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審決分類 |
審判 全部申し立て 特29条の2 D21H 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 D21H 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D21H 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D21H 審判 全部申し立て 2項進歩性 D21H |
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管理番号 | 1358643 |
異議申立番号 | 異議2019-700263 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-05 |
確定日 | 2020-01-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6404415号発明「セルロース微細繊維含有物及びその製造方法、並びにセルロース微細繊維分散液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6404415号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6404415号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成29年7月24日に特許出願され、平成30年9月21日に特許権の設定登録がされ、平成30年10月10日にその特許公報が発行され、平成31年4月5日に、その請求項1?7に係る発明の特許に対し、日野原 悦子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。その後の手続の経緯は以下のとおりである。 令和 1年 7月31日付け 取消理由通知 同年10月 4日 意見書(特許権者) 第2 本件発明 特許第6404415号の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維を含有し、 前記セルロース微細繊維1gに対する前記無機物からなる陽イオンの割合が、0.14mmol以上である、 ことを特徴とするセルロース微細繊維含有物。 【請求項2】 前記セルロース微細繊維は、繊維幅が1?1000nmであり、 セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が下記構造式(1)に示す官能基で置換されることで前記無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルが導入されている、 請求項1に記載のセルロース微細繊維含有物。 構造式(1)において、αは、なし、R、及びNHRのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。βは無機物からなる陽イオンである。 【請求項3】 前記無機物からなる陽イオンが、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンである、 請求項1又は請求項2に記載のセルロース微細繊維含有物。 【請求項4】 水分率が90質量%未満である、 請求項1?3のいずれか1項に記載のセルロース微細繊維含有物。 【請求項5】 セルロース繊維に亜リン酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得るものとし、この過程で前記セルロース繊維に対してアルカリ金属イオン含有物を添加するものとし、 前記分散液を濃縮してセルロース微細繊維含有物を得る、 ことを特徴とするセルロース微細繊維含有物の製造方法。 【請求項6】 前記アルカリ金属イオン含有物が、亜リン酸水素ナトリウムである、 請求項5に記載のセルロース微細繊維含有物の製造方法。 【請求項7】 請求項1?4のいずれか1項に記載のセルロース微細繊維含有物と、水とを混合する、 ことを特徴とするセルロース微細繊維分散液の製造方法。」 第3 取消理由通知に記載した取消理由について I 取消理由の概要 本件発明1?7に対して、令和1年7月31日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 理由1:この出願は、発明の詳細な説明が、下記に示すとおり、当業者が請求項1?7に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(以下、「取消理由1」という。)。 セルロース繊維のヒドロキシ基(-OH基)の一部に、無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルを導入する際、亜リン酸基のモル量と無機物からなる陽イオンのモル量とは1:1のモル比となるはずにもかかわらず、本件発明1?7の具体例である試験例1?5には、亜リン酸基のモル量と無機物からなる陽イオンのモル量とのモル比が1:1でなく、また、当該無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルを導入させる際、加熱温度条件を変化させただけで、当該モル比を1:1と異ならせることは、当業者が技術的に理解することはできないから、本件発明1?7の「セルロース微細繊維含有物」を、どのように製造すれば良いのか分からず、該製造方法が自明であるとも認められないので、本件発明1?7の「セルロース微細繊維含有物」を製造するには、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであり、当業者がその実施をすることができるものとはいえない。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 理由2:この出願は、特許請求の範囲の記載が、下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない(以下、「取消理由2」という。)。 発明の詳細な説明の実施例(【0102】?【0111】)には、セルロース微細繊維含有物(乾燥物)に対し水を添加し、セルロース微細繊維含有物の再分散液を静置させた後の上澄み液の濃度(%)やナトリウム量(mmol/g)の結果しか示されておらず、乾燥前のセルロース微細繊維含有物の水分散性に対し、セルロース微細繊維含有物の再分散液の水分散性がどの程度回復(復元)したのかを理解できる結果が何ら示されていないから、乾燥したセルロース微細繊維を水に再び分散させても、乾燥前の状態にまで十分に分散しないという問題を解消するよう、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細繊維含有物を提供するという課題を解決できたのかを判断することができない。 そうすると、本件発明1?7のセルロース微細繊維含有物が水に対する分散性に優れているものかどうか分からず、水に対する分散性に優れているとはいえないから、本件発明1?7が、課題を解決できると当業者が認識することができるとはいえない。 したがって、本件発明1?7は、課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものではない。 II 当審の判断 1 取消理由1について (1)本件発明に関する特許法第36条第4項第1号の判断の前提 明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者に通常期待する程度を超える過度の試行錯誤なく、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基いて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、方法の発明にあっては、その方法を使用できるように、それぞれ記載されていることが必要と解される。 (2)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、請求項の内容の実質的な繰り返し記載の他、以下の記載がある。 ア 背景技術に関する記載 「【背景技術】 【0002】 近年、物質をナノメートルレベルにまで微細化し、物質が従来の性状とは異なる新たな物性を持つようにすることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。なかでもパルプから製造されるセルロース微細繊維は、強度、弾性、熱安定性等に優れているうえに、環境保護に資するため、その期待が大きく、用途も広い。少し例を挙げると、例えば、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂やゴムの配合用充填剤等の工業上の用途、口紅、粉末化粧料、乳化化粧料等の化粧品の配合剤用途等が存在する。また、セルロース微細繊維は、水系分散性に優れているとの特性も有する。この特性からは、例えば、食品、化粧品、塗料等の粘度の保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助剤等の用途での利用も期待されている。 【0003】 このように多様な用途での利用が期待されるセルロース微細繊維は、通常、水分散状態のパルプ等を微細化することにで得られる。したがって、得られるセルロース微細繊維は、水分散状態(分散液)である。しかしながら、セルロース微細繊維が分散液の状態であると、多大な運送エネルギーが必要になる。したがって、事業化を踏まえると、セルロース微細繊維の分散液は、乾燥させる必要がある。しかしながら、セルロース微細繊維を乾燥させると、セルロース微細繊維同士が水素結合によって強く凝集する。このため、乾燥したセルロース微細繊維を水に再び分散させても、乾燥前の状態にまで十分に分散しないという問題がある。そこで、セルロース微細繊維の水等の分散媒に対する分散性(再分散性)を向上させるための技術が必要になる。 【0004】 この点に関して、例えば、特許文献1は、「セルロースナノファイバーと再分散促進剤を混合しゲル状体を得る工程、及び前記ゲル状体と有機性の液体化合物と分散剤とを混合して前記セルロースナノファイバーを再分散させる工程を含む、セルロースナノファイバー分散液の製造方法」を提案している。しかしながら、この提案は、セルロース微細繊維を乾燥状態にまで乾燥させるものではなく、ゲル状体とするに過ぎない。しかも、この提案は、分散媒として有機性の液体化合物を想定している。 【0005】 また、特許文献2は、「バクテリアセルロースを含有する水性懸濁液にバクテリアセルロースと水以外の第3成分を加えた後に脱水乾燥することを特徴とする、バクテリアセルロースの乾燥方法」を提案している。しかしながら、バクテリアセルロースとは、微生物により産出されるセルロースであり、パルプを解繊して得られ得るセルロース微細繊維とは物性等が異なる。したがって、同提案をセルロース微細繊維の乾燥に転用したとしても、同様の効果が生じるとは限らない。 【0006】 さらに、特許文献3は、「微細繊維状セルローススラリーに、アルカリ可溶金属及び多価金属イオンから選ばれる少なくとも一種を含む化合物を加え、微細繊維状セルロース濃縮物を得る第1工程;及び前記の微細繊維状セルロース濃縮物に、水酸化テトラアルキルオニウム及びアルキルアミンから選ばれる少なくとも一種を添加する第2工程:を含む、微細繊維状セルロース再分散スラリーの製造方法」を提案している。しかしながら、同提案によると、セルロース微細繊維の濃縮物を得る工程が複雑になる。しかも、再分散するのにアルコール溶液を使用するため、再分散後の分散液を使用する際のハンドリング性が劣る。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】 特開2014-118521号公報 【特許文献2】 特開平9-165402号公報 【特許文献3】 特開2017-52943号公報 」 イ 発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段及び発明の効果に関する記載 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明が解決しようとする主たる課題は、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細繊維含有物及びその製造方法、並びにセルロース微細繊維分散液の製造方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記課題を解決するための手段は、 無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維を含有し、 前記セルロース微細繊維1gに対する前記無機物からなる陽イオンの割合が、0.14mmol以上である、 ことを特徴とするセルロース微細繊維含有物である。 【0010】 また、セルロース繊維に亜リン酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得るものとし、この過程で前記セルロース繊維に対してアルカリ金属イオン含有物を添加するものとし、 前記分散液を濃縮してセルロース微細繊維含有物を得る、 ことを特徴とするセルロース微細繊維含有物の製造方法である。 【0011】 さらに、上記に記載のセルロース微細繊維含有物と、水とを混合する、 ことを特徴とするセルロース微細繊維分散液の製造方法である。 【発明の効果】 【0012】 本発明によると、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細繊維含有物及びその製造方法、並びにセルロース微細繊維分散液の製造方法となる。」 ウ セルロース微細繊維含有物の実施の態様に関する記載 「【0036】 (セルロース微細繊維の製造方法) 本形態の製造方法においては、セルロース繊維に、アルカリ金属イオン含有物並びに亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる添加物(A)を添加し、好ましくは亜リン酸水素ナトリウムを添加し、加熱してセルロース繊維に無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルを導入する。より好ましくは、更に尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる添加物(B)も添加し、加熱してセルロース繊維に無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステル及びカルバメートを導入する。この無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステル等を導入したセルロース繊維は、洗浄し、解繊してセルロース微細繊維とする。 ・・・・・ 【0042】 (アルカリ金属イオン含有物) アルカリ金属イオン含有物としては、例えば、水酸化物、硫酸金属塩類、硝酸金属塩類、塩化金属塩類、リン酸金属塩類、亜リン酸金属塩類、炭酸金属塩類等を使用することができる。ただし、添加物(A)をも兼ねる亜リン酸金属塩類を使用するのが好ましく、亜リン酸水素ナトリウムを使用するのがより好ましい。なお、アルカリ金属イオン含有物の添加は、前述したとおり、亜リン酸エステルの導入工程だけではなく、例えば、解繊工程、濃縮工程、凝集工程等の各工程や各工程の間(亜リン酸エステルの導入工程前;亜リン酸エステルの導入工程後、解繊工程前;解繊工程後、濃縮工程前など)においても行うことができる。 【0043】 (添加物(A)) 添加物(A)は、亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる。添加物(A)としては、例えば、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物等を使用することができる。これらの亜リン酸類又は亜リン酸金属塩類は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、アルカリ金属イオン含有物をも兼ねる亜リン酸水素ナトリウムを使用するのが好ましい。 【0044】 添加物(A)を添加するにあたって、セルロース繊維は、乾燥状態であっても、湿潤状態であっても、スラリーの状態であってもよい。また、添加物(A)は、粉末の状態であっても、水溶液の状態であってもよい。ただし、反応の均一性が高いことから、乾燥状態のセルロース繊維に水溶液の状態の添加物(A)を添加するのが好ましい。 【0045】 添加物(A)の添加量は、セルロース繊維1kgに対して、好ましくは1?10,000g、より好ましくは100?5,000g、特に好ましくは300?1,500gである。添加量が1g未満であると、添加物(A)の添加による効果が得られないおそれがある。他方、添加量が10,000gを超えても、添加物(A)の添加による効果が頭打ちとなるおそれがある。 【0046】 (添加物(B)) 添加物(B)は、尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる。添加物(B)としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素等を使用することができる。これらの尿素又は尿素誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。 【0047】 添加物(B)は、加熱されると、下記の反応式(1)に示すようにイソシアン酸及びアンモニアに分解される。そして、イソシアン酸はとても反応性が高く、下記の反応式(2)に示すようにセルロースの水酸基及びカルバメートを形成する。 NH_(2)-CO-NH_(2) → HN=C=O+NH_(3)・・・(1) Cell-OH+H-N=C=O → Cell-O-C-NH_(2)・・・(2) 【0048】 添加物(B)の添加量は、添加物(A)1molに対して、好ましくは0.01?100mol、より好ましくは0.2?20mol、特に好ましくは0.5?10molである。添加量が0.01mol未満であると、セルロース繊維にカルバメートが十分に導入されないおそれがある。他方、添加量が100molを超えても、尿素の添加による効果が頭打ちとなるおそれがある。 【0049】 (加熱) 添加物を添加したセルロース繊維を加熱する際の加熱温度は、好ましくは100?210℃、より好ましくは100?200℃、特に好ましくは100?180℃である。加熱温度が100℃以上であれば、亜リン酸のエステルを導入することができる。ただし、加熱温度が210℃を超えると、セルロースの劣化が急速に進み、着色や粘度低下の原因になるおそれがある。 【0050】 添加物を添加したセルロース繊維を加熱する際のpHは、好ましくは3?12、より好ましくは4?11、特に好ましくは6?9である。pHが低い方が亜リン酸のエステル及びカルバメートが導入され易くなる。ただし、pHが3未満であると、セルロースの劣化が急速に進行してしまうおそれがある。 【0051】 添加物を添加したセルロース繊維の加熱は、当該セルロース繊維が乾燥するまで行うのが好ましい。具体的には、セルロース繊維の水分率が、好ましくは10%以下となるまで、より好ましくは0.1%以下となるまで、特に好ましくは0.001%以下となるまで乾燥する。もちろん、セルロース繊維は、水分の無い絶乾状態になっても良い。 【0052】 添加物を添加したセルロース繊維の加熱時間は、例えば1?1,440分、好ましくは10?180分、より好ましくは30?120分である。加熱時間が長過ぎると、亜リン酸のエステルやカルバメートの導入が進み過ぎるおそれがある。また、加熱時間が長過ぎると、セルロース繊維が黄変化するおそれがある。 【0053】 添加物を添加したセルロース繊維を加熱する装置としては、例えば、熱風乾燥機、抄紙機、ドライパルプマシン等を使用することができる。 【0054】 (前処理) セルロース繊維に無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステル等を導入するに先立って、及び/又は無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステル等を導入した後において、セルロース繊維には、必要により、叩解等の前処理を施すことができる。セルロース繊維の解繊に先立って当該パルプ繊維に前処理を施しておくことで、解繊の回数を大幅に減らすことができ、解繊のエネルギーを削減することができる。 【0055】 セルロース繊維の前処理は、物理的手法又は化学的手法、好ましくは物理的手法及び化学的手法によることができる。物理的手法による前処理及び化学的手法による前処理は、同時に行うことも、別々に行うこともできる。 ・・・・・ 【0073】 (洗浄) 亜リン酸のエステル等を導入したセルロース繊維は、解繊するに先立って、洗浄するのが好ましい。セルロース繊維を清浄することで、副生成物や未反応物を洗い流すことができる。また、この清浄が前処理におけるアルカリ処理に先立つものであれば、当該アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量を減らすことができる。 【0074】 セルロース繊維の洗浄は、例えば、水や有機溶媒等を使用して行うことができる。 【0075】 (解繊) 亜リン酸のエステル等を導入したセルロース繊維は、洗浄後に解繊(微細化処理)する。この解繊によって、パルプ繊維はミクロフィブリル化し、セルロース微細繊維となる。 【0076】 セルロース繊維を解繊するにあたっては、当該セルロース繊維をスラリー状にしておくのが好ましい。このスラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1?20質量%、より好ましくは0.5?10質量%、特に好ましくは1.0?5.0質量%である。固形分濃度が上記範囲内であれば、効率的に解繊することができる。」 エ 実施例に関する記載 「【実施例】 【0102】 次に、本発明の実施例について、説明する。 本形態によるセルロース微細繊維含有物の再分散性を確認する試験を行った。セルロース微細繊維含有物は、濃度が1.0質量%となるように水に再分散させた。詳細は、以下のとおりである。 【0103】 [試験例1] 亜リン酸水素ナトリム・5水和物13gと尿素10.8gと水76.2gとを混合して試薬Aを作製した。作製した試薬A100gと原料パルプ(NBKP:水分98.0質量%)乾燥重量10gとを混合し、105℃で乾燥した。乾燥したパルプを130℃で2時間反応させ、水洗とろ過を2回繰返し、無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルが導入されたセルロース繊維(亜リン酸変性パルプ)を得た。得られた亜リン酸変性パルプは、蒸留水で固形分10質量%となるように希釈して亜リン酸変性パルプスラリー(分散液)を得た。亜リン酸変性パルプスラリーは、PFIミルを用いて9200回転で予備叩解した。予備叩解した亜リン酸変性パルプスラリーは、固形分濃度1%に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて解繊処理を2回施し、濃度1.0質量%のセルロース微細繊維の水分散液を得た。この濃度1.0質量%のセルロース微細繊維水分散液は、105℃で6時間乾燥してフィルム状のセルロース微細繊維含有物(乾燥物)とした。セルロース微細繊維含有物の含水率は、9.8質量%であった。 【0104】 以上のようにして得たセルロース微細繊維含有物に対して、固形分濃度が1.0質量%となるように水を添加し、マグネティックスターラーを用いて800rpmで60分間攪拌してセルロース微細繊維含有物の再分散液を得た。得られた再分散液を10分間静置した後、上澄み液の濃度を測定した。上澄み濃度(%)、ナトリウム量(mmol)、置換度(DS)を表1に示した。 【0105】 [試験例2?5] 試験例2は、セルロース微細繊維含有物(乾燥物)とする前の予備叩解した解繊前の亜リン酸変性パルプスラリーに水酸化ナトリウムを0.22g添加した以外は、試験例1と同様とした。 【0106】 試験例3は、乾燥パルプを140℃で2時間反応させた以外は、試験例1と同様とした。 【0107】 試験例4は、乾燥パルプを170℃で2時間反応させた以外は、試験例1と同様とした。 【0108】 試験例5は、乾燥パルプを180℃で2時間反応させた以外は、試験例1と同様とした。【0109】 なお、試験例3?5については、乾燥パルプの反応温度を以上のように変化させることで、ナトリウム量を変化させている。 【0110】 【0111】 (考察) 試験結果から、ナトリウム量が多くなるにしたがって、再分散性が高くなることが分かった。なお、試験例1及び試験例2の亜リン酸基の置換度(DS)は、いずれも0.14であり、同一である。」 (3)判断 本件発明1?7の具体例である試験例1?5(【0102】?【0111】)には、亜リン酸水素ナトリム・5水和物、尿素及び水を混合した試薬Aと原料パルプとを混合、乾燥、反応させた後、水洗とろ過を2回繰返し、亜リン酸変性パルプを得、解繊処理後、乾燥してセルロース微細繊維含有物を得ることが記載され、「水洗とろ過を2回繰返」す工程を経ることにより、pHが中性付近になり、亜リン酸のpHに対する平衡状態の相違から、「β」の全てが「Na」ではなく「H」も共存した状態となることや、亜リン酸基は反応条件により二価の構造となり得ることから、亜リン酸基とNaのモル比が1:1にはならないことは、理解できる。 また、試験例3?5には、試験例1のセルロース微細繊維含有物の製造方法と、乾燥パルプの反応温度を変化させることで、ナトリウム量を変化させていることも、記載されている。 そうすると、当業者は、試験例1?5で実施された方法、及び、その結果を示す【表1】(【0110】)における、セルロース微細繊維含有物の上澄み濃度(%)、ナトリウム量(mmol/g)及び亜リン酸基の置換度(DS)の関連を参考にしながら、セルロース微細繊維の製造方法の実施の態様の記載(【0036】?【0101】)に基づき、加熱温度、pH及び亜リン酸基の置換度(DS)等を適宜調整することにより、セルロース微細繊維含有物を、当業者に通常期待し得る程度を超える過度の試行錯誤なく製造できかつ使用できるといえる。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?7を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 (4)まとめ したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?7を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえ、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。 2 取消理由2について (1)特許法第36条第6項第1号の解釈について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。 以下、この観点に立って、判断する。 (2)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明の記載は、前記1(2)に記載したとおりである。 (3)本件発明1?7の解決しようとする課題について 発明の詳細な説明の、特に、背景技術の記載(【0002】?【0007】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0008】)及び実施例の記載(【0102】?【0111】)等からみて、本件発明1?4の解決しようとする課題は、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細繊維含有物を提供すること、本件発明5?6の解決しようとする課題は、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細繊維含有物の製造方法を提供すること、及び、本件発明7の解決しようとする課題は、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細繊維含有物と水とを混合するセルロース微細繊維分散液の製造方法を提供することであると認める。 (4)判断 発明の詳細な説明には、本件発明1?7の実施例である、試験例1?5(【0102】?【0111】)に、試験例1?5の亜リン酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維含有物(乾燥物)に対し水を添加し、セルロース微細繊維含有物の再分散液を得、それを10分静置させた後、上澄み液の濃度(%)を測定したことが記載され、その測定結果として、上澄み液の濃度(%)が、【表1】(【0110】)に示されている。 これは、再分散したセルロース微細繊維を評価する方法として、セルロースの比重は約1.5で、比重1の水に対し10分静置した後は沈降するものであることより、10分静置後の上澄み液の濃度を測定することで、どのくらいのセルロース微細繊維が再分散したのかを評価することが可能な方法であり、再分散液の上澄み濃度の数値が高い程、再分散性が優れていると理解されるものである。 試験例1?5の測定結果の上澄み液濃度(%)が示されている【表1】には、Naイオン量が0.14mmol/g以上でありNaイオン量が多い程、上澄み液の濃度が上昇し、再分散性が向上していることが示されており、水に対する再分散性に優れたセルロース微細繊維含有物であると理解される。 それ故、試験例1?5の無機物からなる陽イオンであるNaイオンを含む亜リン酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維の含有物であって、Naイオン量が0.14mmol/g以上であるものは、水に対する再分散性に優れたセルロース微細繊維含有物であることが、客観的に確認されているといえる。 そして、セルロース微細繊維含有物(乾燥物)が、水に対する再分散性に優れたものであれば、その製造における再分散工程が簡略化されると理解され、製造容易なものであると理解できるといえる。 そうすると、実施例である試験例1?5の記載、並びに、セルロース微細繊維及びその分散液の製造方法の実施の態様の記載(【0036】?【0101】)に基づき、本件明細書の記載に接した当業者であれば、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細繊維含有物、その製造方法及び該セルロース微細繊維分散液の製造方法を提供し得ると理解できるといえ、本件発明1?7の前記課題を解決し得ると認識できるといえる。 したがって、本件発明1?7は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 (5)まとめ したがって、本件発明1?7は発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合しないということはできない。 よって、本件発明1?7に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。 第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立の理由について I 特許異議申立の理由の概要 理由1:本件発明1?7は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であり、また、本件発明1?3は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件発明1?7に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開2015-189698号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開2013-127141号公報(以下「甲2」という。) 理由2:本件発明1?7は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第3、4号証に記載の技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1?7に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第1号証:理由1で示したとおりである。 甲第3号証:高分子化学、Vol.30、(1973)、p.653-657(以下「甲3」という。) 甲第4号証:国際公開第2017/111016号(以下「甲4」という。) 理由3:請求項1?7に係る発明は、その出願前の特許出願であって、その出願後に当該出願に基づく優先権の主張を伴う日本語特許出願についての国際公開がされた時に当該出願について出願公開がされたものとみなされる下記甲第5号証の特許出願(以下「先願甲5」という。)の願書に最初に添付した明細書、請求の範囲又は図面(以下「先願甲5明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が上記先願甲5の発明をした者と同一ではなく、またこの出願時において、その出願人が上記先願甲5の出願人と同一でもない、また、請求項1?6に係る発明は、その出願前の特許出願であって、その出願後に当該出願に基づく優先権の主張を伴う日本語特許出願についての国際公開がされた時に当該出願について出願公開がされたものとみなされる下記甲第6号証の特許出願(以下「先願甲6」という。)の願書に最初に添付した明細書、請求の範囲又は図面(以下「先願甲6明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が上記先願甲6の発明をした者と同一ではなく、またこの出願時において、その出願人が上記先願甲6の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである(同法第184条の15第2項参照)から、請求項1?7に係る特許は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第5号証:特願2016-165639号(国際公開第2018/038194号)(以下「先願甲5」という。) 甲第6号証:特願2016-71161号(国際公開第2017/170908号)(以下「先願甲6」という。) 理由4:本件発明1?7については、下記の点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件発明1?7に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (1)発明の詳細な説明には、無機物からなる陽イオンの割合を0.14mmol以上とした場合の該数値の臨界的意義が全く示されておらず、請求項1?7に記載された発明によって課題を解決できるか否か明らかにされてない。 (2)発明の詳細な説明には、本件発明5における濃縮する工程として、セルロース微細繊維分散液を乾燥させる工程のみが開示されており、一方で、当該濃縮する工程には、セルロース微細繊維分散液を乾燥させる工程のみならず、例えば、凝集剤を添加して濃縮する工程も含まれている。このため、出願時の技術常識に照らしても、請求項5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 (3)本件発明の課題は、セルロース微細繊維含有物を濃縮物にしたことによって生じる課題であると理解される一方で、本件発明1?4には、本件発明の課題が発生していない態様、例えば、セルロース微細繊維の分散液といった態様までもが包含されており、本件発明1?4は、課題がそもそも発生していないような態様も含んでいる。 II 当審の判断 1 理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(同法同条第2項)について (1)刊行物の記載について ア 甲1 1a「【請求項1】 1000nm以下の繊維幅を有し、かつ繊維を構成するセルロースのヒドロキシ基の一部がリンオキソ酸基で置換された微細繊維状セルロースを含む増粘剤。 ・・・・・ 【請求項3】 微細繊維状セルロースが、セルロースのヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1): 【化1】 [式中、 a、b、m、nは自然数であり(ただし、a=b×mである)、 α1、α2、・・・、αn及びα’のうちの少なくとも1つはO^(-)であり、残りはR又はORであり、 Rは、各々独立して、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基又はこれらの誘導基であり、 βは有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである] で表されるリンオキソ酸基で置換されたものである、請求項1又は2に記載の増粘剤。」 1b「【発明の効果】 【0010】 本発明により、酸性条件においても粘度が低下することの少ない耐酸性を有する水溶性増粘剤が提供される。 ・・・・・ 【0012】 リンオキソ酸基は、リン原子にヒドロキシ基とオキソ基が結合した基をさし、例えば、下記構造式(1)で表すことができる。 【0013】 【化2】 【0014】 構造式(1)において、a、b、m、nは自然数である(ただし、a=b×mである。)。 α^(1)、α^(2)、・・・、α^(n)及びα’のうちの少なくとも1つはO^(-)であり、残りはR又はORである。α^(n)及びα’の全てがO^(-)であっても構わない。nが2以上であり、α’がR又はORである場合には、各αnのうちの少なくとも1つがO-で残りがR又はORである。nが2以上であり、α’がO-である場合には、各αnは全てRであってもよいし、全てORであってもよいし、少なくとも1つがO-で残りがR又はORであってもよい。好ましくは、α^(n)及びα’の全てがO^(-)であり、nは1であり、β^(b+)はアルカリ金属イオン、特にNa^(+)であり、mは2であり、aは2である。 ・・・・・ 【0031】 繊維原料のセルロースのヒドロキシ基(-OH基)におけるリンオキソ酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1?2.0mmolが好ましく、0.2?1.5mmolがより好ましい。リンオキソ酸基導入量が0.1mmol未満では、繊維原料の微細化が困難で、微細繊維状セルロースの安定性が劣る。リンオキソ酸基導入量が2.0mmolを超えると、微細繊維状セルロースが溶解する恐れがある。 ・・・・・ 【0035】 [リンオキソ酸基導入工程(a)] 繊維原料を化合物Aにより処理する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態の繊維原料に化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、繊維原料のスラリーに化合物Aの粉末や水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料(パルプ)に化合物Aの水溶液を添加する方法、又は湿潤状態の繊維原料(パルプ)に化合物Aの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。 ・・・・・ 【0039】 本発明で使用する化合物Aとしては、リン酸及びポリリン酸などのリン酸基を有する化合物、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸又はこれらの塩若しくはエステルが挙げられる。 【0040】 これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、また、セルロースのヒドロキシ基にリン酸基を導入して解繊効率をより向上できることから、リン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウム、更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムなどが挙げられる。 【0041】 これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましい。 ・・・・・ 【0046】 得られたスラリーを乾燥することで、乾燥状態の微細繊維状セルロースを得ることもできる。乾燥法としては、当技術分野で公知の方法を使用でき、例えば、スプレードライ法、凍結乾燥法、ドラムドライヤーによる乾燥法、噴霧乾燥法等が用いられる。増粘剤としては、微細繊維状セルロースのスラリーをそのまま用いてもよいし、スラリーを乾燥したものを用いてもよい。 ・・・・・ 【0078】 本発明の増粘剤は、例えば、医薬品、化粧品、食品、建築分野などの工業製品を含む広汎な分野に利用できる。このような耐酸性のある微細繊維状セルロースからなる水溶性増粘剤は、これまで、医薬品、化粧品、食品、建築分野などの工業製品を含む広汎な分野において存在しない。」 1c「【実施例】 【0080】 (製造例1) リン酸化微細セルロース(微細セルロース1)の調製: 尿素100g、リン酸二水素ナトリウム二水和物55.3g、リン酸水素二ナトリウム41.3gを109gの水に溶解させてリン酸化試薬を調製した。 【0081】 乾燥した針葉樹晒クラフトパルプの抄上げシートをカッターミル及びピンミルで処理し、綿状の繊維にした。この綿状の繊維を絶乾質量で100g取り、リン酸化試薬をスプレーでまんべんなく吹きかけた後、手で練り合わせ、薬液含浸パルプを得た。 【0082】 得られた薬液含浸パルプを140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機にて、80分間加熱処理し、リン酸化パルプを得た。 【0083】 得られたリン酸化パルプをパルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12?13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。 【0084】 脱水洗浄後に得られたセルロース繊維にイオン交換水を添加し、0.5質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス-11S)を用いて、6900回転/分の条件で180分間解繊処理した。その後、イオン交換水を添加してスラリー固形分濃度0.25質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H-2000B、RNローター、CKN1コレクタ)を用いて連続遠心を行った。この時、解繊液を送液ポンプにて100ml/分で送液し、18000G条件で遠心分離を行った。得られた上澄み液を回収し、微細セルロース繊維含有スラリーを得た。得られた微細セルロース繊維を「微細セルロース1」とした。また、X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持しており、FT-IRによる赤外線吸収スペクトルの測定により、1230?1290cm^(-1)にリン酸基に基づく吸収が見られ、リン酸基の付加が確認された。よって、得られたリン酸オキソ酸導入セルロースは、セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたものであった。 【0085】 【化3】 ・・・・・ 【0093】 数平均繊維径の測定: 解繊パルプスラリーの上澄み液を濃度0.01?0.1質量%に水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL-2000EX)により観察し、幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることを確認した。 【0094】 」 イ 甲2 2a「【請求項1】 (a)リンのオキソ酸或いはそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物により、セルロースを含む繊維原料を処理する工程と、 (b)前記(a)工程により処理したセルロースを解繊処理する工程と、を有することを特徴とする微細繊維状セルロースの製造方法。 ・・・・・ 【請求項5】 1?1000nmの繊維幅を有し、かつ繊維を構成するセルロースのヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されたことを特徴とする、微細繊維状セルロース。 【化1】(構造式貼り付け) 構造式(1)において、a,b,m,nは自然数である(ただし、a=b×mである。)。α^(1),α^(2),・・・,α^(n)およびα’のうちの少なくとも1つはO^(-)であり、残りはR,ORのいずれかである。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、およびこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。 【請求項6】 請求項5に記載の微細繊維状セルロースが分散媒中に分散されてなる微細繊維状セルロース含有スラリー。」 2b「【0012】 <微細繊維状セルロース> 本発明の微細繊維状セルロースは、ヒドロキシ基(-OH基)の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されたものである。また、通常製紙用途で用いるパルプ繊維よりもはるかに細いセルロース繊維あるいは棒状粒子である。 【0013】 【化2】 【0014】 構造式(1)において、a,b,m,nは自然数である(ただし、a=b×mである。)。 α^(1),α^(2),・・・,α^(n)およびα’のうちの少なくとも1つはO^(-)であり、残りはR,ORのいずれかである。α^(n)およびα’の全てがO^(-)であっても構わない。nが2以上であり、α’がR又はORである場合には、各α^(n)のうちの少なくとも1つがO^(-)で残りがR又はORである。nが2以上であり、α’がO^(-)である場合には、各α^(n)は全てRであってもよいし、全てORであってもよいし、少なくとも1つがO^(-)で残りがR又はORであってもよい。 Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、およびこれらの誘導基である。 飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、t-ブチル基等が挙げられる。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンタン基、シクロヘキサン基等が挙げられる。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、アリル基等が挙げられる。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、3-ブテニル基等が挙げられる。飽和-環状炭化水素基芳香族基としては、フェニル基、ナフタレン基等が挙げられる。 また、前記Rにおける誘導体としては、前記各種炭化水素基の主鎖または側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加または置換した状態の官能基が挙げられる。 また、前記Rの主鎖を構成する炭素原子数は20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数が20を超えると、Rを含むリンオキソ酸基の分子が大きくなりすぎて、繊維原料に浸透しにくくなり、微細繊維状セルロースの収率が低下するおそれがある。 βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、マグネシウム等の2価金属の陽イオン、水素イオン等が挙げられる。これらは1種または2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、カリウムのイオンが好ましい。 ・・・・・ 【0021】 繊維原料のセルロースのヒドロキシ基の一部が上記構造式(1)の官能基で置換されることによって、セルロースに、リン原子にヒドロキシ基とオキソ基が結合したオキソ酸(以下、「リンオキソ酸」という。)が導入される。そのリンオキソ酸によって、セルロース繊維同士の電気的な反発力が強くなるものと推測される。また、スラリーとした際の分散安定性に優れる。 繊維原料のセルロースのヒドロキシ基(-OH基)におけるリンオキソ酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1?2.0mmolが好ましく、0.2?1.5mmolがより好ましい。リンオキソ酸基導入量が0.1mmol未満では、繊維原料の微細化が困難で、微細繊維状セルロースの安定性が劣る。リンオキソ酸基導入量が2.0mmolを超えると、微細繊維状セルロースが溶解する恐れがある。 ・・・・・ 【0024】 [リンオキソ酸基導入工程(a)] 繊維原料を化合物Aにより処理する方法としては、乾燥状態、あるいは湿潤状態の繊維原料に化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、繊維原料のスラリーに化合物Aの粉末や水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料(パルプ)に化合物Aの水溶液を添加する方法、あるいは湿潤状態の繊維原料(パルプ)に化合物Aの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。 ・・・・・ 【0027】 本発明で使用する化合物Aとしては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらの塩またはエステルが挙げられる。 これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、また、セルロースのヒドロキシ基にリン酸基を導入して解繊効率をより向上できることから、リン酸基を有する化合物が好ましい。 リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウム、更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムなどが挙げられる。 これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましい。 また、反応の均一性が高まり、且つリンオキソ酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは、リンオキソ酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3?7が好ましい。」 2c「【0135】 (実施例1) リン酸二水素ナトリウム二水和物10.14g、リン酸水素二ナトリウム1.79gを19.27gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬A」という。)を得た。このリン酸化試薬AのpHは25℃で4.73であった。 針葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、水分50%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を濃度4%になるように水を加えて、ダブルディスクリファイナーで変則CSF(平織り80メッシュ、パルプ採取量を0.3gとした以外はJISP8121に準ずる)が250ml、長さ平均繊維長が0.68mmになるまで叩解し、パルプスラリーを得た。得られたパルプスラリーを絶乾質量で3g分取し、イオン交換水で0.3%に希釈した後、抄紙法により脱水し、パルプシートを得た。得られたパルプシートの含水率は90%、厚みは200μmであった。このパルプシートを前記リン酸化試薬A31.2g(乾燥パルプ100質量部に対してリン元素量として80.2質量部)に浸漬させ、170℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社DKM400)で2時間半加熱処理し、セルロースにリンオキソ酸基を導入した。 次いで、リンオキソ酸基を導入したセルロースに500mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄後、濾過脱水して、脱水シートを得た。得られた脱水シートを300mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液5mlを少しずつ添加し、pHが12?13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、500mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに2回繰り返して、リンオキソ酸導入セルロースの脱水シートを得た。 洗浄脱水後に得られたリンオキソ酸導入セルロースの脱水シートにイオン交換水を添加後、攪拌し、0.5質量%のスラリーにした。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス-2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理して、解繊パルプスラリーを得た。 解繊パルプスラリーを下記記載([遠心分離後の上澄み収率の測定]中の遠心分離)に準じて遠心分離を行い、上澄み分を下記記載([透過型電子顕微鏡観察])の方法に準じて観察測定した。これにより、幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることが確認された(図1)。また、X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持しており、FT-IRによる赤外線吸収スペクトルの測定により、1230?1290cm-1にリン酸基に基づく吸収が見られ、リン酸基の付加が確認された。よって、得られたリン酸オキソ酸導入セルロースは、セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたものであった。 【0136】 【化3】 」 ウ 甲3 3a「亜リン酸セルロースの熱分解」(653頁 標題) 3b「1.緒 言 尿素の存在下におけるセルロースと亜リン酸との反応についてはすでに詳しい検討を加えた^(1))。これによると,セルロースとのエステル化反応の反応性はリン酸と比べ高く,生成した亜リン酸セルロースは一塩基酸型の高分子電解質であり,二塩基酸型のリン酸セルロースとは化学構造を異にしている。また両者のリン酸基の違いは加水分解の受けやすさにも現われることが認められている。 一方,著者らは,二,三の試料について,含リンセルロースエステルの熱分解挙動はそのリン酸基の化学構造によって大きく変化することを認めたが^(2),3)),本報では,リン酸基の化学構造と熱分解挙動との関係を明らかにする一連の研究の一つとして,亜リン酸セルロースの熱分解挙動をリン酸セルロースのそれと比較検討することにした。さらに,亜リン酸セルロースの難燃性についても論述した。以下それらについて報告する。」(653頁 左欄下から5行?654頁 左欄3行) 3c「3.1 TG曲線 リン酸含有率の異なる試料のTG曲線を測定し,昇温速度1℃/minの場合の結果をFig.2に示した。・・・ ・・・・・ つぎに,亜リン酸セルロースの熱分解反応における見かけの活性化エネルギーをリン酸セルロース(A試料)と比較した。Table 2によると,亜リン酸セルロースの熱分解反応は2段階で進む。・・これらの様子をリン酸セルロースの場合と比較すると,両試料とも熱分解反応は2段階で進行することは同じであるが,つぎの点で相違する。第1段階反応の活性化エネルギーは亜リン酸セルロースのほうがリン酸セルロースに比べ小さな値であり,熱分解を受けやすい。しかし,第2段階反応の活性化エネルギーは両試料間で大差はない。 したがって,亜リン酸セルロースの熱分解反応は第1段階反応に特徴があるものと推察される。この点をさらにDTA曲線より確かめることとした。 3.2 DTA曲線 亜リン酸セルロースのDTA曲線を求め,その結果をTable 3にまとめて示した。Table 3によると,亜リン酸セルロースのDTA曲線には二つのピークが存在し,前述のTG曲線の解析結果とよく一致している。二つのピーク温度はリン酸含有率の増加につれて,低温に移動し,両ピークの種類も吸熱から発熱へと変わる。以上のようなDTA曲線の挙動は既報^(7))のリン酸化セルロースの場合とよく類似している。しかし,第1ピークの種類がリン酸セルロースの場合すべて吸熱であるのに対し,亜リン酸セルロースではリン酸含有率によって吸熱より発熱へと変化する点で異にする。したがって,TG曲線より論じたように,DTA曲線からながめても亜リン酸セルロースは第1段階反応でリン酸セルロースと熱分解反応を異にすると結論される。 つぎに熱分解残さの赤外線吸収スペクトルの変化より,熱分解反応をより詳しく検討することとした。 3.3 熱分解残さの赤外線吸収スペクトル ・・・・・ したがって,重量減少が始まる200℃付近より,亜リン酸基はリン酸基へ変化し始め,熱分解の第1段階反応では亜リン酸基とリン酸基とが共存した状態で分解が進行する。亜リン酸基は第1段階反応が終了した240℃ですべてリン酸基に変わると結論される。この結論から,亜リン酸セルロースの熱分解反応の活性化エネルギー,およびDTA曲線がリン酸セルロースのそれらと熱分解の第1段階反応で異なり,第2段階反応では一致することが説明される。 ・・・・・ 以上の亜リン酸セルロースの熱分解物の赤外線吸収スペクトルの変化の既報^(7))のリン酸セルロースの場合と比較すると,つぎのようになる。両試料とも熱分解反応が始まると,炭素二重結合,ポリエン構造,さらには共役二重結合が生成することは同じである。しかし,亜リン酸セルロースではカルボニル基が全く生成しないこと,およびセルロースの崩壊が非常に遅い点で熱分解反応を異にする。 3.4 難燃性試験 前節までの検討結果より,亜リン酸セルロースの熱分解挙動は初期段階に特徴があり,リン酸セルロースとは熱分解反応を異にすることが明らかとなった。そこで,このような熱分解反応の差異が難燃性に影響を及ぼすか否かについて検討を加えることとした。 Table 4に亜リン酸セルロース試料(F試料),さらには比較のため前者試料とは熱分解反応を異にする^(7))リン酸セルロース(A試料),リン酸二水素アンモニウムを含浸した試料(B試料),および難燃処理剤として知られているTHPCで処理した試料(G試料)の難燃性試験の結果を示した。 ・・・・・ ・・さらに,熱分解反応が相互に異なるA,B,F試料間で難燃効果に差異が認められたことから,熱分解反応と難燃性との間には相関関係が示唆されるが,この問題に関しては別の機会に検討したいと考えている。」(654頁 右欄18行?656頁 右欄下から5行) エ 甲4 4a「[0054][実施例A1] 上記カルボキシル化パルプ由来のCNF(平均繊維径:4nm、アスペクト比:150)の1.0重量%水分散液100gをエタノール400gに滴下し、スターラーで撹拌してCNFの沈殿を生成させた。ブフナー漏斗を用いてこれを固液分離し、50℃の送風乾燥機で固形分濃度が95重量%となるまで乾燥し、CNFの乾燥固形物を得た。 [0055] 次に、上記で得られたCNFの乾燥固形物に水を加えてCNF1重量%の混合物とし、TKホモミキサー(3,000rpm)を用いて60分間撹拌し、CNFの乾燥固形物を再分散した分散液を得て、評価した。」 4b「[0066] 」 4c「[0088] 」 (2)甲1又は甲2に記載された発明 ア 甲1に記載された発明 (ア)甲1は、「1000nm以下の繊維幅を有し、かつ繊維を構成するセルロースのヒドロキシ基の一部がリンオキソ酸基で置換された微細繊維状セルロースを含む増粘剤」(1a請求項1)に関し記載するものであって、該微細繊維状セルロースの具体例として、製造例1(1c)には、「微細セルロース繊維含有スラリー」を製造して得たこと、この「微細セルロース繊維」は「微細セルロース1」であり、その物性は、「・・セルロースはセルロースI型結晶を維持しており、・・得られたリン酸オキソ酸導入セルロースは、セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたものであった。 」こと、さらに【表1】(1c【0094】)には、「微細セルロース1」の「リン酸基量mmol/g」「1.0」及び「数平均繊維径(nm)」「4」であることが記載されている。 そうすると、甲1には、 「セルロースI型結晶を維持しており、 セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたものであり リン酸基量1.0mmol/g及び数平均繊維径4nmである、微細セルロース1含有スラリー」の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。 (イ)さらに、甲1の製造例1(1c)には、当該「微細セルロース1含有スラリー」の製造方法が記載されている。 そうすると、当該「微細セルロース1含有スラリー」の物性を「甲1発明1」として認定した事項を含めると、甲1には、 「 尿素100g、リン酸二水素ナトリウム二水和物55.3g、リン酸水素二ナトリウム41.3gを109gの水に溶解させてリン酸化試薬を調製し、乾燥した針葉樹晒クラフトパルプの抄上げシートをカッターミル及びピンミルで処理し、綿状の繊維にし、この綿状の繊維を絶乾質量で100g取り、リン酸化試薬をスプレーでまんべんなく吹きかけた後、手で練り合わせ、薬液含浸パルプを得、得られた薬液含浸パルプを140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機にて、80分間加熱処理し、リン酸化パルプを得、得られたリン酸化パルプをパルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12?13のパルプスラリーを得、その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、脱水洗浄後に得られたセルロース繊維にイオン交換水を添加し、0.5質量%のスラリーを調製し、このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス-11S)を用いて、6900回転/分の条件で180分間解繊処理し、その後、イオン交換水を添加してスラリー固形分濃度0.25質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H-2000B、RNローター、CKN1コレクタ)を用いて連続遠心を行い、この時、解繊液を送液ポンプにて100ml/分で送液し、18000G条件で遠心分離を行い、得られた上澄み液を回収し、微細セルロース繊維である微細セルロース1含有スラリーを得る、 セルロースI型結晶を維持しており、 セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたものであり リン酸基量1.0mmol/g及び数平均繊維径4nmである、微細セルロース1含有スラリーの製造方法」 の発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。 イ 甲2に記載された発明 甲2は、「(a)リンのオキソ酸或いはそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物により、セルロースを含む繊維原料を処理する工程と、(b)前記(a)工程により処理したセルロースを解繊処理する工程と、を有することを特徴とする微細繊維状セルロースの製造方法」(2a請求項1)に関し記載するものであって、請求項6には「請求項5に記載の微細繊維状セルロースが分散媒中に分散されてなる微細繊維状セルロース含有スラリー」(2a請求項6)に係る発明が記載され、その具体例として、実施例1(2c)には、「解繊パルプスラリー」を得たこと、この「スラリー」が含有している「解繊パルプ」である「微細繊維状セルロース」の物性は、「幅4nm程度の微細繊維状セルロース・・、・・セルロースI型結晶を維持しており、・・得られたリン酸オキソ酸導入セルロースは、セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたものであった。 」ことが記載されている。 そうすると、甲2には、 「幅4nm程度であり、 セルロースI型結晶を維持しており、 セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたものである 微細繊維状セルロース含有スラリー」 の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 (3)本件発明1について ア 甲1を主引用文献とする場合 (ア)甲1発明1との対比 a 本件発明1の「セルロース微細繊維」について、本件明細書には「【0027】セルロース微細繊維の繊維幅(単繊維の平均直径)は、好ましくは1?1000nm・・である。繊維幅が1nm未満であると、セルロースが水に溶解し、セルロース微細繊維としての物性、例えば、強度や剛性、寸法安定性等を有さなくなるおそれがある。他方、繊維幅が1000nmを超えると、もはやセルロース微細繊維とは言えず、通常のセルロース繊維となる。」と記載されていることから、本件発明1の「セルロース微細繊維」は、繊維幅(単繊維の平均直径)が1?1000nmであるものと理解される。 そうすると、甲1発明1の「微細セルロース1」は「数平均繊維径4nmである」から、本件発明1の「セルロース微細繊維」に相当する。 b 甲1発明1の「セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたものであり 」は、「セルロース微細繊維1」のヒドロキシ基の一部が構造式(2)の官能基で置換されたものであり、無機物からなる陽イオンである、ナトリウムイオンを含む、リン酸のエステルが導入されたものといえる。 そうすると、甲1発明1の「セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたもの(化学構造式省略)」と、本件発明1の「無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルが導入されている」ものとは、リン酸及び亜リン酸が共にリンオキソ酸の一種であるから、無機物からなる陽イオンを含むリンオキソ酸のエステルが導入されているものである点で共通する。 c 甲1発明1の「リン酸基量1.0mmol/g」は、「微細セルロース1」1gに対するリン酸基の割合が1.0mmolであることを意味する。 そして、甲1発明1の「構造式(2)の官能基」をみると、リン酸基1molに対しNaイオン2mol存在するから、甲1発明1における「微細セルロース1」1gに対するNaイオンの割合は、2.0mmolといえる。 そうすると、甲1発明1の「リン酸基量1.0mmol/g」に対応する、「微細セルロース1」1gに対するNaイオンの割合2.0mmolは、本件発明1の「セルロース微細繊維1gに対する前記無機物からなる陽イオンの割合が、0.14mmol以上である」に相当する。 d 甲1発明1の「微細セルロース1含有スラリー」は、「微細セルロース1」を含有するものであるから、前記aで述べたことを踏まえると、本件発明1の「セルロース微細繊維含有物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、 「無機物からなる陽イオンを含むリンオキソ酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維を含有し、 前記セルロース微細繊維1gに対する前記無機物からなる陽イオンの割合が、0.14mmol以上である、 ことを特徴とするセルロース微細繊維含有物」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点甲1A:リンオキソ酸基が、本件発明1では、亜リン酸基であるのに対し、甲1発明1では、リン酸基である点 (イ)判断 a 新規性について 相違点甲1Aについて、甲1発明1のリン酸基は、亜リン酸基とは化学物質として異なるものであるから、相違点甲1Aは、実質的な相違点である。 b 進歩性について (a)相違点甲1Aについて 甲1の請求項1に記載の「リンオキソ酸基」として、甲1の請求項3には「下記構造式(1):【化1】 [式中、 a、b、m、nは自然数であり(ただし、a=b×mである)、 α1、α2、・・・、αn及びα’のうちの少なくとも1つはO^(-)であり、残りはR又はORであり、 Rは、各々独立して、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基又はこれらの誘導基であり、 βは有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである] で表されるリンオキソ酸基」と記載されており、「R」が「水素原子」の場合は、亜リン酸基であることから、請求項1の「リンオキソ酸基」には、選択肢の一つとして、亜リン酸基も含まれるものと理解される。 甲1の発明の詳細な説明には、「リンオキソ酸基」の記載(1b【0012】?【0014】)、「リンオキソ酸基導入工程」で繊維原料を処理する「化合物A」の記載(1b【0035】、【0039】?【0041】)として、リン酸基を有する化合物と並列に、亜リン酸、ホスホン酸又はこれらの塩若しくはエステルが例示され、低コストで扱いやすく解繊効率をより向上できることから、特にリン酸基を有する具体的な化合物が数多例示されている。 そして、甲1の実施例には、甲1の請求項1に記載の「リンオキソ酸基」として、リン酸基を適用した実施例のみが記載されている。 そうすると、甲1の記載全体をみると、甲1には、発明の詳細な説明に、亜リン酸、ホスホン酸について一般的な例示がなされているに過ぎず、甲1の全体的な記載は、リン酸を置換基として導入することが記載されているといえるから、甲1の請求項1におけるリンオキソ酸基として、亜リン酸基を選択することは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 また、甲1の請求項1に係る発明である「セルロースのヒドロキシ基の一部がリンオキソ酸基で置換された微細繊維状セルロースを含む増粘剤」は、耐酸性のある微細繊維状セルロースからなる水溶性増粘剤(1b【0010】、【0078】)という性質があることが記載されているにすぎず、本件発明1の課題である、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細繊維含有物であることについては、何ら記載も示唆もされていない。 さらに、甲3には、セルロースと亜リン酸とのエステル化反応の反応性は、リン酸と比べ高く、生成した亜リン酸セルロースは一塩基酸型の高分子電解質で、二塩基酸型のリン酸セルロースとは化学構造を異にし、また加水分解の受けやすさにも違いがあること、亜リン酸セルロースの熱分解挙動は、リン酸セルロースの熱分解挙動と異にし、難燃効果にも差異が認められたことが記載されており、亜リン酸セルロースとリン酸セルロースとは、化学構造のみならず性質も異なることが示されている以上、セルロースの水酸基に、リン酸基に代えて、亜リン酸基を導入したとしても、リン酸基を導入した場合と同様の性質を有するとは理解し難い。それ故、亜リン酸セルロースとリン酸セルロースとを同等物として扱われてきたと理解することはできない。 したがって、甲1発明1において、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細含有物とするために、甲1発明1のセルロースに導入されるリンオキソ酸基として、リン酸基に代えて、亜リン酸基とすることは、当業者が容易に想到し得る技術的事項であるとはいえない。 (b)本件発明1の効果について 本件発明1の効果は、本件明細書の段落【0008】の記載及び試験例1?5の結果を示す【表1】(【0110】)の客観的な実験データにより裏付けられているとおり、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細含有物を提供できることであると認められる。 本件発明1は、無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維を含有し、該セルロース微細繊維1gに対する該無機物からなる陽イオンの割合が0.14mmol以上であるものとすることにより、水に対する分散性に優れたものとなることを見出したものであり、本件発明1の上記効果は甲1及び3の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。 c したがって、本件発明1は、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明及び甲3に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 イ 甲2を主引用文献とする場合 (ア)甲2発明との対比 a 本件発明1の「セルロース微細繊維」は、前記ア(ア)aに記載したように、繊維幅(単繊維の平均直径)が1?1000nmであるものと理解される。 そうすると、甲2発明の「微細繊維状セルロース」は「幅4nm程度であ」るから、本件発明1の「セルロース微細繊維」に相当する。 b 甲2発明の「セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたものである 」は、「微細繊維状セルロース」のヒドロキシ基の一部が構造式(2)の官能基で置換されたものであり、無機物からなる陽イオンである、ナトリウムイオンを含む、リン酸のエステルが導入されたものといえる。 そうすると、甲2発明の「セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたもの (化学構造式省略)」と、本件発明1の「無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルが導入されている」ものとは、リン酸及び亜リン酸が共にリンオキソ酸の一種であるから、無機物からなる陽イオンを含むリンオキソ酸のエステルが導入されているものである点で共通する。 c 甲2発明の「微細繊維状セルロース含有スラリー」は、前記aで述べたことを踏まえると、本件発明1の「セルロース微細繊維含有物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、 「無機物からなる陽イオンを含むリンオキソ酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維を含有することを特徴とするセルロース微細繊維含有物」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点甲2A:リンオキソ酸基が、本件発明1では、亜リン酸基であるのに対し、甲2発明では、リン酸基である点 相違点甲2B:本件発明1では、前記セルロース微細繊維1gに対する無機物からなる陽イオンの割合が、0.14mmol以上であるのに対し、甲2発明では、セルロース微細繊維1gに対する無機物からなる陽イオンの割合は、明らかでない点 (イ)判断 a 新規性について 相違点甲2Aについて、甲2発明のリン酸基は、亜リン酸基とは化学物質として異なるものであるから、相違点甲2Aは、実質的な相違点である。 したがって、相違点甲2Bを検討するまでもなく、本件発明1は、本件出願前に頒布された甲2に記載された発明とはいえない。 (4)本件発明2?4、7について ア 新規性について 本件発明2?4は、本件発明1においてさらに技術的に限定した発明であり、また、本件発明7は、本件発明1を発明特定事項として含む発明である。 そうすると、本件発明1が、本件出願前に頒布された甲1又は2に記載された発明とはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明2?4及び本件発明1を発明特定事項として含んだ本件発明7は、甲1に記載された発明とはいえないし、本件発明2、3は、甲2に記載された発明とはいえない。 イ 進歩性について 甲4は、固形分濃度が95重量%(すなわち、水分含有率が5重量%)のセルロースナノファイバーの乾燥固形物を得たこと(4a)(本件発明4に関連)、及び、該乾燥固形物に水を加えて該乾燥固形物を再分散した分散液の製造方法(4a)(本件発明7に関連)が記載されている文献である。 本件発明1が、甲1に記載された発明及び甲3に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明2?4及び本件発明1を発明特定事項として含んだ本件発明7についても、甲1に記載された発明及び甲3、4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件発明5について ア 甲1発明2との対比 (ア)本件発明1の「セルロース微細繊維」は、前記(3)ア(ア)aに記載したように、繊維幅(単繊維の平均直径)が1?1000nmであるものと理解される。 そうすると、甲1発明2の「微細セルロース1」は「数平均繊維径4nmである」から、本件発明5の「セルロース微細繊維」に相当する。 (イ)甲1発明2の「微細セルロース1含有スラリー」は、「微細セルロース1」を含有するものであるから、前記(ア)で述べたことを踏まえると、本件発明5の「セルロース微細繊維含有物」に相当する。 (ウ)甲1発明2の「乾燥した針葉樹晒クラフトパルプの抄上げシートをカッターミル及びピンミルで処理し、綿状の繊維にし」たものは、パルプを綿状の繊維にしたもので、セルロース繊維といえるから、本件発明5の「セルロース繊維」に相当する。 (エ)甲1発明2の「リン酸化試薬」は、「尿素100g、リン酸二水素ナトリウム二水和物55.3g、リン酸水素二ナトリウム41.3gを109gの水に溶解させて」「調製し」たものであり、ナトリウムイオン含有物であるから、本件発明5の「アルカリ金属イオン含有物」に相当する。 (オ)甲1発明2の「リン酸化パルプ」は「セルロースのヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)の官能基で置換されたものであり 」、リン酸のエステルが導入されたものといえる。 そうすると、甲1発明2の「リン酸化パルプ」と、本件発明5の「セルロース繊維に亜リン酸のエステルを導入し」たものとは、リン酸及び亜リン酸が共にリンオキソ酸の一種であるから、セルロース繊維にリンオキソ酸のエステルを導入したものである点で共通する。 (カ)甲1発明2の「乾燥した針葉樹晒クラフトパルプ・・を・・綿状の繊維にし・・リン酸化試薬をスプレーでまんべんなく吹きかけた後・・加熱処理し、リン酸化パルプを得、得られたリン酸化パルプを・・洗浄後に得られたセルロース繊維にイオン交換水を添加し・・スラリーを調製し、このスラリーを・・解繊処理し・・微細セルロース繊維である微細セルロース1含有スラリーを得る」ことと、本件発明5の「セルロース繊維に亜リン酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得る」こととは、前記(ア)?(オ)で述べたことを踏まえると、セルロース繊維にリンオキシ酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得る点で、共通する。 (キ)甲1発明2の「乾燥した針葉樹晒クラフトパルプ・・を・・綿状の繊維にし・・リン酸化試薬をスプレーでまんべんなく吹きかけた」ことは、前記(カ)で述べた、セルロース繊維にリンオキシ酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得る過程中の一工程であるから、本件発明5の「この過程で前記セルロース繊維に対してアルカリ金属イオン含有物を添加する」ことに相当する。 (ク)甲1発明2の「得られたリン酸化パルプを・・洗浄後に得られたセルロース繊維にイオン交換水を添加し・・スラリーを調製し、このスラリーを・・解繊処理し、その後、イオン交換水を添加してスラリー固形分濃度0.25質量%に調整し・・連続遠心を行い・・得られた上澄み液を回収し、微細セルロース繊維である微細セルロース1含有スラリーを得る」ことは、リン酸化パルプを解繊処理後に水を添加してスラリーを調整し、それを遠心分離して微細セルロース繊維である微細セルロース1含有スラリーを得ていることから、スラリーである分散液を遠心分離により濃縮して微細セルロース繊維含有物を得ているといえるから、本件発明5の「前記分散液を濃縮してセルロース微細繊維含有物を得る」ことに相当する。 そうすると、本件発明5と甲1発明2とは、 「セルロース繊維にリンオキソ酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得るものとし、この過程で前記セルロース繊維に対してアルカリ金属イオン含有物を添加するものとし、 前記分散液を濃縮してセルロース微細繊維含有物を得る、 ことを特徴とするセルロース微細繊維含有物の製造方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点甲1B:リンオキソ酸が、本件発明5では、亜リン酸であるのに対し、甲1発明2では、リン酸である点 イ 判断 (ア)新規性について 相違点甲1Bは、前記(3)ア(ア)の相違点甲1Aと実質的に同じであるから、前記(3)ア(イ)aで述べたとおりである。 (イ)進歩性について a 相違点甲1Bについて 甲4は、固形分濃度が95重量%(すなわち、水分含有率が5重量%)のセルロースナノファイバーの乾燥固形物を得たこと(4a)が記載されている文献であるが、相違点甲1Bは、相違点甲1Aと実質的に同じであるから、前記(3)ア(イ)b(a)で述べたとおりである。 b 本件発明5の効果について 本件発明5の効果は、本件明細書の段落【0008】の記載及び試験例1?5の結果を示す【表1】(【0110】)の客観的な実験データにより裏付けられているとおり、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細含有物の製造方法を提供できることであると認められる。 そして、この効果は、本件発明1と実質的に同様の効果であり、前記(3)ア(イ)b(b)で述べたとおりであるから、本件発明5の上記効果は甲1、3、4の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。 (ウ)したがって、本件発明5は、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明及び甲3、4に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (6)本件発明6について ア 新規性について 本件発明6は、本件発明5においてさらに技術的に限定した発明である。 そうすると、本件発明5が、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明とはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明6は、甲1に記載された発明とはいえない。 イ 進歩性について 本件発明5が、甲1に記載された発明及び甲3、4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明6についても、甲1に記載された発明及び甲3、4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (7)まとめ したがって、本件発明1?7は、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明とはいえず、本件発明1?3は、本件出願前に頒布された甲2に記載された発明ともいえず、また、本件発明1?7は、甲1に記載された発明及び甲3及び4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 よって、本件発明1?7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当しなされたものではなく、かつ、本件発明1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 2 理由3(特許法第29条の2)について (1)先願明細書等の記載事項 ア 先願甲5 (ア)先願 先願甲5は、2016年8月26日を出願日とする出願であり、先願甲5を優先権主張の基礎とするPCT/JP2017/030252の国際出願日は2017年8月24日である。また、当該国際出願の国際公開(国際公開第2018/038194号)の国際公開日は2018年3月1日である。 先願甲5の出願日(2016年8月26日)は、本件出願日(2017年7月24日)より前であり、また、先願甲5を優先権主張の基礎とする国際出願の国際公開日(2018年3月1日)は、本件出願日よりも後である。 (イ)先願甲5明細書等の記載 特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により、国際公開されたものとみなされる先願甲5の願書に最初に添付した明細書及び請求の範囲には、次の事項が記載されている。 5a「【請求項1】 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、二価以上の金属成分と、を含む繊維状セルロース含有物であって、 前記繊維状セルロースの含有量は、前記繊維状セルロース含有物の全質量に対して5質量%以上であり、 前記金属成分の含有量は、前記繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.5質量%以下であり、 固形分濃度が0.5質量%のスラリーにした際に、前記スラリーのpHが4以上である繊維状セルロース含有物。」 5b「 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 微細繊維状セルロースの乾燥固形物やゲル状体などの濃縮物は、良好な再分散性を有していることが好ましく、再分散後には、濃縮前と同様の増粘性を発揮することが求められている。 また、微細繊維状セルロースの濃縮物は、その使用態様によっては長期保管される場合がある。そして、長期保管後であっても、再分散後に優れた増粘性を発揮することが求められている。 【0009】 そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、良好な再分散性を有する微細繊維状セルロースの濃縮物であって、長期保管後であっても、再分散後に優れた増粘性を発揮することができる微細繊維状セルロース濃縮物を提供することを目的として検討を進めた。 【課題を解決するための手段】 【0010】 上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、二価以上の金属成分と、を含む繊維状セルロース含有物において、固形分濃度が0.5質量%のスラリーにした際に、該スラリーのpHが4以上となるように繊維状セルロース含有物のpHを調整することにより、良好な再分散性を有し、かつ長期保管後であっても再分散後に優れた増粘性を発揮し得る繊維状セルロース含有物が得られることを見出した。 ・・・・・ 【発明の効果】 【0012】 本発明によれば、良好な再分散性を有する微細繊維状セルロース含有物が得られる。また、本発明によれば、微細繊維状セルロース含有物は、長期保管後であっても再分散後に優れた増粘性を発揮することができる。」 5c「【0019】 繊維状セルロースの含有量は、繊維状セルロース含有物の全質量に対して5質量%以上であればよく、7.5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースの含有量の上限値は特に限定されるものではないが、例えば95質量%とすることができる。本発明の繊維状セルロース含有物中には、繊維状セルロースが高濃度で存在しており、濃縮された形態となっているため、保管コストや輸送コストを低減することができる。また、例えば増粘剤や複合化する際の原料として用いる場合は、水の持ち込み量を少なくすることもできる。さらに、繊維状セルロース含有物の含有量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロース含有物中における繊維状セルロースの安定性を高めることもできる。 ・・・・・ 【0035】 微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有することが好ましい。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-PO3H2で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。 【0036】 本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。 【化1】 【0037】 式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);α及びα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。 【0038】 <リン酸基導入工程> リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。 ・・・・・ 【0041】 本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。 リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。 【0042】 これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。 ・・・・・ 【0052】 リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることが好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化が容易でありながらも、微細繊維状セルロース同士の水素結合も残すことが可能で、シートとした場合には良好な強度発現が期待できる。 ・・・・・ 【0069】 (金属成分) 本発明の繊維状セルロース含有物は、二価以上の金属成分を含む。二価以上の金属成分は、後述する繊維状セルロース含有物の製造工程の凝集工程において、金属塩として添加される成分である。このような金属塩は、微細繊維状セルロースを凝集させる働きをするため、凝集剤と呼ぶこともできる。」 5d「【0108】 (再分散) 上述した工程で製造された微細繊維状セルロース含有物は、水等の溶媒に再分散させることで用いられることが好ましい。このような再分散スラリーを得るために使用する溶媒の種類は、特に限定されないが、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル等が挙げられる。 【0109】 微細繊維状セルロース含有物の再分散は常法により行うことができる。例えば、微細繊維状セルロース含有物に、上記した溶媒を添加して微細繊維状セルロース含有物を含む液を調製する工程と、この微細繊維状セルロース含有物を含む液中の微細繊維状セルロースを分散させる工程により、再分散を行うことができる。」 5e「【0114】 <製造例1> 針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m^(2)シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。 【0115】 得られたリン酸化パルプを絶乾質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12以上13以のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。 【0116】 得られた脱水シートに対し、先と同様にして、リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程を繰り返し、リン酸化セルロースの脱水シートを得た。得られた脱水シートの赤外線吸収スペクトルをFT-IRで測定した。その結果、1230cm^(-1)以上1290cm^(-1)以下にリン酸基に基づく吸収が観察され、リン酸基の付加が確認された。 【0117】 得られた二回リン酸化セルロースにイオン交換水を添加し、2質量%スラリーを調製した。このスラリーを、さらに湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で245MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロースを得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースはセルロースI型結晶を維持していることを確認した。 【0118】 <置換基量の測定> 置換基導入量は、繊維原料へのリン酸基の導入量であり、この値が大きいほど、多くのリン酸基が導入されている。置換基導入量は、対象となる微細繊維状セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図1(リン酸基)に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。算出した結果、1.60mmol/gであった。 【0119】 <繊維幅の測定> 微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。 解繊パルプスラリーの上澄み液を濃度0.01質量%以上0.1質量%以下に水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL-2000EX)により観察した。これにより、幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることを確認した。 【0120】 <実施例1> 微細繊維状セルロースの分散液(2質量%)を500g取り、そこに0.5質量%に希釈した塩化カルシウム水溶液を500g加えてゲル化させた。濾紙にて圧搾し、固形分濃度が20質量%の濃縮物1を得た。濃縮物1を0.1N塩酸水溶液1000gに30分間浸漬し、その後濾過し、濾紙にて圧搾することで固形分濃度が20質量%の濃縮物2を得た。濃縮物2はミキサー(岩谷産業社製、ミルサー800DG)を用いて粉砕した。100質量部の濃縮物2に対し、0.35N水酸化ナトリウム水溶液を94質量部、トレハロース(東京化成工業社製)を6質量部、ノニオン性界面活性剤(サンノプコ社製、SNウェットPUR)を1質量部加え、薬さじでよく練り混ぜ、微細繊維状セルロースの濃度が10質量%の微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)を得た。」 前記5aの記載は、先願甲5を優先権主張の基礎とする日本語特許出願の国際公開第2018/038194号の請求の範囲の[請求項1]に、前記5bの記載は、当該国際公開の明細書の段落[0008]?[0012]に、前記5cの記載は、当該国際公開の明細書の段落[0019]、[0035]?[0038]、[0041]?[0042]、[0052]、[0069]に、前記5dの記載は、当該国際公開の明細書の段落[0108]?[0109]に、前記5eの記載は、当該国際公開の明細書の段落[0114]?[0120]に、それぞれ記載され、国際公開されている。 イ 先願甲6 (ア)先願 先願甲6は、2016年3月31日を出願日とする出願であり、先願甲6を優先権主張の基礎とするPCT/JP2017/013352の国際出願日は2017年3月30日である。また、当該国際出願の国際公開(国際公開第2017/170908号)の国際公開日は2017年10月5日である。 先願甲6の出願日(2016年3月31日)は、本件出願日(2017年7月24日)より前であり、また、先願甲6を優先権主張の基礎とする国際出願の国際公開日(2017年10月5日)は、本件出願日よりも後である。 (イ)先願甲6明細書等の記載 特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により、国際公開されたものとみなされる先願甲6の願書に最初に添付した明細書及び請求の範囲には、次の事項が記載されている。 6a「【請求項1】 セルロース繊維にリン酸基を導入し、前記リン酸基を介して架橋構造を形成することで架橋リン酸化セルロース繊維を得る工程(A)と、 前記架橋構造の一部又は全部を切断することで架橋切断リン酸化セルロース繊維を得る工程(B)と、 前記架橋切断リン酸化セルロース繊維に機械処理を施すことで繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る工程(C)と、を含み、 前記工程(A)では、0.05mmol/g以上2.0mmol/g以下の架橋構造を形成し、 前記工程(B)は、pHが3以上の水系溶媒中で架橋構造の加水分解を行う工程である、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースの製造方法。 ・・・・・ 【請求項7】 リン酸基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースであって、 前記繊維状セルロースのリン酸基量が1.65mmol/g以上であり、前記繊維状セルロースの重合度が390以上であり、 前記繊維状セルロースは、前記リン酸基を介した架橋構造を含む繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース。 【請求項8】 ウレタン結合を有する基の含有量が0.3mmol/g以下である請求項7に記載の繊維状セルロース。 【請求項9】 請求項7又は8に記載の繊維状セルロースを含むスラリー。 ・・・・・ 【請求項11】 請求項7又は8に記載の繊維状セルロースを含むシート。」 6b「技術分野 【0001】 本発明は、微細繊維状セルロースの製造方法及び微細繊維状セルロースに関する。さらに本発明は、微細繊維状セルロース含有スラリー及び微細繊維状セルロース含有シートに関するものである。 ・・・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 リン酸基を有する微細繊維状セルロースについては、リン酸基をより多く導入することが望まれる場合がある。一方で、微細繊維状セルロースは、スラリーとした場合に高い粘度を発現できるものであることが好ましい。そこで、本発明者らは、このような微細繊維状セルロースを効率よく製造することを目的として検討を進めた。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、リン酸化微細繊維状セルロースの製造方法において、セルロースに導入されたリン酸基を介して所定量の架橋構造を形成した後に、該架橋構造の加水分解を行い、その後に微細化処理を行うことで、リン酸基導入量が十分に高く、かつリン酸基を介した架橋構造の形成が少ないリン酸化微細繊維状セルロースが効率よく得られることを見出した。・・・ ・・・・・ 【発明の効果】 【0011】 本発明の製造方法によれば、スラリーとした場合に高い粘度を発現し得るリン酸基を有する微細繊維状セルロースを効率よく得ることができる。」 6c「【0020】 セルロース繊維にリン酸基を導入する工程(a1)(以下、リン酸基導入工程ともいう)は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。・・・ ・・・・・ 【0023】 本実施態様で使用する化合物Aは、リン原子を含有し、セルロースとエステル結合を形成しうる化合物である。リン原子を含有し、セルロースのヒドロキシル基とエステル結合を形成しうる化合物は、例えば、リン酸、リン酸の塩、リン酸の脱水縮合物、リン酸の脱水縮合物の塩、五酸化二リン、オキシ塩化リンから選択される少なくとも1種またはこれらの混合物であるが特に限定されない。いずれも水和水等の形態で水を含んでも良いし、実質的に水を含まない無水物でも良い。 リン酸塩、リン酸の脱水縮合物の塩としては、リン酸、リン酸の脱水縮合物のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩のほか、任意の塩基性を示す化合物との塩が選択できるが、特に限定されない。 また、リン酸塩、リン酸の脱水縮合物の塩の中和度も特に限定されない。 【0024】 これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸、リン酸二水素アンモニウムまたはリン酸二水素ナトリウムがより好ましい。」 6d「【0074】 本発明の微細繊維状セルロースは、リン酸基を有する。本明細書において、「リン酸基」には、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基が含まれる。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-PO_(3)H_(2)で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。 【0075】 本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式構造式で表される基であってもよい。 【0076】 【化1】 【0077】 上記構造式中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に1以上の整数を表す(ただし、a=b×mである)。αおよびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基整数である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。 【0078】 微細繊維状セルロースのリン酸基量は1.00mmol/g以上であることが好ましく、1.20mmol/g以上であることがより好ましく、1.65mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.80mmol/g以上であることが特に好ましい。また、微細繊維状セルロースのリン酸基量は、5.0mmol/g以下であることが好ましい。リン酸基量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化が容易でありながらも、微細繊維状セルロース同士の水素結合も残すことが可能で、良好な強度発現が期待できる。」 6e「【0120】 (実施例1) <リン酸化反応工程> 針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m^(2)シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を原料として使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を加え、リン酸二水素アンモニウム48質量部、尿素130質量部、イオン交換水165質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Aを得た。 【0121】 <洗浄・アルカリ処理工程> 得られたリン酸化セルロース繊維Aに、イオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の薬液を十分に洗い流した。次いで、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加して、pHが12±0.2のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、リン酸化セルロース繊維Bを得た。 【0122】 <リン酸基導入工程(2回目)> 得られたリン酸化セルロース繊維Bを原料として、上述した<リン酸化反応工程>を繰返し行い、パルプ中のセルロースに、さらにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Cを得た。 【0123】 <架橋工程> 得られたリン酸化セルロース繊維Cを、165℃の熱風乾燥機で200秒間加熱処理し、パルプ中のセルロースに、さらにリン酸基を導入し、また、リン酸基を介してセルロースに架橋構造を導入し、架橋リン酸化セルロース繊維Aを得た。 なお、この架橋工程はリン酸基導入工程(2回目)の乾燥・加熱時間をそのまま延長して行った(165℃の熱風乾燥機で計400秒間加熱処理を行った)。 【0124】 <洗浄・アルカリ処理工程(2回目)> 得られた架橋リン酸化セルロース繊維Aに対し、上述した<洗浄・アルカリ処理工程>を行い、架橋リン酸化セルロース繊維Bを得た。 【0125】 <架橋切断工程> 得られた架橋リン酸化セルロース繊維Bの固形分濃度が2.0質量%、pHが12.5になるように、イオン交換水とNaOHを添加してパルプスラリーを調製した。得られたパルプスラリーを内温90℃の条件で1時間静置加熱した。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、架橋切断リン酸化セルロース繊維Aを得た。得られた架橋切断リン酸化セルロース繊維Aの重合度を後述する方法により測定した。 【0126】 <機械処理> 得られた架橋切断リン酸化セルロース繊維Aにイオン交換水を添加して、固形分濃度が2.0質量%の懸濁液にした。この懸濁液を、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)を用いて機械処理し、微細繊維状セルロース含有スラリーを得た。湿式微粒化装置を用いた処理においては、200MPaの圧力にて処理チャンバーを1回(上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量測定用)通過させたものと、5回(リン酸基量、架橋構造量測定用)通過させたものを得た。 得られた微細繊維状セルロース含有スラリーの、上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量、リン酸基量、架橋構造の含有量を後述の方法により測定した。 ・・・・・ 【0139】 <リン酸基の導入量の測定> リン酸基の導入量は、伝導度滴定法により測定した。具体的には、機械処理工程(微細化工程)により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定した。 イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーに体積比で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024;コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、分散液が示す電気伝導度の値の変化を計測した。 【0140】 この伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用した分散液中の弱酸性基量と等しくなる。 図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象分散液中の固形分(g)で除して、第一解離アルカリ量(mmol/g)とし、この量をリン酸基の導入量とした。 ・・・・・ 【0148】 【表1】 前記6aの記載は、先願甲6を優先権主張の基礎とする日本語特許出願の国際公開第2017/170908号の請求の範囲の[請求項1]、[請求項7]?[請求項9]、[請求項11]に、前記6bの記載は、当該国際公開の明細書の段落[0008]?[0009]、[0011]に、前記6cの記載は、当該国際公開の明細書の段落[0020]、[0023]?[0024]に、前記6dの記載は、当該国際公開の明細書の段落[0074]?[0078]に、前記6eの記載は、当該国際公開の明細書の段落[0120]?[0126]、[0139]?[0140]、[0148]に、それぞれ記載され、国際公開されている。 (2)先願甲5又は先願甲6に記載された発明 ア 先願甲5に記載された発明 (ア)先願甲5は、「繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、二価以上の金属成分と、を含む繊維状セルロース含有物であって、前記繊維状セルロースの含有量は、前記繊維状セルロース含有物の全質量に対して5質量%以上であり、前記金属成分の含有量は、前記繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.5質量%以下であり、固形分濃度が0.5質量%のスラリーにした際に、前記スラリーのpHが4以上である繊維状セルロース含有物」(5a請求項1)に関し記載するものであって、繊維状セルロース含有物の具体例として、製造例1及び実施例1(5e)には、「微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)」を製造して得たこと、この「微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)」中の「微細繊維状セルロース」の物性は、「【0116】・・リン酸化セルロース・・リン酸基の付加が確認された。【0117】・・この微細繊維状セルロースはセルロースI型結晶を維持していることを確認した。【0118】置換基導入量は、繊維原料へのリン酸基の導入量であり・・置換基導入量(mmol/g)・・1.60mmol/gであった。【0119】・・幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることを確認した。」(5e)と記載されている。 上記「リン酸化セルロース」の「リン酸基」は、「【0114】<製造例1>・・針葉樹クラフトパルプ・・に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し・・パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し」(5e)た「リン酸基」といえる。 さらに、この「微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)」は、「微細繊維状セルロースの分散液・・に・・塩化カルシウム水溶液を・・加えてゲル化させた」(5e)ものであり、「【0069】(金属成分)本発明の繊維状セルロース含有物は、二価以上の金属成分を含む」(5c)ものであることを踏まえると、二価の金属成分であるカルシウムイオンを含むものといえる。 そうすると、先願甲5には、 「リン酸基の付加されたリン酸化セルロースであり、セルロースI型結晶を維持し、カルシウムイオンを含む、リン酸基導入量1.6mmol/g及び幅4nm程度の、微細繊維状セルロースの含有物(濃縮物3)」の発明(以下「先願甲5発明1」という。)が記載されていると認められる。 (イ)さらに、先願甲5には、この微細繊維状セルロース含有物の含有物(濃縮物3)の製造方法として、製造例1及び実施例1(5e)には、 「【0114】 <製造例1> 針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m^(2)シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。 【0115】 得られたリン酸化パルプを絶乾質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12以上13以のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。 【0116】 得られた脱水シートに対し、先と同様にして、リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程を繰り返し、リン酸化セルロースの脱水シートを得た。・・・ 【0117】 得られた二回リン酸化セルロースにイオン交換水を添加し、2質量%スラリーを調製した。このスラリーを、さらに湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で245MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロースを得た。」 「【0120】 <実施例1> 微細繊維状セルロースの分散液(2質量%)を500g取り、そこに0.5質量%に希釈した塩化カルシウム水溶液を500g加えてゲル化させた。濾紙にて圧搾し、固形分濃度が20質量%の濃縮物1を得た。濃縮物1を0.1N塩酸水溶液1000gに30分間浸漬し、その後濾過し、濾紙にて圧搾することで固形分濃度が20質量%の濃縮物2を得た。濃縮物2はミキサー(岩谷産業社製、ミルサー800DG)を用いて粉砕した。100質量部の濃縮物2に対し、0.35N水酸化ナトリウム水溶液を94質量部、トレハロース(東京化成工業社製)を6質量部、ノニオン性界面活性剤(サンノプコ社製、SNウェットPUR)を1質量部加え、薬さじでよく練り混ぜ、微細繊維状セルロースの濃度が10質量%の微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)を得た。」ことが記載されている。 そうすると、先願甲5には、さらに、 「針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m^(2)シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用し、上記針葉樹クラフトパルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得、得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させ、その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得、得られたリン酸化パルプを絶乾質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12以上13以のパルプスラリーを得、その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加し、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、得られた脱水シートに対し、先と同様にして、リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程を繰り返し、リン酸化セルロースの脱水シートを得、得られた二回リン酸化セルロースにイオン交換水を添加し、2質量%スラリーを調製し、このスラリーを、さらに湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で245MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロースを得、該微細繊維状セルロースの分散液(2質量%)を500g取り、そこに0.5質量%に希釈した塩化カルシウム水溶液を500g加えてゲル化させ、濾紙にて圧搾し、固形分濃度が20質量%の濃縮物1を得、濃縮物1を0.1N塩酸水溶液1000gに30分間浸漬し、その後濾過し、濾紙にて圧搾することで固形分濃度が20質量%の濃縮物2を得、濃縮物2はミキサー(岩谷産業社製、ミルサー800DG)を用いて粉砕し、100質量部の濃縮物2に対し、0.35N水酸化ナトリウム水溶液を94質量部、トレハロース(東京化成工業社製)を6質量部、ノニオン性界面活性剤(サンノプコ社製、SNウェットPUR)を1質量部加え、薬さじでよく練り混ぜて得る、微細繊維状セルロースの濃度が10質量%の微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)の製造方法」の発明(以下「先願甲5発明2」という。)も記載されていると認められる。 イ 先願甲6に記載された発明 (ア)先願甲6は、「微細繊維状セルロース含有スラリー」(6b【0001】)に関し記載するものであって、その「繊維状セルロースを含むスラリー」の具体例として、実施例1(6e)には、「・・パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Aを得、・・余剰の薬液を十分に洗い流し、次いで・・水酸化ナトリウム水溶液を・・添加・・リン酸化セルロース繊維Bを得、・・セルロースに、さらにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Cを得、・・さらにリン酸基を導入し・・リン酸基を介してセルロースに架橋構造を導入し、架橋リン酸化セルロース繊維Aを得、・・洗浄・アルカリ処理工程を行い、架橋リン酸化セルロース繊維Bを得、・・架橋切断リン酸化セルロース繊維Aを得、・・イオン交換水を添加・・湿式微粒化装置・・を用いて機械処理し、微細繊維状セルロース含有スラリー」を得たことが記載されている。 この「微細繊維状セルロース含有スラリー」中の「微細繊維状セルロース」は、架橋切断リン酸化セルロース繊維Aを微細化処理して得られたものであり、架橋切断リン酸化セルロース繊維Aは、セルロースにリン酸基を導入、リン酸基を介して架橋構造を導入し、該架橋を切断したものであるから、リン酸基の導入された微細繊維状セルロースといえる。 さらに、この「微細繊維状セルロース」の物性として、【表1】(6e【0148】)には、「(C)工程後リン酸基量[mmol/g]」「1.72」と記載され、「(C)工程」とは「架橋切断リン酸化セルロース繊維に機械処理を施すことで繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る工程(C)」(6a請求項1)であり、該「微細繊維状セルロース」は「(C)工程」を経たものといえるから、「微細繊維状セルロース」は、リン酸基量1.72mmol/gであり、繊維幅が1000nm以下であるといえる。 そうすると、先願甲6には、 「リン酸基量1.72mmol/gであり、繊維幅が1000nm以下である、リン酸基の導入された微細繊維状セルロース含有スラリー」 の発明(以下「先願甲6発明1」という。)が記載されていると認められる。 (イ)先願甲6には、さらに、「微細繊維状セルロース含有スラリー」の具体的な製造方法が、実施例1(6e)に記載されている。 そうすると、先願甲6には、さらに、 「微細繊維状セルロース含有スラリーの製造方法であって、 針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m^(2)シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を原料として使用し、上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を加え、リン酸二水素アンモニウム48質量部、尿素130質量部、イオン交換水165質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Aを得、 得られたリン酸化セルロース繊維Aに、イオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の薬液を十分に洗い流し、次いで、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加して、pHが12±0.2のパルプスラリーを得、その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、リン酸化セルロース繊維Bを得、 得られたリン酸化セルロース繊維Bを原料として、上述したリン酸化反応工程を繰返し行い、パルプ中のセルロースに、さらにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Cを得、 得られたリン酸化セルロース繊維Cを、165℃の熱風乾燥機で200秒間加熱処理し、パルプ中のセルロースに、さらにリン酸基を導入し、また、リン酸基を介してセルロースに架橋構造を導入し、架橋リン酸化セルロース繊維Aを得、 なお、この架橋工程はリン酸基導入工程(2回目)の乾燥・加熱時間をそのまま延長して行い(165℃の熱風乾燥機で計400秒間加熱処理を行い)、 得られた架橋リン酸化セルロース繊維Aに対し、上述した洗浄・アルカリ処理工程を行い、架橋リン酸化セルロース繊維Bを得、 得られた架橋リン酸化セルロース繊維Bの固形分濃度が2.0質量%、pHが12.5になるように、イオン交換水とNaOHを添加してパルプスラリーを調製し、得られたパルプスラリーを内温90℃の条件で1時間静置加熱し、その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、架橋切断リン酸化セルロース繊維Aを得、 得られた架橋切断リン酸化セルロース繊維Aにイオン交換水を添加して、固形分濃度が2.0質量%の懸濁液にし、この懸濁液を、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)を用いて機械処理し、微細繊維状セルロース含有スラリーを得る、方法」 の発明(以下「先願甲6発明2」という。)が記載されていると認められる。 (3)本件発明1について ア 先願甲5 (ア)先願甲5発明1との対比 a 本件発明1の「セルロース微細繊維」は、前記1(3)ア(ア)aに記載したように、繊維幅(単繊維の平均直径)が1?1000nmであるものと理解される。 そうすると、先願甲5発明1の「微細繊維状セルロース」は「幅4nm程度」であるから、本件発明1の「セルロース微細繊維」に相当する。 b 先願甲5発明1の「リン酸基」の付加されたリン酸化セルロースであり「カルシウムイオンを含む」ものは、セルロースのヒドロキシ基の一部がリン酸基で置換されたものであり、無機物からなる陽イオンであるカルシウムイオンを含むものといえる。 そうすると、先願甲5発明1の「リン酸基」の付加されたリン酸化セルロースであり「カルシウムイオンを含む」ものと、本件発明1の「無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルが導入されている」ものとは、リン酸及び亜リン酸が共にリンオキソ酸の一種であるから、無機物からなる陽イオンを含むリンオキソ酸のエステルが導入されているものである点で共通する。 c 先願甲5発明1の「微細繊維状セルロースの含有物(濃縮物3)」は、前記aで述べたことを踏まえると、本件発明1の「セルロース微細繊維含有物」に相当する。 そうすると、本件発明1と先願甲5発明1とは、 「無機物からなる陽イオンを含むリンオキソ酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維を含有する、ことを特徴とするセルロース微細繊維含有物」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点先願甲5発明1A:リンオキソ酸基が、本件発明1では、亜リン酸基であるのに対し、先願甲5発明1では、リン酸基である点 相違点先願甲5発明1B:本件発明1では、セルロース微細繊維1gに対する無機物からなる陽イオンの割合が、0.14mmol以上であるのに対し、先願甲5発明1では、セルロース微細繊維1gに対する無機物からなる陽イオンの割合は、明らかでない点 (イ)判断 a 相違点先願甲5発明1Aについて 先願甲5発明1の「リン酸基」は、亜リン酸基とは化学物質として異なるものであるから、相違点先願甲5発明1Aは、実質的な相違点である。 b なお、特許異議申立人は、先願甲5明細書等には、請求項1に記載の「繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース」である微細繊維状セルロースが有するリン酸基又はリン酸基に由来する置換基について説明があり、「[0036]本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。 [0037]式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);α及びα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。」(5c)と記載され、「R」が「水素原子」の場合は、亜リン酸基となることが示されていると説明する。 しかしながら、先願甲5明細書等の実施例には、微細繊維状セルロースのリン酸基又はリン酸基に由来する置換基として、リン酸基を適用した実施例のみが記載されている。 また、先願甲5明細書等の記載全体をみると、発明の詳細な説明に、亜リン酸の例示はなされておらず、先願甲5明細書等の全体的な記載は、リン酸を置換基として導入することが記載されているといえるから、先願甲5明細書等の微細繊維状セルロースのリン酸基又はリン酸基に由来する置換基として、亜リン酸基を選択したものが実質的に記載されているとはいえない。 c 以上のとおりであるから、相違点先願甲5発明1Aは、実質的な相違点といえる。 したがって、相違点先願甲5発明1Bを検討するまでもなく、本件発明1は、先願甲5発明1と同一であるといえない。 イ 先願甲6 (ア)先願甲6発明1との対比 a 本件発明1の「セルロース微細繊維」は、前記1(3)ア(ア)aに記載したように、繊維幅(単繊維の平均直径)が1?1000nmであるものと理解される。 そうすると、先願甲6発明1の「繊維幅が1000nm以下である」「微細繊維状セルロース」は、本件発明1の「セルロース微細繊維」に相当する。 b 先願甲6発明1の「リン酸基の導入された」ものと、本件発明1の「亜リン酸のエステルが導入されている」ものとは、リン酸及び亜リン酸が共にリンオキソ酸の一種であるから、リンオキソ酸のエステルが導入されているものである点で共通する。 c 先願甲6発明1の「微細繊維状セルロース含有スラリー」は、前記aで述べたことを踏まえると、本件発明1の「セルロース微細繊維含有物」に相当する。 そうすると、本件発明1と先願甲6発明1とは、 「リンオキソ酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維を含有する、ことを特徴とするセルロース微細繊維含有物」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点先願甲6発明1A:リンオキソ酸基が、本件発明1では、亜リン酸基であるのに対し、先願甲6発明1では、リン酸基である点 相違点先願甲6発明1B:本件発明1では、セルロース微細繊維1gに対する無機物からなる陽イオンの割合が、0.14mmol以上であるのに対し、先願甲6発明1では、無機物からなる陽イオンを含むのか明らかでなく、該陽イオンを含む場合、セルロース微細繊維1gに対する無機物からなる陽イオンの割合は、明らかでない点 (イ)判断 a 相違点先願甲6発明1Aについて 先願甲6発明1の「リン酸基」は、亜リン酸基とは化学物質として異なるものであるから、相違点先願甲6発明1Aは、実質的な相違点である。 したがって、相違点先願甲6発明1Bを検討するまでもなく、本件発明1は、先願甲6発明1と同一であるといえない。 (4)本件発明2?4、7について 本件発明2?4は、本件発明1においてさらに技術的に限定した発明であり、また、本件発明7は、本件発明1を発明特定事項として含む発明であるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?4は、先願甲5発明1及び先願甲6発明1と同一であるといえず、また、本件発明7は、先願甲5発明1と同一であるといえない。 (5)本件発明5について ア 先願甲5 (ア)先願甲5発明2との対比 a 本件発明5の「セルロース微細繊維」は、前記1(5)ア(ア)に記載したように、繊維幅(単繊維の平均直径)が1?1000nmであるものと理解される。 そうすると、先願甲5発明2の「微細繊維状セルロース」は「幅4nm程度」であるから、本件発明5の「セルロース微細繊維」に相当する。 b 先願甲5発明2の「微細繊維状セルロースの含有物(濃縮物3)」は、「微細繊維状セルロース」を含有するものであるから、前記aで述べたことを踏まえると、本件発明5の「セルロース微細繊維含有物」に相当する。 c 先願甲5発明2の「針葉樹クラフトパルプ」は、「針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m^(2)シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用し」ており、パルプを離解しセルロース繊維にしたものといえるから、本件発明5の「セルロース繊維」に相当する。 d 先願甲5発明2の「パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し」と、本件発明5の「セルロース繊維に亜リン酸のエステルを導入し」とは、リン酸及び亜リン酸が共にリンオキソ酸の一種であるから、前記aで述べたことを踏まえると、セルロース繊維にリンオキソ酸のエステルを導入したものである点で共通する。 e 先願甲5発明2の「針葉樹クラフトパルプ・・・パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し・・得られたリン酸化パルプを・・イオン交換水・・に分散させ・・濾過脱水して・・得られた脱水シート・・水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し・・パルプスラリーを得、その後・・リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程を繰り返し、リン酸化セルロースの脱水シートを得、・・さらに湿式微粒化装置(・・)で245MPaの圧力にて・・処理し、微細繊維状セルロースを得、該微細繊維状セルロースの分散液・・を取」ることは、針葉樹クラフトパルプにリン酸基を導入し、リン酸化セルロースをさらに湿式微粒化装置で加圧処理すなわち解繊処理して、細繊維状セルロースを得、該微細繊維状セルロースの分散液を得ていることから、前記a?dで述べたことを踏まえると、本件発明5の「セルロース繊維に亜リン酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得る」こととは、セルロース繊維にリンオキシ酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得る点で、共通する。 f 先願甲5発明2の「針葉樹クラフトパルプ・・・パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し・・得られたリン酸化パルプを・・イオン交換水・・に分散させ・・濾過脱水して・・得られた脱水シート・・水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し・・パルプスラリーを得、その後・・リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程を繰り返し、リン酸化セルロースの脱水シートを得」たことは、前記eで述べたことから理解されるように、セルロース繊維にリンオキシ酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得る過程中の一工程であり、セルロース繊維に対してアルカリ金属イオン含有物である「水酸化ナトリウム水溶液」を添加していることから、本件発明5の「この過程で前記セルロース繊維に対してアルカリ金属イオン含有物を添加する」ことに相当する。 g 先願甲5発明2の「該微細繊維状セルロースの分散液・・圧搾し・・濃縮物1を得、濃縮物1を・・圧搾する・・濃縮物2を得、・・濃縮物2・・よく練り混ぜて」「微細繊維状セルロース含有物(濃縮物3)」を得ることは、微細繊維状セルロースの分散液を濃縮して微細繊維状セルロース含有物を得ているといえるから、本件発明5の「前記分散液を濃縮してセルロース微細繊維含有物を得る」ことに相当する。 そうすると、本件発明5と先願甲5発明2とは、 「セルロース繊維にリンオキソ酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得るものとし、この過程で前記セルロース繊維に対してアルカリ金属イオン含有物を添加するものとし、 前記分散液を濃縮してセルロース微細繊維含有物を得る、 ことを特徴とするセルロース微細繊維含有物の製造方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点先願甲5発明2A:リンオキソ酸基が、本件発明5では、亜リン酸基であるのに対し、先願甲5発明2では、リン酸基である点 (イ)判断 a 相違点先願甲5発明2Aは、前記(3)ア(ア)の相違点先願甲5発明1Aと実質的に同じであるから、前記(3)ア(イ)で述べたとおりである。 b 以上のとおりであるから、相違点先願甲5発明2Aは、実質的な相違点といえる。 したがって、本件発明5は、先願甲5発明2と同一であるといえない。 イ 先願甲6 (ア)先願甲6発明2との対比 a 本件発明5の「セルロース微細繊維」は、前記1(5)ア(ア)に記載したように、繊維幅(単繊維の平均直径)が1?1000nmであるものと理解される。 そうすると、先願甲6発明2の「微細繊維状セルロース」は、本件発明5の「セルロース微細繊維」に相当する。 b 先願甲6発明2の「微細繊維状セルロース含有スラリー」は、「微細繊維状セルロース」を含有するものであるから、前記aで述べたことを踏まえると、本件発明5の「セルロース微細繊維含有物」に相当する。 c 先願甲6発明2の「針葉樹クラフトパルプ」は、「針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m^(2)シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用し」ており、パルプを離解しセルロース繊維にしたものといえるから、本件発明5の「セルロース繊維」に相当する。 d 先願甲6発明2の「パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し」と、本件発明5の「セルロース繊維に亜リン酸のエステルを導入し」とは、リン酸及び亜リン酸が共にリンオキソ酸の一種であるから、前記aで述べたことを踏まえると、セルロース繊維にリンオキソ酸のエステルを導入したものである点で共通する。 e 先願甲6発明2の「針葉樹クラフトパルプ・・・パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Aを得、得られたリン酸化セルロース繊維Aに、イオン交換水・・に分散させ・・濾過脱水して脱水シートを得る・・水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し・・パルプスラリーを得、その後・・架橋切断リン酸化セルロース繊維Aに・・湿式微粒化装置(・・)を用いて機械処理し、微細繊維状セルロース含有スラリーを得る」ことは、針葉樹クラフトパルプにリン酸基を導入し、リン酸化セルロースをさらに湿式微粒化装置で機械処理すなわち解繊処理して、微細繊維状セルロースを得、該微細繊維状セルロース含有スラリーを得ていることから、前記a?dで述べたことを踏まえると、本件発明5の「セルロース繊維に亜リン酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得る」こととは、セルロース繊維にリンオキシ酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得る点で、共通する。 f 先願甲6発明2の「針葉樹クラフトパルプ・・・パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Aを得、得られたリン酸化セルロース繊維Aに、イオン交換水・・に分散させ・・濾過脱水して脱水シートを得る・・水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し・・パルプスラリーを得」たことは、前記eで述べたことから理解されるように、セルロース繊維にリンオキシ酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得る過程中の一工程であり、セルロース繊維に対してアルカリ金属イオン含有物である「水酸化ナトリウム水溶液」を添加していることから、本件発明5の「この過程で前記セルロース繊維に対してアルカリ金属イオン含有物を添加する」ことに相当する。 そうすると、本件発明5と先願甲6発明2とは、 「セルロース繊維にリンオキソ酸のエステルを導入してから解繊してセルロース微細繊維を含有する分散液を得るものとし、この過程で前記セルロース繊維に対してアルカリ金属イオン含有物を添加するものとする、 ことを特徴とするセルロース微細繊維含有物の製造方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点先願甲6発明2A:リンオキソ酸基が、本件発明5では、亜リン酸基であるのに対し、先願甲6発明2では、リン酸基である点 相違点先願甲6発明2B:本件発明5では、セルロース微細繊維を含有する分散液を濃縮してセルロース微細繊維含有物を得るのに対し、先願甲6発明2では、セルロース微細繊維を含有する分散液を濃縮していない点 (イ)判断 a 相違点先願甲6発明2Aは、前記(3)イ(ア)の相違点先願甲6発明1Aと実質的に同じであるから、前記(3)イ(イ)で述べたとおりである。 b 以上のとおりであるから、相違点先願甲6発明2Aは、実質的な相違点といえる。 したがって、相違点先願甲6発明2Bを検討するまでもなく、本件発明5は、先願甲6発明2と同一であるといえない。 (6)本件発明6について 本件発明6は、本件発明5においてさらに技術的に限定した発明であるから、本件発明5と同様の理由により、本件発明6は、先願甲5発明2及び先願甲6発明2と同一であるといえない。 (7)まとめ 以上より、本件発明1?7は、先願甲5明細書等に記載された発明と同一ではなく、また、本件発明1?6は、先願甲6明細書等に記載された発明と同一ではなく、本件発明1?7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 3 理由4(特許法第36条第6項第1号)について (1)特許異議申立人が申し立てた取消理由の理由4の(1)について 発明の詳細な説明に、無機物からなる陽イオンの割合を0.14mmol以上とした臨界的意義が示されていないとしても、前記第3 II 2で述べたように、試験例1?5(【0102】?【0111】)には、無機物からなる陽イオンであるNaイオンを含む亜リン酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維の含有物であって、Naイオン量が0.14mmol/g以上であるものは、水に対する再分散性に優れたセルロース微細繊維含有物であることが、客観的に確認されているといえ、そうであれば、その製造における再分散工程が簡略化され、製造容易なものであると理解できるといえ、前記第3 II 2(3)に記載した本件発明1?7の課題を解決し得ると認識できるといえる。 したがって、本件発明1?7は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 (2)特許異議申立人が申し立てた取消理由の理由4の(2)について 本件発明5の「濃縮」について、発明の詳細な説明には、濃縮方法(脱水方法、乾燥方法等)として用いられる数多の方法の例示、及び、凝集する場合は、凝集剤として用いられる数多の例示とその添加量についての実施の態様が記載され(【0084】?【0097】)、実施例である試験例1?5(【0102】?【0111】)には、セルロース微細繊維分散液を「濃縮」する方法として、乾燥させることが記載され、水に対する再分散性に優れたセルロース微細繊維含有物が得られたことが、客観的に確認されているといえ、そうであれば、その製造における再分散工程が簡略化され、製造容易なものであると理解できるといえる以上、それらの記載に接した当業者であれば、本件発明5の「濃縮」として、上記実施の態様の記載を参酌し、乾燥以外の方法を適用して、水に対する分散性に優れる製造容易なセルロース微細繊維含有物を製造できると理解し得るといえ、前記第3 II 2(3)に記載した本件発明5の前記課題を解決し得ると認識できるといえる。 したがって、本件発明5は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 (3)特許異議申立人が申し立てた取消理由の理由4の(3)について 前記第3 II 2で述べたように、発明の詳細な説明の試験例1?5(【0102】?【0111】)には、無機物からなる陽イオンであるNaイオンを含む亜リン酸のエステルが導入されているセルロース微細繊維の含有物であって、Naイオン量が0.14mmol/g以上であるものは、水に対する再分散性に優れたセルロース微細繊維含有物であることが、客観的に確認されているといえ、そうであれば、その製造における再分散工程が簡略化され、製造容易なものであると理解できるといえ、前記第3 II 2(3)に記載した本件発明1?7の課題を解決し得ると認識できるといえる以上、本件発明1?4には課題がそもそも発生していないような態様も含まれているとしても、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 (4)まとめ したがって、本件発明1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-12-25 |
出願番号 | 特願2017-142795(P2017-142795) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(D21H)
P 1 651・ 537- Y (D21H) P 1 651・ 121- Y (D21H) P 1 651・ 16- Y (D21H) P 1 651・ 113- Y (D21H) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 吉海 周 |
特許庁審判長 |
佐々木 秀次 |
特許庁審判官 |
齊藤 真由美 冨永 保 |
登録日 | 2018-09-21 |
登録番号 | 特許第6404415号(P6404415) |
権利者 | 大王製紙株式会社 |
発明の名称 | セルロース微細繊維含有物及びその製造方法、並びにセルロース微細繊維分散液 |
代理人 | 吉田 淳一 |
代理人 | 特許業務法人永井国際特許事務所 |