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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C23C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C23C
管理番号 1358908
審判番号 不服2018-15213  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-16 
確定日 2020-02-04 
事件の表示 特願2014-173380「真空蒸着装置用マニホールド」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日出願公開、特開2015-108185、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年8月28日(優先権主張 平成25年10月24日)の出願であって、平成30年2月28日付けで拒絶理由が通知され、同年5月2日付けで手続補正がされ、同年10月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対して、同年11月16日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

2 原査定の理由の概要
原査定(平成30年10月24日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。

本願請求項2及び4に係る発明は、下記の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、下記の引用文献2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(引用文献一覧)
引用文献2 国際公開第2013/125598号

3 本願発明について
本願請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成30年11月16日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
一定速度で移動される被蒸着基材に対向して配置され、対向面に設けられた複数のノズル口から蒸着材料を放出して、被蒸着基材の表面に被着させるインライン式の真空蒸着装置用マニホールドであって、
単一のマニホールドの被蒸着基材の対向面に、前記ノズル口を有する複数の放出用ノズルを、被蒸着基材の幅方向に所定のノズルピッチをあけて突設したノズル列を設けるとともに、当該ノズル列を被蒸着基材の移動方向に所定間隔をあけて複数列配置し、
被蒸着基材の移動方向の前方のノズル列の放出用ノズル及び後方のノズル列の放出用ノズルを、被蒸着基材の移動方向に対向して配置し、
放出用ノズルは、ノズル内径:D(mm)、ノズル長さ:L(mm)、ノズル口の口径:D’(mm)とすると、
L≧9×Dの場合に、D’≦2.7×D^(2)/Lを満足し、
L<9×Dの場合に、D’≦D/3を満足する
ことを特徴とする真空蒸着装置用マニホールド。
【請求項2】
一定速度で移動される被蒸着基材に対向して配置され、対向面に設けられた複数のノズル口から蒸着材料を放出して、被蒸着基材の表面に被着させるインライン式の真空蒸着装置用マニホールドであって、
単一のマニホールドの被蒸着基材の対向面に、ノズル口を有する複数の放出用ノズルを、被蒸着基材の幅方向に所定のノズルピッチをあけて突設したノズル列を設けるとともに、当該ノズル列を被蒸着基材の移動方向に所定間隔をあけて複数列配置し、
被蒸着基材の移動方向の前方のノズル列の放出用ノズルに対して、後方のノズル列の放出用ノズル位置を、ノズルピッチの1/2ずらした千鳥位置に配置し、
放出用ノズルは、ノズル内径:D(mm)、ノズル長さ:L(mm)、ノズル口の口径:D’(mm)とすると、
L≧9×Dの場合に、D’≦2.7×D^(2)/Lを満足し、
L<9×Dの場合に、D’≦D/3を満足する
ことを特徴とする真空蒸着装置用マニホールド。
【請求項3】
各ノズル列における放出用ノズルのノズルピッチ:P、ノズル口の口径:D’、ノズル口と被蒸着基材との蒸着距離:Sとすると、
D’<P<1.11×Sとした
ことを特徴とする請求項1または2記載の真空蒸着装置用マニホールド。
【請求項4】
被蒸着基材の幅に対応して、複数のノズル列のうちの少なくとも1つのノズル列で、端部側の放出用ノズルのノズル口を閉鎖する閉鎖プラグを取り付けた
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の真空蒸着装置用マニホールド。」

4 引用文献について
(1)引用文献2の記載事項(下線は当審が付した。)
ア 「[0021] まず、図1は、本実施形態に係るフッ素含有有機ケイ素化合物薄膜製造装置の上面図を模式的に記載したものであり、図2は、図1のA-A´線での横断面図を示したものである。
[0022] 本実施形態のフッ素含有有機ケイ素化合物薄膜の製造装置10は、チャンバー11(より具体的には、真空チャンバー)と、フッ素含有有機ケイ素化合物12を加熱する加熱容器13とを備えている。そして、チャンバー11内に設けられ、加熱容器13と接続され、基材に対してフッ素含有有機ケイ素化合物を供給する複数のノズル15とを備えている。さらに、複数のノズル15と基材17の被成膜面とが対向するように前記基材を搬送する基材搬送機構18と、を備えており、前記複数のノズル15は、前記基材搬送機構18による前記基材の搬送方向を横断するようにライン状に配置されている。
・・・
[0030] 加熱容器と複数のノズルとを接続するフッ素含有有機ケイ素化合物供給経路(すなわち、配管)14についても、形状、材質は特に限定されるものではなく、要求される成膜速度、ノズルの数等により選択することができる。例えば、マニホールドにより構成することもできるし、各ノズルと加熱容器とを個別に接続する複数の配管から構成することもできる。また、加熱容器から各ノズルに至るまでの間に、加熱容器内で気体になったフッ素含有有機ケイ素化合物が凝縮しないように、フッ素含有有機ケイ素化合物供給経路14も加熱することが好ましい。
[0031] 次にノズル15の配置について図3を用いて説明する。
[0032] ノズル15は、基材17の搬送方向(すなわち、図中矢印で示した方向)を横断するようにライン状に、かつ基材の搬送方向と垂直方向の幅よりも広い範囲で、配置されている。ノズルは、例えば図3に示すように1列に配置することができる。この際、ノズルの列の数については特に限定されるものではなく、使用するフッ素含有有機ケイ素化合物の種類、基材搬送装置の搬送速度、成膜条件等により規定することができる。
本発明における上記したノズルのライン状の配置とは、前記基材の搬送方向と直角に、あるいは所定角度をもって、搬送方向横断するように1列ないし複数列の直線状であってもよい。複数列のノズル使用の場合、列ごとにノズル位置を一定位相でずらすことで、全基材内の膜厚分布をより均一に制御できる。
[0033] また、ノズルの間隔、配置、開口径については限定されるものではないが、基材上の被成膜領域を均一に成膜できるように選択されることが好ましい。
[0034] また、ノズルは基材の被成膜面と対向するように配置されている。・・・」
イ 「実施例
[0104] 以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[0105] 本実施例においては、SPD-850VTインラインスパッタ装置(株式会社アルバック製)に面蒸着源(リニアソース蒸着源)(日立造船株式会社製)を設置した成膜装置を使用して実験を行った。面蒸着源は、基材の搬送方向を横切るように(すなわち、基材の搬送方向に対して垂直方向に)、ノズルが直線状に2列に配置され、各ノズルの開口径や配置は、成膜した際に得られる薄膜が、基材の高さ方向550mmの範囲内での膜厚分布が10%以内に収まるように設計されている。
[0106] 基材搬送機構は、基材と面蒸着源のノズルとの間の距離が50mmに保つように配置した。
[0107] 用いた装置の概略は、図1、図2に示したものと同様であり、基材を鉛直方向に保持し基材搬送機構により面蒸着源を備えた有効成膜領域へと搬送、供給し、成膜処理を行うものである。
(ガラス基板への防汚膜の成膜)
まず、蒸着材料であるフッ素含有有機ケイ素化合物として、溶媒で希釈されていない(すなわち、溶媒を含まない)KY178(商品名、信越化学工業株式会社製)50gを成膜装置の加熱容器である、SUS304製のるつぼに導入した。
[0108] このとき、るつぼへのフッ素含有有機ケイ素化合物の供給は大気中で実施した。このため、フッ素含有有機ケイ素化合物が大気暴露されてから15分以内に、るつぼ内を真空ポンプで5×10^(-2)Pa以下の圧力まで真空排気した。
次いで、るつぼを200℃まで加熱した。200℃に到達した後、各ノズルから、フッ素含有有機化合物を供給し、各ノズルと基材の被成膜面とが対向するように基材を基材搬送機構により搬送した。
[0109] 基材としては100mm角、厚さ1.1mmのガラス基板(商品名:ドラゴントレイル基板 旭硝子株式会社製)を用いた。ガラス基板は、図5に示すように、高さ方向(図5中Yで示す矢印方向)には850mm幅内に、また搬送方向53と水平な方向(図5中Xで示す矢印方向)には1200mm幅のキャリア51内に、100mm角のガラス基板52を複数枚配置したものを、鉛直方向に保持した状態で、基材搬送機構により面蒸着源へ搬送、通過させことによって成膜処理を行った。
[0110] そして、ガラス基板が成膜領域(有効成膜領域)中を900mm/minの速度で通過した際に、ガラス基板表面に成膜された膜厚がおよそ12nm程度になるように蒸着量を調整して成膜処理を行った。
[0111] 蒸着量の調整は、面蒸着源が設置された真空チャンバー内に設けられたクリスタル振動子モニターにより蒸着量を測定し、加熱容器とノズルとを結ぶ配管上に設けられたバルブの開度を可変制御することで行った。また、バルブ開度を80%まで開いても所望の蒸着量が得られない場合には、るつぼ温度を10℃上昇させた。
[0112] 蒸着量の調整は継続しながら、900mm/minの一定速度にて基板搬送を行い、連続的にガラス基板を供給して、フッ素含有有機ケイ素化合物からなる防汚膜が成膜されたガラス基板を作製した。結果として、成膜開始から53時間後には、るつぼ温度が290℃まで上昇して、バルブ開度が80%になっても所望の蒸着量が得られなくなったので、成膜を終了した。」
ウ 「[図1]

[図2]

[図3]


(上記アに摘示した記載を参酌すると、図1?図3から、加熱容器13と複数のノズル15とを接続する蒸着材料の供給経路14の一部はマニホールドから構成され、複数のノズル15は、当該マニホールドの基板17に対向する面に、基板17の幅方向(搬送方向を横断する方向)に間隔をあけてライン状に突設して配置されていることが見て取れる。)

(2)引用文献2に記載された発明
上記(1)ア?ウに摘示した記載を、実施例の「面蒸着源」に注目して整理すると、引用文献2には、
「一定速度にて搬送されるガラス基板の被成膜面に対向して配置され、複数のノズルから蒸着材料を供給して、ガラス基板の表面に成膜させるインラインスパッタ装置に設置する面蒸着源であって、
面蒸着源は、マニホールドから構成され、
該マニホールドのガラス基板の対向面に、所定の開孔径を有する複数のノズルを、ガラス基板の幅方向に間隔をあけてライン状に突設して配置し、該ライン状に配置した複数のノズルが、搬送方向に間隔をあけて2列配置し、
列ごとのノズル位置を一定位相でずらして配置した、面蒸着源。」
の発明(以下、「引用2発明」という。)が記載されているといえる。

5 原査定の理由に対する判断
(1)本願発明2について
ア 本願発明2と引用2発明を対比すると、引用2発明の「ガラス基板」、「所定の開孔径を有する複数のノズル」、「搬送される」こと、「成膜される」ことは、それぞれ、本願発明2の「被蒸着基材」、「ノズル口を有する複数の放出用ノズル」、「移動される」こと、「被着される」ことに相当する。
また、引用2発明の「インラインスパッタ装置に設置する面蒸着源」は、マニホールドから構成されていることから、本願発明2の「インライン式の真空蒸着装置用マニホールド」に相当する。
さらに、引用2発明の「複数のノズルを、ガラス基板の幅方向に間隔をあけてライン状に突設して配置」すること、「該ライン状に配置された複数のノズルが、搬送方向に間隔をあけて2列配置」することは、それぞれ、本願発明2の「複数の放出用ノズルを、被蒸着基材の幅方向に所定のノズルピッチをあけて突設したノズル列を設ける」こと、「当該ノズル列を被蒸着基材の移動方向に所定間隔をあけて複数列配置」することに相当する。
そして、引用2発明の「列ごとのノズル位置」は、搬送方向に間隔をあけて2列配置された各列のノズル位置であることから、本願発明2の「被蒸着基材の移動方向の前方のノズル列の放出用ノズルに対して」の「後方のノズル列の放出用ノズル位置」に相当する。
したがって、本願発明2は、引用2発明と、
「一定速度で移動される被蒸着基材に対向して配置され、対向面に設けられた複数のノズル口から蒸着材料を放出して、被蒸着基材の表面に被着させるインライン式の真空蒸着装置用マニホールドであって、
単一のマニホールドの被蒸着基材の対向面に、ノズル口を有する複数の放出用ノズルを、被蒸着基材の幅方向に所定のノズルピッチをあけて突設したノズル列を設けるとともに、当該ノズル列を被蒸着基材の移動方向に所定間隔をあけて複数列配置し、
被蒸着基材の移動方向の前方のノズル列の放出用ノズルに対して、後方のノズル列の放出用ノズル位置を、ずらして配置した、
真空蒸着装置用マニホールド。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
前方のノズル列と後方のノズル列のノズル位置に関して、本願発明2では、「ノズル位置を、ノズルピッチの1/2ずらした千鳥位置に配置」しているのに対して、引用2発明では、「ノズル位置を一定位相でずらして配置」している点。
(相違点2)
本願発明2では、放出用ノズルが、「ノズル内径:D(mm)、ノズル長さ:L(mm)、ノズル口の口径:D’(mm)とすると、
L≧9×Dの場合に、D’≦2.7×D^(2)/Lを満足し、
L<9×Dの場合に、D’≦D/3を満足する」大きさであるのに対して、引用2発明では、その点が明らかでない点。

イ 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
引用文献2には、引用2発明の放出用ノズルのノズル内径(D)、ノズル長さ(L)、及び、ノズル口の口径(D’)の具体的な数値は記載されておらず、また、引用2発明の放出ノズルが、「L≧9×Dの場合に、D’≦2.7×D^(2)/L」及び「L<9×Dの場合に、D’≦D/3」との関係式を満たす大きさであることは記載も示唆もされていないから、上記相違点2は実質的な相違点である。
そして、本願明細書の段落【0016】及び【0033】?【0035】の記載によれば、本願発明2では、上記関係式を満たすことによって、ノズル口から放出される蒸発材料が、cos^(n)θ則に従う広がりを持った拡散状態となるようにしているところ、引用文献2には、引用2発明の放出用ノズルのノズル口からの蒸発材料の拡散状態に関する記載もないから、引用文献2の記載に基づき、当業者が上記関係式を導き出せるものとはいえない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明2は、引用文献2に記載された発明であるといえないし、また、引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ また、原査定では、「なお、引用文献3(特開2006-225725号公報)には、・・・、cosnθ則のn値が小さいほど指向性が弱くなる(拡がる)こと(段落[0020])、・・・等が記載されている。」ことを指摘している。
そこで、引用文献3の記載事項についても検討すると、引用文献3には、上記のとおり、cos^(n)θ則のn値が小さいほど指向性が弱くなる(拡がる)こと(段落【0020】)が記載されているものの、特許請求の範囲や段落【0022】の記載からして、cos^(n)θ則のn値が6以下の蒸発材料の放出を行うために、放出ノズルの口径φDとオリフィス部材の口径φD’を、「0.1≦φD’/φD≦0.8」の関係を満足する大きさとすることが記載されているのみであり、ノズル長さ(L)を含めた「L≧9×Dの場合に、D’≦2.7×D^(2)/L」及び「L<9×Dの場合に、D’≦D/3」との関係については、記載も示唆もされていない。
したがって、引用文献3の記載を参酌したとしても、本願発明2は、引用文献2に記載された発明であるといえないし、また、引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)本願発明4について
本願発明4は、本願発明2を更に減縮したものであるから、上記(1)と同様の理由により、引用文献2に記載された発明であるといえないし、また、引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2014-173380(P2014-173380)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C23C)
P 1 8・ 113- WY (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 宮澤 尚之
後藤 政博
発明の名称 真空蒸着装置用マニホールド  
代理人 特許業務法人森本国際特許事務所  

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