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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N |
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管理番号 | 1359197 |
審判番号 | 不服2018-17134 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-12-25 |
確定日 | 2020-01-23 |
事件の表示 | 特願2015-116359「腐食センサおよび腐食量の測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月 5日出願公開、特開2017- 3376〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年6月9日に出願された特願2015-116359号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成29年10月25日付け:拒絶理由通知書 平成29年12月15日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 3月28日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書 平成30年 5月16日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 9月20日付け:平成30年 5月16日の手続補正について の補正の却下の決定、拒絶査定 平成30年12月25日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 元年 8月30日付け:拒絶理由通知書 令和 元年10月24日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書 による手続補正を「本件補正」という。)の 提出 第2 本願発明 本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「 【請求項1】 腐食環境に曝露される断面矩形の導電体からなるセンサ部、および、前記腐食環境から遮断される導電体からなる参照部を備え、 前記センサ部および前記参照部を構成する前記導電体の形状は、蛇行形状であり、 前記センサ部は、両側面が絶縁部材で覆われ、上面は露出しており、 前記センサ部と前記参照部とが絶縁体を介して積層され、 前記センサ部の下面が前記絶縁体で覆われる、腐食センサ。」 第3 拒絶の理由 令和元年8月30日の当審が通知した拒絶理由のうちの理由3は、次のとおりのものである。 本願の請求項1?5に係る発明(平成30年12月25日の手続補正によって補正されたもの)は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2007-292747号公報 引用文献2:実願平1-32592号(実開平2-124541号)のマイクロフィルム 引用文献3:T.Prosek、外2名、「Materials and Corrosion」、2014年5月、第65巻、第5号、p.448-456 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1について (1)引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。 (引1ア) 「【0007】 本発明では、上記の従来技術の問題点を鑑み、瞬間的な腐食速度ではなく、蓄積された腐食量の変化を測定するための腐食量検出器、腐食量測定センサ、腐食量測定装置、及び腐食量測定方法を提供することを目的とする。 さらには、測定された結果を簡便に読み取るために、非接触で測定センサの情報を必要なときにとりだし、管理がしやすい測定センサとその測定装置、ならびに測定方法を提供することを目的とする。 ・・・ 【発明の効果】 【0025】 本発明を用いることにより、長期間蓄積された腐食量を測定することができる。更には、非接触でも構造物の腐食量を測定でき、補修や保全などの管理に役立てることができる。 また、本発明の腐食量測定装置と腐食量測定方法は、電源設備のない屋外環境や特殊環境においても簡便に、かつ非接触で腐食量を測定することが可能となる。 また、本発明の腐食量測定センサは、電池の交換や電源配置を行わないため、長期間、特別な管理をせずに測定を行うことができ、構造物の維持・管理を容易にするものである。」 (引1イ) 「【0027】 図1にその構成を示す。1は腐食センサエレメントであり、2が電気抵抗を測定する電気抵抗測定回路で3aが本発明の腐食量検出器である。腐食センサエレメント1は、電気的絶縁部材で被覆された面と外部に露出された面とからなり腐食進行により電気抵抗値が変化する金属導電部材を有する。この金属導電部材には腐食すると体積や形状が変化し、抵抗値が増加する金属を適宜加工して用いる。 【0028】 そしてこの金属導電部材の抵抗値の増加割合を、リード線19を介して電気抵抗測定回路2で測定することにより腐食量を定量化する。電気抵抗測定回路2は、電流計、及び電圧計を内臓しており、腐食センサエレメントの電気抵抗を測定する。また、電気抵抗測定回路2には、駆動用電力を得るため、一定の電圧を印加する電源(例えば電池)を内蔵する場合と、外部から駆動用電力を取り込む場合がある。 【0029】 電源を内蔵する場合は、腐食量検出器3a単独で腐食量を検出できる。一方、外部から駆動用電力を取り込む場合は、電源装置一式が構造物と非接触でも構造物の腐食量を測定でき、補修や保全などの管理に役立てることができる。 【0030】 次に、本発明の腐食量測定センサ3bについて説明する。以下は外部から駆動用電力を取り込むケースの例である。図2に示すように、腐食量測定センサ3bは、腐食センサエレメント1と電気抵抗測定回路2b(電源なし)からなる腐食量検出器3aと、外部のアクティベータ6から駆動電力を非接触で取り込む送受信アンテナ4と、前記電気抵抗値を送信用データに変換し、送受信用アンテナ4を経由して前記外部のアクティベータ6に非接触で送信する通信回路5とを備え、腐食量を定量化できることを特徴とする。なお、本発明において、電気抵抗測定回路2の駆動用電力を得るために、腐食量測定センサ3bの電源(例えば電池)を内蔵する場合もあるが、かかる場合は、送受信アンテナ4の代わりに、送信専用のアンテナを用いることができる。」 (引1ウ) 「【0041】 図3では、金属導電部材11として、円柱状のものを示したが、形状としては、角柱状のものや渦巻状のもの塊状のものであっても、腐食の進行により抵抗値が変化するものであれば、問題はない。」 (引1エ) 「【0045】 また、外部に露出している面9が接する腐食媒体としては、特に規定するものではなく、本センサにより測定したい環境で適宜選らばれる。たとえば、大気中が一般的であるが、海水中や河川などの淡水中、水道水や冷却水などの各種循環水中、また、腐食性のガス中でも使用可能である。」 (引1オ) 「【0072】 (実施例4) JIS G 3101:SS400鋼の50mm長さ×2mm幅×2mm厚みの鋼片を表面より切削加工し、厚を0.05mm、0.1mm、0.15mm、と0.05mmづつ厚みを変化させた短冊状の鋼片を10個作製した。この鋼片の両端に銅のより線を半田づけし、その後、常温硬化型のエポキシ樹脂中に図5(a)及び図5(b)に示すような形態で埋め込み、腐食センサエレメントを構成した。これを測定回路と通信回路および送受信アンテナをつないで作製した回路に接続し、腐食量測定センサを作製した。この腐食量センサをJIS-Z2371に既定される塩水噴霧試験機に設置し、1日1回、吉川アールエフシステム社製のハンディリーダライタ(RX2100)をアクティベータとして抵抗値を測定した。 【0073】 表1の9から17に腐食センサエレメントの鋼片の板厚と抵抗値が1kΩを超えたときの日数を示した。0.05mmで7日なのに対し、0.1mmでは15日、0.15mmでは20日、0.2mmでは29日、0.25mmでは40日、0.3mmでは47日、0.35mmでは60日、0.4mmでは70日と板厚の増加の順に時間が長くなっており、腐食量が1kΩを超えるまでの日数で確認できることが分かる。また、0.45mm以上の板厚の金属導電材では90日を越えても1kΩに達していないので、試験はこの時点で終了させた。以上のように腐食量変化が抵抗値で時間変化として精度良く測定できていることが分かる。」 (引1カ) 「【0076】 このように、それぞれにおいて、本腐食量センサが精度良く腐食量を測定できることを示している。 (実施例6) 長さ4m、高さ2.5m、幅1mの橋梁のモデル試験体を製作して、屋外に設置した。この試験体の4箇所に、実施例4で示した腐食センサエレメントを設置し、これらを塩ビ被覆した銅線で、測定回路と通信回路および送受信アンテナをつないで作製した回路に接続し、腐食量測定センサを作製した。4個の腐食センサエレメントにはそれぞれ異なる8桁の16進数の識別番号を付け、吉川アールエフシステム社製のハンディリーダライタ(RX2100)と測定用のPCをバッテリーで駆動するように改造したアクティベータを作製し、これにより月1回抵抗値を測定した。 【0077】 4つの腐食センサエレメントの内、雨ざらしにある位置のセンサエレメントと軒天のセンサエレメントの1番目の抵抗値が6ヵ月後に1kΩの超える値となった。その他のセンサエレメントは1年間の測定で変化がなかった。」 (引1キ) 「【図面の簡単な説明】 【0080】 ・・・ 【図2】腐食量測定センサ、及び腐食量測定装置の構成例図である。 ・・・ 【図5】(a)第2の実施形態に係る腐食センサエレメントの断面図である。(b)第2の実施形態に係る腐食センサエレメントの正面図である。・・・ 【符号の説明】 【0081】 1 腐食センサエレメント 2 電気抵抗測定回路 2b 電気抵抗測定回路(電源なし) 3a 腐食量検出器 3b 腐食量測定センサ 4 送受信アンテナ 5 通信回路 6 アクティベータ 7 送受信アンテナ 8 送受信回路 ・・・ 17 金属導電部材 18 表面からの深さ 19 リード線 20 金属導電部材の長さ」 (引1ク)図2 (引1ケ)図5 (2) ア (引1オ)【0072】の「SS400鋼の50mm長さ×2mm幅×2mm厚みの鋼片を表面より切削加工し、厚を0.05mm、0.1mm、0.15mm、と0.05mmづつ厚みを変化させた短冊状の鋼片」を「常温硬化型のエポキシ樹脂中に埋め込」むとの記載は、【0027】の「腐食センサエレメント1は、電気的絶縁部材で被覆された面と外部に露出された面とからなり腐食進行により電気抵抗値が変化する金属導電部材を有する。」との記載及び(引1ケ)の図5を見ると、金属導電部材17としての「SS400鋼の50mm長さ×2mm幅×2mm厚みの鋼片を表面より切削加工し、厚を0.05mm、0.1mm、0.15mm、と0.05mmづつ厚みを変化させた短冊状の鋼片」の上面を除いた全ての面を電気的絶縁部材である「常温硬化型のエポキシ樹脂中に埋め込」むであることが分かる。 イ (引1オ)【0072】の実施例4は、送受信アンテナを備えていることから、(引1イ)【0030】の「腐食量測定センサ3bの電源(例えば電池)を内蔵する場合もあるが、かかる場合は、送受信アンテナ4の代わりに、送信専用のアンテナを用いることができる」との記載を踏まえると、(引1イ)【0030】に記載の外部から駆動用電力を取り込む腐食量測定センサ3bであることが分かる。 ウ 上記ア及びイを含め上記(1)の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、同じ意味合いの語彙が複数ある場合は、語彙を統一した。以下、同様。 「電気的絶縁部材で被覆された面と、腐食媒体である大気に接する外部に露出された面とからなり腐食進行により電気抵抗値が変化する金属導電部材を有する腐食センサエレメント1と、 この金属導電部材の電気抵抗値をリード線19を介して測定する電気抵抗測定回路2b(電源なし)と、 外部のアクティベータ6から駆動電力を非接触で取り込む送受信アンテナ4と、 前記電気抵抗値を送信用データに変換し、送受信用アンテナ4を経由して前記外部のアクティベータ6に非接触で送信する通信回路5と を備え、腐食量を定量化できる腐食量測定センサ3bであって、 SS400鋼の50mm長さ×2mm幅×2mm厚みの鋼片を表面より切削加工し、厚を0.05mm、0.1mm、0.15mm、と0.05mmづつ厚みを変化させた短冊状の鋼片を金属導電部材として10個作製し、この鋼片の両端に銅のよりリード線19を半田づけし、その後、この鋼片の上面を除いた全ての面を電気的絶縁部材である常温硬化型のエポキシ樹脂中に埋め込み、腐食センサエレメント1を構成し、これを電気抵抗測定回路2bと通信回路5および送受信アンテナ4をつないで作製した回路に接続した、屋外の橋梁に設置して用いる腐食量測定センサ3b。」 2 引用文献2について (1)引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 (引2ア)第1頁第4行?第11行 「2.実用新案登録請求の範囲 オイル中に設置され、オイルの劣化をセンサ自体の抵抗値の変化によつて検出するオイルの劣化センサであつて、 センサ基板上に、オイルに接しない温度補償用抵抗体と、オイルに接する劣化検出用抵抗体とを積層状に配設したことを特徴とするオイルの劣化センサ。」 (引2イ)第2頁第18行?第4頁第5行 「〔従来の技術〕 従来の機関オイルの劣化検出装置としては、センサ表面に形成された金属抵抗体の抵抗値の変化が検知すべきオイルの劣化度合と比例関係にあるオイル劣化センサを機関の潤滑油中に没入させ、このオイル劣化センサに抵抗値検出回路、電源回路、表示回路、及び表示素子を接続したものがある(実開昭59-91408号公報)。この構成の機関オイルの劣化検出装置では、オイルの劣化に伴って生ずる酸性物質によりオイル劣化センサ表面の金属抵抗体が腐食し、その電気抵抗が所定値以上に増大するか、或いは断線したことを検出してオイルの劣化を検出している。 ところが、従来のオイル劣化センサは、センサ表面に形成された金属抵抗体の初期の抵抗値と、現在の抵抗値の差、即ち、当該オイル劣化センサの抵抗値変化からオイルの劣化の程度を検出しているが、オイル劣化センサを形成する金属抵抗体は、その抵抗値が雰囲気温度で変化する。つまり、抵抗体が有する温度係数により、基準温度(常温)における抵抗値に比べて、ある温度における抵抗値が大きくなったり、小さくなったりする。このため、車両用内燃機関に充填されたオイルのように、当該車両の走行状態、とりわけ機関の回転数によってオイルの温度が大きく変化するような場合には、オイルの劣化を抵抗体の抵抗値変化だけで検出することは困難である。」 (引2ウ)第5頁第18行?第6頁第4行 「本考案の目的は前記従来のオイルの劣化検出装置の有する問題点を解消し、センサの構成が簡素でコンパクトであり、検出精度が高い上に、このセンサに接続するオイル劣化検出装置のコストも安くすることができるオイルの劣化センサを提供することにある。」 (引2エ)第7頁第9行?第11頁第9行 「〔実施例〕 以下添付図面を用いて本考案の実施例を詳細に説明する。 第1図は本考案のオイルの劣化センサの一実施例の構成を示す分解斜視図である。図において、1はセンサ基板としてのセラミック基板、2は温度補償用抵抗体、3は絶縁層、4は劣化検出用抵抗体である。 セラミック基板1としては96%アルミナ基板等を使用すれば良い。また、温度補償用抵抗体2及び劣化検出用抵抗体4は、温度補償用抵抗体2をオイルの劣化により影響されない基準抵抗として使用する時には同じ金属成分を用いて同じ初期抵抗値を持つように構成することにより、オイルの温度変化による抵抗値の変化率が同じになるようにすることが望ましく、温度補償用抵抗体2をプルアップ抵抗として使用する場合は劣化検出用抵抗体4との結合点の電圧が、後段の電気回路に最も適当な電圧値になるように温度補償用抵抗体2の初期抵抗値を選べば良い。これらの抵抗体としては空気中で焼成することができる貴金属(例えば、Pt,Ag,Au,或いはPt/Ag系やAg/Pd系ペースト等)を用いたり、酸化を未然に防止するために窒素、アルゴン等の不活性気流中か水素気流中等で焼成する必要がある卑金属(例えばFe,Ni,Cu,Alや黄銅等)を使用すれば良い。 なお、これらの金属の抵抗値(単位正方形当たりの抵抗値)を高くするために、これらの金属の金属粉末にガラスフリットを添加して製造したペーストを使用しても良い。また、この実施例では温度補償用抵抗体2及び劣化検出用抵抗体4のパターンをクランク状に形成しているが、温度補償用抵抗体2及び劣化検出用抵抗体4の形状はこの実施例に限定されるものではなく、ジグザグ状でも波状でも構わない。更に、この実施例では、温度補償用抵抗体2の両端部2a,2bと劣化検出用抵抗体4の両端部4a,4bと共にをセラミック基板1の縁部に位置させると共に端部2bと端部4bとが同じ位置で重なるようにしている。これにより、積層したオイルの劣化センサには電極を3箇所設ければ良いことになる。 ・・・ 第2図は以上のようにしてセラミック基板1、温度補償用抵抗体2、絶縁層3、劣化検出用抵抗体4が積層されたオイルの劣化センサ10の斜視図である。」 (引2オ)第13頁第4行?第15頁第3行 「次に、以上の実施例のように構成された本考案のオイルの劣化センサを用いたオイル劣化検知装置の構成例を説明する。 第7図及び第8図はオイルの劣化センサ10の温度補償用抵抗体2を基準抵抗として使用した場合のオイル劣化検知装置の構成例であり、オイルの劣化センサ10は第5図に示した等価回路と同じように構成した。そして、このオイル劣化検知装置では、温度補償用抵抗体2と劣化検出用抵抗体4とを同じ金属材料で同じ抵抗値に形成し、端子5Cを接地し、端子5A,5Bは共に電源Vccに接続した。 第7図の構成例は信号の処理がアナログ信号により行われる例であり、オイルの劣化センサ10の端子5A,5Bは共に乗算器71に接続されている。乗算器71の入力端子Aには劣化検出用抵抗体4の抵抗値Rxから得られた電圧値Vaが入力され、入力端子Bには温度補償用抵抗体2の抵抗値Rpから得られた電圧値Vbが入力される。乗算器71はVa/Vbの演算を行い、これを乗算器71に接続するコンパレータ72に入力する。この演算によりオイルの温度による抵抗値の温度変化がキャンセルされる。即ち、初期状態では温度補償用抵抗体2の抵抗値Rpと劣化検出用抵抗体4の抵抗値Rxとが等しく、オイルの温度上昇があっても両抵抗値は同じ変化率で変化するので、Va=Vbであり、この後、オイルの劣化により劣化検出用抵抗体4の抵抗値Rxのみが変化すると、抵抗値の変化分によって電圧値Vaと電圧値Vbに差が生じるのである。 コンパレータ72に入力されたVa/Vbの信号はコンパレータ72に予め設定してある劣化の程度を示す基準電圧Vcと比較される。入力Va/Vbがこの基準電圧Vcを越えている時には、コンパレータ72からオイル劣化信号が出力される。後はこのコンパレータ72からの劣化信号を使用して各種ランプ、表示灯、或いはブザー等でオイルの劣化を機関運転者に通知すれば良く、第7図にはこの劣化信号がドライバ73に入力されて増幅され、オイル劣化時に表示灯7が点灯する例が示される。」 (引2カ)第18頁第8行?第19頁第1行 「以上のように、本考案のオイルの劣化センサは、従来のオイルの劣化センサの製造装置、製造方法をそのまま使用して製造することが可能であるので、安価に製造することができる。また、温度補償用抵抗体及び劣化検出用抵抗体を積層構造とすることにより従来のオイルの劣化センサと同じ程度の大きさにすることができる。更に、温度補償用抵抗体と劣化検出用抵抗体とを同一基板上に形成しているので、温度補償用抵抗体と劣化検出用抵抗体とを別個に搭載する場合に比べて両者の熱容量を同一にすることができる。この結果、車両の潤滑油のように、温度変化の激しい被検知体に対しても、温度の影響の無い状態で正確なオイルの劣化状態の測定が可能になる。」 (引2キ)第1図 (引2ク)第2図 (2)上記(1)の記載を総合すると、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。 「セラミック基板1、オイルに接しない温度補償用抵抗体2、絶縁層3、オイルに接する劣化検出用抵抗体4が積層されたオイルの劣化センサ10であって、 温度補償用抵抗体2及び劣化検出用抵抗体4の形状は波状であり、 劣化検出用抵抗体4の抵抗値Rxから得られた電圧値Vaと、温度補償用抵抗体2の抵抗値Rpから得られた電圧値Vbとから、Va/Vbの演算を行い、この演算によりオイルの温度による抵抗値の温度変化がキャンセルされ、 温度補償用抵抗体及び劣化検出用抵抗体を積層構造とすることにより、両者の熱容量を同一にすることができ、この結果、温度の影響の無い状態で正確なオイルの劣化状態の測定が可能になる、オイル中に設置されるオイルの劣化センサ10。」 3 引用文献3について (1)引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。 (引3ア) 「The concept of the applied corrosion monitoring system is simple: the electronic unit measures and registers the change over time of ER of a thin metal track applied on an insulating substrate. If the metal corrodes, the cross-sectional area of the track decreases and the ER increases. A part of the metal track is protected by an organic coating or tape and, thus, serves as a reference to compensate for resistivity changes due to varying temperature. A schematic drawing and photograph of the sensor is shown in Fig. 1. This geometry ensures high sensitivity to changes in the ER due to metal corrosion. The corrosion depth (CD) of the metallic sensor is calculated according to equation where t_(init) is the initial thickness of the reference metallic track, which is assumed equal to the sensor track in the beginning of exposure, R_(sens) and R_(ref) are the actual ERs of the sensor and reference tracks, and R_(sens,init) and R_(ref,init) are the initial ERs of the sensor and reference tracks. The calculation is based on the ERs measured as a potential difference along the track through which defined currents pass [18, 19].」 (日本語訳:適用される腐食監視システムのコンセプトはシンプルである。電子ユニットは、絶縁基板上に設けられた薄い金属トラックの電気抵抗値の経時的な変化を測定し登録する。金属が腐食すると、トラックの断面積は減少し、電気抵抗値は増加する。金属トラックの一部は、有機被膜またはテープによって保護され、その結果、温度変化による抵抗変化を補正するための参照として機能する。センサの概略図と写真を図1に示す。この構造が、金属の腐食によるERの変化に対して高い感度を与える。 金属センサの腐食深さ(CD)は、以下の式で計算される。 (1)式省略 ここで、t_(init) は、参照金属トラックの当初厚さで、曝露開始のセンサトラックと同じにされ、R_(sens) とR_(ref) は、センサトラックと参照トラックの実際の電気抵抗値で、R_(sens,init) とR_(ref,init) は、センサトラックと参照トラックの当初の電気抵抗値である。計算は、規定の電流が流れるトラックに沿った電位差として測定された電気抵抗値に基づく[18,19]。) (引3イ)Figure1 (2)上記(引3イ)のFigure1から、上記(引3ア)の「絶縁基板上に設けられた金属トラック」は、蛇行形状であることが見て取れるから、上記(1)の記載を総合すると、引用文献3には、次の技術事項(以下、「引用文献3技術事項」という。)が記載されていると認められる。 「腐食監視システムに用いられる金属センサであって、 絶縁基板上に設けられた金属トラックは、蛇行形状であり、その金属トラックの一部は、有機被膜またはテープによって保護され、その結果、温度変化による抵抗変化を補正するための参照として機能し、 金属センサの腐食深さ(CD)は、以下の式で計算される、金属センサ。 ここで、t_(init) は、参照金属トラックの当初厚さで、曝露開始のセンサトラックと同じにされ、R_(sens) とR_(ref) は、センサトラックと参照トラックの実際の電気抵抗値で、R_(sens,init) とR_(ref,init) は、センサトラックと参照トラックの当初の電気抵抗値である。」 第5 対比 本願発明と引用発明を対比する。 1 引用発明の「金属導電部材として」の「鋼片」及び「腐食センサエレメント1」は、それぞれ、本願発明の「導電体」及び「センサ部」に相当する。また、引用発明の「鋼片」は、「SS400鋼の50mm長さ×2mm幅×2mm厚みの鋼片を表面より切削加工し、厚を0.05mm、0.1mm、0.15mm、と0.05mmづつ厚みを変化させた短冊状の鋼片」であるから、厚さを変化させた各鋼片の断面は、いずれも矩形である。 よって、引用発明の「腐食媒体である大気に接する」「金属導電部材として」の「SS400鋼の50mm長さ×2mm幅×2mm厚みの鋼片を表面より切削加工し、厚を0.05mm、0.1mm、0.15mm、と0.05mmづつ厚みを変化させた短冊状の鋼片」「を有する腐食センサエレメント1」「を備え」ることと、本願発明の「腐食環境に曝露される断面矩形の導電体からなるセンサ部、および、前記腐食環境から遮断される導電体からなる参照部を備え」ることとは、「腐食環境に曝露される断面矩形の導電体からなるセンサ部を備え」る点で共通する。 2 上記1を踏まえると、引用発明の「腐食センサエレメント1」が「備え」る「鋼片」が「SS400鋼の50mm長さ×2mm幅×2mm厚みの鋼片を表面より切削加工し、厚を0.05mm、0.1mm、0.15mm、と0.05mmづつ厚みを変化させた短冊状」であることと、本願発明の「前記センサ部および前記参照部を構成する前記導電体の形状は、蛇行形状であ」ることとは、「前記センサ部を構成する前記導電体の形状は、長尺形状であ」る点で共通する。 3 引用発明の「電気的絶縁部材」である「常温硬化型のエポキシ樹脂」は、本願発明の「絶縁部材」及び「絶縁体」に相当する。 よって、上記1を踏まえると、引用発明の「この鋼片の上面を除いた全ての面を常温硬化型のエポキシ樹脂中に埋め込」むことと、本願発明の「前記センサ部は、両側面が絶縁部材で覆われ、上面は露出しており、前記センサ部と前記参照部とが絶縁体を介して積層され、前記センサ部の下面が前記絶縁体で覆われる」こととは、「前記センサ部は、両側面が絶縁部材で覆われ、上面は露出しており、前記センサ部の下面が絶縁体で覆われる」点で共通する。 4 引用発明の「腐食量測定センサ3b」は、本願発明の「腐食センサ」に相当する。 第6 一致点・相違点 よって、本願発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。 (一致点) 「腐食環境に曝露される断面矩形の導電体からなるセンサ部を備え、 前記センサ部を構成する前記導電体の形状は、長尺形状であり、 前記センサ部は、両側面が絶縁部材で覆われ、上面は露出しており、 前記センサ部の下面が絶縁体で覆われる、腐食センサ。」 (相違点1) 本願発明は、「センサ部と」「絶縁体を介して積層され、」「腐食環境から遮断される導電体からなる参照部を備え」ているのに対し、引用発明は、 参照部を備えていない点。 (相違点2) 本願発明では、センサ部および「前記参照部」を構成する導電体の形状が、「蛇行形状」であるのに対し、引用発明では、「前記参照部」を備えておらず、センサ部を構成する導電体の形状が、「短冊状」である点。 第7 判断 上記各相違点について検討する。 1 相違点1について 引用文献2技術事項(第4 2(2)参照。)の「オイルの劣化センサ10」は、上記(引2イ)の記載によれば、「オイルの劣化に伴って生ずる酸性物質によりオイル劣化センサ表面の金属抵抗体が腐食し、その電気抵抗が」「増大する」「ことを検出してオイルの劣化を検出」するセンサであるから、腐食センサであるといえる。 この点を踏まえると、引用文献2技術事項には、腐食センサにおいて、「オイルに接しない温度補償用抵抗体2(本願発明の「前記腐食環境から遮断される導電体からなる参照部」に相当する。)、絶縁層3(本願発明の「絶縁体」に相当する。)、オイルに接する劣化検出用抵抗体4(本願発明の「腐食環境に曝露される断面矩形の導電体からなるセンサ部」に相当する。)が積層され」ることが記載されていることから、前記劣化検出用抵抗体4と前記温度補償用抵抗体2とが絶縁層3を介して積層され、前記劣化検出用抵抗体4の下面が前記絶縁層3で覆われることも分かる。 そして、金属の電気抵抗に温度依存性があることは技術常識(例えば、引用文献2の(引2イ)の[従来の技術]、引用文献3(引用文献3技術事項(第4 3(2)))、令和元年10月24日付け意見書で提示した特開平3-99280号公報などを参照。)であるところ、引用発明の「金属導電部材の電気抵抗値を」「測定する」「腐食量測定センサ」は、「屋外の橋梁に設置して用い」られ、その腐食要因に環境湿度や環境温度が含まれることは明らかである。すると、引用文献1及び2に接した当業者であれば、引用発明において、「測定」時の環境温度によって「金属導電部材の電気抵抗値」が揺らぐことは容易に推測できることから、「腐食量測定センサ」である引用発明において、前記電気抵抗値を正確に得るために、「劣化検出用抵抗体4の抵抗値Rx」の「温度補償」を行う腐食センサである引用文献2技術事項を適用する動機付けがあるといえる。 してみると、引用発明において、引用文献2技術事項を適用し、「前記腐食環境から遮断される導電体からなる参照部を備え、」「前記センサ部と前記参照部とが絶縁体を介して積層され」る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。その結果、センサ部の下面が「前記」絶縁体で覆われることになる。 2 相違点2について 引用文献2技術事項には、「温度補償用抵抗体2及び劣化検出用抵抗体4の形状は波状であ」る(本願発明の「前記センサ部および前記参照部を構成する前記導電体の形状は、蛇行形状であ」ることに相当する。)ことが記載され、また引用文献3技術事項には、「金属トラックは、蛇行形状であり、その金属トラックの一部は、・・・温度変化による抵抗変化を補正するための参照として機能」する(本願発明の「前記センサ部および前記参照部を構成する前記導電体の形状は、蛇行形状であ」ることに相当する。)ことが記載されていることから、腐食センサにおいて、導電体の形状を蛇行形状にすることは、周知技術である。 一方、引用文献1の上記(引1ウ)には、「金属導電部材11・・・形状としては、・・・渦巻状のもの・・・腐食の進行により抵抗値が変化するものであれば、問題はない」との記載があり、直線状から曲線状までどのような形状でも良いことが記載されていることを踏まえると、引用発明において、鋼片の形状を短冊状から「蛇行形状」に変更することは、長尺状の形状として、当業者が適宜選択し得る程度のことである。 そして、引用発明が、上記1のとおりにセンサ部を構成する導電体における電気抵抗値の基準となる上記参照部を備える際には、参照部を構成する導電体の形状を、センサ部を構成する導電体の形状にあわせて「蛇行形状」とすることは、引用文献2技術事項及び引用文献3技術事項が、上述のとおり「前記センサ部および前記参照部を構成する前記導電体の形状は、蛇行形状であ」ることからも、当業者が適宜なし得ることである。 3 そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用文献1?3の記載から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 4 以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 第8 請求人の主張 1 請求人は、令和元年10月24日付け意見書において、 「[7-3]引用文献1の記載事項 引用文献1(引用発明)では、「電気抵抗を測定する電気抵抗測定回路」が使用されている([0028])。この「電気抵抗測定回路」は、「電流計、及び電圧計を内臓しており、腐食センサエレメントの電気抵抗を測定する」ものである([0028])。 そして、引用文献1の段落[0053]には、「測定回路が計測可能な電気抵抗の上限値、下限値とは、市販の抵抗計測器、電流計、電圧計等を用いる場合は、その仕様によって定まる測定精度が保証された測定範囲の上限値、下限値のことであり、自作の計測機器を用いる場合には、所定の基準器によって測定精度が検定されることによって定まる測定範囲の上限値、下限値のことである」という記載がある(なお、下線は本意見書にて独自に付したものである)。 [7-4]反論事項1 引用文献1の段落[0053]には、「測定精度」が「抵抗計測器…の仕様によって定まる」ことが記載されている。 すなわち、引用文献1(引用発明)において、「測定精度」は、使用する抵抗計測器(電気抵抗測定回路)の「仕様」によって上下(変動)することが許容されており、必ずしも「測定精度の向上」が求められていない。 そうすると、引用文献1(引用発明)において、「測定精度の向上」という課題は、「内在する課題である」とは言えない。 したがって、引用文献1(引用発明)と引用文献2との間に、「測定精度の向上」という課題の共通性は存在しないから、その組み合わせについて、「十分な動機付けが存在する」とは言えない。 [7-5]反論事項2 引用文献1の段落[0053]には、種々の「測定精度」を「仕様」として有する「市販の抵抗計測器」を使用できることが明記されている。 また、従来、温度補償を「仕様」として備える抵抗計測器が知られている(例えば、特開平3-99280号公報、発明の名称「温度補正機能付き抵抗計」)。 したがって、仮に、引用文献1(引用発明)において、「測定精度の向上」が「内在する課題である」としても、引用文献1の段落[0053]等を参照した当業者であれば、このような温度補償の機能が付いた抵抗計測器の市販品を使用するはずであり、これを差し置いて、引用文献2を適用したはずであるという示唆等は存在しない。」と主張している。 2 上記主張について検討する。 (1)反論事項1について 引用文献1には、「【0043】 長期間の腐食測定には径の太い線状の金属導電部材11だけでも可能であるが、太い線状のものだけでは、初期の腐食量が少ない期間においては、抵抗変化が小さいため誤差が大きくなる。そのために、順次破断するような金属導電部材11を複数個用い、複数個の腐食センサエレメント1とすることが望ましい。それぞれの個数や断線までの時間の設定は、目的とする構造物の寿命やメンテナンスの頻度などを考慮の上適宜選定する。」、「【0064】 腐食センサエレメントは、抵抗が大きいほどすなわち腐食減肉により薄くなるほど抵抗変化が大きいため、精度良く計測することが出来る。したがって、腐食センサエレメントの暴露面の深さのピッチを、上記の例のように式(4)から式(6)で算定される腐食センサエレメントの暴露面の深さのピッチ以下にすることで、計測期間中途切れなくかつ当該時点までの腐食量を得ることが出来、さらに、高精度に計測することも出来る。」との記載(下線は当審で付した。)があり、引用発明は、測定精度の向上が求められるものであるから、請求人の「引用文献1(引用発明)において、・・・必ずしも「測定精度の向上」が求められていない」との主張は当を得ない。 (2)反論事項2について 請求人が、従来の温度補償を「仕様」として備える抵抗計測器として提示した特開平3-99280号公報には、腐食センサに用いることについて記載も示唆もされていない。そして、従来より知られている温度センサによる温度補償を「仕様」として備える抵抗計測器の存在が、引用発明において、引用文献2技術事項の適用を阻害する事由にならず、引用文献1及び引用文献2に接した当業者であれば、引用発明に引用文献2技術事項を適用する動機付けがあることは、上記第7の1で述べたとおりである。 第9 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-11-25 |
結審通知日 | 2019-11-26 |
審決日 | 2019-12-09 |
出願番号 | 特願2015-116359(P2015-116359) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小澤 瞬 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
▲高▼見 重雄 東松 修太郎 |
発明の名称 | 腐食センサおよび腐食量の測定方法 |
代理人 | 伊東 秀明 |
代理人 | 蜂谷 浩久 |