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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22F 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22F |
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管理番号 | 1359347 |
審判番号 | 不服2018-8670 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-25 |
確定日 | 2020-01-28 |
事件の表示 | 特願2015-250469「高弾性限を有する非晶質合金の成形品を形成する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月28日出願公開、特開2016-135915〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2002年(平成14年) 9月 6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2001年 9月 7日、米国(US))を国際出願日とする特願2003-527141号の一部を平成22年10月15日に特願2010-232372号として新たな特許出願とし、さらにその一部を平成25年 9月 6日に特願2013-185649号として新たな特許出願とし、さらにその一部を平成27年12月22日に新たな特許出願としたものであって、平成28年 1月19日付けで手続補正書が提出され、平成29年 3月16日付けで拒絶理由が通知され、同年 9月21日付けで意見書が提出され、平成30年 2月13日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年 6月25日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものであり、その後、平成31年 4月18日付けで当審から拒絶理由が通知され、令和1年 7月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?7に係る発明(以下、「本願発明1?7」といい、総称して「本願発明」ということがある。)は、令和1年 7月23日付けの手続補正により補正された、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 高弾性限を有する成形品を形成する方法であって、 過冷却温度(Tsc)と結晶化温度(Tx)との差が過冷却温度範囲(ΔTsc)を定義する、ガラス転移温度(Tg)、過冷却温度(Tsc)及び結晶化温度(Tx)を有するバルク凝固非晶質合金の原材料を準備する工程と、 前記原材料を成形温度まで加熱する工程と、 規定した最大許容成形時間未満の時間と前記原材料のガラス転移温度付近に規定した最高成形温度未満の温度で前記原材料を成形し、成形品が少なくとも1.8%の弾性限および少なくとも1.0%の曲げ延性を保持するように前記成形品を形成する工程と、 を含み、 前記原材料のΔTscが90℃超である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/2ΔTsc)、(Tsc+1/4ΔTsc)及びTscから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記原材料のΔTscが60℃超且つ90℃未満である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/4ΔTsc)、Tsc及びTgから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記ΔTscが30℃超且つ60℃未満である場合、前記最高成形温度がTsc、Tg及びTg-30から成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、40+0.5ΔTsc及び20+0.5ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記原材料の前記ΔTscが30℃以上であり、前記原材料が、(Zr、Ti)a(Ni、Cu、Fe)b(Be、Al、Si、B)cであり、aが原子百分率で合計組成の30?75%の範囲にあり、bが原子百分率で合計組成の5?60%の範囲にあり、cが原子百分率で合計組成の0?50%の範囲にある、方法。 【請求項2】 前記原材料が、90℃超のΔTscを有し、Zr_(47)Ti_(8)Ni_(10)Cu_(7.5)Be_(27.5)を含む請求項1記載の方法。 【請求項3】 高弾性限を有する成形品を形成する方法であって、 過冷却温度(Tsc)と結晶化温度(Tx)との差が過冷却温度範囲(ΔTsc)を定義する、ガラス転移温度(Tg)、過冷却温度(Tsc)及び結晶化温度(Tx)を有するバルク凝固非晶質合金の原材料を準備する工程と、 前記原材料を成形温度まで加熱する工程と、 規定した最大許容成形時間未満の時間と前記原材料のガラス転移温度付近に規定した最高成形温度未満の温度で前記原材料を成形し、成形品が少なくとも1.8%の弾性限を保持するように前記成形品を形成する工程と、 を含み、 前記原材料のΔTscが90℃超である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/2ΔTsc)、(Tsc+1/4ΔTsc)及びTscから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記原材料のΔTscが60℃超且つ90℃未満である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/4ΔTsc)、Tsc及びTgから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記ΔTscが30℃超且つ60℃未満である場合、前記最高成形温度がTsc、Tg及びTg-30から成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、40+0.5ΔTsc及び20+0.5ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記原材料の前記ΔTscが30℃以上であり、前記原材料が、(Zr、Ti)a(Ni、Cu)b(Be)cであり、aが原子百分率で合計組成の40?75%の範囲にあり、bが原子百分率で合計組成の5?50%の範囲にあり、cが原子百分率で合計組成の5?50%の範囲にある、方法。 【請求項4】 原子百分率で合計組成の20%以下の量の遷移金属をさらに含み、前記遷移金属は、Nb、Cr、VおよびCoを含む請求項3記載の方法。 【請求項5】 前記原材料が、(Zr、Ti)a(Ni、Cu)b(Be)cであり、aが原子百分率で合計組成の45?65%の範囲にあり、bが原子百分率で合計組成の10?40%の範囲にあり、cが原子百分率で合計組成の5?35%の範囲にあり、且つTi/Zrの比率が0?0.25の範囲にある請求項3記載の方法。 【請求項6】 高弾性限を有する成形品を形成する方法であって、 過冷却温度(Tsc)と結晶化温度(Tx)との差が過冷却温度範囲(ΔTsc)を定義する、ガラス転移温度(Tg)、過冷却温度(Tsc)及び結晶化温度(Tx)を有するバルク凝固非晶質合金の原材料を準備する工程と、 前記原材料を成形温度まで加熱する工程と、 規定した最大許容成形時間未満の時間と前記原材料のガラス転移温度付近に規定した最高成形温度未満の温度で前記原材料を成形し、成形品が少なくとも1.8%の弾性限を保持するように前記成形品を形成する工程と、 を含み、 前記原材料のΔTscが90℃超である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/2ΔTsc)、(Tsc+1/4ΔTsc)及びTscから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記原材料のΔTscが60℃超且つ90℃未満である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/4ΔTsc)、Tsc及びTgから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記ΔTscが30℃超且つ60℃未満である場合、前記最高成形温度がTsc、Tg及びTg-30から成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、40+0.5ΔTsc及び20+0.5ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記原材料の前記ΔTscが30℃以上であり、前記原材料が、(Zr)a(Ti、Nb)b(Ni、Cu)c(Al)dであり、aが原子百分率で合計組成の45?70%の範囲にあり、bが原子百分率で合計組成の0?10%の範囲にあり、cが原子百分率で合計組成の10?45%の範囲にあり、dが原子百分率で合計組成の5?25%の範囲にある、方法。 【請求項7】 高弾性限を有する成形品を形成する方法であって、 過冷却温度(Tsc)と結晶化温度(Tx)との差が過冷却温度範囲(ΔTsc)を定義する、ガラス転移温度(Tg)、過冷却温度(Tsc)及び結晶化温度(Tx)を有するバルク凝固非晶質合金の原材料を準備する工程と、 前記原材料を成形温度まで加熱する工程と、 規定した最大許容成形時間未満の時間と前記原材料のガラス転移温度付近に規定した最高成形温度未満の温度で前記原材料を成形し、成形品が少なくとも1.2%の弾性限および約7.5GPa?12GPa以上の硬さを保持するように前記成形品を形成する工程と、 を含み、 前記原材料のΔTscが90℃超である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/2ΔTsc)、(Tsc+1/4ΔTsc)及びTscから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記原材料のΔTscが60℃超且つ90℃未満である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/4ΔTsc)、Tsc及びTgから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記ΔTscが30℃超且つ60℃未満である場合、前記最高成形温度がTsc、Tg及びTg-30から成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、40+0.5ΔTsc及び20+0.5ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、 前記原材料が、Fe_(72)Al_(7)Zr_(10)Mo_(5)W_(2)B_(15)またはFe_(72)Al_(5)Ga_(2)P_(11)C_(6)B_(4)である、方法。」 なお、それぞれ独立項である請求項1、3、6、7には、「前記最大成形時間」との記載がそれぞれ3箇所あるが、いずれの記載についても、それ以前には「最大成形時間」との記載が存在せず、「最大許容成形時間」としか記載されていないことから、上記「前記最大成形時間」は、「前記最大許容成形時間」を意味するものと解して、以下検討する。 第3 当審において通知した拒絶理由の概要 当審が平成31年 4月18日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。 1 サポート要件 本願発明1?7で特定される組成のバルク凝固非晶質合金のTg、Tsc及びTxを測定し、成形後の成形品が本願発明1?7で特定された弾性限を「保持するように」、「規定した最大許容成形時間未満の時間と前記原材料のガラス転移温度付近に規定した最高成形温度未満の温度で前記原材料を成形し」たとしても、実際に弾性限を保持できるという技術的な裏付けが本願の発明の詳細な説明に示されているとはいえないことから、本願発明1?7が「成形工程が完了した後に高い弾性限を実質的に維持するバルク凝固非晶質合金の成形品を形成する」という課題を解決できるとは認められない。 よって、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 2 実施可能要件 当業者が、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載、及び本願の優先日時点の技術常識に基づいて、本願発明1?7で特定される組成のバルク凝固非晶質合金のTg、Tsc及びTxを測定し、「規定した最大許容成形時間未満の時間と前記原材料のガラス転移温度付近に規定した最高成形温度未満の温度で前記原材料を成形し」たとしても、本願の発明の詳細な説明には、本願発明1?7において特定された「弾性限」、「曲げ延性」、「硬さ」を得るために必要な製造条件が十分に開示されているとはいえない。加えて、「弾性限」、「曲げ延性」、「硬さ」とは不明確な記載であるから、当業者が成形工程を行うに際し、これらの特性を「保持するように」実施できたか否か確認することができない。 よって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 3 明確性要件 本願発明1?7の「弾性限」、本願発明1、2の「曲げ延性」、本願発明7の「硬さ」、及び本願発明1?7の「比例」との記載は、明確でなく、したがって、本願発明1?7は明確でない。 よって、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 1 本願の発明の詳細な説明の記載 本願の発明の詳細な説明及び図面には、以下の記載がある。 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は、ガラス転移領域付近でのバルク凝固非晶質合金の成形品を形成する方法に関し、より具体的には、成形工程の完了時にバルク凝固非晶質合金が高弾性限を保持するバルク凝固非晶質合金の成形品を形成する方法に関する。」 (2)「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 要するに、非晶質合金の成形品を形成する従来の方法では、形成工程及び成形工程が完了した後に、バルク凝固非晶質合金の高い弾性限は、一般的に維持されない。従って、成形工程が完了した後に高い弾性限を実質的に維持するバルク凝固非晶質合金の成形品を形成する新規の改良された方法が所望される。」 (3)「【0015】 さらに他の実施態様において、この合金は、(Zr、Ti)a(Ni、Cu、Fe)b(Be、Al、Si、B)cから成るグループから選択され、ここで、aは原子百分率で合計組成の30?75%の範囲にあり、bは原子百分率で合計組成の5?60%の範囲にあり、cは原子百分率で合計組成の0?50%の範囲にある。さらに他の実施態様において、この合金は、Nb、Cr、V、Coのような他の遷移金属を原子百分率で合計組成の20%以下の量で含む。 【0016】 適切な例示の合金のグループは、aが原子百分率で合計組成の40?75%の範囲にあり、bが原子百分率で合計組成の5?50%の範囲にあり、cが原子百分率で合計組成の5?50%の範囲にある(Zr、Ti)a(Ni、Cu)b(Be)cと、aが原子百分率で合計組成の45?65%の範囲にあり、bが原子百分率で合計組成の10?40%の範囲にあり、cが原子百分率で合計組成の5?35%の範囲にあり、且つTi/Zrの比率が0?0.25の範囲にある(Zr、Ti)a(Ni、Cu)b(Be)cと、aが原子百分率で合計組成の45?70%の範囲にあり、bが原子百分率で合計組成の0?10%の範囲にあり、cが原子百分率で合計組成の10?45%の範囲にあり、dが原子百分率で合計組成の5?25%の範囲にある(Zr)a、(Ti、Nb)b(Ni、Cu)c(Al)dとを含む。上記のグループからの一つの適正な例示の合金は、Zr_(47)Ti_(8)Ni_(10)Cu_(7.5)Be_(27.5)である。」 (4)「【0021】 図1に示す本発明の一つの実施態様においては、バルク凝固非晶質合金の原材料は、工程1で準備される。工程2で、準備されたバルク凝固非晶質合金の原材料は、最終製品がバルク凝固非晶質合金原材料が高弾性限を維持するように、ガラス転移点付近で成形される。成形する時間と温度を制御することによって、形成工程の完了時の工程3で、本発明に従う成形品は、少なくとも1.2%の弾性限を、好ましくは、少なくとも1.8%の弾性限を、最も好ましくは、少なくとも1.8%の弾性限と少なくとも1.0%の曲げ延性を維持する。本明細書で、弾性限は、永久変形かまたは破壊を示す最大歪みレベルとして定義され、この百分率は、非晶質合金の細長片の厚み(t)とマンドレルの直径(D)との比率を取ることにより、式e=t/Dで与えられる。」 (5)「【0027】 成形過程の間に、いかなる適切な温度が使用されてもよいが、非晶質合金原材料は、好ましくは、ガラス転移範囲付近に保持される。このような実施態様においては、「ガラス転移範囲付近」は、成形作業が、ガラス店移転以上で、ガラス転移点より僅かに低い温度で、またはガラス転移点で実施することができることを意味するが、少なくとも結晶化温度Tx以下で実施される。最終成形品が非晶質合金原材料の高い弾性限を保持することを確実にするために、成形工程の温度及び時間は、好ましくは、以下の表1(温度単位は℃であり、且つ時間単位は分である)に示される最高温度に従って限定される。」 (6)「【0028】 【表1】 」 (7)「【0029】 ΔTsc(過冷却液体範囲)は、非晶質合金が過冷却される温度範囲であり、Tmaxは、成形過程中の最高許容温度であり、Tmax(Pr)は、成形過程中の最も好ましい最高許容温度である。 【0030】 上記の表において、本開示目的のために、Tg、Tsc及びTxは、標準DSC(示差走査型熱量計)の図5に示すような20℃/分の走査によって決定される(40℃/分または10℃/分のような他の加熱速度でも本開示の物理的性質を完全に維持したまま利用することができる。)。Tgはガラス転移の開始温度として定義され、Tscは過冷却温度領域の開始温度として、Txは結晶化開始温度として定義される。ΔTscはTxとTscとの差として定義される。全ての温度単位は℃である。 【0031】 従って、原材料の非晶質合金のΔTscが90℃以上である場合、そのときTmaxは、(Tsc+(1/2)ΔTsc)によって与えられ、好ましくは(Tsc+(1/4)ΔTsc)によって与えられ、最も好ましくは(Tsc)によって与えられる。原材料の非晶質合金のΔTscが60℃以上である場合、そのときTmaxは(Tsc+(1/4)ΔTsc)によって与えられ、好ましくは(Tsc)によって与えられ、最も好ましくは(Tg)によって与えられる。原材料の非晶質合金のΔTscが30℃以上である場合、そのときTmaxは(Tsc)によって与えられ、好ましくは(Tg)によって与えられ、最も好ましくは(Tg-30)によって与えられる。」 (8)「【0032】 さらに、いかなる加熱期間も本発明に利用されてもよいが、所定温度以上で使用される時間は、好ましくは、制限され、且つこれらの好ましい時間の限定の要約は、以下の表2に示される。」 (9)「【0033】 【表2-1】 【0034】 【表2-2】 【0035】 【表2-3】 」 (10)「【0036】 従って、所定のTmaxに対して、t(T>Tsc)は、成形工程中のTsc以上で使用されることができる最大許容時間を規定し、t(T>Tsc)(Pr.)は、好ましい最大許容時間を規定する。さらに、所定のTmaxに対して、t(T>Tg)は、成形工程中のTg以上で利用されることができる最大許容時間を規定し、t(T>Tg)(Pr.)は、好ましい最大許容時間を規定する。上記条件に加えて、所定のTmaxに対して、t(T>Tg+60)は、成形工程中の(Tg-60)℃以上で利用されることができる最大許容時間を規定し、t(T>Tg-60)(Pr.)は、好ましい最大許容時間を規定する。全ての時間の値は分で与えられる。」 (11)「【0044】 成形品が最終的に形成された場合、弾性限は弾性限が所望の因子以内であることを確証するために測定されるかもしれない。製品の弾性限は、1軸引っ張り試験のような種々の機械的試験によって測定することができる。しかしながら、この試験は、実用的でない。比較的実用的な試験は、図7に概略的に示すような曲げ試験であり、これは0.5mmの厚みを備える非晶質合金10の切断帯板が、種々の直径のマンドレル18の周囲で曲げられる。曲げが完了し且つ試料帯板10が取り外された後に、永久曲がりが目視観察されない場合に、試料10は、弾性を保持するという。永久曲がりが目視することができる場合、この試料20は、弾性限の歪みを越えたといえる。マンドレルの直径に比較して薄い帯板に対しては、曲げ試験における歪は、帯板の厚み(t)及びマンドレルの直径(D)の比、e=t/Dによって非常に厳密に求められる。」 (12)「【0045】 ・・・90℃以上のΔTscを有する一つの適切な合金は、Zr_(47)Ti_(8)Ni_(10)Cu_(7.5)Be_(27.5)である。・・・バルク凝固非晶質合金のこのような一つの適切なグループは、(Zr、Ti)a(Ni、Cu、Fe)b(Be、Al、Si、B)cのような一般的な用語で記載され、ここで、aは原子百分率で合計組成の30?75%の範囲にあり、bは原子百分率で合計組成の5?60%の範囲にあり、cは原子百分率で合計組成の0?50%の範囲にある。 【0046】 ・・・この合金は、他の遷移金属、好ましくはNb、Cr、V、Coのような金属を原子百分率で合計組成の20%以下の実質的な量含むことができることを理解すべきである。これらの遷移金属を組み込む適切な合金の例は、合金のグループ(Zr、Ti)a(Ni、Cu)b(Be)cを含み、ここでaは、原子百分率で合計組成の40?75%の範囲にあり、bは原子百分率で合計組成の5?50%の範囲にあり、cは原子百分率で合計組成の5?50%の範囲にある。 【0047】 また、より好ましい合金のグループは、(Zr、Ti)a(Ni、Cu)b(Be)cであり、ここで、aが原子百分率で合計組成の45?65%の範囲にあり、bが原子百分率で合計組成の10?40%の範囲にあり、cが原子百分率で合計組成の5?35%の範囲にあり、且つTi/Zrの比が0?0.25の範囲にある。別の好ましい合金のグループは、(Zr)a(Ti、Nb)b(Ni、Cu)c(Al)dであり、ここで、aは、原子百分率で合計組成の45?70%の範囲にあり、bは原子百分率で合計組成の0?10%の範囲にあり、cは原子百分率で合計組成の10?45%の範囲にあり、dが原子百分率で合計組成の5?25%の範囲にある。 【0048】 バルク凝固非晶質合金の別の組は、鉄金属基の組成(Fe、Ni、Co)である。・・・このような合金の一つの例示の組成は、Fe_(72)Al_(5)Ga_(2)P_(11)C_(6)B_(4)である。別の合金の一つの例示の組成は、Fe_(72)Al_(7)Zr_(10)Mo_(5)W_(2)B_(15)である。」 (13)「【図7】 」 2 判断 (1)サポート要件について ア 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしているか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである(平成17年(行ケ)10042号、知財高裁平成17年11月11日判決)。 イ そして、上記アの観点から、請求項に、解決すべき課題を、達成されるべき数式又は数値を用いて規定された物に係る発明が記載されているのに対し、発明の詳細な説明には、解決すべき課題を、達成されるべき数式又は数値を用いて規定することは記載されてはいるものの、出願時の技術常識に照らして、請求項に係る発明が、当該数式又は数値を達成できて課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないときは、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、サポート要件を充足するとはいえないとするのが相当である。 ウ 上記の観点から以下検討する。 エ 本願発明が解決しようとする課題について、上記1(2)のとおり、本願の発明の詳細な説明の【0007】には、「要するに、非晶質合金の成形品を形成する従来の方法では、形成工程及び成形工程が完了した後に、バルク凝固非晶質合金の高い弾性限は、一般的に維持されない。従って、成形工程が完了した後に高い弾性限を実質的に維持するバルク凝固非晶質合金の成形品を形成する新規の改良された方法が所望される。」と記載されており、そうすると、本願発明が解決しようとする課題は、「成形工程が完了した後に高い弾性限を実質的に維持するバルク凝固非晶質合金の成形品を形成する」ことであるといえる。 オ そして、上記エの課題を解決する手段として、本願の発明の詳細な説明には、上記1(4)?1(10)のとおりの記載がある。また、具体的なバルク凝固非晶質合金の組成について、本願の発明の詳細な説明には、上記1(3)、1(12)のとおりの記載がある。 カ また、本願発明1、2は、「成形品が少なくとも1.8%の弾性限および少なくとも1.0%の曲げ延性を保持するように前記成形品を形成する」ことを特定し、本願発明3?5は、「成形品が少なくとも1.8%の弾性限を保持するように前記成形品を形成する」ことを特定し、本願発明6は「成形品が少なくとも1.8%の弾性限を保持するように前記成形品を形成する」ことを特定し、本願発明7は、「成形品が少なくとも1.2%の弾性限および約7.5GPa?12GPa以上の硬さを保持するように前記成形品を形成する」ことを特定している。 キ しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、上記1(3)、1(12)で例示される組成のバルク凝固非晶質合金について、具体的にいかなる組成のものが、いかなるTg(ガラス転移の開始温度)、Tsc(過冷却温度領域の開始温度)及びTx(結晶化開始温度)を示し、これらから求めたΔTsc(過冷却液体範囲)から上記1(4)?1(10)の記載に基づいて得られる最大許容成形温度Tmax、及び最大許容成形時間tとの関係からいかなる成形温度、成形時間を設定して実際に成形を行い、成形が完了した後にいかなる弾性限が測定されたか、については、一切記載されていない。 ク そして、本願の発明の詳細な説明には、バルク凝固非晶質合金の成形温度及び成形時間を許容される数値未満とすることで弾性限が維持できることの技術的な機序について、何らの理論的な説明もなされておらず、また、本願の優先日時点の技術常識を勘案しても、当該機序が自明のものであるとはいえない。 ケ してみると、上記カのとおり本願発明1?7で特定される組成のバルク凝固非晶質合金のTg、Tsc及びTxを測定し、上記1(4)?1(10)の記載に基づいて、成形後の成形品が本願発明1?7で特定された弾性限を「保持するように」、「前記原材料のΔTscが90℃超である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/2ΔTsc)、(Tsc+1/4ΔTsc)及びTscから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、前記原材料のΔTscが60℃超且つ90℃未満である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/4ΔTsc)、Tsc及びTgから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、前記ΔTscが30℃超且つ60℃未満である場合、前記最高成形温度がTsc、Tg及びTg-30から成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、40+0.5ΔTsc及び20+0.5ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ」ることを前提として、「規定した最大許容成形時間未満の時間と前記原材料のガラス転移温度付近に規定した最高成形温度未満の温度で前記原材料を成形し」たとしても、実際に高い弾性限を保持できるという技術的な裏付けが本願の発明の詳細な説明に示されているとはいえないことから、本願発明1、3、6、7、本願発明1を引用する本願発明2、及び本願発明3を引用する本願発明4、5が上記エの課題を解決できるとは認められない。 コ したがって、本願発明1?7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 サ この点につき、請求人は、令和 1年 7月23日付けの意見書(以下、単に「意見書」という。)において、「独立請求項である請求項1、3、6、および7は、「成形品が少なくとも1.8%または1.2%の弾性限を保持するように成形品を形成する」と記載していますから、本発明の課題とされる成形工程が完了した後に高い弾性限を実質的に維持するバルク凝固非晶質合金の成形品を形成することを解決する手段を当該請求項は記載しています。したがいまして、請求項1ないし7に係る発明は、本願明細書に記載されたものです。」と主張しているので、当該主張について検討する。 シ 特許請求の範囲の記載が、いわゆるサポート要件を充足しているか否かの判断は、上記ア、イの観点から検討すべきところ、そうであるとすれば、上記サのとおり、請求項1、3、6、および7には、成形品の弾性限を「少なくとも1.8%」又は「少なくとも1.2%」という高い弾性限に保持することについて、これを達成するための成形品の形成手法について記載されているとしても、本願明細書には、当該手法であれば、成形品の弾性限を「少なくとも1.8%」又は「少なくとも1.2%」という高い弾性限に保持するという課題を達成できることについての作用機序も、また、達成できたことを立証する実施例も示されておらず、また、技術常識から見ても達成できるとまではいえない。 すると、当該手法であれば、成形品の弾性限を「少なくとも1.8%」又は「少なくとも1.2%」の高い弾性限に保持でき課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されているとは到底いえず、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、請求人の上記主張は採用しない。 (2)実施可能要件について ア 本願発明1、2は、「成形品が少なくとも1.8%の弾性限および少なくとも1.0%の曲げ延性を保持するように前記成形品を形成する」ことを特定し、本願発明3?5は、「成形品が少なくとも1.8%の弾性限を保持するように前記成形品を形成する」ことを特定し、本願発明6は「成形品が少なくとも1.8%の弾性限を保持するように前記成形品を形成する」ことを特定し、本願発明7は、「成形品が少なくとも1.2%の弾性限および約7.5GPa?12GPa以上の硬さを保持するように前記成形品を形成する」ことを特定している。 イ 一方、本願の発明の詳細な説明には、上記1(3)、1(12)で例示される組成のバルク凝固非晶質合金について、具体的にいかなる組成のものが、いかなるTg(ガラス転移の開始温度)、Tsc(過冷却温度領域の開始温度)及びTx(結晶化開始温度)を示し、これらから求めたΔTsc(過冷却液体範囲)から上記1(4)?1(10)に基づいて得られる最大許容成形温度Tmax、及び最大許容成形時間tとの関係からいかなる成形温度、成形時間を設定して実際に成形を行い、成形が完了した後にいかなる弾性限が測定されたか、については、一切記載されていない。 ウ そして、本願の発明の詳細な説明には、バルク凝固非晶質合金の成形温度及び成形時間を許容される数値未満とすることで上記アの弾性限が維持できることの技術的な機序について、何らの理論的な説明もなされておらず、また、本願の優先日時点の技術常識を勘案しても、当該機序が自明のものであるとはいえない。 エ してみると、上記アのとおり本願発明1?7で特定される組成のバルク凝固非晶質合金のTg、Tsc及びTxを測定し、上記1(4)?1(10)の記載に基づいて、成形後の成形品が本願発明1?7で特定された弾性限を「保持するように」、「前記原材料のΔTscが90℃超である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/2ΔTsc)、(Tsc+1/4ΔTsc)及びTscから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、前記原材料のΔTscが60℃超且つ90℃未満である場合、前記最高成形温度が(Tsc+1/4ΔTsc)、Tsc及びTgから成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、60+0.5ΔTsc及び30+0.25ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ、前記ΔTscが30℃超且つ60℃未満である場合、前記最高成形温度がTsc、Tg及びTg-30から成る群から選択された値によって与えられ、前記原材料の温度がTg-60℃超に保たれる、分で表示した前記最大成形時間が、40+0.5ΔTsc及び20+0.5ΔTscからなる群から選択された値によって与えられ」ることを前提として、「規定した最大許容成形時間未満の時間と前記原材料のガラス転移温度付近に規定した最高成形温度未満の温度で前記原材料を成形し」たとしても、本願発明1?7の発明特定事項で特定された「弾性限」、「曲げ延性」、「硬さ」を得るために必要な製造条件が十分に開示されているとはいえない。 オ 加えて、下記(3)ア?ウに記載するとおり、「弾性限」、「曲げ延性」、「硬さ」は、不明確な記載であるから、当業者が成形工程を行うに際し、これらの特性を「保持するように」実施できたか否か確認することができない。 カ したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1?7を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 キ この点につき、請求人は、意見書において、「本件発明の成形品の形成方法では、示差走査熱量計を用いて、各種の合金成分組成を有するバルク凝固非晶質合金のガラス転移温度Tg、結晶化温度Tx、過冷却温度Tscを測定し、TxとTscの間の差であるΔTsc(段落[0030])を算出します。次に、算出されたΔTscに基づき、ΔTscの大きさに比例する最高成形温度(表1)、および、成形温度とΔTscの双方に比例する許容成形時間(表2)を決定し、バルク凝固非晶質合金を成形します。このように、バルク凝固非晶質合金が、ΔTscに基づく成形条件(成形温度と成形時間)で成形されると、少なくとも1.8%の高い弾性限と少なくとも1.0%の曲げ延性とを保持する成形品が形成されます。したがいまして、本願明細書は、本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載しています。」と主張しているので、当該主張について検討する。 ク 確かに、特定の合金成分組成を有するバルク凝固非晶質合金について、示差走査熱量計を用いて、Tg、Tx、及びTscを測定し、ΔTscを算出することは可能であり、算出されたΔTscに基づいて、表1、表2から「最大許容成形時間」、及び「最高成形温度」を決定することも可能である。しかしながら、実際に原材料から成形品を形成する条件は、「規定した最大許容形成時間未満の時間」、及び「規定した最高成形温度未満の温度」であり、最大許容成形時間や最大成形温度が、そのまま形成条件となるわけではない。 そうすると、上記イ、ウのとおり、具体的な製造条件や技術的な機序が不明な状態では、たとえ当業者であっても、請求項に係る発明の実施には過度の試行錯誤を要するといわざるを得ない。 よって、請求人の上記主張は採用しない。 (3)明確性要件について ア 「弾性限」について (ア) 本願発明1?7の「弾性限」について、本願の発明の詳細な説明の【0021】には、上記1(4)のとおり、「本明細書で、弾性限は、永久変形かまたは破壊を示す最大歪みレベルとして定義され、この百分率は、非晶質合金の細長片の厚み(t)とマンドレルの直径(D)との比率を取ることにより、式e=t/Dで与えられる。」と記載され、同【0044】には、図7に言及しつつ、上記1(11)のとおり、「製品の弾性限は、1軸引っ張り試験のような種々の機械的試験によって測定することができる。しかしながら、この試験は、実用的でない。比較的実用的な試験は、図7に概略的に示すような曲げ試験であり、これは0.5mmの厚みを備える非晶質合金10の切断帯板が、種々の直径のマンドレル18の周囲で曲げられる。曲げが完了し且つ試料帯板10が取り外された後に、永久曲がりが目視観察されない場合に、試料10は、弾性を保持するという。永久曲がりが目視することができる場合、この試料20は、弾性限の歪みを越えたといえる。マンドレルの直径に比較して薄い帯板に対しては、曲げ試験における歪は、帯板の厚み(t)及びマンドレルの直径(D)の比、e=t/Dによって非常に厳密に求められる。」と記載されている。 (イ)しかし、測定条件として、非晶質合金の試験片である「切断帯板」について、厚みだけでなく幅及び長さが具体的に定義されなければ、「e=t/D」の値が変動するといえ、また、曲げる際に試験片に加える圧力の値、及びマンドレルに対向して試験片に圧力を加える成形具がどのようなものであるかについても明らかでない。 (ウ)そうすると、本願発明1?7における「弾性限」という記載及びその数値が特定する数値範囲は明確でない。 (エ)この点につき、請求人は、意見書において、「しかしながら、「弾性限」は明確な用語です。さらに、本願明細書の段落[0044]および図7等には、「弾性限」に関する記載があります。したがいまして、請求項1ないし7に係る発明の「弾性限」は明確です。」と主張しているが、本願明細書の[0044]及び図7に記載された測定方法は、一般に用いられる引っ張り試験によるものとは異なる方法であるにもかかわらず、「弾性限」を測定するための試験片の平面形状や、曲げる際に試験片に加える圧力の値、及びマンドレルに対向して試験片に圧力を加える成形具がどのようなものであるかについて明確に規定されているとはいえない。 よって、請求人の上記主張は採用しない。 イ 「曲げ延性」について (ア)本願発明1、2の「曲げ延性」について、本願の発明の詳細な説明には、その定義や測定方法について何ら記載されておらず、また、本願の優先日時点の技術常識に照らしても明確でない。 (イ)そうすると、本願発明1、2における「曲げ延性」という記載及びその数値が特定する数値範囲は明確でない。 (ウ)この点につき、請求人は、意見書において、「しかしながら、「曲げ延性」は明確な用語です。したがいまして、請求項1および2に係る発明の「曲げ延性」は明確です。」と主張しているが、実質的な反論にはなっておらず、採用しない。 ウ 「硬さ」について (ア)本願発明7の「硬さ」について、単位は「GPa」と記載されているが、圧力の次元で標記される硬さとして、ビッカース硬さ、ヌープ硬さ、ブリネル硬さなど複数の定義及び測定方法があるところ、本願の発明の詳細な説明には、その定義や測定方法について何ら記載されておらず、また、本願の優先日時点の技術常識に照らしても明確でない。 (イ)そうすると、本願発明7における「硬さ」という記載及びその数値が特定する数値範囲は明確でない。 (ウ)請求人は、意見書において、「しかしながら、「硬さ」は明確な用語です。したがいまして、請求項7に係る発明の「硬さ」は明確です。」と主張しているが、実質的な反論になっておらず、採用しない。 エ したがって、本願発明1?7は明確でない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号、第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2019-08-29 |
結審通知日 | 2019-09-02 |
審決日 | 2019-09-17 |
出願番号 | 特願2015-250469(P2015-250469) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(C22F)
P 1 8・ 537- WZ (C22F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 陽一 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
粟野 正明 土屋 知久 |
発明の名称 | 高弾性限を有する非晶質合金の成形品を形成する方法 |
代理人 | 大塚 康徳 |
代理人 | 下山 治 |
代理人 | 大塚 康弘 |
代理人 | 木村 秀二 |
代理人 | 高柳 司郎 |
代理人 | 西川 恵雄 |