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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B |
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管理番号 | 1358946 |
審判番号 | 不服2018-17559 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-12-28 |
確定日 | 2020-01-15 |
事件の表示 | 特願2015-205520「組織集積センサー」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 7日出願公開、特開2016- 47252〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2011年(平成23年)10月6日(パリ条約による優先権主張 2010年10月6日 米国)を国際出願日として出願した特願2013?532954号の一部を、平成27年10月19日に新たに出願したものであって、平成28年9月28日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月14日付けで意見書が提出され、同年3月17日付けで手続補正書が提出され、同年8月29日付けで拒絶理由が通知され、平成30年3月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月27日付け(同年9月4日送達)で拒絶査定されたところ、同年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明10」という。)は、平成30年3月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうちの本願発明1は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 検知部分であって、(1)組織を通過して分散された励起シグナルを受信し、及び(2)励起シグナルの受信に応答して、分析物の存在下で発光シグナルを生じさせる検知部分 ;及び 該検知部分を含む組織集積足場 を含み、毛細血管が検知部分に近接近した状態で組織集積足場内に直接成長し得るように、足場は、相互連結された複数の細孔を画定する、装置。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?10に係る発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、引用文献3または引用文献4に記載された発明のそれぞれを主たる引用発明とし、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 特に、この出願の請求項1に係る発明に対して、拒絶査定の「(1)引用文献1を主引例とする拒絶の理由」において、引用文献2は、引用文献1に記載の「血管新生を伴う全組織の内への成長を許容する生物適合性メッシュ」の技術的意味について検討するために参考として引用されたものであり、当該拒絶の理由において、請求項1に係る発明は引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであると説示されている。 引用文献1:特表2000-500656号公報 引用文献2:特表2009-540936号公報 引用文献3:国際公開第01/18543号 引用文献4:特表2003-508186号公報 引用文献5:特表2008-517298号公報 引用文献6:米国特許出願公開第2010/0113901号明細書 第4 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2000-500656号公報)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。) (引1ア) 「発明の概要 本発明は、ポリヒドロキシル化化合物、特にグルコースの生物レベルの測定のための方法を提供する。本方法は、移植可能であり、そして検出できるシグナルを、典型的には哺乳動物、例えばヒトの皮膚の外に作り出す増幅システムを利用する。その増幅システムは、ポリマーマトリックス内に固定された被検体トランスデューサーである。その増幅システムによるシグナルの発生は、典型的には、光源による呼びかけ信号の結果である。重要なのは、そのシグナルは共鳴エネルギー転移を必要としないが、かわりに電子伝達(例えば分子の電子伝達又は光電子伝達)による。次に、形成されたシグナルは、ポリヒドロキシル化化合物又は関心の被検体の量を決定する。 それゆえ、本発明に2つの重要な態様がある。第1の態様は、捕獲は共有結合のいずれかによりポリマーマトリックス、特に生物適合性マトリックス内に固定化された増幅構成物を含む移植可能増幅システム(IAS)である。本発明の第2の態様は、検出可能なシグナルを形成するために、前記固定化増幅構成物に呼びかけ信号を送る光学システムである。特定の実施形態において、本光学システムは経皮光学システムであり、他の態様においてファイバー光学システムが用いられる。」(9ページ13行?29行) (引1イ) 「全般-- 本発明の広い概念を図1に示す。見ることができるように、その基本的スキームは皮膚の外側にあり得るディテクター及びソースモジュールの両方を利用する。そのソースは皮下増幅システムに呼びかけ信号を送る励起シグナルを供する。次にそのシステムは外部のディテクターによりモニターされる増幅されたシグナルを作り出す。 その増幅システムは、種々の組織に移植することができる。好ましくは、そのシステムは、皮膚の表面下1?2mmの深さにおいて皮下に移植される。この深さにおいて、そのシステムは、真皮膚と皮 下脂肪層との間に容易に移植される。哺乳動物におけるこれらの層は比較的容易に分離され、そして増幅システム(例えば生物適合性ポリマー中の化学的増幅構成物)は、わずかな外科的手順で作られた小さなポケットに挿入することができる。その移植されるシステムは、毛細管血液により灌流され得、そしてグルコースが容易に拡散することができる材料から作られ得る。あるいは、増幅システムは、関心の被検体を含む他の流体と接触しておくことができる。 (図1に示す)一群の実施形態において、その増幅システムは、局所的な被検体の濃度によって調節されるシグナルを供する蛍光成分を含み得る固定化された化学的増幅構成物を含む。(蛍光染料が用いられるこれらの実施形態について)蛍光光子のためのフィルターを組み込むこともできる。移植された増幅システムはその移植物を覆う又はそれ上に置かれた小さな装置により皮膚を通して呼びかけ信号が送られる。その小さな装置は光源(例えばフィルターLED)及びフィルターディテクター(例えば光電子増倍管、不偏シリコンホトダイオード)を含む。」(11ページ14行?12ページ7行) (引1ウ) 「ポリマーマトリックス内の増幅構成物の固定化 生体内での被検体検出のための増幅構成物を用いるために、その反応のための構成物は皮下に移植され得るポリマーマトリックス内に固定化されなければならない。そのマトリックスは、関心の被検 体に透過性であり、体内で安定であるべきである。更に、そのマトリックスは、生物適合性材料から調製され、又は生物適合性ポリマーでコートされるべきである。本明細書に用いる場合、用語“生物適合性”とは、動物への移植に検出できる悪影響を与えない材料又はマトリックスの特性をいう。被検体への移植可能増幅システムの最初の導入に基づいていくつかの炎症がおこり得るが、その炎症は持続せず、そしてそのインプラントは、被包すること(例えば瘢痕組織)により実行できなくならないだろう。 生物適合性マトリックスは、液体基質(例えばコートされた透析チューブ)又は固体基質(例えばポリウレタン/ポリウレア、シリコン含有ポリマー、ヒドロゲル、ゾルゲル等)のいずれかを含み得る。更に、マトリックスは、例えば透析ファイバー、テクロン布、再吸収性ポリマー又は島(islet)被包材料から調製された生物適合性シエルを含み得る。そのマトリックスは、ディスク、シリンダー、パッチ、ミクロスフィア又は再充填可能な包みの形態であり得、注目すべきは、血管新生を伴う全組織の内への成長を許容する生物適合性メッシュを更に組み込むことができる。」(20ページ23行?21ページ13行) (引1エ) 「いくつかの実施形態において、増幅構成物は、それ自体関心の被検体に透過性でありそして生物適合性であるマトリックス内に捕獲され又は共有結合によりおおわれるであろう(図14Bを参照のこと)。これらの実施形態において、第2の透過性層は不要である。しかしながら、組織移植を更に容易にするヒドロゲルのような透過性層の使用が好ましい(図14Cを参照のこと)。」(22ページ2行?6行) (引1オ) 「本明細書に記載されるバイオセンサーの第2の態様は、IASに呼びかけ信号を送り、そしてこれによりIASにより生産されるシグナルを検出するための光学システムができる。本明細書に用いる場合、用語“呼びかけ信号”とは、IASにおける増幅構成物の照射及び次の放出された光の検出をいう。経皮光学システムを示す一実施形態を図1に示す。ここにおいて、光源(S)は皮膚を通して光り、そしてディテクター(D)は、皮膚を通して伝えられた蛍光を検出する。図3?6は、光源が移植され、又は光がファイバーの端に位置した増幅システムに、ファイバーオプティックを通して移動する場合の皮膚を通しての伝達のない実施形態を示す。 図1は、皮下に移植した光学グルコースモニターシステムの概略図を示す。光源(S)は、ランプ、LED、又はレーザーダイオード(パルス又は変調)であり得る。ディテクター(D)はホトダイオード、CCDディテクター又は光電子増倍管であり得る。任意に、要求される波長を得るために光の入射及び/又は発射したビームをフィルターにかけるためフィルターが用いられる。光源及びディテクターは、体の外に位置して図1に示されるが、光源及び/又はディテクターは、図3?6に示すように移植することができる。固定化された増幅構成物を有する生物適合性材料(例えばシリコーン、ポリウレタン又は他のポリマー)はその皮膚下に移植される。光源は移植されたシステムを照射するのに用いられ、そしてディテクターは、放出された(典型的に蛍光の)光の強度を検出する。他の相互作用のモデル、例えば吸光度、透過率、又は反射率も、ディテクター又はスペクトロメーターにより測定される光の量又は光の特徴の変化が局所的な被検体(例えばグルコース)濃度により変えられるなら、用いることができる。更に他の検出方法において、光強度でなく蛍光の寿命が測定される。」(30ページ5行?27行) 2 引用文献1に記載された発明 ア 記載事項の整理 (ア)上記(引1オ)には、「IAS」との記載がなされているが、上記(引1ア)に「移植可能増殖システム(IAS)」とあるように、「IAS」は「移植可能増殖可能システム」の略語であるから、表現を統一するため、以降の引用発明の認定においては、「移植可能増殖システム」として記載する。また、(引1オ)の、「光源は移植されたシステムを照射するのに用いられ」との記載において、「移植されたシステム」は、これが同じく(引1オ)に記載されている「IAS」のことであることは明らかであるから、当該「移植されたシステム」についても「移植可能増殖システム」と記載する。 (イ) 上記(引1オ)には、「IASにより生産されるシグナル」、「放出された光」、「皮膚を通して伝えられた蛍光」との記載があるが、これらはいずれも移植可能増殖システムから生じ、「光学システム」のディテクターで検出されるものであり、同一のものを指していることは明らかであるから、これ以降引用発明の認定においては、これらを「蛍光」として統一的に記載する。 (ウ)上記(引1オ)には、「呼びかけ信号」は、「光源」から「移植されたシステム」に「照射」されるものであるから、当該「呼びかけ信号」とは、「光源」から「照射される」もの、すなわち、光であることは明らかである。そして、上記(引1オ)には、「IASに呼びかけ信号を送り、そしてこれによりIASにより生産されるシグナルを検出する」とあり、ここで、前記(イ)で説明したとおり「シグナル」は蛍光のことであり、「呼びかけ信号」とは蛍光を発生させるために照射される光である。すなわち、「呼びかけ信号」とは、光学の技術分野において一般的に励起光と称されるものであるから、以降「呼びかけ信号」を「励起光」と記載する。 (エ)前記(ア)?(ウ)を踏まえて、上記(引1オ)の記載事項を整理すると、上記(引1オ)には、「移植可能増殖システムにおける増幅構成物は、光源から皮膚を通して励起光が照射され、励起光により蛍光を生産する」ことが記載されていると認められる。 イ したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「生物適合性マトリックス内に固定化された増幅構成物を含む移植可能増幅システムであって、 前記増殖構成物は、局所的な被検体の濃度によって調節されるシグナルを供する蛍光成分を含み、それ自体関心の被検体に透過性でありそして生物適合性である前記マトリックス内に捕獲され又は共有結合によりおおわれており、 前記マトリックスは、ディスク、シリンダー、パッチ、ミクロスフィア又は再充填可能な包みの形態であり得、血管新生を伴う全組織の内への成長を許容する生物適合性メッシュを更に組み込んでおり、 そして、移植可能増殖システムにおける増幅構成物は、光源から皮膚を通して励起光が照射され、励起光により蛍光を生産する、 移植可能増幅システム。」 第5 対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 1 引用発明の「局所的な被検体の濃度によって調節されるシグナルを供する蛍光成分を含み、」 「光源から皮膚を通して励起光が照射され、励起光により蛍光を生産する」「増殖構成物」は、本願発明1の「検知部分であって、(1)組織を通過して分散された励起シグナルを受信し、及び(2)励起シグナルの受信に応答して、分析物の存在下で発光シグナルを生じさせる検知部分」に相当する。 2 本願発明の「組織集積」について、本願明細書の段落【0043】に、「用語「組織集積」とは、生体組織内に組み込まれた場合、組織の血管(例えば、毛細血管)との近接近の状態である材料(例えば、足場)を意味する。「近接近」とは、組織内に埋め込まれた材料(足場)内の任意点から最も近い血管までの平均距離が、天然の(元の)組織における任意点から最も近い血管までの平均距離よりも大きく、100ミクロン未満であることを意味する。」と記載されている。 一方、引用発明の「生物適合性マトリックス」は、「血管新生を伴う全組織の内への成長を許容する生物適合性メッシュを更に組み込ん」だものであるから、上記本願明細書の記載を踏まえると、本願発明1の「組織集積足場」に相当し、そして、引用発明の「生物適合性マトリックス」に「更に組み込」まれた「生物適合性メッシュ」が「血管」「の内への成長を許容する」ことは、「生物適合性メッシュ」に「血管新生を伴う全組織の内への成長」が生じる結果として、「生物適合性マトリックス内に固定化された増幅構成物」が毛細血管の近くに位置することになるから、本願発明1の「毛細血管が」「近接近した状態」に相当する。 また、生物適合性「メッシュ」であるから、複数の細孔が画定されているものである。 したがって、引用発明の「血管新生を伴う全組織の内への成長を許容する生物適合性メッシュを更に組み込ん」でいる「生物適合性マトリックス」は、本願発明1の「毛細血管が検知部分に近接近した状態で組織集積足場内に直接成長し得る」「複数の細孔を画定する」「足場」に相当する。 3 引用発明の「生物適合性マトリックス」は、「増幅構成物」が「固定化された」ものであって、「増殖構成物」が「生物適合性である前記マトリックス内に捕獲され又は共有結合によりおおわれ」ていること、さらに、前記1及び2で述べたとおり、引用発明の「増殖構成物」、「生物適合性マトリックス」がそれぞれ、本願発明1の「検知部分」、「組織集積足場」に相当することを踏まえると、引用発明の「増幅構成物」が「固定化された」「生物適合性マトリックス」は、本願発明1の「該検知部分を含む組織集積足場」に相当する。 4 引用発明の「生物適合性マトリックス内に固定化された増幅構成物を含む移植可能増幅システム」は、本願発明1の「検知部分」「及び」「該検知部分を含む組織集積足場」「を含」む「装置」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「検知部分であって、(1)組織を通過して分散された励起シグナルを受信し、及び(2)励起シグナルの受信に応答して、分析物の存在下で発光シグナルを生じさせる検知部分 ;及び 該検知部分を含む組織集積足場 を含み、毛細血管が検知部分に近接近した状態で組織集積足場内に直接成長し得るように、足場は、複数の細孔を画定する、装置。」 (相違点)複数の細孔が、本願発明1では、「相互連結された」ものであるのに対して、引用発明では、「相互連結された」ものか不明である点。 第6 判断 上記相違点について検討する。 組織内に移植され、組織形成の足場となる材料において、血管新生を伴う組織の内への成長を許容するするためには、複数の細孔が「相互連結された」ものでなければならないことは当業者において自明のことである。 してみると、引用発明における生物適合性マトリックスの血管新生を伴う全組織の内への成長を許容する生物適合性メッシュを、「相互連結された」複数の細孔を画定する構造とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-08-19 |
結審通知日 | 2019-08-20 |
審決日 | 2019-09-03 |
出願番号 | 特願2015-205520(P2015-205520) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼ 芳徳 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
森 竜介 三木 隆 |
発明の名称 | 組織集積センサー |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 胡田 尚則 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 南山 知広 |
代理人 | 渡辺 陽一 |