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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16C
管理番号 1358590
異議申立番号 異議2019-700254  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-03 
確定日 2019-11-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6402490号発明「直動案内装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6402490号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし2について、訂正することを認める。 特許第6402490号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6402490号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、平成26年5月21日に出願されたものであって、平成30年9月21日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月10日にその特許掲載公報が発行され、これに対し、その請求項1ないし2に係る発明の特許について、平成31年4月3日に特許異議申立人 矢島 弘文 により特許異議の申立てがされたものである。
その後、令和1年6月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内の令和1年9月3日(9月2日付け)に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和1年10月10日(同日付け)に特許異議申立人より意見書の提出があったものである。

そして、特許異議申立人は特許異議申立書に添付して次の甲第1ないし6号証を提出した。
(1)甲第1号証:特開2012-13469号公報
(2)甲第2号証:欧州特許第1502700号明細書
(3)甲第3号証:特開平4-265810号公報
(4)甲第4号証:特開平9-303390号公報
(5)甲第5号証:特開昭64-26017号公報
(6)甲第6号証:特開昭59-73623号公報

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和1年9月2日付けの訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記上面変位計測センサは、前記上面の少なくとも異なる三点に対する計測ができるように前記スライダに設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように前記スライダに設置され、」と記載されているのを、「前記上面変位計測センサは、前記上面の少なくとも異なる三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記胴部の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記上面変位計測センサの先端が前記胴部と前記上面との間の空間に配置されるように設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され、」と訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記取付面変位計測センサは、前記レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように前記スライダに設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように前記スライダに設置され、」と記載されているのを、「前記取付面変位計測センサは、前記レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の下面を開口とするように形成された凹部に設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され、」と訂正する。

(3) したがって、特許権者は、特許請求の範囲を、次の訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを請求する(下線は訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは、前記案内レールの幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記案内レール及び前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記案内レールの長手方向に延び、
前記転動体は前記転動通路に配置され、
前記転動体を介して前記案内レールに対して前記スライダが移動し、
前記案内レールの上面に対する前記胴部の変位を計測する上面変位計測センサと、前記案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサを有し、
前記上面変位計測センサは、前記上面の少なくとも異なる三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記胴部の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記上面変位計測センサの先端が前記胴部と前記上面との間の空間に配置されるように設置され、
前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され、
前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記上面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる直動案内装置。
【請求項2】
案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは、前記案内レールの幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記案内レール及び前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記案内レールの長手方向に延び、
前記転動体は前記転動通路に配置され、
前記転動体を介して前記案内レールに対して前記スライダが移動し、
前記案内レールが固定されているレール取付面に対する前記脚部の変位を計測する取付面変位計測センサと、前記案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサを有し、
前記取付面変位計測センサは、前記レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の下面を開口とするように形成された凹部に設置され、
前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され、
前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記取付面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる直動案内装置。」

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否並びに一群の請求項
(1) 訂正事項1は、請求項1の「上面変位計測センサ」について、それが「前記スライダに設置され」としていたものを「前記スライダに前記胴部の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記上面変位計測センサの先端が前記胴部と前記上面との間の空間に配置されるように設置され」とすることで、特許請求の範囲を限定するとともに、同じく請求項1の「側面変位計測センサ」について、それが「前記スライダに設置され」としていたものを「前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され」とすることで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、同条第9項で準用する同法126条6項に適合するものである。そして、特に、本件願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0019】?【0023】及び特許請求の範囲の記載内容からみて、本件願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。

なお、令和1年10月10日付けの意見書において特許異議申立人は、本件特許明細書によれば「スライダ」が「スライダ本体」、「エンドキャップ」及び「サイドシール」を含むことに基づき、本件訂正はいわゆる新規事項の追加がある旨主張するが(2頁下から16?8行及び3頁下から11?3行)、本件訂正前に「前記スライダに設置され」としていたものを、さらにその態様を具体的に限定して「前記スライダに」「設置され」とすることで、本件願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、当該主張は採用できない。

(2) 訂正事項2は、請求項2の「取付面変位計測センサ」について、それが「前記スライダに設置され」としていたものを「前記スライダに前記脚部の下面を開口とするように形成された凹部に設置され」とすることで、特許請求の範囲を限定するとともに、同じく請求項2の「側面変位計測センサ」について、それが「前記スライダに設置され」としていたものを「前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され」とすることで、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、同条第9項で準用する同法126条6項に適合するものである。そして、特に、本件特許明細書の段落【0046】?【0049】及び特許請求の範囲の記載内容からみて、本件願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合するものである。

(3) 本件訂正前の請求項1ないし2は、それぞれ他の請求項の記載を引用する関係にないから、一群の請求項の関係になく、請求項1ないし2に係る訂正は請求項ごとに請求された訂正である。

3 むすび
よって、本件訂正に係る訂正事項1ないし2は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条4項、並びに、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし2について、訂正することを認める。

第3 取消理由についての判断
1 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明2」といい、それらを総合して「本件発明」ともいう。)は、本件訂正により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものである(「第2 1 (3)」参照。)。

2 取消理由の概要
本件訂正前に当審が通知した令和1年6月27日付けの取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、甲第1又は3号証に記載された発明に基き、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

3 当審の判断
(1) 引用発明
(ア) 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、特に、段落【0023】、【0026】?【0028】及び図3?5の記載並びに直動軸受に係る技術常識からすると、以下の「甲1発明」が記載されていると認められる。

「レール21と、可動部22aと、複数のボールとを有し、
前記可動部22aは、前記レール21の幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記レール21及び前記可動部22aは、互いに対向する位置に、前記ボールの転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記レール21のC方向に延び、
前記ボールは前記転動通路に配置され、
前記ボールを介して前記レール21に対して前記可動部22aが移動し、
前記レール21の上面に対する前記可動部22a両側面に取り付けた一対のキー41、42の変位を測定する変位センサ45と、前記レール21の側面部に対する前記可動部22aの一方側面の変位を測定する変位センサ48を有し、
前記変位センサ45は、前記可動部22a両側面に取り付けた一対のキー41、42の上面の3点P1、P2、P3に対する測定ができるように前記レール21に設けたマグネットスタンド43のセンサ取付治具44に固定され、
前記3点P1、P2、P3のうちの点P3と点P1は、前記レール21の横方向の直線上に位置する互いに間隔L2を隔てた点であり、点P2は、前記点P1と前記レール21のC方向の直線上に位置する互いに間隔L1を隔てた点であり、
前記変位センサ48は、前記レール21の側面部の2点P4、P5に対する測定ができるように前記可動部22aの一方側面に取り付けたマグネットスタンド46のセンサ取付治具47に固定され、
前記2点P4、P5は、前記レール21のC方向の直線上に位置する互いに間隔L3を隔てた点であり、
前記変位センサ45および前記変位センサ48による変位測定値から前記可動部22aに作用している荷重およびモーメントが測定できる直動軸受2。」

(イ) 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、特に段落【0002】?【0004】、【0008】?【0016】及び図1?3の記載並びに直線運動軸受装置の技術常識からすると、以下の「甲3発明」が記載されていると認められる。

「レール8と、スライダ6と、複数の転動体28とを有し、
前記スライダ6は、前記レール8の幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記レール8及び前記スライダ6は、互いに対向する位置に、前記転動体28の転動通路を形成する溝29、30をそれぞれ有し、
前記溝29、30は前記レール8の長手方向に延び、
前記転動体28は前記転動通路に配置され、
前記転動体28を介して前記レール8に対して前記スライダ6が移動し、
前記レール8が固定されているベース9の上面とスライダ6の脚部に取り付けたブラケット10との間隔を測定する変位検出器11、12、13と、前記ベース9に取り付けたサブプレート16とスライダ6の脚部に取り付けたブラケット10との間隔を測定する変位検出器14、15を有し、
前記変位検出器11、12、13は、前記ベース9の上面の異なる三点に対する測定ができるように前記スライダ6に取り付けたブラケット10に取り付けられ、
前記三点のうちの変位検出器11と変位検出器13の取付け位置は、前記ベース9の長手方向で同じ位置に配置され、変位検出器12の取付け位置は、前記変位検出器11の取付け位置と前記ベース9の長手方向に垂直な方向で同じ位置に取り付けられ、
前記変位検出器14、15は、前記ベース9に取り付けたサブプレート16の異なる二点に対する計測ができるように前記スライダ6に取り付けたブラケット10に取り付けられ、
前記二点は、前記ベース9の長手方向に垂直な方向で同じ位置に取り付けられ、
前記変位検出器11、12、13および前記変位検出器14、15による変位量の測定により前記スライダのローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量を検知する直線運動軸受装置。」

(2) 本件発明1について
(ア) 甲1発明に基いて
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「レール21」は本件発明1の「案内レール」に相当する。以下、同様に、「可動部22a」は「スライダ」に、「ボール」は「転動体」に、「C方向」は「長手方向」に、「レール21の上面に対する前記可動部22a両側面に取り付けた一対のキー41、42の変位を測定する」態様は「案内レールの上面に対する前記胴部の変位を計測する」態様に、「変位センサ45」は「上面変位計測センサ」に、「レール21の側面部に対する前記可動部22aの一方側面の変位を測定する」態様は「案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する」態様に、「変位センサ48」は「側面変位計測センサ」に、「3点P1、P2、P3」は「三点」に、「点P3」は「第一の点」に、「点P1」は「第二の点」に、「点P3と点P1は、前記レール21の横方向の直線上に位置する互いに間隔L2を隔てた点であ」る態様は「第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され」る態様に、「点P2」は「第三の点」に、「点P2は、前記点P1と前記レール21のC方向の直線上に位置する互いに間隔L1を隔てた点であ」る態様は「第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」る態様に、「レール21の側面部の2点P4、P5」は「一側面の少なくとも異なる二点」に、「測定」は「計測」に、「2点P4、P5は、前記レール21のC方向の直線上に位置する互いに間隔L3を隔てた点であ」る態様は「二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」る態様に、「変位測定値」は「変位計測値」に、「モーメント」は「モーメント荷重」に、「直動軸受2」は「直動案内装置」に、それぞれ相当する。
また、本件発明1の「上面変位計測センサは、前記上面の少なくとも異なる三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記胴部の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記上面変位計測センサの先端が前記胴部と前記上面との間の空間に配置されるように設置され」る態様と、甲1発明の「変位センサ45は、前記可動部22a両側面に取り付けた一対のキー41、42の上面の3点P1、P2、P3に対する測定ができるように前記レール21に設けたマグネットスタンド43のセンサ取付治具44に固定され」る態様とは、「上面変位計測センサは、少なくとも異なる三点に対する計測ができるように設置され」る態様の限りにおいて一致している。
そして、本件発明1の「側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され」る態様と、甲1発明の「変位センサ48は、前記レール21の側面部の2点P4、P5に対する測定ができるように前記可動部22aの一方側面に取り付けたマグネットスタンド46のセンサ取付治具47に固定され」る態様とは、「側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され」る態様の限りにおいて一致している。

したがって、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは、前記案内レールの幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記案内レール及び前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記案内レールの長手方向に延び、
前記転動体は前記転動通路に配置され、
前記転動体を介して前記案内レールに対して前記スライダが移動し、
前記案内レールの上面に対する前記胴部の変位を計測する上面変位計測センサと、前記案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサを有し、
前記上面変位計測センサは、少なくとも異なる三点に対する計測ができるように設置され、
前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され、
前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記上面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる直動案内装置。」

(相違点)
(相違点1) (案内レールの上面に対する胴部の変位を計測する)「上面変位計測センサは、少なくとも異なる三点に対する計測ができるように設置され」る態様に関し、本件発明1は、「上面変位計測センサは、前記上面の少なくとも異なる三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記胴部の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記上面変位計測センサの先端が前記胴部と前記上面との間の空間に配置されるように設置され」るのに対し、甲1発明では、「変位センサ45は、前記可動部22a両側面に取り付けた一対のキー41、42の上面の3点P1、P2、P3に対する測定ができるように前記レール21に設けたマグネットスタンド43のセンサ取付治具44に固定され」る点。

(相違点2) (案内レールの一側面に対する脚部の変位を計測する)「側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され」る態様に関し、本件発明1は、「側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され」るのに対し、甲1発明では、「変位センサ48は、前記レール21の側面部の2点P4、P5に対する測定ができるように前記可動部22aの一方側面に取り付けたマグネットスタンド46のセンサ取付治具47に固定され」る点。

上記相違点1及び2について検討する。
甲第2号証には、リニア軸受において、「キャリッジ8に作用している各方向の荷重F_(Y),F_(Z)及びモーメント荷重M_(R),M_(N),M_(G)を測定するために、レール2に対するキャリッジ8の変位を検出する距離センサ31?38をキャリッジ8に取り付けた測定ハウジング27,28に格納する」点が記載されている(特に、甲第2号証の段落[0001]、[0044]、[0045]、[0048]及びFig.3、4の記載参照。なお、後記「第4 2」も参照。)。
また、甲第3号証には、直線運動軸受装置において、「ベース9に対するスライダ6の変位量を検出する変位検出器11、12、13をスライダ6に取り付けたブラケット10に取り付ける」点が記載されている(特に、甲第3号証の【請求項1】の項、段落【0011】及び図1?3の記載参照。なお、前記「(1) (イ)」も参照。)。
そして、甲第4ないし6号証には、直動案内装置において、センサを設置することは記載されていない。
そうすると、直動案内装置において、センサをスライダに取り付けた測定ハウジング27,28やブラケット10に設置することが甲第2及び3号証に記載されているとしても、甲第2ないし6号証には、少なくともセンサをスライダに設けた「貫通穴」に固定する点に関し、本件発明1の上記相違点1及び2に係る構成が記載されているとはいえない。また、当該構成が周知技術であるとする証拠もないし、当該構成によりスライダが移動しているときにも荷重やモーメントを安定して測定できる等のことからして、単なる設計事項にすぎないということもできない。したがって、甲1発明をして本件発明1の上記相違点1及び2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ) 甲3発明に基いて
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「レール8」は本件発明1の「案内レール」に相当する。以下、同様に、「スライダ6」は「スライダ」に、「転動体28」は「転動体」に、「溝29、30」は「軌道面」に、「二点は、前記ベース9の長手方向に垂直な方向で同じ位置に取り付けられ」る態様は「二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」る態様に、「直線運動軸受装置」は「直動案内装置」に、それぞれ相当する。
また、本件発明1の、「案内レールの上面に対する前記胴部の変位を計測する上面変位計測センサ」は、「前記上面の少なくとも異なる三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記胴部の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記上面変位計測センサの先端が前記胴部と前記上面との間の空間に配置されるように設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」る態様と、甲3発明の、「レール8が固定されているベース9の上面とスライダ6の脚部に取り付けたブラケット10との間隔を測定する変位検出器11、12、13」は、「前記ベース9の上面の異なる三点に対する測定ができるように前記スライダ6に取り付けたブラケット10に取り付けられ、前記三点のうちの変位検出器11と変位検出器13の取付け位置は、前記ベース9の長手方向で同じ位置に配置され、変位検出器12の取付け位置は、前記変位検出器11の取付け位置と前記ベース9の長手方向に垂直な方向で同じ位置に取り付けられ」る態様とは、「スライダの上下方向の変位を計測する上下方向変位計測センサ」は、「少なくとも異なる三点に対する前記上下方向の計測ができるように設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」る態様の限りにおいて一致している。
さらに、本件発明1の、「案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサ」は、「前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され」る態様と、甲3発明の、「ベース9に取り付けたサブプレート16とスライダ6の脚部に取り付けたブラケット10との間隔を測定する変位検出器14、15」は、「前記ベース9に取り付けたサブプレート16の異なる二点に対する計測ができるように前記スライダ6に取り付けたブラケット10に取り付けられ」る態様とは、「脚部の側面方向の変位を計測する側面方向変位計測センサ」は、「少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され」る態様の限りにおいて一致している。
そして、本件発明1の「上面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」態様と、甲3発明の「前記変位検出器11、12、13および前記変位検出器14、15による変位量の測定により前記スライダのローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量を検知する」態様とは、「上下方向変位計測センサおよび側面方向変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している変位量およびローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量が測定できる」態様の限りにおいて一致している。

したがって、本件発明1と甲3発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは、前記案内レールの幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記案内レール及び前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記案内レールの長手方向に延び、
前記転動体は前記転動通路に配置され、
前記転動体を介して前記案内レールに対して前記スライダが移動し、
前記スライダの上下方向の変位を計測する上下方向変位計測センサと、前記脚部の側面方向の変位を計測する側面方向変位計測センサを有し、
前記上下方向変位計測センサは、少なくとも異なる三点に対する前記上下方向の計測ができるように設置され、
前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記側面方向変位計測センサは、少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され、
前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記上下方向変位計測センサおよび側面方向変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している変位量およびローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量が測定できる直動案内装置。」

(相違点)
(相違点A) 「スライダの上下方向の変位を計測する上下方向変位計測センサ」は、「異なる三点に対する前記上下方向の計測ができるように設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」る態様に関し、本件発明1は、「案内レールの上面に対する前記胴部の変位を計測する上面変位計測センサ」は、「前記上面の少なくとも異なる三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記胴部の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記上面変位計測センサの先端が前記胴部と前記上面との間の空間に配置されるように設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」るのに対し、甲3発明では、「レール8が固定されているベース9の上面とスライダ6の脚部に取り付けたブラケット10との間隔を測定する変位検出器11、12、13」は、「前記ベース9の上面の異なる三点に対する測定ができるように前記スライダ6に取り付けたブラケット10に取り付けられ、前記三点のうちの変位検出器11と変位検出器13の取付け位置は、前記ベース9の長手方向で同じ位置に配置され、変位検出器12の取付け位置は、前記変位検出器11の取付け位置と前記ベース9の長手方向に垂直な方向で同じ位置に取り付けられ」る点。

(相違点B) 「脚部の側面方向の変位を計測する側面方向変位計測センサ」は、「異なる二点に対する計測ができるように設置され」る態様に関し、本件発明1は、「案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサ」は、「前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され」るのに対し、甲3発明では、「ベース9に取り付けたサブプレート16とスライダ6の脚部に取り付けたブラケット10との間隔を測定する変位検出器14、15」は、「前記ベース9に取り付けたサブプレート16の異なる二点に対する計測ができるように前記スライダ6に取り付けたブラケット10に取り付けられ」る点。

(相違点C) 「上下方向変位計測センサおよび側面方向変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している変位量およびローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量が測定できる」態様に関し、本件発明1は、「上面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」のに対し、甲3発明では、「変位検出器11、12、13および前記変位検出器14、15による変位量の測定により前記スライダのローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量を検知する」点。

上記相違点について検討する。
まず、上記相違点A及びBについて検討する。
甲第1号証には、直動案内装置において、「レール21に対する可動部22aの変位を測定する変位センサ45、48を、それぞれ、レール21に設けたマグネットスタンド43のセンサ取付治具44と可動部22aに取り付けたマグネットスタンド46のセンサ取付治具47に固定する」点が記載されている(特に、甲第1号証の【請求項1】の項、段落【0011】及び図1?3の記載参照。なお、前記「(1) (ア)」も参照。)。
また、甲第2号証には、リニア軸受において、「キャリッジ8に作用している各方向の荷重F_(Y),F_(Z)及びモーメント荷重M_(R),M_(N),M_(G)を測定するために、レール2に対するキャリッジ8の変位を検出する距離センサ31?38をキャリッジ8に取り付ける測定ハウジング27,28に格納する」点が記載されている(特に、甲第2号証の段落[0001]、[0044]、[0045]、[0048]及びFig.3、4の記載参照。なお、後記「第4 2」も参照。)。
そして、甲第4ないし6号証には、直動案内装置において、センサを設置することは記載されていない。
そうすると、直動案内装置において、甲第1、2及び4ないし6号証には、少なくともセンサをスライダに設けた「貫通穴」に固定する点に関し、本件発明1の上記相違点A及びBに係る構成が記載されているとはいえない。また、当該構成が、周知技術であるとする証拠もないし、当該構成によりスライダが移動しているときにも変位を安定して測定できる等のことからして、単なる設計事項にすぎないということもできない。したがって、甲3発明をして本件発明1の上記相違点A及びBに係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、上記相違点Cについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明(甲3発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 本件発明2について
(ア) 甲1発明に基いて
本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「レール21」は本件発明2の「案内レール」に相当する。以下、同様に、「可動部22a」は「スライダ」に、「ボール」は「転動体」に、「C方向」は「長手方向」に、「レール21の側面部に対する前記可動部22aの一方側面の変位を測定する変位センサ48」は「案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサ」に、「3点P1、P2、P3」は「三点」に、「点P3」は「第一の点」に、「点P1」は「第二の点」に、「レール21の横方向の直線上に位置する互いに間隔L2を隔てた点であ」る態様は「案内レールの長手方向で同じ位置に配置され」る態様に、「点P2」は「第三の点」に、「点P1と前記レール21のC方向の直線上に位置する互いに間隔L1を隔てた点であ」る態様は「第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」る態様に、「2点P4、P5は、前記レール21のC方向の直線上に位置する互いに間隔L3を隔てた点であ」る態様は「二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」る態様に、「変位測定値」は「変位計測値」に、「モーメント」は「モーメント荷重」に、「直動軸受2」は「直動案内装置」に、それぞれ相当する。
また、本件発明2の、「案内レールが固定されているレール取付面に対する前記脚部の変位を計測する取付面変位計測センサ」は、「レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の下面を開口とするように形成された凹部に設置され」る態様と、甲1発明の、「レール21の上面に対する前記可動部22a両側面に取り付けた一対のキー41、42の変位を測定する変位センサ45」は、「可動部22a両側面に取り付けた一対のキー41、42の上面の3点P1、P2、P3に対する測定ができるように前記レール21に設けたマグネットスタンド43のセンサ取付治具44に固定され」る態様とは、「スライダの上下方向の変位を計測する上下方向変位計測センサ」は、「少なくとも異なる三点に対する計測ができるように設置され」る態様の限りにおいて一致している。
さらに、本件発明2の「側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され」る態様と、甲1発明の「変位センサ48は、前記レール21の側面部の2点P4、P5に対する測定ができるように前記可動部22aの一方側面に取り付けたマグネットスタンド46のセンサ取付治具47に固定され」る態様とは、「側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され」る態様の限りにおいて一致している。
そして、本件発明2の「レール取付面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」態様と、甲1発明の「変位センサ45および前記変位センサ48による変位測定値から前記可動部22aに作用している荷重およびモーメントが測定できる」態様とは、「上下方向変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」態様の限りにおいて一致している。

したがって、本件発明2と甲1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは、前記案内レールの幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記案内レール及び前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記案内レールの長手方向に延び、
前記転動体は前記転動通路に配置され、
前記転動体を介して前記案内レールに対して前記スライダが移動し、
前記スライダの上下方向の変位を計測する上下方向変位計測センサと、前記案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサを有し、
前記上下方向変位計測センサは、少なくとも異なる三点に対する計測ができるように設置され、
前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され、
前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記上下方向変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる直動案内装置。」

(相違点)
(相違点i) 「スライダに作用している荷重およびモーメント荷重」を測定するための「スライダの上下方向の変位を計測する上下方向変位計測センサ」は「少なくとも異なる三点に対する計測ができるように設置され」る態様に関し、本件発明2は、「案内レールが固定されているレール取付面に対する前記脚部の変位を計測する取付面変位計測センサ」であって、「レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の下面を開口とするように形成された凹部に設置され」るのに対し、甲1発明では、「レール21の上面に対する前記可動部22a両側面に取り付けた一対のキー41、42の変位を測定する変位センサ45」であって、「可動部22a両側面に取り付けた一対のキー41、42の上面の3点P1、P2、P3に対する測定ができるように前記レール21に設けたマグネットスタンド43のセンサ取付治具44に固定され」る点。

(相違点ii) (案内レールの一側面に対する脚部の変位を計測する)「側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され」る態様に関し、本件発明2は、「側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され」るのに対し、甲1発明では、「変位センサ48は、前記レール21の側面部の2点P4、P5に対する測定ができるように前記可動部22aの一方側面に取り付けたマグネットスタンド46のセンサ取付治具47に固定され」る点。

(相違点iii) 「上下方向変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」態様に関し、本件発明2は、「レール取付面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」のに対し、甲1発明では、「変位センサ45および前記変位センサ48による変位測定値から前記可動部22aに作用している荷重およびモーメントが測定できる」点。

上記相違点について検討する。
まず、上記相違点i及びiiについて検討する。
既に「(2) (ア)」にて検討したように、直動案内装置において、センサをスライダに取り付けた測定ハウジング27,28やブラケット10に設置することが甲第2及び3号証に記載されているとしても、甲第2ないし6号証には、少なくともセンサをスライダに設けた「凹部」及び「貫通穴」に設置する点に関し、本件発明2の上記相違点i及びiiに係る構成が記載されているとはいえない。また、当該構成が周知技術であるとする証拠もないし、当該構成によりスライダが移動しているときにも荷重やモーメントを安定して測定できる等のことからして、単なる設計事項にすぎないということもできない。したがって、甲1発明をして本件発明2の上記相違点i及びiiに係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、上記相違点iiiについて検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ) 甲3発明に基いて
本件発明2と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「レール8」は本件発明2の「案内レール」に相当する。以下、同様に、「スライダ6」は「スライダ」に、「転動体28」は「転動体」に、「溝29、30」は「軌道面」に、「レール8が固定されているベース9の上面とスライダ6の脚部に取り付けたブラケット10との間隔を測定する変位検出器11、12、13」は「案内レールが固定されているレール取付面に対する前記脚部の変位を計測する取付面変位計測センサ」に、「三点のうちの変位検出器11と変位検出器13の取付け位置は、前記ベース9の長手方向で同じ位置に配置され、変位検出器12の取付け位置は、前記変位検出器11の取付け位置と前記ベース9の長手方向に垂直な方向で同じ位置に取り付けられ」る態様は、「三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」る態様に、「二点は、前記ベース9の長手方向に垂直な方向で同じ位置に取り付けられ」る態様は「二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され」る態様に、「直線運動軸受装置」は「直動案内装置」に、それぞれ相当する。
また、本件発明2の「取付面変位計測センサは、前記レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の下面を開口とするように形成された凹部に設置され」る態様と、甲3発明の「変位検出器11、12、13は、前記ベース9の上面の異なる三点に対する測定ができるように前記スライダ6に取り付けたブラケット10に取り付けられ」る態様とは、「取付面変位計測センサは、前記レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように設置され」る態様の限りにおいて一致している。
さらに、本件発明2の、「案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサ」は、「一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され」る態様と、甲3発明の、「ベース9に取り付けたサブプレート16とスライダ6の脚部に取り付けたブラケット10との間隔を測定する変位検出器14、15」は、「ベース9に取り付けたサブプレート16の異なる二点に対する計測ができるように前記スライダ6に取り付けたブラケット10に取り付けられ」る態様とは、「脚部の側面方向の変位を計測する側面方向変位計測センサ」は、「少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され」る態様の限りにおいて一致している。
そして、本件発明2の「取付面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」態様と、甲3発明の「変位検出器11、12、13および前記変位検出器14、15による変位量の測定により前記スライダのローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量を検知する」態様とは、「取付面変位計測センサおよび側面方向変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している変位量およびローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量をが測定できる」る態様の限りにおいて一致している。

したがって、本件発明2と甲3発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは、前記案内レールの幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記案内レール及び前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記案内レールの長手方向に延び、
前記転動体は前記転動通路に配置され、
前記転動体を介して前記案内レールに対して前記スライダが移動し、
前記案内レールが固定されているレール取付面に対する前記脚部の変位を計測する取付面変位計測センサと、前記脚部の側面方向の変位を計測する側面方向変位計測センサを有し、
前記取付面変位計測センサは、前記レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように設置され、
前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記側面方向変位計測センサは、少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され、
前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記取付面変位計測センサおよび前記側面方向変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している変位量およびローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量をが測定できる直動案内装置。」

(相違点)
(相違点a) (案内レールが固定されているレール取付面に対する脚部の変位を計測する)「取付面変位計測センサは、前記レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように設置され」る態様に関し、本件発明2は、「取付面変位計測センサは、前記レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の下面を開口とするように形成された凹部に設置され」るのに対し、甲3発明では、「変位検出器11、12、13は、前記ベース9の上面の異なる三点に対する測定ができるように前記スライダ6に取り付けたブラケット10に取り付けられ」る点。

(相違点b) 「脚部の側面方向の変位を計測する側面方向変位計測センサ」は、「少なくとも異なる二点に対する計測ができるように設置され」る態様に関し、本件発明2は、「案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサ」は、「一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され」るのに対し、甲3発明では、「ベース9に取り付けたサブプレート16とスライダ6の脚部に取り付けたブラケット10との間隔を測定する変位検出器14、15」は、「ベース9に取り付けたサブプレート16の異なる二点に対する計測ができるように前記スライダ6に取り付けたブラケット10に取り付けられ」る点。

(相違点c) (案内レールが固定されているレール取付面に対する脚部の変位を計測するセンサおよび脚部の側面方向の変位を計測するセンサである)「取付面変位計測センサおよび前記側面方向変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している変位量およびローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量をが測定できる」態様に関し、本件発明2は、「取付面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」のに対し、甲3発明では、「変位検出器11、12、13および前記変位検出器14、15による変位量の測定により前記スライダのローリング、ピッチング及びヨーイングの変位量を検知する」点。

上記相違点について検討する。
まず、上記相違点a及びbについて検討する。
既に「(2) (イ)」にて検討したように、直動案内装置において、甲第1、2及び4ないし6号証には、少なくともセンサをスライダに設けた「凹部」及び「貫通穴」に固定する点に関し、本件発明2の上記相違点a及びbに係る構成が記載されているとはいえない。また、当該構成が、周知技術であるとする証拠もないし、当該構成によりスライダが移動しているときにも変位を安定して測定できる等のことからして、単なる設計事項にすぎないということもできない。したがって、甲3発明をして本件発明2の上記相違点a及びbに係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、上記相違点cについて検討するまでもなく、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明(甲3発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、令和1年10月10日付けの意見書において特許異議申立人は、「甲第1号証の図4、図5には、センサ取付治具44,47の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に変位センサ45、48を固定することが開示されているから、甲3発明の変位検出器11、12、13をブラケット10に上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定するようにすることも、当業者が容易に想到できたことである。」(1頁下から2行?2頁3行)及び「甲第1号証の図4には、変位センサ48をセンサ取付治具47の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定し、変位センサ48の先端をセンサ取付治具47と案内レールの一側面との間の空間に配置することが開示されているから、上記訂正事項1-2は、当業者が容易に想到できたことである。」(2頁14?17行)等と主張するが、上述のように、直動案内装置において、甲第1ないし6号証には、スライダに取り付けた治具、測定ハウジングやブラケットではなく、スライダに設けた「凹部」及び「貫通穴」にセンサを固定する点に係る本件発明の構成が記載されているとはいえない。そして、当該構成が、周知技術であるとする証拠もないし、単なる設計事項にすぎないということもできないから、当該主張は採用できない。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、本件訂正前の請求項1ないし2に係る特許について、甲第2号証に記載された発明に基き、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものであると主張するものである。

2 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、特に、段落[0035]?[0037]、[0044]?[0053]、特許請求の範囲の1.?5.及びFig.3?4の記載並びに直線運動軸受装置の技術常識からすると、以下の「甲2発明」が記載されていると認められる。

「レール2と、キャリッジ8と、複数のころ12とを有し、
前記キャリッジ8は、前記レール2の幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記レール2及び前記キャリッジ8は、互いに対向する位置に、前記ころ12の転動体循環路を形成する摺動面5、6及び支持面10をそれぞれ有し、
前記レールの異形断面によって両方の長辺3,4に有する前記摺動面5、6及び前記キャリッジ8の前記脚部の内面に有する前記支持面10は案内方向1に延び、
前記ころ12は前記転動体循環路に配置され、
前記ころ12を介して前記レール2に沿って前記キャリッジ8が可動し、
前記キャリッジ8の前記脚部にはその両方の端面側の端部の領域に、キャリッジ8の両方の端面の各々に取り付けられたプレート状の測定ハウジング27,28に格納されて、前記レール2の4つの前記摺動面5,6の各々に対向してそれぞれ1つの距離センサ31,32,33,34,35,36,37,38が取り付けられ、
8つすべての前記距離センサの測定値S_(31),S_(32),S_(33),S_(34),S_(35),S_(36),S_(37),S_(38)から前記案内方向1に対して垂直の2つの方向で前記キャリッジ8に対して作用する力F_(Y),F_(Z)と、3つの方向で前記キャリッジ8に対して作用するトルクM_(R),M_(N),M_(G)が測定できる直線運動ガイド。」

3 本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「レール2」は本件発明1の「案内レール」に相当する。以下、同様に、「キャリッジ8」は「スライダ」に、「ころ12」は「転動体」に、「転動体循環路」は「転動通路」に、「摺動面5、6及び支持面10」及び「レールの異形断面によって両方の長辺3,4に有する前記摺動面5、6及び前記キャリッジ8の前記脚部の内面に有する前記支持面10」はそれぞれ「軌道面」に、「案内方向1」は「前記案内レールの長手方向」に、「レール2に沿って」は「案内レール対して」に、「可動し」は「移動し」に、「キャリッジ8に対して作用する」は「スライダに作用している」に、「力F_(Y),F_(Z)」は「荷重」に、「トルクM_(R),M_(N),M_(G)」は「モーメント荷重」に、「直線運動ガイド」は「直動案内装置」に、それぞれ相当する。
そして、本件発明1の「上面変位計測センサ」及び「側面変位計測センサ」と、甲2発明の「距離センサ31,32,33,34,35,36,37,38」とは、「センサ」の限りで一致し、同様に、「前記上面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値」と「前記距離センサの測定値S_(31),S_(32),S_(33),S_(34),S_(35),S_(36),S_(37),S_(38)」とは、「センサによる計測値」の限りにおいて一致するから、結局、本件発明1の「前記案内レールの上面に対する前記胴部の変位を計測する上面変位計測センサと、前記案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサを有し、前記上面変位計測センサは、前記上面の少なくとも異なる三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記胴部の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記上面変位計測センサの先端が前記胴部と前記上面との間の空間に配置されるように設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され、前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、前記上面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」態様と、甲2発明の「前記キャリッジ8の前記脚部にはその両方の端面側の端部の領域に、キャリッジ8の両方の端面の各々に取り付けられたプレート状の測定ハウジング27,28に格納されて、前記レール2の4つの前記摺動面5,6の各々に対向してそれぞれ1つの距離センサ31,32,33,34,35,36,37,38が取り付けられ、8つすべての前記距離センサの測定値S_(31),S_(32),S_(33),S_(34),S_(35),S_(36),S_(37),S_(38)から前記案内方向1に対して垂直の2つの方向で前記キャリッジ8に対して作用する力F_(Y),F_(Z)と、3つの方向で前記キャリッジ8に対して作用するトルクM_(R),M_(N),M_(G)が測定できる」態様とは、「センサを有し、前記センサによる計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」態様の限りにおいて一致している。

したがって、本件発明1と甲2発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは、前記案内レールの幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記案内レール及び前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記案内レールの長手方向に延び、
前記転動体は前記転動通路に配置され、
前記転動体を介して前記案内レールに対して前記スライダが移動し、
センサを有し、
前記センサによる計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる直動案内装置。」

(相違点)
「センサを有し、前記センサによる計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」態様に関し、本件発明1は、「前記案内レールの上面に対する前記胴部の変位を計測する上面変位計測センサと、前記案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサを有し、前記上面変位計測センサは、前記上面の少なくとも異なる三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記胴部の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記上面変位計測センサの先端が前記胴部と前記上面との間の空間に配置されるように設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され、前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、前記上面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」のに対し、甲2発明では、「前記キャリッジ8の前記脚部にはその両方の端面側の端部の領域に、キャリッジ8の両方の端面の各々に取り付けられたプレート状の測定ハウジング27,28に格納されて、前記レール2の4つの前記摺動面5,6の各々に対向してそれぞれ1つの距離センサ31,32,33,34,35,36,37,38が取り付けられ、8つすべての前記距離センサの測定値S_(31),S_(32),S_(33),S_(34),S_(35),S_(36),S_(37),S_(38)から前記案内方向1に対して垂直の2つの方向で前記キャリッジ8に対して作用する力F_(Y),F_(Z)と、3つの方向で前記キャリッジ8に対して作用するトルクM_(R),M_(N),M_(G)が測定できる」点(以下「相違点ア」という。)。

上記相違点アについて検討する。
既に「第3 3 (2)」にて検討したように、甲第1、3ないし6号証には、少なくともセンサをスライダに設けた「貫通穴」に固定する点に関し、本件発明1の上記相違点アに係る構成が記載されているとはいえない。また、当該構成が周知技術であるとする証拠もないし、当該構成によりスライダが移動しているときにも荷重やモーメントを安定して測定できる等のことからして、単なる設計事項にすぎないということもできない。したがって、甲2発明をして本件発明1の上記相違点アに係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明(甲2発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 本件発明2について
本件発明2と甲2発明とを対比すると、既に対比した本件発明1と甲2発明との関係からすれば、本件発明2と甲2発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは、前記案内レールの幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記案内レール及び前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記案内レールの長手方向に延び、
前記転動体は前記転動通路に配置され、
前記転動体を介して前記案内レールに対して前記スライダが移動し、
センサを有し、
前記センサによる計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる直動案内装置。」

(相違点)
「センサを有し、前記センサによる計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」態様に関し、本件発明2は、「前記案内レールが固定されているレール取付面に対する前記脚部の変位を計測する取付面変位計測センサと、前記案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサを有し、前記取付面変位計測センサは、前記レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の下面を開口とするように形成された凹部に設置され、前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され、前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、前記取付面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる」のに対し、甲2発明では、「前記キャリッジ8の前記脚部にはその両方の端面側の端部の領域に、キャリッジ8の両方の端面の各々に取り付けられたプレート状の測定ハウジング27,28に格納されて、前記レール2の4つの前記摺動面5,6の各々に対向してそれぞれ1つの距離センサ31,32,33,34,35,36,37,38が取り付けられ、8つすべての前記距離センサの測定値S_(31),S_(32),S_(33),S_(34),S_(35),S_(36),S_(37),S_(38)から前記案内方向1に対して垂直の2つの方向で前記キャリッジ8に対して作用する力F_(Y),F_(Z)と、3つの方向で前記キャリッジ8に対して作用するトルクM_(R),M_(N),M_(G)が測定できる」点(以下「相違点イ」という。)。

上記相違点イについて検討する。
既に「第3 3 (3)」にて検討したように、甲第1、3ないし6号証には、少なくともセンサをスライダに設けた「凹部」及び「貫通穴」に固定する点に関し、本件発明2の上記相違点イに係る構成が記載されているとはいえない。また、当該構成が、周知技術であるとする証拠もないし、当該構成によりスライダが移動しているときにも変位を安定して測定できる等のことからして、単なる設計事項にすぎないということもできない。したがって、甲2発明をして本件発明2の上記相違点イに係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明(甲2発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは、前記案内レールの幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記案内レール及び前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記案内レールの長手方向に延び、
前記転動体は前記転動通路に配置され、
前記転動体を介して前記案内レールに対して前記スライダが移動し、
前記案内レールの上面に対する前記胴部の変位を計測する上面変位計測センサと、前記案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサを有し、
前記上面変位計測センサは、前記上面の少なくとも異なる三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記胴部の上面から下面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記上面変位計測センサの先端が前記胴部と前記上面との間の空間に配置されるように設置され、
前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され、
前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記上面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる直動案内装置。
【請求項2】
案内レールと、スライダと、複数の転動体とを有し、
前記スライダは、前記案内レールの幅方向の両側に配置される脚部と、前記両脚部を連結する胴部とを有し、
前記案内レール及び前記スライダは、互いに対向する位置に、前記転動体の転動通路を形成する軌道面をそれぞれ有し、
前記軌道面は前記案内レールの長手方向に延び、
前記転動体は前記転動通路に配置され、
前記転動体を介して前記案内レールに対して前記スライダが移動し、
前記案内レールが固定されているレール取付面に対する前記脚部の変位を計測する取付面変位計測センサと、前記案内レールの一側面に対する前記脚部の変位を計測する側面変位計測センサを有し、
前記取付面変位計測センサは、前記レール取付面の少なくとも三点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の下面を開口とするように形成された凹部に設置され、
前記三点のうちの第一の点と第二の点は、前記案内レールの長手方向で同じ位置に配置され、第三の点は、前記第二の点と前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記側面変位計測センサは、前記一側面の少なくとも異なる二点に対する計測ができるように、前記スライダに前記脚部の外側面から内側面まで貫通するように形成された貫通穴に固定されるとともに、前記側面変位計測センサの先端が前記脚部と前記一側面との間の空間に配置されるように設置され、
前記二点は、前記案内レールの長手方向に垂直な方向で同じ位置に配置され、
前記取付面変位計測センサおよび前記側面変位計測センサによる変位計測値から前記スライダに作用している荷重およびモーメント荷重が測定できる直動案内装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-08 
出願番号 特願2014-105365(P2014-105365)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F16C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 日下部 由泰  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 井上 信
田村 嘉章
登録日 2018-09-21 
登録番号 特許第6402490号(P6402490)
権利者 日本精工株式会社
発明の名称 直動案内装置  
代理人 廣瀬 一  
代理人 宮坂 徹  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 鈴木 壯兵衞  
代理人 鈴木 壯兵衞  
代理人 森 哲也  
代理人 森 哲也  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 廣瀬 一  
代理人 宮坂 徹  

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