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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B |
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管理番号 | 1358941 |
審判番号 | 不服2018-7708 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-05 |
確定日 | 2020-01-15 |
事件の表示 | 特願2016-536595「心不全を予測するための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月11日国際公開、WO2015/084595、平成29年 1月12日国内公表、特表2017-500934〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2014年(平成26年)11月20日(パリ条約による優先権主張 2013年12月6日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年5月23日付けで拒絶理由が通知され、同年8月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年1月29日付けで拒絶査定されたところ、同年6月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において平成31年4月26日付けで拒絶理由が通知され、令和元年7月19日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 令和元年7月19日付けの手続補正書(以下、「当該補正書」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下の事項が記載されている。 「 【請求項1】 システムであって、 一つ以上の生理学的信号を受信するように構成された生理学的信号受信回路と、 一つ以上の前記生理学的信号から少なくとも強度または時間情報を含む信号特性を算出し、前記信号特性を有する信号トレンドを生成するように構成された信号トレンド生成回路とを含む生理学的信号分析回路と、 前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数を生成し、基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数を生成し、生成された前記複数の第一重み係数を前記信号トレンドの第一部分に適用して第一変換済信号トレンドを生成し、生成された前記複数の第二重み係数を前記信号トレンドの第二部分に適用して第二変換済信号トレンドを生成するように構成された信号変換回路とを含み、前記信号トレンドの前記第二部分は前記信号トレンドの前記第一部分とは異なるものであることと、 前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを比較して悪化する心不全のイベントを検知するように構成された対象生理学的イベント検知回路とを含むシステム。」(以下「本願発明」という。) 第3 当審の拒絶理由通知書の概要 当審の拒絶の理由である、平成31年4月26日付け拒絶理由通知の理由は、概略、次のとおりのものである。 1 特許法36条6項2号及び4項1号について (1)補正前の請求項1に記載された「一つ以上の前記生理学的信号から信号特性を算出し、前記信号特性の信号トレンドを生成するように構成された信号トレンド生成回路とを含む生理学的信号分析回路」のうち、「前記信号特性の信号トレンド」とは、どのようなものなのか理解することができない。 そして、発明の詳細な説明を参酌しても、何らかの「信号トレンド」が生成されていることは理解できるものの、生成される「信号トレンド」がどのようなものであるか記載されていないし、また、発明の詳細な説明中に記載された「ZMaxのトレンド」や「日最大胸部インピーダンス信号(ZMax)のトレンド」、「S3心音トレンド||S3||」などがどのようなもので、どのように生成されるものであるか理解することができないので、「前記信号特性の信号トレンド」とは、どのようなものなのか理解することができないし、この点に関し、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるもいえない。 (2)補正前の請求項1には、「前記信号トレンドの第一部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた第一変換を動的に生成し、前記信号トレンドの第二部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた異なる第二変換を動的に生成し、前記信号トレンドの前記第一部分に動的に生成された前記第一変換を適用して第一変換済信号トレンドを生成し、前記信号トレンドの前記第二部分に動的に生成された前記第二変換を適用して第二変換済信号トレンドを生成するように構成された信号変換回路」と記載されているが、「前記信号トレンド」の「第一部分」及び「第二部分」の「少なくとも一つの特性尺度に基づいた」「第一変換」及び「第二変換」とは、どのようなものであるか理解できないし、これらを「動的に生成し」とは、どのように生成することなのか理解することができない。 この点に関し、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「第一変換」及び「第二変換」が具体的にどのような変換であって、「動的に生成」することがどのように生成することなのか理解することができないし、この点に関し、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるもいえない。 (3)上記(1)及び(2)より、補正前の請求項1に係る発明は、明確でなく、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるともいえないから、補正前の請求項1に係る発明は、特許法36条6項2号及び4項1号に規定する要件を満たしていない。 2 特許法36条4項1号について 本願明細書の発明の詳細な説明には、補正前の請求項1に係る発明の「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを比較して悪化する心不全のイベントを検知する」ことに関して記載されているが、具体的に「一つ以上の生理学的信号」としてどの信号を使用し、「少なくとも一つの特性尺度」としてどの尺度を使用して「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンド」を生成し、どのように比較することにより「悪化する心不全のイベントを検知する」ことができるかに関して記載されていない。 そして、「一つ以上の生理学的信号」として「心拍、心拍変動、心電図、心内電位図、不整脈、胸郭インピーダンス、心臓内インピーダンス、動脈圧、肺動脈圧、左心房圧、RV圧、LV冠状動脈圧、冠状動脈の血液温度、血液酸素飽和度、一つ以上の心音、身体活動または運動レベル、活動、姿勢、呼吸、体重、または体温に対する生理的反応」と、「少なくとも一つの特性尺度」として、「トレンド信号のエンベロープや整流されたトレンド信号の振幅またはピーク値等の信号トレンドの強度」、「基準時間に対する信号トレンドにおける各測定値の相対的なタイミング等のトレンド信号の時間情報」、「トレンド信号から計算された平均値、中央値、最頻値、標準偏差、分散、または高次統計尺度」、「トレンド信号から計算された差異、微分、変化率、高次の微分または差異」との全ての組み合わせにおいて、生成される「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを比較して悪化する心不全のイベントを検知する」ことができないことは明らかであるから、「心不全のイベントを検知する」ことができる組み合わせは、上記「一つ以上の生理学的信号」と、上記「少なくとも一つの特性尺度」との全ての組み合わせについて実施してみなければ見つけることができない。 そうすると、どのようにすれば補正前の請求項1に係る発明が実施できるかを見出すために、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤をする必要があることは明らかであるから、補正前の請求項1に係る発明について、当業者が実施することができる程度に本願明細書の発明の詳細な説明が記載されているとはいえないから、補正前の請求項1に係る発明は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 1 本願の発明の詳細な説明の記載 本願の発明の詳細な説明の記載には、以下の記載がある。(以下、下線は当審にて付した。以下同様。) (本a)「【0036】 信号トレンド生成回路212は一つ以上の生理学的信号から複数の信号メトリックを生成し、特定の期間における信号メトリックの複数の測定値を用いて信号トレンドを生成するように構成することができる。信号メトリックは統計学的特徴(例えば特定の期間における平均値、中央値、標準偏差、分散、百分位数、相関、共分散、または他の統計値)、あるいは形態学的特徴(例えばピーク、谷、スロープ、曲線下の領域)を含むことができる。信号メトリックはまた、生理学的信号に関連した時間情報、例えば同じまたは異なる生理学的信号における二つの生理学的イベント間の相対的なタイミング等を含むことができる。例えば、時間情報は心臓の電気的イベント(例えばP波、Q波、QRS群、またはT波)および心臓の機械的イベント(例えばS1、S2、S3、またはS4等の心音要素)から取得可能な収縮期または拡張期のタイミング情報を含むことができる。一例において、信号メトリックは缶112またはリード線108A?Cの内の一つ以上の上に位置する電極間等で測定された日最大胸部インピーダンス(Z_(Max))を含むことができ、信号トレンド生成回路212は3?6か月等の特定の期間にわたりZ_(Max)を日々測定することにより、Z_(Max)のトレンドを生成することができる。別の例においては、信号メトリックは一日の内の特定の期間中に、あるいは患者の活動が弱まりや特定の姿勢が検出された時に測定された平均第三(S3)心音強度を含むことができる。S3強度は0?3か月等の持続時間にわたって示されることがある。」 (本b)「【0038】 信号特性生成器221は、信号トレンド生成回路212等で生成された信号トレンドを用いて特性尺度を生成することができる。一例において、信号トレンドの特性尺度には、トレンド信号のエンベロープや整流されたトレンド信号の振幅またはピーク値等の信号トレンドの強度を含むことができる。別の例においては、信号トレンドの特性尺度には、基準時間に対する信号トレンドにおける各測定値の相対的なタイミング等のトレンド信号の時間情報を含むことができる。信号トレンドの特性尺度にはまた、トレンド信号から計算された平均値、中央値、最頻値、標準偏差、分散、または高次統計尺度を含むことができる。信号トレンドの特性尺度の他の例には、トレンド信号から計算された差異、微分、変化率、高次の微分または差異を含むことができる。」 (本c)「【0048】 変換生成器322は、生理学的信号強度ベース重み係数生成器301、時間変化重み係数生成器302、または補助信号特性ベース重み係数生成器303の内の一つ以上を含むことができる。生理学的信号強度ベース重み係数生成器301は、トレンド信号のエンベロープまたは整流されたトレンド信号の振幅またはピーク値等の信号トレンドの信号強度に比例した複数の重み係数{w(n)}を生成することができる。重み係数は信号トレンドの強度の単調増加関数とすることができる。一例において、重み係数は信号トレンドの強度の単調増加指数関数とすることができる。線形関数、指数関数、多項式、双曲線、または対数関数を含む他の単調増加関数を利用することもできる。 【0049】 時間変化重み係数生成器302は重み係数の値が時間とともに変化する複数の時間変化重み係数を生成することができる。一例において、時間変化重み係数の値は、基準時間T_(ref)に対する信号トレンドの相対時間Δt(Δt=t-T_(ref))についての線形または非線形関数とすることができる。別の例においては、時間変化重み係数の値は相対時間Δtについての単調増加または単調減少関数とすることができる。単調関数の例には、とりわけ線形関数、指数関数、多項式、双曲線、または対数関数を含むことができる。重み係数はその後、生理学的信号分析回路210で生成されたトレンド信号を変換するために、変換済信号生成器223において利用することができる。」 (本d)「【0050】 補助信号特性ベース重み係数生成器303は、補助信号分析回路260等で生成された補助信号の一つ以上の信号特性を用いて複数の重み係数を生成するように構成することができる。補助信号は、生理学的信号分析回路210等で生成された一つ以上の生理学的信号とは異なるものとすることができる。一例において、補助信号分析回路260は胸部インピーダンス信号(Z)を受信し、日最大胸部インピーダンス信号(Z_(Max))のトレンドを生成することができる。補助信号特性ベース重み係数生成器303は、w(n)=f(||Z_(Max)(n)||)(fは||Z_(Max)(n)||の相対的な信号強度を維持する線形または非線形関数とすることができる)という式で表されるような、時刻nにおける信号強度||Z_(Max)(n)||に比例した複数の重み係数{w(n)}を動的に生成することができる。生理学的信号分析回路210は心音(HS)信号を受信し、S3心音トレンド||S3||を生成することができる。変換済信号生成器223は、||S3||_(T)=Φ(||S3||)=w(n)・||S3(n)||=f(||Z_(Max)(n)||)・||S3(n)||という式で表されるように、||S3||に重み係数{w(n)}を適用することによって変換済S3心音トレンド||S3||_(T)を生成することができる。変換済S3心音トレンド||S3||_(T)はその後、HF代償イベントを検出し、あるいはHFの悪化の将来的なイベントを経験する患者のリスクを予測するために利用することができる。」 (本e)「【0054】 第一信号トレンド変換回路402は信号トレンドの第一部分(X1)に第一変換(Φ1)を適用して第一変換済信号トレンド(X1_(T))を生成することができる(X1_(T)=Φ1(X1))。同様に、第二信号トレンド変換回路404は信号トレンドの第二部分(X2)に第二変換(Φ2)を適用して第二変換済信号トレンド(X2_(T))を生成することができる(X2_(T)=Φ2(X2))。変換生成器222で生成可能な変換Φ1およびΦ2は、生理学的信号分析回路210等で生成された生理学的信号から算出された異なる特性尺度に基づくものとすることができる。一例において、Φ1はX1の振幅に比例した複数の第一重み係数{w1(n)}を含むことができる。すなわち、w1(n)=f(||X1(n)||)(fはX1の相対的な信号強度を示す線形または非線形関数)とすることができる。また、Φ2は基準時間に対するX2の相対時間(Δt_(X2))に比例した複数の第二重み係数{w2(n)}を含むことができる。すなわち、w2(n)=g(Δt_(X2)(n))(gはとりわけ線形または非線形関数、単調増加または単調減少関数、例えば指数関数、多項式、双曲線、または対数関数)とすることができる。第一信号トレンド変換回路402および第二信号トレンド変換回路404はそれぞれ、数1および2に示すように変換済信号トレンドを生成することができる。 【0055】 【数1】 【0056】 【数2】 別の例においては、Φ1は第一基準時間に対するX1の相対時間(Δt_(X1))についての単調増加関数g1として、複数の第一時間変化重み係数{w1(n)}を含むことができる(すなわち、w1(n)=g1(Δt_(X1)(n)))。また、Φ2は第二基準時間に対するX2の相対時間(Δt_(X2))についての単調減少関数g2として、複数の第二時間変化重み係数{w2(n)}を含むことができる(すなわち、w2(n)=g2(Δt_(X2)(n)))。g1およびg2はそれぞれ、とりわけ線形または非線形関数、例えば指数関数、多項式、双曲線、または対数関数とすることができる。第一信号トレンド変換回路402および第二信号トレンド変換回路404はそれぞれ、数3および4に示すように変換済信号トレンドを生成することができる。」 (本f)「【0064】 受信された生理学的信号はその後、信号の増幅、デジタル化、再サンプリング、フィルタリング、または他の信号調整プロセスを含む処理を行うことができる。一つ以上の信号メトリックは一つ以上の生理学的信号から算出することができ、502において、特定の期間における信号メトリックの複数の測定値を用いて信号トレンドを生成することができる。信号メトリックは統計学的特徴(例えば特定の期間における平均値、中央値、標準偏差、分散、百分位数、相関、共分散、または他の統計値)、形態学的特徴(例えばピーク、谷、スロープ、曲線下の領域)、あるいは同じまたは異なる生理学的信号における二つの生理学的イベント間の相対的なタイミングを含む時間的特徴(例えば心電図または心内電位図、および心音信号を用いて得られた収縮期または拡張期のタイミング)を含むことができる。信号メトリックのトレンドは、新しい生理学的信号が取得されるとともに継続的に生成することができる。トレンドはまた、患者の生理的反応、周囲環境パラメータ、または他のパラメータが特定の条件を満たした時に生成することもできる。例えば、トレンドは患者が覚醒状態にある時、活動レベルが特定の範囲内にある時、心拍数が特定の範囲内にある時、ペーシングまたは他の装置による治療が存在する時または存在しない時のみ、生成することができる。」 (本g)「【0065】 503において、信号トレンドの少なくとも一つの特性尺度を用いて一つ以上の変換を生成することができる。信号トレンドの特性尺度には、信号トレンドの強度またはトレンド信号の時間情報を含むことができる。信号トレンドの強度には、トレンド信号のエンベロープまたは整流されたトレンド信号の振幅またはピーク値を含むことができる。トレンド信号の時間情報には、基準時間に対する信号トレンドにおける各測定値の相対的なタイミングを含むことができる。信号トレンドの特性尺度にはまた、トレンド信号から計算された平均値、中央値、最頻値、標準偏差、分散、または高次統計尺度を含むことができる。信号トレンドの特性尺度の他の例には、トレンド信号から計算された差異、微分、変化率、高次の微分または差異を含むことができる。」 (本h)「【0075】 601において、患者から一つ以上の生理学的信号を受信することができる。信号の統計学的、形態学的、または時間的特徴等の一つ以上の信号メトリックは、一つ以上の生理学的信号から算出することができる。602において、信号トレンドは特定の期間における信号メトリックの複数の測定値を用いて生成することができる。603において、変換を生成するために補助信号を使用するか否かについて決定する。この決定は、信号品質、信号対雑音比、電極位置を考慮した信号の信頼性、リードの完全性、変換を決定するための信号トレンドデータの十分性の内の一つ以上を含む、601において受信された生理学的信号について検知された情報または経験的情報に基づいて行うことができる。この決定はまた、変換を決定する際の生理学的信号の有用性または信頼性を示唆する患者の過去の生理学的データから得られた経験的情報を参照して行うこともできる。」 (本i)「【0042】 対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は変換済信号生成器223から変換済信号トレンドを受信し、変換済信号トレンドが特定の基準を満たした時に、HFの悪化を示すイベント等の対象生理学的イベントの存在を検知することができる。代替的または追加的に、対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は約1?6か月、または6か月より長いような特定の期間内にHFの悪化やHF代償を示すイベント等の対象生理学的イベントが今後生じる患者の可能性を予測するために、変換済信号トレンドを利用することができる。対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230はまた、とりわけ肺水腫、肺の状態の悪化、喘息および肺炎、心筋梗塞、拡張型心筋症、虚血性心筋症、収縮期HF、拡張期HF、弁膜症、腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、末梢血管疾患、脳血管疾患、肝疾患、糖尿病、貧血、うつ病、肺高血圧症、睡眠呼吸障害、高脂血症等の新しい疾患、または既に存在する疾患の悪化の生じるリスクが高い患者を特定するために利用することもできる。 【0043】 対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は検知指標(DI)を算出し、DIが特定の基準を満たした時に対象生理学的イベントを検知するように構成することができる。一例において、対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は、約1?14日等の期間内の変換済信号トレンドの選択された部分の代表値としてDIを算出することができる。代表値には、平均値、中央値、最頻値、百分位数、四分位数、または変換済信号トレンドの選択された部分の他の中心傾向尺度を含むことができる。対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は特定の閾値を超えた、あるいは特定の範囲に入る中心傾向等の特定の基準を満たす代表値に対して、対象生理学的イベントを検知することができる。 【0044】 別の例においては、対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は、変換済信号生成器223等で生成された第一および第二変換済信号トレンドの間の比較を用いてDIを算出するように構成することができる。対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は、DIが特定の基準を満たした時に対象生理学的イベントを検知することができる。一例において、第一および第二代表値はそれぞれ第一および第二変換済信号トレンドから計算することができ、HFイベントは第一および第二代表値の間の相対的な差が特定の閾値を超えた時に検出されたものとみなされる。第一および第二代表値はそれぞれ、平均値、中央値、最頻値、百分位数、四分位数、または特定の時間ウィンドウ内の信号メトリック値の中心傾向についての他の尺度を含むことができる。 【0045】 対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は、HFの悪化を示すイベント等の生理学的イベントが検知された時、あるいは将来的にHFイベントを生じる患者の高いリスクが示された時、システムのエンドユーザに通知または警告を行うレポートを生成することができる。レポートは、リスクが予測される範囲内の対応するリスクスコアを含むことができる。レポートはまた、確認試験、診断、または治療オプション等の推奨されるアクションを含むこともできる。レポートは、例えばテキストまたはグラフィックメッセージ、音、画像、またはこれらの組み合わせを含む一つ以上のメディアフォーマットを含むことができる。一例において、レポートは命令受信回路250上の対話式ユーザインタフェースを介してユーザに提示することができる。検出されたHFイベントまたはリスクスコアはまた、外部装置120を介してエンドユーザに提示することもできる。 【0046】 制御回路240は生理学的信号分析回路210、信号変換回路220、対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230の動作、およびこれらの構成要素の間のデータの流れや命令を制御することができる。制御回路240は命令受信回路250からの外部プログラム入力を受信し、生理学的信号の受信、信号特性の生成、一つ以上の変換の生成、生成された変換を用いた信号トレンドの変換、あるいはHFイベントの検知またはリスク評価の実行の内の一つ以上を制御することができる。命令受信回路250によって受信される命令の例には、生理学的信号の感知に用いられる電極またはセンサの選択、変換の選択または確認、補助信号分析回路260で生成された補助信号の選択または確認、あるいはHFイベント検知の構成を含むことができる。命令受信回路250はユーザにプログラムオプションを提示し、ユーザのプログラム入力を受信するように構成されたユーザインタフェースを含むことができる。一例において、ユーザインタフェース等の命令受信回路250の少なくとも一部は、外部システム120に実装することができる。」 (本j)「【0072】 505において、HFの悪化等を示す生理学的イベントは変換済信号トレンドを用いて検知することができる。第一および第二変換済信号トレンドの間の比較を用いて検知指標(DI)を算出することにより、DIが特定の基準を満たした時に対象生理学的イベントを検知することができる。一例において、第一および第二代表値はそれぞれ第一および第二変換済信号トレンドから計算することができ、HFイベントは第一および第二代表値の間の相対的な差が特定の閾値を超えた時に検出されたものとみなされる。第一および第二代表値はそれぞれ、平均値、中央値、最頻値、百分位数、四分位数、またはそれぞれの時間ウィンドウ内の信号メトリック値の中心傾向についての他の尺度を含むことができる。 【0073】 505において、リスク指標を生成し、エンドユーザにレポートすることができる。HFの悪化を示すイベント等の生理学的イベントが検知された時、あるいは将来的にHFイベントを生じる患者の高いリスクが示された時、エンドユーザに通知または警告を行うレポートを生成することができる。レポートは、リスクが予測される範囲内の対応するリスクスコアを含むことができる。レポートはまた、確認試験、診断、または治療オプション等の推奨されるアクションを含むこともできる。レポートは、例えばテキストまたはグラフィックメッセージ、音、画像、またはこれらの組み合わせを含む一つ以上のメディアフォーマットを含むことができる。このようにして算出されたリスク指標はまた、とりわけ肺水腫、肺の状態の悪化、喘息および肺炎、心筋梗塞、拡張型心筋症、虚血性心筋症、収縮期HF、拡張期HF、弁膜症、腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、末梢血管疾患、脳血管疾患、肝疾患、糖尿病、貧血、うつ病、肺高血圧症、睡眠呼吸障害、高脂血症等の新しい疾患、または既に存在する疾患の悪化の生じるリスクが高い患者を特定するために利用することもできる。」 (本k)「【0079】 608において、変換済信号トレンドを用いてHFの悪化等を示す生理学的イベントを検知することができる。第一および第二変換済信号トレンドの間の比較を用いて検知指標(DI)を算出することにより、DIが特定の基準を満たした時、例えば第一および第二代表値の間の相対的な差が特定の閾値を超えた時に対象生理学的イベントを検知することができる。HFの悪化を示すイベント等の生理学的イベントが検知された時、あるいは将来的にHFイベントを生じる患者の高いリスクが示された時、エンドユーザに通知または警告を行うレポートを生成することもできる。レポートは、リスクが予測される範囲内の対応するリスクスコアを含むことができる。レポートはまた、確認試験、診断、または治療オプション等の推奨されるアクションを含むこともできる。」 2 特許法36条6項2号及び4項1号について (1)上記第3 当審の拒絶理由の1(1)に対応する事項に関して 本願発明は、当該補正書により、補正前の「一つ以上の前記生理学的信号から信号特性を算出し、前記信号特性の信号トレンドを生成するように構成された信号トレンド生成回路とを含む生理学的信号分析回路」は、「一つ以上の前記生理学的信号から少なくとも強度または時間情報を含む信号特性を算出し、前記信号特性を有する信号トレンドを生成するように構成された信号トレンド生成回路とを含む生理学的信号分析回路」と補正されことにより、「信号トレンド」は、「一つ以上の前記生理学的信号から」「算出」される「信号特性の信号トレンド」から、「一つ以上の前記生理学的信号から」「算出」される「少なくとも強度または時間情報を含む」「信号特性を有する信号トレンド」と補正された。しかしながら、補正後の「少なくとも強度または時間情報を含む」「信号特性を有する信号トレンド」とは、どのようなものであるのか理解することができない。 まず、本願明細書の発明の詳細な説明には、「信号特性を有する信号トレンド」の直接的な記載はない。 そして、この点に関連し、上記1の(本a)には、「信号トレンド生成回路212は一つ以上の生理学的信号から複数の信号メトリックを生成し、特定の期間における信号メトリックの複数の測定値を用いて信号トレンドを生成する」と記載され、該「信号メトリック」は「統計学的特徴(例えば特定の期間における平均値、中央値、標準偏差、分散、百分位数、相関、共分散、または他の統計値)、あるいは形態学的特徴(例えばピーク、谷、スロープ、曲線下の領域)」、「生理学的信号に関連した時間情報、例えば同じまたは異なる生理学的信号における二つの生理学的イベント間の相対的なタイミング等」を含むことができる旨記載されているが、「一つ以上の生理学的信号から」「生成」される「複数の信号メトリック」は、「統計学的特徴」、「形態学的特徴」、「生理学的信号に関連した時間情報」などをどのように含んでいるものであって、どういうものであるのか理解できないから、「特定の期間における信号メトリックの複数の測定値を用いて」「生成」される「信号トレンド」が、どのようなものであって、どのように生成されるものであるか理解することができない。 また、上記1の(本b)には、「信号トレンド生成回路212等で生成された信号トレンドを用いて特性尺度を生成することができる。一例において、信号トレンドの特性尺度には、トレンド信号のエンベロープや整流されたトレンド信号の振幅またはピーク値等の信号トレンドの強度を含むことができる。別の例においては、信号トレンドの特性尺度には、基準時間に対する信号トレンドにおける各測定値の相対的なタイミング等のトレンド信号の時間情報を含むことができる。」と記載されているが、この記載は、単に、「信号トレンドを用いて特性尺度を生成すること」が記載されているだけであって、「特性尺度を生成する」ための「信号トレンド」がどのようなものであって、どのように生成されるのるか記載されていないから、(本b)の記載からも「信号トレンド」がどのようなものであって,どのように生成されるものであるか理解することができない。 さらに、(本b)には、「一例において、信号トレンドの特性尺度には、トレンド信号のエンベロープや整流されたトレンド信号の振幅またはピーク値等の信号トレンドの強度を含むことができる。別の例においては、信号トレンドの特性尺度には、基準時間に対する信号トレンドにおける各測定値の相対的なタイミング等のトレンド信号の時間情報を含むことができる」と記載されているものの、この中の「トレンド信号」とは、どのようなものであって、どのように生成されるのか理解することができないし、この「トレンド信号」と「信号トレンド」との間に、差異があるのか、あるとすればどのような差異があるのかも理解することができない。そして、「基準時間」及び「各測定値の相対的なタイミング」とは、どのようなものなのか理解することができないから、「信号トレンドの特性尺度」に含まれる「信号トレンドの強度」及び「トレンド信号の時間情報」がどのようなものであるか理解することができない。 そうすると、当該補正により「少なくとも強度または時間情報を含む」「信号特性を有する信号トレンド」と補正されても、「信号トレンド」が、どのようなものであるか、理解することができない。 また、上記1の(本g)には、「信号トレンドの少なくとも一つの特性尺度を用いて一つ以上の変換を生成することができる。信号トレンドの特性尺度には、信号トレンドの強度またはトレンド信号の時間情報を含むことができる。信号トレンドの強度には、トレンド信号のエンベロープまたは整流されたトレンド信号の振幅またはピーク値を含むことができる。トレンド信号の時間情報には、基準時間に対する信号トレンドにおける各測定値の相対的なタイミングを含むことができる」旨記載されているが、この記載においても上記(本b)と同様に、「少なくとも強度または時間情報を含む」「前記信号特性を有する信号トレンド」がどのようなものであるか理解できない。 また、上記の通り、発明の詳細な説明には、「少なくとも強度または時間情報を含む信号特性」及び「前記信号特性を有する信号トレンド」がどのようなものであって、どのように生成されるものであるか、記載されていないから、発明の詳細な説明は、当業者が、その実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されているとはいえない。 そうすると、本願発明の「信号トレンド」は、依然として理解することができないし、発明の詳細な説明は、当業者が、その実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されているとはいえない。 この点に関し、令和元年7月19日付けの意見書において請求人は、 「2-1)拒絶理由通知書において、本願明細書の段落[0036]、[0050]、[0064]、及び[0075]の記載より、何らかの「信号トレンド」が生成されていることは理解できるものの、生成される「信号トレンド」がどのようなものであるか記載されていないし、また、上記(本a)の「Z_(Max)のトレンド」や(本b)の「日最大胸部インピーダンス信号(Z_(Max))のトレンド」、「S3心音トレンド||S3||」などがどのようなもので、どのように生成されるものであるか理解することができないので、「前記信号特性の信号トレンド」とは、どのようなものなのか理解することができないし、この点に関し、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるもいえないとの指摘を受け、請求項1において、「一つ以上の前記生理学的信号から少なくとも強度または時間情報を含む信号特性を算出し、前記信号特性を有する信号トレンドを生成する」と補正した(下線部は補正箇所を示す)。 この補正は、明細書の段落[0065]における記載「信号トレンドの特性尺度には、信号トレンドの強度またはトレンド信号の時間情報を含むことができる。信号トレンドの強度には、トレンド信号のエンベロープまたは整流されたトレンド信号の振幅またはピーク値を含むことができる。トレンド信号の時間情報には、基準時間に対する信号トレンドにおける各測定値の相対的なタイミングを含むことができる。」に基づくものであり、補正により、信号トレンドが、一つ以上の前記生理学的信号から算出され、少なくとも強度または時間情報を含む信号特性を有するものであることが明確となったものと思料する。」 旨主張している。しかしながら、上記の通り、「少なくとも強度または時間情報を含む信号特性」がどういうものであるかは、上記1の(本b)及び(本g)などの記載を参酌しても理解できないし、「前記信号特性の信号トレンド」が、どのようなものであって、どのように生成されるものであるのかも理解することができないから、請求人の主張は採用することができない。 (2)上記第3 当審の拒絶理由の1(2)に対応する事項に関して 本願発明は、当該補正書により、補正前の「前記信号トレンドの第一部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた第一変換を動的に生成し、前記信号トレンドの第二部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた異なる第二変換を動的に生成し、前記信号トレンドの前記第一部分に動的に生成された前記第一変換を適用して第一変換済信号トレンドを生成し、前記信号トレンドの前記第二部分に動的に生成された前記第二変換を適用して第二変換済信号トレンドを生成するように構成された信号変換回路」を「前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数を生成し、基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数を生成し、生成された前記複数の第一重み係数を前記信号トレンドの第一部分に適用して第一変換済信号トレンドを生成し、生成された前記複数の第二重み係数を前記信号トレンドの第二部分に適用して第二変換済信号トレンドを生成するように構成された信号変換回路」と補正したことにより、補正前の「前記信号トレンドの第一部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた第一変換」及び「前記信号トレンドの第二部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた異なる第二変換」は、「前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数」及び「前記信号トレンドの」「基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数」と補正された。しかしながら、(1)で検討したとおり、(本b)及び(本g)に記載の「信号トレンドの特性尺度」に含まれる「信号トレンドの強度」及び「トレンド信号の時間情報」がどのようなものであるか理解することができないから、補正後の請求項1に記載された「前記信号トレンドの強度」及び「基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間」がどのようなものであるかは、いずれも理解することができない。よって、「前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数」及び「前記信号トレンドの」「基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数」とは、どのような係数であって、どのように生成されるものなのか理解することができない。 この点に関し、上記1の(本c)には、「生理学的信号強度ベース重み係数生成器301は、トレンド信号のエンベロープまたは整流されたトレンド信号の振幅またはピーク値等の信号トレンドの信号強度に比例した複数の重み係数{w(n)}を生成することができる」、「時間変化重み係数生成器302は重み係数の値が時間とともに変化する複数の時間変化重み係数を生成することができる。一例において、時間変化重み係数の値は、基準時間T_(ref)に対する信号トレンドの相対時間Δt(Δt=t-T_(ref))についての線形または非線形関数とすることができる」など記載されているが、「信号トレンドの強度」及び「基準時間T_(ref)に対する信号トレンドの相対時間Δt(Δt=t-T_(ref))」がどのようなものであるか理解できないことは、既に検討したとおりであるから、「信号トレンドの信号強度に比例した複数の重み係数{w(n)}」及び「時間変化重み係数」は、いずれもどのようなものであるか理解することができない。そして、上記1の(本c)には、「信号トレンドの信号強度に比例した複数の重み係数{w(n)}」及び「時間変化重み係数」が、どのようなものでどのように生成されるのか、記載されていないから、上記1の(本c)は、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 また、上記1の(本e)には、「Φ1はX1の振幅に比例した複数の第一重み係数{w1(n)}を含むことができる。すなわち、w1(n)=f(||X1(n)||)(fはX1の相対的な信号強度を示す線形または非線形関数)とすることができる。また、Φ2は基準時間に対するX2の相対時間(Δt_(X2))に比例した複数の第二重み係数{w2(n)}を含むことができる。すなわち、w2(n)=g(Δt_(X2)(n))(gはとりわけ線形または非線形関数、単調増加または単調減少関数、例えば指数関数、多項式、双曲線、または対数関数)とすることができる。」と記載されているが、「X1の振幅に比例した複数の第一重み係数{w1(n)}」であって、「相対的な信号強度を示す線形または非線形関数」である「f(||X1(n)||)」及び「基準時間に対するX2の相対時間(Δt_(X2))に比例した複数の第二重み係数{w2(n)}」であって「線形または非線形関数、単調増加または単調減少関数」である「g(Δt_(X2)(n))」がどのような関数であるか特定されていないから、「第一重み係数{w1(n)}」及び「第二重み係数{w2(n)}」がどのようなものであるか、理解することができない。そして、上記1の(本e)には、「第一重み係数{w1(n)}」及び「第二重み係数{w2(n)}」がどのようなものであって、どのように生成されるのか記載されていないから、上記1の(本e)の記載は、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 そうすると、「前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数」及び「前記信号トレンドの」「基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数」が、どのような係数であって、どのように生成されるのか、上記1の(本c)及び(本e)の記載を参酌しても、理解することができないから、補正前の「第一変換」及び「第二変換」は、「前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数」及び「前記信号トレンドの」「基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数」と補正されても、依然として、どのようなものであって、どのように生成されるものであるのか理解することができないし、また、発明の詳細な説明は、その実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 この点に関し、令和元年7月19日付けの意見書において請求人は、 「2-2)拒絶理由通知書において、請求項1に記載された「前記信号トレンドの第一部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた第一変換を動的に生成し、前記信号トレンドの第二部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた異なる第二変換を動的に生成し、前記信号トレンドの前記第一部分に動的に生成された前記第一変換を適用して第一変換済信号トレンドを生成し、前記信号トレンドの前記第二部分に動的に生成された前記第二変換を適用して第二変換済信号トレンドを生成するように構成された信号変換回路」と記載されているが、「前記信号トレンド」の「第一部分」及び「第2の部分」の「少なくとも一つの特性尺度に基づいた」「第一変換」及び「第二変換」とは、どのようなものであるか理解できないし、これらを「動的に生成し」とは、どのように生成することなのか理解することができない(この点に関し、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「第一変換」及び「第二変換」が具体的にどのような変換であって、「動的に生成」することがどのように生成することなのか理解することができないし、この点に関し、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるもいえない)との指摘を受け、請求項1において「前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数を生成し、基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数を生成し、生成された前記複数の第一重み係数を前記信号トレンドの第一部分に適用して第一変換済信号トレンドを生成し、生成された前記複数の第二重み係数を前記信号トレンドの第二部分に適用して第二変換済信号トレンドを生成するように構成された信号変換回路とを含み、」と補正した(下線部は補正箇所を示す)。 この補正は、明細書の段落[0054]における記載「一例において、Φ1はX1の振幅に比例した複数の第一重み係数{w1(n)}を含むことができる。すなわち、w1(n)=f(||X1(n)||)(fはX1の相対的な信号強度を示す線形または非線形関数)とすることができる。また、Φ2は基準時間に対するX2の相対時間(Δt_(X2))に比例した複数の第二重み係数{w2(n)}を含むことができる。すなわち、w2(n)=g(Δt_(X2)(n))(gはとりわけ線形または非線形関数、単調増加または単調減少関数、例えば指数関数、多項式、双曲線、または対数関数)とすることができる。」および段落[0055]における数式([数1]および[数2])に基づく。この補正により、請求項1に記載された信号変換回路における信号トレンドに関する処理機能が明細書の記載に基づいて明確となったものと思料する。」 旨主張している。しかしながら、上記の通り、「X1の振幅に比例した複数の第一重み係数{w1(n)}」であって、「相対的な信号強度を示す線形または非線形関数」である「f(||X1(n)||)」及び「基準時間に対するX2の相対時間(Δt_(X2))に比例した複数の第二重み係数{w2(n)}」であって「線形または非線形関数、単調増加または単調減少関数」である「g(Δt_(X2)(n))」がどのような関数であるか特定されていないから、「第一重み係数{w1(n)}」及び「第二重み係数{w2(n)}」がどのようなものであるか、理解することができないし、段落[0055]における数式([数1]および[数2])には、単に、「f(||X1(n)||)」及び「g(Δt_(X2)(n))」が記載されているのみであって、これらの関数がどのようなものであるか特定することができないから、補正前の「第一変換」及び「第二変換」を、「前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数」及び「前記信号トレンドの」「基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数」と補正しても、依然として、これらがどのようなものであって、どのように生成されるものであるのか理解することができないし、また、発明の詳細な説明は、その実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 よって、請求人の上記主張は認めることができない。 (3)上記第3 当審の拒絶理由の2に対応する事項に関して 補正前の請求項1に係る発明の「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを比較して悪化する心不全のイベントを検知する」ことに関し、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンド」は、当該補正書により、補正前の「前記信号トレンドの第一部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた第一変換を動的に生成し」、「前記信号トレンドの前記第一部分に動的に生成された前記第一変換を適用して」「生成」された「第一変換済信号トレンド」及び「前記信号トレンドの第二部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた異なる第二変換を動的に生成し」、「前記信号トレンドの前記第二部分に動的に生成された前記第二変換を適用して」「生成」された「第二変換済信号トレンド」は、「前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数を生成し」、「生成された前記複数の第一重み係数を前記信号トレンドの第一部分に適用して」「生成」された「第一変換済信号トレンド」及び「前記信号トレンドの」「基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数を生成し」、「生成された前記複数の第二重み係数を前記信号トレンドの第二部分に適用して」「生成」された「第二変換済信号トレンド」と補正された。 この点に関し、上記1の(本e)には、「第一信号トレンド変換回路402は信号トレンドの第一部分(X1)に第一変換(Φ1)を適用して第一変換済信号トレンド(X1_(T))を生成することができる(X1_(T)=Φ1(X1))。同様に、第二信号トレンド変換回路404は信号トレンドの第二部分(X2)に第二変換(Φ2)を適用して第二変換済信号トレンド(X2_(T))を生成することができる(X2_(T)=Φ2(X2))。・・・第一信号トレンド変換回路402および第二信号トレンド変換回路404はそれぞれ、数1および2に示すように変換済信号トレンドを生成することができる。」と記載されており、「数1及び2」では、「第一変換済信号トレンド(X1_(T))」及び「第二変換済信号トレンド(X2_(T))」を、それぞれ、「X1の振幅に比例した複数の第一重み係数{w1(n)}」であって、「相対的な信号強度を示す線形または非線形関数」である「f(||X1(n)||)」と「X1(n)」との積及び「基準時間に対するX2の相対時間(Δt_(X2))に比例した複数の第二重み係数{w2(n)}」であって「線形または非線形関数、単調増加または単調減少関数」である「g(Δt_(X2)(n))」と「X2(n)」との積で求めているものであって、「f(||X1(n)||)」及び「g(Δt_(X2)(n))」は、上記(2)で検討したとおり、どのような関数であるか特定できないから、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンド」がどのように生成されたものであるかは、上記1の(本e)を参酌しても理解することができない。すると、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンド」をどのように「比較して悪化する心不全のイベントを」どのように「検知する」ことができるのか理解することができないから、上記1の(本e)の記載は、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 また、(本i)には、「対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は変換済信号生成器223から変換済信号トレンドを受信し、変換済信号トレンドが特定の基準を満たした時に、HFの悪化を示すイベント等の対象生理学的イベントの存在を検知することができる。代替的または追加的に、対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は約1?6か月、または6か月より長いような特定の期間内にHFの悪化やHF代償を示すイベント等の対象生理学的イベントが今後生じる患者の可能性を予測するために、変換済信号トレンドを利用することができる。・・・対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は検知指標(DI)を算出し、DIが特定の基準を満たした時に対象生理学的イベントを検知するように構成することができる。一例において、対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は、約1?14日等の期間内の変換済信号トレンドの選択された部分の代表値としてDIを算出することができる。代表値には、平均値、中央値、最頻値、百分位数、四分位数、または変換済信号トレンドの選択された部分の他の中心傾向尺度を含むことができる。・・・別の例においては、対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は、変換済信号生成器223等で生成された第一および第二変換済信号トレンドの間の比較を用いてDIを算出するように構成することができる。対象生理学的イベント検知/リスク評価回路230は、DIが特定の基準を満たした時に対象生理学的イベントを検知することができる。一例において、第一および第二代表値はそれぞれ第一および第二変換済信号トレンドから計算することができ、HFイベントは第一および第二代表値の間の相対的な差が特定の閾値を超えた時に検出されたものとみなされる。」と、そして、上記1の(本j)には、「505において、HFの悪化等を示す生理学的イベントは変換済信号トレンドを用いて検知することができる。第一および第二変換済信号トレンドの間の比較を用いて検知指標(DI)を算出することにより、DIが特定の基準を満たした時に対象生理学的イベントを検知することができる。一例において、第一および第二代表値はそれぞれ第一および第二変換済信号トレンドから計算することができ、HFイベントは第一および第二代表値の間の相対的な差が特定の閾値を超えた時に検出されたものとみなされる。・・・」と、さらに、上記1の(本k)には、「608において、変換済信号トレンドを用いてHFの悪化等を示す生理学的イベントを検知することができる。第一および第二変換済信号トレンドの間の比較を用いて検知指標(DI)を算出することにより、DIが特定の基準を満たした時、例えば第一および第二代表値の間の相対的な差が特定の閾値を超えた時に対象生理学的イベントを検知することができる。・・・」などと記載されているが、これら記載は、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを」いろいろな方法で「比較して悪化する心不全のイベントを検知する」ことができることが記載されているだけであって、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンド」が、どういうものであってどのように生成されるものであるか記載されておらず、また、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを」「比較し」た結果、「特定の基準を満たした時」又は「相対的な差が特定の閾値を超えた時」が「悪化する心不全のイベントを検知」したことである旨記載されているものの、「特定の基準」及び「相対的な差」がどのようなものであるか特定されていないから、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを」「比較し」た結果、どのようになれば「悪化する心不全のイベントを検知」したことになるか記載されているとはいえない。すると、上記1の(本i)?(本k)の記載も、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。 以上のことから、本願発明は、当該補正書により、補正前の「前記信号トレンドの第一部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた第一変換を動的に生成し」、「前記信号トレンドの前記第一部分に動的に生成された前記第一変換を適用して」「生成」された「第一変換済信号トレンド」及び「前記信号トレンドの第二部分の少なくとも一つの特性尺度に基づいた異なる第二変換を動的に生成し」、「前記信号トレンドの前記第二部分に動的に生成された前記第二変換を適用して」「生成」された「第二変換済信号トレンド」は、「前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数を生成し」、「生成された前記複数の第一重み係数を前記信号トレンドの第一部分に適用して」「生成」された「第一変換済信号トレンド」及び「前記信号トレンドの」「基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数を生成し」、「生成された前記複数の第二重み係数を前記信号トレンドの第二部分に適用して」「生成」された「第二変換済信号トレンド」と補正されたことによっても、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを比較して悪化する心不全のイベントを検知する」ことについて、発明の詳細な説明は、その実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載されているものであるとはいえない。 この点に関し、令和元年7月19日付けの意見書において請求人は、 「(3) 理由2について 拒絶理由通知書において、本願明細書の段落[0028]、[0038]、[0042]、[0043]、[0044]、[0045]、[0046]、[0072]、[0073]、[0079]の記載より、本願明細書の発明の詳細な説明には、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを比較して悪化する心不全のイベントを検知する」ことに関して記載されているが、具体的に「一つ以上の生理学的信号」としてどの信号を使用し、「少なくとも一つの特性尺度」としてどの尺度を使用して「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンド」を生成し、どのように比較することにより「悪化する心不全のイベントを検知する」ことができるかに関して記載されていないとの指摘を受け、上記したように請求項1を補正したことにより、本願明細書の発明の詳細な説明には、信号トレンドの強度および相対時間に比例した重み係数を信号トレンドの各部分に適用することにより第一および第二変換済み信号トレンドを生成し、第一および第二変換済信号トレンドを比較して悪化する心不全のイベントを検知することに関して記載されているものと思料する。 ・・・ よって、補正後の請求項1に係る発明について、当業者が実施することができる程度に本願明細書の発明の詳細な説明が記載されているものと思料する。・・・」 旨主張している。しかしながら、上記の通り、本願発明の「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを比較して悪化する心不全のイベントを検知する」ことに関し、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンド」が、当該補正書により、「前記信号トレンドの強度に比例した複数の第一重み係数を生成し」、「生成された前記複数の第一重み係数を前記信号トレンドの第一部分に適用して」「生成」された「第一変換済信号トレンド」及び「前記信号トレンドの」「基準時間に対する前記信号トレンドの相対時間に比例した複数の第二重み係数を生成し」、「生成された前記複数の第二重み係数を前記信号トレンドの第二部分に適用して」「生成」された「第二変換済信号トレンド」と補正されたことによっても、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンド」がどういうもので、どのように生成されるものであるか、また、「前記第一変換済信号トレンドおよび前記第二変換済信号トレンドを」「比較し」た結果、どのようになれば「悪化する心不全のイベントを検知」したことになるか、発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから、請求人の上記主張は認められない。 (4)小括 上記(1)及び(2)より、本願発明は明確であるとはいえないし、上記(1)?(3)より、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-08-19 |
結審通知日 | 2019-08-20 |
審決日 | 2019-09-02 |
出願番号 | 特願2016-536595(P2016-536595) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(A61B)
P 1 8・ 537- WZ (A61B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松本 隆彦 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
三木 隆 福島 浩司 |
発明の名称 | 心不全を予測するための装置 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 本田 淳 |