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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1359099
審判番号 不服2019-1159  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-29 
確定日 2020-02-12 
事件の表示 特願2017-530999「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 2日国際公開,WO2017/017901,請求項の数(5)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2016年(平成28年)7月4日(優先権主張 平成27年7月29日)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年11月29日:国内書面,手続補正書
平成30年 4月 5日:拒絶理由通知(起案日)
平成30年 6月 6日:意見書・手続補正書
平成30年10月29日:拒絶査定(起案日)(以下,「原査定」という。)
平成31年 1月29日:審判請求書
平成31年 1月29日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1ないし6に係る発明は,本願出願前に頒布された以下の引用文献1ないし5に基づいて,本願出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.国際公開第2012/120930号
2.特開2014-86536号公報
3.特開2004-96135号公報
4.特開2000-156439号公報
5.特開2001-332664号公報

第3 本件補正について
1 本件補正の内容
(1)平成30年6月6日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1ないし6は,以下のとおりである。
「【請求項1】
導電体である金属層と,
前記金属層の第1の面に実装される半導体素子と,
前記半導体素子に設けられた第1の接続端子と,
前記半導体素子に設けられた第2の接続端子と,
前記半導体素子に設けられた第3の接続端子と,
前記第1の接続端子に一端が接合された第1のバスバーと,
前記第1のバスバーの通電方向における断面積よりも大きな通電方向の断面積を有して前記第2の接続端子に一端が接合された第2のバスバーと,
を備え,
前記半導体素子の第1の面は前記金属層の前記第1の面と接合され,
前記半導体素子の第2の面に,前記第1の接続端子,前記第2の接続端子,および,前記第3の接続端子が配置され,
前記第1のバスバーの他端は出力部であり,
前記第2のバスバーの他端が前記金属層に接合され,
前記半導体素子の前記第1の面と前記第2のバスバーとは同電位である,
半導体装置。
【請求項2】
前記第1のバスバーの他端は外部への出力部である,
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記金属層の第2の面に設けられた絶縁層と,
前記絶縁層に放熱体と,をさらに備え,
前記絶縁層の第1の面は金属層と接し,
前記絶縁層の第2の面は放熱体と接する,
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体素子は,窒化ガリウム系トランジスタで構成され,
前記第1の接続端子はドレイン端子であり,
前記第2の接続端子はソース端子であり,
前記第3の接続端子はゲート端子である,
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記金属層は,配線パターンが形成されたリードフレームである,
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第2のバスバーは,それぞれが直線状に延伸する複数の導体が接続されて形成されている
請求項1に記載の半導体装置。」

(2)平成31年1月29日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正後」という。)特許請求の範囲の請求項1ないし5は,以下のとおりである。(下線は,補正箇所である。)
「【請求項1】
導電体である金属層と,
前記金属層の第1の面に実装される半導体素子と,
前記半導体素子に設けられた第1の接続端子と,
前記半導体素子に設けられた第2の接続端子と,
前記半導体素子に設けられた第3の接続端子と,
前記第1の接続端子に一端が接合された第1のバスバーと,
前記第1のバスバーの通電方向における断面積よりも大きな通電方向の断面積を有して前記第2の接続端子に一端が接合された第2のバスバーと,
を備え,
前記半導体素子の第1の面は前記金属層の前記第1の面と接合され,
前記第1の面とは反対面である前記半導体素子の第2の面に,前記第1の接続端子,前記第2の接続端子,および,前記第3の接続端子が配置され,
前記第1のバスバーの他端は外部のデバイスへ接続される出力部であり,
前記第2のバスバーの他端が前記金属層に接合され,
前記半導体素子の前記第1の面と前記第2のバスバーとは同電位である,
半導体装置。
【請求項2】
前記金属層の第2の面に設けられた絶縁層と,
前記絶縁層に放熱体と,をさらに備え,
前記絶縁層の第1の面は金属層と接し,
前記絶縁層の第2の面は放熱体と接する,
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体素子は,窒化ガリウム系トランジスタで構成され,
前記第1の接続端子はドレイン端子であり,
前記第2の接続端子はソース端子であり,
前記第3の接続端子はゲート端子である,
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記金属層は,配線パターンが形成されたリードフレームである,
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2のバスバーは,それぞれが直線状に延伸する複数の導体が接続されて形成されている,
請求項1に記載の半導体装置。」

2 補正の適否について
本件補正は,本件補正前の請求項1における「前記半導体素子の第2の面」に対して,「第1の面とは反対面である」との限定を付加し,「第1のバスバーの他端」に対して,「外部のデバイスへ接続される」との限定を付加するものであって,本件補正前の請求項1ないし6に記載された発明と本件補正後の請求項1ないし5に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,本件補正は,本件補正前の請求項2を削除するとともに,本件補正前の請求項3ないし6の項番号を繰り上げて,本件補正後の請求項2ないし5とする補正であるから,特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。

したがって,本件補正は適法になされたものである 。

第4 本願発明
1 本願の請求項1ないし5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は,平成31年1月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。(以下,再掲。)
「【請求項1】
導電体である金属層と,
前記金属層の第1の面に実装される半導体素子と,
前記半導体素子に設けられた第1の接続端子と,
前記半導体素子に設けられた第2の接続端子と,
前記半導体素子に設けられた第3の接続端子と,
前記第1の接続端子に一端が接合された第1のバスバーと,
前記第1のバスバーの通電方向における断面積よりも大きな通電方向の断面積を有して前記第2の接続端子に一端が接合された第2のバスバーと,
を備え,
前記半導体素子の第1の面は前記金属層の前記第1の面と接合され,
前記第1の面とは反対面である前記半導体素子の第2の面に,前記第1の接続端子,前記第2の接続端子,および,前記第3の接続端子が配置され,
前記第1のバスバーの他端は外部のデバイスへ接続される出力部であり,
前記第2のバスバーの他端が前記金属層に接合され,
前記半導体素子の前記第1の面と前記第2のバスバーとは同電位である,
半導体装置。
【請求項2】
前記金属層の第2の面に設けられた絶縁層と,
前記絶縁層に放熱体と,をさらに備え,
前記絶縁層の第1の面は金属層と接し,
前記絶縁層の第2の面は放熱体と接する,
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体素子は,窒化ガリウム系トランジスタで構成され,
前記第1の接続端子はドレイン端子であり,
前記第2の接続端子はソース端子であり,
前記第3の接続端子はゲート端子である,
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記金属層は,配線パターンが形成されたリードフレームである,
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2のバスバーは,それぞれが直線状に延伸する複数の導体が接続されて形成されている,
請求項1に記載の半導体装置。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。
「技術分野
[0001] 本発明は,半導体装置に関し,特に,GaNを用いるパワーデバイスチップをフレームに搭載する場合のデバイスの実装構造に関する。」

「発明が解決しようとする課題
[0008] 従来のSiパワーデバイスでは,ゲート注入電荷量Qgが大きいため,寄生発振が起こるような大きなインダクタンスは回路側で対応が可能であり,デバイス実装において,回路の寄生インダクタンスについて特別の注意を払う必要がなかった。
[0009] ところが,GaNを用いたデバイスでは,ゲート注入電荷量Qgが非常に小さいため,単なる配線の寄生インダクタンスであってもゲート電圧が発振することがわかった。
[0010] これに対し,ゲート抵抗として大きなものをゲート端子に接続することで発振は抑制できるが,GaNの低消費電力,高速応答性の長所を生かすことができない結果となる。
[0011] 本発明は,上記の状況に鑑み,GaNを用いたデバイスにおいて,大きなゲート抵抗を付加することなく寄生発振を抑制できるように,デバイス実装構造の面から寄生インダクタンスの低減を実現するものであり,これにより,GaNの特徴である低消費電力,高速応答特性を生かしたパワーデバイスを実現することを目的とする。
[0012] 上記目的を達成するための本発明に係る半導体装置は,
ソース端子,ドレイン端子,ゲート端子の少なくとも三端子が基板表面側に設けられた,GaNを用いるパワーデバイスが,ソースリード部とダイパッド部とが一体成形されたリードフレームの前記ダイパッド部に搭載され,
前記パワーデバイスの前記ソース端子が前記ダイパッド部とワイヤ接続され,
前記パワーデバイスの前記ドレイン端子がドレインリードと,前記パワーデバイスの前記ゲート端子がゲートリードとワイヤ接続されてなるデバイス実装構造を有することを特徴とする。」

「[0026]
[図1]本発明に係る半導体装置のチップ実装例
[図2]従来技術に係る半導体装置のチップ実装例
[図3]GaNを用いるパワーデバイスのデバイス構造を示す断面図。
[図4]本発明に係る半導体装置の他のチップ実装例
[図5]本発明の課題を説明するための回路図
[図6]本発明の効果を説明するためのグラフであり,スイッチング時のゲート電圧の立ち上がり及び立ち下がりの,ゲート電圧の変化を示すグラフ
[図7]本発明の効果を説明するためのグラフであり,スイッチング時においてFETに生じる電力損失の時間変化を示すグラフ
発明を実施するための形態
[0027] 〈第1実施形態〉
本発明のチップ実装構造を有する半導体装置10の構成例を図1に示す。図1は,半導体装置10の実装後の形態の模式図である。尚,比較のため,従来の方法で半導体装置10をチップ実装した場合の実装後の形態の模式図を,図2に示す。尚,以降の実施形態の説明に用いる図面では,同一の構成要素には同一の符号を付すこととし,また,名称及び機能も同一であるので,同様の説明を繰り返すことはしない。
[0028] 半導体装置10は,GaNを用いて構成されるパワーデバイスであり,基板表面側に,ソース端子11,ドレイン端子12,ゲート端子13が形成されている。そして,ダイパッド14上に半導体装置10が搭載され,固定されている。
[0029] GaNを用いる当該パワーデバイスのデバイス構造の模式的な断面図を図3に示す。図3に示すデバイスは,HEMT(HighElectron Mobility Transistor)構造のFETであり,Si基板20上に,AlとGaの組成比が異なるAlGaNの多層膜からなるバッファ層21を介してGaN層22が積層され,GaN層22の上にAlGaNの層23が積層されている。GaN層22上の所定の領域には,AlGaN層23を貫通するようにソース電極24とドレイン電極25が形成され,ゲート電極26が,AlGaN層23上の所定の領域に,ソース電極24とドレイン電極25がゲート電極26を挟んで互いに対向するように形成されている。ドレイン電極25は,絶縁膜27上に形成されたドレイン端子12と,コンタクトホール28を介して電気的に接続される。同様に,図示しないが,ソース電極24は,別の断面において,絶縁膜27上に形成されたソース端子11と電気的に接続され,ゲート電極25は,更に別の断面において,絶縁膜27上に形成されたゲート端子13と電気的に接続される。
[0030] AlGaN層23とGaN層22とのヘテロ接合界面近傍において,2次元電子ガス層29が形成され,ゲート電極26に電圧(ゲート電圧)を印加することで,当該ゲート電極26の下方の当該2次元電子ガス層の濃度が変調され,ソース電極24とドレイン電極25間に流れる電流が制御される。尚,図3に示すデバイスは,ドレイン電極25に印加される電圧とゲート電圧との差が高電圧となるため,放電しないようにゲート電極26とドレイン電極25との距離を,ゲート電極26とソース電極24との距離よりも大きくとり,ゲート電極26がドレイン電極25よりもソース電極24側に片寄って配置された非対称なデバイス構造を有している。
[0031] 図1及び図2に戻ると,半導体装置10に隣接して,ソースリード15,ドレインリード16,ゲートリード17がこの順で形成されている。即ち,ドレインリード16が,ゲートリード17とソースリード15の間に挟まれて配置されている。これらのリード端子15,16,17は夫々,半導体装置1のソース端子11,ドレイン端子12,ゲート端子13とワイヤ接続(ワイヤボンディング)される。更に,図1又は図2の点線で示す領域18内において,ワイヤ接続される部分を覆うように樹脂封止がされ,半導体装置10がパッケージされる。
[0032] 本発明では,図1に示すように,ソースリード15とダイパッド14は,両者が一体成形されてリードフレームを構成しており,ソース端子11とソースリード15の接続が,ソース端子11とダイパッド14をワイヤボンディングすることによりなされている。一方,ドレインリード16及びゲートリード17は,夫々,ダイパッド14と分離形成され,ドレインリード16とドレイン端子12,ゲートリード17とゲート端子13との接続が,ワイヤボンディングによりなされている。
[0033] これに対し,従来例では,図2に示すように,ドレインリード16とダイパッド14が一体成形されてリードフレームを構成しており,ドレイン端子12とドレインリード16の接続が,ドレイン端子12とダイパッド14をワイヤボンディングすることによりなされている。一方,ソースリード15及びゲートリード17は,夫々,ダイパッド14と分離形成され,ソースリード15とソース端子11,ゲートリード17とゲート端子13との接続が,ワイヤボンディングによりなされている。
[0034] 上述の通り,本発明では,ソースリード15とダイパッド14が一体成形され,ソース端子11とダイパッド14がワイヤボンディングされて接続されているため,チップ裏面の電位を介して基板の電位がソース電圧に固定され,基板を経由してチップ裏面に流れるリーク電流を減らし,結果,オン抵抗を小さくすることができる。また,ソース配線の寄生インダクタンスが抑制され,ゲート電圧の発振を抑えることができる。」

「[図1]



(2)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア GaNを用いるパワーデバイスチップをフレームに搭載する場合のデバイスの実装構造に関するものであること。

イ GaNを用いたデバイスにおいて,大きなゲート抵抗を付加することなく寄生発振を抑制できるように,デバイス実装構造の面から寄生インダクタンスの低減を実現するものであり,これにより,GaNの特徴である低消費電力,高速応答特性を生かしたパワーデバイスを実現することを目的とすること。

ウ 図1は,半導体装置10の実装後の形態の模式図であり,基板表面側に,ソース端子11,ドレイン端子12,ゲート端子13が形成されている。そして,ダイパッド14上に半導体装置10が搭載され,固定されていること。

エ 半導体装置10に隣接して,ソースリード15,ドレインリード16,ゲートリード17がこの順で形成されていること。

オ リード端子15,16,17は夫々,半導体装置1のソース端子11,ドレイン端子12,ゲート端子13とワイヤ接続(ワイヤボンディング)されること。更に,領域18内において,ワイヤ接続される部分を覆うように樹脂封止がされ,半導体装置10がパッケージされること。

カ ソースリード15とダイパッド14は,両者が一体成形されてリードフレームを構成しており,ソース端子11とソースリード15の接続が,ソース端子11とダイパッド14をワイヤボンディングすることによりなされていること。

キ ソースリード15とダイパッド14が一体成形され,ソース端子11とダイパッド14がワイヤボンディングされて接続されているため,チップ裏面の電位を介して基板の電位がソース電圧に固定され,基板を経由してチップ裏面に流れるリーク電流を減らし,結果,オン抵抗を小さくすることができる。また,ソース配線の寄生インダクタンスが抑制され,ゲート電圧の発振を抑えることができること。

ク ドレインリード16及びゲートリード17は,夫々,ダイパッド14と分離形成され,ドレインリード16とドレイン端子12,ゲートリード17とゲート端子13との接続が,ワイヤボンディングによりなされていること。

(3)上記(1),(2)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「GaNを用いたデバイスにおいて,大きなゲート抵抗を付加することなく寄生発振を抑制できるように構成された半導体装置10であって,
半導体装置10の基板表面側に,ソース端子11,ドレイン端子12,ゲート端子13が形成され,
ダイパッド14上に半導体装置10が搭載され,
半導体装置10に隣接して,ソースリード15,ドレインリード16,ゲートリード17がこの順で形成され,
ソースリード15,ドレインリード16,ゲートリード17は夫々,半導体装置10のソース端子11,ドレイン端子12,ゲート端子13とワイヤボンディングされ,
領域18内において,ワイヤボンディングされる部分を覆うように樹脂封止がされ,
ソースリード15とダイパッド14は,両者が一体成形されてリードフレームを構成しており,ソース端子11とソースリード15の接続が,ソース端子11とダイパッド14をワイヤボンディングすることによりなされ,
ドレインリード16及びゲートリード17は,夫々,ダイパッド14と分離形成され,ドレインリード16とドレイン端子12,ゲートリード17とゲート端子13との接続が,ワイヤボンディングによりなされ,
ソースリード15とダイパッド14が一体成形され,ソース端子11とダイパッド14がワイヤボンディングされて接続されているため,チップ裏面の電位を介して基板の電位がソース電圧に固定される,
半導体装置10。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極パッドと第2電極パッドとが形成された第1表面と,前記第1表面の反対側に位置し,第3電極が形成された第1裏面,とを有し,前記第1および第2電極パッドと前記第3電極とに電気的に接続されたトランジスタ素子を含む第1半導体チップと,
第4電極パッドが形成された第2表面と,前記第2表面の反対側に位置し,第5電極が形成された第2裏面と,を有し,前記第4電極パッドと前記第5電極とに電気的に接続されたダイオード素子を含む第2半導体チップと,
前記第1半導体チップが搭載され,前記第1半導体チップの前記第3電極と電気的に接続された第1チップ搭載部を有する第1金属板と,
前記第2半導体チップが搭載され,前記第2半導体チップの前記第5電極と電気的に接続された第2チップ搭載部を有する第2金属板と,
前記第1半導体チップに電気的に接続されたリードと,前記第2半導体チップに電気的に接続されたリードと,を含むリード群と,
前記第1および第2半導体チップ,および複数の前記リードそれぞれの一部を封止する封止体と,を有し,
前記第1および第2金属板は,それぞれ電気的に分離され,且つそれぞれ第1方向に沿って隣り合って,配置され,
前記リード群は,前記第1方向とは直交する第2方向に沿って,前記第1金属板と前記第2金属板とに対向するように配置され,且つそれぞれのリードは前記第1方向に沿って配置され,
平面視において,前記第1金属板の前記第1チップ搭載部を含む部分の前記第1方向における幅は,前記第2金属板の前記第2チップ搭載部を含む部分の前記第1方向における幅より大きい半導体装置。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体装置および半導体装置の製造技術に関し,例えば,電力回路に組み込まれる半導体装置に適用して有効な技術に関するものである。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は,例えば電源回路に組み込まれる半導体装置の性能を向上させる技術を検討している。この一環として,トランジスタが形成された半導体チップと,上記トランジスタとスイッチング動作させるダイオードが形成された半導体チップを,一つのパッケージ内に内蔵する技術について検討した。この結果,半導体装置の信頼性向上の点で課題があることを見出した。
【0007】
その他の課題と新規な特徴は,本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態による半導体装置は,トランジスタが形成された第1半導体チップが搭載される第1金属板の,上記第1半導体チップの周辺領域を,ダイオードが形成された第2半導体チップが搭載される第2金属板の,上記第2半導体チップの周辺領域よりも大きくするものである。
【発明の効果】
【0009】
上記一実施の形態によれば,半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態の半導体装置が組み込まれた電力変換装置の回路構成を示す説明図である。
【図2】実施の形態の半導体装置の外観を示す平面図である。
【図3】図2に示す半導体装置の放熱板取り付け面側を示す平面図である。
【図4】図2に示す半導体装置の側面図である。
【図5】図4に示す半導体装置に放熱板を取り付け,図1に示す電力変換装置の実装基板に実装した状態を示す側面図である。
【図6】図2に示す封止体を透視した状態で,半導体装置の内部構造を示す透視拡大平面図である。
・・・<略>・・・
【図38】図6に対する他の変形例である半導体装置の封止体を透視した状態で,半導体装置の内部構造を示す透視拡大平面図である。
【図39】図38のA-A線に沿った拡大断面図である。
【図40】図38に対する変形例である半導体装置の封止体を透視した状態で,半導体装置の内部構造を示す透視拡大平面図である。
【図41】図40のA-A線に沿った拡大断面図である。」

「【0044】
図6に示すように,半導体装置1は,封止体2の内部に半導体チップ(トランジスタチップ)4,半導体チップ(ダイオードチップ)5,半導体チップ4が搭載される金属板6,および半導体チップ5が搭載される金属板7を有している。金属板6と金属板7は,互いに電気的に分離された状態で,チップ搭載面側が封止体2に封止されている。」

「【0056】
また,図6に示すように,半導体チップ4および半導体チップ5は,平面視において,それぞれ四角形を成す。図6に示す例では,半導体チップ4は長辺が約7mm,短辺が約4mm程度の長方形を成す。また,半導体チップ5は長辺が約4mm,短辺が約2mm程度の長方形を成す。また,半導体チップ4,5の厚さは,例えば,それぞれ0.05mm?0.5mm程度である。
【0057】
また,図6に示すように,半導体チップ4および半導体チップ5それぞれは,互いに電気的に分離された金属板6および金属板7に搭載されている。図7に示すように,半導体チップ4は,裏面4bが金属板6の上面6aと対向した状態で導電性接着材8Cを介して金属板6のチップ搭載部6cb上に搭載されている。導電性接着材8Cは,半導体チップ4の裏面4bに形成されたコレクタ電極4cpと金属板6とを電気的に接続し,かつ,金属板6のチップ搭載部6cb上に半導体チップ4を固定するダイボンド材8である。導電性接着材8Cには,例えば,Pb-Sn-Ag半田,Sn-Sb半田などの半田材,または,Agペーストのような樹脂中に多数の導電性粒子(金属粒子)を混合させた導電性樹脂材を用いることができる。
【0058】
また,図8に示すように,半導体チップ5は,裏面5bが金属板7の上面7aと対向した状態でダイボンド材(導電性接着材)8を介して金属板7のチップ搭載部7cb上に搭載されている。導電性接着材8Kは,半導体チップ5の裏面5bに形成されたカソード電極5kpと金属板7とを電気的に接続し,かつ,金属板7のチップ搭載部7cb上に半導体チップ5を固定するダイボンド材8である。導電性接着材8Kには,導電性接着材8Cと同様に,例えば,Pb-Sn-Ag半田,Sn-Sb半田などの半田材,または,Agペーストのような樹脂中に多数の導電性粒子(金属粒子)を混合させた導電性樹脂材を用いることができる。
【0059】
また,図6および図9に示すように,金属板6と金属板7は,X方向に沿って,互いに隣り合って配置され,金属板6の辺6h3と金属板7の辺7h3の間には,Y方向に沿って隙間GSPが配置されている。金属板6および金属板7の間に隙間GSPを設けることにより金属板6,7を電気的に分離することができる。また,図9に示すように,隙間GSP内に,封止体2の一部を配置する(埋め込む)ことにより,金属板6と金属板7を確実に絶縁することができる。
【0060】
そして,金属板6と金属板7とを電気的に分離することにより,図1に示すように,ダイオード素子D1のカソード電極K1とトランジスタ素子T1のエミッタ電極E1とに異なる電位を供給し,かつ,ダイオード素子D1のアノード電極A1とトランジスタ素子T1のコレクタ電極C1とに同じ電位を供給することができる。
・・・<略>・・・
【0066】
つまり,半導体装置1では,外部端子である複数のリード3,および複数のリード3と電気的に接続される半導体チップ4,5が,金属板6の辺6h1または金属板7の辺7h1が配置されるサイドに集約して配置されている。言い換えれば,半導体装置1では,外部端子である複数のリード3,および複数のリード3と電気的に接続される半導体チップ4,5が,封止体2の辺2h1側に集約して配置されている。
【0067】
このように,半導体装置1が備える電気回路を構成する部品を,封止体2の一つの辺側に集約して配置することにより,各部品を電気的に接続するための距離を短くすることができるので,導通経路のインピーダンス成分を低減できる。
【0068】
また,金属板6および金属板7を,X方向に沿って隣り合って配置することにより,半導体チップ4および半導体チップ5を,それぞれリード群に近づけて配置することができる。」

「【0171】
<変形例5>
また,上記実施の形態および変形例1?変形例4では,半導体チップ4のエミッタ電極パッド4epとリードVL2を電気的に接続する金属導体(導電性部材)として,ワイヤ9Eを用いる実施態様について説明した。しかし,スイッチング回路の大電流が流れる導通経路の断面積をさらに大きくする変形例として,図38に示す半導体装置1H6のように,金属クリップ(金属導体,金属板)51を用いることができる。
【0172】
図38は,図6に対する他の変形例である半導体装置の封止体を透視した状態で,半導体装置の内部構造を示す透視拡大平面図である。また図39は,図38のA-A線に沿った拡大断面図である。
【0173】
図38および図39に示す半導体装置1H6は,半導体チップ4のエミッタ電極パッド4epとリードVL2とが,金属クリップ(金属導体,金属板)51を介して電気的に接続されている点で,図6に示す半導体装置1と相違する。
【0174】
金属クリップ51は,例えば銅(Cu)から成る金属板であって,半導体チップ4のエミッタ電極パッド4epと接続されるチップ接続部51Cb,リードVL2と接続されるリード接続部51Lb,およびチップ接続部51Cbとリード接続部51Lbとの間に位置する中間部51Tbを有している。図39に示すように,チップ接続部51Cbとリード接続部51Lbは,それぞれ被接続部に向かって突出する突出部を有している。この突出部は,金属クリップ51を半導体チップ4およびリードVL2上に搭載する前に予め形成しておく。
【0175】
また,チップ接続部51Cbは導電性接着材52を介してエミッタ電極パッド4epと電気的に接続されている。リード接続部51Lbは導電性接着材52を介してリードVL2のワイヤ接続面(図35の場合はクリップ接続面と読み替える)3Baと電気的に接続されている。導電性接着材52は,ダイボンド材8と同様に,例えば,Pb-Sn-Ag半田,Sn-Sb半田などの半田材,または,Agペーストのような樹脂中に多数の導電性粒子(金属粒子)を混合させた導電性樹脂材を用いることができる。
【0176】
半導体装置1H6のように,半導体チップ4のエミッタ電極パッド4epとリードVL2とが,金属クリップ(金属導体,金属板)51を介して電気的に接続されている場合,上記実施の形態で説明した半導体装置1よりもさらに導通経路の断面積を大きくすることができる。そして,エミッタ電極パッド4epとリードVL2とを電気的に接続する導通経路(金属クリップ51)の断面積を大きくすることで,抵抗値を低減できる。この結果,トランジスタ素子T1(図1参照)のオン抵抗を低減することができる。
【0177】
なお,図38および図39に示す半導体装置1H6の製造方法では,上記実施の形態で説明したワイヤボンディング工程において,金属クリップ51を形成する。また,導電性接着材52として半田材を用いる場合には,金属クリップ51を形成した後,洗浄工程を行う。したがって,ワイヤ9Aおよびワイヤ9Gを形成する前に,金属クリップ51を形成する工程,および洗浄工程を行うことが好ましい。
【0178】
また図示は省略するが,半導体装置1H6に対する更なる変形例として,図38に示す半導体チップ5のアノード電極パッド5apとリードCLを電気的に接続するワイヤ9Aを,金属クリップ51に置き換えても良い。
【0179】
上記した相違点を除き,半導体装置1H6と半導体装置1は同様なので,重複する説明は省略する。」

「【図6】



「【図38】



(2)上記記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 封止体2の内部に外部端子である複数のリード3,半導体チップ(トランジスタチップ)4,半導体チップ(ダイオードチップ)5,半導体チップ4が搭載される金属板6,および半導体チップ5が搭載される金属板7を有した半導体装置1において,
半導体チップ4および半導体チップ5それぞれは,互いに電気的に分離された金属板6および金属板7に搭載され,
金属板6と金属板7は,X方向に沿って,互いに隣り合って配置され,金属板6の辺6h3と金属板7の辺7h3の間には,Y方向に沿って隙間GSPが配置されることで,金属板6および金属板7の間に隙間GSPを設けることにより金属板6,7を電気的に分離し,
複数のリード3,および複数のリード3と電気的に接続される半導体チップ4,5が,封止体2の辺2h1側に集約して配置されることにより,
各部品を電気的に接続するための距離を短くすることができ,導通経路のインピーダンス成分を低減できること。

イ 半導体チップ4のエミッタ電極パッド4epとリードVL2とを,銅からなる金属クリップ(金属導体,金属板)51を介して電気的に接続することで,導通経路の断面積を大きくし,トランジスタ素子T1のオン抵抗を低減できること。

3 引用文献3について
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】
上面電極と下面電極とを有するパワー素子と,
前記パワー素子の下面電極の下側に絶縁体を介して接続される,内部に冷却液が流通する金属製の第1の冷却板と,
前記パワー素子の上面電極の上側に絶縁体を介して接続される,内部に冷却液が流通する金属製の第2の冷却板と,
前記第1の冷却板と第2の冷却板との間に配置される,外部に電気的接続を行うための少なくとも1つの電極端子と,
を備え,
前記上面電極及び/又は下面電極は,金属板を介して前記電極端子に電気的に接続されていることを特徴とするパワーモジュール。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,電気自動車に使用される電力用パワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等(ハイブリッド自動車を含む)の電動機のコイルに所定の交流電力を供給するインバータは,電力用スイッチング素子等で構成されている。電力用半導体としては,IGBTやパワーMOSFET等の半導体チップに形成されたパワー素子が用いられている。パワー素子が形成された半導体チップは,制御回路等と共に一つのパワーモジュールに封止されている。
【0003】
このようなパワーモジュールにおいては,封止されているパワー素子自体に大電流が流れるため,このパワー素子が発熱し熱破壊が起こる場合がある。このような熱破壊を防止するために,従来,封止されている半導体チップを絶縁板を介して金属基板に取り付け,その金属基板には放熱フィンを取り付け,冷却が行われていた。」

「【0021】
以下,本発明の実施の形態(以下実施形態という)を,図面に従って説明する。
【0022】
図2(a)には第一の実施形態の冷却手段を備えたパワーモジュールの断面図が,図2(b)には図2(a)のA-A’線での平面図が示されている。パワーモジュール2内には,表面にパワー素子としてIGBTが形成された半導体チップ4が,絶縁基板6上の金属膜8に半田9で固定されている。絶縁基板6は金属膜22を介して,金属基板24に半田26を介して取り付けられている。絶縁基板6によって,金属膜22と半導体チップ4は電気的に絶縁される。
【0023】
なお,ここでは,パワー素子としてIGBTを使用しているが,パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Feild-Effect Transistor)等の他のパワー素子を用いてもよい。
【0024】
パワー素子としてIGBTを用いた場合,半導体チップ4上のゲート電極11,エミッタ電極14及びコレクタ電極(即ち,半導体チップ4の半導体基板)に電圧を供給するために,チップ上のそれぞれの電極と,チップ外部へ電気的に接続される電極端子とを接続する必要がある。
【0025】
半導体チップ4上のゲート電極11への電圧供給は,ゲート用電極端子30から行われる。ゲート電極11は,金属細線10を介してゲート用電極端子30に電気的に接続される。まず,金属細線10の両端は,一方がゲート電極11に,もう一方が絶縁基板6上の金属膜12にスポット溶接される。スポット溶接は超音波溶接が好ましい。さらに,金属膜12はゲート用電極端子30に半田で接合されるので,金属細線10とゲート用電極端子30は電気的に接続される。
【0026】
半導体チップ4上のコレクタ電極,即ち,半導体チップ4の半導体基板への電圧供給は,コレクタ用電極端子32から,半導体チップ4の下面に半田9で取り付けられている金属膜8を介して行われる。
【0027】
半導体チップ4上のエミッタ電極14への電圧供給は,エミッタ用電極端子18から行われる。エミッタ電極14には,金属板34が接続されている。金属板34にはさらに配線用金属端子38が接続されている。配線用金属端子38は金属膜16に半田40で接合されており,金属膜16にはエミッタ用電極端子18が半田20で接合されている。このように,エミッタ電極14は,金属板34,配線用金属端子38,半田40,金属膜16,半田20を介してエミッタ用電極端子18に電気的に接続されている。
【0028】
エミッタ電極14とエミッタ用電極端子18との接続線路は,従来用いられていた金属細線ではなく,金属板34を使用しており,金属板34は金属細線と比較して大きな面積を有している。そのため,金属板34とエミッタ電極14及び配線用金属端子38との接続はそれぞれ接合部36及び接合部39において,スポット溶接することが好ましい。接合部36及び接合部39の複数点でスポット溶接を行うことにより,面積の広い金属板34と,エミッタ電極14および配線用金属端子38との接続を確実に行うことができる。スポット溶接は超音波溶接であることが好ましい。なお,金属板34と配線用金属端子38との接続はレーザ溶接を用いても良い。
【0029】
また,本実施形態では,金属板34と配線用金属端子38と接続し,エミッタ電極14とエミッタ用電極端子18との接続線路として用いたが,金属板34と配線用金属端子38とを一体とした金属製の部材を用いても構わない。
【0030】
また,各電極端子18,30,32,配線用金属端子38と金属板34は,導電性の良い材料が用いられるのが好ましい。そして,金属板34は,配線用金属端子38およびエミッタ電極14に超音波溶接で接合されるので,配線用金属端子38およびエミッタ電極14の材質により,超音波溶接が容易にできる材料を適宜選択するのが好ましい。例えば,エミッタ電極14がAlで形成されている場合,金属板34もAl等のAlと超音波溶接が容易にできる材料のものが良い。
【0031】
半導体チップ4が載置された絶縁基板6の下面は,金属膜22を介して,金属基板24上に半田26で取り付けられている。チップ側面側は外殻ケース28で囲まれており,外殻ケース28の下部には金属基板24が,上部には上部冷却板44が取り付けられている。外殻ケース28は,電極端子18,30,32を外部に引き出すため,プラスチック等の絶縁部材で構成されている。これらの金属基板24,外殻ケース28と上部冷却板44より,パッケージ29が構成される。パッケージ29内には,半導体チップ4,絶縁基板6,金属膜8,12,16,金属細線10,金属板34と,ゲート用電極端子30,コレクタ用電極端子32,エミッタ用電極端子18の一部分が封止され,一つのパワーモジュール2を構成している。なお,金属基板24及び上部冷却板44は熱伝導率が良い金属製であることが好ましい。
【0032】
半導体チップ4は絶縁基板6を介して,冷却された金属基板24に載置されているので,絶縁基板6を介しての放熱を従来通り行うことが可能である。
【0033】
また,エミッタ電極14に接続される金属板34は,絶縁膜48を介して,上部冷却板44に接続される。金属板34は比較的面積が広いため,半導体チップ4で発生する熱を効果的に上部冷却板44に伝達することができる。上部冷却板44は比較的面積が広く,金属製であるため,半導体チップ4で発生する熱を効果的に放熱できる。なお,絶縁膜48は,金属板34と上部冷却板44とを電気的に絶縁できればよいが,上部冷却板44から半導体チップ4に効果的に熱を伝達する必要があるため,シリコンゴム等の熱伝導率が高く厚さを薄くできる材質の物が好ましい。
【0034】
このように,第一の実施形態では,半導体チップ4は比較的面積の大きな金属板34を介して,比較的面積の大きな上部冷却板44と接続されている。そのため,金属板34を介して,半導体チップ4から上部冷却板44へ逃げる熱量が大きくなり,効果的な放熱が達成できる。そのため,半導体チップ4を絶縁基板6側と上部冷却板44側の両側より冷却することができるので,従来より効果的に半導体チップ4を冷却することができる。」

「【図2】



(2)上記記載から,引用文献3には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 金属基板24と,外殻ケース28と上部冷却板44とから構成されるパッケージ29内に,半導体チップ4,絶縁基板6,金属膜8,12,16,金属細線10,金属板34と,ゲート用電極端子30,コレクタ用電極端子32,エミッタ用電極端子18の一部分が封止されることで構成されるパワーモジュール2において,
エミッタ用電極端子18とエミッタ電極14との接続線路は,従来用いられていた金属細線ではなく,大きな面積を有する金属板34を使用し,
金属板34は,絶縁膜48を介して上部冷却板44に接続され,
金属板34は比較的面積が広いため,半導体チップ4で発生する熱を効果的に上部冷却板44に伝達することができること。

イ 半導体チップ4を絶縁基板6側と上部冷却板44側の両側より冷却することができるので,従来より効果的に半導体チップ4を冷却することができること。

4 引用文献4について
(1)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】 パワー半導体素子が,その下面が放熱板上に搭載されて筐体内に収納されるパワー半導体モジュールにおいて,上記パワー半導体素子の上面と上記放熱板上とに接合される平板状またはブロック状の放熱部材を備え,該放熱部材を介して上記パワー半導体素子の上面から上記放熱板に放熱するようにしたことを特徴とするパワー半導体モジュール。」

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,電力変換装置などに用いられるパワー半導体モジュール,特にパワー半導体モジュールの冷却構造に関するものである。」

【0016】
【発明の実施の形態】実施の形態1.以下,この発明の実施の形態1を図について説明する。図1は,この発明の実施の形態1によるIGBTモジュールの主要部の構造を示す断面図である。図1において,14はアルミニウムや銅等からなる放熱板,15は両面に銅等からなる金属薄板15a(図示せず)が接着されたアルミナや窒化アルミニウム等からなる絶縁基板,16はパワー半導体素子としてのIGBT素子,17はIGBT素子16のエミッタ電極,18はIGBT素子16のコレクタ電極である。絶縁基板15は半田等により放熱板14上に接合され,IGBT素子16のコレクタ電極18は半田等の導電性材料で,絶縁基板15上の金属薄板15aに電気的に接続されて,IGBT素子16は絶縁基板15を介して放熱板14上に搭載される。
【0017】また,19,20はそれぞれ主回路配線の主要部をなすエミッタ用およびコレクタ用ブスバー,21,22はそれぞれ外部配線と接続するためのエミッタ用およびコレクタ用の外部電極端子,23a,23bは両面に銅等からなる金属薄板24a,24b(図示せず)が接着されたアルミナ等からなる絶縁性中継基板,25はアルミニウムワイヤ,26は半田や導電性樹脂等からなる導電性接合部材であり,27は銅等の金属から成る平板状の放熱部材である。コレクタ用の外部電極端子22は,半田等により放熱板14上に接合された中継基板23bの金属薄板24bに,コレクタ用ブスバー20を介して電気的に接続され,IGBT素子16のコレクタ電極18と中継基板23bの金属薄板24bはアルミニウムワイヤ25により電気的に接続される。一方,エミッタ用の外部電極端子21は,半田等により放熱板14上に接合された中継基板23aの金属薄板24aに,エミッタ用ブスバー19を介して電気的に接続される。金属から成る放熱部材27は導電性接合部材26を介してIGBT素子16のエミッタ電極17に接合され,さらに半田等により中継基板23aの金属薄板24aに接合される。このため,エミッタ電極17は放熱部材27を介して中継基板23aの金属薄板24aに電気的に接続され,さらにエミッタ用ブスバー19を介してエミッタ用の外部電極端子21に電気的に接続される。また,28はIGBT素子16を収納する筐体,29はシリコンゲルであり,筐体28の内部はシリコンゲル29で封止されている。
【0018】IGBTモジュールは,放熱板14下で高熱伝導性のグリース等によってヒートシンク等の放熱器(図示せず)に接合されており,IGBTモジュールの運転時にIGBT素子16で発生する熱を放熱板14を介して放熱器に伝導して放熱し,これによりIGBT素子16が冷却される。この様に構成されるIGBTモジュールでは,IGBT素子16で発生する熱は,コレクタ電極18側のIGBT素子16下面から絶縁基板15と放熱板14を介して放熱器に伝導される。一方エミッタ電極17側のIGBT素子16上面では,放熱部材27が導電性接合部材26を介してIGBT素子16のエミッタ電極17に接合され,さらにこの放熱部材27は半田等により中継基板23aに接合されている。放熱部材27は断面積の大きな平板状であるため,熱伝導路として用いられ,IGBT素子16で発生する熱は,IGBT素子16のエミッタ電極17側のIGBT素子16上面からも,導電性接合部材26,放熱部材27,中継基板23aおよび放熱板14を介して放熱器に伝導される。
【0019】この実施の形態では,IGBT素子16で発生する熱は,IGBT16のエミッタ電極17側,コレクタ電極18側の両側から放熱器へ伝導するので,従来のIGBTモジュールのようにIGBT素子3のコレクタ電極5側からのみ放熱器へ伝導するものに比べて,熱伝導路が増加するため熱抵抗が低減する。これによりIGBTモジュールの冷却性能が向上し,IGBT素子16の発熱温度を低減することができる。また,放熱部材27を金属で構成したため,IGBT素子16からの放熱を担うだけでなく,IGBT素子16とエミッタ用の外部電極端子21間を接続する電気的配線の一部を構成し,電気的配線として用いられる。」

「【図1】



(2)上記記載から,引用文献4には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
アルミニウムや銅等からなる放熱板14と,両面に銅等からなる金属薄板が接着されたアルミナや窒化アルミニウム等からなる絶縁基板15と,パワー半導体素子としてのIGBT素子16と,IGBT素子16のエミッタ電極17と,IGBT素子16のコレクタ電極18と,主回路配線の主要部をなすエミッタ用およびコレクタ用ブスバー19,20と,外部配線と接続するためのエミッタ用およびコレクタ用の外部電極端子21,22と,両面に銅等からなる金属薄板が接着されたアルミナ等からなる絶縁性中継基板23a,23bと,アルミニウムワイヤ25と,半田や導電性樹脂等からなる導電性接合部材26と,銅等の金属から成る平板状の放熱部材27と,IGBT素子16を収納する筐体28と,を有するIGBTモジュールにおいて,
エミッタ電極17は放熱部材27を介して中継基板23aの金属薄板24aに電気的に接続され,さらにエミッタ用ブスバー19を介してエミッタ用の外部電極端子21に電気的に接続され,
絶縁基板15は半田等により放熱板14上に接合され,IGBT素子16のコレクタ電極18は半田等の導電性材料で,絶縁基板15上の金属薄板に電気的に接続されて,IGBT素子16は絶縁基板15を介して放熱板14上に搭載され,
エミッタ電極17側のIGBT素子16上面では,放熱部材27が導電性接合部材26を介してIGBT素子16のエミッタ電極17に接合され,さらにこの放熱部材27は半田等により中継基板23aに接合されることにより,
IGBT素子16で発生する熱は,IGBT16のエミッタ電極17側,コレクタ電極18側の両側から放熱器へ伝導するので,従来のIGBTモジュールのようにIGBT素子3のコレクタ電極5側からのみ放熱器へ伝導するものに比べて,熱伝導路が増加するため熱抵抗が低減できること。

5 引用文献5について
(1)引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】支持基板と,該支持基板と一方の主面が固着された半導体基板と,該半導体基板の他方の主面上に形成された複数の主電極と,該複数の主電極と対向する導体と,該導体と,前記複数の主電極とを接続する半田と,を有することを特徴とする半導体装置。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,パワー半導体素子などの発熱が大きい半導体装置で,特に,その配線構造に関する。」

「【0010】
【発明の実施の形態】図1は,この発明の第1実施例の半導体装置を示し,同図(a)は要部断面図,同図(b)は同図(a)のフレームと半導体チップの平面図,同図(c)は同図(a)のA部の拡大断面図で同図(b)のX-X線で切断した箇所の断面図である。
【0011】冷却板7(ヒートシンク)と,絶縁基板19の表面が導電膜20で選択的に被覆された絶縁金属基板3とを図示しない半田で固着し,この絶縁金属基板3と半導体チップ1を半田5で固着し,半導体チップ1上のエミッタ電極のボンディングパッドであるエミッタ電極パッド15と,導板2(導体で形成された板:フレームのこと)とをクリーム半田4で固着する。
【0012】また,導板2の端部と絶縁金属基板3の第1ボンディングパッド17とを半田6で固着する。この第1ボンディングパッド17と外部導出端子9とをボンディングワイヤ11で接続することで,半導体チップ1のエミッタ電極パッド15と外部導出端子9は電気的に接続する。また,図示しないボンディングワイヤで,ゲート電極パッド16と外部導出端子10は接続する。
【0013】外部導出端子9,10が固着する樹脂成形されたケース8と冷却体7とを接着する。半導体チップ1,導板2,絶縁金属基板3,ボンディングワイヤ11などを水分,湿気,塵埃から保護する目的で,ケース8と冷却導体7で囲まれた空間はゲル12(シリコーンゲルなど)で充填されている。前記の導板2の固着面と反対の面Bは,放熱効率を上げるために,ラジエータのように表面を凹凸(図2のC部)にして放熱表面を大きくしたり,サンドブラスト処理で表面を荒らして,放熱を促す形状とする場合もある。
【0014】このように,半導体チップ1表面のエミッタ電極パッド15をワイヤボンディングではなく,クリーム半田4(所謂,ソルダペーストともいわれるもの)を印刷し,高熱伝導,大面積の導板2をリフロー半田付けして,電気的配線することで,半導体チップ1で発生した熱を絶縁金属基板3側へだけでなく,導板2側にも放熱することができて,半導体チップ1の接合温度Tj を保証温度の150℃(シリコンの場合)以下に抑えることができる。」

「【図1】



(2)上記記載から,引用文献5には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
冷却板7(ヒートシンク)と,
冷却板7(ヒートシンク)と半田で固着され,絶縁基板19の表面が導電膜20で選択的に被覆された絶縁金属基板3と,
絶縁金属基板3と半田5で固着された半導体チップ1と,
半導体チップ1上のエミッタ電極のボンディングパッドであるエミッタ電極パッド15と,
エミッタ電極パッド15とクリーム半田4で固着された導板2と,
導板2の端部と絶縁金属基板3の第1ボンディングパッド17とを固着する半田6と,
第1ボンディングパッド17と外部導出端子9とを接続し,半導体チップ1のエミッタ電極パッド15と外部導出端子9を電気的に接続させるボンディングワイヤ11と,
冷却板7と接着され,外部導出端子9,10が固着する樹脂成形されたケース8と,
半導体チップ1,導板2,絶縁金属基板3,ボンディングワイヤ11などを水分,湿気,塵埃から保護する目的で,ケース8と冷却導体7で囲まれたゲル12(シリコーンゲルなど)と,
を有する半導体装置において,
半導体チップ1表面のエミッタ電極パッド15にクリーム半田4を印刷し,高熱伝導,大面積の導板2をリフロー半田付けして,電気的配線することで,半導体チップ1で発生した熱を絶縁金属基板3側へだけでなく,導板2側にも放熱することができて,半導体チップ1の接合温度を保証温度の150℃(シリコンの場合)以下に抑えることができること。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明における「半導体装置10」,「ドレイン端子12」,「ソース端子11」,「ゲート端子13」は,それぞれ本願発明1の「半導体素子」,「半導体素子に設けられた第1の接続端子」,「半導体素子に設けられた第2の接続端子」,「半導体素子に設けられた第3の接続端子」に相当する。

イ 引用発明の「半導体装置10」の,「ドレイン端子12」,「ソース端子11」,「ゲート端子13」が形成される側の面は,本願発明1の「前記第1の接続端子,前記第2の接続端子,および,前記第3の接続端子が配置され」る,「半導体素子の第2の面」に相当する。

ウ 引用発明の「半導体装置10」の,「ドレイン端子12」,「ソース端子11」,「ゲート端子13」が形成されていない側の面は,本願発明1の「第1の面」に相当する。

エ 引用発明の「ダイパッド14」は、技術常識に照らして、「導電体である金属層」といえる。

オ 引用発明は「ソースリード15とダイパッド14が一体成形され,ソース端子11とダイパッド14がワイヤボンディングされて接続されているため,チップ裏面の電位を介して基板の電位がソース電圧に固定される」ものであるから、「半導体装置10」の「ドレイン端子12」,「ソース端子11」,「ゲート端子13」が形成されている側の面と、「ソース端子11」に接続するワイヤボンディングの「ワイヤ」は同電位といえる。

カ 引用発明のワイヤボンディングで用いられる「ワイヤ」と、本願発明の「バスバー」とは、導電部材である点で一致する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「導電体である金属層と,
前記金属層の第1の面に実装される半導体素子と,
前記半導体素子に設けられた第1の接続端子と,
前記半導体素子に設けられた第2の接続端子と,
前記半導体素子に設けられた第3の接続端子と,
前記第1の接続端子に一端が接合された第1の導電部材と,
前記第2の接続端子に一端が接合された第2の導電部材と,
を備え,
前記半導体素子の第1の面は前記金属層の前記第1の面と接合され,
前記第1の面とは反対面である前記半導体素子の第2の面に,前記第1の接続端子,前記第2の接続端子,および,前記第3の接続端子が配置され,
前記第2の導電部材の他端が前記金属層に接合され,
前記半導体素子の前記第1の面と前記第2の導電部材とは同電位である,
半導体装置。」

<相違点>
本願発明1では,第1の接続端子に接合された導電部材が,「他端は外部のデバイスへ接続される出力部であ」る「第1のバスバー」であって,第2の接続端子に接合されると共に他端が半導体素子を実装する金属層に接合される導電部材が,「他端は外部のデバイスへ接続される出力部であ」る「第1のバスバー」「の通電方向における断面積よりも大きな通電方向の断面積を有」する「第2のバスバー」であるのに対して,
引用発明では,第1の接続端子に接合された導電部材,及び,第2の接続端子に接合された導電部材のいずれもが,ワイヤボンデイングで用いられるワイヤである点。

(2)相違点についての判断
第1の接続端子,第2の接続端子,および,第3の接続端子が第2の面に配置された半導体素子の第2の接続端子と,前記半導体素子を実装する金属層とを接続する導電部材を,「他端は外部のデバイスへ接続される出力部であ」る「第1のバスバー」「の通電方向における断面積よりも大きな通電方向の断面積を有」する「第2のバスバー」とする構成は,引用文献2ないし5のいずれにも記載されておらず,当該技術分野における周知技術であるとも認められない。
また,このような構成を引用発明に適用する動機付けも,引用文献1ないし5のいずれにも記載されていない。
そして,本願発明1は,このような構成を備えることにより,請求人が審判請求書で主張する,「本願発明は,断面積が大きな第1,第2のバスバーを導体として用いつつ2つのバスバーに断面積差を設けることによって伝熱特性の優劣を生じさせ,大電流が通電可能な状態と外部のデバイスへの熱伝搬の抑制とを両立するものであります。」という効果を含む本願明細書に記載された顕著な効果を奏するものと認められる。

(3)小括
したがって,本願発明1は当業者であっても引用発明,および引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定したものであるから,本願発明1が,引用発明および引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないことから,本願発明2ないし5も,引用発明および引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
1 理由(特許法第29条第2項)について
上記第6で検討したように,本願発明1ないし5は,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1ないし5に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

令和 1年12月23日

 
審決日 2020-01-29 
出願番号 特願2017-530999(P2017-530999)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 和俊  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 西出 隆二
辻本 泰隆
発明の名称 半導体装置  
代理人 野村 幸一  
代理人 鎌田 健司  

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