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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F03B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F03B |
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管理番号 | 1358646 |
異議申立番号 | 異議2019-700749 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-09-19 |
確定日 | 2020-01-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6488111号発明「軸流水車発電装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6488111号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概略 特許第6488111号の請求項1?7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は,概ね,次のとおりである。すなわち,平成26年11月17日に出願され,平成31年3月1日に特許権の設定登録がされ,平成31年3月20日に特許掲載公報が発行されたところ,これに対し,令和元年9月19日に特許異議申立人土田裕介より,特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?7に係る発明(以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って,「本件発明1」などという。)は,特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。 【請求項1】 筒状体と, 前記筒状体に回転自在に設けられ,ランナ翼を有し,水流の運動エネルギーを回転エネルギーに変換するランナと, 前記筒状体に内蔵され,前記ランナの回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機と,を備え, 前記ランナ翼の翼弦長は,翼素運動量理論から求まる翼弦長理論値の1.0倍より大きく,3.0倍以下であることを特徴とする軸流水車発電装置。 【請求項2】 前記ランナ翼は,第1の捻り角で形成されており, 前記第1の捻り角は,幾何学的に決定される捻り角理論値の0.8倍以上1.0倍未満であり, 前記捻り角理論値β_(opt)は,前記ランナ翼に流入する流れの絶対速度をv,前記絶対速度vと前記ランナ翼に流入する流れの相対速度とがなす角度をγ,前記ランナの任意の半径位置をr,前記ランナの半径をR,設計周速比をλ,前記ランナの角速度をω,前記ランナ翼の前端と後端とを結ぶ翼弦線と前記相対速度で示すベクトルとがなす迎え角をαとすると, tanγ=(3×r×λ)/(2×R) λ=(ω×R)/v β_(opt)=90°-γ-α で決定されることを特徴とする請求項1に記載の軸流水車発電装置。 【請求項3】 前記ランナ翼の少なくとも先端は,第2の捻り角で形成されており, 前記第2の捻り角は,前記第1の捻り角の0.8倍以上1.0倍未満であることを特徴とする請求項2に記載の軸流水車発電装置。 【請求項4】 前記ランナ翼の捻り角は,幾何学的に決定される捻り角理論値の0.64倍以上1.0倍未満であり, 前記捻り角理論値β_(opt)は,前記ランナ翼に流入する流れの絶対速度をv,前記絶対速度vと前記ランナ翼に流入する流れの相対速度とがなす角度をγ,前記ランナの任意の半径位置をr,前記ランナの半径をR,設計周速比をλ,前記ランナの角速度をω,前記ランナ翼の前端と後端とを結ぶ翼弦線と前記相対速度で示すベクトルとがなす迎え角をαとすると, tanγ=(3×r×λ)/(2×R) λ=(ω×R)/v β_(opt)=90°-γ-α で決定されることを特徴とする請求項1に記載の軸流水車発電装置。 【請求項5】 前記ランナ翼は,前記筒状体内に埋め込まれた円筒表面を有する埋込部分と,前記筒状体の半径方向外側に設けられ,翼型形状を有する翼本体部分と,前記埋込部分と前記翼本体部分との間に設けられ,前記埋込部分の円筒表面から前記翼本体部分の翼型形状に遷移する外表面を有する遷移部分と,を含み, 前記遷移部分の半径方向長さは,前記ランナの半径の25%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の軸流水車発電装置。 【請求項6】 前記ランナ翼の先端は,当該ランナ翼の基端よりも上流側に位置付けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の軸流水車発電装置。 【請求項7】 筒状体と, 前記筒状体に回転自在に設けられ,ランナ翼を有し,水流の運動エネルギーを回転エネルギーに変換するランナと, 前記筒状体に内蔵され,前記ランナの回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機と,を備え, 前記ランナ翼は,第1の捻り角で形成されており, 前記第1の捻り角は,幾何学的に決定される捻り角理論値の0.8倍以上1.0倍未満であり, 前記捻り角理論値β_(opt)は,前記ランナ翼に流入する流れの絶対速度をv,前記絶対速度vと前記ランナ翼に流入する流れの相対速度とがなす角度をγ,前記ランナの任意の半径位置をr,前記ランナの半径をR,設計周速比をλ,前記ランナの角速度をω,前記ランナ翼の前端と後端とを結ぶ翼弦線と前記相対速度で示すベクトルとがなす迎え角をαとすると, tanγ=(3×r×λ)/(2×R) λ=(ω×R)/v β_(opt)=90°-γ-α で決定されることを特徴とする軸流水車発電装置。 第3 特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人は,甲第1号証?甲第4号証(以下,証拠の番号に従って「甲1」などという。)を提出し,請求項1?7に係る特許は,下記の理由により取り消すべき旨主張している。 1 請求項1?7に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。 2 請求項1?6に係る特許は,特許法36条6項1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 (証拠方法) 甲1:特開2014-5766号公報 甲2:G.S.Bir,M.J.Lawson,Y.Li,“Structural Design of a Horizontal-Axis Tidal Current Turbine Composite Blade”,October 2011,p.1-12 甲3:Danielle J.Moreau,Laura A.Brooks,Con J.Doolan,“Flat plate self-noise reduction at low-to-moderate Reynolds number with trailing edge serrations”,November 2011,p.1-8 甲4:牛山泉,“風車工学入門”,森北出版株式会社,2013年8月13日,2版1刷 第4 特許異議申立ての理由についての判断 1 特許異議申立ての理由1(29条2項)について (1) 甲1について ア 甲1に記載された事項(下線は当審による。) ・「【請求項1】 発電機側に動力を伝達する回転軸と, 前記回転軸に対して基端部側が一体的に固定され,水流を受けて前記回転軸と共に回転する翼と, 前記発電機を内蔵し前記翼よりも前記水流の上流側に設けられた筐体と, 前記筐体の外形部分によって構成され,当該筐体で受けた前記水流を放射状に広げるようにして前記翼の先端部側方向に誘導する水流誘導部と, を具備する水流発電装置。」 ・「【0008】 …本発明が解決しようとする課題は,水流を有効に活用することにより発電の効率を高めることができる水流発電装置を提供することである。」 ・「【0011】 … 図1に示すように,例えば一対で用いられる本実施形態の水流発電装置10,20は,海中16に設置されるプロペラ型の海流発電(又は潮流発電)システムである。水流発電装置10,20は,連結部材12によって互いが連結されており,さらに係留ロープ14を介して例えば水深200mを超える海底15にアンカ(係留)されている。 【0012】 図1,図2に示すように,一対の水流発電装置10,20は,筐体としてのナセル2と,複数の翼3と,翼3を支持するボス5と,をそれぞれ備えている。ナセル2,ボス5及び翼3は,海水に対しての耐腐食性の高い材料や,耐腐食性の高い塗料をコーティングした材料を用いて構成されている。 【0013】 ナセル2は,水密構造を有し,図2に示すように,発電機8や変速機構7bなどが内蔵(収容)されている。また,ナセル2は,所定の浮力を有している。ここで,一対の水流発電装置10,20は,各々が備える翼3が逆方向に回転しさらに同等の推力を発生させることで,互いの位置が静的に確保される。 【0014】 図2に示すように,ボス5は,翼3の基端部側を支持する支持部としての機能を有する。また,ボス5は,ナセル2と同様に水密構造を有しており,ナセル2と協働して回転軸7を内蔵する。回転軸7の一端部側は,ナセル2内の変速機構7bに連結され,回転軸7の他端部側は,ハブ7aを介してボス5本体に固定されている。つまり,翼3は,その基端部側が,ボス5(ハブ7a)を介して回転軸7に一体的に固定されており,翼3本体が水流を受けると回転軸7(ボス5)と共に一体となって回転する。 【0015】 回転軸7の動力(駆動力)は,ナセル2内の発電機8に伝達される。具体的には,回転軸7の回転は,変速機構7bによって減速又は増速され,変速機構7bと発電機8との間の伝達軸7cを介して発電機8側に伝達される。 … 【0017】 このように構成された各翼3は,図2に示すように,水流(海流)F1から得た運動エネルギを回転エネルギに変換する。一方,翼3と共に一体となって回転する回転軸7は,変換された回転エネルギを,変速機構7b,伝達軸7cを介してナセル2内の発電機8に伝達し,発電機8は,この回転エネルギを用いて発電を行う。」 ・「【0018】 次に,ナセル2の特徴的構成について説明する。図2に示すように,ナセル2は,翼3よりも海流F1の上流側に設けられている。ナセル2は,略円錐形状に形成されており,回転軸7と同軸的に配置されている。ナセル2は,ナセル2本体の外形部分によって構成された水流受け部2a及び水流誘導部2bを有している。水流受け部2aは,図2に示すように,ナセル2本体において海流F1の最上流側に設けられており,上記の略円錐形状の頂点部分を構成する。この水流受け部2aの表面は,球面状に形成されている。 【0019】 一方,水流誘導部2bは,図2に示すように,上記した略円錐形状の側面部分で構成されている。より具体的には,水流誘導部2bは,水流F1の上流側から下流側に向かうにつれて,ナセル2の外形部分における外周長が増大して行く形状で構成されている。つまり,水流誘導部2bは,ナセル2本体の水流受け部2aで受けた水流F1を,放射状に広げるようにして(放射状に分散して)各翼3のチップ側方向(翼の先端部側方向)に誘導する。 【0020】 詳述すると,翼3を回転させる力を高めようとする場合,回転軸7の軸周りの力のモーメント(トルク)を考慮すると,図2に示すように,相対的に,ハブ7a側(翼の基端部側)よりも翼3のチップ側に水流F2を導いたほうが,翼3の回転力の向上には効果的である。そこで,本実施形態の水流発電装置10,20では,水流F1,F2を放射状に広げて翼3のチップ側方向に導く水流誘導部2bをナセル2に設けたことで,発電のための回転エネルギを効率的に,より多く取り出すことが可能となる。」 イ 以上の記載からすると,甲1には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 (甲1発明) 「ナセル2と, 前記ナセル2に回転自在に設けられ,水流の運動エネルギーを回転エネルギーに変換する複数の翼3と, 前記ナセル2の外形部分によって構成され,当該ナセル2の水流受け部2aで受けた水流を放射状に広げるようにして前記複数の翼3の先端部側方向に誘導する水流誘導部2bと 前記ナセル2に内蔵され,前記複数の翼3の回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機8と,を備える水流発電装置10,20。」 (2) 甲2?4について ア 甲2に記載された事項(訳は,甲2添付の抄訳による。) ・「 」(3頁左欄) ( ) ・「We used our recently developed numerical tool Harp_Opt[4,5] for the basic turbine blade design.Harp-Opt combines the blade element moment code WT_Perf[6] with a genetic algorithm to provide optimal blade twist angle and chord distribution along the blade for a specified objective function.」(3頁左欄下から11?下から7行) (基本的な翼の設計には,最近開発した数値ツールHarp_Opt[4,5]を使用しました。Harp_Optは,翼素運動量コードWT_Perf[6]と遺伝的アルゴリズムを組み合わせて,ある目的関数に対してブレードに沿った最適な捻じれ角及び翼弦長の分布を提供します。) ・「The chord and twist distribution, which HARP_Opt computed at 30 sections along the blade, define the external shape of the blade(Figure 7).」(4頁左欄1?3行) (HARP_Optがブレードに沿った30個の断面で計算した翼弦長と捻じれ角の分布は,ブレードの外部形状を定義します(図7)。) ・「 」(4頁左欄) (図7.ブレードに沿った翼弦長及び捻じり角の変化) イ 甲3に記載された事項(訳は,甲3添付の抄訳による。) ・「 」(2頁右欄) (図2.歯根から先端までの振幅が2h,波長がλの平板の後縁の鋸歯。) ウ 甲4に記載された事項 ・「 」 (3) 本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを,その機能に照らして対比すると,甲1発明の「ナセル2」,「翼3」は,それぞれ,本件発明1の「筒状体」,「ランナ翼」に相当し,甲1発明の「複数の翼3」が,本件発明1と同様に,「ランナ」を構成しているといえる。 そして,甲1発明の「発電機8」は,本件発明1の「発電機」に相当し,甲1発明の「水流発電装置10,20」は,その水流の流れる方向からして,本件発明1と同様に,「軸流水車発電装置」であるといえる。 そうすると,本件発明1と甲1発明とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「筒状体と, 前記筒状体に回転自在に設けられ,ランナ翼を有し,水流の運動エネルギーを回転エネルギーに変換するランナと, 前記筒状体に内蔵され,前記ランナの回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機と,を備える軸流水車発電装置。」 (相違点1) 本件発明1は,「前記ランナ翼の翼弦長は,翼素運動量理論から求まる翼弦長理論値の1.0倍より大きく,3.0倍以下である」のに対し,甲1発明ではその点が明らかでない点 イ 判断 甲1によれば(前記(1)ア),甲1発明は,「水流を有効に活用することにより発電の効率を高めることができる水流発電装置を提供すること」(【0008】)を解決しようとする課題とし,「翼3を回転させる力を高めようとする場合,回転軸7の軸周りの力のモーメント(トルク)を考慮すると,…相対的に,ハブ7a側(翼の基端部側)よりも翼3のチップ側に水流F2を導いたほうが,翼3の回転力の向上には効果的である。」ので「水流F1,F2を放射状に広げて翼3のチップ側方向に導く水流誘導部2bをナセル2に設けたことで,発電のための回転エネルギを効率的に,より多く取り出すことが可能となる。」(【0020】)ものである。 しかしながら,甲1には,翼3の翼弦長を,翼素運動量理論から求まる翼弦長理論値の1.0倍より大きく,3.0倍以下であるようにすることについて記載はなく,甲1発明において,相違点1に係る構成とする動機付けは特段認められない。 甲2には,翼の設計方法についてのフローチャートが開示され,甲3には,翼の後縁に鋸刃を追加した構成が記載されているが,甲2,3には,翼の翼弦長を,翼素運動量理論から求まる翼弦長理論値の1.0倍より大きく,3.0倍以下であるようにすることについて記載はなく,甲4にも記載がない(前記(2)ア?ウ)。 また,甲1発明において,甲2,3に記載された事項を適用したとしても,当然に,翼3の翼弦長を,翼素運動量理論から求まる翼弦長理論値の1.0倍より大きく,3.0倍以下にするとも認められない。この点は,甲4をみても同様である。 そうすると,甲1発明において,甲2?4に記載された事項を適用して,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者にとって容易に想到できたものとは認められない。 そして,本件発明1は,相違点1に係る構成を備えることにより,「翼素運動量理論から求まる気流中での稼動の場合に最適な翼弦長理論値から,水流中で稼動するランナ翼10として好適な翼弦長を得ることができ,ランナ3の出力を増大させることができる。このため,水流中で稼動するランナ3から所望の出力を得ることができ,ランナ3の出力を向上させることができる。」(本件特許明細書【0028】)という,顕著な効果を奏するものであるから,この点が単なる設計的事項とも認められない。 以上のとおりであるから,本件発明1は,甲1発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (4) 本件発明2?6について 本件発明2?6は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,本件発明2?6は,本件発明1と同様の理由により,甲1発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (5) 本件発明7について ア 対比 本件発明7と甲1発明とを,本件発明1と甲1発明との関係(前記(3)ア)を参考に,その機能に照らして対比すると,本件発明7と甲1発明とは,本件発明1と甲1発明とに係る一致点と同じ点で一致し,次の点で相違する。 (相違点2) 本件発明7は,「前記ランナ翼は,第1の捻り角で形成されており」,「前記第1の捻り角は,幾何学的に決定される捻り角理論値の0.8倍以上1.0倍未満であり」,「前記捻り角理論値β_(opt)は,前記ランナ翼に流入する流れの絶対速度をv,前記絶対速度vと前記ランナ翼に流入する流れの相対速度とがなす角度をγ,前記ランナの任意の半径位置をr,前記ランナの半径をR,設計周速比をλ,前記ランナの角速度をω,前記ランナ翼の前端と後端とを結ぶ翼弦線と前記相対速度で示すベクトルとがなす迎え角をαとすると」,「tanγ=(3×r×λ)/(2×R)」,「λ=(ω×R)/v」,「β_(opt)=90°-γ-α」で決定されるものであるのに対し,甲1発明は,その点が明らかでない点。 イ 判断 甲1によれば,甲1発明は前記のとおりの発明であるところ(前記(3)イ),甲1には,翼3に関し,第1の捻り角で形成されており,前記第1の捻り角は,幾何学的に決定される捻り角理論値の0.8倍以上1.0倍未満であり,前記捻り角理論値β_(opt)は,前記翼3に流入する流れの絶対速度をv,前記絶対速度vと前記翼3に流入する流れの相対速度とがなす角度をγ,前記翼3の任意の半径位置をr,前記翼3の半径をR,設計周速比をλ,前記翼3の角速度をω,前記翼3の前端と後端とを結ぶ翼弦線と前記相対速度で示すベクトルとがなす迎え角をαとすると,tanγ=(3×r×λ)/(2×R),λ=(ω×R)/v,β_(opt)=90°-γ-αで決定される点について記載はなく,甲1発明において,相違点2に係る構成とする動機付けは特段認められない。 甲2には,翼の設計方法についてのフローチャートが開示され,基本的な翼の設計に,翼素運動量コードに沿った最適な捻じれ角及び翼弦長の分布を提供する数値ツールHarp_Optを使用したこと,Harp_Optがブレードに沿った30個の断面で計算した翼弦長と捻じれ角の分布は,ブレードの外部形状を定義すること(図7)が記載されているが,相違点2に係る構成については記載はなく,甲3,4にも記載がない(前記(2)ア?ウ)。 また,甲2に記載された事項を適用したとしても,当然に,翼3の捻り角について,相違点2に係る構成とするとも認められない。この点は,甲3,4をみても同様である。 そうすると,甲1発明において,甲2?4に記載された事項を適用して,相違点2に係る本件発明7の構成とすることは,当業者にとって容易に想到できたものとは認められない。 そして,本件発明7は,相違点2に係る構成を備えることにより,「幾何学的に求まる気流中での稼動の場合に最適な捻り角理論値から,水流中で稼動するランナ翼10として好適な捻り角を得ることができ,ランナ3の出力を増大させることができる。このため,水流中で稼動するランナ3から所望の出力を得ることができ,ランナ3の出力を向上させることができる。」(本件特許明細書【0041】)という,顕著な効果を奏するものであるから,この点が単なる設計的事項とも認められない。 以上のとおりであるから,本件発明7は,甲1発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 2 特許異議申立ての理由2(36条6項1号) 特許異議申立人は,発明の詳細な説明には,ランナ翼10の翼本体部分12の翼弦長を,翼弦長理論値の1.0倍より大きく,3.0倍以下としている点が記載されているところ(【0025】),請求項1には「前記ランナ翼の翼弦長」と記載され,この「前記ランナ翼の翼弦長」には,ランナ翼10の翼本体部分12以外の部分(埋込部分11及び遷移部分13)の翼弦長をも含むことになるが,発明の詳細な説明には,ランナ翼10の翼本体部分12以外の部分の翼弦長が翼素運動量理論から求まる翼弦長理論値の1.0倍より大きく,3.0倍以下である点について開示がないから,本件発明1?6は,発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない,と主張している(特許異議申立書4(4)エ)。 しかしながら,翼弦長とは,翼形の前縁と後縁を結ぶ直線の長さを意味するから,請求項1に記載された「前記ランナ翼の翼弦長」は,ランナ翼において,実質的に,翼といえる部分(水流の運動エネルギーを回転エネルギーに変換する機能を発揮する部分)の前縁と後縁を結ぶ直線の長さであって,埋込部分や遷移部分など,実質的に翼とはいえない部分に関する長さは含まないと認められる。 そして,発明の詳細な説明には,ランナ翼10のうち実質的に翼である翼本体部分12の翼弦長を,翼弦長理論値の1.0倍より大きく,3.0倍以下としている点が記載されているから(【0025】),本件発明1?6は,この点に関し発明の詳細な説明に裏付けがあるといえる。 また,その他,本件発明1?6に関し,発明の詳細な説明に記載がないとすべきところは認められない。 そうすると,本件発明1?6が,発明の詳細な説明に記載されたものではないとは認められない。 第5 むすび 以上のとおり,本件特許(請求項1?7に係る特許)は,特許法29条2項の規定に違反してされたものとは認められず,同法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとは認められないから,前記特許異議申立て理由により取り消すことはできない。 また,他に本件特許(請求項1?7に係る特許)を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-12-24 |
出願番号 | 特願2014-233022(P2014-233022) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(F03B)
P 1 651・ 121- Y (F03B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 冨永 達朗 |
特許庁審判長 |
佐々木 芳枝 |
特許庁審判官 |
窪田 治彦 松本 泰典 |
登録日 | 2019-03-01 |
登録番号 | 特許第6488111号(P6488111) |
権利者 | 株式会社東芝 |
発明の名称 | 軸流水車発電装置 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 小松 秀輝 |