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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01G
審判 一部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01G
管理番号 1358657
異議申立番号 異議2018-700864  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-24 
確定日 2020-01-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6316838号発明「白金族元素の錯体の水性製剤の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6316838号の請求項1、5ないし7、10ないし12、14ないし17、19、22ないし24に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6316838号の請求項1?24に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)12月11日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年12月12日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成30年 4月 6日にその特許権の設定登録がされ、平成30年 4月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1、5?7、10?12、14?17、19、22?24に係る特許について、平成30年10月24日に特許異議申立人 多田裕司 (以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審より平成31年 1月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成31年 4月24日に特許権者より意見書が提出され、当審より令和 1年 7月29日付けで申立人に審尋が通知されたが、申立人からは回答はなかったものである。

第2 本件発明
特許第6316838号の請求項1?24の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち特許異議が申し立てられた本件特許の請求項1、5?7、10?12、14?17、19、22?24に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」・・・「本件発明22」?「本件発明24」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
一般式(1)
[M^(A)(L)_(a)(H_(2)O)_(b)(O^(2-))_(c)(OH^(-))_(d)](OH^(-))_(e)(H^(+))_(f)
(1)
(式中、
M^(A)=酸化状態+2のパラジウム(Pd)、かつ
L=荷電してない二座供与体配位子、かつ
a=1?2の整数(二座供与体配位子に関して)、
b=0?3の整数、
c=0?3の整数、
d=0?3の整数、
e=0?2の整数、かつ
f=0?4の整数
かつ白金族元素M^(A)は、配位数4を有する)を有する白金族元素(PGM)の錯体の含水製剤の製造方法において、ヒドロキソ錯体H_(2)Pd(OH)_(4)が荷電してない供与体配位子Lと反応し、関与する前記ヒドロキソ錯体の少なくとも1種のヒドロキソ基が置き換えられ、
反応温度が40?110℃の範囲であり、
反応時間が2?24時間の範囲であることを特徴とする方法。」

「【請求項5】
一般式(1)、(1’)、(2)および(3)の指数a?fは、得られるPGM錯体が電気的に中性であるように選択される、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
反応温度が、45?100℃の範囲である、請求項1?5のいずれか一項に記載の方法
【請求項7】
反応時間が、2時間半?20時間の範囲である、請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。」

「【請求項10】
アルキレンジアミン、アリーレンジアミン、アルキレンジホスフィンおよびアリーレンジホスフィンまたはそれらの混合物からなる群からの配位子が二座供与体配位子として使用される、請求項1?7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
窒素含有配位子エチレンジアミン、o-フェニレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミンまたはそれらの混合物が二座供与体配位子として使用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記荷電してない供与体配位子Lによる、ヒドロキソ錯体H_(2)Pd(OH)_(4)、H_(2)Pt(OH)_(6)またはH_(3)M^(C)(OH)_(6)(M^(C)=Rh^(III)またはIr^(III)の場合)のOH基置換が不完全であり、かつ一般式(1)、(1’)、(2)または(3)の得られる化合物が、アクオ配位子(H_(2)O)、オキソ配位子(O^(2-))またはヒドロキソ配位子(OH^(-))を含有し続ける、請求項1?11のいずれか一項に記載の方法。」

「【請求項14】
前記含水製剤が水溶液であり、かつ前記反応が水溶液中で実行される、請求項1?13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記含水製剤が、有機溶媒を含有し、かつ前記反応が含水溶媒混合物中で実行される、請求項1?14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記含水製剤が、pH5?14の範囲のpHを有する、請求項1?15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記含水製剤中の白金族元素M^(A)、M^(A’)、M^(B)またはM^(C)の濃度が、0.5?15重量%の範囲である、請求項1?16のいずれか一項に記載の方法。」

「【請求項19】
前記製剤の全ハロゲン含有量が、(それぞれ、PGM含有量に基づき)<5000ppmである、請求項1?18のいずれか一項に記載の方法。」

「【請求項22】
電気めっき浴のため、不均一触媒もしくは金属粉末調製のため、またはさらなる錯体調製のための前駆体として、請求項1?21のいずれか一項に記載の方法によって製造された含水製剤の使用。
【請求項23】
電気めっき浴の製造のため、不均一触媒の製造のため、さらなる錯体の調製のため、または金属粉末の調製のための方法であって、
- 請求項1?21のいずれか一項に記載の方法による一般式(1)、(1’)、(2)、又は(3)を有する白金族元素(PGM)の錯体の含水製剤の提供のステップと、
- 電気めっき浴、不均一触媒、さらなる錯体または金属粉末を得るための、前記含水製剤またはその中に存在する前記白金族元素(PGM)の前記錯体の反応または調合のステップと
を含んでなる方法。
【請求項24】
前記含水製剤またはその中に存在する前記白金族元素(PGM)の前記錯体の反応または調合のステップが、前記白金族元素(PGM)の錯体の還元、前記白金族元素(PGM)の錯体の酸化、前記白金族元素(PGM)の錯体の配位子交換およびそれらの組み合わせからなる群から選択される反応を含んでなる、請求項23に記載の方法。」


第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証?甲第10号証(以下、「甲1」?「甲10」という。)を提示して、以下の申立理由1?8によって、本件発明1、5?7、10?12、14?17、19、22?24に係る特許を取り消すべきものであると主張している。

申立理由1(特許法第29条第2項)
本件発明1、5?7、10?12、14?17は、甲1、甲4に記載された発明、甲2、甲3、甲5?甲8に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

申立理由2(特許法第29条第2項)
本件発明1、5?7、10、12、14?16は、甲6に記載された発明、甲7、甲8に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

申立理由3(特許法第29条第2項)
本件発明19は、甲1、甲4に記載された発明、甲2、甲3、甲5?甲9に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

申立理由4(特許法第29条第2項)
本件発明19は、甲6に記載された発明、甲7?甲9に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

申立理由5(特許法第29条第2項)
本件発明22?24は、甲1、甲4に記載された発明、甲2、甲3、甲5?甲8、甲10に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

申立理由6(特許法第29条第2項)
本件発明22?24は、甲6に記載された発明、甲7、甲8、甲10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

申立理由7(特許法第36条第6項第1号)
本件発明23、24は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

申立理由8(特許法第36条第4項第1号)
発明の詳細な説明は、本件発明23、24を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

[申立人が提出した証拠方法]
甲1:R. Ahlrichs et al., " Aqueous Ethylenediamine Dihydroxo Palladium(II) : A Coordinating Agent for Low- and High-Molecular Weight Carbohydrates ", Chem.Eur.J, 1988, 4, No.5, p.835 - 844
甲2:特表2005-527632号公報
甲3:特表2005-536470号公報
甲4:R. L. Rich, "Inorganic Reactions in Water", First edition,2010,p.252, 253
甲5:日本化学会編,”第5版 実験化学講座 22 金属錯体・遷移金属クラスター”,2004年,p.120-123
甲6:”MODERN ELECTROPLATING”, 2010, p.340,341,343,344,
甲7:尾崎萃 他,”貴金属元素の化学と応用”,1984年,p.380,381
甲8:特開平4-108618号公報
甲9:米国特許第4377450号明細書
甲10:米国特許第4486274号明細書


第4 取消理由の概要
本件発明1、5?7、10?12、14?17、19、22?24に係る特許に対して、平成31年 1月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

本件発明1、5?7、10?12、14?17、19、22?24は、下記の甲6、甲7及び甲9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲6:”MODERN ELECTROPLATING”, 2010, p.340,341,343,344,
甲7:尾崎萃 他,”貴金属元素の化学と応用”,1984年,p.380,381
甲9:米国特許第4377450号明細書


第5 当審の判断
1 取消理由に対する判断
(1) 各刊行物の記載事項
ア 甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある(()内は、甲6の抄訳文を参考にして当審が作成した和訳である)。

6a「12.6 ELECTRODEPOSITION OF PALLADIUM
Palladium has been plated from a wide variety of eleclrolytes which are far too numerous to include in this chapter. This work will summarize what the author believes to be the most important processes, and in an attempt to organize this information, the processes will be broadly classified as alkaline (pH 9-13), neutral (pH 5-9), and acidic (pH <1-5).」(340ページ左欄3?9行)
(12.6 パラジウムの電気めっき
パラジウムは、この章に含まれる多種多様な電解質を用いてめっきされている。ここでは、著者が最も重要なプロセスであると考えているものを要約する。この情報を整理するために、プロセスを、アルカリ性(pH9-13)、中性(pH5-9)、酸性(pH1-5)に大別している。)

6b「12.6.1 Alkaline Electrolytes (pH 9-13)
In the presence of ammonia or amines. Pd ions exhibit a very strong tendency to form stable complexes. ・・・・・
The amine complexes are readily formed in palladium chloride solutions by the general equation:

Table 12.7 is a summary of various alkaline processes that have been found in the literature.
In this pH range (>9),only the diamine processes can be considered of practical use. ・・・・・」(340ページ左欄10?29行)
(アンモニアかアミンの存在下で、Pdイオンは安定な錯体を形成する非常に強い傾向を示す。・・・・・
アミン錯体は、下記一般式にしたがって塩化パラジウム溶液中で容易に形成される。
・・・・・ (式12.23)
表12.7は、文献にある様々なアルカリ処理の要約である。
このpHの範囲(>9)では、ジアミンプロセスのみが実用的と考えられる。)

6c「1,3-Diaminopropane Electrolyte[8, 99] The ligand of choice in the formulation of bath C is l,3-diaminopropane (pn), whose formula is NH_(2)C_(3)H_(6)NH_(2). It is a bidentate nitrogen-containing ligand that forms a classical 16-electron, square planar coordination complex, [Pd(pn)_(2)]^(2+) .
The choice of 1,3-diaminopropane was based on the analysis of numerous possibilities. Other ligands considered were additional aliphatic diamines (e.g., 1,4-diaminobutane), aliphatic triamines (e.g., diethylenetriamine)・・・・・ . 1,3-Diaminopropane was chosen based on an exhaustive diagnostic analysis which took into account the requirements of performance, cost, and environmental considerations.」(340ページ右欄1?17行)
(1,3-ジアミノプロパン電解質[8, 99] 浴Cの製剤の配位子として、組成式がNH_(2)C_(3)H_(6)NH_(2)である1,3-ジアミノプロパン(pn)を選択している。これは、二座の窒素含有配位子であり、周知の16電子の平面四角形配位化合物[Pd(pn)_(2)]^(2+)である。
1,3-ジアミノプロパンの選択は、多数の可能性についての分析に基づいている。 他の配位子は、脂肪族が追加されたジアミン(例、1,4-ジアミノブタン)、脂肪族トリアミン(例、ジエチレントリアミン) ・・・・・であった。 1,3-ジアミノプロパンは、要求される性能、コスト、環境を考慮する、徹底的な診断解析を行うことにより選択された。)

6d「

」(341ページ TABLE12.7部分)

6e「Ligand Concentration Effects and Replenishment Schemes The overall reaction for Pd electrodeposition using a nonconsumable anode is

This indicates that for every Pd^(2+) reduced 2pn molecules and 2Cl^(-1) ions remain in solution, and 2H^(+) are generated lowering the pH of the solution.
・・・・・
Also, the formation of the Pd diamine complex is represented by the following equilibrium:

・・・・・
The pH is controlled through use of a buffer system and periodic additions of KOH. While large amounts of Cl^(-) (KCl)do not seem to adversely affect the process, eventually salts may precipitate, necessitating filtration of the system. In this regard, a soluble form of PdO・xH_(2)O as the starting material and replenishment salt solves both problems and is preferred [102-104]. Equation (12.29) describes the system if a soluble form of PdO・xH_(2)O could be utilized:

」(343ページ左欄12行?344ページ左欄3行)
(配位子の濃度の効果と補充スキーム 非消耗電極を使ったPdの電着における全体的な反応は次のようになる。
・・・・・ (12.24)
この式は、Pd^(2+)が還元されるごとに、2pn分子と2Cl^(-)イオンは溶液中に残留し、2H^(+)が生成して溶液のpHを減少させることを示している。
・・・・・
また、ジアミンパラジウム錯体の生成は、以下の平衡反応により表される。
・・・・・ (12.25)
・・・・・
pHは、緩衝系の使用とKOHの定期的な添加により制御される。大量のCl^(-)(KCl)は、プロセスに悪影響を及ぼさないと思われる一方、結局は塩が沈殿し、系のろ過が必要となるかもしれない。この点において、原料及び補充塩として可溶性のPdO・xH_(2)Oは、両方の問題を解決するので、好ましい。可溶性のPdO・xH_(2)Oを利用することができる場合の系を、式(12.29)は記述している。
・・・・・ (12.29))

イ 甲7の記載事項
甲7には、以下の記載がある。
「6.1 水酸化パラジウム(II),palladium(II)hydroxide, Pd(OH)_(2)=140.41
酸化パラジウム(II)水和物 PdO・nH_(2)Oとかかれることもあるが、正しくない.」(381ページ12、13行)

ウ 甲9の記載事項
甲9には、以下の記載がある(()内は、甲9の抄訳文を参考にして当審が作成した和訳である)。

9a「In general terms, the palladium hydroxide is made as follows:
(a) The palladium diammine dichloride is added (generally as a solid) to an alkaline aqueous solution and the solution heated to above room temperature (generally 50-60 degrees C.).
(b) Excess hypochlorite ion (generally an aqueous solution of sodium hypochlorite) is added to the above solution.
(c) Excess hydrogen peroxide solution is added to remove the excess hypochlorite.
(d) The resulting precipitate is then separated and washed with water until chloride free.」(3欄4行?16行)
(一般的には、水酸化パラジウムは、以下のように製造される。
(a)パラジウムジアミンジクロライド(一般的には固体)をアルカリ性水溶液に加え、その溶液を室温以上に加熱する(一般的には50?60℃)
(b)過剰の次亜塩素酸イオン(一般的には次亜塩素酸ナトリウムの水溶液)をその溶液に加える。
(c)過剰の過酸化水素溶液を加えて、過剰の次亜塩素酸塩を除去する。
(d)得られた沈殿を分離し、塩化物を含まなくなるまで水で洗浄する。)

9b「Freshly prepared palladium hydroxide dissolves quickly in the plating solution regardless of whether it remains wet or is air dried. The property of easy dissolution is important for its use in replenishing palladium in a palladium electroplating bath. Generally, use of heat (as, for example, in drying) is to be avoided since it increases the rate of formation of the insoluble form from the palladium hydroxide. It is believed that the structural change responsible for the formation of the insoluble form is the irreversible formation of PdO.H_(2)O from Pd(OH)_(2).」(3欄45行?55行)
(新たに調製された水酸化パラジウムは、湿潤しているか空気乾燥しているかに関わらず、めっき溶液中に迅速に溶解する。パラジウム電気めっき浴中のパラジウムを補充する際に、容易に溶解するという性質は、その使用にとって重要である。一般的に、熱の使用(例えば、乾燥における)は、水酸化パラジウムからの不溶性形態の形成速度を増加させるので避けるべきである。不溶性形態の形成に関与する構造変化は、Pd(OH)_(2)からのPdO・H_(2)Oの不可逆的形成であると考えられる。)

(2)甲6に記載された発明
記載事項6a?6dによると、甲6には、1,3-ジアミノプロパン(pn)を錯化剤として含むパラジウムの電気めっき浴について記載されている。
記載事項6eによると、出発物質及び補充塩としての可溶性のPdO・xH_(2)Oを浴に加えて加熱することによって、Pd(pn)_(2)(OH)_(2)が生成する。
以上のことから、甲6には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「Pd(pn)_(2)(OH)_(2 )であるパラジウム錯体を含む電気めっき浴の製造方法であって、加熱して可溶性のPdO・xH_(2)Oと1,3-ジアミノプロパンとを反応させてPd(pn)_(2)(OH)_(2) を生成する方法。
ここで、pnは、1,3-ジアミノプロパンを示す。」

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
甲6発明のPd(pn)_(2)(OH)_(2)は、配位子として、1,3-ジアミノプロパンが配位しているものであって、荷電しておらず、Pdは酸化状態が+2であるから、当該Pd(pn)_(2)(OH)_(2)は、本件発明1の「一般式(1)」の(M^(A)=酸化状態+2のパラジウム(Pd)、L=荷電してない二座供与体配位子、かつ、a=2、b=0、c=0、d=0、e=2、f=0、かつ白金族元素M^(A)は、配位数4を有する)の白金族元素(PGM)の錯体に相当する。
また、甲6発明の「電気めっき浴」は、本件発明1の「含水製剤」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲6発明とは、
「一般式(1)
[M^(A)(L)_(a)(H_(2)O)_(b)(O^(2-))_(c)(OH^(-))_(d)](OH^(-))_(e)(H^(+))_(f) (1)
(式中、
M^(A)=酸化状態+2のパラジウム(Pd)、かつ
L=荷電してない二座供与体配位子、かつ
a=1?2の整数(二座供与体配位子に関して)、
b=0?3の整数、
c=0?3の整数、
d=0?3の整数、
e=0?2の整数、かつ
f=0?4の整数
かつ白金族元素M^(A)は、配位数4を有する)を有する白金族元素(PGM)の錯体の含水製剤の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点
本件発明1は、ヒドロキソ錯体H_(2)Pd(OH)_(4)が荷電してない二座供与体配位子Lと反応し、関与する前記ヒドロキソ錯体の少なくとも1種のヒドロキソ基が置き換えられるものであって、反応温度が40?110℃の範囲であり、反応時間が2?24時間の範囲であることが特定されているのいるのに対して、甲6発明は、加熱して可溶性のPdO・xH_(2)Oと1,3-ジアミノプロパンとを反応させることが規定されている点。

上記相違点について検討する。
甲7や甲9の記載事項からすると、甲6発明のPdO・xH_(2)Oは、酸化状態+2のPdを含む水酸化パラジウムPd(OH)_(2)であるということができる。
また、甲6発明の1,3-プロパンジアミンは、本件発明1の「荷電してない二座供与配位子L」に相当する。
そして、本件発明1のヒドロキソ錯体H_(2)Pd(OH)_(4)は、本件明細書【0029】によると、Pd(OH)_(2)×2H_(2)Oと記載されるものであるから、甲6発明の可溶性のPdO・xH_(2)Oは、本件発明1の「ヒドロキソ錯体H_(2)Pd(OH)_(2)」に相当するといえる。
しかし、甲6には、記載事項6eによると、可溶性の塩としてPdO・xH_(2)Oを使用した場合に上記(12.29)の反応式が可能であることが記載されているものの、加熱すること以外は、浴の組成や他の具体的な条件については何ら記載も示唆もない。
甲7は、水酸化パラジウムの形態について記載されているのみである。
次に、記載事項9a、9bによると、甲9には、可溶性の水酸化パラジウムを調製すること及び補充塩として水酸化パラジウムをめっき浴中に溶解させることが記載されている。
しかし、甲9において、めっき浴は、パラジウム源として、例えば、Pd(NH_(3))_(2)(NO_(2))_(2)(3欄65行?4欄8行)、PdCl_(2)(4欄53行?64行)、Pd(NH_(3))_(4)Cl_(2)(5欄5行?15行)などが例示されるものであり、これらは記載事項6b?6eに例示される周知のパラジウムめっき浴であって、甲9において、このようなパラジウム源からなるめっき浴に、水酸化パラジウムをパラジウムを補充するために添加することが記載されているにとどまるものであるから、甲9の水酸化パラジウムに関する記載事項は、甲6発明の反応や、その反応についての具体的な条件を示唆しているものとはいえない。
したがって、甲6、甲7及び甲9の記載事項を検討しても、甲6発明について、具体的にどのような条件で反応が進行するのかは明らかではないから、上記相違点に係る本件発明1の特定事項を導出できない。

よって、本件発明1は、甲6、甲7及び甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明5?7、10?12、14?17、19、22?24について
本件発明5?7、10?12、14?17、19、22?24は、本件発明1の特定事項の全てを含むものである。
そうすると、本件発明5?7、10?12、14?17、19、22?24についての判断は、上記アの本件発明1についての判断と同様であり、本件発明5?7、10?12、14?17、19、22?24は、甲6、甲7及び甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、取消理由は、理由がない。


2 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由に対する判断
(1)申立理由1、申立理由3及び申立理由5について(特許法第29条第2項)
ア 甲1?甲5、甲8及び甲10の記載事項
甲1?甲5、甲8及び甲10には、以下の記載がある(甲1、甲4及び甲10の()内は、各証拠の抄訳文を参考にして当審が作成した和訳である)。
(ア) 甲1の記載事項
甲1には、[(en)Pd(OH)_(2)](Pd-en)の水溶液を生成することに関して、以下の1aの記載がある。
1a「0.3M Pd-en: [Pd(en)Cl_(2)](499mg, 2.10mmol), silver(I)oxide(584mg, 2.52mmol) and water(7mL)were stirred under nitrogen with exclusion of light at 50 ℃. The soultion was filtered, cooled (ice bath), and used immediately. Solutions of higher of lower concentration were prepared by varying the ammout of water. The strongly alkalien Pd-en was kept under a nitorogen atmosphere to prevent absorption of carbon dioxide. All reactions with polyols were carried out with ice-bath cooling.」(836ページ左欄25?31行)
(0.3M Pd-en [Pd(en)Cl_(2)](499mg,2.10mmol」、酸化銀(I)(584mg,2.52mmol)及び水(7mL)を窒素下で光を遮断しながら50℃で撹拌した。溶液を濾過し、冷却(氷浴)し、直ちに使用した。水の量を変えることにより、高濃度又は低濃度の溶液を調製した。二酸化炭素の吸収を防止するため、強アルカリ性のPd-enを窒素雰囲気下に保った。ポリオールとの全ての反応は、氷浴冷却で行った。)

(イ) 甲2、3の記載事項
甲2、3には、Pd錯体として、それぞれ「[Pd(en)(H_(2)O)_(2)]^(2+)」、「[シス-[Pd(pn)(OH_(2))_(2)]^(2+)」についての記載がある(甲2:【0008】、甲3:【0035】)。

(ウ) 甲4の記載事項
4a「Palladium(II) oxide and hydroxide dissolve in concentated NH_(3) or "anmmonium carbonate"」(252ページ5、6行)
(酸化パラジウム(II)及び水酸化パラジウム(II)は、濃縮されたNH_(3)又は炭酸アンモニウムに溶解する。)

(エ) 甲5の記載事項
5a「ビス(エチレンジアミン)パラジウム(II)塩化物
bis(ethylenediamin)palladiumu(II)chloride
[Pd(en)_(2)]Cl_(2) = 297.5
[製法]^(1)) K_(2)[PdCl_(4)]の水溶液に過剰のエチレンジアミンを加える.最初に生成するばら色の沈殿[Pd(en)_(2)][PdCl_(4)]は過剰のエチレンジアミンに溶解する.このやや黄色がかった溶液を蒸発させることで,無色の結晶[Pd(en)_(2)]Cl_(2) が得られる。」(121ページ下から4行?122ページ2行)

(オ)甲8の記載事項
8a「(実施例1)
塩化白金酸溶液(Pt200g/l)100mlを1lビーカに入れ、塩化アンモニウムを加えて塩化白金酸アンモニウムを沈澱させたのち、該沈澱をパルプ濾紙を用いて濾過する。
次いで、該沈澱をオートクレーブ中に移し入れアンモニア水(28%)300mlを加え1.8?2.0kg/cm^(3)の圧力下で73℃に加熱して3時間保持した。
次いで、オートクレーブから取り出した溶液をビー力に移し、湯浴上で95℃で加熱し、溶液のpHが7になったところで加熱を止めてヘキサアンミン白金(IV)テトラクロライド溶液を調製した。」(2ページ左下欄下から6行?右下欄8行)

(カ)甲10の記載事項
10a「The invention is a process for electroplating palladium metal or palladium alloy in which a certain class of organic aliphatic polyamines is used as complexing agent in the palladium plating bath. Most useful are aliphatic polyamines with from three to 20 carbon atoms. Complexing agents with less than three carbon atoms yield useful results but tend to evaporate and limit the lifetime of the bath. Complexing agents with more than 20 carbon atoms usually have limited solubility in aqueous solutions. Aromatic polyamines are also useful but often are difficult to work with (often poisonous with undesirable odor). Most preferred are the complexing agents 1,3-diaminopropane and diethylenetriamine because of the excellent quality of the palladium plating obtained, especially at high plating current density (above 50 ASF). 」(2欄43行?58行)
(本発明は、パラジウムのメツキ浴中に、錯化剤として、ある種の有機脂肪族ポリアミンを使用するパラジウム金属又はパラジウム合金を電気メツキするための方法である。最も有用なものは、3?20個の炭素原子を有する脂肪族ポリアミンである。炭素原子が3未満の錯化剤は有用な結果を得るが、蒸発し易く、浴の寿命を制限する。炭素原子数が20個を超える錯化剤は、通常水溶液中の溶解度に制約がある。芳香族ポリアミン類も有効であるが、多くの場合取扱いが困難である(しばしば好ましくない臭気があり有毒である)。特に高メツキ電流密度(50ASFを超える)で得られる高品質のパラジウムメツキが得られるため、一番好ましい錯化剤は1,3?ジアミノプロパンとジエチレントリアミンである。)

イ 甲1に記載された発明
甲1の記載事項1aによると、甲1には、「50℃で[Pd(en)Cl_(2)]の塩素原子を水酸基で置換して[Pd(en)(OH^(-))_(2)]を調製する方法」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

ウ 対比・判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「(en)」は、エチレンジアミンであり、本件発明1の荷電してない二座供与体配位子に相当し、[Pd(en)(OH^(-))_(2)]は、本件発明1の一般式(1)で示す白金族元素(PGM)の錯体に相当するから、両者は以下の点で相違している。

相違点
本件発明1は、ヒドロキソ錯体H_(2)Pd(OH)_(4)が荷電してない二座供与体配位子Lと反応し、関与する前記ヒドロキソ錯体の少なくとも1種のヒドロキソ基が置き換えられたものであって、反応温度が40?110℃の範囲であり、反応時間が2?24時間の範囲であることが特定されているのいるのに対して、甲1発明は、50℃で[Pd(en)Cl_(2)]の塩素原子を水酸基で置換するものであって、そもそもヒドロキソ錯体が荷電してない二座供与体配位子と反応して、ヒドロキソ錯体のヒドロキソ基が置き換えられるものではない点。

上記相違点について検討する。
甲2、甲3は、単に本件発明1の一般式(1)に相当する錯体が記載されているにすぎない。
甲4は、水酸化物パラジウムが濃縮アンモニアに溶解することが記載されているから、アンミン錯体が得られると認められ、甲5には、K_(2)[PdCl_(4)]にエチレンジアミンを加えて[Pd(en)_(2)]Cl_(2)を得る工程が記載されているが、本件発明1のように、水酸化パラジウム等のヒドロキソ錯体とエチレンジアミン等の荷電してない二座供与体配位子とを反応させるための反応条件は何ら示唆されていない。
甲6は、上記のとおり、可溶性のPdO・xH_(2)Oを利用してPd(pn)_(2)(OH)_(2)を得る反応式が記載されているが、上記「1(3)」で検討したとおりどのような条件を前提とした反応であるのか何ら明らかにされておらず、甲1発明の反応生成物である[Pd(en)(OH^(-))_(2)]を具体的にどのようにして得られるのかを示唆するものではない。
甲7は、水酸化パラジウムについての記載があるにすぎず、また、甲8は、周知のヘキサアンミン白金(IV)テトラクロライド溶液の調製工程について記載されているにすぎない。

以上のことから、甲2?甲8の記載からは、上記本件発明1の上記相違点に係る事項を導出することはできない。

したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2?8に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

なお、申立人は、特許異議申立書において、甲4を主引用例として本件発明1が容易であると主張しているとも認められるが(19ページ下から6行?下から2行、21ページ下から2行?23ページ7行)、甲4には、前記の検討のとおり、水酸化パラジウムをアンモニアに溶解させてアンミン錯体を得ることが記載されているにすぎず、他の証拠を参照しても、アンミン錯体を調製するものにすぎない甲4に記載の発明から、本件発明1の式(1)に示す錯体の製造工程を導出できるものではない。

よって、本件発明1は、甲1?甲8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明5?7、10?12、14?17、19、22?24について
本件発明5?7、10?12、14?17、19、22?24は、本件発明1の特定事項の全てを含むものである。
申立人は、本件発明19に対して、さらに甲9を引用し(申立理由3)、本件発明22?24に対して、さらに甲10を引用しているが(申立理由5)、甲9の記載事項9a、9b及び甲10の記載事項10aを参照しても、本件発明1の特定事項を導出できるものではないから、本件発明19、22?24の進歩性を否定することはできない。

そうすると、上記(ア)と同様であり、甲1?甲8、さらには甲9及び甲10を検討しても、本件発明5?7、10?12、14?17、19、22?24は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、申立理由1、申立理由3及び申立理由5は、理由がない。

(2)申立理由2、申立理由4及び申立理由6について(特許法第29条第2項)
ア 対比・判断
(ア)本件発明1について
上記取消理由は、甲6、甲7及び甲9を引用したものであるが、申立人は、甲6?甲8を引用し(申立理由2)、甲6発明に対して、反応温度及び反応時間の点に関して、甲8を参照し、白金族元素に配位子を配位させる際の反応温度及び反応時間の技術常識を示すものと主張している。
しかし、甲8は、ヘキサアンミン白金(IV)テトラクロライド溶液の調製について記載されているにすぎず(記載事項8a)、可溶性のPdO・xH_(2)Oと1,3-ジアミノプロパンとの反応条件を導出できる具体的かつ客観的な書証とはいえないから、甲6発明の具体的な反応条件を示唆するものであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲6発明及び甲7、甲8に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明5?7、10、12、14?16、19、22?24について
本件発明5?7、10、12、14?16、19、22?24は、本件発明1の特定事項の全てを含むものである。
ここで、申立人は、本件発明19に対して、さらに甲9を引用し(申立理由4)、本件発明22?24に対して、さらに甲10を引用しているが(申立理由6)、上記「(1)ウ(イ)」の申立理由3及び申立理由5の判断と同様であって、本件発明19、22?24の進歩性を否定することはできない。
そうすると、上記(ア)と同様であり、甲6?甲8、さらには甲9及び甲10を検討しても、本件発明5?7、10、12、14?16、19、22?24は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ まとめ
以上のとおり、申立理由2、申立理由4及び申立理由6は、理由がない。

(3)申立理由7及び申立理由8について(特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号)
申立人は、特許異議申立書において、本件発明の一般式(1)を有するパラジウム錯体を、さらに、還元、酸化又は配位子交換などの反応をさせて電気めっき浴とする実施例は記載されていないから、本件発明23、24は、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張している。
しかし、本件発明23、24について、電気めっき浴中で錯体の還元を行って電気めっきを行うことが周知の手段であって、本件発明に係る水性製剤を電気めっき浴に使用できることは明らかであるから、単に実施例に記載がないことを理由とする上記主張は採用できない。
したがって、申立理由7及び申立理由8は、理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1、5?7、10?12、14?17、19、22?24に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、5?7、10?12、14?17、19、22?24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-27 
出願番号 特願2015-547001(P2015-547001)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C01G)
P 1 652・ 536- Y (C01G)
P 1 652・ 537- Y (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山口 俊樹  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 後藤 政博
小川 進
登録日 2018-04-06 
登録番号 特許第6316838号(P6316838)
権利者 ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
発明の名称 白金族元素の錯体の水性製剤の製造方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
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