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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1358615
異議申立番号 異議2018-701004  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-12 
確定日 2019-12-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6340877号発明「リン含有エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂組成物、硬化物及び電気・電子回路用積層板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6340877号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第6340877号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6340877号(平成26年3月31日出願)は、平成30年5月25日付けでその特許権の設定登録がされ、同年6月13日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?14に係る特許に対して、同年12月12日に特許異議申立人 川島克之(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

平成31年 3月13日付け:取消理由の通知
令和 元年 5月14日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年 6月18日 :意見書の提出(申立人)
同年 7月 5日付け:取消理由<決定の予告>の通知
同年 9月 5日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年10月15日 :意見書の提出(申立人)

第2 訂正の可否
1 訂正の内容
令和元年9月5日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1?14は一群の請求項である。

訂正事項A:
特許請求の範囲の請求項1の
「上記式(4)で表される化学構造とを少なくとも含み、」
を、
「上記式(4)で表される化学構造とを少なくとも含み、式(4)で表される化学構造がA全体のモル数に対して10モル%以上65モル%以下含まれており、」
に訂正する。

訂正事項B:
特許請求の範囲の請求項1の
「X^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基及び/又はシクロドデシレン基であり、」
を、
「X^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基であり、」
に訂正する。

訂正事項C:
特許請求の範囲の請求項4の
「上記式(4)’で表される化学構造とを少なくとも含み、」
を、
「上記式(4)’で表される化学構造とを少なくとも含み、式(4)’で表される化学構造を、式(9)中のA’と式(10)中のA”の合計のモル数に対して10モル%以上65モル%以下含み、」
に訂正する。

訂正事項D:
特許請求の範囲の請求項4の
「X’^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基及び/又はシクロドデシレン基であり、」
を、
「X’^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基であり、」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項Aは、訂正前の請求項1に係る「式(4)で表される化学構造」に関し、請求項1に係る「リン含有エポキシ樹脂」における存在量を、本件明細書【0074】の記載「溶剤溶解性やコストの観点から、好ましくは前記式(4)で表される化学構造がA全体のモル数に対して…、10モル%以上含まれていることが更に好ましく、…。また、リン原子に起因する難燃性を十分に発現させるという観点から、前記式(4)で表される化学構造が、A全体のモル数に対して…、とりわけ好ましくは65モル%以下含まれる。」に基づき限定するものである。
訂正事項Bは、X^(1)の選択肢が「トリメチルシクロヘキシレン基及び/又はシクロドデシレン基」であったものを「トリメチルシクロへキシレン基」のみに限定するものである。
訂正事項Cは、訂正前の請求項4に係る「式(4)’で表される化学構造」に関し、請求項4に係る「リン含有エポキシ樹脂」における存在量を、本件明細書【0110】の記載「溶剤溶解性やコストの観点から、前記式(4)’で表される化学構造が、前記式(9)中のA’と前記式(10)中のA”の合計のモル数に対して…、更に好ましくは10モル%以上…含まれる。また、リン原子に起因する難燃性を十分に発現させるという観点からは、前記式(4)’で表される化学構造が、前記式(9)中のA’と前記式(10)中のA”の合計のモル数に対して…、特に好ましくは65モル%以下含まれる。」に基づき限定するものである。
訂正事項Dは、X’^(1)の選択肢が「トリメチルシクロヘキシレン基及び/又はシクロドデシレン基」であったものを「トリメチルシクロへキシレン基」のみに限定するものである。

したがって、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件訂正後の請求項1?14に係る発明
本件訂正により訂正された訂正請求項1?14に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。

【請求項1】
下記式(1)で表され、重量平均分子量(Mw)が1,000?200,000であるリン含有エポキシ樹脂。
【化1】

(上記式(1)中、Aは上記式(2)及び/又は(3)で表される化学構造と、上記式(4)で表される化学構造とを少なくとも含み、式(4)で表される化学構造がA全体のモル数に対して10モル%以上65モル%以下含まれており、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に、水素原子又は上記式(5)で表される基であり、nは繰り返し数の平均値であり10以上500以下である。上記式(2)及び式(3)中、A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立に、上記式(6)及び/又は(7)で表される化学構造であり、R^(3)?R^(9)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(4)中、X^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基であり、R^(10)?R^(17)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(6)及び(7)中、R^(18)?R^(35)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。)
【請求項2】
前記式(1)中、前記式(2)及び/又は(3)で表される化学構造と前記式(4)で表される化学構造のモル比が、1/99?99/1である、請求項1に記載のリン含有エポキシ樹脂。
【請求項3】
前記式(1)中、Aとして下記式(8)で表される化学構造を含み、該式(8)で表される化学構造のモル数がA全体のモル数に対して1?99モル%である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂。
【化2】

(上記式(8)中、R^(36)?R^(43)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基であり、X^(2)は、直接結合、-SO_(2)-、-O-、-CO-、-C(CF_(3))_(2)-、-S-、又は炭素数1?20の非環状炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。)
【請求項4】
下記式(9)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(10)で表されるビスフェノール系化合物とを反応させて得られ、重量平均分子量(Mw)が1,000?200,000であるリン含有エポキシ樹脂。
【化3】

(上記式(9)中のA’と式(10)中のA”とで、上記式(2)’及び/又は(3)’で表される化学構造と、上記式(4)’で表される化学構造とを少なくとも含み、式(4)’で表される化学構造を、式(9)中のA’と式(10)中のA”の合計のモル数に対して10モル%以上65モル%以下含み、mは繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。上記式(2)’及び(3)’中、A’^(1)及びA’^(2)は、それぞれ独立に、上記式(6)’及び/又は(7)’で表される化学構造であり、R’^(3)?R’^(9)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(4)’中、X’^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基であり、R’^(10)?R’^(17)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(6)’及び(7)’中、R’^(18)?R’^(35)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。)
【請求項5】
前記式(9)及び(10)中、前記式(2)’及び/又は(3)’で表される化学構造と前記式(4)’で表される化学構造のモル比が、1/99?99/1である、請求項4に記載のリン含有エポキシ樹脂。
【請求項6】
前記式(9)中のA’及び/又は式(10)中のA”として下記式(8)’で表される化学構造を含み、該式(8)’で表される化学構造が式(9)中のA’及び式(10)中のA”の合計のモル数に対して1?99モル%である、請求項4又は5に記載のリン含有エポキシ樹脂。
【化4】

(上記式(8)中、R’^(36)?R’^(43)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基であり、X’^(2)は、直接結合、-SO_(2)-、-O-、-CO-、-C(CF_(3))_(2)-、-S-、又は炭素数1?20の非環状炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。)
【請求項7】
エポキシ当量が500g/当量以上100,000g/当量以下、又は水酸基当量が500g/当量以上100,000g/当量以下である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂と、硬化剤とを含むリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記リン含有エポキシ樹脂100質量部に対し、前記硬化剤を0.1?100質量部含む、請求項8に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
更に他のエポキシ樹脂を含み、固形分としてのリン含有エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の合計100質量部中、他のエポキシ樹脂を1?99質量部含む、請求項8又は9に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
前記リン含有エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の合計100質量部に対し、前記硬化剤を0.1?100質量部含む、請求項10に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
前記硬化剤がフェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、イミダゾール類、及び活性エステル系硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項8乃至11のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
請求項8乃至12のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物を用いてなる電気・電子回路用積層板。
【請求項14】
請求項8乃至12のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。

第4 取消理由通知<決定の予告>について
1 取消理由通知の概要
当審は、令和元年7月5日付け取消理由通知<決定の予告>において、概要以下のとおりの取消理由を通知した。
「当審は平成31年3月13日付け取消理由通知において、概要以下のとおりの取消理由を通知した。
『A(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

引用例1:特開2001-310939号公報(甲第1号証)
引用例2:特開2002-3711号公報(甲第5号証)
引用例3:特開2006-176658号公報(甲第2号証)
引用例4:特開2014-34629号公報(甲第4号証)

3 むすび
以上のことから、本件発明1?14に係る特許は、特許法第113号第2号に該当し、取り消すべきものである。』

2 引用例1に記載された発明に基づく取消理由

(3)まとめ
よって、本件発明1?14は、引用例1に記載された発明及び引用例3や4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

3 引用例2に記載された発明に基づく取消理由

(3)まとめ
よって、本件発明1?14は、引用例2に記載された発明及び引用例3や4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

4 まとめ
したがって、本件発明1?14は、引用例1又は2に記載された発明、及び、引用例3や4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1?14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本件発明1?14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113号第2号に該当し、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。」

2 引用例1に記載された発明に基づく取消理由
(1)引用例1の記載事項
引用例1には、<決定の予告>の第4の2(1)に示す事項が記載されている。

(2)引用例1に記載された発明との対比及び判断
ア 引用例1に記載された発明
引用例1には、<決定の予告>の第4の2(2)アに示す引用発明が記載されていると認められる。以下、再掲する。

<引用発明1C>
一般式(1)で表され、リン含有量が1重量%から6重量%であり、それ自体で難燃性のある、分子量が10,000から200,000の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
【化1】

式中、Xは、一般式(2)、(3)、(6)、(7)から選ばれるものであり、かつ、一般式(2)及び/または一般式(3)は必須成分である化合物の単独、または、それら複数を組み合わせたものであり、Zは、水素原子または式(9)のいずれかであり、nは21以上の値である。
【化2】

式中、Yは、一般式(4)、(5)から選ばれるものであり、R_(1)?R_(3)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、フェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(3)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化3】

式中、Yは、一般式(4)、(5)から選ばれるものであり、R_(1)?R_(4)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、フェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(4)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化4】

式中、R_(1)?R_(8)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、フェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(8)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化5】

式中、R_(1)?R_(10)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、フェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(10)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化6】

式中、R_(1)?R_(4)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、フェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(4)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化7】

式中、Aは、不存在、又は、-CH_(2)-、-C(CH_(3))_(2)-、-CHCH_(3)-、-S-、-SO_(2)-、-O-、-CO-、一般式(8)のいずれの2価の基から選ばれるものであり、R_(1)?R_(8)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、フェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(8)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化8】

式中、R_(1)?R_(8)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、フェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(8)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化9】


<引用発明1E1>
HCA-HQとYD-8125とを重合することで得られた、エポキシ当量17,200gr/eq、重量平均分子量62,000のポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
<引用発明1E2>
HCA-HQ及びビスフェノールAとYD-8125とを重合することで得られた、エポキシ当量13,300gr/eq、重量平均分子量38,000のポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
<引用発明1E3>
HCA-NQとYDF-8170及びYD-8125とを重合することで得られた、エポキシ当量40,800gr/eq、重量平均分子量88,000のポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
<引用発明1E4>
HCA-HQとYX-4000Hとを重合することで得られた、エポキシ当量37,000gr/eq、重量平分子量58,000のポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
<引用発明1E5>
HCA-NQ及びビスフェノールフルオレンとYDF-8170とを重合することで得られた、エポキシ当量12,500gr/eq、重量平均分子量33,000のポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
<引用発明1E6>
ジフェニルフォスフィニルハイドロキノンとYDF-8170とを重合することで得られた、フェノール性ヒドロキシ当量4,400gr/eq、重量平均分子量19,000のポリヒドロキシポリエーテル樹脂。

イ 本件訂正発明1について
(ア)本件訂正発明1と引用発明1Cとの対比
そうすると、本件訂正発明1と引用発明1Cとは、<決定の予告>の第4の2(2)イに示したことと同様、以下の点で一致する。

「下記式(1)で表され、重量平均分子量(Mw)が10,000?200,000であるリン含有エポキシ樹脂。
【化1】

(上記式(1)中、Aは上記式(2)及び/又は(3)で表される化学構造を少なくとも含み、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に、水素原子又は上記式(5)で表される基であり、nは繰り返し数の平均値であり21以上500以下である。上記式(2)及び式(3)中、A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立に、上記式(6)及び/又は(7)で表される化学構造であり、R^(3)?R^(9)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、フェニル基から任意に選ばれる基である。上記式(6)及び(7)中、R^(18)?R^(35)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、フェニル基から任意に選ばれる基である。)」

そして、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
上記式(1)のAの化学構造として、本件訂正発明1は、

上記式(4)(X^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基)で表されるものを、A全体のモル数に対して10モル%以上65モル%以下含むのに対し、引用発明1Cは、上記式(4)で表される化学構造を含むことの規定のない点。

(イ)上記(ア)の対比を踏まえた判断
a <決定の予告>第4の2(2)ウ(ア)で示したとおり、本件明細書には、本件訂正発明1が上記式(4)の化学構造を含むことに関する記載がある。

b この点に関し、引用例3には、<決定の予告>第4の2(2)ウ(イ)の<引用例3>で示したとおりの記載がある。

c 引用例3には、OH基を二個有する化合物とエポキシ基を二個有する化合物とを重合することで得られる、本件請求項1の式(1)に類似したエポキシ樹脂が記載されており、更に、該エポキシ樹脂の合成において、その単量体に「トリメチルシクロヘキサン」単位を挟んだビスフェノール化合物を採用することにより、溶剤溶解性、耐熱性、低吸水性(低吸湿性)が得られることが記載されている(例えば、<決定の予告>第4の2(2)ウ(イ)aの一般式(3)、同cの【0024】)。
しかし、引用発明1Cが解決しようとする課題は、難燃性を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂の提供であり(<決定の予告>第4の2(1)イの【0003】)、引用例3には、「トリメチルシクロヘキサン」単位を挟んだビスフェノール化合物と難燃性との関係については何ら記載されていない。そして、仮に、溶剤溶解性、耐熱性、低吸水性を得るために、引用例3の記載に基づき、「トリメチルシクロヘキサン」単位を挟んだビスフェノール化合物の使用をなしうるといえるとしても、本件訂正発明1でいう難燃性、すなわち、残炭率が15%以上という物性を得ることができるとまで予見しうる根拠は各引用例からは見いだせず、また、そうであることが本件出願日前における周知の技術的知見であるとはいえない。更に、Tgで評価される係る難燃性についても、引用例3では精々155℃であり、本件訂正発明1のような、161℃までの高いTgを予見することはできない。

d したがって、本件訂正発明1は、引用例1に記載された発明及び引用例3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものということはできない。

ウ 本件訂正発明4について
<決定の予告>第4の2(2)カに示すように、本件訂正発明4と引用発明1E1?6とは、以下の点で相違する。

<相違点4>
式(9)中のA’と式(10)中のA”の化学構造として、本件訂正発明4は、

上記式(4)’(X’^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基)で表されるものを、式(9)中のA’と式(10)中のA”の合計のモル数に対して10モル%以上65モル%以下含むのに対し、引用発明1E1?6は、上記式(4)’に相当する化学構造を含むことの規定のない点。

相違点4に関しては、上記イ(イ)で検討したことと同様である。したがって、本件訂正発明4は、引用例1に記載された発明及び引用例3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものということはできない。

エ 本件訂正発明2、3、5?14について
本件訂正発明2、3、5?14は、本件訂正発明1あるいは4を直接的あるいは間接的に引用するものである。そして、上述のとおり、本件訂正発明1、4のいずれも、引用例1に記載された発明及び引用例3に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得たものともいうことはできないことに鑑みると、本件訂正発明2、3、5?14についても、引用例1に記載された発明及び引用例3に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得たものともいうことはできない。

(3)まとめ
よって、<決定の予告>で示した取消理由のうち、引用例1に記載された発明に基づくものには理由がない。

3 引用例2に記載された発明に基づく取消理由
引用例2には、<決定の予告>第4の3(1)に示した記載事項があり、同(2)アの引用発明2C及び2E1?12の引用発明が記載されているといえる。
そして、<決定の予告>第4の3(2)イに示したことと同様に、本件訂正発明1と引用発明2Cとは、上記2(2)イ(ア)の<相違点1>と同一の点で相違する。
そうすると、上記2(2)イ(イ)で検討したことと同様の理由により、本件訂正発明1は、引用例2に記載された発明及び引用例3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものということはできない。
また、上記2(2)ウ及びエに示したことと同様に、本件訂正発明4及び本件訂正発明2、3、5?14は、引用例2に記載された発明及び引用例3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものということはできない。
よって、<決定の予告>で示した取消理由のうち、引用例2に記載された発明に基づくものには理由がない。

4 まとめ
したがって、本件訂正発明1?14は、引用例1又は2に記載された発明、及び、引用例3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、<決定の予告>で示した取消理由には、理由がない。

第5 平成31年3月13日付け取消理由通知について
標記取消理由通知に示した取消理由は<決定の予告>に示したものと同旨である。
したがって、上記第4の4と同様、標記取消理由通知に示した取消理由には、理由がない。

第6 異議申立ての理由についての検討
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
甲第1号証:特開2001-310939号公報(上記第4の1の引用例1)
甲第2号証:特開2006-176658号公報(上記第4の1の引用例3)
甲第3号証:特表2013-512987号公報
甲第4号証:特開2014-34629号公報(上記第4の1の引用例4)
甲第5号証:特開2002-3711号公報(上記第4の1の引用例2)
甲第6号証:特開2007-177054号公報
(以下、甲第1?6号証を「甲1」?「甲6」という。)

・申立ての理由1
本件発明1?14は、甲1、甲5又は甲6に記載された発明に基づき、甲2、甲3又は甲4を参照することにより、当業者が容易に発明することができたものである。
よって、本件発明1?14は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・申立ての理由2
本件発明1?14は、明細書及び特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 申立ての理由1について
甲1(引用例1)あるいは甲5(引用例2)に記載された発明、及び、甲2(引用例3)あるいは甲4(引用例4)に記載された技術事項に基づく取消理由については上述したとおりであるが、まずは甲6に記載された発明に基づく申立ての理由について検討する。

(1)甲6に記載された発明に基づく申立ての理由について
ア 甲6の記載事項
(ア)「【請求項1】
一般式(1)で表され、リン含有量が1重量%から6重量%であり、それ自体で難燃性のある、重量平均分子量が10,000から200,000の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
【化1】

式中、Xは、一般式(2)、(3)、(6)、(7)、(8)から選ばれるものであって、一般式(2)及び/または一般式(3)は必須成分である化合物の単独、または、それら複数を組み合わせたものであり、かつ、一般式(8)は全Xの2モル%から50モル%の割合で存在し、Zは、水素原子または式(10)のいずれかであり、nは10以上の値である。
【化2】

式中、Yは、一般式(4)、(5)から選ばれるものであり、R_(1)?R_(3)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、またはフェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(3)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化3】

式中、Yは、一般式(4)、(5)から選ばれるものであり、R_(1)?R_(4)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、またはフェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(4)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化4】

式中、R_(1)?R_(8)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、またはフェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(8)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化5】

式中、R_(1)?R_(10)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、またはフェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(10)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化6】

式中、R_(1)?R_(4)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、またはフェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(4)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化7】

式中、Aは、直接結合、または、-CH_(2)-、-C(CH_(3))_(2)-、-CHCH_(3)-、-S-、-SO_(2)-、-O-、-CO-、一般式(9)のいずれの2価の基から選ばれるものであり、R_(1)?R_(8)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、またはフェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(8)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化8】

式中、Bは、炭素数2?64の2価カルボン酸残基を示し、環状脂肪族基、不飽和結合基、芳香族環、複素環、ヘテロ原子を含んでいても良い。
【化9】

式中、R_(1)?R_(8)は、水素原子、炭素数1?4のアルキル基、またはフェニル基のいずれかを表し、R_(1)?R_(8)のうちの2個以上が同一であっても良い。
【化10】



(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、電気用層間絶縁積層板、磁気テープバインダー、絶縁ワニス、自己融着エナメル電線ワニス等の電気・電子分野及び接着剤、絶縁塗料やフィルム等として有用な、リンを含有することによりそれ自体難燃性を有する、耐熱性、低弾性、低応力である可撓性に優れ、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂及び熱可塑性ポリヒドロキポリエーテル樹脂・エポキシ樹脂・硬化剤・添加剤・充填材からなる樹脂組成物並びこれらを用いた接着フィルム及びプルプレグ、さらにはこれらを用いた積層板、多層プリント配線板や絶縁性フィルムに関する。また、本発明の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂及びそれを配合した樹脂組成物は各種の成形材料、塗料、複合材料等に有用に用いることができる。

【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂とほぼ同等の粘度を有し、さらにハロゲン化物を使用しないで、それ自体で難燃性を有する、低弾性で、柔軟性に優れ、溶解溶剤選択性が無く、人体に無害な溶媒に可溶で、様々なゴム成分・熱可塑性樹脂成分との相溶性の良い熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂及び該樹脂から成形される絶縁性フィルム、及び層間絶縁材用エポキシ樹脂組成物、及びこれらを用いた接着フィルム・プリプレグ等を提供することを目的とするものである。」

(ウ)「【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明による熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂を用いると、弾性率が小さく、柔軟な密着性の優れた、かつガラス転移点が90℃を越えるハロゲンを使用しない難燃性フィルムが得られる。これは、通常の使用範囲において必要十分な耐熱性を有し、比較的高温環境においても物性が実質上低下しない絶縁フィルムが製造可能なことに相当するものである。また、ゴムや溶剤との相溶性も改善されていて、その技術上の意味に大きなものがある。」

(エ)「【実施例】
【0052】
以下、合成例、実施例及び比較例に基づき本発明を具体的に説明するが本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。以下の合成例、実施例及び比較例に於いて、「部」は「重量部」を示す。さらに本発明では以下の試験方法を使用した。

(7)リン含有量:蛍光X線装置で測定し、樹脂固形分としての値に換算した。
(8)ガラス転移温度:TMAにて、20℃から5℃/分の昇温速度による測定した。
(9)弾性率:DMSにて、20℃から2℃/分の昇温速度、周波数10Hzによる測定した。
(10)接着力:JIS K6854-1に準拠し、オートグラフにて、25℃雰囲気下、50mm/minによる測定した。
(11)燃焼性:UL-94規格に従い垂直法により評価した。
【0053】
合成例1
ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル(坂本薬品工業製SR-HHPA)を、真空薄膜蒸留装置(短行程蒸留装置KD4型、UIC GmbH社製)を用い、系内温度:180℃、系内圧力:0.1Pa、供給速度10ml/minの条件で1時間かけて減圧蒸留して、エポキシ当量145g/eq、加水分解性塩素200ppm、αジオール含有量4meq/100gのエポキシ樹脂Aを300g得た。同エポキシ樹脂Aを163g、リン含有フェノール(三光化学製HCA-HQ、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、水酸基当量162g/eq、リン含有量9.5%)を182部、シクロヘキサノンを148部、触媒として2エチル4メチルイミダゾール(四国化成工業製、以後2E4MZと略す)0.06部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃?170℃の温度で15時間反応させた後、シクロヘキサノン159部、メチルセロソルブ307部を加えて、エポキシ当量35,000g/eq、リン含有率5.0%、固形分濃度36%(以後NV.と略す)、酸価0.3mgKOH/g、重量平均分子量69,000のヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルに起因するカルボン酸残基を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを950部得た。この樹脂を合成樹脂ワニスIとした。合成樹脂ワニスIを離型フィルム(PET)に溶剤乾燥後の樹脂厚みが60μmになる様にローラーコーターにて塗布し、140℃?160℃、30?60分間溶剤乾燥を行った後、離型フィルムから樹脂フィルムを剥がし絶縁性フィルムを得た。また、標準試験板(PM-3118M、日本テストパネル工業製)に、得られた絶縁性フィルムと35μm銅箔(3EC-III、三井金属鉱業製)を重ねてドライラミネーターにより160℃でラミネートして、銅箔剥離強度測定用試験片を得た。また、CCL-HL830(三菱瓦斯化学製銅張積層板、UL-94V-0、0.8mm板)の銅箔を除去した物に絶縁性フィルムを離型紙付きで重ねてドライラミネーターにより160℃でラミネートした後、離型フィルムを剥がし、燃焼性測定用試験片を得た。さらに、合成樹脂ワニスIの固形分9部に対し、ゴムとしてPNR-1H(日本合成ゴム製、カルボキシル基含有低イオン多官能NBR、酸当量1,395g/eq、CN含有量27%、ムーニー粘度60)1部を混合してゴム相溶性試験サンプルとした。判定は、目視にて、相溶した物を○とし、分離や白濁した物を×とした。また、合成樹脂ワニスI90部にMEKを10部混合溶解しMEK相溶性試験サンプルとした。判定は、目視にて、透明な物を○、白濁した物を×とした。
【0054】
合成例2
リン含有フェノールとしてHCA-HQ(前述)を162部、水添ダイマー酸(ユニケマ製プリポール1009、カルボン酸当量286g/eq)を26部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成製YD-8125、エポキシ当量172g/eq、加水分解性塩素160ppm、αジオール含有量3meq/100g)を194部、シクロヘキサノンを164部、触媒としてトリフェニルフォスフィン(北興化学製、以後、TPPと略す)0.2部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃?170℃の温度で18時間反応させた後、シクロヘキサノン123部、メチルセロソルブ287部を加えて、エポキシ当量9,300g/eq、リン含有率4.0%、NV.40%、酸価0.3mgKOH/g、重量平均分子量42,000の水添ダイマー酸に起因するカルボン酸残基を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを950部得た。この樹脂を合成樹脂ワニスIIとした。合成樹脂ワニスIIを使用した以外は合成例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。
【0055】
合成例3
2価アルコール(新日本理化製シクロヘキサンジメタノール)21部、無水こはく酸(試薬)29部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、135℃?165℃の温度で4時間反応させた後、リン含有フェノールとしてHCA-HQ(前述)を65部、ビスフェノールフルオレン(新日鐵化学製、水酸基当量175g/eq)58部、ビフェノール型エポキシ樹脂(東都化成製YDC-1500、エポキシ当量194g/eq、加水分解性塩素120ppm、αジオール含有量2meq/100g)を205部、シクロヘキサノンを162部、触媒として2E4MZ0.10部を追加し、さらに、常圧、155℃?175℃の温度で10時間反応させた後、シクロヘキサノン122部、メチルセロソルブ284部を加えて、エポキシ当量5,900g/eq、リン含有率1.6%、NV.40%、酸価0.2mgKOH/g、重量平分子量28,000のシクロヘキサンジメタノールと無水こはく酸反応物に起因するカルボン酸残基を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを945部得た。この樹脂を合成樹脂ワニスIIIとした。合成樹脂ワニスIIIを使用した以外は合成例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。
【0056】
合成例4
リン含有フェノールとしてジフェニルフォスフィニルハイドロキノン(水酸基当量155g/eq、リン含有量10.0%)を140部、アジピン酸(カルボン酸当量73g/eq)を18部、ヒドロキノン型エポキシ樹脂(東都化成製YDC-1312、エポキシ当量176g/eq、加水分解性塩素80ppm、αジオール含有量2meq/100g)を207部、シクロヘキサノンを156部、触媒としてTPP(前述)0.37部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃?170℃の温度で8時間反応させた後、シクロヘキサノンを141部、メチルセロソルブ298部を加えて、エポキシ当量11,000g/eq、リン含有率3.8%、NV.40%、酸価0.3mgKOH/g、重量平均分子量58,000のアジピン酸に起因するカルボン酸残基を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを955部得た。この樹脂を合成樹脂ワニスIVとした。合成樹脂ワニスIVを使用した以外は合成例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。
【0057】
合成例5
リン含有フェノールとしてHCA-NQ(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドと1,4-ナフトキノンとの反応物、水酸基当量187g/eq、リン含有量8.2%)を97部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成製YD-128、エポキシ当量187g/eq、加水分解性塩素200ppm、αジオール含有量5meq/100g)を170部、ダイマー酸(ユニケマ製プリポール1098、カルボン酸当量326g/eq)を103部、シクロヘキサノンを159部、触媒として2E4MZ(前述)0.04部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃?170℃の温度で10時間反応させた後、シクロヘキサノン119部、メチルセロソルブ278部を加えて、エポキシ当量4,500g/eq、リン含有率2.1%、NV.40%、酸価0.1mgKOH/g、重量平均分子量19,000のダイマー酸に起因するカルボン酸残基を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂のシクロヘキサノン・メチルセロソルブ混合ワニスを920部得た。この樹脂を合成樹脂ワニスVとした。合成樹脂ワニスVを使用した以外は合成例1と全く同様に行い、絶縁性フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、燃焼性測定用試験片、ゴム相溶性試験サンプル、及び、MEK相溶性試験サンプルを得た。

【0061】
実施例1
合成例1で得られた合成樹脂ワニスI277.8部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た。この組成物ワニスを離型フィルム(前述)へ溶剤乾燥後の樹脂厚みが60μmになるようにローラーコーターにて塗布し、130℃?150℃、60分間溶剤乾燥及び硬化を行った後、離型フィルムから樹脂フィルムを剥がし、さらに樹脂フィルムを180℃、60分間後硬化させて、硬化フィルムを得た。それとは別に、標準試験板(前述)に溶剤乾燥後の樹脂厚みが50μmになるようにローラーコーターにて組成物ワニスを塗布し、130℃?150℃、5分?15分間溶剤乾燥を行った後、35μm銅箔(前述)を重ねてドライラミネーターにより180℃でラミネートして、銅箔剥離強度測定用試験片を得た。また、CCL-HL830(前述)の銅箔を除去した物に溶剤乾燥後の樹脂厚みが60μmになる様にローラーコーターにて塗布し、140℃?160℃、30?60分間溶剤乾燥した後、180℃、60分間後硬化させて、燃焼性測定用試験片を得た。
【0062】
実施例2
合成例2で得られた合成樹脂ワニスII250.0部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてジシアンジアミド(日本カーバイト製、以後DICYと略す)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例1と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。
【0063】
実施例3
合成例3で得られた合成樹脂ワニスIII250.0部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例1と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。
【0064】
実施例4
合成例4で得られた合成樹脂ワニスIV263.2部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例1と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。
【0065】
実施例5
合成例5で得られた合成樹脂ワニスV250.0部とエポキシ樹脂としてYD-128(前述)25.0部、硬化剤としてDICY(前述)1.4部、硬化促進剤として2E4MZ(前述)0.15部、溶剤としてメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドをそれぞれ20.0部加え均一に攪拌混合し、エポキシ樹脂組成物ワニスを得た以外は実施例1と全く同様に硬化フィルム、銅箔剥離強度測定用試験片、及び、燃焼性測定用試験片を得た。

【0069】
分子量は合成例1?5と比較合成例1?3で得られた合成樹脂ワニスを、ガラス転移温度及び弾性率は合成例1?5と比較合成例1?3で得られた絶縁性フィルム及び実施例1?5と比較例1?3で得られた硬化フィルムを、接着力は合成例1?5と比較合成例1?3で得られた銅箔剥離強度測定用試験片及び実施例1?5と比較例1?3で得られた銅箔剥離強度測定用試験片を、難燃性は合成例1?5と比較合成例1?3で得られた燃焼性測定用試験片及び実施例1?5と比較例1?3で得られた燃焼性測定用試験片をそれぞれ使用して測定した。
これらの測定結果を表1および表2に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
比較合成例1及び比較例1においては、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中のカルボン酸量が0モル%と3モル%より小さく、弾性率が1.2GPaと実施例に比較して高弾性率となっている。また、MEK相溶性、ゴム相溶性がともに×で、相溶性が悪いことを示している。比較合成例2及び比較例2においては、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中のリン含有量が0.6重量%と1重量%よりも小さく、難燃性(UL-94)がV-1で、実施例に比較し難燃性が充分でないことを示している。比較合成例3及び比較例3においては、熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂中のカルボン酸量が0モル%と3モル%より小さく、弾性率が25℃で1.2GPa、100℃で0.1GPaと実施例の安定した弾性率に比較して、常温付近では高弾性で、高温時に弾性率の急激に低下している。また、リン含有量が0重量%と1重量%よりも小さく、難燃性(UL-94)がNGとなっている。」

イ 甲6に記載された発明との対比及び判断
(ア)甲6に記載された発明
甲6には、特許請求の範囲の記載(上記ア(ア))から下記の引用発明6C、実施例の記載(上記ア(エ))から下記の引用発明6E1?5が記載されていると認められる。

<引用発明6C>
上記ア(ア)と同じ。
<引用発明6E1>
ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルを減圧蒸留して得られた、エポキシ当量145g/eq、加水分解性塩素200ppm、αジオール含有量4meq/100gのエポキシ樹脂Aと、リン含有フェノール(HCA-HQ)とを重合することで得られた、エポキシ当量35,000g/eq、重量平均分子量69,000のヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルに起因するカルボン酸残基を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
<引用発明6E2>
HCA-HQと、水添ダイマー酸(プリポール1009)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(YD-8125)とを重合することで得られた、エポキシ当量9,300g/eq、重量平均分子量42,000の水添ダイマー酸に起因するカルボン酸残基を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
<引用発明6E3>
シクロヘキサンジメタノールと無水こはく酸とを反応させた後、HCA-HQとビスフェノールフルオレンとビフェノール型エポキシ樹脂(YDC-1500)を追加して重合することで得られた、エポキシ当量5,900g/eq、重量平分子量28,000のシクロヘキサンジメタノールと無水こはく酸反応物に起因するカルボン酸残基を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
<引用発明6E4>
ジフェニルフォスフィニルハイドロキノンと、アジピン酸と、ヒドロキノン型エポキシ樹脂(YDC-1312)を重合することで得られた、エポキシ当量11,000g/eq、重量平均分子量58,000のアジピン酸に起因するカルボン酸残基を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。
<引用発明6E5>
HCA-NQと、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(YD-128)と、ダイマー酸(プリポール1098)とを重合することで得られた、エポキシ当量4,500g/eq、重量平均分子量19,000のダイマー酸に起因するカルボン酸残基を有する熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂。

(イ)本件訂正発明1について
a 本件訂正発明1と引用発明6Cとの対比
各置換基に関し、本件訂正発明1のR^(1)及びR^(2)と引用発明6CのZとは共通する。本件訂正発明1のAと引用発明6CのXとは、本件訂正発明1における、R^(3)?R^(9)及びR^(18)?R^(35)が水素原子、炭素数1?4のアルキル基、炭素数6のアリール基のいずれかである、式(6)又は(7)の置換基を有する式(2)又は(3)の化学構造を含むことで共通する。
そうすると、本件訂正発明1と引用発明6Cとは、例えば上記第4の2(2)イ(ア)に示した、本件訂正発明1と引用発明1C、あるいは、本件訂正発明1と引用発明2Cと同一の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点A>
上記式(1)のAの化学構造として、本件訂正発明1は、

上記式(4)(X^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基)で表されるものを、A全体のモル数に対して10モル%以上65モル%以下含むのに対し、引用発明6Cは、上記式(4)で表される化学構造を含むことの規定のない点。
<相違点B>
上記式(1)のAの化学構造として、引用発明6Cは、

上記式(8)で表されるものを、A全体のモル数に対して2モル%以上50モル%以下含むのに対し、本件訂正発明1は、上記式(8)で表される化学構造を含むことの規定のない点。

b 上記aの対比を踏まえた判断
上記相違点Aは、上記第4の2(2)イ(ア)に示した相違点1と同一である。
そして、甲2?4のいずれにも、「トリメチルシクロヘキサン」単位を挟んだビスフェノール化合物の使用により、本件訂正発明でいう難燃性、すなわち、残炭率が15%以上という物性を得ることができるとまで予見しうる根拠を見いだすことはできず、また、そうであることが本件出願日前における周知の技術的知見であるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲6に記載された発明及び甲2?4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものということはできない。

(ウ)本件訂正発明4について
a 本件訂正発明4と引用発明6E1?5との対比
本件訂正発明4と引用発明6E1?5とは、以下の点で相違する。

<相違点C>
式(9)中のA’と式(10)中のA”の化学構造として、本件訂正発明4は、

上記式(4)’(X’^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基)で表されるものを、式(9)中のA’と式(10)中のA”の合計のモル数に対して10モル%以上65モル%以下含むのに対し、引用発明6E1?5は、上記式(4)’に相当する化学構造を含むことの規定のない点。
<相違点D>
式(9)中のA’と式(10)中のA”の化学構造として、引用発明6E1?5は、

上記式(8)で表されるものを、式(9)中のA’と式(10)中のA”の合計のモル数に対して2モル%以上50モル%以下含むのに対し、本件訂正発明4は、上記式(8)で表される化学構造を含むことの規定のない点。

b 上記aの対比を踏まえた判断
相違点Cに関しては、上記(イ)bで検討したことと同様である。したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明4は、甲6に記載された発明及び甲2?4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものということはできない。

(エ)本件訂正発明2、3、5?14について
本件訂正発明2、3、5?14は、本件訂正発明1あるいは4を直接的あるいは間接的に引用するものである。そして、上述のとおり、本件訂正発明1、4のいずれも、甲6に記載された発明及び甲2?4に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得たものということはできないことに鑑みると、本件訂正発明2、3、5?14についても、甲6に記載された発明及び甲2?4に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得たものということはできない。

(2)甲1に記載された発明、あるいは、甲5に記載された発明に基づく申立ての理由について
甲1に記載された発明、あるいは、甲5に記載された発明に関し、既に検討した甲2や甲4のみならず、甲3にも「トリメチルシクロヘキサン」単位を挟んだビスフェノール化合物の使用により、本件訂正発明でいう難燃性、すなわち、残炭率が15%以上という物性を得ることができるとまで予見しうる根拠を見いだすことはできず、また、そうであることが本件出願日前における周知の技術的知見であるとはいえない。
そうすると、本件訂正発明1?14は、甲1や5に記載された発明及び甲2?4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものということはできない。

(3)まとめ
よって、申立ての理由1には、理由がない。

3 申立ての理由2について
申立ての理由2に関しては、申立人が、いわゆる実施可能要件違反及びサポート要件違反を、特許異議申立書24?25頁の4)においてまとめて主張していることに鑑みて、上記4)のア)?カ)のそれぞれの主張ごとに順次検討する。

(1)本件明細書の実施例について(上記ア))
申立人は大旨次のように主張する。
「本件明細書の実施例は実施例1-1?1-5の五つしか示されておらず、一般式(1)中、式(2)(6)(7)に対応する例は各一つ、式(3)の例はなく、式(4)の例はX^(1)がトリメチルシクロヘキシリデン基又はシクロドデシレン基のものしかない。」

しかし、本件訂正発明は、X^(1)が、実施例1-1?1-2に則したトリメチルシクロヘキシリデン基(「シクロヘキシレン基」と「シクロヘキシリデン基」の文言解釈については、下記(2)で検討する。)となった。また、式(3)の例はないとしても、式(2)を用いた実施例があることに鑑みると、フェニレン基である式(2)で実施しうる本件訂正発明が、ナフチレン基である式(3)を用いても実施しうるものと容易に推定でき、また、式(3)の構造のものが本件訂正発明の実施例となるとはいえないと解釈できる技術的根拠は見いだせず、また、申立人においてもこれを明らかにしない。
したがって、上記主張を根拠とした本件発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載の不備を見いだすことができない。

(2)「シクロヘキシレン基」と「シクロヘキシリデン基」について(上記イ))
申立人は大旨次のように主張する。
「本件明細書の実施例では、式(4)中のX^(1)は『トリメチルシクロヘキシリデン基』であるが、本件発明1の式(4)の定義において、『X^(1)はシクロヘキシレン基』と規定されており、これは『シクロヘキシリデン基』とは相違する。そして、両者は構造が大きく異なるので同等の効果を奏するか明らかでない。」

この点に関し、本件明細書【0062】?【0063】には以下の記載がある。
「【0062】
前記式(4)中のX^(1)としての炭素数5?20の2価の環状炭化水素基は、アルキル基等の置換基を有していてもよく、飽和の環状炭化水素基(即ち、シクロアルキレン基)であってもよく、…。ここで、X^(1)の「2価の環状炭化水素基」とは、ビスフェノール構造が直接結合している炭素原子が環状構造に含まれていることを意味する。X^(1)としての炭素数5?20の2価の環状炭化水素基としては、次のようなものが挙げられる。例えば…、シクロヘキシレン基…等である。
【0063】
これらの中でも、溶剤溶解性に加えて耐熱性も良好なものとする観点から、式(4)における2つのベンゼン環がX^(1)の環状炭化水素基の1つの炭素原子に結合する構造が好ましい。具体的には…、1,1-シクロヘキシレン基、4-メチル-1,1-シクロヘキシレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロへキシレン基…が好ましく、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロへキシレン基…がより好ましい。」
そして、実施例では、式(4)として「3,3,5-トリメチル-1,1-シクロへキシレン基」、すなわち「シクロへキシレン基」の構造を有するものが用いられている。
申立人のいう本件明細書の実施例の「シクロヘキシリデン基」は、上記本件明細書でいう「1,1-シクロへキシレン基」であるから、本件明細書の記載からみて、本件訂正発明における「『X^(1)はシクロヘキシレン基』…、これは『シクロヘキシリデン基』とは相違する。」とまではいえない。そして、この実施例に鑑みると、「1,1-シクロへキシレン基」以外の「シクロへキシレン基」を有するものが本件訂正発明の実施例となるとはいえないと解釈できる技術的根拠は見いだせず、また、申立人においてもこれを明らかにしない。
したがって、上記主張を根拠とした本件発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載の不備を見いだすことができない。

(3)リン含有エポキシ樹脂硬化物の耐熱性、難燃性、吸水率等について(上記ウ))
申立人は大旨次のように主張する。
「リン含有エポキシ樹脂硬化物の耐熱性、難燃性、吸水率等の特性は、リン含有エポキシ樹脂だけで決まるのではなく、他の配合成分の種類、配合量、硬化条件等によって大きく異なる。しかし、本件発明のいかなる範囲でもこのような硬化が奏するかは明らかではなく、当業者が本件発明を容易に実施することができない。」

本件訂正発明1及び4は、式(4)及び(4)’のX^(1)及びX^(1)’を「トリメチルシクロへキシレン基」のみに限定され、また、式(4)及び式(4)’の構造を10モル%以上65モル%以下含むものとなった。これにより、本件明細書の実施例の記載からみて、本件訂正発明に係るリン含有エポキシ樹脂硬化物は所定の耐熱性、難燃性、吸水率等の特性を有するものと解することができる。そして、申立人は、本件訂正発明が所定の耐熱性、難燃性、吸水率等の特性を有しないものを含むと解釈できる技術的根拠を明らかにしない。
したがって、上記主張を根拠とした本件発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載の不備を見いだすことができない。

(4)置換基R^(3)?R^(41)、R’^(3)?R’^(41)について(上記エ)及びオ))
申立人は大旨次のように主張する。
「本件発明における式(1)?(8)は置換基R^(3)?R^(41)を有するが、これらのいかなる基でも実施例に示されるような効果を奏するか明らかでない。少なくとも置換基R^(3)?R^(41)は、本件発明の効果を奏することに関して技術的に不可能と思われる範囲を含み、当業者が容易に実施することができないことはもちろん、理解さえできない。式(9)及び式(10)、式(2)’?式(8)’についても同様である。」

上記(3)で述べたとおり、本件訂正発明1及び4は、式(4)及び(4)’のX^(1)及びX^(1)’を「トリメチルシクロへキシレン基」のみに限定され、また、式(4)及び式(4)’の構造を10モル%以上65モル%以下含むものとなった。これにより、本件明細書の実施例の記載からみて、本件訂正発明は所定の効果を奏するものと解することができる。そして、申立人は、本件訂正発明が所定の効果を奏さないものを含むと解釈できる技術的根拠を明らかにしない。
したがって、上記主張を根拠とした本件発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載の不備を見いだすことができない。

(5)特定の重量平均分子量の「フェノキシ樹脂」について(上記カ))
申立人は大旨次のように主張する。
「本件発明では、Mw1,000?200,000の広範な範囲を規定しているが、実施例におけるエポキシ樹脂(Mw15,200?30,600)は、いわゆるフェノキシ樹脂の範囲であり、熱可塑性樹脂としての性質を有するものであるから、Mw1,000?10,000のエポキシ樹脂とは性質が違うと言え、同様の効果が得られるかどうかは判断できない。」

本件訂正発明の実施例である実施例1-1?1-2には、原料化合物におけるエポキシ基対水酸基のモル比において、エポキシ基過剰のもののみが示されている。確かに当該実施例はフェノキシ樹脂と同様の分子構造を有するが、この条件下であれば、得られる重合体においてエポキシ基が存在するものとなると解釈するのが相当であるし、更に、当該実施例においてエポキシ当量が示されていることからみて、得られた重合体はエポキシ樹脂はエポキシ樹脂であることが明らかである。
したがって、上記主張を根拠とした本件発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載の不備を見いだすことができない。

(6)まとめ
このため、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1?14を実施しうる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
また、本件訂正発明1?14は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
よって、申立ての理由2には理由がない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、申立人が主張する申立ての理由には、いずれにも理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、請求項1?14に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表され、重量平均分子量(Mw)が1,000?200,000であるリン含有エポキシ樹脂。
【化1】

(上記式(1)中、Aは上記式(2)及び/又は(3)で表される化学構造と、上記式(4)で表される化学構造とを少なくとも含み、式(4)で表される化学構造がA全体のモル数に対して10モル%以上65モル%以下含まれており、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立に、水素原子又は上記式(5)で表される基であり、nは繰り返し数の平均値であり10以上500以下である。上記式(2)及び式(3)中、A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立に、上記式(6)及び/又は(7)で表される化学構造であり、R^(3)?R^(9)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(4)中、X^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基であり、R^(10)?R^(17)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(6)及び(7)中、R^(18)?R^(35)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。)
【請求項2】
前記式(1)中、前記式(2)及び/又は(3)で表される化学構造と前記式(4)で表される化学構造のモル比が、1/99?99/1である、請求項1に記載のリン含有エポキシ樹脂。
【請求項3】
前記式(1)中、Aとして下記式(8)で表される化学構造を含み、該式(8)で表される化学構造のモル数がA全体のモル数に対して1?99モル%である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂。
【化2】

(上記式(8)中、R^(36)?R^(43)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基であり、X^(2)は、直接結合、-SO_(2)-、-O-、-CO-、-C(CF_(3))_(2)-、-S-、又は炭素数1?20の非環状炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。)
【請求項4】
下記式(9)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(10)で表されるビスフェノール系化合物とを反応させて得られ、重量平均分子量(Mw)が1,000?200,000であるリン含有エポキシ樹脂。
【化3】

(上記式(9)中のA’と式(10)中のA”とで、上記式(2)’及び/又は(3)’で表される化学構造と、上記式(4)’で表される化学構造とを少なくとも含み、式(4)’で表される化学構造を、式(9)中のA’と式(10)中のA”の合計のモル数に対して10モル%以上65モル%以下含み、mは繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。上記式(2)’及び(3)’中、A’^(1)及びA’^(2)は、それぞれ独立に、上記式(6)’及び/又は(7)’で表される化学構造であり、R’^(3)?R’^(9)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(4)’中、X’^(1)はトリメチルシクロヘキシレン基であり、R’^(10)?R’^(17)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。上記式(6)’及び(7)’中、R’^(18)?R’^(35)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。)
【請求項5】
前記式(9)及び(10)中、前記式(2)’及び/又は(3)’で表される化学構造と前記式(4)’で表される化学構造のモル比が、1/99?99/1である、請求項4に記載のリン含有エポキシ樹脂。
【請求項6】
前記式(9)中のA’及び/又は式(10)中のA”として下記式(8)’で表される化学構造を含み、該式(8)’で表される化学構造が式(9)中のA’及び式(10)中のA”の合計のモル数に対して1?99モル%である、請求項4又は5に記載のリン含有エポキシ樹脂。
【化4】

(上記式(8)中、R’^(36)?R’^(43)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12のアルキル基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数6?12のアリール基、炭素数2?12のアルケニル基、炭素数3?12のアルカジエニル基、及び炭素数2?12のアルキニル基から任意に選ばれる基であり、X’^(2)は、直接結合、-SO_(2)-、-O-、-CO-、-C(CF_(3))_(2)-、-S-、又は炭素数1?20の非環状炭化水素基から選ばれる2価の連結基である。)
【請求項7】
エポキシ当量が500g/当量以上100,000g/当量以下、又は水酸基当量が500g/当量以上100,000g/当量以下である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂と、硬化剤とを含むリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記リン含有エポキシ樹脂100質量部に対し、前記硬化剤を0.1?100質量部含む、請求項8に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
更に他のエポキシ樹脂を含み、固形分としてのリン含有エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の合計100質量部中、他のエポキシ樹脂を1?99質量部含む、請求項8又は9に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
前記リン含有エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の合計100質量部に対し、前記硬化剤を0.1?100質量部含む、請求項10に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
前記硬化剤がフェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、イミダゾール類、及び活性エステル系硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項8乃至11のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
請求項8乃至12のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物を用いてなる電気・電子回路用積層板。
【請求項14】
請求項8乃至12のいずれか1項に記載のリン含有エポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-22 
出願番号 特願2014-74118(P2014-74118)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08G)
P 1 651・ 536- YAA (C08G)
P 1 651・ 121- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐久 敬藤代 亮  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 大熊 幸治
大▲わき▼ 弘子
登録日 2018-05-25 
登録番号 特許第6340877号(P6340877)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 リン含有エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂組成物、硬化物及び電気・電子回路用積層板  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  

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