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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01Q
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01Q
審判 一部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  H01Q
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01Q
審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  H01Q
審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857  H01Q
審判 一部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  H01Q
管理番号 1358610
異議申立番号 異議2019-700360  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-26 
確定日 2019-11-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6420523号発明「アンテナ装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6420523号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第6420523号の請求項1ないし3、8、10及び11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6420523号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成29年1月23日を国際出願日として出願され、平成30年10月19日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成31年4月26日に特許異議申立人市東勇により請求項1ないし3、8、10及び11について特許異議の申立てがされ、当審は、令和元年6月21日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和元年8月23日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人市東勇は、令和元年10月8日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1) 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1ないし5のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。

訂正事項1
請求項1に係る
「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置される、アンテナ装置。」を
「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
左右方向から見て、前記第1アンテナの少なくとも一部が、前記第2アンテナの少なくとも一部と重なる位置関係にあり、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置される、アンテナ装置。」に訂正する。請求項1を引用する請求項2、3、8、10及び11も同様に訂正する。

訂正事項2
請求項4に係る
「前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部と、前記第1アンテナの周波数帯を遮断するフィルタ部を介して前記第1板状部と電気的に接続された第2板状部と、を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のアンテナ装置。」を
「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部と、前記第1アンテナの周波数帯を遮断するフィルタ部を介して前記第1板状部と電気的に接続された第2板状部と、を有する、アンテナ装置。」に訂正する。請求項4を引用する請求項6、8、10及び11も同様に訂正する。

訂正事項3
請求項5に係る
「前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部と、ミアンダラインを介して前記第1板状部と電気的に接続された第2板状部と、を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のアンテナ装置。」を
「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部と、ミアンダラインを介して前記第1板状部と電気的に接続された第2板状部と、を有する、アンテナ装置。」に訂正する。請求項5を引用する請求項6、8、10及び11も同様に訂正する。

訂正事項4
請求項7に係る
「前記第2アンテナは、少なくとも前記第1アンテナの上方に位置する部分が、左右方向に分割されている、請求項1から6のいずれか一項に記載のアンテナ装置。」を
「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナは、少なくとも前記第1アンテナの上方に位置する部分が、左右方向に分割されている、アンテナ装置。」に訂正する。請求項7を引用する請求項8、10及び11も同様に訂正する。

訂正事項5
請求項9に係る
「前記ヘリカル素子は、螺旋状かつ自身の巻軸方向から見て楕円状に周回する、請求項8に記載のアンテナ装置。」を
「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナと電気的に接続されたヘリカル素子を備え、
前記ヘリカル素子は、螺旋状かつ自身の巻軸方向から見て楕円状に周回する、アンテナ装置。」に訂正する。請求項9を引用する請求項10及び11も同様に訂正する。

(2) 本件訂正請求は、一群の請求項〔1?11〕に対して請求されたものである。

2 訂正の可否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る「第1アンテナ」及び「第2アンテナ」について、両者の位置関係を「左右方向から見て、前記第1アンテナの少なくとも一部が、前記第2アンテナの少なくとも一部と重なる位置関係」に限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。請求項1を引用する請求項2、3、8、10及び11についても同様である。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
前記アのとおりであるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

新規事項の追加について
本件明細書によれば、図14はアンテナ装置1Aの右側断面図であり(【0031】)、図14によれば、第1アンテナとしてのTELアンテナ2と、第2アンテナとしての容量装荷素子3のうちの第1板状部3aとが、一部分において重なり合っている態様が示される。したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

エ 独立特許要件について
訂正事項1に係る請求項1?3、8、10及び11は、いずれも特許異議の申立てがされているので、独立特許要件は課されない。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項4は請求項1?3のいずれかを引用していたところ、訂正事項2により、訂正後の請求項4の記載は他の請求項を引用しないものとなり、その記載内容が訂正前の請求項1及び4の記載内容を合わせたものとなるから、訂正事項2の目的は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」であると同時に、特許請求の範囲の減縮に該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
前記アのとおりであるから、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

新規事項の追加について
前記アのとおりであるから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

エ 独立特許要件について
訂正事項2に係る請求項4及び6は、いずれも特許異議の申立てがされていないので、これらの請求項について、以下、独立特許要件を満たすかを検討する。
訂正後の請求項4及び6に係る発明は、いずれも「前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部と、前記第1アンテナの周波数帯を遮断するフィルタ部を介して前記第1板状部と電気的に接続された第2板状部と、を有する」との構成を有する。そして、前記構成は、甲1号証ないし甲8号証(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲8」と略記する。)のいずれにも開示されておらず、かつ、周知の構成とも認められない。よって、訂正後の請求項4及び6に係る発明については、特許法29条1項3号に該当せず、かつ、同2項の規定により特許を受けることができないものではない。
その他、訂正後の請求項4及び6に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない理由は存在しない。

(3) 訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項5は請求項1?3のいずれかを引用していたところ、訂正事項3により、訂正後の請求項5の記載は他の請求項を引用しないものとなり、その記載内容が訂正前の請求項1及び5の記載内容を合わせたものとなるから、訂正事項3の目的は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」であると同時に、特許請求の範囲の減縮に該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
前記アのとおりであるから、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

新規事項の追加について
前記アのとおりであるから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

エ 独立特許要件について
訂正事項3に係る請求項5及び6は、いずれも特許異議の申立てがされていないので、これらの請求項について、以下、独立特許要件を満たすかを検討する。
訂正後の請求項5及び6に係る発明は、いずれも「前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部と、ミアンダラインを介して前記第1板状部と電気的に接続された第2板状部と、を有する」との構成を有する。そして、前記構成は、甲1?8のいずれにも開示されておらず、かつ、周知の構成とも認められない。よって、訂正後の請求項4及び6に係る発明については、特許法29条1項3号に該当せず、かつ、同2項の規定により特許を受けることができないものではない。
その他、訂正後の請求項5及び6に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない理由は存在しない。

(4) 訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項7は請求項1?6のいずれかを引用していたところ、訂正事項4により、訂正後の請求項7の記載は他の請求項を引用しないものとなり、その記載内容が訂正前の請求項1及び7の記載内容を合わせたものとなるから、訂正事項4の目的は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」であると同時に、特許請求の範囲の減縮に該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
前記アのとおりであるから、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

新規事項の追加について
前記アのとおりであるから、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

エ 独立特許要件について
訂正事項4に係る請求項7は、特許異議の申立てがされていないので、この請求項について、以下、独立特許要件を満たすかを検討する。
訂正後の請求項7に係る発明は、「前記第2アンテナは、少なくとも前記第1アンテナの上方に位置する部分が、左右方向に分割されている」との構成を有する。そして、前記構成は、甲1?8のいずれにも開示されておらず、かつ、周知の構成とも認められない。よって、訂正後の請求項7に係る発明については、特許法29条1項3号に該当せず、かつ、同2項の規定により特許を受けることができないものではない。
その他、訂正後の請求項7に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない理由は存在しない。

(5) 訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項9は請求項8を引用し、請求項8は請求項1?7のいずれかを引用していたところ、訂正事項5により、訂正後の請求項9の記載は他の請求項を引用しないものとなり、その記載内容が訂正前の請求項1、8及び9の記載内容を合わせたものとなるから、訂正事項5の目的は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」であると同時に、特許請求の範囲の減縮に該当する。

イ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
前記アのとおりであるから、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

新規事項の追加について
前記アのとおりであるから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

エ 独立特許要件について
訂正事項5に係る請求項9は、特許異議の申立てがされていないので、この請求項について、以下、独立特許要件を満たすかを検討する。
訂正後の請求項9に係る発明は、「前記ヘリカル素子は、螺旋状かつ自身の巻軸方向から見て楕円状に周回する」との構成を有する。そして、前記構成は、甲1?8のいずれにも開示されておらず、かつ、周知の構成とも認められない。よって、訂正後の請求項9に係る発明については、特許法29条1項3号に該当せず、かつ、同2項の規定により特許を受けることができないものではない。
その他、訂正後の請求項9に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない理由は存在しない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項ないし第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明11」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
左右方向から見て、前記第1アンテナの少なくとも一部が、前記第2アンテナの少なくとも一部と重なる位置関係にあり、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置される、アンテナ装置。
【請求項2】
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記定在波の電圧最小点からの水平方向距離が前記定在波の波長の1/8以内となる範囲に位置し又は延在する、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部を有し、
前記第1アンテナは、前記第1板状部の中央部の下方に位置し、
前記第1板状部の長さが、前記第1アンテナの周波数帯の波長の1/2の奇数倍である、請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部と、前記第1アンテナの周波数帯を遮断するフィルタ部を介して前記第1板状部と電気的に接続された第2板状部と、を有する、アンテナ装置。
【請求項5】
共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部と、ミアンダラインを介して前記第1板状部と電気的に接続された第2板状部と、を有する、アンテナ装置。
【請求項6】
前記第1板状部と、前記第2板状部とが、前後方向に分かれて配置されている、請求項4又は5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナは、少なくとも前記第1アンテナの上方に位置する部分が、左右方向に分割されている、アンテナ装置。
【請求項8】
前記第2アンテナと電気的に接続されたヘリカル素子を備えている、請求項1から7のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナと電気的に接続されたヘリカル素子を備え、
前記ヘリカル素子は、螺旋状かつ自身の巻軸方向から見て楕円状に周回する、アンテナ装置。
【請求項10】
前記ケースと共に前記第1及び第2アンテナの収容空間を形成するベースを備え、
前記第1アンテナは、前記ベースに対して略垂直となる部分を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
前記第1アンテナが、TELアンテナ、TVアンテナ、キーレスエントリー用アンテナ、車々間通信用アンテナ又はWiFi用アンテナであり、前記第2アンテナが、AM/FMアンテナ又はDAB受信アンテナである、請求項1から10のいずれか一項に記載のアンテナ装置。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?3、8、10及び11に係る特許に対して、当審が令和元年6月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、この取消理由は特許異議申立人が主張する取消理由の全てである。

(1) 請求項1?3、8、10及び11に係る発明は、甲1?甲3のいずれかに記載された発明と同一である。よって、請求項1?3、8、10及び11に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2) 請求項1?3、8、10及び11に係る発明は、甲1?甲3のいずれかに記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1?3、8、10及び11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 甲号証の記載
(1) 甲1の記載
甲1(特開2010-21856号公報)には、図面と共に、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審が付した。

ア 「【0005】
そこで、本発明は70mm以下の低姿勢としても感度劣化を極力抑制することのできるAM放送とFM放送を受信可能なアンテナ装置を提供することを目的としている。」

イ 「【0009】
本発明の実施例にかかるアンテナ装置1は、樹脂製のアンテナケース10と、このアンテナケース10の下部が嵌着されている金属製のアンテナベース20と、アンテナベース20に垂直に取り付けられているアンテナ基板30および平行に取り付けられているアンプ基板34と、頂部と、該頂部の両側から斜面とされた側部形成されて断面形状が山形に形成され、アンテナ基板30を跨ぐように上に配置されているトップ部31と、アンテナベース20上に取り付けられているGPSアンテナ32とを備えている。アンテナケース10は電波透過性の合成樹脂製とされており、先端に行くほど細くなる流線型の外形形状とされている。アンテナケース10内には、立設されたアンテナ基板30およびアンテナ基板30の上部に配置されたトップ部31を収納できる空間と、アンプ基板34を横方向に収納する空間が形成されている。アンテナケース10の下面には金属製のアンテナベース20が嵌着されている。そして、アンテナベース20にアンテナ基板30が立設して固着され、アンテナ基板30の前方にアンプ基板34がアンテナベース20にほぼ平行に固着されている。アンテナ基板30の上部には後述するように、アンテナパターンが形成されている。また、アンテナケース10内の上部にトップ部31が内蔵されている。そして、アンテナケース10をアンテナベース20に嵌着することにより、アンテナケース10に内蔵されたトップ部31がアンテナ基板30の上部を跨ぐように配置され、アンテナ基板30の上部に取り付けられた接続金具36がトップ部31の内面に電気的に接触するようになる。接続金具36は、アンテナ基板30に形成されているアンテナパターンに電気的に接続されていることから、接続金具36を介してトップ部31とアンテナパターンとが接続されるようになる。これにより、アンテナパターンとトップ部31とによりアンテナエレメントが構成され、アンテナケース10内の空間にアンテナ基板30とトップ部31とアンプ基板34とが収納されるようになる。
【0010】
アンテナ基板30上には、アンテナパターンとトップ部31とにより構成されるアンテナエレメントをFM波帯付近で共振させるためのコイル35が設けられている。コイル35の一端はアンテナパターンに接続され、コイル35の他端はアンテナ基板30上に形成されているパターンの一端に接続され、このパターンの他端には接続線33の一端が接続される。接続線33の他端はアンプ基板34に設けられているAM/FMアンプの入力部に接続され、アンテナパターンとトップ部31とにより構成されるアンテナエレメントにより受信されたAM/FM受信信号がAM/FMアンプに入力されて増幅されるようになる。また、アンテナベース20の下面からは、アンテナ装置1を車両に取り付けるためのボルト部21が突出するよう形成されている。また、アンテナ装置1から受信信号を車両内に導くためのケーブル22がアンテナベース20の下面から導出されている。このケーブル22はアンプ基板34から導出されており、アンプ基板34に設けられているAM/FMアンプにより増幅されたAM受信信号およびFM受信信号を導くケーブルが含まれており、カラー45により束ねられている。この場合、ボルト部21およびケーブル22が挿通される穴が車両のルーフに形成され、これらの穴にボルト部21およびケーブル22が挿通されるようルーフ上にアンテナ装置1を載置する。そして、車両内に突出したボルト部21にナットを締着することによりアンテナ装置1を車両のルーフに固着することができる。また、アンテナケース10内に収納されているアンプ基板34への電源は、車両内からケーブル22によりアンプ基板34に供給される。」

ウ 「【0015】
図15ないし図18にトップ部31の構成を示す。ただし、図15はトップ部31の構成を示す平面図であり、図16はトップ部31の構成を示す正面図であり、図17はトップ部31の構成を示す下面図であり、図18はトップ部31の構成を示す右側面図である。
これらの図に示すトップ部31は、金属板を加工して形成されており、前方に向かって緩やかに降下する曲面とされた頂部を有し、頂部から両側に傾斜した第1側部31aと第2側部31bが形成されている。第1側部31aと第2側部31bの斜面は急傾斜の斜面とされている。第1側部31aと第2側部31bには3つずつスリット31fが形成されて、それぞれの側部31a、31bは4つの片からなっている。この片の内のほぼ中央よりの一対の片が接触片31cとされている。接触片31cは、中途からほぼ垂直なるよう折曲されて形成されている。また、トップ部31の頂部には平坦部31eが2カ所形成されて、平坦部31eにそれぞれネジ孔31dが形成されている。このネジ孔31dにそれぞれネジ40が挿通されて、アンテナケース10の頂部の内側に螺着されることにより、トップ部31がアンテナケース10に内蔵されるようになる。
【0016】
トップ部31の長さをL20、後端の幅をw20、前端の幅をw21、高さをh20とした際に、例えば長さL20は約106mm、後端の幅w20は約28mm、前端の幅w21は約19mm、高さh20は約28mmとされる。また、トップ部31の頂部の細い幅w22は約4mmとされる。トップ部31の第1側部31aと第2側部31bの斜面を急傾斜の斜面とするのは、アンテナケース10の内側の断面形状にあわせるためでもあるが、主に、トップ部31とアンテナベース20との対面する面積を低減させて、トップ部31とアンテナベース20間の浮遊容量を減少させるためである。この浮遊容量は、アンテナ容量の内の無効容量となってアンテナのゲインを低減させる要因となる。また、トップ部31の後部は斜めに切り取られてアンテナベース20との対向面積を極力低減させている。」

エ 「【0026】
次に、図34および図35にアンテナ基板30の構成を示す。ただし、図34はアンテナ基板30の構成を示す正面図であり、図35はアンテナ基板30の構成を示す側面図である。
これらの図に示すアンテナ基板30は、高周波特性の良好なガラスエポキシ基板等のプリント基板とされている基板本体30aを備え、基板本体30aには矩形状の部分の上部から突出する突出部30fと左下部から左側へ突出する部分が形成されている。基板本体30aの上部と突出部30fにはアンテナパターン30bが両面に形成されており、左側の周縁にはアンテナパターン30bの下から細長いパターンが左下部から突出する部分にかけて両面に形成されている。また、突出部30fは接続金具36を挿着する部位とされ、突出部30fの上端の両側には接続金具36の位置決めのための突起30hがそれぞれ形成されている。基板本体30aの下部には2つの取付孔30dが形成されており、取付孔30dの間に切欠30iが形成されている。この取付孔30dの周囲にはリング状のパターンが両面に形成されており、取付孔30dにそれぞれネジ41が挿通されてアンテナベース20のネジ部20dに螺着されることにより、アンテナ基板30がアンテナベース20に立設して取り付けられる。また、切欠30iに一部収納されるようGPSアンテナ32がアンテナベース20に取り付けられる。」

オ 「【0030】
次に、本発明のアンテナ装置1において、上記の寸法とした際のAM波帯におけるS/N比の周波数特性を上記従来例1および従来例2と対比して図38に示す。
図38に示すS/N比の周波数帯域は531kHz?1602kHzのAM波帯の周波数帯域とされている。図38は従来例1のアンテナ装置100を基準として、従来例1のアンテナ装置100においてS/N比が20dB得られるアンテナ入力値を0dBに基準化し、本発明のアンテナ装置1および従来例2のアンテナ装置100において20dBのS/N比が得られるアンテナ入力値を、基準化されたアンテナ入力値に対する入力改善値[dB]として示している。従来例1と従来例2との入力改善値の周波数特性を参照すると、全高h100を約195mmから約70mmに低くすると、AM波帯の周波数帯域の全体にわたり入力改善値が約4.5?約5dB劣化することが分かる。すなわち、S/N比が劣化する。そして、図38を参照すると、本発明のアンテナ装置1は高さhが約70mmとされていても全高h100が約195mmとされた従来例1と同等以上の入力改善値の周波数特性が得られており、周波数が高くなるにつれて向上した入力改善値が得られて、S/N比が向上されていることがわかる。
【0031】
次に、本発明のアンテナ装置1において、上記の寸法とした際のFM放送受信信号のS/N比の周波数特性を上記従来例1および従来例2と対比して図39に示す。
図39に示す周波数帯域は76MHz?90MHzのFM波帯の周波数帯域とされている。図39においても従来例1のアンテナ装置100においてS/N比が30dB得られるアンテナ入力値を0dBに基準化し、本発明のアンテナ装置1および従来例2のアンテナ装置100において30dBのS/N比が得られるアンテナ入力値を、基準化されたアンテナ入力値に対する入力改善値[dB]として示している。従来例1と従来例2との入力改善値の周波数特性を参照すると、全高h100を約195mmから約70mmに低くすると、FM波帯の周波数帯域の低域(76MHz)においては約4dB劣化し、中域(83MHz)においては約1dBの劣化にとどまるが中域から高域に行くにつれて劣化するようになり90MHzでは7dB劣化することが分かる。そして、図39を参照すると、本発明のアンテナ装置1は高さhが約70mmとされていても全高h100が約195mmとされた従来例1と同等の入力改善値の周波数特性が得られて、S/N比が向上されていることがわかる。」

カ 「【0036】
次に、本発明のアンテナ装置1においてトップ部31とアンテナベース20との高さHを変化させた際の平均利得およびS/N比の基礎実験データを得る基礎実験について説明する。トップ部31のアンテナベース20からの高さHを変化させる基礎実験におけるアンテナ装置1の態様を図51ないし図55に示し、その際に得られた基礎実験データを図56ないし図62に示す。
図51は基礎実験に用いたアンテナ装置1の構成を示す右側面図であり、図52は基礎実験に用いたアンテナ装置1の構成を示す正面図であり、図53は基礎実験に用いたアンテナ装置1の構成を示す平面図である。これらの図に示すように、アンテナ装置1におけるトップ部31-2の形状は実施例のトップ部31と若干異なっており、前述したトップ部を後方へ移動させる基礎実験に用いたトップ部31-1の両側部の寸法を大きくした形状とされている。下方へ向かって急傾斜の斜面とされているトップ部31-2の両側部は、水平方向に約50mmとされ斜面における下方への寸法が約60mmとされている。このトップ部高さの基礎実験では、図51ないし図53に示すようにトップ部31-2のアンテナベース20からの高さHをH1,H2,H3,H4と高くしており、ここでは、高さH1,H2,H3,H4をそれぞれ約5mm、約10mm、約20mm、約30mmとしている。なお、図54はトップ部31-2の高さHを約30mm(H4)とした際の構成を示す正面図であり、図55はトップ部31-2の高さHを約30mm(H4)とした際の構成を示す右側面図とされている。
【0037】
トップ部31-2の高さHをH1,H2,H3,H4と次第に高くした際のFM波帯における平均利得の周波数特性を図56に示す。図56に示す平均利得の周波数帯域は76MHz?90MHzのFM波帯の周波数帯域とされている。図56を参照すると、トップ部31-2のアンテナベース20からの高さHを5mmから約10mm、約20mm、約30mmと高くされるにつれて平均利得の周波数特性は次第に向上していくようになる。トップ部31-2の高さが約5mmの場合と約10mmとの場合とを対比すると、高さHを約10mmとした場合はFM波帯の周波数帯域内において最大約5dB、平均利得が向上するようになる。また、トップ部31-2の高さが約5mmの場合と約30mmとの場合とを対比すると、高さHを約30mmとした場合はFM波帯の周波数帯域内において最大約10dB、平均利得が向上するようになる。
【0038】
次に、トップ部31-2の高さHをH1,H2,H3,H4と次第に高くした際のAM波帯におけるS/N比の変化特性を図57ないし図59に示す。図57ないし図59はAM波帯における周波数において、トップ部31-2のアンテナベース20からの高さHが30mmを基準として、S/N比が20dB得られるアンテナ入力値を0dBに基準化し、高さHを5mmから約10mm、約20mm、約30mmと移動していった際に20dBのS/N比が得られるアンテナ入力値を、基準化されたアンテナ入力値に対する入力改善値[dB]として示している。図57は周波数を下限値の531kHzとした際の高さHに対する入力改善値を示しており、図58は周波数をほぼ中心周波数の999kHzとした際の高さHに対する入力改善値を示しており、図59は周波数を上限値の1602kHzとした際の高さHに対する入力改善値を示している。これらの図を参照すると、531kHzの周波数においては、高さHが5mmとされた際に約6dB強劣化しているが、高さHが大きくなるほど入力改善値が向上されていき、高さHが30mmとされた際に0dBまで向上するようになる。また、999kHzの周波数においても、高さHが5mmとされた際に約6dB弱劣化しているが、高さHが大きくなるほど入力改善値が向上されていき、高さHが30mmとされた際に0dBまで向上するようになる。さらに、1602kHzの周波数においても、高さHが5mmとされた際に約6dB弱劣化しているが、高さHが大きくなるほど入力改善値が向上されていき、高さHが30mmとされた際に0dBまで向上するようになる。このように、AM波帯においては高さHを高くするほどS/N比が向上されるようになる。
【0039】
次に、トップ部31-2の高さHをH1,H2,H3,H4と次第に高くした際のFM波帯におけるS/N比の周波数特性を図60ないし図62に示す。図60ないし図62はFM波帯における周波数において、トップ部31-2のアンテナベース20からの高さHが30mmを基準として、S/N比が30dB得られるアンテナ入力値を0dBに基準化し、高さHを5mmから約10mm、約20mm、約30mmと移動していった際に30dBのS/N比が得られるアンテナ入力値を、基準化されたアンテナ入力値に対する入力改善値を示しており、図60は周波数を下限値の76MHzとした際の高さHに対する入力改善値を示しており、図61は周波数をほぼ中心周波数の83MHzとした際の高さHに対する入力改善値を示しており、図62は周波数を上限値の90MHzとした際の高さHに対する入力改善値を示している。これらの図を参照すると、76MHzの周波数においては、高さHが5mmとされた際に約6.4dB劣化しているが、高さHが大きくなるほど入力改善値が向上されていき、高さHが30mmとされた際に0dBまで向上するようになる。また、83MHzの周波数においても、高さHが5mmとされた際に約7.5dB劣化しているが、高さHが大きくなるほど入力改善値が向上されていき、高さHが30mmとされた際に0dBまで向上するようになる。さらに、90MHzの周波数においても、高さHが5mmとされた際に約4.5dB劣化しているが、高さHが大きくなるほど入力改善値が向上されていき、高さHが30mmとされた際に0dBまで向上するようになる。このように、FM波帯においても高さHを高くするほどS/N比が向上されるようになる。
上記した基礎実験から、トップ部31のアンテナベース20からの高さHを高くするほどアンテナベース20とされるグランドからの間隔が大きくなって、グランドとトップ部31間の浮遊容量が減少されるようになる。ここでは、高さHを約10mm以上とするとAM波帯においてもFM波帯においてもゲインおよびS/N比が向上することが分かる。」

キ 図5

図5によれば、GPSアンテナ32は、トップ部31の中央付近に配置されており、トップ部31の両端を避けて配置されていると認められる。

ク 図34


ケ 図5及び図34は、トップ部31及びアンテナパターンがGPSアンテナ32の上方に位置することを開示する。

コ 図51


サ 以上によれば、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「樹脂製のアンテナケース10と、このアンテナケース10の下部が嵌着されている金属製のアンテナベース20と、アンテナベース20に垂直に取り付けられているアンテナ基板30と、頂部と、該頂部の両側から斜面とされた側部形成されて断面形状が山形に形成され、アンテナ基板30を跨ぐように上に配置されているトップ部31と、アンテナベース20上に取り付けられているGPSアンテナ32とを備えるアンテナ装置1であって、
アンテナ基板30の上部にはアンテナパターンが形成され、
アンテナケース10内の上部にトップ部31が内蔵され、
アンテナパターンとトップ部31とによりアンテナエレメントが構成され、アンテナケース10内の空間にアンテナ基板30とトップ部31とアンプ基板34とが収納され、
AM/FM受信信号がアンテナパターンとトップ部31とにより構成されるアンテナエレメントにより受信され、
トップ部31は、金属板を加工して形成されており、
トップ部31の長さをL20とした際に、長さL20は約106mmとされ、
アンテナ基板30は、基板本体30aを備え、基板本体30aには矩形状の部分の上部から突出する突出部30fと左下部から左側へ突出する部分が形成されており、
基板本体30aの上部と突出部30fにはアンテナパターン30bが両面に形成されており、
AM波帯は531kHz?1602kHzであり、
FM波帯は76MHz?90MHzであり、
GPSアンテナ32は、トップ部31の中央付近にトップ部31の両端を避けて配置され、
トップ部31及びアンテナパターンがGPSアンテナ32の上方に位置する
アンテナ装置1。」

(2) 甲2の記載
甲2(特許第5237617号公報)には、図面と共に、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審が付した。

ア 「【0004】
このような従来のアンテナ装置101では、ロッド部が車体から大きく突出しているため車両の美観・デザインを損ねると共に、車庫入れや洗車時等に倒したロッド部を起こし忘れた場合、アンテナ性能が失われたままになるという問題点があった。また、アンテナ装置101は車外に露出しているため、ロッド部が盗難にあう恐れも生じる。そこで、アンテナケース内にアンテナを収納した車載用のアンテナ装置が考えられる。この場合、車両から突出するアンテナ装置の高さは車両外部突起規制により所定の高さに制限されると共に、車両の美観を損ねないよう長手方向の長さも160?220mm程度が好適とされる。すると、このような小型アンテナの放射抵抗Rradは、600?800×(高さ/波長)2として表されるように高さの2乗に比例してほぼ決定されるようになる。例えば、アンテナ高を180mmから60mmに縮小すると約10dBも感度が劣化するようになる。このように、単純に既存のロッドアンテナを短縮すると性能が大きく劣化して実用化が困難になる。さらに、アンテナを70mm以下の低姿勢とすると放射抵抗Rradが小さくなってしまうことから、アンテナそのものの導体損失の影響により放射効率が低下しやすくなって、さらなる感度劣化の原因になる。」

イ 「【0008】
アンテナ装置200の水平面内の放射指向特性を図26に示す。ただし、仰角は20°とされている。図26に示す放射指向特性を参照すると、無指向性とはなっておらず、特に、アンテナ素子231が存在している方向(180°)において放射指向特性が落ち込んでいることが分かる。これは、アンプ基板234の上に設置した平面アンテナユニット235の設置高が高くなり、グランド面と平面アンテナユニット235のパッチ素子との間隔が大きくなり、平面アンテナユニットの電気的特性、特に放射指向特性に影響を及ぼすことになるからである。さらに、平面アンテナユニット235の放射界において、低仰角放射範囲に平面アンテナユニット235の動作周波数の1/2波長程度の大きな金属体であるアンテナ素子231が存在しており、このアンテナ素子231による反射・回折等の影響で、平面アンテナユニット235の放射指向特性が大きく劣化する傾向にあるからである。このように、限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込むと既設のアンテナの影響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという問題点があった。
そこで、本発明は限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込んでも良好な電気的特性を得ることができるアンテナ装置を提供することを目的としている。」

ウ 「【0012】
次に、本発明の車載用にかかる第1実施例のアンテナ装置1の構成を図2ないし図6に示す。ただし、図2は本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置1の構成を示す側面図であり、図3は本発明にかかるアンテナ装置1の構成を示す平面図であり、図4は本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置1の内部構成を示す平面図であり、図5は本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置1の内部構成を示す側面図であり、図6はアンテナケースを省略して示す第1実施例のアンテナ装置1の内部構成を示す正面図である。
これらの図に示すように、本発明の第1実施例にかかるアンテナ装置1は、アンテナケース10と、このアンテナケース10内に収納されているアンテナベース20と、アンテナベース20に取り付けられているアンテナ基板30と、アンプ基板34と、平面アンテナユニット35から構成されている。アンテナケース10の長手方向の長さは約200mmとされ、横幅は約75mmとされている。
【0013】
アンテナケース10は電波透過性の合成樹脂製とされており、先端に行くほど細くなると共に、側面も内側に絞った曲面とされた流線型の外形形状とされている。アンテナケース10の下面は取り付けられる車両2の取付面の形状に合わせた形状とされている。アンテナケース10内には、アンテナ基板30を立設して収納できる空間と、アンプ基板34をアンテナベース20にほぼ平行に収納する空間が形成されている。アンテナケース10の下面には金属製のアンテナベース20が取り付けられている。そして、アンテナベース20にアンテナ基板30が立設して固着されていると共に、アンテナ基板30の前方に位置するようにアンプ基板34がアンテナベース20に固着されている。また、アンテナ基板30の下縁の中央部に矩形状の切欠30aが形成されており、この切欠30a内に位置するように平面アンテナユニット35がアンテナベース20に取り付けられている。このアンテナベース20をアンテナケース10の下面に取り付けることにより、アンテナケース10の内部空間にアンテナ基板30とアンプ基板34と平面アンテナユニット35とを収納することができる。なお、立設して固着されるアンテナ基板30の上縁をアンテナケース10の内部空間の形状に合わせた形状として、アンテナ基板30の高さをなるべく高くすることが好適とされる。」

エ 「【0016】
アンテナ基板30は、高周波特性の良好なガラスエポキシ基板等のプリント基板とされており、AM放送とFM放送を受信可能なアンテナを構成するアンテナ素子31のパターンが上部に形成されている。アンテナ基板30のアンテナベース20からの高さはH、長さはLとされている。また、アンテナ素子31の長さはアンテナ基板30と同じLとされ、幅(高さ)はhとされている。さらに、アンテナ素子31の下縁と平面アンテナユニット35の上面との間隔はDとされている。このアンテナ素子31の大きさは、アンテナケース10の内部空間の制約から高さHは約75mm程度までの高さ、長さLは約90mm程度までとされている。ここで、FM波帯の周波数100MHzの波長をλとすると、約75mmの寸法は約0.025λ、約90mmの寸法は約0.03λとなり、アンテナ素子31は波長λに対して超小型のアンテナとなる。」

オ 「【0018】
上記したように、本発明の第1実施例のアンテナ装置1においてはAM/FM受信用のアンテナ素子31の直下に衛星ラジオ放送を受信する平面アンテナユニット35が配置されている。平面アンテナユニット35は、摂動素子を備え円偏波を受信可能なパッチ素子を備えている。一般的には、2つのアンテナを近接して配置するとゲイン特性が劣化したり放射指向特性が乱れるようになる。そこで、本発明にかかるアンテナ装置1においてアンテナ素子31の下縁と平面アンテナユニット35の上面との間隔Dをパラメータとして、仰角を衛星ディジタルラジオの衛星受信側仰角範囲の仕様である20°?60°に設定した際の平面アンテナユニット35のゲイン特性を図7ないし図11に示す。この場合のアンテナ素子31は、長さLが約60mm、縦方向の幅hが約28mmの寸法とされている。
図7には、周波数が衛星ディジタルラジオ放送(SDARS)の中心周波数である2338.75MHz、仰角が20°とされ、間隔Dが33mm?7mmまで変化した際の平面アンテナユニット35のゲイン特性が示され、横軸が間隔D(mm)とされ縦軸がアベレージゲイン[dBic]とされている。図7に示すゲイン特性を参照すると、間隔Dが33mmとされたときにアベレージゲインは最大となって約2.0[dBic]のゲインが得られるが、間隔Dが7mmまで狭くされていくに従いアベレージゲインは減衰していき、間隔Dが7mmになると最小となって約0[dBic]までゲインが減衰することがわかる。ここで、dBicという単位は、円偏波(circular polarization)の等方性(isotropic)アンテナ(すべての方向に一様に電力を放射する仮想的なアンテナ)に対する絶対利得を表している。」

カ 「【0021】
図7ないし図11に示すゲイン特性を参照すると、間隔Dは大きくするほど良好なゲイン特性を示すようになり、間隔Dを約33mm以上とすれば衛星ディジタルラジオの衛星受信側仰角範囲の仕様である20°ないし60°の仰角範囲において良好なゲイン特性を得ることができる。この場合のアンテナ素子31の幅hは約28mmとされている。また、アンテナ素子31のゲイン特性および放射指向特性に平面アンテナユニット35は影響を与えることがなく、アンテナ素子31の下縁と平面アンテナユニット35の上面との間隔Dを約33mm、アンテナ素子31の幅hを約28mmに設計することで、アンテナ素子31の直下に平面アンテナユニット35を組み込んで統合することができる。
【0022】
さらにまた、図12に平面アンテナユニット35の水平面内の放射指向特性を示す。ただし、間隔Dは約33mm、仰角は20°とされている。図12に示す放射指向特性を参照すると、ほぼ無指向性が得られており、平面アンテナユニット35の直上にアンテナ素子31が存在していても、放射指向特性はその影響と受けていないことがわかる。すなわち、アンテナベース20上に固着された平面アンテナユニット35の高さが低くなることから、グランド面と平面アンテナユニット35のパッチ素子の間隔が小さくなり、平面アンテナユニット35の電気的特性、特に放射指向特性に影響を及ぼさないようになる。また、アンテナ素子31の直下に平面アンテナユニット35を組み込むことにより、アンテナ素子31直下に設置した平面アンテナユニット35の放射指向特性はその影響が軽減されて等方等射の様相を呈するようになる。このように、限られた空間しか有していないアンテナケース10を備えるアンテナ装置1において、アンテナ素子31の直下に平面アンテナユニット35を組み込んでも、その間の間隔Dを約33mmとすることでアンテナ素子31の影響を受けることなく無指向性を得ることができるようになる。」

キ 「【0023】
ここで、本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置1における設計手法について説明する。ただし、平面アンテナユニット35は、SDARS(Satellite Digital Audio Radio Service:衛星ディジタルラジオサービス)受信用のアンテナとされ、その中心周波数は2338.75MHzとされている。この場合、衛星デジタルラジオの中心周波数の波長λは約128mmであり、波長λに換算した設計値として以下に表現するものとする。
(1)アンテナ素子31の下縁と平面アンテナユニット35の上面の間隔Dを、約0.25λ以上とする。
(2)アンテナ素子31の長さLを、およそ0.5λ程度、或いはそれ以下とする。
(3)アンテナ素子31の縦方向の幅hを、およそ0.2λ?0.25λ程度、或いは0.2λ以下とする。
(4)アンテナ素子31は厚みより縦方向の幅が大きくされアンテナ基板30にプリントする、あるいは、厚さが1?2mmの板状とする。
この様なアンテナ素子31の寸法・位置関係とすることにより、アンテナ素子31と平面アンテナユニット35が、相互に影響を及ぼすことが低減され、それぞれ単独で存在す
る場合の各アンテナと同等の電気的特性を示すことが可能となる。」

ク 図5

図5によれば、平面アンテナユニット35は、アンテナ素子31の中央付近に配置されており、アンテナ素子31の両端を避けて配置されていると認められる。

ケ 以上によれば、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。なお、甲2における「衛星ラジオ放送」、「衛星ディジタルラジオ放送」、「SDARS」及び「衛星デジタルラジオ」は、いずれも同一の概念(Satellite Digital Audio Radio Service)を表していると認められるので、以下では、「SDARS」に統一する。
「アンテナケース10と、このアンテナケース10内に収納されているアンテナベース20と、アンテナベース20に取り付けられているアンテナ基板30と、アンプ基板34と、平面アンテナユニット35から構成されるアンテナ装置1であって、
アンテナベース20をアンテナケース10の下面に取り付けることにより、アンテナケース10の内部空間にアンテナ基板30とアンプ基板34と平面アンテナユニット35とを収納し、
アンテナ基板30は、プリント基板とされており、AM放送とFM放送を受信可能なアンテナを構成するアンテナ素子31のパターンが上部に形成され、
AM/FM受信用のアンテナ素子31の直下にSDARSを受信する平面アンテナユニット35が配置され、
SDARSの中心周波数は2338.75MHzであり、
SDARSの中心周波数の波長λは約128mmであり、
アンテナ素子31の長さLを、およそ0.5λ程度とし、
アンテナ素子31は平面アンテナユニット35の上方に位置し、
平面アンテナユニット35は、アンテナ素子31の中央付近に配置されており、アンテナ素子31の両端を避けて配置されている
アンテナ装置1。」


(3) 甲3の記載
甲3(再公表特許第2008/062746号公報)には、図面と共に、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審が付した。

ア 「【0001】
本発明は、少なくともFM放送を受信可能な車両に取り付けられるアンテナ装置に関するものである。」

イ 「【0041】
次に、本発明に係るアンテナ装置においてはFM放送を受信可能とされており併せてAM放送も受信可能とされているが、これに限ることはなくモバイル・テレビ・サービス(TDTV)や携帯電話帯(TEL)等の他の通信用アンテナとして動作可能とすることができる。この場合のアンテナ基板の構成例を図36ないし図40に示す。
図36に示すアンテナ基板30-1は、AM/FM放送のアンテナおよびTDTVあるいはTELのアンテナとして用いる場合の構成例である。アンテナ基板30-1のほぼ上半分には、1枚の板状のアンテナパターン31-1が形成されている。このアンテナパターン31-1にアンテナコイル32-1の一端が接続され、アンテナコイル32-1の他端がAM/FM受信信号が出力されるAM/FM出力端子に接続される。また、アンテナパターン31-1にTDTV(TEL)信号の周波数帯だけを通過させるハイパスフィルタ(HPF)37-1の一端が接続され、HPF37-1の他端がTDTV(TEL)信号用のTDTV(TEL)端子に接続される。AM/FM出力端子はAM/FM受信機に接続され、TDTV(TEL)端子はTDTV受信機(TEL)に接続される。この場合、アンテナパターン31-1はTDTV(TEL)の周波数帯に共振する大きさとするのが好適とされる。」

ウ 「【0043】
図38に示すアンテナ基板30-3は、AM/FM放送のアンテナおよびTDTVあるいはTELのアンテナとして用いる場合のさらに他の構成例である。アンテナ基板30-3のほぼ上半分には、1枚の板状の第1アンテナパターン31-3aが形成されており、アンテナ基板30-3の下半分にTDTV(TEL)の周波数帯に共振する線状の第2アンテナパターン31-3bが形成されている。この第1のアンテナパターン31-3aにアンテナコイル32-3の一端が接続され、アンテナコイル32-3の他端がAM/FM受信信号が出力されるAM/FM出力端子に接続される。また、第2のアンテナパターン31-3bの給電点はTDTV(TEL)信号用のTDTV(TEL)端子に接続される。AM/FM出力端子はAM/FM受信機に接続され、TDTV(TEL)端子はTDTV受信機(TEL)に接続される。」

エ 「【0045】
図40に示すアンテナ基板は第1アンテナ基板30-5aと第2アンテナ基板30-5bの2枚からなり、AM/FM放送のアンテナおよびTDTVあるいはTELのアンテナとして用いる場合のさらに他の構成例である。第1アンテナ基板30-5aのほぼ上半分には、1枚の板状の第1アンテナパターン31-5aが形成されており、縦に細長い第2アンテナ基板30-5bの縦方向にTDTV(TEL)の周波数帯に共振する線状の第2アンテナパターン31-5bが形成されている。この第1のアンテナパターン31-5aにアンテナコイル32-5の一端が接続され、アンテナコイル32-5の他端がAM/FM受信信号が出力されるAM/FM出力端子に接続される。また、第2のアンテナパターン31-5bの給電点はTDTV(TEL)信号用のTDTV(TEL)端子に接続される。AM/FM出力端子はAM/FM受信機に接続され、TDTV(TEL)端子はTDTV受信機(TEL)に接続される。
なお、図36ないし図40に示す構成例のアンテナ基板はいずれも高周波特性の良好なガラスエポキシ基板等のプリント基板とされており、アンテナケース内に収納される。」

オ 「【0087】
また、本発明の各実施例にかかるアンテナの長さは約60mmとされており、長くても90mm程度の長さとされる。FM波帯の周波数100MHzの波長をλとすると、約90mmの寸法は0.03λとなり、アンテナの長さは約1/30波長以下の長さとなる。
さらに、第2実施例ないし第4実施例のアンテナ装置におけるアンテナパターンの上端に両側に延伸する傘状のトップを設けることができる。さらにまた、第1実施例ないし第4実施例のアンテナ装置においてアンテナパターンの上端に両側に延伸する傘状のトップを設けることに替えて、アンテナパターンを省略して傘状のトップのみとアンテナコイルとによりアンテナ部を構成するようにしても良い。この場合、傘状のトップをアンテナケースの内側の上面に貼着等により固着することでアンテナ基板を省略することができる。」

カ 図38

図38によれば、第2アンテナパターン31-3bは、第1アンテナパターン31-3aの中央付近に配置されており、第1アンテナパターン31-3aの両端を避けて配置されていると認められる。

キ 以上によれば、甲3には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。なお、甲3における「第1アンテナパターン31-3a」及び「第2アンテナパターン31-3b」は、それぞれ「第1のアンテナパターン31-3a」及び「第2のアンテナパターン31-3b」と同一の部材を表していると認められるので、以下では、それぞれ「第1アンテナパターン31-3a」及び「第2アンテナパターン31-3b」に統一する。
「少なくともFM放送を受信可能なアンテナ装置であって、
アンテナ基板30-3のほぼ上半分には、1枚の板状の第1アンテナパターン31-3aが形成されており、アンテナ基板30-3の下半分にTELの周波数帯に共振する線状の第2アンテナパターン31-3bが形成され、
第1アンテナパターン31-3aにアンテナコイル32-3の一端が接続され、アンテナコイル32-3の他端がAM/FM受信信号が出力されるAM/FM出力端子に接続され、
第2アンテナパターン31-3bの給電点はTEL信号用のTEL端子に接続され、
アンテナ基板はプリント基板とされており、アンテナケース内に収納され、
アンテナの長さは約60mmとされ、
第2アンテナパターン31-3bは、第1アンテナパターン31-3aの中央付近に配置され、第1アンテナパターン31-3aの両端を避けて配置されている
アンテナ装置。」

3 当審の判断
(1) 特許法29条1項(新規性)について
ア 甲1発明に対して
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア) 甲1発明の「アンテナケース10」、「GPSアンテナ32」及び「アンテナ装置1」は、それぞれ本件発明1の「ケース」、「第1アンテナ」及び「アンテナ装置」に相当する。

(イ) 甲1発明の「GPSアンテナ32」は、「アンテナベース20上に取り付けられている」ものであり、「アンテナベース20」は、「アンテナケース10」の下部に嵌着されているのだから、甲1発明の「GPSアンテナ32」は、「アンテナケース10」の内部に設けられている。

(ウ) 甲1発明の「アンテナエレメント」は、AM/FM受信信号を受信するものであるから、本件発明1の「第2アンテナ」に相当する。

(エ) 甲1発明の「アンテナエレメント」は、「アンテナパターンとトップ部31とにより」構成されるものであり、「アンテナケース10内の空間にアンテナ基板30とトップ部31とアンプ基板34とが収納され」るのであるから、甲1発明の「アンテナエレメント」は「アンテナケース10」の内部に設けられている。

(オ) 前記(イ)及び(エ)によれば、甲1発明の「アンテナケース10」は、「GPSアンテナ32」及び「アンテナエレメント」の双方を共通に内部に設けるケースとなっているのであるから、本件発明1の「共通のケース」に相当する。そうすると、前記(ア)及び(ウ)をも考慮すると、本件発明1と甲1発明とは、「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え」る点で一致する。

(カ) 甲1発明の「アンテナエレメント」は「アンテナパターンとトップ部31とにより」構成されている。ここで、「アンテナパターン」は、基板本体30aの上部及び突出部30fの両面に形成されたものであるから、導体板であると認められる。そして、「トップ部31」は「金属板を加工して形成され」たものである。そうすると、甲1発明の「アンテナエレメント」は、導体板である「アンテナパターン」と金属板を加工して形成された「トップ部31」とを組み合わせたものである。

(キ) 他方、本件発明1において「第2アンテナ」は「板状」であるとされるところ、本件明細書によれば、「第2アンテナとしての容量装荷素子3」(【0033】)は、「金属板(導体板)を加工して形成される板状部品である」(【0035】)とされ、実施の形態2として、「第1板状部3a…と第2板状部3bとがフィルタ16で相互に接続され」(【0042】)、「断面が上方に凸となる形状に形成され」(【0044】)たものが挙げられている。これら本件明細書の記載によれば、本件発明1における「第2アンテナ」が「板状」であるとの限定は、第2アンテナが金属板ないし導体板を加工したものであること、あるいは、それらを組み合わせたものであることを限定していると解される。

(ク) 前記(ウ)、(カ)及び(キ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、「前記第2アンテナは、板状であ」る点で一致する。

(ケ) 甲1発明の「トップ部31及びアンテナパターン」は「GPSアンテナ32の上方に位置する」ものである。そして、甲1発明の「アンテナエレメント」は「アンテナパターンとトップ部31とにより」構成されるものである。以上並びに前記(ア)及び(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明とは「前記第2アンテナは」「前記第1アンテナの上方に位置」する点で一致する。

(コ) 甲1発明の「GPSアンテナ32」は、GPSの電波を受信するものと認められる。GPSの電波は、技術常識によれば、1575.42MHz(波長190mm)及び1227.6MHz(波長244mm)の2種類を用いるから、「GPSアンテナ32」の周波数帯は1227.6MHz?1575.42MHzである。

(サ) 甲1発明の「アンテナエレメント」は、「AM/FM受信信号」を受信するものである。甲1発明のAM波帯は531kHz?1602kHzであり、FM波帯は76MHz?90MHzであるから、甲1発明の「アンテナエレメント」の周波数帯は531kHz?90MHzである。

(シ) 前記(コ)及び(サ)によれば、甲1発明の「GPSアンテナ32」の周波数帯は、甲1発明の「アンテナエレメント」の周波数帯よりも高い。そうすると、前記(ア)及び(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明とは「前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高」い点で一致する。

(ス) 甲1発明の「トップ部31」の長さは「約106mm」とされる。そして、前記(コ)のとおり、「GPSアンテナ32」の周波数帯の波長は190mm?244mmである。そうすると、「トップ部31」の長さは「GPSアンテナ32」の周波数帯の波長の概ね1/2となっている。ここで、導体長が波長の1/2であれば定在波が発生し、その定在波の電圧最大点は導体の両端となることは技術常識であるから、甲1発明の「トップ部31」には「GPSアンテナ32」の周波数帯の定在波が発生し、その電圧最大点はトップ部31の両端となることが明らかである。

(セ) 甲1発明では「GPSアンテナ32は、トップ部31の中央付近にトップ部31の両端を避けて配置され」ているのであるから、前記(ア)、(ウ)及び(ス)に鑑みると、本件発明1と甲1発明とは「前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置される」点で一致する。

(ソ) 前記(オ)、(ク)、(ケ)、(シ)及び(セ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。

〈一致点〉
「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置される、アンテナ装置。」である点。

〈相違点〉
本件発明1は、第1アンテナと第2アンテナとの位置関係が「左右方向から見て、前記第1アンテナの少なくとも一部が、前記第2アンテナの少なくとも一部と重なる位置関係」であるのに対し、甲1発明では、左右方向から見て、GPSアンテナ32とアンテナエレメントとが重ならない点。

以上のように本件発明1と甲1発明とには相違点が存在するから、本件発明1は甲1発明と同一であるとはいえない。

(タ) 本件発明2、3、8、10及び11について
本件発明1に従属する本件発明8、10及び11は、いずれも甲1発明に対して前記(ソ)に示す相違点を有するから、甲1発明と同一であるとはいえない。
また、本件発明4?7又は9に従属する本件発明8、10及び11については、少なくとも前記第2、2で独立特許要件について示した構成が相違点となり、甲1発明と同一であるとはいえない。

(チ) 小括
以上のとおり、本件発明1?3、8、10及び11は、甲1発明と同一ではない。

イ 甲2発明に対して
本件発明1と甲2発明とを対比する。

(ア) 甲2発明の「アンテナケース10」は、本件発明1の「ケース」に相当する。

(イ) 甲2発明の「平面アンテナユニット35」は、SDARSを受信するためのものであるから、本件発明1の「第1アンテナ」に相当する。

(ウ) 甲2発明の「アンテナ素子31」は、AM放送とFM放送を受信可能なアンテナを構成するものであるから、本件発明1の「第2アンテナ」に相当する。

(エ) 甲2発明は「アンテナケース10の内部空間にアンテナ基板30と…平面アンテナユニット35とを収納し」たものであり、「アンテナ基板30は、プリント基板とされており、…アンテナ素子31のパターンが上部に形成され」ているから、「アンテナケース10」の内部空間には「平面アンテナユニット35」及び「アンテナ素子31」の双方が共通に収納されている。そうすると、甲2発明の「アンテナケース10」は本件発明1の「共通のケース」に相当し、前記(イ)及び(ウ)をも考慮すると、本件発明1と甲2発明とは、「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え」る点で一致する。

(オ) 甲2発明の「アンテナ素子31」のパターンは、プリント基板であるアンテナ基板30の上部に形成されたものであるから、「板状」である。
そして、甲2発明では「アンテナ素子31の直下にSDARSを受信する平面アンテナユニット35が配置され」ている。
そうすると、上記(イ)及び(ウ)をも考慮すると、本件発明1と甲2発明とは、「前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置」する点で一致する。

(カ) 甲2発明のSDARSの中心周波数は2338.75MHzであるから、甲2発明の「平面アンテナユニット35」の周波数帯は2338.75MHzである。
技術常識によれば、AM放送の周波数帯は531kHz?1602kHzであり、FM放送の周波数帯は76MHz?90MHzであるから、甲2発明の「アンテナ素子31」の周波数帯は531kHz?90MHzである。
そうすると、甲2発明の「平面アンテナユニット35」の周波数帯の周波数は、「アンテナ素子31」の周波数帯の周波数よりも高く、前記(イ)及び(ウ)をも考慮すると、本件発明1と甲2発明とは「前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高」い点で一致する。

(キ) 甲2発明においては、「DARSの中心周波数の波長λは約128mmであり」、「アンテナ素子31の長さLを、およそ0.5λ程度とし」ている。そうすると、前記ア(ス)に示した技術常識によれば、「アンテナ素子31」にはSDARSの周波数帯の定在波が発生し、その電圧最大点は「アンテナ素子31」の両端となる。
他方、甲2発明においては、「平面アンテナユニット35は、アンテナ素子31の中央付近に配置されており、アンテナ素子31の両端を避けて配置されている」のであるから、「平面アンテナユニット35」は「アンテナ素子31」の前記定在波の電圧最大点を避けて配置されている。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは「前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置される」点で一致する。

(ク) 前記(エ)?(キ)によれば、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。

〈一致点〉
「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置される、アンテナ装置。」である点。

〈相違点〉
本件発明1は、第1アンテナと第2アンテナとの位置関係が「左右方向から見て、前記第1アンテナの少なくとも一部が、前記第2アンテナの少なくとも一部と重なる位置関係」であるのに対し、甲2発明では、左右方向から見て、平面アンテナユニット35とアンテナ素子31とが重ならない点。

以上のように本件発明1と甲2発明とには相違点が存在するから、本件発明1は甲2発明と同一であるとはいえない。

(ケ) 本件発明2、3、8、10及び11について
本件発明1に従属する本件発明2、3、8、10及び11は、いずれも甲2発明に対して前記(ク)に示す相違点を有するから、甲2発明と同一であるとはいえない。
また、本件発明4?7又は9に従属する本件発明8、10及び11については、少なくとも前記第2、2で独立特許要件について示した構成が相違点となり、甲2発明と同一であるとはいえない。

(コ) 小括
以上のとおり、本件発明1?3、8、10及び11は、甲2発明と同一ではない。

ウ 甲3発明に対して
本件発明1と甲3発明とを対比する。

(ア) 甲3発明の「アンテナケース」は本件発明1の「ケース」に相当する。

(イ) 甲3発明の「第1アンテナパターン31-3a」は、アンテナコイル32-3を介してAM/FM受信信号が出力されるAM/FM出力端子に接続されるからAM/FM受信用のアンテナであると認められ、本件発明1の「第2アンテナ」に相当する。
また、甲3発明の「第2アンテナパターン31-3b」は、その給電点がTEL信号用のTEL端子に接続されるからTEL(携帯電話帯)用のアンテナであると認められ、本件発明の「第1アンテナ」に相当する。

(ウ) 甲3発明の「第1アンテナパターン31-3a」及び「第2アンテナパターン31-3b」は、いずれも「アンテナ基板30-3」に形成されるものである。そして、「アンテナ基板30-3」は「アンテナケース」内に収納されるから、「アンテナケース」内には「第1アンテナパターン31-3a」及び「第2アンテナパターン31-3b」の双方が共通に収納されている。そうすると、甲3発明の「アンテナケース」は本件発明1の「共通のケース」に相当し、前記(イ)をも考慮すると、本件発明1と甲3発明とは、「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え」る点で一致する。

(エ) 甲3発明の「第1アンテナパターン31-3a」は「1枚の板状」のものであり、「第1アンテナパターン31-3a」は「アンテナ基板30-3」の上半分に形成され、「第2アンテナパターン31-3b」は「アンテナ基板30-3」の下半分に形成されるから、前記(イ)をも考慮すると、本件発明1と甲3発明とは「前記第2アンテナは板状であって前記第1アンテナの上方に位置」する点で一致する。

(オ) 技術常識によれば、携帯電話帯の1つとして2.5GHz帯が存在するから、甲3発明の「第2アンテナパターン31-3b」の周波数帯は2.5GHzである。
技術常識によれば、AM放送の周波数帯は531kHz?1602kHzであり、FM放送の周波数帯は76MHz?90MHzであるから、甲3発明の「第1アンテナパターン31-3a」の周波数帯は531kHz?90MHzである。
そうすると、甲3発明の「第2アンテナパターン31-3b」の周波数帯は、「第1アンテナパターン31-3a」の周波数帯よりも高いので、前記(イ)をも考慮すると、本件発明1と甲3発明とは「前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高」い点で一致する。

(カ) 甲3発明の「第2アンテナパターン31-3b」の周波数帯である2.5GHzは、波長に換算すると約120mmである。他方、甲3発明のアンテナの長さ(第1アンテナパターン31-3aの長さであると認める)は60mmである。
そうすると、「第1アンテナパターン31-3a」の長さは「第2アンテナパターン31-3b」の周波数帯の波長の1/2であるから、前記ア(ス)に示した技術常識によれば、「第1アンテナパターン31-3a」には2.5GHz帯の定在波が発生し、その電圧最大点は「第1アンテナパターン31-3a」の両端となる。
他方、甲3発明においては、「第2アンテナパターン31-3bは、第1アンテナパターン31-3aの中央付近に配置され、第1アンテナパターン31-3aの両端を避けて配置されている」のであるから、「第2アンテナパターン31-3b」は「第1アンテナパターン31-3a」の前記定在波の電圧最大点を避けて配置されている。
よって、本件発明1と甲3発明とは「前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置される」点で一致する。

(キ) 前記(ウ)?(カ)によれば、本件発明1と甲3発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点において相違する。

〈一致点〉
「共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置される、アンテナ装置。」である点。

〈相違点〉
本件発明1は、第1アンテナと第2アンテナとの位置関係が「左右方向から見て、前記第1アンテナの少なくとも一部が、前記第2アンテナの少なくとも一部と重なる位置関係」であるのに対し、甲3発明では、左右方向から見て、第2アンテナパターン31-3bと第1アンテナパターン31-3aとが重ならない点。

以上のように本件発明1と甲3発明とには相違点が存在するから、本件発明1は甲3発明と同一であるとはいえない。

(ク) 本件発明2、3、8、10及び11について
本件発明1に従属する本件発明2、3、8、10及び11は、いずれも甲3発明に対して前記(キ)に示す相違点を有するから、甲3発明と同一であるとはいえない。
また、本件発明4?7又は9に従属する本件発明8、10及び11については、少なくとも前記第2、2で独立特許要件について示した構成が相違点となり、甲3発明と同一であるとはいえない。

(ケ) 小括
以上のとおり、本件発明1?3、8、10及び11は、甲3発明と同一ではない。

(2) 特許法29条2項(進歩性)について
ア 甲1発明に対して
本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、前記(1)ア(ソ)のとおりである。
以下、相違点の容易想到性について検討する。

(ア) 甲1発明は、「70mm以下の低姿勢としても感度劣化を極力抑制することのできるAM放送とFM放送を受信可能なアンテナ装置を提供することを目的としている」(【0005】)ものである。無線通信における感度を左右する要因としてアンテナ利得(ゲイン)及びS/N比は著名なところ、甲1発明においては、トップ部31のアンテナベース20からの高さHを「約10mm以上とするとAM波帯においてもFM波帯においてもゲインおよびS/N比が向上することが分かる。」(【0039】)とされている。
ここで、図51を参照すると、高さHをH1(=約5mm(【0036】))としたときにはトップ部31がアンテナベース20上のGPSアンテナ32と左右方向から見て重なると認められるものの、H2(=約10mm)以上とした場合には、トップ部31がGPSアンテナ32と左右方向から見て重なることはないと認められる。
そうすると、甲1発明は、その目的を達成するために、トップ部31とGPSアンテナ32とが左右方向から見て重ならないよう配置するものであると認められるから、仮に2つのアンテナを左右方向から見て重なる位置に配置する構成が周知であったとしても、甲1発明にそのような周知の構成を適用する動機付けはなく、かえって、阻害要因があるというべきである。
加えて、申立人が提出した甲7及び甲8は、2つのアンテナが左右方向から見て重なる位置に配置する構成が周知であることを立証する目的のものであるが、甲7は車車間通信のためのループアンテナと3G/LTEに代表される移動電話用アンテナとの位置関係を開示するに過ぎず、甲8は3G/LTE用のアンテナとDAB用のアンテナとの位置関係を開示するもの過ぎないため、いずれも、AM/FM受信用のアンテナとGPSアンテナとを左右方向から見て重なる位置関係に配置する構成が周知であることまでは立証しておらず、甲7及び甲8により示される周知技術を甲1発明に適用するためには、周知技術におけるアンテナの一方をAM/FM受信用アンテナに置き換え、さらに、他方のアンテナをGPSアンテナに置き換えた上で、甲1発明に適用するという3段階が必要となるため、容易に適用可能とはいえない。

(イ) 特許異議申立人は、相違点に係る位置関係に関し、本件明細書においては前記位置関係を採用することの技術的意義が述べられておらず、さらに、本件明細書における実施の形態1?3の模式図が前記位置関係を採用しない例により説明されていることから、前記位置関係によって技術の具体的適用というレベルを超える作用や機能が生じるとは到底解し得ないと主張する。
しかしながら、本件発明1の前記位置関係に起因する作用・機能が本件明細書に記載されているか否かは、甲1発明において前記位置関係を採用することが容易か否かを左右するものではない。例え本件発明1において前記位置関係が発明の具現化における微差であろうとも、甲1発明においては、前記(ア)のとおり、前記位置関係を採用する動機付けがないばかりか阻害要因が存在するのだから、前記位置関係は甲1発明から容易に想到し得るものではない。

(ウ) したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ) そして、本件発明1に従属する本件発明2、3、8、10及び11についても、前記相違点が存在するため、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明4?7又は9に従属する本件発明8、10及び11については、少なくとも前記第2、2で独立特許要件について示したとおりであるから、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲2発明に対して
本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、前記(1)イ(ク)のとおりである。
以下、相違点の容易想到性について検討する。

(ア) 甲2発明は、従来のアンテナ装置における感度劣化(【0004】)や、放射指向特性の劣化(【0008】)という問題に着目し、「限られた空間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込んでも良好な電気的特性を得ることができるアンテナ装置を提供することを目的とし」(【0008】)たものである。
そして、甲2の「間隔Dは大きくするほど良好なゲイン特性を示すようになり、間隔Dを約33mm以上とすれば衛星ディジタルラジオの衛星受信側仰角範囲の仕様である20°ないし60°の仰角範囲において良好なゲイン特性を得ることができる。」(【0021】)との記載及び「限られた空間しか有していないアンテナケース10を備えるアンテナ装置1において、アンテナ素子31の直下に平面アンテナユニット35を組み込んでも、その間の間隔Dを約33mmとすることでアンテナ素子31の影響を受けることなく無指向性を得ることができるようになる。」(【0022】)との記載を参照すると、甲2発明は、良好な電気的特性(感度及び放射指向特性)を有するアンテナ装置を提供するという課題を達成するために、アンテナ素子31と平面アンテナユニットとの間隔Dを約33mm以上としたものであると認められる。
そうすると、仮に2つのアンテナを左右方向から見て重なる位置に配置する構成が周知であったとしても、甲2発明にそのような周知の構成を適用する動機付けはなく、かえって、阻害要因があるというべきである。
加えて、甲7及び甲8は2つのアンテナが左右方向から見て重なる位置に配置する構成が周知であることを立証する目的のものであるが、甲7は車車間通信のためのループアンテナと3G/LTEに代表される移動電話用アンテナとの位置関係を開示するに過ぎず、甲8は3G/LTE用のアンテナとDAB用のアンテナとの位置関係を開示するもの過ぎないため、いずれも、AM/FM受信用のアンテナとSDARSアンテナとを左右方向から見て重なる位置関係に配置する構成が周知であることまでは立証しておらず、甲7及び甲8により示される周知技術を甲2発明に適用するためには、周知技術におけるアンテナの一方をAM/FM受信用アンテナに置き換え、さらに、他方のアンテナをSDARS用のアンテナに置き換えた上で、甲2発明に適用するという3段階が必要となるため、容易に適用可能とはいえない。

(イ) 特許異議申立人は、相違点に係る位置関係に関し、本件明細書においては前記位置関係を採用することの技術的意義が述べられておらず、さらに、本件明細書における実施の形態1?3の模式図が前記位置関係を採用しない例により説明されていることから、前記位置関係によって技術の具体的適用というレベルを超える作用や機能が生じるとは到底解し得ないと主張する。
しかしながら、本件発明1の前記位置関係に起因する作用・機能が本件明細書に記載されているか否かは、甲2発明において前記位置関係を採用することが容易か否かを左右するものではない。例え本件発明1において前記位置関係が発明の具現化における微差であろうとも、甲2発明においては、前記(ア)のとおり、前記位置関係を採用する動機付けがないばかりか阻害要因が存在するのだから、前記位置関係は甲2発明から容易に想到し得るものではない。

(ウ) したがって、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ) そして、本件発明1に従属する本件発明2、3、8、10及び11についても、前記相違点が存在するため、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明4?7又は9に従属する本件発明8、10及び11については、少なくとも前記第2、2で独立特許要件について示したとおりであるから、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲3発明に対して
本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、前記(1)ウ(キ)のとおりである。
以下、相違点の容易想到性について検討する。

(ア) 甲3発明は、「アンテナ基板30-3のほぼ上半分には、1枚の板状の第1アンテナパターン31-3aが形成されており、アンテナ基板30-3の下半分にTELの周波数帯に共振する線状の第2アンテナパターン31-3bが形成され」ているから、「第1アンテナパターン31-3a」と「第2アンテナパターン31-3b」とが同一平面上に存在することになる。そのため、両アンテナパターンを左右方向(すなわち前記平面に垂直の方向)から見て重なる位置関係に配置しようとすると、両アンテナパターンが互いに接触せざるを得ず、各々のアンテナパターンとして機能しなくなることから、このような配置は不可能である。
このことは、2つのアンテナが左右方向から見て重なる位置に配置する構成が周知であるか否かに左右されない。

(イ) 特許異議申立人は、相違点に係る位置関係に関し、本件明細書においては前記位置関係を採用することの技術的意義が述べられておらず、さらに、本件明細書における実施の形態1?3の模式図が前記位置関係を採用しない例により説明されていることから、前記位置関係によって技術の具体的適用というレベルを超える作用や機能が生じるとは到底解し得ないと主張する。
しかしながら、本件発明1の前記位置関係に起因する作用・機能が本件明細書に記載されているか否かは、甲3発明において前記位置関係を採用することが容易か否かを左右するものではない。例え本件発明1において前記位置関係が発明の具現化における微差であろうとも、甲3発明においては、前記(ア)のとおり、前記位置関係を採用することが不可能なのだから、前記位置関係は甲3発明から容易に想到し得るものではない。

(ウ) したがって、本件発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ) そして、本件発明1に従属する本件発明2、3、8、10及び11についても、前記相違点が存在するため、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明4?7又は9に従属する本件発明8、10及び11については、少なくとも前記第2、2で独立特許要件について示したとおりであるから、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由(すなわち、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の全部)によっては、本件請求項1?3、8、10及び11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3、8、10及び11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
左右方向から見て、前記第1アンテナの少なくとも一部が、前記第2アンテナの少なくとも一部と重なる位置関係にあり、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置される、アンテナ装置。
【請求項2】
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記定在波の電圧最小点からの水平方向距離が前記定在波の波長の1/8以内となる範囲に位置し又は延在する、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部を有し、
前記第1アンテナは、前記第1板状部の中央部の下方に位置し、
前記第1板状部の長さが、前記第1アンテナの周波数帯の波長の1/2の奇数倍である、請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部と、前記第1アンテナの周波数帯を遮断するフィルタ部を介して前記第1板状部と電気的に接続された第2板状部と、を有する、アンテナ装置。
【請求項5】
共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナは、前記第1アンテナの上方に位置する第1板状部と、ミアンダラインを介して前記第1板状部と電気的に接続された第2板状部と、を有する、アンテナ装置。
【請求項6】
前記第1板状部と、前記第2板状部とが、前後方向に分かれて配置されている、請求項4又は5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナは、少なくとも前記第1アンテナの上方に位置する部分が、左右方向に分割されている、アンテナ装置。
【請求項8】
前記第2アンテナと電気的に接続されたヘリカル素子を備えている、請求項1から7のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
共通のケース内に設けられた第1及び第2アンテナを備え、
前記第2アンテナは、板状であって前記第1アンテナの上方に位置し、
前記第1アンテナの周波数帯の周波数が、前記第2アンテナの周波数帯の周波数よりも高く、
前記第1アンテナは、前記第2アンテナに発生する前記第1アンテナの周波数帯の定在波の電圧最大点を避けて配置され、
前記第2アンテナと電気的に接続されたヘリカル素子を備え、
前記ヘリカル素子は、螺旋状かつ自身の巻軸方向から見て楕円状に周回する、アンテナ装置。
【請求項10】
前記ケースと共に前記第1及び第2アンテナの収容空間を形成するベースを備え、
前記第1アンテナは、前記ベースに対して略垂直となる部分を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
前記第1アンテナが、TELアンテナ、TVアンテナ、キーレスエントリー用アンテナ、車々間通信用アンテナ又はWiFi用アンテナであり、前記第2アンテナが、AM/FMアンテナ又はDAB受信アンテナである、請求項1から10のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-12 
出願番号 特願2018-500002(P2018-500002)
審決分類 P 1 652・ 857- YAA (H01Q)
P 1 652・ 851- YAA (H01Q)
P 1 652・ 855- YAA (H01Q)
P 1 652・ 856- YAA (H01Q)
P 1 652・ 854- YAA (H01Q)
P 1 652・ 121- YAA (H01Q)
P 1 652・ 113- YAA (H01Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 当秀  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 丸山 高政
衣鳩 文彦
登録日 2018-10-19 
登録番号 特許第6420523号(P6420523)
権利者 株式会社ヨコオ
発明の名称 アンテナ装置  
代理人 野中 剛  
代理人 野中 剛  

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