• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01F
管理番号 1358605
異議申立番号 異議2019-700387  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-14 
確定日 2019-11-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6423481号発明「炭酸マグネシウム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6423481号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。 特許第6423481号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6423481号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成29年4月28日に出願され、平成30年10月26日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月14日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1?2に係る特許に対して、令和1年5月14日付けで特許異議申立人アクシス国際特許業務法人により、甲第1号証?甲第6号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、令和1年7月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年9月18日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、特許異議申立人から令和1年10月29日付けで意見書(以下、「申立人意見書」という。)並びに甲第7号証及び甲第8号証が提出されたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2009-175671号公報
甲第2号証:特開2010-37146号公報
甲第3号証:荒川正文、粉体材料の基礎的性質の測定(III)、材料、昭和45年6月15日、第19巻、第201号、第612?619頁
甲第4号証:特公平4-53809号公報
甲第5号証:特開平2-208220号公報
甲第6号証:特開平4-228420号公報
甲第7号証:特許第2602444号公報
甲第8号証:特許第3910495号公報

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(なお、訂正箇所に下線を付した。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「カードハウス構造を有する凝集体」と記載されているのを、「カードハウス構造を含む凝集体」に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0015】に「なお、ゼータ電位の測定方法は特に限定されないが、例えば、後述の方法により測定できる。」と記載されているのを、「なお、ゼータ電位は、後述の方法により測定する。」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0019】に「なお、BET比表面積の測定方法は特に限定されないが、例えば、JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じ、1点法で求めることができる。」と記載されているのを、「なお、BET比表面積は、JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じ、1点法で求める。」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の段落【0022】に「なお、水銀圧入量の測定方法は特に限定されないが、例えば、後述の方法により測定できる。」と記載されているのを、「なお、水銀圧入量は、後述の方法により測定する。」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0026】に「なお、平均粒子径の測定方法は特に限定されないが、例えば、後述の方法により測定できる。」と記載されているのを、「なお、平均粒子径は、後述の方法により測定する。」に訂正する。

なお、訂正事項1の特許請求の範囲に係る訂正は、一群の請求項〔1?2〕に対して請求されたものである。また、訂正事項2?5の明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1?2〕について請求されたものである。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「カードハウス構造を有する凝集体」との特定事項が、「カードハウス構造を含む凝集体」を意味することを明確にするためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された「カードハウス構造を有する凝集体」が、カードハウス構造のみからなる凝集体、及び、一部分がカードハウス構造である凝集体の双方の態様を含むことは、願書に添付された明細書の記載からして自明な事項といえることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかである。
この点に関して、特許異議申立人は、願書に添付された明細書又は特許請求の範囲には、「カードハウス構造を含む凝集体」なる用語は存在せず、また、「カードハウス構造を含む凝集体」は、「カードハウス構造を有する凝集体」の上位概念の技術用語であって、願書に添付された明細書の段落【0023】に記載された「板状粒子の凝集体(カードハウス状、カードハウス構造、カードハウス構造を有する凝集体)」なる概念を超えた、例えば、甲第7号証及び甲第8号証に記載された球状、柱状、管状のものをも包含する概念である旨を主張している(申立人意見書第4頁第2?28行)。
しかしながら、「カードハウス構造を有する凝集体」なる用語も、「カードハウス構造を含む凝集体」なる用語も、願書に添付された明細書においては、同じ概念を示す用語といえるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものである。

(2)訂正事項2?5について
訂正事項2?5は、請求項1に記載の「ゼータ電位」、「BET比表面積」、「水銀圧入量」及び「平均粒子径」のそれぞれの測定方法が明細書に記述されたものであることを明確にするためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?2に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
ゼータ電位が7.2?18.7mV、BET比表面積が30?59m^(2)/g、水銀圧入量が1.9?3.0cc/g、平均粒子径が3.8?9.9μmであり、カードハウス構造を含む凝集体である炭酸マグネシウム。
【請求項2】
BET比表面積が35?59m^(2)/gである請求項1記載の炭酸マグネシウム。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?2に係る特許に対して、令和1年7月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

(1)取消理由1
請求項1の「ゼータ電位が7.2?18.7mV」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その測定方法が明らかでないため、どのような技術的意味において特定されたゼータ電位の値であるかが明らかでないから、本件請求項1?2に係る特許は、特許第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)取消理由2
請求項1の「BET比表面積が30?59m^(2)/g」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その測定方法が明らかでないため、どのような技術的意味において特定されたBET比表面積の値であるのかが明らかでないから、本件請求項1?2に係る特許は、特許第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)取消理由3
請求項1の「水銀圧入量が1.9?3.0cc/g」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その測定方法が明らかでないため、どのような技術的意味において特定された水銀圧入量の値であるのかが明らかでないから、本件請求項1?2に係る特許は、特許第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(4)取消理由4
請求項1の「平均粒子径が3.8?9.9μm」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その測定方法が明らかでないため、どのような技術的意味において特定された平均粒子径の値であるかが明らかでないから、本件請求項1?2に係る特許は、特許第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(5)取消理由5
請求項1の「カードハウス構造を有する凝集体」との特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、カードハウス構造のみからなる凝集体であることを特定しているのか、または、一部分がカードハウス構造である凝集体であることを特定しているのか明らかでないから、本件請求項1?2に係る特許は、特許第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 取消理由の検討
(1)当審の判断
ア 取消理由1について
願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0015】は「なお、ゼータ電位は、後述の方法により測定する。」に訂正され、ゼータ電位の測定方法が、段落【0057】に「ゼータ電位:ビーカーに入れた炭酸マグネシウム10gに純水を加えて200mLにメスアップし、撹拌棒を用いて液が均一となるように20回程度かき混ぜ、その後、ビーカーの内容物を25℃に保ちながら撹拌し、スラリー溶液を調製した。スラリー濃度:0.05g/cm^(3)測定方法:コロイド振動電流法測定装置:DT-1200(Dispersion Technology社製)3回測定し、平均値を算出し、ゼータ電位の値とした。」と記載された測定方法であることが明らかになった。
そして、本件発明1の「ゼータ電位が7.2?18.7mV」との特定事項は、発明の詳細な説明のこれら記載を参酌すれば、上記測定方法によって特定されるゼータ電位の値であることは明らかである。
したがって、取消理由1に理由はない。

イ 取消理由2について
本件特許明細書の段落【0019】は「なお、BET比表面積は、JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じ、1点法で求める。」に訂正され、BET比表面積の測定方法が、JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じた1点法で測定されることが明らかになった。
そして、本件発明1の「BET比表面積が30?59m^(2)/g」との特定事項は、発明の詳細な説明のこれら記載を参酌すれば、上記測定方法によって特定されるBET比表面積の値であることは明らかである。
したがって、取消理由2に理由はない。

ウ 取消理由3について
本件特許明細書の段落【0022】は「なお、水銀圧入量は、後述の方法により測定する。」に訂正され、水銀圧入量の測定方法が、段落【0059】に「水銀圧入量:測定装置には、Quantachrome社製 PoreMaster-60を用いた。
炭酸マグネシウム0.1gをはかりとり、0.5mLセルステムに充填した。
低圧のチャンバーにて測定後、取り出して高圧のチャンバーで測定した。これらの測定結果から、測定装置に付属されたソフトウェアによって算出された値を、水銀圧入量の値とした。
測定範囲 φ1069?0.0036μm
水銀接触角 140度
水銀表面張力 480dynes/cm
水銀密度 13.5g/cc
温度 20℃
(高圧測定条件)
Penetrometer Constant 1520 [mV/cc]
Auto-Oil Fill Time 5 [sec]
Run Mode Fixed Speed
Motor Speed 4
(低圧測定条件)
Penetrometer Constant 1760 [mV/cc]
Evacuation Rate 1
Fine Evac. Until 500.0000 [mm Hg]
Coarse Evac. Until 5.0000 [min.]」と記載された測定方法であることが明らかになった。
そして、本件発明1の「水銀圧入量が1.9?3.0cc/g」との特定事項は、発明の詳細な説明のこれら記載を参酌すれば、上記測定方法によって特定される水銀圧入量の値であることは明らかである。
したがって、取消理由3に理由はない。

エ 取消理由4について
本件特許明細書の段落【0026】は「なお、平均粒子径は、後述の方法により測定する。」に訂正され、平均粒子径の測定方法が、段落【0060】に「平均粒子径:試料粉末0.05gをエタノール50mLに添加し、超音波で3分間分散処理した後に、レーザー回折法(装置:Microtrac HRA、日機装株式会社製)により測定した。」と記載された測定方法であることが明らかになった。
そして、本件発明1の「平均粒子径が3.8?9.9μm」との特定事項は、発明の詳細な説明のこれら記載を参酌すれば、上記測定方法によって特定される平均粒子径の値であることは明らかである。
したがって、取消理由4に理由はない。

オ 取消理由5について
本件発明1の「カードハウス構造を含む凝集体」との特定事項は、カードハウス構造のみからなる凝集体、及び、一部分がカードハウス構造である凝集体の双方の態様を包含することが明らかであるから、取消理由5に理由はない。

(2)特許異議申立人の意見について
ア 「ゼータ電位が7.2?18.7mV」との特定事項について
特許異議申立人は、本件特許明細書の段落【0057】に記載された測定方法は、段落【0055】に「本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく」と記載されている実施例の測定方法であり、一例として挙げられたものであるから、段落【0015】に記載された「後述の方法」が何を示しているのか依然として不明であるし、また、ゼータ電位はpHが変わると大きく変化することから、請求項1に係る炭酸マグネシウムが、いかなるゼータ電位を有するものであるか把握できないから、本件発明1及び2は明確でない旨を主張している(申立人意見書第2頁第9?27行、特許異議申立書第9頁第5?18行)。
この点について検討するに、段落【0055】の上記記載は、「炭酸マグネシウム」の具体例に関する説明であって、実施例の測定方法が一例であることを示すものでないから、上記(1)アで検討したとおり、段落【0015】に記載された「後述の方法」が、段落【0057】に記載された測定方法であることは明らかである。
そして、段落【0057】に記載された測定方法では、測定試料となるスラリーを調製するに際して純水を加えることのみが記載されていることからして、測定試料のpHを任意に変更できるものといえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 「平均粒子径が3.8?9.9μm」との特定事項について
特許異議申立人は、本件特許明細書の段落【0060】の測定方法には、測定試料を調製する際の超音波の出力に関する記載がないし、平均粒子径を算出するための粒子径(代表径)の定義の記載がないから、本件発明1及び2は明確でない旨を主張している(申立人意見書第3頁第6?32行、特許異議申立書第11頁第13?28行)。
この点について検討するに、段落【0060】には、測定試料の調製について、「試料粉末0.05gをエタノール50mLに添加し、超音波で3分間分散処理した」と記載され、超音波の出力に関する記載はないものの、通常使用される超音波出力範囲において、平均粒径の値に有意な差が生じるとまでは認められない。
また、粒子径(代表径)は、測定原理に対応して定義されているように、粒子径の測定方法と密接に関係しており、測定方法が決まれば代表径が定まるといえるところ、段落【0060】には、「レーザー回折法(装置:Microtrac HRA、日機装株式会社製)により測定した。」ことが記載されている。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ 「水銀圧入量が1.9?3.0cc/g」との特定事項について
特許異議申立人は、本件発明1の「水銀圧入量」が何を調べるものであり、そのためにどのように解析するのか不明であるから、「水銀圧入量が1.9?3.0cc/g」の意味内容を当業者が理解できず、本件発明1及び2は明確でない旨を主張している(特許異議申立書第10頁第21?34行)。
この点について検討するに、本件発明1の「水銀圧入量」は、上記(1)ウで検討したとおり、本件特許明細書の段落【0059】に記載された測定方法によって特定される値であるため、「カードハウス構造を含む凝集体である炭酸マグネシウム」の直径が1069?0.0036μmの細孔容積を示していることは明らかであるし、「Quantachrome社製PoreMaster-60」によって解析された数値であることも明らかである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

エ 「カードハウス構造を含む凝集体」との特定事項について
特許異議申立人は、本件発明1の「カードハウス構造を含む凝集体」は、板状粒子がどのように凝集したものか、どのくらいの割合で含有するものか、どのような観察手段で確認したのか全く不明であるため、その意味内容を当業者が理解できないから、本件発明1及び2は明確でない旨を主張している(申立人意見書第4頁第29行?第5頁第10行、特許異議申立書第12頁第23行?第13頁第4行、)。
この点について検討するに、本件特許明細書の段落【0023】の「特に、炭酸マグネシウム粒子は、板状粒子であってもよく、より好ましくは板状粒子の凝集体(カードハウス状、カードハウス構造、カードハウス構造を有する凝集体)であってもよい。」との記載や、技術常識(例えば、国際公開第2014/171192号の図17、あるいは、特開2016-135731号公報の段落【0019】及び図3を参照)を踏まえれば、「カードハウス構造」が、板状粒子がランダムに凝集した構造であると認められるし、また、このような構造を含む凝集体を電子顕微鏡で観察することも自明な事項にすぎない。
さらに、本件発明1の「カードハウス構造を含む凝集体」は、上記(1)オで検討したとおり、カードハウス構造の含有割合に関係なく、カードハウス構造のみからなる凝集体、及び、一部分がカードハウス構造である凝集体の双方の態様を包含することが明らかである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

オ 発明特定事項が不足している点について
特許異議申立人は、「新規な炭酸マグネシウムを提供する」(段落【0005】)との課題に対して、「ゼータ電位」、「BET比表面積」、「水銀圧入量」及び「平均粒子径」がどのように関わっているのか分からないため、本件発明1には、「ゼータ電位」、「BET比表面積」、「水銀圧入量」及び「平均粒子径」の課題に係る役割に関する特定事項が不足している旨を主張している(申立人意見書第2頁第28行?第3頁第5行)。
この点について検討するに、本件発明1の課題は、本件特許明細書の段落【0002】?【0008】の記載からして、炭酸マグネシウムをフィラーとして用いる場合に、炭酸マグネシウムの種類によっては、透明性を損なったり、外観(見栄え)を損ねたり、着色性に悪影響を与えるということといえる。
そして、発明の詳細な説明の実施例には、ゼータ電位が7.2?18.7mV、BET比表面積が30?59m^(2)/g、水銀圧入量が1.9?3.0cc/g、平均粒子径が3.8?9.9μmであって、カードハウス構造を有する(含む)凝集体である炭酸マグネシウムが、上記課題を解決できることが記載されているから、本件発明1は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであって、発明特定事項が不足しているとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

4 取消理由通知において採用しなかった申立理由の検討
(1)特許法第29条第1項第3号及び第2項に関する申立理由
特許異議申立人は、訂正前の請求項1?2に係る発明は、甲第4号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、あるいは、甲第4号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである旨を主張している(特許異議申立書第13頁第13行?第16頁第18行、申立人意見書第5頁第20行?第6頁第13行)。

(2)甲号証に記載された発明
ア 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、
「1 微細な一粒子が凝集して形成された凝集粒子の形状が、長径をa、短径をbとしたときに、b/a≧0.7の球状もしくは回転楕円体であり、前記凝集粒子の粒径が5?60μmで、嵩密度が0.4?0.7g/ml、比表面積が10?40m^(2)/gである球状の塩基性炭酸マグネシウム。」(特許請求の範囲)
と記載されていることから、これら記載を本件特許の請求項1の記載に則して整理すると、甲第4号証には、
「比表面積が10?40m^(2)/g、粒径が5?60μmであり、微細な一粒子が凝集して形成された球状の凝集粒子である塩基性炭酸マグネシウム。」
の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲第5号証に記載された発明
甲第5号証には、
「(1)吸油量が2.5cc/g以上であり、且つ比表面積が10?40m^(2)/gであることを特徴とする塩基性炭酸マグネシウム。」(特許請求の範囲)、及び、
「本発明の塩基性炭酸マグネシウムは、リン片状の一次粒子が凝集した凝集粒子の状態で存在する。凝集粒子の平均粒子径は一般に1?20μmの範囲である。」(第2頁左下欄第12?15行)
と記載されていることから、これら記載を本件特許の請求項1の記載に則して整理すると、甲第5号証には、
「比表面積が10?40m^(2)/g、平均粒子径が1?20μmであり、リン片状の一次粒子が凝集した凝集粒子である塩基性炭酸マグネシウム。」
の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。

ウ 甲第6号証に記載された発明
甲第6号証には、
「(【請求項1】 一般式
nMgCO_(3)・Mg(OH)_(2)・mH_(2)O(但し、m及びnはそれぞれ3?5の数である)で示され、平均粒子径が1?50μm及び比表面積が10?70m^(2)/gの板状結晶の集合体よりなる多孔質粒子で、該粒子の細孔径分布のうち半径100Å以下の細孔が占める容積が0.02cc/g以上で且つ半径75,000Å以下の細孔が占める容積が0.80cc/g以上であることを特徴とする塩基性炭酸マグネシウム。」
と記載されていることから、これら記載を本件特許の請求項1の記載に則して整理すると、甲第6号証には、
「比表面積が10?70m^(2)/g、平均粒子径が1?50μmであり、板状結晶の集合体よりなる多孔質粒子である塩基性炭酸マグネシウム。」
の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。

(3)当審の判断
ア 甲4発明との対比と判断
本件発明1と甲4発明を対比すると、本件発明1では、「ゼータ電位が7.2?18.7mV」であることが特定されているのに対して、甲4発明では、その点が明らかでない点で少なくとも相違している。
上記相違点について検討するに、甲第1号証及び甲第2号証には、微粒子のゼータ電位の測定方法に関して記載され、甲第3号証には、粉体粒度の測定方法に関して記載され、また、甲第4号証?甲第8号証には、塩基性炭酸マグネシウムに関して記載されているところ、これら記載を参酌しても、甲4発明の塩基性炭酸マグネシウムのゼータ電位が「7.2?18.7mV」であるとはいえないから、その他の点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明であるといえない。
また、甲第1号証?甲第8号証には、塩基性炭酸マグネシウムのゼータ電位を調整することは記載も示唆もされていないため、これら甲号証の記載を参酌しても、甲4発明の塩基性炭酸マグネシウムのゼータ電位を「7.2?18.7mV」とすることは、当業者が容易に想到できるものといえない。
よって、その他の点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
また、本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、少なくとも上記相違点が存在するから、本件発明2も、甲第4号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 甲5発明又は甲6発明との対比と判断
本件発明と甲5発明又は甲6発明を対比しても、本件発明1では、「ゼータ電位が7.2?18.7mV」であることが特定されているのに対して、甲5発明及び甲第6発明では、その点が明らかでない点で少なくとも相違している。
そして、上記アでの検討と同様に、甲第1号証?甲第8号証の記載を参酌しても、本件発明1及び2は、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、本件発明1の「ゼータ電位が7.2?18.7mV」との特定事項が明確でないことを根拠にして、甲4発明?甲6発明とゼータ電位が異なるということはできない旨を主張している(特許異議申立書第15頁第4?14行、申立人意見書第5頁第21?30行)。
しかしながら、上記3で検討したとおり、本件発明1?2は明確であるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?2は、甲第4号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明であるとも、甲第4号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、特許異議申立人の主張する申立理由に理由はない。

5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
炭酸マグネシウム
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な炭酸マグネシウムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸マグネシウムは、医薬品、化粧品、食品、建材など、様々な産業分野において広く使用されており、フィラーとしての使用例も報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2005-272752号公報)には、BET比表面積が1?15m^(2)/gで平均粒子径が1?10μmの無水炭酸マグネシウムを、エンジニアリングプラスチックのフィラーとして使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-272752号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規な炭酸マグネシウムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記特許文献1のように、炭酸マグネシウムを、エンジニアリングプラスチックなどのフィラーとして用いることが知られている。
【0007】
本発明者は、このようなフィラーとしての炭酸マグネシウムの検討を進めたところ、炭酸マグネシウムの種類によっては、透明性を損ない、透明性が要求される用途に適用できなかったり、透明性が要求されなくても外観(見栄え)を損ねたり、着色性に悪影響を与える場合があることがわかった。
【0008】
このような中、本発明者は、鋭意検討した結果、炭酸マグネシウムの特定の物性が、フィラーとして使用された際の透明性に関係することを突き止め、さらなる検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の炭酸マグネシウムは、ゼータ電位が5mV以上(例えば、6?25mV)である。このような炭酸マグネシウムは、さらに、BET比表面積が25m^(2)/g以上(例えば、28m^(2)/g以上)であってもよい。
本発明の炭酸マグネシウムは、水銀圧入量が1?8cc/g程度であってもよく、平均粒子径が1?20μm程度であってもよい。
代表的な炭酸マグネシウムには、ゼータ電位が7?20mV、BET比表面積が30m^(2)/g以上(例えば、30?70m^(2)/g)、水銀圧入量が1.5?5cc/g、平均粒子径が2?15μmである、炭酸マグネシウムなどが含まれる。
本発明の炭酸マグネシウムは、板状であってもよく、特に、カードハウス構造を有する凝集体[カードハウス構造を有する凝集体の形状(又はカードハウス状)]であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、新規な炭酸マグネシウムを提供できる。
このような炭酸マグネシウムは、種々の用途に使用でき、特に、樹脂用添加剤(フィラーなど)などとして有用である。
本発明の炭酸マグネシウムは、樹脂に添加しても、透明性を高いレベルで維持できる((又は透明性の低下が小さい)場合が多く、透明性とフィラーとしての機能とを両立しやすく、有用性・実用性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[炭酸マグネシウム]
本発明の炭酸マグネシウムは、特定の物性・特性を充足する。通常、本発明の炭酸マグネシウムは、少なくとも特定範囲のゼータ電位を充足する場合が多く、特に、特定範囲のゼータ電位及び特定範囲の別の物性(例えば、比表面積、水銀圧入量、及び平均粒子径から選択された少なくとも1種、特に、少なくとも特定範囲の比表面積)を充足してもよい。
【0012】
炭酸マグネシウムのゼータ電位は、例えば、3mV以上の範囲から選択でき、5mV以上(例えば、5.5?30mV)、好ましくは6mV以上(例えば、6?25mV)、さらに好ましくは6.5mV以上(例えば、6.5?22mV)、特に7mV以上(例えば、7?20mV)であってもよく、7.5mV以上{例えば、8mV以上(例えば、8.3?25mV)、8.5mV以上(例えば、8.8?20mV)、9mV以上(例えば、9?18mV)}程度であってもよい。
【0013】
炭酸マグネシウムのゼータ電位の上限値は、特に限定されないが、例えば、30mV、25mV、22mV、20mV、18mV、16mV、15mV、14mV、13mVなどであってもよい。なお、範囲の上限値と下限値とは適宜組み合わせて範囲を設定できる(例えば、8?18mVなど。以下同じ)。
【0014】
このようなゼータ範囲とすることで、透明性などに優れたバランスよい炭酸マグネシウムとしやすいようである。なお、ゼータ電位が低すぎると、微粒子の相互の反発力が弱まり、粒子の凝集が生じ、樹脂内の分散性が悪くなり透明性が悪化する虞がある。また、ゼータ電位が高すぎる場合、樹脂等に対する分散性は良くなる可能性があるが、一方で、吸湿しやすくなるなどにより、被添加成分(樹脂など)の物性を低下させる虞がある。
【0015】
なお、ゼータ電位は、後述の方法により測定する。
【0016】
炭酸マグネシウムのBET比表面積は、例えば、20m^(2)/g以上(例えば、22m^(2)/g以上)の範囲から選択でき、25m^(2)/g以上(例えば、28m^(2)/g以上、29m^(2)/g以上)、好ましくは30m^(2)/g以上(例えば、32m^(2)/g以上)、さらに好ましくは35m^(2)/g以上(例えば、38m^(2)/g以上)であってもよく、40m^(2)/g以上とすることもできる。
【0017】
炭酸マグネシウムのBET比表面積の上限値は、特に限定されないが、例えば、100m^(2)/g、90m^(2)/g、80m^(2)/g、70m^(2)/g、65m^(2)/g、60m^(2)/g、55m^(2)/g、50m^(2)/g、45m^(2)/gなどであってもよい。
【0018】
このような比表面積とすること(特にゼータ電位との組み合わせにおいて上記比表面積とすること)で、透明性や強度の点で有利な炭酸マグネシウムとしやすいようである。
なお、比表面積が小さすぎたり大きすぎると、粒子そのものが大きすぎたり、粒子の凝集(再凝集)などにより、透明性が損なわれる虞がある。
【0019】
なお、BET比表面積は、JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じ、1点法で求める。
【0020】
炭酸マグネシウムの水銀圧入量は、0.1cc/g以上であってもよく、例えば、0.5cc/g以上(例えば、0.8?20cc/g)、好ましくは1cc/g以上(例えば、1.2?15cc)、さらに好ましくは1.5cc/g以上(例えば、1.6?10cc)であってもよく、通常1?8cc/g(例えば、1.2?7cc/g、1.3?6cc/g、1.5?5cc/gなど)であってもよく、4cc/g以下(例えば、4cc/g以下、3.5cc/g以下、3cc/g以下、2.5cc以下)であってもよい。
【0021】
このような水銀圧入量とすること(特にゼータ電位や比表面積との組み合わせにおいて上記水銀圧入量とすること)で、樹脂等に対する分散性を高いものとでき、透明性や強度の点で有利な炭酸マグネシウムとしやすいようである。また、適度な嵩高さを有するためか、樹脂等に対する混合時等におけるハンドリング性の点でも有利である。
【0022】
なお、水銀圧入量は、後述の方法により測定する。
【0023】
炭酸マグネシウムは、粒子状(粉粒状、粉体)であってもよい。なお、粒子の形状は、特に限定されず、球状(略球状)、板状などであってもよい。また、粒子は、一次粒子であってもよく、二次粒子(又は凝集体)であってもよい。特に、炭酸マグネシウム粒子は、板状粒子であってもよく、より好ましくは板状粒子の凝集体(カードハウス状、カードハウス構造、カードハウス構造を有する凝集体)であってもよい。
【0024】
粒子状の炭酸マグネシウム(炭酸マグネシウム粒子)の平均粒子径(又は二次粒子径)は、100μm以下(例えば、70μm以下)程度の範囲から選択してもよく、50μm以下(例えば、40μm以下)、好ましくは30μm以下(例えば、25μm以下)、さらに好ましくは20μm以下(例えば、18μm以下)であってもよく、通常1?20μm(例えば、1.5?18μm、2?15μm、3?12μm、3.5?10μm、4?9μm、4.5?8μm)であってもよく、12μm以下(例えば、10μm以下、8μm以下)であってもよい。
【0025】
このような平均粒子径とすること(特にゼータ電位などとの組み合わせにおいて上記平均粒子径とすること)で、透明性などの点で有利な炭酸マグネシウムとしやすいようである。
【0026】
なお、平均粒子径は、後述の方法により測定する。
【0027】
本発明の炭酸マグネシウムは、MgCO_(3)を含んでいる限り特に限定されないが、通常、塩基性炭酸マグネシウムであってもよい。また、炭酸マグネシウム(塩基性炭酸マグネシウム)は、水和物又は含水物(例えば、二水和物、三水和物、五水和物など)であってもよい。
【0028】
なお、塩基性炭酸マグネシウムは、ハイドロマグネサイト、例えば、下記式で表される化合物であってもよい。
nMgCO_(3)・Mg(OH)_(2)・mH_(2)O
[式中、m及びnは整数(例えば、それぞれ3?8、m=n=4、n=4及びm=5など)を示す。]
なお、炭酸基が多いとゼータ電位は低く、水酸基が多いとプラスに帯電する傾向がある。
【0029】
炭酸マグネシウムの見かけ比重(見掛比重)は、例えば、0.10?0.50、好ましくは0.15?0.45、さらに好ましくは0.20?0.40程度であってもよい。
【0030】
炭酸マグネシウムは、MgCO_(3)(さらには、Mg(OH)_(2)、H_(2)O)を含んでいる限り、他の元素(又は化合物)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。他の元素としては、特に限定されないが、非金属元素[例えば、C(炭素)、S(硫黄)、ハロゲン(例えば、Cl(塩素)など)など]、金属元素又は半金属元素[例えば、典型金属元素(例えば、Na(ナトリウム)、Ca(カルシウム)などのアルカリ又はアルカリ土類金属;B(ホウ素)、Al(アルミニウム)などの周期表第13族元素、Si(ケイ素)など)、遷移金属元素(例えば、Fe(鉄)、Zn(亜鉛)など)など]などが挙げられる。これらの元素は、単独で又は2種以上組み合わせて炭酸マグネシウムに含有されていてもよい。
【0031】
炭酸マグネシウムがSを含む場合、Sの含有量(含有割合)は、例えば、0.6質量%以下(例えば、0.01?0.6質量%)、好ましくは0.5質量%以下(例えば、0.01?0.3質量%)、さらに好ましくは0.2質量%以下(例えば、0.01?0.2質量%)であってもよい。
【0032】
炭酸マグネシウムがNaを含む場合、Naの含有量(含有割合)は、例えば、1.0質量%以下(例えば、0.01?1質量%)、好ましくは0.5質量%以下(例えば、0.01?0.5質量%)、さらに好ましくは0.3質量%以下(例えば、0.01?0.3質量%)であってもよい。
【0033】
炭酸マグネシウムがCaを含む場合、Caの含有量(含有割合)は、例えば、1.0質量%以下(例えば、0.01?1.0質量%)、好ましくは0.7質量%以下(例えば、0.01?0.7質量%)、さらに好ましくは0.5質量%以下(例えば、0.01?0.5質量%)であってもよい。
【0034】
炭酸マグネシウムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、水酸化マグネシウムスラリーまたは酸化マグネシウムスラリーに炭酸ガスを吹き込むことで製造してもよい。
【0035】
スラリーは、例えば、粉末状の水酸化マグネシウム又は酸化マグシウムを水に分散させることで調製できる。
【0036】
なお、反応の完了(炭酸マグネシウムの生成)は、例えば、反応液が所定のpH(例えば、約10以下)になったことを確認することにより行ってもよい。pHの確認は、指示薬(フェノールフタレイン液など)により行ってもよい。
【0037】
生成した炭酸マグネシウムは、慣用の方法により分離(精製)できる。例えば、炭酸ガスの吹き込み後、反応が完了したスラリーをろ過、脱水、乾燥することにより精製してもよい。
【0038】
また、得られた炭酸マグネシウムには、粉砕処理を施してもよい。粉砕処理の種類や程度は、平均粒子径などに応じて適宜選択できる。
【0039】
なお、炭酸マグネシウムのゼータ電位は、乾燥温度等により調整してもよい。例えば、高温で乾燥させるほど、ゼータ電位が高くなる傾向がある。
また、比表面積や平均粒子径は、炭酸マグネシウムスラリーの養生の程度等により調整してもよい。例えば、養生する際の温度上昇とともに、比表面積は小さくなり、平均粒子径は小さくなる傾向がある。
さらに、水銀圧入量は、脱水時の圧力(例えば、フィルタープレスの圧搾圧)により調整してもよい。圧力が低いと水銀圧入量が高くなる傾向にある。
平均粒子径は、粉砕の度合い等によって調整してもよい。
【0040】
[炭酸マグネシウムの用途]
本発明の炭酸マグネシウムの用途は、特に限定されず、種々の用途(例えば、塗料、肥料、食品、化粧品、セラミックス、医薬品などの原料又は構成成分など)に使用できる。
【0041】
中でも、本発明の炭酸マグネシウムは、樹脂用の添加剤として好適に使用してもよい。換言すれば、本発明の炭酸マグネシウムは、組成物(樹脂組成物)を構成してもよい。
【0042】
樹脂の添加剤[例えば、フィラー(充填剤、補強剤、強化剤、増強剤)]として使用することで、種々の物性・機能[例えば、強度、剛性(モジュラス)、耐熱性]を、向上(改善)又は付与しうる。また、樹脂の増量に使用でき、樹脂の種類によっては、混合により低コスト化を実現できる。
【0043】
そのため、本発明には、樹脂と、前記炭酸マグネシウムとを含む組成物も含まれる。
【0044】
樹脂としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂(例えば、熱又は光硬化性樹脂)であってもよく、エラストマー(熱可塑性エラストマー、ゴムなど)であってもよい。
【0045】
樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0046】
具体的な樹脂(ゴムを含む)としては、例えば、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体など)、ハロゲン含有樹脂{例えば、塩素含有樹脂[例えば、塩化ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体など)、塩化ビニリデン系樹脂(ポリ塩化ビニリデンなど)など]など}、(メタ)アクリル系樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体など)、スチレン系樹脂[例えば、ポリスチレン、スチレン共重合体又はスチレン含有樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ABS樹脂など)など]、ポリエステル系樹脂[例えば、ポリアルキレンテレフタレート(ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなど)、ポリエチレンナフタレートなどのポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂など]、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート)、ポリチオカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66など)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリイミド系樹脂、熱可塑性エラストマー(オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなど)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、シリコーン系樹脂、ゴムなどが挙げられる。
【0047】
ゴムとしては、例えば、ジエン系ゴム{例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリル含有ゴム[例えば、ニトリルゴム(NBR)、ニトリルクロロプレンゴム(NCR)、ニトリルイソプレンゴム(NIR)]、スチレン含有ゴム[例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンクロロプレンゴム(SCR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)など]、水添ゴム[例えば、水添ニトリルゴム(HNBR)]など}、オレフィン系ゴム[例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)など]、アクリルゴム(エチレンアクリルゴムなど)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、酸変性ゴム(例えば、カルボキシル化ニトリルゴム(X-NBR)、カルボキシル化スチレンブタジエンゴム(X-SBR)、カルボキシル化エチレンプロピレンゴム(X-EP(D)M)など)などが例示できる。
【0048】
これらの樹脂の中でも、オレフィン系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ゴムなどが好ましく、特に、塩化ビニル系樹脂及びゴムが好ましい。
【0049】
前記炭酸マグネシウムは、通常、このような樹脂(ゴム)に添加しても、透明性の低下が少ない。そのため、透明性が要求される用途はもちろんのこと、外観や着色に与える影響が少ないため、外観・意匠性が要求される用途、着色用途などにも好適に使用できる。
【0050】
樹脂に添加(混合)する場合、炭酸マグネシウムの割合は、付与する機能やその程度などに応じて適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上(例えば、0.3?1000質量部)、好ましくは0.5質量部以上(例えば、1?500質量部)、さらに好ましくは2質量部以上(例えば、3?300質量部程度)であってもよい。
【0051】
特に、オレフィン系樹脂、ハロゲン含有樹脂(塩化ビニル系樹脂など)などの樹脂に添加する場合、炭酸マグネシウムの割合は、例えば、樹脂(オレフィン系樹脂、ハロゲン含有樹脂など)100質量部に対して、0.1?100質量部、好ましくは0.5?80質量部、さらに好ましくは1?50質量部(例えば、2?30質量部)、特に3?25質量部(例えば、3.5?20質量部、4?15質量部、5?10質量部など)であってもよく、4質量部以上(例えば、5質量部以上、6質量部以上、7質量部以上、8質量部以上など)とすることもできる。
【0052】
特に、ゴムに添加する場合、炭酸マグネシウムの割合は、例えば、樹脂(ゴム)100質量部に対して、1質量部以上(例えば、1?1000質量部)、好ましくは5質量部以上(例えば、6?500質量部)、さらに好ましくは8質量部以上(例えば、10?300質量部)、特に15質量部以上(例えば、20?200質量部)であってもよく、30質量部以上(例えば、40質量部以上、50質量部以上、60質量部以上、80質量部以上など)とすることもできる。
【0053】
組成物は、樹脂(ゴム)の種類や組成物の用途等に応じて、慣用の添加剤、例えば、可塑剤、難燃剤、軟化剤、安定剤、帯電防止剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤、滑剤、着色剤、発泡剤、分散剤、フィラー(前記炭酸マグネシウムの範疇に属さない他のフィラー)などを含んでいてもよい。添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0054】
なお、組成物は、各成分を混合することで製造できる。混合方法は、樹脂の種類などに応じて適宜選択でき、特に限定されない。
【実施例】
【0055】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0056】
なお、各種物性・特性は以下のように測定又は評価した。
【0057】
ゼータ電位:ビーカーに入れた炭酸マグネシウム10gに純水を加えて200mLにメスアップし、撹拌棒を用いて液が均一となるように20回程度かき混ぜ、その後、ビーカーの内容物を25℃に保ちながら撹拌し、スラリー溶液を調製した。スラリー濃度:0.05g/cm^(3)測定方法:コロイド振動電流法測定装置:DT-1200(Dispersion Technology社製)3回測定し、平均値を算出し、ゼータ電位の値とした。
【0058】
BET比表面積:JIS8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じ、1点法でBET比表面積を求めた。
【0059】
水銀圧入量:測定装置には、Quantachrome社製 PoreMaster-60を用いた。
炭酸マグネシウム0.1gをはかりとり、0.5mLセルステムに充填した。
低圧のチャンバーにて測定後、取り出して高圧のチャンバーで測定した。これらの測定結果から、測定装置に付属されたソフトウェアによって算出された値を、水銀圧入量の値とした。
測定範囲 φ1069?0.0036μm
水銀接触角 140度
水銀表面張力 480dynes/cm
水銀密度 13.5g/cc
温度 20℃
(高圧測定条件)
Penetrometer Constant 1520[mV/cc]
Auto-Oil Fill Time 5[sec]
Run Mode Fixed Speed
Motor Speed 4
(低圧測定条件)
Penetrometer Constant 1760[mV/cc]
Evacuation Rate 1
Fine Evac.Until 500.0000[mm Hg]
Coarse Evac.Until 5.0000[min.]
【0060】
平均粒子径:試料粉末0.05gをエタノール50mLに添加し、超音波で3分間分散処理した後に、レーザー回折法(装置:Microtrac HRA、日機装株式会社製)により測定した。
【0061】
L*値(明度):黒色標準板(単独で測定した場合にSCI方式のL*値が25.9であった)の上に作製したシートを乗せ、分光光度計から照射された光が漏れないよう、シートと黒色標準板を押さえつけ、SCI方式のL*値を測定した。このときシートが装置側となるように押さえつけた。
分光光度計には、コニカミノルタ社製分光測色計「CM-3610d」を用いた。
なお、この方法では、シートの下に黒色の板を置いているため、シートの透明性が高いほど、センサーが板の黒色を拾ってL*値が低く測定される。
【0062】
100%モジュラス:試験片はJIS 3号ダンベルを使用した。引張試験はJIS K 7161に基づき行った。引張速度200mm/分で行った。100%伸長時の引張応力を100%モジュラスとした。
【0063】
シート外観:以下の基準で目視により評価した。
◎:まだら模様が全くない
○:若干、まだら模様が見られる
×:まだら模様が多い
【0064】
シート透明性:以下の基準で目視により評価した。
◎:シートの下に敷いた紙の文字がはっきりと判別できる
○:シートの下に敷いた紙の文字が判別できる
×:シートの下に敷いた紙の文字が判別できない
【0065】
硬さ:2mm厚のシートを3枚に重ね、デュロメーター(タイプA)を用いて、JISK6253に従って測定した。
【0066】
(実施例1)
MgO濃度40g/Lとなるよう酸化マグネシウム粉末を純水に混和して60℃に調整したスラリー3Lに、攪拌しながらガス流速2L/minで炭酸ガスを吹き込み反応させた。スラリーにフェノールフタレインを加えてピンク色から無色になるときを反応の終点とし、終点に達した時点で炭酸ガスの吹き込みを停止し、塩基性炭酸マグネシウムスラリーを得た。得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを液温80℃に調整して攪拌しながら6時間キープした。
得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを圧力2.0MPaにて3分間フィルタープレス機で脱水し、その後135℃に設定された乾燥機で12時間静置乾燥させ、乾燥物をホソカワミクロン社製バンタムミル(AP-B型)で粉砕することで塩基性炭酸マグネシウム粉末を得た。
得られた炭酸マグネシウムのゼータ電位は12.4mV、BET比表面積は42m^(2)/gであった。また、得られた炭酸マグネシウムの水銀圧入量は2.3cc/g、平均粒子径は6.7μmであった。なお、炭酸マグネシウム粉末の形状は、カードハウス構造を有する凝集体であった。
そして、得られた炭酸マグネシウムを3.5質量部、ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ(株)製、ZEST1000)を62.5質量部、ジオクチルフタレートを37.5質量部、ステアリン酸鉛を1.0質量部の割合で含むシート(厚み1mm)を作製した。
シートは、ラボプラストミル(東洋精機社製)を使用し、各成分を、160℃、30rpm、150秒混練後、混練物を取り出し、170℃で1分間プレス成型することで作製した。
得られたシートについて、各種測定・評価を行った。
【0067】
(実施例2)
実施例1において、炭酸マグネシウムを3.5質量部に代えて4.7質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、各種測定・評価を行った。
【0068】
(実施例3)
実施例1において、炭酸マグネシウムを3.5質量部に代えて9.3質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、各種測定・評価を行った。
【0069】
(実施例4)
実施例1において、炭酸マグネシウムを3.5質量部に代えて14.0質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、各種測定・評価を行った。
【0070】
(実施例5)
60℃に調整したMgO濃度40g/Lの水酸化マグネシウムスラリー(水スラリー)3Lを、攪拌しながらガス流速2L/minで炭酸ガスを吹き込み反応させた。スラリーにフェノールフタレインを加えてピンク色から無色になるときを反応の終点とし、終点に達した時点で炭酸ガスの吹き込みを停止し、塩基性炭酸マグネシウムスラリーを得た。得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを液温70℃に調整して攪拌しながら6時間キープした。
得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを圧力2.5MPaにて3分間フィルタープレス機で脱水し、その後120℃に設定された乾燥機で12時間静置乾燥させ、乾燥物をホソカワミクロン社製バンタムミル(AP-B型)で粉砕することで塩基性炭酸マグネシウム粉末を得た。
得られた炭酸マグネシウムのゼータ電位は9.2mV、BET比表面積は44m^(2)/gであった。また、得られた炭酸マグネシウムの水銀圧入量は1.9cc/g、平均粒子径は7.4μmであった。なお、炭酸マグネシウム粉末の形状は、カードハウス構造を有する凝集体であった。
そして、得られた炭酸マグネシウムを4.7質量部、ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ(株)製、ZEST1000)を62.5質量部、ジオクチルフタレートを37.5質量部、ステアリン酸鉛を1.0質量部の割合で含むシート(厚み1mm)を、実施例1と同様にして作製した。
得られたシートについて、各種測定・評価を行った。
【0071】
(実施例6)
55℃に調整したMgO濃度40g/Lの水酸化マグネシウムスラリー(水スラリー)3Lを、攪拌しながらガス流速2L/minで炭酸ガスを吹き込み反応させた。スラリーにフェノールフタレインを加えてピンク色から無色になるときを反応の終点とし、終点に達した時点で炭酸ガスの吹き込みを停止し、塩基性炭酸マグネシウムスラリーを得た。
得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを液温70℃に調整して攪拌しながら6時間キープした後、スラリーを圧力2.0MPaにて3分間フィルタープレス機で脱水し、その後120℃に設定された乾燥機で12時間静置乾燥させ、乾燥物をホソカワミクロン社製バンタムミル(AP-B型)で粉砕することで塩基性炭酸マグネシウム粉末を得た。
得られた炭酸マグネシウムのゼータ電位は11.2mV、BET比表面積は57m^(2)/gであった。また、得られた炭酸マグネシウムの水銀圧入量は3.0cc/g、平均粒子径は6.8μmであった。なお、炭酸マグネシウム粉末の形状は、カードハウス構造を有する凝集体であった。
そして、得られた炭酸マグネシウムを4.7質量部、ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ(株)製、ZEST1000)を62.5質量部、ジオクチルフタレートを37.5質量部、ステアリン酸鉛を1.0質量部の割合で含むシート(厚み1mm)を、実施例1と同様にして作製した。
得られたシートについて、各種測定・評価を行った。
【0072】
(実施例7)
65℃に調整したMgO濃度30g/Lの水酸化マグネシウムスラリー(水スラリー)3Lを、攪拌しながらガス流速2L/minで炭酸ガスを吹き込み反応させた。スラリーにフェノールフタレインを加えてピンク色から無色になるときを反応の終点とし、終点に達した時点で炭酸ガスの吹き込みを停止し、塩基性炭酸マグネシウムスラリーを得た。
得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを液温70℃に調整して攪拌しながら9時間キープした後、スラリーを圧力2.5MPaにて3分間フィルタープレス機で脱水し、その後135℃に設定された乾燥機で12時間静置乾燥させ、乾燥物をホソカワミクロン社製バンタムミル(AP-B型)で粉砕することで塩基性炭酸マグネシウム粉末を得た。
得られた炭酸マグネシウムのゼータ電位は18.7mV、BET比表面積は41m^(2)/gであった。また、得られた炭酸マグネシウムの水銀圧入量は2.1cc/g、平均粒子径は6.2μmであった。なお、炭酸マグネシウム粉末の形状は、カードハウス構造を有する凝集体であった。
そして、得られた炭酸マグネシウムを4.7質量部、ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ(株)製、ZEST1000)を62.5質量部、ジオクチルフタレートを37.5質量部、ステアリン酸鉛を1.0質量部の割合で含むシート(厚み1mm)を、実施例1と同様にして作製した。
得られたシートについて、各種測定・評価を行った。
【0073】
(実施例8)
MgO濃度30g/Lとなるよう酸化マグネシウム粉末を純水に混和して60℃に調整したスラリー3Lに、攪拌しながらガス流速2L/minで炭酸ガスを吹き込み反応させた。スラリーにフェノールフタレインを加えてピンク色から無色になるときを反応の終点とし、終点に達した時点で炭酸ガスの吹き込みを停止し、塩基性炭酸マグネシウムスラリーを得た。得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを液温75℃に調整して攪拌しながら6時間キープした。
得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを圧力1.5MPaにて3分間フィルタープレス機で脱水し、その後120℃に設定された乾燥機で12時間静置乾燥させ、乾燥物をホソカワミクロン社製バンタムミル(AP-B型)で粉砕することで塩基性炭酸マグネシウム粉末を得た。
得られた炭酸マグネシウムのゼータ電位は7.2mV、BET比表面積は48m^(2)/gであった。また、得られた炭酸マグネシウムの水銀圧入量は3.0cc/g、平均粒子径は9.9μmであった。なお、炭酸マグネシウム粉末の形状は、カードハウス構造を有する凝集体であった。
そして、得られた炭酸マグネシウムを4.7質量部、ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ(株)製、ZEST1000)を62.5質量部、ジオクチルフタレートを37.5質量部、ステアリン酸鉛を1.0質量部の割合で含むシート(厚み1mm)を作製した。
シートは、ラボプラストミル(東洋精機社製)を使用し、各成分を、160℃、30rpm、150秒混練後、混練物を取り出し、170℃で1分間プレス成型することで作製した。
得られたシートについて、各種測定・評価を行った。
【0074】
(実施例9)
70℃に調整したMgO濃度25g/Lの水酸化マグネシウムスラリー(水スラリー)3Lを、攪拌しながらガス流速3L/minで炭酸ガスを吹き込み反応させた。スラリーにフェノールフタレインを加えてピンク色から無色になるときを反応の終点とし、終点に達した時点で炭酸ガスの吹き込みを停止し、塩基性炭酸マグネシウムスラリーを得た。得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを液温80℃に調整して攪拌しながら6時間キープした。
得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを圧力2.5MPaにて3分間フィルタープレス機で脱水し、その後110℃に設定された乾燥機で12時間静置乾燥させ、乾燥物をホソカワミクロン社製バンタムミル(AP-B型)で粉砕することで塩基性炭酸マグネシウム粉末を得た。
得られた炭酸マグネシウムのゼータ電位は10.8mV、BET比表面積は35m^(2)/gであった。また、得られた炭酸マグネシウムの水銀圧入量は1.9cc/g、平均粒子径は8.2μmであった。なお、炭酸マグネシウム粉末の形状は、カードハウス構造を有する凝集体であった。
そして、得られた炭酸マグネシウムを4.7質量部、ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ(株)製、ZEST1000)を62.5質量部、ジオクチルフタレートを37.5質量部、ステアリン酸鉛を1.0質量部の割合で含むシート(厚み1mm)を、実施例1と同様にして作製した。
得られたシートについて、各種測定・評価を行った。
【0075】
(実施例10)
55℃に調整したMgO濃度40g/Lの水酸化マグネシウムスラリー(水スラリー)3Lを、攪拌しながらガス流速3L/minで炭酸ガスを吹き込み反応させた。スラリーにフェノールフタレインを加えてピンク色から無色になるときを反応の終点とし、終点に達した時点で炭酸ガスの吹き込みを停止し、塩基性炭酸マグネシウムスラリーを得た。得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを液温75℃に調整して攪拌しながら6時間キープした。
得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを圧力2.5MPaにて3分間フィルタープレス機で脱水し、その後120℃に設定された乾燥機で24時間静置乾燥させ、乾燥物をホソカワミクロン社製バンタムミル(AP-B型)で粉砕することで塩基性炭酸マグネシウム粉末を得た。
得られた炭酸マグネシウムのゼータ電位は11.9mV、BET比表面積は59m^(2)/gであった。また、得られた炭酸マグネシウムの水銀圧入量は2.2cc/g、平均粒子径は3.8μmであった。なお、炭酸マグネシウム粉末の形状は、カードハウス構造を有する凝集体であった。
そして、得られた炭酸マグネシウムを4.7質量部、ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ(株)製、ZEST1000)を62.5質量部、ジオクチルフタレートを37.5質量部、ステアリン酸鉛を1.0質量部の割合で含むシート(厚み1mm)を、実施例1と同様にして作製した。
得られたシートについて、各種測定・評価を行った。
【0076】
(参考例1)
MgO濃度40g/L、液温65℃の水酸化マグネシウムスラリー(水スラリー)3Lにガス流速2L/minで炭酸ガスを吹き込み反応させた。スラリーにフェノールフタレインを加えてピンク色から無色になるときを反応の終点とし、終点に達した時点で炭酸ガスの吹き込みを停止し、塩基性炭酸マグネシウムスラリーを得た。
得られた塩基性炭酸マグネシウムスラリーを液温95℃に調整して攪拌しながら6時間キープした後、スラリーを圧力1.5MPaにて3分間フィルタープレス機で脱水し、その後105℃に設定された乾燥機で12時間静置乾燥させ、乾燥物をホソカワミクロン社製バンタムミル(AP-B型)で粉砕することで塩基性炭酸マグネシウム粉末を得た。
得られた炭酸マグネシウムのゼータ電位は6.8mV、BET比表面積は16m^(2)/gであった。また、得られた炭酸マグネシウムの水銀圧入量は4.9cc/g、平均粒子径は2.7μmであった。なお、炭酸マグネシウム粉末の形状は、カードハウス構造を有する凝集体であった。
そして、得られた炭酸マグネシウムを4.7質量部、ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ(株)製、ZEST1000)を62.5質量部、ジオクチルフタレートを37.5質量部、ステアリン酸鉛を1.0質量部の割合で含むシート(厚み1mm)を、実施例1と同様にして作製した。
得られたシートについて、各種測定・評価を行った。
【0077】
(比較例1)
実施例1において、炭酸マグネシウムを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、各種測定・評価を行った。
【0078】
これらの結果をまとめたものを下記表に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
上記表の結果から明らかなように、実施例の炭酸マグネシウムによれば、添加によっても、透明性を高いレベルで維持しつつ、強度や剛性を向上できることがわかった。
【0081】
(実施例11)
実施例1で得られた炭酸マグネシウム120.0質量部、天然ゴム(ペールクレープ)100質量部、ステアリン酸1.0質量部、硫黄2.0質量部、炭酸亜鉛1.5質量部、加硫促進剤1.2質量部(内訳:ノクセラーTS 0.2重量部、ノクセラーH 0.5重量部、ノクセラーP0.5重量部、いずれも大内新興化学工業(株)製)を含むシート(厚み2mm)を、以下のようにして調製した。
30℃、ロール回転速度10rpmで天然ゴムを5分間素練りした後、ステアリン酸、炭酸マグネシウム、硫黄、炭酸亜鉛を加えて30分間混練した後、加硫促進剤を添加して混練した後、ロール間隔を調整し、約3mm厚のゴム組成物を得た。その後12時間冷暗所で18時間静置した後、155℃で10分間プレス成型して厚み2mmのシートを作製した。
得られたシートについて、各種測定・評価を行った。
【0082】
(実施例12)
実施例11において、実施例1で得られた炭酸マグネシウムに代えて、実施例5で得られた炭酸マグネシウムを使用したこと以外は、実施例11と同様にして各種測定・評価を行った。
【0083】
(実施例13)
実施例11において、実施例1で得られた炭酸マグネシウムに代えて、実施例6で得られた炭酸マグネシウムを使用したこと以外は、実施例11と同様にして各種測定・評価を行った。
【0084】
(実施例14)
実施例11において、実施例1で得られた炭酸マグネシウムに代えて、実施例7で得られた炭酸マグネシウムを使用したこと以外は、実施例11と同様にして各種測定・評価を行った。
【0085】
(実施例15)
実施例11において、実施例1で得られた炭酸マグネシウムに代えて、実施例8で得られた炭酸マグネシウムを使用したこと以外は、実施例11と同様にして各種測定・評価を行った。
【0086】
(実施例16)
実施例11において、実施例1で得られた炭酸マグネシウムに代えて、実施例9で得られた炭酸マグネシウムを使用したこと以外は、実施例11と同様にして各種測定・評価を行った。
【0087】
(実施例17)
実施例11において、実施例1で得られた炭酸マグネシウムに代えて、実施例10で得られた炭酸マグネシウムを使用したこと以外は、実施例11と同様にして各種測定・評価を行った。
【0088】
(参考例2)
実施例11において、実施例1で得られた炭酸マグネシウムに代えて、参考例1で得られた炭酸マグネシウムを使用したこと以外は、実施例11と同様にして各種測定・評価を行った。
【0089】
(比較例2)
実施例11において、炭酸マグネシウムを使用しなかったこと以外は、実施例11と同様にして各種測定・評価を行った。
【0090】
これらの結果をまとめたものを下記表に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
上記表の結果から明らかなように、実施例の炭酸マグネシウムによれば、ゴムに添加しても、前記と同様に、透明性を高いレベルで維持しつつ、強度や剛性を向上できることがわかった。そのため、実施例の炭酸マグネシウムは、幅広い樹脂に対して、高透明性と高強度・剛性とを両立できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、新規な炭酸マグネシウムを提供できる。このような炭酸マグネシウムは、例えば、樹脂用添加剤[例えば、フィラー(充填剤、補強剤)]などとして好適に使用できる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼータ電位が7.2?18.7mV、BET比表面積が30?59m^(2)/g、水銀圧入量が1.9?3.0cc/g、平均粒子径が3.8?9.9μmであり、カードハウス構造を含む凝集体である炭酸マグネシウム。
【請求項2】
BET比表面積が35?59m^(2)/gである請求項1記載の炭酸マグネシウム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-12 
出願番号 特願2017-89923(P2017-89923)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C01F)
P 1 651・ 537- YAA (C01F)
P 1 651・ 853- YAA (C01F)
P 1 651・ 121- YAA (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村岡 一磨  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 後藤 政博
宮澤 尚之
登録日 2018-10-26 
登録番号 特許第6423481号(P6423481)
権利者 神島化学工業株式会社
発明の名称 炭酸マグネシウム  
代理人 岩谷 龍  
代理人 岩谷 龍  
代理人 勝又 政徳  
代理人 勝又 政徳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ