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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特174条1項  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1358602
異議申立番号 異議2019-700149  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-26 
確定日 2019-11-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6380106号発明「リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6380106号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6380106号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第6380106号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6380106号の請求項1?4に係る特許についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、2013年(平成25年)10月25日(優先権主張 平成24年10月26日)を国際出願日とする出願であって、平成29年 7月14日付けで拒絶理由が通知され、同年10月11日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成30年 1月19日付けで拒絶査定され、これに対して、同年 4月26日付けで審判請求がなされるとともに手続補正がなされた後、同年 8月10日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月29日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その特許に対して、平成31年 2月26日に特許異議申立人 山田均(以下、「申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 2月28日に特許異議申立人 河村真人(以下、「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、令和 1年 5月 7日付けで取消理由が通知され、同年 7月 9日付けで特許権者より訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされると共に意見書が提出され、これに対して、同年 8月20日付けで申立人1より意見書の提出があったものである。

第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「珪素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nm」とあるのを、「珪素の結晶子の大きさが2.0nm?6.0nm」に訂正する(「第2」において、下線部は訂正箇所を示す。以下同様。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記炭素はR値が0.5以上であり、」とあるのを、「前記炭素はR値が0.5以上であり、前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満であり、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」とあるのを、「リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は請求項2に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」に訂正する。

2 本件訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に「珪素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nm」と記載されているのを、訂正後の請求項1では、「珪素の結晶子の大きさが2.0nm?6.0nm」と記載することにより、珪素の結晶子の大きさの範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には、その【0023】に、「前記珪素酸化物に含まれる珪素の結晶子の大きさは2.0nm?8.0nmである。・・・珪素の結晶子の大きさは3.0nm以上であることがより好ましく、4.0nm以上であることが更に好ましい。また、サイクル特性の観点から、珪素の結晶子の大きさは6.0nm以下であることが好ましく、5.0nm以下であることがより好ましい。」(「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)と記載されていることから、訂正後の請求項1を「珪素の結晶子の大きさが2.0nm?6.0nm」として、珪素の結晶子の大きさの上限値を「6.0nm」に訂正した上記訂正事項1は、本件明細書等に記載された範囲内での訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に「前記炭素はR値が0.5以上であり、」と記載されているのを、訂正後の請求項1では、「前記炭素はR値が0.5以上であり、前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満であり、」と記載することにより、訂正前の請求項1では規定されておらず、任意の値を取り得るものであった炭素の含有率を「0.5質量%以上5.0質量%未満」の範囲に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
本件明細書等の【請求項2】には、「前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。」と記載され、また、本件明細書等の【0030】には、「前記負極材料が炭素を含む場合、前記炭素の含有率は負極材料の総質量中に0.5質量%以上5.0質量%未満であることが好ましく、・・・」と記載されていることから、訂正後の請求項1を「前記炭素はR値が0.5以上であり、前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満であり、」と記載することにより、炭素の含有率を「0.5質量%以上5.0質量%未満」の範囲に限定した上記訂正事項2は、本件明細書等に記載された範囲内での訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に「マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」と記載されているのを、「リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」と記載することにより、訂正前の請求項1に係るリチウムイオン二次電池用負極材料について、「マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたもの」が除外されていたのに加えて、「リチウムがドープされたもの」も除外しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
(ア)いわゆる「除くクレーム」とは、請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみをその請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいい、除外した後の「除くクレーム」が新たな技術的事項を導入するものでない場合は、許されるものであり、例えば、請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正は新規事項を追加するものとはされない。以下、この観点から検討する。

(イ)令和 1年 5月 7日付け取消理由通知で引用された甲第1-3号証(特開2011-222151号公報)に実施例9として記載された「リチウムイオン二次電池用負極材料」に係る「甲1-3発明」は、「珪素-珪素酸化物系複合体粉末と、その表面を被覆する炭素と、ドープされたリチウムとを含み、Cu-Kα線のX線回折で珪素のSi(111)に帰属されるピークが観察され、Cu-Kα線のX線回折データよりシェラー法により求めたSi(111)面の結晶子の大きさが8nmであり、炭素による被覆はメタンガスを原料として、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行うことで形成されたものであり、前記炭素の含有量が4.95質量%である、リチウムイオン二次電池用負極材料。」である。

(ウ)なお、甲第1-3号証には、上記甲1-3発明が「ドープされたリチウムを含」む点に関し、以下の記載がある。

a.「【0062】
(実施例1)
金属珪素と二酸化珪素をモル比1:1で混合し、100Paの減圧下、1400℃で反応させて酸化珪素のガスを発生させ、このガスを50Paの減圧下、900℃において冷却して析出させ、塊状の生成物を得た。そしてこの生成物を乾式ボールミルで粉砕し、平均粒子径5μmの粉末を得た。
化学分析により、この粉末の組成はSiO_(0.95)であり、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー?微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察され、珪素-珪素酸化物系複合体であることが判った。この珪素-珪素酸化物系複合体の珪素の結晶の大きさは4nmであった。
【0063】
この珪素-珪素酸化物系複合体粉末にメタンガスを原料とし、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行い、粉末の表面を炭素で被覆した。その結果、被覆炭素量は被覆を含めた粉末全体に対して5%であった。
【0064】
次に、乾燥空気雰囲気のグローブボックス内で内容積約500mlの磁器製乳鉢に水素化リチウム(和光純薬製試薬)の粉末2.7gを入れて粉砕した後、上記炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末28.4gを追加し(水素化リチウム:珪素-珪素酸化物系複合体(炭素除く)=1:10(質量比))、十分均一になるまで攪拌・混合した。
そして、この混合物29gをアルミナ製70mlボートに仕込み、内径50mmのアルミナ炉芯管を備えた管状電気炉の炉芯管の中央に静置した。そしてアルゴンガスを毎分2l通気しながら、毎分5℃で600℃まで加熱し、1時間保持した後、放冷した。
【0065】
このようにして得られた非水電解質二次電池用負極材は、リチウムドープ量が8%であった。そして、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー?微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察された。・・・」

b.「【0082】
(実施例9)
実施例1と同様の方法で、珪素の結晶の大きさが4nmの珪素-珪素酸化物系複合体粉末を得た。
この珪素-珪素酸化物系複合体粉末を実施例1と同様の条件で熱CVD処理し、被覆炭素量が5%の炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末を得た。
次に、この炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末を、水素化リチウム:珪素-珪素酸化物系複合体(炭素除く)=1:100(質量比)とした以外は実施例1と同様の条件で水素化リチウムと反応させた。
【0083】
このようにして得られた非水電解質二次電池用負極材のリチウムドープ量は1%であった。なお、この負極材は、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー?微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察された。
また、Cu-Kα線のX線回折で珪素,珪酸リチウムに帰属されるピークが観察され、珪素の結晶の大きさは8nmであり、珪素の結晶の成長が抑制されていることが確認できた。」

(エ)一方、訂正前の請求項1に係る「リチウムイオン二次電池用負極材料」は、「マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」ことを発明特定事項としているものの、リチウムがドープされたものか否かの点についての特定はされておらず、リチウムがドープされたものも含むと解される。

(オ)そうすると、訂正事項3は、リチウムがドープされたものも含む訂正前の請求項1に係る発明から、リチウムがドープされた態様、すなわち上記甲1-3発明との重なり部分のみを除くものといえる。

(カ)ここで、リチウムイオン二次電池においては、充放電時にリチウムイオンが負極に吸蔵ないし放出されることが本件出願時の技術常識であるといえるところ、上記(ウ)a.b.の記載からすると、甲第1-3号証におけるリチウムの「ドープ」とは、炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末に水素化リチウム等を混合、反応させて、リチウム二次電池用負極材料を得る過程でリチウムを導入することを意味することは明らかであり、充電時にリチウムイオンが負極に吸蔵されることまでを上記「ドープ」に含まれるとして解する余地はないというべきである。

(キ)上記(カ)の検討からすると、訂正事項3により、訂正前の請求項1に係る発明から「リチウムがドープされたもの」が除外されたとしても、リチウムイオン電池の充電時にリチウムイオンが負極に吸蔵されることまで除外されるわけではなく、当該訂正事項3によって何ら新たな技術的事項を導入するものではない。

(ク)以上のとおりであるから、訂正事項3は、訂正前の請求項1に係る発明が、取消理由通知で引用した甲第1-3号証に記載された甲1-3発明と重なるために、当該重なりのみを除くものであって、それにより新たな技術的事項を導入するものではないから、いわゆる「除くクレーム」とするものにすぎず、本件明細書等に記載された範囲内での訂正である。

(ケ)また、訂正事項3は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。

(コ)したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正である。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項3が請求項1又は請求項2の記載を引用する記載であるところ、上記訂正事項4により訂正後の請求項2が削除されたことに伴って、削除された請求項を引用しないようにする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項5は、削除された請求項を引用しないようにするための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載された範囲内での訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)独立特許要件
本件特許は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1?5に係る本件訂正について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は適用されない。

(7)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?4について、訂正前の請求項2?4はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1?4は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1?4〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

3 本件訂正請求についての結言
以上のとおりであるから、本件訂正は、請求項〔1?4〕について、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものである。
よって、訂正後の一群の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の本件発明
本件訂正請求によって訂正された請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?4」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、令和 1年 7月 9日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「【請求項1】
珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが2.0nm?6.0nmであり、前記炭素はR値が0.5以上であり、前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満であり、但し、リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
集電体と、
前記集電体上に設けられた、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を含む負極材層と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
正極と、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。」

2 特許異議申立理由の概要
(1)申立人1は、証拠方法として後記する甲第1-1?1-5号証を提出し、以下の申立理由により、請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨申し立てた。

ア 申立理由1-1(取消理由として一部採用)
本件請求項1?4に係る発明は、甲第1-1号証及び甲第1-2号証のそれぞれに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。また、本件請求項1?4に係る発明は、甲第1-1?1-5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
・甲第1-1号証:特開2004-47404号公報
・甲第1-2号証:特開2004-327190号公報
・甲第1-3号証:特開2011-222151号公報
・甲第1-4号証:特開2012-33317号公報
・甲第1-5号証:特開2012-151129号公報

(2)また、申立人2は、証拠方法として、後記する甲第2-1?2-10号証を提出し、以下の申立理由により、請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨申し立てた。

ア 申立理由2-1(取消理由として一部採用)
本件請求項1?4に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。また、本件請求項1?4に係る発明は、甲第2-1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

イ 申立理由2-2(取消理由として不採用)
平成30年 4月26日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本件請求項1?4に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由2-3(取消理由として不採用)
本件請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

エ 申立理由2-4(取消理由として不採用)
本件請求項1?4に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確でないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
・甲第2-1号証:特開2012-33317号公報
・甲第2-2号証:再公表特許第2014/065418号(本件特許出願の再公表特許)
・甲第2-3号証:本件特許出願に対して通知された平成29年 7月14日付け拒絶理由通知書
・甲第2-4号証:甲第2-3号証に係る拒絶理由通知に対して本件特許権者が提出した平成29年10月11日付け手続補正書
・甲第2-5号証:本件特許出願に対して通知された平成30年 1月19日付け拒絶査定
・甲第2-6号証:甲第2-5号証に係る拒絶査定に対して本件特許権者が提出した平成30年4月26日付け審判請求書
・甲第2-7号証:本件特許権者が甲第2-6号証に係る審判請求書と共に提出した平成30年4月26日付け手続補正書
・甲第2-8号証:本件特許出願に対して通知された平成30年 6月21日付け特許査定
・甲第2-9号証:特許・実用新案審査基準第IV部第2章第6?8頁
・甲第2-10号証:特開2004-47404号公報(当審注:申立人2が平成31年 2月28日付けで提出した特許異議申立書の「5.証拠方法」には、「(10)甲第10号証 特開2004-4704号公報」と記載されているが、それに続いて「(本件特許出願の審査で引用された引用文献2)」と記載され、当該引用文献2が「特開2004-47404号公報」であること、及び上記特許異議申立書の添付書類である「甲第10号証写し」として、「特開2004-47404号公報」の写しが添付されていることから、上記特許異議申立書の「5.証拠方法」に記載された「(10)甲第10号証 特開2004-4704号公報」は、「(10)甲第10号証 特開2004-47404号公報」を誤記したものであることが、明らかであるので、上記のとおりとした。)

3 取消理由通知に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、当審が令和 1年 5月 7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである、

(1)取消理由1-1(新規性)
本件請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1-3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)取消理由1-2(新規性)
本件請求項1、3、4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第2-1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3)取消理由2(進歩性)
本件請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1-3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。

4 当審の判断
(1)本件明細書等の記載
本件明細書等には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関する。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特定元素体の一つである珪素酸化物を負極材料として使用した場合、初期の充放電効率が低く、実際の電池に適用した際に正極の電池容量を過剰に必要とするため、従来の技術においても、高容量という珪素酸化物の特徴を実際のリチウムイオン二次電池へ充分には活かしきれなかった。また、今後、モバイル機器等の高性能化に適したリチウムイオン二次電池へ適用するための負極材料としては、単に多くのリチウムイオンを貯蔵できる(すなわち、充電容量が高い)だけではなく、貯蔵したリチウムイオンをより多く放出できることが必要となる。従って、リチウムイオン二次電池の更なる性能向上に貢献する負極材料としては、初期の放電容量の向上と初期の充放電効率の向上との両立が重要となる。
【0009】
本発明の一態様によれば、上記要求に鑑みなされたものであり、初期の放電容量及び初期の充放電効率に優れるリチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極並びにリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。」

ウ 「【0020】
<リチウムイオン二次電池用負極材料>
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料(以下、単に「負極材料」とも略称する)は、珪素酸化物を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nmである。
前記珪素酸化物中に、珪素の結晶子が存在し、その珪素の結晶子の大きさが特定の範囲であることで、リチウムイオン二次電池を構成した場合に、初期の放電容量の高容量化と、優れた初期の充放電効率とを達成可能となる。これは、例えば、珪素の結晶子の大きさが特定の範囲であると、リチウムイオンの吸蔵及び放出に伴う膨張及び収縮を緩和することができるとともに、単位体積あたりの珪素酸化物の容量低下を抑えることができるため、初期の放電容量及び初期の充放電効率に優れると考えることができる。」

エ 「【0022】
前記珪素酸化物は、珪素の結晶子が該珪素酸化物中に分散した構造を有する。珪素の結晶子が珪素酸化物中に分散した状態であることで、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを示すことになる。
【0023】
前記珪素酸化物に含まれる珪素の結晶子の大きさは2.0nm?8.0nmである。珪素の結晶子の大きさが2.0nm未満では、リチウムイオンと珪素酸化物とが反応しやすく、初期の放電容量が充分に得られない傾向がある。また、珪素の結晶子の大きさが8.0nmを超えると、珪素酸化物中で珪素の結晶子が局在化しやすくなり、珪素酸化物内でリチウムイオンが拡散しにくくなり、充放電特性が低下する傾向がある。珪素の結晶子の大きさは3.0nm以上であることがより好ましく、4.0nm以上であることが更に好ましい。また、サイクル特性の観点から、珪素の結晶子の大きさは6.0nm以下であることが好ましく、5.0nm以下であることがより好ましい。
【0024】
前記珪素の結晶子の大きさは前記珪素酸化物に含まれる珪素単結晶の大きさであり、X線回折スペクトルにおけるSi(111)に帰属される回折ピークから算出される。具体的には、波長0.154056nmのCuKα線を線源とするX線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される2θ=28.4°付近の回折ピークの半価幅から、Scherrerの式に基づいて算出される。
【0025】
また、珪素の結晶子が珪素酸化物中に分散した状態の存在は、X線回折スペクトルにおけるSi(111)に帰属される回折ピークの存在によって確認できる他、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて珪素酸化物を観察した場合に、無定形の珪素酸化物中に珪素の結晶の存在が観察されることから確認することができる。
【0026】
上記珪素酸化物中に珪素の結晶子が分散した構造は、例えば、後述する熱処理における熱処理温度及び熱処理時間を適宜調整することにより作製することができる。」

オ 「【実施例】
【0073】
以下、合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限するものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0074】
[実施例1]
(負極材料の作製)
珪素酸化物として、塊状の酸化珪素((株)高純度化学研究所社製、規格10mm?30mm角)を乳鉢により粗粉砕し珪素酸化物粒子を得た。この珪素酸化物粒子を振動ミル(小型振動ミルNB-0(商品名)、日陶科学(株)製)によって更に粉砕した後、300M(300メッシュ)の試験篩で整粒し、平均粒子径が5μmの微粒子を得た。
【0075】
<平均粒子径の測定>
測定試料(5mg)を界面活性剤(エソミンT/15(商品名)、ライオン(株)製)0.01質量%水溶液中に入れ、振動攪拌機で分散した。得られた分散液をレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD3000J(商品名)、(株)島津製作所社製)の試料水槽に入れ、超音波をかけながらポンプで循環させ、レーザー回折式で測定した。測定条件は下記の通りとした。得られた粒度分布の体積累積50%粒径(D50%)を平均粒子径とした。以下、実施例において、平均粒子径の測定は同様にして行った。
・光源:赤色半導体レーザー(690nm)
・吸光度:0.10?0.15
・屈折率:2.00-0.20i
【0076】
得られた珪素酸化物の微粒子970gと、石炭系ピッチ(固定炭素50%)60gを愛知電機(株)製の混合装置(ロッキングミキサーRM-10G(商品名))に投入し、5分間混合した後、アルミナ製の熱処理容器に充填した。熱処理容器に充填した後、これを雰囲気焼成炉において、窒素雰囲気下で、900℃、5時間熱処理し、熱処理物を得た。
【0077】
得られた熱処理物を、乳鉢により解砕し、300M(300メッシュ)の試験篩により篩い分けして、平均粒子径が5.0μmの負極材料を得た。
【0078】
<炭素含有率の測定方法>
負極材料の炭素含有率を高周波焼成-赤外分析法にて測定した。高周波焼成-赤外分析法は、高周波炉にて酸素気流で試料を加熱燃焼させ、試料中の炭素及び硫黄をそれぞれCO_(2)及びSO_(2)に変換し、赤外線吸収法によって定量する分析方法である。測定装置、s測定条件等は下記の通りである。
・装置:炭素硫黄同時分析装置(LECOジャパン合同会社製、CSLS600(商品名))
・周波数:18MHz
・高周波出力:1600W
・試料質量:約0.05g
・分析時間:装置の設定モードで自動モードを使用
・助燃材:Fe+W/Sn
・標準試料:Leco501-024(C:3.03%±0.04 S:0.055%±0.002)
・測定回数:2回(表1中の炭素含有率の値は2回の測定値の平均値である)
【0079】
<R値の測定>
ラマンスペクトル測定装置(日本分光(株)製NSR-1000型)を用い、得られたスペクトルは下記範囲をベースラインとし、負極材料の分析を行った。測定条件は、下記の通りとした。
・レーザー波長:532nm
・照射強度:1.5mW(レーザーパワーモニターでの測定値)
・照射時間:60秒
・照射面積:4μm^(2)
・測定範囲:830cm^(-1)?1940cm^(-1)
・ベースライン:1050cm^(-1)?1750cm^(-1)
【0080】
なお、得られたスペクトルの波数は、基準物質インデン(和光純薬工業(株)、和光一級)を前記と同1条件で測定して得られる各ピークの波数と、インデンの各ピークの波数理論値との差から求めた検量線を用いて補正した。
補正後に得られたプロファイルの中で、1360cm^(-1)付近に現れるピークの強度をId、1580cm^(-1)付近に現れるピークの強度をIgとし、その両ピークの強度比Id/Ig(D/G)をR値として求めた。
【0081】
<BET比表面積の測定>
高速比表面積/細孔分布測定装置ASAP2020(MICRO MERITICS製)を用い、液体窒素温度(77K)での窒素吸着を5点法で測定し、BET法(相対圧範囲:0.05?0.2)より算出した。
【0082】
<珪素の結晶子の大きさの測定>
粉末X線回折測定装置(MultiFlex(2kW)、(株)リガク製)を用いて負極材料の分析を行った。珪素の結晶子の大きさは、2θ=28.4°付近に存在するSi(111)の結晶面に帰属されるピークの半値幅から、Scherrerの式を用いて算出した。
測定条件は下記の通りとした。
【0083】
[測定条件]
・線源:CuKα線(波長:0.154056nm)
・測定範囲:2θ=10°?40°
・サンプリングステップ幅:0.02°
・スキャンスピード:1°/分
・管電流:40mA
・管電圧:40kV
・発散スリット:1°
・散乱スリット:1°
・受光スリット:0.3mm
【0084】
なお、得られたプロファイルは、上記装置に付属の構造解析ソフト(JADE6、(株)リガク製)を用いて下記の設定で、バックグラウンド(BG)除去及びピーク分離した

【0085】
[Kα2ピーク除去及びバックグラウンド除去]
・Kα1/Kα2強度比:2.0
・BG点からのBGカーブ上下(σ):0.0
【0086】
[ピークの指定]
・Si(111)に帰属するピーク:28.4°±0.3°
・SiO_(2)に帰属するピーク:21°±0.3°
【0087】
[ピーク分離]
・プロファイル形状関数:Pseudo-Voigt
・バックグラウンド固定
【0088】
上記設定により構造解析ソフトから導き出されたSi(111)に帰属するピークの半値幅を読み取り、下記Scherrerの式より珪素の結晶子の大きさDを算出した。
D=Kλ/B cosθ
B=(B_(obs)^(2)-b^(2))^(1/2)
D:結晶子の大きさ(nm)
K:Scherrer定数(0.94)
λ:線源波長(0.154056nm)
θ:測定半値幅ピーク角度
B_(obs):半値幅(構造解析ソフトから得られた測定値)
b:標準珪素(Si)の測定半値幅
【0089】
(負極の作製方法)
上記手法で作製した負極材料の粉末3.75質量%、炭素系負極材料として人造黒鉛(日立化成(株)製)71.25質量%(作製した負極材料:人造黒鉛=5:95(質量比))に、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業(株)製)の粉末15質量%、バインダとしてLSR-7(日立化成(株)製)を前記粉末及びバインダの総質量に対して10質量%添加し、その後混練しスラリーを作製した。なお、バインダの添加量は、スラリーの総質量に対して10質量%となるように調整した。このスラリーを、電解銅箔の光沢面に塗布量が10mg/cm^(2)となるように塗布し、90℃で2時間の予備乾燥させた後、ロールプレスで密度1.65g/cm^(3)になるように調整した。その後、真空雰囲気下で、120℃で4時間乾燥させることによって硬化処理を行い、負極を得た。
【0090】
(リチウムイオン二次電池の作製)
上記で得られた電極を負極とし、対極として金属リチウム、電解液として1MのLiPF_(6)を含むエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(3:7体積比)とビニルカーボネート(VC)(1.0質量%)の混合液、セパレータとして厚さ25μmのポリエチレン製微孔膜、スペーサーとして厚さ250μmの銅板を用いて2016型コインセルを作製した。」

カ 「【0091】
(電池評価)
<初回放電容量、充放電効率>
上記で得られた電池を、25℃に保持した恒温槽に入れ、0.43mA(0.32mA/cm^(2))で0Vになるまで定電流充電を行った後、0Vの定電圧で電流が0.043mAに相当する値に減衰するまで更に充電し、初回の充電容量を測定した。充電後、30分間の休止を入れたのちに放電を行った。放電は0.43mA(0.32mA/cm^(2))で1.5Vになるまで行い、初回の放電容量を測定した。このとき、容量は用いた負極材料の質量(作製した負極材料と人造黒鉛とを混合した総質量)当たりに換算した。初回の放電容量を初回の充電容量で割った値を初期の充放電効率(%)として算出した。
【0092】
[実施例2?5]
実施例1の負極材料の作製において、熱処理温度を950℃(実施例2)、1000℃(実施例3)、1050℃(実施例4)、1100℃(実施例5)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてそれぞれ負極材料を作製し、同様の評価を行った。
【0093】
[比較例1]
実施例1の負極材料の作製において、熱処理温度を850℃に変更した以外は、実施例1と同様にして負極材料を作製し、同様の評価を行った。
なお、比較例1で作製した負極材料では、Si(111)に帰属される回折ピークは観測されなかったため、表1中では「ND」と記載した。
【0094】
[比較例2]
実施例1の負極材料の作製において、熱処理温度を1150℃に変更した以外は、実施例1と同様にして負極材料を作製し、同様の評価を行った。」

キ 「【0095】
以上の実施例及び比較例の評価結果を下記表1に示す。
【表1】



ク 「【0096】
表1の結果から、実施例1?5で示したリチウムイオン二次電池用負極材料は、珪素の結晶子が観測されない比較例1及び珪素の結晶子の大きさが11.0nmである比較例2の負極材料と比べて、初回の放電容量が大きく、初期の充放電効率に優れた負極材料であることが分かる。
なお、負極材料として人造黒鉛のみを用いた場合の初回の充電容量は378mAh/gであり、初回の放電容量は355Ah/gであった。この人造黒鉛のみを用いた場合の結果を踏まえると、本実施例では、負極材料として本発明の負極材料を5質量%含有し、人造黒鉛を95質量%含むものであるが、このような本発明の負極材料の配合量であっても、初回の充電容量及び初回の放電容量が格段に向上していることが分かる。」

(2)甲号証の記載事項及び甲号証記載の発明
ア 甲第1-1号証について
甲第1-1号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする導電性珪素複合体。
【請求項2】
平均粒子径0.01?30μm、BET比表面積0.5?20m^(2)/g、被覆炭素量3?70重量%である請求項1記載の導電性珪素複合体。
【請求項3】
珪素微結晶の大きさが1?500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着していることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性珪素複合体。
【請求項4】
X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1?500nmであり、被覆炭素量が5?70重量%であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の導電性珪素複合体。
・・・」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質として有用とされる導電性を付与した導電性珪素複合体粉末、その製造方法及び該粉末を用いた非水電解質二次電池用負極材に関する。」

(ウ)「【0014】
この場合、本発明の導電性珪素複合体は、下記性状を有していることが好ましい。
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu-Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径が好ましくは1?500nm、より好ましくは2?200nm、更に好ましくは2?20nmである。珪素の微粒子の大きさが1nmより小さいと、充放電容量が小さくなる場合があるし、逆に500nmより大きいと充放電時の膨張収縮が大きくなり、サイクル性が低下するおそれがある。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。・・・」

(エ)「【0037】
[実施例1]
本発明で得られた導電性珪素複合体の構造について、一例として、酸化珪素(SiO_(x))を原料として用いて得られた導電性珪素複合体について説明する。
【0038】
酸化珪素(SiO_(x):x=1.02)を、ヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた酸化珪素粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン-アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で酸化珪素の不均化と同時に熱CVDを行った。こうして得られたものの固体NMR、X線回折測定結果、透過電子顕微鏡写真及びラマンスペクトル(励起光:532nm)をそれぞれ図1?4に示した。・・・更に、この粒子の表面付近の透過電子顕微鏡写真より、炭素原子が粒子表面に沿って層状に整列しており、図4のラマン分光スペクトルにおいてもグラファイト構造が確認され、このことによって粉末としての導電率が高くなるものである。更に、炭素層の下部では基材との融着が観察され、これによってリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う粒子の破壊や導電率の低下が抑えられ、特にサイクル性の向上に結びついているものである。
・・・
【0040】
・・・この半価幅よりシェーラー法を用いて求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは、約11nmである。
【0041】
図3の導電性珪素複合体粉末及びその表面部の透過電子顕微鏡写真から、最外殻部では炭素原子が層状に配列していることが分かる。また、図4の導電性珪素複合体のラマンスペクトルは、1580cm^(-1)付近のスペクトルより炭素の一部あるいは全部がグラファイト構造であることを示している。結晶性がよいと1330cm^(-1)付近のスペクトルが減少する。」

(オ)「図4



イ 甲第1-2号証について
甲第1-2号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を黒鉛皮膜で被覆した導電性粉末であり、黒鉛被覆量が3?40重量%、BET比表面積が2?30m^(2)/gであって、該黒鉛皮膜が、ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有することを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
【請求項2】
リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料が、珪素、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO_(x)(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項3】
複合構造粒子における珪素の微粒子の大きさが1?500nmであり、かつその表面が黒鉛と融合していることを特徴とする請求項2記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項4】
複合構造粒子における珪素系化合物が二酸化珪素であることを特徴とする請求項2又は3記載の非水電解質二次電池用負極材。
・・・」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた際に高い充放電容量及び良好なサイクル特性を有する非水電解質二次電池用負極材及びその製造方法に関する。」

(ウ)「【0012】
また、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した微細な構造を有する粒子において、珪素系化合物については、不活性なものが好ましく、製造しやすさの点において二酸化珪素が好ましい。またこの粒子は、下記性状を有していることが好ましい。
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu-Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径が好ましくは1?500nm、より好ましくは2?200nm、更に好ましくは2?20nmである。珪素の微粒子の大きさが1nmより小さいと、充放電容量が小さくなる場合があるし、逆に500nmより大きいと充放電時の膨張収縮が大きくなり、サイクル性が低下するおそれがある。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。
・・・」

(エ)「【0022】
次に、本発明におけるリチウムイオン二次電池負極材の製造方法について説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池負極材は、以下に示す2つの方法により製造することができる。第1の方法は、上記リチウムイオンを吸蔵、放出し得る材料の表面を少なくとも有機物ガス又は蒸気(例えばCH_(4)等)を含む雰囲気下、1000?1400℃、より好ましくは1020?1200℃の温度域で熱処理(CVD)する方法である。ここで、熱処理温度が1000℃より低いと、目的とするグラファイト構造を有する膜ができない場合があるし、逆に1400℃より高いと、化学蒸着処理により粒子同士が融着、凝集を起こす可能性があり、凝集面で導電性皮膜が形成されず、リチウムイオン二次電池負極材として用いた場合、サイクル性能が低下するおそれがあるためである。」

(オ)「【0041】
[実施例1]
平均粒子径4μmの一般式SiO_(x)(x=1.02)で表される酸化珪素粉末200gを流動層型処理装置内に仕込んだ。その後、Arガスを2NL/min流入しながら、300℃/hrの昇温速度で1150℃まで昇温、保持した。次に、CH_(4)ガスを1NL/min追加流入し、5時間の黒鉛被覆処理を行った。処理後は降温し、約240gの黒色粉末を得た。得られた黒色粉末は、平均粒子径=4.2μm、BET比表面積=15.2m^(2)/g、黒鉛被覆量22重量%の導電性粉末であった。なお、ラマン分光スペクトル(図1参照)により、ラマンシフトが1330cm^(-1)と1580cm^(-1)付近にグラファイト特有のスペクトルを有していた。」

(カ)「図1



ウ 甲第1-3号証について
甲第1-3号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いる二次電池用の負極材として有用とされる珪素-珪素酸化物-リチウム系複合体からなる非水電解質二次電池用負極材とその製造方法並びにこれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。」

(イ)「【0024】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
本発明者らは、上記目的を達成するため、従来の非水電解質を用いる二次電池用の負極材の問題点とその解決法について鋭意検討を重ねた。
そのうち、最も改善が進んでいる特許文献8の技術の問題点を徹底的に検証し、電子導電性とサイクル耐久性に劣る原因を究明した。
【0025】
即ち、特許文献8に開示された方法で製造した導電化珪素-珪素酸化物-リチウム系複合体は、リチウムドープすることが原因となり、その後の高温の熱CVD処理を施す際に、炭素被膜がSiC化し易くなること、および珪素の結晶化が進み易くなることを見出した。
そのメカニズムは必ずしも良く分かってはいないが、リチウム金属及び/又は有機リチウム化合物によってリチウムをドープする際に、珪素酸化物の一部がリチウムによって還元され珪素となるが、この珪素が不均化によって生じた珪素よりもSiC化および結晶化しやすく、負極とした時に電池特性、特にサイクル耐久性と放電容量の劣化を招いているためと考えられる。
【0026】
上記の検討結果をもとに、更に鋭意検討を重ねた結果、SiC化を抑制するためにはリチウムドープの前に熱CVD処理を施すことが必要であること、そして珪素の結晶化を強く抑制するためにはリチウムドープの上限温度をリチウムドープしていない酸化珪素が結晶化しない上限温度である900℃よりも低い800℃にする必要があることを見出した。
【0027】
また、リチウムドープ剤についても鋭意検討を行った。
すなわち、従来のようにリチウム金属及び/又は有機リチウム化合物の代わりに水酸化リチウムや酸化リチウムなど酸素を含むリチウムドープ剤を用いると、反応は穏やかではあるが組成中に酸素を含むため、珪素酸化物を還元することができず、放電容量が低下してしまうとの問題が発生し、金属リチウムを用いる場合では、反応の激しさ故、灼熱状態となって反応の制御が困難であるとの問題が発生するので、この解決方法について鋭意検討を重ねた。
【0028】
その結果、リチウムドープ剤として水素化リチウム又は水素化リチウムアルミニウムを用い、そして200℃?800℃に加熱することにより、リチウム金属及び/又は有機リチウム化合物と同等の容量が得られるとともに、反応が穏やかで容易に温度制御でき、工業的規模でリチウムをドープすることができることを見出した。
【0029】
上記の検討結果をもとに、酸化珪素または珪素が珪素酸化物に分散してなる珪素-珪素酸化物系複合体の表面を炭素により被覆した後、リチウムドープ剤として水素化リチウム又は水素化リチウムアルミニウムを混合して200℃?800℃に加熱することによって、反応が穏やかで容易に温度制御でき、更にSiC化および結晶化の進行を抑制しながら工業的規模で容易にリチウムをドープすることができること、そしてこのような負極材をリチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いる二次電池の負極活物質として用いることで、従来よりも高容量で、初回効率が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られることを見出し、本発明を完成させた。」

(ウ)「【0033】
また、ここでの珪素の粒子の大きさとは、X線回折においてSi(111)の回折ピークの半値全幅をもとにシェラーの式(1)により求めた珪素の結晶子の大きさDで定義されるものである。
D(nm)=Kλ/Bcosθ (1)
ただし、K=0.9,λ=0.154nm(Cu-Kαの場合),B=半値全幅(rad),θ=ピーク位置(°)である。
この珪素の粒子径は、0.7?40nmであることが望ましく、1?30nmであることが更に望ましい。
粒子径を0.5nm以上とすることで初回効率の低下が防止でき、50nm以下とすることで容量やサイクル耐久性が低下することを防止できる。」

(エ)「【0035】
更に、珪素-珪素酸化物系複合体に対するリチウムのドープ量は、0.1?20質量%とし、0.5?17質量%が望ましく、更には1?15質量%であることが望ましい。
・・・
なお、同時に炭素被覆にもリチウムがドープされていても問題はなく、その量は特に限定されない。」

(オ)「【0037】
更に、被覆炭素量は、被覆後の珪素-珪素酸化物系複合体に対し、1?40質量%とし、2?30質量%、更には3?20質量%とすることが望ましい。」

(カ)「【0061】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、下記例で%は質量%を示し、平均粒子径はレーザー回折法による粒度分布測定における累積重量平均値(又はメジアン径)D_(50)として測定した値である。また、珪素の結晶の大きさはCu-Kα線のX線回折データよりシェラー法により求めたSi(111)面の結晶子の大きさである。
【0062】
(実施例1)
金属珪素と二酸化珪素をモル比1:1で混合し、100Paの減圧下、1400℃で反応させて酸化珪素のガスを発生させ、このガスを50Paの減圧下、900℃において冷却して析出させ、塊状の生成物を得た。そしてこの生成物を乾式ボールミルで粉砕し、平均粒子径5μmの粉末を得た。
化学分析により、この粉末の組成はSiO_(0.95)であり、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー?微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察され、珪素-珪素酸化物系複合体であることが判った。この珪素-珪素酸化物系複合体の珪素の結晶の大きさは4nmであった。
【0063】
この珪素-珪素酸化物系複合体粉末にメタンガスを原料とし、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行い、粉末の表面を炭素で被覆した。その結果、被覆炭素量は被覆を含めた粉末全体に対して5%であった。
【0064】
次に、乾燥空気雰囲気のグローブボックス内で内容積約500mlの磁器製乳鉢に水素化リチウム(和光純薬製試薬)の粉末2.7gを入れて粉砕した後、上記炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末28.4gを追加し(水素化リチウム:珪素-珪素酸化物系複合体(炭素除く)=1:10(質量比))、十分均一になるまで攪拌・混合した。
そして、この混合物29gをアルミナ製70mlボートに仕込み、内径50mmのアルミナ炉芯管を備えた管状電気炉の炉芯管の中央に静置した。そしてアルゴンガスを毎分2l通気しながら、毎分5℃で600℃まで加熱し、1時間保持した後、放冷した。
【0065】
このようにして得られた非水電解質二次電池用負極材は、リチウムドープ量が8%であった。そして、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー?微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察された。・・・」

(キ)「【0082】
(実施例9)
実施例1と同様の方法で、珪素の結晶の大きさが4nmの珪素-珪素酸化物系複合体粉末を得た。
この珪素-珪素酸化物系複合体粉末を実施例1と同様の条件で熱CVD処理し、被覆炭素量が5%の炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末を得た。
次に、この炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末を、水素化リチウム:珪素-珪素酸化物系複合体(炭素除く)=1:100(質量比)とした以外は実施例1と同様の条件で水素化リチウムと反応させた。
【0083】
このようにして得られた非水電解質二次電池用負極材のリチウムドープ量は1%であった。なお、この負極材は、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー?微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察された。
また、Cu-Kα線のX線回折で珪素,珪酸リチウムに帰属されるピークが観察され、珪素の結晶の大きさは8nmであり、珪素の結晶の成長が抑制されていることが確認できた。」

(ク)「【0090】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で、珪素の結晶の大きさが4nmの珪素-珪素酸化物系複合体粉末を得た。
この珪素-珪素酸化物系複合体粉末を実施例1と同様の条件で熱CVD処理し、被覆炭素量が5%の炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末を得た。この珪素-珪素酸化物系複合体の珪素の結晶の大きさは7nmであった。
これをリチウムをドープすることなくそのまま非水電解質二次電池用負極材とした。」

(ケ)「【0104】
[電池評価]
リチウムイオン二次電池負極活物質としての評価は全ての実施例及び比較例共に同一で、以下の方法・手順にて行った。
まず、得られた非水電解質二次電池用負極材20gに鱗片状黒鉛粉(平均粒子径D_(50)=5μm)を、鱗片状黒鉛の炭素と非水電解質二次電池用負極材の被覆炭素が合計42%となるように加え、混合物を製造した。
この混合物に信越化学工業(株)製バインダKSC-4011を固形物換算で10%加え、20℃以下の温度でスラリーとした。更にN-メチルピロリドンを加えて粘度調整を行い、速やかにこのスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で1時間乾燥した後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には2cm^(2)に打ち抜いて負極とした。ここで、負極の質量を測定し、これから銅箔と鱗片状黒鉛とバインダの質量を引いて負極材の質量を求めた。
【0105】
そして、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートと1,2-ジメトキシエタンの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。」

(コ)上記事項から、甲第1-3号証には、次の技術的事項が記載されている。
a.上記(カ)、(キ)、(ク)によれば、「実施例9」、「比較例1」として、「珪素-珪素酸化物系複合体粉末」を「実施例1と同様の条件で熱CVD処理」、すなわち、「珪素-珪素酸化物系複合体粉末にメタンガスを原料とし、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行い、粉末の表面を炭素で被覆し」、「被覆炭素量が5%の炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末を得た」こと、「%は質量%を示」すことが記載されている。

b.上記(キ)によれば、「実施例9」において、「被覆炭素量が5%の炭素被覆された珪素-珪素酸化物系複合体粉末」を、「水素化リチウム:珪素-珪素酸化物系複合体(炭素除く)=1:100(質量比)とした以外は実施例1と同様の条件で水素化リチウムと反応させ」、「リチウムドープ量は1%」の「非水電解質二次電池用負極材」を得たことが記載されている。ここで、上記(エ)の記載より、「リチウムドープ量は1%」とは、炭素を含まない「珪素-珪素酸化物系複合体に対するリチウムのドープ量」であり、その単位は「質量%」であるから、「実施例9」におけるリチウムがドープされた「非水電解質二次電池用負極材」における「被覆炭素量」は、以下のとおりであるといえる。
5/(0.95+100)*100≒4.95(質量%)

c.上記(キ)によれば、「実施例9」の「非水電解質二次電池用負極材」は、「この珪素の結晶の大きさは8nmであ」るものであるところ、上記(ウ)、(カ)によれば、珪素に帰属されるピークは、「Si(111)」に帰属されるピークであるといえる。また、「珪素の結晶の大きさ」は、「珪素の結晶の大きさはCu-Kα線のX線回折データよりシェラー法により求めたSi(111)面の結晶子の大きさ」である。

d.上記c.と同様に、上記(ク)によれば、「比較例1」の「非水電解質二次電池用負極材」は、「Cu-Kα線のX線回折で珪素,珪酸リチウムに帰属されるピークが観察され、珪素の結晶の大きさは7nmであ」るものであるところ、上記(ウ)、(カ)によれば、珪素に帰属されるピークは、「Si(111)」に帰属されるピークであるといえる。また、「珪素の結晶の大きさ」は、「珪素の結晶の大きさはCu-Kα線のX線回折データよりシェラー法により求めたSi(111)面の結晶子の大きさ」である。

(サ)そうすると、特に上記(キ)の「実施例9」に着目すると、甲第1-3号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「珪素-珪素酸化物系複合体粉末と、その表面を被覆する炭素と、ドープされたリチウムとを含み、Cu-Kα線のX線回折で珪素のSi(111)に帰属されるピークが観察され、Cu-Kα線のX線回折データよりシェラー法により求めたSi(111)面の結晶子の大きさが8nmであり、炭素による被覆はメタンガスを原料として、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行うことで形成されたものであり、前記炭素の含有量が4.95質量%である、リチウムイオン二次電池用負極材料。」(以下、「甲1-3-1発明」という。)

(シ)また、特に上記(ク)の「比較例1」に着目すると、甲第1-3号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「珪素-珪素酸化物系複合体粉末と、その表面を被覆する炭素と、を含み、Cu-Kα線のX線回折で珪素のSi(111)に帰属されるピークが観察され、Cu-Kα線のX線回折データよりシェラー法により求めたSi(111)面の結晶子の大きさが7nmであり、炭素による被覆はメタンガスを原料として、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行うことで形成されたものであり、前記炭素の含有量が5質量%である、リチウムイオン二次電池用負極材料。」(以下、「甲1-3-2発明」という。)

エ 甲第1-5号証について
甲第1-5号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径範囲が1μm以上50μm以下の粉末状のSiOx(0.8≦X≦1.5)と、アセチレンブラック、カーボンブラック、ハードカーボンブラック、ピッチ、樹脂、およびポリマーからなる群から選ばれた少なくとも1種の炭素質原料とを混合し、800℃以上1600℃以下の温度で、3時間以上12時間以下、焼成することを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の負極活物質の製造方法において、SiOx(0.8≦X≦1.5)と炭素質原料とを800℃以上1400℃以下の温度で、炭化焼成する工程と、
得られた焼成体を粉砕して前駆体を製作する工程と、
この前駆体を、850℃以上1600℃以下の温度で焼成する工程とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記請求項1または2に記載の方法によって製造されることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項4】
粉末X線回折測定におけるSi(220)面の回折ピークの半値幅が1.5°以上、8.0°以下であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項5】
前記請求項3または請求項4に記載の非水電解質二次電池用負極活物質を有することを特徴とする非水電解質二次電池。」

(イ)「【0018】
本発明の負極活物質の望ましい態様は、SiとSiO_(2)と炭素質物の三相からなり、かつこれらが細かく複合化されたものである。Si相は多量のリチウムの挿入脱離し、負極活物質の容量を大きく増進させる。Si相への多量のリチウムの挿入脱離による膨張収縮を、Si相を他の2相のなかに分散することにより緩和して活物質粒子の微粉化を防ぐとともに、炭素質物相は負極活物質として重要な導電性を確保し、SiO_(2)相はSiと強固に結合し微細化されたSiを保持するバッファーとして粒子構造の維持に大きな効果がある。」

(ウ)「【0063】
(充放電試験)
得られた試料にアセチレンブラック5wt%、ポリテトラフルオロエチレン3wt%を加えシート状としステンレスメッシュに圧着し、150℃で真空乾燥し試験電極とした。対極および参照極を金属Li、電解液を1MLiPF_(6)のEC・MEC(体積比1:2)溶液とした電池をアルゴン雰囲気中で作製し充放電試験を行った。充放電試験の条件は、参照極と試験電極間の電位差0.01Vまで1mA/cm^(2)の電流密度で充電、さらに0.01Vで8時間の定電圧充電を行い、放電は1mA/cm^(2)の電流密度で3Vまで行った。
(X線回折測定)
得られた粉末試料について粉末X線回折測定を行い、Si(220)面のピークの半値幅を測定した。測定は株式会社マック・サイエンス社製X線回折測定装置(型式M18XHF22)を用い、以下の条件で行った。
【0064】
対陰極:Cu
管電圧:50kv
管電流:300mA
走査速度:1°(2θ)/min
時定数:1sec
受光スリット:0.15mm
発散スリット:0.5°
散乱スリット:0.5°
回折パターンより、d=1.92Å(2θ=47.2°)に現れるSiの面指数(220)のピークの半値幅(°(2θ))を測定した。また、Si(220)のピークが活物質中に含有される他の物質のピークと重なりをもつ場合には、ピークを単離し半値幅を測定した。・・・」

オ 甲第2-1号証(甲第1-4号証と同じ)について
甲第2-1号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質を用いる二次電池用の負極材であって、少なくとも、
粒子径が0.5?50nmの珪素が原子オーダー及び/又は微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造を有するSi/Oのモル比が1/0.5?1.6の珪素-珪素酸化物系複合体と、該珪素-珪素酸化物系複合体の表面に該珪素-珪素酸化物系複合体に対しての被覆量が1?40質量%で被覆された炭素被膜とからなり、
かつ、水素化マグネシウム及び/又は水素化カルシウムを前記珪素-珪素酸化物系複合体と反応させることにより、少なくとも前記珪素-珪素酸化物系複合体に対するドープ量が0.1?20質量%でマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。」

(イ)「【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いる二次電池用の負極材として有用とされる珪素-珪素酸化物系複合体を用いた非水電解質二次電池用負極材とその製造方法並びにこれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。」

(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明では、非水電解質を用いる二次電池用の負極材であって、少なくとも、粒子径が0.5?50nmの珪素が原子オーダー及び/又は微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造を有するSi/Oのモル比が1/0.5?1.6の珪素-珪素酸化物系複合体と、該珪素-珪素酸化物系複合体の表面に該珪素-珪素酸化物系複合体に対しての被覆量が1?40質量%で被覆された炭素被膜とからなり、かつ、水素化マグネシウム及び/又は水素化カルシウムを前記珪素-珪素酸化物系複合体と反応させることにより、少なくとも前記珪素-珪素酸化物系複合体に対するドープ量が0.1?20質量%でマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材を提供する。
【0020】
このように、マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものであるため、ポリイミドをバインダーとした電極ペーストを作製する際の負極材とバインダーとの化学反応がリチウムドープの場合に比べて抑制されたものとなる。従って、このような負極材を用いて作製されたペーストの安定性が高くなり、これによって作製された負極も安定し、サイクル耐久性も従来に比べて改善されたものとすることができる。
また、珪素-珪素酸化物系複合体に対するドープ量が0.1?20質量%でマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされ、かつ炭素被膜が1?40質量%だけ被覆された粒子径が0.5?50nmの珪素が原子オーダー及び/又は微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造を有するSi/Oのモル比が1/0.5?1.6の珪素-珪素酸化物系複合体がベースとなっているため、従来の負極材に比べて高容量・高サイクル耐久性であり、特に初回効率に優れた負極材となっているものである。」

(エ)「【0035】
また珪素の粒子の大きさは、X線回折においてSi(111)の回折ピークの半値全幅をもとにシェラーの式(1)により求めた珪素の結晶子の大きさDで定義されるものである。
D(nm)=Kλ/Bcosθ (1)
ただし、K=0.9,λ=0.154nm(CuKαの場合),B=半値全幅(rad),θ=ピーク位置(°)である。
本発明の非水電解質二次電池用負極材の珪素の粒子の大きさは0.5?50nmであり、0.7?40nmであることが望ましく、1?30nmであることが更に望ましい。
粒子径を0.5nm以上とすることで初回効率の低下が防止でき、50nm以下とすることで容量やサイクル耐久性が低下することを防止することができる。」

(オ)「【0040】
また、炭素被膜を形成した珪素-珪素酸化物-2A族系複合体粉末の被覆炭素量は、被覆後の複合体粒子全体に対し、1?40質量%とする。特には、2?30質量%が望ましく、更には3?20質量%が望ましい。」

(カ)「【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、下記例で%は質量%を示し、平均粒子径はレーザー回折法による粒度分布測定における累積重量平均値(又はメジアン径)D_(50)として測定した値である。また、珪素の結晶の大きさはCu-Kα線のX線回折データよりシェラー法により求めたSi(111)面の結晶子の大きさである。
【0064】
(実施例1)
金属珪素と二酸化珪素をモル比1:1で混合し、100Paの減圧下、1400℃で反応させて酸化珪素のガスを発生させ、このガスを50Paの減圧下、900℃に冷却し析出させて塊状の生成物を得た。この生成物を乾式ボールミルで粉砕し、平均粒子径5μmの粉末を得た。
化学分析により、この粉末の組成はSiO_(0.95)であり、透過電子顕微鏡により珪素が原子オーダー?微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造が観察され、珪素-酸化珪素複合体であることが分かった。この珪素-酸化珪素複合体の珪素の結晶の大きさは4nmであった。
【0065】
この珪素-酸化珪素複合体粉末にメタンガスを原料とし、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行い、粉末の表面を炭素で被覆した。被覆炭素量は被膜を含めた粉末全体に対して5%であった。」

(キ)「【0075】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で、珪素の結晶の大きさが4nmの珪素-酸化珪素複合体粉末を得た。
この珪素-酸化珪素複合体粉末を実施例1と同様の条件で熱CVD処理し、被覆炭素量が5%の炭素被覆された珪素-酸化珪素複合体粉末を得た。この粉末の珪素の結晶の大きさは7nmであった。
これをそのまま非水電解質二次電池用負極材とした。」

(ク)「【0083】
[電池評価]
リチウムイオン二次電池負極活物質としての評価は、全ての実施例及び比較例で同一で、以下の方法・手順にて行った。
まず、得られた非水電解質二次電池用負極材20gに鱗片状黒鉛粉(平均粒子径D_(50)=5μm)を、鱗片状黒鉛の炭素と非水電解質二次電池用負極材の被覆炭素が合計42質量%となるように加え、混合物を製造した。
この混合物に宇部興産(株)製ポリイミドバインダU-ワニスAを固形物換算で10質量%加え、20℃以下の温度でスラリー状のペーストを作製した。更にN-メチルピロリドンを加えて粘度調整を行い、速やかにこのペーストを厚さ20μmの銅箔に塗布し、200℃で2時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には2cm^(2)に打ち抜き、負極とした。負極の質量を測定し、これから銅箔と鱗片状黒鉛とバインダーの質量を引いて負極材の質量を求めた。
【0084】
そして、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートと1,2-ジメトキシエタンの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。」

(ケ)上記事項から、甲第2-1号証には、次の技術的事項が記載されている。
a.上記(カ)、(キ)によれば、「比較例1」として、「珪素-酸化珪素複合体粉末」を「実施例1と同様の条件で熱CVD処理」、すなわち、「珪素-酸化珪素複合体粉末にメタンガスを原料とし、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行い、粉末の表面を炭素で被覆し」、「被覆炭素量が5%の炭素被覆された珪素-酸化珪素複合体粉末を得た」こと、「%は質量%を示」すことが記載されている。

b.上記(キ)によれば、「比較例1」の「非水電解質二次電池用負極材」の「粉末の珪素の結晶の大きさは7nm」であるところ、上記(エ)、(カ)によれば、「珪素の結晶の大きさ」は、「珪素の結晶の大きさはCu-Kα線のX線回折データよりシェラー法により求めたSi(111)面の結晶子の大きさ」であり、また、「Cu-Kα線のX線回折データ」は「Si(111)」に帰属する回折ピークを有するものといえる。

c.上記(ク)には、「比較例1」の「非水電解質二次電池用負極材」を「リチウムイオン二次電池負極」とし、「リチウムイオン二次電池を作製した」ことが記載されている。

(コ)そうすると、特に上記(キ)の「比較例1」に着目すると、甲第2-1号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「珪素-酸化珪素複合体粉末と、その表面を被覆する炭素とを含み、Cu-Kα線のX線回折データはSi(111)に帰属する回折ピークを有し、Cu-Kα線のX線回折データよりシェラー法により求めたSi(111)面の結晶子の大きさが7nmであり、炭素による被覆はメタンガスを原料として、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行うことで形成されたものである、リチウムイオン二次電池用負極材料。」(以下、「甲2-1発明」という。)

(3)取消理由について
ア 取消理由1-1
(ア)本件発明1と甲1-3-1発明とを対比する。
a.本件発明1の「珪素酸化物」は、「珪素の結晶子」を含むものであるから、甲1-3-1発明における「珪素-珪素酸化物系複合体粉末」は、本件発明1の「珪素酸化物」に相当する。

b.甲1-3-1発明における「珪素-珪素酸化物系複合体粉末」「の表面を被覆する炭素」は、本件発明1の「珪素の酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素」に相当する。

c.甲1-3-1発明の「Cu-Kα線のX線回折で珪素のSi(111)に帰属されるピークが観察され」は、本件発明1の「X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し」に相当する。

d.甲1-3-1発明の「炭素による被覆」は「メタンガスを原料として、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行うことで形成されたものである」ものであるところ、この製造条件で得られる炭素の「R値」について検討する。ここで、「R値」とは、本件明細書等の【0034】から、「炭素のラマンスペクトルにおけるR値は、波長532nmのアルゴンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1360cm^(-1)付近に現れるピークの強度をId、1580cm^(-1)付近に現れるピークの強度をIgとし、その両ピークの強度比Id/Ig(D/Gとも表記する)」とし、同【0035】から、「1360cm^(-1)付近に現れるピークとは、通常、炭素の非晶質構造に対応すると同定されるピークであり、例えば、1300cm^(-1)?1400cm^(-1)に観測されるピークである。また、1580cm^(-1)付近に現れるピークとは、通常、黒鉛結晶構造に対応すると同定されるピークであり、例えば、1530cm^(-1)?1630cm^(-1)に観測されるピークである。」とする。
上記(2)ア(エ)によれば、甲第1-1号証には、リチウムイオン二次電池用負極材に関し、酸化珪素粉末に対して「メタン-アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件」で熱CVDを行って得られた炭素について、ラマン分光スペクトルの結果が図4として示されている。そして、図4には、1530cm^(-1)?1630cm^(-1)付近及び1300cm^(-1)?1400cm^(-1)付近にスペクトルが観察され、そのピーク強度は、1530cm^(-1)?1630cm^(-1)付近のピークよりも1300cm^(-1)?1400cm^(-1)のピークの方が強いことから、R値が0.5以上であることは明らかである。
また、上記(2)イ(オ)によれば、甲第1-2号証には、リチウムイオン二次電池用負極材に関し、酸化珪素粉末に対して「Arガスを2NL/min流入しながら、300℃/hrの昇温速度で1150℃まで昇温、保持した。次に、CH_(4)ガスを1NL/min追加流入し、5時間の黒鉛被覆処理」を熱CVDで行って得られた炭素について、ラマン分光スペクトルの結果が図1として示されている。そして、図1に示されている実施例1の測定結果によれば、1530cm^(-1)?1630cm^(-1)付近及び1300cm^(-1)?1400cm^(-1)付近にスペクトルが観察され、そのピーク強度は、1530cm^(-1)?1630cm^(-1)付近のピークよりも1300cm^(-1)?1400cm^(-1)のピークの方が強いことから、R値が0.5以上であることは明らかである。
そして、甲1-3-1発明の「炭素による被覆」は、甲第1-1号証、甲第1-2号証に記載されるものと同様に「メタン」、「CH_(4)ガス」を炭素源とした「熱CVD」で行うものであり、甲1-3-1発明の処理条件である「1100℃」、「5時間」は、甲第1-1号証に記載される処理温度である「1150℃」、「2時間」、甲第1-2号証に記載される処理温度である「1150℃」、「5時間」と近似しており、本願優先日時点の技術常識を勘案しても、甲1-3-1発明の処理条件において甲第1-1号証及び甲第1-2号証に記載された処理条件と比較してグラファイトの結晶化が大きく相違するとは考えがたいことから、甲1-3-1発明の処理条件の熱CVDで得られた炭素のR値は、甲第1-1号証及び甲第1-2号証に記載された炭素のR値と同様、0.5以上であることは明らかである。
そうすると、甲1-3-1発明の「炭素による被覆はメタンガスを原料として、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行うことで形成された」「炭素」は、本件発明1で特定される「炭素はR値が0.5以上」に包含される。

e.甲1-3-1発明の「炭素の含有率が4.95質量%」と、本件発明1の「炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満」とは、「炭素の含有率が4.95質量%」である点で一致する。

f.甲1-3-1発明の「リチウムイオン二次電池用負極材料」は、「マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたもの」ではないから、本件発明1の「リチウムイオン二次電池用負極材料」と、「マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」ものである点で一致する。

g.そうすると、本件発明1と甲1-3-1発明とは、次の点で一致する。
(一致点)
「珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記炭素のR値が0.5以上であり、前記炭素の含有率が4.95質量%であり、但し、マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。」

h.他方で、本件発明1と甲1-3-1発明とは、次の点で相違する。
(相違点1-1)
回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさについて、本件発明1では、「2.0nm?6.0nmであ」ると規定されているのに対して、甲1-3-1発明では、「8nm」である点。

(相違点1-2)
リチウムイオン二次電池用負極材料について、本件発明1では、「リチウムがドープされたもの・・・を除く」ものであることが規定されているのに対して、甲1-3-1発明は、ドープされたリチウムを含むものである点。

i.そこで、上記相違点1-1、1-2について検討するに、いずれの相違点も実質的なものであるから、本件発明1が甲1-3-1発明であるとすることはできない。

(イ)次に、本件発明1と甲1-3-2発明とを対比する。
a.上記(ア)a.?c.において検討したのと同様に、甲1-3-2発明における「珪素-珪素酸化物系複合体粉末」、「珪素-珪素酸化物系複合体粉末の表面を被覆する炭素」、「Cu-Kα線のX線回折で珪素のSi(111)に帰属されるピークが観察され」は、それぞれ本件発明1の「珪素酸化物」、「珪素の酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素」、「X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し」に相当する。

b.上記(ア)d.において検討したのと同様に、甲1-3-2発明の「炭素による被覆はメタンガスを原料として、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行うことで形成された」「炭素」は、本件発明1で特定される「炭素はR値が0.5以上」に包含される。

c.甲1-3-2発明の「リチウムイオン二次電池用負極材料」は、「マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたもの」ではなく、また、リチウムがドープされたものでもないから、本件発明1の「リチウムイオン二次電池用負極材料」と、「リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」ものである点で一致する。

d.そうすると、本件発明1と甲1-3-2発明とは、次の点で一致する。
(一致点)
「珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記炭素のR値が0.5以上であり、但し、リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。」

e.他方で、本件発明1と甲1-3-2発明とは、次の点で相違する。
(相違点2-1)
回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさについて、本件発明1では、「2.0nm?6.0nmであ」ると規定されているのに対して、甲1-3-2発明では、「7nm」である点。

(相違点2-2)
リチウムイオン二次電池用負極材料における炭素の含有率が、本件発明1では、「0.5質量%以上5.0質量%未満」であるのに対して、甲1-3-2発明では、「5質量%」である点。

i.そこで、上記相違点2-1、2-2について検討するに、いずれの相違点も実質的なものであるから、本件発明1が甲1-3-2発明であるとすることはできない。

(ウ)以上のとおりであるから、本件発明1、及び請求項1を引用する請求項3、4に係る本件発明3、4は、甲第1-3号証に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものといえない。

(エ)よって、本件発明1、3、4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号により取り消すことはできない。

イ 取消理由2
(ア)本件発明1が、上記甲1-3-1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるかについて検討する。

a.相違点1-1について
上記ア(ア)h.のとおり、本件発明1と甲1-3-1発明とは、回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさについて、本件発明1では、「2.0nm?6.0nmであ」ると規定されているのに対して、甲1-3-1発明では、「8nm」である点で相違している(相違点1-1)。
この点について検討するに、甲第1-3号証には、上記珪素の結晶子の大きさに関して、「この珪素の粒子径は、0.7?40nmであることが望ましく、1?30nmであることが更に望ましい。粒子径を0.5nm以上とすることで初回効率の低下が防止でき、50nm以下とすることで容量やサイクル耐久性が低下することを防止できる。」(上記(2)ウ(ウ)参照。)と記載されてはいるものの、甲1-3-1発明における珪素の結晶子の大きさを、「8nm」から更に微小化して、本件発明1の「2.0nm?6.0nm」の範囲のものに変更する積極的な動機付けはなく、また、上記(1)キ、クのとおり、本件発明1が珪素の結晶子の大きさを「2.0nm?6.0nm」と限定することにより、初回の放電容量が大きく、かつ初期の充放電効率に優れた負極材料を得るという有利な効果が奏されているといえる。したがって、上記相違点1-1は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

b.相違点1-2について
また、上記ア(ア)h.のとおり、本件発明1と甲1-3-1発明とは、リチウムイオン二次電池用負極材料について、本件発明1では、「リチウムがドープされたもの・・・を除く」ものであることが規定されているのに対して、甲1-3-1発明は、ドープされたリチウムを含むものである点で相違している(相違点1-2)。
この点について検討するに、甲第1-3号証の【0024】?【0026】の記載(上記(2)ウ(イ)参照)からすると、甲第1-3号証に記載された技術は、導電化珪素-珪素酸化物-リチウム系複合体にリチウムがドープされることを前提としたものであり、その実施形態の一つである甲1-3-1発明においても、同様である。
そうすると、リチウムがドープされることを前提とする甲1-3-1発明からリチウムがドープされたものを除くことには、阻害要因があるといえる。
したがって、上記相違点1-2は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

c.よって、本件発明1は、甲1-3-1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)次に、本件発明1が、上記甲1-3-2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるかについて検討する。

a.相違点2-1について
上記ア(イ)e.のとおり、本件発明1と甲1-3-2発明とは、回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさについて、本件発明1では、「2.0nm?6.0nmであ」ると規定されているのに対して、甲1-3-2発明では、「7nm」である点で相違しているが(相違点2-1)、上記(ア)a.にて検討したのと同様に、甲1-3-2発明における珪素の結晶子の大きさを、「7nm」から更に微小化して、本件発明1の「2.0nm?6.0nm」の範囲のものに変更する積極的な動機付けはなく、また、上記(1)キ、クのとおり、本件発明1が珪素の結晶子の大きさを「2.0nm?6.0nm」と限定することにより、初回の放電容量が大きく、かつ初期の充放電効率に優れた負極材料を得るという有利な効果が奏されているといえる。したがって、上記相違点2-1は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

b.相違点2-2について
また、上記ア(イ)e.のとおり、本件発明1と甲1-3-2発明とは、リチウムイオン二次電池用負極材料における炭素の含有率が、本件発明1では、「0.5質量%以上5.0質量%未満」であるのに対して、甲1-3-2発明では、「5質量%」である点で相違している(相違点2-2)。
この点について検討するに、甲第1-3号証には、上記炭素が含有率に関して、「更に、被覆炭素量は、被覆後の珪素-珪素酸化物系複合体に対し、1?40質量%とし、2?30質量%、更には3?20質量%とすることが望ましい。」(上記(2)ウ(オ)参照)と記載されてはいるものの、甲1-3-2発明における炭素の含有率を、「5質量%」から本件発明1の「0.5質量%以上5.0質量%未満」の範囲のものに変更する積極的な動機付けはなく、したがって、上記相違点2-2は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

c.本件発明1は、甲1-3-2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)以上のとおりであるから、本件発明1、及び請求項1を引用する請求項3、4に係る本件発明3、4は、甲第1-3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。よって、本件発明1、3、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号により取り消すことはできない。

ウ 取消理由1-2
(ア)本件発明1と甲2-1発明とを対比する。
a.甲2-1発明における「珪素-酸化珪素複合体粉末」、「その(珪素-酸化珪素複合体粉末の)表面を被覆する炭素」、「Cu-Kα線のX線回折で珪素のSi(111)に帰属されるピークが観察され」は、それぞれ本件発明1の「珪素酸化物」、「珪素の酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素」、「X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し」に相当する。

b.上記ア(ア)d.において検討したのと同様に、甲2-1発明の「炭素による被覆はメタンガスを原料として、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行うことで形成された」「炭素」は、本件発明1で特定される「炭素はR値が0.5以上」に包含される。

c.甲2-1発明の「リチウムイオン二次電池用負極材料」は、「マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたもの」ではなく、また、リチウムがドープされたものでもないから、本件発明1の「リチウムイオン二次電池用負極材料」と、「リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」ものである点で一致する。

d.そうすると、本件発明1と甲2-1発明とは、次の点で一致する。
(一致点)
「珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記炭素のR値が0.5以上であり、但し、リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。」

e.他方で、本件発明1と甲2-1発明とは、次の点で相違する。
(相違点3-1)
回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさについて、本件発明1では、「2.0nm?6.0nmであ」ると規定されているのに対して、甲2-1発明では、「7nm」である点。

(相違点3-2)
リチウムイオン二次電池用負極材料における炭素の含有率が、本件発明1では、「0.5質量%以上5.0質量%未満」であるのに対して、甲2-1発明では、不明である点。

f.そこで、上記相違点3-1、3-2について検討するに、いずれの相違点も実質的なものであるから、本件発明1が甲2-1発明であるとすることはできない。

(イ)以上のとおりであるから、本件発明1、及び請求項1を引用する請求項3、4に係る本件発明3、4は、甲第2-1号証に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものといえない。

(ウ)よって、本件発明1、3、4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号により取り消すことはできない。

(4)取消理由としなかった異議申立理由について
ア 申立理由1-1について
(ア)甲第1-1号証について
a.上記(2)ア(ア)?(オ)のとおり、甲第1-1号証には、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子において、回折ピークから算出される上記珪素の微結晶の大きさが「1?500nm」、「2?200nm」、「2?20nm」、「約11nm」等であることが記載されているのみで、本件発明1のように、回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが「2.0nm?6.0nm」であることは、記載されていない。

b.そうすると、上記珪素の微結晶(結晶子)の大きさが「2?20nm」であるものを甲第1-1号証に記載された発明として認定した場合、本件発明1と当該甲第1-1号証に記載された発明とは、少なくとも次の点で相違する。
(相違点4)
回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさについて、本件発明1では、「2.0nm?6.0nmであ」ると規定されているのに対して、甲第1-1号証に記載された発明では、「2?20nm」と規定されている点。

c.上記相違点4について検討するに、甲第1-1号証に記載された発明における珪素の結晶子の大きさを、本件発明1の「2.0nm?6.0nm」の範囲のものに変更する積極的な動機付けはなく、また、上記(1)キ、クのとおり、本件発明1が珪素の結晶子の大きさを「2.0nm?6.0nm」と限定することにより、初回の放電容量が大きく、かつ初期の充放電効率に優れた負極材料を得るという有利な効果が奏されているといえる。そして、この効果は、甲第1-3号証、甲第1-4号証(甲第2-1号証と同じ)、及び甲第1-5号証の記載事項(上記(2)ウ、エ、オ参照)によっても予測可能なものとはいえない。したがって、上記相違点4は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

d.以上のとおりであるから、本件発明1、及び請求項1を引用する請求項3、4に係る本件発明3、4は、甲第1-1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1-1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

e.よって、本件発明1、3、4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号により取り消すことはできない。

(イ)甲第1-2号証について
a.上記(2)イ(ア)?(カ)のとおり、甲第1-2号証には、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子において、回折ピークから算出される上記珪素の微結晶の大きさが「1?500nm」、「2?200nm」、「2?20nm」が好ましいことが記載されているのみで、実施例における微結晶の大きさは不明であり、本件発明1のように、回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが「2.0nm?6.0nm」であることは、記載されていない。

b.そうすると、上記珪素の微結晶(結晶子)の大きさが「2?20nm」であるものを甲第1-2号証に記載された発明として認定した場合、本件発明1と当該甲第1-2号証に記載された発明とは、少なくとも次の点で相違する。
(相違点5)
回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさについて、本件発明1では、「2.0nm?6.0nmであ」ると規定されているのに対して、甲第1-2号証に記載された発明では、「2?20nm」と規定されている点。

c.上記相違点5について検討するに、甲第1-2号証に記載された発明における珪素の結晶子の大きさを、本件発明1の「2.0nm?6.0nm」の範囲のものに変更する積極的な動機付けはなく、また、上記(1)キ、クのとおり、本件発明1が珪素の結晶子の大きさを「2.0nm?6.0nm」と限定することにより、初回の放電容量が大きく、かつ初期の充放電効率に優れた負極材料を得るという有利な効果が奏されているといえる。そして、この効果は、甲第1-3号証、甲第1-4号証(甲第2-1号証と同じ)、及び甲第1-5号証の記載事項(上記(2)ウ、エ、オ参照)によっても予測可能なものとはいえない。したがって、上記相違点5は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

d.以上のとおりであるから、本件発明1、及び請求項1を引用する請求項3、4に係る本件発明3、4は、甲第1-2号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1-2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

e.よって、本件発明1、3、4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号により取り消すことはできない。

イ 申立理由2-1について
(ア)本件発明1が上記甲2-1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものかについて検討する。

a.相違点3-1について
上記(3)ウ(ア)e.のとおり、本件発明1と甲2-1発明とは、回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさについて、本件発明1では、「2.0nm?6.0nmであ」ると規定されているのに対して、甲2-1発明では、「7nm」である点で相違しているが(相違点3-1)、上記(3)イ(イ)a.にて検討したのと同様に、甲2-1発明における珪素の結晶子の大きさを、「7nm」から更に微小化して、本件発明1の「2.0nm?6.0nm」の範囲のものに変更する積極的な動機付けはなく、また、上記(1)キ、クのとおり、本件発明1が珪素の結晶子の大きさを「2.0nm?6.0nm」と限定することにより、初回の放電容量が大きく、かつ初期の充放電効率に優れた負極材料を得るという有利な効果が奏されているといえる。したがって、上記相違点3-1は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

b.相違点3-2について
また、上記(3)ウ(ア)e.のとおり、本件発明1と甲2-1発明とは、リチウムイオン二次電池用負極材料における炭素の含有率が、本件発明1では、「0.5質量%以上5.0質量%未満」であるのに対して、甲2-1発明では、不明である点で相違している(相違点3-2)。
この点について検討するに、甲第2-1号証には、上記炭素が含有率に関して、「炭素被膜を形成した珪素-珪素酸化物-2A族系複合体粉末の被覆炭素量は、被覆後の複合体粒子全体に対し、1?40質量%とする。特には、2?30質量%が望ましく、更には3?20質量%が望ましい。」(上記(2)オ(ウ)参照)と記載されてはいるものの、甲2-1発明における炭素の含有率を、本件発明1の「0.5質量%以上5.0質量%未満」の範囲のものに変更する積極的な動機付けはなく、したがって、上記相違点3-2は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

c.本件発明1は、甲2-1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)以上のとおりであるから、本件発明1、及び請求項1を引用する請求項3、4に係る本件発明3、4は、甲第2-1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。よって、本件発明1、3、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号により取り消すことはできない。

ウ 申立理由2-2について
(ア)上記第2 2(3)イ(ア)で述べたとおり、いわゆる「除くクレーム」とは、請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみをその請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいい、除外した後の「除くクレーム」が新たな技術的事項を導入するものでない場合は、許されるものであり、例えば、請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正は、新規事項を追加するものとはされない。以下、この観点から検討する。

(イ)本件発明1の「但し、マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」との発明特定事項は、本件についての平成29年 7月14日付け拒絶理由通知、及び平成30年 1月19日付け拒絶査定において、本件請求項に係る発明の新規性進歩性を喪失させる刊行物として引用された特開2012-33317号公報(甲第2-1号証)に記載された発明と、平成29年10月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定された請求項1?4に係る発明との重複部分を除く趣旨で、平成30年 4月26日付け手続補正により請求項1に加えられたものである。

(ウ)ここで、特開2012-33317号公報(甲第2-1号証)には、「非水電解質を用いる二次電池用の負極材であって、少なくとも、粒子径が0.5?50nmの珪素が原子オーダー及び/又は微結晶状態で珪素酸化物に分散した構造を有するSi/Oのモル比が1/0.5?1.6の珪素-珪素酸化物系複合体と、該珪素-珪素酸化物系複合体の表面に該珪素-珪素酸化物系複合体に対しての被覆量が1?40質量%で被覆された炭素被膜とからなり、かつ、水素化マグネシウム及び/又は水素化カルシウムを前記珪素-珪素酸化物系複合体と反応させることにより、少なくとも前記珪素-珪素酸化物系複合体に対するドープ量が0.1?20質量%でマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材」(【請求項1】、【0019】、上記(2)オ(ア)、(ウ)参照。)が記載され、「この珪素-酸化珪素複合体粉末にメタンガスを原料とし、1000Paの減圧下、1100℃で熱CVD処理を5時間行い、粉末の表面を炭素で被覆した。」こと(【0065】、上記(2)オ(カ)参照))が記載されていると認められる。
また、実施例として、珪素-珪素酸化物系複合体に含まれる珪素の結晶子の大きさが4nmのものが記載されている(【0064】、上記(2)オ(カ)参照)。

(エ)一方、平成29年10月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「【請求項1】
珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nmであり、前記炭素はR値が0.5以上であるリチウムイオン二次電池用負極材料。」(以下、「本件補正前発明」という。)

(オ)そこで、本件補正前発明と特開2012-33317号公報(甲第2-1号証)に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比したとき、上記(3)ウで検討した内容も考慮すると、本件補正前発明と引用発明とは相違しておらず、新規性を有しないものといえる。

(カ)そうすると、平成30年 4月26日付け手続補正により、「但し、マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」との発明特定事項を請求項1に加えた補正は、請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正といえ、それによって何ら新たな技術的事項を導入するものでもないから、新規事項を追加するものではない。

(キ)したがって、平成30年 4月26日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、本件発明1、3、4係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、同法第113条第5号により取り消すことはできない。

エ 申立理由2-3について
(ア)上記(1)イによれば、本件発明の解決しようとする課題は、「初期の放電容量及び初期の充放電効率に優れるリチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極並びにリチウムイオン二次電池を提供する」ことにあるといえる。

(イ)そして、上記課題を解決する手段について、本件明細書等の発明の詳細な説明には、「本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料(以下、単に「負極材料」とも略称する)は、珪素酸化物を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが2.0nm?8.0nmである。前記珪素酸化物中に、珪素の結晶子が存在し、その珪素の結晶子の大きさが特定の範囲であることで、リチウムイオン二次電池を構成した場合に、初期の放電容量の高容量化と、優れた初期の充放電効率とを達成可能となる。これは、例えば、珪素の結晶子の大きさが特定の範囲であると、リチウムイオンの吸蔵及び放出に伴う膨張及び収縮を緩和することができるとともに、単位体積あたりの珪素酸化物の容量低下を抑えることができるため、初期の放電容量及び初期の充放電効率に優れると考えることができる。」(【0020】、上記(1)ウ参照)、「前記珪素酸化物に含まれる珪素の結晶子の大きさは2.0nm?8.0nmである。珪素の結晶子の大きさが2.0nm未満では、リチウムイオンと珪素酸化物とが反応しやすく、初期の放電容量が充分に得られない傾向がある。また、珪素の結晶子の大きさが8.0nmを超えると、珪素酸化物中で珪素の結晶子が局在化しやすくなり、珪素酸化物内でリチウムイオンが拡散しにくくなり、充放電特性が低下する傾向がある。珪素の結晶子の大きさは3.0nm以上であることがより好ましく、4.0nm以上であることが更に好ましい。また、サイクル特性の観点から、珪素の結晶子の大きさは6.0nm以下であることが好ましく、5.0nm以下であることがより好ましい。」(【0023】、上記(1)エ参照)と記載され、その具体的な態様として、実施例1?5が記載されるとともに、初回充電容量、初回放電容量、及び充放電効率の評価結果が比較例1、2と対比して【表1】として記載されており、その結果から、「実施例1?5で示したリチウムイオン二次電池用負極材料は、珪素の結晶子が観測されない比較例1及び珪素の結晶子の大きさが11.0nmである比較例2の負極材料と比べて、初回の放電容量が大きく、初期の充放電効率に優れた負極材料であることが分かる。」(【0096】、上記(1)ク参照)とも記載されている。

(ウ)上記(イ)を勘案すると、「初回の放電容量が大きく、初期の充放電効率に優れた負極材料である」とされた実施例1?5について「珪素の結晶子の大きさ」は、「2.0?8.0nm」であることが確認できるから、上記(ア)の課題を解決する手段として、リチウムイオン二次電池用負極材料を構成する珪素酸化物中に含まれる珪素の結晶子の大きさを「2.0nm?8.0nm」とすることが、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲であるといえる。

(エ)この点に関し、申立人2は、特許異議申立書において、「ところが、このような効果を裏付ける〔表1〕(同公報の段落0095)を見ると、『実施例1』?『実施例5』における『初回放電容量』は、『比較例2』と比べると上昇しているが、『比較例1』と比べると全て低下している。また、『実施例1』?『実施例5』における『充放電効率』は、『比較例1』と比べると上昇しているが、『比較例2』と比べると全て低下している。・・・すなわち、〔表1〕(同公報の段落0095)に示された実際の効果は、初期の『放電容量』か、初期の『充放電効率』かの一方のみが優れ、他方が劣るというものであり、これが顕著な効果と言えるのか、大いに疑念があるところであり、少なくとも、本件特許発明の〔発明が解決しようとする課題〕の欄及び『発明の効果』の欄で強調されている『初期の放電容量及び初期の充放電効率に優れる』という効果とは異なり、〔実施例〕の欄で裏付けられたものではない。」(第19頁下から1行?第20頁第10行)と主張しているので、この主張について検討する。

(オ)本件明細書等の【表1】(【0095】、上記4(1)キ参照)には、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、及び比較例2に対応する「初期放電容量[mAh/g]」として、「407」、「406」、「406」、「402」、「395」、「408」、及び「385」と記載され、「充放電効率[%]」として、「89.1」、「89.4」、「90.2」、「90.0」、「90.4」、「87.6」、及び「90.6」と記載されている。

(カ)上記(オ)の記載について検討するに、確かに、「初期放電容量」、「充放電効率」を個々にみると、比較例1、2の方が実施例1?5よりも優れた特性を発揮している面もあるが、「初期放電容量」と「充放電効率」が両立できているか(初期放電容量が395mAh/g以上で、かつ、充放電効率が89.1%以上であるか)の観点から総合的にみると、実施例1?5の方が、比較例1、2よりも優れているといえる。そして、このことは、「初期の放電容量が大きく、初期の充放電効率に優れた負極材料である。」という発明の効果と齟齬するものではない。
よって、申立人2の上記主張は、採用しない。

(カ)そうすると、本件発明1は、「回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが2.0nm?6.0nmであ」ることを規定しているものであるから、上記(ウ)の発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであり、その範囲を超えているとはいえない。

(キ)したがって、本件発明1、及び請求項1を引用する請求項3、4に係る本件発明3、4は、発明の詳細な説明に記載したものといえるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(ク)よって、本件発明1、3、4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号により取り消すことはできない。

オ 申立理由2-4について
(ア)本件発明1は、リチウムイオン二次電池用負極材料について、「リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」ことを発明特定事項としており、その内、「マグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除く」とは、(a)マグネシウムがドープされたものを除く、(b)カルシウムがドープされたものを除く、及び(c)マグネシウム及びカルシウムがドープされたものを除く、の三態様を表していることが、明らかであり、この点で特許を受けようとする発明は明確に把握されるといえる。

(イ)したがって、本件発明1、及び請求項1を引用する請求項3、4に係る本件発明3、4は、特許を受けようとする発明が明確であるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、同法第113条第4号により取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって特許異議の申立てがされた請求項2は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項2は存在しないものとなったから、請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素酸化物と、前記珪素酸化物の表面の一部又は全部に配置された炭素と、を含み、X線回折スペクトルにおいてSi(111)に帰属される回折ピークを有し、前記回折ピークから算出される珪素の結晶子の大きさが2.0nm?6.0nmであり、前記炭素はR値が0.5以上であり、前記炭素の含有率が0.5質量%以上5.0質量%未満であり、但し、リチウムがドープされたもの並びにマグネシウム及び/又はカルシウムがドープされたものを除くリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
集電体と、
前記集電体上に設けられた、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を含む負極材層と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
正極と、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-11 
出願番号 特願2014-543371(P2014-543371)
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 重樹福井 晃三井原 純  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 粟野 正明
長谷山 健
登録日 2018-08-10 
登録番号 特許第6380106号(P6380106)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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