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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G06K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1359170
審判番号 不服2018-12958  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-28 
確定日 2020-02-17 
事件の表示 特願2016-501373「缶コンポーネント上のマトリックスバーコード」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日国際公開、WO2014/150647、平成28年 7月 7日国内公表、特表2016-519804、請求項の数(35)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2014年3月12日(パリ条約による優先権主張2013年3月15日(以下,「優先日」という。),米国)を国際出願日とする出願であって,平成27年11月16日付けで特許法第184条の4第1項の規定による明細書,請求の範囲,及び,図面(図面の中の説明に限る。)の日本語による翻訳文が提出され,平成30年1月19日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年5月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ,平成30年5月23日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成30年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和1年6月18日付けで当審より拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,令和1年9月24日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成30年5月23日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし42に係る発明は,以下の引用文献1ないし4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-020701号公報
2.国際公開第2012/028611号
3.特開2000-222516号公報
4.特開2013-030185号公報


第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由通知における拒絶理由の概要は次のとおりである。

1.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.(進歩性)この出願の請求項1ないし40に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
A.特開2011-020701号公報(原査定時の引用文献1)
B.特開2005-310048号公報
C.国際公開第2012/028611号(原査定時の引用文献2)
D.特開2000-222516号公報(原査定時の引用文献3)
E.社団法人自動認識システム協会,これでわかった2次元シンボル,株式会社オーム社,2004年2月20日,第1版,p73-82


第4 本願発明

本願請求項1ないし35に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明35」などという。)は,令和1年9月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし35に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
マトリックスバーコードが形成された缶コンポーネントであって、前記マトリックスバーコードは、前記缶コンポーネントのパネル領域上のコーティング内の貫通穴として形成される、滞留時間55ミリ秒内でレーザー成形されたドットで構成され、ハンドヘルド型無線通信装置によって読み取り可能であり、前記マトリックスバーコードは、反転バーコードであり、前記コーティングが暗く、前記ドットが前記コーティングよりも明るい色の表面へのコーティング内の貫通穴であり、前記マトリックスバーコードの外側の前記コーティングは、少なくとも2モジュール分の幅と同じ幅、を有する無地の境界を含むクワイエットスペースを形成し、前記レーザー成形されたドットの各々は、前記マトリックスバーコードの対応するモジュール内に位置するとともに、隣接するレーザー成形されたドットが重なり合うように前記対応するモジュールサイズの100%?150%である、ことを特徴とする缶コンポーネント。
【請求項2】
前記缶コンポーネントは、ノーズと、ユーザの指に接触するのに適したヒールと、前記ノーズと前記ヒールとの間に延びる本体とを有するステイオンプルタブであり、前記本体は、リベットと、コーティングを含むパネルとを受け入れるための表面を有し、前記マトリックスバーコードは、前記タブ上に形成される、
請求項1に記載の缶コンポーネント。
【請求項3】
前記缶コンポーネントは、缶端部パネルである、
請求項1に記載の缶コンポーネント。
【請求項4】
前記レーザー成形されるドットの各々は、対応するモジュールサイズの105%?120%である、
請求項1に記載の缶コンポーネント。
【請求項5】
最大ドットサイズは、対応するモジュールサイズの2の平方根倍以下である、
請求項1に記載の缶コンポーネント。
【請求項6】
前記表面は、明るい下地コーティング、クリアな下地コーティング、又は地金を含む、
請求項1に記載の缶コンポーネント。
【請求項7】
前記マトリックスバーコードは、前記プルタブの上側に形成される、
請求項2に記載の缶コンポーネント。
【請求項8】
前記マトリックスバーコードは、前記プルタブの下側に形成される、
請求項2に記載の缶コンポーネント。
【請求項9】
前記マトリックスバーコードは、6mm×6mm以下のサイズを有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の缶コンポーネント。
【請求項10】
前記マトリックスバーコードは、少なくとも2mm×2mmのサイズを有する、
請求項4に記載の缶コンポーネント。
【請求項11】
前記マトリックスバーコードは、少なくとも3mm×3mmのサイズを有する、
請求項1に記載の缶コンポーネント。
【請求項12】
前記マトリックスバーコードは、4mm×4mm以上5mm×5mm以下のサイズを有する、
請求項1に記載の缶コンポーネント。
【請求項13】
複数のレーザー成形されたドットは、前記マトリックスバーコードの1つのモジュール内に位置する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の缶コンポーネント。
【請求項14】
前記複数のレーザー成形されたドットは、4つのドットである、
請求項13に記載の缶コンポーネント。
【請求項15】
前記複数のレーザー成形されたドットは、正方形の隅部に中心を有する4つのドットと、中心の第5のドットとを含む5つのドットである、
請求項13に記載の缶コンポーネント。
【請求項16】
前記レーザー成形されたドットは、各ドットの面積の50パーセント未満が互いに重なり合う、
請求項13に記載の缶コンポーネント。
【請求項17】
缶コンポーネントにマーキングを施す方法であって、レーザーを適用して、前記缶コンポーネントの金属基板のパネル領域上に滞留時間55ミリ秒内でドットを作成する適用ステップを含み、前記パネル領域は、コーティングを含み、前記適用ステップは、レーザーを適用して前記コーティング内に貫通穴を形成するステップを含み、前記ドットは、ハンドヘルド型無線通信装置によって読み取り可能なマトリックスバーコードを形成し、前記マトリックスバーコードは、反転バーコードであり、前記コーティングが暗く、前記ドットが前記コーティングよりも明るい色の表面へのコーティング内の貫通穴であり、前記マトリックスバーコードの外側の前記コーティングは、少なくとも2モジュール分の幅と同じ幅、を有する無地の境界を含むクワイエットスペースを形成し、前記レーザー成形されたドットの各々は、前記マトリックスバーコードの対応するモジュール内に位置するととに、隣接するレーザー成形されたドットが重なり合うように前記対応するモジュールサイズの100%?150%である、
ことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記パネル領域は、ステイオンプルタブであり、前記適用ステップは、前記プルタブの頂面及び下面の一方に前記マトリックスバーコードを形成するステップを含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記パネル領域は、缶端部パネルである、
請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記パネル領域は、タブストックの所定の部分であり、前記適用ステップは、前記タブストックにマーキングを施すステップを含む、
請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記適用ステップは、前記パネル領域が移動している間に該パネル領域にマーキングを施すステップを含む、
請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記適用ステップは、前記パネル領域が滞留時間中に静止している間に該パネル領域にマーキングを施すステップを含む、
請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記パネルは、複数のコーティング層を含み、前記適用ステップは、下層を露出させるように前記層の少なくとも1つを貫く貫通穴を形成するステップを含む、
請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記適用ステップは、前記金属を露出させるように貫通穴を形成するステップを含む、
請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記レーザー成形されるドットの各々は、対応するモジュールサイズの105%?120%である、
請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
最大ドットサイズは、対応するモジュールサイズの2の平方根倍以下である、
請求項17に記載の方法。
【請求項27】
前記マトリックスバーコードは反転バーコードであり、前記コーティングは暗く、前記ドットは、明るい又はクリアな下地コーティング又は地金への前記コーティング内の貫通穴である、
請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記適用ステップは、前記プルタブの上側に前記マトリックスバーコードを形成するステップを含む、
請求項18に記載の方法。
【請求項29】
前記適用ステップは、前記プルタブの下側に前記マトリックスバーコードを形成するステップを含む、
請求項18に記載の方法。
【請求項30】
前記マトリックスバーコードは、6mm×6mm以下のサイズを有する、
請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記マトリックスバーコードは、少なくとも2mm×2mm以下のサイズを有する、、
請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
複数のレーザー成形されたドットは、前記マトリックスバーコードの1つのモジュール内に位置する、
請求項17から19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記複数のレーザー成形されたドットは、4つのドットである、
請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記複数のレーザー成形されたドットは、正方形の隅部に中心を有する4つのドットと、中心の第5のドットとを含む5つのドットである、
請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記レーザー成形されたドットは、各ドットの面積の50パーセント未満が互いに重なり合う、
請求項32に記載の方法。」


第5 引用文献,引用発明等

1 引用文献1について

原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され,当審拒絶理由通知にも引用された特開2011-020701号公報には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同様。)

A 「【0038】
物(請求項1と請求項4)としての課題。
1)二次元コードが商品の未購入者に不正読み取りされないことが必要とされている。
2)購入者でも、缶飲料の飲用の後しか評価ができないシステムが必要とされている。
3)なので、表示される二次元コードを、飲用のタイミングに合わせて隠蔽と開示を自在にしたい。
4)1つの二次元コードを使って、経費を少なく色々な販売促進企画を実施したい。
5)プルタブは省資源、省エネ、リサイクル性能などに配慮した環境負荷の少ないものが必要とされている。
・・・(中略)・・・
【課題を解決するための手段】
・・・(中略)・・・
【0044】
更に「物」についての発明は、
二次元コードが商品の未購入者に不正読み取りされないことに加えて、隠蔽された「内部識別番号」と「管理コード表示部」を設け「外部識別番号」を表示し、「外部識別番号」と隠蔽された「二次元コードの識別番号」の同意性(表現形態は異なるが、内容が意味するものに同一性のある表現であること。例えばA=B。)を保証できるようにし、二次元コードをシールで隠蔽と開示を出来るようにした。
その構成は
飲料缶のプルタブであって、
缶蓋と前記プルタブとの間の位置に略平面状の部材である印字場を備え、
該印字場には絵柄や文字等が印字されているプルタブであって、
前記印字場はプルタブと固定され若しくは一体成形を成し、
前記絵柄や文字等がレーザマーカで印字され、
前記プルタブには管理コード表示部があり、
前記絵柄や文字等がシールで隠蔽と開示が自在にできるようにしたことを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。これらはいずれも従来技術では不可能なことであった。
【0047】
「物」としての発明においては、プルタブの裏に二次元コードを表示するようにし、印字場はプルタブと固定され若しくは一体成形を成し、二次元コードがレーザマーカで印字され、二次元コードがシールで隠蔽と開示が自在にでき、プルタブには管理コード表示部があるようにした。
その効果は
1)不正利用防止に有効である。
2)開缶後でなければ読み取れない。
3)飲用後に読み取る操作になるように構成ができている。
4)飲用後に読み取る様にした構成は人間の行動形式に合致している。
5)二次元コードを飲用のタイミングに合わせて隠蔽と開示を自在にできる。
6)上記のようになるように構成したら、省資源、省エネ、リサイクル性能が向上した。
7)時間差を持った複数の販売促進企画を1つの二次元コードで実行できる。この仕組みにより、より複雑で販促効果の高い企画をローコストで実施できるようになった。
8)管理コード印字部の設置の結果、物品の単品管理が可能となった。」

B 「【0059】
図1は、開口部が開かれ、缶蓋上面と対向した位置のプルタブ裏の印字場に二次元コードが印字され、携帯端末に読み取れる角度までプルタブが引起された飲料缶の斜視図である。
【0060】
図1の符号1は印字場を、符号2は二次元コードを、符号4はプルタブ本体を、符号7は開口部を、符号8はリベットを、符号9は缶蓋本体を、符号10は缶胴を、符号808は缶容器をそれぞれ示している。
【0061】
図1、印字場はプルタブに固定され若しくは一体成型されており、プルタブを引き起こして開缶操作を行った場合にのみ、印字場に印字された二次元コードの全体像が露出し読取り可能となる事を示す。
【0062】
携帯端末5及びレーザマーカ3は図示しない。
【0063】
請求項1。プルタブの「物」としての詳細説明。
【0064】
図1のようなプルタブは概略次のように製造される。
【0065】
図13-1?5はプルタブと印字場と二次元コードが固定され若しくは一体成形されながら製造され、完成されていく工程の概略を示す。
【0066】
図13-1で、まず、長尺板金素材50上に二次元コードの印字区画を計算して、加えて塗装区画を確定させることを示す。
【0067】
印字区画とは二次元コードを印字する位置。
【0068】
塗装区画とは、携帯端末の二次元コード認識率向上のために、二次元コードを印字する位置を含めた区画を、予め黒色に塗装した区画を言う。塗装区画と印字区画の中心点は同じである。塗装する色は黒色に限定しない、レーザマーカで印字した時にコントラストが大きく表現され、携帯端末が二次元コードとして認識し、読み取れれば他の色でも構わない。概して濃い色はこの目的に適う。」

C 「【0216】
図16の符号60は板金素材、符号61は黒色塗料、符号62は白色塗料である。
【0217】
レーザマーカは照射するエネルギーを調整できる。照射する単位時間当たりのエネルギー量で照射された相手の物質は変性(変質や変化)の程度が異なる。
【0218】
金属より短時間で変性させやすい塗料を、板金素材に塗布し、乾燥を待ってレーザマーカで塗装表面上に二次元コードを印字した。
【0219】
ここで、板金素材60に塗布した塗料を剥ぐ深さを調整することが出来る。
【0220】
第一次印字テストは、板金素材60に直接照射したことになる。
【0221】
図16は、第二次印字テストで、板金素材60の上に黒色塗料61を塗り乾燥させ、印字実験をした事を意味する。
【0222】
塗装の厚さを調整し、黒を剥ぐ。レーザ光が一部板金素材を剥ぐ。板金素材が白色なら、黒色塗料を剥ぐ方が早く印字できるはずである。」

D 「【0407】
携帯端末5はインターネット806を介してサーバコンピュータ803と相互に接続されているコンピュータ端末である。又、携帯端末5は、二次元コードを読取る手段を備えており、二次元コード2を読取り、エンコードされているデータをデコードして取出し、デコード結果のデータに基づいてサーバコンピュータ803への接続を行う手段を有する。」

E 上記Bの「缶蓋上面と対向した位置のプルタブ裏の印字場に二次元コードが印字され、携帯端末に読み取れる角度までプルタブが引起された飲料缶」との記載,及び,上記Cの「レーザマーカで塗装表面上に二次元コードを印字した。」との記載から,引用文献1に記載の「飲料缶のプルタブ」において,“缶蓋上面と対向した位置のプルタブ裏の印字場に,二次元コードがレーザマーカで印字され”ていることが読み取れる。
また,上記Bの「塗装区画とは、携帯端末の二次元コード認識率向上のために、二次元コードを印字する位置を含めた区画を、予め黒色に塗装した区画を言う。」との記載、及び、上記Cの「金属より短時間で変性させやすい塗料を、板金素材に塗布し、乾燥を待ってレーザマーカで塗装表面上に二次元コードを印字した。」,及び,「レーザ光が一部板金素材を剥ぐ。板金素材が白色なら、黒色塗料を剥ぐ方が早く印字できるはずである。」との記載から,引用文献1に記載の「飲料缶のプルタブ」において,“前記二次元コードは,当該二次元コードを印字する位置を含めた塗装区画において,白色の板金素材に黒色塗料を塗り,レーザマーカで黒色塗料を剥ぐことによって印字され”ることが記載されている。

以上,上記AないしEの記載及び検討から,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「飲料缶のプルタブであって,
缶蓋上面と対向した位置のプルタブ裏の印字場に,二次元コードがレーザマーカで印字され,
前記二次元コードは,当該二次元コードを印字する位置を含めた塗装区画において,白色の板金素材に黒色塗料を塗り,レーザマーカで黒色塗料を剥ぐことによって印字され,
前記二次元コードは,携帯端末によって読み取られる,
プルタブ。」

2 引用文献2について

原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され,当審拒絶理由通知にも引用された国際公開第2012/028611号の16頁8行?19行,図5a及び図5bには,マトリックスバーコードの各モジュールを1つのみのドットで形成するとの事項が記載されている。

3 引用文献3について

原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され,当審拒絶理由通知にも引用された特開2000-222516号公報には,図面とともに次の事項が記載されている。

F 「【0018】またユーザーが決定したセル2の大きさ、素材の種類に応じて形成される円形ドット5の加工直径とから、1セル内に配置される円形ドットの数が決まる。1セルの幅(セル幅)がレーザー加工される円形ドット5の加工直径の整数倍であるとき、例えば図7に示すように1個のセルに円形ドット5が縦横に2個ずつ丁度入る場合には、縦横2個ずつ合計の4個の円形ドット5で1セルが形成されることになる。」

4 引用文献4について

原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された特開2013-30185号公報には,図面とともに次の事項が記載されている。

G 「【0353】
本実施形態の発明によれば、より多くのデータを記録でき、かつ矩形領域の正確な特定を可能とする二次元コードを良好に生成できる。特に、矩形領域において暗色セルの比率のほうが多い場合に、明色セルと暗色セルとを反転した反転コードを生成しているため、同一のデータ内容の二次元コードを、暗色セルを抑えて生成することができる。これにより、暗色セルを形成する時間や処理の削減を図ることができる。例えば、ダイレクトマーキングにより二次元コードを形成する場合には、ドットピンやレーザ光などで暗色セルを形成する時間や処理を削減することができる。」

5 引用文献Bについて

当審拒絶理由通知に引用文献Bとして引用された特開2005-310048号公報には,図面とともに次の事項が記載されている。

H 「【0002】
従来、レーザマーキングにより2次元コードを形成する場合には、2次元コードのコードシンボルを構成する黒いセルと白いセルのうち、黒いセルの部分(コード色の部分)にレーザ光を照射し、白いセルの部分(背景色の部分)にはレーザ光を照射しないことによって素材の表面にマーキングパターンを形成していた。
このようにレーザ光を照射すると、レーザ光が照射された部分が発色し、レーザ光が照射されなかった部分は素材の地肌色が残され、発色した部分と地肌色が残された部分とが明暗のコントラストを有する。このようにして、発色した色のセルと地肌色のセルとから構成される明暗模様のマーキングパターンにより、2次元コードが形成されていた。
【0003】
また、従来、レーザマーキングされた2次元コードを読み取る場合には、発色した色のセルと地肌色のセルとによって構成される明暗のコントラストのパターンを、CCDカメラやレーザスキャンなどを用いて画像データとして取り込むことにより、読取装置に認識させていた。
【0004】
このような2次元コードの形成方法では、レーザ光が照射された部分が、照射されなかった部分の色、すなわち素材の地肌色よりも暗い色の発色を呈する場合には、原画像の2次元コードのコードシンボルにおいて暗色のセルとされた部分が、素材の表面に形成されたマーキングパターンにおいても暗模様となる。
つまり、図8(B)に示すように、レーザ光が照射された部分、すなわちマーキングによる刻印部が暗模様となる素材では、図9(A)に示すようにコード部分が暗模様となった原画像どおりの2次元コードが形成される。
【0005】
一方、マーキングされる素材によっては、レーザ光を照射した部分が、素材の地肌色よりも明るい色の発色を呈する場合がある。例えば、アルミニウム素材にレーザマーキングすると、レーザ光が照射された部分が白く発色して明模様を呈する。一般に、ガラスなどの透明素材、金属、樹脂、布、セラミック、シリコンなどの素材では、マーキングされた部位が明色の発色を呈する。
つまり、図8(C)に示すように、刻印部が明模様となる素材では、図9(B)に示すようにコード部分が明模様となった原画像の明暗反転画像、すなわち反転2次元コードが形成される。」

6 引用文献Eについて

当審拒絶理由通知に引用文献Eとして引用された『社団法人自動認識システム協会,これでわかった2次元シンボル,株式会社オーム社,2004年2月20日,第1版,p73-82』には,図とともに次の事項が記載されている。

J 「[4]クワイエットゾーン 実際のシンボル読取りにあたって必要とされる余白スペースである。このクワイエットゾーンにより、シンボルの境界が検出しやすくなる。なお、QRコードの場合は、4セル以上必要とする。」(第80頁5行?7行)


第6 対比・判断

1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「二次元コード」「黒色塗料」「携帯端末」は,それぞれ本願発明1の「マトリックスバーコード」「コーティング」「ハンドヘルド型無線通信装置」に相当する。また,本願発明1の「缶コンポーネント」とは,本願明細書の段落【0009】「レーザーマーキングによる、端部、タブ及びコイルなどの缶コンポーネントの高速、高解像度装飾処理を提供する。この処理の結果として得られる缶端部及びプルタブも提供する。」との記載も踏まえると,「タブ」(プルタブ)を含むことから,引用発明の「プルタブ」は,本願発明1の「缶コンポーネント」に相当する。

イ 上記アより,引用発明の「二次元コード」が「印字され」た「プルタブ」が本願発明1の「マトリックスバーコードが形成された缶コンポーネント」に相当する。

ウ 引用発明の「印字場」は,二次元コードが印字される領域であるから,本願発明1における「マトリックスバーコード」が形成される「パネル領域」に相当する。

エ 引用発明において,「二次元コード」は,「当該二次元コードを印字する位置を含めた塗装区画において,白色の板金素材に黒色塗料を塗り,レーザマーカで黒色塗料を剥ぐことによって印字され」るところ,「レーザマーカで黒色塗料を剥ぐ」ことによって形成される形状は,引用文献1の図16及び図16についての説明の記載である「【図16】は、板金素材の上に、1層の黒色塗装をしたものをレーザマーカで照射した概念図。」(【0453】)からみて,「黒色塗料(コーティング)」内の“貫通穴”として形成されているといえ,また,「レーザマーカで黒色塗料を剥ぐ」ことは,「レーザー成形によって構成され」ているといえるから,上記ア及びウの検討も踏まえると,引用発明と本願発明1とは,“マトリックスバーコードは,缶コンポーネントのパネル領域上のコーティング内のレーザー成形された貫通穴で構成され”ている点で共通する。

オ 引用発明の二次元コードは,「携帯端末によって読み取られる」ものであるから,本願発明1のマトリックスバーコードとは,「ハンドヘルド型無線通信装置によって読み取り可能であ」る点で一致する。

カ 本願明細書に「ドットは、パネル上のコーティング内の貫通穴によって作成することができる。マトリックスバーコードは反転バーコードであり、コーティングは暗く、ドットは、明るい又はクリアな下地コーティング又は地金までの、コーティング内の貫通穴であることが好ましい。」(【0011】)との記載,及び,本願のファミリー出願(国際公開第2014/150647号)には,段落0010に「 Preferably, the matrix barcode is an inverse barcode such that the coatingis dark such that the dots are through holes in the coating to a light or clearundercoating or bare metal.」(当審訳:好ましくは,マトリックスバーコードは,コーティングが暗く,ドットは,明るいまたは透明な下地コーティングまたは地金までのコーティング内の貫通穴であるような反転バーコードである。)との記載があり,これらの記載によれば,黒色の材料にレーザを照射して,レーザ照射部分が白色となるような場合に形成されるコード,のことを反転コードと呼んでいるものと認められる。
そうすると,引用発明の「レーザマーカで黒色塗料を剥ぐことによって印字され」る「二次元コード」は,二次元コードの黒に相当する領域にレーザを照射することで,当該領域の黒色塗料が剥がされて板金素材が露出するので,読み取り時には,当該領域が白く見え,逆に,二次元コードの白に相当する領域は,読み取り時には,黒色塗料によって黒く見えるようなコードであって,通常のバーコードからみると白と黒が反転した二次元コードが形成されているといえるから,引用発明の「二次元コードを印字する位置を含めた塗装区画において,白色の板金素材に黒色塗料を塗り,レーザマーカで黒色塗料を剥ぐことによって印字され」る「二次元コード」が本願発明1の「反転バーコード」に相当するといえる。
してみれば,引用発明と本願発明1とは,「マトリックスバーコードは,反転バーコードであ」る点で一致する。

キ 引用発明では,「二次元コードを印字する位置を含めた塗装区画において,白色の板金素材に黒色塗料を塗」っているものであるから,黒色塗料である「コーティング」は,白色の板金素材に比べれば,相対的に「暗い」ものといえる。
また,引用発明において,「レーザマーカで黒色塗料を剥ぐことによって」形成される“貫通穴”は,黒色塗料が剥がされて,相対的に「明るい」白色の板金素材への貫通穴であるから,“コーティングよりも明るい色の表面へのコーティング内の貫通穴であ”るということができる。
してみれば,引用発明と本願発明1とは,「コーティングが暗く,貫通穴が前記コーティングよりも明るい色の表面へのコーティング内の貫通穴であ」る点で共通する。

ク 上記ア?キの検討から,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「マトリックスバーコードが形成された缶コンポーネントであって,前記マトリックスバーコードは,前記缶コンポーネントのパネル領域上のコーティング内のレーザー成形された貫通穴で構成され,ハンドヘルド型無線通信装置によって読み取り可能であり,前記マトリックスバーコードは,反転バーコードであり,前記コーティングが暗く,前記貫通穴が前記コーティングよりも明るい色の表面へのコーティング内の貫通穴である,
ことを特徴とする缶コンポーネント。」

(相違点1)
本願発明1では,マトリックスバーコードを構成する「貫通穴」が,「滞留時間55ミリ秒内でレーザー成形されたドット」で構成されているのに対して,
引用発明では,マトリックスバーコードを構成する「貫通穴」が,滞留時間55ミリ秒内でレーザー成形されたドット」で構成されていることは特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1では,「マトリックスバーコードの外側の前記コーティングは、少なくとも2モジュール分の幅と同じ幅、を有する無地の境界を含むクワイエットスペースを形成」するのに対して,
引用発明は,そのような構成を有することが特定されていない点。

(相違点3)
本願発明1では,「レーザー成形されたドットの各々は、前記マトリックスバーコードの対応するモジュール内に位置するとともに、隣接するレーザー成形されたドットが重なり合うように前記対応するモジュールサイズの100%?150%である」のに対して,
引用発明は,そのような構成を有することが特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,上記相違点3について先に検討する。

上記相違点3に係る構成である「レーザー成形されたドットの各々は、前記マトリックスバーコードの対応するモジュール内に位置するとともに、隣接するレーザー成形されたドットが重なり合うように前記対応するモジュールサイズの100%?150%である」との点については,引用文献2ないし4,B,Eには記載されておらず,また,本願優先日前において周知技術であるともいえない。
そうすると,引用発明に基づいて,相違点3に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって,本願発明1は,他の相違点を検討するまでもなく,当業者であっても引用発明,引用文献2ないし4,B,Eに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし35について
本願発明17は,本願発明1とカテゴリーが異なるだけであり,また,本願発明2ないし16,18ないし35は,本願発明1または17を更に限定したものであるので,本願発明1と同様の理由により,引用発明,引用文献2ないし4,B,Eに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第7 原査定についての判断

1.特許法第29条第2項について

令和1年9月24日付けの手続補正により,補正後の請求項1ないし35は,「レーザー成形されたドットの各々は、前記マトリックスバーコードの対応するモジュール内に位置するとともに、隣接するレーザー成形されたドットが重なり合うように前記対応するモジュールサイズの100%?150%である」という技術的事項を有するものとなった。そして,上記第6の1(2)でも示したとおり,相違点3に相当する上記技術的事項については,引用文献2ないし4には記載されておらず,また,本願優先日前において周知技術であるともいえないから,本願発明1ないし35は,当業者であっても,原査定における引用文献1ないし4に記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって,原査定の理由を維持することはできない。


第8 当審拒絶理由について

1.特許法第36条第6項第2号について

令和1年9月24日付けの手続補正によって,当審拒絶理由通知におけるこの拒絶の理由は解消した。

2.特許法第29条第2項について

上記第6の1.(2)で検討のとおり,令和1年9月24日付けの手続補正により,本願請求項1に係る発明は,相違点3に係る構成を有することとなり,そして,相違点3に相当する上記技術的事項については,引用文献2ないし4,B,Eには記載されておらず,また,本願優先日前において周知技術であるともいえないから,この拒絶の理由は解消した。本願請求項2ないし35に係る発明についても同様である。


第9 むすび

以上のとおり,本願発明1ないし35は,当業者が引用発明及び引用文献2ないし4に記載の技術事項に基づいて容易に発明することができたものではない。
したがって,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-01-31 
出願番号 特願2016-501373(P2016-501373)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06K)
P 1 8・ 121- WY (G06K)
P 1 8・ 113- WY (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 仲間 晃
松平 英
発明の名称 缶コンポーネント上のマトリックスバーコード  
代理人 松下 満  
代理人 山本 泰史  
代理人 弟子丸 健  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 鈴木 博子  

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