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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1358607
異議申立番号 異議2018-700753  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-14 
確定日 2019-11-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6331123号発明「炭素繊維複合材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6331123号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6331123号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6331123号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2013-522420号(PCT/JP2013/063520)、以下「本願」という。)は、平成24年5月29日提出の特願2012-121738号を優先基礎出願とする優先権主張を伴って、出願人東レ株式会社(以下、「特許権者」という。)によりなされた、2013年5月15日を国際出願日とする特許出願であり、平成30年5月11日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年5月30日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1?4に係る特許に対し、平成30年9月14日に、特許異議申立人植松愛(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
その後、平成31年2月18日付けで取消理由が通知され、同年4月24日に特許権者から意見書及び訂正請求書が提出された。その訂正の請求に対して、令和1年5月20日付けで申立人に対して特許法第120条の5第5項の規定に基づく送付を行ったものの、申立人から何らの応答はなされなかった。そして、令和1年7月25日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年9月24日に特許権者から意見書が提出された。

第2 訂正の適否についての判断
1.請求の趣旨
平成31年4月24日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6331123号の特許請求の範囲及び明細書を、本請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載される
「炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体」を、
「炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3?4も同様に訂正することになる。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に記載される
「炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体」を、
「炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体」に訂正する。
(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3?4も同様に訂正することになる。)

(3)訂正事項3
明細書の【0008】における「上記課題を解決するために、本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体」を、
「上記課題を解決するために、本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の【0008】における「また、本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体」を、
「また、本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の【0031】における「天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnと長さLnを測定する。」を、「天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnを測定するとともに、繊維長Lnを測定する。」に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の【0038】における「ワイヤ4上に残り、炭素繊維シートを形成する。」を、「ワイヤ4上に残り、炭素繊維集合体を形成する。」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の【0050】における「(実施例7)」を、「(参考実施例7)」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の【0051】における「(実施例8)」を、「(参考実施例8)」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の【0055】における表1中の「実施例7」を、「参考実施例7」に、「実施例8」を、「参考実施例8」に、それぞれ訂正する。

(10)一群の請求項について
本件訂正は、訂正前の請求項1?4を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項3?4は、訂正請求の対象である請求項1または2の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?4は一群の請求項であって、本件訂正は、一群の請求項〔1?4〕について請求されたものである。

なお、本件訂正の請求は、願書に添付した明細書の訂正を含むものであるところ、本件訂正の請求は、該明細書の訂正に係る請求項の全てについて行われている。

3.訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体」を、「カーディングにより」形成されたものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件特許明細書等」ともいう。)の【0035】?【0036】及び図4に、カーディングにより炭素繊維束からシート状の炭素繊維集合体を得る工程について記載され、また、実施例1?4(【0044】?【0047】)に、炭素繊維束とナイロン6短繊維からカーディングによりシート状の炭素繊維集合体を得た具体例が記載されていたことに基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項3?4についての訂正も同様である。)

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、「炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体」を、「カーディングにより」形成されたものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件特許明細書等の【0035】?【0036】及び図4の記載、及び、実施例6(【0049】)の、炭素繊維束とポリプロピレン短繊維からカーディングによりシート状の炭素繊維集合体を得た具体例の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (訂正後の請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3?4についての訂正も同様である。)

(3)訂正事項3及び4について
訂正事項3及び4は、訂正後の請求項1及び2との対応関係を明瞭にするために、明細書の【0008】の記載を訂正後の請求項1及び2の記載に整合させる訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記(1)及び(2)で訂正事項1及び2について説示したと同様に、訂正事項3及び4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項5について
訂正事項5は、明細書の【0031】に、「・・・天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnと長さLnを測定する。」と記載され、天秤で長さLnを測定することは不可能であるから技術的に不明瞭な記載となっていたし、一見すると長さLnが炭素繊維束の長さであるとの誤解を招くおそれがある記載であったのを、「天秤を用いて」測定されるものは「個々の炭素繊維束の重量Mn」であることを明確にし、また、明細書の【0014】の記載に基づいて、Lnが繊維長であることを明らかにするものであるから、訂正事項5は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項6について
訂正事項6は、明細書の【0038】に、「エアレイド装置」により開繊されワイヤ4上に残る「炭素繊維束単体もしくは開繊された炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維のみ」からなる素材について、「炭素繊維シート」と記載されていたのを、「炭素繊維集合体」に訂正するものである。
そして、上記明細書の【0038】に記載の「炭素繊維シート」が「炭素繊維集合体」の誤記であることは、明細書の【0050】において、エアレイド装置を用いて炭素繊維とナイロン6繊維とから製造される素材が「炭素繊維集合体」であることが記載され、当該段落に、これを積層原料としてさらにナイロン610樹脂フィルムを積層後成形して炭素繊維複合材料を製造することが記載され、また、明細書の【0024】?【0025】において、炭素繊維シートの仕事量を、炭素繊維複合材料からマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした試験片からの引張試験結果を用いて求めていること等から明らかである。
よって、訂正事項6は誤記の訂正を目的とするものである。
また、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項7?9について
訂正事項7?9は、上記訂正事項1及び2に係る訂正に伴い、明細書の【0050】及び同【0055】の表1中の「実施例7」、並びに、同【0051】及び同【0055】の表1中に記載の実施例8が訂正後の請求項1及び2の範囲外となるので、「実施例7」を「参考実施例7」に、「実施例8」を「参考実施例8」に訂正するものであり、明細書中の記載を、訂正後の請求項1及び2の記載に整合させる訂正であるので、訂正事項7?9は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項7?9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項番号に対応して、それぞれ「本件発明1」等といい、本件発明1?4をまとめて「本件発明」ともいう。)

「【請求項1】
幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)であり、前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10^(-2)≦X≦8.1×10^(-2)(mg/mm)の範囲にあり、前記YがY≧100X+30を満たす炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料。
Mn:炭素繊維束重量
Ln:繊維長さ
D:繊維径
【請求項2】
幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、前記炭素繊維シートを形成する炭素繊維束のうち、重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲にあり、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲にある炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料。
【請求項3】
前記炭素繊維シートの前記引張試験で得られる荷重[N/(g/m^(2))]×10^(-3)-ひずみ[%]曲線における最大荷重到達後の傾きが-0.07?-0.01の範囲にある、請求項1または2に記載の炭素繊維複合材料。
【請求項4】
前記炭素繊維シートの前記引張試験で得られる荷重[N/(g/m^(2))]×10^(-3)-ひずみ[%]曲線における初期荷重負荷後の傾きが0.1?0.5の範囲にある、請求項1?3のいずれかに記載の炭素繊維複合材料。」

第4 特許異議の申立理由及び取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の概要

1.特許異議申立書に記載された特許異議の申立理由
本件訂正前の請求項1?4に係る発明についての特許に対して、申立人が申立てていた特許異議の申立理由は、概略、以下の(1)?(3)のとおりであって、申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)に添付して、証拠方法として下記(4)の甲第1号証?甲第9号証を提出した。

(1)申立理由1(実施可能要件)
本件特許の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(明確性)
本件特許の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3(甲第1号証を主引例とする進歩性)
まず、本件特許に係る出願についての、優先権の主張の効果は認められないから、本件発明の特許法第29条第2項についての判断のための基準日は、現実の出願日である平成25年5月15日となる。
請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第1?6号証に記載の技術的事項に基づいて、本件特許の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)証拠方法
甲第1号証:国際公開第2012/105080号公報
甲第2号証:特開2004-43985号公報
甲第3号証:特開2002-212311号公報
甲第4号証:実用新案登録第3152748号公報
甲第5号証:東邦テナックスの炭素繊維 「TENAX(R)」のカタログ、2008年4月発行
甲第6号証:東レ株式会社の高性能炭素繊維炭素繊維である「トレカ(R)糸」のWebサイトに掲載されたカタログのモノクロ印刷物、2017年6月1日検索及び印刷、URL:http://www.torayca.com/download/pdf/torayca.pdf
甲第7号証:Lee T Harper, Thomas A Turner, Nicholas A Warrior, A RANDOM FIBRE NETWORK MODEL FOR PREDICTING THE STOCHASTIC EFFECTS OF DISCONTINUOUS FIBRE COMPOSITES、2007年、Book of abstracts of the papers presented at The Sixteenth International Conference on Composeite Materials July 8-13,2007:Kyoto Japan,1?10頁
甲第8号証:「日本国語大辞典 第二版 第八巻」、2004年5月20日第2版第4刷発行、株式会社 小学館、1064頁の「たば【束・把】の項目」
甲第9号証:特願2012-121738の優先権証明書の抜粋

なお、上記において、甲第5号証及び甲第6号証中では、「(R)」は、○の中にRで表記されているが、この決定中では表記ができないため、「(R)」と表記した。
また、以下、甲第1号証?甲第9号証を、それぞれ、「甲1」?「甲9」という。

2.令和1年7月25日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由
本件訂正後の請求項1?4に係る特許に対して、当審合議体が取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1(実施可能要件)
本件特許の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(2)取消理由2(明確性)
本件特許の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

第5 取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由1、2についての判断
1.取消理由1(実施可能要件)について
(1) 当審合議体が取消理由通知書(決定の予告)で指摘した取消理由1は、具体的には、以下のとおりである。

「ア 本件発明1?4は、『炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料』に関する発明であるところ、本件発明1では、前記炭素繊維複合材料を構成する炭素繊維シートが、『幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]』(以下、『仕事量』という場合がある。)、『Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))『以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)』(以下、『割合Y』という場合がある。)、『炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10^(-2)≦X≦8.1×10^(-2)(mg/mm)の範囲』(以下、『Xの範囲』という場合がある。)及び『YがY≧100X+30を満たす』こと(以下、『Yの式条件』という場合がある。)が特定され、本件発明2では、前記炭素繊維シートが、『幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]』であることが特定され、さらに、当該仕事量を満たす炭素繊維シートが、『重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲』であり、『炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲』であること(以下、これらの条件を『標準偏差等の条件』という場合がある。)が特定されている。また、本件発明3では、本件発明1又は2の特定に加えて、『炭素繊維シートの前記引張試験で得られる荷重[N/(g/m^(2))]×10^(-3)-ひずみ[%]曲線における最大荷重到達後の傾きが-0.07?-0.01の範囲』(以下、『最大荷重到達後の傾き』という。)であることが特定され、本件発明4では、本件発明1?3の特定に加えて、『炭素繊維シートの前記引張試験で得られる荷重[N/(g/m^(2))]×10^(-3)-ひずみ[%]曲線における初期荷重負荷後の傾きが0.1?0.5の範囲』(以下、『初期荷重傾き』という)であることが特定されている。

そこで、本件特許明細書等の発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、上記で特定される特性(つまり、上記で特定されている『仕事量』、『割合Y』、『Xの範囲』、『Yの式条件』、『標準偏差等の条件』、『最大荷重到達後の傾き』及び『初期荷重傾き』)を備えた炭素繊維シートを補強材とする炭素繊維複合材料を製造し、使用することができる程度の記載があるかについて検討する。

イ 本件発明1?4で特定される上記それぞれの特性は、炭素繊維複合材料の製造方法により変化すると解されるところ、炭素繊維複合材料の製造方法のどのような工程が、上記それぞれの特性にどのような影響を与えるのかについて、発明の詳細な説明には一般的な説明は記載されていない。
また、本件特許明細書には、本件発明1?4に係る炭素繊維複合材料の具体的な製造例として、【0034】?【0036】及び【0039】?【0043】に、カーディング工程についての説明及び実施例・比較例で用いた炭素繊維束(A)?(E)についての説明があり、【0044】?【0049】及び【0052】?【0054】に、実施例・比較例の炭素繊維複合材料の製造方法が記載され、【0055】の【表1】にその結果が記載されている。そして、これらの記載から、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲の上限を外れる場合に、仕事量、Xの範囲、最大荷重到達後の傾き及び初期荷重傾きが本件発明の範囲を外れること、並びに、炭素繊維束にサイジング剤が付着されていないと、炭素繊維シートの仕事量、最大荷重到達後の傾き、及び、初期荷重傾きが、本件発明の範囲を外れることは理解できるが、これらの値(さらには、割合Y、Yの式条件、標準偏差等の条件)に影響を与えると解されるカーディング工程の詳細な条件については記載がなく、当該明細書の記載からは、具体的なカーディング工程の条件を理解できない。
そうすると、当業者は、実施例で使用される、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維を使用する場合であっても、どのような製造条件(カーディング時のロール回転条件や表面速度等)を採用すれば、本件発明1?4で特定される各種特性を満足する炭素繊維シートが得られるのかを理解することはできない。また、その点が、出願時の技術常識に基づいて明らかであるともいえない。
したがって、本件特許明細書等の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、上記特定の特性を有する炭素繊維シートを補強材とする本件発明1?4の炭素繊維複合材料を製造し、使用することができるとはいえない。

ウ ・・・特許権者の上記主張は採用できない。
エ 以上のとおりであるから、本件発明1?4は、実施可能要件を満足しない。」

(2) 取消理由1について検討する。
実施可能要件の判断基準
物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。

イ 本件発明1?4について、実施可能要件を充足するか否かを検討する。
まず、訂正後の本件発明1?4においては、炭素繊維複合材料を構成する炭素繊維シートは、「カーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたもの」と特定されているところ、本件特許明細書の【0035】?【0036】には、カーディングについて説明され、特に、【0036】及び図4には、所定長に切断されベルトコンベヤーで供給された炭素繊維束は、フィードロールの外周面、次いでテイクインロールの外周面を介してシリンダーロールの外周面上に導入され、この段階までである程度炭素繊維束はある程度解され、綿状の炭素繊維束の集合体(炭素繊維集合体)となっていること、そして、シリンダーロールの外周面上に導入された綿状の炭素繊維束の集合体は一部、ワーカーロールの外周面上に巻き付くが、この炭素繊維はストリッパーロールによって剥ぎ取られ再びシリンダーロールの外周面上に戻されること、フィードロール、テイクインロール、シリンダーロール、ワーカーロール、ストリッパーロールのそれぞれのロールの外周面上には多数の針、突起が立った状態で存在しており、上記工程で炭素繊維束が針の作用により所定の束まで開繊され、ある程度配向されること、かかる過程を経て所定の炭素繊維束まで開繊され、炭素繊維集合体の1形態であるシート状のウエブとしてドッファーロールの外周面上に移動することが記載されている。

そして、本件特許明細書【0037】に記載の文献であり、特許権者が平成31年4月24日付けの意見書に添付して提出した乙第1号証(日本繊維機械学会不織布研究会編集「不織布の基礎と応用」平成5年8月25日、(社)日本繊維機械学会発行、83?90頁)には、一般的なカーディングの条件例(例えばシリンダー回転数等)についての記載があり、特に、86頁には以下の記載があり、カーディングでは、繊維束の開繊は主にシリンダーとウォーカー間で行われ、例えば、Hergeth社のローラーカードでは、シリンダー回転数260?560rpm(表面速度750?1500m/min)であることが理解できる。(合議体注:乙第1号証の「ウォーカー」は、本件特許明細書に記載の「ワーカーロール」と同義である。)
「(b)カーディング
不織布用としては、一般にローラーカードが用いられ、開繊は主にシリンダーとウォーカー間で、搬送はシリンダーとドッファー間で行われる。
最近のカードは、シリンダーの回転数増加、広幅化およびダブルドッファー化(図3・3)により高生産化が計られている。
Hergeth社のローラーカードの各ローラーの直径は、シリンダー850mm、ウォーカー219mm、ストリッパー123mmで、シリンダー回転数260?560rpm(表面速度750?1500m/min)である。1.5?3d×38?51mmのポリエステル繊維を用いた場合、カードウェブ10?35g/m^(2)の目付の生産量は、120Kg/hr/mである。」

また、カーディングにおける開綿(合議体注:「開繊」と同義)について、特許権者が令和1年9月24日付けの意見書に添付して提出した乙第2号証(日本繊維機械学会基礎繊維工学編集委員会編集「基礎繊維工学(II)-紡績工程の理論と機構-」昭和49年3月31日、(社)日本繊維機械学会発行の43?62頁)の60頁には、「(a)ビーティングによる開綿
綿塊の開綿は主として、シリンダーやビータあるいはストライカ(Striker)などのスパイクやブレードが綿塊に与える打撃作用、すなわちビーティングによって行われている。・・・
・・・
(b)ビート数とストライク数
開綿あるいは除塵作用を調節するには、シリンダーやビータの回転数を変えるか、フィードローラーの回転速度を変え・・・実施する。」
と記載されており、開繊の程度を変化させるにはシリンダーによる打撃作用やシリンダー回転数によって調整できることが理解できる。

さらに、乙第3号証(日本繊維機械学会繊維工学刊行委員会編集「繊維工学(III) 糸の製造・性能及び物性」昭和62年10月30日、(社)日本繊維機械学会発行、55?97頁)の、特に、97頁には、「シリンダとワーカによる開繊力を向上させる方法としては、(1)シリンダ?ワーカ間のゲージを狭くする、(2)ワーカの本数を増加させる、(3)ワーカの回転数を下げる、(4)ワイヤの働き角度を小さくし、針又は歯先の密度を大きくするなどが挙げられるが、これらにもそれぞれ限度があり、あまり上記の傾向を極端に実施するとオーバカーディングとなり、繊維切断が増加するなど品質面に悪影響を及ぼすので注意を要する。」
と記載されており、開繊性を変化させるにはシリンダーやワーカー間の距離や、ワーカーの回転数を下げることによって調整できることが理解できる。(なお、乙第3号証において「(1)」等は、当該文献中では○の中に数字が記載されているが、この決定では表記できないので、上記のとおりの表記とした。)
ここで、本件特許明細書の【0013】に「炭素繊維シートが、所定長さに切断された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなる形態を採る。このような形態においては、本発明に係る炭素繊維複合材料における炭素繊維同士の交絡が強くなりすぎることを容易に抑制でき、それによって炭素繊維シートの目付あたりの仕事量を確実に本発明で規定した範囲内に収めることができる。」と記載されているとおり、炭素繊維シートの仕事量は、炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料とすることで、炭素繊維同士の交絡が強くなり過ぎない範囲に特定されており、そのために炭素繊維同士の交絡の程度が調整されるものであるところ、かかる調整がカーディング処理におけるシリンダーの回転数等を調整してなされることは技術常識である。
そして、炭素繊維は、ナイロンまたはポリプロピレンといった熱可塑性樹脂短繊維と比較して伸度が低く、折れやすいことから、当業者は、乙第1号証に記載の一般的なカーディング処理のシリンダー回転数260?560rpm(表面速度750?1500m/min)の範囲内でより低い速度条件を適宜採用する等の工夫を適宜することで、本件発明1?4に特定される「仕事量」を満足する炭素繊維シートを過度の負担なく製造できるといえる。

また、「割合Y」及び「Xの範囲」については、シリンダー回転数を上げると炭素繊維集合体中の炭素繊維の開繊が進み、それぞれの炭素繊維束を構成する単繊維の本数は小さくなる傾向となるから、炭素繊維束の重量Mnが小さくなり、繊維長Ln、炭素繊維直径Dが一定の値であれば、Mn/(Ln/D)、Mn/Lnの平均値Xが小さくなる傾向であり、「割合Y」、「Xの範囲」も小さくなる傾向となることが理解できる。そうすると、これらの傾向を踏まえれば、当業者は、シリンダー回転数の調整等により、本件発明1?4に特定される「割合Y」、「Xの範囲」を満足する炭素繊維シートを過度の負担なく製造できるといえるし、「Yの式条件」の調整についても同様である。

「標準偏差等の条件」については、シリンダー回転数を上げると炭素繊維集合体中の炭素繊維の開繊が進むから、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xの本数の数量平均xは小さくなる傾向となるし、また、炭素繊維束にシリンダーの針が作用する頻度が増えるために、炭素繊維束の炭素繊維の本数のバラツキが減り炭素繊維の本数の標準偏差σが小さくなる傾向であることが理解できる。そうすると、これらの傾向を踏まえれば、当業者は、「標準偏差等の条件」を満足する炭素繊維シートを過度の負担なく製造できるといえる。
「最大荷重到達後の傾き」については、本件特許明細書の【0010】に記載されるとおり「引張試験における目付あたりの最大荷重に到達後、さらに4?6%伸張した時の引張曲線の傾きで、引張曲線の最大荷重(頂点)から減少していくときの傾き」であり、「この傾きの絶対値が小さいほど(傾きが緩やかなほど)、炭素繊維シートがちぎれずにゆっくりと引き伸ばされていく」ことになるところ、シリンダー回転数を上げると炭素繊維集合体中の炭素繊維と熱可塑性樹脂短繊維の開繊が進み、繊維同士の交絡が進むことから、炭素繊維シートがちぎれずにゆっくりと引き伸ばされていく形態となり、最大荷重到達後の傾きは小さくなる傾向となる。また、「初期荷重傾き」については、同【0011】に記載のとおり、「引張試験において目付あたりの荷重が負荷される際の、引張曲線の初期の立ち上がりの傾き」のことであり、「この傾きが小さいほど、炭素繊維シートが弱い力で引き伸ばされていく」ことになり、シリンダー回転数を上げると、炭素繊維シートを強い力で引き伸ばすことが必要になり、初期荷重負荷後の傾きは大きくなる傾向となる。そして、これらの傾向を踏まえれば、「最大荷重到達後の傾き」及び「初期荷重傾き」を満足する炭素繊維シートについても当業者は過度の負担なく製造できるといえる。

以上、まとめると乙第1?第3号証に示される技術常識を参酌すれば、当業者は、本件特許明細書の記載に基づいて、本件発明1?4に特定される各種特性を有する炭素繊維シートを過度の試行錯誤等を行う必要なく製造できるものといえる。
よって、本件発明1?4は、実施可能要件を満足する。

2.取消理由2(明確性)について
(1) 当審合議体が取消理由通知書(決定の予告)で指摘した取消理由2は、具体的には、以下のとおりである。
「(1)PBPクレームについて(本件発明1?4に対し)
本件発明1及び2は、『炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料』という物の発明であるが、請求項1及び2の、炭素繊維複合材料を構成する『炭素繊維シート』についての、『炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成された』との記載は、炭素繊維複合材料という物の製造に関して、技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、請求項1及び2にはその物の製造方法が記載されている(いわゆる『PBPクレーム』に該当する。)といえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下『不可能・非実際的事情』という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
より具体的には、上記最高裁判決では、『物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか・・・不明であり、・・・当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり、適当でない。』としながら、『物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては、通常、当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが、その具体的内容、性質等によっては、出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり、特許出願の性質上、・・・特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど、出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得る・・・。・・・上記の様な事情がある場合には、当該製造方法により、製造された物と構造、特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても、第三者の利益を不当に害することがないというべきである。』と判示されている。
そうすると、上記判決によれば、物の発明について特許請求の範囲にその製造方法が記載されており、当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか不明である場合には、上記の様な不可能・非実際的事情がある場合に限って、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえる。
そこで、本件発明1及び2について検討すると、請求項1及び2には、本件発明1及び2の『炭素繊維複合材料』という物の発明における物の構造・特性の特徴に関し、当該炭素繊維複合材料が『炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする』ものであるとの構造的な特徴を有すること、当該複合材料を構成する『炭素繊維シート』が、『幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]』(本件発明1及び2)、『Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)であり、前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10^(-2)≦X≦8.1×10^(-2)(mg/mm)の範囲にあり、前記YがY≧100X+30を満たす』(本件発明1)、『炭素繊維シートを形成する炭素繊維束のうち、重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲にあり、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲にある』(本件発明2)との特性を満たすことは記載されているが、『炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたもの』として特定される(すなわち、その製造方法により特定される)炭素繊維シートが、物として、どのような構造・特性を有するのかは明らかではない。
そうすると、当業者は、かかる製造方法により特定される炭素繊維シートを構成要素とする『炭素繊維複合材料』という『物の発明』の内容を、明確に理解することができない。

そして、本件特許明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。
(2) ・・(略)・
(3)したがって、本件発明1及び2は明確とはいえない。
また、請求項1及び2を直接あるいは間接的に引用する本件発明3及び4についても同様である。」

(2)取消理由2について検討する。
まず、本件発明の炭素繊維シートは、炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として構成された炭素繊維複合材料中の補強材として、マトリックス樹脂と一体化して存在するものであり、請求項1?4で特定される各種物性を満足するものであるが、それは、一旦炭素繊維複合材料を形成した上で、マトリックス樹脂を焼き飛ばして除去し、炭素繊維シート単体として取り出して、初めて測定される物性である(本件特許明細書の【0024】)。
ここで、本件発明の炭素繊維複合材料は、カーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたシート状の炭素繊維集合体を積層し、さらに、ナイロン樹脂不織布等を積層し、ホットプレス等による加熱、加圧、その後の冷却という何段階にも及ぶ一連の一般的な複合材料の製造条件を経て製造されるものである(実施例1?4、6(【0044】?【0047】、【0049】)ところ、炭素繊維束を単体でカーディング処理する場合には、「炭素繊維複合材料における炭素繊維同士の交絡が強くなりすぎる」(【0013】)といった不具合があることから、「炭素繊維シートの目付あたりの仕事量を確実に本発明で規定した範囲内に収める」(【0013】)ために、「炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたもの」という工程を経る必要がある。
すなわち、本件発明に係る炭素繊維複合材料における炭素繊維シートの構造についての、「炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたもの」との特定は、炭素繊維シートの繊維の交絡構造を特定するために役立つものである。
ところで、上述のとおり、本件発明の炭素繊維シート自体は、カーディングを含む複雑な炭素繊維複合材料の製造工程を経て製造された後に、単離されてはじめて特定が可能となるものであるところ、本件発明の炭素繊維複合材料自体、具体的に採用される製造条件(例えば、炭素繊維束と熱可塑性樹脂短繊維の配合比、カーディング条件、ホットプレス等による加熱温度、加圧条件、その後の冷却の条件等)によって、製造される炭素繊維複合材料の構造が個々に変化し、また、その複合材料に含まれる炭素繊維シート自体の構造も当然変化することになる。その上、仮に同じ製造条件を採用する場合であっても、製造時の室内温度や湿度等の環境条件によっても、出来上がってくる炭素繊維複合材料やそれに含まれる炭素繊維シートの構造が微妙に変化する可能性がある。
そして、本件発明に係る炭素繊維複合材料における炭素繊維シートの形態を物性のみで特定するためには、上記の複合材料の一連の複雑な製造工程の個々の段階毎に条件を変化させた炭素繊維複合材料を無数に製造し、そこから炭素繊維シートを単離した結果について詳細に検討しなければならないが、無数にある具体的な製造条件に応じた種々の炭素繊維複合材料を製造し、それに含まれる炭素繊維シートの物性を特定して、炭素繊維シートを、物としてその構造又は特性により直接特定することは、当業者にとっておおよそ不可能かつ非現実的なことである。

よって、「炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料」という物の発明である本件発明において、炭素繊維複合材料を構成する「炭素繊維シート」について、「炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成された」という、物の製造についての技術的な特徴や条件が付された記載があることをもって、本件発明が不明確であるということはできない。

3.まとめ
以上のとおり、取消理由1及び2には、理由がない。

第6 申立書に記載された特許異議の申立理由1?3についての判断
申立書の41?75頁において申立理由1及び2として申立人が主張する記載不備は多岐にわたるため、以下では、申立書の項目番号を示して、記載不備の内容についてはその概略を記載し、判断は、項目番号毎に記載する。

1.申立理由1(実施可能要件)について
(1)項目(4.7.2)について:開繊方法
ア まず、申立人は、項目(4.7.2)において、開繊方法に関する本件特許明細書の【0036】及び【0038】の記載、並びに、実施例1?7の記載を参酌しても、炭素繊維束とマトリックス樹脂繊維と混ぜた状態での開繊処理の記載があるのみであって、繊維束単独で同等の開繊程度が再現できるかが不明であるから、本件発明1?4は、実施可能要件を満たさない旨主張するので検討する。
本件発明1?4における炭素繊維シートは、「炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたもの」であり、炭素繊維集合体を得る段階での開繊処理は、上記炭素繊維束と熱可塑性樹脂短繊維を一緒にカーディングするものであるから、炭素繊維束単独で同等の開繊程度が再現できないとしても、そのことにより実施可能要件を満足しないとはいえない。

イ 次に、申立人は、本件特許明細書には、カーディング装置においてはロール回転条件などが、エアレイド装置においては風速条件などが具体的に記載されておらず、どのように開繊されたのかが不明であるし、発明の詳細な説明においてどのように処理すれば、本件特許発明1?4に記載の特殊パラメータを有する炭素繊維複合材料を製造することができるのかが記載されていないから、本件発明1?4は、実施可能要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件発明1?4の炭素繊維複合材料は、該材料を構成する炭素繊維シートが、カーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成された炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料であるところ、これが、実施可能要件を満足することは、すでに、第5の1.(2)において、取消理由1についての判断として説示したとおりである。

(2)項目(4.7.3)について:炭素繊維束の重さの測定
ア 申立人は、以下のとおり、本件特許明細書の記載を参酌しても炭素繊維束の重さを測定できないから、本件発明1、3、4は、実施可能要件を満足しない旨主張する。
本件発明1及び請求項1を引用する請求項にかかる本件発明3、4では、炭素繊維複合材料を構成する炭素繊維シートに関し、「Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)」について、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)である等の特定がされているから、炭素繊維束(1)とそれ以外の炭素繊維束を区別できる必要がある。
本件特許明細書の記載によると、実施例1では、用いた炭素繊維束(A)の繊維径は5.5μmであり、繊維長は15mmであるから、「炭素繊維束重量(Mn)」は、実施例1の場合は、以下の計算式より約0.070mgである。
Mn=8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))×Ln×D
=8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))×15mm×5.5μm
≒0.070mg
ここで、本件特許明細書の【0031】には、「1/10000gまで測定が可能な天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnと長さLnを測定する。」と記載されているが、「1/10000g(つまり、0.1mg)まで測定が可能な天秤」を用いて測定する場合、0.050mg?0.149mgが「1/10000g(=0.1mg)」と表記されることになる。
そうすると、本来、Mnが0.070mg以上の炭素繊維束のみを「Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)」に相当するものとしてカウントするべきであるのに、上記の天秤を用いて炭素繊維束の重量測定した場合、これ以外の、例えば、0.050mg?0.069mgまでの炭素繊維束(これは、本件特許明細書の【0032】に、「8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))未満の炭素繊維束」として記載される「繊維束(2)」に相当する。)が混じったものも炭素繊維束(1)に相当するものとしてカウントしてしまうことになる。
つまり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、炭素繊維束(1)とそれ以外の炭素繊維束(2)を区別して測定することができない。
よって、本件発明1、3、4は実施可能要件を満足しない。

イ 以下に、検討する。
炭素繊維束の重量測定方法については、本件特許明細書の【0031】に、
「炭素繊維複合材料から100mm×100mmのサンプルを切り出し・・・マトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした・・・炭素繊維集合体から炭素繊維束をピンセットで全て抽出した。」、
「抽出した全ての炭素繊維束について、1/10000gまで測定が可能な天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnを測定するとともに、繊維長Lnを測定する。」
と、記載され、また、【0032】に、
「ピンセットで抽出することの出来ない程度に開繊した繊維束はまとめて最後に重量を測定した。また、繊維長が短く、重量の測定が困難になる場合は繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いてもよい。」
と、記載されている。
そして、上記特許明細書の記載によれば、炭素繊維複合材料を製造する際の炭素繊維束は、カットした繊維長であるが、サンプルを切り出す際に途中で切断されるので、カット長に満たない炭素繊維束が含まれることが理解できる。
また、【0032】の「ピンセットで抽出することの出来ない程度に開繊した繊維束はまとめて最後に重量を測定した。」なる記載によれば、繊維束が開繊されてしまっていて、ピンセットにより「繊維束」としての抽出ができないものは、まとめて最後に重量を測定することが理解できる。
さらに、【0032】の「繊維長が短くて重量の測定が困難な場合の炭素繊維束は、繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いてもよい。」なる記載によれば、当該平均値を用いて算出した結果が、Mn/(Ln×D)の最小値とした8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上か否かによって、炭素繊維束(1)とそれ以外の炭素繊維束に分類できることが分かるし、当該記載によれば、繊維が折れておらず、カット長のままの場合であっても、重量の測定が困難になる場合には、同様に、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いても算出することを理解できる。
つまり、炭素繊維束が抽出できた場合であって、天秤での重量の測定が困難な場合(「1/10000g(0.1mg)まで測定が可能な天秤」を用いて測定する場合に、単独では、「1/10000g(=0.1mg)」と表示されることになる0.050mg?0.149mgの範囲の繊維束、あるいは、それより小さい値(0)が表示される場合)については、抽出した炭素繊維束を、長さ毎に分類した複数本の束をまとめて重量測定し、平均値を用いて個々の炭素繊維束の重さを算出することができることが理解できる。
以上のとおり、当業者は、「1/10000gまで測定が可能な天秤」を用いて、0.070mg以上の炭素繊維束と0.050mg?0.069mgまでの繊維束を区別して測定する方法を本件特許明細書の記載から当業者は理解できる。
よって、本件発明1、3、4は実施可能要件を満足するといえる。

(3)まとめ
以上のとおり、申立理由1には、理由がない。

2.申立理由B(明確性)について
(1)項目(4.7.4)について:X及びYの数値範囲
申立人は、本件発明1では、X及びYの数値範囲について、「30≦Y<90」、「1.1×10^(-2)≦X≦8.1×10^(-2)」、「Y≧100X+30」(以下、それぞれ、「数式(1)」?数式(3)」という。)と特定されているが、数式(2)によれば、Xは最小でも「1.1×10^(-2)の値であり、これを数式(3)に代入する場合、Y≧100×1.1×10^(-2)+30となり、Yの最小値は31.1でなければならないのに、数式(1)は30≦Y<90と規定しており、少なくともYが30以上31.1未満の範囲においては数式(3)を満たすことはないから、本件発明1及び請求項1を引用する請求項にかかる本件発明3、4は明確でない旨主張する。
そこで検討すると、請求項1の記載から、本件発明1として請求されているのは、数式(1)?(3)を全て満たす範囲のものであることは明らかであって、そもそも、数式(1)の範囲に含まれ、かつ、数式(3)を満たさない範囲のものは本件発明1の範囲に入らない。
そして、数式(1)?(3)を全て満たす範囲のものとして、本件発明1及び請求項1を引用する本件発明3、4は明確である。

(2)項目(4.7.5)について:炭素繊維束(3)
申立人は、本件発明2及び請求項2を引用する本件発明3、4に関し、以下の申立理由を主張をする。
炭素繊維束(3)は、前記炭素繊維シートを形成する炭素繊維束のうち、重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の繊維束であるから、90本未満の繊維束は、炭素繊維束(3)に該当しない。
一方、本件発明2には、「炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲」、「炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲」と特定され、ここで、「炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90本/束」である場合には、全ての炭素繊維束(3)が90本の炭素繊維で構成されることから、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σは0とならなければならないのに、標準偏差σ=0は本件発明2の範囲外となっている。
よって、本件発明2?4は明確でない。

そこで検討すると、請求項2の記載から、本件発明2として請求されているのは、「炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲」であり、かつ、「炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲」を満たす範囲のものであることは明らかであって、「炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90本/束」であって「標準偏差σ=0」のものは、そもそも本件発明2の範囲に入らない。
そして、「炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲」であり、かつ、「炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲」を満たす範囲のものとして、本件発明2は明確である。また、請求項2を引用する請求項にかかる本件発明3、4も同様である。

(3)項目(4.7.6)について:炭素繊維束の定義
ア 申立人は、炭素繊維束の定義に関して、以下の(ア)及び(イ)の点を指摘して、本件発明の「炭素繊維束」の定義が明確ではなく、「炭素繊維束」という文言によって発明を特定する本件発明1?4は明確でない旨主張する。
(ア) 本件発明1は、「Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)」との発明特定事項を有しているし、本件発明2は、「炭素繊維シートを形成する炭素繊維束のうち、重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲にあり、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲」との発明特定事項を有している。
しかしながら、炭素繊維束に関し、本件特許明細書には、「束」についての定義はないし、出願時の技術常識(甲8)を考慮しても、「炭素繊維束」とはどの程度の炭素繊維のまとまりを意味するのか不明確である。
(イ) 本件特許明細書の【0031】?【0033】には、炭素繊維束の測定方法に関する記載があり、炭素繊維束は、ピンセットを用いて抽出される(つまり、取り出される)とされている。
しかしながら、本「炭素繊維束」は、ピンセットで抽出することのできない程度に開繊する場合があるし、ピンセットでどの位置を摘んで取り出すかによって、繊維束の大きさは異なるから、繊維束とはどのようなものか明確でなければ、誤差が生じる。
具体的な事例として、甲7の図1の種々の部分の拡大図に基づいて、本件特許明細書記載の内容から、強化繊維束の割合を算出できるか検証してみると、本件特許明細書に「繊維束」の明確な定義がないから、いずれの拡大図の場合であっても、どの部分を繊維束とみるかを判断できないし、ピンセットでどの位置を摘むかによって束の大きさが変わる。そうすると、当業者は、「炭素繊維束」に関する数値を一義的に決定することができない。

イ 上記申立理由について検討する。
(ア) 「繊維束」における「束」という用語自体は、申立人の証拠方法である甲8に記載されているとおり「いくつかの物を一まとめにしてくくったもの」、「たばね」を意味しており、日本語として明確である。
また、特に「繊維束」については、甲1の請求項1や甲7の2頁右欄の「3 DCFP material architecture」の1?7行の抄訳で「繊維束」と記載しているように、束状の形態の繊維を意味するものとして当業者に一般に認識使用されている用語であって、これを用語として不明確とすることはできない。

(イ) 申立人が指摘する本件特許明細書の【0031】?【0033】には、炭素繊維束の測定方法に関し、以下の記載がされている。(なお、下線は合議体が付した。)
「【0031】
(6)炭素繊維束の測定方法
炭素繊維複合材料から100mm×100mmのサンプルを切り出し、その後、サンプルを500℃に加熱した電気炉の中で1時間程度加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした。室温まで冷却した後に残った炭素繊維集合体の質量を測定した後に、炭素繊維集合体から炭素繊維束をピンセットで全て抽出した。抽出した全ての炭素繊維束について、1/10000gまで測定が可能な天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnを測定するとともに、繊維長Lnを測定する。測定後、個々の束に対してMn/Ln、Mn/(Ln×D)、炭素繊維束を構成する炭素繊維単糸本数xn=Mn/(Ln×F)を計算する。ここでDとは炭素繊維直径であり、Fとは炭素繊維の単糸繊度であり、xnは炭素繊維束の構成単糸本数である。・・・
【0032】
Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の繊維束を炭素繊維束(1)とし、炭素繊維束(1)の総重量をMAとし、束総数をNとして、測定する。また、8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))未満の炭素繊維束を繊維束(2)とし、炭素繊維束(2)の総重量をMBとして、測定する。ピンセットで抽出することの出来ない程度に開繊した繊維束はまとめて最後に重量を測定した。また、繊維長が短く、重量の測定が困難になる場合は繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いてもよい。全て分類し、測定後、炭素繊維束(1)に対して(Mn/Ln)/Nを計算し、炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xを求める。また、炭素繊維束全体重量に対する炭素繊維束(1)の割合は、
MA/(MA+MB)×100
によって求められる。
【0033】
一方、炭素繊維束の構成単糸本数Xnが90本以上の炭素繊維束を炭素繊維束(3)とし、総重量をM_(1)とし、束総数をNとして、測定する。また、構成単糸本数Xnが90本未満の炭素繊維束を繊維束(4)とし、炭素繊維束(4)の総重量をM_(2)として、測定する。ピンセットで抽出することのできない程度に開繊した繊維束はまとめて最後に重量を測定した。また、繊維長が短く、重量の測定が困難になる場合は繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いてもよい。全て分類し、測定後、炭素繊維束(3)に対して束を構成する炭素繊維本数の数量平均x=Σ{Mn/(Ln×F)}/N、炭素繊維束を構成する炭素繊維本数Xnの標準偏差σ={1/N×Σ(Xn-X)^(2)}^(1/2)を計算し、束を構成する炭素繊維本数の数量平均Xと炭素繊維束を構成する炭素繊維本数Xnの標準偏差σを求める。なお、Nは炭素繊維束(3)の束総数である。また、炭素繊維束全体重量に対する炭素繊維束(3)の割合は、
M_(1)/(M_(1)+M_(2))×100
によって求められる。」

上記段落の記載によれば、本件発明1の「Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)」及び本件発明2の「重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)」が前提とする「繊維束」は、当業者が、「繊維束」として認識するものであって、ピンセットで取り出すことが可能なものであるといえる。(このことは、例えば、本件特許明細書の【0032】に、「ピンセットで抽出することの出来ない程度に開繊した繊維束」について、「ピンセットで抽出」される繊維束と区別して記載されていることからも明らかである。)そして、ピンセットでつまんだ位置にかかわらず、一まとめの束の状態としてくっついている繊維束は、取り出したときに一まとめの束として取り出されるから、その限りにおいて、繊維束の範囲は明確である。

また、申立人は、具体的な事例として、甲17の図1(炭素プリフォームの写真)から複数箇所の部分を選び、拡大図としたものについて、申立書57?68頁において個々に論じているが、いずれの部分から「繊維束」を取り出す場合であっても、上述のとおり、当業者が「繊維束」として認識するものであって、かつ、ピンセットで取り出すことが可能なものを取り出せば足りるのであり、その際には、当業者であれば、「繊維束」として認識し得る最小単位をピンセットでつまんで取り出せばよく、その際に、一まとめの束の状態としてくっついている他の繊維束があれば、それは本来1つの繊維束として一緒に取り出されるべきものである。また、一見繊維束に見えるものであっても、他の繊維と交絡して繊維集合体を形成しており、繊維束としては取り出すことができないものが、本件発明1の「Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)」及び本件発明2の「重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)」の前提となる「繊維束」を構成しないことは明らかである。
すなわち、甲17の図1の各部分の拡大図における繊維束についても、ピンセットで実際に取り出したときに、束となるものが繊維束として取り出されるのであり、繊維束の取り出し方が複数存在するものではなく、当業者は、いずれの拡大図の場合であっても、繊維束を取り出すことができる。そして、取り出された繊維束について本件特許明細書の【0031】の数式に従い個々の繊維束の繊維本数を計算することで、炭素繊維束(1)の定義に合致する繊維束であるかを決定することができる。

(ウ) 以上のとおり、「繊維束」という用語は明確であるし、また、当業者は、本件特許明細書の記載にしたがい「繊維束をピンセットで取り出し」、取り出した個々の炭素繊維束について重量Mnを測定し、繊維長さLnを測定してMn/(Ln×D)の算出すること、炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数を測定することにより、本件発明1の「Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)」及び本件発明2の「重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)」にあたるものを理解することができる。
よって、本件発明1?4は明確である。

(4)項目(4.7.7)について:繊維束の長さ
申立人は、本件発明1?4に関し、炭素繊維束の長さが一義的に理解できないために、本件発明1で特定される「Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)」や「Mn/Lnの平均値X」を一義的に理解できないし、本件発明2の炭素繊維シートについても一義的に理解できない旨主張する。
しかしながら、まず、本件発明1等で特定される「Ln」は、請求項1の「Ln:繊維長さ」なる記載や本件特許明細書【0014】の記載から明らかなとおり、炭素繊維束自体の長さではなく、炭素繊維束を構成している「炭素繊維の繊維長」を意味していることが明らかである。
そして、この繊維長さLnは、基本的には、連続した炭素繊維束のカット長によって決まるものであるが、本件特許明細書【0031】に記載されるとおり、炭素繊維束の測定は炭素繊維複合材料から100mm×100mmに切り出したサンプルから行われるので、サンプルを切り出す際に途中で切断される等、所定の繊維長に満たない炭素繊維束も含まれるころから、その場合には、【0031】に記載のとおり、個々の炭素繊維束に含まれる繊維の繊維長を測定することで決まるものである。
よって、当業者は、本件発明1で特定される「Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)」や「Mn/Lnの平均値X」について明確に理解できる。
また、本件発明2には「Ln」についての記載はないのでそもそも本件発明2についての申立人の主張は妥当性を欠いている。
以上のとおり、本件発明1、2及び請求項1又は2を引用する本件発明3、4は明確である。

(5)項目(4.7.8)について:PBP
申立人が項目(4.7.8)で主張する申立理由Bは、上記第5の2.(1)で記載した取消理由2と同旨であり、上記第5の2.(2)で説示したとおりの理由によって、この申立理由は理由がない。

(6)まとめ
以上のとおり、申立理由2には、理由がない。

3.申立理由3(甲第1号証を主引例とする進歩性)について
(1)本件特許の優先権主張の効果の有効性と進歩性の判断の基準日について
申立人は、申立理由3に関し、申立書の項目(4.1.2)において、本件特許に係る出願についての、優先権の主張の効果は認められない旨の主張をしているので、以下に検討する。

本件発明1及び2の発明特定事項のうち、炭素繊維シートが「幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である」との技術的事項については、本件特許に係る出願の優先権の基礎となる出願(特願2012-121738号(申立人の提出した甲9である。以下、「優先権基礎出願」という。))の出願書類には記載されていない事項である。
すなわち、優先権基礎出願には、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1?25[(N・mm)/(g/m^(2))である炭素繊維シートについて記載されていたのみであり(【0008】等)、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10-3?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートについては記載されておらず、かかる技術的事項は、本件特許に係る出願の現実の出願日である2013年5月15日に提出された国際出願(PCT/JP2013/063520)の明細書等において初めて記載されたものである。
したがって、本件発明1及び2については、優先基礎出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないから、本件発明1及び2についての、優先権の主張の効果は認められない。
本件発明1あるいは2を引用する本件発明3及び4も同様に上記の発明特定事項を含む発明であるから、同様に優先権の主張の効果は認められない。

本件特許に係る出願についての、優先権の主張の効果は認められないから、本件発明の特許法第29条第2項についての判断のための基準日は、現実の出願日である平成25年5月15日となる。

(2)本件発明1について
ア 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
甲1には、以下の記載がある。
「1. 平均繊維長5?100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とから構成され、強化繊維の目付けが25?3000g/m^(2)であり、式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合が30Vol%以上90Vol%未満であり、かつ強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)を満たすことを特徴とするランダムマット。
臨界単糸数=600/D (1)
0.7×10^(4)/D^(2)<N<1×10^(5)/D^(2) (2)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
2. 強化繊維が炭素繊維、アラミド繊維、およびガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のランダムマット。
3. ランダムマットにおける熱可塑性樹脂の存在量が、強化繊維100重量部に対し、50?1000重量部である事を特徴とする請求項1に記載のランダムマット。
4. 熱可塑性樹脂が、繊維状および/または粒子状で存在することを特徴とする請求項1に記載のランダムマット。
5. 以下の工程1?4を含む、請求項1?4のいずれかに記載のランダムマットの製造方法。
1.強化繊維をカットする工程、
2.カットされた強化繊維を管内に導入し、空気を繊維に吹き付ける事により、繊維束を開繊させる工程、
3.開繊させた強化繊維を拡散させると同時に、繊維状又は粒子状の熱可塑性樹脂とともに吸引し、強化繊維と熱可塑性樹脂を散布する塗布工程、
4.塗布された強化繊維および熱可塑性樹脂を定着させる工程。
6. 請求項1?4のいずれかに記載のランダムマットを成形して得られる強化繊維複合材」(29?30頁)

「実施例2
強化繊維として、東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)IMS60-12K(平均繊維径5μm、繊維幅6mm)を使用した。カット装置には、超硬合金を用いて螺旋状ナイフを表面に配置したロータリーカッターを用いた。このロータリーカッターには、繊維束を小型化する目的で、図4に示すような繊維方向に平行な刃を0.5mm間隔で設けた分繊カッターを用いた。このとき、上記式(3)中のθは17度、刃のピッチを20mmとし、強化繊維を繊維長20mmにカットした。開繊装置として、小孔を有した管を用意し、コンプレッサーを用いて圧縮空気を送気した。小孔からの風速は、150m/secとした。この管をロータリーカッターの直下に配置し、さらに、その下部にはテーパ管を溶接した。テーパ管の側面より、マトリックス樹脂を供給し、このマトリックス樹脂として、2mmにドライカットしたPA66繊維(旭化成せんい製 T5ナイロン 繊度1400dtex)を用いた。次に、テーパ管出口の下部に、XY方向に移動可能なテーブルを設置し、テーブル下部よりブロワにて吸引を行った。そして、強化繊維の供給量を1000g/min、マトリックス樹脂の供給量を3000g/min、にセットして装置を稼動し、強化繊維とポリアミドが混合されたランダムマットを得た。ランダムマットにおける強化繊維の形態を観察したところ、強化繊維の繊維軸は面とほぼ並行にあり、面内においては無作為に分散されていた。得られたランダムマットの強化繊維の平均繊維長は20mmであり、目付け量は1000g/m^(2)であった。
得られたランダムマットについて、強化繊維束(A)の割合と、平均繊維数(N)を調べたところ、式(1)で定義される臨界単糸数は120であり、強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合は86%、強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)は900であった。また、ナイロン繊維は、強化繊維中に大きな斑が無い状態で分散されていた。
得られたランダムマットを280℃に加熱したプレス装置にて、1.0MPaにて3分間加熱し、厚さ3.2mmの成形板を得た。得られた成形板について超音波探傷試験を行ったところ、未含浸部やボイドは確認されなかった。
得られた成形板の0度及び90度方向の引張り弾性率を測定したところ、弾性率の比(Eδ)は1.07であり、繊維配向は殆ど無く、等方性が維持された材料を得る事ができた。更に、この成形板を500℃×1時間程度炉内にて加熱し、樹脂を除去し、強化繊維の平均繊維長を求めたところ20mmであった。成形板から樹脂を除去し、強化繊維束(A)の割合と、平均繊維数(N)を調べたところ、強化繊維束(A)の繊維全量に対する割合は86%、強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)は900であり、上記ランダムマットの測定結果と差異は見られなかった。」(18頁26行?20頁5行)

イ 甲1に記載された発明
上記アで指摘した甲1の記載事項、特に、実施例2によれば、甲1には、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「強化繊維である東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)IMS60-12K(平均繊維径5μm、繊維幅6mm)を繊維長20mmにカットし、カットされた該強化繊維を管内に導入し、空気を繊維に吹き付けることにより、繊維束を開繊させ、開繊させた強化繊維を拡散させると同時に、繊維状の熱可塑性樹脂である、2mmにカットしたPA66繊維(旭化成せんい製 T5ナイロン 繊度1400dtex)を供給散布し、吸引して、強化繊維とポリアミドが混合されたランダムマットとし、
次いで、ランダムマットを加熱プレスして得られた成形板であって、
ランダムマットは、
強化繊維の平均繊維長が20mm、目付け量は1000g/m^(2)であり、
式(1) 臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である。)
で定義される臨界単糸数が120であり、
また、
成形板を500℃×1時間程度炉内にて加熱し、樹脂を除去して求めた、強化繊維の平均繊維長が20mm、式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)の繊維全量に対する割合は86%、強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)は900である。」

ウ 対比
本件発明1と甲1発明を対比する
(ア) 甲1発明の「強化繊維である東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)IMS60-12K(平均繊維径5μm、繊維幅6mm)」についての「繊維長20mm」は、本件発明1についての「炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲」を満足するし、甲1発明の「熱可塑性樹脂である、2mmにカットしたPA66繊維(旭化成せんい製 T5ナイロン 繊度1400dtex)」は、本件発明1の「ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維」がナイロンからなる熱可塑性樹脂短繊維である場合に相当する。
そして、甲1発明において、「炭素繊維」である「カットされた該強化繊維を管内に導入し、空気を繊維に吹き付けることにより、繊維束を開繊させ、開繊させた強化繊維を拡散させると同時に、繊維状の熱可塑性樹脂である、2mmにカットしたPA66繊維(旭化成せんい製 T5ナイロン 繊度1400dtex)を供給散布し、吸引して、強化繊維とポリアミドが混合されたランダムマットとし、次いで、ランダムマットを加熱プレスして得られた成形板」は、本件発明1の「炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからな(る)」「炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料」に相当するし、甲1発明の該複合材料に含まれる炭素繊維からなる部分は、本件発明1の「炭素繊維シート」に相当する。

(イ) 甲1発明における式(1)の「臨界単糸数=600/D(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である。)」を変形する。
両辺に、一束当たりの炭素繊維の重量(Mn[mg])を乗算し、D[μm]の平均繊維数の単位を[mm]にすると、
臨界単糸数×Mn=(600×Mn)/(D×10^(3))[単位:(本数×mg)/mm]

ここで、炭素繊維束重量Mn=繊維長×断面積×炭素繊維の密度×束の繊維数[mg]であって、
繊維長:Ln[mm]
断面積:π・(D/2)^(2)[mm^(2)]
炭素繊維の密度:d[mg/mm^(3)]
であるから、
上記で変形した式の右辺のMnに、上記定義を代入して変形すると、

臨界単糸数×Mn [単位:(本数×mg)/mm]
=(600×繊維長×断面積×炭素繊維の密度×束の繊維数)/(D[mm]×10^(3))
=(600×Ln×π・(D[mm]/2)^(2)×d×束の繊維数)/(D[mm]×10^(3))
=(600×Ln×π・(D[mm]/4)×d×束の繊維数)/10^(3)
=(600π/4)×10^(-3)×Ln×D[mm]×d×束の繊維数

上記変形式のうち、右辺のLn×D[mm]を左辺に移項すると、
臨界単糸数×Mn/(Ln×D[mm])=(600π/4)×10^(-3)×d×束の繊維数
となり、臨界単糸数は束の繊維数であるから、
Mn/(Ln×D)=(600π/4)×10^(-3)×d

そして、甲5によれば、炭素繊維“テナックス”(登録商標)IMS60-12K」の密度dは、約1.8[g/cm^(3)](=1.8[mg/mm^(3)])であるので、上記式に代入すると、
Mn/(Ln×D) [単位:mg/mm^(3)]
=(600π/4)×10^(-3)×1.8[mg/mm^(3)])
≒8.5×10^(-1)[mg/mm^(3)]
となる。

そうすると、甲1発明における「式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)」は、本件発明1における「Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)」に相当する。

また、甲1発明において「強化繊維束(A)の繊維全量に対する割合は86%」であることは、本件発明1の、「炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)」であることに相当する。

(ウ) 甲1発明においては、「強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)は900」である。
また、甲1発明の強化繊維束(A)を構成する炭素繊維(“テナックス”(登録商標)IMS60-12K)の平均繊維径は5μmである。
そうすると、甲1発明のMn/Lnを計算すると、
Mn/Ln=炭素繊維束重量÷繊維長mg/mm
=平均繊維数(N)×繊維長[mm]×繊維断面積×炭素繊維の密度÷繊維長
=平均繊維数(N)×繊維断面積×炭素繊維の密度
=900×π×(繊維の半径2.5×10^(-3)[mm])^(2)×d [mg/mm^(3)]
=π×(2.5×10^(-3))^(2)[mm]^(2)×1.8[mg/mm^(3)]
=31793×10^(-6)[mg/mm]
≒3.2×10^(-2)[mg/mm]
となる。
そして、この値は、1.1×10^(-2)≦3.2×10^(-2)≦8.1×10^(-2)(mg/mm)の関係であるから、
甲1発明の炭素繊維束(A)は、本件発明の「炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10^(-2)≦X≦8.1×10^(-2)(mg/mm)の範囲」を満足するといえる。

(エ) 甲1発明がY≧100X+30を満たすかについては、甲1発明における炭素繊維束(A)の炭素繊維全体重量に対する割合は「86%」であるから、Y=86となるところ、Xは、上記(ウ)から「3.2×10^(-2)」であるから、これを右式に当てはめると、100X+30=100×3.2×10^(-2)+30=33.2となり、この値は、86より小さい。
よって、甲1発明の炭素繊維束(A)は、本件発明1の炭素繊維束(1)についての「Y≧100X+30」の条件を満足する。

(オ) 以上によれば、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にある炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)であり、前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10^(-2)≦X≦8.1×10^(-2)(mg/mm)の範囲にあり、前記YがY≧100X+30を満たす炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料。
Mn:炭素繊維束重量
Ln:繊維長さ
D:繊維径

<相違点1>
炭素繊維シートについて、本件発明1では、「幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]」であると特定されているのに対して、甲1発明では、かかる特定はされていない点。
<相違点2>
炭素繊維束について、本件発明1では、「サイジング剤が付着された」ものであると特定されているのに対して、甲1発明では、炭素繊維束が「サイジング剤が付着された」ものであるかは不明である点。
<相違点3>
炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成された炭素繊維シートが、本件発明1では、「カーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたもの」であるのに対して、甲1発明では、「炭素繊維」である「カットされた該強化繊維を管内に導入し、空気を繊維に吹き付けることにより、繊維束を開繊させ、開繊させた強化繊維を拡散させると同時に、繊維状の熱可塑性樹脂である、2mmにカットしたPA66繊維(旭化成せんい製 T5ナイロン 繊度1400dtex)を供給散布し、吸引して、強化繊維とポリアミドが混合されたランダムマット」を出発原料として形成されたものである点。

エ 判断
相違点1について検討する。
甲1には、成形板に含まれる本件発明1の「炭素繊維シート」に相当する部分の仕事量を、本件発明1で特定される範囲とすることを示唆する記載はおろか、仕事量自体についての記載もない。また、申立人が提出した他のいずれの証拠をみても、同様である。

ここで、本件発明(つまり、本件発明1?4)において、仕事量を特定する技術的意義について検討すると、本件特許明細書には、本件発明の仕事量に関して、以下の記載がある。

「【0007】
本発明の課題は、従来の炭素繊維複合材料では達成できなかった、成形時に高い流動性を示すことができ、成形品の機械特性が良好で、しかもその機械特性のばらつきも少ない炭素繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)であり、前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10^(-2)≦X≦8.1×10^(-2)(mg/mm)の範囲にあり、前記YがY≧100X+30を満たす炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするものからなる。ここで、
Mn:炭素繊維束重量
Ln:繊維長さ
D:繊維径
また、本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、前記炭素繊維シートを形成する炭素繊維束のうち、重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲にあり、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲にある炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするものからなる。・・・
【0009】
このような本発明に係る炭素繊維複合材料においては、上記炭素繊維シートの目付あたりの仕事量は、後述の如く、上記引張試験で得られる荷重?ひずみ曲線(以下、「引張曲線」と言うこともある。)の積分値(面積)として求められ、この面積が小さいほど、炭素繊維マット等の炭素繊維シートを引き伸ばすのに必要なエネルギーが小さくて済む。したがって、上記炭素繊維シートの目付あたりの仕事量を本発明の如く低い値の範囲とすることにより、炭素繊維シートを所望の形態まで引き伸ばすのに必要な仕事量(エネルギー)が小さくて済むので、その炭素繊維シートとマトリックス樹脂からなる炭素繊維複合材料を成形用素材として用い、目標とする成形品を成形する場合に、その成形用素材の流動性が高められ、優れた成形性が実現される。その結果、複雑な形状を有する成形品であっても、高い流動性をもって良好にかつ容易に成形できるようになり、高い流動性によって成形品の全部位にわたって炭素繊維とマトリックス樹脂を所望の形態で(例えば、所望の比率を維持して)良好に分布させることができるため、成形品の高い機械特性を実現でき、かつ、その機械特性のばらつきを少なく抑えることができる。」

上記本件特許明細書の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「成形時に高い流動性を示すことができ、成形品の機械特性が良好で、しかもその機械特性のばらつきも少ない炭素繊維複合材料を提供すること」(【0007】)であり、本件発明においては、当該課題を解決するために、仕事量を特定している。
そして、【0008】?【0009】の記載から明らかなとおり、仕事量が特定された本件発明の炭素繊維複合材料は、成形用素材として流動性が高められており、優れた成形性が実現されるから、複雑な形状を有する成形品であっても、高い流動性によって成形品の全部位にわたって所望の形態で分布させることができるものである。

これに対し、甲1には、炭素繊維複合材料を、流動性が高いものとすることで、複雑な形状を有する成形品の場合であっても高い流動性によって成形品の全部位にわたって所望の形態で分布させることができるものとすることを示唆するような記載はない。
それどころか、甲1発明は、「熱可塑性のマトリックス樹脂をランダムマットにおける強化繊維束内および強化繊維の単糸間に容易に含浸でき」、「これより薄肉でかつ機械物性に優れた繊維強化複合材料が提供できる」(甲1の明細書3頁14?17行)ことを目的としてなされたものであり、「得られた繊維強化複合材料においても、ランダムマット中の強化繊維の形態、すなわち等方性を保つことが可能」(同明細書15頁11?12行)なものである。また、「強化繊維と繊維状・・・の熱可塑性樹脂が混合して存在していることにより、型内で繊維と樹脂を流動させる必要がなく、成形時に熱可塑性樹脂を強化繊維束内および強化繊維の単糸間に容易に含浸できることを特徴とする」(明細書8頁24?28行)ものであり、「ランダムマットは強化繊維と熱可塑性樹脂が混合され、近接して存在しているので、型内で繊維と樹脂を流動させる必要がなく、熱可塑性樹脂を容易に含浸できる」(明細書15頁8?10行)ものである。
すなわち、甲1発明は、ランダムマットを流動させる必要なく、熱可塑性樹脂を容易に含浸できることを特徴とするものであり、その結果、得られた繊維強化複合材料は薄肉で、かつ、機械物性に優れた繊維強化複合材料として提供される、等方性が保たれるものである。
そうすると、甲1発明を、本件発明1で特定される特定の仕事量を満足する、より炭素繊維と樹脂の流動性が高まるような変更が加えられたものとすること(その結果、等方性も損なわれることになる)は、甲1発明の目的に反しているというべきである。

以上述べたとおり、申立人が提出した甲1を含め、いずれの証拠からも、本件発明1の相違点1にかかる構成は導くことができないし、むしろ、甲1の記載によれば、相違点1に係る構成を備えることは、甲1発明の目的に反しているといえる。
そうすると、甲1の記載及び申立人が提出した他の証拠からは、甲1発明を本件発明1の相違点1にかかる構成を備えたものとすることができないから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1について、甲1発明及び甲1?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明との対比
上記(2)ウにおける本件発明1と甲1発明との対比を踏まえて、本件発明2と甲1発明を対比すると、両者は、以下の点で、一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にある炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料。

<相違点4>
炭素繊維シートについて、本件発明2では、「幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]」であると特定されているのに対して、甲1発明では、かかる特定はされていない点。
<相違点5>
炭素繊維束について、本件発明2では、「サイジング剤が付着された」ものであると特定されているのに対して、甲1発明では、炭素繊維束が「サイジング剤が付着された」ものであるかは不明である点。
<相違点6>
炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成された炭素繊維シートが、本件発明2では、「カーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたもの」であるのに対して、甲1発明では、「炭素繊維」である「カットされた該強化繊維を管内に導入し、空気を繊維に吹き付けることにより、繊維束を開繊させ、開繊させた強化繊維を拡散させると同時に、繊維状の熱可塑性樹脂である、2mmにカットしたPA66繊維(旭化成せんい製 T5ナイロン 繊度1400dtex)を供給散布し、吸引して、強化繊維とポリアミドが混合されたランダムマット」を出発原料として形成されたものである点。
<相違点7>
炭素繊維シートについて、本件発明2では、「炭素繊維シートを形成する炭素繊維束のうち、重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲にあり、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲」であると特定されているのに対して、甲1発明では、かかる特定はされていない点。

イ 判断
上記相違点4は、上記(2)ウにおける本件発明1と甲1発明との相違点1に対応するものである。
そして、上記(2)エにおいて、相違点1についての判断で説示したと同様の理由で、申立人が提出した甲1を含め、いずれの証拠からも、本件発明2の相違点4にかかる構成は導くことができないし、むしろ、甲1の記載によれば、相違点4に係る構成を備えることは、甲1発明の目的に反しているといえる。
そうすると、甲1の記載及び申立人が提出した他の証拠からは、甲1発明を本件発明2の相違点4にかかる構成を備えたものとすることができないのであるから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2について、甲1発明及び甲1?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、請求項1又は2を引用する請求項に係るものであって、これらの発明は、甲1発明と、少なくとも上記(2)ウあるいは(3)アで記載した相違点で相違している。
そして、相違点についての判断は、上記(2)エあるいは(3)イで記載したとおりであるから、本件発明3及び4についても、上記(2)エあるいは(3)イで記載したと同様の理由によって、甲1発明及び甲1?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり、申立理由3には、理由がない。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、本件発明1?4についての特許を取り消すことはできない。さらに、他にこれらの発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
炭素繊維複合材料
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材料に関し、とくに、複雑な形状であっても優れた成形性をもってばらつきの少ない高い機械特性を有する成形品を製造可能な炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチックの成形品を製造するために、例えば、成形用素材としてシート状の炭素繊維複合材料を使用し、その炭素繊維複合材料を所定の温度、加圧条件で所定の形状へとプレス成形(スタンピング成形)する技術が知られている。このような成形においては、とくに成形すべき形状が複雑な形状である場合には、その複雑な形状の全部位にわたって所望の炭素繊維補強形態にて成形されるように、成形用素材としての炭素繊維複合材料に高い流動性が求められる。炭素繊維複合材料の流動性が低いと、良好な成形性が得られないばかりか、成形品の機械特性が低くなり、かつ、機械特性のばらつきも大きくなるおそれがある。
【0003】
従来の技術として、特許文献1には、炭素繊維不織布と炭素繊維開繊体をニードルパンチやウォータージェットで交絡積層した、引張強度に優れる炭素繊維シートが開示されているが、このようなシートを上記のように成形用素材としての炭素繊維複合材料として使用しても、繊維同士の交絡が強いため、成形時の流動性は低いものであった。
【0004】
また、特許文献2には、無機繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)を天然高分子で集束し、集束した繊維束を結着剤(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー等)で結合した引張強度に優れる繊維強化プラスチックの補強材が開示されているが、結着剤で繊維同士が結合されているために、成形時の流動性は低いものであった。また、集束剤として澱粉等の天然高分子を使用しているために、熱可塑性樹脂を含浸して複合材料とした際に集束剤が劣化し、高物性の成形品を得ることは難しかった。
【0005】
さらに、特許文献3には、炭素繊維フェルトと炭素繊維ペーパーを積層した、平面平滑性が高く、高引張強度の炭素繊維シートが開示されているが、このようなシートを炭素繊維複合材料として使用しても、炭素繊維ペーパー部分は、炭素繊維の単繊維の分散性は高いものの、炭素繊維同士の交絡が強いため、成形時の流動性は低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-183692号公報
【特許文献2】特開2004-169225号公報
【特許文献3】特開2008-201005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来の炭素繊維複合材料では達成できなかった、成形時に高い流動性を示すことができ、成形品の機械特性が良好で、しかもその機械特性のばらつきも少ない炭素繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)であり、前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10^(-2)≦X≦8.1×10^(-2)(mg/mm)の範囲にあり、前記YがY≧100X+30を満たす炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするものからなる。ここで、
Mn:炭素繊維束重量
Ln:繊維長さ
D:繊維径
また、本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、前記炭素繊維シートを形成する炭素繊維束のうち、重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲にあり、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲にある炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするものからなる。
上記目付あたりの仕事量の好ましい範囲は、1×10^(-3)?14×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]であり、さらに好ましくは1×10^(-3)?10×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]であり、特に好ましくは1×10^(-3)?5×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である。
【0009】
このような本発明に係る炭素繊維複合材料においては、上記炭素繊維シートの目付あたりの仕事量は、後述の如く、上記引張試験で得られる荷重?ひずみ曲線(以下、「引張曲線」と言うこともある。)の積分値(面積)として求められ、この面積が小さいほど、炭素繊維マット等の炭素繊維シートを引き伸ばすのに必要なエネルギーが小さくて済む。したがって、上記炭素繊維シートの目付あたりの仕事量を本発明の如く低い値の範囲とすることにより、炭素繊維シートを所望の形態まで引き伸ばすのに必要な仕事量(エネルギー)が小さくて済むので、その炭素繊維シートとマトリックス樹脂からなる炭素繊維複合材料を成形用素材として用い、目標とする成形品を成形する場合に、その成形用素材の流動性が高められ、優れた成形性が実現される。その結果、複雑な形状を有する成形品であっても、高い流動性をもって良好にかつ容易に成形できるようになり、高い流動性によって成形品の全部位にわたって炭素繊維とマトリックス樹脂を所望の形態で(例えば、所望の比率を維持して)良好に分布させることができるため、成形品の高い機械特性を実現でき、かつ、その機械特性のばらつきを少なく抑えることができる。
【0010】
上記本発明に係る炭素繊維複合材料においては、上記炭素繊維シートの上記引張試験で得られる荷重[N/(g/m^(2))]×10^(-3)?ひずみ[%]曲線における最大荷重到達後の傾きが-0.1?-0.01の範囲にあることが好ましい。この傾きは、後述の如く、引張試験における目付あたりの最大荷重に到達後、さらに4?6%伸張した時の引張曲線の傾きで、引張曲線の最大荷重(頂点)から減少していくときの傾きとして求められる。この傾きの絶対値が小さいほど(傾きが緩やかなほど)、炭素繊維シートがちぎれずにゆっくりと引き伸ばされていくため、炭素繊維複合材料が流動し成形品が成形された後の炭素繊維の分布のばらつき(例えば、繊維体積含有率のばらつき)が小さくなり、成形品の物性が安定する。この最大荷重到達後の傾きのより好ましい範囲は-0.07?-0.01であり、さらに好ましい範囲は-0.04?-0.01である。
【0011】
また、上記炭素繊維シートの上記引張試験で得られる荷重[N/(g/m^(2))]×10^(-3)?ひずみ[%]曲線における初期荷重負荷後の傾きが0.1?0.7の範囲にあることが好ましい。この傾きは、後述の如く、引張試験において目付あたりの荷重が負荷される際の、引張曲線の初期の立ち上がりの傾きのことであり、この傾きが小さいほど、炭素繊維シートが弱い力で引き伸ばされていくため、炭素繊維複合材料が流動し始める抵抗が小さくなり、高い流動性をもって成形品を成形することが可能となる。この初期荷重時の傾きのより好ましい範囲は0.1?0.5であり、さらに好ましい範囲は0.1?0.3である。
【0012】
また、上記炭素繊維シートを形成する炭素繊維の繊維長としては、5?30mmの範囲にある。炭素繊維シートがこのような繊維長の範囲の炭素繊維で形成されていることにより、炭素繊維を良好に分散させた状態を保ちながら炭素繊維複合材料を流動させることが可能になり、成形品が成形された後の炭素繊維の分布のばらつき(例えば、繊維体積含有率のばらつき)が小さくなり、成形品の機械特性が安定し、その機械特性のばらつきも小さくなる。この炭素繊維の繊維長のより好ましい範囲は10?25mmであり、さらに好ましい範囲は15?20mmである。
【0013】
また、本発明においては、前述の如く、上記炭素繊維シートが、所定長さに切断された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とから形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなる形態を採る。このような形態においては、本発明に係る炭素繊維複合材料における炭素繊維同士の交絡が強くなりすぎることを容易に抑制でき、それによって炭素繊維シートの目付あたりの仕事量を確実に本発明で規定した範囲内に収めることができる。
【0014】
上記の形態においては、前述の如く、Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)であり、前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10^(-2)≦X≦8.1×10^(-2)(mg/mm)の範囲にあり、前記YがY≧100X+30を満たす。
ここで、
Mn:炭素繊維束重量
Ln:炭素繊維の繊維長
D:炭素繊維の繊維径
【0015】
あるいは、上記の形態においては、前述の如く、炭素繊維シート中の炭素繊維束は、炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本の範囲にある。後述する炭素繊維の強度利用率を向上させ、かつ炭素繊維複合材料にした際の成形品の表面外観の観点からは、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xが90?600本の範囲にあることがより好ましく、更に好ましくは90?500本の範囲である。炭素繊維複合材料にした際の炭素繊維含有量を増加させ、高い弾性率を得る観点からは、数量平均xが300?1000本の範囲にあることがより好ましく、更に好ましくは500?1000本である。炭素繊維束の数量平均xが90本を下回ると繊維同士の交絡数が増加し、流動性が悪化する。1000本を超えると機械特性とリブ等の細かい部位への炭素繊維追従性が悪化し、機械特性のばらつきが大きくなる。
【0016】
そして、炭素繊維シート中の上記炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数x_(n)の標準偏差σは50≦σ≦500の範囲であり、炭素繊維束が炭素繊維シート中に分散して分布することで、高流動性と機械特性を両立でき、機械特性のばらつきも少なく、細かい部位への炭素繊維追従性にも優れた炭素繊維不織布を得ることができる。上記標準偏差σが50を下回ると、流動性が悪化し、上記標準偏差σが500を上回ると、機械特性が悪化し、機械特性のばらつきが大きくなる。上記標準偏差σは、より好ましくは100≦σ≦350の範囲であり、更に好ましくは、150≦σ≦350の範囲であり、より更に好ましくは150≦σ≦300の範囲である。
【0017】
このように特定した範囲を満たすことにより、後述の実施例の結果にも示すように、それを用いた炭素繊維複合材料の成形の際に高い流動性を得ることができるとともに、成形品の高い機械特性を実現することができ、その機械特性のばらつきも少なく、例えばリブ等の細かい部位への優れた炭素繊維追従性を発現できる。
【0018】
また、本発明においては、上記炭素繊維束はサイジング剤を付着させたものからなる。サイジング剤が付与されていることにより、炭素繊維シートを形成している所定長さに切断された炭素繊維束は、その炭素繊維が大きくばらけることなく、繊維束の形態が適切に保たれるので、本発明に係る炭素繊維複合材料における炭素繊維同士の交絡が強くなりすぎることがより確実に抑制され、それによって炭素繊維シートの目付あたりの仕事量がより確実に本発明で規定した低い範囲内に収められる。
【0019】
また、本発明に係る炭素繊維複合材料においては、上述の如く、その炭素繊維複合材料を成形用素材として用いてプレス成形する際に、高い流動性が発現されるが、この流動性は、例えば、後述の如き所定の温度、圧力条件で加圧したときの、加圧前の面積に対する加圧後の面積の比率で表される流動率で表すことが可能である。本発明では、この流動率が、後述の実施例におけるように、170%以上であることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明は、上述したような本発明に係る炭素繊維複合材料をプレス成形(例えば、スタンピング成形)した炭素繊維強化プラスチックについても提供する。この成形品としての炭素繊維強化プラスチックは、たとえ複雑な形状であっても、上記のように成形時に炭素繊維複合材料が高い流動性を示すので、強化繊維としての炭素繊維が成形品の全体にわたって良好に分布されることになり、成形品の良好な機械特性が達成されるとともに、その機械特性のばらつきも少なく抑えられる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明に係る炭素繊維複合材料によれば、成形の際の流動性に優れ、複雑な形状への成形にあっても優れた成形性が得られ、成形品の機械特性が高く、かつその機械特性のばらつきを少なく抑えることができる、プレス成形に用いて極めて有用な炭素繊維複合材料を提供できる。したがって、この炭素繊維複合材料を用いて成形することにより、容易にかつ確実に望ましい特性の成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の規定に用いた各特性の説明図である。
【図2】図1に示した各特性の技術的意義の説明図である。
【図3】本発明における流動率の説明図である。
【図4】実施例で用いたカーディング装置の概略構成図である。
【図5】実施例で用いたエアレイド装置の概略構成図である。
【図6】実施例1?3、比較例1の結果を示す荷重?ひずみ曲線を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明について、実施例を主体に詳細に説明する。
本発明に係る炭素繊維複合材料は、幅15mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?30×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートを補強材とし、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするものであるが、この本発明に係る炭素繊維複合材料の特定には、上記炭素繊維シートの上記引張試験で得られる荷重[N/(g/m^(2))]×10^(-3)?ひずみ[%]曲線が大きな役割を果たす。また、この本発明に係る炭素繊維複合材料の性能の評価には、所定の温度、圧力条件で加圧したときの、加圧前の面積に対する加圧後の面積の比率で表される流動率が大きな役割を果たす。さらに、前述したように、本発明に係る炭素繊維複合材料では、炭素繊維シートを形成する炭素繊維を、極力、特定の炭素繊維束の形態でかつ特定の条件で残しておくことが好ましく、その炭素繊維束の測定も重要な役割を果たす。したがって、まず、これらについて説明する。
【0024】
<引張試験について>
実施例および比較例で得られた炭素繊維複合材料の平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした。得られた炭素繊維マットを幅25mm、長さ250mmに0°方向および90°方向にそれぞれ5点切り出し試験片を得た。得られた試験片をJIS-L-1096-8.14.1-A法(ストリップ法)(2010)に従って、それぞれの試験片5点についてつかみ間隔100mmで定速伸長型引張試験器を用いて、引張速度100mm/分で伸長させた。得られた結果を単純平均して0°方向、90°方向の荷重[N/(g/m^(2))]×10^(-3)?ひずみ[%]曲線である引張曲線をそれぞれ作成した。引張曲線の例を図1、図2に示す。
【0025】
(1)仕事量
上記のように得られた引張曲線の値を積分する(図1、図2における縦軸(目付当たりの荷重)および横軸(ひずみ)の尺度で表される特性曲線と横軸で囲まれた部分の面積を求めることに相当)ことにより仕事量が求めることができ、0°方向および90°方向の仕事量をそれぞれ求めて、得られた仕事量を単純平均した。上記囲まれた部分の面積が小さいほど、炭素繊維シートを引き伸ばすのに必要なエネルギーが小さくて済み、炭素繊維複合材料としての流動性が高い。
【0026】
(2)最大荷重到達後の傾き
上記の引張曲線において、図1に示すように、最大荷重に到達後、さらに4%?6%伸長させた区間の傾きを求めた。図2に示すように、この傾きが緩やかなほど、流動性が高く、流動後の炭素繊維体積含有率のばらつきが小さい。
【0027】
(3)初期荷重傾き
上記の引張曲線において、図1に示すように、初期の荷重負荷時から2%?5%伸長させた区間の傾きを求めた。図2に示すように、この傾きが緩やかなほど、流動初期に流れやすい。
【0028】
(4)流動試験について(プレス成形(例えば、スタンピング成形)における流動性)
[マトリックス樹脂がポリアミドの場合]
図3に示すように、寸法100×100mm×2mmの炭素繊維複合材料101を2枚260℃に予熱後、2枚重ねて120℃に昇温したプレス盤102に配し、20MPaで5秒間加圧し、流動させて成形した。このプレス成形後の炭素繊維強化プラスチック103の圧縮後(流動後)の面積A2と圧縮前(流動前)のシートの面積A1を測定し、A2/A1を流動率(%)として流動性の評価に用いた。
【0029】
[マトリックス樹脂がポリプロピレンPPの場合]
上記と同様に、寸法100×100mm×2mmの炭素繊維複合材料を2枚230℃に予熱後、2枚重ねて80℃に昇温したプレス盤に配し、20MPaで5秒間加圧した。この圧縮後の面積A2と圧縮前のシートの面積A1を測定し、A2/A1を流動率(%)とした。
【0030】
(5)炭素繊維複合材料中の炭素繊維体積含有率(Vf)
上記の流動試験後の炭素繊維複合材料プレス成形品から約2gのサンプルを切り出し、その質量を測定した。その後、サンプルを500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした。室温まで冷却してから、残った炭素繊維の質量を測定した。炭素繊維の質量に対する、マトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばす前のサンプルの質量に対する比率を測定し、炭素繊維の含有率とした。
【0031】
(6)炭素繊維束の測定方法
炭素繊維複合材料から100mm×100mmのサンプルを切り出し、その後、サンプルを500℃に加熱した電気炉の中で1時間程度加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばした。室温まで冷却した後に残った炭素繊維集合体の質量を測定した後に、炭素繊維集合体から炭素繊維束をピンセットで全て抽出した。抽出した全ての炭素繊維束について、1/10000gまで測定が可能な天秤を用いて、個々の炭素繊維束の重量Mnを測定するとともに、繊維長Lnを測定する。測定後、個々の束に対してMn/Ln、Mn/(Ln×D)、炭素繊維束を構成する炭素繊維単糸本数x_(n)=Mn/(Ln×F)を計算する。ここでDとは炭素繊維直径であり、Fとは炭素繊維の単糸繊度であり、x_(n)は炭素繊維束の構成単糸本数である。
【0032】
Mn/(Ln×D)の値が8.5×10^(-1)mg/mm^(2)以上の繊維束を炭素繊維束(1)とし、炭素繊維束(1)の総重量をM_(A)とし、束総数をNとして、測定する。また、8.5×10^(-1)mg/mm^(2)未満の炭素繊維束を繊維束(2)とし、炭素繊維束(2)の総重量をM_(B)として、測定する。ピンセットで抽出することの出来ない程度に開繊した繊維束はまとめて最後に重量を測定した。また、繊維長が短く、重量の測定が困難になる場合は繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いてもよい。全て分類し、測定後、炭素繊維束(1)に対して(Mn/Ln)/Nを計算し、炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xを求める。また、炭素繊維束全体重量に対する炭素繊維束(1)の割合は、
M_(A)/(M_(A+)M_(B))×100
によって求められる。
【0033】
一方、炭素繊維束の構成単糸本数x_(n)が90本以上の炭素繊維束を炭素繊維束(3)とし、総重量をM_(1)とし、束総数をNとして、測定する。また、構成単糸本数x_(n)が90本未満の炭素繊維束を繊維束(4)とし、炭素繊維束(4)の総重量をM_(2)として、測定する。ピンセットで抽出することのできない程度に開繊した繊維束はまとめて最後に重量を測定した。また、繊維長が短く、重量の測定が困難になる場合は繊維長を0.2mm程度の間隔で分類し、分類した複数本の束をまとめて重量を測定し、平均値を用いてもよい。全て分類し、測定後、炭素繊維束(3)に対して束を構成する炭素繊維本数の数量平均x=Σ{Mn/(Ln×F)}/N、炭素繊維束を構成する炭素繊維本数x_(n)の標準偏差σ={1/N×Σ(x_(n)-x)^(2)}^(1/2)を計算し、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xと炭素繊維束を構成する炭素繊維本数x_(n)の標準偏差σを求める。なお、Nは炭素繊維束(3)の束総数である。また、炭素繊維束全体重量に対する炭素繊維束(3)の割合は、
M_(1)/(M_(1+)M_(2))×100
によって求められる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例および比較例について説明する。まず、実施例および比較例で用いた炭素繊維束(A)?(E)と、それらを用いて行ったカーディングおよびエアレイドについて説明する。
【0035】
まずカーディングについて説明するに、図4に例示するように、炭素繊維束をカーディングするカーディング装置1は、シリンダーロール2と、その外周面に近接して上流側に設けられたテイクインロール3と、テイクインロール3とは反対側の下流側においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられたドッファーロール4と、テイクインロール3とドッファーロール4との間においてシリンダーロール2の外周面に近接して設けられた複数のワーカーロール5と、ワーカーロール5に近接して設けられたストリッパーロール6と、テイクインロール3と近接して設けられたフィードロール7及びベルトコンベアー8とから主として構成されている。
【0036】
ベルトコンベアー8に所定長に切断された炭素繊維束9が供給され、炭素繊維束9はフィードロールの外周面、次いでテイクインロール3の外周面を介してシリンダーロール2の外周面上に導入される。この段階までである程度炭素繊維束はある程度解され、綿状の炭素繊維束の集合体(炭素繊維集合体)となっている。シリンダーロール2の外周面上に導入された綿状の炭素繊維束の集合体は一部、ワーカーロール5の外周面上に巻き付くが、この炭素繊維はストリッパーロール6によって剥ぎ取られ再びシリンダーロール2の外周面上に戻される。フィードロール7、テイクイロール3、シリンダーロール2、ワーカーロール5、ストリッパーロール6のそれぞれのロールの外周面上には多数の針、突起が立った状態で存在しており、上記工程で炭素繊維束が針の作用により所定の束まで開繊され、ある程度配向される。かかる過程を経て所定の炭素繊維束まで開繊され、炭素繊維集合体の1形態であるシート状のウエブ10としてドッファーロール4の外周面上に移動する。
【0037】
次にエアレイドについて説明するに、エアレイドとは短繊維の不織布シートの製造方法である。一般的なエアレイド法としては、本州製紙法、クロイヤー法、ダンウェブ法、J&J法、KC法、スコット法などが挙げられる(以上、不織布の基礎と応用(日本繊維機械学会不織布研究会 1993年刊)を参照)。
【0038】
例えば、図5に示すように、エアレイド装置11は、互いに逆回転する円筒状でかつ細孔を持つドラム12と各ドラム12内に設置されたピンシリンダー13を有し、多量の空気と共に炭素繊維束単体もしくは炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維がドラム12に風送され、ドラム12内のピンシリンダー13によって開繊され、細孔より排出されて、その下を走行するワイヤ14上に落下する。ここで風送に用いた空気はワイヤ14下に設置されたサクションボックス15に吸引され、開繊された炭素繊維束単体もしくは開繊された炭素繊維束と熱可塑性樹脂繊維のみワイヤ4上に残り、炭素繊維集合体を形成する。
【0039】
次に実施例および比較例で用いた炭素繊維束(A)?(E)について説明する。
炭素繊維束(A)
繊維径5.5μm、引張弾性率294GPa、フィラメント数24000本の連続した炭素繊維束に対し、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル100%成分(分子量=670)の水系サイジング剤を炭素繊維束に1.0重量%付着させた炭素繊維束(A)を得た。
【0040】
炭素繊維束(B)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数12000本の連続した炭素繊維束に対し、ビスフェノールA型エポキシ樹脂40%成分(分子量=370)と不飽和物エステル樹脂として、ビスフェノールA型エチレンオキサイドマレイン酸エステル40%成分(分子量=2500)、乳化剤20%を主成分にしたサイジング剤を炭素繊維束に1.0重量%付着させた炭素繊維束(B)を得た。
【0041】
炭素繊維束(C)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数12000本の連続した炭素繊維束に対し、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物を主成分にしたサイジング剤を炭素繊維束に1.0重量%付着させた炭素繊維束(C)を得た。
【0042】
炭素繊維束(D)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数12000本の連続した炭素繊維束に対し、サイジング剤を付与せず炭素繊維束(D)を得た。
【0043】
炭素繊維束(E)
繊維径7μm、引張弾性率230GPa、フィラメント数24000本の連続した炭素繊維束に対し、グリセロールトリグリシジルエーテルをジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す)で希釈した溶剤系サイジング剤を炭素繊維束に0.5重量%付着させた炭素繊維束(E)を得た。
【0044】
(実施例1)
炭素繊維束(A)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリアミド(ナイロン6)短繊維(単繊維繊度1.7dtex、カット長51mm、捲縮数12山/25mm、捲縮率15%)を質量比で90:10の割合で混合し、図4に示したようなカーディング装置に投入した。出てきたウェブをクロスラップし、炭素繊維とナイロン6繊維とからなる目付100g/m^(2)のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体の巻取り方向を0°とし、炭素繊維集合体を12枚、(0°/90°/0°/90°/0°/90°)sとなるように積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が25:75となるようにナイロン樹脂メルトブロー不織布(「CM1001」、樹脂粘度ηr=2.3、東レ(株)製)をさらに積層した後に、全体をステンレス板で挟み、240℃で90秒間予熱後、2.0MPaの圧力をかけながら180秒間、240℃にてホットプレスした。ついで、加圧状態で50℃まで冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は230%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が3.5×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]、最大荷重到達後の傾きが-0.018、初期荷重傾きが0.15であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは375本、標準偏差σは192であった。
【0045】
(実施例2)
炭素繊維束(B)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体とナイロン樹脂メルトブロー不織布を実施例1と同様にして積層し、さらに実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は217%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が8.4×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]、最大荷重到達後の傾きが-0.028、初期荷重傾きが0.43であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは336本、標準偏差σは245であった。
【0046】
(実施例3)
炭素繊維束(C)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体とナイロン樹脂メルトブロー不織布を実施例1と同様にして積層し、さらに実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は203%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が12.1×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]、最大荷重到達後の傾きが-0.062、初期荷重傾きが0.61であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは167本、標準偏差σは63であった。
【0047】
(実施例4)
炭素繊維束(C)を繊維長25mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体を実施例1と同様に積層し、さらにナイロン樹脂メルトブロー不織布を炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が27:73となるように積層した後に、実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は185%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が22.1×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]、最大荷重到達後の傾きが-0.035、初期荷重傾きが0.46であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは151本、標準偏差σは59であった。
【0048】
(参考実施例5)
炭素繊維束(C)を繊維長50mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体を実施例1と同様に積層し、さらにナイロン樹脂メルトブロー不織布を炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が30:70となるように積層した後に、実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は172%と流動性に優れるものであったが、他の実施例に比べると若干劣るものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が28.2×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]、最大荷重到達後の傾きが-0.022、初期荷重傾きが0.34であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは141本、標準偏差σは54であった。
【0049】
(実施例6)
炭素繊維束(A)を繊維長10mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリプロピレン短繊維(単繊維繊度1.7dtex、カット長51mm、捲縮数12山/25mm、捲縮率17%)を質量比で90:10の割合で混合し、カーディング装置に投入した。出てきたウェブをクロスラップし、炭素繊維とポリプロピレン繊維とからなる目付100g/m^(2)のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体の巻取り方向を0°とし、炭素繊維集合体を12枚、(0°/90°/0°/90°/0°/90°)sとなるように積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が35:65となるようにポリプロピレン樹脂メルトブロー不織布(「J1709QG」、MFR=55g/10min、プライムポリマー(株)製)をさらに積層した後に、全体をステンレス板で挟み、240℃で90秒間予熱後、2.0MPaの圧力をかけながら180秒間、240℃にてホットプレスした。ついで、加圧状態で50℃まで冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は207%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が18.1×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]、最大荷重到達後の傾きが-0.031、初期荷重傾きが0.38であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは394本、標準偏差σは202であった。
【0050】
(参考実施例7)
炭素繊維束(E)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリアミド(ナイロン6)短繊維(単繊維繊度1.7dtexの長繊維をカット長5mmとしたもの)を質量比で90:10の割合で混合し、図5に示したようなエアレイド装置に投入し、炭素繊維とナイロン6繊維とからなる目付100g/m^(2)のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体の巻取り方向を0°とし、炭素繊維集合体を12枚、(0°/90°/0°/90°/0°/90°)sとなるように積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が25:75となるようにナイロン610樹脂フィルム(「CM2001」東レ(株)製)をさらに積層した後に、全体をステンレス板で挟み、240℃で90秒間予熱後、1.0MPaの圧力をかけながら180秒間、240℃にてホットプレスした。ついで、加圧状態で50℃まで冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は298%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が2.9×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]、最大荷重到達後の傾きが-0.016、初期荷重傾きが0.16であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは382本、標準偏差σは303であった。
【0051】
(参考実施例8)
炭素繊維束(E)を繊維長25mmにカットした以外は、実施例7と同様にして厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は276%と流動性に優れるものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が4.2×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]、最大荷重到達後の傾きが-0.025、初期荷重傾きが0.19であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは423本、標準偏差σは379であった。
【0052】
(比較例1)
炭素繊維束(A)を繊維長45mmにカットし、カットした炭素繊維束とポリプロピレン短繊維を実施例6と同様に混合し、カーディング、クロスラップして、炭素繊維とポリプロピレン繊維とからなる目付100g/m^(2)のシート状の炭素繊維集合体を形成した。シート状の炭素繊維集合体を実施例6と同様に積層し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の体積比が40:60となるようにポリプロピレン樹脂メルトブロー不織布をさらに積層した後に、実施例6と同様にホットプレス、冷却して厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は160%と流動性に劣るものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が36.2×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]、最大荷重到達後の傾きが-0.008、初期荷重傾きが0.81であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは446本、標準偏差σは402であった。
【0053】
(比較例2)
炭素繊維束(D)を繊維長15mmにカットし、カットした炭素繊維束と実施例1と同じナイロン6短繊維を用いて実施例1と同様にカーディング装置に投入し、クロスラップしてシート状の炭素繊維集合体を形成した。得られたシート状の炭素繊維集合体とナイロン樹脂メルトブロー不織布を実施例1と同様にして積層し、さらに実施例1と同様にホットプレスした後に冷却し、厚さ2mmの炭素繊維複合材料の平板を得た。得られた平板の流動試験を実施したところ、流動率は165%と流動性に劣るものであった。また、上記平板を500℃に加熱した電気炉の中で1時間加熱してマトリックス樹脂等の有機物を焼き飛ばして得られた炭素繊維マットの引張試験を実施したところ、仕事量が30.2×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]、最大荷重到達後の傾きが-0.12、初期荷重傾きが0.68であった。また、束を構成する炭素繊維本数の数量平均xは512本、標準偏差σは360であった。
【0054】
とくに、上記実施例1?3、比較例1の結果を表す荷重?ひずみ曲線を図6に示す。図6に示すように、実施例1?3では、比較例1に比べ、本発明で目標とした特性が得られていることが分かる。なお、上記各実施例、各比較例の結果をまとめて表1に示す。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、とくに、比較的複雑な形状への成形を、炭素繊維複合材料のプレス成形により行う用途に好適なものである。
【符号の説明】
【0057】
1 カーディング装置
2 シリンダーロール
3 テイクインロール
4 ドッファーロール
5 ワーカーロール
6 ストリッパーロール
7 フィードロール
8 ベルトコンベアー
9 不連続な炭素繊維
10 シート状のウエブ
11 エアレイド装置
12 ドラム
13 ピンシリンダー
14 ワイヤ
15 サクションボックス
101 流動前の炭素繊維複合材料
102 プレス盤
103 プレス成形後の炭素繊維強化プラスチック
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、Mn/(Ln×D)が8.5×10^(-1)(mg/mm^(2))以上の炭素繊維束(1)の、炭素繊維全体重量に対する割合Yが30≦Y<90(wt%)であり、前記炭素繊維束(1)のMn/Lnの平均値Xが1.1×10^(-2)≦X≦8.1×10^(-2)(mg/mm)の範囲にあり、前記YがY≧100X+30を満たす炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料。
Mn:炭素繊維束重量
Ln:繊維長さ
D:繊維径
【請求項2】
幅25mmの試験片での引張試験における目付あたりの仕事量が1×10^(-3)?25×10^(-3)[(N・mm)/(g/m^(2))]である炭素繊維シートであって、該炭素繊維シートが、炭素繊維の繊維長が5?30mmの範囲にあるサイジング剤が付着された炭素繊維束とナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂短繊維とからカーディングにより形成されたシート状の炭素繊維集合体を出発原料として形成されたものからなり、前記炭素繊維シートを形成する炭素繊維束のうち、重量が0.01mg以上の炭素繊維束を構成する炭素繊維の本数が90本以上の炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の数量平均xが90?1000本/束の範囲にあり、炭素繊維束(3)を構成する炭素繊維の本数の標準偏差σが50?500の範囲にある炭素繊維シートを補強材とし、ナイロンまたはポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維複合材料。
【請求項3】
前記炭素繊維シートの前記引張試験で得られる荷重[N/(g/m^(2))]×10^(-3)?ひずみ[%]曲線における最大荷重到達後の傾きが-0.07?-0.01の範囲にある、請求項1または2に記載の炭素繊維複合材料。
【請求項4】
前記炭素繊維シートの前記引張試験で得られる荷重[N/(g/m^(2))]×10^(-3)?ひずみ[%]曲線における初期荷重負荷後の傾きが0.1?0.5の範囲にある、請求項1?3のいずれかに記載の炭素繊維複合材料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-13 
出願番号 特願2013-522420(P2013-522420)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深谷 陽子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
渕野 留香
登録日 2018-05-11 
登録番号 特許第6331123号(P6331123)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 炭素繊維複合材料  
代理人 細田 浩一  
代理人 細田 浩一  
代理人 伴 俊光  
代理人 伴 俊光  
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