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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H05K |
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管理番号 | 1359139 |
審判番号 | 不服2018-10849 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-08-08 |
確定日 | 2020-01-20 |
事件の表示 | 特願2015-535690「電気部品並びに電気部品を製造する方法及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年4月10日国際公開、WO2014/055270、平成27年11月9日国内公表、特表2015-532533〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)9月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年10月5日、2013年3月15日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成27年 6月 4日 :翻訳文提出 平成29年 8月 2日付け:拒絶理由通知書 同 年11月 6日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 4月 6日付け:拒絶査定 同 年 8月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 平成30年8月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年8月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「電気部品(100)を製造する方法(200)であって、 基板(104)を提供する工程(202)と、 前記基板上に絶縁層(110)を塗布する工程(204)と、 前記絶縁層上に回路層(112)を塗布する工程(206)と、 前記絶縁層を変化させるために前記絶縁層に電子ビーム(114)を照射する工程(208)と、 前記回路層を変化させるために前記回路層に電子ビームを照射する工程(210)と を含み、 前記絶縁層(110)は結合剤を含み、 前記絶縁層に電子ビーム(114)を照射する工程(208)中において、前記結合剤が気化又は分解により実質的に完全に除去されることを特徴とする方法。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成29年11月6日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「電気部品(100)を製造する方法(200)であって、 基板(104)を提供する工程(202)と、 前記基板上に絶縁層(110)を塗布する工程(204)と、 前記絶縁層上に回路層(112)を塗布する工程(206)と、 前記絶縁層を変化させるために前記絶縁層に電子ビーム(114)を照射する工程(208)と、 前記回路層を変化させるために前記回路層に電子ビームを照射する工程(210)と を含み、 前記絶縁層(110)は結合剤を含み、 前記照射工程(208)中において、前記結合剤が気化又は分解により実質的に完全に除去されることを特徴とする方法。」 2.補正の適否 上記補正は、補正前の請求項1の「前記照射工程(208)」に関してなされた補正である。 ここで、本件補正前の請求項1の「前記照射工程」に該当する箇所として、以下の2箇所の記載がなされていた。 ア.「前記絶縁層を変化させるために前記絶縁層に電子ビーム(114)を照射する工程」 イ.「前記回路層を変化させるために前記回路層に電子ビームを照射する工程」 また、本件補正前の「前記照射工程(208)」を特定する記載として、「前記照射工程(208)中において、前記結合剤が気化又は分解により実質的に完全に除去される」と特定する記載があり、当該記載中にある「前記結合剤」に対応する記載として、直前に「前記絶縁層(110)は結合剤を含み」の記載がある。 そうすると、本件補正前の「前記照射工程(208)」が指す工程とは、上記アの絶縁層を変化するために行う照射工程のみを指し、上記イの回路層を変化させるために行う照射工程を指すものでないことが自ずと明らかである。 よって、本件補正は、補正前に明りょうでない記載とはいえない特許請求の範囲の記載に対してする補正と認められるから、不明りょうな記載の釈明を目的とする補正であるとは認められず、加えてこの補正により拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに当たらないことが明らかであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号を目的とするものではない。 また、本件補正は、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とする補正とも認められないので、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれを目的とするものでもないことが明らかである。 3.本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成30年8月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年11月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2.原査定における拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1、3-10に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献5に記載された発明及び引用文献6に記載された事項並びに引用文献8-9に記載の周知の技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、 及び この出願の請求項2に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献5に記載された発明及び引用文献6ないし7に記載された事項並びに引用文献8-9に記載の周知の技術的事項、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、 というものである。 引用文献5:特開平5-110219号公報 引用文献6:特開2005-32946号公報 引用文献7:特開昭63-107093号公報 引用文献8:特開昭60-250686号公報 引用文献9:特開平1-194492号公報 3.引用文献の記載及び引用発明 (1) 引用文献5の記載及び引用発明 引用文献5には、以下の事項が記載されている。(下線は当審にて付加した。以下同様。) ア 「【0013】 【実施例】実施例1.以下、請求項1の発明の一実施例を図について説明する。図1において、1は炭素繊維強化アルミニウム合金を用いた基板、2は基板1の一方の面に通常のスクリーン印刷法により塗布し焼成したガラスの絶縁膜、3は絶縁膜2上に同じく通常のスクリーン印刷法により印刷・焼成して形成した金属膜から成る導電膜パターンである。」 イ 「【0018】この様な構造の印刷配線基板上に信号制御回路を形成した。信号制御回路は、シリコン半導体素子,チップコンデンサ,チップ抵抗より構成される。シリコン半導体素子は、実装密度を高めるために、ベアーチップを用い、金ワイヤでパターンと接合を行った。」 ウ 「【0024】スルホール導体部3aの形成方法は、炭素繊維強化アルミニウム合金から成る基板1にあらかじめドリルなどの機械加工によりスルホール4を設ける。次に通常のスクリーン印刷により、基板1の片面、及びスルホール4の内面にガラスペーストを塗布・焼成する。残りの片面についても同様の手段によりガラスペーストを塗布・焼成して、両面及びスルホール4の内面に絶縁膜2,2aを設ける。絶縁膜2,2aの形成後、絶縁膜形成と同様の方法により金厚膜ペーストを塗布・焼成し、両面導電膜パターン3とスルホール導体部3aとを形成する。」 したがって、引用文献5には、以下の発明が記載されている。(以下「引用発明」という。) <引用発明> 「印刷配線基板上に信号制御回路を形成する方法であって、 炭素繊維強化アルミニウム合金を用いた基板1を準備し、 基板1の一方の面にガラスペーストを塗布して焼成し、ガラスの絶縁膜2を形成し、 絶縁膜2上に金厚膜ペーストを塗布して焼成し、導電膜パターン3を形成して、 前記印刷配線基板を作成することを含む方法。」 (2)引用文献6の記載 引用文献6には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0029】 以下、図1に基づいて説明する。 図1に示すように、基板(101)上に下地層(102)が設けられ、その上に所望のパターン形状に形成されたゾルゲル膜(103)が設けられている。このように所望のパターンにゾルゲル膜を形成する技術については後に説明する(図2参照)。 【0030】 この所望のパターンのゾルゲル膜(103)によって形成された凹部(ゾルゲル膜がない部分)に集積した微粒子(104)に対して、模式的に矢印で示したエネルギービーム(105)が一筆書きの要領で、微粒子(104)を狙ってスキャンしている様子を示している。このようにエネルギーを照射することによって配線部材(106)が形成される。 【0031】 すなわち、エネルギービームを照射された微粒子(104)は、その照射されたエネルギーを吸収して温度が上昇する。単位時間に与えるエネルギー量を制御することにより、微粒子(104)を融点近くにまで温度上昇させることができ、容易に微粒子(104)同士が融着し、一体となって配線部材を得ることができる。 【0032】 図1においては、エネルギービーム(105)を模式的に矢印で示し、それをスキャンするような説明をしたが、必ずしもこのような形態をとる必要はない。つまりスキャンするエネルギービームは必ずしも一筆書きの要領である必要はなく、基板全体を覆うようにスキャンしても本発明の効果は問題なく得られるものである。 【0033】 ここで、本発明においては、所望のパターンに配列した微粒子(102)に与えるエネルギーは、導電性物質からなる微粒子同士を融着させることができるエネルギーであれば、光エネルギー、レーザー光エネルギー、電子ビームエネルギー、イオンビームエネルギー、熱エネルギーのいずれであってもよい。 【0034】 また、容易に想像できるように、与えるエネルギーが光エネルギーや熱エネルギーの場合は、試料全体を加熱するようなシステムを用いることができる。」 イ 「【0048】 次に、図2(c)に示すように、ゾルゲル膜(SiO_(2)膜)(203)のパターンによって形成された全ての凹部(溝)にAu,Ag,Cu,Al、あるいはこれらの合金からなる微粒子分散液(206)をマイクロシリンジなどを用いて展開し、その後、乾燥させる。これにより、基板上の凹凸形状の凹部に微粒子が充填された状態を得ることができる。 【0049】 以上のようにして得た凹部の微粒子に図1で説明したようにエネルギーを与えて、微粒子相互を溶着して配線部材を形成する。」 (3)引用文献8の記載 引用文献8には、以下の事項が記載されている。 ア 3ページ左上欄12行?左下欄14行 「ところで、このような本発明で用いられるセラミック配線基板を形成するための電気絶縁性セラミックスは、従来と同様に、電気絶縁性ガラスと有機質結合剤(バインダー)とから主として構成されるものである。そして、そのような電気絶縁性ガラスとしては、焼結性の良好なるものが好ましく、例えば各種のけい酸塩ガラスを初めとして、それにAl_(2)O_(3)、B_(2)O_(3)、MgO、PbO、BaO、ZnO、Li_(2)O、TiO_(2)、CaO、ZrO_(2)や、その他の成分を、一種もしくは二種以上含ませたガラス、或いは熱処理によって結晶化する結晶性ガラス等を用いることができる。そのなかでも、特に好ましいものは、SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-CaO-ZnO-TiO_(2)系、SiO_(2)-MgO-BaO-B_(2)O_(3)-ZnO系、SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-PbO-CaO系、SiO_(2)-Al_(2)O_(3)-CaO-B_(2)O_(3)-MgO系、SiO_(2)-B_(2)O_(3)-PbO-CaO系等の結晶性ガラスである。なお、通常、還元性雰囲気中では、ガラスが変質することが多いが、本発明にあっては、有機質結合剤の分解に際して酸化性雰囲気が用いられるところから、電気絶縁性セラミックス中のガラスの変質を防止することができ、それ故に本発明においては、有機質結合剤の分解時の焼成雰囲気の観点から、ガラスの組成が特に限定を受けることはないのである。 また、かかる電気絶縁性セラミックスを構成する有機質結合剤としては、従来の電気絶縁性セラミックス組成物において用いられているバインダーのいずれもが使用可能であるが、一般にアクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、アクリル-メタクリル共重合系樹脂のうちの少なくとも一種を主成分とする樹脂バインダーが好適に用いられることとなる。 このように、本発明で用いられる電気絶縁性セラミックスは、上述の如き電気絶縁性ガラスと有機質結合剤から主として構成されるものであるが、更に必要に応じてアルミナ、ジルコニア、シリカ、ムライト、コージエライト等の耐火性物質のフィラーや酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化プラセオジム、酸化ビスマス等の酸化物が、単独で、或いは組み合わされて、添加、含有せしめられることとなる。」 イ 3ページ右下欄下から4行?4ページ左上欄5行 「また、かかる電気絶縁性セラミックスと共に、一体焼成せしめられ、セラミック配線基板の導体部を形成する卑金属導体ペーストは、従来と同様に、卑金属としてCu、Ni、Cr、W、Mo等の金属を主成分として含み、更に必要に応じてこれにガラス成分や適当な有機バインダー、溶媒等を配合して調製されたものである。なお、本発明にあっては、特にCu,Niが好適に用いられるものである。」 ウ 4ページ左下欄3行?右下欄10行 「より具体的には、前述した電気絶縁性セラミックスをペーストとして用い、これと卑金属導体ペーストにて通常の印刷積層法や、厚膜多層法等の手法にて所定の積層数まで印刷することにより、また該電気絶縁性セラミックスのグリーンシートに所定の卑金属導体ペーストを印刷し、そしてそれらを必要に応じて積層、熱圧着せしめることにより、目的とするセラミック配線基板の未焼成板を製造するに際して、かかる卑金属導体ペースト中に前記特定の有機物質を混入せしめるか、或いはかかる卑金属導体ペーストにて形成された配線パターンを少なくとも含むように、その上に該有機物質が塗布されることとなるのである。 次いで、このようにして得られた所定の有機物質で保護された卑金属導体の印刷配線パターンを有するセラミック配線基板未焼成体には、先ず、その電気絶縁性セラミックス層中に存在する有機質結合剤を分解、除去するために、その分解温度(卑金属導体の印刷配線パターンを保護する有機物質の分解温度よりも低い温度)に酸化性雰囲気中において加熱せしめる処理が施されることとなる。 この酸化性雰囲気中の加熱によって、電気絶縁性セラミックス層には、雰囲気からの酸素の供給が行われることにより、その中に存在する有機質結合剤の分解にて生じるカーボンの効果的な除去がなされ得るのであり」 (4)引用文献9の記載 引用文献9には、以下の事項が記載されている。 ア 2ページ左上欄12?19行 「すなわち、ガラス粉末に少なくとも結合剤、溶剤を混合してスラリー化した後ガラスグリーンシートを形成し、該ガラスグリーンシートを所定形状に成形し、ついで酸化皮膜を形成した金属あるいはセラミック等の基板上に載置し、前記ガラスグリーンシート中の結合剤等の有機成分を加熱により除去するとともに仮焼することによりグレーズすることを特徴とする。」 イ 2ページ右上欄15行?左下欄3行 「(実施例) 以下本発明の好適な実施例を詳細に説明する。 まず、作業温度500℃以下の低融点ガラス粉末、350℃以下の温度で熱分解し、揮散しやすいアクリル系樹脂から成る結合剤、ジブチルフタレート等の可塑剤、分散剤、アセトン等の溶剤を粉砕・混合して得られたスラリーをドクターブレード法により所定の厚さに成形することにより、低融点のガラスグリーンシートを得る。」 ウ 2ページ左下欄下から3行?右下欄1行 「そして、ガラスグリーンシート12が接着された基板を大気中において150?350℃の温度で約1時間加熱し、結合剤、可塑剤等の有機成分を除去するとともに」 4.対比 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 引用発明の「印刷回路基板上」に「形成」された「信号制御回路」は、本願発明の「電子部品」に相当するから、引用発明の「印刷配線基板上に信号制御回路を形成する方法」は、本願発明の「電気部品(100)を製造する方法(200)」に相当する。 引用発明の「基板1を準備」することは、本願発明の「基板(104)を提供する工程(202)」に相当する。 引用発明の「ガラスペースト」は、ガラスが絶縁体でありかつ一般的にペーストが結合剤を含んでいることが明らかである。他方本件明細書の【0027】に、「絶縁層」の組成は結合剤を含んだインク/ペーストであるとの記載がなされているところからみて、「絶縁層」の形態がペーストを含んでいることが理解できる。 そうすると、引用発明の「ガラスペースト」は、本願発明の「結合剤」を「含」んだ「絶縁層(110)」に相当するから、引用発明の「基板1の一方の面にガラスペーストを塗布」することは、本願発明の「前記基板上に絶縁層(110)を塗布する工程(204)」に相当する。 引用発明の「ガラスペースト」を「焼成し、ガラスの絶縁膜2を形成」することは、ガラスペーストを「ガラスの絶縁膜2」へ変化させる処理を意味する。他方本願発明の「絶縁層」の「変化」とは、本件明細書の【0015】の記載によると、「凝固」であり、「絶縁層の組成を変化」させる「分離」または「気化」であり、具体的に変化によりできあがる絶縁層は「ガラス又はセラミック」としている。 そうすると、引用発明の「ガラスペーストを」「焼成し、ガラスの絶縁膜2を形成」することは、本願発明の「前記絶縁層を変化させるために」「する工程(208)」に相当する。ただし、本願発明が「電子ビームを照射する」のに対して、引用発明はその旨の特定がされてない点で相違する。 引用発明の「金厚膜ペースト」は、焼成により変化し導電膜パターン3になるから、本願発明の「回路層(112)」に相当するため、引用発明の「絶縁膜2上に金厚膜ペーストを塗布」することは、本願発明の「前記絶縁層上に回路層(112)を塗布する工程(206)」に相当する。 上記と同様に、引用発明の「金厚膜ペーストを」「焼成し、導電膜パターン3を形成」することは、本願発明の「前記回路層を変化させるために」する「工程」に相当し、本願発明が「電子ビームを照射する」のに対して、引用発明はその旨の特定がされてない点で相違する。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「電気部品を製造する方法であって、 基板を提供する工程と、 前記基板上に絶縁層を塗布する工程と、 前記絶縁層上に回路層を塗布する工程と、 前記絶縁層を変化させるためにする工程と、 前記回路層を変化させるためにする工程と を含む方法」の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1 「絶縁層」及び「回路層」を「変化させるために」する工程が、本願発明では「電子ビームを照射する」ことで行っているのに対して、引用発明はその旨の特定がされていない点。 相違点2 本願発明の「結合剤」を含むとされた「絶縁層」に「電子ビームを照射する」照射工程は、「前記結合剤が気化又は分解により実質的に完全に除去される」のに対して、引用発明の「ガラスペースト」を「焼成」して「絶縁膜2」とすることにその旨の特定がされていない点。 5.判断 上記相違点について、判断する。 (相違点1について) 本件出願の優先日前の時点における当業者の認識として、「焼成」を行う手法として、電子ビームを含む光エネルギーの照射も、焼成の具体的な手法であると一般的に認識されている(要すれば、特開2010-192841号の【0023】を参照頂きたい。焼成の方法として、焼成炉、プラズマ、加熱触媒、紫外線、真空紫外線、電子線、赤外線ランプアニール等々の列挙がある。)。 そうすると、引用発明には単に「焼成」とのみされていても、当業者であれば焼成の具体手法として電子ビームによる照射を選択することに殊更困難性はないから、当該相違点1は、当業者が引用発明及び技術常識に基づいて、容易に想到し得たものと認められる。 (相違点2について) 上記(相違点1について)で説示したとおり、引用発明においても電子ビームの照射を選択することは容易になし得た事項であり、その結果引用発明のガラスペーストは、ガラスの絶縁膜2となることも示されている。 その際、ガラスペースト中に含まれる結合剤がどのようになるかについては、同じく上記3.(4)及び(5)として引用文献8及び9に別途記載されているとおり、結合剤が分解、除去されることが当業者に周知の事項であることが明らかである。また、分解、除去の程度について、本願発明では「実質的に完全に」との特定がなされているが、これは結合剤が必ずしも完全に除去されることを要するのではなく、微量の結合剤の残存があったとしても完全に分解、除去されたに等しいということを指すのであり、引用文献8、9で単に分解、効果的な除去((3)ア及びウ、(4)ア及びウ)とされているものと程度が異なるものではないといえる。 してみると、当該相違点2に係る相違は、引用発明でも当然生じている事項であるというべきであり、引用発明と本願発明との間に実質的な相違は無い。 以上総合すると、上記相違点1及び2は、相違点1が引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易想到であり、相違点2が周知の技術的事項に鑑みれば実質的な相違を形成するものではないとされるから、本願発明は、引用発明及び引用文献文献8ないし9に記載の周知の技術的事項並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に発明できたものと認められる。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-08-26 |
結審通知日 | 2019-08-27 |
審決日 | 2019-09-09 |
出願番号 | 特願2015-535690(P2015-535690) |
審決分類 |
P
1
8・
574-
Z
(H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石坂 博明 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 西村 泰英 |
発明の名称 | 電気部品並びに電気部品を製造する方法及びシステム |
代理人 | タイコエレクトロニクスジャパン合同会社 |
代理人 | タイコエレクトロニクスジャパン合同会社 |