発明1は、01甲5記載の発明及び01甲1、01甲2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)訂正発明2?5について
訂正発明2?4は、いずれも訂正発明1を直接又は間接的に引用してなる発明であり、また、訂正発明5は、その記載からみて、訂正発明1に係る不活化ワクチン製剤の製造方法に係るものと認められることから、これら訂正発明2?5はいずれも、訂正発明1について(1)で述べたのと同様の理由により、01甲1及び01甲2?01甲7に基づいて、若しくは、01甲5及び01甲1?01甲2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)小括
以上(1)?(2)のとおりであるから、訂正発明1?5は、申立人1が提出した甲第1号証の記載事項及び甲第2、3、4、5、6、7号証の記載事項に基づいて、もしくは、甲第5号証記載の発明及び甲第1、2号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、申立人1による申立理由1は、理由がない。


[5-2]申立人2による異議申立理由

1.申立理由の概要
申立人2は、以下の甲第1?10号証を提出し、概要次の(1)及び(2)の主張をしている。(以下、(1)、(2)を申立理由2-1、申立理由2-2ということがある。)

(1)本件特許の優先日前に既にブリ由来のL.ガルビエの非KG-型かつ非KG+型の株が多数公知であったこと(甲第1?3号証や、甲第4号証及び甲第5-1?5-2号証);
魚類レンサ球菌のワクチンとして、ホルマリンによる不活化菌体を用いた不活化ワクチンを作製することもまた、本件特許の優先日前によく行われていたこと(甲第6-1?甲第8号証); 及び
「非」という用語が「そうでない意を表す」用語であること(甲第9号証);
を踏まえれば、甲第1号証?甲第5-2号証のL.ガルビエの菌体を不活化してワクチンとすることは当業者にとり容易である。
したがって、本件特許発明1?5はこれら甲第1号証?甲第9号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、これら本件特許発明1?5に係る特許は同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)次の(i)?(iii):
(i) 本件特許の優先日前に公知であった非KG-型かつ非KG+型であるラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体のいずれもが、魚類レンサ球菌症に対してワクチン効果を有することが、本件特許明細書から当業者が理解できるようには記載されていないこと;
(ii) 優先日当時の技術常識及び本件特許明細書の記載によれば、従来型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体は、非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(LC1301株)に対してワクチン効果を奏しないし、非KG-かつ非KG+であるLC1301株の不活化菌体は従来型のラクトコッカス・ガルビエに対してワクチン効果を奏しないこと;
(iii) 優先日当時、陸生動物(ウシ、ウマ、ブタ、イヌ及びネコ等)から単離されたラクトコッカス・ガルビエの非KG-型かつ非KG+型の株が多数知られており(甲第4号証)、これら菌株を用いて作製された不活化ワクチンがラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対してワクチン効果を奏することが、本件特許明細書から当業者が理解できるようには記載されていないこと;
から、本件特許特許発明1?5は、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号の規定に違反して特許されたものであり、これら本件特許発明1?5に係る特許は同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

[証拠方法]
・甲第1号証:魚病研究 Fish Pathology,(2015.12) 50(4) P.200-206
・甲第2号証:魚病研究 Fish Pathology,(2015.6) 50(2) P.37-43
・甲第3号証:農研水産第827号の1(平成30年12月10日) 大分県農林水産研究指導センター水産研究部長・末吉隆「細菌分離株の分譲について(回答)」
・甲第4号証:J. APPL. MICROBIOL., (2006) 101 P.496-504
・甲第5-1号証:J. CLINICAL MICROBIOL., (2000) 38(10) P.3791-3795
・甲第5-2号証:J. CLINICAL MICROBIOL., (2000) 38 P.i-xiv
・甲第6-1号証:農林水産省動物医薬品検査所「ポセイドン「レンサ球菌」」の詳細情報 <URL:http://www.nval.go.jp/asp/asp_showDetail_DR.asp?argeCode=4932> プリントアウト1/5?5/5
・甲第6-2号証:農林水産省動物医薬品検査所「Mバック レンサ 注」の詳細情報 <URL:http://www.nval.go.jp/asp/asp_showDetail_DR.asp?argeCode=5133> プリントアウト1/5?5/5
・甲第6-3号証:農林水産省動物医薬品検査所「マリンジェンナー レンサ1」の詳細情報 <URL:http://www.nval.go.jp/asp/asp_showDetail_DR.asp?argeCode=5441> プリントアウト1/5?5/5
・甲第6-4号証:農林水産省動物医薬品検査所「ピシバック 注 ビブリオ+レンサ」の詳細情報 <URL:http://www.nval.go.jp/asp/asp_showDetail_DR.asp?argeCode=4537> プリントアウト1/5?5/5
・甲第6-5号証:農林水産省動物医薬品検査所「“京都微研”マリナコンビ-2」の詳細情報 <URL:http://www.nval.go.jp/asp/asp_showDetail_DR.asp?argeCode=5497> プリントアウト1/4?4/4
・甲第6-6号証:農林水産省動物医薬品検査所「イリド・レンサ・ビブリオ混合不活化ワクチン「ビケン」」の詳細情報 <URL:http://www.nval.go.jp/asp/asp_showDetail_DR.asp?argeCode=10076> プリントアウト1/4?4/4
・甲第6-7号証:農林水産省動物医薬品検査所「ピシバック 注 3混」の詳細情報<URL:http://www.nval.go.jp/asp/asp_showDetail_DR.asp?argeCode=5417> プリントアウト1/5?5/5
・甲第6-8号証:農林水産省動物医薬品検査所「マリンジェンナー イリドビブレン3混」の詳細情報 <URL:http://www.nval.go.jp/asp/asp_showDetail_DR.asp?argeCode=12981> プリントアウト1/4?4/4
・甲第6-9号証:農林水産省動物医薬品検査所「マリンジェンナー ビブレン」の詳細情報 <URL:http://www.nval.go.jp/asp/asp_showDetail_DR.asp?argeCode=11559> プリントアウト1/4?4/4
・甲第7-1号証:DISEASES OF AQUATIC ORGANISMS, (1999) 37 P.121-126
・甲第7-2号証:特許第4081515号公報
・甲第8号証:魚病研究 Fish Pathology,(2012.9) 47(3) P.107-110
・甲第9号証:新村出編 広辞苑第六版,(2008年1月11日 第一刷発行) (株)岩波書店 「ひ【非】」の項
・甲第10号証:本件特許出願(特願2014-204553号)の審査係属時の平成30年4月27日付けの意見書

以下、上の申立人2による「甲第1号証」?「甲第10号証」を順に「02甲1」?「02甲10」ということがある。

2.02甲1?02甲10の記載事項
原文が英語のものは、申立人2が提出した抄訳を考慮しつつ合議体で作成した日本語文で示す。下線は合議体による。

(1)02甲1
・a)標題
「抗KG^(-)型血清非凝集性Lactococcus garvieaeのブリ類に対する病原性と免疫原性」

・b)201頁左欄18?32行
「 古くからブリ由来L.garvieae株には、莢膜の有無によるKG^(-)(莢膜保有型)とKG^(+)(莢膜欠失型)の2種類の変異型が知られているが、抗KG^(-)型ウサギ血清にはKG^(-)、KG^(+)型株ともに凝集することや、KG^(-)型株は継代培養等で莢膜を失いKG^(+)型株へ変化することから、両型は本質的に同一の血清型と考えられている(・・・)。ところが近年、診断用の抗KG^(-)型血清に凝集しないL.garvieae株が、養殖ブリ病魚から分離されるようになった(Oinaka et al.,2015)。血清学的に異なる株の出現が既存ワクチンの効果に影響すれば、ラクトコッカス症がブリ類養殖で再燃することも危惧される。そこで本研究では、新たに出現した非凝集性株について、ブリ類への病原性の確認と、従来のブリ由来株との免疫原性の比較を行った。」

・c)201頁左欄33行?右欄9行
「 材料および方法
供誌菌株
2011年から2013年に大分および愛媛県で9種の養殖海産魚から分離され、PCR法(・・・)でL.garvieaeに同定された29株を供試した(Table1)。・・・
抗血清作製と凝集抗体価測定
KG9408株を免疫抗原とし、・・・ウサギを免疫して抗KG^(-)型血清を作製した。また、ブリ由来供試株のうちスライド凝集反応で抗KG^(-)型血清に凝集しないIJF385株(Oinaka et al.,2015)を免疫抗原として同様に抗血清を作製し、抗IJF385株血清を得た。各供試抗血清は非働化して凝集抗体価測定に供した。」

・d)Table1




・e)206頁左欄下から3行?右欄1行
「Oinaka,D.,・・・(2015):・・・.Fish Pathol.,50,37-43」

※合議体注:b)、c)で引用されているこの文献は、02甲2と同一文献である。

(2)02甲2
02甲2は01甲2と同一の刊行物であって、その記載事項は01甲2について[5-1]2.(2)で摘記したとおり(摘記02甲1a?g)である。

(3)02甲3
・a)標題
「細菌分離株の分譲について」

・b)本文
「 当水産研究部では、魚類の疾病に関係する重要な病原細菌株が新たに単離された場合には、迅速にこれを凍結保存し、対策研究のために公益的観点から外部機関からの依頼に応じて分譲することとしています。
魚類研究50(4)200-206の福田ら(2015)で供試したLactococcus garvieae株である121836株、121941株、121944株、122001株および122061株は、前出文献の著者である当センターの福田らにより単離された株であり、単離した2012年中には、外部機関から文書による依頼に応じて、ワクチンの試作や研究のために、非KG-株として分譲可能な状態にあったことを証明します。なお、株の分譲において守秘義務契約の締結を必要としません。」

(4)02甲4
・a)標題
「日本でブリ属から単離されたLactococcus garvieaeと他の動物(欧州で単離されたマス、陸生動物)との間の病原性、ファージ感受性、および遺伝学的特性の相違」

・b)498頁 表1


(脚注)
^(★)単離物の参照文献は以下の通り:1, Yoshidaら(1996); 2-11, Kawanishiら(2005); 14及び16, Velaら(2000); 20-24及び29-32, Potら(1996)。

^(+ )KG+,抗KG+型及び抗KG-型の両方で凝集した単離物;
KG-,抗KG-型血清のみで凝集した単離物;
not identified,抗KG+型及び抗KG-型の両方では凝集しなかった(was not agglutinated with both anti-KG+ phenotype serum and anti-KG- phenotype serum)か、若しくは通常のウサギ血清で凝集した単離物。」

・c)499頁左欄24?37行
「KG+型及びKG-型に対する抗血清を用いた凝集体形成
血清型は、Yoshidaら(1996)に記載された通りにウサギにおいてKG9502、KG-型(莢膜を有する細胞;Ooyamaら 1999)及びNSS9310、KG+型(莢膜を有しない細胞;Ooyamaら 2002)に対して作製された免疫血清を用いた反応によって確認した。対照に関して、通常のウサギ血清が用いられた。凝集体形成は、スライド凝集体形成反応によって確認された。以前に報告されたように(Kitao 1982)、抗KG+型血清及び抗KG-型血清の両方で凝集体形成する単離物を「KG+型」と判定し、抗KG-型血清のみで凝集体形成する単離物を「KG-型」と判定した。」

・d)500頁左欄19行?右欄4行
「 ブリ(ハマチ)から単離されたATCC49156及びATCC49157、ウシから単離されたATCC43921は、抗KG+型細胞血清によって凝集したが、通常のウサギ血清では凝集しなかった。ブリ属から単離された全ての単離物及びATCC43921は、抗KG-型細胞血清で凝集したが、通常のウサギ血清では凝集しなかった。これらの結果に基づくと、ATCC49156、ATCC49157、ATCC43921は、KG+型の株であると決定され、KG9502、Lg2、Lg6、Lg8、Lg27、Lg38、Lg44、Lg74、Lg96、Lg122、及びLg147はKG-型の株と決定された。他の18の単離物は、抗KG+型及び抗KG-型の両方では凝集しなかった(was not agglutinated with both anti-KG+ phenotype serum and anti-KG- phenotype serum)か、若しくは通常のウサギ血清で凝集したため、同定できなかった。」

・e)504頁右欄6?11行
「Vela,A.I., ・・・ら.(2000) ・・・.J Clin Microbiol 38, 3791-3795」
(5)02甲5-1、02甲5-2
(5-1)02甲5-1
・a)02甲5-1には、02甲4の表1の脚注において、No.14のCP-1株及びNo.16の1684株の参照文献として引用された(摘記02甲4e)文献であって、その表1には、CP-1株の単離年が1991年、1684株の単離年が1997年であったことが記載されている。
(5-2)02甲5-2
・b)また、02甲5-2のi頁右欄15?21行によれば、02甲5-1のジャーナルにおける出版によって、論文著者は、論文において新しく記述されたあらゆるプラスミド、ウイルス及び微生物株等の生きた材料、並びに細胞株が、国の収集所から入手可能であること、又は非商業的目的のために科学コミュニティーの一員に対して適時に合理的費用で入手可能とすることに合意するものと理解することができる。

(6)02甲6-1?02甲6-9

(6-1)02甲6-1
・a)1/5左上
「2019/1/9」
・b)「詳細情報」1/5(罫線省略)
「 商品名称
ポセイドン「レンサ球菌」
一般的名称
ぶりα溶血性レンサ球菌症不活化ワクチン(注射型)
承認年月日 平成13年10月18日
・・・
再審査結果通知日 平成21年8月17日
・・・
主成分
1 ラクトコッカス・ガルビエKG9408(KG-)株不活化菌体(不活化前菌数)
5×10(10)CFU以上/1バイアル(50mL)
薬効分類
細菌ワクチン類
・・・
効能効果
ブリ属魚類の溶血性レンサ球菌症の予防
用法用量
ブリ属魚類・・・の腹腔内・・・に・・・0.1mLを1回注射する。」

(6-2)02甲6-2
・a)1/5左上
「2019/1/9」
・b)「詳細情報」1/5(罫線省略)
「 商品名称
Mバック レンサ 注
一般的名称
ぶりα溶血性レンサ球菌症不活化ワクチン(注射型)
承認年月日 平成14年11月8日
・・・
再審査結果通知日 平成21年8月17日
・・・
主成分
1 ラクトコッカス・ガルビエ F1Y株
(不活化前菌数)5×10(11)CFU以上
薬効分類
細菌ワクチン類
・・・
効能効果
ブリ属魚類の溶血性レンサ球菌症の予防
用法用量
ブリ属魚類・・・の腹腔内・・・に・・・0.1mLを1回注射する。」

(6-3)02甲6-3
・a)1/5左上
「2019/1/9」
・b)「詳細情報」1/5?2/5(罫線省略)
「 商品名称
マリンジェンナー レンサ1
一般的名称
ぶりα溶血性レンサ球菌症不活化ワクチン(注射型)
承認年月日 平成16年8月27日
・・・
再審査結果通知日 平成21年8月17日
・・・
主成分
1 ワクチン 1バイアル(500mL)中
2 ラクトコッカス・ガルビエBY1株不活化菌体(不活化前菌数)
5×10(11)CFU以上
薬効分類
細菌ワクチン類
・・・
効能効果
ブリ属魚類のα溶血性レンサ球菌症の予防
用法用量
ブリ属魚類・・・の腹腔内・・・に・・・0.1mLを1回注射する。」

(6-4)02甲6-4
・a)1/5左上
「2019/1/9」
・b)「詳細情報」1/5?2/5(罫線省略)
「 商品名称
ピシバック 注 ビブリオ+レンサ
一般的名称
ぶりビブリオ病・α溶血性レンサ球菌症混合不活化ワクチン
承認年月日 平成12年5月31日
・・・
再審査結果通知日 平成19年10月4日
・・・
主成分
1 ラクトコッカス・ガルビエ KS-7M株不活化菌(不活化前生菌数)
1.7×10(11)CFU以上/1バイアル(200mL)中
2 ビブリオ・アングイラルム KT-5株不活化菌(不活化前生菌数)
3.3×10(9)CFU以上/1バイアル(200mL)中
薬効分類
細菌ワクチン類
・・・
効能効果
ぶりのα溶血性レンサ球菌症及びぶりのJ-O-3型ビブリオ病の予防
用法用量
体重・・・のブリの腹腔内・・・に・・・0.1mLを1回注射する。」

(6-5)02甲6-5
・a)1/4左上
「2018/10/18」
・b)「詳細情報」1/4(罫線省略)
「 商品名称
“京都微研”マリナコンビ-2
一般的名称
ぶりビブリオ病・α溶血性レンサ球菌症混合不活化ワクチン
承認年月日 平成16年12月15日
・・・
再審査結果通知日 平成19年11月6日
・・・
主成分
1 1バイアル(200mL)中
2 ラクトコッカス・ガルビエSS91-014 G-3株 不活化前生菌数
2×10(11)CFU以上/1バイアル(200mL)
2 ビブリオ・アングイラルムAY-1 G-3株 不活化前生菌数
2×10(10)CFU以上/1バイアル(200mL)
薬効分類
細菌ワクチン類
・・・
効能効果
ブリ属魚類のα溶血性レンサ球菌症及びJ-O-3型ビブリオ病の予防
用法用量
平均魚体重・・・のブリ属魚類の腹腔内・・・に・・・0.1mLを1回注射する。 」

(6-6)02甲6-6
・a)1/4左上
「2018/10/18」
・b)「詳細情報」1/4(罫線省略)
「 商品名称
イリド・レンサ・ビブリオ混合不活化ワクチン「ビケン」
一般的名称
イリドウイルス病・ぶりビブリオ病・α溶血性レンサ球菌症混合不活化ワクチン
承認年月日 平成19年12月27日
・・・
再審査結果通知日 平成26年6月19日
・・・
主成分
1 イサキヒレ株化細胞培養マダイイリドウイルスEhime-1/GF14株不活化ウイルス液
(不活化前ウイルス量)10(8.3)TCID50以上/1バイアル200mL(2,000尾分)
2 ラクトコッカス・ガルビエNo.43株不活化菌液
(不活化前生菌数)10(10.5)CFU以上/1バイアル200mL(2,000尾分)
3 ビブリオ・アングイラルム040755株不活化菌液
(不活化前生菌数)10(10.5)CFU以上/1バイアル200mL(2,000尾分)
薬効分類
細菌ワクチン類
・・・
効能効果
ブリ及びカンパチのイリドウイルス病、α溶血性レンサ球菌症及びビブリオ病(J-O-3型)の予防。
用法用量
ブリ又はカンパチ・・・の腹腔内・・・に・・・0.1mLを1回注射する。 」

(6-7)02甲6-7
・a)1/5左上
「2018/10/18」
・b)「詳細情報」1/5(罫線省略)
「 商品名称
ピシバック 注 3混
一般的名称
イリドウイルス病・ぶりビブリオ病・α溶血性レンサ球菌症混合不活化ワクチン
承認年月日 平成16年4月23日
・・・
再審査結果通知日 平成26年6月16日
・・・
主成分
1 ラクトコッカス・ガルビエ KS-7M株不活化菌(不活化前生菌数)
2.25×10(11)個以上/ワクチン1バイアル(500mL)中
2 ビブリオ・アングイラルム KT-5株不活化菌(不活化前生菌数)
2.50×10(10)個以上/ワクチン1バイアル(500mL)中
3 マダイイリドウイルス YI-717株不活化ウイルス(不活化前ウイルス感染価)
10(9.0)TCID50以上/ワクチン1バイアル(500mL)中
薬効分類
その他のワクチン
・・・
効能効果
ぶり属魚類・・・のα溶血性レンサ球菌症及びJ-O-3型ビブリオ病の予防
ぶり属魚類・・・のイリドウイルスの予防
用法用量
体重・・・のぶり属魚類の腹腔内・・・に・・・0.1mLを1回注射する。 」

(6-8)02甲6-8
・a)1/4左上
「2018/10/18」
・b)「詳細情報」1/4(罫線省略)
「 商品名称
マリンジェンナー イリドビブレン3混
一般的名称
イリドウイルス病・ぶりビブリオ病・α溶血性レンサ球菌症混合不活化ワクチン
承認年月日 平成23年12月7日
・・・
主成分
1 ラクトコッカス・ガルビエBY1株(KG-)不活化菌体 不活化前菌数
1.58×10(10)CFU以上/ワクチン1バイアル(100mL)
2 ビブリオ・アングイラルムBVA1株(J-O-3)不活化菌体 不活化前菌数
1.58×10(10)CFU以上/ワクチン1バイアル(100mL)
3 マダイイリドウイルスBI10株不活化ウイルス液 不活化前ウイルス液 不活化前ウイルス感染力価 10(8.0)TCID50以上
薬効分類
細菌ワクチン類
・・・
効能効果
ブリ及びカンパチのマダイイリドウイルス病、α溶血性レンサ球菌症及びビブリオ病(J-O-3型)の予防
用法用量
ブリ又はカンパチ・・・の腹腔内・・・に・・・0.1mLを1回注射する。 」

(6-9)02甲6-9
・a)1/4左上
「2018/10/18」
・b)「詳細情報」1/4(罫線省略)
「 商品名称
マリンジェンナー ビブレン
一般的名称
ぶりビブリオ病・α溶血性連鎖球菌症混合不活化ワクチン
承認年月日 平成22年4月30日
・・・
主成分
1 ラクトコッカス・ガルビエ BY1 株不活化菌体
不活化前菌数5×10(11)CFU以上/500mL
2 ビブリオ・アングイラルムBVA1 株(J-O-3)不活化菌体
不活化前菌数5×10(10)CFU以上/500mL
薬効分類
細菌ワクチン類
・・・
効能効果
カンパチのα溶血性レンサ球菌症及びJ-O-3型ビブリオ病の予防
用法用量
平均魚体重・・・のカンパチの腹腔内・・・に・・・0.1mLを1回注射する。 」

(7)02甲7-1、02甲7-2

(7-1)02甲7-1
・a)02甲7-1には、ラクトコッカス・ガルビエMS93003株(KG-型)及びその継代培養後に得られたMS93003株(KG+型)(122頁左欄27?37行、表1)をそれぞれホルマリンで不活化したワクチンをブリに各0.5ml腹腔内接種し、その後MS93003株(KG-型)でチャレンジしたこと(122頁右欄21?33行)が記載されている。

(7-2)02甲7-2
・a)02甲7-2には、「ラクトコッカス・ガルビエアエ(エンテロコッカス・セリオリシダ)」に属する「MS93003株」が、腸球菌症に感染したブリから単離された菌であることが記載されている(【0059】)。

(8)02甲8
02甲8には、
・a)ヒラメから単離されたレンサ球菌であるStreptococcus parauberisをホルマリンで不活化してワクチンとしたことや、同ワクチンを1.0×10^(10)CFU/mlに調製すること、および0.1mL/尾で接種することが記載されており(107頁右欄「FKCワクチンの調製」?「供試魚および免疫」); また、
・b)ヒラメにおいてS.iniae単独ワクチンの効果と共に、エドワジエラ症との混合ワクチンでもS.iniae単独攻撃、S.iniaeとEdwardsiella tardaの混合感染を想定した多重攻撃のいずれでも、S.iniaeに対する予防効果が認められていることが記載されている(109頁右欄2?6行)。

(9)02甲9
・a)「ひ【非】」の項
「ひ【非】 ・・・(丸数字4)そうでない意を表す語。「-人道的」 ・・・ 」

(10)02甲10
・a)「2.特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)に関して
・・・
このように、本願では、単に、LC1301株を分離しただけにとどまらず、その性質・特性を具体的に特定し、さらに、従来の不活化ワクチンが効かなかった理由が、血清型が非KG-型かつ非KG+型に変異した点にあることにまで、当業者が理解できる程度に実証し、記載しています。」
・b)「3.特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)について
・・・
上述の通り、本願では、当初明細書の発明の詳細な説明において、単に、LC1301株を分離しただけにとどまらず、その性質・特性を具体的に特定し、さらに、従来の不活化ワクチンが効かなかった理由が、血清型が非KG-型かつ非KG+型に変異した点にあることにまで、当業者が認識できる程度に実証しています。・・・」

3.合議体の判断

3-1.申立理由2-1について

(1)訂正発明1について

(1-1)02甲1又は02甲2を主引例とした場合の進歩性について

(i)02甲1?02甲2から把握される本件特許出願の優先日当時の技術事項について
ア) 02甲2は、申立人1が提出した01甲2と同一の証拠であって、当該02甲2(02甲1)から本件特許出願の優先日前に公知の技術事項として把握できるのは、高々、
「2012年に大分県の養魚場において病気のブリから単離された、「121836」株及び「122061」株と名付けられたL.ガルビエ様の2種の細菌株」
であることは、01甲2について[5-1]3.(1-1)(ii-2)イ1)で述べたとおりである。
そして、02甲1は、当該02甲2を引用した(摘記01甲1b,c中の「(Oinaka et al.,2015)」)、02甲2の記載内容を踏まえた本件特許出願の優先日よりも後の2015年に頒布されたものであって、その表1(摘記02甲1d)中には、02甲2の上記2株の他に、同様に大分県の養魚場から2012年(8月)に「121941」株、「121944」株及び「122001」株を単離したとされているところ、それら3株については02甲2の上記2株と同様、抗L.ガルビエ(KG-型)ウサギ抗血清(抗KG9408株抗血清)に対し凝集を示さないことが記載されている。
そうすると、02甲1の上記3株についても、02甲2(01甲2)の2株について[5-1]3.(1-1)(ii-2)イ2)で述べたのと同様に、L.ガルビエに属し、かつその血清型が「非KG-型かつ非KG+型」であることまでが、上記3株を単離したとされる2012年(8月)の時点で公知であったと推認することはできない。
即ち、これら02甲1及び02甲2を併せた、本件特許出願の優先日前に公知の技術事項として把握できるのは、高々、
「2012年(8月)に 大分県の養魚場において病気のブリから単離された、「121836」株、「121941」株、「121944」株、「122001」及び「122061」株と名付けられたL.ガルビエ様の5種の細菌株」
(以下、これを「引用発明02-1」ということがある)でしかない。

(ii)対比・判断
(ii-1) 訂正発明1と引用発明02-1を対比するに、両者は
「ラクトコッカス・ガルビエ様の細菌」
の点で一致するが、次の5)、6)の点:
5)「ラクトコッカス・ガルビエ様の細菌」が、訂正発明1では、「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型」のラクトコッカス・ガルビエ(LC1301株を除く)」であることが特定されているのに対し、引用発明02-1ではそのような特定はされていない;
6) 訂正発明1は、上の5)の要件を満たすL.ガルビエの不活化菌体を含有する「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤」であるのに対し、引用発明02-1はそのような不活化ワクチン製剤に係るものではない;
(以下、5)、6)を順に「相違点5」、「相違点6」ということがある)において、相違する。

(ii-2) 以下、上記相違点5、6についてまとめて検討する。
ア) 引用発明02-1に係る、02甲1?02甲2から把握し得る本件特許出願の優先日前に公知の技術事項については、上の(i)及び[5-1]3.(1-1)(ii-2)イ2)で示したとおりである。即ち、これら02甲1?02甲2からは、引用発明02-1に係る5菌株が「血清型が非KG-型かつ非KG+型」であるのか否か、について、本件特許出願の優先日前に当業者にとり明らかであったということはできない。この点、当該5菌株に係る02甲3の「・・・単離した2012年中には、外部機関から文書による依頼に応じて、ワクチンの試作や研究のために、非KG-株として分譲可能な状態にあったことを証明します・・・」(摘記02甲3b)との記載を踏まえても同様である。
しかも、02甲3の記載を併せ踏まえたとしても、引用発明02-1の5株について、魚類に対する病原性等の詳細な疫学的性質が本件特許出願の優先日の時点で明らかにされていたとも認められない(このことは、02甲2中でも、当該02甲2の2株について、頒布年である2015年の時点で未だ「詳細な疫学的調査が養魚場におけるこれら非凝集性L.ガルビエを原因とする感染の解明のために必要である。」(摘記01甲2g)とされていることからも理解できる)から、本件特許出願の優先日前において、これら5菌株が魚類レンサ球菌症の起因菌であることもまた、明らかであったとはいえない。
そうすると、引用発明02-1に係る、02甲1?02甲2から把握し得る本件特許出願の優先日当時の技術事項に基づいても、ラクトコッカス・ガルビエに血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該菌が魚類レンサ球菌症の起因菌となること、並びに、当該菌体の不活化処理物が、当該魚類レンサ球菌症に対するワクチンとして有用な免疫原性を維持し、以て、当該不活化処理物をワクチンの有効成分として用いることで、当該「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対する有効な防御効果をもたらしめることは、当業者といえども予測し得なかったという他はない。

イ) また、
・イ1) 02甲4の表1(摘記02甲4b)中には、スペインでマスから単離された、L.ガルビエに属するNo.14「CP-1」株及びNo.16「1684」株について記載されており、これら2株に関する02甲5-1の記載(摘記02甲5-1a)及び当該02甲5-1のジャーナルの投稿規定に関する02甲5-2の記載(摘記02甲5-2b)によれば、これら2株のいずれも本件特許出願の優先日前に当業者にとり入手可能であったことが理解できる。
しかしながら、02甲4の表1の脚注(摘記02甲4b)によれば、当該「CP-1」株及び「1684」株の2株の血清学的性質は、「not identified」、即ち
1) 抗KG+型及び抗KG-型の両方では凝集しなかった(was not agglutinated with both anti-KG+ phenotype serum and anti-KG- phenotype serum)(これは、抗KG+、抗KG-のどちらか一方の抗血清では凝集したかもしれないが、両方の抗血清に対し凝集を示したわけではないことを示しているものと解される);
か、若しくは
2) 通常のウサギ血清で凝集した
とされているところ、これら1)、2)の血清学的性質はいずれも、「非KG-型かつ非KG+型の」、即ち「抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさないこと」と同義であるとは認められない。
そうすると、02甲5-1及び02甲5-2の記載を踏まえたとしても、このような「CP-1」株及び「1684」株に係る02甲4の記載から、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌であることについての記載乃至示唆を把握することはできない。
イ2) 02甲6-1?02甲6-9には、KG-型であるL.ガルビエKG9408株(02甲6-1b)等の既知のL.ガルビエ菌株の不活化菌体を含む魚類レンサ球菌症の予防用ワクチン製剤(02甲6-1?02甲6-3)若しくは他種の不活化菌体を併せ含む混合ワクチン製剤(02甲6-4?02甲6-9)、並びにそれらの用法・用量について記載されているのみで、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌であることについての記載乃至示唆を認めることはできない。
イ3) 02甲7-1には、KG-型のL.ガルビエMS93003株を継代培養すると莢膜を欠失したKG+型のL.ガルビエMS93003株が得られること、これらMS93003株(KG-型)及びMG93003株(KG+)株の各菌体をそれぞれ不活化してワクチンとして接種したこと等が記載されており(摘記02甲7-1a)、02甲7-2には当該MS93003株が腸球菌症に感染したブリから単離された菌であることが記載されている(摘記02甲7-2a)が、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌であることについては記載も示唆もされていない。
イ4) 02甲8には、ヒラメから単離されたレンサ球菌であるStreptococcus parauberisをホルマリンで不活化したワクチン、若しくはそれと他種菌体との混合ワクチン、並びにそれらのワクチンの用法・用量について記載されているが(摘記02甲8a、b)、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌であることについては記載も示唆もされていない。
イ5) 02甲9は、「非」がそうでない意を表すことを示すのみで、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌であることについては記載も示唆もされていない

即ち、02甲4?02甲9のいずれからも、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌となること、並びに、当該菌の不活化菌体ワクチンが「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対して有効な防御効果を実際にもたらしめることについて、予期させる記載乃至示唆を認めることはできない。

ウ) してみれば、02甲1?02甲9の記載を併せ考慮しても、引用発明02-1に基づき、非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を、非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤の有効成分とすることが、当業者にとり容易に想到し得たということはできない。

エ) そして、[5-1]3.(1)(1-1)(ii-2)エ)で述べたとおり、本件特許明細書は、訂正発明1に係る「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のL.ガルビエ」の不活化菌体を有効成分とする不活化ワクチン製剤を使用することにより、従来のKG-型L.ガルビエ不活化菌体ワクチン等では予防し得ないあらたな魚類レンサ球菌症の起因菌による攻撃、即ち「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対し、本件特許明細書の実施例3及び図3や実施例5及び図7,8に示されるような予想外の優れた防御効果がもたらされることを、初めて明らかにしたものである。

(ii-3) 以上の検討のとおりであるから、訂正発明1は、02甲3を踏まえた02甲1?02甲2の記載事項及び02甲4?02甲9の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(1-2)02甲4を主引例とした場合の進歩性について

(i)02甲4に記載された発明
02甲4の表1(摘記02甲4b)中の、No.14「CP-1」株及びNo.16「1684」株、並びに、それら2株に係る脚注の引用文献である02甲5-1及びその投稿規定に関する02甲5-2の記載を併せ踏まえると、02甲4には、次の発明:
「 1991年にスペインでマスから単離された、以下の性質を有するラクトコッカス・ガルビエ「CP-1」株、並びに、1997年にスペインでマスから単離された、以下の性質を有するラクトコッカス・ガルビエ「1684」株、の2株
「CP-1」株:
・ブリ・ハマチに対する致死性:8/10、50%致死量:6.3×10^(7)CFU
・マウスに対する致死性:0/10
・血清型:Not identified(抗KG+型及び抗KG-型の両方では凝集しなかったか、若しくは通常のウサギ血清で凝集した)(莢膜-)
「1684」株
・ブリ・ハマチに対する致死性:2/10
・マウスに対する致死性:1/10
・血清型:Not identified(抗KG+型及び抗KG-型の両方では凝集しなかったか、若しくは通常のウサギ血清で凝集した)(莢膜-) 」
(以下、「引用発明02-4」ということがある)が記載されているものと認められる。

(ii-1)対比・判断
訂正発明1と引用発明02-4を対比するに、両者は
「魚類レンサ球菌症の起因菌であるラクトコッカス・ガルビエ」
の点で一致するが、次の7)、8)の点:
7) 「ラクトコッカス・ガルビエ」の性質について、訂正発明1では「魚類レンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型」(LC1301株を除く)であるのに対し、引用発明02-4では血清型が「Not identified(抗KG+型及び抗KG-型の両方では凝集しなかったか、若しくは通常のウサギ血清で凝集した)」である;
8)訂正発明1は、7)の血清学的性質を有する「魚類レンサ球菌症の起因菌であるラクトコッカス・ガルビエ」の不活化菌体を含有する「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤」であるのに対し、引用発明02-4はそのような不活化ワクチンに係るものではない;
(以下、7)、8)を順に「相違点7」、「相違点8」ということがある)において、相違する。

(ii-2) 以下、上記相違点7、8についてまとめて検討する。
ア) (1-1)(ii-2)イ1)で述べたとおり、引用発明02-4に係る2菌株の血清型「Not identified」即ち「抗KG+型及び抗KG-型の両方では凝集しなかったか、若しくは通常のウサギ血清で凝集した」とは、
1) 抗KG+型及び抗KG-型の両方では凝集しなかった(was not agglutinated with both anti-KG+ phenotype serum and anti-KG- phenotype serum)(これは、抗KG+、抗KG-のどちらか一方の抗血清では凝集したかもしれないが、両方の抗血清に対し凝集を示したわけではないことを示しているものと解される);
か、若しくは
2) 通常のウサギ血清で凝集した
のいずれかを意味するものであって、これら1)、2)の血清学的性質はいずれも、「非KG-型かつ非KG+型の」、即ち「抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさないこと」と同義であるとは認められない。
そうすると、02甲5-1及び02甲5-2の記載を踏まえたとしても、このような引用発明02-4の「CP-1」株及び「1684」株に係る02甲4の記載に基づいて、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該菌が魚類レンサ球菌症の起因菌となること、並びに、当該菌体の不活化処理物が当該魚類レンサ球菌症に対するワクチンとして有用な免疫原性を維持し、以て、当該不活化処理物をワクチンの有効成分として用いることで、当該「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対する有効な防御効果をもたらしめることは、当業者といえども予測し得なかったという他はない。

イ) また、02甲1?02甲3については(1-1)(i)及び(ii-2)ア)で述べたとおりであり、02甲6-1?02甲9については(1-1)(ii-2)イ2)?イ4)で述べたとおりであって、これら02甲3を踏まえた02甲1?02甲2から把握され得る本件特許出願の優先日前に公知の技術事項、及び02甲6-1?02甲9のいずれからも、L.ガルビエ菌に血清型が非KG-型かつ非KG+型のものがあることや、当該L.ガルビエ菌が魚類レンサ球菌症の起因菌となること、並びに、当該菌の不活化菌体ワクチンが「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対して有効な防御効果を実際にもたらしめることについて、予期させる記載乃至示唆を認めることはできない。

ウ) してみれば、これら02甲1?02甲3、甲5-1?02甲9から把握される本件特許出願の優先日当時の技術水準を併せ考慮しても、引用発明02-4に基づき、非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を、非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤の有効成分とすることが、当業者にとり容易に想到し得たということはできない。

エ) そして、(1-1)(ii-2)エ)で述べたとおり、本件特許明細書は、訂正発明1に係る「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のL.ガルビエ」の不活化菌体を有効成分とする不活化ワクチン製剤を使用することにより、従来のKG-型L.ガルビエ不活化菌体ワクチン等では予防し得ないあらたな魚類レンサ球菌症の起因菌による攻撃、即ち「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対し、本件特許明細書の実施例3及び図3や実施例5及び図7,8に示されるような予想外の優れた防御効果がもたらされることを、初めて明らかにしたものである。

(ii-3) 以上の検討のとおりであるから、訂正発明1は、02甲5-1?02甲5-2を踏まえた02甲4の記載事項、及び02甲1?02甲3、02甲6-1?02甲9の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)訂正発明2?5について
訂正発明2?4は、いずれも訂正発明1を直接又は間接的に引用してなる発明であり、また、訂正発明5は、その記載からみて、訂正発明1に係る不活化ワクチン製剤の製造方法に係るものと認められることから、これら訂正発明2?5はいずれも、訂正発明1について(1)で述べたのと同様の理由により、02甲1?02甲9に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)申立人2の主張について
ア) なお、申立人2は、申立理由2-1に関連して、令和元年6月13日付けの意見書において、参考資料1?11を提出すると共に概要次のア1)のような主張をしている。

ア1) 02甲1の201頁左欄第2段落第1文の箇所において、魚類レンサ球菌症の起因菌となるL.ガルビエでは、抗KG-型ウサギ抗血清にはKG-型株もKG+株も共に凝集することや、KG-型株は継代培養等で莢膜を失いKG+型へ変化することから、両型は実質的に同一の血清型と考えられている旨記載されていること; 当該02甲1の記載箇所で引用されている「北尾、1982」(参考資料6)にも、同様の内容の記載がみられること; や、その他の参考資料の記載をも併せ考慮すると、抗KG-抗血清に含まれる抗体のいずれに対しても凝集反応しない菌がKG+型で作製した抗KG+抗血清に対してだけ凝集するとは考えられないから、あるL.ガルビエ菌株において抗KG-抗血清に対し凝集しないこと(即ち「非KG-型」であること)が明らかでさえあれば、当該菌は「抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさない」、即ち、訂正発明の「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」L.ガルビエである蓋然性が高い。
そうすると、02甲1?02甲2に示され、02甲3により「単離した2012年中には、外部機関から文書による依頼に応じて、ワクチンの試作や研究のために、非KG-株として分譲可能な状態にあった」(摘記02甲3b)とされている、引用発明02-1に係る5菌株((1-1)(i))は、訂正発明に係る「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」である蓋然性が高い。

イ) しかしながら、当該02甲3やその他02甲4?02甲9の記載を考慮しても、02甲1?02甲2から把握される本件特許出願の優先日当時の技術事項を以ては、
・引用発明02-1に係る5菌株が「抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさない」ラクトコッカス・ガルビエ、即ち「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」であることが明らかであった、とはいえないし; また、そのような「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」が魚類レンサ球菌症の起因菌となり、当該「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」菌体の不活化処理物が、当該魚類レンサ球菌症に対するワクチンとして有用な免疫原性を維持し、以て、当該不活化処理物をワクチンの有効成分として用いることで、当該「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症」に対する有効な防御効果をもたらすことは、当業者といえども予測し得なかったこと;
・そして、訂正発明1?5に係る、「魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」の不活化菌体を有効成分とする不活化ワクチン製剤を使用することにより、従来のKG-型L.ガルビエ不活化菌体ワクチン等では予防し得ないあらたな魚類レンサ球菌症の起因菌による攻撃、即ち「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌」に対し、予想外の優れた防御効果がもたらされることが、本件特許明細書で初めて明らかにされていること;
は、(1-1)(ii)で検討・説示したとおりである。
よって、申立人2による上のア1)の主張は、合議体による上述の(1-1)(ii)の進歩性に係る判断を何ら妨げるものではなく、採用できない。

(4)小括
以上(1)?(3)のとおりであるから、訂正発明1?5は、申立人2が提出した甲第1号証?甲第9号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、申立人2による申立理由2-1は、理由がない。


3-2.申立理由2-2について

(1) 訂正発明1?5では、「「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」ラクトコッカス・ガルビエ」が「「抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさない」ラクトコッカス・ガルビエ」に限定されている。
また、申立理由2-2(1.(2))における、申立人2による主張(i)?(iii)のうち、
・(i)及び(iii)に関し、訂正発明1?5では、不活化する「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」(LC1301株を除く)は「魚類のレンサ球菌症の起因菌である」ものに限定されており;
・(ii)に関し、訂正発明1?5では、不活化菌体ワクチン製剤の適用対象である「魚類レンサ球菌症」の起因菌となる「ラクトコッカス・ガルビエ」は「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」ものに限定されている。
そして、これらの限定がなされた訂正発明1?5について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしていること、及び、訂正発明1?5が本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載で裏付けられており、サポート要件を満たすものであることは、[第4]2.(1)及び(2)で検討・説示したとおりである。

(2)申立人2の主張について
ア) なお、申立人2は、申立理由2-2に関連して、提出した特許異議申立書、及び令和元年6月13日付けの意見書並びににおいて、概要次のア1)及びア2)の点を主張している。
ア1) 「血清型が非KG-型かつ非KG+型」とは、血清型がKG-型でもなくKG+型でもないというだけの意味しか有しておらず(02甲9)、「非KG-型かつ非KG+型」を満たす、免疫原性の異なるありとあらゆる株を包含する表現となっているところ、そのような株がどのような免疫原性を共有する株であるのかは不明であること; また、特許権者自身、02甲10において、本件特許明細書では「単に、LC1301株を分離しただけにとどまらず、その性質・特性を具体的に特定し、さらに、従来の不活化ワクチンが効かなかった理由が、血清型が非KG-型かつ非KG+型に変異した点にあることにまで、当業者が認識できる程度に実証しています」と述べているにもかかわらず、従来のワクチンが効かなくなった理由である上記変異について、どのような変異であるかが特定されていないこと;
から、「免疫原性がKG-型でもKG+型でもない」という否定的な限定を付したところで、そのような株がどのような免疫原性を共有する株であるのか、本件特許明細書からは理解できない。
ア2) 本件特許発明及び訂正発明は、不活化する「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」として、そのような血清学的性質を示すあらゆるL.ガルビエ菌株を包含するものとなっているが、本件特許明細書でそのような菌株として開示されているのは、不活化菌体をLC1301株から作製した場合のみであり、しかも、当該LC1301株は本件特許発明の不活化対象である「血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ」から除外されている。

イ) しかしながら、訂正発明1?5について、不活化対象とするL.ガルビエの共通の免疫原性や変異が特定されていなくとも、
・LC1301株と同様の、
1) 「血清型が非KG-型かつ非KG+型」であって、
2) 従来のL.ガルビエ不活化菌体ワクチンでは予防し得ないあらたなレンサ球菌症の起因菌となる
L.ガルビエ菌株を同定し、当該取得した菌株を不活化してワクチン成分として投与することで、上述のような従来のL.ガルビエ不活化菌体ワクチンでは予防し得なかった「血清型が非KG-型かつ非KG+型」のL.ガルビエを起因菌とするあらたなレンサ球菌症に対し、優れた防護効果がかもたらされることを確認し得ること; そして、
・その過程で、LC1301株以外の、当該LC1301株と同様の性質を有する他のL.ガルビエを過度な試行錯誤等を伴うことなくスクリーニングし単離・取得し得ること;
が、いずれも本件特許明細書により開示されまた裏付けられていることは、[第4]2.(1)及び(2)で述べたとおりである。
よって、申立人2による上のア1)及びア2)の主張は、上述の[第4]2.(1)及び(2)の実施可能要件及びサポート要件に係る判断を妨げるものではなく、採用できない。

(3) 以上(1)?(2)のとおりであるから、訂正発明1?5については、特許明細書の発明の詳細な説明が特許法第36穣第4項第1号の規定に違反しているとはいえず、また、特許請求の範囲が同法同条第6項第1号の規定に違反しているともいえない。
よって、申立人2による申立理由2-2は、理由がない。


[第6]むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、並びに、申立人1及び申立人2による各特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(学名「Lactococcus garvieae」、以下同じ。LC1301株(受託番号NITE P-01653、以下同じ)を除く。)の不活化菌体を含有する、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤。
ただし、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」とは、抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさないことを意味する。
【請求項2】
不活化前の菌体の量が10^(3)?10^(11)CFU/mLであり、一回当たりの投与量が0.05?3.0mLである請求項1記載の不活化ワクチン製剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の不活化ワクチンと、血清型がKG-型又はKG+型のラクトコッカス・ガルビエの不活化菌体を含有する不活化ワクチンと、を含有する混合不活化ワクチン製剤。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の不活化ワクチン製剤、又は、請求項3記載の混合不活化ワクチン製剤を投与する、ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症の予防方法。
【請求項5】
魚類のレンサ球菌症の起因菌である血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエ(LC1301株を除く。)の菌体を不活化する工程を含む、血清型が非KG-型かつ非KG+型のラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類レンサ球菌症に対する不活化ワクチン製剤製造方法。
ただし、「血清型が非KG-型かつ非KG+型の」とは、抗KG-抗血清に対し凝集反応を起こさず、かつ、抗KG+抗血清に対しても凝集反応を起こさないことを意味する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-30 
出願番号 特願2014-204553(P2014-204553)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 大久保 元浩
冨永 みどり
登録日 2018-06-22 
登録番号 特許第6355512号(P6355512)
権利者 共立製薬株式会社
発明の名称 不活化ワクチン製剤、並びに感染症予防方法  
代理人 丹羽 俊輔  
代理人 丹羽 俊輔  

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