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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1359130
審判番号 不服2019-8239  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-20 
確定日 2020-02-12 
事件の表示 特願2015-191759「高電流パルスアーク溶接方法及びフラックス入り溶接ワイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 64742、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、平成27年9月29日の出願であって、平成30年10月31日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年12月20日に手続補正書及び意見書が提出され、令和元年5月20日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和元年6月20日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

1.本願の請求項1及び8に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、本願の請求項2及び9に係る発明は、以下の引用文献1及び2に基づいて、本願の請求項3及び10に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に基づいて、本願の請求項4に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に基づいて、本願の請求項5に係る発明は、以下の引用文献1ないし5に基づいて、本願の請求項6及び7に係る発明は、引用文献1ないし6に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-218437号公報
2.特開2003-320479号公報
3.特開2015-110247号公報
4.特開昭54-50443号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2010-142823号公報
6.特開2002-254172号公報


第3 本願発明
本願請求項1-8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は、令和元年6月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
溶接電源、溶接トーチ及び送給機を含む溶接システムを用い、前記溶接トーチを介して前記送給機により消耗式電極を送給し、シールドガスを流しながら溶接を行うパルスアーク溶接方法であって、
前記消耗式電極は外皮内にフラックスが充填されたフラックス入り溶接ワイヤであり、
前記フラックス入り溶接ワイヤは、Cを0.30質量%以下、Siを0.30?1.60質量%、Mnを1.00?2.80質量%、Pを0.050質量%以下、Sを0.050質量%以下、並びに、Al、Ti、Zr及びMgからなる群より選ばれる少なくとも1の元素を合計で0.05?1.50質量%含み、
前記フラックス入り溶接ワイヤに含まれるAl、Ti、Zr及びMgの総質量%とSi及びMnの総質量%との比が、0.11≦(Al+Ti+Zr+Mg)/(Si+Mn)≦0.60の関係を満たし、
前記フラックス入り溶接ワイヤがAl酸化物、Ti酸化物、Zr酸化物及びMg酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1の酸化物を含み、Al酸化物をAl_(2)O_(3)換算、Ti酸化物をTiO_(2)換算、Zr酸化物をZrO_(2)換算、かつMg酸化物をMgO換算した場合の前記酸化物の合計が、前記フラックス入り溶接ワイヤの全質量に対して、0.20質量%≦(Al_(2)O_(3)+TiO_(2)+ZrO_(2)+MgO)≦1.50質量%の関係を満たし、
溶接時のパルスピーク電流を550?950A、パルスベース電流を550A以下、及び前記パルスピーク電流と前記パルスベース電流との差を200?600Aとすることを特徴とする高電流パルスアーク溶接方法。」

なお、本願発明2ないし8の概要は以下のとおりである。
本願発明2ないし6は、本願発明1を引用する発明である。
本願発明7及び8は、本願発明1のパルスアーク溶接方法における「フラックス入り溶接ワイヤ」を特定する事項と実質的に同じ事項によって特定されるフラックス入り溶接ワイヤに係る発明である。


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は理解の便のため、当審で付与した。

ア.「【請求項1】
フラックス入りワイヤを電極ワイヤとしてパルスアーク溶接を行なう高電流密度ガスシールドアーク溶接方法であって、
前記パルスアーク溶接のパルス電流において、パルスピーク期間Tpのパルスピーク電流密度を400?950A/mm^(2)、パルスベース期間Tbのパルスベース電流密度を200A/mm^(2)以上、かつ、そのときのパルスピーク電流密度との差を200?400A/mm^(2)、平均電流密度を350?750A/mm^(2)として溶接することを特徴とする高電流密度ガスシールドアーク溶接方法。
【請求項2】
前記シールドガスとして、CO_(2):5?35体積%で残部がArである混合ガスを用いることを特徴とする請求項1に記載の高電流密度ガスシールドアーク溶接方法。
【請求項3】
前記フラックス入りワイヤは、鋼製外皮に充填されるフラックスの充填率がワイヤ全質量に対して10?25質量%であり、ワイヤ全質量に対して、C:0.08質量%以下、Si:0.5?1.5質量%、Mn:1.5?2.5質量%、Ti:0.1?0.3質量%を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高電流密度ガスシールドアーク溶接方法。」

イ.「【0012】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その目的は、高溶着量を得ながら、大幅なスパッタ低減を実現することが可能な高電流密度ガスシールドアーク溶接方法を提供することにある。」

ウ.「【0024】
例えば、図3に示すように、溶接装置100は、消耗電極となるフラックス入りワイヤ108とそのフラックス入りワイヤ108の外周部にシールドガスを供給するシールドガスノズル(図示せず)とを先端に備える溶接トーチ106と、溶接トーチ106が先端に取り付けられ、その溶接トーチ106を被溶接材107の溶接線に沿って移動させるロボット104と、溶接トーチ106にフラックス入りワイヤ108を供給するワイヤ供給部101と、ワイヤ供給部101を介してフラックス入りワイヤ108にパルス電流を供給してフラックス入りワイヤ108と被溶接材107との間でパルスアークを発生させる溶接電源部102と、溶接電源部102のパルス電流を制御する電源制御部103とを備える。また、溶接装置100は、溶接トーチ106を移動させるためのロボット動作を制御するロボット制御部105をさらに備えてもよい。なお、電源制御部103およびロボット制御部105は、CPU、ROM、RAM、HDD、入出力インタフェース等を備えている。」

エ.「【0030】
一方、フラックス入りワイヤは、筒状に形成された鋼製外皮部と、その筒内に充填されたフラックスとからなるものである。したがって、フラックス入りワイヤでは、中心にフラックスが存在する不均一断面であるため、ワイヤ断面の温度分布が不連続となり、高電流密度時でも突出し部が軟化・溶融して先端が伸びる現象を低減できる。また、これにパルスアークを適用すると、自身が形成する磁場およびプラズマ気流によりアークの硬直性を高めることができ、高電流密度時でも不安定アークを抑制できるため、ローテーティング現象のきっかけを生まない。その結果、高電流密度時でもパルススプレー移行が可能となり、その溶滴はパルスピーク期間Tpの高い電磁ピンチ力によってワイヤ先端からスムーズに離脱し、溶融池に吸収される。さらに、パルス電流を用いることにより、ワイヤ突出し部におけるジュール発熱効果が高くなるため、同一平均電流において溶着量を増加させることができる。故に、本発明では、フラックス入りワイヤを用いる。」

オ.「【0033】
そして、その最適な電流密度範囲は、パルスピーク期間Tpのパルスピーク電流密度が400?950A/mm^(2)、パルスベース期間Tbのパルスベース電流密度が200A/mm^(2)以上、かつ、そのときのパルスピーク電流密度との差が200?400A/mm^(2)、平均電流密度が350?750A/mm^(2)である。このような電流密度範囲で溶接を行うことによって、鋼製外皮部が均一に溶融し、溶融したフラックスと共にワイヤ先端で溶滴が形成され、パルスピーク期間Tpの電磁ピンチ力がこの溶滴をスムーズに離脱させる安定したスプレー移行が実施されるため、スパッタ発生量が極めて少ない。更にパルス化による溶着量向上効果も得られる。以下に、電流密度範囲の限定理由について述べる。」

カ.「【0040】
好ましい例としては、フラックス入りワイヤを、鋼製外皮に充填されるフラックスの充填率がワイヤ全質量に対して10?25質量%であり、ワイヤ全質量に対して、C:0.08質量%以下、Si:0.5?1.5質量%、Mn:1.5?2.5質量%、Ti:0.1?0.3質量%を含有するものとする。なお、フラックス入りワイヤは、前記したC、Si、Mn、Tiを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものである。そして、フラックス入りワイヤが前記した成分組成であることによって、スパッタ発生量およびスラグ発生量が低減されると共に、ビード形状が良好な溶接部を得ることができる。また、前記したC、Si、Mn、TiおよびFeは、鋼製外皮部およびフラックスの少なくとも一方に含有されている。」

キ.「【0042】
(C:0.08質量%以下)
Cは、黒鉛の他、鋼製外皮、フェロマンガン、フェロシリコンマンガンおよび鉄粉等に含まれ、溶接金属の強度を確保するために重要な成分である。また、特にAr-CO_(2)混合ガスを用いた高電流密度ガスシールドアーク溶接では、アークの安定性に及ぼす影響が大きく、アークの集中性と安定性を確保するためにはCが必要となる。ただし、Cが0.08質量%を超えると、シールドガス中の酸素と反応してガス化したCOが溶滴内から放出され、溶滴移行を乱しやすく、スパッタ発生量が増大し易くなる。また、Cは、アーク安定性の観点から0.02質量%以上であることがさらに好ましい。
【0043】
(Si:0.5?1.5質量%)
Siは、鋼製外皮、金属シリコン、フェロシリコンおよびフェロシリコンマンガン等から添加され、溶接金属の強度を確保するために必要な成分であり、脱酸剤としても必要である。また、ビードのなじみを良好にする効果もある。Siが0.5質量%未満であると、溶接金属の強度が不足する上、350A/mm^(2)以上の高電流密度ガスシールアーク溶接では脱酸不足となり、ブローホール等の欠陥が発生し易くなる。また、溶滴の離脱性が劣化して先端が伸び易く、スパッタ発生量がやや多くなる。更にビードのなじみが劣化し、美しいビード形状が得難くなる。一方、Siが1.5質量%を超えると、スラグ発生量が増加し易くなる。
【0044】
(Mn:1.5?2.5質量%)
Mnは、鋼製外皮、金属マンガン、フェロマンガンおよびフェロシリコンマンガン等により添加され、溶接金属の強度および靭性を確保するために必要な成分であり、脱酸剤としても必要である。350A/mm^(2)以上の高電流密度ガスシールドアーク溶接において、Mnが1.5質量%未満であると脱酸不足となり、ブローホール等の欠陥が発生し易くなる。また、溶滴の離脱性が劣化して先端が伸び易く、スパッタ発生量がやや多くなる。一方、Mnが2.5質量%を超えるとスラグ発生量が増加し易くなる。
【0045】
(Ti:0.1?0.3質量%)
Tiは、鋼製外皮、金属チタン、フェロチタンおよびTiO_(2)等により添加される強脱酸剤である。また、溶接金属の強度および靭性を確保するために必要な成分である。特に、Tiが0.1質量%未満であると、溶滴の離脱性が劣化して先端が伸びやすく、スパッタ発生量がやや多くなる。一方、Tiが0.3質量%を超えると、スラグ発生量が増加する上、スラグ剥離性も劣化し易くなる。なお、Ti含有量はメタルTiとして換算する。」

ク.「【0054】
(溶接条件)
ワイヤ径:1.4mm
シールドガス:Ar-20体積%CO_(2)
試験板(母材):SS400 25mmt
チップ母材間距離:25mm
溶接速度:60cm/分
パルスピーク電流密度:520A/mm^(2)
パルスベース電流密度:280A/mm^(2)
平均電流密度:460A/mm^(2)」

ケ.「



コ.上記ク.の記載から、ワイヤ径は1.4mmであり、パルスピーク電流密度は520A/mm^(2)、パルスベース電流密度は280A/mm^(2)であるから、パルスピーク電流は800A(=520×(1.4/2)^(2)×π)、パルスベース電流は430A(=280×(1.4/2)^(2)×π)であり、パルスピーク電流とパルスベース電流との差が370Aとなることがわかる。

サ.上記ケ.の表2における実施例No.31のSi、Mn及びTiの成分組成(質量%)の値から、Ti/(Si+Mn)の値は0.05であることがわかる。

サ.したがって、上記引用文献1には表2のNo.31の実施例について、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「溶接電源部102、溶接トーチ106及びワイヤ供給部101を含む溶接装置を用い、前記溶接トーチ106を介して前記ワイヤ供給部101により消耗電極を供給し、シールドガスを流しながら溶接を行うパルスアーク溶接方法であって、
前記消耗電極は鋼製外皮にフラックスが充填されたフラックス入りワイヤ108であり、
前記フラックス入りワイヤ108は、Cを0.03質量%、Siを0.7質量%、Mnを2.2質量%、Tiを0.15質量%含み、
前記フラックス入りワイヤ108に含まれるTiの質量%とSi及びMnの総質量%との比であるTi/(Si+Mn)の値は0.05であり、
溶接時のパルスピーク電流を800A、パルスベース電流を430A、及び前記パルスピーク電流と前記パルスベース電流との差を370Aとする高電流密度ガスシールドアーク溶接方法。」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明の「溶接電源部102」は、本願発明1の「溶接電源」に相当する。同様に、「溶接トーチ106」は「溶接トーチ」に、「ワイヤ供給部101」は「送給機」に、「溶接装置」は「溶接システム」に、「消耗電極」は「消耗式電極」に、「鋼製外皮」は「外皮」に、「フラックス入りワイヤ108」は「フラックス入り溶接ワイヤ」に、それぞれ相当する。
引用発明の「前記フラックス入りワイヤ108は、Cを0.03質量%、Siを0.7質量%、Mnを2.2質量%、Tiを0.15質量%含」むことと、本願発明1の「前記フラックス入り溶接ワイヤは、Cを0.30質量%以下、Siを0.30?1.60質量%、Mnを1.00?2.80質量%、Pを0.050質量%以下、Sを0.050質量%以下、並びに、Al、Ti、Zr及びMgからなる群より選ばれる少なくとも1の元素を合計で0.05?1.50質量%含」むこととを対比すると、「前記フラックス入り溶接ワイヤは、Cを0.30質量%以下、Siを0.30?1.60質量%、Mnを1.00?2.80質量%、並びに、Tiの元素を0.05?1.50質量%含」むということを限度として一致している。
引用発明の「溶接時のパルスピーク電流を800A、パルスベース電流を430A、及び前記パルスピーク電流と前記パルスベース電流との差を370Aとする」ということと、本願発明1の「溶接時のパルスピーク電流を550?950A、パルスベース電流を550A以下、及び前記パルスピーク電流と前記パルスベース電流との差を200?600Aとする」こととを対比すると、引用発明のパルスピーク電流、パルスベース電流及びパルスピーク電流とパルスベース電流の差の値は、本願発明1の数値範囲を満たしているから、両者は一致している。
引用発明の「高電流密度ガスシールドアーク溶接方法」は、パルスアーク溶接を行っていることから、本願発明1の「高電流パルスアーク溶接方法」に相当する。

そうすると、両発明は以下の点で一致し、また相違する。

(一致点)
「溶接電源、溶接トーチ及び送給機を含む溶接システムを用い、前記溶接トーチを介して前記送給機により消耗式電極を送給し、シールドガスを流しながら溶接を行うパルスアーク溶接方法であって、
前記消耗式電極は外皮内にフラックスが充填されたフラックス入り溶接ワイヤであり、
前記フラックス入り溶接ワイヤは、Cを0.30質量%以下、Siを0.30?1.60質量%、Mnを1.00?2.80質量%、並びに、Tiの元素を0.05?1.50質量%含み、
溶接時のパルスピーク電流を550?950A、パルスベース電流を550A以下、及び前記パルスピーク電流と前記パルスベース電流との差を200?600Aとする高電流パルスアーク溶接方法。」

(相違点)
フラックス入り溶接ワイヤの成分に関し、本願発明1は、「Pを0.050質量%以下、Sを0.050質量%以下含み、
前記フラックス入り溶接ワイヤに含まれるAl、Ti、Zr及びMgの総質量%とSi及びMnの総質量%との比が、0.11≦(Al+Ti+Zr+Mg)/(Si+Mn)≦0.60の関係を満たし、
前記フラックス入り溶接ワイヤがAl酸化物、Ti酸化物、Zr酸化物及びMg酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1の酸化物を含み、Al酸化物をAl_(2)O_(3)換算、Ti酸化物をTiO_(2)換算、Zr酸化物をZrO_(2)換算、かつMg酸化物をMgO換算した場合の前記酸化物の合計が、前記フラックス入り溶接ワイヤの全質量に対して、0.20質量%≦(Al_(2)O_(3)+TiO_(2)+ZrO_(2)+MgO)≦1.50質量%の関係を満た」すのに対し、引用発明では、PやSの含有量について記載されておらず、Tiの含有量が0.15質量%であるものの、Ti/(Si+Mn)の値は0.05であり、フラックス入り溶接ワイヤの金属酸化物の含有量についても特段記載されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
本願発明1は、0.11≦(Al+Ti+Zr+Mg)/(Si+Mn)≦0.60を満たすという事項が特定されているところ、引用発明はこれについては何ら開示されておらず、上記第2の2.?6.の引用文献2ないし6にも、上記事項については開示されていない。
そして、本願発明1は上記事項を備えることで、本願明細書の段落【0032】、【0033】に記載された「脱酸元素のSi、Mnを添加することで、酸素による気孔欠陥をSi及びMnによって防止し、Al、Ti、Zr及びMgは脱酸元素としてよりも脱窒元素としての効果をより発揮させ、Nとの反応を促進させること」が可能となるとともに、「アーク安定性が増し、かつスラグの剥離性がより良好となる」という効果を奏することとなる。
したがって、引用発明において、0.11≦(Al+Ti+Zr+Mg)/(Si+Mn)≦0.60を満たすように各元素の組成量を調整することは設計事項ではなく、当業者が容易に想到したものとは言えない。

(3)本願発明1のむすび
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

2.本願発明2ないし6について
本願発明2ないし6は本願発明1を引用するものであり、本願発明2ないし6も、本願発明1と同じ相違点を有するから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明7及び8について
本願発明7及び8は、本願発明1のパルスアーク溶接方法における「フラックス入り溶接ワイヤ」を特定する事項と実質的に同じ事項によって特定される発明であり、上記相違点に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-8は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2020-01-28 
出願番号 特願2015-191759(P2015-191759)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 奥隅 隆  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 見目 省二
小川 悟史
発明の名称 高電流パルスアーク溶接方法及びフラックス入り溶接ワイヤ  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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