ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C01F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01F |
---|---|
管理番号 | 1358617 |
異議申立番号 | 異議2018-700784 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-09-28 |
確定日 | 2019-11-27 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6301209号発明「酸化マグネシウム系添加剤、及びその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6301209号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、7について訂正することを認める。 特許第6301209号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6301209号は、平成26年 6月24日に出願された特願2014-129046号の特許請求の範囲に記載された請求項1?7に係る発明について、平成30年 3月 9日に設定登録がされ、同年 3月28日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その全請求項に係る特許に対し、平成30年 9月28日付けでアクシス国際特許業務法人(以下、「申立人1」という。)により、また、その請求項1?6に係る特許に対し、平成30年 9月28日付けで合同会社SAS(以下、「申立人2」という。)により、2つの特許異議の申立てがされ、以下の手続がなされたものである。 平成30年12月12日付けの取消理由通知 平成31年 1月30日付けの訂正請求及び意見書の提出 同年 3月27日付けの意見書(申立人1)の提出 令和 元年 6月 3日付けの取消理由通知(決定の予告) 同年 7月19日付けの訂正請求及び意見書の提出 なお、平成31年 1月30日付けの訂正請求について、期間を指定して申立人2に意見を求めたが応答はなかった。 第2.訂正請求について 1.訂正の内容 令和元年7月19日付けの訂正請求は、次の訂正事項1及び2により、特許請求の範囲の訂正後の請求項1?6、7について訂正することを求めるものである(下線部は訂正箇所)。 なお、本訂正請求により、平成31年1月30日付けの訂正請求は取り下げられたものとみなす。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「表面処理物を含む酸化マグネシウム系添加剤」の記載を、「表面処理物を含む、熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウム系添加剤」と訂正する。 ここで、訂正前の請求項2?6は、請求項1を直接または間接的に引用しているから、訂正事項1による訂正は、一群の請求項1?6について請求するものと認められる。 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7の「を含む酸化マグネシウムの製造方法であって、」の記載を、「を含む、熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウムの製造方法であって、」と訂正し、同じく「である酸化マグネシウムの製造方法。」の記載を、「である、熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウムの製造方法。」と訂正する。 2.訂正要件の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、請求項1に係る発明の酸化マグネシウム系添加剤の添加対象を、熱硬化性樹脂用に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 そして、酸化マグネシウム系添加剤が熱硬化性樹脂用であることについては、願書に添付した明細書の【0013】に「本発明の樹脂組成物は、酸化マグネシウム系添加剤と、熱硬化性樹脂とを含有することが好ましい。これにより、本発明の酸化マグネシウム系添加剤が増粘剤として機能するため、初期粘度が低く、最終粘度に到達するまでの時間が短くなり、作業性等を向上させることができる。」と記載されていて、酸化マグネシウム系添加剤と熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物において、本発明の酸化マグネシウム系添加剤が増粘剤として機能することが把握できるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。 更に、訂正事項1による訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、請求項7に係る製造方法の発明により製造される酸化マグネシウムを、熱硬化性樹脂用に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 そして、熱硬化性樹脂用とすることについては、上記(1)で検討したとおりであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。 更に、訂正事項2による訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 なお、本件訂正請求においては、申立人1により全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3.むすび 以上、上記訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的としたものであり、また、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、訂正後の請求項〔1?6〕、7について訂正することを認める。 第3.本件発明について 上記第2.に記載のとおり訂正が認められるので、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?7」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「 【請求項1】 BET比表面積が10m^(2)/g以上80m^(2)/g未満であり、かつレーザー回折散乱式粒度分布測定器を用いた乾式粒度分布の平均粒子径が5μm以上10μm以下であり、 粒度分析計を用いた湿式粒度分布での平均粒子径に対する前記乾式粒度分布での平均粒子径の比率(乾式粒度分布での平均粒子径/湿式粒度分布での平均粒子径)が1.2以上3.0以下である酸化マグネシウム粒子、又はその表面処理物を含む、熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウム系添加剤。 【請求項2】 高級脂肪酸、高級脂肪酸アルカリ土類金属塩、カップリング剤、脂肪酸と多価アルコールとからなるエステル類、及びリン酸と高級アルコールとからなるリン酸エステル類からなる群より選択される少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されている請求項1に記載の酸化マグネシウム系添加剤。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム系添加剤と、熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物。 【請求項4】 熱硬化性樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含有する請求項3に記載の樹脂組成物。 【請求項5】 強化繊維を含有する請求項3又は4に記載の樹脂組成物。 【請求項6】 請求項3?5いずれか1項に記載の樹脂組成物より得られる成形体。 【請求項7】 焼成用原料として、水酸化マグネシウムスラリーを調製する工程、 前記水酸化マグネシウムスラリーを湿式粉砕する工程、及び 前記湿式粉砕を経て得られる水酸化マグネシウムを500?1000℃で焼成する工程 を含む、熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウムの製造方法であって、 前記水酸化マグネシウムのBET比表面積が30m^(2)/g以上70m^(2)/g以下であり、かつ沈降容積が35mL以上95mL以下であり、 前記酸化マグネシウムのBET比表面積が10m^(2)/g以上80m^(2)/g未満である、熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウムの製造方法。」 第4.取消理由について 1.令和元年6月3日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由について (1)取消理由の概要 平成31年1月30日付けの訂正請求により訂正されていない(訂正前の)請求項7に係る発明は、その製造方法により得られる酸化マグネシウムについて、熱硬化性樹脂に対する添加剤として増粘剤として機能する酸化マグネシウムが従来得られていなかったという本件発明に係る課題を解決できないものまでも含む発明である。 よって、訂正前の特許請求の範囲の請求項7の記載は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たしていないものであるから、訂正前の請求項7に係る発明に係る特許は、取り消されるべきものである。 (2)取消理由についての判断 訂正により、本件発明7に係る製造方法により得られる酸化マグネシウムは熱硬化性樹脂用として増粘性を付与するためのものであることが特定されたので、本件発明7は、本件発明の課題を解決しうると当業者が認識できるものであることは明らかである。 よって、令和元年6月3日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由は理由がない。 2.平成30年12月12日付け取消理由通知書で通知した取消理由について (1)取消理由の概要 訂正前の特許請求の範囲の記載は、下記(ア)?(ウ)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2?6に係る発明に係る特許は、取り消されるべきものである。 記 (ア)訂正前の請求項1に係る発明は、「酸化マグネシウム系添加剤」であって、FRP用の増粘剤に限定されていないことから、「レーザー回折散乱式粒度分布測定器を用いた乾式粒度分布の平均粒子径が5μm以上10μm以下であり、粒度分析計を用いた湿式粒度分布での平均粒子径に対する前記乾式粒度分布での平均粒子径の比率(乾式粒度分布での平均粒子径/湿式粒度分布での平均粒子径)が1.2以上3.0以下である」ことを発明特定事項とすることによる解決すべき課題が明らかでない。 (イ)本件特許明細書には、「湿式粒度分布での平均粒子径に対する前記乾式粒度分布での平均粒子径の比率」が2.4と1.6である2つの実施例しか記載されておらず、この比率を定めることの技術的意義が明らかでないから、当該2つの実施例の記載から「湿式粒度分布での平均粒子径に対する乾式粒度分布での平均粒子径の比率」を「1.2以上3.0以下」まで拡張ないし一般化できると当業者が認識できるものとはいえない。 (ウ)訂正前の請求項1に係る発明は、酸化マグネシウム粒子の表面が処理されたものも含むが、本件特許明細書には、表面処理が行われていない酸化マグネシウム粒子を用いた実施例しか記載されておらず、増粘剤としての機能を十分有するものが得られると当業者が認識できるものとはいえない。 (2)取消理由についての判断 (ア)本件発明1?6は、訂正により、「熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウム系添加剤」となって用途が限定された。そして、本件明細書の【0004】、【0006】、【0013】等の記載から、酸化マグネシウム系添加剤と熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物において、酸化マグネシウム系添加剤が増粘剤として機能できるようにすることが本件発明の解決すべき課題であると把握でき、同じく【0051】?【0065】の実施例及び比較例、特にその分析及び評価の結果を示した【0064】【表1】及び【0065】の記載から、実施例1又は実施例2では、FRP用の増粘剤として理想的な増粘作用を示していることから、「湿式粒度分布での平均粒子径に対する乾式粒度分布での平均粒子径の比率」と増粘性評価との関係性において、当該課題を解決できることが把握できることとなった。 よって、平成30年12月12日付け取消理由通知書で通知した取消理由の(ア)の点に理由はない。 この点について、申立人1は、平成31年3月27日付け意見書(4頁下から7行?5頁26行)において、「熱硬化性樹脂用」には、FRP用とそうでない用途があることは技術常識であり、「FRP用」であることを明記しない本件の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえないから、認められるべきでない旨を主張する。 しかし、本件明細書に記載された上記の増粘作用は、FRPの補強材を特に入れることなく増粘性評価試験が行われており(【0062】)、本件発明に係る酸化マグネシウム粒子を熱硬化性樹脂に対する添加剤として使用するときに、FRPに含有される補強材の有無に左右されることなく増粘作用は発揮されると当業者が認識できるものといえるから、申立人1のこの主張は認められない。 (イ)上記(ア)で述べたとおり、訂正により、本件発明1?6との関係で「湿式粒度分布での平均粒子径に対する乾式粒度分布での平均粒子径の比率」を定めることの増粘作用に係る技術的意義は明らかになったといえる。そして、本件明細書の【0023】には、「従来の測定方法である湿式粒度分布では、増粘性評価が良い粒子、悪い粒子でも平均粒子径の測定結果に差は生じていないが、乾式粒度分布では測定結果にはっきりと差が生じている。これは、湿式粒度分布では粒子間のファンデルワールス力の減少や、粒子間に生じる静電気的なエネルギー障壁により、微粒子の特徴を反映することが出来なかったことが原因だと考えられる。また、溶媒による影響を受けやすいことも原因の一つだと考えられる。一方、乾式粒度分布では、前記問題の影響を全く受けることなく平均粒子径を測定することが可能である。本発明者は微粒子ほどFRP用の増粘剤としての機能が良いと考えており、乾式粒度分布では微粒子の凝集が強く働いて、平均粒子径が大きいものと推察される。」と記載されて作用機序に係る技術思想が開示されると共に、実施例1の比率2.4及び実施例2の比率1.6で増粘作用が得られるのに対して比率が1程度である比較例1?3では増粘作用が得られないことが裏付けられていることからして、当業者であれば、比率が1よりある程度以上大きければ増粘作用が得られるものと認識できるといえるから、この範囲が1.2?3.0である場合には概ね増粘作用が得られると推察できるものである。 よって、平成30年12月12日付け取消理由通知書で通知した取消理由の(イ)の点に理由はない。 この点について、申立人1は、平成31年3月27日付け意見書(7頁下から10行?9頁14行)において、本件明細書の分散性に係る記載の矛盾を指摘して「湿式粒度分布での平均粒子径に対する乾式粒度分布での平均粒子径の比率」の技術的意味が不明であることを主張するが、上記した【0023】に係る技術思想の凝集に係る考え方に基づく「湿式粒度分布での平均粒子径に対する乾式粒度分布での平均粒子径の比率」と増粘作用との相関で示された傾向を否定する根拠が示されているものではないから、主張は採用できない。 (ウ)上記(ア)で述べたとおり、訂正により、本件発明1?6に係る酸化マグネシウム系添加剤は熱硬化性樹脂用として増粘性を付与するためのものであることが特定された。そして、増粘性を付与するための酸化マグネシウム粒子の場合には、それを表面処理するときには、増粘反応への影響を小さくするために粒子表面と反応しないタイプの表面処理剤、例えば、本件発明2で特定されているエステル類などを使用することが技術常識であるから、表面が処理された熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウム粒子を含む添加剤については、増粘剤としての機能を十分に有するものであることを当業者であれば認識できるものである。 よって、平成30年12月12日付け取消理由通知書で通知した取消理由の(ウ)の点に理由はない。 第5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1.申立人1の主張する申立理由について 申立人1は、甲第1号証?甲第8号証(以下、それぞれ「甲1-1」?「甲8-1」という。)を証拠方法として、以下の申立理由1?4により、訂正前の本件請求項1?7に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。 申立理由1:訂正前の本件請求項1?6に係る発明は、甲1-1に記載された発明であるから、本件請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第1項に違反してされたものである。 申立理由2:訂正前の本件請求項1?7に係る発明は、甲1-1、4-1、5-1に記載された発明及び技術常識(甲2-1、3-1、6-1?8-1)に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものである。 申立理由3(取消理由通知で採用):訂正前の本件請求項1に係る発明を特定するための事項である「平均粒子径の比率」の数値と本件明細書に記載されている酸化マグネシウムの増粘剤としての評価との関係の技術的な意味を当業者が理解できるとはいえないから、訂正前の本件請求項1?6に係る発明、その製造方法である訂正前の本件請求項7に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。よって、訂正前の本件請求項1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 申立理由4:訂正前の本件請求項1に係る発明を特定するための事項である「レーザー回折散乱式粒度分布測定器を用いた乾式粒度分布の平均粒子径が5μm以上10μm以下であり」及び「粒度分析計を用いた湿式粒度分布での平均粒子径」については、測定条件について記載がなく、本件請求項1?6に係る発明が明確でない。よって、訂正前の本件請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 甲1-1:特開平2-141418号公報 甲2-1:乾式測定 粉博士のやさしい粉講座 レーザ回折式粒度分布測定装置:株式会社島津製作所(https://www.an.shimadzu.co.jp/powder/lecture/practice/p01/lesson18.htm)平成30年9月26日にHPより印刷 甲3-1:湯原義公、「乾式粒度分布測定装置」(LA-910,DPF)"LA-910 Laser Scattering Particle Size Distribution Analyzer and DPF Dry Powder Feeder" Readout HORIBA Technical Reports、株式会社堀場製作所、No.8、1994年3月、82-88頁 甲4-1:特開平5-70675号公報 甲5-1:特開2013-43930号公報 甲6-1:特公平7-42461号公報 甲7-1:(株式会社ファイマテック)森金哲生他、「微粒子水酸化マグネシウムの難燃剤への応用」、成形加工シンポジア’13 プラスチック成形加工学会、Vol.2013、429頁(2013) 甲8-1:特開2005-330343号公報 2.申立人2の主張する申立理由について 申立人2は、甲第1号証?甲第5号証(以下、それぞれ「甲1-2」?「甲5-2」という。)を証拠方法として、以下の申立理由5?9により、訂正前の本件請求項1?6に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。 申立理由5:訂正前の本件請求項1、3?6に係る発明は、甲1-2に記載された発明であるから、本件請求項1、3?6に係る特許は、特許法第29条第1項に違反してされたものである。 申立理由6:訂正前の本件請求項1?6に係る発明は、甲1-2?4-2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものである。 申立理由7(取消理由通知で採用):訂正前の本件請求項1に係る酸化マグネシウム系添加剤の発明は、(1)樹脂に添加しうることが記載されているのみであり、(2)実施例は湿式粒度分布の平均粒子径が3.6μmと4.4μmの2つの酸化マグネシウムのみであり、訂正前の本件請求項2に係る酸化マグネシウム系添加剤の発明は、(3)表面処理をした場合に、湿式粒度分布の平均粒子径と乾式粒度分布の平均粒子径との比率が特定の範囲にある場合に発明の効果を奏すると当業者が理解できないものであるから、何れの発明も本件の発明の詳細な説明に記載された範囲にない部分を含む。よって、訂正前の本件請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 申立理由8:訂正前の本件請求項1?6に係る酸化マグネシウム系添加剤の発明についての発明の詳細な説明は、(1)樹脂に添加しうることが記載されているのみであり、(2)実施例が限られていることから、湿式粒度分布の平均粒子径が1.67μm?8.33μmの全てにわたって効果を奏するか不明であり、(3)表面処理をした場合に、発明の効果を奏するか不明である。よって、訂正前の本件請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 申立理由9:訂正前の本件請求項1に係る発明を特定するための事項である「レーザー回折散乱式粒度分布測定器を用いた乾式粒度分布の平均粒子径が5μm以上10μm以下であり」及び「粒度分析計を用いた湿式粒度分布での平均粒子径」については、甲5-2の記載から求められる測定条件について記載がなく、本件請求項1?6に係る発明が明確でない。よって、訂正前の本件請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 甲1-2:「フィラーハンドブック」日本ゴム協会ゴム工業技術員会編、株式会社大成社、昭和62年6月25日、165-168頁 甲2-2:「キョーワマグ30」カタログ、協和化学工業株式会社、平成24年12月1日 甲3-2:特開平7-286166号公報 甲4-2:湯原義公、「乾式粒度分布測定装置」(LA-910,DPF)"LA-910 Laser Scattering Particle Size Distribution Analyzer and DPF Dry Powder Feeder" Readout HORIBA Technical Reports、株式会社堀場製作所、No.8、1994年3月、82-88頁 甲5-2:セラミック工学ハンドブック(第2版)、社団法人日本セラミックス協会、2002年3月31日、99頁 3.当審の判断 (1)申立理由1について 甲1-1には、その特許請求の範囲第1項に記載されるとおり、高分散性酸化マグネシウムに関する以下の発明が記載されていると認められる。 「BET比表面積が10?200m^(2)/g、2次粒子の累積50%粒子径が0.1?1.5μmで、かつ累積90%粒子径3.0μm以下である高分散性酸化マグネシウム」(以下、「甲1-1発明1」という。)の発明。そして、甲1-1には、甲1-1発明1をFRPの増粘剤として用いた参考例2が記載されている。 本件発明1と甲1-1発明1とを対比すると、本件発明1では、酸化マグネシウムは、平均粒子径が「粒度分析計を用いた湿式粒度分布での平均粒子径に対する乾式粒度分布での平均粒子径の比率(乾式粒度分布での平均粒子径/湿式粒度分布での平均粒子径)が1.2以上3.0以下であ」り、「熱硬化性樹脂用」であるのに対し、甲1-1発明1では、湿式粒度分布での平均粒子径に対する乾式粒度分布での平均粒子径の比率は不明である点で少なくとも相違している(以下、「相違点1」という。)。 相違点1について検討するに、本件明細書の【0022】?【0023】には次のように記載されている。 「【0022】 本発明における酸化マグネシウム粒子の湿式粒度分布での平均粒子径に対する乾式粒度分布での平均粒子径の比率(乾式粒度分布での平均粒子径/湿式粒度分布での平均粒子径)が1.2以上3.0以下であり、1.3以上2.8以下が好ましい。上記範囲内であると、FRP用の増粘剤としての機能を十分に発揮することができる。 【0023】 従来の測定方法である湿式粒度分布では、増粘性評価が良い粒子、悪い粒子でも平均粒子径の測定結果に差は生じていないが、乾式粒度分布では測定結果にはっきりと差が生じている。これは、湿式粒度分布では粒子間のファンデルワールス力の減少や、粒子間に生じる静電気的なエネルギー障壁により、微粒子の特徴を反映することが出来なかったことが原因だと考えられる。また、溶媒による影響を受けやすいことも原因の一つだと考えられる。一方、乾式粒度分布では、前記問題の影響を全く受けることなく平均粒子径を測定することが可能である。本発明者は微粒子ほどFRP用の増粘剤としての機能が良いと考えており、乾式粒度分布では微粒子の凝集が強く働いて、平均粒子径が大きいものと推察される。」 即ち、本件発明1では、甲1-1発明1では測定されていなかった「乾式粒度分布での平均粒子径」の数値に応じ、相違点1に係る比率を適切な範囲に設定することができ、酸化マグネシウム粒子のFRP用の増粘剤としての機能が発揮されることとなって「熱硬化性樹脂用」として適したものとなるという効果を奏することが理解できる。 してみれば、相違点1は実質的なものであるといえる。 また、本件発明2?6は、何れも本件発明1の発明特定事項をすべて含み特定されているものであるから、甲1-1発明1との対比において少なくとも相違点1を有する。 よって、本件発明1?6は、何れも甲1-1に記載された発明とはいえないから、申立理由1は理由がない。 相違点1について、申立人1は、特許異議申立書において、本件発明1では同じ酸化マグネシウム粒子(の平均粒子径)について従来の測定方法である湿式粒度分布ではなく「乾式粒度分布での平均粒子径」で特定したものであるにすぎず、甲2-1、3-1に記載されているように乾式の数値が湿式の数値よりも大となることは技術常識であるし、本件明細書の【0064】【表1】の結果は平均粒子径の比率の数値は1以上でばらついているから、甲1-1発明1の酸化マグネシウムにもその特定された比率の数値を満たすものが包含されている蓋然性が高く、相違点1は実質的なものではない旨、主張している。 しかし、本件明細書の【表1】の特に実施例1、2と比較例1、2について、酸化マグネシウム粒子の製造における条件の相違を詳細に対比してみると、少なくとも湿式粉砕工程の有無の点で差異のあることが認められ、この点に関しては、本件発明7で酸化マグネシウムの製造方法において「湿式粉砕する工程」が発明特定事項となっていて、本件明細書【0039】に「所望レベルのFRP用増粘剤としての機能を有する酸化マグネシウム系添加剤を得るために、・・・焼成前に湿式粉砕工程を経ることが好ましい。」等と記載されている。してみれば、本件発明1は、「乾式粒度分布での平均粒子径」での特定を含むことにより、少なくとも従来の製造方法に湿式粉砕工程等の何らかの新たな工夫を加えることで初めて得られるといえる酸化マグネシウム粒子に係る酸化マグネシウム系添加剤が特定されているものと推認され、ここでの酸化マグネシウム粒子は従来のものと同じとはいえないから、相違点1が実質的なものではないという申立人1の主張は採用できない。 (2)申立理由2について (ア)本件発明1から6について 本件発明1と甲1-1発明1とを対比すると、相違点1において相違していることは上記(1)で検討したとおりである。 甲4-1には、酸化マグネシウムの平均粒径を2?6μmに制御することで不飽和ポリエステル樹脂の増粘速度を調整することが記載されており、甲5-1には、酸化マグネシウムのBET比表面積を40?250m^(2)/gに制御することで不飽和ポリエステル樹脂の増粘速度を調整することが記載されている。しかし、何れも酸化マグネシウム粒子について「乾式粒度分布での平均粒子径」を求めることについては記載も示唆もないから、甲2-1、3-1の記載からみて乾式の数値が湿式の数値よりも大となることが技術常識であったとしても、甲1-1発明1において当業者が相違点1を解消することは容易なことではない。 また、本件発明2?6は、何れも本件発明1の発明特定事項をすべて含み特定されているものであるから、甲1-1発明1との対比において少なくとも相違点1を有する。 よって、本件発明1?6は、何れも甲1-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ)本件発明7について 甲1-1には、その特許請求の範囲第3項に記載されるとおり、甲1-1発明1に加え、高分散性酸化マグネシウムの製造方法に関する以下の発明が記載されていると認められる。 「BET比表面積が1?50m^(2)/g、2次粒子の累積50%粒子径が0.1?1.5μm、累積90%粒子径が4.0μm以下である水酸化マグネシウムを400?1200℃で焼成することからなる「甲1-1発明1」の高分散性酸化マグネシウムの製造方法」(以下、「甲1-1発明7」という。)の発明。 本件発明7と甲1-1発明7とを対比すると、本件発明7では、焼成する工程の前に「湿式粉砕する工程」を有しているのに対し、甲1-1発明7では、湿式粉砕する工程を有していない点で少なくとも相違している(以下、「相違点2」という。)。 そして、水酸化マグネシウムの水性スラリーを湿式粉砕する工程について開示する甲6-1?8-1を参酌しても、これらに記載されている技術は何れも水酸化マグネシウム系難燃剤の製造方法への適用であり、熱硬化性樹脂への添加剤等として用いられる酸化マグネシウム粒子の製造方法へ湿式粉砕する工程を適用することが周知技術であるとはいえないから、甲1-1発明7において相違点2を解消することは容易なことではない。 よって、本件発明7は、甲1-1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 以上のとおりであるから、申立理由2は理由がない。 (3)申立理由4及び申立理由9について 本件明細書の段落【0061】には、本件発明1?6で特定する乾式粒度分布の平均粒子径について具体的な測定方法が記載されており、同じく段落【0062】には、湿式粒度分布の平均粒子径について具体的な測定方法が記載されていることから、本件発明1?6において特定する「乾式粒度分布の平均粒子径」及び「湿式粒度分布の平均粒子径」は、どのような測定方法によって得られた値であるのか明らかである。 よって、本件発明1?6が不明確であるとはいえないから、申立理由4及び申立理由9は理由がない。 (4)申立理由5及び申立理由6について 甲1-2には、酸化マグネシウム粉体に関し、中活性MgO(キョーワマグ30)の物性等について記載されているが、少なくとも、その酸化マグネシウムの平均粒子径に関し、本件発明1の特定事項である「粒度分析計を用いた湿式粒度分布での平均粒子径に対する乾式粒度分布での平均粒子径の比率(乾式粒度分布での平均粒子径/湿式粒度分布での平均粒子径)が1.2以上3.0以下」である点については記載されていない。そして、この点については、上記(1)で検討した相違点1と同様であり、訂正前の本件請求項1、3?6に係る発明が甲1-2に記載されているとはいえないし、甲2-2?4-2の記載を参酌しても同様であるから、訂正前の本件請求項1?6に係る発明が当業者が容易に想到しうるものであるともいえない。 よって、申立理由5及び申立理由6は理由がない。 申立人2は、甲1-2に記載された酸化マグネシウムでは、BET比表面積が本件発明1と同じであるし、酸化マグネシウムについて増粘剤等として機能を高めるために平均粒子径を測定して調整することは当業者が通常行うことである旨主張する。 しかし、BET比表面積が同程度であっても乾式粒度分布での平均粒子径と湿式粒度分布での平均粒子径との比率が異なる場合があることは、本件明細書【0064】【表1】において例えば実施例1と比較例2とを比べれば明らかであるし、(湿式粒度分布の)平均粒子径を測定して調整することは当業者が通常行うことであったとしても、湿式粒度分布ではなく乾式粒度分布の平均粒子径を指標として調整することが通常行われていたことであるとはいえないから、申立人2の主張は採用できない。 (5)申立理由8について 本件発明1?6については、上記第4.の2.(2)(ア)?(ウ)で検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、当業者の技術常識を踏まえれば、明確かつ十分に記載されているといえる。 よって、申立理由8は理由がない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び2つの特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 BET比表面積が10m^(2)/g以上80m^(2)/g未満であり、かつレーザー回折散乱式粒度分布測定器を用いた乾式粒度分布の平均粒子径が5μm以上10μm以下であり、 粒度分析計を用いた湿式粒度分布での平均粒子径に対する前記乾式粒度分布での平均粒子径の比率(乾式粒度分布での平均粒子径/湿式粒度分布での平均粒子径)が1.2以上3.0以下である酸化マグネシウム粒子、又はその表面処理物を含む、熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウム系添加剤。 【請求項2】 高級脂肪酸、高級脂肪酸アルカリ土類金属塩、カップリング剤、脂肪酸と多価アルコールとからなるエステル類、及びリン酸と高級アルコールとからなるリン酸エステル類からなる群より選択される少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されている請求項1に記載の酸化マグネシウム系添加剤。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の酸化マグネシウム系添加剤と、熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物。 【請求項4】 熱硬化性樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含有する請求項3に記載の樹脂組成物。 【請求項5】 強化繊維を含有する請求項3又は4に記載の樹脂組成物。 【請求項6】 請求項3?5いずれか1項に記載の樹脂組成物より得られる成形体。 【請求項7】 焼成用原料として、水酸化マグネシウムスラリーを調製する工程、 前記水酸化マグネシウムスラリーを湿式粉砕する工程、及び 前記湿式粉砕を経て得られる水酸化マグネシウムを500?1000℃で焼成する工程 を含む、熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウムの製造方法であって、 前記水酸化マグネシウムのBET比表面積が30m^(2)/g以上70m^(2)/g以下であり、かつ沈降容積が35mL以上95mL以下であり、 前記酸化マグネシウムのBET比表面積が10m^(2)/g以上80m^(2)/g未満である、熱硬化性樹脂用の酸化マグネシウムの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-11-15 |
出願番号 | 特願2014-129046(P2014-129046) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C01F)
P 1 651・ 851- YAA (C01F) P 1 651・ 536- YAA (C01F) P 1 651・ 537- YAA (C01F) P 1 651・ 113- YAA (C01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山口 俊樹 |
特許庁審判長 |
服部 智 |
特許庁審判官 |
菊地 則義 宮澤 尚之 |
登録日 | 2018-03-09 |
登録番号 | 特許第6301209号(P6301209) |
権利者 | 神島化学工業株式会社 |
発明の名称 | 酸化マグネシウム系添加剤、及びその用途 |
代理人 | 特許業務法人ユニアス国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |