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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1359077
審判番号 不服2018-17033  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-21 
確定日 2020-01-16 
事件の表示 特願2013-273622「顕微鏡及びこれを用いた拡大観察方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 9日出願公開、特開2015-127779〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月27日の出願であって、平成29年7月14日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月21日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、平成30年2月26日付けで拒絶の理由(最後)が通知され、同年4月25日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、同年9月28日付けで同年4月25日付けの手続補正が却下されるとともに、拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月21日付けで拒絶査定に対する不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、平成31年4月16日付け及び令和1年10月25日付けで上申書が提出されたものである


第2 平成30年12月21日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成29年9月21日付けで提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至4を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至4へと補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
観察対象物が載置され水平方向に移動可能な載置台と、
前記載置台を上下方向に移動可能に支持する下ステージ昇降部と、
前記下ステージ昇降部を駆動する第一駆動機構と、
観察対象物を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が取り付けられる取付手段と、
前記取付手段を前記撮像手段の光軸に沿って上下方向に移動可能に支持し、前記撮像手段の光軸に直交する揺動軸を中心として揺動可能な上ステージ昇降部と、
前記上ステージ昇降部を駆動する第二駆動機構と、
ユーセントリック位置に位置決めするために、
前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致している状態で、
前記第一駆動機構を制御して前記載置台に載置されている観察対象物の表面が揺動軸の高さ位置に合致するように前記下ステージ昇降部を駆動する制御部とを備え、
前記制御部は、前記撮像手段と観察対象面との距離が異なる複数の位置の各々で前記撮像手段が観察対象物の観察画像を取得するために、前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段が揺動軸を中心として揺動する前記上ステージ昇降部に支持された状態で前記撮像手段を前記撮像手段の光軸に沿って移動するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記複数の位置の各々で前記撮像手段が取得した観察対象物の観察画像のうち前記撮像手段のピントが合致した位置の画素を合成して深度合成された画像を生成することを特徴とする顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載される顕微鏡であって、
前記載置台が水平方向に移動して観察対象面が水平方向に移動した状態で、
前記第一駆動機構は、前記第一駆動機構が記憶している焦点距離情報に基づいて、揺動軸上に新たに位置する観察対象面を揺動軸に合致させることを特徴とする顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2に記載される顕微鏡であって、
前記第一駆動機構は、前記撮像手段が深度合成を行った後に、前記撮像手段のピントが揺動軸に合致する位置に前記下ステージ昇降部を戻すことを特徴とする顕微鏡。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載される顕微鏡であって、
前記制御部は、前記第一駆動機構を制御して前記載置台が最下位置に移動するように前記上ステージ昇降部を駆動することを特徴とする顕微鏡。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
観察対象物が載置され水平方向に移動可能な載置台と、
前記載置台を上下方向に移動可能に支持する下ステージ昇降部と、
前記下ステージ昇降部を駆動する第一駆動機構と、
観察対象物を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が取り付けられる取付手段と、
前記取付手段を前記撮像手段の光軸に沿って上下方向に移動可能に支持し、前記撮像手段の光軸に直交する揺動軸を中心として揺動可能な上ステージ昇降部と、
前記上ステージ昇降部を駆動する第二駆動機構と、
ユーセントリック位置に位置決めするために、
前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致している状態に制御しつつ、
前記第一駆動機構を、前記載置台に載置されている観察対象物の表面に前記撮像手段のピントが合致するように制御して前記載置台に載置されている観察対象物の表面が揺動軸の高さ位置に合致するように前記下ステージ昇降部を駆動する制御部とを備え、
前記制御部は、前記撮像手段と観察対象面との距離が異なる複数の位置の各々で前記撮像手段が観察対象物の観察画像を取得するために、前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段が揺動軸を中心として揺動する前記上ステージ昇降部に支持された状態で前記撮像手段を前記撮像手段の光軸に沿って移動するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記複数の位置の各々で前記撮像手段が取得した観察対象物の観察画像のうち前記撮像手段のピントが合致した位置の画素を合成して深度合成された画像を生成することを特徴とする顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載される顕微鏡であって、
前記載置台が水平方向に移動して観察対象面が水平方向に移動した状態で、
前記第一駆動機構は、前記第一駆動機構が記憶している焦点距離情報に基づいて、揺動軸上に新たに位置する観察対象面を揺動軸に合致させることを特徴とする顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2に記載される顕微鏡であって、
前記第一駆動機構は、前記撮像手段が深度合成を行った後に、前記撮像手段のピントが揺動軸に合致する位置に前記下ステージ昇降部を戻すことを特徴とする顕微鏡。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載される顕微鏡であって、
前記制御部は、前記第一駆動機構を制御して前記載置台が最下位置に移動するように前記上ステージ昇降部を駆動することを特徴とする顕微鏡。」(下線は審決で付した。以下同じ。)

2 補正事項について
本件補正により、本件補正前の請求項1乃至4の「顕微鏡」における「制御部」に関して、
「前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致している状態に制御しつつ、
前記第一駆動機構を、前記載置台に載置されている観察対象物の表面に前記撮像手段のピントが合致するように制御して前記載置台に載置されている観察対象物の表面が揺動軸の高さ位置に合致するように前記下ステージ昇降部を駆動する制御部」
と具体的に特定したものであって、本件補正前の請求項1乃至4に記載された発明とその補正後の当該請求項1乃至4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(平成30年12月21日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】乃至【請求項3】(以下、それぞれ「本願補正発明1」乃至「本願補正発明3」という。)における本願補正発明1)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本願補正発明1
本願補正発明1は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の出願日前の平成25年4月22日に頒布された刊行物である特開2013-72996号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本ステージ上に載置された標本に対応する光が入射する観察光学系と、
前記観察光学系から出射した光を受光して画像信号を生成する画像信号生成手段と、
前記観察光学系を該観察光学系の光軸に沿って移動させることにより、合焦操作を行う電動ヘッド操作手段と、
前記観察光学系及び前記画像信号生成手段を、前記光軸と直交する軸を中心に回転させることにより、前記光軸を前記標本ステージと直交する軸に対して傾斜させる回転手段と、
前記観察光学系の焦点と、前記観察光学系の回転軸とが一致した状態に関する情報を記憶する記憶手段と、
前記情報に基づき、電動ヘッド操作手段に前記焦点を前記回転軸に一致させる制御を行う制御手段と、
を備えることを特徴とする顕微鏡システム。

【請求項11】
前記標本ステージを該標本ステージの主面と直交する方向に移動可能に保持するステージ操作手段をさらに備えることを特徴とする請求項1?10のいずれか1項に記載の顕微鏡システム。」
イ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像部を備えた顕微鏡システムに関する。」
ウ.「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような光学ヘッドの傾斜(ティルト)が可能な顕微鏡の場合、光学ヘッドを傾けた際に、観察ポイントや、一旦合わせた焦点位置がずれてしまうという問題がある。例えば、図20に示すように、光学ヘッド90の回転中心Oが、ステージ91上の所定の高さに設定されている場合、光学ヘッド90の光軸Rをステージ91表面と直交させた状態で標本92の表面に合焦した後、光学ヘッド90を傾斜させると、観察ポイントが位置P1から位置P2に、距離dXだけずれてしまう。また、焦点についても、位置P1から位置P3に距離dZだけずれてしまう。
【0006】
また、図21に示すように、標本92表面の観察ポイント(位置P4)を斜めから観察するために、光学ヘッド90の光軸Rをステージ91表面と直交する軸Z0に対して傾斜させた後、光学ヘッド90を標本92の表面に合焦しようとすると、やはり観察ポイントが位置P4から位置P5にずれてしまう。
【0007】
このような問題に対して、特許文献1においては、光学ヘッドの回転中心の高さにステージの標本載置面の高さを合わせた状態で、光学ヘッドの焦点を標本載置面に合わせることにより、光学ヘッドの焦点位置と回転中心とを一致させた後で、標本をステージに載置し、ステージの高さを調節して標本に焦点を合わせることとしている。
【0008】
しかしながら、この場合、光学ヘッドの焦点を標本載置面に一旦合わせるといったステップを実行しなければならず、操作が煩雑である。特に、厚さの異なる標本や、内部に段差がある標本を観察する場合、標本の高さが変化する毎にこのようなステップを実行しなくてはならないため、観察に時間がかかってしまう。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、光学ヘッドを傾斜可能な顕微鏡システムにおいて、光学ヘッドを傾斜させる場合においても、煩雑な操作を行うことなく、観察ポイントの位置ずれや焦点のずれの発生を抑制することができる顕微鏡システムを提供することを目的とする。」
エ.「【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、観察光学系の焦点と観察光学系の回転軸とが一致した状態に関する情報を記憶手段に記憶させ、この情報に基づいて、制御手段が観察光学系の焦点と回転軸とを一致させる制御を行うので、光学ヘッドを傾斜させる場合においても、煩雑な操作を行うことなく、観察ポイントの位置ずれや焦点のずれの発生を抑制することが可能となる。」
オ.「【0026】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る顕微鏡システムの構成例を示す図である。図1に示すように、実施の形態1に係る顕微鏡システム1は、標本の観察画像を生成する顕微鏡装置10と、顕微鏡装置10が生成した観察画像を表示すると共に、顕微鏡装置10の動作を制御する制御装置15とを備える。
【0027】
顕微鏡装置10は、ベース100と、回転軸101及び軸受け102を介してベース100に設置された支柱103と、標本Sが載置されるXYステージ110と、XYステージ110を図の上下方向に移動可能に保持するステージホルダ111と、ベース100に対するステージホルダ111の高さを変化させるステージ操作部112と、XYステージ110上に設けられた観察光学系である光学ヘッド120と、支柱103に対して光学ヘッド120を移動可能に保持する光学ヘッド保持部130とを備える。また、顕微鏡装置10は、この他、標本Sを照明する照明光学系を備えても良い。照明光学系の構成としては、XYステージ110の下側に設けられる透過照明光学系であっても良いし、XYステージ110の上側に設けられる落射照明光学系であっても良い。或いは、標本Sに対して光を斜めから(即ち、標本Sの載置面と直交する軸と交差する方向から)照射する斜照明光学系であっても良い。なお、以下の説明においては、図の左右方向をX軸方向、図の奥行き方向をY軸方向、図の上下方向をZ軸方向とし、顕微鏡装置10は、XYステージ110がX軸及びY軸からなる面に平行となるように設置されているものとする。
【0028】
回転軸101は、ベース100に対して固定して設けられている。また、軸受け102は、回転軸101と共通の軸R1が支柱103の軸R2と直交するように、支柱103の端部に固定されている。この軸受け102を回転軸101に嵌合させることにより、支柱103の軸R2が軸R1と直交し、支柱103が軸R1を中心として回転可能な状態となる。即ち、軸受け102及び回転軸101は、光学ヘッド保持部130を介して支柱103と連結された光学ヘッド120の軸R1を回転軸とする回転手段を構成する。これにより、光学ヘッドがYZ面内において傾斜(ティルト)可能となる。なお、図1に示す構成において、光学ヘッド120のティルト操作は手動で行われるが、モータ等用いて光学ヘッド120を電動でティルトさせることとしても良い。なお、ティルト可能な角度は特に限定されない。
【0029】
ステージ操作部112は、例えば、ユーザが手動で回転操作可能なハンドル112aとリニアガイド112bとによって実現される。ユーザがハンドル112aを回転させると、その回転方向及び回転量に応じて、ステージホルダ111が、標本ステージ110の主面と直交する方向(図1においては上下方向)に移動する。
【0030】
光学ヘッド120は、鏡筒121と、鏡筒121のXYステージ110側の端部に設けられた対物レンズ122と、鏡筒121の内部に設けられたズームレンズ群123a及び該ズームレンズ群123aを駆動するモータ123bを含み、焦点距離を変更可能な電動ズーム123と、鏡筒121の対物レンズ122とは反対側の端部に設けられた撮像部124とを有する。これらの内、対物レンズ122及びズームレンズ群123aは、標本ステージ110上に載置された標本Sに対応する観察光が入射する観察光学系を構成する。また、撮像部124は、例えばCCD等の撮像素子を含み、観察光学系を通過した観察光を受光し、該観察光に対応する電気信号(撮像信号)を出力する画像信号生成手段である。

【0032】
電動ヘッド操作部131は、例えば、軸R2及び光学ヘッド120の光軸L1の双方に平行となるよう設けられたリニアガイド131aと、モータ131bとを有する。電動ヘッド操作部131は、リニアガイド131aを介して支持具132と連結しており、モータ131bの動作により、支持具132に対する軸R2方向における位置を変化させる。それにより、光学ヘッド120が、軸R2に沿って移動可能になる。」
カ.「【0040】
制御部154は、顕微鏡装置10におけるオートフォーカス動作を制御する。その際、制御部154は、操作入力部151から入力された信号に従い、記憶部153に記憶された情報に基づいて、ユーセントリック状態に遷移する動作を各部に実行させる。例えば、モータ131bがステッピングモータであり、ユーセントリック情報として、ステッピングモータの原点位置からのパルス数が記憶されている場合、制御部154は、このパルス数に従ってモータ131bを動作させる。

【0043】
ステップS102において、操作入力部151は、ホームポジションボタン162へのタッチ(又はクリック)を検出すると(ステップS102:Yes)、ユーセントリック状態に遷移する指示を制御部154に入力する(ステップS103)。
【0044】
ステップS104において、制御部154は、記憶部153からユーセントリック情報を読み出す。
ステップS105において、制御部154は、ユーセントリック情報に基づいて顕微鏡装置10の各部を制御することにより、図4Aに示すように、光学ヘッド120の焦点FPが回転中心軸R1と一致したユーセントリック状態を実現する。
【0045】
この後、ユーザは、図4Bに示すように、ステージ操作部112をZ軸方向に操作して、XYステージ110上に載置した標本Sの表面に焦点を合わせる。そして、図4Cに示すように、その状態で光学ヘッド120をティルトさせるなどして、所望の観察を行う。この間も、焦点FPと回転中心軸R1とが一致した状態が維持されているので、光学ヘッド120をティルトさせても、観察ポイントのずれや焦点FPのずれが生じることはない。」
キ.「【0050】
(変形例1)
次に、実施の形態1の変形例について説明する。
図3に示すステップS105において、制御部154は、位置検出部135からの出力信号に基づいて、ユーセントリック状態に遷移する動作を各部に実行させても良い。この場合、位置検出部135の旗138を、ユーセントリック状態に至ったときに接触センサ137と接触する位置に設けておく。そして、制御部154は、ユーセントリック状態に遷移する指示が入力されると、位置検出部135から旗138の検出信号が出力されるまで、モータ131bを動作させる。」
ク.「【0051】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
図5A及び図5Bは、実施の形態2に係る顕微鏡システムが備える顕微鏡装置の一部の構成を示す模式図である。図5A及び図5Bに示すように、実施の形態2における顕微鏡装置20は、互いに同焦点距離が異なる複数の対物レンズ201、202を交換可能な構成を有する。図5Aは、同焦点距離D1を有する(例えば、倍率が3倍の)対物レンズ201が光学ヘッド120にセットされた状態を示している。また、図5Bは、同焦点距離D2を有する(D2>D1。例えば、倍率が1倍の)対物レンズ202が光学ヘッド120にセットされた状態を示している。
【0052】
また、支柱103には、支持具132の抜けを防止する上側ストッパ203が設けられている。この上側ストッパ203及び対物レンズが交換可能な点以外の顕微鏡装置20の構成については、図1に示すものと同様である。
【0053】
このように、複数種類の対物レンズを交換可能に備えた顕微鏡システムにおいて、いずれか一方の対物レンズ(例えば、対物レンズ201)に対応するユーセントリック情報しか記憶部153に記憶されていない場合の動作について説明する。
【0054】
ユーセントリック情報が記憶部153に記憶されている方の対物レンズ201を用いて観察を行う場合、制御部154は、実施の形態1と同様の動作(図3参照)により、顕微鏡装置20をユーセントリック状態に遷移させる。」
ケ.「【0057】
(実施の形態3-1)
次に、本発明の実施の形態3-1について説明する。
図6は、実施の形態3-1に係る顕微鏡システムが備える顕微鏡装置の一部の構成を示す模式図である。図6に示すように、実施の形態3-1における顕微鏡装置30-1は、図5Aに示す顕微鏡装置20と同様、互いに同焦点距離が異なる複数の対物レンズ(第1対物レンズ301、第2対物レンズ302)を交換可能な構成を有しており、位置検出部135の代わりに、位置検出部303を備える点が異なっている。なお、図6は、第1対物レンズ301が取り付けられた状態を実線で示し、第2対物レンズ302が取り付けられた状態を一点鎖線で示している。また、交換可能な対物レンズの種類は3つ以上であっても良い。

【0059】
次に、実施の形態3-1に係る顕微鏡システムの動作について説明する。図8は、実施の形態3-1に係る顕微鏡システムの動作を示すフローチャートである。なお、図8に示すステップS100及びS106の動作は、図3に示すこれらの各ステップと対応している。
【0060】
ステップS310において、制御部154は、図9に示すように、撮像部124から入力された画像信号に基づき、観察画像161を表示部160に表示させる。また、制御部154は、同じ画面に、ユーザが選択可能なホームポジション1ボタン311及びホームポジション2ボタン312を表示部160に表示させる。ホームポジション1ボタン311は、顕微鏡装置30-1を第1対物レンズ301に対応するユーセントリック状態に遷移させる指示を入力するためのボタン(アイコン)である。一方、ホームポジション2ボタン312は、顕微鏡装置30-1を第2対物レンズ302に対応するユーセントリック状態に遷移させる指示を入力するためのボタン(アイコン)である。
【0061】
続くステップS311において、操作入力部151は、ホームポジション1ボタン311へのタッチ(又はクリック)を検出すると(ステップS311:Yes)、第1対物レンズ301に対応するユーセントリック状態に遷移する指示を制御部154に入力する(ステップS312)。」
コ.「【0068】
(実施の形態3-2)
次に、本発明の実施の形態3-2について説明する。
図10は、実施の形態3-2に係る顕微鏡システムが備える顕微鏡装置の一部の構成を示す模式図である。図10に示すように、実施の形態3-2における顕微鏡装置30-2は、図6に示す顕微鏡30-1に対し、互いに同焦点距離が異なる交換可能な複数の対物レンズ(第1対物レンズ321、第2対物レンズ322)を判別する対物レンズ判別手段が設けられていることを特徴とする。なお、図10は、第1対物レンズ321が取り付けられた状態を実線で示し、第2対物レンズ322が取り付けられた状態を一点鎖線で示している。

【0071】
次に、実施の形態3-2に係る顕微鏡システムの動作について説明する。図11は、実施の形態3-2に係る顕微鏡システムの動作を示すフローチャートである。なお、図11に示すステップS100、ステップS314?S316、及びステップS106の動作は、図8に示すこれらの各ステップと対応している。
【0072】
ステップS320において、制御部154は、図12に示すように、観察画像161及びホームポジションボタン162を表示部160に表示させる。
続くステップS321において、操作入力部151は、ホームポジションボタン162へのタッチ(又はクリック)を検出すると(ステップS321:Yes)、ユーセントリック状態に遷移する指示を制御部154に入力する(ステップS322)。」
サ.「【0092】
(実施の形態5)
次に、本発明の実施の形態5について説明する。
図17は、実施の形態5に係る顕微鏡システムの表示部160に表示される画面の例を示す模式図である。この画面は、図16に示す画面に対し、ユーセントリック状態を維持するか否かの入力に用いられるオンボタン501及びオフボタン502がさらに表示されている。なお、このオンボタン501及びオフボタン502は、顕微鏡装置がユーセントリック状態になった後で、画面表示される。

【0094】
ここで、ユーザは、顕微鏡装置(例えば図15に示す顕微鏡装置40)を一旦ユーセントリック状態に遷移させた後であっても、段差(高さの変化)のある標本を観察していると、意識せずに光学ヘッド120を上下方向に移動させて合焦操作を行ってしまうことがある。この場合、ユーセントリック状態が崩れてしまうことになる。
【0095】
そこで、実施の形態5においては、ユーザが意識しないユーセントリック状態の崩れを防ぐために、ユーザの操作により、光学ヘッド120の上下方向への移動をロックできるようにしている。
【0096】
一方、ユーザは、光学ヘッド120を上下に移動させ、微細なフォーカス操作を行ったり、3D構築操作(Z軸上の位置が異なる複数の画像を撮像して合成することにより、3次元的な画像を構成する操作)を行ったりしたい場合もある。このような場合のために、実施の形態5においては、光学ヘッド120のロックを、ユーザ操作により解除できることとしている。
【0097】
以上説明した実施の形態5によれば、ユーザは、光学ヘッド120の上下方向への移動をロックするか否かを容易に設定し、意識しないユーセントリック状態の崩れを防ぐことができる。」
シ.上記ア.乃至サ.より、「観察光学系」は「光学ヘッド120」に、「標本ステージ110」は「XYステージ110」に、「ステージ操作手段」は「ステージ操作部」に、「制御手段」は「制御部」に、「回転中心軸」は「回転軸」に、「光軸と直交する軸」は「観察光学系の回転軸」に、「電動ヘッド操作手段」は「電動ヘッド操作部131」に対応し、「標本ステージ110」及び「XYステージ110」はその表記から、XY平面方向に移動可能であるものと認められる。

そうすると、上記ア乃至シの記載事項から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「XY平面方向に移動可能な標本ステージ上に載置された標本に対応する光が入射する観察光学系と、
前記観察光学系から出射した光を受光して画像信号を生成する画像信号生成手段と、
支柱に対して前記観察光学系を移動可能に保持する光学ヘッド保持部と、
前記観察光学系を該観察光学系の光軸に沿って移動させることにより、合焦操作を行う、モータを有する電動ヘッド操作手段と、
前記観察光学系及び前記画像信号生成手段を、前記観察光学系の回転軸を中心に回転させることにより、前記光軸を前記標本ステージと直交する軸に対して傾斜させる回転手段と、
前記観察光学系の焦点と、前記回転軸とが一致した状態に関する情報を記憶する記憶手段と、
前記情報に基づき、電動ヘッド操作手段に前記焦点を前記回転軸に一致させる制御を行う制御手段と、
を備える顕微鏡システムであって、
前記標本ステージを該標本ステージの主面と直交する方向に移動可能に保持するステージ操作手段をさらに備え、
ユーセントリック状態に遷移する指示が制御手段に入力されると、
制御手段は、モータを動作させ、前記観察光学系の焦点が回転軸と一致したユーセントリック状態を実現し、
ステージ操作手段をZ軸方向に操作して、標本ステージ上に載置した標本の表面に焦点を合わせ、
ユーザが意識しないユーセントリック状態の崩れを防ぐために、ユーザの操作により、観察光学系の上下方向への移動がロックでき、
一方、前記観察光学系の上下方向への移動のロック解除し、前記観察光学系を上下に移動させ、3D構築操作(Z軸上の位置が異なる複数の画像を撮像して合成することにより、3次元的な画像を構成する操作)を行う、
顕微鏡システム。」

(3)対比
そこで、本願補正発明1と引用発明とを対比すると、
ア.後者の「標本」、「XY平面方向に移動可能な標本ステージ」、「標本ステージを該標本ステージの主面と直交する方向に移動可能に保持するステージ操作手段」、「支柱に対して観察光学系を移動可能に保持する光学ヘッド保持部」及び「顕微鏡システム」は、それぞれ、前者の「観察対象物」、「水平方向に移動可能な載置台」、「載置台を上下方向に移動可能に支持する下ステージ昇降部」、「撮像手段が取り付けられる取付手段」及び「顕微鏡」に相当する。
イ.後者の「画像信号生成手段」は、観察光学系により、標本に対して光が入射し、前記観察光学系から出射した光を受光して画像信号を生成するものであって、この画像信号は標本から出射したもの、すなわち、標本を撮像したものといえるから、後者の「画像信号生成手段」は、前者の「観察対象物を撮像する撮像手段」に相当する。
ウ.後者の「電動ヘッド操作手段」の「観察光学系を該観察光学系の光軸に沿って移動させることにより、合焦操作を行う」ことは、前者の「取付手段を前記撮像手段の光軸に沿って上下方向に移動可能に支持」することに相当し、また、後者の「回転手段」の「観察光学系及び画像信号生成手段を、前記観察光学系の回転軸を中心に回転させることにより、前記光軸を標本ステージと直交する軸に対して傾斜させる」ことは、前者の「撮像手段の光軸に直交する揺動軸を中心として揺動可能」とすることに相当するから、後者の「電動ヘッド操作手段」と「回転手段」とを併せて、前者の「上ステージ昇降部」に相当する。
エ.後者の「電動ヘッド操作手段」は、観察光学系を該観察光学系の光軸に沿って移動させるものでもあるから、前者の「上ステージ昇降部を駆動する第二駆動機構」に相当する。
オ.後者の「制御手段」は、モータを動作させ、前記観察光学系の焦点が回転軸と一致したユーセントリック状態を実現するものであって、該モータは、観察光学系を該観察光学系の光軸に沿って移動させることにより、合焦操作を行うものでもあるから、前者の「制御部」と後者の「制御手段」とは、「第二駆動機構を制御して撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致するように上ステージ昇降部を駆動し、前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致している状態に制御」する点で共通する。
そして、前者の「制御部」と後者の「制御手段」とは、「撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致している状態に制御」することにより、撮像手段のピントをユーセントリック位置に位置決めするものであるから、前者の「制御部」と後者の「制御手段」とは、「ユーセントリック位置に位置決めするため」に制御するものとの概念で共通する。
カ.後者の「ステージ操作手段」は、標本ステージを該標本ステージの主面と直交する方向に移動可能に保持し、Z軸方向に操作して、標本ステージ上に載置した標本の表面に焦点を合わせるものであるから、前者の「第一駆動機構」と後者の「ステージ操作手段」とは、「載置台に載置されている観察対象物の表面に撮像手段のピントが合致するように制御して前記載置台に載置されている観察対象物の表面が揺動軸の高さ位置に合致するように下ステージ」を昇降させるものとの概念で共通する。

したがって、両者は、
「観察対象物が載置され水平方向に移動可能な載置台と、
前記載置台を上下方向に移動可能に支持する下ステージ昇降部と、
前記下ステージ昇降部を駆動する第一駆動機構と、
観察対象物を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が取り付けられる取付手段と、
前記取付手段を前記撮像手段の光軸に沿って上下方向に移動可能に支持し、前記撮像手段の光軸に直交する揺動軸を中心として揺動可能な上ステージ昇降部と、
前記上ステージ昇降部を駆動する第二駆動機構と、
ユーセントリック位置に位置決めするために、
前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致している状態に制御しつつ、
前記載置台に載置されている観察対象物の表面に前記撮像手段のピントが合致するようにして前記載置台に載置されている観察対象物の表面が揺動軸の高さ位置に合致するように前記下ステージ昇降部を昇降させる顕微鏡。」
の点で一致し、以下の点で、相違する。

[相違点1]
載置台に載置されている観察対象物の表面が揺動軸の高さ位置に合致するように下ステージ昇降部を上下方向に移動させるのに、本願補正発明1では、「第一駆動機構」を、「制御して」「下ステージ昇降部を駆動する」制御部を備えるのに対し、引用発明は、標本ステージを該標本ステージの主面と直交する方向に移動可能に保持するステージ操作手段を備えるものであって、駆動機構を備えるものではない点。

[相違点2]
本願補正発明1は、「制御部は、前記撮像手段と観察対象面との距離が異なる複数の位置の各々で前記撮像手段が観察対象物の観察画像を取得するために、前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段が揺動軸を中心として揺動する前記上ステージ昇降部に支持された状態で前記撮像手段を前記撮像手段の光軸に沿って移動するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記複数の位置の各々で前記撮像手段が取得した観察対象物の観察画像のうち前記撮像手段のピントが合致した位置の画素を合成して深度合成された画像を生成する」ものであるのに対し、引用発明は、観察光学系の上下方向への移動のロック解除し、前記観察光学系を上下に移動させ、3D構築操作(Z軸上の位置が異なる複数の画像を撮像して合成することにより、3次元的な画像を構成する操作を行うものである点。

(4)判断
上記各相違点について、以下、検討する。
ア.[相違点1]について
顕微鏡の分野において、載置台を上下方向に移動可能に支持する下ステージ昇降部を移動制御させることは周知の技術手段である(例えば、特開2009-8918号公報(特に、【0081】?【0087】参照。)、特開2013-88490号公報(特に、【0020】?【0023】参照。)以下「周知技術1」という。)。
してみると、引用発明に、前記周知技術1を適用し、相違点1に係る本願補正発明1とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

イ.[相違点2]について
一般に、被写体の3次元形状と、画像取得部から取得した複数の画像とに基づいて、‘焦点面が異なる複数の画像を合成して合成画像’を作成することにおいて、3次元形状とその3次元形状の各部に係る合焦している画像を合成した画像を3次元再構成画像といい、各画素についてその高さに相当する焦点面を有する画像から抽出した画像を組み合わせて、全ての画素について合焦している画像を合成した画像を全焦点画像という。(例えば、特開2013-207488号公報(【0002】、【0050】)参照。以下「一般技術」という。)
ここで、本願補正発明1の「深度合成」について、当初明細書等を参酌すると、【0053】には、「 観察対象物Sを平面観察あるいは傾斜観察しているときに深度合成をすることができる。撮像部3のピントが観察対象面に合致している状態で、制御手段19が撮像部3と観察対象面との距離を段階的に変化させながら撮像部3を移動させ、撮像部3のピントが合致した位置の画素を合成することで、画像全体の合焦画像や3D形状データを作成することができる。」と記載され、当初明細書等における「画像全体の合焦画像」及び「3D形状データ」は、それぞれ、上記一般技術における「全焦点画像」及び「3次元再構成画像」と解されるから、本願補正発明1の「撮像手段と観察対象面との距離が異なる複数の位置の各々で前記撮像手段が観察対象物の観察画像を取得するために、(前記撮像手段を前記撮像手段の光軸に沿って移動するように前記上ステージ昇降部を駆動し、)前記複数の位置の各々で前記撮像手段が取得した観察対象物の観察画像のうち前記撮像手段のピントが合致した位置の画素を合成して深度合成された画像」は、上記一般技術における‘焦点面が異なる複数の画像を合成した合成画像’といえる。
また、引用発明の「3D構築操作」は、「Z軸上の位置が異なる複数の画像を撮像して合成することにより、3次元的な画像を構成する操作」(【0096】参照。)であって、Z軸上の位置が異なる複数の画像を撮像したものは、観察光学系のロックを解除して撮像したもので、撮像手段のピントが合致した位置の画像であることは明らかであるから、引用発明の「3D構築操作」による「3次元的な画像」は、上記一般技術における「3次元再構成画像」と解し得る。
そうすると、引用発明の「3D構築操作」は、上記一般技術における「3次元再構成画像」を包含する‘焦点面が異なる複数の画像を合成すること’といえる。
してみると、本願補正発明1の「深度合成」と引用発明の「3D構築操作」とは、‘焦点面が異なる複数の画像を合成すること’との概念で一致するものであるから、本願補正発明1の「深度合成」と引用発明の「3D構築操作」とは、「撮像手段と観察対象面との距離が異なる複数の位置の各々で前記撮像手段が観察対象物の観察画像を取得するために、前記撮像手段を前記撮像手段の光軸に沿って移動するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記複数の位置の各々で前記撮像手段が取得した観察対象物の観察画像のうち前記撮像手段のピントが合致した位置の画素を合成」するものである点で共通する。
そして、後者の「観察光学系」が、「第二駆動機構を制御して撮像手段が揺動軸を中心として揺動する上ステージ昇降部に支持された状態」であることは明らかである。
よって、上記相違点2に係る本願補正発明1の発明特定事項は、実質的な相違点ではない。

仮に、引用発明の「3D構築操作」による「3次元的な画像」が、上記一般技術における「3次元再構成画像」と相違するとしても、撮像部のピントが合致した位置の画素を合成することで、画像全体の合焦画像や3D形状データを作成すること、すなわち、深度合成することは、一般に周知の技術手段といえるから(以下「周知技術2」という。)、引用発明に前記周知技術2を適用し、相違点2に係る本願補正発明1とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願補正発明1の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明及び上記周知技術1からか、少なくとも、引用発明、上記周知技術1及び周知技術2から、当業者が予測しうる範囲内のものである。

よって、本願補正発明1は、引用発明及び上記周知技術1に基づいて、少なくとも、引用発明、上記周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ない。

(5)本願補正発明3について
請求人は、平成31年4月16日付け及び令和1年10月25日付けの上申書にて、本願補正発明3が進歩性を有するものと主張するから、以下、予備的に、本願補正発明3の進歩性について検討する。
ア.本願補正発明3
本願補正発明3は、「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項3】のとおり、本願補正発明1または本願補正発明2に、「前記第一駆動機構は、前記撮像手段が深度合成を行った後に、前記撮像手段のピントが揺動軸に合致する位置に前記下ステージ昇降部を戻すこと」との特定事項を付加したものであるところ、平成31年3月26日作成の応対記録によれば、出願人側(請求人)より、「請求項3に誤記」がある旨の申出があった。
そして、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項3】を見ると、「下ステージ昇降部を戻すこと」との記載があり、当該請求項3が引用する請求項1の記載及び当初明細書等(特に、【0053】)を参酌すれば、「上ステージ昇降部を戻すこと」の誤記であると認められるから、本件補正発明3の「下ステージ昇降部を戻すこと」は、「上ステージ昇降部を戻すこと」と解し、本願補正発明1を引用する本願補正発明3を対象として、以下、検討する。

イ.対比
本願補正発明1と引用発明との対比は、上記「(3)対比」の検討のとおりであるから、本願補正発明3と引用発明とは、以下の点で、相違する。


[相違点1]

載置台に載置されている観察対象物の表面が揺動軸の高さ位置に合致するように下ステージ昇降部を上下方向に移動させるのに、本願補正発明3では、「第一駆動機構」を、制御して「下ステージ昇降部を駆動する」制御部を備えるのに対し、引用発明は、標本ステージを該標本ステージの主面と直交する方向に移動可能に保持するステージ操作手段を備えるものであって、駆動機構を備えるものではない点。

[相違点2]
本願補正発明3は、「制御部は、前記撮像手段と観察対象面との距離が異なる複数の位置の各々で前記撮像手段が観察対象物の観察画像を取得するために、前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段が揺動軸を中心として揺動する前記上ステージ昇降部に支持された状態で前記撮像手段を前記撮像手段の光軸に沿って移動するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記複数の位置の各々で前記撮像手段が取得した観察対象物の観察画像のうち前記撮像手段のピントが合致した位置の画素を合成して深度合成された画像を生成する」ものであるのに対し、引用発明は、観察光学系の上下方向への移動のロック解除し、前記観察光学系を上下に移動させ、3D構築操作(Z軸上の位置が異なる複数の画像を撮像して合成することにより、3次元的な画像を構成する操作を行うものである点。

[相違点3]
本願補正発明3は、「第一駆動機構は、撮像手段が深度合成を行った後に、前記撮像手段のピントが揺動軸に合致する位置に上ステージ昇降部を戻す」ものであるのに対し、引用発明は、そのところが定かでない点。

ウ.判断
(ア)[相違点1]及び[相違点2]について
上記「(4)判断 ア及びイ」のとおり、引用発明に、前記周知技術1を適用し、相違点1に係る本願補正発明1とすることは、当業者が容易に想到し得るものであり、また、相違点2に係る本願補正発明3の発明特定事項は、実質的な相違点ではないか、引用発明に、前記周知技術2を適用し、相違点2に係る本願補正発明1とすることは、当業者が容易に想到し得るものであものと認める。

(イ)[相違点3]について
一般に、特定の操作のために装置の設定を変更した場合、当該操作が終了したら、装置の設定を元に戻すことは、慣用手段にすぎないことであるから、相違点3に係る本願補正発明3の「第一駆動機構は、撮像手段が深度合成を行った後に、前記撮像手段のピントが揺動軸に合致する位置に上ステージ昇降部を戻す」ことは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

請求人は、「本願発明は、傾斜観察と深度合成をシームレスで行え、引用発明には、開示も示唆もない」旨、主張する。
そこで、本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲,又は図面(以下,これらをあわせて「当初明細書等」という。)をみるに、当初明細書等には、「傾斜観察と深度合成をシームレスで行」なう旨の記載はない。
「傾斜観察」と「深度合成」との関係については、当初明細書等の【0053】に、「観察対象物Sを平面観察あるいは傾斜観察しているときに深度合成をすることができる。撮像部3のピントが観察対象面に合致している状態で、制御手段19が撮像部3と観察対象面との距離を段階的に変化させながら撮像部3を移動させ、撮像部3のピントが合致した位置の画素を合成することで、画像全体の合焦画像や3D形状データを作成することができる。なお、制御手段19は、深度合成が行われた後、ヘッド部6を、撮像部3のピントが観察対象面に合致する位置に戻す。これによって、傾斜観察するときに撮像部3のピントが観察対象面に合致しなくなることを防止することができる。」と記載されている。
上記記載からすると、相違点3に係る本件補正発明3の構成は、撮像手段が深度合成を行った後に、引き続き、傾斜観察をすることを前提として特定したものと推認でき、また、請求人の主張の根拠も前記前提に基づくものと推認できるところ、以下、前記前提に立って検討する。
引用例についてみると、引用例には、3D構築操作後の操作については記載されていないが、実施の形態1、2、3-1、3-2及び5のいずれにおいても、標本の観察に際しては、観察光学系をユーセントリック状態としてから標本の観察をしているものである。(上記(2)オ乃至サ参照。)
してみると、引用発明において、3D構築操作の後に、引き続き、標本の観察(傾斜観察)を行う場合、3D構築操作の際に、オフボタン502をタッチ(又はクリック)し、観察光学系の上下方向への移動のロックを解除して、ユーセントリック状態を崩しているのであるから、3D構築操作の後に、引き続き、標本の観察(傾斜観察)を行うに際しては、上記(2)オ乃至サの記載(実施の形態1、2、3-1、3-2及び5)に照らし、観察光学系をユーセントリック状態に調整することは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことであって、その際、オンボタン501をタッチ(又はクリック)してユーセントリック状態に調整することは、そのような入力手段が設けられているのであるから、当業者が当然採用する事項である。
そうすると、上記相違点3に係る本願補正発明3は、当業者が適宜なし得る程度のことである。
よって、引用発明において、深度合成を行った後に、撮像手段のピントを揺動軸に合致する位置に上ステージ昇降部を戻し、傾斜観察するようにすることは、当業者が容易になし得るものである。

請求人は、「仮に、当業者が、「ホームポジションボタン162」をタッチさせることを必須とせず、勝手にユーセントリック状態に移動させるものに改変することを検討したとしても、引用発明1では下ステージが制御下に無いため、その現在位置を把握できない結果、ホームポジションへの移動によって衝突することが懸念されます。したがって、このような改変を当業者が採用するとは考えられず、この意味で阻害要因が存在します。」と主張する。
そこで、引用例についてみると、引用例には、上記(2)カのとおり、「【0045】…ステージ操作部112をZ軸方向に操作して、XYステージ110上に載置した標本Sの表面に焦点を合わせる。…光学ヘッド120をティルトさせても、観察ポイントのずれや焦点FPのずれが生じることはない。」と記載されている。
前記記載からすると、引用発明において、3D構築操作時に、観察光学系のユーセントリック状態が崩れても、標本ステージはその主面と直行する方向に移動せずに、標本Sの表面は焦点に位置したままでいることになる。
そして、引用発明において、撮像手段が3D構築操作を行った後に、引き続き、標本の観察(傾斜観察)を行うに際しては、上記「傾斜観察と深度合成をシームレスで行」なうことの検討のとおり、観察光学系をユーセントリック状態に調整することとなるのであるが、標本ステージ上に載置した標本の表面は、深度合成前の観察光学系の焦点の位置に合わせたままであるから、観察光学系をユーセントリック状態に調整しようとしても、観察光学系と標本Sとが衝突する虞があるとはいえない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

エ.小括
以上のとおりであるから、本願補正発明3は、引用発明及び上記周知技術1に基づいて、少なくとも、引用発明、上記周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成29年9月21日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「観察対象物が載置され水平方向に移動可能な載置台と、
前記載置台を上下方向に移動可能に支持する下ステージ昇降部と、
前記下ステージ昇降部を駆動する第一駆動機構と、
観察対象物を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が取り付けられる取付手段と、
前記取付手段を前記撮像手段の光軸に沿って上下方向に移動可能に支持し、前記撮像手段の光軸に直交する揺動軸を中心として揺動可能な上ステージ昇降部と、
前記上ステージ昇降部を駆動する第二駆動機構と、
ユーセントリック位置に位置決めするために、
前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致している状態で、
前記第一駆動機構を制御して前記載置台に載置されている観察対象物の表面が揺動軸の高さ位置に合致するように前記下ステージ昇降部を駆動する制御部とを備え、
前記制御部は、前記撮像手段と観察対象面との距離が異なる複数の位置の各々で前記撮像手段が観察対象物の観察画像を取得するために、前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段が揺動軸を中心として揺動する前記上ステージ昇降部に支持された状態で前記撮像手段を前記撮像手段の光軸に沿って移動するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記複数の位置の各々で前記撮像手段が取得した観察対象物の観察画像のうち前記撮像手段のピントが合致した位置の画素を合成して深度合成された画像を生成することを特徴とする顕微鏡。」(以下「本願発明」という。)

2 引用例
平成30年2月26日付けの拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、実質的に、上記「第2 3 (1)本願補正発明1」で検討した本願補正発明1の「、前記載置台に載置されている観察対象物の表面に前記撮像手段のピントが合致するように」との限定を省くものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 3 (3)対比」での検討を勘案すると、両者は、
「観察対象物が載置され水平方向に移動可能な載置台と、
前記載置台を上下方向に移動可能に支持する下ステージ昇降部と、
前記下ステージ昇降部を駆動する第一駆動機構と、
観察対象物を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が取り付けられる取付手段と、
前記取付手段を前記撮像手段の光軸に沿って上下方向に移動可能に支持し、前記撮像手段の光軸に直交する揺動軸を中心として揺動可能な上ステージ昇降部と、
前記上ステージ昇降部を駆動する第二駆動機構と、
ユーセントリック位置に位置決めするために、
前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記撮像手段のピントが揺動軸の高さ位置に合致している状態に制御しつつ、
前記載置台に載置されている観察対象物の表面に前記撮像手段のピントが合致するように制御して前記載置台に載置されている観察対象物の表面が揺動軸の高さ位置に合致するように前記下ステージ昇降部を昇降させる顕微鏡。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
載置台に載置されている観察対象物の表面が揺動軸の高さ位置に合致するように下ステージ昇降部を上下方向に移動させるのに、本願発明では、「第一駆動機構」を、制御して「下ステージ昇降部を駆動する」制御部を備えるのに対し、引用発明は、標本ステージを該標本ステージの主面と直交する方向に移動可能に保持するステージ操作手段を備えるものであって、駆動機構を備えるものではない点。
[相違点2]
本願発明は、「制御部は、前記撮像手段と観察対象面との距離が異なる複数の位置の各々で前記撮像手段が観察対象物の観察画像を取得するために、前記第二駆動機構を制御して前記撮像手段が揺動軸を中心として揺動する前記上ステージ昇降部に支持された状態で前記撮像手段を前記撮像手段の光軸に沿って移動するように前記上ステージ昇降部を駆動し、前記複数の位置の各々で前記撮像手段が取得した観察対象物の観察画像のうち前記撮像手段のピントが合致した位置の画素を合成して深度合成された画像を生成する」ものであるのに対し、引用発明は、観察光学系の上下方向への移動のロック解除し、前記観察光学系を上下に移動させ、3D構築操作(Z軸上の位置が異なる複数の画像を撮像して合成することにより、3次元的な画像を構成する操作を行うものである点。
そして、上記「第2 3 (4)判断」における検討内容を踏まえれば、本願発明は、引用発明及び上記周知技術1に基づいて、少なくとも、引用発明、上記周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び上記周知技術1に基づいて、少なくとも、引用発明、上記周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-15 
結審通知日 2019-11-19 
審決日 2019-12-02 
出願番号 特願2013-273622(P2013-273622)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 殿岡 雅仁  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 清水 康司
藤本 義仁
発明の名称 顕微鏡及びこれを用いた拡大観察方法  
代理人 豊栖 康司  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  
代理人 豊栖 康弘  

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