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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G06K
管理番号 1358901
審判番号 無効2017-800103  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-08-03 
確定日 2020-01-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3823487号発明「光学情報読取装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正請求(平成30年12月14日付で補正された同年7月31日付訂正請求)を認める。 特許第3823487号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成 9年10月27日 特許出願(特願平9-294447号)
平成18年 7月 7日 特許権設定登録(特許第3823487号)
平成24年12月 7日 訂正審判請求
(訂正2012-390156号)
平成25年 3月19日 訂正拒絶審決
平成25年 4月25日 審決取消訴訟
(平成25年(行ケ)第10115号)
平成27年 2月26日 判決言渡(訂正拒絶審決取消)
平成27年 7月 2日 訂正認容審決
平成29年 2月 7日 一次無効審判請求
(無効2017-800019号)
平成29年 8月 3日 本件無効審判請求
平成29年11月 3日 答弁書
平成29年11月24日 上申書(1)(請求人)、
営業秘密に関する申出書
平成30年 1月31日 一次無効審判の審決
(請求不成立、取消訴訟係属中(後述))
平成30年 2月 9日 上申書(2)(請求人)
平成30年 2月16日 答弁及び上申書等の副本送付
平成30年 2月23日 審理事項通知書(1)
平成30年 3月23日 口頭審理陳述要領書(1)
平成30年 3月28日 審理事項通知書(2)
平成30年 4月12日 口頭審理陳述要領書(2)
平成30年 4月23日 口頭審理
平成30年 4月27日 上申書(1)(被請求人)
平成30年 7月 6日 上申書副本送付
平成30年 7月 9日 審決の予告(同年同月13日送達)
平成30年 7月31日 訂正請求(「本件訂正請求」)
平成30年 8月 9日 訂正請求等の副本送付
平成30年 8月31日 上申書(2)(被請求人)
平成30年 9月 4日 上申書副本送付(弁駁書提出期間を延長)
平成30年10月26日 弁駁書等(請求人)
平成30年11月20日 訂正拒絶理由通知と弁駁書等の副本送付、
職権審理通知
平成30年12月14日 本件訂正請求についての手続補正、意見書
平成30年12月25日 審理終結通知(平成31年1月4日発送)
平成30年12月26日 手続補正等の副本送付
(平成31年1月4日発送)
平成31年 1月 7日 意見書(請求人)

なお、関連する侵害事件につき、下記の判決言渡がなされている。
知財高裁第4部平成30年9月26日判決言渡
(平成30年(ネ)第10015号、「侵害事件1」、
原審:東京地裁平成28年(ワ)第32038号)
知財高裁第4部平成30年9月26日判決言渡
(平成30年(ネ)第10044号、「侵害事件2」、
原審:東京地裁平成28年(ワ)第27057号)

また、一次無効審判の審決に対する取消訴訟(平成30年行ケ第10080号)が、平成30年6月7日に提起され、知財高裁に係属中(平成31年1月24日判決予定)である。

第2 請求の趣旨等
1 請求の趣旨
特許第3823487号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。
との審決を求める。
(以下、特許第3823487号を「本件特許」といい、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本件特許発明」という。)

2 答弁の趣旨
本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。
との審決を求める。

第3 本件訂正請求、本件特許発明
1 本件訂正請求
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲と発明の詳細な説明(平成27年7月2日付訂正認容審決の確定後の特許請求の範囲と発明の詳細な説明)について、一群の請求項である請求項1及び2について一群の請求項ごとに、訂正請求書(平成30年12月14日付手続補正書による補正後のもの。以下、「訂正請求書」という。(補正前の訂正請求書は、「訂正請求書(補正前)」という。))に添付された訂正後の特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載のとおりに訂正することを請求するものである。

2 訂正事項
(1)請求項間の引用関係の解消
本件特許の特許請求の範囲の請求項2を、「3」で後述する訂正後の特許請求の範囲の請求項2のとおりに訂正する。

(2)訂正事項a
本件特許の特許請求の範囲の請求項1を、「3」で後述する訂正後の特許請求の範囲の請求項1のとおりに訂正する。

(3)訂正事項b
(2)の訂正事項aに係る訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載と整合するよう、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】を訂正後の発明の詳細な説明の段落【0006】のとおりに訂正する。(訂正後の段落【0006】の摘記は省略する。)

3 訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2(具体的な訂正箇所に下線を付す。)

【請求項1】
操作者が手で握るための把持部として機能するケースと、
このケースの上面に設けられ、情報を入力するためのキーパットと、
前記ケースの上面に設けられる表示液晶ディスプレイと、
前記ケースの側面に設けられ、前記読み取り対象の読取りのスイッチとなる読み取り用スイッチと、
前記ケース内に配置され、読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段と、
前記ケース内に配置され、複数のレンズで構成され、前記読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
前記ケース内に配置され、前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置と、
を備える光学情報読取装置において、
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して入射する前記読み取り対象からの反射光が斜めになる度合いを小さくして、適切な読取りを実現し、
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした
ことを特徴とする光学情報読取装置。
【請求項2】
複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置と、
を備える光学情報読取装置において、
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにし、
前記光学的センサは、CCDエリアセンサであることを特徴とする光学情報読取装置。

4 本件訂正請求についての当審の判断
(1) 上記「2(1)」で示した請求項2についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号の他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。

また、この訂正は、新たな技術的事項を導入するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないから、同条第9項が準用する第126条第5項及び第6項に規定する要件をも満たすものである。

なお、本件訂正請求における請求項2についての訂正については、本件無効審判の請求がされていない請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であったことを踏まえた独立特許要件に適合しない旨の訂正拒絶理由を平成30年11月20日付けで通知している。
しかし、この通知に対する応答期間内に、請求項2についての訂正を他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに変更する補正がなされ、この補正は、無効審判請求がされていない請求項に係る訂正事項を削除するものであるから、訂正請求書の要旨変更に該当しない。よって、本件訂正請求は、この手続補正書による補正後のものであって、通知した訂正拒絶理由は、この補正によって解消している。

(2) 上記「2(2)」で示した請求項1についての訂正は、請求項1について、(a)光学情報読取装置が「操作者が手で握るための把持部として機能するケース(TJ)」を備え、「結像レンズ」及び「カメラ部制御装置」が「前記ケース内に配置され」る旨、(b)光学情報読取装置が「このケースの上面に設けられ、情報を入力するキーパット(TK)」、「前記ケースの上面に設けられる表示液晶ディスプレイ(TL)」及び「前記ケースの側面に設けられ、前記読み取り対象の読取りのスイッチとなる読み取り用スイッチ(TM)」を備える旨、(c)「前記ケース内に配置され、読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段(TN)」を備える旨、(d)絞りの配置により光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することによって「前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して入射する前記読み取り対象からの反射光が斜めになる度合いを小さくして、適切な読取りを実現」する旨を、いずれも、発明特定事項に対して直列的に付加するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記「2(3)」で示した発明の詳細な説明についての訂正は、請求項1についての訂正に伴って発明の詳細な説明の段落【0006】を訂正するものであって同条同項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
よって、いずれの訂正も、同条同項に規定する要件を満たすものである。

また、これらの訂正のうち、上記(a)は、本件訂正請求の前の本件特許明細書の段落【0015】【0016】【0021】【0022】【0019】に、(b)は、同段落【0016】【0018】に、(c)は、同段落【0021】【0033】に、(d)は、同段落【0041】に、それぞれ記載されており、これらの訂正は、新たな技術的事項を導入するものでない。さらに、これらの記載内容に照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
よって、いずれの訂正も、同条第9項が準用する第126条第5項及び第6項に規定する要件をも満たすものである。

5 小括(本件特許発明)
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第134条の2に規定された訂正請求の要件を満たすものである。
よって、結論に示すとおり、これを認容する。

本件特許発明は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。(審決の予告で本件特許の特許請求の範囲について用いた「A」等の番号と対応させ、さらに、訂正に関係する番号には「T」を付して「TA」等の番号を用いて分説する。)

TJ 操作者が手で握るための把持部として機能するケースと、
TK このケースの上面に設けられ、情報を入力するためのキーパットと、
TL 前記ケースの上面に設けられる表示液晶ディスプレイと、
TM 前記ケースの側面に設けられ、前記読み取り対象の読取りのスイッチとなる読み取り用スイッチと、
TN 前記ケース内に配置され、読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段と、
TA 前記ケース内に配置され、複数のレンズで構成され、前記読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
B 前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
C 該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
TD 前記ケース内に配置され、前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置と、
E を備える光学情報読取装置において、
TF 前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して入射する前記読み取り対象からの反射光が斜めになる度合いを小さくして、適切な読取りを実現し、
G 前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする
H 光学情報読取装置。

第4 無効理由、証拠方法
1 無効理由
本件特許発明にかかる特許は、特許法第29条第2項に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号が規定する無効理由を有する。
(1)無効理由1-1
本件特許発明は、『ソニー社製ICX084AL(公知センサ)を用いた2次元バーコードリーダ』の発明、甲第5号証等に記載された公知技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)無効理由1-2
本件特許発明は、『ウェルチアレン社製IT4400(公然実施コードリーダ)』の発明、甲5号証等に記載された公知技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)無効理由2-1
本件特許発明は、甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)無効理由2-2
本件特許発明は、甲第6号証に記載された発明、甲第5号証等に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)無効理由2-3
本件特許発明は、甲第7号証に記載された発明、甲第5号証等に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)無効理由2-4
本件特許発明は、甲第8号証に記載された発明、甲第5号証等に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 甲号証
甲1 日経エレクトロニクス9月25日号
甲2の1 ソニー株式会社への弁護士照会(照会申出書)
甲2の2 同上(添付資料1、ICX084ALのデータシート)
甲2の3 同上(添付資料2、イメージセンサの技術と実用化戦略
ソニー技術者たちの挑戦)
甲2の4 同上(添付資料3、IT 4400の分解写真)
甲2の5 同上(照会事項(回答))
甲3 平成29年第75号 2次元コードリーダ内蔵のCCDセンサ
ーの型番特定に関する事実実験公正証書
甲4の1 アイニックス株式会社への弁護士照会(照会申出書)
甲4の2 同上(添付資料1、アイニックス株式会社のホームページ
http://www.ainix.co.jp/profile/history.html)
甲4の3 同上(添付資料2、IT 4400 Users Guide)
甲4の4 同上(照会事項(回答))
甲4の5 同上(照会事項(回答)の添付書類、出荷台帳)
甲4の6 同上(照会事項(回答)の添付書類、Ainix News Release)
甲4の7 同上(照会事項(回答)の添付書類、IT 4400LR/HDの広告)
甲5 特開平7-254037号公報
甲6 特開平9-270501号公報
甲7 特開平8-334691号公報
甲8 米国特許第5,331,176号明細書
甲9 特開平7-73266号公報
甲10 特開平5-227468号公報
甲11 特開平5-203873号公報
甲12 特開平7-168093号公報
甲13 特開平5-188284号公報
甲14 特開平8-278443号公報
甲15 特開平5-40220号公報
甲16 特開平9-258103号公報
甲17 特開平9-179026号公報
甲18 特開平6-118209号公報
甲19 特開平9-8266号公報
甲20 特開平9-55488号公報
甲21 特開平9-116127号公報
甲22 特開平8-274288号公報
甲23 特開平6-244391号公報
甲24 特開平8-180125号公報
甲25 国際公開第96/13798号
甲26 特開平8-30715号公報
甲27 特開平7-230519号公報
甲28 特開平9-231306号公報
甲29 特開平8-16699号公報
甲30 特開平9-97304号公報
甲31 国際公開第97/14110号
甲32 特開昭62-180483号公報
甲33 特開平3-117281号公報
甲34 特開平7-282178号公報
甲35 特開平8-249412号公報
甲36 特開平5-324898号公報
甲37 特開平5-334479号公報
甲38 特開平6-96244号公報
甲39 特開平9-147048号公報
甲40 特開平9-97306号公報
甲41 QRコードの概要
甲42 侵害事件1の原告準備書面(1)
甲43 「Sony Offers charge-coupled device area sensors」
甲44 「Atmospheric Spatial and Temporal Seeing Monitor Using
Portable Amateur Astronomy Equipment」
甲45 写真についての報告書
甲46 「SONY SEMICONDUCTOR INTRODUCES 60 FRAME-PER-SECOND
PROGRESSIVE SCAN IT CCD SENSORS」
甲47 Shipments of the Image Team 4400 to Japan
甲48 日経マイクロデバイス1990年6月号
甲49 Electronic Journal1995年10月号
甲50 電子部品年鑑1995
甲51 特開平9-6913号公報
甲52 特開平5-46808号公報
甲53 特開平5-73712号公報
甲54 特開平7-57092号公報
甲55 特開平7-325901号公報
甲56 Cambridge Dictionary
甲57の1 陳述書
甲57の2 陳述書の添付資料1(月刊バーコード1997年8月号)
甲57の3 陳述書の添付資料2(米国で撮影された写真)
甲57の4 陳述書の添付資料3(パンフレット)
甲57の5 陳述書の添付資料4(日本で撮影された写真)
甲57の6 陳述書の添付資料5(パンフレット)
甲57の7 陳述書の添付資料6(請求人代理人購入品の写真)
甲57の8 陳述書の添付資料7(請求人購入品の写真報告書)
甲57の9 陳述書の添付資料8(ゼブラ購入品の写真報告書)
甲57の10 陳述書の添付資料10(公然実施コードリーダ(LR)
販売台帳)
甲57の11 陳述書の添付資料11(公然実施コードリーダ(HD)
販売台帳)
甲58の1 宣誓書
甲58の2 宣誓書の別紙A(ウェルチアレン・データコレクション
・ディビジョン・ニュース)
甲58の3 宣誓書の別紙B(ユーザーズガイドA版)
甲58の4 宣誓書の別紙C(ユーザーズガイドB版)
甲58の5 宣誓書の別紙D(月刊バーコード誌)
甲58の6 宣誓書の別紙E(IT4400パンフレット)
甲58の7 宣誓書の別紙F(アイニックス出荷台帳(IT4400HD))
甲58の8 宣誓書の別紙G(アイニックス出荷台帳(IT4400LR))
甲58の9 宣誓書の別紙H(アイニックス出荷台帳の英訳)
甲58の10 宣誓書の別紙I(レンズ構成PCB図面)
甲59 宣誓書
甲60 宣誓書
甲61 宣誓書
甲62 「SONY SEMICONDUCTOR INTRODUCES 60 FRAME-PER-SECOND
PROGRESSIVE SCAN IT CCD SENSORS」
甲63 「SONY SEMICONDUCTOR INTRODUCES 60 FRAME-PER-SECOND
PROGRESSIVE SCAN IT CCD SENSORS」
甲64 日経産業新聞1997年7月13日
甲65 日刊工業新聞1997年7月22日
甲66 月刊バーコード1997年7月号
甲67 月刊バーコード1997年12月号
甲68 侵害事件1の原審判決
甲69 侵害事件1の原告準備書面(10)
甲70 「バーコードとは」
甲71 侵害事件1判決
甲72 侵害事件2判決
甲73 特開平9-62769号公報
甲74 特開平5-233865号公報
甲75 特開平6-274667号公報

3 乙号証
乙1 報告書
乙2 月刊バーコード1997年8月号
乙3 平成25年(行ケ)第10115号判決
乙4 鶴田匡夫「第3・光の鉛筆」(1993年10月1日発行)

第5 当事者の主張
1 請求人の主張
(1)無効理由1-1(『ソニー社製ICX084AL(公知センサ)を用いた2次元バーコードリーダ』の発明を主引用発明とする無効理由)について
ア 『ソニー社製ICX084AL(公知センサ)を用いた2次元バーコードリーダ』(以下、「公知センサを用いた2次元コードリーダ」という。)の公知性について
『ICX084AL』は国内販売により国内公然実施された「公知センサ」であり、マイクロレンズを搭載したものであり、その用途の1つが2次元コードリーダであるから、「公知センサ」を用いた2次元バーコードリーダは公知である。(審判請求書30?32頁)公然実施コードリーダが日本国内で販売されていたことからも、公知センサの国内公知は明らかである。(審判請求書108頁)

イ 本件特許発明との対比、相違点の判断について
『ICX084AL』は受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列され、受光素子毎に集光レンズが設けられた光学センサであるから、『ICX084AL』を用いた2次元バーコードリーダは、そのような光学センサを備え、2次元コードを読み取って処理し、読取結果を出力するものであったといえる。(審判請求書32?34頁)
本件特許発明と「公知のセンサを用いた2次元コードリーダ」とは、構成B、E、Hで一致し、相違点1-1-1(構成A、C、F)、相違点1-1-2(構成G)、相違点1-1-3(構成D)において相違する。(審判請求書108?110頁)
相違点1-1-1は公知発明1に周知技術2を組み合わせることにより容易想到であり、相違点1-1-2は周知技術4を組み合わせることにより容易想到であり、相違点1-1-3は周知技術3および公知技術1を組み合わせることにより容易想到である。(審判請求書110?114頁)

(2)無効理由1-2(『ウェルチアレン社製IT4400(公然実施コードリーダ)』の発明を主引用発明とする無効理由)について
ア 『IT4400(公然実施コードリーダ)』の発明の国内公然実施性について
ウェルチアレン社は、米国の会社であり、1996年2月に米国で、2次元コードを読み取ることのできるコードリーダであるIT4400(「公然実施コードリーダ」)の販売を開始した。公然実施コードリーダは、日本にも輸出され、本件特許の出願前、アイニックス株式会社を含む数社が輸入し、アイニックス株式会社は、これを自社使用するとともに、1997年7月からIT4400の販売を開始し、キーエンス等の顧客に販売した。(審判請求書34?36頁)
甲第3号証の事実実験公正証書に示された、請求人が購入して分解実験を行ったIT4400(甲3製品)の外観は、IT4400の広告(甲4の7)やユーザーズガイド(甲4の3)と同一である。ラベルにモデル名と製造月(1997年5月)が示されており、アイニックス(株)が販売したものと同一(モデル)の製品である。(甲3)(審判請求書36?37頁)
1997年7月のウェルチアレン社のニュースリリースには、IT4400がソニー社製ICX084AL(公知センサ)を搭載したものであった旨が示されており(甲58の2)、IT4400設計者も公知センサを使用したこと、甲3製品や甲第45号証の写真についての報告書に示された、請求人が購入して分解撮影を行ったIT4400(甲45製品)を含む「第2世代製品」の全てにおいて公知センサと3枚のレンズとレンズ間にある絞りが使用されており、設計変更がなかったこと、ある地域や国向けの特定バージョンはなかったことを述べている(甲58の1)。アイニックス社代表取締役も甲3製品、甲45製品はアイニックス社が販売した製品と同一であることを確認している(甲57の1)。(上申書(1)6?10ページ)
甲3製品、甲45製品は、アイニックス社の販売した製品の構成を立証するための間接証拠であり、これらが実際に本件特許の出願前に国内販売されていたかどうかは問題にならない。本件特許の出願前に国内販売したIT4400リーダは、公知センサ(ICX084AL)、モトローラパワーPCチップ(MPC821)、絞りを含む同じ3枚のレンズという構成を有するものであり、甲3製品、甲45製品と同一である。(口頭審理陳述要領書(1)4?5頁等)
被請求人はユーザーズガイドの発行が2000年以降である等と主張するが、ユーザーズガイドの作成が本件特許出願後であるとしても、そのことによって、IT4400の国内公然実施が否定されるわけではない。(口頭審理陳述要領書(1)5頁)
被請求人は乙2掲載写真と甲3製品や甲45製品との間に細かい相違点がある等とも主張するが、乙2掲載写真は、アイニックス社が実際に日本で販売した製品の写真でないため、これとの比較には意味がない。(口頭審理陳述要領書(1)7?8頁)
被請求人は内部資料や陳述書等は客観性に乏しいため、無効審判の証拠資料としては適さない等とも主張するが、公然実施の事実を内部資料や陳述書等の証拠により立証することは、通常行われている。(口頭審理陳述要領書(2)10頁)

イ 本件特許発明との対比、相違点の判断について
(ア)IT4400(公然実施コードリーダ)は、QRコードを含む2次元コードを読み取るコードリーダであり(甲4の3、甲4の4、甲4の6、甲4の7)、また、「デジタルカメラの原理」を応用したものでもあった(甲4の6)。(審判請求書36?37頁)
公然実施コードリーダは、3枚のレンズで構成される結像レンズと、受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列され、受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、光学的センサからの反射光の通過を制限する絞りとを備え、QRコードを含む2次元コードを読み取って処理し、読み取り結果を出力する2次元コードリーダである。
公然実施コードリーダでは、絞りが複数のレンズの間に配置されている。(審判請求書37?39頁)

本件特許発明と公然実施コードリーダとを対比すると、構成A、B、C、E、Hで一致し、相違点1-2-1(構成F)、相違点1-2-2(構成G)、相違点1-2-3(構成D)で相違する。(審判請求書114?116頁)

(イ)相違点1-2-1(構成F)は容易想到である。
ビデオカメラと2次元コード読取装置は共通の技術分野である。本件出願当時、2次元コードをビデオカメラやテレビカメラで読み取ることも一般的に知られていた。(口頭審理陳述要領書(2)6?7頁等)
『受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを使用した場合、光学的センサの中心部にある集光レンズに比べて、周辺部にある集光レンズに入射する光束が斜めから入射し、入射光束が受光素子に有効に入射しなくなる結果、周辺部の光量が不足するという問題点』は、周知の課題である。この課題は、OCR(甲6)、指紋照合(甲7)、固体撮像装置(甲10)について指摘され、光学情報読取装置の当業者においても知られており、被請求人において見い出されたものではない。この問題点は、受光素子毎に集光レンズを設けた光学的センサが使用される装置一般に共通する。(口頭審理陳述要領書(2)6頁)
この周知課題の解決のために、射出瞳位置をできるだけ遠くしなければならず、射出瞳位置を遠くする必要があることは、技術常識であり、『受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを使用した場合、全てのレンズの前面(読取対象側)に絞りを配置する構成』は、周知(周知技術2)である。また、この課題の解決のため、射出瞳位置をできるだけ遠くしなければならないこと及びそのために対象からの反射光が絞りを通過した後でレンズに入射するように絞りを配置することは、2次元コードの読み取りを含む光学情報読取装置を扱う当業者にとって周知である。(審判請求書26?28頁及び116?117頁)

公然実施コードリーダは、「デジタルカメラの原理」を採用した2次元コードリーダであった(甲4の6)ため、同じ、デジタルカメラの光学系を開示する甲11乃至甲15に開示された発明を組み合わせる動機付けは十分にあったといえる。(審判請求書117頁)
レンズや絞りの設計思想が2次元コードリーダとビデオカメラ装置で根本的に異なる旨の被請求人主張は技術的に誤りである。この主張の証拠として提出された文献は、フィルムカメラを含むカメラ一般について、被写界深度、錯乱円、過焦点距離を説明するものにすぎず、被請求人が主張するような、ビデオカメラ装置は、過焦点距離の半分より遠くに位置する像を撮像し、錯乱円の直径を小さくするという思想に基づいて設計されること、2次元コードリーダが過焦点距離の半分以内に2次元コードが存在することを前提とし、錯乱円の直径はビデオカメラより大きくできるものであること、について何ら記載されていない。(口頭審理陳述要領書(2)3?5頁)
仮焦点距離は、固定焦点システムにおいて主に問題となるが、ビデオカメラ装置は一般に自動焦点システムが採用され、近い距離の被写体にも焦点を合わせることができるから、これが「過焦点距離」の半分よりとおくに位置する像を撮像するものである旨の被請求人主張は誤りである。(口頭審理陳述要領書(2)4頁)
2次元コードでもピントが合わない画像が得られれば、読取に支障をきたすのであり、「シャープ」な像が必要でないとの被請求人の主張は誤りである。(口頭審理陳述要領書(2)4?5頁)
被請求人は、本件訂正請求で追加した構成TN(発光手段)の有無がビデオカメラと2次元コードリーダで異なるため、レンズ設計も異なると主張するが、そもそも、公然実施コードリーダは読取対象に対して赤色光を照射する発光手段を備えており(甲57の6)、かかる点は、相違点にならないし、発光手段の有無によっても、受光素子ごとに集光レンズが設けられた光学的センサの周辺部受光素子の相対的光量不足という課題は変わらないから、発光手段の有無は、動機づけの欠如又は阻害要因の存在に影響を与えるものでない。(弁駁書9頁)

(ウ)相違点1-2-2(構成G)は容易想到である。
請求人は侵害事件1において構成F「絞りを配置」すれば構成G「・・所定値以上となる」と主張しており、この主張を前提とすれば、相違点1が容易想到であるから相違点2も容易想到である。(審判請求書118頁)
この主張を前提としない場合も、光学的センサの周辺部の受光量が不足すると正しく情報を読み取れないことが指摘されており、構成G「・・所定値以上となる」とすることは当業者において当然である。(審判請求書118頁等)
『光学情報読取装置において露光時間などを調整すること』は、周知(周知技術4)である(審判請求書29?30頁、118?119頁)
構成Gが構成Fと異なる要件であるとしても、容易想到であることに変わりない。甲11、甲12には、出力比という直接的な言葉は使用しないまでも、周辺部の出力が中心部の出力に比べて不足しないようにしたことが開示されている。甲11?15には、構成Gのような、中心部と周辺部の出力比が所定値以上となるように射出瞳の配置を行う構成が開示されている。(口頭審理陳述要領書(1)15頁、同(2)9頁)
構成Gは、光学的センサ中央部の出力に比べて光学的センサ周辺部の出力が落ち込んだ状態とならないようにするという課題をそのまま記載したものにすぎない。(口頭審理陳述要領書(2)9頁)

(エ)相違点1-2-3(構成D)は容易想到である。
『光学的センサの出力を増幅し、閾値に基づいて2値化する構成』は周知(周知技術3)であり、また、2次元コードを読み取る際、閾値に基づいて2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出することは、公知(公知技術1)である。引用発明において周知技術3と公知技術1を採用することは容易になし得たことである。(審判請求書119?120頁)

(オ)相違点1-2-4(構成TJ、TK、TL及びTM)は容易想到である。
被請求人は、本件訂正請求により付加された、構成TJ、TK、TL及びTMについて、新たな相違点(相違点1-2-4)である旨主張するが、被請求人もいうように、この相違点は、それ自体新規性を有するものでなく、また、コードリーダに関する周知技術である(甲73、甲74、甲75)から、本件特許発明の進歩性に寄与しない。被請求人は、この相違点の構成を備えないガンタイプのコードリーダでは、光学モジュールに求められるコンパクト化のニーズが大きくないため、周辺部の光量不足の課題は顕在化しない旨主張するが、被請求人の主張は、本件特許明細書の記載に基づくものでなく、集光レンズが設けられた光学的センサの周辺部受光素子に対する集光レンズによる集光立の低下の防止という課題がガンタイプのコードリーダである公然実施コードリーダに当てはまらないことを示す事情は存在しない。(弁駁書4?6頁)

(3)無効理由2-1(甲第5号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
甲5には、「TVカメラ等の画像検出装置を用いて二次元コードを取り込むこと(【0029】)、読取装置にCCDを使用すること、CCDから出力された画像信号を2値化すること(【0062】)、特定周波数成分を検出すること(【0063】)、およびこれらの制御を行うCPU(図17)を有する二次元コード読取装置」(甲5発明)が開示されている。
本件特許発明と甲5発明とを対比すると、構成Bの一部、Dの一部、E、Hで一致し、相違点2-1-1(構成Bの「受光素子毎に集光レンズ」)、相違点2-1-2(構成A、C、F)、相違点2-1-3(構成G)、相違点2-1-4(構成Dの「増幅」)で相違する。(審判請求書39?42、120?122頁)
相違点2-1-1(構成Bの「受光素子毎に集光レンズ」)について、『受光素子毎に集光レンズを設けた光学的センサを光学情報読取装置に使用すること』は周知(周知技術1)である。また、2次元シンボルをビデオカメラやテレビカメラで読み取ることが可能であることは、周知であって、甲5発明に受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを使用するビデオカメラを組み合わせる動機付けも十分である。(審判請求書24?26頁、122?123頁)
相違点2-1-2(構成A、C、F)、相違点2-1-3(構成G)、相違点2-1-4(構成D)については、無効理由1-2の、それぞれ、相違点1-2-1、相違点1-2-2、相違点1-2-3と同様、容易想到である。(審判請求書123?125頁)

(4)無効理由2-2(甲第6号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
甲6には、「複数の画素が行列状に配列されるとともに、画素ごとに光を集光するオンチップレンズが設けられたCCD固体撮像素子をOCR等の光学的読取装置に使用すること(【0003】【0004】【0009】)、光学的読取装置にはカメラレンズや絞りが備わっていること(【0007】)、オンチップレンズ付きのCCD固体撮像素子を使用する場合、カメラレンズの絞りや、射出瞳特性等により一部集光されない光があるという問題点があること【0007】乃至【0011】」(甲6発明)が開示されている。(審判請求書42?45、126頁)
本件訂正審決は、「光学情報読取装置」を「もっぱら2次元コードを読み取るための光学情報読取装置」であると、特許請求の範囲にない事項を加えて解釈し、この点を甲6発明の相違点としたが、リパーゼ判決に明らかに背くものであり、採用されるべきでない。(審判請求書127頁)
本件特許発明と甲6発明とを対比すると、構成Aの一部、構成B、E、Hで一致し、相違点2-2-1(構成Aの「複数のレンズ」、F)、相違点2-2-2(構成Gのうち「射出瞳位置」を「周辺部」でも「読取」「可能」に「設定」)、相違点2-2-3(構成D)、相違点2-2-4(構成Gのうち「露光時間などの調整」)で相違する。(審判請求書126?128頁)
相違点2-2-1(構成A、C、F)について、甲6には、カメラレンズの絞りや、射出瞳特性等による入射光の入射方向の限界という本件特許発明が解決しようとする課題と同等の問題点も示唆されており、周知技術2を採用する動機付けがあった。(審判請求書129頁)
相違点2-2-2(構成Gのうち「射出瞳位置」を「周辺部」でも「読取」「可能」に「設定」)については、請求人の関連侵害事件における主張を前提とすれば、相違点1が容易想到であるから相違点2も容易想到である。(審判請求書130頁)
相違点2-2-3について、甲6発明はOCRであるところ、OCRや読み取った画像を白・黒に2値化して処理するものであるため、2値化の記載がなくとも当業者が2値化処理が行われると理解し、閾値に基づいて2値化を行うことは周知(周知技術3)である。特定の位置決めマークの検出を「所定の周波数成分比の検出」と解釈しても、このような位置決めマークを有する2次元コードは周知(甲24、甲5)であり、甲6のOCR装置を記号の1つである2次元コードの読取用途に使用することも当業者であれば容易であり、その際公知技術1を組み合わせることは明らかである。(審判請求書130?131頁)
相違点2-2-4については、周知技術4を組み合わせて容易である。(審判請求書131頁)

(5)無効理由2-3(甲第7号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
甲7には、受像面上の全面に亘って複数のマイクロレンズが配設されたCCD固体撮像装置と、絞り62と、絞り62の前方側に位置され、絞り上に後側焦点位置を位置させ、物空間においてテレセントリック光学系を構成している第1のレンズ群61と、絞りの後方側に位置され、絞り上に前側焦点位置を位置させ、像空間においてテレセントリック光学系を構成している第2のレンズ群63(【0040】、図1)とを備える指紋照合装置(【0018】)が記載され、このような光学系を採用したことにより、像面に対して入射する主光線入射角がこの像面上のいずれの点に対しても等しくなり、像面上における光量分布が平坦になること(【0079】等)(「甲7発明」)が記載されている。(審判請求書45?48、132頁)
甲7発明の「第1のレンズ群61」と「第2のレンズ群63」は、「結像レンズ」(構成A)である。
甲7発明の「指紋照合装置」は、指紋という情報を光学的に読み取るものであるため、「光学情報読取装置」(構成E、H)である。本件訂正審決は「光学情報読取装置」を「もっぱら2次元コードを読み取るための」ものと解釈するが、リパーゼ判決に明らかに背くものである。(審判請求書133頁)
甲7発明の「絞り」は読取対象からの反射光が絞りを通過した後で「第2のレンズ群66、67」に入射するように配置されているため、「・・絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう絞りを配置」(構成F)したものであり、また、甲7の「テレセントリック光学系」は射出瞳位置が無限遠点にあるものであるから、射出瞳位置が有限の距離にある光学系に比し「相対的に長く設定」されている。仮に「結像レンズ」が「全ての結像レンズ」の意味であっても全ての結像レンズの全面に絞りを配置した構成とすることも周知(甲10の【0009】、甲16の【0003】、甲17の【0005】)であり、組合せ容易である。(審判請求書133頁)
甲7の固体撮像素子の像面の光量分布が平坦となるということは、センサ中心部とセンサ周辺部でほぼ同じ出力を有することを意味し、構成Gの一部が開示されている。(審判請求書134頁)
本件特許発明と甲7発明とを対比すると、構成A、B、C、E、F,Gの一部で一致し、相違点2-3-1(構成D)、相違点2-3-2(構成Gの「露光時間などの調整」)で相違する。
相違点2-3-1について、指紋を照合する際、閾値に基づく2値化や特徴点を抽出して比較することは周知(甲54)であり、CCDの出力を増幅することも一般的事項(甲8、甲25乃至甲31、甲33)だから、当業者は当然にこれらの処理を行うものと理解する(請求135?136頁)。特定の位置決めマークの検出を「所定の周波数成分比の検出」と解釈しても、このような位置決めマークを有する2次元コードは公知であり、特定の周波数成分比を検出することも公知(公知技術1)である。甲7の指紋照合装置は、指紋を光学的に読み取り、電気信号に変換するものであり、2次元コードを読み取る用途に使用することも容易である。
甲7発明の「指紋照合装置」はあくまで例示であり、用途はこれらに限られない。指紋と2次元コードは、ある一定の範囲に存在する模様自体が情報であり、これらの情報を光学的に読み取り処理する点で極めて近い分野であり、本件特許発明の課題と解決手段を考慮する上で何ら違いはない。(審判請求書136頁)
相違点2-3-2については、周知技術4を組み合わせて容易である。(審判請求書136頁)

(6)無効理由2-4(甲第8号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
甲8には、複数のレンズ(ズームレンズ251、中間レンズ254、レンズ257)から構成される焦点レンズシステム256と(16頁第5カラム56行?64行、図11)、2次元センサ(210、116)(15頁第4カラム38行?16頁第5カラム2行、17頁第8カラム6行?12行、図10および図11)と、絞り212やチューブ204(15頁第4カラム38行?16頁第5カラム2行、図10)と、センサの出力を増幅するビデオアンプ270と(16頁第6カラム1行?8行、図10)を備える2次元シンボルを読み取るリーダ(14頁第1カラム12行?20行)において、読み取り対象からの反射光が絞り212を通過した後でレンズに入射するように絞り等が配置され(図10)、照明を制御することによりセンサ234の全ての受光素子によって生成される光を平均化し、所定の閾値以上の平均強度となるようにして適切な読み取りが可能となるようにしたもの(「甲8発明」)が記載されている。(審判請求書49?58及び137頁)
甲8の「絞り212」や「チューブ204」は、CCDセンサへの読取対象からの反射光を制限するものであるため、「絞り」(構成C)である。「絞り212」の原文英語は「aperture」であるが、光学的分野で使用される場合、入射光を制限する意味を有し(甲56)、甲8でもかかる意味で用いられている。甲8では、「aperture212」の開口部よりも小さい範囲にある反射光のみが通過し、複数のレンズを経て、光学的センサに入射する。「aperture212」は、発光ダイオードからの光を照射する機能も備えているが、反射光を制限する機能を兼ねている以上、「絞り」でないことにはならない。仮に入射を最大限制限する最終的なもののみが「絞り」であるとしても、チューブは、そのような機能を有している。(審判請求書137?139頁)
本件特許発明と甲8発明とを対比すると、構成A、Bの一部、C、E、F,Gの一部で一致し、相違点2-4-1(構成Bの「受光素子毎に集光レンズ」)、相違点2-4-2(構成D)、相違点2-4-3(構成Gのうち「射出瞳位置」を「周辺部」でも「読取」「可能」に「設定」)で相違する。
相違点2-4-1については、周知技術1を組み合わせて容易である。(審判請求書142?143頁)
相違点2-4-2については、周知技術3,公知技術1を組み合わせて容易である。(審判請求書143?144頁)
相違点2-4-3については、周知技術4を組み合わせて容易である。(審判請求書144?145頁)

2 被請求人の主張
(1)無効理由1-1(『ソニー社製ICX084AL(公知センサ)を用いた2次元バーコードリーダ』の発明を主引用発明とする無効理由)について
『ICX084AL』が公知であるとしても、そのCCDを用いた2次元コードリーダまでが公知である訳ではない。甲1のソニー社CCDの広告には、CCDの用途の例示として2次元バーコードリーダが挙げられているものの、実際に2次元コードリーダに用いられているわけではない。(答弁書9?10頁)
甲2は発行日すら定かでなく、甲3はそこに示された2次元コードリーダの出所が不明であり、甲43と46はインターネット上の画面であって本願出願当時の法律によれば刊行物でなく、しかも米国での販売を示すのみであり、甲44は刊行物性も頒布日も不明である。(答弁書10頁)

(2)無効理由1-2(『ウェルチアレン社製IT4400(公然実施コードリーダ)』の発明を主引用発明とする無効理由)について
ア 『IT4400(公然実施コードリーダ)』の発明の国内公然実施性について
アイニックス社が1997年7月に販売した「IT4400」にマイクロレンズ付き2次元配置の受光素子を備えるCCDが用いられていたとは認められない。
現時点で「IT4400」は甲3製品、甲45製品、乙1製品の3台があるが、いずれも実際に販売されたのは出願前ではなく近時であり、日本国内ではなく米国である。1997年7月に販売された「IT4400」の現物は提出されていないし、アイニックス社も保管されていない旨回答している。
乙1製品同封のユーザーズガイドの製品を特定するラベルに記載されている製造日は1997年12月であり、ユーザーズガイドの制作はこれ以降である。
ユーザーズガイドの著作権表示の日付によればユーザーズガイドの発行は2000年以降であり、ユーザーズガイドには、製品の製造日が1999年7月であり、運送証券のサンプル例の日付が1998年3月4日であり、サイン取得のサンプル例の日付が1999年3月4日であると記載されている。アイニックス社の回答を併せ鑑みれば、アイニックス社の販売した製品は2000年以降の製品となる。アイニックス社から1997年7月に日本国内でIT4400が販売されたとすれば、日本語のユーザーズガイド等が必要であったはずだが、その存在を窺わせるものはない。(答弁書11?14頁)
アイニックス社が1997年7月に発売した「IT4400」についての月刊バーコード誌の広告写真(乙2)と乙1製品及びこれと同様の製品である甲3製品、甲45製品との間には、上面の穴の有無、グリップ底部の係合穴の有無、上面の発光部の色と形、上面の「WelchAllyn」の名称の態様において相違しており、具体的形態その他において相違しているから、甲3製品や甲45製品は、1997年7月に発売した「IT4400」と同一の製品ではない。なお、月刊バーコード誌には、如何なるCCDを用いたかの説明はない。(答弁書14?15頁)
侵害事件1の判決における平成9年7月頃アイニックス社がIT4400を販売していたであろうことの認定に用いられた内部資料や弁護士照会に対する回答、アイニックス社代表取締役の陳述書、ハニウェル社社員の宣誓書は、無効審判手続きには不適切である。(口頭審理陳述要領書(1)8?13頁)

イ 本件特許発明との対比、相違点の判断について
仮に「IT4400」の国内公然実施性が認められても、本件特許発明は、これに基づいて容易想到ではない。
(ア)相違点1-2-1(構成F)、相違点1-2-2(構成G)は、容易想到でない。
甲3製品、甲45製品、乙1製品のいずれも、レンズ間に絞りを配置しており、本件明細書の背景技術の同等物に過ぎない。(答弁書16?17頁)
甲6、甲7、甲10乃至23などは、いずれも、二次元コードリーダにマイクロレンズを採用した際の課題を開示するものではなく、本件出願当時、光学情報読取装置(二次元コードリーダ)にマイクロレンズ付き2次元配置光学センサ(CCD)を用いた際に生じる課題は、光学情報読取装置(二次元コードリーダ)における「新規な課題」であった。(答弁書11,23頁) 審判請求人が提示する副引例は、いずれもスチルビデオカメラ装置ないしビデオカメラ装置に関するものばかりであり、ビデオカメラ装置等と2次元コードリーダとが関連した技術分野であるとしても、2次元コードリーダに本件発明の構成を採用することが容易であるというためには相応の動機付けが必要である。(答弁書17?18頁)

ビデオカメラ装置等では、全体の像がはっきりと映ることが必須事項として求められるのに対し、2次元コードリーダでは必ずしもシャープな像は必要ではない。一方で、2次元コードは、「0」、「1」で判断するバイナリーコードの特性から、「0」、「1」の判断は、厳密な確かさが指摘され、像の明るさがセンサ中心部とセンサ周辺部とで大きく変わらないことが求められる。(答弁書18頁)
副引例にも、ビデオカメラ等の技術を2次元コード読取に適用することの開示又は示唆はない。「IT4400」に接した当業者にとって副引例の技術を適用することについて動機付けとなるような課題を見い出すことは容易でなかった。現に「IT4400」の設計者は、本件明細書の課題を全く認識していなかった。(答弁書18?19頁等)
甲6、甲7、甲10乃至18は、いずれも、2次元コードリーダを用途とするものでなく、エリアセンサを使用した「2次元コードリーダ」におけるセンサ周辺部の光量不足に起因する読取の課題とその解決手段は、本発明者が初めて見いだしたものであり、請求人のいう周知技術2は、周知でない。(答弁書11頁)
ビデオカメラ装置で像がはっきり映る範囲に、「被写体深度」(物体空間で測った、ピンぼけを許容できる深度、乙4)という考えがあり、また、ビデオカメラ装置では、像がどの程度はっきり映るのかの評価に「錯乱円」の概念(錯乱円の直径εはピンぼけの程度を示す)を用いる。また、像がはっきり映る距離Lに関して、「過焦点距離LH」という概念もある。乙4の説明によれば、ビデオカメラ装置で像がはっきり映るということは、「過焦点距離」の半分より遠くに位置する像を撮像することを意味し、また、「錯乱円直径ε」が小さいことを意味している。一方、2次元コードリーダの読取対象は2次元コード(バーコードを含む)なので、コードは2次元コードに近接しており、レンズや絞りの設計を行うに際して、過焦点距離の半分以内に2次元コードが存在することを前提として行うことになり、また、必ずしもシャープな像は必要でないので、錯乱円直径εをビデオカメラ装置より大きく設定できる。このようにレンズや絞りの設計思想(過焦点距離や錯乱円直径ε等)自体、2次元コードとビデオカメラとでは、根本的に異なる。(口頭審理陳述要領書(1)25?28頁)

実際に販売されているビデオカメラ装置で絞りを前配置としたものは存在していない。実用化されていないことに照らせば、絞りを前配置することは、慣用技術であるとも言えない。(口頭審理陳述要領書(1)28頁)
甲12、甲13、甲15は、何れも、2次元コードリーダでの採用を前提としたものでなく、また、本願出願当時の2次元コードリーダは、ビデオカメラをそのまま用いるものではないから、2次元コードリーダとでは技術分野が相違しており、IT4400に甲12、甲13、甲15開示技術を組み合わせることの動機付けは認められない。(上申書(2)4?7頁)

甲4の6は、アイニックス社の宣伝用のニュースリリースであり、購入者に宣伝する目的の記載にすぎず、技術書類でない。当時の需要者に認知されている「ビデオカメラ」の語句を単に用いて新製品が優れているといっているだけであり、真実「デジタルカメラの原理」を理解してそれが適用されていることを説明している文書ではない。甲4の6によれば、アイニックス社は、周辺機器販売業者であって2次元コードやリーダの開発もしておらず、「デジタルカメラの原理」や「それを2次元コードリーダに採用したときに、どのようになるか」などの専門的知見を有していない。甲64は、このリリースを受けた記事にすぎない。いずれも技術的知見の裏付けを欠くものであり「課題の共通性」を認定する資料として適切でない。(口頭審理陳述要領書(2)3頁)
2次元コードリーダとビデオカメラとでは、光学系の相違に加えて、信号処理も全く異なり、2次元コードリーダは、位置検出パターン等の画像処理によって決まる座標の中でバイナリコードである2次元コードの明るさが「0」か「1」かを定めるのに対し、ビデオカメラ装置は、取り込んだ画像を原則そのまま記録するのであり、2次元コードのような座標が存在しない。ビデオカメラ装置は、本件発明の構成D自体を備えておらず、画像処理が大きく異なる。(口頭審理陳述要領書(2)4?7頁)
仮にIT4400が本件出願前公然実施されていたとしても、本件出願日の3月前にようやくマイクロレンズ付きCCDエリアセンサが2次元コードリーダに採用されたばかりであり、2次元コードを読み取る上で解決しなければならない周辺部の光量不足の問題は誰も知らなかった。本件出願日当時は、2次元コードリーダはようやく知られ始めた程度で「ビデオカメラの技術(デジタル技術)を用いている」と謳うことでさえ宣伝となる時代であり、一般に販売されていたのはほとんどバーコードリーダであった。ロバート・ハッセー氏宣誓書(甲58の1)が参照するIT4400の射出瞳位置は第1レンズと第2レンズの間になり(甲58の10)、また、センサ周辺部では光量不足が生じていたと推測される。これが本件出願当時の技術水準であり、IT4400の設計者や、これが問題となることに気がついていなかった。(口頭審理陳述要領書(2)、上申書(1))

甲39及び甲40にバーコードリーダにおいて絞りを前配置することが記載されているが、バーコードリーダでは2次元配置のCCDを用いておらず、ラインセンサであり、かつ、マイクロレンズも備えていない。2次元コードリーダの場合、構成Fを採用した上で、2次元コードリーダ特有の要件である中心部と周辺部の光学センサの出力が(2次元コードリーダとして適切な読み取りが可能となる)所定値内になるように射出瞳位置を設定する(構成G)必要がある。これに対し、甲11は、周辺部の光量不足に、絞りの前配置ではなく、第3レンズ群の追加配置で対応している。このような追加配置は、リーダの大型化、重量化し、操作性が落ちるから、2次元コードリーダでは採用しない。甲12乃至15は、周辺部のマイクロレンズに垂直に光束が入射しないから中心部出力と周辺部出力とは一致せず、これらの比を所定値以上とする必要があるが、この所定値は、2次元コードを読み取る上で求められる値であるので、ビデオカメラ等と同一ではない。(口頭審理陳述要領書(2)10?11頁)

請求人主張の関連侵害事件での被請求人の主張とは、近年設計製造された被疑侵害品の充足を説明するものであり、この説明が本願出願日における容易想到の自認となるはずがない。(口頭審理陳述要領書(2)11?12頁)
甲26、27、32、39は、せいぜい2次元コードリーダの記載がある程度であり、構成Gについて容易想到であるというための動機付けとなるものではない。(口頭審理陳述要領書(2)12?13頁)

ガンタイプの公然実施コードリーダでは、周辺部の光量不足の課題は認識されていなかったのに、組合せの動機付けがあるとする審決の予告の判断は、本件特許発明の内容を事後的に公然実施コードリーダに当て嵌めたものであり、誤りである。(訂正請求書(補正前)14?16頁)

本件訂正請求により2次元コードに対して赤色光を照射する発光手段を限定しているところ、赤色光は、単波長に近く結像レンズの設計も赤色光の波長を基本に行うことができ、発光手段の光量や照射の方向を適切な値に設定できるのに対し、ビデオカメラでは、単波長でない自然光を基準にレンズ設計を行い、発光手段からの反射光を前提として中心部と周辺部との明るさの設定を行うことはない、等、光学系の設計思想が大きく相違している。(訂正請求書(補正前)17?19頁)

(イ)相違点1-2-3(構成D)について
本件特許発明は2次元コードリーダの存在を前提としており、2次元コードリーダがバイナリーコードである2次元コードを読み取る上で、出力信号の増幅、2値化、周波数成分検出を行うことは知られている。(答弁書24頁)

(ウ)相違点1-2-4(構成TJ、TK、TL及びTM)について
被請求人としても、ケースにキーパットや液晶ディスプレイを設けることに新規性があると主張するものではないが、ガンタイプの公然実施コードリーダと本件特許発明とでは、コンパクト化のニーズが異なり、ガンタイプの公然実施コードリーダでは、周辺部の光量不足の課題は顕在化せず、現に公然実施コードリーダの設計者は全く気付いていなかったから、相違点4は、甲12、甲13、甲15の技術を組み合わせる動機付けがないことを、より明らかにするものである。(訂正請求書(補正前)21?22頁)

(3)無効理由2-1(甲第5号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
甲5は、いわゆる「QRコード」の基本的な構造自体を開示するものであり、二次元コードの読み取りに言及しているものの、単に読取に「TVカメラ」と「CCD」を用いることを挙げているだけで、「二次元コードリーダの構成それ自体」に関して説明していない。甲5のCCDは、ラインセンサかエリアセンサかも不明である。甲5には、二次元コードリーダの光学系に関してはほとんど記載がなく、絞りが用いられているか否かさえ明らかでない。
甲6、甲7、甲10乃至23は、いずれも、2次元コードリーダとは技術分野が異なる製品にマイクロレンズ付きCCDが用いられたことを示すにすぎない。甲21、甲22が開示するのも、「バーコードリーダ」はエリアセンサではなくラインセンサである。(答弁書22?23頁)

(4)無効理由2-2(甲第6号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
本件特許発明の「光学情報読取装置」は「二次元コードリーダ」であることは明らかである。甲6自体は「固体撮像素子」の発明であり、用途としてOCRに僅かに言及するのみであり、マイクロレンズ付きCCDエリアセンサを二次元コードリーダに用いる上での工夫である本願発明の課題、解決手段について示唆するところはない。(答弁書27?28頁)
OCRはバイナリーコードである2次元コードの読取装置でなく、本件発明の課題は全く想定されない(答弁書29頁)。

甲6発明を主引例として本件発明に到達するには、甲6開示技術を適用の動機付けが一切開示されていない二次元コードリーダにあえて適用した上で、その二次元コードリーダについて、いずれも開示がない「複数のレンズ」と「絞り」の構成及び配置を想到し、これらの結果、本件発明の課題を新たに発見、認識し、構成F,Gの解決手段を発見するという多段階の推考をしなければ到達しないのであり、容易に推考できるものでないことは明らかである。(答弁書29?30頁)
甲6の用途がOCRであるからといって2値化を行うことに直結するものではない。(答弁書30頁)

(5)無効理由2-3(甲第7号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
甲7は、用途を指紋照合装置とする「結像レンズ装置」の発明であり、台形歪みや歪曲収差の抑制を目的とするものであり、周辺部での集光率低下を問題とする本件発明とは技術分野が異なり、課題が全く異なる。採用する手段も、甲7は、テレセントリック光学系を構成する第1のレンズ群と第2のレンズ群であり、本件発明のように絞りを前配置することによって射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定するものではない。(答弁書31頁)
そもそも甲7は「レンズ群」を主とする発明であり、固体撮像素子について説明がなく、CCDがマイクロレンズ付きであるという開示も示唆もない。【0018】は、図15の受像面と物体面に平行として光軸に対して傾斜させることによる形成される像の光度ムラや光束入射角度が所定角度以下となる領域のマイクロレンズへの受光がされないという問題を示すための比較例の記載であり、甲7は、その問題の解決手段として、絞りの前後に2つのテレセントリック光学系を構成するレンズ群を備えるというものである。(答弁書31?32頁)
指紋照合装置では、読取対象とCCDとの距離は一定、かつ、レンズと読み取り対象との間に配置されたプリズムにより反射光が平行に入射するのに対し、二次元コードリーダでは、距離は必然的にばらつき、プリズムが配置されず、反射光は平行光として入射しない。本件発明の課題は、甲7では生じない。(答弁書32?33頁)
甲7発明は、指紋照合装置であり、「二次元コードリーダの光学系としての、複数のレンズ、絞り」や、二次元コードリーダのコード情報を読み取る「カメラ部制御装置」については開示がない。のみならず、甲7発明では、指紋照合装置の絞りを、第1のレンズ群と第2のレンズ群の間に配置している。結果、甲7発明には、本件発明の課題に対し「絞り」の配置位置を工夫することなどにより、これを解決するという本件発明の技術思想について開示も示唆もない。(答弁書33?34頁)

甲7発明を主引例として本件発明に到達するためには、指紋照合装置である甲7発明を、特段の動機付けもないのに、光学情報読取装置(二次元コードリーダ)に適用し、開示されていない「二次元コードリーダの複数のレンズと絞り」の配置を想到し、これらの結果、本件発明の課題を新たに発見、認識し、構成F,Gの解決手段を発見しなければならず、多段階の推考を重ねなければ到達しないものであり、容易に推考できるものでないことが明らか。(答弁書33頁)
甲7は、テレセントリック光学系で固体撮像素子の像面の光量分布が平坦になることを利用する発明であり、出射面77から出射した光は光軸と平行(平坦)となって固体撮像素子の受像面に直進するから、この受像面に対して光が斜めに入射することで光量がセンサ周辺部において低下するという本件発明の課題は生じ得ない。組合せの動機付けは認められない。(答弁書34頁)

(6)無効理由2-4(甲第8号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
甲8には、「絞り」が開示されていない。甲8は、読取位置の範囲をユーザに示すためターゲットとなるシンボルと同形状の照射ウィンドを提供するものであり、甲8の212のapertureは、発光ダイオード206からの光を照射し、チューブ204とともにボーダータイプのウインドウ214をつくるための「開口部」であり、被写体214からの入射光を絞る「絞り」ではない。図面上もレンズとほぼ同じ開口広さであり、絞りとしての機能を果たさない。(答弁書35?38頁)
甲8開示の「センサアレイ(CCDアレイ)」の具体的構成は不明であり、「複数の受光素子が二次元的に配列された」ことすら明確でない。まして、素子毎に集光レンズが設けられたものは開示されていない。(答弁書38頁)
甲8発明を主引例として、本件発明に想到するには、まず、「CCDエリアセンサ」について、集光レンズ(マイクロレンズ)付きのものとすることを想到し、開示されていない「絞り」の配置を想到し、これらの結果、本件発明の課題を新たに発見、認識して、更にこれを解決するために構成F等の解決手段を発見しなければならず、多段階の推考をしなければ到達しないのであり、容易想到できるものでないことは明らかである。(答弁書39頁)

第6 主要な甲号証の記載
1 甲第5号証(無効理由1-2の公知技術、無効理由2-1の主引用文献)
甲第5号証(特開平7-254037号公報)は、平成7年10月3日に出願公開された特許公報であり、図面とともに次の事項が記載されている。

「【請求項1】 二進コードで表されるデータをセル化して、二次元のマトリックス上にパターンとして配置した二次元コードにおいて、
マトリックス内の、少なくとも2個所の所定位置に、各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が得られるパターンの位置決め用シンボルを配置したことを特徴とする二次元コード。」

「【0026】位置決め用シンボル2は、二次元コード1の4つの頂点の内、3つに配置されている。そのセルの明暗配置は、黒部からなる正方形2a内の中心に白部からなる縮小した正方形2bが形成され、その内の中心に黒部からなる更に縮小した正方形2cが形成されているパターンである。
【0027】この位置決め用シンボル2をスキャンした場合の明暗検出を図2に示す。図2(A)に示すように、位置決め用シンボル2の中心を代表的な角度で横切る走査線(a)、(b)、(c)での明暗検出パターンは、図2(B)に示すごとく、すべて同じ周波数成分比を持つ構造になっている。即ち、位置決め用シンボル2の中心を横切るそれぞれの走査線(a)、(b)、(c)の周波数成分比は暗:明:暗:明:暗=1:1:3:1:1となっている。勿論、走査線(a)、(b)、(c)の中間の角度の走査線においても比率は1:1:3:1:1である。
【0028】このことにより、二次元コードがいかなる方向に回転していても、一定方向の走査処理のみで位置決め用シンボル2の持つ特定周波数成分比を検出することができる。このため走査方向を繰り返し何度も変更して基準となる所定のパターンを検出する必要がない。したがって、位置決め用シンボル2の中心位置が容易に早期に判明するので、二次元コード1の位置が迅速に特定でき、その後の処理も早期に開始できる。
【0029】またこのように少なくとも位置決めは一方向のスキャンのみで済むので、TVカメラ等の画像検出装置から取り込んだ画像に、二次元コード1以外の各種のノイズが検出されていても、ノイズが二次元コード1か否かをスキャンする方向を変えて何度も判定処理することがなく、直ちに二次元コード1の位置が判明する。更にそれ以後は検出された位置決め用シンボル2の周辺だけを検索すればよく、高速にデータ領域のコードが切り出される。また、特定周波数成分比を検出する手段は、ハードウェア処理に適しており、TVカメラ等からの画像取り込みと並列した処理ができることとなり、さらに高速にコードを切り出すことができる。」

「【0062】次に、図15、16のフローチャートにより読み取り処理について説明する。この処理は図17に示すデコーダ500により二次元コード81をCCD500aにて読み取ることにより開始される。まず、CCD500a側から読み込まれた画像信号の2値化がなされる(ステップ300)。この2値化された画像がハード処理にて順次メモリに格納される(ステップ310)。これと並列のハード処理にてこの2値画像から、位置決め用シンボル2の位置座標が検出される(ステップ320)。
【0063】次に位置決め用シンボル2が3個以上見つけられたか否かが判定される(ステップ330)。この場合は図1と同じ位置決め用シンボル2が3個の二次元コード81の検出であることから、3個存在しなければ次の処理に移れない。したがってステップ300の処理に戻り、再度画像の読み直しをすることになる。尚、検出される位置決め用シンボル2は3個でなく4個以上の場合もある。これは二次元コード81内の他の領域、あるいは二次元コード81外の領域に位置決め用シンボル2と同じ周波数成分比のパターンが存在することを示している。
・・・中略・・・
【0069】このようにして、二次元コードからデータが得られると、図示しないホストコンピュータ側にデータ送信され、ホストコンピュータ側ではこのデータに基づいて、所定の制御を実施する。」

2 甲第6号証(無効理由2-2の主引用文献)
甲第6号証(特開平9-270501号公報)は、平成9年10月14日に出願公開された特許公報であり、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0003】このCCD固体撮像素子の構造を図4に示す。・・・図4に示すCCD固体撮像素子40は、複数の受光部61が行列状に配列され、各受光部列の一側に読み出しゲート部62を介してCCD構造の垂直転送レジスタ44が形成されてなる。各受光部61の上部には、光を集光するOCL(オンチップレンズ)41が形成され、これにより集光した光が受光部開口42を通して受光部61内に入射され、光電変換されて光量に応じた信号電荷が電荷蓄積部43に蓄積される。・・・このCCD固体撮像素子40では、各画素に対応する正方形の形状のユニットセル50が形成される。
・・・
【0006】このCCD固体撮像素子40は、ピクセル(画素)及びこれに対応したユニットセル50が正方形形状とされているが、受光部開口42は受光する光量をなるべく多くするために、開口幅が最大限広く形成され、その結果、図4に示すように垂直方向(V方向)が長い長方形となっている。
【0007】【発明が解決しようとする課題】ところで、オンチップレンズ付きのCCD固体撮像素子において、平行光が集光するようにオンチップレンズを形成するが、カメラレンズの絞りや、射出瞳特性等により一部集光されない光がある。すなわち、図5に示すように、集光する通常光Lに対して、この集光されない斜め光L′が存在する。
【0008】このために、前述の従来構造のCCD固体撮像素子40において、受光部開口42が長方形形状とされ、受光部開口42のH方向の開口幅WH とV方向の開口幅WV とが異なることから、H方向とV方向とで入射する斜め光L′の量および入射光の入射方向の限界が異なっていた。これにより、H方向とV方向とでそれぞれ画像の解像度が異なってしまい、そのため、画像に歪みが生じていた。
【0009】特に、最近行われているようにCCD固体撮像素子をOCR(Optical Chracter Recognition)等の光学式読みとりに用いる場合には、受光量を多くすることや画像の明度を上げることよりも、受光部の解像度を上げて読みとり精度を向上させることが望まれる。しかしながら、上述のように画像に歪みが生じていると、高精度の読みとりを行うことができなかった。
【0010】上述のように、正方形形状の画素(ピクセル)を有するCCD固体撮像素子において、H方向とV方向との解像度の違いによる歪みを低減する方法が求められていた。
【0011】上述した問題の解決のために、本発明においては、方向による解像度の違いに起因する歪みをなくし、画像の精度のよい固体撮像素子を提供するものである。」

「【0022】また、受光部開口12は、従来の長方形形状の場合より開口の面積が小さくなりことから、受光量は減少する。その一方で、隣接する単位セルとの画像の識別がはっきりするため、特に画像の光学式読みとりにおいて、画像をより細かく認識することができ解像度が向上することとなる。」

「【0029】上例では受光部開口12を正方形形状としたが、その他受光部開口を垂直方向及び水平方向に対称で、かつ両方向の開口幅が等しい形状、例えば円形や正八角形や角を除去した正方形または角を丸くした正方形等とする構成も採ることができる。このうち、受光部開口を円形とした実施例を図3に示す。」

3 甲第7号証(無効理由2-3の主引用文献)
甲第7号証(特開平8-334691号公報)は、平成8年12月17日に出願公開された特許公報であり、図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】 絞りと、上記絞りの前方側に位置され、該絞り上に後側焦点位置を位置させ、物空間においてテレセントリック光学系を構成している第1のレンズ群と、上記絞りの後方側に位置され、該絞り上に前側焦点位置を位置させ、像空間においてテレセントリック光学系を構成している第2のレンズ群とを備えている結像レンズ装置。」

「【0002】【従来の技術】従来、種々の光学機器において物体の像を形成するための結像レンズ装置が提案されている。
【0003】例えば、手指の指紋の形状を検出して参照指紋と照合する指紋照合装置においては、図12及び図13に示すように、照合対象となる物体104である手指の像を結像レンズ装置のレンズ106により形成し、この像を固体撮像素子(CCD)により撮像することとしている。この固体撮像素子は、受像面を上記像が形成される像面107上に位置させて配設される。
・・・
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述のような結像レンズ装置においては、図12に示すように、上記結像レンズ装置を構成するレンズ106は、歪曲収差を生ずる場合がある。すなわち、物体104が矩形状であった場合に、この物体104の像は、いわゆる樽型や糸巻型の歪みを有している場合がある。
【0010】また、上述のように、上記直角プリズム110を有する結像レンズ装置においては、上記物体104は、図13に示すように、この結像レンズ装置の光軸に対して傾斜した物体面108として撮像される。そのため、上記像面107上に形成される像109は、台形歪みを有することとなる。すなわち、上記物体104の上記レンズ106に近い部分の像は、該物体104の該レンズ106に遠い部分の像よりも、大きく(高い像倍率で)結像される。
【0011】このように、上記結像レンズ装置により形成される像が歪曲収差や台形歪みを有すると、正確な指紋照合が行えない。
・・・
【0013】なお、上記参照指紋は、上述の結像レンズ装置を介して上記固体撮像素子により撮像された像を用いることもできる。この場合には、上記参照指紋についても上述の歪曲収差や台形歪みが含まれて記憶されることとなるので、これら歪曲収差や台形歪みは、上記照合対象指紋との同一性の判断には影響しないようにも考えられる。
【0014】しかしながら、上記歪曲収差や台形歪みの影響は上記物体面108上における手指の位置や方向に依って異なり、また、該手指は該物体面108上において常に同一の位置及び方向に位置決めされるとは限らないので、上記歪曲収差や台形歪みによって、照合率の低下が招来されることとなる。
【0015】上記台形歪みを補正するための構成としては、図15に示すように、上記像面107、すなわち、上記固体撮像素子の受像面を傾斜させ、上記物体面108に対して平行にすることが考えられる。
【0016】しかし、上記固体撮像素子の受像面を光軸に対して傾斜させるにあたっては、結像レンズ装置を構成するレンズを広角レンズとしなければならず、歪曲収差の発生を抑えることが困難となり、レンズ製作の煩雑化、該レンズの高コスト化が招来されてしまう。
【0017】また、上記固体撮像素子の受像面を光軸に対して傾斜させると、この受像面に対する光束の入射角度が該受像面上の位置に依って著しく異なることとなり、形成される像が光度ムラを有する状態となる。このような光度ムラが生ずると、正確な指紋照合が行えなくなる虞れがある。
【0018】さらに、上記受像面を光軸に対して傾斜させることにより、この受像面に対する光束の入射角度が所定角度以下となる領域が生ずると、この領域では、該受像面上の全面に亘って配設されている複数のマイクロレンズのため、該光束が受光されないこととなる。
・・・
【0021】そこで、本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、装置構成が小型であり、また、製作が容易でありながら、台形歪みや歪曲収差が充分に抑制され、指紋照合装置に適用して好適な結像レンズ装置を提供することを目的とする。」

「【0029】【作用】本発明に係る結像レンズ装置は、絞りと、この絞りの前方側に位置され該絞り上に後側焦点位置を位置させ物空間においてテレセントリック光学系を構成している第1のレンズ群と、該絞りの後方側に位置され該絞り上に前側焦点位置を位置させ像空間においてテレセントリック光学系を構成している第2のレンズ群とを備えているので、装置構成を大型化することなく、また、製作を困難化することなく、台形歪みや歪曲収差が充分に抑制された像を結ぶことができる。」

「【0037】【実施例】・・
【0038】[本発明の概念]本発明に係る結像レンズ装置は、図1に示すように、光軸上にピンホール5を有する絞り62と、この絞り62の前後に配置された第1及び第2のレンズ群61,63を有して構成されている。
【0039】上記第1のレンズ群61は、上記絞り62の前方側に位置され、該絞り62上に後側焦点位置を位置させ物空間においてテレセントリック光学系を構成している。すなわち、この第1のレンズ群61は、この第1のレンズ群61の中心が上記絞り62より該第1のレンズ群61の焦点距離f1に等しい距離を隔てた位置となるように配置されている。この第1のレンズ群61は、光軸に平行な入射光束を、上記ピンホール5上に集光させる。この第1のレンズ群61は、第1及び第2の凸レンズ64,65から構成されている。
【0040】上記第2のレンズ群63は、上記絞り62の後方側に位置され、該絞り62上に前側焦点位置を位置させ像空間においてテレセントリック光学系を構成している。すなわち、この第2のレンズ群63は、この第2のレンズ群63の中心が上記絞り62より該第2のレンズ群63の焦点距離f2に等しい距離を隔てた位置となるように配置されている。この第2のレンズ群63は、上記ピンホール5を通過した拡散光束を、光軸に平行な出射光束として出射する。この第2のレンズ群63は、第3及び第4の凸レンズ66,67から構成されている。
【0041】上記第1及び第2のレンズ群61,63は、上記絞り62を挟んで、互いに所定の相似比率の相似形となっている。
【0042】この結像レンズ装置は、上記第1のレンズ群61の前方側に位置する物体面2上の物体1の像4を、像面3上に形成する。
【0043】この結像レンズ装置においては、上記ピンホール5を通過する光は物空間において光軸に平行な光線であるので、上記物体面2が光軸に対して傾斜していても、上記像4は、いわゆる台形歪みを生ずることがない。」

「【0063】[実施例2]上述のような指紋照合装置の光学系を構成する結像レンズ装置としては、図3に示すように、上記第1及び第2のレンズ群をそれぞれ2枚のレンズから構成されるものとしてもよい。」

4 甲第8号証(無効理由2-4の主引用文献)
甲第8号証(米国特許第5331176号明細書)は、1994年7月19日に発行された米国特許にかかる明細書であり、図面とともに次の事項が記載されている。(「第8」の「5」「(1)ア」において後述する「aperture」の文言以外については、請求人による訳を採用した。)
「BACKGROUND OF THE INVENTION
1. Field of the Invention
The present invention is directed to a hand held reader used for capturing two dimensional symbols, and, more particularly, to a system in which a target outline is projected by the reader allowing the user to easily position the targeted symbol within the outline for symbol capture.
Description of the Related Art
Two dimensional symbols, such as described in U.S. Pat. No. 4,924,078, can be captured for decoding in a number of different ways. The symbols can be scanned with a laser beam in much the same way that barcode symbols are scanned thereby capturing portions of the symbols sequentially. Such capture systems, if the symbol is moving relative to the capture system, may erroneously read the symbol. The entire symbol can also be captured at one time using an array of sensors such as a CCD array. Capturing all the symbol at the same time avoids the problems of relative symbol movement which occur in the scanned systems. 」(14頁、第1カラム、12行?34行)
(当審仮訳:発明の背景
1.発明の属する技術分野
本発明は、二次元シンボルを捉えるために使用する携行型リーダに関するものであり、より具体的には、リーダにより読取対象の枠が投影されることにより、ユーザが読取対象のシンボルを、読取対象の枠内に容易に位置づけることを可能にするシステムに関するものである。
関連分野
米国特許第4924078号に記載のように、二次元シンボルは様々な方法でデコードされるよう取り込まれる。バーコードシンボルのスキャンで行っているのと同様の方法により、シンボルがレーザービームによりスキャンされ、シンボルの一部が順次取り込まれることもある。このようなキャプチャシステムでは、もしシンボルがキャプチャシステムに対して動いた場合、シンボルが誤って読まれる可能性がある。全体のシンボルをCCDアレイのようなセンサアレイを用いて一度に取り込むことも可能である。シンボルを一度で取り込むことにより、スキャンシステムで生じるシンボルの動きに伴う問題を防ぐことができる。)

「FIG. 10 illustrates an example of a hand held symbol reader 200. This reader 200 is typically connected to conventional personal computer (not shown) such as an Intel 386 based PC capable of including a conventional video frame grabber board (not shown) such as the high resolution frame grabber DT2851 available from Data Translation, Inc. A conventional RS-170 video output produced by the reader 200 is provided to the frame grabber. The reader 200 includes a case 202 housing the window projection apparatus as well as a portion of the electronics for capturing the symbol 198. The housing includes a glare or baffle tube 204 with light emitting diodes 206 mounted around the exterior of the tube. The tube 204 is mounted on an optics unit 208 which can be used to focus the image of the symbol 198 on the sensor 210. The sensor 110 can be a conventional CCD array or a random access memory as described in the Karney application previously mentioned. The optics can be fixed focus, fixed image size optics providing a fixed depth of field sufficient for the symbol to be in focus in the preferred operating range of the reader (2-14 inches) or automatic focus. The optics can also provide automatic zoom type enlargement in combination with the fixed focus or autofocus optics. The tube 204 along with an aperture 212 project the light produced by the diodes 206 to create a border type window 214. The electronics for image capture and illumination control can also be provided in the unit handle 216. A trigger 218 is used to initiate window projection and when further depressed image capture. The electronic control units 220 and 222 operations under the control of a microcomputer as will be discussed in greater detail later. 」(15頁、第4カラム38行?16頁、第5カラム2行)
(当審仮訳:図10は、携行型シンボルリーダ200の一例を示したものである。リーダ200は、通常、従来のパーソナルコンピュータ(図示せず)、例えば、データトランスレーションインク社の高解像度フレーム取込器DT2851等の通常のビデオフレーム取込器(図示せず)を含むインテル386ベースのPCに接続される。リーダ200により生成される通常のRS-170ビデオ出力はフレーム取込器に与えられる。リーダ200は、シンボル198を取込むため電子機器の一部と同様に、ウィンドウプロジェクション装置(枠照射装置)を収納するケース202を有する。収納ケースは、グレアチューブまたはバッフルチューブ204とこのチューブ外部の周辺に設けられた発光ダイオード206を含む。チューブ204は、センサ210にシンボル198の像の焦点を合わせるために使用可能な光学ユニット208に設けられている。センサ110は従来のCCDアレイまたは前述したKarney出願に記載のランダムアクセスメモリでよい。光学系は、リーダ(2-14インチ)の望ましい動作範囲でシンボルに焦点があうために十分な固定の被写界深度をもたらす固定の焦点および固定の画像サイズの光学系か、オートフォーカス(自動焦点)でよい。光学系はまた、固定の焦点またはオートフォーカスの組み合わせにおいて自動ズームの拡大機能を有していてもよい。開口部212とともにチューブ204は、境界型の枠214を表示させるためにダイオード206から発せられた光を照射する。取り込まれた画像の処理と照明制御のための電子機器は、ユニットハンドル216内にも設けられる。トリガー218は枠の照射の開始に用いられ、さらに押下された際に画像の取り込みを行う。マイクロコンピュータの制御下における電気制御ユニット220と222の処理の詳細は後で述べる。)

「FIG. 11 illustrates the optical components of the optics unit 208 in greater detail. The handheld symbol reader includes a capability of performing a conventional autofocus operation at the same time that a conventional zoom operation is performed.」(16頁、第5カラム3行?7行)
(当審仮訳:図11は、光学ユニット208の光学部分を示したものである。携行型シンボルリーダは、従来のオートフォーカス操作とともに従来のズーム操作を行うことが可能である。)

「The optical components include a conventional variable zoom lense 250 system including zoom lense 251 controlled as to its zoom position by a stepper motor 252 and linear actuator 253. An intermediate lense 254 is provided to collimate the view window of the sensor 116 before the image is provided to a conventional variable focus lense system 256 including a lense 257 controlled as to focus by a stepper motor 258 and a linear actuator 259.」(16頁、第5カラム56行?64行)
(当審仮訳:光学部分はステッパーモータ252とリニアアクチュエータ254によりそのズーム位置が制御されるズームレンズ251を含む従来の可変ズームレンズシステム250を含む。中間レンズ254は、ステッパーモータ252とリニアアクチュエータ254により焦点位置が制御されるレンズ257を含む従来の可変の焦点レンズシステム256に画像が与えられる前にセンサ116のウィンドウの眺めを直線的にするために用いられる。)

「FIG. 12 illustrates the electronic components of the reader 202 in greater detail. The output of the CCD sensor 116 is provided through a conventional video amplifier 270 to a conventional video signal controller and interface 272 capable of converting the output from a CCD sensor 116 into a conventional RS-170 video signal transmitted to the frame grabber 273 and computer 274 by a conventional coaxial cable. 」(16頁、第6カラム1行?8行)
(当審仮訳:図12はリーダ202の電気信号処理部分を示したものである。CCDセンサ116の出力は、従来のビデオアンプ270を通して、CCDセンサ116の出力を従来の同軸ケーブルによりフレームグラバー273やコンピュータ274に送信可能な従来のRS-170ビデオ信号に変換する従来のビデオ信号制御インターフェース272に供される。)

「The central processor 260 also controls the illumination level of the light emitting diodes 260 by controlling the pulse frequency and duty ratio of the light emitting diodes through a driver unit 276 in a conventional manner.」(16頁、第6カラム13行?18行)
(訳:中央処理装置260は、従来の方法によりドライバユニット276を通じて発光ダイオードのパルス周波数とデューティ比を制御することにより発光ダイオード260(注:206の誤記と考えられる)の照明レベルも制御する。)

「If illumination control is provided by the reader to attain a constant illumination the electronic component arrangement would result in a control loop as illustrated in FIG. 13. In this control loop a light source 280, such as the light emitting diodes, projects light to the target which is reflected back to the sensor 284, such as a CCD array. The light from the sensor 284 is conventionally analyzed by an illumination control unit, which can be computer 260, to determine the brightness of the reflected image. The illumination control unit 286 can average the light produced by all the sensing elements of the sensor 234 to provide an average illumination and then adjust the intensity of the light produced by source 230 to provide an average intensity above a predetermined threshold. If light emitting diodes are used as the source 280, the pulse frequency or the duty ratio of the light emitting diodes can be varied to vary the illumination.」(16頁、第6カラム33行?49行)
(当審仮訳:一定の照明を達成するようリーダにより照明制御が行われる場合、電子部品の配置は図13に示すような制御ループとなる。この制御ループでは、発光ダイオードなどの光源280は、CCDアレイのようなセンサ284に反射するよう読み取り対象に光を照射する。センサ285からの光は、反射された像の明るさを決定するために、照明制御部(コンピュータ260でもよい)によって従来の方法により分析される。照明制御部286は、平均的な照明を行うためにセンサ234の全ての受光素子によって生成される光を平均化でき、所定の閾値以上の平均強度となるように光源230によって生成される光の強度を調整することもできる。 発光ダイオードが光源280として使用される場合、発光ダイオードのパルス周波数またはデューティ比は、照明を変えるために変化させることができる。

「Once the image sensed by the sensor is captured the computer 274 enters a decoding loop, as illustrated in FIG. 15a, in which the orientation of the symbol is determined and the outside perimeter of the symbol is identified 316. The operations described in U.S. Pat. No. 4,924,078 can be performed. The system then enters a loop in which the unique symbol for information identified by the captured symbol is determined. First the system identifies 318 the locations of unit data cells within in the symbol, determines 320 the side dimension of the symbols perimeter. The system then, within the defined parameter of the symbol, determines 322 whether certain key elements of the symbol which can be used for decoding symbol timing exist within the symbol. The system then determines 324 the center of each data cell and calculates 326 a timing sequence. The timing sequence is used to determine the value of each data cell within the symbol by sampling 328 the data cells at the determined timing. Next a determination is made as to whether the parity of the symbol and the perimeter of the symbol are valid. Steps 318-330 can be performed in accordance with the operations described in U.S. Pat. No. 4,924,078. An audio or visual signal by the computer 274 can be provided or a signal sent back to the reader indicating successful capture if desired. If a random access memory is used instead of a CCD, the decoding operations discussed in the Karney application can be used. If the symbol is valid the data is translated 332 into usable bit form and either displayed on the display of the computer 274 or used to access 336 a database or communicated 338 to another device. If displayed on a console the symbol is decoded as to it's representation and the information associated with the decoding is displayed 336. Note that because the border or window when used properly encloses the image of the symbol captured, the window can be used to limit the amount of the captured image that is processed, thereby increasing processing speed.」(17頁、第7カラム4行?41行)
(当審仮訳:センサによって感知された画像がキャプチャされると、コンピュータ274は、図15aに示すように、復号化ループに入り、シンボルの方向が決定され、シンボルの外周が特定される(ステップ316)。米国特許第4924078号に記載の処理が実行できる。次に、システムは、捉えたシンボルによって識別される情報のためのユニークなシンボルを決定するループに入る。最初に、システムは、シンボル内の単位データ・セルの位置を特定し(ステップ318)、シンボルの外周の寸法を決定する(ステップ320)。 システムは次に、シンボルの定義されたパラメータ内で、シンボルのタイミングを復号するために使用することができるシンボルの特定の重要な要素がシンボル内に存在するかどうかを判定する(ステップ322)。次に、システムは、各データ・セルの中心を決定し(ステップ324)、タイミング・シーケンスを計算する(ステップ326)。 タイミング・シーケンスは、定められたタイミングで、データ・セルをサンプリングすることによって、シンボル内の各データ・セルの値を決定するために使用される(ステップ328)次に、シンボルのパリティとシンボルの外周が有効であるか否かを判断する。ステップ318から330は、米国特許第4924078号に記載の処理に応じて実行される。コンピュータ274によって音声や視覚信号をリーダに提供することができ、必要であれば、リーダに、取込が成功したことを示す信号を送り返してもよい。CCDの代わりにランダムアクセスメモリが用いられている場合、Karneyアプリケーションで記載されている復号処理を使用することができる。シンボルが有効である場合、データは、使用可能なビット形式に翻訳され(ステップ332)、コンピュータ274のディスプレイに表示されるか、データベースにアクセスするために使用されるか(ステップ336)、または別の装置に伝送される(ステップ338)。コンソールに表示される場合、シンボルは、それを表現するものに復号化され、復号化に関連した情報が表示される(ステップ336)。使用される際、境界線または枠が捉えるべきシンボルの画像を適切に囲むため、枠は処理される取込画像の量を制限するために使用でき、それによって処理速度を増加させることができる。)

「Other symbols such as bar codes and polygonal symbols can be captured. A crosshair type illumination pattern or a dot in the center of the window could also be projected allowing centering of the field of view on the target symbol.」(17頁、第7カラム末行?第8カラム4行)
(当審仮訳:バーコードや多角形のシンボルなどの他のシンボルを取り込むこともできる。対象のシンボルの視野の中心をとらえることができるように、十字形の露光パターンや、枠の中央に点を照射させることも可能である。)

「1. A symbol illuminator and capture system, comprising:
a two dimensional sensor for viewing a two dimensional symbol, having a viewing window and capturing an entire symbol image; and」(17頁、第8カラム6行?12行)
(当審仮訳 1.シンボルの照射と取込システムであって、
開口部(viewing window)と完全なシンボルの像を取り込むための2次元シンボルを読み込むための2次元センサと、)

5 周知技術2の認定にかかる甲号証の記載
(1)甲第12号証(特開平7-168093号公報)
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は3枚玉による結像レンズに関し、特にTV電話用、ドアホーン用、監視用等のビデオカメラやスチルビデオカメラ等の撮影レンズとして好適な3枚玉による結像レンズに関するものである。」

「【0004】また、最近固体撮像素子の各受光素子の受光面に各々凸レンズからなるマイクロレンズを配設し、受光素子の不感帯に向う光束も受光素子に集めて感度を向上せしめるようにした固体撮像素子が実用化されている。このような固体撮像素子に入射する光束が上記マイクロレンズの光軸に対して大きく傾くとマイクロレンズの開口でいわゆるケラレが生じ入射光束が受光素子に有効に入射しなくなる。その結果、画面の周辺部の明るさが画面の中心部の明るさに比較して不足し、画面の周辺部が暗くなる現像を生じる。このような現像を回避するためには固体撮像素子への入射光束の入射角をなるべく小さくすることが必要で、撮影レンズの射出瞳を結像面からなるべく離して配することが必要となる。」

「【0010】【課題を解決するための手段】本発明の3枚玉による結像レンズは、被写体側に凹面を向けた負の屈折力を有するメニスカスレンズからなる第1のレンズと、正の屈折力を有する第2のレンズと、負の屈折力を有する第3のレンズが被写体側からこの順に配列されるとともに絞りまたは仮想絞りがレンズ系全体の被写体側端部近傍もしくはレンズ系よりも被写体側に配されてなり、前記第3のレンズのアッベ数をν3 としたとき、
ν3 ≦40
なる条件式を満足することを特徴とするものである。
【0011】【作用】上述した構成によれば、絞りまたは仮想絞りをレンズ系全体の被写体側端部の近傍もしくはレンズ系よりも被写体側に配することによりレンズ系の射出瞳を結像面から遠くに離すことができ、これにより固体撮像素子に入射する光束の入射角を小さくすることができるのでマイクロレンズ付きの受光素子におけるいわゆるケラレを防止でき、画面周辺部において光量不足となる事態を防止し得る。」

(2)甲第13号証(特開平5-188284号公報)
「【0001】【産業上の利用分野】この発明は撮影用トリプレットレンズに関する。この発明は、ビデオカメラやスチールビデオカメラに好適に利用できる。」

「【0004】また近来、各受光素子の受光面に凸のマイクロレンズを形成し、各受光素子への入射光量の増加を意図した固体撮像素子も実用化されている。このような固体撮像素子では、受光素子に入射する光線がマイクロレンズ光軸に対して大きく傾くと、マイクロレンズの開口により「ケラレ」て受光素子に入射しなくなる事態が生じる。この傾向は撮影レンズの光軸から離れるに従って生じ易く、かかる事態が生ずると画像中心部に比して画像周辺部の光量不足を助長する結果を招く。このような問題を避けるためには、固体撮像素子への入射光線を、なるべく受光面法線に近い角度で入射させる必要がある。このために撮影レンズの射出瞳は像面からなるべく離れていることが望ましい。」

「【0008】【課題を解決するための手段】この発明の撮影用トリプレットレンズは、請求項1?4のレンズとも、図1に示すように「物体側に前置された絞り0の像側に、絞り0側から像側に向かって順次、第1群1ないし第3群3を配して」なる。第1群1は両凸レンズ、第2群2は両凹レンズ、第3群3は両凸レンズであり、従って全系は3群3枚構成である。また、請求項1?4の撮影用トリプレットレンズは、1以上のレンズ面に非球面を採用した点においても共通している。」

「【0013】【作用】上記のように、この発明の撮影用トリプレットレンズでは、第1に絞りが物体側に前置された所謂「前絞り型」であり、このように絞りを前置することにより射出瞳を像面から離している。」

(3)甲第15号証(特開平5-40220号公報)
「【0001】【産業上の利用分野】この発明は撮像用結像レンズ、より詳細にはCCD等の固体撮像素子を用いる撮像装置の結像レンズに好適な撮像用結像レンズに関する。この撮像用結像レンズは、ビデオカメラやスチルビデオカメラに良好に利用できる。」

「【0003】また近来、固体撮像素子の各受光エレメントへの入射光量を増大させるため、各受光エレメント上に凸のマイクロレンズを形成することが行なわれているが、このような固体撮像素子とともに用いられる撮像用結像レンズでは、射出瞳ができるだけ像面から離れていることが望ましい。光軸に対して大きな角度をもって撮像面に入射する光は、上記マイクロレンズの開口により「ケラれ」、撮像面中心部に対し周辺部での光量不足を助長するので、軸外光束をなるべく撮像面に直交に近い状態で入射させるためである。」

「【0011】【作用】この発明の撮像用結像レンズは、射出瞳を像面から遠ざけるために、上記のように絞りを第1群の物体側に配置した所謂「前絞り」の構造を採用した。」

6 カメラによる2次元コードの読取りが可能であることを示す甲号証の記載
(1)甲第35号証(特開平8-249412号公報)
「【0003】このようなマトリックスコードを読み取る場合、CCDラインセンサの走査やCCDカメラによって2次元パターンを画像データとして入力し、この画像データ全体を解析して読み取る方法が一般に行われている。」

(2)甲第37号証(特開平5-334479号公報)
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、2次元バーコードを撮像素子により撮影し、撮影されたバーコード像からバーコード情報を読み取るバーコード読取装置に関する。」

「【0005】従来の結像光学系は、2次元バーコード10が印刷されるかまたは2次元バーコード10を表示したバーコードラベルが貼着された担持体の上方に図示しない支持ポストにより支持されたテレビカメラの結像レンズ12と例えばCCDの如き撮像素子14とを含んでおり、結像レンズ12と撮像素子14の光軸16上に2次元バーコード10が配置される。」

(3)甲第38号証(特開平6-96244号公報)
「【0002】【従来の技術】・・・また、最近では、より多くの情報を表現したい、より狭いところに貼りたい等の要求から、情報量の多い、記録密度の高い2次元バーコードシンボルも提案され始めている。・・・」

「【0006】・・・このバーコードシンボル読取装置は、カメラスタンド5,デコーダボックス6,及びモニタ9により構成されている。
【0007】このうち、上記カメラスタンド5は、ビデオカメラ2,該ビデオカメラ2を支える支柱3,及び操作者がバーコードシンボル1の記録されているシート或いは商品等を載せるベース板4により構成されている。」

7 「第7 当審の判断1・・」の「3 相違点の判断」の「(4) 相違点4について」における周知技術の認定に係る甲号証の記載(いずれも、図面の摘記は省略する。)
(1)甲第73号証(特開平9-62769号公報)
「【0016】以上のように構成した携帯型バーコードリーダの操作方法を説明すると、操作者が右利きの場合、例えば、図2に示すように、右手人差し指でトリガーキー30を操作し、バーコードリーダの読み取り動作を開始させる。あるいは、図3に示すように、左手親指でトリガーキー(M1)31を操作し、バーコードが読み取り不能等の場合には、ハウジングの把持部20を持ち換えることなく、右手の好みの指で数値キー部21の数値キーを操作して数値を入力することが可能となる。」

(2)甲第74号証(特開平5-233865号公報)
「【0019】さらに、上記表示部13は、省電力型の表示装置である液晶が用いられ、内部回路に接続され、文字等が表示できるようになっている。したがって、この表示部13に、読取り部11により読取った一連の数字からなるバーコード情報を、即座に表示させて、作業者が確認できるようになっている。
【0020】上記キー操作部14は、列状に配置された複数の数字キーや文字キーと、送信キー24とから構成され、文字および数値がキー入力できるようになっている。すなわち、リーダ2を操作する命令を入力するとともに、数文字キーにより上記のバーコード情報に、付加的な報告や注記事項等を付加したりすることができる。上記送信キー24は、上述したバーコード読取り作業終了時に、このキー24をプッシュすることにより、内部記憶装置に蓄積した読取りデータ等を、上記赤外線交信部15から、一括して赤外線発信できるようになっている。また、送信キー24を明示的に、押してデータ送信を指示するだけではなく、一回の読取り動作毎に、または、一定のデータが蓄積された後に、自動的に赤外線送信して、データ転送するようなモードに設定することもできる。」

(3)甲第75号証(特開平6-274667号公報)
「【0003】使用時は、図7(a)に示すように、操作者(右利きであるものとする)が右手で本体102を握り、バーコードラベル120のラベル面にバーコードリーダ103を対向させる。そして、右手親指でサイドキーK101を押しながら、バーコードに垂直な方向(図中、矢印で示す)にスキャンして、読み取りを行う。読み取り中に、数値キー106を押す必要が生じた場合には、本体102を右手から左手に持ち換えて、右手(利き腕側)の人差し指などで数値キー106を押す。これにより、例えばバーコードリーダ103が読み取り不能などの場合に、手動で数値を入力することができる。」

「【0010】例えば、操作者が右利きである場合、バーコードリーダユニットの先端が本体の右横(数値キーの面を手前にして)に突出するように設定する。使用時は、操作者(右利き)が左手で本体を握り、左手親指などで第1,第2のサイドキーのうち設定された側のサイドキーを1回押して、バーコードリーダユニットをスキャンして読み取りを行う。この後、再び左手親指などで上記サイドキーを1回押して、読み取りを終了する。読み取り中に、数値キーを押す必要が生じた場合には、本体を左手に持ったままで、右手(利き腕側)の人差し指などで数値キーを押す。これにより、必要な数値を手動入力する。このようにした場合、操作中に本体を持ち換える必要がなくなり、操作の能率が高まる。」

第7 当審の判断1(無効理由1-2(『ウェルチアレン社製IT4400(公然実施コードリーダ)』の発明を主引用発明とする無効理由)について:理由あり)
1 『IT4400(公然実施コードリーダ)』の発明について
(1)『IT4400(公然実施コードリーダ)』の発明の公然実施について
ア(ア)甲第47号証、甲第4号証の5、甲第57号証の1、甲第57号証の10等によれば、WelchAllyn社(以下「W社という。)が1997年6月及び7月に「Material」が「44001」であり「Material Description」が「4400LR-131」である製品をそれぞれ6台及び20台アイニックス社に対して出荷した旨、アイニックス社は、同年7月より同製品の輸入販売を開始し、具体的には、W社における同年6月及び7月の出荷に対応して同年7月7日に6台及び8月7日に20台の「IT4400」の「LR」の入庫があり、このうちの7月7日入庫分の6台のうち「デモ機」以外の5台が「キーエンス」、「ウェルキャット」、「JBCC」、「システム機器」に対して出庫され、8月7日の入庫前に残数が0台となっていたことが認められる。
してみると、本件特許の出願(1997年10月27日)に先立つ同年7月ないし8月に、アイニックス社がW社からIT4400リーダ(以下、「公然実施コードリーダ」という。)を輸入し、これを日本国内で他社に販売したことが明らかである。
(イ)この点、被請求人は、著作権表示等によればユーザーズガイドの発行が2000年以降である、アイニックス社から1997年7月に日本国内でIT4400が販売されたとすれば、日本語のユーザーズガイド等が必要であったはずだが、その存在を窺わせるものはない、等と主張している。
しかし、製品の日本での発売後にユーザーズガイドが改訂されたとしても不自然ではないし、また、W社からの製品の輸入が当初6台、20台、といった規模のものであったことに照らせば、当時の販売資料として示されたカタログ(甲4号証の7)に示された「取扱説明書」が日本語のものでなかったことも十分に考えられることである。よって、被請求人の主張は、上記の認定を覆すに足りないものである。

イ(ア)甲第4号証の6、甲第4号証の7等によれば、公然実施コードリーダは、QRコードを含むマトリックスコード、つまり、2次元バーコードの読み取りを行うことができるものであって、そのためのRS232C等のインターフェースや読み取りのために必要な制御回路を備えたものであり、また、甲第58号証の2によれば、ソニー社製ICX084AL(白黒撮像用であり、かつ、オンチップマイクロレンズを搭載したものである(甲第46号証、甲第49号証の2等)。以下、「公知センサ」という。)を備えたものである。
また、事実実験公正証書である甲第3号証等によれば、甲3製品も、「公知センサ」を備えたものであるとともに、さらに光学系として3枚のレンズからなる結像レンズ及びこれらのレンズの間の絞りを備えたものである。
そして、1997年当時W社においてIT4400の設計開発に従事していた者の陳述書である甲58号証等によれば、公然実施コードリーダも光学系として3枚のレンズからなる結像レンズ及びこれらのレンズの間の絞りを備えたものであったこと、及び、公然実施コードリーダと甲3製品とは、いずれも、W社のデータコレクション・ディビジョンを承継したハネウェル社において「第1世代」、「第3世代」のものと区別して保管されている「第2世代」の製品に属するものであり、この「第2世代」の製品は、具体的な型番や製造年月日に関わらず、公知センサを備え、光学系として3枚のレンズからなる結像レンズ及びこれらのレンズの間の絞りを備えたものであったことが認められる。
以上によれば、公然実施コードリーダは、甲3製品と同様に、少なくとも、QRコードを含む2次元バーコードの読み取りのために必要な制御回路を備えたものであること、受光素子毎に集光レンズが設けられたエリアセンサであるソニー社製ICX084AL(公知センサ)を備えたものであること、及び、光学系として3枚のレンズからなる結像レンズとこれらのレンズ間に配置された絞りを備えたものであること、が認められる。
(イ)この点、被請求人は、アイニックス社が1997年7月に発売した「IT4400」についての月刊バーコード誌の広告写真(乙2)と乙1製品及びこれと同様の製品である甲3製品(及び甲45製品)との間には、上面の穴の有無、グリップ底部の係合穴の有無、上面の発光部の色と形、上面の「WelchAllyn」の名称の態様において相違しており、具体的形態その他において相違しているから、甲3製品(及び甲45製品)は、1997年7月に発売した「IT4400」と同一の製品ではないと主張している。
しかし、外観の細かいところや名称の表示の態様の変更は、必ずしもエリアセンサや光学系の変更を伴うものではないから、これらの変更があったことは、エリアセンサや光学系の変更がなされたことの根拠にならないし、甲58号証の陳述書の信憑性を失わせるものでもない。

ウ 甲第3号証(事実実験公正証書中の写真)、甲第4号証の3、甲第4号証の7、甲第57号証の6、甲第58号証の1等によれば、公然実施コードリーダは、いわゆるガンタイプのコードリーダであって、そのケースは、結像レンズを含む光学系や制御回路が形成された基板を配置された本体部分と本体部分の下面後部からさらに後方斜めに向けて形成されて把持部となるグリップ部分とからなり、さらにグリップ部分のこれを把持した手の人差指が位置する箇所に読取スイッチを備えるものであり、他方、キーパット及び液晶ディスプレイは、ケースの本体部分とグリップ部分のいずれにも備えられていない。
また、甲57号証の6等の記載によれば、公然実施コードリーダは、読取用の光源として波長が660nmである可視光LEDを備えており、波長が660nmである可視光は赤色光であるから、公然実施コードリーダは、そのケース内に配置された読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段を備えるものである。

(2)『IT4400(公然実施コードリーダ)』の発明(以下、「公然実施コードリーダの発明」という。)の認定について
(1)のア及びイで上述したように、公然実施コードリーダは、少なくとも、QRコードを含む2次元バーコードの読み取りのために用いられ、受光素子毎に集光レンズが設けられたCCDエリアセンサであるソニー社製ICX084AL(公知センサ)を備え、光学系として3枚のレンズからなる結像レンズとこれらのレンズ間に配置された絞りを備えたものであり、さらにRS232C等のインターフェースや読み取りのために必要な制御回路を備えたものである。
また、(1)のウで上述したように、公然実施コードリーダは、そのケース内に配置された読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段を備えるものである。
よって、次のとおりの発明(以下、「公然実施コードリーダの発明」という。)が、本件特許の出願前に日本国内で公然実施されたものと認められる。

(公然実施コードリーダの発明)
TJ’ 本体部分と把持部となるグリップ部分とからなるケースと、
TM’ 前記ケースのグリップ部分に設けられ、前記読み取り対象の読取りのスイッチとなる読み取り用スイッチと、
TN’ 前記ケース内に配置され、読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段と、
A 複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
B 前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた、CCDエリアセンサである、光学的センサと、
C 該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
D’RS232C等のインターフェースや読み取りのために必要な制御回路と、
E を備える、
QRコードを含む2次元バーコードの読み取りのために用いられるコードリーダ。

2 対比
(1) 本件特許発明と公然実施コードリーダの発明とを対比すると、下記の審決の予告の一致点(審決の予告の「第6 当審の判断1」の「2 対比」において「一致点」とした点)で一致する。

<審決の予告の一致点>
A 複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
B 前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
C 該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
D”前記光学的センサからの出力信号に基づく結果を出力する制御装置と、
E(H)を備える光学情報読取装置

(2) 公然実施コードリーダの発明は、そのケースが本体部分と把持部となるグリップ部分とからなるものであって、本件特許発明のようにケースそのものが「操作者が手で握るための把持部として機能」するものとはいえず、また、読み取り用スイッチの配置位置が「ケースの側面」ではないものの、ケースと、読み取り対象の読取りのスイッチとなる読み取り用スイッチを備えるものである点においては、本件特許発明と共通している。

(3) 公然実施コードリーダの発明の結合レンズを含む光学系と制御回路は、ケース内に配置されたものであって、この点においても、本件特許発明と共通している。

(4) 本件特許発明は、「ケースの上面に設けられ、情報を入力するためのキーパット」と「ケースの上面に設けられる表示液晶ディスプレイ」とを備えるのに対し、公然実施コードリーダの発明は、これらを備えていない点で、両者は相違している。

(5) 本件特許発明と公然実施コードリーダの発明とは、いずれも、「前記ケース内に配置され、読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段」を備えている点において、一致している。

(6) してみると、本件特許発明と公然実施コードリーダの発明とは、以下の一致点で一致する。

<一致点>
TJ’ ケースと、
TM’ 読み取り対象の読取りのスイッチとなる読み取りスイッチを備え、
TN 前記ケース内に配置され、読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段と、
TA 前記ケース内に配置され、複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
B 前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
C 該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
TD” 前記ケース内に配置され、前記光学的センサからの出力信号に基づく結果を出力する制御装置と、
E(H)を備える光学情報読取装置

(7) そして、以下の相違点1?4で相違する。
(うち、相違点1?3は、審決の予告の「第6 当審の判断1」の「2 対比」において示した相違点1?3に対応している。本件訂正請求により追加された部分に係る対比部分に下線を付す。)

<相違点>
(相違点1)
本件特許発明は、「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して入射する前記読み取り対象からの反射光が斜めになる度合いを小さくして、適切な読取りを実現し」た(構成TF)ものであるのに対し、公然実施コードリーダの発明は、このような構成を有していない点。

(相違点2)
本件特許発明は、「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」(構成G)ものであるのに対し、公然実施コードリーダの発明は、このような構成を有していない点。

(相違点3)
本件特許発明は、制御装置として、「前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置」(構成TD)を備えるのに対し、引用発明は、RS232C等のインターフェースやQRコードを含む2次元バーコードの読み取りのために必要な制御回路を備える点。

(相違点4)
本件特許発明は、ケースが「操作者が手で握るための把持部として機能する(構成TJ)」ものであり、読み取りスイッチが「前記ケースの側面に設けられ(構成TM)」ものであるとともに、「このケースの上面に設けられ、情報を入力するためのキーパット(構成TK)」と「前記ケースの上面に設けられる表示液晶ディスプレイ(構成TL)」とを備えるのに対し、引用発明は、ケースが本体部と把持部となるグリップ部分とからなるものであり、読み取りスイッチがケースの側面に設けられておらず、さらに、ケース上面に設けられたキーパット及び表示液晶ディスプレイを備えない点。

3 相違点の判断
(1)相違点1について
ア 請求人のいう周知技術2について
「第6」の「5」において上述した甲第12号証、甲第13号証及び甲第15号証の記載によれば、これらは、いずれも、『受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ』の使用により、その周辺部にある集光レンズに入射する光束の入射角が中心部にある集光レンズに入射する光束の入射角と比べて傾くことによって中心部の受光素子の光量に比べて周辺部にある受光素子の光量の相対的な不足が生ずることから、これに対応するために、「絞り」を「全てのレンズの前面(読取対象側)」に配置することを記載したものである。(被請求人も、甲第12号証ないし甲第15号証がマイクロレンズ付き固体撮像素子の周辺部の光量不足を絞りを前配置にすることで対応したものであるとしている。被請求人口頭審理陳述要領書(2)11頁)
このことから、「受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」を備えたカメラ等の装置において、中心部に比した周辺部の受光素子の光量の相対的な不足に対応するために「絞り」を「全てのレンズの前面(読取対象側)」に配置することは、周知技術である。
(なお、請求人が示す周知技術2の認定にかかる甲号証のうち、甲第11号証は、被請求人も主張するように「受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」を備えたカメラ等の装置において、中心部に比した周辺部の受光素子の光量の相対的な不足に対応するために「絞り」を「全てのレンズの前面(読取対象側)」に配置することを記載したものではなく、甲第7号証、甲第11号証、甲第16号証及び甲第17号証についても、同様である。)

公然実施コードリーダの発明において周知技術2を採用することの動機づけについて
(ア)上述した甲第12号証、甲第13号証及び甲第15号証の記載によれば、『受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ』の使用により、その周辺部にある集光レンズに入射する光束の入射角が中心部にある集光レンズに入射する光束の入射角と比べて傾くことによって中心部の受光素子の光量に比べて周辺部にある受光素子の光量の相対的な不足が生ずるものである。そして、このような周辺部の光量の不足は、甲第10号証にみられるような周辺部受光素子の光量を補うためのセンサの集光レンズの工夫のようなセンサ側の工夫がない限り、「受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」の使用に伴って必然的に生ずるものであり、センサの応用分野がカメラとコードリーダのいずれの場合であるかに関わらず生ずるものである。
そして、公然実施コードリーダは、「受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」である公知センサを備えてこれを使用するものであり、さらに、公知センサに関する記事(甲第1号証、甲第43号証)において周辺部の光量の不足が生じないことを特徴とする旨の記載がないことに照らせば、この公知センサは、甲第10号証のような周辺部受光素子の光量を補うためのセンサの集光レンズの工夫を備えたものではないと認められる。これらを踏まえれば、公然実施コードリーダは、光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して入射する読み取り対象からの反射光が斜めになる度合いを小さくすることによって適切な読取りが実現されるという観点に照らした課題である、その周辺部にある集光レンズに入射する光束の入射角が中心部にある集光レンズに入射する光束の入射角と比べて傾くことによって中心部の受光素子の光量に比べて周辺部にある受光素子の光量の相対的な不足が生ずるという課題を内在するものである。

(イ)公然実施コードリーダにかかるニュースリリースである甲第4号証の6によれば、公然実施コードリーダは、「デジタルカメラの原理」を採用した2次元コードリーダであり、また、カメラによる2次元コードの読取りが可能であること(「第6」の「6」)に照らしても、2次元コードリーダがカメラの技術を用いることができないような異なる技術分野のものであるということはできないし、カメラにおいて公知センサのような「受光素子毎」の「集光レンズ」が設けられたものを用いることで中心部に比べ周辺部において光量の相対的な不足が生ずるのであれば、2次元コードリーダにこれを用いる場合にも同様の光量の不足が生ずることが予想されるといわざるを得ない。
してみると、公然実施コードリーダは、「デジタルカメラの原理」を応用したものであるから、少なくともカメラの技術であるアで認定した周知技術を採用することは動機づけられるのであり、周知技術が公然実施コードリーダと異なる技術分野のものであるとはいえない。
この点、被請求人は、甲4の6が宣伝用のニュースリリースであって技術書類でない等と主張する。
しかし、公然実施コードリーダにかかるニュースリリースは、それが技術書類でなくともそこに記載された内容が事実と異なることにはならないのであって、カメラの技術の採用の動機づけを示すものでないとはいえない。

(ウ)被請求人は、2次元コードリーダにおけるセンサ周辺部の光量不足に起因する課題は、本件特許発明の発明者が初めて見いだしたものである、IT4400の設計者はこれに気がついていなかった、等と主張している。
しかし、(イ)で上記したように、公然実施コードリーダは「デジタルカメラの原理」を採用した2次元コードリーダであり、しかも、センサ周辺部における光量の相対的な不足は、センサの用途によってではなくセンサとして「受光素子毎」の「集光レンズ」が設けられたものを用いることよって生ずるのであるから、2次元コードリーダにおいてもカメラにおいてと同様にセンサ周辺部の光量不足に起因する課題が生ずることは、当業者が予測できたものであるといわざるを得ない。
この点に関連して、被請求人は、審決の予告の「第6 当審の判断1」の「3 相違点の判断」の「(1)相違点1について」の「イ」の「公然実施コードリーダは、その周辺部にある集光レンズに入射する光束の入射角が中心部にある集光レンズに入射する光束の入射角と比べて傾くことによって中心部の受光素子の光量に比べて周辺部にある受光素子の光量の相対的な不足が生ずるという課題を内在する」旨の説示について、本件特許発明を理解した上での後知恵の手法であり、公然実施コードリーダのようなガンタイプのコードリーダでは、ケースにキーパッチも液晶ディスプレイも設けられておらず、光学モジュールに求められるコンパクト化のニーズが大きくなく、周辺部の光量不足の課題は顕在化しておらず認識されていなかった等と主張し(訂正請求書(補正前)13?20頁、上申書)、また、後述する相違点4の判断に係る文脈でも、相違点4が甲12、甲13、甲15の技術を組み合わせる動機付けがないことをより明らかにするものである旨を主張している(同21?22頁)。
しかし、審決の予告で説示したように、周辺部の光量の不足は、センサ側の工夫がない限り、「受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」の使用に伴って必然的に生ずるものであり、センサの応用分野がカメラとコードリーダのいずれの場合であるかに関わらず生ずるし、ガンタイプのコードリーダも操作者が手で握って操作するものであるからコンパクト化のニーズがないとはいえない。
なお、審決の予告の「第6 当審の判断1」の「3 相違点の判断」の「(1)相違点1について」の「イ」の「(ウ)」で検討した主張について訂正請求書(補正前)及び上申書(2)において補足された内容についてみても、「中心部に比した周辺部の光量の相対的な不足と被請求人が主張する設計思想の違いとの関係」を明らかにするものでないし、「絞り」を「全てのレンズの前面」に配置すると視野角が制限され撮像範囲が狭くなりビデオカメラでは不都合である旨もビデオカメラにおける周知技術を公然実施コードリーダの発明に適用することを阻害する事情にならないから、いずれも、相違点1が容易想到である旨の論旨に対する主張として、失当である。

(エ) 被請求人は、ビデオカメラ装置等では、全体の像がはっきりと映ることが必須事項として求められるのに対し、2次元コードリーダでは必ずしもシャープな像は必要ではない、あるいは、カメラと2次元コードリーダとでは、「被写体深度」や「過焦点距離LH」と撮像対象の位置との関係等においてレンズや絞りの設計思想が2次元コードとビデオカメラで異なる、等と主張している。
しかし、(ア)で示した課題は、「受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」を用いたことによって生ずるのであるから、センサの用途がカメラかそれ以外かにかかわらず問題となり得るのであり、2次元コードリーダでは問題となり得ないわけではない。また、「被写体深度」や「過焦点距離LH」と撮像対象の位置との関係等におけるレンズや絞りの設計思想の違いとして被請求人が主張する内容は、中心部に比した周辺部の光量の相対的な不足と被請求人が主張する設計思想の違いとの関係が明らかでないから、カメラにおいては生ずるセンサ周辺部の光量不足に起因する課題が2次元コードリーダでは課題とならないことを説明するものとなっていない。
してみると、いずれの主張も、(ア)(イ)において示した相違点1が容易想到である旨の論旨に対する、動機づけの欠如又は阻害要因の存在の主張として失当である。

(オ) 被請求人は、審決の予告の「第6 当審の判断1」の「3 相違点の判断」の「(1)相違点1について」の「ア」の、「「受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」を備えたカメラ等の装置において、中心部に比した周辺部の受光素子の光量の相対的な不足に対応するために「絞り」を「全てのレンズの前面(読取対象側)」に配置すること」が周知技術である旨の説示について、これが周知技術であれば市販製品は全て前絞りを採用すると思われるが、実際に販売されたビデオカメラにおいて「絞り」を「全てのレンズの前面」に配置するものは存在しないから、周知技術との認定は誤りである、と主張する。(訂正請求書(補正前)12?13頁、上申書(2))
しかし、周知技術であれば市販製品に採用されるという前提が必ずしも成り立たないことが明らかであるから、被請求人の主張は、周知技術の認定が誤っていることの根拠を示すものとなっていない。
なお、被請求人は、周知技術の認定誤りの主張に併せて、甲12、甲13及び甲15の技術の組合せの動機づけは個別に判断すべきである等とも主張している(上申書(2)3?7頁)が、上述したとおり、周知技術の認定に誤りはなく、認定された周知技術を離れて個別に動機づけを判断すべき理由はない。

(カ) 被請求人は、本件特許発明の「前記ケース内に配置され、読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段(構成TN)」に関連して、赤色光は単波長に近く、結像レンズの結像位置の設計も赤色光の波長を基本に行うことができ、発光手段はその光量や照射の方向を適切な値に設計することができる、等とも主張している。(同訂正請求書(補正前)17頁、上申書(2))
しかし、上述したとおり、公然実施コードリーダも本件特許発明の「前記ケース内に配置され、読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段(構成TN)」に相当する構成を備えており、この点は相違点ではなく一致点である。被請求人の主張する作用効果は、相違点に係るものではなく、さらには、赤色光であれば上述した公然実施コードリーダに内在する課題が存在しないともいえないから、このことは、容易想到性を否定する根拠にならない。

(2)相違点2について
ア 相違点2にかかる構成Gは、構成Fが規定する絞りの配置を更に限定するものであり、露光時間などの読取時の調整がなされ得ることを前提として、中心部と周辺部のいずれにおいても読取が可能となるような位置に射出瞳が設定されるように、構成Fの絞りが配置されることを規定している。
そして、(1)において上述したように、公然実施コードリーダの発明において「絞り」を「全てのレンズの前面(読取対象側)」に配置するという周知技術を採用することは容易想到であるところ、この周知技術が受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサにおける中心部に比した周辺部の受光素子の光量の相対的な不足に対応するためのものであることに照らせば、(1)アで認定した周知技術を採用して絞りの配置を行う際、中心部と周辺部のいずれにおいても読取が可能となるような位置に射出瞳が設定される位置に配置することは、当業者が当然に考慮すべきことである。
イ この点、被請求人は、構成Gは、中心部の受光素子からの出力に対する周辺部の受光素子からの出力の比が「所定値」以上であることを規定しているところ、この「所定値」は、ビデオカメラやスチルビデオカメラでの値と同一ではない等と主張している。
しかし、構成Gの「所定値」は、中心部に位置する受光素子からの出力信号を2値化するために用いられる閾値に基づいて周辺部に位置する受光素子からの出力信号を2値化することが可能であるように設定されている必要があるものの、それ以上の意味を含んでいない。(1)イ(イ)において上述したように、カメラによる2次元コードの読取りが可能であることに照らせば、構成Gは、「所定値」をカメラによる撮像が可能となる値と同一ではない値とすることまでを規定したものではない。さらには、本件特許の明細書においても、カメラによる撮像が可能となる値と区別される「所定値」がどのようなものかについての開示がなされているものでもない。してみると、請求人の主張は、本件特許の特許請求の範囲と明細書のいずれに基づくものでもなく、採用することができない。

(3)相違点3について
「第6」の「1」に示した甲第5号証の記載によれば、QRコードの読み取りのために、光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力することは、公知技術である。(被請求人もこの点を争っていない。)
そして、公然実施コードリーダは、QRコードを含む2次元バーコードの読み取りのためのものであり、そのために必要な制御回路を備えるものである。
してみると、公然実施コードリーダの発明においてこの公知技術を採用し、制御装置として、光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

(4)相違点4について
情報読取装置において、操作者が手で握るための把持部として機能するケースと、読み取り不能の場合等に手で情報を入力するために、このケースの上面に設けられるキーパットと、読み取られたり入力された情報を表示するために、前記ケースの上面に設けられる表示液晶ディスプレイと、前記ケースの側面に設けられ、前記読み取り対象の読取りのスイッチとなる読み取り用スイッチとを備えることは、周知技術であると認められる。
このことは、いずれも本件特許の特許出願前に公開された特許公報である、特開平9-62769号公報(甲第73号証)の【0016】及び【図1】、特開平5-233865号公報(甲第74号証)の【0019】、【0020】及び【図2】、特開平6-274667号公報(甲第75号証)の【0003】、【0010】、【図1】及び【図2】に示されたところから、明らかである。
そして、引用発明とこの周知技術とは、いずれも光学情報読取装置についてのものであって技術分野が同じであり、引用発明も光学的に情報を読み取るものである以上、読み取り不能の場合等における情報を手入力したり、読み取られ入力された情報を確認したりすることが必要であるという課題を内在しており、周知技術が引用発明に内在する課題を解決するためのものであるという関係であるともいえる。
してみると、引用発明において、これに内在する課題を解決するために、引用発明と同じ技術分野に属するものであり、この周知技術を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

(5) まとめ
以上のとおり、本件特許発明と公然実施コードリーダの発明との相違点は、公然実施コードリーダの発明に(1)ア及び(4)で認定した周知技術及び(3)で認定した公知技術を組み合わせることによって容易になし得たものである。
また、そのような組合せによる効果も当業者が予想すべき範囲のものである。
よって、本件特許発明は、公然実施コードリーダの発明、甲第5号証に記載した技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 小括
以上によれば、本件特許発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法第123条第1項第2号が規定する無効理由を有するものである。
よって、無効理由1-2は、理由がある。

第8 当審の判断2(無効理由1-2以外について:理由なし)
本件訂正請求は、訂正前の請求項1に係る発明について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を行うものであるところ、審決の予告の「第7 当審の判断2(無効理由1-2以外について:理由なし)」において説示したとおり、訂正前の請求項1に係る発明について、無効理由1-2以外の無効理由は理由がないから、本件特許発明についても、これらの無効理由は、理由がない。
以下、これらの無効理由について、審決の予告の説示の要点を示す。

1 無効理由1-1(『ソニー社製ICX084AL(公知センサ)を用いた2次元バーコードリーダ』の発明を主引用発明とする無効理由)について
(1)『ソニー社製ICX084AL(公知センサ)を用いた2次元バーコードリーダ』(以下、「公知センサを用いた2次元コードリーダ」という。)の公知性について
ア 甲第1号証、甲第2号証の2によれば、「電子スチルカメラ、PC画像入力、二次元バーコードリーダ、FA用カメラなど」を用途とする「全画素読み出し方式CCD」であるICX084AL(公知センサ)は、ソニー株式会社により日本国内向けに製造され販売されていたものと認められる。
また、甲第46号証、甲第49号証の2によれば、このICX084AL(公知センサ)は、白黒撮像用であり、かつ、オンチップマイクロレンズを搭載したものである。

イ しかし、「公知センサを用いた2次元コードリーダ」が本件特許に係る出願前に日本国内で公知であったとの請求人の主張については、そのように認定すべき根拠が見当たらない。
(ア)特許出願前に頒布された刊行物に公知センサを用いた製品を例示する形式で公知センサの用途が記載されていたとしても、そのような記載は例示された製品において具現化された発明を示すものとはいえないし、2次元バーコードリーダを例示する形式で公知センサの用途が示されたことによっては、2次元バーコードリーダが公然実施されたことにもならない。
よって、甲第1号証や甲第2号証の2において2次元バーコードリーダを例示する形式で公知センサの用途が記載されていたとしても、「公知センサを用いた2次元コードリーダ」が本件特許に係る出願前に公知発明であったと認定することはできない。

(イ)請求人は、無効理由1-1に係る「公知センサを用いた2次元コードリーダ」の国内公知の根拠として、IT4400コードリーダが公知センサを用いた製品であり、これが日本国内で販売されていた旨を主張している。
この主張は、無効理由1-2に係る「公然実施コードリーダ」の発明の国内公然実施の事実の主張そのものであるから、無効理由1-1に係る「公知センサを用いた2次元コードリーダ」の根拠の主張としては失当である。

ウ 以上のとおり、無効理由1-1における「公知センサを用いた2次元コードリーダ」の国内公知を認定することはできないのであり、無効理由1-1は、これが国内公知であることを前提としたものであるから、前提において失当であり、理由がない。

(2)事案に鑑み、本件特許発明が国内公知発明(又は国内公然実施発明)であった「公知センサ」の発明を主引用発明として容易想到であるか否かを検討する。
「公知センサ」は、「3」において後述する甲第6号証と同様に、これに記載された発明を起点として本件特許発明の上記の相違点が容易想到であるとする際の論理づけに不可欠な前提である、二次元コードの読み取りのための光学系としての結像レンズや絞りについて示すものでないのみならず、そもそも光学情報読取装置ではない。「公知センサ」において、結像レンズと絞りからなる光学系を備えた光学情報読取装置が明示するまでもないものであると認定する根拠も見当たらない。
このことから、「公知センサ」は、結像レンズと絞りの配置等の工夫による課題解決の前提を欠くものであって、これを主引用発明として結像レンズと絞りの配置等の工夫による課題解決が容易想到である旨を導くことは困難である。
してみると、本件特許発明は、「公知センサ」の発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
以上によれば、無効理由1-1は、理由がない。

2 無効理由2-1(甲第5号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
(1)甲5発明の認定
甲第5号証の記載事項(「第6」の「1」)によれば、甲第5号証には、図17の読取り装置に係る、次の発明が記載されている。

(甲5発明)
TVカメラ等であるCCDカメラと、CPU、ROM、RAM、I/Oを有し、CCDカメラにて二次元コードを読み取ることにより開始される読み取り処理を行い、二次元コードからデータが得られると、このデータに基づいて所定の制御を実施するホストコンピュータにデータ送信する、デコーダと、からなる読取り装置であって、
この読み取り処理は、CCDから読み込まれた画像の2値化、2値化された画像のメモリへの格納、周波数成分比のパターンが存在することの検出を含む2値画像からの位置決めシンボルの検出等、各データセルの白・黒の判別、を含むものである、
読取り装置

(2)対比
ア 本件特許発明と甲5発明とを対比すると、両者は、少なくとも、次の点で、相違する。

(相違点)
本件特許発明は、「A 複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」、「C 該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」を備え、その光学センサが「B 当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものであり、「F 前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」たものであり、「G 前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものであるのに対し、甲5発明においては、これらに対応する構成を備えていない点。

(3)判断
本件特許発明の構成F及び構成Gは、構成Bの光学センサが「当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものであることによって生ずる課題(光学センサの中央部に比した周辺部の光量不足)を結合レンズと絞りの配置等の工夫によって解決するためのものである。
これに対して、甲第5号証は、いわゆる「QRコード」の基本的な構造や読取のための信号処理等を示す文献であって、光学センサとして受光素子毎に集光レンズが設けられたものを採用することについて記載したものでなく、また、二次元コードの読み取りのための光学系としての結合レンズや絞りについて具体的に記載したものでもない。
そうすると、甲第5号証は、これに記載された発明を起点として本件特許発明の構成F及び構成Gに係る相違点(相違点2-1-2及び2-1-3)について容易想到であるとする際の論理づけの前提となる上記の課題を記載したものでなく、また、甲第5号証に記載がない構成Bの光学センサとして受光素子毎の集光レンズが設けられたものを採用しなければ上記の課題が生じ得ないことに照らせば、甲第5号証は、この課題を暗示する内容を記載したものですらない。この点、請求人の主張する容易想到の論理づけでも、相違点2-1-2(構成A、C、F)について容易想到であるとする際の課題は、甲第5号証に記載がない「受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」を「光学情報読取装置に使用する場合」について生ずる旨が示されており(審判請求書123頁17頁乃至21頁)、請求人の主張も、甲第5号証にこの課題が示されていないことを前提としている。
さらには、甲第5号証は、結合レンズと絞りの配置等の工夫による解決の前提となる、二次元コードの読み取りのための光学系としての結像レンズや絞りについての具体的な開示をも欠いたものである。この点、甲第5号証には、明示がないにとどまらず、甲第5号証の光学情報読取装置において結像レンズと絞りからなる光学系が明示するまでもなく存在することを認定する根拠も見当たらない。請求人も、「2次元バーコードリーダが、読取対象からの反射光を光学的センサで読み取るために、絞りや複数のレンズを備えることは周知であった」(審判請求書123頁15行乃至16行)との一般論を示すにとどまり、甲第5号証の文脈においてここで記載された光学情報読取装置における結像レンズと絞りからなる光学系の存在を認定する根拠を示していない。よって、甲第5号証においては、結像レンズと絞りの配置等の工夫による課題解決の前提となる、光学系としての結像レンズと絞りの存在を示す開示がないという観点からも、この文献を主引用発明として結像レンズと絞りの配置等の工夫による課題解決が容易想到である旨を導くことは困難である。
してみると、甲第5号証は、これを起点とした相違点について容易想到である旨の論理づけに不可欠な内容を示すものでないから、これに記載された発明に基づいて本件特許発明が容易想到である旨の論理づけをすることができない。

(4)小括
以上によれば、無効理由2-1は理由がない。

3 無効理由2-2(甲第6号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
(1)甲6発明の認定
ア 甲第6号証の記載事項(「第6」の「2」)によれば、甲第6号証には、図4、図5に示された従来構造のCCD固体撮像素子に係る、次の発明が記載されている。

(甲6発明)
受光部の上部に光を集光するオンチップレンズが形成された正方形の形状のユニットセルが複数形成されたCCD固体撮像素子であって、
オンチップレンズは、平行光が集光されるように形成されたものであるが、カメラレンズの絞りや射出瞳特性等により一部集光されない光があるものであり、
受光部開口が水平方向(H方向)より垂直方向(V方向)が長い長方形であってH方向とV方向とで入射する斜め光の量及び入射方向の限界が異なることによって画像に歪みが生じ、特に、OCR等の光学式読みとりに用いる場合には、受光量を多くすることや画像の明度を上げることよりも、受光部の解像度を上げて読みとり精度を向上させることが望まれるところ、画像に歪みが生じていると、高精度の読みとりを行いことができない、
CCD固体撮像素子。

イ なお、甲第6号証における「カメラレンズの絞りや、射出瞳特性等により一部集光されない光がある」旨の記載は、その前の「オンチップレンズ」の属性を示すためのものであるし、「OCR等の光学式読みとりに用いる場合」の記載は、その後の「受光量を多くすることや画像の明度を上げることよりも、受光部の解像度を上げて読みとり精度を向上させることが望まれる」のがどのような場合であるかを示すためのものであって、いずれも、CCD固体撮像素子を説明する文脈において「カメラレンズ」「絞り」「OCR等の光学式読みとり」の文言を用いたにすぎず、本件特許発明の構成Aの「結像レンズ」、構成Cの「絞り」を備えた構成E(H)の「光学情報読取装置」に対応する構成が記載されていると認定することはできない。
よって、甲6発明は、アで上述したものにとどまり、「CCD固体撮像素子」の構成と区別して「カメラレンズ」と「絞り」とを備えた「OCR等の光学式読みとり」を行う装置の発明を認定することはできない。

(2)対比
ア 本件特許発明と甲6発明とを対比すると、両者は、少なくとも、次の点で、相違する。

(相違点)
本願発明は、(光学的センサのみならず)「A 複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」、「C 該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」、「D 前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置」を備え、「F 前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」かつ「G 前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにし」たものである「E(H) 光学情報読取装置」であるのに対し、甲6発明は、「光学的センサ」である「CCD固体撮像素子」であって「E(H) 光学情報読取装置」ではなく、さらに、本件特許発明の構成A、C、Dを備えておらず、構成F、Gを有しない点。

イ なお、請求人は、本件特許発明の構成A,C,E(H)について、これらが相違点ではなく一致点である旨を主張している。
しかし、(1)イにおいて上述したとおり、甲6発明として、「CCD固体撮像素子」の構成と区別して「カメラレンズ」と「絞り」とを備えた「OCR等の光学式読みとり」を行う装置の発明を認定することはできないから、本件特許発明の構成A,C,E(H)については相違点である。
原告主張は、甲第6号証の記載に即したものでなく、失当である。

(3)判断
ア 請求人が主張する容易想到の論旨は、本件特許発明の構成A,C,E(H)が一致点であることを前提とするものであるところ、(2)イにおいて上述したとおり、この点は相違点であるから、請求人が主張する容易想到の論旨は成り立たない。

イ また、無効理由2-1について上述したとおり、本件特許発明の構成F及び構成Gは、構成Bの光学センサが「当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものであることによって生ずる課題を結合レンズと絞りの配置等の工夫によって解決するためのものである。
これに対し、甲第6号証は、「CCD固体撮像素子」を「OCR等の光学式読みとりに用いる場合」のうち、集光レンズが設けられた受光素子毎の受光部開口部の形状が長方形であることにより生ずる画像の歪みによる読みとり精度の低下という課題に着目して、これをCCD固体撮像素子の受光部開口部の形状を正方形や円形等の形状とすることにより解決する旨を開示する文献である。甲第6号証には、CCD固体撮像素子のオンチップレンズに「カメラレンズの絞りや射出瞳特性等により一部集光されない光がある」という性質がある旨の記載があるものの、この記載は、甲第6号証における上記した課題を示す文脈におけるものであって、CCD固体撮像素子の中央部に比して周辺部について光量の増加や光量低下の抑制を行うことを示唆するものではないし、そのために素子ではなく光学系に工夫を行うべき旨を示唆するものでもない。(2)イにおいて上述したとおり、「OCR等の光学式読みとり」の記載もこれを行う装置を認定できる内容の開示ではない。
そうすると、甲第6号証は、これに記載された発明を起点として本件特許発明の上記の相違点が容易想到であるとする際の論理づけに不可欠な前提である、二次元コードの読み取りのための光学系としての結像レンズや絞りについて具体的に記載していないのみならず、そもそも光学情報読取装置を記載したものでなく、さらには、結像レンズと絞りからなる光学系を備えた光学情報読取装置が明示するまでもないものであると認定する根拠も見当たらないから、結像レンズと絞りの配置等の工夫による課題解決の前提となる開示を欠くものであって、この文献を主引用発明として結像レンズと絞りの配置等の工夫による課題解決が容易想到である旨を導くことは困難である。
してみると、甲第6号証は、これを起点とした相違点について容易想到である旨の論理づけに不可欠な内容を示すものでないから、これに記載された発明に基づいて本件特許発明が容易想到である旨の論理づけをすることができない。

(4) 小括
以上によれば、無効理由2-2は、理由がない。

4 無効理由2-3(甲第7号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
(1)甲7発明の認定
ア 甲第7号証の記載事項(「第6」の「3」)によれば、甲第7号証には、結像レンズ装置により光学系が構成された指紋照合装置に係る、次の発明が記載されている。

(甲7発明)
結像レンズ装置により光学系が構成され、結像レンズ装置のレンズにより形成された手指の像をこの像が形成される面上に受像面を位置させて配設され固体撮像素子(CCD)により撮像する指紋照合装置であって、
照合対象指紋の像と、予め記憶されている参照指紋の形状とを比較することにより、これらが同一の指紋であるか否かの判別を行うものであり、
固体撮像素子の受像面の全面に亘って複数のマイクロレンズが配設されており、この受像面を光軸に対して傾斜させることによりこの受像面に対する光束の入射角度が所定角度以下となる領域が生ずると、この領域では光束が受光されないこととなり、
結像レンズ装置により形成される像の歪曲収差や台形歪みによって正確な指紋照合が行えなかったり照合率の低下が招来されることから、このような歪曲収差や台形歪みを充分に抑制するために、
結像レンズ装置として、絞りと、この絞りの前方側に位置され該絞り上に後側焦点位置を位置させ物空間においてテレセントリック光学系を構成している第1のレンズ群と、該絞りの後方側に位置され、該絞り上に前側焦点位置を位置させ像空間においてテレセントリック光学系を構成している第2のレンズ群を備えたものを用いた、
指紋照合装置。

イ この点、請求人は、甲第7号証における「指紋照合装置」は用途の例示にすぎない旨を主張する。しかし、甲第7号証は、「結像レンズ装置により形成される像の歪曲収差や台形歪み」によって「正確な指紋照合が行えなかったり照合率の低下が招来される」という指紋照合装置に特有の課題を記載し、その解決手段としてアに示した「絞り」「第1のレンズ群」「第2のレンズ群」等を記載したものであって、指紋照合装置以外の2次元コードリーダのような光学情報装置に一般化できる内容は記載されていない。

(2)対比
ア 本件特許発明と甲7発明とを対比する。
甲7発明の「第1のレンズ群及び第2のレンズ群」、「固体撮像素子」、「絞り」は、それぞれ本件特許発明の「結合レンズ」、「光学的センサ」、「絞り」に相当する。
甲7発明の「指紋照合装置」は、指紋の情報を光学的に読み取る装置であるという意味では「光学情報読取装置」であるといえるから、両者は、少なくとも、次の点で相違する。

(相違点)
(相違点1)本件特許発明は、「前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置」(構成D)を備えるのに対し、甲7発明は、照合対象指紋の像と、予め記憶されている参照指紋の形状とを比較することにより、これらが同一の指紋であるか否かの判別を行うものであって、構成Dを備えない点
(相違点2)本件特許発明は、「F 前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」、「G 前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものであるのに対し、甲7発明は、「絞り」が結合レンズの一部である「第1のレンズ群」の後方に位置するものであって、構成Fと構成Gを有しない点。

イ 請求人は、甲7発明は、「絞り」が読み取り対象からの反射光が第2のレンズ群に入射するように配置され、有限の距離にある光学系に比して射出瞳位置が遠い位置である無限遠点である「テレセントリック光学系」であることから、構成Fは一致点であると主張し、さらにこの点について予備的にカメラの小型化に伴って射出瞳位置を遠くして全ての結像レンズの前面に絞りを配置する構成が周知である旨を主張する。
しかし、甲第7号証の記載によれば、甲7発明は「第2のレンズ群」のみならずこれと「第1のレンズ群」によって読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させるものであるから、そのうちの「第2のレンズ群」のみを結合レンズとすることはできない。また、甲7発明においては、「絞り」の位置が第1のレンズ群と第2のレンズ群の間であるにもかかわらず、第1のレンズ群により構成される「テレセントリック光学系」の射出瞳位置が無限遠点にあるから、「絞り」が「結合レンズ」より読取対象側に「配置」されることによって射出瞳位置までの距離が相対的に長く設定されているのではないし、甲7発明は、仮に「第2のレンズ群」に着目して読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するように絞りを配置したものと考えても、そのような絞りの配置によって射出瞳位置までの距離をそのように配置しないものとの関係で「相対的に長く設定」したものではない。
さらには、カメラの小型化に伴って射出瞳位置を遠くして全ての結像レンズの前面に絞りを配置する構成が周知であるか否かは、甲7発明の認定やこれと本件特許発明との対比の論旨と無関係である。
してみると、甲7の記載からみて、甲7発明は、構成Fを有しないのであって、請求人の主張を採用することはできない。

(3)判断
ア 相違点1について、甲7発明は、照合対象指紋の像と予め記憶されている参照指紋の形状とが同一か否かの判別を行う指紋照合装置であるから、これを構成D(「前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置」)を備えるものとするための動機づけは見当たらない。
請求人は、甲7発明が「指紋照合装置」であることは、あくまで例示である等と主張しているが、上述したように甲第7号証は「指紋照合装置」でない光学情報読取装置について何ら記載しておらず、構成Dを備えることの動機づけは見当たらない。

イ(ア)相違点2について、甲7発明は、「絞り」の位置が第1のレンズ群と第2のレンズ群の間であるにもかかわらず第1のレンズ群により構成される「テレセントリック光学系」の射出瞳位置が無限遠点にあり、「射出瞳位置」までの距離が「絞り」の「配置」によるものとなっていない。このことを踏まえれば、甲7発明において、「絞り」の「配置」を工夫することによって「射出瞳位置」までの距離を「相対的に長く設定」することはできない。
(イ)構成F、Gに係る相違点について請求人が主張する容易想到の論旨は、本件特許発明の構成F及び構成Gの一部が一致点であることを前提とするものであるところ、(2)において上述したとおり、この点は相違点であるから、請求人の主張は、前提において失当である。

ウ してみると、甲第7号証に記載された発明に基づいて本件特許発明が容易想到である旨の論理づけをすることができない。

(4) 小括
以上によれば、無効理由2-3は、理由がない。

5 無効理由2-4(甲第8号証に記載された発明を主引用発明とする無効理由)について
(1)甲8発明の認定
ア 甲第8号証の「aperture」について
甲第8号証の翻訳について両当事者間に争いがあり、具体的には、「aperture」について、請求人は「絞り」と訳すべきとし、被請求人は「開口部」と訳すべきとしている。そこで、まずこの点を判断する。
甲第8号証の「aperture」の文言は、シンボル198が携行型シンボルリーダの視野内にあることを確実にするために映し出されるボーダータイプウインドウ(図2b)を作るために発光ダイオード206からの光を「tube204 along with an aperture212」が「project」するという文脈で用いられているにとどまり、他にこの文言を用いた記載は見当たらない。このことから、「aperture」の文言がレンズないし光学素子への入射光に対する「絞り」の意味で用いられていないことが明らかである。
また、甲第56号証によれば、「aperture」の文言は「小さく、かつ狭い開口部で、特にカメラへの光を通過させるもの」を意味するところ、カメラへの光を通過させる開口部は、仮に広い意味でレンズや光学素子への光を制限する機能を有するとしても必ずしも「絞り」ではなく、このことは、レンズハウジングやレンズフードの開口部が「絞り」でないことからも明らかであるから、仮に甲第8号証の「aperture212」がそのような機能を有するとしても、そのことは「絞り」と訳すべき理由にならない。
以上を踏まえれば、甲第8号証の「aperture」は、「第6」の「4」の当審仮訳において示したように、「開口部」と訳すべきである。

イ 甲第8号証の記載事項(「第6」の「4」)によれば、甲第8号証には、図10、図11等に示された携行型シンボルリーダに係る、次の発明が記載されている。

(甲8発明)
センサにシンボルの像の焦点を合わせるために使用可能であり、チューブ204が設けられ、従来の可変ズームレンズシステム、中間レンズ、従来の可変焦点レンズシステムを含む光学ユニット208と、
全体のシンボルを一度に取り込むことが可能である、従来の(conventional)CCDアレイ等であるセンサ210と、
チューブ204とともに境界型の枠214を表示させるために発光ダイオード206からの光を照射するための開口部(aperture)212と、
センサの出力を増幅するビデオアンプ270、
平均的な照明を行うためにセンサ234の全ての受光素子によって生成される光を平均化でき、所定の閾値以上の平均強度となるように光源230によって生成される光の強度を調整することもできる照明制御部286等、を備えた、
二次元シンボルを捉えるための携行型シンボルリーダ。

(2)対比、判断
ア 本件特許発明と甲8発明とを対比すると、少なくとも、構成Cの「絞り」及び構成F、Gの「絞り」の配置にかかる構成を甲8発明が備えていない点において、両者は相違している。
この点、請求人は、本件特許発明の構成C,Fについて、これらが相違点ではなく一致点である旨を主張している。
しかし、(1)アにおいて上述したとおり、甲第8号証の「aperture」は、絞りではなく、甲8発明は「絞り」を備えていない。よって、構成Cの「絞り」及び構成F、Gの「絞り」の配置にかかる構成は、本件特許発明と甲8発明との相違点である。
原告主張は、甲第8号証の記載に即したものでなく、失当である。

イ 相違点は、
請求人が主張する容易想到の論旨は、本件特許発明の構成C,Fが一致点であることを前提とするものであるところ、アにおいて上述したとおり、この点は相違点であるから、請求人が主張する容易想到の論旨は成り立たない。
また、無効理由2-1について上述したとおり、本件特許発明の構成F及び構成Gは、構成Bの光学センサが「当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものであることによって生ずる課題を結合レンズと絞りの配置等の工夫によって解決するためのものである。
これに対して、上述したとおり、甲第8号証は、「絞り」を開示しておらず、甲8発明は、「絞り」を備えていない。
そうすると、甲第8号証は、二次元コードの読み取りのための光学系としての絞りについて具体的に記載しておらず、甲第8号証の光学情報読取装置において絞りを含む光学系が明示するまでもないものであると認定する根拠も見当たらないから、結像レンズと絞りの配置等の工夫による課題解決の前提となる開示を欠くものであり、この文献を主引用発明として結像レンズと絞りの配置等の工夫による課題解決が容易想到である旨を導くことは困難である。
してみると、甲第8号証は、これを起点とした相違点について容易想到である旨の論理づけに不可欠な内容を示すものでないから、これに記載された発明に基づいて本件特許発明が容易想到である旨の論理づけをすることができない。

(4) 小括
以上によれば、無効理由2-4は、理由がない。

第9 むすび
以上のとおりであって、無効理由1-1及び無効理由2(2-1ないし2-4)は理由がないものの、無効理由1-2は理由があるから、本件特許の請求項1に係る発明についての特許は、無効とすべきものである。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光学情報読取装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者が手で握るための把持部として機能するケースと、
このケースの上面に設けられ、情報を入力するためのキーパットと、
前記ケースの上面に設けられる表示液晶ディスプレイと、
前記ケースの側面に設けられ、前記読み取り対象の読取りのスイッチとなる読み取り用スイッチと、
前記ケース内に配置され、読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段と、
前記ケース内に配置され、複数のレンズで構成され、前記読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
前記ケース内に配置され、前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置と、
を備える光学情報読取装置において、
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して入射する前記読み取り対象からの反射光が斜めになる度合いを小さくして、適切な読取りを実現し、
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした
ことを特徴とする光学情報読取装置。
【請求項2】
複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置と、
を備える光学情報読取装置において、
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにし、
前記光学的センサは、CCDエリアセンサであることを特徴とする光学情報読取装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、2次元コードなどの読み取り対象に光を照射し、その反射光から読み取り対象の画像を読み取る光学的読取装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば2次元コードラベルなどの読み取り対象に光を照射し、2次元コードラベルからの反射光を受光して2次元コードラベルの画像データである2次元コードデータを読み取る装置(2次元コードリーダ)が知られている。この2次元コードリーダでは、2次元コードからの反射光を結像レンズによって所定の読取位置に結像させ、その読取位置に配置された例えばCCDエリアセンサなどの光学的センサによって2次元コードデータを読み取るようにしていた。なお、結像レンズは通常複数枚のレンズが組にされた組レンズとして構成されており、その中心付近に絞りが配置されている。
【0003】
ところで、例えばCCDエリアセンサなどの光学的センサでは、受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されている。そして、感度向上のため、例えば図5に示すように、受光素子41a毎に集光用のマイクロレンズ(集光レンズと称す)41bが設けられたCCDエリアセンサ41もある。これは、図5(a)に示すように、受光素子41aに対して垂直に入射する光が集光レンズ41bによって集光されることで見かけ上の開口面積を拡大し、感度を向上させるというものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図5(b)に示すように、受光素子41aに対して光が斜めに入射した場合には、集光レンズ41bによって集光されることで逆に受光素子41aへの集光率が低下し、その結果、感度が低下する。センサ単位で見てみると、図5(a)に示すように受光素子41aに対して光が垂直に入射するのはセンサの中央部にある受光素子41aであり、センサ周辺部にある受光素子41aに対しては光が斜めに入射する。その結果、図5(c)のグラフ中に実線で示すように、CCDエリアセンサ41からの出力は、センサ中央部の出力に比べてセンサ周辺部の出力が落ち込んだ状態となり、その周辺部において読取に必要な光量が確保できず、適切な読み取りができないという問題も生じる。
【0005】
そこで、上述したような受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを備えている場合に、光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止し、適切な読み取りを実現する光学情報読取装置を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
操作者が手で握るための把持部として機能するケースと、
このケースの上面に設けられ、情報を入力するためのキーパットと、
前記ケースの上面に設けられる表示液晶ディスプレイと、
前記ケースの側面に設けられ、読み取り対象の読取りのスイッチとなる読み取り用スイッチと、
前記ケース内に配置され、前記読み取り対象に対して赤色光を照射する発光手段と、
前記ケース内に配置され、複数のレンズで構成され、前記読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
前記ケース内に配置され、前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置と、
を備える光学情報読取装置において、
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子に対して入射する前記読み取り対象からの反射光が斜めになる度合いを小さくして、適切な読取りを実現し、
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする。
【0007】
本光学情報読取装置によれば、結像レンズが読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させ、その読取位置に配置された光学的センサが読み取り対象の画像を受光する。
ここで、光学的センサは、受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されていると共に、受光素子毎に集光レンズが設けられているため、結像レンズによって結像された読み取り対象からの反射光は、集光レンズによって集光されて受光素子に入射する。
【0008】
したがって、反射光が受光素子に対して垂直に入射する場合には、集光レンズによって集光されることで見かけ上の開口面積が拡大し、感度を向上させる効果があるが、反射光が受光素子に対して斜めに入射する場合には、集光レンズによって集光されることで逆に受光素子への集光率が低下して感度が低下する原因ともなる。光学的センサ単位で見ると、センサの中央部にある受光素子には反射光が垂直に入射するが、センサ周辺部にある受光素子に対しては反射光が斜めに入射する傾向にある。そのため、このセンサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が極力斜めにならないようにすれば、適切な読取の点で有効である。
【0009】
そこで、本光学情報読取装置においては、読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう、絞りを配置している。つまり、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなる。絞りよりも像側(つまり光学的センサ側)にある光学系によって物体空間に生じる絞りの虚像を射出瞳(exit pupil)というが、光学的センサから射出瞳までの距離(射出瞳距離)は、光学的センサから絞りまでの光学的距離が長くなれば、それに伴って長くなるため、このような絞りの配置とすることで、結果的に光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することができる。
【0010】
そして、光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなれば、センサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる度合も、それに伴って小さくなる。したがって、光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止することができ、適切な読み取りの実現に寄与する。
【0011】
最終的には適切な読み取りを実現することが目的であるので、本発明の光学情報読取装置においては、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、射出瞳位置を設定している。このようにしておけば、中央部と周辺部の出力差を考慮しながら、例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。
【0012】
なお、光学的センサとしては、例えばCCDエリアセンサなどを用いることが考えられる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。尚、本発明の実施の形態は、下記の実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0014】
図1は、実施例としての2次元コード読取装置4の概略構成図であり、(a)は上面図、(b)は一部破断側面図、(c)は底面図である。また、図2は照明部及び撮像部などの各部品が組み付けられて一体化された光学モジュール40の概略断面図である。
【0015】
本実施例の2次元コード読取装置4は携帯用であり、上ケース11aと下ケース11bからなるケース12内に各種部品を組み込んだものであり、外観上、図1に示すように、装置後方部にケース本体部12a、装置前方部にケースヘッド部12bを備え、ケースヘッド部12bはケース本体部12aに対して下方に湾曲するように一体形成されている。なお、本実施形態では、ケースヘッド部12bの中心軸はケース本体部12aの中心軸に対して約70度下方に傾いている。
【0016】
前記ケース本体部12aは操作者が手で握るための把持部としても機能し、その上面には、情報を入力するためのキーパット74、読み込んだ2次元コードなどを表示するための液晶ディスプレイ20、2次元コードを読み込んだことを確認するための認識用LED21が設けられている。そして、ケース本体部12aからケースヘッド部12bへ湾曲する部分には、赤外光を通過させるための通信プレート22が設けられており、ケースヘッド部12bの先端には読取口25が設けられている。
【0017】
なお、上ケース11aと下ケース11bは樹脂成形加工によって作られたものであり、ケースヘッド部12bの先端部分には、それら上ケース11aと下ケース11bに外嵌し、上下ケース11a,11bが離反することを防止する環状の口開き防止用ホルダ13が取り付けられている。そして、さらに口開き防止用ホルダ13を外嵌するように、環状のゴム部材14が取り付けられている。
【0018】
また、ケース本体部12aの側面であって、液晶ディスプレイ20が設けられている両脇部分には、ケース本体部12aの側面よりも突出して落下時の衝撃を吸収するための耐落下用ゴム部材15が、上ケース11aと下ケース11bによって挟み込まれて固定されている。なお、ケース本体部12aの側面であって、キーパット74が設けられている脇の部分には、読み取り用スイッチ17が配置されている。
【0019】
一方、ケース本体部12aの内部には、上述したキーパット74、液晶ディスプレイ20、認識用LED21に加えて、データ処理部27や電源部30などが配置されている。電源部30には図示しない電池が電源として収納されており、電源回路によって各回路へ電源が供給される。また、ケースヘッド部12bの内部には、上述した通信プレート22に面して通信モジュール35が配置されており、ケースヘッド部12bのほぼ中心に光学モジュール40が配置されている。
【0020】
次に、光学モジュール40の詳しい構成について図2の概略断面図を参照して説明する。なお、図2において二点鎖線で示したケースヘッド部12bの外形は、光学モジュール40のケースヘッド部12b内における概略的な位置を示すためのものである。
【0021】
図2に示すように、光学モジュール40は、CCDエリアセンサ41(受光手段に該当)、鏡筒43、照明発光ダイオード45(発光手段に該当)、塵の侵入を防ぐ防塵プレート47、照射範囲制限部材49などを備えている。なお、これらの概略的な位置関係は、ケースヘッド部12b先端の読取口25から最も遠い位置にCCDエリアセンサ41が配置され、読取口25に向けて、鏡筒43、防塵プレート47、照射範囲制限部材49の順番で配置されている。また、照明発光ダイオード45は鏡筒43の周囲に配置されている。
【0022】
前記鏡筒43は略円筒状に形成されており、図3(a)の斜視拡大図および図3(b)の側面断面拡大図にて示すように、その内部に、円状の絞り34a及び複数の結像レンズ34b,34cを備えている。そして、絞り34aは、結像レンズ34b,34cよりも読取口25側に配置されている。そのため、2次元コードからの反射光は、防塵プレート47を通過して入射側開口43aより鏡筒43に入射するが、鏡筒43内においては、入射した反射光をまず絞り34aによって結像に利用される光線束の大きさに制限した後、結像レンズ34b,34cによって所定の読取位置に結像するようにして出射側開口43bより出射させる。
【0023】
この所定の読取位置に設けられているのがCCDエリアセンサ41であり、このCCDエリアセンサ41は、センサ基板42に取り付けられている。そして、2次元的に配列された複数の受光素子41a(図5参照)を有している。また、図5に示すように、各受光素子41aにはそれぞれ集光用のマイクロレンズ(集光レンズ)41bが設けられており、鏡筒43内の結像レンズ34b,34c(図3参照)によって結像された反射光はこの集光レンズ41bによって集光されてから受光素子41aに受光される。このように、本実施例ではマイクロレンズ付きのCCDエリアセンサ41を採用している。2次元コードの像を光電変換して読み取ったCCDエリアセンサ41は、像のパターンを表す電気信号としてデータ処理側に出力する。
【0024】
また、照明発光ダイオード45は、上述したように鏡筒43の周囲に配置されているが、本実施形態においては、略円筒状の鏡筒43の周囲に約90度間隔で4つの照明発光ダイオード45が配置されている。具体的には、照明発光ダイオード45は、LED基板44に取り付けられ、LEDホルダ46によって保持されている。なお、図2においては4つの照明発光ダイオード45の内の2つだけを示している。
【0025】
そして、防塵プレート47は、これら鏡筒43及び照明発光ダイオード45よりも読取口25側に設けられているため、塵が読取口25から鏡筒43及び照明発光ダイオード45側へ侵入してくるのを防止することができる。また、防塵プレート47は、少なくとも照明発光ダイオード45から照射される読み取り光(照射光)としての赤色光は通過可能である。
【0026】
また、防塵プレート47と読取口25との間に配置されることとなる照射範囲制限部材49は、筒状に形成された部材であり、その筒状部材の読取口25側の開口49aによって、照明発光ダイオード45からの照射光の照射範囲を制限することができる。詳しくは、照射範囲制限部材49の内壁49bは、照明発光ダイオード45からの照射光が反射しても鏡筒43内に入射しないような角度に設定されており、さらに前記読取口25側の開口49aは、その開口49aによって制限された照射光の照射範囲が、CCDエリアセンサ41にて読み取り可能な最大の画像範囲と同じかあるいは所定量だけ大きな範囲となるようなサイズに設定されている。
【0027】
次に、2次元コード読取装置4の制御系統のブロック図である図4を参照してさらに説明を進める。
本実施例の2次元コード読取装置4は、カメラ部制御装置50とシステム制御装置70の2つの制御装置を備えており、それぞれで分担して各種制御を行っている。
【0028】
まず、カメラ部制御装置50側に関連する構成としては、CCDエリアセンサ41と、AGCアンプ52と、ローパスフィルタ(LPF)53と、基準電圧生成部54と、負帰還アンプ55と、補助アンプ56と、2値化回路57と、周波数分析器58と、A/D変換器59と、画像メモリ60と、画像メモリコントローラ61と、メモリ62と、照明発光ダイオード(照明LED)45などが挙げられる。
【0029】
CCDエリアセンサ41は、2次元的に配列された複数の受光素子であるCCDを有しており、外界を撮像してその2次元画像を水平方向の走査線信号として出力する。この走査線信号はAGCアンプ52によって増幅されて補助アンプ56及びA/D変換器59に出力される。
【0030】
AGCアンプ52は、外部から入力したゲインコントロール電圧に対応する増幅率で、CCDエリアセンサ41から出力された走査線信号を増幅するのであるが、このゲインコントロール電圧は負帰還アンプ55から出力される。この負帰還アンプ55には、AGCアンプ52から出力される走査線信号をローパスフィルタ53で積分して得た出力平均電圧Vavと、基準電圧生成部54からの基準電圧Vstとが入力されており、これらの電圧差△Vに所定ゲインを掛けたものがゲインコントロール電圧として出力される。
【0031】
補助アンプ56は、AGCアンプ52によって増幅された走査線信号を増幅して2値化回路57に出力する。この2値化回路57は、上記走査線信号を、閾値に基づいて2値化して周波数分析器58に出力する。周波数分析器58は、2値化された走査線信号の内から所定の周波数成分比を検出し、その検出結果は画像メモリコントローラ61に出力される。
【0032】
一方、A/D変換器59は、AGCアンプ52によって増幅されたアナログの走査線信号をディジタル信号に変換して、画像メモリコントローラ61に出力する。
画像メモリコントローラ61は、アドレスバス及びデータバスによって画像メモリ60と接続されていると共に、やはりアドレスバス及びデータバスによってカメラ部制御装置50及びメモリ62と接続されている。
【0033】
カメラ部制御装置50は、ここでは32bitのRISCCPUを用いて構成されており、基準電圧生成部54、A/D変換器59及び照明発光ダイオード45を制御することができるようにされている。基準電圧生成部54に対する制御とは、基準電圧を変更設定するなどの制御である。また、照明発光ダイオード45は、読取対象の2次元コードに対して照明用の赤色光を照射するものである。
【0034】
また、カメラ部制御装置50は、システム制御装置70との間でデータのやり取りができるようにされている。
一方、システム制御装置70側に関連する構成としては、認識用LED21と、ブザー72と、液晶ディスプレイ(LCD)20と、キーパット74と、読み取り用スイッチ17と、シリアルI/F回路76と、IrDAI/F回路77と、FLASHメモリ78と、DRAM79と、リアルタイムクロック80と、メモリバックアップ用電池81などを備えている。
【0035】
認識用LED21は、読み取り対象の画像情報が適切にデコードされた場合に点灯され、所定時間後に消灯される。また、ブザー72も、読み取り対象の画像情報が適切にデコードされた場合に鳴動される。
液晶ディスプレイ20は、読み込んだ2次元コードなどを表示するためなどに用いられる。本実施例では2階調表示のLCDとして構成されている。キーパット74は、例えばテンキーや各種ファンクションキーを備えており、情報入力のために用いられる。読み取り用スイッチ17は、利用者が読取処理の開始を指示するためのスイッチである。
【0036】
IrDAI/F回路77は、IrDA(Infrared Data Association)規格に準じた方法により図示しない外部装置との間で通信を行うものであり、通信モジュール35(図1(b)参照)を介してデータを外部装置に送信したり、外部装置からの信号(例えばシステムを動かすためのプログラムや送信を待機する命令等)を受信する。
【0037】
システム制御装置70、FLASHメモリ78、DRAM79、リアルタイムクロック80は、アドレスバス及びデータバスによって相互に接続されている。画像メモリ60と接続されていると共に、やはりアドレスバス及びデータバスによってカメラ部制御装置50及びメモリ62と接続されている。
【0038】
システム制御装置70は、ここでは16bitのCPUを用いて構成されており、上述したキーパット74や読み取り用スイッチ17の入力を受け付けたり、認識用LED21やブザー72への出力を制御したり、シリアルI/F回路76やIrDAI/F回路77を介した通信制御を行なう。そして、カメラ部制御装置50を介して入力した2次元コードの画像を液晶ディスプレイ20に表示させることもできる。
【0039】
このような構成の本実施例の2次元コード読取装置4によれば、結像レンズ34b,34c(図3参照)によって結像された2次元コードからの反射光は、CCDエリアセンサ41において、集光レンズ41bによって集光されてから受光素子41aに入射する。したがって、図5(a)に示すように、受光素子41aに対して垂直に入射する光は、集光レンズ41bによって集光されることで見かけ上の開口面積が拡大し、感度を向上させる効果があるが、図5(b)に示すように、受光素子41aに対して斜めに入射する光は、集光レンズ41bによって集光されることで逆に受光素子41aへの集光率が低下して感度が低下する原因ともなる。特に、CCDエリアセンサ41の中央部にある受光素子41aには反射光が垂直に入射するが、センサ周辺部にある受光素子41aに対しては反射光が斜めに入射する傾向にある。
【0040】
この周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光が極力斜めにならないようにするため本実施例の2次元コード読取装置4では、図3に示すように、鏡筒43内において絞り34aを結像レンズ34b,34cよりも読取口25(図1,2参照)側に配置している。つまり、2次元コードにより反射された赤色光がまず絞り34aを通過し、その後、結像レンズ34b,34cに入射するよう、絞り34aが配置されている。これにより、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズ(図3の34b,34cが相当する)よりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的な距離が相対的に長くなる。
【0041】
CCDエリアセンサ41から射出瞳までの距離(射出瞳距離)は、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的距離が長くなれば、それに伴って長くなるため、本実施例のように絞り34aを結像レンズ34b,34cよりも前(読取口25側)に配置することで、結果的にCCDエリアセンサ41から射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することができる。そして、CCDエリアセンサ41から射出瞳位置までの距離が長くなれば、センサ周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光が斜めになる度合も、それに伴って小さくなる。したがって、図5(c)のグラフ中に破線で示すように、CCDエリアセンサ41の周辺部の受光素子41aに対する集光レンズ41bによる集光率の低下を極力防止することができ、適切な読み取りの実現に寄与する。
【0042】
なお、適切な読み取りを実現するためには、センサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルが所定レベル以上になる必要がある。そのため、例えば、センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよう射出瞳位置を設定することが考えられる。つまり、このような射出瞳位置となるように絞り34aの位置を設定するのである。このようにしておけば、中央部と周辺部の出力差を考慮しながら、例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。そして、絞り34aの位置を設定する場合においても利点がある。つまり、結像レンズ34b,34cの間に絞り34aが存在する構成の場合には、絞り34aの位置を変更すると、それに伴って結像レンズ34b,34cの位置も変更しなくてはならなくなるが、結像レンズ34b,34cよりも前に絞り34aが存在する本実施例の場合には、結像レンズ34b,34cの位置はそのままで絞り34aの位置だけを変更することができる。
【0043】
以上、本発明はこのような実施例に何等限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得る。
例えば、上記実施例では絞り34aを円状に形成したが、それ以外にも方形(正方形や長方形)に形成してもよい。
【0044】
また、上記実施例では、結像レンズ34b,34cが2個であったが、3個以上を組み合わせて構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例の2次元コード読取装置の概略構成図であり、(a)は上面図、(b)は一部破断側面図、(c)は底面図である。
【図2】 実施例の光学モジュールの概略断面図である。
【図3】 実施例の絞り及び結像レンズの構成説明図である。
【図4】 実施例の2次元コード読取装置の制御系統のブロック図である。
【図5】 (a)は集光レンズ付きの受光素子に光が垂直に入射した場合の様子、(b)は斜めに入射した場合の様子をそれぞれ示す説明図であり、(c)は射出瞳距離の長短とセンサ出力との関係を示すグラフである。
【図6】 (a)は絞りが結像レンズの間にある場合、(b)は絞りが結像レンズの前にある場合の様子を示す説明図である。
【符号の説明】
4…2次元コード読取装置 11a…上ケース
11b…下ケース 12a…ケース本体部
12b…ケースヘッド部 13…口開き防止用ホルダ
14…ゴム部材 15…耐落下用ゴム部材
17…読み取り用スイッチ 20…液晶ディスプレイ
21…認識用LED 22…通信プレート
25…読取口 27…データ処理部
30…電源部 34a…絞り
34b…結像レンズ 35…通信モジュール
40…光学モジュール 41…CCDエリアセンサ
41a…受光素子 41b…集光レンズ
42…センサ基板 43…鏡筒
43a…入射側開口 43b…出射側開口
44…LED基板 45…照明発光ダイオード
46…LEDホルダ 47…防塵プレート
49…照射範囲制限部材 49a…開口
49b…内壁 50…カメラ部制御装置
52…AGCアンプ 53…ローパスフィルタ
54…基準電圧生成部 55…負帰還アンプ
56…補助アンプ 57…2値化回路
58…周波数分析器 59…A/D変換器
60…画像メモリ 61…画像メモリコントローラ
62…メモリ 70…システム制御装置
72…ブザー 74…キーパット
76…シリアルI/F回路 77…IrDAI/F回路
78…FLASHメモリ 80…リアルタイムクロック
81…メモリバックアップ用電池
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-12-25 
結審通知日 2019-01-04 
審決日 2019-01-21 
出願番号 特願平9-294447
審決分類 P 1 113・ 121- ZAA (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 相崎 裕恒
金子 幸一
登録日 2006-07-07 
登録番号 特許第3823487号(P3823487)
発明の名称 光学情報読取装置  
代理人 中村 広希  
代理人 中村 広希  
代理人 中岡 起代子  
代理人 矢野 恵美子  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 本阿弥 友子  
代理人 今井 優仁  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 乾 裕介  
代理人 碓氷 裕彦  

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