• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1359183
審判番号 不服2018-7370  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-30 
確定日 2020-01-22 
事件の表示 特願2016-121077「色覚異常者のために公共交通の路線情報を提供する方法とシステム、および記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月12日出願公開、特開2017- 10029〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

平成28年 6月17日 特許出願(パリ条約による優先権主張2015年6月18日(以下,「優先日」という。),大韓民国)
平成29年 6月 5日 拒絶理由通知(同年6月13日発送)
平成29年 8月28日 意見書・手続補正書
平成30年 1月23日 拒絶査定(同年1月30日送達)
平成30年 5月30日 本件審判請求・手続補正書
平成30年11月27日 上申書

第2 平成30年5月30日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成30年5月30日付け手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正について

平成30年5月30日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により,本件補正前の請求項1は,
「コンピュータによって実現される公共交通路線情報提供方法であって,
ユーザ端末から,公共交通路線図を提供する路線図サービスに対するユーザ命令を受信するステップ,
前記ユーザ命令の受信に応答し,少なくとも一部区間の公共交通路線図が含まれるサービス画面を前記ユーザ端末に表示するステップ,
を含み,
前記サービス画面では,前記公共交通路線図に含まれる複数の路線が互いに異なる色で表示され,前記公共交通路線図に,(1)前記公共交通路線図に含まれる複数の路線を互いに異なる方向性の曲線で表示する曲線適用方式,および(2)前記公共交通路線図に含まれる少なくとも1つの路線に外郭線を表示する外郭線適用方式のうち少なくとも一つの方式が適用され,かつ(3)路線に含まれる少なくとも1つの地点に地理的特性を示すシンボルを表示するシンボル表示方式がさらに適用される,
公共交通路線情報提供方法。」から,
「コンピュータによって実現される公共交通路線情報提供方法であって,
ユーザ端末から,公共交通路線図を提供する路線図サービスに対するユーザ命令を受信するステップ,
前記ユーザ命令の受信に応答し,少なくとも一部区間の公共交通路線図が含まれるサービス画面を前記ユーザ端末に表示するステップ,
を含み,
前記サービス画面では,前記公共交通路線図に含まれる複数の路線が互いに異なる色で表示され,前記公共交通路線図に,(1)前記公共交通路線図に含まれる複数の路線を互いに異なる方向性の曲線で表示する曲線適用方式,および(2)前記公共交通路線図に含まれる少なくとも1つの路線に外郭線を表示する外郭線適用方式のうち少なくとも一つの方式が適用され,かつ(3)路線に含まれる少なくとも1つの地点に,地域で利用が可能な交通手段とは区別される地域の名所と関連するシンボルを表示するシンボル表示方式がさらに適用される,
公共交通路線情報提供方法。」に補正された。 (下線は,補正箇所を明示するために当審において付した。)

したがって,この補正は,シンボルに関して,「地理的特性を示すシンボル」を「地域で利用が可能な交通手段とは区別される地域の名所と関連するシンボル」に限定するものである。

以上のことから,この補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって,請求項1に係る本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号を目的とするものであって,特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について,以下検討する。

2 補正の適否

(1)本件補正後の本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,本件補正後の明細書,特許請求の範囲,及び図面の記載からみて,その請求項1に記載された以下のものと認める。

「コンピュータによって実現される公共交通路線情報提供方法であって,
ユーザ端末から,公共交通路線図を提供する路線図サービスに対するユーザ命令を受信するステップ,
前記ユーザ命令の受信に応答し,少なくとも一部区間の公共交通路線図が含まれるサービス画面を前記ユーザ端末に表示するステップ,
を含み,
前記サービス画面では,前記公共交通路線図に含まれる複数の路線が互いに異なる色で表示され,前記公共交通路線図に,(1)前記公共交通路線図に含まれる複数の路線を互いに異なる方向性の曲線で表示する曲線適用方式,および(2)前記公共交通路線図に含まれる少なくとも1つの路線に外郭線を表示する外郭線適用方式のうち少なくとも一つの方式が適用され,かつ(3)路線に含まれる少なくとも1つの地点に,地域で利用が可能な交通手段とは区別される地域の名所と関連するシンボルを表示するシンボル表示方式がさらに適用される,
公共交通路線情報提供方法。」

(2)引用発明
(2-1)引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,
地下鉄路線図,色覚色弱のバージョンのリリース(4/9),ネイバーマップ公式ブログ,[online],2015年4月9日,インターネット<URL:http://blog.naver.com/naver_map/220325668005>(以下「引用文献」という。)には,以下の事項が記載されている。

<記載事項1>

(当審訳:以下同様。)
「地下鉄路線図,色覚色弱のバージョンのリリース(4/9)

こんにちはネイバーマップサービスです。

去る1月ネイバーは,公共性を念頭に置き,地域ネットワークと実際の地形の相対的な反映を考慮した地下鉄路線図を公表しました。

そして二番目の取組として,一般人のみならず色を識別するのが難しい,少数のユーザーのために色覚色弱障害者バージョンの新しい地下鉄路線図を提供して差し上げることになりました。

PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示!」(下線部は,認定根拠を強調するために,当審において付した。以下同様。)

<記載事項2>

「2.地下鉄路線図の色は?
次に,現在の地下鉄路線図の色の区分は正しいでしょうか?
一般人の色覚では首都圏の地下鉄路線図は,全体のルートを含む19路線が,それぞれ違う色で表現されていますが,色覚色弱障害者にとって,その区分が曖昧だといいます。」
・・・

「特に,乗り換え区間が集まっており,似たような色の路線が交差している際,路線間の区分が困難であるという大きな問題がありました。
色覚異常者の方々のほとんどが色が混乱するときは,順序や位置,本人に見える微妙な色の違いを暗記して,実生活していました。」

<記載事項3>

「3.色覚色弱サポートされている地下鉄路線図
このような問題点を解決するために,様々な研究事例を分析し,実際に面接を行い,地下鉄路線図の使用形態およびパターンを分析したんです。
その結果,本質的なデザインを改善する部分を4箇所取り上げました。

1) 全ての路線を方向性がある曲線と直線を組み合わせて再構成しました。
2) 類似色と中途半端な明度と彩度を調節して,色の衝突を避けるようにしました。
3) 外郭線を適用し,路線が交差する時に,路線の区分ができるようにしました。
4) 乗換駅情報を表示しました。」

<記載事項4>

「色弱バージョンのリリース前に,色覚障害者の方々を対象に意見を確認してみると・・・
’既存の路線図より区分も優れて見やすくなった,直感的に理解することができる,乗換駅に数字があり,よく区別することができる,見分けがつかない路線がなくなった。’
などの反応がありました。特に,地下鉄路線の情報探索時間も従来比52パーセント以上短縮される結果が出ました。」

<記載事項5>

上記図面の楕円で囲った部分(楕円図形は,注目箇所を強調するために,当審において付した。)には,乗換駅において,2つの路線が異なる方向性の曲線で表示されているものが図示されている。


<記載事項6>

上記図面には,乗換駅において,数字1と数字4とを結ぶ方向性を有する路線と,数字2と数字5とを結ぶ方向性を有する路線と,数字3と数字6とを結ぶ方向性を有する路線(数字1ないし6は注目箇所を強調するために,当審において付した。)という,3つの路線が互いに異なる方向性の曲線もしくは直線で表示されていることと,乗換駅情報を表示(乗換駅に対する「9」,「3」,「7」の表示)することとを併用したものが図示されている。

また,ネイバーマップサービスは,インターネット検索ポータルサイトであるネイバーが,インターネットを通じて地図を提供するサービスであるから,記載事項1には,ネイバーマップサービスが,インターネットを通じて,地下鉄路線図の色覚色弱バージョンを提供することが記載されていると認められる。
また,インターネットのブラウザによって引用文献を表示するブラウザ画面において,文字列「PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示!」をクリックすると,PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示する画面が立ち上がるものとなっており,引用文献には,ネイバーマップサービスによるPC地下鉄路線図色弱者バーションを提供する方法が開示されていると認められる。

(2-2)
したがって,引用文献には,以下の発明が記載されていると認められる。
「ネイバーマップサービスが,インターネットを通じてPC地下鉄路線図色弱者バーションを提供する方法であって,
ブラウザ画面内の文字列『PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示!』をクリックすると,PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示する画面が立ち上がるものであって,
PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示する画面では,全体の路線がそれぞれ違う色で表現されており,色覚色弱サポートされている地下鉄路線図の本質的なデザインを改善する部分として,
1) 全ての路線を方向性がある曲線と直線を組み合わせて再構成すること,
2) 類似色と中途半端な明度と彩度を調節して,色の衝突を避けるようにすること,
3) 外郭線を適用し,路線が交差する時に,路線の区分ができるようにすること,
4) 乗換駅情報を表示すること,
の四箇所が取り上げられており,乗換駅において,複数の路線を互いに異なる方向性の曲線もしくは直線で表示することと,と乗換駅情報を表示することとが併用されている
方法。」(以下,「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを比較する。

(3-1)
引用発明において,「インターネットを通じて」行うことは,本願補正発明の「コンピュータによって実現される」ことに相当し,以下同様に,「地下鉄路線図」は「公共交通路線図」に相当する。
よって,引用発明の「インターネットを通じてPC地下鉄路線図色弱者バーションを提供する方法」は,本願補正発明の「コンピュータによって実現される公共交通路線情報提供方法」に相当する。

(3-2)
引用発明は,「ブラウザ画面内の文字列『PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示!』をクリックすると,PC地下鉄路線図色弱者バージョンを表示する画面が立ち上がる」ものであるからから,引用文献には明示されていないものの,ユーザが使用する端末において,ブラウザ画面内の文字列「PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示!」をユーザがクリックすると,クリックに応じた信号がユーザが使用する端末から,サーバーに送信され,サーバーにおける当該クリックに応じた信号の受信に応じて,サーバーからPC地下鉄路線図色弱者バージョンを表示する画面がユーザが使用する端末へ送られ,PC地下鉄路線図色弱者バージョンを表示する画面が,ユーザが使用する端末へ表示されるものと認められる。
そして,引用発明の,ユーザが使用する端末は,本願補正発明の「ユーザ端末」に相当し,以下同様に,引用発明の,クリックに応じた信号は,本願補正発明の「公共交通路線図を提供する路線図サービスに対するユーザ命令」に,引用発明の,クリックに応じた信号がユーザが使用する端末から,サーバーに送信されることは,本願補正発明の「ユーザ命令を受信する」ことに,引用発明の,サーバーにおける当該クリックに応じた信号の受信に応じることは,本願補正発明の「前記ユーザ命令の受信に応答」することに,引用発明の「PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示する画面」は,本願補正発明の「少なくとも一部区間の公共交通路線図が含まれるサービス画面」に相当する。
よって,引用発明の「ブラウザ画面内の文字列『PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示!』をクリックすると,PC地下鉄路線図色弱者バージョンを表示する画面が立ち上がる」ことは,ユーザが使用する端末において,ブラウザ画面内の文字列「PC地下鉄路線図色弱者バーションを表示!」をユーザがクリックしたことに応じて,クリックに応じた信号がユーザが使用する端末に入力されて,サーバーに当該クリックに応じた信号が送信され,サーバーにおける当該クリックに応じた信号の受信に応じて,サーバーからPC地下鉄路線図色弱者バージョンを表示する画面がユーザが使用する端末へ送られ,PC地下鉄路線図色弱者バージョンを表示する画面が,ユーザが使用する端末へ表示されるものであることから,本願補正発明の「ユーザ端末から,公共交通路線図を提供する路線図サービスに対するユーザ命令を受信するステップ,前記ユーザ命令の受信に応答し,少なくとも一部区間の公共交通路線図が含まれるサービス画面を前記ユーザ端末に表示するステップ,を含む」ことに相当する。

(3-3)
引用発明の「PC地下鉄路線図色弱者バーションの路線図を表示する画面では,全体の路線がそれぞれ違う色で表現されている」ことは,本願補正発明の「前記サービス画面では,前記公共交通路線図に含まれる複数の路線が互いに異なる色で表示されている」ことに相当する。

(3-4)
引用発明において,「全ての路線を方向性がある曲線と直線を組み合わせて再構成すること」が行われているから,「全ての路線」の各路線は,部分的に,直線部分(線分)を含むものの,全体として見れば,一つの「曲線」を構成しているものである。そして,引用発明では,「乗換駅において,複数の路線を互いに異なる方向性の曲線もしくは直線で表示する」ものであるから,乗換駅で部分的に直線で表示される部分があったとしても,つまるところ,引用発明は,「複数の路線を互いに異なる方向性の曲線で表示する」ものといえる。
よって,引用発明の「複数の路線を互いに異なる方向性の曲線もしくは直線で表示する」ことは,本願補正発明の「前記公共交通路線図に含まれる複数の路線を互いに異なる方向性の曲線で表示する」ことに相当する。

(3-5)
引用発明の「外郭線を適用し,路線が交差する時に,路線の区分ができるようにする」ことは,本願補正発明の「前記公共交通路線図に含まれる少なくとも1つの路線に外郭線を表示する」ことに相当する。
また,引用発明の「乗換駅情報を表示すること」と,本願補正発明の「路線に含まれる少なくとも1つの地点に,地域で利用が可能な交通手段とは区別される地域の名所と関連するシンボルを表示する」こととは共に,「路線に含まれる少なくとも1つの地点に,付加的な情報を表示する」ことである点に限り,一致する。

(3-6)
(3-4)及び(3-5)をまとめると,引用発明の「乗換駅において,複数の路線を互いに異なる方向性の曲線もしくは直線で表示することと,と乗換駅情報を表示することとが併用されている」ことと,本願補正発明の「(1)前記公共交通路線図に含まれる複数の路線を互いに異なる方向性の曲線で表示する曲線適用方式,および(2)前記公共交通路線図に含まれる少なくとも1つの路線に外郭線を表示する外郭線適用方式のうち少なくとも一つの方式が適用され,かつ(3)路線に含まれる少なくとも1つの地点に,地域で利用が可能な交通手段とは区別される地域の名所と関連するシンボルを表示するシンボル表示方式がさらに適用される」こととは,「(1)前記公共交通路線図に含まれる複数の路線を互いに異なる方向性の曲線で表示する曲線適用方式,および(2)前記公共交通路線図に含まれる少なくとも1つの路線に外郭線を表示する外郭線適用方式のうち少なくとも(1)の方式が適用され,かつ(3)路線に含まれる少なくとも1つの地点に,付加的な情報を表示する方式がさらに適用される」ことである点で一致する。

(3-6)
したがって,本願補正発明と引用発明の両者は,
「コンピュータによって実現される公共交通路線情報提供方法であって,
ユーザ端末から,公共交通路線図を提供する路線図サービスに対するユーザ命令を受信するステップ,
前記ユーザ命令の受信に応答し,少なくとも一部区間の公共交通路線図が含まれるサービス画面を前記ユーザ端末に表示するステップ,
を含み,
前記サービス画面では,前記公共交通路線図に含まれる複数の路線が互いに異なる色で表示され,前記公共交通路線図に,(1)前記公共交通路線図に含まれる複数の路線を互いに異なる方向性の曲線で表示する曲線適用方式,および(2)前記公共交通路線図に含まれる少なくとも1つの路線に外郭線を表示する外郭線適用方式のうち少なくとも一つの方式が適用され,かつ(3)路線に含まれる少なくとも1つの地点に,付加的な情報を表示する方式がさらに適用される,
公共交通路線情報提供方法。」の点で一致し,以下の点で相違する。

<相違点1>
路線に含まれる少なくとも1つの地点に,付加的な情報を表示する方式に関し,本願補正発明は「路線に含まれる少なくとも1つの地点に,地域で利用が可能な交通手段とは区別される地域の名所と関連するシンボルを表示するシンボル表示方式」であるのに対し,引用発明ではそのような方式ではない点。

(4)判断

上記相違点1について検討する。

「路線図」の技術分野において,路線図内の少なくとも一つの地点に,地域の名所と関連するシンボルを表示することは,
例えば,本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,
石野亜耶,広電沿線観光情報提示システムの構築,インタラクティブ情報アクセスと可視化マイニング キックオフ・イベント&第一回研究会研究発表予稿集,[online],日本,人工知能学会,2012年 4月15日,P.20-23(以下,「周知文献1」という。)の,第20ページ右欄第7行?第12行に「図2は,広電沿線観光情報提示システムの画面である。広電の電停および主要な観光名所が描かれている。図2の路線図の一部をクリックすると,拡大路線図を表示することができる。図3は,図2の紙屋町エリア(図中1)をクリックした際の拡大路線図である。」と記載され,図3に,原爆ドーム,平和祈念公園,広島城のシンボルが,原爆ドーム前駅と共に,路線の対応する箇所に図示されているように,また,本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,
羽田空港国際線ターミナル駅の路線図がイカス!!,おきらく娯楽工房,[online],2010年11月 2日,インターネット<URL:http://okiraku-goraku.com/2010/11/post-642.php>(以下,「周知文献2」という。)に,「路線図内に都心部の名所が記載されています。工事中から名所になっている東京スカイツリーのほか,東京ディズニーリゾート,浅草寺,レインボーブリッジ,東京タワーといった,京急線が直通している都営浅草線周辺施設に特化しているところが面白いところでしょうか。」と記載され,京急線と東京モノレールの表記を示す写真-2に,浜松町駅に近接してレインボーブリッジのシンボルが図示され,写真-3に,押上駅に近接して東京スカイツリーのシンボルが図示されているように,周知技術(以下,「周知技術1」という。)である。

よって,引用発明において,路線図の把握を容易にするために,路線図内に含まれる少なくとも1つの地点に,付加的な情報を表示しているところ,周知技術1を適用して,路線図内の少なくとも一つの地点に,地域の名所と関連するシンボルを表示することにより,相違点1に関して本願補正発明の発明特定事項の如く構成することは,当業者が容易になし得たことである。

そして,本願補正発明によってもたらされる効果に関し,路線周辺の名所が路線の対応する箇所に表示されることによって,路線の把握が容易となることは,周知文献1,2に例示される周知技術1から,当業者が予測可能なものに過ぎない。

請求人は,平成30年11月27日付け上申書において,「一方,引用文献2には,川や城,鳥居などの形状及び色彩を具体的に表した図像がカラー表示されることが示されています。しかしながら,本願発明1は,『色覚異常者のために公共交通の路線を提供する公共交通路線情報提供方法を提供すること』を課題の一つとしており,したがって,カラー表示された図像を表示しても,本願の課題である,『色覚異常者の情報視認性を向上させた公共交通路線図の提供』を解決することはできません。むしろ,本願図9に示されるように,よりシンプルな模式的図形を表示することで,本願の効果が得られます。」と主張している。
しかしながら,本願補正発明は,上記(1)に記載したとおりであって,発明特定事項内に,「色覚異常者」にのみ作用する特有の構成は認められないから,請求人の主張は,請求項の記載に基づくものではない。
そして,本願明細書の【0008】に「本発明は,路線図の情報視認性を改善するための公共交通路線情報提供方法とシステム,および記録媒体を提供することを目的の一つとする。」と記載され,【0012】ないし【0013】に「本発明の一実施形態によると,色覚異常者はもちろん,様々なユーザの情報視認性を向上させた公共交通路線図を提供することができる。
本発明の一実施形態によると,公共交通の路線図のデザイン要素を調整したり追加したりすることによって色覚異常者の不便を解決することができる上に,一般ユーザの情報認知効果も向上させることができる。」と記載されているように,本願補正発明の解決しようとする課題は,色覚異常者のみならず,一般ユーザに対する情報視認性を改善することでもあるから,請求人の主張は,本願明細書の記載に基づいたものでもなく,採用の限りではない。
また,そもそも,周知文献2の写真-2及び写真-3には,白黒の画像であって,模式化されたレインボーブリッジ,東京スカイツリーが図示されているから,「シンプルな模式的図形を表示することで,本願の効果が得られる」との効果は,依然として,周知文献2から当業者に予測可能なものに過ぎない。

以上のとおり,本願補正発明は,引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって,本願補正発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび

以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号を目的とするものであって,同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから,同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

(1)本願発明
平成30年5月30日付け手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成29年8月28日付けの手続補正後の明細書,特許請求の範囲,及び図面の記載からみて,その請求項1に記載された以下のものと認める。
「コンピュータによって実現される公共交通路線情報提供方法であって,
ユーザ端末から,公共交通路線図を提供する路線図サービスに対するユーザ命令を受信するステップ,
前記ユーザ命令の受信に応答し,少なくとも一部区間の公共交通路線図が含まれるサービス画面を前記ユーザ端末に表示するステップ,
を含み,
前記サービス画面では,前記公共交通路線図に含まれる複数の路線が互いに異なる色で表示され,前記公共交通路線図に,(1)前記公共交通路線図に含まれる複数の路線を互いに異なる方向性の曲線で表示する曲線適用方式,および(2)前記公共交通路線図に含まれる少なくとも1つの路線に外郭線を表示する外郭線適用方式のうち少なくとも一つの方式が適用され,かつ(3)路線に含まれる少なくとも1つの地点に地理的特性を示すシンボルを表示するシンボル表示方式がさらに適用される,
公共交通路線情報提供方法。」

(2)引用文献

引用文献に記載された引用発明は,前記「2 (2-2)」に記載されたとおりである。

(3)対比

本願発明は,前記「2」で検討した本願補正発明から,シンボルに関して,「地域で利用が可能な交通手段とは区別される地域の名所と関連するシンボル」との発明特定事項に代えて,「地理的特性を示すシンボル」との発明特定事項により特定するものである。
そうすると,本願発明と引用発明とを比較すると,両者は以下の相違点で相違し,その余の点で一致する。

<相違点2>
路線に付加的な情報を表示する方式に関し,本願発明は「路線に含まれる少なくとも1つの地点に地理的特性を示すシンボルを表示するシンボル表示方式」であるのに対し,引用発明ではそのような方式ではない点。

(4)判断

上記相違点2について検討する。

「路線図」の技術分野において,路線図内の少なくとも一つの地点に,他の公共交通機関が利用可能であるとの地理的特性を示すシンボルを表示することは,原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,
新しくなった地下鉄路線図を満たす!(1/29)),ネイバーマップ公式ブログ,[online],2015年4月9日,インターネット<URL:http://blog.naver.com/naver_map/220255929169>(以下,「周知文献3」という。)の「2.モバイル環境を考慮した路線図」欄に,

「*交通ランドマークを追加で便利に! 列車やバス,航空などの他の公共交通機関の利用が可能な駅は列車(KTX),バス,飛行機などの交通ランドマークを追加して明確に認識するようにしました。」と記載されているように,周知技術(以下,「周知技術2」という。)である。

よって,引用発明において,路線図の把握を容易にするために,路線に含まれる少なくとも1つの地点に,付加的な情報を表示しているところ,周知技術2を適用して,路線図内の少なくとも一つの地点に,他の公共交通機関が利用可能であるとの地理的特性を示すシンボルを表示することにより,相違点2に関して本願発明の発明特定事項の如く構成することは,当業者が容易になし得たことである。
そして,路線図の情報認知効果が向上するとの本願発明の効果は,周知文献3に例示される周知技術2から,当業者が予測可能なものに過ぎない。

なお,請求人は,平成29年8月28日付け意見書において,「しかしながら引用文献3では,列車やバスなどの他の公共交通機関の利用が可能であるということを知らせるためのシンボルが記載されているにすぎず,例えば本願の図10に示された,公共交通機関以外の地理的特性を示す種々のシンボルを表示するという特徴は開示されていません。」と主張している。
しかしながら,本願発明のシンボルにかかる特定事項は「地理的特性を示すシンボル」との記載であるから,「公共交通機関以外の地理的特性を示す種々のシンボルを表示する」との主張は,請求項の記載に基づくものではない。
また,本願明細書の記載を参酌しても,段落【0090】に「一例として,図9に示すように,本実施形態に係る路線図では,路線901および路線902に含まれる少なくとも一部の地点に,この地域の名所と関連するシンボル900を表記してもよい。ここで,シンボル900は,該当の地点と隣接する路線901,902の外側の位置に表記してもよいし,該当の地点に対応する路線901,902上に表記してもよい。路線図に追加されるシンボルとしては,図10の表のように,地理的特性や代表的な名所などを示すシンボルを適用してもよいが,これらに限定されることはなく,路線を区分して認知することをサポートするすべての記号を包括して意味してもよい。」と記載されている一方で,図10には,シンボルの説明として,バスターミナル,電車駅,空港が,タワー,城門,美術館/博物館,国会と共に列記されている。
よって,本願明細書において,地理的特性には,バスターミナル,電車駅,空港なども該当すると解すべきものである。少なくとも,本願明細書において,地理的特性の対象として,バスターミナル,電車駅,空港は除外されているものではない。
したがって,請求人の主張は,本願明細書の記載に基づくものでもないから,請求人の主張は,採用できない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-08-26 
結審通知日 2019-08-27 
審決日 2019-09-10 
出願番号 特願2016-121077(P2016-121077)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古川 直樹比嘉 翔一  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 塚本 丈二
後藤 亮治
発明の名称 色覚異常者のために公共交通の路線情報を提供する方法とシステム、および記録媒体  
代理人 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ