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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1358656
異議申立番号 異議2019-700868  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-06 
確定日 2020-01-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6512688号発明「乳化パスタソース」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6512688号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6512688号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年2月19日に特許出願され、平成31年4月19日に特許権の設定登録がされ、令和1年5月15日にその特許公報が発行され、令和1年11月6日に、その請求項1?4に係る発明の特許に対し、佐藤 武史(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6512688号の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ゆでたパスタ一食分に50g以上100g以下の割合でソースを室温(1?30℃)のままかけて喫食する乳化パスタソースであって、
該乳化パスタソースが加熱処理されてあり、
脂質を13%以上23%以下含有し、
品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下、
ソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下であり、
前記乳化パスタソースがカルボナーラソース又はクリームソースである、
乳化パスタソース。
【請求項2】
請求項1に記載の乳化パスタソースにおいて、
さらに、原料として生澱粉を含有する、
乳化パスタソース。
【請求項3】
請求項2に記載の乳化パスタソースにおいて、
さらに、原料として、加熱処理又はヒドロキシプロピル化又はアセチル化された澱粉から選ばれる一種以上を含有する、
乳化パスタソース。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の乳化パスタソースにおいて、
さらに増粘多糖類を含有する、
乳化パスタソース。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は、以下のとおりである。

理由1:本件発明1?4は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第2?4号証に記載された発明又は甲1号証に示される電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件発明1?4に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証: Amazon.co.jpの公式ホームページ,「キユーピーあえるパスタソース カルボナーラ 濃厚チーズ仕立て (70g×2)×6個」[online],Amazon.co.jpでの取り扱い開始日2005年2月11日,[2019年10月21日検索],インターネットURL:
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AD%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%83%94%E3%83%BC-%E3%81%82%E3%81%88%E3%82%8B%E3%83%91%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B9-%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%9C%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%A9-%E6%BF%83%E5%8E%9A%E3%83%81%E3%83%BC%E3%82%BA%E4%BB%95%E7%AB%8B%E3%81%A6-70g%C3%972/dp/B00TGO7FBI/ref=pd_rhf_dp_p_img_l?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=3XJDOZVMHYCNKG8RSW3K>)(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2011-142830号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2007-166959号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2007-135460号公報(以下「甲4」という。)

理由2:本件発明1?4は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1?6号証に記載された発明に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明1?4に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:理由1で示したとおりである。
甲第2号証:理由1で示したとおりである。
甲第3号証:理由1で示したとおりである。
甲第4号証:理由1で示したとおりである。
甲第5号証:特開2007-295900号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:簡単!栄養andカロリー計算の公式ホームページ,「脂質の多い食品と、食品の脂質の含有量一覧表」[online],2005年3月24日,[2019年10月24日検索],インターネットURL:https://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/fat.html (以下「甲6」という。)

理由3:本件発明1?4は、下記の点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件発明1?4に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

発明の詳細な説明には、脂質の分離量が、0.1?4%以下について、具体的に、表1に、1?4%がツヤ感においてA、0%がB、4.7%がCであることが示されているものの、これらの実施例は脂質含有量がそれぞれ異なっているため、実際にソースから分離している脂質の量に相関性が無いものとなっている。即ち、この官能評価のA、B及びCの指標は、乳化ソースの表面付近で一部の油脂が分離した状態とは技術的に関係のない指標であると言わざるを得ず、本件明細書のその他の記載、及び本技術分野における技術常識を参酌したとしても、理解できない。
したがって、本件発明1?4は、本件出願当時の技術常識及び本件明細書の記載から、本件発明1?4の課題が解決できることを当業者は認識することはできず、サポート要件を満たしているといえない。

理由4:本件発明1?4については、下記の点で、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

請求項1に記載の「品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下」との構成をとるためには、どのようにソースを製造すれば良いのか、本件明細書には記載がないため、実施可能であるように記載されたものではない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?4の乳化パスタソースを生産することができるように具体的に記載されているといえない。

第4 当審の判断

1 理由1(特許法第29条第1項第3号)及び理由2(同法同条第2項)について

(1)刊行物等の記載について

ア 甲1
甲1は、Amazon.co.jpの公式ホームページで、「キユーピーあえるパスタソース カルボナーラ 濃厚チーズ仕立て (70g×2)×6個」の通販サイトで、[2019年10月21日検索]されたものであるが、この検索日より約2ヶ月後の2019年12月23日現在、特許異議申立書12頁「(4-2-1)甲第1号証について」及び43頁「6.証拠方法(1)甲第1号証」に記載のURLを用いても、また、キーワードで検索しても、甲1に示される電子的情報と同じ情報が掲載されているサイトを確認することはできない。それ故、この状況を踏まえると、当該通販サイトは度々電子的情報の内容を変えて掲載されている可能性があると推測される。
そうすると、甲1には、「キユーピー あえるパスタソース カルボナーラ 濃厚チーズ仕立て (70g×2)×6個」のAmazon.co.jpでの取り扱い開始日が「2005年2月11日」と記載されているが、当該取り扱い開始日の「2005年2月11日」に、甲1に示される電子的情報と同じ情報が掲載され、当該電子情報が公衆に利用可能となっていたかは不明である。

したがって、甲1は本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明と認めることができないから、甲1を証拠として採用することはできない。

イ 甲2

2a「【請求項1】
乳原料を無脂乳固形分として3?20質量%含有し、水分活性が0.9以下の容器詰めクリームソースの製造方法であって、冷水溶解性増粘剤を含み、80℃以上に加熱されていないクリームソースを容器に充填密封する工程を有し、前記クリームソースは、蛋白質及び脂質の割合が蛋白質100質量部に対して脂質が200?2000質量部であり、蛋白質全体に対する乳蛋白質の割合が80?100質量%であることを特徴とする容器詰めクリームソースの製造方法。」

2b「【0001】
本発明は、簡単な工程により、乳風味に優れ、しかも、製造後の乳風味の経時劣化が防止された容器詰めクリームソースが製造できる容器詰めクリームソースの製造方法に関する。
・・・・・
【0009】
そこで、本発明の目的は、簡単な工程により、乳風味に優れ、しかも、製造後の乳風味の経時劣化が防止された容器詰めクリームソースが製造できる容器詰めクリームソースの製造方法を提供することである。
・・・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明の容器詰めクリームソースの製造方法によれば、冷水溶解性増加剤を加えて適度な粘性を付与し、80℃以上に加熱せずにクリームソースを調製して容器に充填密封するので、従来のように撹拌条件や加熱条件等を微調整しながら鍋等で撹拌加熱する必要がなく簡便に容器詰めクリームソースが製造できる。また、得られた容器詰めクリームソースは、水分活性が0.9以下であり過度の加熱殺菌処理を必要としないことから、乳本来の風味を有したものとなり、しかも、蛋白質に対する脂質の割合、更に、蛋白質全体に対する乳蛋白質の割合を特定量としてあることにより、製造後の乳風味の経時劣化が防止されたものとなる。したがって、本発明の容器詰めクリームソースを提供することにより、容器詰めクリームソースの更なる需要拡大が期待される。」

2c「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の容器詰めクリームソースの製造方法を詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0014】
本発明が対象とするクリームソースとは、乳原料及び食用油脂を含有する乳化状のソースをいい、具体的には、ホワイトルーをベースとしたホワイトソース、トマトソースをベースとしたトマトクリームソース、白ワインをベースとしたヴァンブランソース等が挙げられる。
・・・・・
【0020】
また、前記本発明のクリームソースは、水分活性が0.9以下であり、これにより、得られたクリームソースの常温流通が可能となる。更に、過度の加熱殺菌処理を必要としないことから、乳本来の風味を有したクリームソースとなる。水分活性の調整は、常法により行えばよく、例えば、糖類や食塩等の水分活性を低下させる原料をクリームソースに配合して前記水分活性となるように調整すればよい。前記糖類としては、例えば、砂糖、オリゴ糖、澱粉分解物、ソルビトール及びトレハロース等が挙げられる。
【0021】
本発明の容器詰めクリームソースの製造方法は、上述した乳原料及び食用油脂等を含む原料を混合して調製したクリームソースを容器に充填密封するが、本発明の容器詰めクリームソースの製造方法は、冷水溶解性増加剤を含み、80℃以上に加熱されていないクリームソースを容器に充填密封する工程を有することを特徴とする。従来のクリームソースの製造方法においては、原料を二重釜等の加熱設備で焦げ付かないように注意しながら90℃以上に撹拌加熱して炊き上げることにより、ソースに適度な粘性を付与してクリームソースを調製していたが、本発明においては、このように冷水溶解性増加剤を加えてソースに適度な粘性を付与し、80℃以上に加熱することなく調製したクリームソースを容器に充填することにより、簡単な工程により容器詰めクリームソースが製造できる。
【0022】
前記本発明における冷水溶解性増加剤とは、熱水溶解を必要とせず、冷水(例えば、15?25℃)に分散しただけ溶解させることができる増加剤をいう。このような冷水溶解性増加剤としては、例えば、グアーガム、キサンタンガム等のガム質の他、冷水可溶となるように調製されたα化澱粉やゼラチン等が挙げられる。
【0023】
容器に充填密封するクリームソースの粘度に関し、本発明においては、上述した冷水溶解性増加剤を配合することによりソースとしての適度な粘性をクリームソースに付与するが、具体的な粘度としては、クリームソースとしての適度な粘性を得る点から、好ましくは3?100Pa・s、より好ましくは3?50Pa・sである。なお、本発明における粘度の測定は、当該ソースをBH型粘度計で、品温20℃、回転数20rpmの条件で、粘度が0.375Pa・s未満のときローターNo.1、0.375Pa・s以上1.5Pa・s未満のときローターNo.2、1.5Pa・s以上3.75Pa・s未満のときローターNo.3、3.75Pa・s以上7.5Pa・s未満のときローターNo.4、7.5Pa・s以上のときローターNo.5、10Pa・s以上のときローターNo.6を使用し、測定開始後ローターが3回転した時の示度により求めた値である。
・・・・・
【0028】
前記クリームソースにおける脂質の含有量は、レトルトクリームソース全体の2?40%、好ましくは4?35%である。脂質含有量が前記範囲よりも少ないと、クリームソースに好ましいこく付与し難く、前記範囲よりも多いと、製造後のクリームソースに分離が生じる可能性が高まるので好ましくない。なお、脂質含有量は、栄養表示基準(平成15年4月24日厚生省告示第176号)別表第2の第3欄記載のエーテル抽出法に準じて測定した値である。
・・・・・
【0032】
使用する容器は、特に制限は無く、例えば、樹脂性のパウチや成形容器、あるいは、缶等が挙げられる。また、本発明のクリームソースの製造方法においては、容器に充填前、あるいは、充填後、殺菌処理等を目的として80℃を超えない範囲で加熱処理を施してもよい。80℃を超えない温度であれば、クリームソースに焦げ付き等が生じることもなく、また、乳風味が損なわれることもない。
【0033】
以上のように製造した本発明の容器詰めクリームソースは、製造後の乳風味の経時劣化が防止され、乳本来の風味を有するものとなり、ハンバーグ、コロッケ、パンのトッピングやフィリング等の用途の他、パスタ等と和えて用いるパスタ用の用途等の種々の用途に用いることができる。」

2d「【0035】
[実施例1]
下記の配合で容器詰めクリームソースを製造した。つまり、撹拌タンクに、還元澱粉分解物、サラダ油、全粉乳、クリーム、チーズパウダー、α化澱粉、キサンタンガム、食塩、グルタミン酸ナトリウム、チキンエキス及び清水を投入し、全体が均一になるように撹拌混合してクリームソースを得た。クリームソースの粘度は40Pa・sであった。次に、得られたクリームソースを50gずつパウチに充填密封して容器詰めクリームソースを得た。なお、クリームソースは、乳原料を無脂乳固形分として10%含有しており、蛋白質含有量が6%、脂質含有量が35%であり、蛋白質100部に対して脂質が583部含有していた。また、蛋白質全体に対する乳蛋白質の割合は100%であった。更に、水分活性は0.9以下であった。
【0036】
<クリームソースの配合割合>
還元澱粉分解物(固形分70%) 30%
サラダ油 30%
全粉乳 9%
クリーム(乳脂肪分45%) 4%
チーズパウダー 7%
α化澱粉 7%
キサンタンガム 0.1%
食塩 5%
グルタミン酸ナトリウム 1%
チキンエキス 0.5%
清水 6.4%
合計 100%
【0037】
得られた本発明の容器詰めクリームソースは分離等が生じておらず均一な状態であり、食したところ乳本来の風味を充分に有する大変好ましいものであった。また、20℃の室内に1ヵ月間保存した後、同様に製造した製造直後の対照品と比較して食味を評価したところ、保存後であっても製造直後と略同様の好ましい乳風味を有していた。
・・・・・
【0049】
[試験例1]
本試験例においては、容器詰めクリームソースの製造方法において、クリームソースの蛋白質と脂質の含有割合の違いが、得られたクリームソースの保存後の乳風味に与える影響を調べるために以下の試験を行った。つまり、実施例1において、サラダ油の含有量を換えることにより脂質含有量が異なる4種類のクリームソースを調製し、これらを用いて容器詰めクリームソースを製造した。この際、食用油脂の増加分又は減少分は還元澱粉分解物の配合量により補正した。次に、得られた各容器詰めクリームソースを20℃の室内に1ヵ月間保存した後の乳風味について、それぞれ同様に製造した製造直後の対照品と比較して下記評価基準により食味を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
<保存後の容器詰めクリームソースの乳風味の評価基準>
A:対照品とほぼ同様の乳風味である。
B:対照品と比べてやや乳風味が損なわれているが問題のない程度である。
C:対照品と比べてやや乳風味が損なわれている。
D:対照品と比べて乳風味が損なわれている。
【0051】
【表1】

【0052】
表1より、クリームソースの蛋白質及び脂質の割合が、蛋白質100部に対して脂質が200?2000部である発明品1乃至3の容器詰めクリームソースは、製造後の乳風味の経時劣化が防止され、乳本来の風味を有し好ましかった。特に、蛋白質100部に対して脂質が500?2000部である発明品2及び3の容器詰めクリームソースは、製造後の乳風味の経時劣化防止効果が高くより好ましかった。これに対して、蛋白質に対する脂質の割合が前記範囲よりも少ない比較品1は、保存後の乳風味が損なわれ好ましくなかった。」

ウ 甲3

3a「【請求項1】
(a)澱粉を含まず、卵黄及びチーズを含有する水分散液を加熱する工程と、
(b)工程(a)を経た前記水分散液を均質化処理する工程と、
(c)工程(b)で得られた均質化処理液と澱粉とを混合する工程と、
(d)工程(c)で得られた混合物を加熱する工程と、
を含むことを特徴とする、カルボナーラソースの製造方法。 」

3b「【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボナーラソースの製造方法に関し、詳しくは、チーズ及び卵黄の凝集が発生せず、滑らかな食感を有するカルボナーラソースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボナーラは、他のパスタ料理と異なり、加熱凝固性を有する卵黄を含有したソースを用いる。そのために、家庭でカルボナーラを料理するときは、ソース中の卵黄が凝固しないように、例えば、卵黄及びチーズ、必要に応じ生クリーム等の主な材料を温めることなく単に混合した比較的低粘度のソースを用い、茹でたパスタにソースを素早く和えて料理する方法等が採られている。
・・・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、チーズ及び卵黄の凝集が発生せず、滑らかな食感を有するカルボナーラソースを得ることができる。」

3c「【0013】
また、水分散液には、チーズ及び水以外に、例えば調味料、乳類、油脂、ガム及び乳化剤等を適宜組み合わせて添加配合することができる。
調味料としては、食塩、砂糖、各種エキス、うま味成分を含有するうま味調味料等を挙げることができる。うま味調味料としては、例えば、グルタミン酸ナトリウム、5´-イノシン酸ナトリウム、5´-グアニル酸ナトリウム等を挙げることができる。
・・・・
【0015】
油脂としては、油の種類、成分等特に限定されないが、あまに油、サフラワー油、向日葵油、綿実油、菜種油、大豆油、辛子油、米油、胡麻油、とうもろこし油、落花生油、オリーブ油、やし油、パーム油、パーム核油等の植物油脂や、魚油、鯨油、牛脂、豚脂、乳脂、羊脂等の動物油脂から選ばれる1種または2種以上を使用可能であり、これらの油脂を原料にエステル交換したものや、硬化油、分別油、混合油を用いることが可能である。
ガムとしては、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、ガティーガム、アラビノガラクタン、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
・・・・・
【0020】
本発明の工程(c)は、工程(b)で得られた均質化処理液と澱粉とを混合する工程である。卵黄及びチーズを含む均質化処理液を得た後に、別途澱粉を添加混合することで、チーズ及び卵黄の凝集発生を防止できる。ここで、均質化処理液と混合する澱粉としては、例えば、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、とうもろこし澱粉、小麦澱粉、米澱粉、それらのエステル化澱粉、およびエーテル化澱粉あるいはそれらのα化澱粉等を挙げることができる。これらのうち、小麦澱粉が好ましい。
澱粉の含有量は、ソース物性の安定性、良好な食感を保持させる点から、カルボナーラソースの原料全量に対して、0.5?7質量%であることが好ましく、1?5質量%であることがより好ましい。
なお、この工程(c)においては、澱粉の他に、前記調味料、乳類、油脂、ガム等も適宜混合してもよい。
【0021】
本発明の工程(d)は、工程(c)で得られた混合物を加熱する工程である。混合物を加熱する方法としては、特に制限はないが、湿式加熱、乾式加熱、又はマイクロ波加熱等を挙げることができる。加熱温度は、いずれの加熱方法においても、混合物中の澱粉が糊化する温度であればよく、特に制限はないが、75?85℃であることがより好ましい。加熱時間は、特に制限はないが、上記の温度に達温後、3?5分であることよりが好ましい。」

3d「【0023】
(実施例1)
卵黄、チーズ、油脂及び水を以下の表1に示す配合割合で混合し、水分散液を作成した。次いで、作成した水分散液を85℃に達温後、85℃で10分間加熱した。加熱した水分散液を高圧タイプの均質機(50?300kg/cm^(2))を用いることにより均質化処理を行った。
次いで、表1に示す配合割合で、得られた均質化処理液と、澱粉と、調味料と、牛乳と、リン酸塩とを混合した。得られた混合物を85℃に達温後、85℃で5分間加熱し、カルボナーラソースを得た。
得られたカルボナーラソース85gを袋に充填し、120℃、30分間レトルト殺菌処理をした。
【0024】
【表1】



エ 甲4

4a「【請求項1】
製品に対し3?30%の食用油脂、湿熱処理澱粉及びモノアシル型親水性乳化剤を配合した乳化状ソースを製した後、乾麺100g当たり50?90gの前記乳化状ソースを耐熱性容器に充填し、レトルト処理することより油相と乳化相に解乳化させることを特徴とするレトルトパスタソースの製造方法。
【請求項2】
製品に対し湿熱処理澱粉を0.05?1%配合する請求項1記載のレトルトパスタソースの製造方法。」

4b「【0001】
本発明は、常温のソースを茹でたパスタに和えて喫食するレトルトパスタソースの製造方法に関する。詳しくは常温のソースを茹でたパスタに和えても適温を有し、しかもパスタが「ぬめり感」がなく口当たりの良い、またソース全体も口当たりが良く一体感のある食味を有したパスタ料理を提供するレトルトパスタソースの製造方法に関する。
・・・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、常温のソースを茹でたパスタに和えても適温を有し、しかもパスタが「ぬめり感」がなく口当たりの良い、またソース全体も口当たりが良く一体感のある食味を有したパスタ料理を提供するレトルトパスタソースを得ることができる。
・・・・・
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。」

4c「【0014】
ここで、レトルト処理したレトルトパスタソースとは、従来のレトルトパスタソースと同様、耐熱性容器に充填し、ソースの中心部の品温を120℃で4分間相当加熱する又はこれと同等以上の効果を有する条件、具体的には、例えば、100℃超130℃以下の程度で5?90分間程度処理する加熱殺菌処理、いわゆるレトルト処理したレトルトパスタソースのことである。
【0015】
また、本発明で用いる「湿熱処理澱粉」とは、加熱しても糊化しない程度の水分を含む澱粉粒子を、密閉容器中で、水分の存在下で加熱して作られたものである。例えば、特開平4-130102号公報に記載された方法、すなわち天然澱粉を減圧下に置いた後、蒸気導入による加圧加熱を行ない、あるいはこの操作を繰り返した後、冷却し、粉砕して製造する方法等により得られる澱粉が挙げられる。このような湿熱処理澱粉は、例えば、商品名「ノベーション」(日本エヌエスシー(株)製)等と、既に市販されており、本発明は当該市販品を用いればよい。
・・・・・
【0023】
食用油脂の配合量は、製品に対し3?30%、好ましくは5?20%である。前記範囲より少ないと、パスタソース中の水分がパスタに浸透しやすくなり、パスタの口当たりが悪いものとなり、一方、前記範囲より多いと、ソース全体が油っぽいものとなってしまい口当たりが好ましくないからである。
【0024】
本発明は、油相が分離した分離タイプのレトルトパスタソースであるが、まず、製品に対し3?30%の食用油脂、湿熱処理澱粉及びモノアシル型親水性乳化剤を配合した乳化状ソースを製する。つまり、本発明は、特定量の食用油脂と、湿熱処理澱粉及びモノアシル型親水性乳化剤とを必須の配合原料とし、それ以外の配合原料は、本発明の効果を損なわない範囲で分離タイプのレトルトパスタソースの原料として一般的に使用されているものを適宜選択し、食用油脂が油滴としてソース中に略均一に分散した乳化状のソースとなるように処理を施す方法であればいずれの方法を用いても良い。例えば、水相原料の混合物を製した後に、当該水相混合物を撹拌させながら油相である食用油脂を注加して乳化状とする方法、あるいは油相である食用油脂を撹拌させながら予め製していた水相原料の混合物を注加して乳化状とする方法、あるいは水相及び油相の全配合原料を混合タンク内に投入した後に、全体が乳化状となるように撹拌混合する方法等が挙げられる。
【0025】
なお、本発明の必須の配合原料以外の原料としては、例えば、食塩、醤油、砂糖、液糖、グルタミン酸ナトリウム、核酸系旨味調味料等の各種調味料、ペッパー、唐辛子等の香辛料、増粘多糖類、エキス、色素、発色剤、更には、ひらたけ、椎茸、エリンギ、しめじ、マッシュルーム、玉葱、ニンニク、トマト、オリーブ等の具材等が挙げられる。また、レトルトパスタソースには、上記のような各種具材が配合されている場合があるが、具材の配合時期は、上記処理工程を損なわない範囲で行なえば良く、特に限定するものではない。
・・・・・
【0027】
次に、上述した方法で得られた耐熱性容器に充填したものを、レトルト処理する。レトルト処理するとは、上述したとおりソースの中心部の品温を120℃で4分間相当加熱する又はこれと同等以上の効果を有する条件で処理を施すことであり、具体的には、例えば、100℃超130℃以下の程度で5?90分間程度処理を施すと良い。当該レトルト処理することにより、乳化状ソースが油相と乳化相に解乳化され、本発明の目的とするレトルトパスタソースが得られる。
・・・・・
【0029】
喫食するにあたっては、耐熱性容器を開封し、これをそのまま、あるいは開封前に軽く振った後に、茹でたパスタにかけて和えればよい。」

4d「【0031】
[実施例1]
乳化状ソース100kgを製造した。つまり、撹拌機付き二重釜にサラダ油、ガーリックミンチを入れ加熱撹拌し、100℃に達温後、あらかじめミキサーで均一混合しておいた醤油、グラニュー糖、食塩、湿熱処理澱粉(日本エヌエスシー(株)製、「ノベーション2600」)、酵素処理卵黄油(キユーピー(株)製、「卵黄レシチンLPL-20」(リゾリン脂質約20%含有))、及び清水の混合物を投入し撹拌混合し乳化させた。得られた乳化物に、ボイル済みの約6mm角にダイスカットした具材である玉葱、ひらたけ、椎茸、及びエリンギをそれぞれ加え、撹拌させながら加熱し、80℃に達温後加熱を停止し乳化状ソースを製造した。得られた乳化状ソースを55gずつ耐熱性レトルトパウチに充填・密封した後、120℃で30分間レトルト処理し、冷却してレトルトパスタソースを製造した。得られたレトルトパスタソースは、油相と乳化相に解乳化されていた。
【0032】
<本発明の配合割合>
油相 サラダ油 15%
ガーリックミンチ 2%
水相 玉葱 20%
ひらたけ 10%
椎茸 5%
エリンギ 5%
醤油 5%
グラニュー糖 2%
食塩 1.5%
湿熱処理澱粉 0.5%
酵素処理卵黄油 0.05%
清水 残 余
合 計 100% 」

オ 甲5

5a「【請求項1】
植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体、並びに化工澱粉及び/又は湿熱処理澱粉を配合していることを特徴とするレトルトソース又はレトルトスープ。」

5b「【0022】
本発明で用いる化工澱粉は、化学的処理を施された増粘剤として使用される澱粉であって食用として供されるものであれば特に限定するものではない。例えば、澱粉に無水酢酸と無水アジピン酸を作用させてエステル化するアセチル化アジピン酸架橋澱粉、澱粉にオキシ塩化リン又はトリメタリン酸ナトリウムを作用させ、さらに無水酢酸又は酢酸ビニルを作用させてエステル化するアセチル化リン酸架橋澱粉、澱粉に次亜塩素酸ナトリウムと無水酢酸を作用させてエステル化するアセチル化酸化澱粉、澱粉に無水オクテニルコハク酸を作用させてエステル化するオクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、澱粉に無水酢酸又は酢酸ビニルを作用させてエステル化する酢酸澱粉、澱粉に次亜塩素酸ナトリウムを作用させる酸化澱粉、澱粉にプロピレンオキシドを作用させてエーテル化するヒドロキシプロピル澱粉、澱粉にプロピレンオキシドを作用させエーテル化し、さらにオキシ塩化リン又はトリメタリン酸ナトリウムを作用させエステル化するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、澱粉にオキシ塩化リン又はトリメタリン酸ナトリウムを作用させエステル化し、さらにオルトリン酸又はそのカリウム塩、ナトリウム塩、トリポリリン酸ナトリウムを作用させエステル化するリン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、澱粉にオルトリン酸又はそのカリウム塩、ナトリウム塩、トリポリリン酸ナトリウムを作用させエステル化するリン酸化澱粉、澱粉にオキシ塩化リン又はトリメタリン酸ナトリウムを作用させエステル化するリン酸架橋澱粉等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いるとよい。
・・・・・
【0025】
なお、本発明のレトルトソース又はレトルトスープには、上述した原料の他に、牛乳、バター、チーズ等の乳製品、トマト、ほうれん草、玉葱、ピーマン、パセリ、肉類等の具材、砂糖、醤油、食塩、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、カツオやコンブ等の動植物エキス、水飴、デキストリン、還元デキストリン、サイクロデキストリン、ソルビトール、トレハロース等の糖類、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、カラギーナン、ファーセルラン、タラガム、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、及びタマリンドガム、ゼラチン等の増粘剤、卵黄、ホスフォリパーゼA処理卵黄、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン等の乳化材、食酢、クエン酸等の有機酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩、ビタミンE等の酸化防止剤、着色料、香料、甘味料、保存料等の原料を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して用いることができる。」

5c「【0046】
[実施例1]
下記の配合のレトルトクリームソースを製した。つまり、球形ニーダーに清水45kgを入れ、攪拌加熱しながら牛乳30kg、調製例3で得られた複合体分散液4.6kg、上白糖1kg、グルタミン酸ナトリウム1kg、食塩1kg、酵素処理卵黄油(リゾリン脂質濃度20%)0.3kg及び大豆サラダ油5kgと、大豆サラダ油3kgにキサンタンガム0.2kgを分散させたもの及び清水10kgにアセチル化アジピン酸架橋澱粉(日本エヌエスシー社製、コルフロ67)2kgを分散させたものとを加えて90℃に達温後加熱を停止し、生クリーム6kgを加えて仕上げ攪拌してクリームソース100kgを得た。得られたソースをそれぞれ140g(1食分)ずつアルミパウチに充填・密封した後120℃で20分間レトルト処理し、冷却してレトルトクリームソースを製した。なお、得られたレトルトクリームソースには、複合体を1%、化工澱粉であるアセチル化アジピン酸架橋澱粉が2%配合されている。
【0047】
<配合割合>
牛乳 30%
大豆サラダ油 8%
生クリーム 6%
複合体分散液(調製例3) 4.6%
アセチル化アジピン酸架橋澱粉 2%
上白糖 1%
グルタミン酸ナトリウム 1%
食塩 1%
酵素処理卵黄油 0.3%
キサンタンガム 0.2%
清水 残余
100%
【0048】
[実施例2]
実施例1のレトルトクリームソースにおいて、化工澱粉であるアセチル化アジピン酸架橋澱粉に換えてヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(日澱化学社製、デリカM-9)を配合した以外は同様の方法でレトルトクリームソースを製した。
・・・・・
【0060】
[実施例6]
下記の配合のカルボナーラ用レトルトソースを製した。つまり、球形ニーダーに清水7kg及び牛乳60kgを入れ、攪拌加熱しながら調製例4で得られた乾燥状の複合体1kg、オリゴ糖アルコール8kg、生卵黄3kg、パルミジャーノレジャーノ3kg、食塩1.2kg、グルタミン酸ナトリウム0.8kg及びマーガリン1kgと、清水10kgにアセチル化アジピン酸架橋澱粉(実施例1と同じもの)2kgを分散させたものとを加えて90℃に達温後加熱を停止し、生クリーム5kg、ベーコン8kg及びブラックペパー0.1kgを加えて仕上げ攪拌してソース100kgを得た。得られたソースをそれぞれ140g(1食分)ずつアルミパウチに充填・密封した後120℃で20分間レトルト処理し、冷却してカルボナーラ用レトルトソースを製した。」

カ 甲6

6a「脂質の多い食品と、食品の脂質の含有量一覧
脂質 食品100g当たりの脂質の含有量 単位:g 目標量:1日に必要なエネルギー量の20?30%
・・・・・
脂質の含有量一覧表 (・・・)
・・・・・
たまご(卵黄) 33.5
・・・・・
生クリーム(乳脂肪) 45.0
・・・・・
プロセスチーズ 26.0
・・・・・ 」

(2)刊行物に記載された発明

ア 甲2に記載された発明

甲2は、「簡単な工程により、乳風味に優れ、しかも、製造後の乳風味の経時劣化が防止された容器詰めクリームソースが製造できる容器詰めクリームソースの製造方法」(2b)に関し記載するものであって、その具体例として、実施例1(2d)には、「下記の配合で容器詰めクリームソースを製造した。つまり、撹拌タンクに、還元澱粉分解物、サラダ油、全粉乳、クリーム、チーズパウダー、α化澱粉、キサンタンガム、食塩、グルタミン酸ナトリウム、チキンエキス及び清水を投入し、全体が均一になるように撹拌混合してクリームソースを得た。クリームソースの粘度は40Pa・sであった。次に、得られたクリームソースを50gずつパウチに充填密封して容器詰めクリームソースを得た。・・・ <クリームソースの配合割合> ・・・」が記載されている。
さらに、試験例1(2d)には「実施例1において、サラダ油の含有量を換えることにより脂質含有量が異なる4種類のクリームソースを調製し、これらを用いて容器詰めクリームソースを製造した」ことが記載され、【表1】には、該脂質含有量が異なる4種類のクリームソースの内、「発明品1」は「脂質含有量(%)」が「15」であることが記載されている。ここで、「実施例1において、サラダ油の含有量を換える」ことにつき、サラダ油の含有量を何%に換えたのか明らかでないので、実施例1に記載の「<クリームソースの配合割合>」のサラダ油の配合%が不明であり、それ故、クリームソース全体の配合割合が不明となっている。
加えて、「サラダ油の含有量を換える」ことは、「発明品1」のクリームソースの粘度にも影響を与え、実施例1に記載の「40Pa・s」とは異なっているものと理解されるから、「発明品1」のクリームソースの粘度も不明といえる。

そこで、「発明品1」の製造方法に着目し、クリームソース全体の配合割合は不明であるので該割合を省略し、クリームソースの粘度も不明であるので省略し、「発明品1」の製造方法を、実施例1の記載を用いて書き表すと、甲2には、
「撹拌タンクに、還元澱粉分解物、サラダ油、全粉乳、クリーム、チーズパウダー、α化澱粉、キサンタンガム、食塩、グルタミン酸ナトリウム、チキンエキス及び清水を投入し、全体が均一になるように撹拌混合してクリームソースを得、次に、得られたクリームソースを50gずつパウチに充填密封して容器詰めクリームソースを得る、脂質含有量が15%である、容器詰めクリームソースの製造方法」
の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 甲3に記載された発明
甲3は、「チーズ及び卵黄の凝集が発生せず、滑らかな食感を有するカルボナーラソースの製造方法」(3b)に関し記載するものであって、その具体例として、実施例1(3d)には「卵黄、チーズ、油脂び水を以下の表1に示す配合割合で混合し、水分散液を作成した。次いで、作成した水分散液を85℃に達温後、85℃で10分間加熱した。加熱した水分散液を高圧タイプの均質機(50?300kg/cm^(2))を用いることにより均質化処理を行った。次いで、表1に示す配合割合で、得られた均質化処理液と、澱粉と、調味料と、牛乳と、リン酸塩とを混合した。得られた混合物を85℃に達温後、85℃で5分間加熱し、カルボナーラソースを得た。得られたカルボナーラソース85gを袋に充填し、120℃、30分間レトルト殺菌処理をした。」と記載され、「表1に示す配合割合」として、表1には、「原料名 配合率(質量%)」として、「卵黄5.0、チーズ3.0、調味料4.0、澱粉1.5、油脂15.0、水71.0、リン酸塩0.5、合計100.0」(3d)であることが記載されている。

実施例1に記載のカルボナーラソースの製造方法において、「表1に示す配合割合」として、表1に示される数値をあてはめ書き下すと、甲3には、
「卵黄5.0質量%、チーズ3.0質量%、油脂15.0質量%及び水71.0質量%を混合し、水分散液を作成し、次いで、作成した水分散液を85℃に達温後、85℃で10分間加熱し、加熱した水分散液を高圧タイプの均質機(50?300kg/cm^(2))を用いることにより均質化処理を行い、次いで、得られた均質化処理液と、澱粉1.5質量%と、調味料4.0質量%と、牛乳と、リン酸塩0.5質量%とを混合し、得られた混合物を85℃に達温後、85℃で5分間加熱し、カルボナーラソースを得、得られたカルボナーラソース85gを袋に充填し、120℃、30分間レトルト殺菌処理をする、カルボナーラソースの製造方法」
の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

ウ 甲4に記載された発明
甲4は、「製品に対し3?30%の食用油脂、湿熱処理澱粉及びモノアシル型親水性乳化剤を配合した乳化状ソースを製した後、乾麺100g当たり50?90gの前記乳化状ソースを耐熱性容器に充填し、レトルト処理することより油相と乳化相に解乳化させることを特徴とするレトルトパスタソースの製造方法」(4a請求項1)に関し記載するものであって、その具体例として、実施例1(4d)には、「乳化状ソース100kgを製造した。つまり、撹拌機付き二重釜にサラダ油、ガーリックミンチを入れ加熱撹拌し、100℃に達温後、あらかじめミキサーで均一混合しておいた醤油、グラニュー糖、食塩、湿熱処理澱粉(日本エヌエスシー(株)製、「ノベーション2600」)、酵素処理卵黄油(キユーピー(株)製、「卵黄レシチンLPL-20」(リゾリン脂質約20%含有))、及び清水の混合物を投入し撹拌混合し乳化させた。得られた乳化物に、ボイル済みの約6mm角にダイスカットした具材である玉葱、ひらたけ、椎茸、及びエリンギをそれぞれ加え、撹拌させながら加熱し、80℃に達温後加熱を停止し乳化状ソースを製造した。得られた乳化状ソースを55gずつ耐熱性レトルトパウチに充填・密封した後、120℃で30分間レトルト処理し、冷却してレトルトパスタソースを製造した。得られたレトルトパスタソースは、油相と乳化相に解乳化されていた。
<本発明の配合割合>
油相 サラダ油 15%
ガーリックミンチ 2%
水相 玉葱 20%
ひらたけ 10%
椎茸 5%
エリンギ 5%
醤油 5%
グラニュー糖 2%
食塩 1.5%
湿熱処理澱粉 0.5%
酵素処理卵黄油 0.05%
清水 残 余
合 計 100% 」と記載されている。「%」は「質量%」を意味している(4b)。

そうすると、実施例1に記載のレトルトパスタソースの製造方法において、各原料につき、「<本発明の配合割合>」に示される数値をあてはめて書き下すと、甲4には、
「撹拌機付き二重釜にサラダ油15質量%、ガーリックミンチ2質量%を入れ加熱撹拌し、100℃に達温後、あらかじめミキサーで均一混合しておいた醤油5質量%、グラニュー糖2質量%、食塩1.5質量%、湿熱処理澱粉(日本エヌエスシー(株)製、「ノベーション2600」)0.5質量%、酵素処理卵黄油(キユーピー(株)製、「卵黄レシチンLPL-20」(リゾリン脂質約20%含有))0.05質量%、及び清水の混合物を投入し撹拌混合し乳化させ、得られた乳化物に、ボイル済みの約6mm角にダイスカットした具材である玉葱20質量%、ひらたけ10質量%、椎茸5質量%、及びエリンギ5質量%をそれぞれ加え、撹拌させながら加熱し、80℃に達温後加熱を停止し乳化状ソースを製造し、得られた乳化状ソースを55gずつ耐熱性レトルトパウチに充填・密封した後、120℃で30分間レトルト処理し、冷却して油相と乳化相に解乳化されたレトルトパスタソースを製造する方法」の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)本件発明1について

ア 甲2を主引用文献とする場合

(ア)甲2発明との対比

a 甲2発明の「クリームソース」は、本件発明1の「乳化パスタソース」「前記乳化パスタソースがカルボナーラソース又はクリームソースである」に相当する。

b 甲2発明の「脂質含有量が15%」は、クリームソースが脂質を15%含有していることであるから、本件発明1の「脂質を13%以上23%以下含有し」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「乳化パスタソースであって、
脂質を13%以上23%以下含有し、
前記乳化パスタソースがカルボナーラソース又はクリームソースである、
乳化パスタソース。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点甲2A:乳化パスタソースが、本件発明1では、ゆでたパスタ一食分に50g以上100g以下の割合でソースを室温(1?30℃)のままかけて喫食するものであるのに対し、甲2発明では、そのように喫食するものであるか明らかでない点

相違点甲2B:乳化パスタソースが、本件発明1では、加熱処理されてあるのに対し、甲2発明では、加熱処理されてあるか明らかでない点

相違点甲2C:乳化パスタソースが、本件発明1では、品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下であるのに対し、甲2発明では、そのようなものであるか明らかでない点

相違点甲2D:乳化パスタソースが、本件発明1では、ソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下であるのに対し、甲2発明では、ソースの粘度は明らかでない点

(イ)判断

a 新規性について
事案に鑑み、相違点甲2Dから検討する。
一般に、クリームソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下であることについての技術的根拠は何ら示されておらず、本出願当時、技術常識であったとは認められない。
それ故、甲2発明において、クリームソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下である蓋然性が高いとは認められない。
したがって、相違点甲2Dは、実質的な相違点といえる。

b 進歩性について

(a)相違点について
事案に鑑み、相違点甲2Cから検討する。

甲2発明の乳化状態について、甲2の実施例1には「得られた本発明の容器詰めクリームソースは分離等が生じておらず均一な状態であり」(【0037】)と記載されている。そして、クリームソースの分離について、甲2には、脂質の含有量の実施の態様に、「【0028】・・クリームソースにおける脂質の含有量は、レトルトクリームソース全体の2?40%・・である。・・前記範囲よりも多いと、製造後のクリームソースに分離が生じる可能性が高まるので好ましくない」と記載されているにすぎない。
このように、甲2発明の乳化状態について、「分離等が生じておらず均一な状態」が、具体的にどの程度の脂質分離量であるのか、具体的な説明は何らなされておらず、不明である。
それ故、甲2発明の乳化状態の「分離等が生じておらず均一な状態」であることが、本件発明1の「品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下」である蓋然性が高いといえる技術的根拠は、甲2には何ら記載も示唆もされていないといえる。
また、一般に、クリームソースの乳化状態として、分離等が生じておらず均一な状態であれば、「品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下」である蓋然性が高いといえる技術常識があったものとも認められない。

そうすると、甲2発明の乳化状態を、本件発明1の「品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下」であるとすることは、甲2に記載も示唆もなく、本件特許出願当時の技術常識であったとも認められず、他に動機付けられるものもない以上、甲2発明において、乳化状態を、「品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下」であるとすることは、当業者といえども、容易に想到し得る技術的事項であるとはいえない。

(b)本件発明1の効果について
本件発明1の効果は、本件明細書の段落【0008】の記載及び実施例(【0025】?【0045】)の客観的な実験結果により裏付けられているとおり、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤが保たれる乳化パスタソースを提供できることであると認められる。
本件発明1は、乳化パスタソースにおいて、本件発明1の「脂質を13%以上23%以下含有」すること、相違点甲2Cの「品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下」であること、及び、相違点甲2Dの「ソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下」であることという技術的事項を全て備えることにより、前記効果を奏することを見出したものであり、本件発明1の前記効果は甲2の記載及び技術常識から当業者が予測し得たものとはいえない。

c したがって、相違点甲2A及び相違点甲2Bを検討するまでもなく、本件発明1は、本件出願前に頒布された甲2に記載された発明とはいえないし、また、甲2に記載された発明並びに甲6に記載された技術的事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 甲3を主引用文献とする場合

(ア)甲3発明との対比

a 甲3発明の「カルボナーラソース」は、本件発明1の「乳化パスタソース」「前記乳化パスタソースがカルボナーラソース又はクリームソースである」に相当する。

b 甲3発明の「得られたカルボナーラソース85gを袋に充填し、120℃、30分間レトルト殺菌処理をする」ことは、前記aで述べたことを踏まえると、本件発明1の「乳化パスタソースが加熱処理されてあり」に相当する。

c 甲3発明の脂質含有量について、甲6の脂質含有量一覧表(6a)をみると、たまご(卵黄)及びプロセスチーズ各100g当たりの脂質量の含有量(g)は、たまご(卵黄)33.5g、プロセスチーズ26.0gと記載されていることから、甲3発明の脂質含有量は、17.445質量%[=油脂15.0質量%+卵黄1.675質量%(=5.0質量%×33.5g/100g)+チーズ0.78質量%(=3.0質量%×26.0g/100g)]といえる。
そうすると、甲3発明の脂質含有量17.445質量%は、本件発明1の「脂質を13%以上23%以下含有し」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「乳化パスタソースであって、該乳化パスタソースが加熱処理されてあり、脂質を13%以上23%以下含有し、
前記乳化パスタソースがカルボナーラソース又はクリームソースである、乳化パスタソース。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点甲3A:乳化パスタソースが、本件発明1では、ゆでたパスタ一食分に50g以上100g以下の割合でソースを室温(1?30℃)のままかけて喫食するものであるのに対し、甲3発明では、そのように喫食するものであるか明らかでない点

相違点甲3B:乳化パスタソースが、本件発明1では、品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下であるのに対し、甲3発明では、そのようなものであるか明らかでない点

相違点甲3C:乳化パスタソースが、本件発明1では、ソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下であるのに対し、甲3発明では、ソースの粘度は明らかでない点

(イ)判断

a 新規性について
事案に鑑み、相違点甲3Cから検討する。
一般に、カルボナーラソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下であることについての技術的根拠は何ら示されておらず、本出願当時、技術常識であったとは認められない。
それ故、甲3発明において、カルボナーラソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下である蓋然性が高いとは認められない。
したがって、相違点甲3Cは、実質的な相違点といえる。

b 進歩性について
事案に鑑み、相違点甲3Bから検討する。
前記ア(イ)bで述べたように、甲2発明の乳化状態の「分離等が生じておらず均一な状態」であることが、本件発明1の「品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下」である蓋然性が高いといえる技術的根拠は、甲2には何ら記載も示唆もされておらず、そういえる技術常識があったものとも認められず、他に動機付けられるものもない以上、甲3発明において、乳化状態を、「品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下」であるとすることは、当業者といえども、容易に想到し得る技術的事項であるとはいえない。
また、それにより奏される効果についても、甲3、甲2の記載及び技術常識から当業者が予測し得たものとはいえない。

c したがって、相違点甲3Aを検討するまでもなく、本件発明1は、本件出願前に頒布された甲3に記載された発明とはいえないし、また、甲3に記載された発明並びに甲2、甲6に記載された技術的事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 甲4を主引用文献とする場合

(ア)甲4発明との対比

a 甲4発明の「油相と乳化相に解乳化されたレトルトパスタソース」と、本件発明1の「乳化パスタソース」「前記乳化パスタソースがカルボナーラソース又はクリームソースである」とは、パスタソースである点で共通する。

b 甲4発明の「レトルトパスタソース」について、甲4には「喫食するにあたっては、耐熱性容器を開封し、これをそのまま、あるいは開封前に軽く振った後に、茹でたパスタにかけて和えればよい」(4c【0029】)と記載されていることから、茹でたパスタ一食分に、「耐熱性容器」を開封した「そのまま」のパスタソースをかけて喫食するものといえ、「そのまま」は室温のままと理解される。そして、「耐熱性容器」には、「乳化状ソースを55gずつ耐熱性レトルトパウチに充填・密封した後、120℃で30分間レトルト処理し、冷却して油相と乳化相に解乳化されたレトルトパスタソース」が入っているから、茹でたパスタ一食分にパスタソースを「55g」かけて喫食するものと理解される。
そうすると、甲4発明の「レトルトパスタソース」は、本件発明1の「ゆでたパスタ一食分に50g以上100g以下の割合でソースを室温(1?30℃)のままかけて喫食する」「パスタソース」に相当する。

c 甲4発明の「得られた乳化状ソースを55gずつ耐熱性レトルトパウチに充填・密封した後、120℃で30分間レトルト処理」することは、本件発明1の「パスタソースが加熱処理されてあり」に相当する。

d 甲4発明の脂質含有量について、「サラダ油15質量%」及び「酵素処理卵黄油(キユーピー(株)製、「卵黄レシチンLPL-20」(リゾリン脂質約20%含有))0.05質量%」と記載されていることから、甲4発明の脂質含有量は、15.01質量%[=サラダ油15質量%+酵素処理卵黄油のリゾリン脂質0.01質量%(=0.05質量%×20/100)]といえる。
そうすると、甲4発明の脂質含有量15.01質量%は、本件発明1の「脂質を13%以上23%以下含有し」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「ゆでたパスタ一食分に50g以上100g以下の割合でソースを室温(1?30℃)のままかけて喫食するパスタソースであって、
該パスタソースが加熱処理されてあり、
脂質を13%以上23%以下含有する、
パスタソース」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点甲4A:パスタソースが、本件発明1では、乳化したものであり、カルボナーラソース又はクリームソースであるのに対し、甲4発明では、油相と乳化相に解乳化されたものである点

相違点甲4B:パスタソースが、本件発明1では、品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下であるのに対し、甲3発明では、そのようなものであるか明らかでない点

相違点甲4C:パスタソースが、本件発明1では、ソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下であるのに対し、甲4発明では、ソースの粘度は明らかでない点

(イ)判断

a 新規性について
事案に鑑み、相違点甲4Cから検討する。
一般に、油相と乳化相に解乳化されたレトルトパスタソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下であることについての技術的根拠は何ら示されておらず、本出願当時、技術常識であったとは認められない。
それ故、甲4発明において、油相と乳化相に解乳化されたレトルトパスタソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下である蓋然性が高いとは認められない。
したがって、相違点甲4Cは、実質的な相違点である。

b 進歩性について
事案に鑑み、相違点甲4Bから検討する。
前記ア(イ)bで述べたように、甲2発明の乳化状態の「分離等が生じておらず均一な状態」であることが、本件発明1の「品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下」である蓋然性が高いといえる技術的根拠は、甲2には何ら記載も示唆もされておらず、そういえる技術常識があったものとも認められず、他に動機付けられるものもない以上、甲4発明において、乳化状態を、「品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下」であるとすることは、当業者といえども、容易に想到し得る技術的事項であるとはいえない。
また、それにより奏される効果についても、甲4、甲2の記載及び技術常識から当業者が予測し得たものとはいえない。

c したがって、相違点甲4Aを検討するまでもなく、本件発明1は、本件出願前に頒布された甲4に記載された発明とはいえないし、また、甲4に記載された発明並びに甲2、甲6に記載された技術的事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明2?4について

新規性について
本件発明2?4は、本件発明1においてさらに技術的に限定した発明である。
そうすると、本件発明1が、本件出願前に頒布された甲2?4に記載された発明とはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明2?4も、甲2?4に記載された発明とはいえない。

進歩性について
本件発明1が、甲2?甲4に記載された発明並びに甲2、甲6に記載された技術的事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明2についても、甲2?甲4に記載された発明並びに甲2、甲6に記載された技術的事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明1にさらに特定事項を含んだ本件発明3?4についても、甲5が本件発明3又は4の発明特定事項である「加熱処理又はヒドロキシプロピル化又はアセチル化された澱粉」及び「増粘多糖類」について記載されたものであるから、同様に、甲2?甲4に記載された発明並びに甲2、甲5、甲6に記載された技術的事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)まとめ
したがって、本件発明1?4は、本件出願前に頒布された甲2?4に記載された発明とはいえず、また、本件発明1?4は、甲2?甲4に記載された発明並びに甲2、甲5、甲6に記載された技術的事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
よって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当しなされたものではなく、かつ、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

2 理由3(特許法第36条第6項第1号)について

(1)特許法第36条第6項第1号の解釈について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
以下、この観点に立って、判断する。

(2)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、請求項の内容の実質的な繰り返し記載の他、以下の記載がある。

ア 背景技術に関する記載
「【背景技術】
【0002】
パスタ料理の普及とともに、消費者の好みに合わせた様々なパスタソースが提供されるようになっている。近年では、手軽にパスタ料理が食べられるソースとして、ゆでたパスタに室温(1?30℃)のままかけて喫食することのできるパスタソースも市販されている。これらのパスタソースは一般的にパスタと和えた時にパスタの温度を下げないように、一食当たりのソース量を低容量(例えば、50?100g)に設計している。
カルボナーラソース、クリームソース等の乳化パスタソースは、パスタと和えた際にパスタに付着しやすく、滑らかな口どけとまろやかでコクのある食味が広く好まれている。
本発明者は、食味のほか、乳化パスタソース特有のツヤがパスタ料理に与えるシズル感のある外観が乳化パスタソースのおいしさに大きく寄与することに思い至った。しかしながら、低容量の乳化パスタソースをゆでたパスタと和えて喫食する際、時間が経つと乳化パスタソース特有のツヤが失われ、パスタ料理の品位が著しく低下することに気付いた。
この課題は、レストランで提供されるクリームパスタやソースを湯煎などで温めてからゆでたパスタと和えて喫食する市販の乳化パスタソース等の、一定量以上(例えば、100g超)のソースを使用する場合には顕著に現れるものではなく、乳化パスタソースを低容量化して提供する際に生じるものである。
料理の外観はおいしさに大きく寄与するものであり、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤを保つことは、乳化パスタソースの品位向上において克服すべき課題である。
【0003】
乳化パスタソースの製造においては、乳化パスタソースの滑らかな口どけを実現するために、製造工程中及び長期保存時の乳化状態を安定に維持することが重要とされる。このような乳化パスタソースに関する技術は様々検討されてきており、例えば、特許文献1、2のように、加圧加熱処理されても滑らかな状態が保たれる乳化パスタソースについて記載されている。
しかしながら、乳化パスタソース特有のツヤに着目し、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤを保つ技術については検討されてこなかった。」

イ 発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段及び発明の効果に関する記載
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤが保たれる乳化パスタソースを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた。
その結果、
低容量の乳化パスタソースであって、
該ソースが加熱処理されてあり、
脂質の配合量、乳化状態及び粘度を調整することにより、
意外にも、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤが保たれることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤが保たれる乳化パスタソースを提供することができる。
よって、乳化パスタソースの品位向上と需要拡大に貢献できる。」

ウ 脂質含有量、脂質分離量、乳化パスタソースの粘度等の実施の態様に関する記載
「【0014】
<脂質>
本発明において、脂質とは、原料あるいは原料に含まれる水に不溶性のトリグリセリド等の脂質成分をいう。
本発明の乳化パスタソースに用いる脂質は、脂質からなる、あるいは脂質を含有する食品素材であればいずれを用いてもよい。
脂質からなる原料としては、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、オリーブ油、紅花油、綿実油、米油、ヒマワリ油、魚油、卵黄油等の動植物油、又はこれらの精製油(サラダ油)、及びMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリドのように化学的あるいは酵素的処理を施して得られる食用油、リン脂質及びリゾリン脂質等が挙げられる。
脂質を含有する食品素材としては、例えば、卵黄、牛乳、粉乳、クリーム、バター、チーズ等の乳加工品、マーガリン、ショートニング等が挙げられる。これらの脂質は、一種で使用しても二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
<脂質含有量>
脂質含有量は、13%以上25%以下であり、さらに15%以上20%以下であると、乳化パスタソースをゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤが保たれる乳化パスタソースが得られる。
脂質含有量が前記範囲より少ないと、ゆでたパスタと和えて時間が経った時のツヤに乏しい。
脂質含有量が前記範囲より多いと、加熱処理時に油相が多量に分離し、パスタを油脂で和えたようなテカリのある外観となり乳化パスタソース特有のツヤを付与し難い、又は、ソース調製時に十分に乳化されず、油相が分離したままの状態となる。もしくは、乳化状態が安定で加熱処理によっても脂質が分離せず、パスタと和えた際に乳化パスタソース特有のツヤを付与し難い。
【0016】
<脂質分離量>
本発明の乳化パスタソースは、前述の通り、加熱処理により、ソース調製時の乳化状態がほぼ保たれたまま脂質が適度に分離するように乳化されてある。
本発明の乳化パスタソースの乳化状態は、遠心分離を施した際の脂質の分離量で評価できる。具体的には、品温25℃において、201gの遠心力で3分間遠心分離を施した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下であり、さらに0.5%以上3.5%以下であるとよい。
脂質分離量が前記範囲より少ないと、ソース調製時の乳化状態が安定であり加熱処理を施しても脂質を適度に分離させることができないため、ゆでたパスタと和えて時間が経つと乳化パスタソース特有のツヤに乏しいものとなる。
脂質分離量が前記範囲より多いと、ソースの製造時に油相が分離したままとなりやすく、乳化状態とすることが難しい。もしくは、加熱処理時に脂質が過剰に分離し、ゆでたパスタを和えた際、油脂で和えたようなテカリのある外観となり、乳化パスタソース特有のツヤを得難い。
【0017】
<乳化パスタソースの粘度>
本発明の乳化パスタソースの粘度は、BH型粘度計(東機産業株式会社製、型番:BII型、使用ローター:No.4)を用い、品温25℃において、回転数10rpmで測定開始から5回転時の示度により求めた値が0.5Pa・s以上15Pa・s以下であり、1Pa・s以上10Pa・s以下であるとよい。
粘度が前記範囲より低いと、ソースがパスタに付着しづらくパスタから流れ落ちて液だまりとなりやすいため、ゆでたパスタと和えても乳化パスタソース特有のツヤを付与し難い。
粘度が前記範囲より高いと、乳化状態が安定で脂質の分離が生じ難く、ゆでたパスタと和えて時間が経つと乳化パスタソース特有のツヤに乏しいものとなる。
【0018】
<生澱粉>
本発明の乳化パスタソースは、さらに原料として生澱粉を含有すると、加熱処理によって脂質を適度に分離し、乳化パスタソース特有のツヤに優れる乳化パスタソースを得やすい。
生澱粉は、化学的処理、物理的処理等が施されていない澱粉であればよく、具体的には、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉等が挙げられる。
なお、生澱粉の含有量は、ソース全量に対して0.3%以上3%以下、さらに0.5%以上2.5%以下とするとよい。
【0019】
<加熱処理又はヒドロキシプロピル化又はアセチル化された澱粉>
本発明の乳化パスタソースは、さらに原料として、加熱処理又はヒドロキシプロピル化又はアセチル化された澱粉から選ばれる一種以上を含有すると、加熱処理によって脂質を適度に分離しながらもソース調製時の乳化状態を保つことができ、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤに優れる乳化パスタソースを得られる。
加熱処理された澱粉は、生澱粉が糊化しない程度に熱処理を施した澱粉であり、具体的には常法により乾熱処理された澱粉、湿熱処理された澱粉等が挙げられる。
ヒドロキシプロピル化又はアセチル化された澱粉は、化学的処理により生澱粉にヒドロキシプロピル基又はアセチル基を導入した加工澱粉あり、具体的には、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、アセチル化澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉等が挙げられる。
加熱処理又はヒドロキシプロピル化又はアセチル化された澱粉から選ばれる一種以上の含有量は、ソース全量に対して0.3%以上3%以下、さらに0.5%以上2.5%以下とするとよい。
【0020】
<生澱粉と加熱処理又はヒドロキシプロピル化又はアセチル化された澱粉の含有割合>
本発明の乳化パスタソースは、生澱粉と、加熱処理又はヒドロキシプロピル化又はアセチル化された澱粉から選ばれるいずれか一種以上を、質量比で1:0.5?1:5の割合で含有すると、脂質が適度に分離し、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤに優れる乳化パスタソースを得やすい。」

エ 実施例に関する記載
「【0025】
[実施例1]
ミキサーに清水67.13kgを投入し、撹拌混合しながらナチュラルチーズ(脂質含有量30%)2kg、クリーム(脂質含有量42%)2kg、生卵黄2kg、菜種油15kg、酵素処理卵黄油0.6kg、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(原料:ワキシーコーンスターチ)1.4kg及びキサンタンガム0.07kgを投入し、均質な状態となるまで処理をした後にニーダーに移し、拍子木切りのベーコン6.5kg、生澱粉(ワキシーコーンスターチ)1kgを投入して加熱撹拌した。80℃に達温後加熱を停止し、ブラックペッパー0.2kgを加えてさらに撹拌し、ソースを得た。得られたソースを70gずつ耐熱性のパウチに充填密封した後、120℃で20分間加圧加熱処理を施し、しかる後に冷却して、一食分の乳化パスタソース(70g)を得た。
【0026】
<本発明の配合割合>
ナチュラルチーズ(脂質含有量30%) 2 kg
クリーム(脂質含有量42%) 2 kg
生卵黄 2 kg
菜種油 15 kg
酵素処理卵黄油 0.6 kg
ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉 1.4 kg
生澱粉(ワキシーコーンスターチ) 1 kg
キサンタンガム 0.07kg
ベーコン 6.5 kg
ブラックペッパー 0.2 kg
清水 67.13kg
合計 100 kg
【0027】
[試験例1]乳化パスタソースの脂質の分離量とツヤの関係
実施例1の乳化パスタソース70gを容量100mLの遠心管に入れ、品温25℃において、遠心力201gで3分間遠心分離処理を施した。遠心分離処理後、遠心管の上部の油相をスポイトで採取して質量を測定した。試験例1の結果は表1に示す。
【0028】
[試験例2]乳化パスタソースの粘度とツヤの関係
実施例1の乳化パスタソースについて、具材(ベーコン)を除去した上で、BH型粘度計(東機産業株式会社製、型番:BII型、使用ローター:No.4)を用い、品温25℃において、回転数10rpmで測定開始から5回転時の示度により、乳化パスタソースの粘度の値を求めた。試験例2の結果は表1に示す。
【0029】
[試験例3]乳化パスタソースのツヤ
実施例1の乳化パスタソースのツヤを、専門のパネラー3人により下記の条件及び基準で評価した。
<評価条件>
直径1.6mm、原料がデュラム小麦のセモリナ粉100%の乾燥ロングパスタ100gを、メーカー表示通りの方法でゆでた。
ゆでたパスタ全量を湯切りして皿に取り出して実施例1の一食分の乳化パスタソース(70g)と和え、15分間経過後のパスタ料理のツヤを専門のパネラー3人で評価した。
【0030】
<評価基準>
A:時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤを有している。
B:時間が経つと乳化パスタソース特有のツヤが失われる。
C:油脂で和えたようなテカリのある外観である。
【0031】
[試験例4]乳化パスタソースの乳化粒子径
実施例1の乳化パスタソースについて、具材(ベーコン)を除去した上で、下記の機器及び器具を使用してソースを観察し、乳化粒子径を確認した。
測定条件は下記の通りである。
<使用機器、器具及び観察条件>
デジタルマイクロスコープ:VHX-2000(KEYENCE製)
スライドグラス:水切放フロスト t1.0(松浪硝子工業株式会社製)
カバーグラス:角カバーグラス 18×18 No.1(松浪硝子工業株式会社製)
観察倍率:接眼レンズ20倍× 対物レンズ 200倍(4000倍)
<観察方法>
試料0.5gをスライドグラスに取り、カバーガラスで軽く押さえた後、上方からライトで照らしてデジタルマイクロスコープにより、観察倍率4000倍で拡大観察を行った。
【0032】
実施例1の乳化パスタソースは、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤを有するものであった。また、乳化パスタソースをデジタルマイクロスコープで観察した際に乳化粒子径が50μm以上の油滴が5個以上観察された。
【0033】
[実施例2]
実施例1において、菜種油を10kgに配合変更し、減少分を清水で調整した以外は実施例1と同様の方法で調製し、一食分の乳化パスタソース(70g)を得た。
【0034】
[実施例3]
実施例1において、菜種油を20kg、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を2kg、キサンタンガムを0.1kgに配合変更し、増加分を清水で調整した以外は実施例1と同様の方法で調製し、一食分の乳化パスタソース(70g)を得た。
【0035】
[実施例4]
実施例1の配合割合で、以下の方法で乳化パスタソースを得た。
すなわち、ミキサーに清水67.13kgを投入し、加熱撹拌しながらナチュラルチーズ(脂質含有量30%)2kg、クリーム(脂質含有量42%)2kg、生卵黄2kg、菜種油7.5kg、酵素処理卵黄油0.6kg、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(原料:ワキシーコーンスターチ)1.4kg及びキサンタンガム0.07kgを投入し、均質な状態となるまで処理した後にニーダーに移し、菜種油7.5kg、拍子木切りのベーコン6.5kg、生澱粉(ワキシーコーンスターチ)1kgを投入して加熱撹拌した。80℃に達温後加熱を停止し、ブラックペッパー0.2kgを加えてさらに撹拌し、ソースを得た。得られたソースを70gずつ耐熱性のパウチに充填密封した後、120℃で20分間加圧加熱処理を施し、しかる後に冷却して一食分の乳化パスタソース(70g)を得た。
【0036】
[比較例1]
実施例1において、キサンタンガムを配合せず、菜種油を3kg、生澱粉を0.7kg、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を0.4kgに配合変更し、減少分を清水で調整した以外は実施例1と同様の方法で調製し、一食分の乳化パスタソース(70g)を得た。
【0037】
[比較例2]
実施例1において、菜種油を9kgに配合変更し、減少分を清水で調整した以外は実施例1と同様の方法で調製し、一食分の乳化パスタソース(70g)を得た。
【0038】
[比較例3]
実施例1において、菜種油を21kg、ナチュラルチーズを3kg、クリームを7kgに配合変更し、増加分を清水で調整した以外は実施例1と同様の方法で調製し、一食分の乳化パスタソース(70g)を得た。
【0039】
実施例2?4及び比較例1?3の乳化パスタソースについても、実施例と同様の測定及び評価を行った。
実施例2?4の乳化パスタソースは、実施例1と同様、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤを有するものであった。また、いずれの乳化パスタソースも、デジタルマイクロスコープで観察した際に乳化粒子径が50μm以上の油滴が5個以上観察された。
一方、比較例1の乳化パスタソースは、脂質が多量に分離しており、ゆでたパスタと和えると油脂で和えたようなテカリのある外観となり、乳化パスタソース特有のツヤ感は得られなかった。
比較例2及び3の乳化パスタソースは、乳化状態が安定で脂質が分離しないものであり、ゆでたパスタと和えて時間が経つと乳化パスタソース特有のツヤ感が失われた。
【0040】
【表1】

【0041】
[実施例5]
実施例1において、キサンタンガムを配合せず、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を1.6kgに配合変更し、増加分を清水で調整した以外は実施例1と同様の方法で調製し、一食分の乳化パスタソース(90g)を得た。
得られた乳化パスタソースについて、試験例3の評価基準に基づき評価したところ、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤを有するものであったが、実施例1の方がツヤに優れていた。また、乳化パスタソースをデジタルマイクロスコープで観察した際に乳化粒子径が50μm以上の油滴が5個以上観察された。
【0042】
[実施例6]
実施例1において、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を乾熱処理された澱粉に置き換えた以外は実施例1と同様の方法で調製し、一食分の乳化パスタソース(50g)を得た。
得られた乳化パスタソースについて、試験例3の評価基準に基づき評価したところ、実施例1と同等のツヤを有するものであった。また、乳化パスタソースをデジタルマイクロスコープで観察した際に乳化粒子径が50μm以上の油滴が5個以上観察された。
【0043】
[実施例7]
実施例1において、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を湿熱処理された澱粉に置き換えた以外は実施例1と同様の方法で調製し、一食分の乳化パスタソース(50g)を得た。
得られた乳化パスタソースについて、試験例3の評価基準に基づき評価したところ、実施例1と同等のツヤを有するものであった。また、乳化パスタソースをデジタルマイクロスコープで観察した際に乳化粒子径が50μm以上の油滴が5個以上観察された。
【0044】
[実施例8]
実施例1において、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉をアセチル化アジピン酸架橋澱粉に置き換えた以外は実施例1と同様の方法で調製し、一食分の乳化パスタソース(50g)を得た。
得られた乳化パスタソースについて、試験例3の評価基準に基づき評価したところ、実施例1と同等のツヤを有するものであった。また、乳化パスタソースをデジタルマイクロスコープで観察した際に乳化粒子径が50μm以上の油滴が5個以上観察された。
【0045】
[比較例4]
実施例1において、菜種油を21kg、ナチュラルチーズを3kg、クリームを7kgに配合変更し、増加分を清水で調整した以外は実施例1と同様の方法で、品温25℃における粘度が7Pa・sとなるよう調製した。脂質含有量は26%であった。
得られたソースは、脂質含有量が多いために乳化が不十分で油相が多量に分離した状態となり、乳化パスタソースを得ることはできなかった。」

(3)本件発明1?4の解決しようとする課題について
発明の詳細な説明の、特に、背景技術の記載(【0002】?【0003】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0005】)及び実施例の記載(【0025】?【0045】)等からみて、本件発明1?4の解決しようとする課題は、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤが保たれる乳化パスタソースを提供することであると認める。

(4)判断
発明の詳細な説明には、本件発明1?4の実施例である実施例1?8には、脂質含有量が13?23%の範囲、品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が1?4%の範囲、及び、パスタソースの粘度が6?7Pa・sの範囲で複数種類の加熱処理された乳化パスタソースの調製方法が記載され、これらをゆでたパスタ一食分に乳化パスタソース50g、70g又は90gを室温で和え、時間経過後のパスタ料理のツヤを評価したところ、全て時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤを有していたこと、他方、比較例1?4には、乳化パスタソースとして、脂質含有量が13%以上23%以下の範囲外、品温25℃における、201gの遠心力で3分間遠心分離した際のソース全量に対する脂質分離量が0.1%以上4%以下の範囲外、又は、パスタソースの粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下の範囲外の加熱処理された乳化パスタソースを調製し、上記評価をしたところ、いずれも時間が経つと乳化パスタソース特有のツヤが失われる、又は、油脂で和えたようなテカリのある外観であることが示されている。

それ故、実施例1?8には、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤが保たれる乳化パスタソースを提供できていることが、客観的に確認されているといえ、本件発明1の乳化パスタソースの提供が可能となることが示されているといえる。
そして、当業者は、実施例1?8の記載及び実施の態様の記載(【0015】?【0017】)に基づき、乳化パスタソースの配合割合を適宜調整することにより、脂質を適度に分離させることができ、ゆでたパスタと和えて時間が経っても乳化パスタソース特有のツヤが保たれる乳化パスタソースを得られると理解することができるといえる。

そうすると、実施例の記載及び実施の態様の記載に基づき、本件明細書の記載に接した当業者であれば、本件発明1?4の前記課題を解決し得ると認識できるといえる。
したがって、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。

(5)まとめ
したがって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。

3 理由4(特許法第36条第4項第1号)について

(1)本件発明に関する特許法第36条第4項第1号の判断の前提
明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者に通常期待する程度を超える過度の試行錯誤なく、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基いて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、方法の発明にあたっては、その方法を使用できるように、それぞれ記載されていることが必要と解される。

(2)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の記載は、前記2(2)に記載したとおりである。

(3)判断
前記2(4)に記載したように、実施例1?8(【0025】?【0045】)には、本件発明1の乳化パスタソースの提供が可能となることが示されているといえ、実施例で実施された調製方法及びその評価結果を参考に、実施の態様の記載(【0015】?【0017】)に基づき、乳化パスタソースの配合割合を適宜調整することにより、当業者は、それぞれの乳化パスタソースを、当業者に通常期待する程度を超える過度の試行錯誤なく製造できかつ使用できるといえる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?4を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

(4)まとめ
したがって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-27 
出願番号 特願2015-30414(P2015-30414)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 白井 美香保田名部 拓也  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 冨永 みどり
齊藤 真由美
登録日 2019-04-19 
登録番号 特許第6512688号(P6512688)
権利者 キユーピー株式会社
発明の名称 乳化パスタソース  

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