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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1358658
異議申立番号 異議2019-700754  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-20 
確定日 2020-01-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6484978号発明「加飾シート及び加飾樹脂成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6484978号の請求項1?11に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6484978号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成26年9月26日に出願され、平成31年3月1日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成31年3月20日)がされ、令和元年9月24日(差出日:令和元年9月20日)に、特許異議申立人 渡辺寛(以下「申立人」という。)から本件特許異議の申立てがされたものである。


第2.本件発明
特許第6484978号の請求項1?11の特許に係る発明(以下「本件発明1」などという)は、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも、意匠層と、前記意匠層の下に位置する隠蔽層とが積層された加飾シートであって、
前記意匠層に含まれる樹脂中の塩化ビニル系樹脂の割合が40質量%以上であり、
前記隠蔽層に含まれる樹脂中のアクリル系樹脂の割合が70質量%以上であり、
前記加飾シートの前記隠蔽層側に黒色の成形樹脂層を積層した加飾樹脂成形品において、前記意匠層側の表面の少なくとも一部に、L^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度a^(*)(D65)が1以上となる部分を有している、加飾シート。
【請求項2】
前記加飾樹脂成形品において、前記意匠層側の表面の少なくとも一部に、L^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度a^(*)(D65)が1以上、かつ、色度b^(*)(D65)が0以上となる部分を有している、請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記意匠層に含まれる樹脂が、塩化ビニル系樹脂及びアクリル系樹脂からなる、請求項1または2に記載の加飾シート。
【請求項4】
前記意匠層において、塩化ビニル系樹脂とアクリル系樹脂の質量比(塩化ビニル系樹脂:アクリル系樹脂)が、9:1?4:6の範囲にある、請求項3に記載の加飾シート。
【請求項5】
前記隠蔽層に含まれる樹脂が、塩素系樹脂及びアクリル系樹脂からなる、請求項1?4のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項6】
前記隠蔽層において、塩素系樹脂とアクリル系樹脂の質量比(塩素系樹脂:アクリル系樹脂)が、3:7?1:9の範囲にある、請求項5に記載の加飾シート。
【請求項7】
表面保護層をさらに備えている、請求項1?6のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項8】
基材層をさらに備えている、請求項1?7のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項9】
前記塩化ビニル系樹脂が塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体である、請求項1?8のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項10】
少なくとも、意匠層と、前記意匠層の下に位置する隠蔽層と、成形樹脂層とが表面側から順に積層された加飾樹脂成形品であって、
前記意匠層に含まれる樹脂中の塩化ビニル系樹脂の割合が40質量%以上であり、
前記隠蔽層に含まれる樹脂中のアクリル系樹脂の割合が70質量%以上であり、
前記意匠層側の表面の少なくとも一部に、L^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度a^(*)(D65)が1以上となる部分を有している、加飾樹脂成形品。
【請求項11】
前記塩化ビニル系樹脂が塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体である、請求項10に記載の加飾樹脂成形品。」


第3.特許異議の申立て理由の概要
申立人の主張する申立て理由は、次のとおりである。
なお、申立人が本件特許異議申立書に添付した甲第1号証等をそれぞれ「甲1」等という。
また、甲1等に記載された発明及び事項を「甲1発明」等及び「甲1事項」等という。

<<申立て理由>>
本件発明1?11は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、請求項1?11に係る特許は特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。


第4.当審の判断
1.刊行物の記載
甲1(特開2000-141549号公報)には、次の記載がある。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面から順に、基材シートからなる第一層と、有機顔料を着色剤として含む絵柄層を有する第二層と、全面に形成された無機顔料を着色剤の主成分として含む全ベタ層からなる第三層とが、積層されている、加飾シート。
・・・
【請求項4】 着色剤で着色された樹脂成形物の表面が、請求項1、2又は3記載の加飾シートの積層又は転写により、該加飾シートの第三層が第二層よりも樹脂成形物側となる様にして、加飾されてなる加飾成形品。」

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば射出成形同時加飾方法に使用する加飾シートとして、樹脂成形物等の被着体の色調に左右され難い加飾が可能な加飾シートと、該シートで加飾した加飾成形品に関する。」

(3)「【0005】そこで、本発明の課題は、隠蔽性により被着体の色調に影響されずに、加飾シート独自の所望の色調で、発色良く加飾できる加飾シートを提供する事である。また、この加飾シートを用いる等して、被着体の色調に影響され無い加飾成形品を提供する事である。」

(4)「【0016】上記有機顔料は、表現すべき色調に合わせて公知の有機顔料を適宜選択使用すれば良く、基本的には特に制限は無い。例えば、例えば赤色では、キナクリドン、ペリレン、或いは、モノアゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等の各種アゾ顔料等、黄色では、イソインドリノン、或いは、モノアゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等の各種アゾ顔料等、青色では、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS等、黒色ではアニリンブラック等である。これらの有機顔料を絵柄層に含有させる事で、彩度が高く発色を良くできる。なお、有機顔料の含有量は、絵柄層全量(バインダーの樹脂等を含む全て)に対して、通常は15重量%程度以上とするが、特に制限は無い。表現する色調に応じたものとすれば良い。また、絵柄層に含有させる着色剤は、少なくとも有機顔料を使用するが、必要に応じて適宜、無機顔料も着色剤として併用しても良い。この無機顔料には、後述する全ベタ層で述べる物等を使用できる。」

(5)「【0017】なお、前記印刷インキのバインダーの樹脂は特に限定は無く、基材シートとの接着性、印刷適性、耐候性等の要求物性等に応じて選択すれば良いが、例えば、・・・基材シートにアクリル樹脂又は塩化ビニル樹脂を用いたラミネ-トタイプの加飾シートでの具体例としては、バインダーの樹脂として、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との混合物を主成分として用いると、基材シートとの密着性、印刷適性、成形適性に優れる。・・・アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との混合比は、アクリル樹脂/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体=1/9?9/1(重量比)程度である。」

(6)「【0020】全ベタ層形成に使用するインキ又は塗液のバインダーの樹脂としては、特に限定は無く、用途に応じた物を使用すれば良い。例えば、前記絵柄層で列記した様な樹脂の等の1種単独又は2種以上の混合物を使用すれば良い。例えば、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の混合樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の単独樹脂等を用いる。なお、全ベタ層の厚みは隠蔽性を出す事から、通常は塗布量で3?5g/m^(2)程度とするが、これに限定されるものでは無い。塗布量が少なすぎると隠蔽性が十分に得られず、また逆に多すぎでもコスト高となるだけである。」

(7)「【実施例】以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳述する。
【0038】〔実施例〕次の様にして、図1(B)の如き構成の本発明の加飾シートSを得た。・・・該基材シートの片面に第二層2として3色刷りによる木目柄の絵柄層、第三層3として隠蔽性の(1層からなる)全ベタ層、第四層4として接着剤層をこの順にグラビア印刷して形成した。絵柄層の着色剤には、有機顔料としてキナクリドンとイソインドリノンを使用し、さらにこれに無機顔料であるカーボンブラック及び二酸化チタン被覆雲母箔片からなるパール顔料を併用した。絵柄層の有機顔料比率(有機顔料が全着色剤に占める比率)は35重量%であった。・・・そして、絵柄層、全ベタ層及び接着剤層には、それぞれアクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系を用いた。・・・
【0039】そして、図4の概念図に示した様な射出成形同時加飾方法によって、上記加飾シートを樹脂成形物からなる被着体の成形と同時にその表面に積層して一体化し、図2(B)に示す如き、加飾シートS(の全層)が樹脂成形物6に積層された構成の本発明の加飾成形品Pを得た。・・・また、射出樹脂には、着色剤としてカーボンブラックを添加した黒色のABS樹脂を使用した。そして、射出樹脂温度240℃、金型温度70℃の条件で樹脂を射出した。・・・
【0042】〔性能比較〕加飾成形品の外観を実施例と各比較例を比較した。その結果、実施例では他の比較例1及び2に比べて、樹脂成形物の黒色の影響によって絵柄が黒ずむ事も無く、(主として全ベタ層による)隠蔽性は良好で、絵柄は高彩度であった。優れた意匠感の加飾成形品が得られた。・・・」

(8)「



(9)「



(10)上記(7)?(9)によれば、表面側から順に絵柄層(第二層2)、隠蔽性の全ベタ層(第三層3)、樹脂成形物6が位置している。

上記(1)?(10)から、甲1には、次の甲1発明Aが記載されている。
「絵柄層と、絵柄層の下に位置する隠蔽性の全ベタ層が積層された加飾シートであって、
絵柄層は、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系であり、
隠蔽性の全ベタ層は、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系であり、
隠蔽性の全ベタ層の下に位置する樹脂成形物は、黒色のABS樹脂である、
加飾シート。」

上記(1)?(10)から、甲1には、次の甲1発明Bが記載されている。
「絵柄層と、絵柄層の下に位置する隠蔽性の全ベタ層と、樹脂成形物とが表面側から順に積層された加飾成形品であって、
絵柄層は、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系であり、
隠蔽性の全ベタ層は、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系である、
加飾成形品。」

2.特許異議の申立て理由についての判断
(1)本件発明1
ア.対比
本件発明1と甲1発明Aを対比すると、甲1発明Aの「絵柄層」は本件発明1の「意匠層」に相当し、以下同様に「隠蔽性の全ベタ層」は「隠蔽層」に、「絵柄層」に含まれる「塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体」は「意匠層」に含まれる「塩化ビニル系樹脂」に、「隠蔽性の全ベタ層」に含まれる「アクリル樹脂」は「隠蔽層」に含まれる「アクリル系樹脂」に、「加飾シート」は「加飾シート」に、それぞれ相当する。
甲1発明Aの「樹脂成形物」は「黒色のABS樹脂である」から、本件発明1の「黒色の成形樹脂層」に相当する。そして、甲1発明Aの「樹脂成形物」は、「隠蔽性の全ベタ層の下に位置する」ものであり、全体として「加飾成形品」を構成するからから、本件発明1の「前記加飾シートの前記隠蔽層側に黒色の成形樹脂層を積層した加飾樹脂成形品」と一致する。

甲1発明Aの「絵柄層は、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系であ」ることは、絵柄層に含まれる樹脂中の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の割合が50質量%であることを意味するから、本件発明1の「前記意匠層に含まれる樹脂中の塩化ビニル系樹脂の割合が40質量%以上であ」ることと一致する。
甲1発明Aの「隠蔽性の全ベタ層は、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系であ」ることは、隠蔽性の全ベタ層に含まれる樹脂中のアクリル樹脂の割合が50質量%であることを意味し、「前記隠蔽層に含まれる樹脂中にアクリル系樹脂がある」限りにおいて、本件発明1の「前記隠蔽層に含まれる樹脂中のアクリル系樹脂の割合が70質量%以上であ」ることと一致する。

よって、本件発明1と甲1発明Aは以下の点で一致する。
「意匠層と、前記意匠層の下に位置する隠蔽層とが積層された加飾シートであって、
前記意匠層に含まれる樹脂中の塩化ビニル系樹脂の割合が40質量%以上であり、
前記隠蔽層に含まれる樹脂中にアクリル系樹脂がある、
加飾シート。」

そして、本件発明1と甲1発明Aは、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1は、「前記意匠層に含まれる樹脂中の塩化ビニル系樹脂の割合が40質量%以上であり、前記隠蔽層に含まれる樹脂中のアクリル系樹脂の割合が70質量%以上であ」るのに対して、甲1発明Aは、絵柄層に含まれる樹脂中の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の割合が50質量%であり、隠蔽性の全ベタ層に含まれる樹脂中のアクリル樹脂の割合が50質量%である点。

<相違点2>
本件発明1は、「前記加飾シートの前記隠蔽層側に黒色の成形樹脂層を積層した加飾樹脂成形品において、前記意匠層側の表面の少なくとも一部に、L^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度a^(*)(D65)が1以上となる部分を有している」のに対して、甲1発明Aは、加飾シートの隠蔽性の全ベタ層の下に黒色のABS樹脂である樹脂成形物を積層した加飾成形品は記載されているものの、加飾成形品における絵柄層の表面側の色度が不明である点。

イ.相違点の検討
(ア)<相違点1>について
甲1には、絵柄層に含まれる樹脂中の塩化ビニル系樹脂の割合について、「アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との混合比は、アクリル樹脂/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体=1/9?9/1(重量比)程度」(上記1.(5))との記載があり、これは、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の割合を90質量%?10質量%とすることを意味する。
一方、甲1には、隠蔽性の全ベタ層に含まれる樹脂中のアクリル樹脂については、上記の絵柄層のような記載はないから、アクリル樹脂の割合を70質量%以上に変更するという技術的思想があるとは理解できない。
そして、甲1発明Aの「絵柄層は、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系であり、隠蔽性の全ベタ層は、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系であ」ることは、実施例(上記1.(7))において、絵柄層と隠蔽性の全ベタ層と接着剤層の全てに同じ混合樹脂系を用いたものであり、絵柄層の塩化ビニル系樹脂と、隠蔽性の全ベタ層の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を、それぞれ何らかの目的を持って特定の割合の組合せとしたとの記載はない。
そうすると、甲1発明Aには、絵柄層の塩化ビニル系樹脂の割合はそのままに、隠蔽性の全ベタ層のアクリル樹脂の割合を変更するという動機付けがあるとはいえない。

この点、上記<相違点1>につき、申立人は、『甲1発明の「50%」と本件特許発明1の「70%以上」との比較において、相違点を解消するために甲1発明の数値を高めること(つまり、アクリル樹脂の量を増やすこと)は、周知技術に開示されている。・・・以上より、全ベタ層形成に使用するインキ又は塗液のバインダーの樹脂として、混合比が1/9?9/1(重量比)程度のアクリル系樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との混合物が開示されている、又は黙示的に開示されていると解釈できる。・・・したがって、甲1発明は本件特許発明1の基本構成を有しており、そのため上記周知技術を適用して本件特許発明1に到達しようとする動機付けが、甲1発明に含まれている。』と主張している。
(特許異議申立書9ページ5?10ページ13行)

申立人の主張する甲1の段落【0017】の記載は、絵柄層に関するものであって、全ベタ層に関するものではないし、段落【0020】の記載は、全ベタ層に使用する樹脂は、用途に応じた物を使用すればよいというだけのものであるから、段落【0017】と段落【0020】の記載を結びつける根拠がない。
よって、全ベタ層に使用する樹脂として、混合比が1/9?9/1(重量比)程度のアクリル系樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との混合物が開示されている、又は黙示的に開示されていると解釈することはできない。
さらに、申立人が提示する甲2(特開2000-211069号公報)、甲3(特開2000-211070号公報)、甲4(特開平11-291412号公報)は、耐候性の観点からアクリル樹脂の量を増やすことが周知技術であることを示すにとどまるものであって、黒色の樹脂成形物に積層した状態における絵柄層の表面側のL^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度a^(*)(D65)が1以上となる部分を有する加飾シートにおいて、意匠層の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の割合はそのままに、隠蔽性の全ベタ層のアクリル樹脂の割合を70質量%以上にまで高めることが周知技術であることを示すものではない。
よって、本件発明1の<相違点1>に係る構成は、甲1発明A及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

(イ)<相違点2>について
甲1には、赤色の有機顔料を用いても良い旨の記載(上記1.(4))があり、実施例では「絵柄層の着色剤には、有機顔料としてキナクリドンとイソインドリノンを使用し、さらにこれに無機顔料であるカーボンブラック及び二酸化チタン被覆雲母箔片からなるパール顔料を併用した。」(上記1.(7))との記載がある。
しかしながら、加飾シートの隠蔽性の全ベタ層の下に黒色のABS樹脂である樹脂成形物を積層した加飾成形品の状態における、絵柄層の表面側に、L^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度a^(*)(D65)が1以上となる部分が存在するか否かは記載されていない。
また、実施例では、キナクリドンとイソインドリノンを使用しているけれども、カーボンブラック及び二酸化チタン被覆雲母箔片からなるパール顔料も併用している上に、黒色の樹脂成形物に積層した状態であるのだから、絵柄層の表面側のL^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度a^(*)(D65)がどのような値であるかは、不明であるといわざるを得ない。

この点、申立人は、「(以上のように赤色着色剤を使用しているので、L^(*)a^(*)b^(*)表色系においてa^(*)が1以上になる)」と主張している。
(特許異議申立書8ページ12?13行)

しかしながら、絵柄層の有機顔料比率(有機顔料が全着色剤に占める比率)35重量%(上記1.(7))に占める赤色着色剤の使用量が不明で、カーボンブラック及び二酸化チタン被覆雲母箔片からなるパール顔料を併用している上に、黒色の樹脂成形物に積層した状態であるにもかかわらず、単に赤色着色剤を使用しているからといって、ただちに絵柄層の表面側にL^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度a^(*)(D65)が1以上の部分があるとはいえない。
よって、本件発明1の<相違点2>に係る構成は、甲1発明A及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明A及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2?9
本件発明2?9は、本件発明1の構成要件を全て含むものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明A及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明10
ア.対比
本件発明10と甲1発明Bを対比すると、甲1発明Bの「絵柄層」は本件発明10の「意匠層」に相当し、以下同様に「隠蔽性の全ベタ層」は「隠蔽層」に、「樹脂成形物」は「成形樹脂層」に、「加飾成形品」は「飾樹脂成形品」に、「絵柄層」に含まれる「塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体」は「意匠層」に含まれる「塩化ビニル系樹脂」に、「隠蔽性の全ベタ層」に含まれる「アクリル樹脂」は「隠蔽層」に含まれる「アクリル系樹脂」に、それぞれ相当する。

甲1発明Bの「絵柄層は、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系であ」ることは、絵柄層に含まれる樹脂中の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の割合が50質量%であることを意味するから、本件発明10の「前記意匠層に含まれる樹脂中の塩化ビニル系樹脂の割合が40質量%以上であ」ることと一致する。
甲1発明Bの「隠蔽性の全ベタ層は、アクリル樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との1対1重量比の混合樹脂系であ」ることは、隠蔽性の全ベタ層に含まれる樹脂中のアクリル樹脂の割合が50質量%であることを意味し、「前記隠蔽層に含まれる樹脂中にアクリル系樹脂がある」限りにおいて、本件発明10の「前記隠蔽層に含まれる樹脂中のアクリル系樹脂の割合が70質量%以上であ」ることと一致する。

よって、本件発明10と甲1発明Bは以下の点で一致する。
「意匠層と、前記意匠層の下に位置する隠蔽層と、成形樹脂層とが表面側から順に積層された加飾樹脂成形品であって、
前記意匠層に含まれる樹脂中の塩化ビニル系樹脂の割合が40質量%以上であり、
前記隠蔽層に含まれる樹脂中にアクリル系樹脂がある、
加飾樹脂成形品。」

そして、本件発明10と甲1発明Bは、以下の点で相違している。
<相違点3>
本件発明10は、「前記意匠層に含まれる樹脂中の塩化ビニル系樹脂の割合が40質量%以上であり、前記隠蔽層に含まれる樹脂中のアクリル系樹脂の割合が70質量%以上であ」るのに対して、甲1発明Bは、絵柄層に含まれる樹脂中の塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の割合が50質量%であり、隠蔽性の全ベタ層に含まれる樹脂中のアクリル樹脂の割合が50質量%である点。

<相違点4>
本件発明10は、「前記意匠層側の表面の少なくとも一部に、L^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度a^(*)(D65)が1以上となる部分を有している」のに対して、甲1発明Bは、加飾成形品における絵柄層の表面側の色度が不明である点。

イ.相違点の検討
<相違点3>は、実質的に<相違点1>と同じ相違点である。
そして、上述のように、<相違点1>に係る構成は、甲1発明A及び周知技術に基いて、当業者が容易に相当し得たものではないから、<相違点3>についても同様に、本件発明10の<相違点3>に係る構成は、甲1発明B及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

ウ.小括
したがって、本件発明10は、<相違点4>について検討するまでもなく、甲1発明B及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明11
本件発明11は、本件発明10の構成要件を全て含むものであるから、本件発明10と同様に、甲1発明B及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5.むすび
以上のとおり、本件発明1?11は、甲1発明A又は甲1発明B、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に適合するものであり、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。
そして、ほかに本件発明1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-25 
出願番号 特願2014-196996(P2014-196996)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 杉山 悟史
横溝 顕範
登録日 2019-03-01 
登録番号 特許第6484978号(P6484978)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 加飾シート及び加飾樹脂成形品  
代理人 松井 宏記  
代理人 立花 顕治  
代理人 田中 順也  
代理人 山田 威一郎  

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